説明

弾塑性ブレース防震構造

【課題】小型で簡略な構造にて構造物の熱膨張に起因する変位を許容しつつ地震力を確実に吸収し得、且つ地震発生時に大きな衝撃力が発生して連結部材に過大な負荷がかかることを防止し得る弾塑性ブレース防震構造を提供する。
【解決手段】構造物側保持部材であるボイラ鉄骨柱5を取り囲む連結部材6を介して線対称の位置に弾塑性ブレース10を配置し、該弾塑性ブレース10によりボイラ鉄骨柱5から連結部材6を介して固定部材である架構鉄骨柱3に伝えられる地震による荷重の伝達が、一方の弾塑性ブレース10の圧縮と他方の弾塑性ブレース10の引張とにより同時に行われるよう構成し、ボイラ鉄骨柱5と連結部材6との間に、該ボイラ鉄骨柱5と連結部材6との隙間を埋め且つ構造物としてのボイラ本体の熱膨張に伴う架構鉄骨柱3の軸線方向への相対移動を案内するガイド手段24を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾塑性ブレース防震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、地震による構造物の被害を低減するために、従来、種々の方式の防震構造が提案されている。
【0003】
例えば、火力発電所に用いられるボイラには、水管で構成されるボイラ本体(防震すべき構造物)の炉壁の熱膨張を逃がすために、支持架構(固定部材)から吊り下げて支持するようにした吊り下げ式ボイラが多用されているが、このように大重量のボイラ本体を吊り下げて支持する吊り下げ式ボイラにおいては、地震発生時にボイラ本体と支持架構が異なる動きをするため、相対振動に対する防震対策が必要となる。
【0004】
このため、従来、ボイラの熱膨張に起因する変位は拘束せずに許容し、地震時の揺れに起因する変位は拘束し、且つ大地震に対しては揺れ止め装置部分を塑性変形させることで地震エネルギーを吸収し、支持架構及び基礎への影響を軽減する対策が講じられている。 この種の吊り下げ式ボイラの防震構造としては、支持鉄骨に、ボイラ本体の振動方向前後から挟むタイプレートを配置し、該タイプレートと前記ボイラ本体との間を複数の弾塑性エレメントで連結するようにしたもの(特許文献1参照)がある。
【0005】
尚、吊り下げ式ボイラではないが、排熱回収ボイラにおける架構支持構造においては、バックステーに固定された外側支持金具と、内部トラスに固定された内側支持金具とからなり、それぞれ熱膨張による伸び方向に摺動外面と摺動内面とを有し、該摺動外面と摺動内面とが互いに接するように嵌合させたスライド支持金具により、熱膨張差によるバックステーの変形を低減するようにしたものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−322104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように支持鉄骨にタイプレートを配置し、このタイプレートとボイラ本体との間を複数の弾塑性エレメントで連結した構成においては、ボイラ本体の揺れ方向に対して弾塑性部材の曲げ力(剪断力)によって防震するものであるため、大きな地震力に対して防震するためには多数の弾塑性部材を備える必要があり、更に、弾塑性部材は複雑な形状を有するために加工作業が大変であり、加工工数、取付けのための作業時間が増加し、コストが増加するという問題がある。
【0008】
又、前述の如き排熱回収ボイラにおける架構支持構造においては、地震については考慮されていないため、地震発生時に、外側支持金具の摺動外面と内側支持金具の摺動内面とが互いに離反して再び接触した場合、大きな衝撃力が発生し、バックステーに対する外側支持金具の取付部や内部トラスに対する内側支持金具の取付部に過大な負荷がかかる可能性があった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、小型で簡略な構造にて構造物の熱膨張に起因する変位を許容しつつ地震力を確実に吸収し得、且つ地震発生時に大きな衝撃力が発生して連結部材に過大な負荷がかかることを防止し得る弾塑性ブレース防震構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、構造物の地震による荷重を支持する固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方を取り囲んで配置される連結部材と、
該連結部材を介して線対称の位置に配置され、各一端が連結部材に固定され、各他端が前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか他方に固定された弾塑性ブレースとを有し、
前記線対称に配置された弾塑性ブレースにより構造物側保持部材から連結部材を介して固定部材に伝えられる地震による荷重の伝達が、一方の弾塑性ブレースの圧縮と他方の弾塑性ブレースの引張とにより同時に行われるよう構成した弾塑性ブレース防震構造であって、
前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との間に、該固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との隙間を埋め且つ前記構造物の熱膨張に伴う前記固定部材の軸線方向への相対移動を案内するガイド手段を介装したことを特徴とする弾塑性ブレース防震構造にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
地震が発生していない通常時に、構造物が熱膨張して固定部材の軸線方向へ相対移動すると、構造物側保持部材と固定部材との相対移動はガイド手段によって案内されるので、構造物の熱膨張は許容される。
【0013】
一方、地震が発生して固定部材と構造物側保持部材が水平方向へ相対移動した場合、構造物の荷重が連結部材及び弾塑性ブレースを介して固定部材に伝えられるが、この時の荷重の伝達は、線対称に配置された弾塑性ブレースによって、一方の弾塑性ブレースが引張荷重を受けるときには他方の弾塑性ブレースが圧縮荷重を受けるように同時に伝えられ、該弾塑性ブレースには圧縮荷重と引張荷重が繰り返し作用することになり、弾塑性ブレースが延び変形或いは座屈変形することによって防震が行われる。
【0014】
ここで、仮に、ガイド手段が設けられていないと、前記構造物の熱膨張を許容するために、前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との間に隙間をあけておく必要があることから、該固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材とが互いに接触し、大きな衝撃力が発生し、連結部材に過大な負荷がかかる虞があるが、前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との間にはガイド手段が介装され、前記隙間が埋められているため、地震発生時にも、大きな衝撃力が発生せず、連結部材に過大な負荷がかかる心配もない。
【0015】
前記弾塑性ブレース防震構造においては、前記ガイド手段を、前記固定部材の軸線方向と直角な方向へ延びるローラ軸を中心に転動自在なガイドローラによって構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾塑性ブレース防震構造によれば、小型で簡略な構造にて構造物の熱膨張に起因する変位を許容しつつ地震力を確実に吸収し得、且つ地震発生時に大きな衝撃力が発生して連結部材に過大な負荷がかかることを防止し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】構造物として吊り下げ式ボイラのボイラ本体の防震に適用した本発明の弾塑性ブレース防震構造の実施例を示す全体概要構成図である。
【図2】本発明の弾塑性ブレース防震構造の実施例を示す平断面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図3】本発明の弾塑性ブレース防震構造の実施例を示す側断面図であって、(a)は図2のIII−III矢視相当図、(b)は構造物が熱膨張した状態を示す図である。
【図4】本発明の弾塑性ブレース防震構造の実施例におけるガイド手段を示す斜視図である。
【図5】(a)は弾塑性ブレースを組み立てる状態を示す斜視図、(b)は組み立てた弾塑性ブレースの斜視図、(c)は図5(b)のVc−Vc断面図である。
【図6】弾塑性ブレースの詳細構成を示す側面図である。
【図7】本発明の弾塑性ブレース防震構造の参考例を示す平断面図であって、図1のII−II矢視相当図である。
【図8】本発明の弾塑性ブレース防震構造の参考例を示す側断面図であって、(a)は図7のVIII−VIII矢視相当図、(b)は構造物が熱膨張した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1〜図6は構造物として吊り下げ式ボイラのボイラ本体の防震に適用した本発明の弾塑性ブレース防震構造の実施例であって、図1に示す防震すべき構造物であるボイラ本体1は、その地震による荷重を支持する固定部材としてのボイラ架構2によって吊り下げられ、該ボイラ架構2は、前記ボイラ本体1を取り囲むように立設される複数の架構鉄骨柱3と、該架構鉄骨柱3間を接続する水平方向へ延びる横鉄骨4とによって高強度に形成されている。
【0020】
前記ボイラ本体1には、構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱5を一体に設け、該ボイラ鉄骨柱5を取り囲んで連結部材6を配置すると共に、該連結部材6を介してボイラ鉄骨柱5の鉛直な軸線Oを中心に線対称の位置に弾塑性ブレース10を配置し、該各弾塑性ブレース10の一端を連結部材6に固定し、各弾塑性ブレース10の他端を前記固定部材としてのボイラ架構2の架構鉄骨柱3に固定し、前記線対称に配置された弾塑性ブレース10によりボイラ鉄骨柱5から連結部材6を介して架構鉄骨柱3に伝えられる地震による荷重の伝達が、一方の弾塑性ブレース10の圧縮と他方の弾塑性ブレース10の引張とにより同時に行われるよう構成してある。
【0021】
前記弾塑性ブレース10は、図5(a)、図5(b)、図5(c)、及び図6に示す如く、断面十字フィン状の低降伏点鋼材からなる荷重受部11と、一般鋼材によって前記荷重受部11よりも各フィンの幅寸法及び厚みを大きく形成して前記荷重受部11の一端に溶接固定した端部部材12と、前記荷重受部11の他端に溶接固定した端部部材13とからなる芯材14を有している。
【0022】
更に、図5(a)〜図5(c)に示すように、前記芯材14の四隅部には、前記端部部材12,13の各フィンの幅と同等の幅を有する山形鋼(L字状断面)からなる座屈防止材15を配置してあり、該座屈防止材15は、前記端部部材12と端部部材13の一部に跨がる長さを有している。又、前記荷重受部11の各フィンの外側には前記端部部材12,13のフィンの厚さと同等の厚さを有するスペーサ16を配置してあり、前記座屈防止材15によって端部部材12,13の一部とスペーサ16を挟み込み、締結部材としての組立ボルト・ナット17(高力ボルト・ナット)で締め付けることにより、前記荷重受部11と端部部材12,13とスペーサ16とを一体に組み立てるようにしてある。更に又、前記座屈防止材15の一端が前記端部部材12の一部に組立ボルト・ナット17によって取り付けられる位置には、長孔18が形成されている。
【0023】
従って、前記座屈防止材15により端部部材12,13の一部とスペーサ16を挟んだ状態で前記組立ボルト・ナット17による締め付けを行うと、図5(c)に示すように、前記荷重受部11と座屈防止材15との間には隙間Sが形成されているため、前記端部部材12,13間に引張又は圧縮の荷重が作用した場合には、前記荷重受部11が引張変形又は圧縮変形するようにしてある。この時、前記座屈防止材15は長孔18によって前記荷重受部11の長さの変化は許容し、前記荷重受部11が座屈しようとする荷重に対しては座屈防止材15が抵抗するようにしてある。
【0024】
又、前記一方の端部部材12の延長方向端面には、図5(b)及び図6に示す如く、前記端部部材12と同一の断面形状の一般鋼で形成した短い連結駒19を配置してあり、該連結駒19は、各フィンを挟むように配置した連結プレート20と組立ボルト・ナット17によって前記端部部材12に対し着脱可能に取り付けるようにしてある。
【0025】
前記弾塑性ブレース10の一方の端部に取り付けた連結駒19の先端を、前記架構鉄骨柱3に対し溶接により固定すると共に、前記弾塑性ブレース10の他方の端部部材13の先端を、連結部材6の後述するスライド板21に対し溶接により固定するようにしてある。
【0026】
一方、前記連結部材6は、図2に示す如く、前記ボイラ鉄骨柱5の前後幅(図2では上下の幅)よりも大きい幅を有したスライド板21を備え、該スライド板21の前後端部の相互間を、図6に示す如く、上下の締結ボルト22及びナット23により着脱可能に締結してなる構成を有しており、前記スライド板21とボイラ鉄骨柱5との間に隙間が形成されるようにナット23の締め付けを行っている。
【0027】
そして、前記ボイラ鉄骨柱5と連結部材6のスライド板21との間に、該ボイラ鉄骨柱5と連結部材6のスライド板21との隙間を埋め且つ前記構造物としてのボイラ本体1の熱膨張に伴う前記架構鉄骨柱3の軸線方向への相対移動を案内するガイド手段24を介装してある。
【0028】
本実施例の場合、前記ガイド手段24は、図2、図3(a)、図3(b)及び図4に示す如く、上下方向へ延びるベースプレート25と、該ベースプレート25から側方へ張り出すように所要間隔をあけて配設されるブラケット26と、該ブラケット26間に掛け渡すように前記架構鉄骨柱3の軸線方向と直角な方向へ延びるローラ軸27を中心に転動自在なガイドローラ28とから構成し、前記ベースプレート25をボイラ鉄骨柱5に溶接にて取り付けるようにしてある。
【0029】
尚、前記ガイドローラ28は、図3(a)、図3(b)及び図4に示す例では、上下七段に配置してあるが、この段数は前記ボイラ本体1の熱膨張量に応じて適宜選定することができ、又、各段におけるガイドローラ28は、その軸線方向へ複数に分割する形で配設するようにしても良い。
【0030】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0031】
地震が発生していない通常時に、構造物としてのボイラ本体1が熱膨張して、固定部材としてのボイラ架構2の架構鉄骨柱3の軸線方向へ相対移動すると、構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱5と架構鉄骨柱3との相対移動は、図3(a)に示す状態から、連結部材6のスライド板21に対しガイド手段24のガイドローラ28がローラ軸27を中心に転動することによって、図3(b)に示すように円滑に案内されるので、構造物としてのボイラ本体1の熱膨張は許容される。
【0032】
一方、地震が発生して、前記固定部材としてのボイラ架構2の架構鉄骨柱3と、前記構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱5が水平方向へ相対移動した場合、構造物としてのボイラ本体1の荷重が連結部材6及び弾塑性ブレース10を介して架構鉄骨柱3に伝えられるが、この時の荷重の伝達は、線対称に配置された弾塑性ブレース10によって、一方の弾塑性ブレース10が引張荷重を受けるときには他方の弾塑性ブレース10が圧縮荷重を受けるように同時に伝えられ、該弾塑性ブレース10には圧縮荷重と引張荷重が繰り返し作用することになり、弾塑性ブレース10が延び変形或いは座屈変形することによって防震が行われる。因みに、上記において、引張荷重と圧縮荷重を同時に受ける線対称の弾塑性ブレース10は、低降伏点鋼材からなる荷重受部11が圧縮荷重で座屈する耐力に比して、引張荷重による延びの耐力の方が大きくなっており、延びの耐力に座屈の耐力が加算された大きい耐荷重によってボイラ本体1の揺れを効果的に防震することができる。このように、線対称の弾塑性ブレース10で引張荷重と圧縮荷重を同時に受けるようにしたことで耐力が高まるため、弾塑性ブレース10は断面寸法を小さくした小型のものとすることができる。
【0033】
ここで、仮に、ガイド手段24が設けられていないと、前記構造物としてのボイラ本体1の熱膨張を許容するために、前記ボイラ鉄骨柱5と連結部材6との間に隙間をあけておく必要があることから、該ボイラ鉄骨柱5と連結部材6とが互いに接触し、大きな衝撃力が発生し、連結部材6に過大な負荷がかかる虞があるが、前記ボイラ鉄骨柱5と連結部材6との間にはガイド手段24が介装され、該ガイド手段24のガイドローラ28により前記隙間が埋められているため、地震発生時にも、大きな衝撃力が発生せず、連結部材6に過大な負荷がかかる心配もない。
【0034】
こうして、小型で簡略な構造にて構造物としてのボイラ本体1の熱膨張に起因する変位を許容しつつ地震力を確実に吸収し得、且つ地震発生時に大きな衝撃力が発生して連結部材6に過大な負荷がかかることを防止し得る。
【0035】
図7、図8(a)及び図8(b)は本発明の弾塑性ブレース防震構造の参考例であって、図中、図1〜図6と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1〜図6に示すものと同様であるが、本参考例の特徴とするところは、図7、図8(a)及び図8(b)に示す如く、ボイラ鉄骨柱5の左右両側面に、断面C字状で且つ内面側に上下方向へ延びる案内路29aが形成されたガイドフレーム29を連結部材として取り付けると共に、弾塑性ブレース10の一端に、前記案内路29aに沿って上下方向へ摺動自在となるよう前記ガイドフレーム29に嵌合するスライド片30を取り付けることにより、ガイド手段24を構成した点にある。
【0036】
次に、上記参考例の作用を説明する。
【0037】
地震が発生していない通常時に、構造物としてのボイラ本体1が熱膨張して、固定部材としてのボイラ架構2の架構鉄骨柱3の軸線方向へ相対移動すると、構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱5と架構鉄骨柱3との相対移動は、図8(a)に示す状態から、弾塑性ブレース10の一端に取り付けられたスライド片30に対しガイド手段24のガイドフレーム29が摺動することによって、図8(b)に示すように円滑に案内されるので、構造物としてのボイラ本体1の熱膨張は許容される。
【0038】
一方、地震が発生して、前記固定部材としてのボイラ架構2の架構鉄骨柱3と、前記構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱5が水平方向へ相対移動した場合、構造物としてのボイラ本体1の荷重が連結部材としてのガイドフレーム29及び一端にスライド片30が取り付けられた弾塑性ブレース10を介して架構鉄骨柱3に伝えられるが、この時の荷重の伝達は、線対称に配置された弾塑性ブレース10によって、一方の弾塑性ブレース10が引張荷重を受けるときには他方の弾塑性ブレース10が圧縮荷重を受けるように同時に伝えられ、該弾塑性ブレース10には圧縮荷重と引張荷重が繰り返し作用することになり、弾塑性ブレース10が延び変形或いは座屈変形することによって防震が行われる。因みに、上記において、引張荷重と圧縮荷重を同時に受ける線対称の弾塑性ブレース10は、低降伏点鋼材からなる荷重受部11が圧縮荷重で座屈する耐力に比して、引張荷重による延びの耐力の方が大きくなっており、延びの耐力に座屈の耐力が加算された大きい耐荷重によってボイラ本体1の揺れを効果的に防震することができる。このように、線対称の弾塑性ブレース10で引張荷重と圧縮荷重を同時に受けるようにしたことで耐力が高まるため、弾塑性ブレース10は断面寸法を小さくした小型のものとすることができる。
【0039】
ここで、前記ボイラ鉄骨柱5と弾塑性ブレース10との間にはガイド手段24が介装され、該ガイド手段24のガイドフレーム29とスライド片30との隙間は小さく設定することができるため、地震発生時にも、衝撃力を抑えることが可能となり、連結部材としてのガイドフレーム29に過大な負荷がかかる心配もない。
【0040】
こうして、図7、図8(a)及び図8(b)に示す参考例においても、小型で簡略な構造にて構造物としてのボイラ本体1の熱膨張に起因する変位を許容しつつ地震力を確実に吸収し得、且つ地震発生時に大きな衝撃力が発生して連結部材としてのガイドフレーム29に過大な負荷がかかることを防止し得る。
【0041】
尚、本発明の弾塑性ブレース防震構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、固定部材としてのボイラ架構の架構鉄骨柱と、構造物側保持部材としてのボイラ鉄骨柱との位置関係を入れ替え、固定部材の側に連結部材を配置し、該連結部材に一端が固定される弾塑性ブレースの他端を構造物側保持部材に固定する形式のものにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 ボイラ本体(構造物)
2 ボイラ架構(固定部材)
3 架構鉄骨柱(固定部材)
5 ボイラ鉄骨柱(構造物側保持部材)
6 連結部材
10 弾塑性ブレース
11 荷重受部
15 座屈防止材
17 組立ボルト・ナット
19 連結駒
20 連結プレート
21 スライド板
22 締結ボルト
23 ナット
24 ガイド手段
25 ベースプレート
26 ブラケット
27 ローラ軸
28 ガイドローラ
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の地震による荷重を支持する固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方を取り囲んで配置される連結部材と、
該連結部材を介して線対称の位置に配置され、各一端が連結部材に固定され、各他端が前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか他方に固定された弾塑性ブレースとを有し、
前記線対称に配置された弾塑性ブレースにより構造物側保持部材から連結部材を介して固定部材に伝えられる地震による荷重の伝達が、一方の弾塑性ブレースの圧縮と他方の弾塑性ブレースの引張とにより同時に行われるよう構成した弾塑性ブレース防震構造であって、
前記固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との間に、該固定部材又は構造物側保持部材のいずれか一方と連結部材との隙間を埋め且つ前記構造物の熱膨張に伴う前記固定部材の軸線方向への相対移動を案内するガイド手段を介装したことを特徴とする弾塑性ブレース防震構造。
【請求項2】
前記ガイド手段を、前記固定部材の軸線方向と直角な方向へ延びるローラ軸を中心に転動自在なガイドローラによって構成した請求項1記載の弾塑性ブレース防震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97816(P2012−97816A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245984(P2010−245984)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】