説明

弱毒化ウサギ粘液腫ウイルスに基づく単一類属免疫誘導剤

本発明は、一般的な疾患を有する典型的なウサギ由来の粘液腫ウイルス株の類属免疫性ウイルスまたはウイルス成分に基づく単一類属免疫誘導剤、単一類属免疫誘導剤を製造する方法、および、それをヒトおよび動物における種々の機能不全予防および治療のために、類属免疫活性を制御最適化するための薬剤として使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスまたはウイルス成分が弱毒化ウサギ粘液腫ウイルス株由来であることを特徴とする、類属免疫性(paramunisierenden)ウイルスまたはウイルス成分に基づく単一類属免疫誘導剤(Monoparamunitaetsinducer)、単一類属免疫誘導剤を製造する方法、およびそれを薬剤として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度に発達した生物、特に哺乳類および鳥類の内因性免疫系には、抗原特異的部分および抗原非特異的部分が含まれる。免疫系の2つの部分は一緒に連結し、そしてさらにお互いに相互作用をしている。抗原特異的メカニズムは免疫の構築に関与し、抗原非特異的メカニズムは類属免疫(Paramunitaet)の構築に関与する。類属免疫は、多種多様な病原体、抗原およびその他の害毒物に対して発現が速く、時間が限定され、高められた防御と連結する、よく制御され、最適に機能する非特異的な防御系の状態を表す。類属免疫の発現の基礎となるのは、歴史的なおよび機能的な理由のために、系統発生的な観点からは古くて、いわゆる未発達である、非選択的および条件選択的な類属特異的(paraspezifischen)防御メカニズムである。
【0003】
抗原非特異的な免疫系(英語では「innate immune system(先天性免疫系)」)の類属特異的活性には、その原因に応じて病原体非特異的または抗原非特異的に反応する、例えば、異物を貪食する細胞小器官のような非選択的な保護成分、および、例えばミクロファージおよびマクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞および可溶性因子、例えばサイトカインのような条件選択的保護成分が含まれる。
【0004】
類属特異的活性は、関連する生物において抗原と接触後すぐに観察され、それに対して、抗原特異的な免疫系の効果は数日または数週間後にようやく現れる。
【0005】
従って、高度に組織された生物では、まだ排除することができず抗原特性を有する害毒物に対して特異的な防御系を構築するために、さらに時間がかかるようになる。
【0006】
患者の予防および治療のための、類属免疫付与(Paramunisierung)、すなわち免疫系の類属特異的活性の利点は、その発現により明らかとなる(非特許文献1)。類属特異的防御により、生物は防御のために、種々の異物、感染性病原体、毒素および形質転換した内因性細胞と、直ちに対決することができる。
【0007】
免疫系の類属特異的活性と特異的活性との間には、通常、最初に反応する類属特異的部分から、ゆっくりと発現する免疫系の特異的部分(例えば抗原が媒介)への情報の流れを有する、密接した相互作用が存在する。特に毒性病原体による感染において、生物の類属特異的な防御は、このようにして特異的免疫(例えば、抗体、免疫細胞)の発現までの期間を補うことができる。
【0008】
類属特異的な免疫防御は生理学的な事象であり、環境との対決における「一次的制御(primaere Kontrolle)」として定義することができる。それは下等生物だけでなく、特に高等生物および高度に発達した脊椎動物にとっても不可欠なものである。この生物学的防御系の根本的な先天的欠損は、命にかかわる状況を引き起こす。例としては、顆粒球欠損およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)の機能不全を特徴とし、ほとんどの場合に10歳の終わりまでに患者の死を引き起こす、ヒトにおける「チェディアック-シュタインブリンク-ヒガシ症候群」が挙げられる。
【0009】
類属免疫の状態は、食作用の増加、自発的に細胞が仲介する細胞毒性(NK細胞)の増加およびその他のリンパ網内系細胞の活性の増加により特徴付けられる。同時に、細胞成分にも、お互いにも刺激および/または阻害効果(例えば抑制メカニズム)を有する特定のサイトカインの遊離が見られる。これは密接に関連しており、その種々のアクセプター細胞、エフェクター細胞および標的細胞ならびにシグナル伝達サイトカインと段階的に反応する生物学的な類属免疫系は、さらにホルモン系および神経系と強く結びついている。従って、それは伝達ネットワーク、相互作用ネットワークおよび制御ネットワークの重要な構成要素であることを表している。
【0010】
類属免疫は類属免疫付与を通して誘導される。これは、機能不全の除去、個体の病原体非特異的および抗原非特異的防御の急速な増加(最適なバイオレギュレーション)、ストレスの結果またはその他(例えば薬剤により)から生じる免疫抑制または免疫不全の除去、欠損の修復および/または免疫系、ホルモン系および神経系の間での調節因子としての作用を目的とする、免疫系の類属特異的部分の細胞要素の薬理的活性化、およびそれに関連してのサイトカインの産出を意味する。これは、例えば患者の健康状態のような類属免疫付与および反応性のタイプに応じて、特定の非特異的な内因性防御過程を増大、追加または減弱させることができることを意味する。
【0011】
類属免疫付与には、一定の無害性基準および活性基準に合致し、従って免疫刺激剤とは異なる類属免疫誘導剤が使用される。類属免疫誘導剤それ自体は、抗原とも、化学物質、抗生物質、ビタミンまたはホルモンとも比較し得ない。それよりむしろ、段階的なメカニズムにより類属特異的免疫系が活性化され、その結果として、細胞性および体液性の防御メカニズムが十分に動員される。その場合に、類属免疫誘導剤は、免疫防御に関する制御にも修復にも効果を有する。類属免疫誘導剤の作用様式に関しては、食細胞(アクセプター細胞)により取り込まれ、従ってこれが活性化されて、順次エフェクター細胞を動員するメディエーターを放出するということが知られている。これは最後に、類属特異的防御の制御メカニズムを作動させる。
【0012】
類属免疫特性を有する様々なポックスウイルス株に由来する、2つまたはそれ以上のポックスウイルス成分の組み合わせに基づく複合的な類属免疫誘導剤が、特許文献1に記載されている。
【0013】
本発明は、弱毒化粘液腫ウイルスおよび/またはそのウイルス構成要素の類属免疫特性に基づいている。
【0014】
弱毒化は、病原体の減弱を引き起こす、感染性病原体の特性改変を表す(英語では「attenuate」=減弱させる、軽減する)。感染性病原体の変化は天然において自発的に頻繁に起こり、その間の期間は数世紀に達する場合もあり得る。
【0015】
環境変化に順応するための感染性病原体の変化能力は、実験的に利用することができ、例えば特定の宿主系における長期の継代により、弱毒化に必要な期間を大幅に短縮することができる。今日まで、無病毒性の接種株および無害な類属免疫誘導剤の生産のために弱毒化が利用されてきた。
【0016】
通常、弱毒化は、毒性および接触感染性の欠損、免疫特性および宿主域の減少、および、好ましくは末端領域において欠失が生じている病原体ゲノムにおけるわずかな変化を引き起こす。通常は、改変された病原体の類属免疫活性の増加が同時に見られる。
【0017】
まれに弱毒化は、特に、遺伝子操作による実験的な弱毒化を試みた場合に、毒性および接触感染性の増加を引き起こす。
【0018】
粘液腫ウイルスは粘液腫症の病原体であって、粘液腫症は、周期的に普及し、そして、他の感染性疾患とは異なり、肛門部、外陰部および卵管(Schlauches)に対して優先傾向を有する、全般性の、場合によっては、頭部における、および全身にわたる出血性皮下浮腫により特徴付けられる、野ウサギおよび家ウサギの接触感染性で全身性のウイルス性疾患である。これまで該疫病のなかった国に粘液腫症が持ち込まれると、急速にそして致死的に普及する。ウイルスが固有種になった後、臨床的に不顕性な感染に疫病の特性が変化する(非特許文献2)。
【0019】
該疾患は、ニューワールドにのみ生息するワタオウサギ(Sylvilagus)属のアメリカワタオウサギ(amerikanischen Baumwollschwanzkaninchen)の間で広く蔓延する。この野ウサギがこの疫病唯一の天然の貯蔵部となっている。感染は穏やかな形態で進行する。これに対して、オーストラリアにも生息するアナウサギ(Oryctolagus)属のヨーロッパ野ウサギおよび家ウサギ(europaeischen Wild- und Hauskaninchen)においては、この疾患は、病原体が導入された場合にほぼ100%の死亡率を有する。
【0020】
粘液腫ウイルス(レポリポックスウイルス(Leporipoxvirus)属)の天然の宿主域は狭く限定されている。一般的に、該ウイルスはアメリカワタオウサギおよびヨーロッパ家ウサギおよび野ウサギでのみ増殖(vermehrt)する。しかし、感染はヨーロッパウサギ(europaeischen Wildhasen)においても度々観察された。その他の動物種およびヒトにおける感染試験は陰性であった。
【特許文献1】欧州特許第0669133号明細書
【非特許文献1】Anton Mayr、「Paramunisierung: Empirie oder Wissenschaft」、Biol. Med., Aufl. 26(6): 256-261, 1997
【非特許文献2】Mayr A.: Medizinische Mikrobiologie, Infektions- und Seuchenlehre, 7. Aufl., Enke-Verlag, Stuttgart, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、ヒト用薬剤および獣医用薬剤のための新規な単一類属免疫誘導剤を提供することである。本発明のさらなる目的は、前記の単一類属免疫誘導剤の製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、単一類属免疫誘導剤に基づく薬剤として使用するための医薬調合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って、本発明は、ウイルスまたはウイルス成分が弱毒化ウサギ粘液腫ウイルス株に由来することを特徴とする、類属免疫性ウイルスまたはウイルス成分に基づく単一類属免疫誘導剤に関する。好ましくは、ウイルス成分には、弱毒化粘液腫ウイルス株の類属免疫性ウイルスエンベロープまたはウイルスエンベロープの異型(aberrante Formen)が含まれる。本発明の類属免疫特性を示す好ましい株は、M-2、M-7、Lausanne、Aust/Uriarra/Verg-86/1株である。M-7、Lausanne、Aust/Uriarra/Verg-86/1株は、十分な免疫効果を有するようにその毒性が部分的にのみ減弱化されているので、生ワクチンの製造にも適している。
【0023】
粘液腫ウイルスM-2株に基づく単一類属免疫誘導剤が特に好ましい。下記の本発明の方法に従って製造された弱毒化粘液腫ウイルス株は、公衆衛生検査サービス(PHLS)、応用微生物研究所、ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures:ECACC)、(ソールズベリー、ウィルトシャー州、英国)の寄託所に寄託番号03121801で寄託されている。
【0024】
本発明はさらに、弱毒化ウサギ粘液腫ウイルス株に基づく単一類属免疫誘導剤の製造方法に関する。この目的のためには、最初に粘液腫ウイルスを一般的な粘液腫症を患っている典型的なウサギの感染組織から単離する。引き続き、例えば細胞培養、インキュベートされた鶏卵またはその他の実験用動物のような許容細胞系、すなわちウイルスの増殖を許容する細胞材料へウイルスを順応(Adaptierung)させる。前記順応には、特に、天然宿主または宿主と近縁の種の細胞を使用することができる。粘液腫ウイルスのための許容細胞系としては、例えばニワトリ胎児線維芽細胞(Huehnerembryofibroblasten)(CEF)、およびウサギ腎臓またはウサギ精巣から作製された細胞培養が適している。
【0025】
本発明においては、単離した粘液腫ウイルスをインキュベートした鶏卵の絨毛尿膜(CAM)に、1回またはそれ以上の継代、好ましくは2〜6回以上の継代、および特に好ましくは3回以上の継代において順応させるのが好ましい。前記順応のために、単離したウイルスをCAM上に接種(geimpft)し、CAM上での継代により増殖させた。
【0026】
好ましくは、粘液腫ウイルスは最初に許容細胞系における増殖を経て感染組織から単離される。この目的のために、許容細胞系に、例えば破砕により得られた感染組織のホモジェネートを接種することができる。引き続いて、最初の増殖で得られたウイルスをさらに、すでに単離用に使用された同一の許容細胞系に順応させるか、またはその他の許容細胞系が使用される。好ましくは、ウイルスの単離にも使用された同一の許容細胞系タイプに順応させる。従って、好ましくは、感染組織からの粘液腫ウイルスを、許容細胞系における増殖により単離し、引き続いてさらなる継代により許容細胞系に順応させる。インキュベートした鶏卵のCAMでの増殖による、粘液腫ウイルスの最初の培養または単離、および、それに続くさらなる継代、好ましくはさらなる2回以上の継代でのウイルスのCAMにおける順応が、特に好ましい。しかしながら、その代わりに、インキュベートした鶏卵の尿膜腔液もまた増殖および/または順応のために使用することができる。
【0027】
実際の弱毒化は、ウイルスの弱毒化または所望の弱毒化度が得られるまで、1つまたはそれ以上の許容細胞培養における長期の継代により行われる。この目的のためには、最初にウイルスの増殖用に種々の許容細胞系を試すことができ、その後で、最も高い感染力価が得られる1つまたはそれ以上の細胞系をさらなる継代のために選択することができる。長期継代による弱毒化には、初代および二次細胞培養、ならびに永久細胞系または連続継代細胞系が適している。従って、弱毒化は、ニワトリ胎児線維芽細胞(CEF)の初代または二次培養における、または永久CEF細胞培養における増殖により行われる。
【0028】
本発明においては、粘液腫ウイルスの弱毒化のために、永久細胞培養、特にベロ細胞培養での、好ましくは80〜150回以上の継代、特に好ましくは120回以上の継代において、ウイルスを継代または増殖させるのが好ましい。代替的にまたは追加的に、本発明のウイルスはバイナリー(binaeren)永久細胞株において継代され、その場合に好ましくはAVIVER細胞が使用される。これらの細胞または細胞培養は、ニワトリ胎児線維芽細胞(CEF)とベロ-サル腎臓細胞との間の細胞融合によっても得られる。本発明における粘液腫ウイルスの弱毒化のために、好ましくは、単離されそして順応したウイルスを、最初の段階においてベロ細胞培養において継代し、引き続き該ウイルスをバイナリーAVIVER細胞培養に移して、そこで、好ましくは10〜50回以上の継代、特に20〜30回以上の継代、および特に好ましくは25回以上の継代において増殖させる。
【0029】
引き続いて、弱毒化粘液腫ウイルスをさらに、弱毒化のためのさらなる継代において増殖させることができる。ウイルスのさらなる増殖は、好ましくはベロ-サル腎臓細胞におけるさらなる継代、特に100〜200回以上の継代において行われる。
【0030】
特に好ましくは、方法のさらなる段階は、弱毒化粘液腫ウイルスの追加的な不活化である。不活化は、化学的処理、照射、熱またはpHの作用、特にベータ-プロピオラクトンでの化学的処理により行われる。弱毒化粘液腫ウイルスのベータ-プロピオラクトンでの処理により、類属特異的活性がさらに増大するのに対して、弱毒化後に場合により存在する免疫特性は失われる。
【0031】
本発明の方法の特に好ましい実施態様には、以下の段階が含まれる:
・インキュベートした鶏卵の絨毛尿膜(CAM)での増殖による、一般的な粘液腫症を患う典型的なウサギの感染組織からの粘液腫ウイルスの単離、およびそれに続く、2回以上の継代におけるウイルスのCAMへの順応;
・ベロ細胞培養における継代、好ましくは120回以上の継代による、単離したウイルスの弱毒化;
・バイナリーAVIVER細胞培養へのウイルスの移行であって、AVIVER細胞がニワトリ胎児線維芽細胞(CEF)とベロ-サル腎臓細胞との間の細胞融合により得られる、前記の移行、および、この細胞培養における10〜50、好ましくは25回以上の継代によるウイルスの弱毒化;
・それに続く、ベロ-サル腎臓細胞へのウイルスの再移行(Rueckuebertragung)、および、ベロ細胞におけるさらなる弱毒化のための継代、好ましくは約150回以上の継代によるウイルスの増殖;
および場合により
・弱毒化粘液腫ウイルスのベータ-プロピオラクトンでの処理による不活化。この処理により類属特異的活性がさらに増大するのに対して、弱毒化後にまだ存在する免疫特性は失われる。
【0032】
長期継代による弱毒化は、通常3〜5回のプラーク最終希釈(Plaque-Endverduennungen)により完了する。種々のクローンを得て試験した後に、最も高い感染力価が得られ、高い類属免疫活性 −例えば幼若マウス(Babymaus)におけるVSVチャレンジ試験(VSV challenge Test)において− を示すクローンを選択して、さらに増加させる。この方法においては、特に、さらなる使用のために遺伝的に均一なウイルス材料を提供することが考慮されている。
【0033】
本発明に関連して使用される場合に、「弱毒化」という語句は、同時に類属免疫特性が増大する、元来毒性である粘液腫ウイルスの改変形態への実験的な改変を表す。弱毒化は、以下の特性の1つまたはそれ以上により検出される:
・ヨーロッパ家ウサギおよび野ウサギ(アナウサギ(Oryctolagus caniculus csp.)属)に対する毒性の減少または緩和または欠失、
・接触感染性の緩和または欠失、
・細胞培養における宿主域の制限
・免疫特性の変化
・類属免疫性、短期間の保護活性の獲得。
【0034】
弱毒化は、その結果として粘液腫ウイルスゲノムの末端領域に欠失が生じ得る。弱毒化度の増加に関連して、ウイルスゲノムにおける欠失数の増加が頻繁に観察される。
【0035】
弱毒化度は、継代の過程で、当業者に公知の適当な活性試験により(例えば米国特許第6,805,870号明細書第12欄およびそこでの引用文献参照)、およびクローニングにより、評価および検査することができる。
【0036】
本発明はさらに、本発明方法により得られる弱毒化された粘液腫ウイルス、弱毒化された粘液腫ウイルスまたは本発明の粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤を含む医薬調合物、および粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤を哺乳類における類属特異的免疫系の活性化に使用する方法、または弱毒化ウイルスを適当な薬剤の製造に使用する方法に関する。
【0037】
驚くべき類属免疫特性に基づいて、本発明の粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤は、免疫系機能不全、免疫抑制、免疫不全疾患、ホルモン系と循環系と代謝系および神経系との間のホメオスタシスの機能不全、新生児感染の危険、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、難治性感染因子疾患、ウイルスおよび細菌混合性疾患、感染過程の慢性徴候(chronischen Manifestationen infektioeser Prozesse)、種々の病因による肝障害、慢性肝炎、インフルエンザ感染、内毒素による損傷の治療および/または予防に適している。
【0038】
本発明の単一類属免疫誘導剤は、原則的に環境に対して無害であり、例えばヒト、ウマ、イヌ、ネコ、ブタのような哺乳類、鳥類並びに、例えばトカゲ、ヘビ、カメのような爬虫類における類属免疫付与の意味で有用である。従って、これはヒト用薬剤および獣医学用薬剤に使用するのに特に適している。
【0039】
さらに、本発明の単一類属免疫誘導剤は、高い有効性を有する非常に良好な類属免疫活性を示す。これらは適当な手順における本発明の方法により製造することができ、医薬領域において安全に使用される。粘液腫ウイルスの弱毒化により、粘液腫ウイルスの免疫特性が減少するのに対して、類属特異的活性は増加する。従って、本発明の単一類属免疫誘導剤は、免疫特性を有さずに類属免疫特性を有し、複合的におよび連続的に使用することができる。ウサギ粘液腫ウイルスまたはその類属免疫性ウイルス成分のこれらの類属免疫特性は、驚くべきものであり、予測不可能なものであった。
【0040】
本発明に関連して使用される場合に、「類属免疫付与」という語句は、類属特異的免疫系の細胞構成要素の薬理的活性化、およびそれに続く、機能不全の除去、個体の病原体非特異的および抗原非特異的防御の増加を目的とし、免疫系、ホルモン系、神経系および血管系の間の制御効果を有する、サイトカインの産出および放出を表す。類属免疫付与により、類属免疫の保護状態が導かれる。
【0041】
本発明に関連して使用される場合に、「類属免疫」という語句は、急速に発現し、時間的に限定された、数多くの病原体、抗原およびその他の害毒物からの保護に関連する、最適に制御され、そして機能する類属特異的防御系を獲得した活性な状態を表す。食作用の程度、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の機能およびその他のリンパ網内系細胞(例えば樹状細胞)の活性は、生理的な最適条件まで上昇する。
【0042】
本発明に関連して使用される場合に、「類属免疫誘導剤」という語句は、ヒトおよび動物において、類属免疫性という意味での内因性防御および保護メカニズムを生成および制御するために使用される、発熱物質を含まない非毒性薬剤を表す。
【0043】
本発明に関連して使用される場合に、「粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤」という語句は、類属免疫性ウイルス成分およびその構成要素を含み、生物、好ましくは哺乳類(例えばヒト)における類属免疫の状態を作り出す、弱毒化ウサギ粘液腫ウイルスまたは弱毒化粘液腫ウイルス株に基づく薬剤を表す。
【0044】
本発明に関連して使用される場合に、「粘液腫ウイルス」という語句は、レポリポックスウイルス(Leporipoxvirus)属の粘液腫ウイルスの種を表す。該粘液腫ウイルスは、コルドポックスウイルス(Chordopoxviridae)亜科およびポックスウイルス科(ポックスウイルス)に属する。
【0045】
本発明に関連して使用される場合に、「類属免疫性ウイルス成分」という表現には、類属免疫特性を有する粘液腫ウイルス、例えば、生存力のあるまたは不活化した新たに単離した粘液腫ウイルス、新たに単離した粘液腫ウイルス由来の生存力のあるまたは不活化した組換え粘液腫ウイルス由来の数多くのウイルス構造物、ウイルスエンベロープ、除去したエンベロープおよび切断生成物、およびこれらのエンベロープの異型、個々の天然のまたは組換えポリペプチドまたはタンパク質、特に膜、および新たに単離した粘液腫ウイルスに生じる、または遺伝的に改変した粘液腫ウイルスまたはその遺伝情報の一部分により組換えにより発現させた表面受容体が含まれる。
【0046】
表1〜4は、弱毒化された粘液腫-細胞培養ウイルス株M-2に基づく粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOのヒトにおける臨床結果を示す。
【0047】
表1は、粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOを予防に使用した場合のヒトでの臨床結果を示す。
【0048】
表2は、粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOを治療に使用した場合のヒトでの臨床結果を示す。
【0049】
表3は、低い免疫パラメーターを有する患者における、粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤(PIND-MYXO)を用いた類属免疫付与の効果を示す(PIND-MYXO投与の7日後)。
【0050】
表4は、高い免疫パラメーターを有する患者における、粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤(PIND-MYXO)を用いた類属免疫付与の効果を示す(PIND-MYXO投与の7日後)。
【0051】
本発明は、弱毒化ウサギ粘液腫ウイルスまたはその類属免疫性構成要素が、受容者においてとても良好な類属免疫特性を誘導し、類属免疫の防御状態を導くことができる、という驚くべき結果に基づく。本発明の基礎は、細胞培養におけるウサギ粘液腫ウイルスの弱毒化を初めて成功させたことにある。
【0052】
本発明の単一類属免疫誘導剤は、好ましくは凍結乾燥させた、弱毒化および不活化ウサギ粘液腫ウイルス、またはその類属免疫性ウイルス成分に基づく。本発明の弱毒化粘液腫ウイルスまたはそのウイルス成分は、好ましくは粘液腫ウイルス株または多種多様な弱毒化粘液腫ウイルス株に由来する。また、本発明の単一類属免疫誘導剤は、1つまたはそれ以上の粘液腫ウイルス株、またはそれらの類属免疫性ウイルス成分の組み合わせを含むのが好ましい。
【0053】
粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤の例えばヒトへのような哺乳類への投与により誘導される類属免疫特性は、特に、機能不全の除去、個体の抗原非特異的防御の増加、ストレスの結果またはその他により生じる免疫抑制または免疫不全の除去に有用であり、そして免疫系、ホルモン系および血管系の間での制御効果を有するために有用である。
【0054】
本発明はさらに、粘液腫ウイルス株の毒性および/または免疫特性を減少または失わせることができる、細胞培養での継代による粘液腫ウイルス株の弱毒化の成功に基づく。追加的な粘液腫ウイルスの不活化は、照射、熱またはpHの作用により、または特に好ましくはベータ-プロピオラクトンでの化学的処理により行うことができる。単一類属免疫誘導剤は、弱毒化され、凍結乾燥された粘液腫ウイルスに基づいており、生物における類属免疫活性を誘導するのに適している粘液腫ウイルスの個々のウイルス成分もまた、本発明に含まれる。
【0055】
以下に、細胞培養継代を経て単離および弱毒化されたウサギ粘液腫ウイルス株を基礎とする、単一類属免疫誘導剤の本発明の製造方法の実施態様を示す。この場合に、該製造方法はこの好ましい株に限定されず、その他のウサギ粘液腫ウイルス株にも同様に適用できる。本発明には、遺伝的改変の方法を使って製造された粘液腫ウイルス株の組換え体もまた含まれる。この場合には、サイトカイン受容体をコードするゲノムにおける1つまたはそれ以上のセグメントが、付加、置換または欠失の形態で改変により改変されており、該改変により該サイトカイン受容体の受容体特性が失われている組換え粘液腫ウイルス株が好ましい。インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)および腫瘍懐死因子(TFN)に対する受容体、特にIFN-α-R、IFNγ-R、TNF-R、IL-1-R、IL-2-R、IL-6-RおよびIL-12-Rをコードする遺伝子セグメントが好ましい。
【0056】
さらに、本明細書に記載されるインキュベーション時間または細胞培養における継代数に関する数値は、本発明を限定するものではない。これらのパラメーターの微小な改変、および弱毒化粘液腫ウイルスの製造のために行われる当業者にとって明らかである改変は、同様に本発明に含まれる。
【0057】
本発明の好ましい実施態様は、粘液腫ウイルス株M-2の弱毒化の成功に関する。粘液腫ウイルス株M-2は、粘液腫症を患っているヨーロッパ野ウサギから単離される(Herrlich A., Mayr A. und Munz E.: 「Die Pocken」, 2. Aufl., Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1967)。罹患しているウサギの皮下組織から得られる改変した(veraenderten)皮膚細胞を、破砕した後に、好ましくは10〜12日間インキュベートした鶏卵の絨毛尿膜(CAM)上に接種する。粘液腫ウイルスを、2〜6回以上の継代、好ましくは3回以上の継代において、絨毛尿膜上でさらに増幅または順応させる(CAM継代の方法については Herrlich A., Mayr A. und Munz E.: 「Die Pocken」, 2. Aufl., Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1967参照)。2〜6回目の継代、好ましくは3回目のCAMでの継代が、細胞培養における粘液腫ウイルスのさらなる弱毒化のための出発材料として適している。弱毒化は、絨毛尿膜上でウイルスを順応させた後に(絨毛尿膜上における典型的な病巣(Herde)により明らかに)、第3段階において行われる。第1段階において、80〜150、好ましくは120回のいわゆる最終希釈継代(Endverdunnungs-Passagen)がベロ細胞(ベロ細胞、ATCC CCL-81)で行われる。こららの継代後の粘液腫ウイルスの毒性は減弱されている。
【0058】
ベロ細胞における80〜150回目の継代、好ましくは120回目の継代後の第2段階においては、ウイルス懸濁液をいわゆるAVIVER細胞に移し、そして、10〜50回以上の継代、好ましくは20〜30回以上、特に25回以上の継代を継続する。AVIVER細胞は、ニワトリ胎児線維芽細胞(CEF)とベロ細胞との間の細胞融合により得ることができ、これはバイナリー永久細胞培養と表現される。
【0059】
AVIVER細胞における最後の継代、好ましくは25回目の継代を行ったものをベロ細胞に再移行し、弱毒化の第3段階において、ベロ細胞でさらに100〜200回の継代、好ましくは約157回の継代を継続する。この方法においては、粘液腫ウイルスは、全体として300回以上の細胞培養継代において増殖する。細胞培養における粘液腫ウイルスの増殖の第3段階後に、粘液腫ウイルスが十分に弱毒化される。
【0060】
ベロ細胞培養およびAVIVER細胞は、好ましくは完全合成培地、特に好ましくは、5〜20%、好ましくは10%のBMS(血清代替物)および5〜20%、好ましくは10%のラクトアルブミン加水分解物を添加したMEM(「最小必須培地」)培地を用いて培養される。培養培地との交換後に使用されるウイルス培地は、好ましくは、5〜20%、好ましくは10%のラクトアルブミン加水分解物を添加し、BMSを含まないまたはウシ胎仔血清を含まない、および抗生物質を含まないMEM培地である。全ての製造方法は、好ましくは7.0〜8.0のpH値、好ましくは7.25のpH値で実施される。105.0〜107.5、好ましくは少なくとも106.5 TCID50/ml(TCID50 = 50%組織培養感染価)の力価を有するウイルス回収物が、好ましくは、本発明の単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOの製造のための出発材料に適している。
【0061】
ベロ細胞における粘液腫ウイルスの増殖により、最終的に感染細胞の破壊(溶解)により特徴付けられる、典型的な細胞変性効果(cpE)が起こる。約10 MOI(「感染多重度」)の用量での接種により、短いラウンディング相(Abkugelungsphase)(1〜2日)後に約3日間の網状細胞構造が生じ、そして約5日後に細胞の溶解が生じる。ベロ細胞における301回目の継代では、約106.5 TCID50/mlの感染力価を有する。
【0062】
弱毒化粘液腫ウイルスの不活化のために、ベータ-プロピオラクトンでの化学的処理が、0.01〜1%のベータ-プロピオラクトン濃度で、好ましくは0.05%のベータ-プロピオラクトン濃度で施される。この不活化は、場合によりまだ存在する免疫特性を完全に欠失させるために実施され、一方、類属特異的活性については維持が得られるばかりか増大する。
【0063】
弱毒化および不活化粘液腫ウイルスをさらに粘液腫ウイルス-単一類属免疫誘導剤(PIND-MYXO)に加工するためには、ウイルス不活化のために使用されるウイルスの出発材料は、約105.0〜107.0、好ましくは少なくとも106.5 TCID50/mlのウイルス力価を有するべきである。
【0064】
精製は、好ましくは低い回転数における遠心分離(例えば1000 rpm)を用いて行われる。遠心分離の後に、0.5〜10%のスクシニル化ゼラチン(例えばHausmann社(セントガレン/スイス)からの、例えばポリゲリン)、好ましくは5%のスクシニル化ゼラチンが添加される。引き続き、得られた混合物は 1.5 ml ずつ適当な滅菌ガラスバイアルまたはアンプルにおいて凍結乾燥し、必要な場合に滅菌水に溶解させることができる。0.5〜2 mlの、好ましくは1.0 mlの容量の蒸留水で溶解した凍結乾燥物が、ヒトへの筋肉内投与のための接種用量に適している(Mayr A. und Mayr. B.: 「Von der Empirie zur Wissenschaft」, Tieraerztl. Umschau, Aufl. 57: 583-587, 2002参照)。
【0065】
ヨーロッパ家ウサギおよび野ウサギ(アナウサギ属)における毒性の欠失を通して、接触伝染性を通して、細胞培養における宿主域の実質上完全な制限を通して、および免疫特性における変化を通して、弱毒化は臨床的に検出することができる。
【0066】
凍結乾燥生成物は、好ましくは約+4℃またはそれより低い温度、好ましくは約-60℃においては、時間的な制限なく安定に保存される。
【0067】
調製された弱毒化粘液腫ウイルスの遺伝子技術的な研究により、粘液腫ウイルスゲノムにおいて多数の欠失が生じていることが示された。出発の株M-2の場合には、粘液腫ウイルスゲノムは、全体で約160キロ塩基(kb)の長さを有する直鎖状の一本鎖デオキシリボ核酸(DNA)からなり、数百個のタンパク質をコードしている(Herrlich A., Mayr A. und Munz E.: 「Die Pocken」, 2. Aufl., Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1967)。末端に位置する「逆位反復」の配列(英語では:「terminal inverted repeat」、TIR)がゲノムセグメントの約11 kBにわたって存在する(McFadden, G. and Graham, K.: 「Modulation of cytokine networks by poxvirus」, Virology, Aufl. 5: 421-429, 1994)。
【0068】
継続的なベロ細胞の継代における粘液腫ウイルスの弱毒化により、インターフェロンαおよびγ(IFNα、IFNγ)に対する受容体、腫瘍懐死因子(TNF)およびインターロイキン(IL-)1、2、6および12をコードする遺伝子セグメントの欠失が生じることが確認された。興味深いことに、これらのサイトカインは非特異的免疫系の類属特異的防御因子に属する。対応するウイルス受容体への結合により、サイトカインが中和され、従ってウイルスは自由に増殖することができる。上述のサイトカイン受容体をコードする遺伝子セグメントの欠失は、主にDNAの末端領域に関連する。しかしながら、AVIVER細胞の継代の間に生じる、DNAの保存部分における欠失もまた検出することができる。これらの欠失は、免疫エピトープおよび毒性遺伝子をコードする2つの遺伝子に関する。このような遺伝的改変が、免疫性、すなわち抗原特異的な活性の減少、および同時におこる弱毒化粘液腫ウイルスの類属特異的活性の増加の原因となっていると考えられる。
【0069】
免疫性エピトープ、および類属特異的または非特異的エピトープは競合する。よって、前述のペプチドまたはタンパク質の減少が、類属特異的活性の効果の増加を引き起こす。免疫性および毒性増加性タンパク質の残りは、弱毒化粘液腫ウイルスの不活化のための上述の方法による、単一類属免疫誘導剤の製造において除去される。
【0070】
本発明のPIND-MYXOとも呼ばれる単一類属免疫誘導剤は、弱毒化粘液腫ウイルスまたはその類属免疫性構成要素の使用に基づいており、その類属免疫特性のために、患者における以下の予防または治療への適用に適している:
・感染因子による疾患および混合感染、感染過程の慢性徴候、難治性再発性感染および化学療法耐性の細菌性およびウイルス性感染
・生物の防御系における防御弱体化または制御不全
・新生児感染のおそれ
・特定の腫瘍性疾患のアジュバント療法、例えば転移の予防、化学および放射線療法による副作用の低下
・ホルモン系、循環系、物質代謝系および神経系の間のホメオスタシスの制御。
【0071】
本発明の類属免疫誘導剤は、ヒトを含む哺乳類、鳥類および爬虫類に、非経口的または局所的に投与することができる。類属免疫誘導剤の局所投与は、特に粘膜におけるおよび皮膚における、類属特異的な防御メカニズムを刺激する。しかしながら、一定の全身性の効果もまた生じる。それに対して、非経口で適用される類属免疫付与は、皮膚および粘膜における局所的な防御メカニズムにほとんど影響を及ぼさず、好ましくは全身的に作用する。
【0072】
ヒトおよび動物において継続的に実施される多くの非経口投与においては、副作用は生じない。PIND-MYXOの使用に関する適用は、ヒトにおいても動物においても同様である。同時に、特に実施上の問題において(in Problembetrieben)、ウマ、ブタ、イヌおよびネコの飼育においては、生まれた日に直ちに、および好ましくは生まれた1日後およびできる限り生まれた2日後にも新生仔の類属免疫付与を行うのが望ましい。非経口投与において、1回の用量は溶解させた凍結乾燥物約0.5〜5 mlであり、ウマおよびブタにおいては1回の用量は好ましくは2 mlであり、イヌおよびネコにおいては好ましくは0.5 mlである。本発明においては、二次的な反応を防ぎ、ワクチン投与における免疫付与を助けるための特異的な保護接種の1日前および/または同時に、PIND-MYXOを非経口的に投与するのが望ましい。
【0073】
本発明の1つの実施態様は、皮膚および粘膜における類属免疫を誘導するための、局所投与用医薬調合物の製造に関する。該医薬調合物は、好ましくは弱毒化および不活化粘液腫細胞培養ウイルスの構成要素に基づく口腔錠または舐剤(Lutschtablette)に関する。本発明の口腔錠は、好ましくはソルビトール、ポリエチレングリコール6.00、リン酸水素カリウム、チロスピロール・タブレット・エッセンス(Tyrospirol-Tablettenessenz)、コリドン25(Kollidon 25)およびステアリン酸マグネシウムを添加して製造される。しかし、PIND-MYXOは、適当なキャリアーとともに鼻、直腸、膣にもまた投与することができる。
【0074】
以下の実施例は本発明の好ましい実施例であり、これにより本発明についてさらに説明する。
【実施例】
【0075】
<実施例1>
本発明の単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOの製造のための出発材料として、典型的な様式で粘液腫症を患っているヨーロッパ野ウサギ(アナウサギ属)の浮腫状皮下組織から、10日間インキュベートした鶏卵(VALO-卵)の絨毛尿膜(CAM)上の培養により粘液腫ウイルスを単離し、CAMでの継代においてHerrlich等の方法(Herrlich A., Mayr A. und Munz E.: Die Pocken“, 2. Aufl., Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1967)により3回順応させた。3回CAMで継代されたものは、ベロ細胞(ATCC CCL-81、WHO、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection))での120回以上の継代における第1段階において順応し、AVIVER細胞培養における24回の中間的な継代による第2段階において増殖され、そしてベロ細胞における第3相においてさらに培養される。全体で約300回の弱毒化を目的とする継代を実施した。これらの継続的な最終希釈継代の後に、元来毒性である粘液腫ウイルスは弱毒化された。
【0076】
弱毒化粘液腫ウイルスはベロ細胞において増殖させる。ベロ細胞培養は、10% BMS(血清代替物)および10% ラクトアルブミン加水分解物を添加したMEM(「最小必須培地」)からなる完全合成培地を使用して培養した。ウイルス培地としては、10% ラクトアルブミン加水分解物を含み、BMSを含まないかまたは胎仔ウシ血清を含まず、そして抗生物質を含まないMEMのみが、培養培地と交換後に使用される。全ての製造方法は、7.25以上のpH値において行われる。106.5 TCID50/ml以上の力価を有するウイルスの回収物が、本発明の単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOの製造のための出発物質として使用される。0.05%のベータ-プロピオラクトンでのウイルス回収物の不活化および低速での遠心分離に続いて、凍結乾燥の前に5%のスクシニル化ゼラチン(ポリゲリン)をウイルス原料に添加する。
【0077】
凍結乾燥生成物は、室温で、および約4℃〜-80℃の温度で安定であり、好ましくは約4℃または約-60℃で時間的な制限なく安定である。滅菌蒸留水に溶解した1 mlの容量の凍結乾燥物が、接種用量に一致する。投与は、深い筋肉内に、または局所的に行われる(実施例3、4および5参照)。
【0078】
<実施例2>
実施例1の記載と同様の方法で、本発明の乾燥形態のPIND-MYXO-誘導剤(溶解させていない凍結乾燥物)は、多因子性感染(例えば、インフルエンザ感染症)の予防または治療のために1日に3回(それぞれ投与あたり1 ml)、上気道、好ましくは鼻の粘膜に局所的に投与される。
【0079】
<実施例3>
同様の方法で、実施例1のように製造された本発明の液体形態のPIND-MYXO誘導剤は、ヒトにおける皮膚の血流改善のために、傷の早い治癒のために、および静脈瘤または慢性静脈不全(下腿潰瘍)の治療のために皮膚に塗擦される。この目的のための凍結乾燥物は、例えば脂肪クリーム(例えば、ベパンテン(Bepanthen)、リノーラ・ファット(Linola-Fett)に組み込むことができ、そのpH値は弱アルカリ性にすべきである。この調合物は各使用の度に新たに調製されるべきである。投与は、無傷の皮膚への手による塗擦により1日に数回行われる。開放創は、新たに溶解させた生成物を創傷範囲に滴下することより治療することができる。治療は、治癒するまで毎日行われるべきである。
【0080】
<実施例4>
同様に、実施例1のように製造された単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOは、副反応の抑制のために、および慣用の特異的ワクチンでの予防接種の1日前および同時における接種効果の改善のために、非経口で投与される。
【0081】
<実施例5>
同様に、実施例1のように製造された単一類属免疫誘導剤PIND-MYXOは口腔錠または舐剤に加工される。咽喉、鼻、耳および口粘膜の局所的類属免疫付与のための舐剤の製造および使用は、新規であり、本発明の構成要素である。活性化した口粘膜を経ることにより、帰巣効果(“homing”-Effekt)(防御細胞のその他の器官系粘膜への遊走)だけでなく、部分的な非経口での類属免疫付与も生じる。口腔錠または舐剤の製造には、以下の製造方法が有効である:
凍結乾燥のために、ゼラチンの代わりに5%のコリドン25(ポリビニルピロリドン)が液体の誘導剤物質に添加される。最終的な錠剤の製造には、尿素、ソルビトール、ポリエチレングリコール6000およびステアリン酸マグネシウムが必要である。500.5 mg重量の重量を有する錠剤の推奨の処方は以下のとおりである:
PIND-MYXO-凍結乾燥物 65 mg
尿素 50 mg
ソルビトール 267 mg
ポリエチレングリコール6000 118 mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5 mg
錠剤重量 500.5 mg
最適な類属免疫を得るためには、患者は1日あたり4〜6個の錠剤を規則的な間隔で服用すべきである。
【0082】
口腔錠の製造に適した医薬調合物の処方を以下に示す:
PIND-MYXO-凍結乾燥物 115 mg
ソルビトール 360 mg
ポリエチレングリコール6000 300 mg
リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、無水 2 mg
リン酸水素二ナトリウム (Na2HPO4)、無水 8 mg
チロスピロール・エッセンス・タブレット 0.8 mg
(Tyrospirol-Essenz-Tabletten)
ステアリン酸マグネシウム 20 mg
錠剤重量 805.8 mg
錠剤は、患者の口においてゆっくりと溶解し、溶解後に飲み込むことができる。
【0083】
粘液腫ウイルス株M-2の凍結乾燥物に基づく、表1〜4に記載される本発明の単一類属免疫誘導剤の臨床試験結果は、ヒトにおける粘液腫ウイルス凍結乾燥物の非常に良好な類属免疫活性を示す。これらのデータは同様に、その他の哺乳動物ならびに鳥類および爬虫類にもあてはまる。
【0084】
表1:
ヒトにおける弱毒化粘液腫-細胞培養ウイルス由来の単一類属免疫誘導剤を用いた臨床の結果 −予防への適用−
(凍結乾燥した誘導剤 1 OP(1 ml)を筋肉内に)
【0085】
【表1】

【0086】
表2
ヒトにおける弱毒化粘液腫-細胞培養ウイルス由来の単一類属免疫誘導剤を用いた臨床の結果 −治療への適用−
(凍結乾燥した誘導剤 1 OP(1 ml)を筋肉内に)
【0087】
【表2】

【0088】
表3
低い免疫パラメーターを有する患者における、粘液腫-誘導剤(PIND-MYXO)による類属免疫付与の効果(PIND-Myxo投与7日後)
【0089】
【表3】

【0090】
表4
高い免疫パラメーターを有する患者における、粘液腫-誘導剤(PIND-MYXO)による類属免疫付与の効果(PIND- MYXO投与7日後)
【0091】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスまたはウイルス成分が弱毒化ウサギ粘液腫ウイルス株に由来することを特徴とする、類属免疫性ウイルスまたはウイルス成分に基づく単一類属免疫誘導剤(Monoparamunitaetsinducer)。
【請求項2】
弱毒化粘液腫ウイルス株が、サイトカイン受容体の形成をコードする1つまたはそれ以上の遺伝子セグメントにおいて付加、置換または欠失の形態で改変を有し、該改変により該サイトカイン受容体の受容体特性が失われていることを特徴とする、請求項1記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項3】
サイトカイン受容体がインターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)および腫瘍懐死因子(TFN)に対する受容体の群から選択されることを特徴とする、請求項2記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項4】
サイトカイン受容体がIFN-α-R、IFNγ-R、TNF-R、IL-1-R、IL-2-R、IL-6-RおよびIL-12-Rに対する受容体の群から選択されることを特徴とする、請求項3記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項5】
ウイルス成分が、弱毒化粘液腫ウイルス株のウイルスエンベロープまたはウイルスエンベロープの異型(aberrante Formen)を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項6】
粘液腫ウイルス株がM-2、M-7、Lausanne、Aust/Uriarra/Verg-86/1からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項7】
粘液腫ウイルス株が、寄託番号ECACC 03121801で寄託されているM-2株であることを特徴とする、請求項6記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項8】
粘液腫ウイルス株が細胞培養中で弱毒化されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項9】
細胞培養がベロ-サル腎臓細胞および/またはAVIVER細胞を含むことを特徴とする、請求項8記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項10】
弱毒化粘液腫ウイルスが不活化されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項11】
弱毒化粘液腫ウイルスがベータ-プロピオラクトンで不活化されることを特徴とする、請求項10記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項12】
ベータ-プロピオラクトンの濃度が、0.01〜1 %であることを特徴とする、請求項11記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項13】
ベータ-プロピオラクトンの濃度が、0.05 %であることを特徴とする、請求項12記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項14】
粘液腫ウイルスが凍結乾燥されていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤。
【請求項15】
医薬調合物の製造に、請求項1〜14のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤を使用する方法。
【請求項16】
ヒトおよび動物の類属特異的免疫系を活性化するための医薬調合物の製造に、請求項1〜14のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤を使用する方法。
【請求項17】
免疫系機能不全、免疫抑制、免疫不全疾患、ホルモン系と循環系と代謝系と神経系との間のホメオスタシスの機能不全、新生児感染の危険、腫瘍性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、難治性感染因子疾患、ウイルスおよび細菌混合性疾患、感染過程の慢性徴候、種々の病因による肝障害、慢性皮膚疾患、疱疹性疾患、慢性肝炎、インフルエンザ感染症、内毒素による損傷の非経口での治療および/または予防用医薬調合物の製造に、請求項1〜14のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤を使用する方法。
【請求項18】
治療が医薬調合物の局所投与により、患者の皮膚または粘膜を通じて行われる、請求項15〜17のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の単一類属免疫誘導剤および薬学的に許容されるキャリアーを含む医薬調合物。
【請求項20】
局所または非経口投与のための、請求項19記載の医薬調合物。
【請求項21】
調合物が口腔錠および舐剤(Lutschtabletten)の形態にある、請求項19記載の医薬調合物。
【請求項22】
以下の段階:
・一般的な粘液腫症を患っている典型的なウサギの感染組織からの粘液腫ウイルスの単離
・許容細胞系へのウイルスの順応(Adaptierung)
・ウイルスの弱毒化が得られるまでの許容細胞培養における単離したウイルスの継代、
を含む、弱毒化ウサギ粘液腫ウイルス株に基づく単一類属免疫誘導剤を製造する方法。
【請求項23】
順応のために、単離したウイルスをインキュベートした鶏卵の絨毛尿膜(CAM)上に接種する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ウイルスをCAM上で2〜6回以上の継代、好ましくは3回以上の継代において増殖させる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
感染組織に含まれる粘液腫ウイルスが、許容細胞系における増殖により単離される、請求項22記載の方法。
【請求項26】
ウイルスがインキュベートした鶏卵の絨毛尿膜(CAM)上での培養により単離される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
ウイルスを引き続き、さらなる継代、好ましくは2回以上のさらなる継代においてCAMに順応させる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
ウイルスが永久細胞培養において継代される、請求項22〜27のいずれか1つに記載の方法。
【請求項29】
ウイルスがベロ細胞培養において継代される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
粘液腫ウイルスの弱毒化が、ベロ細胞培養での80〜150回以上の継代、好ましくは120回以上の継代において行われる、請求項29記載の方法。
【請求項31】
ウイルスがバイナリー細胞培養において継代される、請求項28〜30のいずれか1つに記載の方法。
【請求項32】
ウイルスがAVIVER細胞培養において継代される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
継代が10〜50回以上の継代、好ましくは25回以上の継代において行われることを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項34】
弱毒化粘液腫ウイルスをさらなる弱毒化のための継代においてさらに増殖させる、請求項22〜33のいずれか1つに記載の方法。
【請求項35】
増殖がベロ-サル腎臓細胞において行われる、請求項34記載の方法。
【請求項36】
ベロ細胞での100〜200回以上の継代において、さらなる増殖が行われることを特徴とする、請求項35記載の方法。
【請求項37】
細胞培養のウイルス回収物が105〜107.5、好ましくは少なくとも106.5 TCID50/mlの感染力価を有することを特徴とする、請求項34〜36のいずれか1つに記載の方法。
【請求項38】
弱毒化粘液腫ウイルスがさらに不活化される、請求項22〜37のいずれか1つに記載の方法。
【請求項39】
弱毒化粘液腫ウイルスが不活化のためにベータ-プロピオラクトンで処理される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
ベータ-プロピオラクトンの濃度が0.01〜1%であることを特徴とする、請求項39記載の方法。
【請求項41】
ベータ-プロピオラクトンの濃度が0.05%であることを特徴とする、請求項40記載の方法。
【請求項42】
以下の段階:
・インキュベートした鶏卵のCAMでの増殖による、粘液腫症を患うウサギの感染組織からの粘液腫ウイルスの単離、およびそれに続く
・2回以上の継代における、単離した粘液腫ウイルスのCAMへの順応
・以下による単離したウイルスの弱毒化
−ベロ細胞培養における継代、好ましくは120回以上の継代
−バイナリーAVIVER細胞培養へのウイルスの移行であり、これにより、この細胞培養での好ましくは24回以上の中間的な継代においてウイルスがさらに弱毒化される
−それに続くベロ-サル腎臓細胞へのウイルスの再移行(Rueckuebertragung)
および
−ベロ細胞におけるさらなる弱毒化のための継代、好ましくは約150回以上の継代による弱毒化粘液腫ウイルスの増殖、
を含む、請求項22〜41のいずれか1つに記載の方法。
【請求項43】
請求項22〜42のいずれか1つに記載の方法により得られる弱毒化粘液腫ウイルス。
【請求項44】
ヨーロピアン・コレクション・オブ・アニマル・セル・カルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures:ECACC)に寄託番号03121801で寄託されている、請求項43記載の粘液腫ウイルス。
【請求項45】
粘液腫ウイルスが遺伝的に改変されていることを特徴とする、請求項43または44のいずれか1つに記載の粘液腫ウイルス。
【請求項46】
粘液腫ウイルスが、サイトカイン受容体の形成をコードする1つまたはそれ以上の遺伝子セグメントにおいて付加、置換または欠失の形態で改変を有し、該改変により該サイトカイン受容体の受容体特性が失われていることを特徴とする、請求項45記載の粘液腫ウイルス。
【請求項47】
サイトカイン受容体がインターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)および腫瘍懐死因子(TFN)に対する受容体の群から選択されることを特徴とする、請求項46記載の粘液腫ウイルス。
【請求項48】
サイトカイン受容体がIFN-α-R、IFNγ-R、TNF-R、IL-1-R、IL-2-R、IL-6-RおよびIL-12-Rに対する受容体の群から選択されることを特徴とする、請求項47記載の粘液腫ウイルス。

【公表番号】特表2007−534664(P2007−534664A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550049(P2006−550049)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000582
【国際公開番号】WO2005/070453
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(502240076)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (18)
【Fターム(参考)】