強化された特性を持つ変性ポリペプチドを発生させるためのルックスルー変異誘発
所定のアミノ酸を、ポリペプチドの事前選択された領域(またはいくつかの異なる領域)内の選択された一組の位置のそれぞれおよび全ての位置に導入して、ポリペプチド類似体のライブラリーを生成する、変異誘発の方法を開示する。この方法は、あるアミノ酸が、タンパク質の構造および機能で極めて重要な役割を演ずるという前提に基づいており、したがって、ポリペプチド内の非機能的アミノ酸残基(「コールドスポット」)またはその部分から、機能的アミノ酸残基(「ホットスポット」)を特定し区別することが可能である。ライブラリーは、所望のポリペプチド類似体のみ含有しかつスクリーニングに適切なサイズのものを生成することができる。このライブラリーを使用して、ポリペプチドの構造および機能における特定のアミノ酸の役割を研究することができ、また抗体や抗体断片、単鎖抗体、酵素、およびリガンドなどの、新しくまたは改善されたポリペプチドを開発することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連情報
下記の明細書全体を通して引用されるその他の特許、特許出願、および参考文献の全ての内容全体も、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
変異誘発は、タンパク質の構造および機能の研究において、強力な手段である。変異誘発は、興味あるタンパク質をコードするクローンされた遺伝子のヌクレオチド配列中で行うことができ、修飾された遺伝子を発現、タンパク質の変異体を生成することができる。野生型タンパク質と、生成した変異体とを特性について比較することにより、結合活性および/または触媒活性などのタンパク質の構造的完全性および/または生化学的機能に本質的な、個々のアミノ酸またはアミノ酸のドメインを同定することがしばしば可能である。しかし、単一のタンパク質から生成することができる変異体の数は、その変異を包含する選択された変異体が単に推定上重要なタンパク質の領域(例えば、タンパク質の活性部位を構成する領域)であるとしても、情報価値がありまたは所望の特性を有する変異体の選択を困難にする。例えば、特定のアミノ酸の置換、欠失、または挿入は、タンパク質に対して局所的または全体的な効果を及ぼす可能性がある。
【0003】
ポリペプチドを変異誘発するための以前の方法は、非常に制限的であり、非常に包括的であり、あるいは、機能を増大させまたは改善するのではなくてタンパク質の機能をノックアウトすることに限定されていた。例えば、非常に制限的な手法は、特定機能部位の存在を確認しまたは機能部位内に非常に特異的な変化を生じさせた結果を理解するのに使用される、選択的または部位特異的変異誘発である。部位特異的変異誘発の一般的な適用例は、通常はリン酸化されてポリペプチドにその機能を発揮させるアミノ酸残基を変化させて、リン酸化と機能的活性との関連を確認するリンタンパク質の研究におけるものである。この手法は、ポリペプチドおよび研究される残基に非常に特異的である。
【0004】
反対に、非常に包括的な手法は、遺伝子またはタンパク質の画定された領域内で可能な全ての変化を包含する、多数の変異をもたらすように設計された、飽和またはランダム変異誘発である。これは、関連あるタンパク質ドメインの本質的に全ての可能な変種を発生させることによって、適正なアミノ酸配列が、ランダムに発生した変異体の1つとして生成され易くなるという原理に基づいている。しかし実際には、非常に多くの望ましくない候補のいわゆる「ノイズ」が存在するので、発生した変異の膨大な数のランダムな組合せによって所望の候補を有意に選択する能力が妨げられる可能性がある。
【0005】
「ウォークスルー」変異誘発とも呼ばれる別の手法(例えば、米国特許第5830650号、第5798208号参照)は、統計的に所望の組の変異を含む変性オリゴヌクレオチドの混合物を合成することによって、ポリペプチドの規定の領域を変異誘発させるのに使用されている。しかし、変性ポリヌクレオチド合成が用いられるので、ウォークスルー変異誘発は、所望の組の変異の他にいくつかの望ましくない変化をもたらす。例えば、わずか5つのアミノ酸部位の規定の領域全体にわたって変異を順次導入するには、100個を上回るポリヌクレオチドのセットを作製し、(そしてスクリーニングし)なければならない(例えば図6参照)。したがって、例えば2つまたは3つの領域を作製しスクリーニングすることは徐々に複雑になり、すなわちわずか10から15の変異の存在のためには、それぞれ200から300を上回るポリヌクレオチドを作製しスクリーニングすることが必要になる。
【0006】
タンパク質の変異誘発に使用されてきたさらに別の手法には、アラニンスキャンニング変異誘発があり、タンパク質の機能が妨げられる部位を特定するために、タンパク質の一部を通してアラニン残基を「スキャン」する。しかしこの手法は、機能を増大させまたは改善するのではなく、所与の部位の中性アラニン残基の置換によるタンパク質機能の損失しか見ない。したがって、改善された構造および機能を有するタンパク質を生成するのに有用な手法ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、新しいまたは改善された機能を目的としてタンパク質を変異誘発させる系統立った方法が、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、新規なまたは改善されたタンパク質(またはポリペプチド)を生成するための変異誘発の方法と、この方法によって生成されたポリペプチド類似体および特異的ポリペプチドのライブラリーに関する。変異誘発を目標にしたポリペプチドは、断片、類似体、およびこれらの変異体形態を含めた天然、合成、または設計製作されたポリペプチドにすることができる。
【0009】
一実施形態では、この方法は、ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域(またはいくつかの異なる領域)内の本質的に全ての位置に、所定のアミノ酸を導入するステップを含む。個別には1個の所定のアミノ酸しか持たないが、一まとめにした場合は規定の領域内の全ての位置に所定のアミノ酸を有するポリペプチド類似体を含んだポリペプチドライブラリーを生成する。事実上、単一の所定のアミノ酸(および所定のアミノ酸だけ)は、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域全体を通して位置ごとに置換されるので、単にこの方法を「ルックスルー」変異誘発を呼ぶことができる。
【0010】
しかし、好ましい実施形態では、このLTM法は、ポリペプチド内の所望の特性をスクリーニングしかつ得るために変化させる残基の数をさらに減少させるため、ポリペプチドまたはその一部の機能的アミノ酸(またはいわゆる「ホットスポット」)を非機能的アミノ酸(またはいわゆる「コールドスポット」)から識別するのに使用することにより改善される。したがって、改善されたルックスルー変異誘発(LTM)の方法(以下、改善されたLTMをLTM2と呼ぶ)によれば、後にいかなる「ノイズ」もなく効率的にスクリーニングすることができるポリペプチド内の、最も関連ある機能的変化だけを表す候補分子の一部を、特定し構築することが可能になる。重要なことは、LTM2は、この方法がポリペプチドの機能に対して最も効果を発揮すると考えられるポリペプチドのアミノ酸配列の変化だけを含むように設計されており、したがってスクリーニングによって、強化された特性を有する変性ポリペプチドが得られるので、伝統的なライブラリーを凌ぐ優れた利点を有するLTM2ライブラリーの構成を可能にすることである。したがって、LTM2は、ポリペプチドの規定の領域内の各機能的アミノ酸部位で、所定のアミノ酸を別々に置換する構造的および機能的結果を「ルックスルー」することを可能とし、それによって、規定の領域に特異的なタンパク質の化学的特性は、望ましくないポリペプチド類似体(すなわち、LTM2スキームに従うもの以外のアミノ酸置換を含有する類似体)の生成からのいかなる干渉や「ノイズ」からも切り離される(例えば、図1参照)。
【0011】
したがって本発明は、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域における特異的アミノ酸変化の役割の、非常に効率的かつ正確な系統的評価が可能とする。これは、必要とされるポリペプチド類似体の数が大幅に増加するように、したがって望ましくない類似体の存在も増加するように、2つ以上の規定の領域を(変異させることによって)評価する場合に特に重要になる。本発明は、この問題を、望ましくない類似体を完全になくすことによって、したがって観察されるタンパク質構造または機能のあらゆる変化が所定のアミノ酸の置換以外の結果であるという可能性をなくすことによって、未然に防ぐ。このように、タンパク質の同等の多数の領域に、特異的なタンパク質の化学的特性を切り離す効果は、高い精度および効率で研究されることができる。これは、変異誘発がそのような領域の相互作用にどのように影響するのか研究し、それによってタンパク質の全体的な構造および機能を改善することを含むことが重要である。
【0012】
本発明の特定の実施形態では、本発明の方法は、1つまたは複数の機能的アミノ酸残基または位置にマッピングされる特定の化学モチーフを特定するのに適切である。そのような化学モチーフに寄与するアミノ酸残基は、1つまたは複数のCDR領域内でかつ/あるいは1つまたは複数のポリペプチド内で、例えば抗体重鎖および軽鎖内で、近接したまたは近接していない1つまたは複数の位置で生ずることができる。本発明の方法は、選択されたアミノ酸位置または規定の領域での関連あるアミノ酸の化学的特性の系統的試験(または化学的プロファイリング)を可能にするので、化学モチーフをさらに探索することを可能にする。したがって、一実施形態では、本発明は、所望の化学的特性を特定し、次いで強化された特性を実現するためにまたは有害な特性を除去するために、関連したまたは関連していない化学的特性を組み込んだ結果を検討するための方法を提供する。本発明の方法によるプロファイリングに適した典型的なアミノ酸側鎖の化学的特性は、極性である、正に帯電した、負に帯電した、疎水性であるアミノ酸側鎖の化学的特性である。一実施形態では、荷電化学物質は、選択されたアミノ酸残基、位置、または規定の領域での定住物であることが確認され、その他の荷電アミノ酸は、測定可能な特性の変化が実現されるように、親アミノ酸の代わりに使用する。好ましい実施形態では、測定可能な特性の変化は、抗体の強化された特性であり、例えば、改善された抗原結合またはエフェクター機能である。
【0013】
したがって、本発明は、改善された特性を持つ抗体の効率的なスクリーニングのために、例えば関連する化学的特性を有する選択されたアミノ酸位置/規定の領域に導入された、関連するアミノ酸側基の化学的特性を含んだ抗体ライブラリーも提供する。
【0014】
本発明の別の実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域をコードする個々のポリヌクレオチドを最初に合成することによって、生成され、スクリーニングされるが、この場合ポリヌクレオチドは、一まとめにした場合、本明細書に記述するルックスルー基準に従う全ての可能な変種ポリヌクレオチドを表す。この方法は、機能的アミノ酸残基(位置)を特定し、非機能的アミノ酸残基(位置)と区別するのに使用する。変種ポリヌクレオチドの一部は、例えば生体外転写および翻訳を使用して、かつ/あるいはリボソームディスプレイやファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、酵母ディスプレイ、アレイ化ディスプレイ、または当技術分野で知られている任意のその他の適切なディスプレイ系などのディスプレイ技術を使用して発現させる。
【0015】
次いで発現したポリペプチドを、結合アッセイまたは酵素/触媒アッセイなどの機能的アッセイを使用して、スクリーニングし選択する。一実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関して発現し、それによって、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の特定が可能になる。さらに別の実施形態では、ポリペプチドを、タンパク質の化学的特性を使用して直接合成する。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態では、VLおよびVHCDRアミノ酸配列変種のコンビナトリアルベネフィシャルライブラリーを構成する。この第2のライブラリーは、各アミノ酸変種位置に、野生型アミノ酸に対するコドンおよびその位置に前に特定された有益な変種アミノ酸のそれぞれに対するコドンを有するコード配列を生成することによって構成される。
【0017】
したがって本発明は、一部にはこのライブラリーが、任意の望ましくない類似体ポリペプチドまたはいわゆるノイズを含まないので、スクリーニングに実用的なサイズのポリペプチド類似体のライブラリーを生成するのに使用することができる、インテリジェント変異誘発の方法を提供する。この方法は、ポリペプチドの構造および機能における特異的アミノ酸の役割について研究するのに、また、抗体や結合断片またはその類似体、単鎖抗体、触媒抗体、酵素、およびリガンドなどの、新しいまたは改善されたポリペプチドを開発するのに使用することができる。さらにこの方法は、LTM2を使用して生成され研究されるポリペプチド類似体の初期サブセットを選択することに用いることができる、先験的情報の利益、例えばコンピュータモデリングとともに実施されることができる。
【0018】
本発明のその他の利点および態様は、下記の説明および実施例から容易に明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
明細書および特許請求の範囲を明確に理解するために、以下の定義を次に示す。
【0020】
定義
本明細書で使用する「類似体」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する変種または変異体ポリペプチド(またはそのようなポリペプチドをコードする核酸)を指す。
【0021】
「結合分子」という用語は、基質または標的に結合するタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドを含めた任意の結合分子を指す。一実施形態では、結合分子は、抗体またはその結合断片(例えばFab断片)、単一ドメイン抗体、単鎖抗体(例えばscFv)、またはリガンドに結合することが可能なペプチドである。別の実施形態では、結合分子、特にCDR領域を含む結合分子は、その他の抗体、免疫グロブリン、または免疫グロブリン様分子(例えばフィブロネクチン)から得られ、あるいは部分的にまたは全体が合成して得られたものである、非伝統的な足場またはフレームワーク領域を含むことができる。
【0022】
「規定の領域」という用語は、ポリペプチドの選択された領域を指す。典型的な場合、規定の領域は、機能的部位、例えばリガンドの結合部位、結合分子もしくは受容体の結合部位、または触媒部位の、全てまたは一部を含む。規定の領域は、機能的部位の複数の部分を含んでもよい。例えば規定の領域は、相補性決定領域(CDR)、例えば単一ドメイン結合領域、または抗体の完全重鎖および/もしくは軽鎖可変領域(Fv)の、全て、一部、または複数の部分を含むことができる。したがって、機能的部位は、分子の機能的活性に寄与する単一または複数の規定の領域を含むことができる。
【0023】
「機能的アミノ酸」および「非機能的アミノ酸」という用語は、それぞれ、ポリペプチドの測定可能な特性または活性に寄与することが決定される(例えば本発明の方法を使用して)、ポリペプチド(またはその一部)内のアミノ酸残基(または対応するアミノ酸残基部分)を指す。したがって、ポリペプチドの活性に影響を与えないことから「コールドスポット」と呼ばれる非機能的残基または部分に比べ、機能的アミノ酸残基(または対応する部分)は、ポリペプチドの活性に影響を及ぼす残基または残基部分であるので、「ホットスポット」と呼ばれる。機能的アミノ酸残基(または部分)は、変異誘発に適切であるとして、非機能的アミノ酸残基(または部分)と区別される。典型的には、本発明の方法を抗体分子の調査に利用する場合、例えば抗原結合を変化させるアミノ酸残基を機能的残基/位置(すなわち、ホットスポット)と見なし、一方、そのような結合を変化させない残基を非機能的残基/位置(すなわち、コールドスポット)と呼ぶ。
【0024】
「測定可能な特性」という用語は、標準的な技法を使用して測定し、決定し、またはアッセイを行うことができる、ポリペプチド(またはその部分)の機能的な特性または活性を指し、結合活性、キナーゼ活性、触媒活性、熱安定性、または酵素活性が含まれる。抗原結合ポリペプチド、例えば抗体であるポリペプチドの測定可能な特性には、典型的な場合、結合特異性、結合活性、結合親和性、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、可溶性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性が含まれる。
【0025】
「ルックスルー変異誘発」または「LTM」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域(またはいくつかの異なる領域)内の、本質的に全ての位置に、所定のアミノ酸を導入するための方法を指す。個々には所定のアミノ酸を1つしか持たないが、一まとめにした場合は規定の領域内の全ての位置に所定のアミノ酸を持つポリペプチド類似体を含んだポリペプチドライブラリーを生成する。
【0026】
「改善されたルックスルー変異誘発」または「LTM2」という用語は、機能的アミノ酸残基(ホットスポット)と非機能的アミノ酸残基(コールドスポット)とが識別または区別されるように行われたLTMを指す。したがってLTM2法によれば、ポリペプチド(またはその部分)内の機能的アミノ酸残基に、所定のアミノ酸を選択的に導入することが可能になる。対応するLTM2ライブラリーは、変化しまたは強化された特性を最も与え易いアミノ酸変化を有するポリペプチド類似体に富んでいる。LTM2は、LTMの後に、あるいは所与のアミノ酸残基または残基部分の機能性に関する先験的情報に基づいて、実施することができる。
【0027】
「ライブラリー」という用語は、本発明の方法により変異誘発された2個以上の分子を指す。ライブラリーの分子は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド、無細胞抽出物中のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの形で、またはファージ、原核細胞、もしくは真核細胞におけるポリヌクレオチドおよび/もしくはポリペプチドとしての形をとることができる。本発明のライブラリーは、2個以上の分子またはポリペプチド類似体を含むことができ、例えば約2から10個、約10から50個、約50から102個、約103個、約104個、約105個、約106個、約107個、約108個、約109個、約1010個、約1011個、約1012個、約1013個、またはそれ以上、または前述のいずれかの間隔もしくは範囲を含む。
【0028】
「変異誘発」という用語は、アミノ酸配列の変化を指す。これは、変化したアミノ酸配列をコードすることが可能な核酸(ポリヌクレオチド)を変化させまたは生成することによって、あるいはタンパク質の化学的特性を使用した変性ポリペプチドの直接的な合成によって、実現することができる。
【0029】
「変異誘発」という用語は、他に特に指示しない限り、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を変化させるための当技術分野で認識される任意の技法を指す。好ましいタイプの変異誘発には、ウォークスルー変異誘発(WTM)、ベネフィシャルウォークスルー変異誘発、ルックスルー変異誘発(LTM)、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)、またはこれらの組合せが含まれる。
【0030】
「コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発」という用語は、最初に所定のLTMアミノ酸変異誘発によって測定可能な特性に変化があることが確認された、VLおよび/またはVHCDRアミノ酸配列変種の変性混合物をコードするコード配列の組合せライブラリーを指す。コンビナトリアルベネフィシャル変異の手法では、LTMによって確認されたこれら有益な変異の組合せであるオリゴヌクレオチドコード配列を生成する。これらの組合せは、単一CDR内での種々の有益な変異、単一抗体鎖内の2つ以上のCDRでの変異、または種々の抗体鎖内のCDRでの変異の組合せでよい。
【0031】
「ポリヌクレオチド」という用語は、DNA分子やRNA分子などの核酸、およびその類似体を指す(例えば、ヌクレオチド類似体を使用して、または核酸の化学的特性を使用して生成された、DNAまたはRNA)。望みに応じて、ポリヌクレオチドは、例えば当技術分野で理解されている核酸の化学的特性を使用して合成的に、または例えばポリメラーゼを使用して酵素的に、作製することができる。典型的な修飾には、メチル化、ビオチン化、およびその他の当技術分野で知られている修飾が含まれる。さらに、核酸分子を1本鎖または2本鎖であることができ、望む場合には、検出可能な部分にリンクされまたは結合されることができる(例えば共有または非共有)。
【0032】
「変種ポリヌクレオチド」という用語は、本発明の対応するポリペプチド類似体(またはその部分)をコードするポリヌクレオチドを指す。したがって、変種ポリヌクレオチドは、異なるアミノ酸の発現をもたらすように変化している1つまたは複数のコドンを含有する。
【0033】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって接合された2つ以上のアミノ酸、例えばペプチド(例えば、2〜50のアミノ酸残基)、ならびにより長いペプチド配列、例えば、典型的には50程度の少ないアミノ酸残基から1000を超えるアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、タンパク質配列を指す。
【0034】
「プーリング」という用語は、ポリペプチド領域全体のルックスルー変異誘発(LTM)または改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)を表すライブラリーを形成するための、ポリヌクレオチド変種またはポリペプチド類似体の組合せを指す。分子は、ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの形をとることができ、サブライブラリーの形で、固体支持体上の分子として、溶液中の分子として、かつ/または1つまたは複数の生物体(例えばファージ、原核細胞、または真核細胞)中の分子として共存することができる。
【0035】
「所定のアミノ酸」という用語は、変異誘発させるポリペプチドの規定の領域内の各位置で、置換のために選択されたアミノ酸残基を指す。これは、所定のアミノ酸を既に(例えば生来)含有する領域、したがって所定のアミノ酸で置換する必要のない領域内の位置を含まない。したがって、本発明により生成された各ポリペプチド類似体は、所与の規定の領域内に「所定のアミノ酸」残基を1つしか含有しない。しかし一まとめにすると、生成されたポリペプチド類似体のライブラリーは、変異誘発される領域内の各位置に所定のアミノ酸を含有し、好ましい実施形態では、機能的であることが決定されたアミノ酸位置(ホットスポット)である。典型的な場合、所定のアミノ酸は、通常ならアミノ酸の側基に関連する特定のサイズまたは化学的特性に合わせて選択される。適切な所定のアミノ酸には、例えば、グリシンおよびアラニン(立体的に小さい);セリン、トレオニン、およびシステイン(求核性);バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、およびプロリン(疎水性);フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香性);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性);アスパラギン、グルタミン、およびヒスチジン(アミド);ならびにリジンおよびアルギニン(塩基性)が含まれる。非伝統的アミノ酸残基(例えばホモシステイン)の使用も本発明の範囲内であり、当技術分野で理解される任意の技法を使用して導入することができる。
【0036】
詳細な説明
タンパク質の研究では、その構造および機能において、あるアミノ酸が極めて重要な役割を演ずることが明らかにされた。例えば、不連続な数のアミノ酸だけが抗体と抗原との結合に寄与し、または酵素の触媒現象に関与するようである。
【0037】
あるアミノ酸は、タンパク質の活性または機能に極めて重要なことが明らかであるが、どのアミノ酸が関与し、それらがどのように関与しているのか、またどの置換がタンパク質の構造または機能を改善することができるのか、明らかにすることは難しい。1つには、これはポリペプチド内のアミノ酸側鎖の空間配置の複雑さと、機能的部位の形成に寄与するポリペプチドの異なる部分の相互関係とに起因する。例えば、抗体の可変重鎖および軽鎖領域の6つのCDR間の相互関係は、抗原またはリガンド結合ポケットに寄与する。
【0038】
選択的(部位特異的)変異誘発や飽和変異誘発などの以前の変異誘発法は、複雑なポリペプチド中の膨大な数の可能性ある変種に鑑みて、タンパク質の構造および機能の研究にその利用が限定されている。これは特に、大量の望ましくない組合せ、いわゆるノイズの存在が、所望の組合せにしばしば付随することを考えれば、もっともなことである。
【0039】
本発明の方法は、ポリペプチドの構造または機能における、特定のアミノ酸の役割と、ポリペプチドの規定の領域内での特定のアミノ酸の位置とを評価するための、したがって改善されたポリペプチドを生成するための、系統的、実用的、および非常に正確な手法を提供する。
【0040】
1.規定の領域の選択
本発明によれば、タンパク質内の1つまたは複数の規定の領域を、変異誘発を目的として選択する。典型的な場合、これらの領域は、タンパク質の構造または機能に重要と考えられる。これは例えば、構造的および/または機能的態様が知られているものから推論することができ、または、規定の領域とその他のタンパク質の研究からわかっていることを比較することから推論することができ、情報のモデリングにより助けることができる。例えば規定の領域は、機能的部位、例えば結合、触媒、または別の機能において、役割を有するものにすることができる。一実施形態では、規定の領域は、抗原結合分子の超可変領域または相補性決定領域(CDR)である(図1参照)。別の実施形態では、規定の領域は、相補性決定領域(CDR)の一部である。その他の実施形態では、2つ以上の規定の領域、例えばCDRまたはその一部を、変異誘発を目的に選択する。
【0041】
2.所定のアミノ酸残基の選択
規定の領域内の置換を目的に選択されたアミノ酸残基は、一般に、問題にされる構造または機能に関与することで知られているものから選択される。20個の天然のアミノ酸は、その側鎖が異なっている。それぞれの側鎖は、それぞれのアミノ酸を独特のものにする化学的特性の一因となる。結合を変化させまたは新たな結合親和性を生成する目的で、これら20個の天然のアミノ酸のいずれかまたは全てを選択することができ、非伝統的アミノ酸残基(例えばホモシステイン)も同様である。したがって、置換ごとに膨大な数の類似体を生成した以前の変異誘発方法は、20個のアミノ酸それぞれの置換のタンパク質結合に及ぼす影響を評価するのに非現実的であった。対照的に本発明の方法は、各アミノ酸置換ごとに現実的な数の類似体を生成し、したがって、タンパク質の1つまたは複数の分離領域内で、より様々なタンパク質の化学的特性を評価することが可能になる。
【0042】
タンパク質結合とは対照的に、ごく一部のアミノ酸残基だけが、典型的には酵素または触媒現象に寄与する。例えば側鎖の化学的特性から、選択された数の天然アミノ酸だけが、優先的に触媒現象に寄与する。アミノ酸側鎖の化学的特性の、そのようなグループ分けは、特定のアミノ酸残基または位置の化学的プロファイリングに使用するのに適切なアミノ酸残基を選択するのに有用である。これらのアミノ酸は、SerやThr、Asn、Gln、Tyr、Cysなどの極性および中性アミノ酸のグループ、荷電アミノ酸、AspおよびGlu、LysおよびArg、ならびに、特にアミノ酸Hisに属する。その他の極性および中性の側鎖は、Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、およびTyrのものである。Glyも、このグループの境界線上にある要素と見なされる。SerおよびThrは、水素結合の形成に重要な役割を演ずる。Thrは、β炭素に追加の非対称を有し、したがって立体異性体の1つだけが使用される。酸アミドGlnおよびAsnも水素結合を形成することができ、アミド基が水素供与体として機能し、カルボニル基が受容体として機能する。Glnは、Asnよりも1つ多いCH2基を有し、そのため極性基がより柔軟になり、主鎖との相互作用を低下させる。Tyrは、高いpH値で解離することができる、非常に極性の高いヒドロキシル基(フェノールOH)を有する。Tyrは、いくらか荷電側鎖のように振る舞い、その水素結合はかなり強力である。
【0043】
中立極性酸は、タンパク質分子の内部のみならず表面にも見られる。内部残基として、これらは通常、互いにまたはポリペプチド主鎖と共に水素結合を形成する。Cysは、ジスルフィド架橋を形成することができる。
【0044】
ヒスチジン(His)は、pK値が6.0の複素環芳香族側鎖を有する。生理学的pH範囲では、溶液から水素イオンをとった後に、そのイミダゾール環を帯電させずまたは帯電させることができる。これら2つの状態は、容易に得ることが可能であるので、Hisは、化学反応を触媒するのに実に適している。酵素の活性中心には概ね見られ、例えばセリンプロテアーゼに見られる。
【0045】
AspおよびGluは、生理学的pHで負に帯電している。その短い側鎖により、Aspのカルボキシル基は、主鎖に対してかなり強固である。これは、多くの触媒部位にあるカルボキシル基が、なぜGluによってではなくAspによって提供されるのかの理由になり得る。帯電した酸は、一般に、ポリペプチドの表面に見られる。
【0046】
さらに、LysおよびArgが表面に見られる。これらは、類似したエネルギーの複数の回転異性体を提示する、長く柔軟な側鎖を有する。いくつかの例では、LysおよびArgが、内部塩橋の形成に寄与し、または触媒を助ける。これらはポリペプチドの表面にさらされるので、Lysは、側鎖を修飾しまたはLys残基のカルボニル末端でペプチド鎖を切断する酵素によって、より頻繁に認識される残基である。
【0047】
アミノ酸側基の化学的特性に応じて、所定のアミノ酸残基を選択することができるが、所望の側基の化学的特性の欠如は、所定のアミノ酸として使用するためにアミノ酸残基を除外するための基準にすることができる。例えばアラニンなどの、立体的に小さくかつ化学的に中性のアミノ酸は、所望の化学的特性をなくすためにルックスルー変異誘発から除外することができる。
【0048】
3.ポリペプチド類似体ライブラリーの合成
一実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの規定の領域をコードしかつ所定のアミノ酸に対して1つのコドンしか持たない個々のオリゴヌクレオチドを合成することによって、スクリーニングを目的に生成する。これは、オリゴヌクレオチド内の各コドン位置に、野生型ポリペプチドの合成に必要とされるコドンまたは所定のアミノ酸に対するコドンを組み込むことによって、実現される。これは、各オリゴヌクレオチドごとに、複数の変異ではなく1つの変異だけが形成される点が、飽和変異誘発、ランダム変異誘発、またはウォークスルー変異誘発で生成されたオリゴヌクレオチドとは異なっている。
【0049】
オリゴヌクレオチドを個々に生成し、次いで望みに応じて混合しまたはプールすることができる。野生型配列のコドンと所定のアミノ酸に対するコドンとが同じである場合、置換は行われない。
【0050】
したがって、規定の領域内のアミノ酸位置の数は、作製されるオリゴヌクレオチドの最大数を決定することになる。例えば、5つのコドン位置が所定のアミノ酸と共に変化する場合、野生型アミノ酸配列を表す5つのポリヌクレオチドと1つのポリヌクレオチドを合わせたものが合成される。2つ以上の領域を、同時に変化させることができる。一実施形態では、変異誘発された規定の領域内のアミノ酸残基(位置)は、機能的アミノ酸残基(位置)である。別の実施形態では、機能的アミノ酸残基(位置)だけが変異誘発される。
【0051】
ライブラリーを生成するためのオリゴヌクレオチドの混合物は、DNA合成の既知の方法によって、容易に合成することができる。好ましい方法では、固相βシアノエチルホスホラミダイトの化学的特性を使用する。米国特許第4725677号を参照されたい。便宜上、ヌクレオチドの指定試薬容器を含んだ自動DNA合成のための機器を使用することができる。ポリヌクレオチドは、より大きい遺伝子コンテキストへの、例えば規定の領域を表すポリヌクレオチドの導入またはアセンブリを促進させる、制限部位またはプライマーハイブリダイゼーション部位を含有するように合成してもよい。
【0052】
合成されたポリヌクレオチドは、標準的な遺伝子工学技法を使用することによって、変異誘発されているポリペプチドのより大きい遺伝子コンテキストに挿入することができる。例えばポリヌクレオチドは、制限酵素のフランキング認識部位を含有するように作製することができる。Crea,R.の米国特許第4888286号を参照されたい。認識部位は、天然に存在する認識部位に対応するように設計され、またはその領域をコードするDNAに近接する遺伝子に導入される。2本鎖形態に変換させた後、ポリヌクレオチドを、標準的な技法によって遺伝子にライゲーションする。適切なベクター(例えば、ファージベクター、プラスミドを含む)を用いることにより、遺伝子を、変異体ポリペプチドの発現に適した無細胞抽出物、ファージ、原核細胞、または真核細胞に導入することができる。
【0053】
変異誘発されるポリペプチドのアミノ酸配列がわかっている場合、またはDNA配列がわかっている場合は、遺伝子合成が、可能性ある手法である。例えば部分的に重なり合っているポリヌクレオチド、典型的にはその長さが約20〜60のヌクレオチドを設計することができる。次いで内部ポリヌクレオチドを、その相補的パートナーにリン酸化しアニールすることにより、さらなるアニーリングに有用な、1本鎖伸長部を持った2本鎖DNA分子が与えられる。次いで、アニールされた対を一緒に混合し、ライゲーションして、完全長2本鎖分子を形成する(例えば、図8参照)。都合のよい制限部位を、適切なベクターにクローニングするために、合成遺伝子の端部付近に設計することができる。完全長分子は、これらの酵素で切断され、適切なベクターにライゲーションすることができる。都合のよい制限部位は、変異誘発性カセットの導入を促進させるために、合成遺伝子の配列に組み込むこともできる。
【0054】
完全長2本鎖遺伝子を表すポリヌクレオチドを合成する代替例として、その3’末端で部分的に重なり合うポリヌクレオチド(すなわち相補的3’末端を持つ)をギャップ構造に組み立て、次いで適切なポリメラーゼを充填して、完全長2本鎖遺伝子を作製することができる。典型的な場合、重複ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド40〜90個の長さである。次いで伸長したポリヌクレオチドのライゲーションを行う。都合のよい制限部位を、クローニングの目的で端部および/または内部に導入することができる。適切な1種または複数の制限酵素による消化の後、遺伝子断片を適切なベクターにライゲーションする。あるいは、遺伝子断片を、適切なベクターにブラントエンドライゲーションする。
【0055】
これらの手法では、遺伝子アセンブリの後に、都合のよい制限部位が利用可能である場合(天然のまま、または設計製作して)、カセットを適切なベクターにクローニングすることによって、変性ポリヌクレオチドを順次導入することができる。あるいは、変性ポリヌクレオチドを遺伝子アセンブリ段階に組み込むことができる。例えば、遺伝子の両方の鎖を完全に化学的に合成する場合、重複および相補的変性ポリヌクレオチドを生成することができる。相補対は、互いにアニールされる。
【0056】
部分的に重複するポリヌクレオチドを遺伝子アセンブリに使用する場合、一組の変性ヌクレオチドを、ポリヌクレオチドの一方の代わりに直接組み込むこともできる。適切な相補鎖は、ポリメラーゼによる酵素伸長によって、他方の鎖からの一部相補的なポリヌクレオチドから、伸長反応中に合成する。合成段階での変性ポリヌクレオチドの組込みは、遺伝子の複数のドメインまたは規定の領域が変異誘発される部位におけるクローニングも簡略化する。
【0057】
別の手法では、興味ある遺伝子が、1本鎖プラスミド上に存在する。例えば遺伝子は、ヘルパーファージの使用とともに1本鎖分子の増殖を可能とするファージベクターまたは線維状ファージ複製開始点を持つベクターにクローニングすることができる。1本鎖鋳型を、所望の変異を示す一組の変性ポリヌクレオチドと共にアニールし、伸長し、ライゲーションすることができ、したがって、各類似体の鎖が、適切な宿主に導入することができる分子集団に組み込まれる(Sayers,J.R.他,Nucleic Acids Res.16:791〜802(1988))。この手法は、複数のドメインが変異誘発を目的に選択される、複数のクローニングステップを回避することができる。
【0058】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法も、ポリヌクレオチドを遺伝子に組み込むのに使用することができる。例えばポリヌクレオチドそのものを、伸長のためのプライマーとして使用することができる。この手法では、規定の領域(またはその一部)に対応する変異誘発性カセットをコードするポリヌクレオチドが、少なくとも部分的に互いに相補的であり、ポリメラーゼを使用して、例えばPCR増幅を使用して、大きい遺伝子カセットが形成されるように伸長させることができる(例えば、図2参照)。
【0059】
ライブラリーのサイズは、変異誘発される領域の長さおよび数と、変異誘発される領域内のアミノ酸に応じて様々に異なる。好ましくはライブラリーは、1015、1014、1013、1012、1011、1010、109、108、107未満、そしてより好ましくは106以下のポリペプチド類似体を含有するように設計される。
【0060】
上記の説明は、対応するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを変化させることによる、ポリペプチドおよびポリペプチドのライブラリーの変異誘発を中心とした。しかし本発明の範囲は、タンパク質の化学的特性を使用して所望のポリペプチド類似体を直接合成することによる、ポリペプチドを変異誘発させる方法も包含することが理解される。この手法を実施する際、得られるポリペプチドは、ポリヌクレオチド中間体の使用をなくしたこと以外、本発明の特徴を依然として包含したままである。
【0061】
上述のライブラリーの場合、ポリヌクレオチドおよび/または対応するポリペプチドの形をとろうととらなかろうと、ライブラリーを、当技術分野で理解されている技法を使用して、マイクロチップなどの固体支持体に結合してもよく、好ましくは配列できることが理解される。
【0062】
4.発現およびスクリーニング系
上記の技法またはその他適切な技法のいずれによっても生成されたポリヌクレオチドのライブラリーは、所望の構造および/または活性を有するポリペプチド類似体が特定されるように、発現されスクリーニングされることができる。ポリペプチド類似体の発現は、無細胞抽出物ディスプレイ系(例えばリボソームディスプレイおよびアレイ(例えばマイクロアレイまたはマクロアレイ)ディスプレイ系)、細菌ディスプレイ系、ファージディスプレイ系、原核細胞、および/または真核細胞(例えば酵母ディスプレイ系)を含むがこれらに限定することのない、当技術分野で知られている任意の適切な発現ディスプレイ系を使用して、実施することができる。
【0063】
一実施形態では、無細胞抽出物中で発現することができる鋳型として働くように、ポリヌクレオチドを設計製作する。例えば、米国特許第5324637号、第5492817号、第5665563号に記載されるベクターおよび抽出物を使用することができ、多くは市販されている。ポリヌクレオチド(すなわち遺伝子型)をポリペプチド(すなわち表現型)に結合するリボソームディスプレイおよびその他の無細胞技法、例えばProfusion(商標)を使用することができる(例えば、米国特許第6348315号、第6261804号、第6258558号、および第6214553号参照)。
【0064】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、PluckthunおよびSkerraにより記述されるように(Pluckthun,A.およびSkerra,A.Meth.Enzymol.178:476〜515(1989);Skerra,A.他,Biotechnology 9:273〜278(1991))、細菌性のE.coli発現系などの都合のよい原核生物の発現系で発現させることができる。変異体タンパク質は、M.BetterおよびA.Horwitz,Meth.Enzymol.178:476(1989)に記載されるように、培地中および/または細菌の細胞質中での分泌を目的に、発現させることができる。一実施形態では、VHおよびVLをコードする単一ドメインが、シグナル配列、例えばompAやphoA、またはpelBシグナル配列などをコードする配列の3’末端に、それぞれ結合する(Lei,S.P.他,J.Bacteriol.169:4379(1987))。これらの遺伝子融合は、ジシストロニックな構成に組み立てられ、したがって遺伝子融合は、単一のベクターから発現することができ、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌され、そこでリフォールディングし、活性な形で回収することができる(Skerra,A.他,Biotechnology 9:273〜278(1991))。例えば抗体重鎖遺伝子は、抗体軽鎖遺伝子と同時に発現して、抗体または抗体断片を生成することができる。
【0065】
さらに別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば米国特許第6423538号、第6331391号、および第6300065号に記載されるように、例えば酵母ディスプレイを使用して、酵母などの真核細胞内で発現することができる。この手法では、ライブラリーのポリペプチド類似体を、酵母表面に発現し表示されるポリペプチドに融合させる。哺乳動物細胞、例えば骨髄腫細胞やハイブリドーマ細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞など、本発明のポリペプチドを発現させるその他の真核細胞も、使用することができる。典型的な場合、哺乳動物細胞中に発現させるときのポリペプチド類似体は、培地中に発現するように、またはそのような細胞の表面に発現するように設計される。抗体または抗体断片は、例えば、抗体分子全体として、または個々のVHおよびVL断片、Fab断片、単一ドメインとして、または単鎖抗体(scFV)として生成することができる(Huston,J.S.他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883(1988)参照)。
【0066】
発現したポリペプチド類似体(または直接合成によって生成されたポリペプチド)のスクリーニングは、任意の適切な手段によって行うことができる。例えば結合活性は、標準的な免疫アッセイおよび/または親和性クロマトグラフィにより評価することができ、触媒活性は、基質変換に適したアッセイにより確認することができる。タンパク質分解機能に関する本発明のポリペプチド類似体のスクリーニングは、例えば米国特許第5798208号に記載されている標準的なヘモグロビンプラークアッセイを使用して、実現することができる。
【0067】
5.コンピュータモデリングにより支援される、改善されたルックスルー変異誘発
本発明のルックスルー変異誘発は、所望の改善された機能を有する類似体が生成される可能性が増すように、ポリペプチド類似体に関する構造的またはモデリング情報を利用して実施してもよい。構造的またはモデリング情報は、規定の領域内に導入されるように所定のアミノ酸の選択を導くのに使用することもできる。さらに、本発明のポリペプチド類似体で得られた実際の結果は、繰り返し作製されスクリーニングされる後続のポリペプチドの選択(または排除)を導くことができる。したがって、構造またはモデリング情報は、本発明で使用されるポリペプチド類似体の初期サブセットを生成するのに使用することができ、それによって、改善されたポリペプチドの生成効率が高まる。
【0068】
特定の実施形態では、in silicoモデリングを使用して、不十分なまたは望ましくない構造および/または機能を有することが予測される、任意のポリペプチド類似体が生成されないようにする。この方法では、生成されるポリペプチド類似体の数を急激に減少させることができ、それによって、後続のスクリーニングアッセイの信号対雑音比が高まる。特定の実施形態では、機能的アミノ酸残基(位置)またはホットスポットが、変異誘発に適切であるとされるのに対し、非機能的アミノ酸残基(位置)またはコールドスポットは、排除される。別の特定の実施形態では、in silicoモデリングが、関連あるソースから、例えば遺伝子およびタンパク質配列、3次元データベースから、かつ/または前に試験をした類似体結果からの、追加のモデリング情報によって継続的に更新され、したがってin silicoデータベースは、その予測能力がより正確になる。
【0069】
さらに別の実施形態では、in silicoデータベースに、前に試験をしたポリペプチド類似体のアッセイの結果が提供され、アッセイの1つまたは複数の基準に基づいて、その類似体を応答物または非応答物に分類し、例えば、十分に結合しもしくはそれほど十分には結合していないポリペプチド類似体、または酵素的/触媒的でありもしくはそれほど酵素的/触媒的ではないものとして分類する。この方法では、本発明の変異誘発は、機能的応答の範囲を特定の構造情報と同一視することができ、そのような情報を使用して、試験がなされる将来のポリペプチド類似体の生成を誘導することができる。したがって、この方法は、ホットスポットを変異誘発の目標とすることによって、結合親和性(例えば特異性)、安定性(例えば半減期)、および/またはエフェクター機能(例えば補体活性化およびADCC)などの特定の機能に関して抗体または抗体断片をスクリーニングするのに特に適している。したがって、ある領域内の非隣接残基の変異誘発は、例えばin silicoモデリングを通して、その領域のある残基が所望の機能に寄与しないことがわかっている場合、望ましいものとすることができる。規定の領域間の等位構造および空間相互関係、例えばポリペプチドの規定の領域内の機能的アミノ酸残基、例えば導入された所定のアミノ酸を考えることができ、モデリングすることができる。そのようなモデリング基準には、例えば、アミノ酸残基側基の化学的特性、原子間距離、結晶学的データなどが含まれる。したがって、生成されるポリペプチド類似体の数を、情報処理により最小限に抑えることができる。
【0070】
好ましい実施形態では、上記ステップの1つまたは複数が、コンピュータにより支援される。この方法も、部分的にまたは全体的に、デバイス、例えばコンピュータ駆動型デバイスにより実施するのに適している。したがって、部分的にまたは全体的に、この方法を実施するための指示を、この指示を実行する電子デバイスでの使用に適した媒体に付与することができる。つまり本発明の方法は、ソフトウェア(例えばコンピュータで読取り可能な指示)およびハードウェア(例えばコンピュータ、ロボティクス、およびチップ)を含む高スループット手法に修正可能である。
【0071】
6.複数の規定の領域のコンビナトリアルケミストリーの調査
本発明は、ポリペプチドのいくつかの異なる領域またはドメインの変異誘発による評価を同時に可能にする、重要な利点を提供する。これは、各領域内の同じかまたは異なる所定のアミノ酸を使用して行うことができ、ポリペプチドの折り畳みによって機能部位(例えば、抗体の結合部位または酵素の触媒部位)が構成されるように関連付けられる領域など、高次構造的に関係ある領域でのアミノ酸置換の評価が可能になる。このため、新たなまたは改善された機能的部位を生成する、効率的な方法が提供される。
【0072】
例えば、抗原結合部位(Fv領域)の独自の態様を構成する抗体の6つのCDRを、VHまたはVL鎖内で、同時にまたは別々に変異誘発させることができ、それによって、この部位で選択されたアミノ酸の3次元相互関係を調査する。一実施形態では、3つ以上の規定の領域、好ましくは6つの規定の領域、例えば、抗体重鎖および軽鎖可変領域の6つのCDRのコンビナトリアルケミストリーを、ルックスルー変異誘発を使用して体系的に調査する。CDR上でルックスルー変異誘発を行うには、典型的には3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、またはそれ以上のアミノ酸位置を変化させる。次いで機能的アミノ酸残基を非機能的アミノ酸残基と区別し、さらなる変異誘発に適切であることを確認する。
【0073】
したがって本発明は、多くの異なるタイプの新規なおよび改善されたポリペプチドの設計に関して、新たな可能性を開くものである。この方法は、タンパク質の既存の構造または機能を改善するのに使用することができる。例えば、抗体もしくは抗体断片の結合部位を導入することができ、または、前から存在する抗原との親和性、エフェクター機能、および/もしくは安定性が改善される。あるいは、追加の「触媒的に重要な」アミノ酸を、酵素の触媒ドメインに導入することができ、その結果、基質に対して修正されまたは強化された触媒活性が得られる。あるいは、完全に新しい構造、特異性、または活性を、ポリペプチドに導入することができる。酵素活性の新規の合成も、実現することができる。新しい構造は、本発明の方法により、関係ある領域(例えば機能的アミノ酸残基(位置))だけを変異させることによって、既存のタンパク質の天然のまたはコンセンサスな「足場」上に構築されることができる。
【0074】
7.新たなまたは改善された抗体を作製するための、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)
本発明の方法は、抗体分子を修飾するのに特に有用である。本明細書で使用する抗体分子または抗体は、完全長抗体、Fv分子、またはその他の抗体断片、個々の鎖またはその断片(例えば、Fvの単鎖)、単鎖抗体(例えばscFv)、およびキメラ抗体などの、抗体またはその部分を指す。変性は、抗体の可変領域および/またはフレームワーク(定常)領域に導入される。可変領域の修飾は、より良好な抗原結合特性、望む場合には触媒特性を持つ抗体を生成することができる。フレームワーク領域の修飾は、化学−物理学的特性、例えば商業生産で特に有用な溶解度または安定性(例えば半減期)、生物学的利用能、エフェクター機能(例えば補体活性化および/またはADCC)、および抗原に対する結合親和性(例えば特異性)などの改善ももたらすことができる。典型的な場合、変異誘発は、抗体分子のFv領域、すなわち2つの鎖であってその1つが重鎖(VH)からのものであり、1つが軽鎖(VL)からのものである可変領域で構成された、抗原結合活性に寄与する構造を標的にする。特に、変異誘発は、抗体の測定可能な特性(例えば抗原結合、Fc受容体結合など)に寄与することが決定された機能的アミノ酸残基(位置)を標的にする。所望の抗原結合特性が確認されたら、可変領域を、IgGやIgM、IgA、IgD、またはIgEなどの、適切な抗体クラスに設計製作することができる。
【0075】
8.触媒/酵素ポリペプチドを作製し/改善するための、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)
本発明の方法は、触媒タンパク質、特に触媒抗体の設計にも、特に適している。現在、触媒抗体は、標準的な体細胞融合技法を適用することによって調製することができる。このプロセスでは、遷移状態に結合しかつ反応を触媒する抗体の生成を誘発させる、所望の基質の遷移状態に似た抗原で、動物が免疫化される。抗体生成細胞は動物から収集され、不死化細胞に融合され、ハイブリッド細胞を生成する。次いでこれらの細胞を、反応を触媒する抗体の分泌に関してスクリーニングする。このプロセスは、基質の遷移状態の類似体の利用可能性に依存する。このプロセスは、ほとんどの場合、そのような類似体を特定しまたは合成することが困難になり易いので、制約を受ける可能性がある。
【0076】
本発明の方法は、遷移状態の類似体の必要性をなくす、異なる手法を提供する。本発明の方法によれば、抗体は、適切なアミノ酸を免疫グロブリンの結合部位(Fv領域)に導入することによって、触媒作用により作製することができる。抗原結合部位(Fv)領域は、6つの超可変(CDR)ループ、すなわち免疫グロブリン重鎖(H)から得られた3つと軽鎖(L)から得られた3つで構成され、これらは各サブユニット内でβ鎖を接続している。CDRループのアミノ酸残基は、各特異的モノクローナル抗体の結合特性に、ほぼ完全に寄与している。例えば、セリンプロテアーゼの後にモデル化された触媒の3元要素(アミノ酸残基セリン、ヒスチジン、およびアスパラギン酸を含む)は、基質分子との親和性がわかっておりかつ基質のタンパク質分解活性に関してスクリーニングされる抗体の、Fv領域の超可変セグメント内で生成することができる。好ましい実施形態では、抗体の測定可能な特性、例えば触媒活性に寄与することが決定された、機能的アミノ酸残基(位置)を標的とする。
【0077】
特に本発明の方法は、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼを含めた多くの異なる酵素または触媒抗体を生成するのに使用することができる。これらの種類の中で、特に重要なのは、改善されたプロテアーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、ジオキシゲナーゼ、およびペルオキシダーゼである。本発明の方法によって調製することができる、これらおよびその他の酵素は、保健医療、化粧品、食品、醸造、洗浄剤、環境(例えば廃水処理)、農業、なめし、織物、およびその他の化学プロセスにおける、酵素変換という重要な商業的用途がある。これらには、診断および治療の用途、脂肪、炭水化物、およびタンパク質の変換、有機汚染物質の分解、および化学物質の合成が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、線維素溶解活性、またはウイルスコートタンパク質などの感染力に必要なウイルス構造に対する活性を持つプロテアーゼが、設計製作されうる。そのようなプロテアーゼは、有用な抗血栓剤、または例えばHIV、ライノウイルス、インフルエンザまたは肝炎などのウイルスに対する抗ウイルス剤になり得る。オキシゲナーゼ(例えばジオキシゲナーゼ)、すなわち芳香環およびその他の二重結合の酸化のための補助因子が必要な種類の酵素の場合、バイオパルピングプロセスでの工業的用途、バイオマスから燃料またはその他の化学物質への変換、廃水汚染物質の変換、石炭のバイオプロセシング、および有害な有機化合物の無毒化が、新規なタンパク質の可能性ある適用例である。前述の事項に関する改善点の確認は、これらの改善点が求めている所望の活性または特性に寄与する傾向が強い、機能的アミノ酸残基(位置)を優先的に標的とすることによって、本発明により迅速になされる。
【0078】
9.コンビナトリアル変異誘発法
コンビナトリアルベネフィシャル変異法では、LTMによって確認される有益な変異の組合せを表すコード配列を生成する。これらの組合せは、単一CDR内の種々の有益な変異、単一抗体鎖内の2つ以上のCDRでの変異、または種々の抗体鎖のCDRでの変異の組合せでよい。
【0079】
あるコンビナトリアル法は、CDR内で選択されたコドン置換が、LTMによって確認された種々の有益なアミノ酸置換であることを除き、WTM法に似ている。したがって、抗体CDR内の全ての残基位置が変異を有するとは限らず、いくつかの位置は、その位置で置換された複数の異なるアミノ酸を有することになる。全体的に、CDRまたは抗体鎖内の有益な変異の組み合わせは、全てではないとしてもその多くが、ライブラリー中のコード配列の少なくとも1つによって表されることになる。表1に示すように、このコード配列ライブラリーは、可変コード領域内の異なる位置のそれぞれに単一のアミノ酸に対する複数のコドンを配置する代わりに、導入されるコドンがLTM法で検出される有益な変異の全てに対応するものであること以外、WTM法を修正することによって作成することができる。このライブラリーのサイズを管理可能に維持するために、変異を、2つの重鎖または軽鎖の一方のみに限定することができる。
【0080】
第2の手法では、単一のCDR領域を含有し、かつCDR内の有益な変異の組合せ全てをコードするコドン変種を有する個々の遺伝子断片が、例えば遺伝子シャッフリング法により再構成されて、所与の鎖の全てのCDR内または両方の鎖の全てのCDR内に有益な変異の組合せを有するVLおよびVH鎖コード配列を提供する。
【0081】
変異のコンビナトリアルライブラリーは、参照によりその全てが本明細書に援用される、米国特許出願2003/005439A1および米国特許第6368861号、および(Stemmer WP(1994)Proc Natl Acad Sci 91(22):10747−51)に詳述されているような、既知の遺伝子シャッフリング法によって生成してもよい。この方法では、収集され混合された変異クローンの限定されたDNase I消化が行われ、それによって、様々な所定サイズ(例えば50〜250塩基対)の一組のランダム遺伝子断片を生成する。次いでこれらの断片を、最初に変性させ、次いで様々な個別の断片を、相同的相補領域をベースにして再び結合させる。この手法において、復元された断片は、種々の混合された変異CDRを、再結合されたセグメントに組み込むことができ、次いでこれを上述のSOE−PCRにより伸長させ、次いで再結合させたキメラは、最低限でも少なくとも、親DNAソースドナーのそれぞれから二組の有益なCDR混合変異を組み込むことができる。
【0082】
本発明を、限定するものと解釈すべきでない下記の実施例において、さらに例示する。
【実施例】
【0083】
この実施例全体を通し、他に特に指示しない限り、下記の材料および方法を使用した。
【0084】
材料および方法
一般に、本発明の実施に際しては、他に特に指示しない限り、当業者の範囲内でありかつ文献で説明されている従来の化学、分子生物学、組換えDNA技術、PCR技術、免疫学(特に、例えば抗体技術)、発現系(例えば無細胞発現、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、およびProfusion(商標))、および任意の必要な細胞培養の技法を用いる。例えば、Sambrook,FritschおよびManiatis,Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);DNA Cloning,第1および2巻(D.N.Glover編,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編,1984);PCR Handbook Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry,Beaucage編,John Wiley&Sons(1999)(編者);Oxford Handbook of Nucleic Acid Structure,Neidle編,Oxford Univ Press(1999);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Innis他,Academic Press(1990);PCR Essential Techniques:Essential Techniques,Burke編,John Wiley&Son Ltd(1996);The PCR Technique:RT−PCR,Siebert編,Eaton Pub.Co.(1998);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology),510,Paul,S.,Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169)McCafferty編,Irl Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow他,C.S.H.L.Press,Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology編.Ausubel他,John Wiley&Sons(1992);Large−Scale Mammalian Cell Culture Technology,Lubiniecki,A.編,Marcel Dekker,Pub.,(1990)Phage Display:A Laboratory Manual.C.Barbas(編),CSHL Press(2001);Antibody Phage Display,PO’Brien(編),Humana Press(2001);Border他,Yeast surface display for screening combinatorial polypeptide libraries,Nature Biotechnology,15(6):553−7(1997);Border他,Yeast surface display for directed evolution of protein expression,affinity,and stability,Methods Enzymol.,328:430−44(2000);Pluckthun他の米国特許第6348315号に記載されているリボソームディスプレイ、およびSzostak他の米国特許第6258558号;第6261804号;および第6214553号に記載されているProfusion(商標)を参照されたい。
【0085】
試験遺伝子の構成
オボアルブミン野生型Fab配列を、PCRおよび適切なプライマー(配列番号11および12)およびVHオリゴヌクレオチド(配列番号13〜14)を使用してscFvを構成するために、VLおよびVH部分(それぞれ配列番号1および2)の鋳型として使用した。PCR反応は、10uMオリゴヌクレオチドストックをそれぞれ2μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)0.5μl、Pfx緩衝液5μl、10mM dNTP 1μl、50mM MgSO4 1μl、ここで37.5μl のdH20を用い94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル、その後、68Cで5分間インキュベーション、からなった。オリゴヌクレオチドは、Syngen Inc.(San Carlos,CA)製の3900オリゴシンセサイザで合成された。
【0086】
次いで上記VLおよびVHPCR反応混合物を、個別に抽出し、精製し(Qiagen PCR精製キット、製造元の取扱説明書に従う)、各反応混合物の一定分量(1μl)を合わせて新しい試験管に入れた。VH逆方向オリゴヌクレオチド(配列番号14)の3’末端およびVL順方向オリゴヌクレオチド(配列番号11)の5’末端にリンカー配列を用いて、相補的結合は単一重複伸長PCR(SOE−PCR)アセンブリ反応を可能とし、それにより、完全長オボアルブミンscFvを生成した。オボアルブミンscFv PCR反応混合物を抽出し、精製して(Qiagen)、引き続きEcoR IおよびNot Iエンドヌクレアーゼ消化を行った(New England Biolabs、製造業者の指示に従う)。完全長オボアルブミンscFvをpYD1ベクターにサブクローニングし、配列決定して、上記PCRから変異、欠失、または挿入が導入されていない(配列暗号18)ことを確認する。配列が確認された後、完全長VHおよびVLオボアルブミンは、LTMライブラリーを構築する後続の戦略のため、野生型鋳型としての働きをする。
【0087】
追加のPCR条件およびプライマーの設計
T1およびT2 PCRに関する反応条件は、10uMオリゴヌクレオチド混合物を5μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートする。反応は、プログラム可能なサーモサイクラー(MJ Research)を使用して行う。T1およびT2 PCR反応をゲル精製し(Qiagen)、両方からの等モルの一定分量を合わせて、SOE−PCRにかけた。
【0088】
SOE−PCRは、制限部位、制限エンドヌクレアーゼ、またはDNAリガーゼを必要としない、DNA断片を組み合わせるための迅速で簡単な方法である。T1およびT2 PCR産物は、ハイブリダイズし完全長LTMオボアルブミンscFv遺伝子を生成する(図2および4)PCR伸長を可能にする末端重複相補配列を共有するように設計される(図4)。scFv PCR伸長反応は、T1およびT2の一定分量(それぞれ約2ul)と共に、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を用い94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を20サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートした。
【0089】
オボアルブミン末端特異的5’EcoR Iセンス(配列番号18)とオボアルブミン3’Not Iアンチセンスプライマー(配列番号19)との組を添加して、LTMオボアルブミン増幅と、制限酵素部位のPCR単位複製配列への取り込みとを促進させる(図4)。PCR伸長反応は、10uMオリゴヌクレオチドストックを4μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートした。
【0090】
酵母細胞発現ベクターpYD1へのPCR産物クローニング
抗オボアルブミンscFv発現用の受容プラスミドpYD1(図6)を、プラスミド精製(Qiagen)によりE.coli宿主から調製し、制限酵素EcoRIおよびNotIで消化し、最後に、子ウシ腸管アルカリホスファターゼで脱リン酸化した。pYD1ベクターと上記SOE−PCR産物(EcoRIおよびNotIにより消化された)とのライゲーションを、後続のE.coli(DH5α)形質転換の前に、標準的な技法を使用して行った。
【0091】
酵母細胞発現系
pYD1(図6)は、サッカロミセスセレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)の細胞外表面に、興味のあるタンパク質を表示するように設計された発現ベクターである。scFv遺伝子をpYD1にサブクローニングすることによって、scFvは、AGA2凝集素受容体との融合タンパク質になり、細胞表面の分泌および表示が可能になる。
【0092】
pYD1 AGA2−scFv構成体による酵母宿主細胞の形質転換
コンピテント酵母宿主細胞(500μl)を、製造業者の取扱説明書に従って(Zymo Research Frozen−EZ Yeast Kit)調製した。手短に言うと、コンピテント細胞500μlを、10〜15μgのpYPD1 scFvライブラリーDNAと混合し、その後、EZ3溶液5mlを添加した。次いで細胞混合物を、時々(3回)混合しながら、30℃で45分間インキュベートした。形質転換した細胞を遠心分離にかけ、グルコース選択培地(Invitrogen)中に再懸濁した。
【0093】
AGA2−scFvの誘導
細胞を、OD600=7(OD600=1は、107細胞/mlを表す)になるまで48時間、振盪および脱気の条件下、30℃のグルコース選択培地中で成長させた後に誘導した。詳細には、細胞を収集し、20℃で48時間経過後にOD600=0.9に達するまで、ガラクトース選択/誘導培地(Invitrogen)中に再懸濁した。pYD1からのAga2−scFv融合タンパク質の発現は、GAL1プロモーターによって厳密に調節され、これは、GAL1プロモーター誘導用の培地中で利用可能なガラクトースに依存された。
【0094】
ビオチニル化オボアルブミン調製
標的抗原オボアルブミンのビオチニル化を、製造業者の取扱説明書(Molecular Probes FluoReporter Biotin−XX Labeling Kit(カタログ#F−2610))に従って実施した。簡単に言うと、1mg/mlストック(Sigma)のオボアルブミン300μlを、pH8.3の1M重炭酸ナトリウム緩衝液30μlおよびビオチン−XX溶液5.8μl(20mg/ml、DMSO中ビオチン−XX溶液)に添加した。次いで混合物を、25℃で1時間インキュベートし、ミクロンフィルター管に移し、遠心分離にかけ、タンパク質濃度をOD280での吸光度により決定した。
【0095】
AGA2−scFv発現およびオボアルブミン結合のFACSモニタリング
scFv構成体の誘導および発現をモニタするために、培地からの一定分量の酵母細胞(40μl中、8×105細胞)を、2300rpmで5分間遠心分離することによって収集した。上澄み液を吸引し、次いで細胞ペレットを、200μlの氷冷PBS/BSA緩衝液(PBS/BSA 0.5%w/v)で洗浄した。細胞を再びペレット化し、上澄みを除去し、その後、ビオチニル化オボアルブミンを含有する(200nM)緩衝液100μl中に再懸濁した。細胞を、20℃の45分間放置してオボアルブミンを結合させ、その後、PBS/BSA緩衝液で2回洗浄し、その後、ストレプトアビジン−FITC(2mg/L)を添加して、これと共に氷上で30分間インキュベートした。緩衝液中で洗浄する別のステップを実施し、その後PBS/BSA中に400μlの体積で最後に再懸濁させた。次いで細胞を、CellQuestソフトウェアパッケージを使用してFACSスキャン(Becton Dickinson)で分析した。
【0096】
(実施例1)
高親和性抗体の開発のための改善されたルックスルー変異誘発
この実施例では、例示的なscFv抗体の、改善されたルックスルー変異誘発について述べる。
【0097】
簡単に言うと、改善されたルックスルー変異誘発(LTM)を使用して、選択された抗原との結合親和性を強化する抗体のVHおよびVLCDR領域内のVHおよびVLCDR変異を特定し、すなわち結合活性を与える機能的アミノ酸残基(位置)またはホットスポットを特定した。改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)の目的は、ポリペプチドのある領域、例えば可変抗体鎖のCDR領域において、標的位置で選択された置換を導入することである。最初に、VHおよびVL鎖の両方に関するコーディングライブラリーを構成した。参照抗オボアルブミン抗体VLおよびVH鎖のアミノ酸配列が特定され(配列番号3〜4参照)、配列番号5、6および7によってそれぞれ特定された抗オボアルブミンVH鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3領域に関する開始配列のライブラリーと、配列番号8、9、および10によって特定されたVL鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3領域に関する開始配列ライブラリーを選択した。さらに、VHまたはVLコード配列ライブラリーのそれぞれは、選択された鎖において1つ、2つ、または3つ全てのCDRで選択された代表的な機能的アミノ酸に関する変異を含む。
【0098】
オボアルブミン野生型VHセクションSLEWIG−DINPSNGYTIYNQKFKG−FKGKATLからの、VHCDR2セグメントの所定のアミノ酸DINPSNGYTIYNQKFKG(位置56〜69)が、分析用に選択された。ポリペプチド配列SLEWIGおよびKATLTVDは、それぞれVHCDR2に隣接するVHフレームワーク2および3の部分である。VHおよびVLCDR LTMオリゴヌクレオチドの設計および合成では、隣接するフレームワーク配列の長さが約21塩基対であることが、相補的重複およびSOE−PCRを可能にする。フランキングVH2およびVH3部分(下記の小文字)を含んだ上記CDR−H2野生型配列(太字)(配列番号16)をコードする参照オリゴヌクレオチドを、以下に示す。
5’−agc ctt gag tgg att gga−GAT ATT AAT CCT AGC AAT GGT TAT ACT ATC TAC AAC CAG AAG TTC AAG GGC−ttc aag ggc aag gcc aca ttg−3’
【0099】
VHCDR2のロイシンLTMでは、CDR2位置の全てまたは複数において、一度に1つのロイシンだけを逐次置換する。図3は、抗オボアルブミンscFvのVHCDR2領域内の14残基(位置56〜69)のそれぞれに、ロイシンアミノ酸を導入するための、LTMの適用例を示す。ロイシンLTMを実施する際、全ての可能なVHCDR2ロイシン位置的変種をコードする14の個別のオリゴヌクレオチド、このそれぞれが、抗オボアルブミン野生型配列に隣接した1つのロイシン置換コドン(太字)だけを有するものを、合成した(配列番号17〜33)。次いで合計で14の異なるペプチドを生成し、「望ましくない」かまたは複数の置換を持つ配列は生成しない。
【0100】
「複数の位置」にロイシンを導入することに対する代わりで、上記CDR2 LTMオリゴヌクレオチドの1つまたは複数を含まないことを選択することができる。したがって、例えば位置59および60のそれぞれに関するLTMオリゴヌクレオチド(配列番号20および21)を除外することができ、そのため改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)は、位置56〜58および61〜69でのみ行うことができる。「複数の位置」を使用する種々の組合せに基づいて、LTM2の置換を、必ずしもCDR内のそれぞれおよび全ての位置に制限することなく、実施することができる。
【0101】
LTM CDR2ライブラリーを作成する手法を、図2および4にまとめる。個別のPCR反応、T1およびT2は、プライマー対、FR1センス(配列番号34)およびFR2アンチセンス(配列番号35)と、FR4アンチセンスプライマー(配列番号36)を持つ上記プールされたCDR−2LTMロイシンオリゴヌクレオチド(配列番号18〜33)をそれぞれ使用して実施する。プライマーFR1センスは、オボアルブミン遺伝子の5’末端からの配列を含有し、FR2アンチセンスは、オボアルブミンフレームワーク2の3’末端からのアンチセンス配列を含有し、その結果、オボアルブミンCDR1、フレームワーク領域1および2は、T1 PCR反応で増幅されるようになった(図2Aおよび2B)。プライマーFR4 ASは、オボアルブミン遺伝子の3’末端からのアンチセンス配列を含有し、CDR2 LTMオリゴヌクレオチドは、組み込まれたCDR2 LTMコドン変異を持つオボアルブミンCDR2領域の5’末端からの配列を含有し、それにより、オボアルブミンの残りの部分(断片CDR2、FR3、CDR3、FR4、および全VLセグメント)を増幅し、それと同時に変異誘発性コドンを組み込む。
【0102】
2重および3重のCDR変異(CDR1、2、および3の種々の組合せ)を、PCR鋳型として野生型オボアルブミン遺伝子を使用する代わりに上述のように生成し、前もって生成されたLTMオボアルブミンライブラリーを選択した。例えば、CDR1とCDR2の両方が野生型CDR3およびVLセグメントにより変異しているVH鎖を生成するために、前もって構成されたLTM CDR2変異体遺伝子を鋳型として使用し、次いでSOE−PCRを実施してCDR1オリゴヌクレオチドを取り込み、それによって2重LTM変異を生成した(図2および4にまとめた)。
【0103】
この実施例では、T3 PCR反応で、プライマー対 FR1センス(配列番号34)およびFR5アンチセンス(配列番号37)を使用して、フレームワーク領域1(FR1)を増幅させた。T4 PCR反応では、プールされたCDR1 LTMヒスチジンオリゴヌクレオチド(配列番号38〜41)をFR4アンチセンスプライマー(配列番号36)と共に使用して、オボアルブミンの残りのFR2、CDR2 LTM、FR3、CDR3、FR4、およびVL部分を増幅した(図4)。次いでT3およびT4 PCR反応混合物を精製し、両方からの等モルの一定分量を合わせてSOE−PCRにかけ(図4)、それによって、オボアルブミンscFv His CDR1およびLeu CDR2 2重LTMライブラリーを生成した。次いでオボアルブミン末端特異的5’Eco RIセンス(配列番号13)およびオボアルブミン3’Notlアンチセンスプライマー(配列番号12)の組を添加して、LTMオボアルブミン増幅およびpYPD1発現ベクターへのクローニングを促進させた。
【0104】
次いでHis CDR1およびLeu CDR2の2重LTMライブラリーを鋳型として使用して、さらにLTM CDR3オリゴヌクレオチドを組込み、それによって3重CDR LTMライブラリーを作成した。開始単一および2重LTMライブラリーを漸進的に利用することにより、VHおよびVLCDRの両方におけるLTMライブラリーの組合せのより複雑な配列を発生させた。例えば、図5の最上段の111ライブラリー鋳型として設計されるように、VH3重LTM CDR1、CDR2、およびCDR3ライブラリーを構成したら、LTM VLCDR1をVH111鋳型に導入することによって、4つのLTM CDRのライブラリーが生成される(図5)。
【0105】
図7に示されるFACSプロットは、オボアルブミンscFv結合分子が、前述のライブラリーの構成中に生成されたことを示す。特に、ビオチニル化オボアルブミンとストレプトアビジンFITCの分子は(「グリーン」の線)、ビオチニル化オボアルブミンおよびストレプトアビジンFITCを持つ空のベクターpYD1からのシグナル(濃い斜線部分)に比べて一桁大きいピークシグナル応答をもたらした。
【0106】
(実施例2)
強化された特性を持つ抗体の開発に関する、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化された特性を持つ例示的な単鎖抗体の、高スループットスクリーニングについて述べる。
【0107】
図9は、不均一なLTM2 scFvライブラリーからのオボアルブミン特異的高親和性結合クローンを豊富にするための、一般化したスキームを示す。ガラクトース培地に導入した後、酵母細胞ライブラリー(107)をPBS/BSA緩衝液(合計で500μl)中に再懸濁した。ビオチニル化オボアルブミンを、酵母懸濁液に添加して、最終濃度を50nMにし、振盪させながら2〜3時間、25℃でインキュベートした。酵母細胞をペレット化し、3回洗浄し、300μlの氷冷PBS/BSA緩衝液で再懸濁し、そこに1×108のストレプトアビジンで被覆した磁気ビーズを添加した。ビーズ細胞混合物を、逆さにすることによって穏かに混合しながら2分間、氷上でインキュベートし、それによって、酵母高親和性scFv発現細胞と、ビオチニル化オボアルブミンと、ストレプトアビジンで被覆された磁気ビーズとからなる結合複合体を形成した。次いで結合複合体を入れたカラム(試験管)を磁気カラムホルダに2分間装着し、その後、吸引によって上澄みを除去した。カラムを磁気ホルダから取り外し、300μlの氷冷PBS/BSAを添加して、結合体を再懸濁した。低親和性のこれらscFvクローンおよびその他の非特異的結合細胞を除去するために、結合複合体を再び洗浄した。
【0108】
次いでカラムを磁気ホルダから取り外し、その後すぐに、グルコース選択培地1mlを回収された酵母細胞に添加し、30℃で4時間インキュベートした。次いで磁気ホルダを、培養管に再び装着して、残りの磁気ビーズを全て除去した。次いで酵母培養物を、グルコース選択培地中で、30℃で48時間成長させた後、scFvをガラクトース選択培地に導入した。2回目の選択ステップでは、次いでオボアルブミン濃度を10nMから0.5nMに低下させた。オボアルブミン結合、複合体形成、酵母細胞の濃縮および再成長を、上述のように行った。最終的な3回目の選択ステップでは、オボアルブミン濃度をさらに0.1nMまで低下させた。
【0109】
上記漸進的な濃縮ステップからのオボアルブミンEC50結合または「適応度」を、FACSによって評価した(図8参照)。図8に示される結果は、前もって選択がなされていない(閉じた円)、最初に形質転換されたVHLTM CDR2酵母ライブラリー、ならびに結合剤のパーセントで表された全適応度(y軸)を示している。機能的抗オボアルブミンscFvを発現するクローンおよびそれらの親和性は、オボアルブミンEC50(x軸)により測定されるように、抗オボアルブミン野生型抗体に比べて劣っていた。しかし、1回目の選択ステップの後(10nM)、「適応度」曲線(薄い三角形)は、その結合剤のパーセントが改善しており、オボアルブミン結合のEC50は、オボアルブミン野生型と同じnM範囲内であった。2回目の選択ステップの後(0.1nM)、濃縮された集団(濃い三角形)は、その全「適応度」が、オボアルブミン野生型の場合(ベタ塗りの四角形)に近付いていることを示した(図10)。次いで個々の結合分析および配列決定用の単一のクローンを単離するために、第2の濃縮ステップから回収された酵母細胞を、固体培地上に置いた。
【0110】
代替の方法では、LTM2酵母細胞ライブラリーを、FACSによって、高親和性抗オボアルブミンscFvクローン用に濃縮した。ライブラリーの構成、形質変換、液体培地増殖、および誘導は、上述のように実施した。scFv誘導の後、細胞を、飽和濃度(400nM)のビオチニル化オボアルブミンと共に、25℃で3時間インキュベートした。細胞を洗浄した後、25℃の非標識のオボアルブミン(1uM)を使用して、40時間の低温追跡を行った。次いで細胞を、PBS/BSA緩衝液で2回洗浄し、ストレプトアビジンPE(2mg/ml)抗−HIS−FITC(25nM)で30分間、氷上で標識し、洗浄し、FACS分析に関して既に述べたように再懸濁した。
【0111】
野生型抗オボアルブミンを、最初にFACS分析して、酵母LTMライブラリーのFACS選別用に参照シグナルパターンを生成した(図8、左パネル)。オボアルブミンFACSプロットから、選択ゲート(R1台形)は、scFv融合を発現し(抗−HIS−FITCにより検出される)かつそれに付随して野生型抗オボアルブミンよりもオボアルブミンに対して高い親和性を表示する(より強力なPEシグナル)クローンだけが得られるように描かれた。図8(中央パネル)は、スクリーニングされた全LTMライブラリーの約5%が、R1ゲートによって選択されることを明示する。これらの高抗アルブミンscFvクローンをFACSにより収集した後、選別後FACS分析(図8、右パネル)を実施して、プレスクリーン抗オボアルブミンscFvクローンの>80%が所定の基準以内であることを確認した。次いでFACSにより選別されたscFvクローンを、30℃のグルコース選択培地中で48時間成長させ、固体培地上に蒔いて、個々のクローンを単離した。次いでクローンを、グルコース選択培地中で成長させ、ガラクトース選択培地中に再懸濁し、EC50および/またはkoff特性に関して分析した。
【0112】
(実施例3)
改善されたKoff率を持つ抗体の開発のための、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化されたKoff率を持つ、例示的な単鎖抗体の高スループットスクリーニングについて述べる。
【0113】
簡単に言うと、上記実施例から事前に選別されたクローンを、グルコース選択培地中で一晩成長させ、次いで固体培地上に置いて、単コロニーを単離した。単コロニーから、48時間振盪させながら30℃のグルコース選択培地中でクローンの液体培養物を成長させ、その後ペレット化し、ガラクトース選択培地中に適切なOD時間にわたり再懸濁させた。FACSによる事前選別では濃度が高まるが(約80%)、全ての望ましくないクローンはなくならないので、単離されたクローンのEC50は、抗オボアルブミン野生型参照抗体(上述の)よりも劣る結合値を表示するものをなくすと特徴付けられた。次いで、同等のまたは優れたEC50値を持つ単離物だけを、さらなるKoff分析用に選択した。
【0114】
候補分子の動態を分析するためのスキームを、図11に示す。具体的には、ガラクトース選択培地中に誘導後の酵母細胞(約5×106)をペレット化し、PBS/BSA緩衝液(1ml)中に再懸濁した。次いでビオチニル化したオボアルブミン(400nM最終濃度)を、再懸濁した細胞に添加し、連続して穏かに混合しながら25℃で2時間インキュベートした。次いでビオチニル化オボアルブミンと酵母細胞との複合体を洗浄し、PBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、次いで非標識のオボアルブミンを酵母細胞混合物に添加して(最終濃度1μMに)、これをさらに25℃で24時間インキュベートした。次いで次の24時間では、2時間ごとに、定期的にサンプルの一定分量を採取した。次いで細胞混合物を洗浄し、冷却したPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、抗体α−SAPE(2μg/ml)を染色した。定期的に混合しながら氷上で30分間インキュベートした後、細胞混合物を2回洗浄し、上述のようにFACSにより分析した。
【0115】
Koffアッセイからの結果(図12)は、2種のクローン(すなわち3ss−35;3ss−30)が、野生型抗オボアルブミン抗体に比べてより高い相対Koffを有することを実証した。言い換えると、結合したビオチニル化オボアルブミンを、24時間のサンプリング期間中に非標識オボアルブミンと交換する場合、3ss−35および3ss−30は、最初の8時間にわたってMFI(平均蛍光強度)が非常に急激に低下することを示す抗オボアルブミン野生型(四角、図12)に比べて、前に結合したビオチニル化オボアルブミンを非常に遅い速度で放出した(図12中、それぞれ円および三角形)。
【0116】
(実施例4)
改善されたEC50結合を持つ抗体の開発に関する、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化されたEC50結合活性を持つ、例示的な単鎖抗体の高スループットスクリーニングについて述べる。
【0117】
簡単に言うと、所定量の酵母細胞(40μl中、8×105細胞)抗オボアルブミンscFv(野生型およびLTMライブラリー)を、1:4の連続希釈のビオチニル化オボアルブミン(200nM、50nM、12.5nM、3.1nM、0.78nM、および0.19nM最終濃度、合計体積は80μl)と共に、20℃で45分間インキュベートした後、氷上に5〜10分間置いた。次いで酵母細胞を洗浄し、5mlのPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、その後、ストレプトアビジン−PE(2mg/ml)およびαHIS−FITC(25nM)を添加して、氷上での30分間のインキュベーション中に細胞を標識した。もう1回洗浄を行った後、400μlのPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、CellQuestソフトウェアを使用したFACSスキャンで分析をした。
【0118】
図13は、より低いEC50値を有する、抗オボアルブミンに比べて改善されたクローンの一部を例示する(結合曲線は、野生型よりも左にシフトしている)。抗オボアルブミン野生型と比べたときの、これらの相対EC50値と、何倍増加したかが示されている。例えばクローンH3 S101Qは、オボアルブミン結合が2.1倍改善されたことを示した。このクローンH3 S101Qの名称表示は、VHCDR3グルタミンLTM単一ライブラリーから得たものであることを示している。
【0119】
生成された、結果的に得られる強化された結合親和性抗体は、強化された結合活性に関連付けられた抗オボアルブミン抗体のVHおよびVLCDRにおける有益なアミノ酸変異のマップを提供する。強化型親和性scFv抗体に関連した推定上の個々のアミノ酸VHおよびVLCDR変異を、図13に示す。変異は、VHおよびVLCDR、単一、2重、および3重CDR変異のそれぞれに見出され、試験がなされた9種の異なるアミノ酸のそれぞれを含む。図13は、上記EC50および/または動態(Koff)スクリーンから特定された4種の独立のVHCDR−H3 H3 G102Kクローンを回収できることを例示する。EC50スクリーン(図14)からの2重LTM VLL1L2 S166H S193H変異体も、これら2種のCDR1 S166H置換とCDR2 S193H置換との間に相乗効果があるときに、強化されたオボアルブミン結合が生ずることを示している。
【0120】
結果は、VHまたはVL鎖の1つ、2つ、または3つ全てのCDRに単一変異を含有するコード配列を使用して上記EC50および/またはKoff法に基づき選択された、scFv抗オボアルブミン抗体の独自の配列を得ることができることも示す(図14参照)。アミノ酸置換のいくつかは、あるCDR内では、より高い優位性で回収されることがわかった。例えばVHCDR1の場合、7つの独立した単一Lys置換が、D30K、Y31K、M33K、およびW35Kの位置にあった。CDR1内でのLysの高い優位性は、抗原接触中にCDR1から与えられる正電荷の純増があるときに、強化されたオボアルブミン結合が生ずることを示している。回復されたアミノ酸置換の試験は、VHCDR2およびCDR3に好ましい置換が生ずることも明らかにした。例えば、複数の散乱したLys置換はCDR2に生ずるが、CDR3は、濃度が高められたG102KおよびG104K置換を表示することが観察された。結果はさらに、複数のGln置換、別の極性アミノ酸が、位置107、108、109、および111でCDR3に存在したことも明らかにしている。これらの結果は、これらの置換されたCDR残基に接触するオボアルブミン上に、対応する負および/または親水性電荷の独自の「化学モチーフ」があることを示す。
【0121】
したがって、試験がなされた9種の異なるアミノ酸のそれぞれによる、全てのCDRの変異誘発後に各CDR内で回復された強化型抗原結合変異を配列し、結果を図14に示す。各CDRは、変異が見出されない少なくとも1つの位置、例えばVHCDR2内のIle57、Asn58、およびGly62の位置、VHCDR3領域の位置Tyr103、Ser105、Arg106、およびAla121を表示することも決定した。VL位置の場合、CDR1のR164、A165、V169、およびN174、CDR2のN194、CDR3のE208およびD209は、大規模なスクリーニングの後に置換されないことがわかった。これらの結果は、「ホットスポット」置換位置および上述のように回復された任意のタイプの好ましいアミノ酸に加え、「コールドスポット」CDR位置もあることを示している。「コールドスポット」位置は、置換のいずれかが、抗原結合の利点を与えずまたは劣っている結合特性を与えることを示す。
【0122】
(実施例5)
コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発を実施するための方法
この実施例では、コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発を実施するための方法について述べる。
【0123】
簡単に言うと、この方法は、LTMを使用して見出された有益な変異を取り込み、これらを一緒に組み合わせて単一のライブラリーにする。したがって、複数の変異の相乗効果をこのプロセスで模索することができる。このコンビナトリアル手法は、CDR内で選択されたコドン置換が、LTMによって特定された種々の有益なアミノ酸置換であること以外、WTM法に似ている。したがって、抗体CDR内の全ての残基位置が変異を含有するわけではなく、いくつかの位置が、その位置で置換された複数の異なるアミノ酸を有することになる。全体として、CDRまたは抗体鎖中の、全てではないとしても多くの有益な変異の組合せは、ライブラリー内のコード配列の少なくとも1つにより表されることになる。以下に示すように、このコード配列ライブラリーは、可変コード領域内のそれぞれの異なる位置で単一アミノ酸に複数のコドンを配置する代わりに、導入されたコドンがLTM法で検出された全ての有益な変異に対応するものであること以外、WTM法の修正によって作成することができる。
【0124】
この実施例では、コンビナトリアルベネフィシャル重鎖CDR1ライブラリーを、図14に記載される改善された抗オボアルブミン変種を使用して構成する。第1のアミノ酸位置30は、Asp(野生型)およびLysを(最低でも)コードし、位置31はTyrおよびLysを、位置32はAsnおよびTyrを、位置33はMet、His、およびLysを、位置34はAspおよびProを、位置35はTrpおよびLysをコードする。DNA配列は、LTM分析により特定されたコンビナトリアルベネフィシャル変異を取り込む変性CDR1オリゴヌクレオチドによって表される(表1)。
【0125】
【表1】
【0126】
同様のプロセスを、全てのCDRループで実施して、6−CDRベネフィシャルライブラリーを生成することができ、またはサブライブラリーを生成し、これらを組み合わせてスクリーニングすることができる。例えばライブラリーのサイズが、単一のライブラリー内でスクリーニングするには大きすぎる場合、より小さいサブライブラリーを生成することができる。例えば、3−CDR重鎖ライブラリーおよび3−CDR軽鎖ライブラリーを、より高い効率のために生成することができる。スクリーニング後、重鎖および軽鎖ライブラリーの有益な変異をさらに組み合わせて、適切なループ内に変異を取り込んだ単一ライブラリーにすることができる。
【0127】
均等物
当業者なら、本明細書に記述される本発明の特定の実施形態に関する多くの均等物を理解するであろうし、またはこれら均等物を、日常的な試験しか使用せずに確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】より有益な一部の候補分子が得られかつスクリーニングされるように、機能的アミノ酸が非機能的アミノ酸とは区別される、LTMにも勝って改善されたLTM(LTM2)の利点を示す図である。
【図2】より大きい遺伝子のコンテキストに、機能的アミノ酸残基を特定する抗体重鎖および軽鎖の規定の領域を構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するための概略的手法を示す図である。
【図3】合成単鎖抗体(scFv)抗オボアルブミン遺伝子コンテキスト内の、可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)CDRの配列を示す図である。LTMの適用例では、ロイシンアミノ酸を、抗体のVHCDR2内の14の残基56〜69のそれぞれに導入する。LTM2の適用例に関しては、機能的であることが確認されたものだけを、変異誘発によってさらに探索する。
【図4】LTM VHCDR2ライブラリーの生成、多数のLTM VHCDRライブラリーの生成、VHおよびVLCDRの両方を含むLTMライブラリーの組合せのアレイのための、単一オーバーラップ伸長ポリメラーゼ連鎖反応(SOE−PCR)を示す図である。
【図5】本発明のライブラリーの多様性を示す図であり、この行列のx軸およびy軸は、軽鎖および重鎖のそれぞれのCDRを表し、ただし「0」は野生型CDRを示し、「1」は変異したCDRを示し、交差点にある数は、得られるサブセットライブラリーの複雑さを表す(例えば4は、4つのCDRが同時に変異することを意味する)。
【図6】機能(表現型)および対応するコード配列(遺伝子型)の効率的な特定のため、酵母表面の対象のタンパク質、例えば本発明のポリペプチド類似体を表示するための、酵母発現ベクターの概略を示す図である。
【図7】ビオチニル化オボアルブミンおよびストレプトアビジンFITCと野生型抗オボアルブミンscFvとの結合(灰色の線)、pYD1ベクター単独(忠実な灰色領域)、および対照scFv(黒線)の、蛍光活性化セルソータ(FACS(商標))によるプロットを示す図である。
【図8】プレスクリーン抗オボアルブミンscFvクローンの>80%が所定の基準内にあることを確認するための、抗オボアルブミン野生型抗体(左パネル)、全LTMライブラリーの結合親和性の分布(中央パネル)、および選別後FACS分析(右パネル)よりも、オボアルブミンに対してより高い結合親和性を持つscFv融合を発現するこれらLTMクローンのみを特定するための選択ゲート(R1台形)を示す、蛍光活性化セルソータ(FACS(商標))によるプロットを示す図である。
【図9】平衡結合動態に基づいて改善される結合親和性のために(例えばオボアルブミンに対して)、本発明に従って形成されるscFv抗体(例えば抗オボアルブミン)をスクリーニングするステップを示す図である。
【図10】選択前(円)、選択の一巡後(薄い三角形)、選択の二巡後(濃い三角形)の、抗オボアルブミンscFv発現細胞と、抗オボアルブミン野生型参照抗体(黒い四角)とに関する平衡結合曲線を示す図である。
【図11】試験抗原オボアルブミンを使用して、特定の結合動態、例えば抗体Koff定数に基づく高い結合親和性に関して本発明により形成された抗体をスクリーニングするための、典型的なステップを示す図である。
【図12】本発明の方法を使用する、2つのクローンにおいて強化された特性(すなわち、参照抗体(四角)に比べてより高い相対Koff)の確認を示す図である。
【図13】抗オボアルブミン野生型参照抗体対照(四角)よりも低いEC50値を有する、改善されたクローンのサブセットの、強化された特性(野生型よりも良好な倍率参照)を示す図である。
【図14】例示的な抗体の機能的(ホットスポット)および非機能的(コールドスポット)アミノ酸位置を表すマトリックスを示す図である。平衡結合(EC50)および/または動態結合実験に基づき強化された親和性(参照野生型抗体に比べて)に伴う変異は、VHおよびVLCDR位置のそれぞれの下に示されている。
【技術分野】
【0001】
関連情報
下記の明細書全体を通して引用されるその他の特許、特許出願、および参考文献の全ての内容全体も、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
変異誘発は、タンパク質の構造および機能の研究において、強力な手段である。変異誘発は、興味あるタンパク質をコードするクローンされた遺伝子のヌクレオチド配列中で行うことができ、修飾された遺伝子を発現、タンパク質の変異体を生成することができる。野生型タンパク質と、生成した変異体とを特性について比較することにより、結合活性および/または触媒活性などのタンパク質の構造的完全性および/または生化学的機能に本質的な、個々のアミノ酸またはアミノ酸のドメインを同定することがしばしば可能である。しかし、単一のタンパク質から生成することができる変異体の数は、その変異を包含する選択された変異体が単に推定上重要なタンパク質の領域(例えば、タンパク質の活性部位を構成する領域)であるとしても、情報価値がありまたは所望の特性を有する変異体の選択を困難にする。例えば、特定のアミノ酸の置換、欠失、または挿入は、タンパク質に対して局所的または全体的な効果を及ぼす可能性がある。
【0003】
ポリペプチドを変異誘発するための以前の方法は、非常に制限的であり、非常に包括的であり、あるいは、機能を増大させまたは改善するのではなくてタンパク質の機能をノックアウトすることに限定されていた。例えば、非常に制限的な手法は、特定機能部位の存在を確認しまたは機能部位内に非常に特異的な変化を生じさせた結果を理解するのに使用される、選択的または部位特異的変異誘発である。部位特異的変異誘発の一般的な適用例は、通常はリン酸化されてポリペプチドにその機能を発揮させるアミノ酸残基を変化させて、リン酸化と機能的活性との関連を確認するリンタンパク質の研究におけるものである。この手法は、ポリペプチドおよび研究される残基に非常に特異的である。
【0004】
反対に、非常に包括的な手法は、遺伝子またはタンパク質の画定された領域内で可能な全ての変化を包含する、多数の変異をもたらすように設計された、飽和またはランダム変異誘発である。これは、関連あるタンパク質ドメインの本質的に全ての可能な変種を発生させることによって、適正なアミノ酸配列が、ランダムに発生した変異体の1つとして生成され易くなるという原理に基づいている。しかし実際には、非常に多くの望ましくない候補のいわゆる「ノイズ」が存在するので、発生した変異の膨大な数のランダムな組合せによって所望の候補を有意に選択する能力が妨げられる可能性がある。
【0005】
「ウォークスルー」変異誘発とも呼ばれる別の手法(例えば、米国特許第5830650号、第5798208号参照)は、統計的に所望の組の変異を含む変性オリゴヌクレオチドの混合物を合成することによって、ポリペプチドの規定の領域を変異誘発させるのに使用されている。しかし、変性ポリヌクレオチド合成が用いられるので、ウォークスルー変異誘発は、所望の組の変異の他にいくつかの望ましくない変化をもたらす。例えば、わずか5つのアミノ酸部位の規定の領域全体にわたって変異を順次導入するには、100個を上回るポリヌクレオチドのセットを作製し、(そしてスクリーニングし)なければならない(例えば図6参照)。したがって、例えば2つまたは3つの領域を作製しスクリーニングすることは徐々に複雑になり、すなわちわずか10から15の変異の存在のためには、それぞれ200から300を上回るポリヌクレオチドを作製しスクリーニングすることが必要になる。
【0006】
タンパク質の変異誘発に使用されてきたさらに別の手法には、アラニンスキャンニング変異誘発があり、タンパク質の機能が妨げられる部位を特定するために、タンパク質の一部を通してアラニン残基を「スキャン」する。しかしこの手法は、機能を増大させまたは改善するのではなく、所与の部位の中性アラニン残基の置換によるタンパク質機能の損失しか見ない。したがって、改善された構造および機能を有するタンパク質を生成するのに有用な手法ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、新しいまたは改善された機能を目的としてタンパク質を変異誘発させる系統立った方法が、依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、新規なまたは改善されたタンパク質(またはポリペプチド)を生成するための変異誘発の方法と、この方法によって生成されたポリペプチド類似体および特異的ポリペプチドのライブラリーに関する。変異誘発を目標にしたポリペプチドは、断片、類似体、およびこれらの変異体形態を含めた天然、合成、または設計製作されたポリペプチドにすることができる。
【0009】
一実施形態では、この方法は、ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域(またはいくつかの異なる領域)内の本質的に全ての位置に、所定のアミノ酸を導入するステップを含む。個別には1個の所定のアミノ酸しか持たないが、一まとめにした場合は規定の領域内の全ての位置に所定のアミノ酸を有するポリペプチド類似体を含んだポリペプチドライブラリーを生成する。事実上、単一の所定のアミノ酸(および所定のアミノ酸だけ)は、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域全体を通して位置ごとに置換されるので、単にこの方法を「ルックスルー」変異誘発を呼ぶことができる。
【0010】
しかし、好ましい実施形態では、このLTM法は、ポリペプチド内の所望の特性をスクリーニングしかつ得るために変化させる残基の数をさらに減少させるため、ポリペプチドまたはその一部の機能的アミノ酸(またはいわゆる「ホットスポット」)を非機能的アミノ酸(またはいわゆる「コールドスポット」)から識別するのに使用することにより改善される。したがって、改善されたルックスルー変異誘発(LTM)の方法(以下、改善されたLTMをLTM2と呼ぶ)によれば、後にいかなる「ノイズ」もなく効率的にスクリーニングすることができるポリペプチド内の、最も関連ある機能的変化だけを表す候補分子の一部を、特定し構築することが可能になる。重要なことは、LTM2は、この方法がポリペプチドの機能に対して最も効果を発揮すると考えられるポリペプチドのアミノ酸配列の変化だけを含むように設計されており、したがってスクリーニングによって、強化された特性を有する変性ポリペプチドが得られるので、伝統的なライブラリーを凌ぐ優れた利点を有するLTM2ライブラリーの構成を可能にすることである。したがって、LTM2は、ポリペプチドの規定の領域内の各機能的アミノ酸部位で、所定のアミノ酸を別々に置換する構造的および機能的結果を「ルックスルー」することを可能とし、それによって、規定の領域に特異的なタンパク質の化学的特性は、望ましくないポリペプチド類似体(すなわち、LTM2スキームに従うもの以外のアミノ酸置換を含有する類似体)の生成からのいかなる干渉や「ノイズ」からも切り離される(例えば、図1参照)。
【0011】
したがって本発明は、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域における特異的アミノ酸変化の役割の、非常に効率的かつ正確な系統的評価が可能とする。これは、必要とされるポリペプチド類似体の数が大幅に増加するように、したがって望ましくない類似体の存在も増加するように、2つ以上の規定の領域を(変異させることによって)評価する場合に特に重要になる。本発明は、この問題を、望ましくない類似体を完全になくすことによって、したがって観察されるタンパク質構造または機能のあらゆる変化が所定のアミノ酸の置換以外の結果であるという可能性をなくすことによって、未然に防ぐ。このように、タンパク質の同等の多数の領域に、特異的なタンパク質の化学的特性を切り離す効果は、高い精度および効率で研究されることができる。これは、変異誘発がそのような領域の相互作用にどのように影響するのか研究し、それによってタンパク質の全体的な構造および機能を改善することを含むことが重要である。
【0012】
本発明の特定の実施形態では、本発明の方法は、1つまたは複数の機能的アミノ酸残基または位置にマッピングされる特定の化学モチーフを特定するのに適切である。そのような化学モチーフに寄与するアミノ酸残基は、1つまたは複数のCDR領域内でかつ/あるいは1つまたは複数のポリペプチド内で、例えば抗体重鎖および軽鎖内で、近接したまたは近接していない1つまたは複数の位置で生ずることができる。本発明の方法は、選択されたアミノ酸位置または規定の領域での関連あるアミノ酸の化学的特性の系統的試験(または化学的プロファイリング)を可能にするので、化学モチーフをさらに探索することを可能にする。したがって、一実施形態では、本発明は、所望の化学的特性を特定し、次いで強化された特性を実現するためにまたは有害な特性を除去するために、関連したまたは関連していない化学的特性を組み込んだ結果を検討するための方法を提供する。本発明の方法によるプロファイリングに適した典型的なアミノ酸側鎖の化学的特性は、極性である、正に帯電した、負に帯電した、疎水性であるアミノ酸側鎖の化学的特性である。一実施形態では、荷電化学物質は、選択されたアミノ酸残基、位置、または規定の領域での定住物であることが確認され、その他の荷電アミノ酸は、測定可能な特性の変化が実現されるように、親アミノ酸の代わりに使用する。好ましい実施形態では、測定可能な特性の変化は、抗体の強化された特性であり、例えば、改善された抗原結合またはエフェクター機能である。
【0013】
したがって、本発明は、改善された特性を持つ抗体の効率的なスクリーニングのために、例えば関連する化学的特性を有する選択されたアミノ酸位置/規定の領域に導入された、関連するアミノ酸側基の化学的特性を含んだ抗体ライブラリーも提供する。
【0014】
本発明の別の実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの1つまたは複数の規定の領域をコードする個々のポリヌクレオチドを最初に合成することによって、生成され、スクリーニングされるが、この場合ポリヌクレオチドは、一まとめにした場合、本明細書に記述するルックスルー基準に従う全ての可能な変種ポリヌクレオチドを表す。この方法は、機能的アミノ酸残基(位置)を特定し、非機能的アミノ酸残基(位置)と区別するのに使用する。変種ポリヌクレオチドの一部は、例えば生体外転写および翻訳を使用して、かつ/あるいはリボソームディスプレイやファージディスプレイ、細菌ディスプレイ、酵母ディスプレイ、アレイ化ディスプレイ、または当技術分野で知られている任意のその他の適切なディスプレイ系などのディスプレイ技術を使用して発現させる。
【0015】
次いで発現したポリペプチドを、結合アッセイまたは酵素/触媒アッセイなどの機能的アッセイを使用して、スクリーニングし選択する。一実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関して発現し、それによって、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の特定が可能になる。さらに別の実施形態では、ポリペプチドを、タンパク質の化学的特性を使用して直接合成する。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態では、VLおよびVHCDRアミノ酸配列変種のコンビナトリアルベネフィシャルライブラリーを構成する。この第2のライブラリーは、各アミノ酸変種位置に、野生型アミノ酸に対するコドンおよびその位置に前に特定された有益な変種アミノ酸のそれぞれに対するコドンを有するコード配列を生成することによって構成される。
【0017】
したがって本発明は、一部にはこのライブラリーが、任意の望ましくない類似体ポリペプチドまたはいわゆるノイズを含まないので、スクリーニングに実用的なサイズのポリペプチド類似体のライブラリーを生成するのに使用することができる、インテリジェント変異誘発の方法を提供する。この方法は、ポリペプチドの構造および機能における特異的アミノ酸の役割について研究するのに、また、抗体や結合断片またはその類似体、単鎖抗体、触媒抗体、酵素、およびリガンドなどの、新しいまたは改善されたポリペプチドを開発するのに使用することができる。さらにこの方法は、LTM2を使用して生成され研究されるポリペプチド類似体の初期サブセットを選択することに用いることができる、先験的情報の利益、例えばコンピュータモデリングとともに実施されることができる。
【0018】
本発明のその他の利点および態様は、下記の説明および実施例から容易に明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
明細書および特許請求の範囲を明確に理解するために、以下の定義を次に示す。
【0020】
定義
本明細書で使用する「類似体」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する変種または変異体ポリペプチド(またはそのようなポリペプチドをコードする核酸)を指す。
【0021】
「結合分子」という用語は、基質または標的に結合するタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドを含めた任意の結合分子を指す。一実施形態では、結合分子は、抗体またはその結合断片(例えばFab断片)、単一ドメイン抗体、単鎖抗体(例えばscFv)、またはリガンドに結合することが可能なペプチドである。別の実施形態では、結合分子、特にCDR領域を含む結合分子は、その他の抗体、免疫グロブリン、または免疫グロブリン様分子(例えばフィブロネクチン)から得られ、あるいは部分的にまたは全体が合成して得られたものである、非伝統的な足場またはフレームワーク領域を含むことができる。
【0022】
「規定の領域」という用語は、ポリペプチドの選択された領域を指す。典型的な場合、規定の領域は、機能的部位、例えばリガンドの結合部位、結合分子もしくは受容体の結合部位、または触媒部位の、全てまたは一部を含む。規定の領域は、機能的部位の複数の部分を含んでもよい。例えば規定の領域は、相補性決定領域(CDR)、例えば単一ドメイン結合領域、または抗体の完全重鎖および/もしくは軽鎖可変領域(Fv)の、全て、一部、または複数の部分を含むことができる。したがって、機能的部位は、分子の機能的活性に寄与する単一または複数の規定の領域を含むことができる。
【0023】
「機能的アミノ酸」および「非機能的アミノ酸」という用語は、それぞれ、ポリペプチドの測定可能な特性または活性に寄与することが決定される(例えば本発明の方法を使用して)、ポリペプチド(またはその一部)内のアミノ酸残基(または対応するアミノ酸残基部分)を指す。したがって、ポリペプチドの活性に影響を与えないことから「コールドスポット」と呼ばれる非機能的残基または部分に比べ、機能的アミノ酸残基(または対応する部分)は、ポリペプチドの活性に影響を及ぼす残基または残基部分であるので、「ホットスポット」と呼ばれる。機能的アミノ酸残基(または部分)は、変異誘発に適切であるとして、非機能的アミノ酸残基(または部分)と区別される。典型的には、本発明の方法を抗体分子の調査に利用する場合、例えば抗原結合を変化させるアミノ酸残基を機能的残基/位置(すなわち、ホットスポット)と見なし、一方、そのような結合を変化させない残基を非機能的残基/位置(すなわち、コールドスポット)と呼ぶ。
【0024】
「測定可能な特性」という用語は、標準的な技法を使用して測定し、決定し、またはアッセイを行うことができる、ポリペプチド(またはその部分)の機能的な特性または活性を指し、結合活性、キナーゼ活性、触媒活性、熱安定性、または酵素活性が含まれる。抗原結合ポリペプチド、例えば抗体であるポリペプチドの測定可能な特性には、典型的な場合、結合特異性、結合活性、結合親和性、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、可溶性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性が含まれる。
【0025】
「ルックスルー変異誘発」または「LTM」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域(またはいくつかの異なる領域)内の、本質的に全ての位置に、所定のアミノ酸を導入するための方法を指す。個々には所定のアミノ酸を1つしか持たないが、一まとめにした場合は規定の領域内の全ての位置に所定のアミノ酸を持つポリペプチド類似体を含んだポリペプチドライブラリーを生成する。
【0026】
「改善されたルックスルー変異誘発」または「LTM2」という用語は、機能的アミノ酸残基(ホットスポット)と非機能的アミノ酸残基(コールドスポット)とが識別または区別されるように行われたLTMを指す。したがってLTM2法によれば、ポリペプチド(またはその部分)内の機能的アミノ酸残基に、所定のアミノ酸を選択的に導入することが可能になる。対応するLTM2ライブラリーは、変化しまたは強化された特性を最も与え易いアミノ酸変化を有するポリペプチド類似体に富んでいる。LTM2は、LTMの後に、あるいは所与のアミノ酸残基または残基部分の機能性に関する先験的情報に基づいて、実施することができる。
【0027】
「ライブラリー」という用語は、本発明の方法により変異誘発された2個以上の分子を指す。ライブラリーの分子は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド、無細胞抽出物中のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの形で、またはファージ、原核細胞、もしくは真核細胞におけるポリヌクレオチドおよび/もしくはポリペプチドとしての形をとることができる。本発明のライブラリーは、2個以上の分子またはポリペプチド類似体を含むことができ、例えば約2から10個、約10から50個、約50から102個、約103個、約104個、約105個、約106個、約107個、約108個、約109個、約1010個、約1011個、約1012個、約1013個、またはそれ以上、または前述のいずれかの間隔もしくは範囲を含む。
【0028】
「変異誘発」という用語は、アミノ酸配列の変化を指す。これは、変化したアミノ酸配列をコードすることが可能な核酸(ポリヌクレオチド)を変化させまたは生成することによって、あるいはタンパク質の化学的特性を使用した変性ポリペプチドの直接的な合成によって、実現することができる。
【0029】
「変異誘発」という用語は、他に特に指示しない限り、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列を変化させるための当技術分野で認識される任意の技法を指す。好ましいタイプの変異誘発には、ウォークスルー変異誘発(WTM)、ベネフィシャルウォークスルー変異誘発、ルックスルー変異誘発(LTM)、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)、またはこれらの組合せが含まれる。
【0030】
「コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発」という用語は、最初に所定のLTMアミノ酸変異誘発によって測定可能な特性に変化があることが確認された、VLおよび/またはVHCDRアミノ酸配列変種の変性混合物をコードするコード配列の組合せライブラリーを指す。コンビナトリアルベネフィシャル変異の手法では、LTMによって確認されたこれら有益な変異の組合せであるオリゴヌクレオチドコード配列を生成する。これらの組合せは、単一CDR内での種々の有益な変異、単一抗体鎖内の2つ以上のCDRでの変異、または種々の抗体鎖内のCDRでの変異の組合せでよい。
【0031】
「ポリヌクレオチド」という用語は、DNA分子やRNA分子などの核酸、およびその類似体を指す(例えば、ヌクレオチド類似体を使用して、または核酸の化学的特性を使用して生成された、DNAまたはRNA)。望みに応じて、ポリヌクレオチドは、例えば当技術分野で理解されている核酸の化学的特性を使用して合成的に、または例えばポリメラーゼを使用して酵素的に、作製することができる。典型的な修飾には、メチル化、ビオチン化、およびその他の当技術分野で知られている修飾が含まれる。さらに、核酸分子を1本鎖または2本鎖であることができ、望む場合には、検出可能な部分にリンクされまたは結合されることができる(例えば共有または非共有)。
【0032】
「変種ポリヌクレオチド」という用語は、本発明の対応するポリペプチド類似体(またはその部分)をコードするポリヌクレオチドを指す。したがって、変種ポリヌクレオチドは、異なるアミノ酸の発現をもたらすように変化している1つまたは複数のコドンを含有する。
【0033】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって接合された2つ以上のアミノ酸、例えばペプチド(例えば、2〜50のアミノ酸残基)、ならびにより長いペプチド配列、例えば、典型的には50程度の少ないアミノ酸残基から1000を超えるアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、タンパク質配列を指す。
【0034】
「プーリング」という用語は、ポリペプチド領域全体のルックスルー変異誘発(LTM)または改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)を表すライブラリーを形成するための、ポリヌクレオチド変種またはポリペプチド類似体の組合せを指す。分子は、ポリヌクレオチドおよび/またはポリペプチドの形をとることができ、サブライブラリーの形で、固体支持体上の分子として、溶液中の分子として、かつ/または1つまたは複数の生物体(例えばファージ、原核細胞、または真核細胞)中の分子として共存することができる。
【0035】
「所定のアミノ酸」という用語は、変異誘発させるポリペプチドの規定の領域内の各位置で、置換のために選択されたアミノ酸残基を指す。これは、所定のアミノ酸を既に(例えば生来)含有する領域、したがって所定のアミノ酸で置換する必要のない領域内の位置を含まない。したがって、本発明により生成された各ポリペプチド類似体は、所与の規定の領域内に「所定のアミノ酸」残基を1つしか含有しない。しかし一まとめにすると、生成されたポリペプチド類似体のライブラリーは、変異誘発される領域内の各位置に所定のアミノ酸を含有し、好ましい実施形態では、機能的であることが決定されたアミノ酸位置(ホットスポット)である。典型的な場合、所定のアミノ酸は、通常ならアミノ酸の側基に関連する特定のサイズまたは化学的特性に合わせて選択される。適切な所定のアミノ酸には、例えば、グリシンおよびアラニン(立体的に小さい);セリン、トレオニン、およびシステイン(求核性);バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、およびプロリン(疎水性);フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン(芳香性);アスパラギン酸およびグルタミン酸(酸性);アスパラギン、グルタミン、およびヒスチジン(アミド);ならびにリジンおよびアルギニン(塩基性)が含まれる。非伝統的アミノ酸残基(例えばホモシステイン)の使用も本発明の範囲内であり、当技術分野で理解される任意の技法を使用して導入することができる。
【0036】
詳細な説明
タンパク質の研究では、その構造および機能において、あるアミノ酸が極めて重要な役割を演ずることが明らかにされた。例えば、不連続な数のアミノ酸だけが抗体と抗原との結合に寄与し、または酵素の触媒現象に関与するようである。
【0037】
あるアミノ酸は、タンパク質の活性または機能に極めて重要なことが明らかであるが、どのアミノ酸が関与し、それらがどのように関与しているのか、またどの置換がタンパク質の構造または機能を改善することができるのか、明らかにすることは難しい。1つには、これはポリペプチド内のアミノ酸側鎖の空間配置の複雑さと、機能的部位の形成に寄与するポリペプチドの異なる部分の相互関係とに起因する。例えば、抗体の可変重鎖および軽鎖領域の6つのCDR間の相互関係は、抗原またはリガンド結合ポケットに寄与する。
【0038】
選択的(部位特異的)変異誘発や飽和変異誘発などの以前の変異誘発法は、複雑なポリペプチド中の膨大な数の可能性ある変種に鑑みて、タンパク質の構造および機能の研究にその利用が限定されている。これは特に、大量の望ましくない組合せ、いわゆるノイズの存在が、所望の組合せにしばしば付随することを考えれば、もっともなことである。
【0039】
本発明の方法は、ポリペプチドの構造または機能における、特定のアミノ酸の役割と、ポリペプチドの規定の領域内での特定のアミノ酸の位置とを評価するための、したがって改善されたポリペプチドを生成するための、系統的、実用的、および非常に正確な手法を提供する。
【0040】
1.規定の領域の選択
本発明によれば、タンパク質内の1つまたは複数の規定の領域を、変異誘発を目的として選択する。典型的な場合、これらの領域は、タンパク質の構造または機能に重要と考えられる。これは例えば、構造的および/または機能的態様が知られているものから推論することができ、または、規定の領域とその他のタンパク質の研究からわかっていることを比較することから推論することができ、情報のモデリングにより助けることができる。例えば規定の領域は、機能的部位、例えば結合、触媒、または別の機能において、役割を有するものにすることができる。一実施形態では、規定の領域は、抗原結合分子の超可変領域または相補性決定領域(CDR)である(図1参照)。別の実施形態では、規定の領域は、相補性決定領域(CDR)の一部である。その他の実施形態では、2つ以上の規定の領域、例えばCDRまたはその一部を、変異誘発を目的に選択する。
【0041】
2.所定のアミノ酸残基の選択
規定の領域内の置換を目的に選択されたアミノ酸残基は、一般に、問題にされる構造または機能に関与することで知られているものから選択される。20個の天然のアミノ酸は、その側鎖が異なっている。それぞれの側鎖は、それぞれのアミノ酸を独特のものにする化学的特性の一因となる。結合を変化させまたは新たな結合親和性を生成する目的で、これら20個の天然のアミノ酸のいずれかまたは全てを選択することができ、非伝統的アミノ酸残基(例えばホモシステイン)も同様である。したがって、置換ごとに膨大な数の類似体を生成した以前の変異誘発方法は、20個のアミノ酸それぞれの置換のタンパク質結合に及ぼす影響を評価するのに非現実的であった。対照的に本発明の方法は、各アミノ酸置換ごとに現実的な数の類似体を生成し、したがって、タンパク質の1つまたは複数の分離領域内で、より様々なタンパク質の化学的特性を評価することが可能になる。
【0042】
タンパク質結合とは対照的に、ごく一部のアミノ酸残基だけが、典型的には酵素または触媒現象に寄与する。例えば側鎖の化学的特性から、選択された数の天然アミノ酸だけが、優先的に触媒現象に寄与する。アミノ酸側鎖の化学的特性の、そのようなグループ分けは、特定のアミノ酸残基または位置の化学的プロファイリングに使用するのに適切なアミノ酸残基を選択するのに有用である。これらのアミノ酸は、SerやThr、Asn、Gln、Tyr、Cysなどの極性および中性アミノ酸のグループ、荷電アミノ酸、AspおよびGlu、LysおよびArg、ならびに、特にアミノ酸Hisに属する。その他の極性および中性の側鎖は、Cys、Ser、Thr、Asn、Gln、およびTyrのものである。Glyも、このグループの境界線上にある要素と見なされる。SerおよびThrは、水素結合の形成に重要な役割を演ずる。Thrは、β炭素に追加の非対称を有し、したがって立体異性体の1つだけが使用される。酸アミドGlnおよびAsnも水素結合を形成することができ、アミド基が水素供与体として機能し、カルボニル基が受容体として機能する。Glnは、Asnよりも1つ多いCH2基を有し、そのため極性基がより柔軟になり、主鎖との相互作用を低下させる。Tyrは、高いpH値で解離することができる、非常に極性の高いヒドロキシル基(フェノールOH)を有する。Tyrは、いくらか荷電側鎖のように振る舞い、その水素結合はかなり強力である。
【0043】
中立極性酸は、タンパク質分子の内部のみならず表面にも見られる。内部残基として、これらは通常、互いにまたはポリペプチド主鎖と共に水素結合を形成する。Cysは、ジスルフィド架橋を形成することができる。
【0044】
ヒスチジン(His)は、pK値が6.0の複素環芳香族側鎖を有する。生理学的pH範囲では、溶液から水素イオンをとった後に、そのイミダゾール環を帯電させずまたは帯電させることができる。これら2つの状態は、容易に得ることが可能であるので、Hisは、化学反応を触媒するのに実に適している。酵素の活性中心には概ね見られ、例えばセリンプロテアーゼに見られる。
【0045】
AspおよびGluは、生理学的pHで負に帯電している。その短い側鎖により、Aspのカルボキシル基は、主鎖に対してかなり強固である。これは、多くの触媒部位にあるカルボキシル基が、なぜGluによってではなくAspによって提供されるのかの理由になり得る。帯電した酸は、一般に、ポリペプチドの表面に見られる。
【0046】
さらに、LysおよびArgが表面に見られる。これらは、類似したエネルギーの複数の回転異性体を提示する、長く柔軟な側鎖を有する。いくつかの例では、LysおよびArgが、内部塩橋の形成に寄与し、または触媒を助ける。これらはポリペプチドの表面にさらされるので、Lysは、側鎖を修飾しまたはLys残基のカルボニル末端でペプチド鎖を切断する酵素によって、より頻繁に認識される残基である。
【0047】
アミノ酸側基の化学的特性に応じて、所定のアミノ酸残基を選択することができるが、所望の側基の化学的特性の欠如は、所定のアミノ酸として使用するためにアミノ酸残基を除外するための基準にすることができる。例えばアラニンなどの、立体的に小さくかつ化学的に中性のアミノ酸は、所望の化学的特性をなくすためにルックスルー変異誘発から除外することができる。
【0048】
3.ポリペプチド類似体ライブラリーの合成
一実施形態では、ポリペプチド類似体のライブラリーは、ポリペプチドの規定の領域をコードしかつ所定のアミノ酸に対して1つのコドンしか持たない個々のオリゴヌクレオチドを合成することによって、スクリーニングを目的に生成する。これは、オリゴヌクレオチド内の各コドン位置に、野生型ポリペプチドの合成に必要とされるコドンまたは所定のアミノ酸に対するコドンを組み込むことによって、実現される。これは、各オリゴヌクレオチドごとに、複数の変異ではなく1つの変異だけが形成される点が、飽和変異誘発、ランダム変異誘発、またはウォークスルー変異誘発で生成されたオリゴヌクレオチドとは異なっている。
【0049】
オリゴヌクレオチドを個々に生成し、次いで望みに応じて混合しまたはプールすることができる。野生型配列のコドンと所定のアミノ酸に対するコドンとが同じである場合、置換は行われない。
【0050】
したがって、規定の領域内のアミノ酸位置の数は、作製されるオリゴヌクレオチドの最大数を決定することになる。例えば、5つのコドン位置が所定のアミノ酸と共に変化する場合、野生型アミノ酸配列を表す5つのポリヌクレオチドと1つのポリヌクレオチドを合わせたものが合成される。2つ以上の領域を、同時に変化させることができる。一実施形態では、変異誘発された規定の領域内のアミノ酸残基(位置)は、機能的アミノ酸残基(位置)である。別の実施形態では、機能的アミノ酸残基(位置)だけが変異誘発される。
【0051】
ライブラリーを生成するためのオリゴヌクレオチドの混合物は、DNA合成の既知の方法によって、容易に合成することができる。好ましい方法では、固相βシアノエチルホスホラミダイトの化学的特性を使用する。米国特許第4725677号を参照されたい。便宜上、ヌクレオチドの指定試薬容器を含んだ自動DNA合成のための機器を使用することができる。ポリヌクレオチドは、より大きい遺伝子コンテキストへの、例えば規定の領域を表すポリヌクレオチドの導入またはアセンブリを促進させる、制限部位またはプライマーハイブリダイゼーション部位を含有するように合成してもよい。
【0052】
合成されたポリヌクレオチドは、標準的な遺伝子工学技法を使用することによって、変異誘発されているポリペプチドのより大きい遺伝子コンテキストに挿入することができる。例えばポリヌクレオチドは、制限酵素のフランキング認識部位を含有するように作製することができる。Crea,R.の米国特許第4888286号を参照されたい。認識部位は、天然に存在する認識部位に対応するように設計され、またはその領域をコードするDNAに近接する遺伝子に導入される。2本鎖形態に変換させた後、ポリヌクレオチドを、標準的な技法によって遺伝子にライゲーションする。適切なベクター(例えば、ファージベクター、プラスミドを含む)を用いることにより、遺伝子を、変異体ポリペプチドの発現に適した無細胞抽出物、ファージ、原核細胞、または真核細胞に導入することができる。
【0053】
変異誘発されるポリペプチドのアミノ酸配列がわかっている場合、またはDNA配列がわかっている場合は、遺伝子合成が、可能性ある手法である。例えば部分的に重なり合っているポリヌクレオチド、典型的にはその長さが約20〜60のヌクレオチドを設計することができる。次いで内部ポリヌクレオチドを、その相補的パートナーにリン酸化しアニールすることにより、さらなるアニーリングに有用な、1本鎖伸長部を持った2本鎖DNA分子が与えられる。次いで、アニールされた対を一緒に混合し、ライゲーションして、完全長2本鎖分子を形成する(例えば、図8参照)。都合のよい制限部位を、適切なベクターにクローニングするために、合成遺伝子の端部付近に設計することができる。完全長分子は、これらの酵素で切断され、適切なベクターにライゲーションすることができる。都合のよい制限部位は、変異誘発性カセットの導入を促進させるために、合成遺伝子の配列に組み込むこともできる。
【0054】
完全長2本鎖遺伝子を表すポリヌクレオチドを合成する代替例として、その3’末端で部分的に重なり合うポリヌクレオチド(すなわち相補的3’末端を持つ)をギャップ構造に組み立て、次いで適切なポリメラーゼを充填して、完全長2本鎖遺伝子を作製することができる。典型的な場合、重複ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド40〜90個の長さである。次いで伸長したポリヌクレオチドのライゲーションを行う。都合のよい制限部位を、クローニングの目的で端部および/または内部に導入することができる。適切な1種または複数の制限酵素による消化の後、遺伝子断片を適切なベクターにライゲーションする。あるいは、遺伝子断片を、適切なベクターにブラントエンドライゲーションする。
【0055】
これらの手法では、遺伝子アセンブリの後に、都合のよい制限部位が利用可能である場合(天然のまま、または設計製作して)、カセットを適切なベクターにクローニングすることによって、変性ポリヌクレオチドを順次導入することができる。あるいは、変性ポリヌクレオチドを遺伝子アセンブリ段階に組み込むことができる。例えば、遺伝子の両方の鎖を完全に化学的に合成する場合、重複および相補的変性ポリヌクレオチドを生成することができる。相補対は、互いにアニールされる。
【0056】
部分的に重複するポリヌクレオチドを遺伝子アセンブリに使用する場合、一組の変性ヌクレオチドを、ポリヌクレオチドの一方の代わりに直接組み込むこともできる。適切な相補鎖は、ポリメラーゼによる酵素伸長によって、他方の鎖からの一部相補的なポリヌクレオチドから、伸長反応中に合成する。合成段階での変性ポリヌクレオチドの組込みは、遺伝子の複数のドメインまたは規定の領域が変異誘発される部位におけるクローニングも簡略化する。
【0057】
別の手法では、興味ある遺伝子が、1本鎖プラスミド上に存在する。例えば遺伝子は、ヘルパーファージの使用とともに1本鎖分子の増殖を可能とするファージベクターまたは線維状ファージ複製開始点を持つベクターにクローニングすることができる。1本鎖鋳型を、所望の変異を示す一組の変性ポリヌクレオチドと共にアニールし、伸長し、ライゲーションすることができ、したがって、各類似体の鎖が、適切な宿主に導入することができる分子集団に組み込まれる(Sayers,J.R.他,Nucleic Acids Res.16:791〜802(1988))。この手法は、複数のドメインが変異誘発を目的に選択される、複数のクローニングステップを回避することができる。
【0058】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法も、ポリヌクレオチドを遺伝子に組み込むのに使用することができる。例えばポリヌクレオチドそのものを、伸長のためのプライマーとして使用することができる。この手法では、規定の領域(またはその一部)に対応する変異誘発性カセットをコードするポリヌクレオチドが、少なくとも部分的に互いに相補的であり、ポリメラーゼを使用して、例えばPCR増幅を使用して、大きい遺伝子カセットが形成されるように伸長させることができる(例えば、図2参照)。
【0059】
ライブラリーのサイズは、変異誘発される領域の長さおよび数と、変異誘発される領域内のアミノ酸に応じて様々に異なる。好ましくはライブラリーは、1015、1014、1013、1012、1011、1010、109、108、107未満、そしてより好ましくは106以下のポリペプチド類似体を含有するように設計される。
【0060】
上記の説明は、対応するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを変化させることによる、ポリペプチドおよびポリペプチドのライブラリーの変異誘発を中心とした。しかし本発明の範囲は、タンパク質の化学的特性を使用して所望のポリペプチド類似体を直接合成することによる、ポリペプチドを変異誘発させる方法も包含することが理解される。この手法を実施する際、得られるポリペプチドは、ポリヌクレオチド中間体の使用をなくしたこと以外、本発明の特徴を依然として包含したままである。
【0061】
上述のライブラリーの場合、ポリヌクレオチドおよび/または対応するポリペプチドの形をとろうととらなかろうと、ライブラリーを、当技術分野で理解されている技法を使用して、マイクロチップなどの固体支持体に結合してもよく、好ましくは配列できることが理解される。
【0062】
4.発現およびスクリーニング系
上記の技法またはその他適切な技法のいずれによっても生成されたポリヌクレオチドのライブラリーは、所望の構造および/または活性を有するポリペプチド類似体が特定されるように、発現されスクリーニングされることができる。ポリペプチド類似体の発現は、無細胞抽出物ディスプレイ系(例えばリボソームディスプレイおよびアレイ(例えばマイクロアレイまたはマクロアレイ)ディスプレイ系)、細菌ディスプレイ系、ファージディスプレイ系、原核細胞、および/または真核細胞(例えば酵母ディスプレイ系)を含むがこれらに限定することのない、当技術分野で知られている任意の適切な発現ディスプレイ系を使用して、実施することができる。
【0063】
一実施形態では、無細胞抽出物中で発現することができる鋳型として働くように、ポリヌクレオチドを設計製作する。例えば、米国特許第5324637号、第5492817号、第5665563号に記載されるベクターおよび抽出物を使用することができ、多くは市販されている。ポリヌクレオチド(すなわち遺伝子型)をポリペプチド(すなわち表現型)に結合するリボソームディスプレイおよびその他の無細胞技法、例えばProfusion(商標)を使用することができる(例えば、米国特許第6348315号、第6261804号、第6258558号、および第6214553号参照)。
【0064】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、PluckthunおよびSkerraにより記述されるように(Pluckthun,A.およびSkerra,A.Meth.Enzymol.178:476〜515(1989);Skerra,A.他,Biotechnology 9:273〜278(1991))、細菌性のE.coli発現系などの都合のよい原核生物の発現系で発現させることができる。変異体タンパク質は、M.BetterおよびA.Horwitz,Meth.Enzymol.178:476(1989)に記載されるように、培地中および/または細菌の細胞質中での分泌を目的に、発現させることができる。一実施形態では、VHおよびVLをコードする単一ドメインが、シグナル配列、例えばompAやphoA、またはpelBシグナル配列などをコードする配列の3’末端に、それぞれ結合する(Lei,S.P.他,J.Bacteriol.169:4379(1987))。これらの遺伝子融合は、ジシストロニックな構成に組み立てられ、したがって遺伝子融合は、単一のベクターから発現することができ、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌され、そこでリフォールディングし、活性な形で回収することができる(Skerra,A.他,Biotechnology 9:273〜278(1991))。例えば抗体重鎖遺伝子は、抗体軽鎖遺伝子と同時に発現して、抗体または抗体断片を生成することができる。
【0065】
さらに別の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば米国特許第6423538号、第6331391号、および第6300065号に記載されるように、例えば酵母ディスプレイを使用して、酵母などの真核細胞内で発現することができる。この手法では、ライブラリーのポリペプチド類似体を、酵母表面に発現し表示されるポリペプチドに融合させる。哺乳動物細胞、例えば骨髄腫細胞やハイブリドーマ細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞など、本発明のポリペプチドを発現させるその他の真核細胞も、使用することができる。典型的な場合、哺乳動物細胞中に発現させるときのポリペプチド類似体は、培地中に発現するように、またはそのような細胞の表面に発現するように設計される。抗体または抗体断片は、例えば、抗体分子全体として、または個々のVHおよびVL断片、Fab断片、単一ドメインとして、または単鎖抗体(scFV)として生成することができる(Huston,J.S.他,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883(1988)参照)。
【0066】
発現したポリペプチド類似体(または直接合成によって生成されたポリペプチド)のスクリーニングは、任意の適切な手段によって行うことができる。例えば結合活性は、標準的な免疫アッセイおよび/または親和性クロマトグラフィにより評価することができ、触媒活性は、基質変換に適したアッセイにより確認することができる。タンパク質分解機能に関する本発明のポリペプチド類似体のスクリーニングは、例えば米国特許第5798208号に記載されている標準的なヘモグロビンプラークアッセイを使用して、実現することができる。
【0067】
5.コンピュータモデリングにより支援される、改善されたルックスルー変異誘発
本発明のルックスルー変異誘発は、所望の改善された機能を有する類似体が生成される可能性が増すように、ポリペプチド類似体に関する構造的またはモデリング情報を利用して実施してもよい。構造的またはモデリング情報は、規定の領域内に導入されるように所定のアミノ酸の選択を導くのに使用することもできる。さらに、本発明のポリペプチド類似体で得られた実際の結果は、繰り返し作製されスクリーニングされる後続のポリペプチドの選択(または排除)を導くことができる。したがって、構造またはモデリング情報は、本発明で使用されるポリペプチド類似体の初期サブセットを生成するのに使用することができ、それによって、改善されたポリペプチドの生成効率が高まる。
【0068】
特定の実施形態では、in silicoモデリングを使用して、不十分なまたは望ましくない構造および/または機能を有することが予測される、任意のポリペプチド類似体が生成されないようにする。この方法では、生成されるポリペプチド類似体の数を急激に減少させることができ、それによって、後続のスクリーニングアッセイの信号対雑音比が高まる。特定の実施形態では、機能的アミノ酸残基(位置)またはホットスポットが、変異誘発に適切であるとされるのに対し、非機能的アミノ酸残基(位置)またはコールドスポットは、排除される。別の特定の実施形態では、in silicoモデリングが、関連あるソースから、例えば遺伝子およびタンパク質配列、3次元データベースから、かつ/または前に試験をした類似体結果からの、追加のモデリング情報によって継続的に更新され、したがってin silicoデータベースは、その予測能力がより正確になる。
【0069】
さらに別の実施形態では、in silicoデータベースに、前に試験をしたポリペプチド類似体のアッセイの結果が提供され、アッセイの1つまたは複数の基準に基づいて、その類似体を応答物または非応答物に分類し、例えば、十分に結合しもしくはそれほど十分には結合していないポリペプチド類似体、または酵素的/触媒的でありもしくはそれほど酵素的/触媒的ではないものとして分類する。この方法では、本発明の変異誘発は、機能的応答の範囲を特定の構造情報と同一視することができ、そのような情報を使用して、試験がなされる将来のポリペプチド類似体の生成を誘導することができる。したがって、この方法は、ホットスポットを変異誘発の目標とすることによって、結合親和性(例えば特異性)、安定性(例えば半減期)、および/またはエフェクター機能(例えば補体活性化およびADCC)などの特定の機能に関して抗体または抗体断片をスクリーニングするのに特に適している。したがって、ある領域内の非隣接残基の変異誘発は、例えばin silicoモデリングを通して、その領域のある残基が所望の機能に寄与しないことがわかっている場合、望ましいものとすることができる。規定の領域間の等位構造および空間相互関係、例えばポリペプチドの規定の領域内の機能的アミノ酸残基、例えば導入された所定のアミノ酸を考えることができ、モデリングすることができる。そのようなモデリング基準には、例えば、アミノ酸残基側基の化学的特性、原子間距離、結晶学的データなどが含まれる。したがって、生成されるポリペプチド類似体の数を、情報処理により最小限に抑えることができる。
【0070】
好ましい実施形態では、上記ステップの1つまたは複数が、コンピュータにより支援される。この方法も、部分的にまたは全体的に、デバイス、例えばコンピュータ駆動型デバイスにより実施するのに適している。したがって、部分的にまたは全体的に、この方法を実施するための指示を、この指示を実行する電子デバイスでの使用に適した媒体に付与することができる。つまり本発明の方法は、ソフトウェア(例えばコンピュータで読取り可能な指示)およびハードウェア(例えばコンピュータ、ロボティクス、およびチップ)を含む高スループット手法に修正可能である。
【0071】
6.複数の規定の領域のコンビナトリアルケミストリーの調査
本発明は、ポリペプチドのいくつかの異なる領域またはドメインの変異誘発による評価を同時に可能にする、重要な利点を提供する。これは、各領域内の同じかまたは異なる所定のアミノ酸を使用して行うことができ、ポリペプチドの折り畳みによって機能部位(例えば、抗体の結合部位または酵素の触媒部位)が構成されるように関連付けられる領域など、高次構造的に関係ある領域でのアミノ酸置換の評価が可能になる。このため、新たなまたは改善された機能的部位を生成する、効率的な方法が提供される。
【0072】
例えば、抗原結合部位(Fv領域)の独自の態様を構成する抗体の6つのCDRを、VHまたはVL鎖内で、同時にまたは別々に変異誘発させることができ、それによって、この部位で選択されたアミノ酸の3次元相互関係を調査する。一実施形態では、3つ以上の規定の領域、好ましくは6つの規定の領域、例えば、抗体重鎖および軽鎖可変領域の6つのCDRのコンビナトリアルケミストリーを、ルックスルー変異誘発を使用して体系的に調査する。CDR上でルックスルー変異誘発を行うには、典型的には3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、またはそれ以上のアミノ酸位置を変化させる。次いで機能的アミノ酸残基を非機能的アミノ酸残基と区別し、さらなる変異誘発に適切であることを確認する。
【0073】
したがって本発明は、多くの異なるタイプの新規なおよび改善されたポリペプチドの設計に関して、新たな可能性を開くものである。この方法は、タンパク質の既存の構造または機能を改善するのに使用することができる。例えば、抗体もしくは抗体断片の結合部位を導入することができ、または、前から存在する抗原との親和性、エフェクター機能、および/もしくは安定性が改善される。あるいは、追加の「触媒的に重要な」アミノ酸を、酵素の触媒ドメインに導入することができ、その結果、基質に対して修正されまたは強化された触媒活性が得られる。あるいは、完全に新しい構造、特異性、または活性を、ポリペプチドに導入することができる。酵素活性の新規の合成も、実現することができる。新しい構造は、本発明の方法により、関係ある領域(例えば機能的アミノ酸残基(位置))だけを変異させることによって、既存のタンパク質の天然のまたはコンセンサスな「足場」上に構築されることができる。
【0074】
7.新たなまたは改善された抗体を作製するための、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)
本発明の方法は、抗体分子を修飾するのに特に有用である。本明細書で使用する抗体分子または抗体は、完全長抗体、Fv分子、またはその他の抗体断片、個々の鎖またはその断片(例えば、Fvの単鎖)、単鎖抗体(例えばscFv)、およびキメラ抗体などの、抗体またはその部分を指す。変性は、抗体の可変領域および/またはフレームワーク(定常)領域に導入される。可変領域の修飾は、より良好な抗原結合特性、望む場合には触媒特性を持つ抗体を生成することができる。フレームワーク領域の修飾は、化学−物理学的特性、例えば商業生産で特に有用な溶解度または安定性(例えば半減期)、生物学的利用能、エフェクター機能(例えば補体活性化および/またはADCC)、および抗原に対する結合親和性(例えば特異性)などの改善ももたらすことができる。典型的な場合、変異誘発は、抗体分子のFv領域、すなわち2つの鎖であってその1つが重鎖(VH)からのものであり、1つが軽鎖(VL)からのものである可変領域で構成された、抗原結合活性に寄与する構造を標的にする。特に、変異誘発は、抗体の測定可能な特性(例えば抗原結合、Fc受容体結合など)に寄与することが決定された機能的アミノ酸残基(位置)を標的にする。所望の抗原結合特性が確認されたら、可変領域を、IgGやIgM、IgA、IgD、またはIgEなどの、適切な抗体クラスに設計製作することができる。
【0075】
8.触媒/酵素ポリペプチドを作製し/改善するための、改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)
本発明の方法は、触媒タンパク質、特に触媒抗体の設計にも、特に適している。現在、触媒抗体は、標準的な体細胞融合技法を適用することによって調製することができる。このプロセスでは、遷移状態に結合しかつ反応を触媒する抗体の生成を誘発させる、所望の基質の遷移状態に似た抗原で、動物が免疫化される。抗体生成細胞は動物から収集され、不死化細胞に融合され、ハイブリッド細胞を生成する。次いでこれらの細胞を、反応を触媒する抗体の分泌に関してスクリーニングする。このプロセスは、基質の遷移状態の類似体の利用可能性に依存する。このプロセスは、ほとんどの場合、そのような類似体を特定しまたは合成することが困難になり易いので、制約を受ける可能性がある。
【0076】
本発明の方法は、遷移状態の類似体の必要性をなくす、異なる手法を提供する。本発明の方法によれば、抗体は、適切なアミノ酸を免疫グロブリンの結合部位(Fv領域)に導入することによって、触媒作用により作製することができる。抗原結合部位(Fv)領域は、6つの超可変(CDR)ループ、すなわち免疫グロブリン重鎖(H)から得られた3つと軽鎖(L)から得られた3つで構成され、これらは各サブユニット内でβ鎖を接続している。CDRループのアミノ酸残基は、各特異的モノクローナル抗体の結合特性に、ほぼ完全に寄与している。例えば、セリンプロテアーゼの後にモデル化された触媒の3元要素(アミノ酸残基セリン、ヒスチジン、およびアスパラギン酸を含む)は、基質分子との親和性がわかっておりかつ基質のタンパク質分解活性に関してスクリーニングされる抗体の、Fv領域の超可変セグメント内で生成することができる。好ましい実施形態では、抗体の測定可能な特性、例えば触媒活性に寄与することが決定された、機能的アミノ酸残基(位置)を標的とする。
【0077】
特に本発明の方法は、オキシドレダクターゼ、トランスフェラーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、およびリガーゼを含めた多くの異なる酵素または触媒抗体を生成するのに使用することができる。これらの種類の中で、特に重要なのは、改善されたプロテアーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、ジオキシゲナーゼ、およびペルオキシダーゼである。本発明の方法によって調製することができる、これらおよびその他の酵素は、保健医療、化粧品、食品、醸造、洗浄剤、環境(例えば廃水処理)、農業、なめし、織物、およびその他の化学プロセスにおける、酵素変換という重要な商業的用途がある。これらには、診断および治療の用途、脂肪、炭水化物、およびタンパク質の変換、有機汚染物質の分解、および化学物質の合成が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、線維素溶解活性、またはウイルスコートタンパク質などの感染力に必要なウイルス構造に対する活性を持つプロテアーゼが、設計製作されうる。そのようなプロテアーゼは、有用な抗血栓剤、または例えばHIV、ライノウイルス、インフルエンザまたは肝炎などのウイルスに対する抗ウイルス剤になり得る。オキシゲナーゼ(例えばジオキシゲナーゼ)、すなわち芳香環およびその他の二重結合の酸化のための補助因子が必要な種類の酵素の場合、バイオパルピングプロセスでの工業的用途、バイオマスから燃料またはその他の化学物質への変換、廃水汚染物質の変換、石炭のバイオプロセシング、および有害な有機化合物の無毒化が、新規なタンパク質の可能性ある適用例である。前述の事項に関する改善点の確認は、これらの改善点が求めている所望の活性または特性に寄与する傾向が強い、機能的アミノ酸残基(位置)を優先的に標的とすることによって、本発明により迅速になされる。
【0078】
9.コンビナトリアル変異誘発法
コンビナトリアルベネフィシャル変異法では、LTMによって確認される有益な変異の組合せを表すコード配列を生成する。これらの組合せは、単一CDR内の種々の有益な変異、単一抗体鎖内の2つ以上のCDRでの変異、または種々の抗体鎖のCDRでの変異の組合せでよい。
【0079】
あるコンビナトリアル法は、CDR内で選択されたコドン置換が、LTMによって確認された種々の有益なアミノ酸置換であることを除き、WTM法に似ている。したがって、抗体CDR内の全ての残基位置が変異を有するとは限らず、いくつかの位置は、その位置で置換された複数の異なるアミノ酸を有することになる。全体的に、CDRまたは抗体鎖内の有益な変異の組み合わせは、全てではないとしてもその多くが、ライブラリー中のコード配列の少なくとも1つによって表されることになる。表1に示すように、このコード配列ライブラリーは、可変コード領域内の異なる位置のそれぞれに単一のアミノ酸に対する複数のコドンを配置する代わりに、導入されるコドンがLTM法で検出される有益な変異の全てに対応するものであること以外、WTM法を修正することによって作成することができる。このライブラリーのサイズを管理可能に維持するために、変異を、2つの重鎖または軽鎖の一方のみに限定することができる。
【0080】
第2の手法では、単一のCDR領域を含有し、かつCDR内の有益な変異の組合せ全てをコードするコドン変種を有する個々の遺伝子断片が、例えば遺伝子シャッフリング法により再構成されて、所与の鎖の全てのCDR内または両方の鎖の全てのCDR内に有益な変異の組合せを有するVLおよびVH鎖コード配列を提供する。
【0081】
変異のコンビナトリアルライブラリーは、参照によりその全てが本明細書に援用される、米国特許出願2003/005439A1および米国特許第6368861号、および(Stemmer WP(1994)Proc Natl Acad Sci 91(22):10747−51)に詳述されているような、既知の遺伝子シャッフリング法によって生成してもよい。この方法では、収集され混合された変異クローンの限定されたDNase I消化が行われ、それによって、様々な所定サイズ(例えば50〜250塩基対)の一組のランダム遺伝子断片を生成する。次いでこれらの断片を、最初に変性させ、次いで様々な個別の断片を、相同的相補領域をベースにして再び結合させる。この手法において、復元された断片は、種々の混合された変異CDRを、再結合されたセグメントに組み込むことができ、次いでこれを上述のSOE−PCRにより伸長させ、次いで再結合させたキメラは、最低限でも少なくとも、親DNAソースドナーのそれぞれから二組の有益なCDR混合変異を組み込むことができる。
【0082】
本発明を、限定するものと解釈すべきでない下記の実施例において、さらに例示する。
【実施例】
【0083】
この実施例全体を通し、他に特に指示しない限り、下記の材料および方法を使用した。
【0084】
材料および方法
一般に、本発明の実施に際しては、他に特に指示しない限り、当業者の範囲内でありかつ文献で説明されている従来の化学、分子生物学、組換えDNA技術、PCR技術、免疫学(特に、例えば抗体技術)、発現系(例えば無細胞発現、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、およびProfusion(商標))、および任意の必要な細胞培養の技法を用いる。例えば、Sambrook,FritschおよびManiatis,Molecular Cloning:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);DNA Cloning,第1および2巻(D.N.Glover編,1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編,1984);PCR Handbook Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry,Beaucage編,John Wiley&Sons(1999)(編者);Oxford Handbook of Nucleic Acid Structure,Neidle編,Oxford Univ Press(1999);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Innis他,Academic Press(1990);PCR Essential Techniques:Essential Techniques,Burke編,John Wiley&Son Ltd(1996);The PCR Technique:RT−PCR,Siebert編,Eaton Pub.Co.(1998);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology),510,Paul,S.,Humana Pr(1996);Antibody Engineering:A Practical Approach(Practical Approach Series,169)McCafferty編,Irl Pr(1996);Antibodies:A Laboratory Manual,Harlow他,C.S.H.L.Press,Pub.(1999);Current Protocols in Molecular Biology編.Ausubel他,John Wiley&Sons(1992);Large−Scale Mammalian Cell Culture Technology,Lubiniecki,A.編,Marcel Dekker,Pub.,(1990)Phage Display:A Laboratory Manual.C.Barbas(編),CSHL Press(2001);Antibody Phage Display,PO’Brien(編),Humana Press(2001);Border他,Yeast surface display for screening combinatorial polypeptide libraries,Nature Biotechnology,15(6):553−7(1997);Border他,Yeast surface display for directed evolution of protein expression,affinity,and stability,Methods Enzymol.,328:430−44(2000);Pluckthun他の米国特許第6348315号に記載されているリボソームディスプレイ、およびSzostak他の米国特許第6258558号;第6261804号;および第6214553号に記載されているProfusion(商標)を参照されたい。
【0085】
試験遺伝子の構成
オボアルブミン野生型Fab配列を、PCRおよび適切なプライマー(配列番号11および12)およびVHオリゴヌクレオチド(配列番号13〜14)を使用してscFvを構成するために、VLおよびVH部分(それぞれ配列番号1および2)の鋳型として使用した。PCR反応は、10uMオリゴヌクレオチドストックをそれぞれ2μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)0.5μl、Pfx緩衝液5μl、10mM dNTP 1μl、50mM MgSO4 1μl、ここで37.5μl のdH20を用い94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル、その後、68Cで5分間インキュベーション、からなった。オリゴヌクレオチドは、Syngen Inc.(San Carlos,CA)製の3900オリゴシンセサイザで合成された。
【0086】
次いで上記VLおよびVHPCR反応混合物を、個別に抽出し、精製し(Qiagen PCR精製キット、製造元の取扱説明書に従う)、各反応混合物の一定分量(1μl)を合わせて新しい試験管に入れた。VH逆方向オリゴヌクレオチド(配列番号14)の3’末端およびVL順方向オリゴヌクレオチド(配列番号11)の5’末端にリンカー配列を用いて、相補的結合は単一重複伸長PCR(SOE−PCR)アセンブリ反応を可能とし、それにより、完全長オボアルブミンscFvを生成した。オボアルブミンscFv PCR反応混合物を抽出し、精製して(Qiagen)、引き続きEcoR IおよびNot Iエンドヌクレアーゼ消化を行った(New England Biolabs、製造業者の指示に従う)。完全長オボアルブミンscFvをpYD1ベクターにサブクローニングし、配列決定して、上記PCRから変異、欠失、または挿入が導入されていない(配列暗号18)ことを確認する。配列が確認された後、完全長VHおよびVLオボアルブミンは、LTMライブラリーを構築する後続の戦略のため、野生型鋳型としての働きをする。
【0087】
追加のPCR条件およびプライマーの設計
T1およびT2 PCRに関する反応条件は、10uMオリゴヌクレオチド混合物を5μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートする。反応は、プログラム可能なサーモサイクラー(MJ Research)を使用して行う。T1およびT2 PCR反応をゲル精製し(Qiagen)、両方からの等モルの一定分量を合わせて、SOE−PCRにかけた。
【0088】
SOE−PCRは、制限部位、制限エンドヌクレアーゼ、またはDNAリガーゼを必要としない、DNA断片を組み合わせるための迅速で簡単な方法である。T1およびT2 PCR産物は、ハイブリダイズし完全長LTMオボアルブミンscFv遺伝子を生成する(図2および4)PCR伸長を可能にする末端重複相補配列を共有するように設計される(図4)。scFv PCR伸長反応は、T1およびT2の一定分量(それぞれ約2ul)と共に、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を用い94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を20サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートした。
【0089】
オボアルブミン末端特異的5’EcoR Iセンス(配列番号18)とオボアルブミン3’Not Iアンチセンスプライマー(配列番号19)との組を添加して、LTMオボアルブミン増幅と、制限酵素部位のPCR単位複製配列への取り込みとを促進させる(図4)。PCR伸長反応は、10uMオリゴヌクレオチドストックを4μl、Pfx DNAポリメラーゼ(2.5U/μl)を0.5μl、Pfx緩衝液(Invitrogen)を5μl、10mM dNTPを1μl、50mM MgSO4を1μl、および37.5μl のdH20を94Cで2分、その後、94Cで30秒、50Cで30秒、68Cで1分を24サイクル実施し、次いで68Cで5分間インキュベートした。
【0090】
酵母細胞発現ベクターpYD1へのPCR産物クローニング
抗オボアルブミンscFv発現用の受容プラスミドpYD1(図6)を、プラスミド精製(Qiagen)によりE.coli宿主から調製し、制限酵素EcoRIおよびNotIで消化し、最後に、子ウシ腸管アルカリホスファターゼで脱リン酸化した。pYD1ベクターと上記SOE−PCR産物(EcoRIおよびNotIにより消化された)とのライゲーションを、後続のE.coli(DH5α)形質転換の前に、標準的な技法を使用して行った。
【0091】
酵母細胞発現系
pYD1(図6)は、サッカロミセスセレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)の細胞外表面に、興味のあるタンパク質を表示するように設計された発現ベクターである。scFv遺伝子をpYD1にサブクローニングすることによって、scFvは、AGA2凝集素受容体との融合タンパク質になり、細胞表面の分泌および表示が可能になる。
【0092】
pYD1 AGA2−scFv構成体による酵母宿主細胞の形質転換
コンピテント酵母宿主細胞(500μl)を、製造業者の取扱説明書に従って(Zymo Research Frozen−EZ Yeast Kit)調製した。手短に言うと、コンピテント細胞500μlを、10〜15μgのpYPD1 scFvライブラリーDNAと混合し、その後、EZ3溶液5mlを添加した。次いで細胞混合物を、時々(3回)混合しながら、30℃で45分間インキュベートした。形質転換した細胞を遠心分離にかけ、グルコース選択培地(Invitrogen)中に再懸濁した。
【0093】
AGA2−scFvの誘導
細胞を、OD600=7(OD600=1は、107細胞/mlを表す)になるまで48時間、振盪および脱気の条件下、30℃のグルコース選択培地中で成長させた後に誘導した。詳細には、細胞を収集し、20℃で48時間経過後にOD600=0.9に達するまで、ガラクトース選択/誘導培地(Invitrogen)中に再懸濁した。pYD1からのAga2−scFv融合タンパク質の発現は、GAL1プロモーターによって厳密に調節され、これは、GAL1プロモーター誘導用の培地中で利用可能なガラクトースに依存された。
【0094】
ビオチニル化オボアルブミン調製
標的抗原オボアルブミンのビオチニル化を、製造業者の取扱説明書(Molecular Probes FluoReporter Biotin−XX Labeling Kit(カタログ#F−2610))に従って実施した。簡単に言うと、1mg/mlストック(Sigma)のオボアルブミン300μlを、pH8.3の1M重炭酸ナトリウム緩衝液30μlおよびビオチン−XX溶液5.8μl(20mg/ml、DMSO中ビオチン−XX溶液)に添加した。次いで混合物を、25℃で1時間インキュベートし、ミクロンフィルター管に移し、遠心分離にかけ、タンパク質濃度をOD280での吸光度により決定した。
【0095】
AGA2−scFv発現およびオボアルブミン結合のFACSモニタリング
scFv構成体の誘導および発現をモニタするために、培地からの一定分量の酵母細胞(40μl中、8×105細胞)を、2300rpmで5分間遠心分離することによって収集した。上澄み液を吸引し、次いで細胞ペレットを、200μlの氷冷PBS/BSA緩衝液(PBS/BSA 0.5%w/v)で洗浄した。細胞を再びペレット化し、上澄みを除去し、その後、ビオチニル化オボアルブミンを含有する(200nM)緩衝液100μl中に再懸濁した。細胞を、20℃の45分間放置してオボアルブミンを結合させ、その後、PBS/BSA緩衝液で2回洗浄し、その後、ストレプトアビジン−FITC(2mg/L)を添加して、これと共に氷上で30分間インキュベートした。緩衝液中で洗浄する別のステップを実施し、その後PBS/BSA中に400μlの体積で最後に再懸濁させた。次いで細胞を、CellQuestソフトウェアパッケージを使用してFACSスキャン(Becton Dickinson)で分析した。
【0096】
(実施例1)
高親和性抗体の開発のための改善されたルックスルー変異誘発
この実施例では、例示的なscFv抗体の、改善されたルックスルー変異誘発について述べる。
【0097】
簡単に言うと、改善されたルックスルー変異誘発(LTM)を使用して、選択された抗原との結合親和性を強化する抗体のVHおよびVLCDR領域内のVHおよびVLCDR変異を特定し、すなわち結合活性を与える機能的アミノ酸残基(位置)またはホットスポットを特定した。改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)の目的は、ポリペプチドのある領域、例えば可変抗体鎖のCDR領域において、標的位置で選択された置換を導入することである。最初に、VHおよびVL鎖の両方に関するコーディングライブラリーを構成した。参照抗オボアルブミン抗体VLおよびVH鎖のアミノ酸配列が特定され(配列番号3〜4参照)、配列番号5、6および7によってそれぞれ特定された抗オボアルブミンVH鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3領域に関する開始配列のライブラリーと、配列番号8、9、および10によって特定されたVL鎖のCDR1、CDR2、およびCDR3領域に関する開始配列ライブラリーを選択した。さらに、VHまたはVLコード配列ライブラリーのそれぞれは、選択された鎖において1つ、2つ、または3つ全てのCDRで選択された代表的な機能的アミノ酸に関する変異を含む。
【0098】
オボアルブミン野生型VHセクションSLEWIG−DINPSNGYTIYNQKFKG−FKGKATLからの、VHCDR2セグメントの所定のアミノ酸DINPSNGYTIYNQKFKG(位置56〜69)が、分析用に選択された。ポリペプチド配列SLEWIGおよびKATLTVDは、それぞれVHCDR2に隣接するVHフレームワーク2および3の部分である。VHおよびVLCDR LTMオリゴヌクレオチドの設計および合成では、隣接するフレームワーク配列の長さが約21塩基対であることが、相補的重複およびSOE−PCRを可能にする。フランキングVH2およびVH3部分(下記の小文字)を含んだ上記CDR−H2野生型配列(太字)(配列番号16)をコードする参照オリゴヌクレオチドを、以下に示す。
5’−agc ctt gag tgg att gga−GAT ATT AAT CCT AGC AAT GGT TAT ACT ATC TAC AAC CAG AAG TTC AAG GGC−ttc aag ggc aag gcc aca ttg−3’
【0099】
VHCDR2のロイシンLTMでは、CDR2位置の全てまたは複数において、一度に1つのロイシンだけを逐次置換する。図3は、抗オボアルブミンscFvのVHCDR2領域内の14残基(位置56〜69)のそれぞれに、ロイシンアミノ酸を導入するための、LTMの適用例を示す。ロイシンLTMを実施する際、全ての可能なVHCDR2ロイシン位置的変種をコードする14の個別のオリゴヌクレオチド、このそれぞれが、抗オボアルブミン野生型配列に隣接した1つのロイシン置換コドン(太字)だけを有するものを、合成した(配列番号17〜33)。次いで合計で14の異なるペプチドを生成し、「望ましくない」かまたは複数の置換を持つ配列は生成しない。
【0100】
「複数の位置」にロイシンを導入することに対する代わりで、上記CDR2 LTMオリゴヌクレオチドの1つまたは複数を含まないことを選択することができる。したがって、例えば位置59および60のそれぞれに関するLTMオリゴヌクレオチド(配列番号20および21)を除外することができ、そのため改善されたルックスルー変異誘発(LTM2)は、位置56〜58および61〜69でのみ行うことができる。「複数の位置」を使用する種々の組合せに基づいて、LTM2の置換を、必ずしもCDR内のそれぞれおよび全ての位置に制限することなく、実施することができる。
【0101】
LTM CDR2ライブラリーを作成する手法を、図2および4にまとめる。個別のPCR反応、T1およびT2は、プライマー対、FR1センス(配列番号34)およびFR2アンチセンス(配列番号35)と、FR4アンチセンスプライマー(配列番号36)を持つ上記プールされたCDR−2LTMロイシンオリゴヌクレオチド(配列番号18〜33)をそれぞれ使用して実施する。プライマーFR1センスは、オボアルブミン遺伝子の5’末端からの配列を含有し、FR2アンチセンスは、オボアルブミンフレームワーク2の3’末端からのアンチセンス配列を含有し、その結果、オボアルブミンCDR1、フレームワーク領域1および2は、T1 PCR反応で増幅されるようになった(図2Aおよび2B)。プライマーFR4 ASは、オボアルブミン遺伝子の3’末端からのアンチセンス配列を含有し、CDR2 LTMオリゴヌクレオチドは、組み込まれたCDR2 LTMコドン変異を持つオボアルブミンCDR2領域の5’末端からの配列を含有し、それにより、オボアルブミンの残りの部分(断片CDR2、FR3、CDR3、FR4、および全VLセグメント)を増幅し、それと同時に変異誘発性コドンを組み込む。
【0102】
2重および3重のCDR変異(CDR1、2、および3の種々の組合せ)を、PCR鋳型として野生型オボアルブミン遺伝子を使用する代わりに上述のように生成し、前もって生成されたLTMオボアルブミンライブラリーを選択した。例えば、CDR1とCDR2の両方が野生型CDR3およびVLセグメントにより変異しているVH鎖を生成するために、前もって構成されたLTM CDR2変異体遺伝子を鋳型として使用し、次いでSOE−PCRを実施してCDR1オリゴヌクレオチドを取り込み、それによって2重LTM変異を生成した(図2および4にまとめた)。
【0103】
この実施例では、T3 PCR反応で、プライマー対 FR1センス(配列番号34)およびFR5アンチセンス(配列番号37)を使用して、フレームワーク領域1(FR1)を増幅させた。T4 PCR反応では、プールされたCDR1 LTMヒスチジンオリゴヌクレオチド(配列番号38〜41)をFR4アンチセンスプライマー(配列番号36)と共に使用して、オボアルブミンの残りのFR2、CDR2 LTM、FR3、CDR3、FR4、およびVL部分を増幅した(図4)。次いでT3およびT4 PCR反応混合物を精製し、両方からの等モルの一定分量を合わせてSOE−PCRにかけ(図4)、それによって、オボアルブミンscFv His CDR1およびLeu CDR2 2重LTMライブラリーを生成した。次いでオボアルブミン末端特異的5’Eco RIセンス(配列番号13)およびオボアルブミン3’Notlアンチセンスプライマー(配列番号12)の組を添加して、LTMオボアルブミン増幅およびpYPD1発現ベクターへのクローニングを促進させた。
【0104】
次いでHis CDR1およびLeu CDR2の2重LTMライブラリーを鋳型として使用して、さらにLTM CDR3オリゴヌクレオチドを組込み、それによって3重CDR LTMライブラリーを作成した。開始単一および2重LTMライブラリーを漸進的に利用することにより、VHおよびVLCDRの両方におけるLTMライブラリーの組合せのより複雑な配列を発生させた。例えば、図5の最上段の111ライブラリー鋳型として設計されるように、VH3重LTM CDR1、CDR2、およびCDR3ライブラリーを構成したら、LTM VLCDR1をVH111鋳型に導入することによって、4つのLTM CDRのライブラリーが生成される(図5)。
【0105】
図7に示されるFACSプロットは、オボアルブミンscFv結合分子が、前述のライブラリーの構成中に生成されたことを示す。特に、ビオチニル化オボアルブミンとストレプトアビジンFITCの分子は(「グリーン」の線)、ビオチニル化オボアルブミンおよびストレプトアビジンFITCを持つ空のベクターpYD1からのシグナル(濃い斜線部分)に比べて一桁大きいピークシグナル応答をもたらした。
【0106】
(実施例2)
強化された特性を持つ抗体の開発に関する、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化された特性を持つ例示的な単鎖抗体の、高スループットスクリーニングについて述べる。
【0107】
図9は、不均一なLTM2 scFvライブラリーからのオボアルブミン特異的高親和性結合クローンを豊富にするための、一般化したスキームを示す。ガラクトース培地に導入した後、酵母細胞ライブラリー(107)をPBS/BSA緩衝液(合計で500μl)中に再懸濁した。ビオチニル化オボアルブミンを、酵母懸濁液に添加して、最終濃度を50nMにし、振盪させながら2〜3時間、25℃でインキュベートした。酵母細胞をペレット化し、3回洗浄し、300μlの氷冷PBS/BSA緩衝液で再懸濁し、そこに1×108のストレプトアビジンで被覆した磁気ビーズを添加した。ビーズ細胞混合物を、逆さにすることによって穏かに混合しながら2分間、氷上でインキュベートし、それによって、酵母高親和性scFv発現細胞と、ビオチニル化オボアルブミンと、ストレプトアビジンで被覆された磁気ビーズとからなる結合複合体を形成した。次いで結合複合体を入れたカラム(試験管)を磁気カラムホルダに2分間装着し、その後、吸引によって上澄みを除去した。カラムを磁気ホルダから取り外し、300μlの氷冷PBS/BSAを添加して、結合体を再懸濁した。低親和性のこれらscFvクローンおよびその他の非特異的結合細胞を除去するために、結合複合体を再び洗浄した。
【0108】
次いでカラムを磁気ホルダから取り外し、その後すぐに、グルコース選択培地1mlを回収された酵母細胞に添加し、30℃で4時間インキュベートした。次いで磁気ホルダを、培養管に再び装着して、残りの磁気ビーズを全て除去した。次いで酵母培養物を、グルコース選択培地中で、30℃で48時間成長させた後、scFvをガラクトース選択培地に導入した。2回目の選択ステップでは、次いでオボアルブミン濃度を10nMから0.5nMに低下させた。オボアルブミン結合、複合体形成、酵母細胞の濃縮および再成長を、上述のように行った。最終的な3回目の選択ステップでは、オボアルブミン濃度をさらに0.1nMまで低下させた。
【0109】
上記漸進的な濃縮ステップからのオボアルブミンEC50結合または「適応度」を、FACSによって評価した(図8参照)。図8に示される結果は、前もって選択がなされていない(閉じた円)、最初に形質転換されたVHLTM CDR2酵母ライブラリー、ならびに結合剤のパーセントで表された全適応度(y軸)を示している。機能的抗オボアルブミンscFvを発現するクローンおよびそれらの親和性は、オボアルブミンEC50(x軸)により測定されるように、抗オボアルブミン野生型抗体に比べて劣っていた。しかし、1回目の選択ステップの後(10nM)、「適応度」曲線(薄い三角形)は、その結合剤のパーセントが改善しており、オボアルブミン結合のEC50は、オボアルブミン野生型と同じnM範囲内であった。2回目の選択ステップの後(0.1nM)、濃縮された集団(濃い三角形)は、その全「適応度」が、オボアルブミン野生型の場合(ベタ塗りの四角形)に近付いていることを示した(図10)。次いで個々の結合分析および配列決定用の単一のクローンを単離するために、第2の濃縮ステップから回収された酵母細胞を、固体培地上に置いた。
【0110】
代替の方法では、LTM2酵母細胞ライブラリーを、FACSによって、高親和性抗オボアルブミンscFvクローン用に濃縮した。ライブラリーの構成、形質変換、液体培地増殖、および誘導は、上述のように実施した。scFv誘導の後、細胞を、飽和濃度(400nM)のビオチニル化オボアルブミンと共に、25℃で3時間インキュベートした。細胞を洗浄した後、25℃の非標識のオボアルブミン(1uM)を使用して、40時間の低温追跡を行った。次いで細胞を、PBS/BSA緩衝液で2回洗浄し、ストレプトアビジンPE(2mg/ml)抗−HIS−FITC(25nM)で30分間、氷上で標識し、洗浄し、FACS分析に関して既に述べたように再懸濁した。
【0111】
野生型抗オボアルブミンを、最初にFACS分析して、酵母LTMライブラリーのFACS選別用に参照シグナルパターンを生成した(図8、左パネル)。オボアルブミンFACSプロットから、選択ゲート(R1台形)は、scFv融合を発現し(抗−HIS−FITCにより検出される)かつそれに付随して野生型抗オボアルブミンよりもオボアルブミンに対して高い親和性を表示する(より強力なPEシグナル)クローンだけが得られるように描かれた。図8(中央パネル)は、スクリーニングされた全LTMライブラリーの約5%が、R1ゲートによって選択されることを明示する。これらの高抗アルブミンscFvクローンをFACSにより収集した後、選別後FACS分析(図8、右パネル)を実施して、プレスクリーン抗オボアルブミンscFvクローンの>80%が所定の基準以内であることを確認した。次いでFACSにより選別されたscFvクローンを、30℃のグルコース選択培地中で48時間成長させ、固体培地上に蒔いて、個々のクローンを単離した。次いでクローンを、グルコース選択培地中で成長させ、ガラクトース選択培地中に再懸濁し、EC50および/またはkoff特性に関して分析した。
【0112】
(実施例3)
改善されたKoff率を持つ抗体の開発のための、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化されたKoff率を持つ、例示的な単鎖抗体の高スループットスクリーニングについて述べる。
【0113】
簡単に言うと、上記実施例から事前に選別されたクローンを、グルコース選択培地中で一晩成長させ、次いで固体培地上に置いて、単コロニーを単離した。単コロニーから、48時間振盪させながら30℃のグルコース選択培地中でクローンの液体培養物を成長させ、その後ペレット化し、ガラクトース選択培地中に適切なOD時間にわたり再懸濁させた。FACSによる事前選別では濃度が高まるが(約80%)、全ての望ましくないクローンはなくならないので、単離されたクローンのEC50は、抗オボアルブミン野生型参照抗体(上述の)よりも劣る結合値を表示するものをなくすと特徴付けられた。次いで、同等のまたは優れたEC50値を持つ単離物だけを、さらなるKoff分析用に選択した。
【0114】
候補分子の動態を分析するためのスキームを、図11に示す。具体的には、ガラクトース選択培地中に誘導後の酵母細胞(約5×106)をペレット化し、PBS/BSA緩衝液(1ml)中に再懸濁した。次いでビオチニル化したオボアルブミン(400nM最終濃度)を、再懸濁した細胞に添加し、連続して穏かに混合しながら25℃で2時間インキュベートした。次いでビオチニル化オボアルブミンと酵母細胞との複合体を洗浄し、PBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、次いで非標識のオボアルブミンを酵母細胞混合物に添加して(最終濃度1μMに)、これをさらに25℃で24時間インキュベートした。次いで次の24時間では、2時間ごとに、定期的にサンプルの一定分量を採取した。次いで細胞混合物を洗浄し、冷却したPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、抗体α−SAPE(2μg/ml)を染色した。定期的に混合しながら氷上で30分間インキュベートした後、細胞混合物を2回洗浄し、上述のようにFACSにより分析した。
【0115】
Koffアッセイからの結果(図12)は、2種のクローン(すなわち3ss−35;3ss−30)が、野生型抗オボアルブミン抗体に比べてより高い相対Koffを有することを実証した。言い換えると、結合したビオチニル化オボアルブミンを、24時間のサンプリング期間中に非標識オボアルブミンと交換する場合、3ss−35および3ss−30は、最初の8時間にわたってMFI(平均蛍光強度)が非常に急激に低下することを示す抗オボアルブミン野生型(四角、図12)に比べて、前に結合したビオチニル化オボアルブミンを非常に遅い速度で放出した(図12中、それぞれ円および三角形)。
【0116】
(実施例4)
改善されたEC50結合を持つ抗体の開発に関する、高スループットライブラリースクリーニング
この実施例では、強化されたEC50結合活性を持つ、例示的な単鎖抗体の高スループットスクリーニングについて述べる。
【0117】
簡単に言うと、所定量の酵母細胞(40μl中、8×105細胞)抗オボアルブミンscFv(野生型およびLTMライブラリー)を、1:4の連続希釈のビオチニル化オボアルブミン(200nM、50nM、12.5nM、3.1nM、0.78nM、および0.19nM最終濃度、合計体積は80μl)と共に、20℃で45分間インキュベートした後、氷上に5〜10分間置いた。次いで酵母細胞を洗浄し、5mlのPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、その後、ストレプトアビジン−PE(2mg/ml)およびαHIS−FITC(25nM)を添加して、氷上での30分間のインキュベーション中に細胞を標識した。もう1回洗浄を行った後、400μlのPBS/BSA緩衝液中に再懸濁し、CellQuestソフトウェアを使用したFACSスキャンで分析をした。
【0118】
図13は、より低いEC50値を有する、抗オボアルブミンに比べて改善されたクローンの一部を例示する(結合曲線は、野生型よりも左にシフトしている)。抗オボアルブミン野生型と比べたときの、これらの相対EC50値と、何倍増加したかが示されている。例えばクローンH3 S101Qは、オボアルブミン結合が2.1倍改善されたことを示した。このクローンH3 S101Qの名称表示は、VHCDR3グルタミンLTM単一ライブラリーから得たものであることを示している。
【0119】
生成された、結果的に得られる強化された結合親和性抗体は、強化された結合活性に関連付けられた抗オボアルブミン抗体のVHおよびVLCDRにおける有益なアミノ酸変異のマップを提供する。強化型親和性scFv抗体に関連した推定上の個々のアミノ酸VHおよびVLCDR変異を、図13に示す。変異は、VHおよびVLCDR、単一、2重、および3重CDR変異のそれぞれに見出され、試験がなされた9種の異なるアミノ酸のそれぞれを含む。図13は、上記EC50および/または動態(Koff)スクリーンから特定された4種の独立のVHCDR−H3 H3 G102Kクローンを回収できることを例示する。EC50スクリーン(図14)からの2重LTM VLL1L2 S166H S193H変異体も、これら2種のCDR1 S166H置換とCDR2 S193H置換との間に相乗効果があるときに、強化されたオボアルブミン結合が生ずることを示している。
【0120】
結果は、VHまたはVL鎖の1つ、2つ、または3つ全てのCDRに単一変異を含有するコード配列を使用して上記EC50および/またはKoff法に基づき選択された、scFv抗オボアルブミン抗体の独自の配列を得ることができることも示す(図14参照)。アミノ酸置換のいくつかは、あるCDR内では、より高い優位性で回収されることがわかった。例えばVHCDR1の場合、7つの独立した単一Lys置換が、D30K、Y31K、M33K、およびW35Kの位置にあった。CDR1内でのLysの高い優位性は、抗原接触中にCDR1から与えられる正電荷の純増があるときに、強化されたオボアルブミン結合が生ずることを示している。回復されたアミノ酸置換の試験は、VHCDR2およびCDR3に好ましい置換が生ずることも明らかにした。例えば、複数の散乱したLys置換はCDR2に生ずるが、CDR3は、濃度が高められたG102KおよびG104K置換を表示することが観察された。結果はさらに、複数のGln置換、別の極性アミノ酸が、位置107、108、109、および111でCDR3に存在したことも明らかにしている。これらの結果は、これらの置換されたCDR残基に接触するオボアルブミン上に、対応する負および/または親水性電荷の独自の「化学モチーフ」があることを示す。
【0121】
したがって、試験がなされた9種の異なるアミノ酸のそれぞれによる、全てのCDRの変異誘発後に各CDR内で回復された強化型抗原結合変異を配列し、結果を図14に示す。各CDRは、変異が見出されない少なくとも1つの位置、例えばVHCDR2内のIle57、Asn58、およびGly62の位置、VHCDR3領域の位置Tyr103、Ser105、Arg106、およびAla121を表示することも決定した。VL位置の場合、CDR1のR164、A165、V169、およびN174、CDR2のN194、CDR3のE208およびD209は、大規模なスクリーニングの後に置換されないことがわかった。これらの結果は、「ホットスポット」置換位置および上述のように回復された任意のタイプの好ましいアミノ酸に加え、「コールドスポット」CDR位置もあることを示している。「コールドスポット」位置は、置換のいずれかが、抗原結合の利点を与えずまたは劣っている結合特性を与えることを示す。
【0122】
(実施例5)
コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発を実施するための方法
この実施例では、コンビナトリアルベネフィシャル変異誘発を実施するための方法について述べる。
【0123】
簡単に言うと、この方法は、LTMを使用して見出された有益な変異を取り込み、これらを一緒に組み合わせて単一のライブラリーにする。したがって、複数の変異の相乗効果をこのプロセスで模索することができる。このコンビナトリアル手法は、CDR内で選択されたコドン置換が、LTMによって特定された種々の有益なアミノ酸置換であること以外、WTM法に似ている。したがって、抗体CDR内の全ての残基位置が変異を含有するわけではなく、いくつかの位置が、その位置で置換された複数の異なるアミノ酸を有することになる。全体として、CDRまたは抗体鎖中の、全てではないとしても多くの有益な変異の組合せは、ライブラリー内のコード配列の少なくとも1つにより表されることになる。以下に示すように、このコード配列ライブラリーは、可変コード領域内のそれぞれの異なる位置で単一アミノ酸に複数のコドンを配置する代わりに、導入されたコドンがLTM法で検出された全ての有益な変異に対応するものであること以外、WTM法の修正によって作成することができる。
【0124】
この実施例では、コンビナトリアルベネフィシャル重鎖CDR1ライブラリーを、図14に記載される改善された抗オボアルブミン変種を使用して構成する。第1のアミノ酸位置30は、Asp(野生型)およびLysを(最低でも)コードし、位置31はTyrおよびLysを、位置32はAsnおよびTyrを、位置33はMet、His、およびLysを、位置34はAspおよびProを、位置35はTrpおよびLysをコードする。DNA配列は、LTM分析により特定されたコンビナトリアルベネフィシャル変異を取り込む変性CDR1オリゴヌクレオチドによって表される(表1)。
【0125】
【表1】
【0126】
同様のプロセスを、全てのCDRループで実施して、6−CDRベネフィシャルライブラリーを生成することができ、またはサブライブラリーを生成し、これらを組み合わせてスクリーニングすることができる。例えばライブラリーのサイズが、単一のライブラリー内でスクリーニングするには大きすぎる場合、より小さいサブライブラリーを生成することができる。例えば、3−CDR重鎖ライブラリーおよび3−CDR軽鎖ライブラリーを、より高い効率のために生成することができる。スクリーニング後、重鎖および軽鎖ライブラリーの有益な変異をさらに組み合わせて、適切なループ内に変異を取り込んだ単一ライブラリーにすることができる。
【0127】
均等物
当業者なら、本明細書に記述される本発明の特定の実施形態に関する多くの均等物を理解するであろうし、またはこれら均等物を、日常的な試験しか使用せずに確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】より有益な一部の候補分子が得られかつスクリーニングされるように、機能的アミノ酸が非機能的アミノ酸とは区別される、LTMにも勝って改善されたLTM(LTM2)の利点を示す図である。
【図2】より大きい遺伝子のコンテキストに、機能的アミノ酸残基を特定する抗体重鎖および軽鎖の規定の領域を構築するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用するための概略的手法を示す図である。
【図3】合成単鎖抗体(scFv)抗オボアルブミン遺伝子コンテキスト内の、可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)CDRの配列を示す図である。LTMの適用例では、ロイシンアミノ酸を、抗体のVHCDR2内の14の残基56〜69のそれぞれに導入する。LTM2の適用例に関しては、機能的であることが確認されたものだけを、変異誘発によってさらに探索する。
【図4】LTM VHCDR2ライブラリーの生成、多数のLTM VHCDRライブラリーの生成、VHおよびVLCDRの両方を含むLTMライブラリーの組合せのアレイのための、単一オーバーラップ伸長ポリメラーゼ連鎖反応(SOE−PCR)を示す図である。
【図5】本発明のライブラリーの多様性を示す図であり、この行列のx軸およびy軸は、軽鎖および重鎖のそれぞれのCDRを表し、ただし「0」は野生型CDRを示し、「1」は変異したCDRを示し、交差点にある数は、得られるサブセットライブラリーの複雑さを表す(例えば4は、4つのCDRが同時に変異することを意味する)。
【図6】機能(表現型)および対応するコード配列(遺伝子型)の効率的な特定のため、酵母表面の対象のタンパク質、例えば本発明のポリペプチド類似体を表示するための、酵母発現ベクターの概略を示す図である。
【図7】ビオチニル化オボアルブミンおよびストレプトアビジンFITCと野生型抗オボアルブミンscFvとの結合(灰色の線)、pYD1ベクター単独(忠実な灰色領域)、および対照scFv(黒線)の、蛍光活性化セルソータ(FACS(商標))によるプロットを示す図である。
【図8】プレスクリーン抗オボアルブミンscFvクローンの>80%が所定の基準内にあることを確認するための、抗オボアルブミン野生型抗体(左パネル)、全LTMライブラリーの結合親和性の分布(中央パネル)、および選別後FACS分析(右パネル)よりも、オボアルブミンに対してより高い結合親和性を持つscFv融合を発現するこれらLTMクローンのみを特定するための選択ゲート(R1台形)を示す、蛍光活性化セルソータ(FACS(商標))によるプロットを示す図である。
【図9】平衡結合動態に基づいて改善される結合親和性のために(例えばオボアルブミンに対して)、本発明に従って形成されるscFv抗体(例えば抗オボアルブミン)をスクリーニングするステップを示す図である。
【図10】選択前(円)、選択の一巡後(薄い三角形)、選択の二巡後(濃い三角形)の、抗オボアルブミンscFv発現細胞と、抗オボアルブミン野生型参照抗体(黒い四角)とに関する平衡結合曲線を示す図である。
【図11】試験抗原オボアルブミンを使用して、特定の結合動態、例えば抗体Koff定数に基づく高い結合親和性に関して本発明により形成された抗体をスクリーニングするための、典型的なステップを示す図である。
【図12】本発明の方法を使用する、2つのクローンにおいて強化された特性(すなわち、参照抗体(四角)に比べてより高い相対Koff)の確認を示す図である。
【図13】抗オボアルブミン野生型参照抗体対照(四角)よりも低いEC50値を有する、改善されたクローンのサブセットの、強化された特性(野生型よりも良好な倍率参照)を示す図である。
【図14】例示的な抗体の機能的(ホットスポット)および非機能的(コールドスポット)アミノ酸位置を表すマトリックスを示す図である。平衡結合(EC50)および/または動態結合実験に基づき強化された親和性(参照野生型抗体に比べて)に伴う変異は、VHおよびVLCDR位置のそれぞれの下に示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あるポリペプチド内で、1つまたは複数の機能的アミノ酸残基を、非機能的アミノ酸残基と区別する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列内の1つまたは複数のアミノ酸残基を選択するステップと、
選択された1つまたは複数のアミノ酸残基から置換されるあるアミノ酸残基を決定するステップと、
選択されたアミノ酸残基を含む該ポリペプチドまたはその部分をコードするポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基の合成に必要なコドンまたは該所定のアミノ酸残基の1つに対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種アミノ酸置換を示すものであり、それによって、該ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成するステップと、
発現ライブラリーを発現させて、ポリヌクレオチド類似体を生成するステップと、
該ポリペプチドまたはその部分内の1つまたは複数のアミノ酸残基が、測定可能な特性に寄与することが確認され、したがって非機能的アミノ酸残基と区別されるように、測定可能な特性の変化に関してポリペプチド類似体をスクリーニングするステップと
を含む方法。
【請求項2】
測定可能な特性に寄与することが確認されたアミノ酸残基が、変異誘発に適切であると決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非機能的残基が、変異誘発には不適当であると決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
変異誘発が、ルックスルー変異誘発(LTM)、ウォークスルー変異誘発(WTM)、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ポリペプチドが、抗体またはその断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
測定可能な特性が、結合特異性、結合活性、結合親和性、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、溶解性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
測定可能な特性に変化のある、選択されたポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドを特定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
測定可能な特性の変化が、強化された特性である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
強化された特性が、高親和性抗原結合である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
強化された特性が、改善されたエフェクター機能である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
抗原が、ヒトの疾患または障害の治療標的である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
スクリーニングするステップが、ポリペプチドと標的基質とを接触させることを含み、該ポリペプチドは、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに結び付いており、該ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、標的基質に結合することが可能な変種ポリペプチドが検出されるように、かつそれによってポリヌクレオチドによりコードされることが確認されるように、検出可能な部分に結び付いている請求項1に記載の方法。
【請求項14】
検出可能な部分が、蛍光部分、UV部分、および可視光吸収部分からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
検出可能な部分が、ビオチン部分、GST部分、myc免疫タグ部分、およびHisタグ部分からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチドが、リボソームディスプレイ、ポリソームディスプレイ、ファージディスプレイ、原核(細菌)ディスプレイ、酵母ディスプレイ、真核細胞ディスプレイ、およびアレイライブラリーディスプレイからなる群から選択された発現ディスプレイを使用してポリペプチド類似体に結び付いている、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ポリペプチドが、単鎖抗体(scFVs)である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
規定の領域が、ポリペプチドの機能的ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
規定の領域が、CDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、CDR6、およびこれらの組合せからなる群から選択されたCDRまたはその部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
規定の領域が、FR1、FR2、FR3、FR4、およびこれらの組合せからなる群から選択されたドメインを含む抗体フレームワーク領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
規定の領域が、補体結合部位およびFc受容体結合領域からなる群から選択されたドメインを含む抗体エフェクター領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
所定のアミノ酸残基が、Ser、Thr、Asn、Gln、Tyr、Cys、His、Glu、Asp、Lys、Arg、Ala、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、およびValからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
所定のアミノ酸残基がポリペプチドの規定の領域内の1つまたは複数の機能的アミノ酸位置に現れる、ポリペプチド類似体のライブラリーを生成する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域内の、1つまたは複数の機能的アミノ酸位置を選択するステップと、
規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換されるアミノ酸残基を決定するステップと、
規定の領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各機能的アミノ酸コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは該所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種ポリヌクレオチドを表すものであり、それによって、所定のアミノ酸残基が規定の領域内の各機能的アミノ酸位置に現れる、ポリヌクレオチドのライブラリーを生成するステップと
を含む方法。
【請求項24】
ポリヌクレオチドが一緒にプールされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチド内の規定の領域内の2つ以上の機能的アミノ酸位置が変異誘発される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
同じ所定のアミノ酸が、2つ以上の機能的アミノ酸位置のそれぞれにおける置換のために選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
異なる所定のアミノ酸が、2つ以上の機能的アミノ酸位置のそれぞれにおける置換のためにそれぞれ選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
1つまたは複数の規定の領域が、ポリペプチドの機能的ドメインを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
機能的ドメインが、抗体結合部位、抗体フレームワーク領域、抗体エフェクター領域、受容体結合部位、および触媒部位からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗体結合部位またはその部分が、CDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、CDR6、およびこれらの組合せからなる群から選択されたCDRドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
抗体フレームワーク領域が、FR1、FR2、FR3、FR4、およびこれらの組合せからなる群から選択されたドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
抗体エフェクター領域が、補体結合部位およびFc結合領域からなる群から選択されたドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
所定のアミノ酸残基が、Ser、Thr、Asn、Gln、Tyr、Cys、His、Glu、Asp、Lys、Arg、Ala、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、およびValからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
規定の領域が、少なくとも約3から60個のアミノ酸を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
ポリヌクレオチドを発現ライブラリーとして合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
ポリヌクレオチドを、酵素手段を使用して合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
ポリヌクレオチドを、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項38】
ライブラリーが、リボソームディスプレイライブラリー、ポリソームディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、真核細胞ディスプレイライブラリー、およびアレイディスプレイライブラリーからなる群から選択された発現ライブラリーである、請求項23に記載の方法。
【請求項39】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項23に記載の方法。
【請求項40】
請求項23に記載の方法によって調製されたポリペプチド類似体のライブラリー。
【請求項41】
規定の領域内に1つまたは複数の機能的アミノ酸残基を含むポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドノライブラリーであって、所定のアミノ酸残基が規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換され、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う全ての可能な変種を表すものである、ライブラリー。
【請求項42】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項43】
ライブラリーが、ファージディスプレイライブラリー、リボソーム/ポリソームディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、およびアレイライブラリーからなる群から選択された発現ライブラリーである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項44】
ポリヌクレオチドが、1つまたは複数の転写調節要素をさらに含む、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項45】
ポリヌクレオチドが、生体外で転写され翻訳されるとき、対応するポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドに結び付いている、請求項44に記載のライブラリー。
【請求項46】
ポリヌクレオチドが、リボソームディスプレイライブラリー、ポリソームディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、真核細胞ディスプレイライブラリー、およびアレイディスプレイライブラリーからなる群から選択されたディスプレイライブラリーを使用してポリペプチドに結び付いている、請求項45に記載のライブラリー。
【請求項47】
ポリヌクレオチドがRNAを含む、請求項46に記載のライブラリー。
【請求項48】
ポリヌクレオチドが、検出可能な部分をさらに含む、請求項47に記載のライブラリー。
【請求項49】
検出可能な部分が蛍光部分を含む、請求項48に記載のライブラリー。
【請求項50】
ライブラリーが、少なくとも45から1012の異なるポリヌクレオチドを含む、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項51】
ポリペプチドが、結合ポリペプチドをコードする、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項52】
結合ポリペプチドが、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項53】
ライブラリーが固体支持体に固定化される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項54】
固体支持体がマイクロチップである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項55】
ライブラリーがアレイライブラリーである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項56】
請求項41に記載のライブラリーにより固定化されたポリヌクレオチドのアレイを含むマイクロチップ。
【請求項57】
ポリペプチドが、標的分子に結合し、かつ重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択された結合領域を含む、請求項41に記載のライブラリーを使用して特定されたポリペプチド類似体。
【請求項58】
所望の特性を有するポリペプチド類似体のサブセットを特定する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域内の、1つまたは複数の機能的アミノ酸を選択するステップと、
規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換されるアミノ酸残基を決定するステップと、
規定の領域をコードするポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基の合成に必要なコドンまたは所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種ポリヌクレオチドを表すものであり、それによって、ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成するステップと、
発現ライブラリーを、該ライブラリーが発現する条件にさらすステップと、
該発現ライブラリーをスクリーニングして、所望の特性を有するポリペプチドを特定するステップと、
対照基準と比べてポリペプチドの特性を比較するステップであって、対照基準に相当しまたは超えるポリペプチドが応答物として分類され、対照基準に達しないポリペプチドが非応答物として分類されるステップと、
応答物および非応答物をデータベース内で分類するステップと、
該データベースに照会して、合成されるサブセットのポリペプチドの配列を決定するステップと
を含む方法。
【請求項59】
上記ステップの1つまたは複数がコンピュータにより支援される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
特性が、変化した結合特異性、変化した結合オンレート(kon)、変化した結合オフレート(koff)、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
対照基準が、結合特異性、結合活性、結合親和性、エフェクター機能、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、溶解性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
ポリペプチドが、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
請求項59に記載の方法の1つまたは複数のステップを実施するための取扱説明書を有する電子機器で使用するのに適切な培地。
【請求項64】
請求項59に記載の方法の1つまたは複数のステップを実施するための機器。
【請求項65】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基で所定のアミノ酸置換をコードするポリヌクレオチドを含み、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、変化した結合特異性、変化した結合活性、変化した結合親和性、変化したFc結合活性、変化した結合オンレート(kon)、変化した結合オフレート(koff)、およびこれらの組合せからなる群から選択された特性を強化するための変異誘発に適切な全ての可能な変種を表すものである、抗体またはその結合部位をコードするポリヌクレオチドのライブラリー。
【請求項66】
請求項65に記載のライブラリーから得られた抗体またはその結合部分。
【請求項1】
あるポリペプチド内で、1つまたは複数の機能的アミノ酸残基を、非機能的アミノ酸残基と区別する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列内の1つまたは複数のアミノ酸残基を選択するステップと、
選択された1つまたは複数のアミノ酸残基から置換されるあるアミノ酸残基を決定するステップと、
選択されたアミノ酸残基を含む該ポリペプチドまたはその部分をコードするポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基の合成に必要なコドンまたは該所定のアミノ酸残基の1つに対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種アミノ酸置換を示すものであり、それによって、該ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成するステップと、
発現ライブラリーを発現させて、ポリヌクレオチド類似体を生成するステップと、
該ポリペプチドまたはその部分内の1つまたは複数のアミノ酸残基が、測定可能な特性に寄与することが確認され、したがって非機能的アミノ酸残基と区別されるように、測定可能な特性の変化に関してポリペプチド類似体をスクリーニングするステップと
を含む方法。
【請求項2】
測定可能な特性に寄与することが確認されたアミノ酸残基が、変異誘発に適切であると決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非機能的残基が、変異誘発には不適当であると決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
変異誘発が、ルックスルー変異誘発(LTM)、ウォークスルー変異誘発(WTM)、またはこれらの組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ポリペプチドが、抗体またはその断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
測定可能な特性が、結合特異性、結合活性、結合親和性、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、溶解性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
測定可能な特性に変化のある、選択されたポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドを特定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
測定可能な特性の変化が、強化された特性である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
強化された特性が、高親和性抗原結合である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
強化された特性が、改善されたエフェクター機能である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
抗原が、ヒトの疾患または障害の治療標的である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
スクリーニングするステップが、ポリペプチドと標的基質とを接触させることを含み、該ポリペプチドは、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに結び付いており、該ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、標的基質に結合することが可能な変種ポリペプチドが検出されるように、かつそれによってポリヌクレオチドによりコードされることが確認されるように、検出可能な部分に結び付いている請求項1に記載の方法。
【請求項14】
検出可能な部分が、蛍光部分、UV部分、および可視光吸収部分からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
検出可能な部分が、ビオチン部分、GST部分、myc免疫タグ部分、およびHisタグ部分からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチドが、リボソームディスプレイ、ポリソームディスプレイ、ファージディスプレイ、原核(細菌)ディスプレイ、酵母ディスプレイ、真核細胞ディスプレイ、およびアレイライブラリーディスプレイからなる群から選択された発現ディスプレイを使用してポリペプチド類似体に結び付いている、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
ポリペプチドが、単鎖抗体(scFVs)である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
規定の領域が、ポリペプチドの機能的ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
規定の領域が、CDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、CDR6、およびこれらの組合せからなる群から選択されたCDRまたはその部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
規定の領域が、FR1、FR2、FR3、FR4、およびこれらの組合せからなる群から選択されたドメインを含む抗体フレームワーク領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
規定の領域が、補体結合部位およびFc受容体結合領域からなる群から選択されたドメインを含む抗体エフェクター領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
所定のアミノ酸残基が、Ser、Thr、Asn、Gln、Tyr、Cys、His、Glu、Asp、Lys、Arg、Ala、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、およびValからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
所定のアミノ酸残基がポリペプチドの規定の領域内の1つまたは複数の機能的アミノ酸位置に現れる、ポリペプチド類似体のライブラリーを生成する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域内の、1つまたは複数の機能的アミノ酸位置を選択するステップと、
規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換されるアミノ酸残基を決定するステップと、
規定の領域をコードする個々のポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各機能的アミノ酸コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは該所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種ポリヌクレオチドを表すものであり、それによって、所定のアミノ酸残基が規定の領域内の各機能的アミノ酸位置に現れる、ポリヌクレオチドのライブラリーを生成するステップと
を含む方法。
【請求項24】
ポリヌクレオチドが一緒にプールされる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチド内の規定の領域内の2つ以上の機能的アミノ酸位置が変異誘発される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
同じ所定のアミノ酸が、2つ以上の機能的アミノ酸位置のそれぞれにおける置換のために選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
異なる所定のアミノ酸が、2つ以上の機能的アミノ酸位置のそれぞれにおける置換のためにそれぞれ選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
1つまたは複数の規定の領域が、ポリペプチドの機能的ドメインを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
機能的ドメインが、抗体結合部位、抗体フレームワーク領域、抗体エフェクター領域、受容体結合部位、および触媒部位からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
抗体結合部位またはその部分が、CDR1、CDR2、CDR3、CDR4、CDR5、CDR6、およびこれらの組合せからなる群から選択されたCDRドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
抗体フレームワーク領域が、FR1、FR2、FR3、FR4、およびこれらの組合せからなる群から選択されたドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
抗体エフェクター領域が、補体結合部位およびFc結合領域からなる群から選択されたドメインを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
所定のアミノ酸残基が、Ser、Thr、Asn、Gln、Tyr、Cys、His、Glu、Asp、Lys、Arg、Ala、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、およびValからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
規定の領域が、少なくとも約3から60個のアミノ酸を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
ポリヌクレオチドを発現ライブラリーとして合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項36】
ポリヌクレオチドを、酵素手段を使用して合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項37】
ポリヌクレオチドを、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して合成する、請求項23に記載の方法。
【請求項38】
ライブラリーが、リボソームディスプレイライブラリー、ポリソームディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、真核細胞ディスプレイライブラリー、およびアレイディスプレイライブラリーからなる群から選択された発現ライブラリーである、請求項23に記載の方法。
【請求項39】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項23に記載の方法。
【請求項40】
請求項23に記載の方法によって調製されたポリペプチド類似体のライブラリー。
【請求項41】
規定の領域内に1つまたは複数の機能的アミノ酸残基を含むポリペプチド類似体をコードするポリヌクレオチドノライブラリーであって、所定のアミノ酸残基が規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換され、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基に必要なコドンまたは所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う全ての可能な変種を表すものである、ライブラリー。
【請求項42】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基だけが変異誘発される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項43】
ライブラリーが、ファージディスプレイライブラリー、リボソーム/ポリソームディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、およびアレイライブラリーからなる群から選択された発現ライブラリーである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項44】
ポリヌクレオチドが、1つまたは複数の転写調節要素をさらに含む、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項45】
ポリヌクレオチドが、生体外で転写され翻訳されるとき、対応するポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドに結び付いている、請求項44に記載のライブラリー。
【請求項46】
ポリヌクレオチドが、リボソームディスプレイライブラリー、ポリソームディスプレイライブラリー、原核(細菌)ディスプレイライブラリー、酵母ディスプレイライブラリー、真核細胞ディスプレイライブラリー、およびアレイディスプレイライブラリーからなる群から選択されたディスプレイライブラリーを使用してポリペプチドに結び付いている、請求項45に記載のライブラリー。
【請求項47】
ポリヌクレオチドがRNAを含む、請求項46に記載のライブラリー。
【請求項48】
ポリヌクレオチドが、検出可能な部分をさらに含む、請求項47に記載のライブラリー。
【請求項49】
検出可能な部分が蛍光部分を含む、請求項48に記載のライブラリー。
【請求項50】
ライブラリーが、少なくとも45から1012の異なるポリヌクレオチドを含む、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項51】
ポリペプチドが、結合ポリペプチドをコードする、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項52】
結合ポリペプチドが、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項53】
ライブラリーが固体支持体に固定化される、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項54】
固体支持体がマイクロチップである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項55】
ライブラリーがアレイライブラリーである、請求項41に記載のライブラリー。
【請求項56】
請求項41に記載のライブラリーにより固定化されたポリヌクレオチドのアレイを含むマイクロチップ。
【請求項57】
ポリペプチドが、標的分子に結合し、かつ重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択された結合領域を含む、請求項41に記載のライブラリーを使用して特定されたポリペプチド類似体。
【請求項58】
所望の特性を有するポリペプチド類似体のサブセットを特定する方法であって、
該ポリペプチドのアミノ酸配列の規定の領域内の、1つまたは複数の機能的アミノ酸を選択するステップと、
規定の領域内の各機能的アミノ酸位置で置換されるアミノ酸残基を決定するステップと、
規定の領域をコードするポリヌクレオチドを合成するステップであって、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、下記の基準、すなわち
i)各ポリヌクレオチドは、規定の領域内の各コドン位置に、該ポリペプチドのアミノ酸残基の合成に必要なコドンまたは所定のアミノ酸残基に対するコドンを含有すること、および
ii)各ポリヌクレオチドは、該所定のアミノ酸残基に対するただ1つのコドンを含有すること
という基準に従う可能な変種ポリヌクレオチドを表すものであり、それによって、ポリヌクレオチドを含有する発現ライブラリーを生成するステップと、
発現ライブラリーを、該ライブラリーが発現する条件にさらすステップと、
該発現ライブラリーをスクリーニングして、所望の特性を有するポリペプチドを特定するステップと、
対照基準と比べてポリペプチドの特性を比較するステップであって、対照基準に相当しまたは超えるポリペプチドが応答物として分類され、対照基準に達しないポリペプチドが非応答物として分類されるステップと、
応答物および非応答物をデータベース内で分類するステップと、
該データベースに照会して、合成されるサブセットのポリペプチドの配列を決定するステップと
を含む方法。
【請求項59】
上記ステップの1つまたは複数がコンピュータにより支援される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
特性が、変化した結合特異性、変化した結合オンレート(kon)、変化した結合オフレート(koff)、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
対照基準が、結合特異性、結合活性、結合親和性、エフェクター機能、Fc受容体結合、グリコシル化、補体結合、半減期安定性、溶解性、熱安定性、触媒活性、および酵素活性からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項62】
ポリペプチドが、重鎖可変領域(VH)、軽鎖可変領域(VL)、および単鎖抗体(scFv)からなる群から選択される、請求項58に記載の方法。
【請求項63】
請求項59に記載の方法の1つまたは複数のステップを実施するための取扱説明書を有する電子機器で使用するのに適切な培地。
【請求項64】
請求項59に記載の方法の1つまたは複数のステップを実施するための機器。
【請求項65】
1つまたは複数の機能的アミノ酸残基で所定のアミノ酸置換をコードするポリヌクレオチドを含み、該ポリヌクレオチドは1つにまとまって、変化した結合特異性、変化した結合活性、変化した結合親和性、変化したFc結合活性、変化した結合オンレート(kon)、変化した結合オフレート(koff)、およびこれらの組合せからなる群から選択された特性を強化するための変異誘発に適切な全ての可能な変種を表すものである、抗体またはその結合部位をコードするポリヌクレオチドのライブラリー。
【請求項66】
請求項65に記載のライブラリーから得られた抗体またはその結合部分。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2008−505642(P2008−505642A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520506(P2007−520506)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/024140
【国際公開番号】WO2006/023144
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(306048616)バイオレン,インク. (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/024140
【国際公開番号】WO2006/023144
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(306048616)バイオレン,インク. (5)
【Fターム(参考)】
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