説明

強磁性金属粒子粉末の製造法、及び強磁性金属粒子粉末、並びに磁気記録媒体

【課題】 本発明は、磁気特性と耐酸化性が同時に改善された鉄を主成分とする強磁性金属粒子粉末とその製造法を提供する。
【解決手段】 平均長軸径が60nm以下の微細な粒子でありながら、磁気特性と耐酸化性が同時に改善された鉄を主成分とする強磁性金属粒子粉末は、ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均長軸径が60nm以下の微細な粒子でありながら、磁気特性と共に耐酸化性を改善させることのできる強磁性金属磁性粒子粉末の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録技術は、従来、オーディオ用、ビデオ用、コンピューター用等をはじめとしてさまざまな分野で幅広く用いられている。近年、機器の小型軽量化、記録の長時間化及び記録容量の増大等が求められており、記録媒体に対しては、記録密度のより一層の向上が望まれている。
【0003】
従来の磁気記録媒体に対してより高密度記録を行うためには、高いC/N比が必要であり、ノイズ(N)が低く、再生出力(C)が高いことが求められている。近年では、これまで用いられていた誘導型磁気ヘッドに替わり、磁気抵抗型ヘッド(MRヘッド)や巨大磁気抵抗型ヘッド(GMRヘッド)等の高感度ヘッドが開発されており、これらは誘導型磁気ヘッドに比べて再生出力が得られやすいことから、高いC/N比を得るためには、出力を上げるよりもノイズを低減する方が重要となってきている。
【0004】
磁気記録媒体のノイズは、粒子性ノイズと磁気記録媒体の表面性に起因して発生する表面性ノイズに大別される。粒子性ノイズの場合、粒子サイズの影響が大きく、微粒子であるほどノイズ低減に有利であることから、磁気記録媒体に用いる磁性粒子粉末の粒子サイズはできるだけ小さいことが必要となる。
【0005】
しかしながら、磁性粒子粉末の微細化が進むと結晶粒の体積が減少し、結晶磁化が不安定になり磁性を失うこと(スーパーパラマグネティズム)が知られており、磁性粒子粉末の超微細な粒子成分の存在によって磁気特性が低下することが知られている。
【0006】
また、鉄を主成分とする金属磁性粒子粉末の場合、微細化すると、加熱還元工程後、空気中に取り出したときに、空気中の酸素により酸化反応が急激に進行して発火したり、大幅な磁気特性の低下を起こしたりしてしまうため、通常、酸化被膜層を形成することにより安定性が保たれている。該酸化被膜層は、厚くすることによって前述のような発火現象をより抑制できると共に、磁気特性の経時劣化が少ない、即ち保存安定性の優れた磁性粒子粉末と磁気記録媒体を得ることが可能となるが、酸化被膜層を厚くすると磁気特性は低下する傾向にあるため、高い磁気特性と耐酸化性を同時に満足させることは困難である。
【0007】
これまでに、鉄を主体とする強磁性金属微粒子の安定化を目的として、強磁性金属微粒子表面に徐酸化より酸化被膜を形成させた後、不活性ガス雰囲気下で加熱処理をする製造法(特許文献1及び特許文献2)が提案されている。
【0008】
また、平均長軸長が20〜80nmの鉄を主成分とするメタル粉を、実質上酸素が存在しない条件下純水と反応させて粒子表面に金属酸化膜を形成することによって、磁気特性を維持しながら耐酸化性を改善させた金属磁性粉末(特許文献3)が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−154112号公報
【特許文献2】特開平10−17901号公報
【特許文献3】特開2007−173864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
平均長軸径が60nm以下の微細な粒子でありながら、磁気特性と耐酸化性を同時に改善する強磁性金属粒子粉末の製造法は現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0011】
即ち、前記特許文献1には、強磁性金属微粒子表面に徐酸化より酸化被膜を形成させた後、不活性ガス雰囲気下で100〜500℃で加熱処理をする方法が記載されているが、酸化被膜を形成させた金属粒子粉末のBET比表面積値はいずれも65m/g未満であることから微細な粒子とは言いがたく、そのため、酸化被膜を形成させた金属粒子粉末の保磁力に対して得られた強磁性金属微粒子粉末の保磁力はほぼ変わりなく、磁気特性の向上効果が得られていない。
【0012】
また、前記特許文献2には、合金磁性粒子を酸素含有ガス雰囲気下で徐酸化した後、不活性ガス雰囲気下で120〜450℃で加熱処理をし、再度酸素含有ガス雰囲気下で徐酸化をする方法が記載されているが、合金磁性粒子粉末の平均粒子径はいずれも60nmより大きいことから微細な粒子とは言いがたく、そのため、後出比較例に示す通り、酸化被膜を形成させた金属粒子粉末の保磁力に対して得られた強磁性金属微粒子粉末の保磁力はほぼ変わりなく、磁気特性の向上効果が得られていない。
【0013】
また、前記特許文献3には、金属磁性粉末の磁気特性を維持しながら耐酸化性を改善させる方法として、平均長軸長が20〜80nmの鉄を主成分とするメタル粉を、実質上酸素が存在しない条件下純水と反応させて粒子表面に金属酸化膜を形成することが記載されているが、金属酸化膜を形成後、窒素ガス雰囲気下で60〜90℃の温度範囲で乾燥を行ってはいるものの、後述比較例に示すとおり、加熱処理温度が低すぎるため、磁気特性の向上効果を得ることは困難である。
【0014】
そこで、本発明は、微細な粒子、殊に、平均長軸径が60nm以下の微粒子でありながら、磁気特性と耐酸化性が同時に改善された強磁性金属粒子粉末、並びに、強磁性金属粒子粉末の磁気特性と耐酸化性を同時に改善することのできる強磁性金属粒子粉末の製造法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下、200℃以上300℃未満の温度範囲で加熱処理することにより、平均長軸径が60nm以下である強磁性金属粒子粉末の磁気特性と耐酸化性を同時に改善できることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0016】
即ち、本発明は、ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理することを特徴とする平均長軸径が60nm以下である強磁性金属粒子粉末の製造法である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、BET比表面積値が65m/g以上であることを特徴とする本発明1の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、保磁力Hcが143.2kA/m以上であることを特徴とする本発明1の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末又は本発明2の強磁性金属粒子粉末である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、不活性ガス雰囲気下で加熱処理後の保磁力Hcと加熱処理前の保磁力Hcbとの差(Hc−Hcb)が4.0kA/m以上であることを特徴とする本発明1の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末又は本発明2もしくは本発明3の強磁性金属粒子粉末である(本発明4)。
【0020】
また、本発明は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記磁性粒子粉末として本発明2乃至本発明4に記載の強磁性金属粒子粉末を用いることを特徴とする磁気記録媒体である(本発明5)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、磁気特性と耐酸化性が同時に改善された磁性粒子粉末であることから、高密度磁気記録媒体の強磁性金属粒子粉末として好適である。
【0022】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、上述の磁気特性と耐酸化性が同時に改善された強磁性金属粒子粉末を磁気記録媒体の磁性粒子粉末として用いることにより、優れた電磁変換特性と保存安定性を有する高密度磁気記録媒体として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の構成を詳しく説明すれば、次の通りである。
【0024】
まず、本発明に係る強磁性金属粒子粉末の製造法について述べる。
【0025】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理することによって得ることができる。
【0026】
本発明におけるゲータイト粒子粉末は、従来公知の製造方法によって得られるものを用いることができ、例えば、水酸化アルカリ水溶液と炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に空気等の酸素含有ガスを通気してゲータイト粒子を生成させる方法や、水酸化アルカリ水溶液と炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に空気等の酸素含有ガスを通気してゲータイトの種晶粒子を生成させ、次いで、該種晶粒子表面にゲータイト層を成長させる方法によって得ることができる。また、水酸化アルカリ水溶液と炭酸アルカリ水溶液との混合アルカリ水溶液と、第一鉄塩水溶液とを反応させて得られる第一鉄含有沈澱物を含む水懸濁液に酸化剤を添加して得られるゲータイトの種晶粒子表面にゲータイト層を成長させる方法によっても得ることができ、この場合、より微細な強磁性金属粒子粉末を得ることができる。
【0027】
なお、ゲータイト粒子の生成もしくは成長反応中に、粒子の形状や粒子サイズ、磁気特性等の諸特性を制御するために、Co、Al及び希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素を含む化合物を添加することが好ましい。また、磁気特性の改善や磁性塗料中における分散性改善を目的として、上記以外の元素、例えばSi、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、P等を添加してもよい。
【0028】
添加するCo化合物としては、硫酸コバルト、塩化コバルト及び硝酸コバルト等を用いることができる。これらは単独又は必要に応じ2種以上混合して用いられる。また、Co化合物の添加量は、ゲータイト粒子中の全Feに対してCo換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%である。
【0029】
添加するAl化合物としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸アンモニウム等のアルミン酸塩を用いることができる。これらは単独又は必要に応じ2種以上混合して用いられる。また、Al化合物の添加量は、ゲータイト粒子中の全Feに対してAl換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%である。
【0030】
添加する希土類元素化合物としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウム等の1種又は2種以上の化合物が好適であり、前記希土類元素の硫酸塩、塩化物、硝酸塩等を用いることができる。また、希土類元素含有量は、ゲータイト粒子中の全Feに対して希土類元素換算で2〜30原子%が好ましく、より好ましくは3〜29原子%、更により好ましくは4〜28原子%である。
【0031】
上記生成したゲータイト粒子を濾別・水洗した後、水洗後のゲータイト粒子を含む水懸濁液に焼結防止剤を添加して、前記ゲータイト粒子の粒子表面を被覆した後、粒子表面に焼結防止剤が被覆されたゲータイト粒子を濾別、水洗、乾燥することによって、強磁性金属粒子粉末の出発原料となるゲータイト粒子粉末を得る。
【0032】
焼結防止剤としては、Co化合物、希土類化合物、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸、オルトリン酸等のリン化合物、3号水ガラス、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ等のケイ素化合物、ホウ酸等のホウ素化合物、アルミナゾル、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物、オキシ硫酸チタン等のチタン化合物等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができるが、焼結防止効果及び得られる強磁性金属粒子粉末の磁気特性等を考慮すれば、Co化合物、希土類化合物及びアルミニウム化合物が好ましく、より好ましくは希土類化合物である。
【0033】
なお、希土類化合物としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、サマリウムから選ばれる元素を含む化合物が好適であり、前記希土類元素の硫酸塩、塩化物、硝酸塩等を用いることができる。
【0034】
焼結防止剤の被覆量は、Co及びAlについては、前述のゲータイト粒子中の全Feに対する各元素換算による原子%の範囲内であり、希土類元素含有量は、ゲータイト粒子中の全Feに対して希土類元素換算で3〜30原子%が好ましく、より好ましくは4〜29原子%、更により好ましくは5〜28原子%である。希土類元素含有量が3原子%未満の場合には、加熱還元過程における焼結防止効果が低下し、保磁力値が低下するため好ましくない。30原子%を超える場合には、非磁性成分の増大に伴い磁気特性が低下すると共に、加熱還元に必要な温度が著しく高くなるため、工業的に好ましくない。また、その他の元素については、ゲータイト粒子中の全Feに対する各元素換算で0.1〜20原子%が好ましく、より好ましくは0.2〜15原子%、更により好ましくは0.3〜10原子%である。
【0035】
上記で得られたゲータイト粒子粉末は、公知の方法により加熱脱水処理を行い、ヘマタイト粒子粉末とする。加熱脱水処理の温度範囲は300〜650℃であり、加熱処理の時間は5〜180分が好ましい。
【0036】
本発明における加熱脱水処理においては、加熱脱水処理時の雰囲気を水蒸気が90vol%以上、より好ましくは95vol%以上存在する条件で行うことが好ましい。水蒸気が90vol%以上とすることで、ヘマタイト粒子の粒子内部及び粒子表面の脱水孔を効果的に減少させることができる。
【0037】
次に、ヘマタイト粒子粉末の加熱還元処理を行う。加熱還元処理の温度範囲は300〜700℃が好ましい。また、前記加熱還元処理は、1段目と2段目、必要によっては3段目もしくはそれ以上のステップで温度を変える多段加熱還元処理によっても行うことができる。加熱還元処理における還元性ガスとしては、水素、アセチレン、一酸化炭素等を用いることができ、殊に、水素が好適である。
【0038】
加熱還元後の金属磁性粒子粉末は、周知の気相法により表面酸化処理を行うことで、表面酸化被膜を形成する。具体的には、還元後の強磁性金属粒子粉末の雰囲気を一旦不活性ガスに置換した後、不活性ガス中の酸素含有量を徐々に増加させながら最終的に空気とする方法及び酸素と水蒸気を混合したガスを使用して酸化する方法等が挙げられる。
【0039】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理前の酸化被膜を形成した金属磁性粒子粉末の平均長軸径は60nm以下であり、好ましくは10〜55nm、より好ましくは10〜50nmである。
【0040】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理前の酸化被膜を形成した金属磁性粒子粉末のBET比表面積値は65m/g以上が好ましく、より好ましくは65〜180m/g、更により好ましくは68〜150m/gである。
【0041】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、上記酸化被膜を形成した鉄を主成分とする金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理することによって得ることができ、好ましくは210℃〜290℃、より好ましくは220℃〜280℃である。また、加熱処理の時間は20〜90分であり、好ましくは30〜80分である。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を用いることができ、殊に、窒素ガスが好適である。
【0042】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、不活性ガス雰囲気下で加熱処理後、加湿処理を行うことにより安定に大気中で取り扱うことができる。具体的には、不活性ガス雰囲気下で加熱処理後、一旦室温まで冷却した後、不活性ガス中に水蒸気と微量の酸素とを混合したガスを添加して加湿する方法等が挙げられる。
【0043】
次に、本発明に係る強磁性金属粒子粉末について述べる。
【0044】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の形状は針状であって、軸比(平均長軸径と平均短軸径の比)(以下、「軸比」という。)は2.0以上が好ましく、より好ましくは2.1〜8.0、更により好ましくは2.2〜7.0である。軸比が2.0未満の場合には高い保磁力を有する強磁性金属粒子粉末を得ることが困難となる。ここで針状とは、文字通りの針状粒子はもちろん、紡錘状、米粒状も含まれる。
【0045】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の平均長軸径は60nm以下であり、好ましくは10〜55nm、より好ましくは10〜50nmである。平均長軸径が10nm未満の場合には、酸化安定性が急激に低下すると共に、結晶粒の体積が減少し結晶磁化が不安定になる(スーパーパラマグネティズム)ため、高い保磁力値が得られ難くなる。平均長軸径が60nmを超える場合には、粒子サイズが大きいため、これを用いて得られた磁気記録媒体の表面平滑性が低下し、それに起因して出力も向上し難くなる。また、短波長領域における飽和磁化値や保磁力値が低下すると共に粒子性ノイズが増大するため好ましくない。
【0046】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のBET比表面積値は65m/g以上が好ましく、より好ましくは65〜180m/g、更により好ましくは68〜150m/gである。BET比表面積値が65m/g未満の場合には、強磁性金属粒子粉末の製造工程において粒子間に焼結が生じている可能性があり、これを用いて得られた磁気記録媒体の表面平滑性が低下するため、それに起因して出力も向上し難くなる。BET比表面積値が180m/gを超える場合には、強磁性金属粒子粉末の表面積が大きくなりすぎて磁性塗料中のバインダーにぬれ難くなるため磁性塗料の粘度が高くなり、分散できずに凝集するため好ましくない。
【0047】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のコバルト含有量は全Feに対してCo換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは10〜40原子%であり、この範囲でコバルト含有量をコントロールすることによって、後述する磁気特性(保磁力値及び飽和磁化値)を得ることができる。
【0048】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末のアルミニウム含有量は全Feに対してAl換算で4〜50原子%が好ましく、より好ましくは5〜45原子%、更により好ましくは6〜40原子%である。アルミニウム含有量が50原子%を超える場合には、非磁性成分の増大に伴い磁気特性が低下するため好ましくない。
【0049】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の希土類元素含有量は全Feに対して希土類元素換算で2〜30原子%が好ましく、より好ましくは3〜29原子%、更により好ましくは4〜28原子%である。希土類元素含有量が30原子%を超える場合には、非磁性成分の増大に伴い磁気特性が低下するため好ましくない。なお、ここではSc、Yも希土類元素として扱う。
【0050】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、不活性ガス雰囲気下で加熱処理後の保磁力Hcと加熱処理前の保磁力Hcbとの差(Hc−Hcb)が4.0kA/m以上であることが好ましく、より好ましくは4.8kA/m以上、更により好ましくは5.6kA/m以上であり、酸化被膜を施した鉄を主成分とする金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上300℃未満の温度範囲で加熱処理することにより、磁気特性を向上させることができる。
【0051】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の保磁力値Hcは143.2〜318.3kA/mが好ましく、より好ましくは143.2〜278.5kA/m、更により好ましくは143.2〜278.5kA/mである。保磁力値Hcが前記範囲外の場合、短波長領域で高い出力が得られないため、磁気記録媒体の記録密度を向上させることが困難となる。
【0052】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の飽和磁化値σsは50〜180Am/kgが好ましく、より好ましくは60〜170Am/kg、更により好ましくは70〜160Am/kgである。飽和磁化値σsが50Am/kg未満の場合には、残留磁化値が低下するため、短波長領域で高い出力が得られない。飽和磁化値σsが180Am/kgを超える場合には、過剰な残留磁化を生じ、磁気抵抗ヘッドの飽和を引き起こし、再生特性に歪みを生じやすく、短波長領域での高いC/N出力が得られない。
【0053】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の耐酸化性は、後述する評価方法において、Δσsが15%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、更により好ましくは10%以下である。耐酸化性が15%を超える場合には、十分な耐酸化性を有しているとは言いがたく、これを用いて得られた磁気記録媒体の保存安定性が低下するため好ましくない。
【0054】
次に、本発明に係る磁気記録媒体について述べる。
【0055】
本発明における磁気記録媒体は、非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成された非磁性下地層及び該非磁性下地層上に形成された磁気記録層とからなる。また、必要に応じて、非磁性支持体の一方の面に形成される磁気記録層に対し、非磁性支持体の他方の面にバックコート層を形成させてもよい。殊に、コンピューター記録用のバックアップテープの場合には、巻き乱れの防止や走行耐久性向上の点から、バックコート層を設けることが好ましい。
【0056】
本発明における非磁性支持体としては、現在、磁気記録媒体に汎用されているポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリスルフォン、セルローストリアセテート、ポリベンゾオキサゾール等の合成樹脂フィルム、アルミニウム、ステンレス等金属の箔や板及び各種の紙を使用することができる。
【0057】
本発明における非磁性下地層は、非磁性粒子粉末及び結合剤樹脂とからなる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0058】
非磁性下地層に用いられる非磁性粒子粉末としては、アルミナ、ヘマタイト、ゲータイト、酸化チタン、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化亜鉛、チッ化珪素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等を、単独又は組合せて用いることができる。好ましくはヘマタイト、ゲータイト、酸化チタンであり、より好ましくはヘマタイトである。
【0059】
前記非磁性粒子粉末の粒子形状は、針状、紡錘状、米粒状、球状、粒状、多面体状、フレーク状、鱗片状及び板状等のいずれの形状であってもよい。粒子サイズは、好ましくは0.005〜0.30μmであり、より好ましくは0.010〜0.25μmである。また、必要により、粒子表面をアルミニウムの水酸化物、アルミニウムの酸化物、ケイ素の水酸化物及びケイ素の酸化物から選ばれた1種又は2種以上の化合物で被覆してもよく、化合物で被覆しない場合に比べ、非磁性塗料中での分散性を改善することができる。
【0060】
結合剤樹脂としては、磁気記録媒体の製造にあたって汎用されている熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化型樹脂等を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0061】
帯電防止剤としては、カーボンブラック、グラファイト、酸化スズ、酸化チタン−酸化スズ−酸化アンチモン等の導電性粉末及び界面活性剤等を用いることができる。帯電防止の他に、摩擦係数低減、磁気記録媒体の強度向上といった効果が期待できることから、帯電防止剤としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0062】
本発明における磁気記録層は、本発明に係る強磁性金属粒子粉末と結合剤樹脂とを含んでいる。また、必要に応じて、磁気記録媒体の製造に通常用いられている潤滑剤、研磨剤、帯電防止剤等を添加してもよい。
【0063】
結合剤樹脂としては、前記非磁性下地層を作製するために用いた結合剤樹脂を使用することができる。
【0064】
本発明におけるバックコート層中には、結合剤樹脂と共に、バックコート層の表面電気抵抗値及び光透過率低減、並びに強度向上を目的として、帯電防止剤及び無機粒子粉末を含有させることが好ましい。また、必要に応じて、通常の磁気記録媒体の製造に用いられる潤滑剤、研磨剤等が含まれていてもよい。
【0065】
結合剤樹脂及び帯電防止剤としては、前記非磁性下地層、及び磁気記録層を作製するために用いた結合剤樹脂及び帯電防止剤を使用することができる。
【0066】
無機粉末としては、アルミナ、ヘマタイト、ゲータイト、酸化チタン、シリカ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化亜鉛、チッ化珪素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。粒子サイズは、好ましくは0.005〜1.0μmであり、より好ましくは0.010〜0.5μmである。
【0067】
本発明に係る磁気記録媒体は、保磁力値は63.7〜318.3kA/mが好ましく、より好ましくは71.6〜318.3kA/mであり、角形比(Br/Bm)は0.65以上が好ましく、より好ましくは0.70以上である。また、塗膜の表面粗度Raは6.0nm以下が好ましく、より好ましくは5.5nm以下、更により好ましくは5.0nm以下である。また、保存安定性Δσsは、15%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以下、更により好ましくは10%以下である。
【0068】
<作用>
本発明において重要な点は、ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理することにより、平均長軸径が60nm以下である微細な強磁性金属磁性粒子粉末の磁気特性と耐酸化性を同時に向上することができるという事実である。
【0069】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末の製造法によって、強磁性金属磁性粒子粉末の磁気特性と耐酸化性を同時に向上することができた理由として、本発明者は次のように考えている。一般に、スピネル型結晶構造を持つスピネルフェライトの中でも、コバルトフェライトは例外的に保磁力が高いことが知られている。本発明の強磁性金属粒子粉末は、粒子表面に形成したCoとFeからなる表面酸化被膜の結晶化度を、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の特定の温度範囲で加熱処理することによって向上させたことにより、耐酸化性を向上しつつ、保磁力を向上させることができたものと考えている。なお、理由は不明であるが、粒子サイズが大きい、即ち平均長軸径が60nmを超える強磁性金属粒子粉末の場合、不活性ガス雰囲気下で200℃以上、300℃未満の温度範囲で加熱処理を行っても、保磁力の向上効果がほとんど認められなかった。
【実施例】
【0070】
本発明の代表的な実施の形態は次の通りである。
【0071】
本発明における粒子の平均長軸径並びに平均短軸径は、透過型電子顕微鏡を用いて粒子の写真を撮影し、該写真を用いて粒子360個以上について長軸径及び短軸径を測定し、その平均値で粒子の平均長軸径及び平均短軸径を示した。
【0072】
なお、強磁性金属粒子粉末の平均長軸径並びに平均短軸径は、強磁性金属粒子粉末を0.04重量部、分散剤を0.12重量部及び分散媒(分散溶剤)99.84重量部を超音波分散機で3分間分散した後、湿式ジェットミルにて10パス分散させた分散体を透過型電子顕微鏡観察用の試料として用いた。
【0073】
軸比は平均長軸径と平均短軸径との比で示した。
【0074】
強磁性金属粒子粉末の比表面積値は、「モノソーブMS−11」(カンタクロム株式会社製)を用いて、BET法により測定した値で示した。
【0075】
強磁性金属粒子粉末のCo、Al及び希土類元素の含有量は、「誘導結合プラズマ発光分光分析装置 SPS4000」(セイコー電子工業株式会社製)を用いて測定した。
【0076】
不活性ガス雰囲気下での加熱処理前の金属粒子粉末、強磁性金属粒子粉末及び磁気記録媒体の磁気特性は、振動試料型磁力計「model BHV−35」(理研電子株式会社製)を用いて外部磁場795.8kA/mの下で測定した。
【0077】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理後の保磁力Hcと加熱処理前の保磁力Hcbとの差(Hc−Hcb)は、加熱処理後の保磁力Hcから加熱処理前の保磁力Hcbを引いた値を示した。
【0078】
強磁性金属粒子粉末の耐酸化性Δσsは、試料粉体を温度60℃、相対湿度90%の条件下7日間静置し、静置前と静置後の飽和磁化値σsを測定し、静置前と静置後のσsの変化量(%)((静置前のσs−静置後のσs)/静置前のσs×100)で示した。
【0079】
磁気記録媒体の塗膜の表面粗度Raは、非接触表面形状測定機「NewView 600s」(Zygo株式会社製)を用いて塗膜の中心線平均粗さRaを測定した。
【0080】
磁気記録媒体の保存安定性Δσsは、塗膜を温度60℃、相対湿度90%の条件下14日間静置し、静置前と静置後の飽和磁化値σsを測定し、静置前と静置後のσsの変化量(%)((静置前のσs−静置後のσs)/静置前のσs×100)で示した。
【0081】
<実施例1−1:強磁性金属粒子粉末の製造>
<ゲータイト核晶粒子の生成反応>
炭酸水素アンモニウム20molとアンモニア水60molを含む混合アルカリ水溶液28Lを反応塔容器の中に入れ、攪拌しながら窒素ガスを流し、非酸化性雰囲気下で50℃に調整した。次いで、1.25mol/Lの硫酸第一鉄水溶液16Lを反応容器に入れて30分熟成した後、1.5mol/Lの硫酸コバルト水溶液4L(全Feに対しCo換算で30原子%に該当する。)を添加し3時間熟成した。
【0082】
次いで、攪拌しながら酸化剤として過硫酸アンモニウム水溶液(全Feに対して3.2mol%)を添加し、均一混合のため10分間保持した。その後、0.4L/min.の流量で空気を通気しながら全Fe2+の30%が酸化するまで酸化反応を行い、ゲータイト核晶粒子を得た。
【0083】
<ゲータイト層の成長反応>
次いで、前記ゲータイト核晶粒子を含有する懸濁液に1.6mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液1.25L(全Feに対しAl換算で10原子%に該当する。)を添加し、1L/min.の流量で空気を通気しながら全Fe2+の50%が酸化するまで酸化反応を行った。
【0084】
次いで、1.6mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液0.75L(全Feに対しAl換算で6原子%に該当する。)を添加し、1L/min.の流量で空気を通気しながら全Fe2+の70%が酸化するまで酸化反応を行った。
【0085】
次いで、1.6mol/Lの硫酸アルミニウム水溶液0.5L(全Feに対しAl換算で4原子%に該当する。)を添加し、0.82L/min.の流量で空気を通気しながら全Fe2+の98%が酸化するまで酸化反応を行った。
【0086】
上記で得られた全Fe2+の98%が酸化したゲータイト粒子を含む懸濁液に、酸化剤として過硫酸アンモニウム水溶液3.0mol%を添加し、Fe2+がFe3+へ完全に酸化するまで酸化反応を行った。反応終了時のpH値は8.3であった。
【0087】
<ゲータイト粒子粉末の水洗>
得られたゲータイト粒子含有スラリーを濾過後、0.029Nの炭酸ナトリウム水溶液を用いて洗浄し、更に濾液の電気伝導度が100μS以下になるまで水洗した。
【0088】
<ゲータイト粒子粉末の焼結防止処理>
上記で得られた水洗後のゲータイト粒子を水中に再分散し、攪拌しながら炭酸ナトリウム水溶液を添加して水溶液のpH値を8.8に調整し、次いで、塩化イットリウム水溶液(全Feに対してY換算で22原子%相当量)を添加して攪拌混合し、炭酸ナトリウム水溶液を添加してスラリーのpH値を9.3に調整した。その後、常法により濾過、水洗、乾燥し、ゲータイト粒子粉末の乾燥固形物を得た(ゲータイト粒子1)。
【0089】
<加熱脱水処理>
上記で得られたゲータイト粒子1を180℃で30分間加熱処理を行った後、水蒸気量が98vol%以上の440℃の過熱蒸気を用いて30分間加熱脱水処理を行い、ヘマタイト粒子を得た。
【0090】
<加熱還元処理>
得られたヘマタイト粒子粉末をバッチ式固定層還元装置に入れ、水素ガスを50cm/sで通気しながら400℃で加熱還元した後、窒素ガスに切り替えて60℃まで冷却し、水蒸気10vol%と酸素濃度0.40vol%になるよう空気を混合し、粒子表面に表面酸化層を形成した。
【0091】
次いで、表面酸化層を形成した金属粒子粉末を水素ガス雰囲気下で580℃まで昇温し、水素ガスを60cm/sで通気しながら再度加熱還元した後、再び窒素ガスに切り替えて60℃まで冷却し、水蒸気10vol%と酸素濃度0.40vol%になるよう空気を混合し、粒子表面に表面酸化層を形成した(前駆体1)。得られた前駆体1の保磁力Hcbは192.5kA/mであった。
【0092】
次いで、表面酸化層を形成した金属粒子粉末を窒素ガス雰囲気下で250℃まで昇温し、30分間加熱した。その後、65℃まで冷却し、水蒸気15vol%の雰囲気下90分間保持した後、酸素濃度0.35vol%となるよう空気を吹き込み5分間保持し、加湿・安定化処理を行うことにより、実施例1−1の強磁性金属粒子粉末を得た。
【0093】
得られた実施例1−1の強磁性金属粒子粉末は、粒子形状が針状であり、平均長軸径が37.2nm、軸比が3.5、BET比表面積値が77.8m/gの粒子からなり、耐酸化性Δσsは6.5%であった。該強磁性金属粒子粉末中のCo含有量は全Feに対してCo換算で30.0原子%、Al含有量は全Feに対してAl換算で20.1原子%、Y含有量は全Feに対してY換算で20.9原子%であった。また、該強磁性金属粒子粉末の磁気特性は、保磁力Hcが205.6kA/m、飽和磁化値σsが106.3Am/kgであり、前駆体1とのHcの差(Hc−Hcb)は、13.1kA/mであった。
【0094】
<実施例2−1:磁気記録媒体の製造>
<非磁性下地層用組成物>
ヘマタイト粒子粉末 100.0重量部、
(粒子形状:紡錘状、平均長軸径:0.099μm、軸比:6.2、BET比表面積値:59.1m/g)
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 11.8重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 11.8重量部、
シクロヘキサノン 78.3重量部、
メチルエチルケトン 195.8重量部、
トルエン 117.5重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 3.0重量部、
潤滑剤(ブチルステアレート) 1.0重量部。
【0095】
<磁気記録層用組成物>
強磁性金属粒子粉末 100.0重量部、
スルホン酸カリウム基を有する塩化ビニル系共重合樹脂 10.0重量部、
スルホン酸ナトリウム基を有するポリウレタン樹脂 10.0重量部、
研磨剤(AKP−50) 10.0重量部、
カーボンブラック 1.0重量部、
潤滑剤(ミリスチン酸:ステアリン酸ブチル=1:2) 3.0重量部、
硬化剤(ポリイソシアネート) 5.0重量部、
シクロヘキサノン 65.8重量部、
メチルエチルケトン 164.5重量部、
トルエン 98.7重量部。
【0096】
上記非磁性下地層用組成物及び磁気記録層用組成物のそれぞれをニーダーで混練した後、ペイントシェーカーで混合・分散を行い、3μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、非磁性下地層用塗料及び磁気記録層用磁性塗料を調整した。
【0097】
得られた非磁性下地層用塗料を厚さ4.5μmの芳香族ポリアミドフィルム上に塗布し、乾燥させることにより非磁性下地層を形成した後、前記非磁性下地層の上に磁気記録層用磁性塗料を塗布し、磁場中において配向・乾燥した。次いで、カレンダー処理を行った後、60℃で24時間硬化反応を行い、12.7mm幅にスリットして磁気記録媒体を得た。
【0098】
得られた磁気記録媒体は、保磁力値が216.3kA/m、角型比(Br/Bm)が0.796、保磁力分布SFDが0.465、表面粗度Raが2.4nm、保存安定性Δσsが5.4%であった。
【0099】
前駆体2〜5:
実施例1−1の条件を種々変更することにより、表1に示す酸化被膜を形成した金属粒子粉末を前駆体として準備した。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例1−2〜1−4及び比較例1−1〜1−3:
不活性ガス雰囲気下における加熱処理条件を種々変更することにより、強磁性金属粒子粉末を得た。このときの製造条件及び得られた強磁性金属粒子粉末の諸特性を表2及び表3に示す。
【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
<磁気記録媒体の製造>
実施例2−2〜2−4及び比較例2−1〜2−3:
強磁性金属粒子粉末の種類を種々変化させた以外は、前記実施例2−1と同様にして磁気記録媒体を製造した。
【0105】
このときの製造条件及び得られた磁気記録媒体の諸特性を表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
実施例1−1と比較例1−1及び比較例1−2とを比べると、不活性ガス雰囲気中の加熱温度が300℃以上(350℃)(比較例1−1)又は200℃未満(150℃)(比較例1−2)の場合には、磁気特性の改善効果を得ることができないため、これを用いて得られた磁気記録媒体(比較例2−1及び比較例2−2)は、本発明の強磁性金属粒子粉末を用いて得られた磁気記録媒体(実施例2−1)と比べて磁気特性(保磁力Hc)の劣ることが表3よりわかる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係る強磁性金属粒子粉末は、磁気特性と耐酸化性が同時に改善された磁性粒子粉末であることから、高密度磁気記録媒体の強磁性金属粒子粉末として好適である。
【0109】
また、本発明に係る磁気記録媒体は、上述の磁気特性と耐酸化性が同時に改善された強磁性金属粒子粉末を磁気記録媒体の磁性粒子粉末として用いることにより、優れた電磁変換特性と保存安定性を有する高密度磁気記録媒体として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲータイト粒子粉末を加熱処理してヘマタイト粒子粉末とした後、該ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して強磁性金属粒子粉末を得る製造法において、前記ヘマタイト粒子粉末を加熱還元して金属粒子粉末とした後、気相において酸化処理を行うことにより金属粒子表面に酸化被膜を形成し、更に、該酸化被膜を有する金属粒子粉末を、不活性ガス雰囲気下、200℃以上300℃未満の温度範囲で加熱処理することを特徴とする平均長軸径が60nm以下である強磁性金属粒子粉末の製造法。
【請求項2】
BET比表面積値が65m/g以上であることを特徴とする請求項1記載の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末。
【請求項3】
保磁力Hcが143.2kA/m以上であることを特徴とする請求項1の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末又は請求項2記載の強磁性金属粒子粉末。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気下で加熱処理後の保磁力Hcと加熱処理前の保磁力Hcbとの差(Hc−Hcb)が4.0kA/m以上であることを特徴とする請求項1の製造法によって得られた強磁性金属粒子粉末又は請求項2もしくは請求項3記載の強磁性金属粒子粉末。
【請求項5】
非磁性支持体、該非磁性支持体上に形成される非磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む非磁性下地層及び該非磁性下地層の上に形成される磁性粒子粉末と結合剤樹脂とを含む磁気記録層からなる磁気記録媒体において、前記磁性粒子粉末として請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の強磁性金属粒子粉末を用いることを特徴とする磁気記録媒体。

【公開番号】特開2011−47025(P2011−47025A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198902(P2009−198902)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】