説明

強酸カチオン交換樹脂

式(I):


(式中、R1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、R2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールであり、R3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成し、mは、1,2,3,4,5または6であり、nは、1,2,3または4であり、oは、1または2であり、そしてpは、1,2または3である。)のカチオンで部分的に中和されている複数の酸基を含む強酸カチオン交換樹脂は、ビスフェノールの製造において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、強酸カチオン交換樹脂およびこのような樹脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強酸カチオン交換樹脂およびビスフェノールの製造におけるその使用は当該分野で一般的に公知である。米国特許第5,212,206号は、無水媒体中メルカプトアミンで中和されている強酸カチオン交換樹脂を開示する。米国特許第3,760,006号は、酸型の強酸カチオン交換樹脂をチアゾリジンによる部分的中和によって変性させることが、ビスフェノールの製造のための改善された触媒をもたらすことを教示する。米国特許第4,584,416号は、N−アルキルアミノアルキルメルカプタンの塩酸塩またはヒドロトシレート塩によるスルホン化イオン交換樹脂の部分的中和を開示する。米国特許第4,595,704号は、部分的に中和されたイオン交換樹脂を製造する公知の方法が、幾らか有害なアジリン化合物を採用することを開示する。米国特許は、より低コストでより低害なN−(2−メルカプトアルキル)アミドを使用して、アミノアルカンチオールで部分的に中和されている強酸カチオン交換樹脂を製造することを示唆する。米国特許第6,740,684号は、酸型の強酸カチオン交換樹脂を、アルキルカルバモイルアルキルチオエステルと接触させてカチオン交換樹脂(酸基はメルカプトアルキルアミンで部分的に中和されている)を製造する方法を開示する。
【0003】
ビスフェノールは極めて大きいスケールで製造され、特にビスフェノールAは100万メートルトン/年を超える量で製造される。従って、高選択性でビスフェノールを製造するのに有用な新たなカチオン交換樹脂を見出す恒常的なニーズが存在する。よって、本発明の1つの目的は、ビスフェノールを製造するのに有用な新たなカチオン交換樹脂を提供することである。本発明の好ましい目的は、少なくとも公知のカチオン交換樹脂の助けで実現される選択性と同等に良好であり、好ましくはこれより更に良好な選択性で、ビスフェノール、特にビスフェノールAを製造するのに有用な新たなカチオン交換樹脂を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要約
本発明の一側面は、式I:
【0005】
【化1】

【0006】
(式中、
1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、
2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールであり、
3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成し、
mは、1,2,3,4,5または6であり、
nは、1,2,3または4であり、
oは、1または2であり、そして
pは、1,2または3である。)
のカチオンで部分的に中和された複数の酸基を含む強酸カチオン交換樹脂である。
【0007】
本発明の別の側面は、強酸カチオン交換樹脂を部分的に中和する方法である。該方法は、酸型の強酸イオン交換樹脂を、式II:
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、
2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールであり、
3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成し、
4は、R6−C(O)−NH−または(Xz-1/z(R1p(R83-p+−であり、
5は、水素または−C(O)−R7であり、
1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、
6およびR7は、各々独立にC1-4アルキル基であり、
8は、式III:
【0010】
【化3】

【0011】
の基であり、
z-はアニオンであり、
mは、1,2,3,4,5または6であり、
nは、1,2,3または4であり、
oは、1または2であり、
pは、1,2または3であり、そして
zは、1,2,3または4である。)
の化合物と接触させることを含む。
【0012】
本発明の別の側面は、上記の強酸カチオン交換樹脂の存在下または上記の方法に従って製造される強酸カチオン交換樹脂の存在下でフェノール化合物をカルボニル化合物と反応させる、ビスフェノールを製造する方法である。
【0013】
本発明の更に別の側面は、副生成物を上記の強酸カチオン交換樹脂または上記の方法に従って製造される強酸カチオン交換樹脂と接触させる、フェノール化合物とカルボニル化合物との反応によるビスフェノールの製造によって生じる副生成物を異性化する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
上記式Iにおいて、R1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、好ましくはメチル、エチルまたはプロピルである。最も好ましくは、各R1基はメチルである。
【0015】
2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールである。アルキル基は好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個の炭素原子を有し、最も好ましくはメチル、エチルまたはプロピルである。好ましいアリール基はフェニル基である。最も好ましくは、R2は各々の出現において水素である。
【0016】
3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成する。アルキル基は好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個の炭素原子を有し、最も好ましくはメチル、エチルまたはプロピルである。2つの隣接するR3基が芳香環を共に形成する場合、2つの隣接するR3基は共に好ましくは3または4個の炭素原子を有することによって、これらは、これらが結合する炭素原子と共に芳香族の5員環または6員環を形成する。
【0017】
mの意味は1,2,3,4,5または6であり、好ましくは2,3または4であり、より好ましくは2であり;nは、1,2,3または4であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1であり;oは、1または2であり、好ましくは1であり;そしてpは、1,2または3であり、好ましくは2または3であり、より好ましくは3である。
【0018】
強酸カチオン交換樹脂は、上記式Iのカチオンで部分的に中和されている。強酸カチオン交換樹脂は当該分野で公知である。例えば“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry” 7th Edition, “Ion Exchangers”の章を参照のこと。通常これらはポリマーマトリクスおよびイオン交換官能基を有する。
【0019】
マトリクスの1つの公知の種類は、フェノール/ホルムアルデヒドまたはベンゼン縮合ポリマーを基にし、これらはアルデヒド、塩素化炭化水素またはエポキシ化合物と架橋する。好ましいマトリクスは、架橋ポリスチレンまたは架橋ポリ(アルファ−メチルスチレン)、またはベンゼン環にてC1-6アルキル、例えばメチル、エチル、イソプロピルもしくはtertブチルで、またはハロゲノ−C1-6アルキル、例えばクロロメチルで、またはアミノメチルで置換されたスチレンまたはアルファ−メチルスチレンの架橋ポリマーである。架橋剤は好ましくはジビニルベンゼンまたはトリビニルベンゼンである。
【0020】
強酸カチオン交換基は、直接または間接にポリマーマトリクスに結合できる。例えば、強酸カチオン交換基は、ポリマーマトリクスに、アルキレン基、例えばC1-3アルキレン基、好ましくはエチレンまたはメチレン(最も好ましい基はメチレンである)を介して結合できる。強酸カチオン交換基は、典型的には−SO3Hまたは−PO3HR基(式中、Rは、水素、C1-6アルキル基,例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基またはヘキシル基、C3-6シクロアルキル基,例えばシクロヘキシル基、またはアリール,例えばフェニルまたはベンジルである。)である。最も好ましい強酸カチオン交換基は−SO3Hである。基の一部は塩型で、例えばアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の形で存在することができる。しかし好ましくは95パーセント超、より好ましくは99パーセント超、最も好ましくは実質的に全ての基が、式IIの化合物での本発明の方法に従った部分中和の前には酸型である。
【0021】
好適な強酸カチオン交換樹脂の例としては、パーフルオロ化スルホン酸樹脂、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂のホスホン化によって製造される強酸樹脂、スルホン化フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スルホン化ポリスチレン樹脂、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼン樹脂および米国特許第4,303,551号および4,330,654号に記載されるもの等のポリマーが挙げられる。スルホン化樹脂は、ゲル型およびマクロレティキュラー型として市販で入手可能である。特に好適なものは、カチオン交換容量が少なくとも0.5meq/g乾燥質量および有利には2.0meq/gの芳香族スルホン酸樹脂である。例えば、米国特許第2,597,438号;2,642,417号または3,037,052号に記載されるような、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂のスルホン化によって製造される市販の強酸カチオン交換樹脂は最も好ましく用いられる。このような市販のスルホン酸樹脂は、Dowex 50樹脂、Amberlite IR−120樹脂、Amberlite 200樹脂およびDuolite C20樹脂であり、これらは通常交換容量4〜5.5meq/g乾燥質量である(Dowex、AmberliteおよびDuoliteは商標である)。
【0022】
強酸カチオン交換樹脂は、これを酸型で式II:
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、
4は、R6−C(O)−NH−または好ましくは(Xz-1/z(R1p(R83-p+−であり、
5は、水素または好ましくは−C(O)−R7であり、
6およびR7は、各々独立にC1-4アルキル基、より好ましくはメチルまたはエチル、最も好ましくはメチルであり、
8は、式III:
【0025】
【化5】

【0026】
の基であり、
1,R2,R3,m,nおよびoは、上記式Iについて示した意味を有し、
z-はアニオン、好ましくはハロゲン化物,例えばフッ化物、臭化物または最も好ましくはフッ化物、またはスルフェートまたはトシレートであり、
pは、1,2または3、好ましくは2または3、より好ましくは3であり、そして
zは、1,2,3または4、好ましくは1である。)
の化合物と接触させることによって部分的に中和する。
【0027】
典型的には、中和される酸性イオン交換基の当量当たり約1モル当量の式IIの化合物を採用する。式IIの化合物においてR4がR6−C(O)−NH−であり、および/または−SR5基が−S−C(O)−R7である場合、R6−C(O)−NH−をH2N−基に、そして−S−C(O)−R7基を−SH基に加水分解するのに十分な量で水を典型的に採用する。加水分解は実質的に定量的である。典型的には樹脂ビーズの体積当たり0.2〜5体積、好ましくは0.5〜3体積の水を採用する。水は単独または有機溶媒との組合せで使用できる。好ましい有機溶媒はケトン,例えばアセトン、アルコール,例えばメタノールまたはエタノール、フェノール,例えばフェノール、または芳香族炭化水素,例えばトルエンである。イオン交換樹脂の式IIの化合物(R4がR6−C(O)−NH−であるもの)との反応により、式Iのカチオン(各R1が水素であるもの)で部分的に中和されたイオン交換樹脂が得られる。
【0028】
強酸イオン交換樹脂の式IIの化合物との反応は、好ましくは温度50〜120℃、より好ましくは80〜110℃、最も好ましくは還流温度で行なう。イオン交換樹脂の中和の程度は広く変動させることができる。典型的にはカチオン交換樹脂の酸性基の5〜60モルパーセント、好ましくは10〜40モルパーセント、より好ましくは15〜35モルパーセントが中和される。中和の程度は、従来法,例えば中和前後の樹脂のイオン交換容量をNaOHを用いて滴定して測定することにより容易に確認される。
【0029】
製造される部分的に中和された強酸カチオン交換樹脂は、フェノール化合物とカルボニル化合物との反応による多くのビスフェノールの製造のための効果的な触媒である。フェノール化合物とストイキオメトリー的に過剰なカルボニル化合物との反応は当該分野で公知である。プロセスは一般的には米国特許第3,049,569号および4,107,218号、ならびにこれに引用される文献に記載されている。フェノール化合物とカルボニル化合物とのモル比は、好ましくは2:1〜45:1であり、より好ましくは4:1〜14:1である。
【0030】
有用なフェノール化合物は、パラ位にて非置換であるのがよいが、これらはオルト位またはメタ位にて、1種以上の非反応性基、例えばアルキルまたはハロゲンで置換されることができる。好ましいフェノール化合物は式(IV):
【0031】
【化6】

【0032】
(式中、R9,R10,R11およびR12は、互いに独立に水素、ハロゲン,好ましくは塩素もしくは臭素、またはC1-8アルキル,好ましくはメチル、エチルもしくは第三ブチルを表す。)
のものである。
【0033】
式(IV)の化合物の好ましい例は、フェノール、モノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラアルキルフェノール,例えばo−クレゾールもしくはm−クレゾール;o−sec.ブチルフェノール、o−tert.ブチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2−メチル−6−tert.ブチルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、5−イソプロピル−2−メチル−フェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2,3,5,6−テトラメチルフェノール、2,6−ジ−第三ブチルフェノール、3,5−ジエチルフェノール、もしくは2−メチル−3,5−ジエチルフェノール;クロロフェノール,例えばo−クロロフェノールもしくはm−クロロフェノール;ジクロロフェノールまたはブロモフェノール,例えばo−ブロモフェノールである。
【0034】
ビスフェノールを製造するために採用するカルボニル化合物は、ケトンまたはアルデヒドであることができる。好ましいカルボニル化合物は、以下の式V:
【0035】
【化7】

【0036】
(式中、
13は、脂肪族基、脂環式基、芳香族基または複素環基であり、そして
14は、水素もしくは脂肪族基、脂環式基、芳香族基もしくは複素環基であり、または
13およびR14が共に2価の脂肪族基または芳香族基を表す。)
のものである。
【0037】
好ましいR13基およびR14基は、C1-8アルキル、C5-6シクロアルキル、C5-10アリール、好ましくはフェニル、またはC7-12アラルキル、好ましくはフェニル−C1-4アルキルであり、より好ましくはベンジルである。これらの基は任意にハロゲン化されている。R13およびR14が共に2価の脂肪族基を表す場合、該基は好ましくは−(R13CRl4q−(式中、R13およびR14は個々に選択できる各々の出現において水素またはC1-6アルキル,例えばメチルまたはエチルであり、そしてqは4〜7の整数、好ましくは4または5である。)である。
【0038】
好適なケトンの例としては、例えば、アセトン、1,3−ジクロロアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、フルオレノン、好ましくは9−フルオレノン、プロピオニルフェノン、メチルアミルケトン、メシチルオキサイド、シクロペンタノンまたはアセトフェノンが挙げられる。好適なアルデヒドの例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、およびベンズアルデヒドが挙げられる。最も好ましいカルボニル化合物はアセトンである。
【0039】
フェノール化合物およびカルボニル化合物は、好ましくは温度35〜100℃、より好ましくは40〜90℃、最も好ましくは45〜85℃で反応させる。
【0040】
本発明に従って変性される強酸カチオン交換樹脂は、フェノールおよびアセトンからのビスフェノールAの製造において特に有用である。驚くべきことに、より高い純度の4,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン(一般的にビスフェノールAのp,p’−異性体または単にビスフェノールAといわれる)が、触媒として、ジメチルチアゾリジンまたは2−メルカプトエチルアミン塩酸塩(システアミン塩酸塩とも規定される)(これらは両者とも一般的に用いられる変性剤である)で変性された強酸カチオン交換樹脂に代えて、本発明に従って変性される強酸カチオン交換樹脂を用いる場合に実現できることを見出した。本発明に従って変性される強酸カチオン交換樹脂を用いる場合、不所望の副生成物2,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン(一般的にビスフェノールAのo,p’−異性体といわれる)の量は、ビスフェノールAのp,p’−異性体の質量基準で一般的に約2パーセント以下に過ぎない。この量は、ジメチルチアゾリジンまたは2−メルカプトエチルアミン塩酸塩で変性された対応する強酸カチオン交換樹脂の存在下で得られるビスフェノールAのo,p’−異性体の量よりも、一般的に少なくとも約15パーセント低く、多くの場合更に少なくとも約20パーセント低い。驚くべきことに、本発明に従って変性される強酸カチオン交換樹脂は、ビスフェノール製造プロセスにおいて、触媒として交換されなければならない前に驚くべき長時間に亘って活性であることを見出した。
【0041】
更に、本発明に従って製造される強酸カチオン交換樹脂は、上記のビスフェノールの製造によって生じる副生成物を異性化するための、好ましくはビスフェノールAの製造によって生じる2,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパン等の副生成物を異性化するための触媒として有用である。製造される強酸カチオン交換樹脂は、2,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパンを4,4’−ジヒドロキシ−2,2−ジフェニルプロパンに異性化するために特に有用である。異性化プロセスは一般的に当該分野で公知である。
【0042】
以下の例は本発明を説明するために与えられる。例は、本発明の範囲の限定を意図せず、これらはそのように解釈すべきでない。量は特記がない限り質量部単位または質量パーセント単位である。
【0043】
例1
チオアセチル−2−エチル−[4−ベンジル]−トリメチル−アンモニウムクロリドの製造
(式IIの化合物、式中、各R2および各R3は水素であり、R4は(Xz-1/z(R1p(R83-p+−であり、R5は−C(O)−R7であり、各R1はメチルであり、R7はメチルであり、mは2であり、nは1であり、oは1であり、pは3であり、X-はクロリドであり、そしてzは1である。)
52.94gのエテニル−[4−ベンジル]−トリメチル−アンモニウムクロリドを250mlのエタノールに溶解させる。続いて12.5gのアゾイソブチルニトリルを添加する。次いで、19.03gのチオ酢酸を、滴下漏斗によって1時間かけて添加する。反応混合物を最高で70℃まで加熱する。35℃に冷却した後、約20mbarの減圧によりエタノールを蒸発させる。
【0044】
部分的に中和されたカチオン交換樹脂の製造
上記の手順に従って生成する50gのチオアセチル−2−エチル−[4−ベンジル]−トリメチル−アンモニウムクロリド、スルホン酸基および4パーセントのジビニルベンゼンで架橋したスチレンのポリマーマトリクスを含む500mlの湿潤強酸カチオン交換樹脂ならびに1000mlの水をフラスコ内に入れる。強酸カチオン交換樹脂は、商標DOWEX 50WX4でThe Dow Chemical Companyから市販で入手可能であり、カチオン交換容量1.2meg/ml(5.3meq/g)を有する。還流下で6時間混合物を撹拌し、次いで不活性条件下で室温に冷却する。樹脂をろ過し、アセトンおよび水で洗浄する。NaOHでの滴定による樹脂の分析は、その酸容量の23パーセントが、2−メルカプト−エチル−[4−ベンジル]−トリメチルアンモニウムクロリドで中和されることを示す。
【0045】
比較例A
4gの2,2−ジメチルチアゾリジン、100mlの上記の強酸カチオン交換樹脂(商標DOWEX 50WX4でThe Dow Chemical Companyから市販で入手可能)、および250mlの水を1時間室温で撹拌し、次いでろ過して別の250mlの水で洗浄する。カチオン交換樹脂であって、その酸容量の25パーセントが2,2−ジメチルチアゾリジンで中和されているものを製造する。
【0046】
比較例B
4gの2−メルカプトエチルアミン塩酸塩(システアミン塩酸塩とも規定される)、100mlの上記の強酸カチオン交換樹脂(商標DOWEX 50WX4でThe Dow Chemical Companyから市販で入手可能)、および250mlの水を1時間室温で撹拌し、次いでろ過して別の250mlの水で洗浄する。カチオン交換樹脂であって、その酸容量の25パーセントが2−メルカプトエチルアミンで中和されているものを製造する。
【0047】
変性された触媒の使用
ステンレススチール反応器カラムに、例1または比較例AもしくはBに従って製造した500mlの部分中和カチオン交換樹脂を充填する。60℃にて2倍体積量のフェノールで樹脂床を洗い流すことによって樹脂を乾燥させる。触媒は使用できる状態になる。モル比10:1のフェノールおよびアセトンからなる液体を、速度4ml/分で、70℃にて触媒を収容するカラムを通じてポンプ送りして触媒活性を試験する。得られる生成物混合物中のビスフェノールA(p,p’−異性体)およびビスフェノールAのo,p’−異性体の量を、ガスクロマトグラフィによって分析する。ビスフェノールAのp,p’−異性体の質量基準でのo,p’−異性体パーセント、および反応で用いるフェノールの質量基準でのビスフェノールAのp,p’−異性体の収率を以下の表1に列挙する。
【0048】
【表1】

【0049】
o,p’−異性体のパーセントがより低いことおよびp,p’−異性体の収率がより高いことは、比較例AおよびBと比べ、例1に従って、より高収率でより純粋な生成物が得られることを意味する。酸基の中和における僅かな違い(例1では23パーセントであるが比較例AおよびBでは25パーセントである。)は、o,p’−異性体のパーセントには影響しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、
1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、
2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールであり、
3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成し、
mは、1,2,3,4,5または6であり、
nは、1,2,3または4であり、
oは、1または2であり、そして
pは、1,2または3である。)
のカチオンで部分的に中和された複数の酸基を含む強酸カチオン交換樹脂。
【請求項2】
oが1である、請求項1に記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項3】
各R1基がメチルである、請求項1または2に記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項4】
nが1である、請求項1〜3のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項5】
mが2である、請求項1〜4のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項6】
2が各々の出現において水素である、請求項1〜5のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項7】
3が各々の出現において水素である、請求項1〜6のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項8】
pが2または3である、請求項1〜7のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂。
【請求項9】
酸型の強酸イオン交換樹脂を式II:
【化2】

(式中、
2は、各々の出現において独立に水素、アルキルまたはアリールであり、
3は、各々の出現において独立に水素もしくはアルキルであり、または2つの隣接するR3基が、芳香環を共に形成し、
4は、R6−C(O)−NH−または(Xz-1/z(R1p(R83-p+-であり、
5は、水素または−C(O)−R7であり、
1は、各々の出現において独立に水素またはC1-4アルキル基であり、
6およびR7は、各々独立にC1-4アルキル基であり、
8は、式III:
【化3】

の基であり、
z-はアニオンであり、
mは、1,2,3,4,5または6であり、
nは、1,2,3または4であり、
oは、1または2であり、
pは、1,2または3であり、そして
zは、1,2,3または4である。)
の化合物と接触させることを含む、強酸カチオン交換樹脂を部分的に中和する方法。
【請求項10】
4が、(Xz-1/z(R13+−である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
5が、−C(O)−R7である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂を製造するための、請求項9〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂の存在下または請求項9〜12のいずれかに記載の方法に従って製造される強酸カチオン交換樹脂の存在下でフェノール化合物をカルボニル化合物と反応させる、ビスフェノールを製造する方法。
【請求項14】
副生成物を、請求項1〜8のいずれかに記載の強酸カチオン交換樹脂または請求項9〜12のいずれかに記載の方法に従って製造される強酸カチオン交換樹脂と接触させる、フェノール化合物とカルボニル化合物との反応によるビスフェノールの製造によって生じる副生成物を異性化する方法。

【公表番号】特表2010−502431(P2010−502431A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527345(P2009−527345)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/016291
【国際公開番号】WO2008/030299
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】