説明

弾性ローラの再生方法

【課題】弾性ローラに生じたクリープ変形を弾性ローラの特性を損なわずに回復し、再利用可能な状態にする方法を提供する。
【解決手段】超音波振動手段より固体を介して超音波振動を該軸芯体に伝達し該軸芯体を超音波振動させ、該クリープ変形を回復させる工程を含むことを特徴とする弾性ローラの再生方法。振動手段101は、超音波振動を発する振動子103および超音波振動を軸芯体202に伝達させる伝達部材104から構成される。振動子103より発した超音波振動は、伝達部材104を経て軸芯体202に伝達され、弾性層203全体を振動させるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリープ変形を生じた弾性ローラの再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置の如き機械装置内では、軸芯体の周囲に弾性層を有する弾性ローラが、加圧ローラや搬送ローラの如き用途で使用されている。該弾性ローラは、他の部材と接触により圧力を受け変形した(圧力変形)状態で使用される場合がある。弾性ローラの弾性層は、短期間の圧接に対しては圧接が開放されれば、もとの形状に復元する場合が多いが、持続した圧力変形を受けると変形が進行し、さらに固定化されて元の形状に戻らなくなる場合がある。すなわち、クリープ変形を生じる場合がある。
【0003】
機械装置内中で一時的に生じたクリープ変形を回復させる方法として、以下のような方法が開示されている。
(1)他の部材に圧接させ回転を繰り返す処理を行う方法(特許文献1参照)。
(2)さらに加熱手段を設け他の部材に接触させ、回転を繰り返す処理を行う方法(特許文献2、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−227535号公報
【特許文献2】特開平07−334027号公報
【特許文献3】特開2001−051554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械装置が一時的に休止状態となった後に生じるクリープ変形に対しては、上記従来技術でも回復可能であった。しかしながら、さらに長期に渡って圧力変形が継続すると、クリープ変形がさらに進行し、上記従来技術ではクリープ変形の回復が難しくなる場合がある。
【0006】
特に弾性ローラを組み込んだ機械装置が使用を終了した後は、弾性ローラが圧力変形を受けたまま長期間放置される場合がある。さらに長期間の放置期間中に高温多湿環境の如き劣悪な条件下にさらされる可能性もある。高温多湿環境に置かれた場合、クリープ変形がさらに加速促進され、クリープ変形の回復がますます困難になる。
【0007】
例えば、クリープ変形を生じた弾性ローラを加圧ローラとして使用した場合は、弾性ローラと他の部材との接触圧力が不均一になるという問題が懸念されている。またクリープ変形を生じた弾性ローラを搬送ローラとして使用した場合は、搬送速度、搬送量が不均一になるという問題が懸念されている。
【0008】
このため機械装置内で一度使用した後、長期間放置された弾性ローラは、廃棄される場合があった。しかしながら近年、資源の有効利用、廃棄物を減少させるという社会的要請により、機械装置内で一度使用された各種弾性ローラを再生して、再利用することが強く要望されるようになっている。このため、長期の圧力変形により生じたクリープ変形を回復させる再生方法が要望されている。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、弾性ローラの特性を損なわずに、弾性ローラに生じたクリープ変形を回復し、弾性ローラを再生、再利用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係る弾性ローラの再生方法は、軸芯体と、該軸芯体の周囲に形成される、弾性樹脂および無機フィラーを含む弾性層とを有し、かつ該弾性層に圧接によってクリープ変形を生じた弾性ローラの再生方法であって、
超音波振動発振手段より直接または固体を介して超音波振動を該軸芯体に伝達し該軸芯体を超音波振動させることにより該クリープ変形を回復させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、弾性ローラに生じたクリープ変形を回復し、弾性ローラの特性を損なわずに弾性ローラを再生、再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の再生方法で使用する再生装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明で再生する弾性ローラの長手方向に垂直な方向より見た形状である。
【図3】本発明で再生する弾性ローラの軸に垂直な方向の断面図である。
【図4】本発明の弾性層中の無機フィラー分布模式図(圧力を受ける前)である。
【図5】本発明の弾性層中の無機フィラー分布模式図(圧力を受けた後)である。
【図6】本発明の弾性層中の無機フィラー分布模式図(圧力開放後)である。
【図7】本発明で再生する弾性ローラの圧接状態を長手方向に垂直な方向より見た形状例である。
【図8】本発明で再生する弾性ローラの圧接状態の軸に垂直な方向の断面図である。
【図9】本発明で再生するクリープ変形を生じた弾性ローラの圧接状態を長手方向に垂直な方向より見た形状例である。
【図10】本発明で再生するクリープ変形を生じた弾性ローラの軸に垂直な方向の断面図状態状の例である。さらに本発明における、凹み深さ測定の構成例である。
【図11】本発明の電子写真プロセスカートリッジ及び画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図12】本発明で再生する弾性層203を樹脂層204と表面層205に機能分離をした弾性ローラ5201の軸に垂直な方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<本発明の弾性ローラの再生方法>
図2、3に本発明を適用しうる弾性ローラ201の一例を示す。なお、図2は弾性ローラ201を長手方向に垂直な方向より見た形状であり、図3は長手方向に垂直な断面を表した図である。発明を適用しうる弾性ローラ201は、軸芯体202の周囲に、無機材料からなるフィラー(以下、無機フィラーとよぶ)が含有された弾性層203を少なくとも一層有するものである。
【0015】
発明者らはクリープ変形の回復手段として振動エネルギーに注目し様々な振動手段を検討した。その結果、弾性ローラ201に超音波振動を加えることにより弾性層203の変形を回復することが出来ることを見いだし、本発明に至った。
【0016】
本発明の弾性ローラの再生方法におけるクリープ変形回復のメカニズムに関しては、不明の点も多いが以下のように推測している。
【0017】
弾性層203がゴム、エラストマーのごとき弾性樹脂のみで構成される場合は、圧力変形を加えると弾性樹脂を構成する分子鎖同士が接近し、一時的に分子間力により結合する。圧力をゆるめれば、大半の分子鎖同士の結合は解除され元に戻る。しかしながら分子鎖同士の結合の一部がそのまま残り固定化されると、クリープ変形が生じることが知られている。
【0018】
このような弾性樹脂の分子鎖同士の結合によるクリープ変形は、弾性層203を加熱して弾性樹脂分子の運動を活発化することにより回復できる場合が多い。さらに従来技術で示したように弾性層203に対して圧縮,解放を繰り返す(他の部材に圧接させ回転させる)処理を行うことで内部発熱させ、クリープ変形を回復することが可能である。
【0019】
一方、本発明の弾性ローラ201においては、所定の硬度、耐摩耗性、導電性を確保するために弾性層樹脂中にカーボンブラック、シリカ、石英粉末、アルミナ粉末のごとき無機フィラーが分散されている。無機フィラーが分散含有された弾性層(フィラー分散型弾性体)では、上記の弾性樹脂の分子鎖同士の結合要因によるもの以外に、無機フィラーを要因としたクリープ変形があることを推測している。
【0020】
無機フィラーを要因としたクリープ変形に関して図4、5、6を用いて模式的に説明する。図4において、弾性樹脂301の中に無機フィラー302が均一に分散されている弾性層203を示す。
【0021】
しかしながら、図5のように弾性層203に圧力303が加わると無機フィラー302が圧力に押し出され、加圧部より周辺に移動し、分布が偏在化してしまう。変形が短期であれば、圧力が緩和されると、無機フィラー302の偏在も元に戻る。しかしながら圧力が長時間加え続けられると、偏在化した無機フィラー302が元の位置に戻らず、図6のように偏在位置に残留し、クリープ変形となってしまう。
【0022】
特に弾性樹脂301と無機フィラー302の結合力が弱い場合は、無機フィラー302を引き戻す力が弱く、クリープ変形が大きくなる傾向がある。
【0023】
有機フィラーに比べ、無機フィラーは硬度が高く、圧力をかけたときの変形を吸収しない上、弾性樹脂301と馴染みがよくない場合が多く、無機フィラー302が弾性樹脂301の拘束を離れて偏在化しやすい。
【0024】
これに対して、弾性層203に超音波振動を加え、無機フィラー301を振動させると、偏在化した無機フィラー301が均一に分散、拡散され元の状態に戻り、クリープ変形を回復することが出来ると推測している。
【0025】
さらに、超音波振動によって無機フィラー301を振動させることにより、弾性樹脂の分子鎖同士の結合要因によるクリープ変形をも回復する効果がある。
【0026】
(本発明の再生装置の構成)
本発明の弾性ローラの再生方法を実現する、再生装置の一例を図1に示す。
【0027】
図1において再生装置100は振動手段101、および下部押え102を備え、弾性ローラ201を支持するように構成される。
【0028】
振動手段101は、超音波振動を発する振動子103および超音波振動を軸芯体202に伝達させる伝達部材104から構成される。振動子103より発した超音波振動は、伝達部材104を経て軸芯体202に伝達され、弾性層203全体を振動させるように構成される。
【0029】
振動手段101は弾性ローラ201の上部に配置し、振動手段101を適正な圧力で、弾性ローラ201の軸芯体202の端部に接触させることが好ましい。弾性ローラ201と振動手段101の接触圧力を適性値にすることで、効率よく超音波振動を軸芯体202伝えることが出来る。接触圧力が小さいと、振動手段101の振動により該振動手段と軸芯体202の間にすき間が生じ、超音波振動を伝達しにくくなる。
【0030】
振動手段101を弾性ローラ201の下部に配置してもよいが、弾性ローラ201の荷重が振動手段101にかかり、振動手段101の負荷が大きくなるため、弾性ローラ201の上部に配置することが好ましい。
【0031】
振動子103と伝達部材104との間には超音波振動を増幅するホーン105と呼ばれる円錐形の増幅手段を設けても良い。
【0032】
再生装置100の動作中に弾性ローラ201が外れないよう、伝達部材104の端部および下部押え102の先端を、軸芯体202端部と勘合するような構造にすると良い。
【0033】
さらに、再生装置100が弾性ローラ201を連続的に処理できるように、弾性ローラ201を容易に脱着、搬送可能な保持機構、搬送手段を設けても良い。
【0034】
本発明では、弾性ローラ201に超音波振動を与えるときは、振動子103から弾性ローラ201との間に振動を伝える媒介手段を設けることが望まれる場合には、媒介手段として液体を介在させず、固体を介在して弾性ローラ201に振動を伝える必要がある。また、固体を介在させる場合、振動子103と弾性ローラ201の軸芯体202との間に設け、軸芯体202を振動させることで弾性層203に振動を与えることが効率的あり好ましい。また、媒介手段を設けないで振動子103から直接振動を伝達してもよい。
【0035】
洗浄を目的として、超音波振動手段を備えた槽に水などの液体を満たし、前記液体中に弾性ローラ201を浸漬し、液体を介在して弾性ローラ201に超音波振動を伝達する方法が知られている。しかし、この場合、超音波振動により液体中にキャビティと呼ばれる微小な泡が発生し、この泡が収縮するときの衝撃力が弾性ローラ201の表面に作用する。この方法では、弾性ローラ201表面の汚れを分離する目的には適しているが、キャビティが収縮するときの衝撃力の作用は、弾性層203の表面にとどまり、弾性層203の全体に超音波振動を伝える前に減衰してしまう。このためクリープ変形を回復させる効果が不充分である。なぜならば、弾性ローラ201のクリープ変形は、弾性層203の深い部分にも達しているので、クリープ変形を効果的に回復させる為には弾性層203全体に超音波振動を伝えて振動させることが必要だからである。また液体を介在して弾性ローラを超音波振動させる方法は、超音波振動エネルギーの大部分が液槽中で消費されるため、弾性ローラのクリープ変形を回復させる効果がほとんどない。
【0036】
(振動手段)
振動手段101は、超音波振動を発振する手段(超音波振動発振手段)である振動子103および超音波振動を軸芯体202に伝達させる手段(超音波振動伝達手段)である伝達部材104から構成される。振動子103は、振動手段101内部に設置され、圧電効果のある材料、たとえば酸化チタン・酸化バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛の如き多結晶体セラミックスからなる群より選ばれる材料によって構成される。振動子103には、不図示の高周波電源によって高周波電圧が印加され、圧電効果により超音波振動を発生する。
【0037】
本発明の弾性ローラ201の再生方法において、弾性ローラ201に超音波振動を加えることにより弾性層203の変形を回復することが出来る。
【0038】
弾性ローラ201に付与する超音波振動の振動数(周波数)としては、21KHz以上、2MHz以下が特に好ましい。21kHz以上、2MHz以下の振動数の超音波振動を作用させることにより、弾性層203内の無機フィラーを特に効率的に振動させ、クリープ変形を回復することができる。
【0039】
超音波振動のエネルギー(振動子103に付与する電気エネルギー)を該弾性層の体積で割った値(弾性層単位体積あたりの超音波振動エネルギー)は、10W/cm3以上、100W/cm3以下であることが好ましい。これにより、超音波振動のエネルギーを弾性層203の体積で割った値を上記数値範囲内とすることにより、弾性層203が超音波振動のエネルギーによって、弾性層203を損なうことなく、該弾性層に生じたクリープ変形を十分に回復させることができる。
【0040】
軸芯体202が金属で構成されている場合は、軸芯体202の振動吸収率が弾性層に比べて格段に小さいので、付与された超音波振動のエネルギーのほとんどは弾性層で吸収される。そのため、本発明のクリープ変形を回復するために必要な超音波振動のエネルギー量は弾性層の体積に比例する。
【0041】
(弾性ローラの再生工程)
本発明の弾性ローラ201の再生工程を、図1の再生装置100を例に説明する。弾性ローラの再生工程は、弾性ローラのクリープ変形を回復させるために超音波振動により弾性ローラを処理する工程(超音波振動処理工程)を有する。更に、再生工程は、後述するように超音波振動を与える工程の前に弾性ローラの加熱工程を有することができる。
【0042】
弾性ローラ201の超音波振動処理工程は、弾性ローラ201を振動手段101、および下部押え102で支持し、所定の時間、超音波振動を弾性ローラ201に与えた後、振動子103を停止させて、弾性ローラ201を取り外すことで完了する。
【0043】
処理時間は、クリープ変形の度合、超音波振動のエネルギーによるが、20秒以上でクリープ変形の回復効果が見込めるため、通常は処理時間を20秒乃至60秒程度で設定することができる。このように、本発明の再生方法は、短時間に大量の処理が可能であり、装置コスト、処理コストの視点から非常に有利な再生方法である。ただし、処理時間は上記範囲に限定されず、更に長い時間、例えば、90秒、120秒などと設定することができる。
【0044】
(弾性ローラの再生工程における加熱)
更に、発明の弾性ローラの再生方法において、弾性層203を加熱状態にしてから超音波振動を与えることによってクリープ変形を回復させる処理をするとより好ましい。つまり、超音波振動処理工程の前に弾性ローラを加熱する工程を有することが好ましい。
【0045】
弾性層203を加熱すると、弾性層203に含まれる弾性樹脂301の分子運動が活発化するため、圧力により偏在化した無機フィラー302が元に戻りやすくなる。
【0046】
すなわち、熱エネルギーにより分子運動が活発になるため、分子鎖同士の結合によるクリープ変形も解消され、クリープ変形を効果的に回復できる。
【0047】
具体的には、弾性ローラ(特に弾性層203)の温度を40℃以上、160℃以下に加熱することが好ましい。弾性ローラ201の温度が40℃より低い場合は、常温(23℃)で処理した場合と効果に差が見られなかった。弾性ローラ201の温度が160℃より高い場合は、弾性層203の樹脂が熱劣化する場合があり、弾性ローラを再生するという目的を達しない場合がある。
【0048】
なお、弾性ローラ201を加熱する方法は特に制限されず、少なくとも弾性層203の全体が所望の温度になる方法であれば良い。例えば、弾性ローラ201をオーブンで加熱した後に、除去装置100に取り付けて処理する方法や、加熱した金属ローラを弾性ローラ201の表面に接触させて弾性ローラ201を加熱した後に処理する方法を挙げることができる。
【0049】
<再生弾性ローラの使用例>
本発明の弾性ローラの再生方法は、機械装置内で使用する各種弾性ローラに適用できる。弾性ローラ201の機械装置内における用途の例としては、加圧ローラ(部材に均一で所定の圧力をかける)用途や、搬送ローラ(シート、ベルト、粉体の搬送)のような各種用途で用いられる。
【0050】
弾性ローラ201は、他の部材と圧接状態で使用される場合がある。例えば図7、8のように円筒状圧接部材401により圧接された場合は、圧接部402には図9、10に示したようなクリープ変形405が生じる。また板状圧接部材403のように部材の角により圧接された場合、圧接部404に図10に示したようなクリープ変形406が生じる。
【0051】
特に弾性ローラ201を組み込んだ機械装置の使用終了後は、弾性ローラ201は圧接を受けたまま放置される場合がある。そして、放置期間は、1年以上の長期に及ぶ可能性がある。さらに機械装置は使用を終了した後は、保存環境に対する配慮がなされない場合が多く、高温多湿環境な環境に放置される可能性もある。このため、弾性ローラの材料によっては高温多湿環境によりクリープ変形が加速促進される。クリープ変形の回復は、圧接状態が長く続いたものほど難しくなる。
【0052】
本発明の弾性ローラ201クリープ変形の再生方法は一般の機械装置に用いられる弾性ローラ201に対して有効であるが、電子写真方式画像形成装置(以下電子写真装置という)に用いる弾性ローラ201に対して特に有効である。
【0053】
近年、電子写真装置に求められる画像品質が高くなっており、それにともなって該装置に用いられる弾性ローラ201に対する形状精度も厳しくなっている。これに対して、本発明の弾性ローラ201の再生方法は、クリープ変形の回復効果に優れているので、電子写真装置に用いられる弾性ローラ201の再生方法として特に好適である。
【0054】
以下電子写真装置に用いられる弾性ローラ201と、プロセスカートリッジ501及び電子写真装置500の一例を、図11を用いて説明する。
【0055】
まず図11の電子写真装置500における、画像形成プロセスに関して説明する。感光体ドラム504は、帯電ローラ503によりその表面に対し、所定の極性で、電位が一様になるように帯電処理される。この後、目的画像情報の露光505を受け、感光体ドラム504の表面に目的画像に対応した静電潜像が形成される。
【0056】
次に、この静電潜像は、現像ローラ502により供給される乾式トナー516によって、トナー画像として可視化される。また、給紙ローラ506によって搬送された記録材507は、転写ローラ508まで運ばれると共に感光体ドラム504上に可視化されたトナー画像は、裏面から転写ローラ508によって加圧、電圧を印加されて記録材507に転写される。
【0057】
このトナー画像が転写された記録材507は更に、定着ローラ509と定着部加圧ローラ510によって構成された定着部へ搬送され、像定着を受け、画像形成物として出力される。この後、感光体ドラム504はその上に残存するトナー、ごみを除くためにクリーニングブレード511によりクリーニングされ、除電部材(図示していない)により除電され、再び帯電過程に進む。また、クリーニング部511によって除去された乾式トナーは、廃トナー容器512へ集められる。なお、クリーニング部511の部材としてクリーニングローラを用いることも可能である。
【0058】
一方、現像ローラ502には、その表面にトナー供給ローラ513により乾式トナーがトナー貯留槽514から供給される。また、この現像ローラ502には、均一な厚さになるように、それぞれトナー供給ローラ513、トナー量規制部材(以下現像ブレード515)が当接されている。現像ローラ502上に存在し、感光体ドラム504で静電潜像を現像する際に使用されなかった乾式トナー516は、トナー供給ローラ513で一旦、現像ローラ502から掻き落とされる。また、帯電ローラ503、現像ローラ502および転写ローラ508はバイアス印加電源により必要な電圧が印加されている。
【0059】
また、ブラック、マゼンダ、シアン、イエローの4色についてそれぞれプロセスカートリッジを設け、記録材に各色の乾式トナー516を転写し像定着を行うことにより、カラーの画像形成物を出力する電子写真装置もある。
【0060】
上記の画像形成プロセスにおいて、各種弾性ローラにクリープ変形があると、下記のような問題が生じる。
【0061】
例えば現像プロセスにおいては、現像ローラの表面は均一な円筒面を有し、現像ブレード515との間に均一な隙間を確保し、現像ローラ502の表面に、均一かつ薄層のトナー付着層を形成させる必要がある。しかし、現像ローラ502に凹みがあると、トナー付着状態が局所的に変化し、画像上に現像ローラ周期の画像欠陥(横スジ画像)が発生する。
【0062】
また電子写真装置内の帯電プロセスにおいては、保守性が良好なことから弾性ローラによる接触帯電方式が用いられている。接触帯電方式において帯電ローラ503に凹みがあると、帯電ローラ周期503の帯電ムラが生じ、画像濃度ムラが生じる。
【0063】
プロセスカートリッジ501は、図11に記載した部材のうち給紙部、転写ローラ、定着部、露光部を除く部材のすべて、またはいくつかを選んで一体とし、本体より分離可能としたものである。プロセスカートリッジ501は、所定の画像出力を行った後は交換されるが、使用済みのプロセスカートリッジ501は、環境面への配慮から回収される場合が多い。そして回収されたプロセスカートリッジ501は、部品単位に分解され、再利用可能なものは再利用され、新たなプロセスカートリッジ501に組み込まれる。
【0064】
使用後のプロセスカートリッジ501において、現像ローラ502は感光体ドラム504、及び現像ブレード515が当接されたままとなる。また、例えば帯電ローラ503においては感光体ドラム504が当接されたままとなる。使用後のプロセスカートリッジ501では上記のような圧接状態が長期に及ぶ可能性があり、使用を終了した後の機械装置で説明したのと同様の課題が発生する。このため各種ローラは、クリープ変形が生じていることを前提に、再生して再利用する必要がある。
【0065】
そのため、現像ローラ502の弾性層203はクリープ変形の生じにくい材料、例えばシリコーン樹脂やポリウレタン樹脂が使用される場合が多い。しかし、導電性確保、硬度維持のため、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、アルミナ粉末の如き高硬度の無機フィラーを配合する必要がある。前記のような無機フィラーを配合すると、回復困難なクリープ変形が生じていることが多く、本発明の再生方法により初めて、弾性ローラ201の再生が可能になった。
【0066】
接触現像方式の電子写真装置500において、現像ローラ502における凹み(クリープ変形の深さ)は5μm以下が好ましく、さらに高画質が要求される場合は凹みを4μm以下とすることが好ましい。
【0067】
帯電ローラ503において高画質が要求される場合は凹みが10μm以下となることが好ましい。
【0068】
未使用のプロセスカートリッジ501では、予め感光体ドラム504と現像ローラ502が接触しないようにする機構(離間機構)を備えることにより、現像ローラ502にクリープ変形が生じないようにする方法も知られている。しかしながら使用後にも再び離間する機構を設けると、コスト高となるため、このような離間機構の搭載は実用に至っていない。
【0069】
本発明の弾性ローラの再生方法は、電子写真装置内で使用する各種弾性ローラ201の再生に特に好適に適用できる。例えば、電子写真用の現像ローラ502、帯電ローラ503のみならず、給紙ローラ506、転写ローラ508、定着ローラ509、定着加圧ローラ510、トナー供給ローラ、クリーニングローラの如き弾性ローラを挙げることができる。
【0070】
<弾性ローラの構成>
本発明を適用しうる弾性ローラ201の構成は、軸芯体202と、該軸芯体の周囲に弾性層203を有している。以下発明を適用しうる弾性ローラ201の例として、電子写真装置用の現像ローラ502を挙げ詳細に説明する。
【0071】
(軸芯体)
本発明を適用しうる軸芯体202としては、炭素鋼、合金鋼及び鋳鉄、導電性樹脂の如き材料から適宜、選択して用いることができるが、強度の観点から金属製のものが好ましい。合金鋼の例としては、ステンレス鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブテン鋼、クロム鋼、クロムモリブテン鋼、Al、Cr、Mo及びVを添加した窒化用鋼が挙げられる。
【0072】
現像ローラ502として用いる場合は、導電性を必要とする。
【0073】
(弾性層)
弾性層203は、ゴム、エラストマーのごとき弾性樹脂301で構成される。弾性層203は単層で存在してもよいし、複数の弾性層203で構成されてもよいが、無機材料からなるフィラー(以下、無機フィラーとよぶ)を含有する弾性層203が少なくとも一層存在する。例えば、無機フィラーを含有する弾性層の周囲に表面層を形成してもよいし、更に、無機フィラーを含有する弾性層と表面層との間、あるいは軸芯体との間に、無機フィラーを含有しない弾性層を中間層として有してもよい。無機フィラー302は所定の硬度、耐摩耗性、導電性を確保するために弾性層樹脂中に配合される。
【0074】
弾性層203に分散する無機フィラー302としては、導電性無機フィラーと非導電性無機フィラーを挙げることができる。
【0075】
導電性無機フィラーとしては、以下のものを挙げることができる。カーボンブラック、グラファイトなどの炭素系物質。アルミニウム、銀、金などの金属、或いは錫−鉛合金、銅−ニッケル合金などの合金。酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化銀などの金属酸化物。各種フィラーに銅、ニッケル、銀の如き導電性金属めっきを施した物質。
【0076】
非導電性無機フィラーとしては、公知のものを使用することができ、例えば、以下のものを挙げることができる。珪藻土、石英粉末、乾式シリカ、湿式シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム
これらの無機フィラーの粒子径は5nm以上50μm以下であることが好ましい。無機フィラーの粒子径が5nmより小さいと無機フィラーが凝集しやすくなり、無機フィラーを添加する目的である補強性が得られない場合がある。また、無機フィラーの粒子径が50μmより大きいと同様にして補強性が得られない場合があるがある。
【0077】
導電性無機フィラーは、粉末状や繊維状の形態で、単独または2種類以上を混合して使用することができる。これらの中でも、カーボンブラックは導電性の制御が容易であり、また導電性の環境変動が小さく、さらには経済的観点から最も好ましい。
【0078】
カーボンブラック粒子の面積相当径は10nm以上100nm以下が好ましい。カーボンブラックの粒子中のストラクチャーを反映する指標として知られるDBP吸油量は40(cm3/100g)乃至120(cm3/100g)が好ましい。DBP吸油量が40(cm3/100g)以下では導電性が不足し、120(cm3/100g)を超えると弾性樹脂に対する分散性が充分でない場合がある。
【0079】
なお、カーボンブラック粒子の面積相当径は、以下の方法により求められる値とすることができる。
【0080】
まず、表面層を現像ローラから切り出し、切り出した表面層から超薄切片を作成し、観察用のサンプルとする。超薄切片の作成は、例えば、結切片作製装置(ライカマイクロシステムズ(株);Leica EM FCS)を使用することができる。この装置を使用して、−120℃以上−50℃の以下雰囲気下で、ディアトーム社製のダイヤモンドナイフ(Cryo dry 35°)を用いて、約50nmの厚みの超薄切片を作成することができる。作成した観察用サンプルをTEMで観察する。直接観察倍率は14万倍とする。撮影されたフィルムを2倍に拡大して現像し、最終的に、28万倍の写真を得る。
【0081】
該写真から、カーボンブラックの粒子500個を任意に選び出し、各々のカーボンブラック粒子について、その面積相当径(投影面積と等しい面積を持つ円の直径)を求める。なお、任意に選んだカーボンブラックの粒子が、隣接するカーボンブラックの粒子と重なり合いが多い場合は、そのカーボンブラックの粒子の面積相当径は求めず、他の粒子を選択する。
【0082】
以上の手順で、任意の500個の粒子について、面積相当径を求め、500個の粒子の面積相当径の相加平均値の小数点第二位を四捨五入した値を、カーボンブラックの面積相当径の相加平均値とする。
【0083】
DBP吸油量の測定方法はJIS−K6221−1982Aに記載の方法による。
【0084】
カーボンブラックを含まない弾性層の例として、エピクロルヒドリンゴムの如き弾性樹脂を使用した、弾性層を挙げることができる。しかし、このような弾性層は、調整可能な抵抗値の領域がせまいという制約がある。さらに現状では、シリコーン樹脂やポリウレタン樹脂のように、クリープ変形の小さい弾性樹脂材料を見出すことが出来ていない。
【0085】
また、他の例としては、弾性樹脂にイオン導電機構による導電付与剤を添加する方法もあるが、抵抗値の環境変動が大きく使用環境によらず良好な画像が得ることが困難である。
【0086】
また適正な硬度、耐摩耗性を確保するために弾性層203にシリカ、石英粉末、アルミナ粉末、酸化亜鉛、酸化チタン、カオリンの如き無機フィラーを添加してもよい。
【0087】
弾性層中の無機フィラー302の含有量は、弾性樹脂100質量部に対して7質量部以上80質量部以下が好ましい。無機フィラー302含有量が7質量部より小さい場合は、無機フィラー起因のクリープ変形が少ないため、圧接開放直後のクリープ変形は小さい。本発明においては超音波振動により無機フィラー301を振動させることにより、弾性樹脂分子鎖同士の結合要因のクリープ変形をも回復する効果がある。しかしながら、無機フィラー302含有量が7質量部以下では前記の効果が期待できず最終的に残留するクリープ変形は無機フィラー302含有量が7質量部以上の弾性層203に比べて大きくなる。つまり、クリープ変形の回復効果が少なくなってしまう。無機フィラー302の含有量が80質量部より多い場合は、初期のクリープ変形が大きく、本発明の再生処理をおこなっても、残留クリープ変形が回復しきれない場合がある。
【0088】
弾性層203に用いる弾性樹脂301の例としては、天然ゴム、イソプレン樹脂、スチレン樹脂、ブチル樹脂、ブタジエン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂の如き弾性樹脂を挙げることができる。本発明において、弾性樹脂301としてはクリープ変形の生じにくい材料、例えばシリコーン樹脂またはポリウレタン樹脂が好ましい。弾性樹脂301としてクリープ変形の生じにくい樹脂を選択することにより、無機フィラー302を加えた後でもクリープ変形の小さい弾性層203が得られる。
【0089】
これらの材料は単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。さらに、これらの材料の発泡体を弾性層に用いても良い。
【0090】
また、現像ローラ502の弾性層203は、半導体領域の電気抵抗値を有することが好ましい。このため、弾性層203は導電剤を含有し、体積抵抗率が1×104Ω・cm以上1×1010Ω・cm以下のゴム材料から形成されていることが好ましい。ここで、弾性層203の体積抵抗率が1×104Ω・cm以上1×1010Ω・cm以下であれば、乾式トナーに対して均一な帯電制御性を得ることが可能である。体積抵抗率は、より好ましくは1×104Ω・cm以上1×109Ω・cm以下である。
【0091】
なお、樹脂層204の体積抵抗率は、以下の方法で求めた値を採用することができる。
【0092】
抵抗計として、超高抵抗計R8340A(アドバンテスト社製)を用い、以下の条件で測定を行う。
測定モード:プログラムモード5(チャージ及びメジャー30秒、ディスチャージ10秒)
印加電圧:100(V)
試料箱:超高抵抗計測定用試料箱TR42(アドバンテスト社製)、主電極は口径10mm厚さ10mmの金属、ガードリング電極は内径20mm、外径26mm厚さ10mmの金属とする。
試験片:はじめに、該樹脂層204の材料を、樹脂層204の成形時と同じ条件で、樹脂層204と同じ厚さに硬化させた平板状のテストピースを作製する。次に、該テストピースから直径30mmの試験片を切り出す。切り出した試験片の片面には、その全面にPt−Pd蒸着を行うことで蒸着膜電極(裏面電極)を設け、もう一方の面には同じくPt−Pd蒸着膜により、直径15mmの主電極膜と、内径18mm、外径28mmのガードリング電極膜を同心状に設ける。なお、Pt−Pd蒸着膜は、マイルドスパッタE1030(日立製作所製)を用い、電流値15mAにて蒸着操作を2分間行って得る。蒸着操作を終了したものを測定サンプルとする。
【0093】
測定時には、口径10mmの主電極を口径15mmの主電極膜からはみ出さないように置く。また、内径20mmのガードリング電極を、内径18mmのガードリング電極膜からはみ出さないように、電極膜の上に置いて測定する。測定は、気温23℃、相対湿度50%の環境で行うが、測定に先立って、測定サンプルを、該環境に12時間以上放置しておく。
【0094】
以上の状態で、試験片の体積抵抗(Ω)を測定する。次に、測定した体積抵抗値をRM(Ω)、試験片の厚さをt(cm)とするとき、試験片の体積抵抗率RR(Ωcm)を、以下の式5によって求める。
【0095】
RR(Ωcm)=π×0.75×0.75×RM(Ω)÷t(cm) 式1
上記のように、弾性層203を導電化する手段としては、イオン導電機構、又は電子導電機構による導電付与剤を、弾性層203中に添加する手法を挙げることができる。
【0096】
イオン導電機構による導電付与剤としては、下記のものを挙げることができる。LiCF3SO3、NaClO4、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、NaSCN、KSCN、NaClの周期律表第1族金属の塩。
【0097】
NH4Cl、(NH42SO4、NH4NO3のアンモニウム塩、Ca(ClO42、Ba(ClO42の周期律表第2族金属の塩。
【0098】
上記周期律表第1族金属の塩、周期律表第2族金属の塩と、1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールの多価アルコールやそれらの誘導体との錯体。
【0099】
上記周期律表第1族金属の塩、周期律表第2族金属の塩と、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテルのモノオールとの錯体。
【0100】
第4級アンモニウム塩の陽イオン性界面活性剤、脂肪族スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩の如き陰イオン性界面活性剤、ベタインの両性界面活性剤。
【0101】
本発明に適用しうる弾性層203形成方法の例としては、軸芯体を配置した金型内に液状ゴム、またはゴムコンパウンドを注入し、硬化させて樹脂層204を形成する方法が挙げられる。
【0102】
(表面層)
弾性層203は、図12に示すように軸芯体202に接する第一の弾性層としての樹脂層204と、第二の弾性層としての表面層205よりなる2層構成とすることもできる。弾性層203を2層以上の構成とすることにより、弾性層全体に要求される特性と、表面に要求される物性の両立が図れるため、より高性能な弾性ローラ201が得られる。
【0103】
また、軸芯体の周囲に弾性樹脂および無機フィラーを含む弾性層を少なくとも一層有していれば、該弾性層周囲に無機粒子を含まない表面層を設けることが出来る。
【0104】
また、弾性層203の周囲に弾性を有さない樹脂により表面層205を形成することもできる。
【0105】
弾性を有さない樹脂で構成される表面層には、下記、表面層205の構成樹脂例で挙げる樹脂を用いることができる。さらには下記、表面層205の構成樹脂例で挙げた樹脂に前記の如きイオン導電機構による導電付与剤を添加したものを用いることができる。さらには蒸着、CVD等の手段で形成した無機材料の膜を用いることができる。
【0106】
表面層205の構成樹脂としては、下記のものを挙げることができる。
【0107】
エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、珪素樹脂。さらには、ポリエステル樹脂、スチロール系樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、繊維素系樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂。
【0108】
これらの樹脂は、2種類以上組み合わせて使用することが可能である。これらの中でも、乾式トナーを安定して帯電させられることから、特に含窒素化合物、例えば、ポリウレタン樹脂を用いることが望ましい。ポリウレタン樹脂はクリープ変形が生じにくく、本発明の再生方法に適する。
【0109】
ここで使用するポリウレタン樹脂は、イソシアネート化合物とポリオールとから得られる。イソシアネート化合物としては、下記のものを挙げることができる。ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート。p−フェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、カルボジイミド変性MDI、キシリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート。ナフチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、またはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート。
【0110】
また、上記イソシアネート化合物の混合物を用いることもでき、その混合割合は適宜、調整することができる。
【0111】
また、ここで用いるポリオールとしては、2価のポリオール(ジオール)として、下記のものを挙げることができる。エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール。1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、トリエチレングリコール。
【0112】
また、3価以上のポリオールとして、下記のものを挙げることができる。1,1,1−トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール。
【0113】
さらに、上記のポリオール以外に、下記のものを挙げることができる。ジオール、トリオールに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドを付加した高分子量のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール。エチレンオキサイド‐プロピレンオキサイドブロックグリコールのポリオール。また、上記ポリオールの混合物を用いることもでき、その混合割合は適宜、調整することができる。
【0114】
さらに、これらの表面層205に導電性を付与して使用することが出来る。導電性を付与する手法としては樹脂層204の導電化と同様の手法を用いることが可能である。
【0115】
表面層205の厚みは、1μm以上、500μm以下が好ましい。また、より好ましくは1μm以上、50μm以下である。表面層205が1μm未満であると耐久性が低下する恐れがあり、50μmより厚いと現像ローラ502の表面硬度が高くなり、後で説明するように乾式トナーの融着の原因となる。
【0116】
本発明に適用しうる弾性ローラの表面層205形成方法の例として、スプレー塗布、浸漬塗布、ロールコートの如き塗布方法が挙げることができる。
【0117】
(表面層の膜厚測定方法)
現像ローラの表面層205および、樹脂層204を軸芯体202に垂直に切り出し該切片を、デジタルマイクロスコープ(商品名:VHX−600、株式会社キーエンス製)で観察し、表面層膜厚を測定する。測定位置は弾性層203の両端部よりそれぞれ30mm中央方向に向かった位置と、中央部一ヶ所の3箇所とし、3箇所の測定値の相加平均値を採用した。なお、測定は室温23℃相対湿度60%の環境でおこなった。
【0118】
(弾性ローラの外径測定方法)
変位センサ(商品名:LS−7030M、株式会社キーエンス製)およびコントローラ(商品名:LS−7200、株式会社キーエンス製)を用いて、軸芯体202と垂直方向に光線をスキャンし、その影の幅で測定した。
【0119】
弾性層203の両端部よりそれぞれ30mm中央方向に向かった位置と、中央部一ヶ所の三箇所で測定を行い、3箇所の測定値の相加平均値を弾性ローラの外径とした。
【0120】
<凹み深さ評価方法>
凹みの深さの測定方法を図9、10で示す。図10に示すように、弾性ローラ201の円周の延長408より凹みの底までの距離を測定することで凹み深さを測定した。この距離の測定は、弾性ローラ201の表面までの距離をレーザー光線により測定するセンサ407(LK―010:株式会社キーエンス社製)及び、データ処理装置つきアンプ(LK―3100:株式会社キーエンス社製)を用いた。例えば図10においては405の凹みに対しては距離409を、406の凹みに関しては距離410をクリープ変形による凹みの深さとした。クリープ変形による凹み深さの測定は弾性層203の両端部よりそれぞれ30mm中央方向に向かった位置(図9の左端4071、右端4073)と、中央部一ヶ所(図9の中央4072)の三箇所で測定を行った。これらの3箇所の測定値の相加平均値を凹み深さ(クリープ変形量)とした。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき詳細に説明する。
【0122】
下記の実施例では、電子写真装置、特に現像ローラ502に関して述べるが、下記の実施例は本発明の最良な実施形態の一例であり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0123】
<弾性ローラの作製例−1>
まず、軸芯体202として、直径6.0mm、長さ270mmのSUS製軸芯体の外周面に2液タイプのプライマー(ダウコ−ニング DY39−051:東レダウコ−ニング社製)を塗布、焼き付けを行った。
【0124】
さらに、下記組成で配合した材料をシリコーンゴムのベース材料とした。
・両末端をビニル基で置換した粘度100Pa・sのジメチルポリシロキサン 100質量部。
・石英粉末(商品名:Min-USil(平均粒子径10μm);ペンシルバニアガラスサンド社製) 20質量部。
・カーボンブラック(商品名:トーカブラック#7360;東海カーボン株式会社)30質量部。
【0125】
なお、使用したカーボンブラックは個数平均粒子径28nm、DBP吸油量87(ml/100g)である。
【0126】
次に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(前記ビニル基が置換したジメチルポリシロキサン中に含有されるビニル基1モルに対して、SiH基が1.1モルとなる量)3質量部を配合した液1を準備した。そして、シリコーンゴムのベース材料に硬化触媒として白金化合物を微量配合したものと、液1とを、重量比1:1で混合して、液状シリコーンを準備した。
【0127】
次に、軸芯体を金型に配置した後、この金型内に液状シリコーンを注入した。続いて、金型を加熱して、注入した液状シリコーンを130℃で10分間、加熱処理を施して硬化させた。次に、冷却した後、脱型し、更に160℃で3時間、加熱処理を施すことにより、軸芯体202の外周面上に、長さ230mm、厚さ3.0mmのシリコーンゴムを主成分とする樹脂層204を設けた。23℃に冷却後、樹脂層204の外径を測定した結果11.980mmであった。
【0128】
次に、表面層205の材料として、下記材料をMEK(メチルエチルケトン)溶媒中で段階的に混合して、窒素雰囲気下80度で、6時間反応させた。
・ポリテトラメチレングリコール(商品名:PTG1000SN;保土谷化学株式会社製)100質量部。
・イソシアネート(商品名:ミリオネートMT;日本ポリウレタン工業株式会社製)21.2質量部。
【0129】
そして、分子量Mw=48000、水酸基価5.6mgKOH/g 、分子量分散度Mw/Mn=2.9、Mz/Mw=2.5の2官能のポリウレタンポリオールプレポリマーを得た。
【0130】
なお、上記の各特性値は以下のようにして測定した。
・水酸基価:ISO 15063の方法で測定した。
・ポリウレタンポリオールプレポリマーの分子量、分子量分布:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分子量(Mn、Mw、Mz)を測定した。
【0131】
この際の条件は温度40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定化させ、この温度でのカラムに溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を毎分1mlの流速で流し、試料濃度として0.4質量%に調整した樹脂のTHF試料溶液を約100μl注入して測定した。
【0132】
また、試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された、検量線の対数値とカウント数(リテンションタイム)との関係から算出した。この検出器としては、RI(屈折率)検出器を用いた。
【0133】
ポリウレタンポリオールプレポリマーの分子量分散度としては、Mn:数平均分子量、Mw:重量平均分子量、Mz:Z平均分子量を用いた。なお、Z平均分子量は高分子量化合物の平均分子量への寄与を最も重視したものであり、次のように定義される。
【0134】
高分子中に分子量Miの分子がNi個存在するとき、下記式(1)で表す。
z=(ΣMi3・Ni)/(ΣMi2・Ni) 式(1)
上記ポリウレタンポリオールプレポリマー100質量部に、イソシアネート(商品名:コロネート2521;日本ポリウレタン工業株式会社製)7.2質量部を加えて、NCO当量を1.2となるようにした。さらに、カーボンブラック(MA230;三菱化学社製)を樹脂固形分100質量部に対して、20添加質量部して抵抗値を調整した。
【0135】
次に、この上記混合液に有機溶剤を加えて固形分25質量%とした後、更にポリウレタン樹脂粒子(商品名:アートパールC400透明;φ14μm;根上工業株式会社製)を15質量部加えて、均一分散、混合したものを表面層205の原料液とした。
【0136】
この表面層205の原料液を用い、浸漬塗布により上記の樹脂層204上に表面層205を形成した。次いで、140℃で60分間、加熱処理を行うことにより表面層205を硬化させ、膜厚10μm、表面粗さRaが1.0μmの表面層204を形成した。
【0137】
以上の工程により外径が12.000±0.03mmの弾性ローラ201を得た。
【0138】
<再生前の連続画像出力>
上記の工程で得た弾性ローラ201を、現像ローラ502としてプロセスカートリッジ501に組み込み、電子写真装置により画像出力を行った。電子写真装置としては、商品名:LBP‐5400、キヤノン株式会社製を用い、プロセスカートリッジは専用のものを用いた。このとき現像ローラ502の感光体ドラム504に対する圧接力は線圧50N/mとした。また現像ブレード515としては、厚さ80μmのSUS304板を用い、現像ローラ502に対する圧接力は、線圧25N/mとした。トナーは特開2006―106198に実施例1に記載された重合方法により製造された体積平均粒子径5.5μmの黒色トナーを用いた。LETTERサイズの用紙(坪量:75g/m2(商品名:Business Multipurpose 4200、XEROX社製)に印字率4%の画像で6000枚画像出力を続けた。
【0139】
<使用後の保管条件>
さらにその後、プロセスカートリッジ501内で現像ローラ502に感光体ドラム504、及び現像ブレード515が当接され圧接状態のまま温度49℃、湿度90%環境に3ヶ月放置した。現像ローラ502の感光体ドラム504に対する押圧は、画像出力時と同一のままであった。
【0140】
プロセスカートリッジ501を分解し、現像ローラ502を取り出したところ、当接部に凹みが発生しているのが確認できた。
【0141】
<画像評価方法>
前記手順によって当接部に凹みが発生した現像ローラ502に対し、本発明の弾性ローラ201の再生方法、及び比較例に記載の処理を行った後、未使用のプロセスカートリッジ501に組み込んで以下の評価を行った。
【0142】
(横スジ画像の評価)
電子写真装置としては、(商品名:LBP‐5400、キヤノン株式会社製)を用いた。プロセスカートリッジは(商品名:トナーカートリッジ311、キヤノン株式会社製)のブラックを用いた。該カートリッジ501を、温度23℃、湿度60%環境の設置した画像形成装置本体に搭載した後、2時間放置した。その後LETTERサイズの用紙、坪量:75g/m2(商品名:Business Multipurpose 4200、XEROX社製)に画像出力を行った。べた画像(反転現像においてすべてのドットに対して露光)、ハーフトーン画像(感光体ドラムに1ドットおきに露光)をそれぞれ1枚ずつ出力し、画像に現像ローラ502周期の画像スジがないか目視で評価した。横スジ画像について、べた画像、ハーフトーン画像でも目視でまったく確認できない場合を「A」。べた画像のみでわずかに横スジ画像が確認される場合を「B」。べた画像でも、ハーフトーン画像でもわずかに横スジ画像が確認される場合を「C」。べた画像でも、ハーフトーン画像でもはっきりと見える横スジ画像が確認される場合を「D」として評価を行った。
【0143】
なお、A,B評価は高画質用画像形成装置の出力画像として良好である。C評価は通常の画像形成装置の出力画像として許容範囲である。D評価は許容範囲外である。
【0144】
(弾性層の損傷評価)
再生処理後の現像ローラ502を目視して、表面層205の剥がれや、樹脂層204に裂け目の如き、損傷の有無を検査した。その後、横スジ画像評価に用いたと同じ電子写真装置でべた画像、ハーフトーン画像をそれぞれ1枚ずつ出力し、弾性層203の損傷に対応した画像欠陥(スジ、ポチ、リーク)の有無を目視で評価した。
【0145】
弾性層203を目視してローラ損傷が確認できない場合を「A」。弾性層203を目視して弾性ローラ表面に損傷があるが、画像評価では対応する画像欠陥が確認できない場合を「B」とした。弾性層203を目視してローラ損傷があり、画像評価で対応する画像欠陥が確認された場合を「C」とした。
【0146】
なお、A,B評価は高画質用画像形成装置の出力画像として良好である。C評価は電子写真装置用現像ローラ502としては不適切であるが、通常の加圧ローラ、搬送ローラとしては許容範囲内である。
【0147】
(実施例1−1)
前記、弾性ローラの作製例−1の手順により作製した現像ローラ502に、再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順により現像ローラ502にクリープ変形を発生させた。
【0148】
次に、プロセスカートリッジ501を分解し現像ローラ502を取り出したところ、当接部に凹みが発生していた。圧接を解放後すぐに凹みの深さを前述の方法で測定した結果、感光体ドラム504当接部で12.3μm、現像ブレード415当接部で8.2μmであった。現像ローラ502を図1に示した再生装置101により下記条件で再生処理した。
【0149】
高周波発信機として(商品名:Generator SG3510、TELSONIC社製)を、振動子103として(商品名:SE3512、TELSONIC製)を用いた。伝達部材104の先端は、軸芯体202に勘合するように加工した。超音波発信機は35kHz、585Wの正弦波の超音波振動を発生するようにセットした。
【0150】
クリープ変形の回復処理は以下の手順によって行った。まず、現像ローラ502を、図1の再生装置にセットし、振動手段101を20Nの力で軸芯体202に押し付け、振動手段101を動作させた。
【0151】
また、再生処理は常温環境(23℃)で行い、処理時間は60秒間とした。以上の動作を経た後、超音波振動を停止させ、処理を終えた現像ローラ502を取り外し、圧接解放から3時間後の現像ローラの凹み深さを前述の方法で測定した。以下の実施例、比較例において測定条件を揃えるため、再生処理を終えた現像ローラの凹み深さ測定は、圧接解放から3時間後におこなった。
【0152】
処理を終えた現像ローラ502を未使用のプロセスカートリッジ501に組み込み、前記の電子写真装置にセットして、横スジ画像評価を行った。一連の評価結果を表1に示す。
【0153】
(比較例1)
実施例1−1と同様に弾性ローラの作製例−1の手順により作製し、再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順によりクリープ変形を生じた現像ローラ502を準備した。本発明の超音波による再生処理を行わず、圧接解放から3時間放置後現像ローラの凹みの深さを前述の方法で測定した結果、感光体ドラム504当接部で9.8μm、現像ブレード515が当接部で7.2μmであった。
【0154】
その後、この現像ローラ502をプロセスカートリッジ501に組み込み、前記の電子写真装置にセットして横スジ画像評価を行った。一連の評価結果を表1に示す。
【0155】
この現像ローラ502を弾性層には何も触れない状態で常温(室温23℃、湿度60%)環境で1ヶ月放置した後、現像ローラの凹みの深さを前述の方法で測定した。その後未使用のプロセスカートリッジ501に組み込み、前記の電子写真装置にセットして横スジ画像評価を行った結果、横スジ画像が見られた。
【0156】
(比較例2)
実施例1−1において、本発明の超音波による再生処理を行わず、加熱オーブン(商品名:PV−211:エスペック株式会社製)にて常温(23℃)より30分かけて160℃に加熱した。その後30分間160℃を保持した後、90分かけて放置冷却し常温に戻す工程をおこなった。実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行い、結果を表1に示す。
【0157】
(比較例3)
実施例1−1において、本発明の超音波による再生処理を行わなかった。そして、現像ローラ502の軸端に2Kgfの加重をかけ、直径φ15mm(SUS304 製)の金属ローラに押し付けて加圧しながら、15rpmの回転数で現像ローラ502を回転させることで弾性層への加圧、および開放を10分間繰り返した。実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表1に示す。
【0158】
(比較例4)
比較例3において金属ローラを160℃に加熱した以外は比較例3と同様の処理をおこなった。比較例3と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表1に示す。
【0159】
(比較例5)
実施例1−1において、本発明の超音波による再生処理を行わず、代わりに現像ローラ502を水道水を満たした超音波洗浄器(商品名:UT605、株式会社テックジャム社製)出力600Wに浸漬し、10分超音波洗浄した。処理後、現像ローラを取り出し、実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表1に示す。
【0160】
(比較例6)
<弾性ローラの作製例−2>
下記配合の材料をニーダで混練したのち、エピクロルヒドリンゴムマスターバッチを得た。
・エピクロルヒドリンゴム(商品名:ゼクロンG3100、日本ゼオン社製)100重量部。
・液状NBR(商品名:N280、JSR社製)10重量部。
・ジメチルジドデシルアンモニウムクロライド(導電剤)5重量部。
【0161】
該エピクロルヒドリンゴムマスターバッチに
・加硫促進剤(商品名:ノクセラーTT,大内新興化学製)3.0重量部。
・加硫剤商品名(商品名:サルファックス,鶴見化学製)0.25重量部。
を添加、オープンロールにて混練した後、導電性ゴムコンパウンド−1を得た。なお上記の導電性ゴムコンパウンド−1は無機フィラーを含んでいない。
【0162】
次に、実施例1と同様の軸芯体202を準備し、2液タイプのプライマー(ダウコ−ニング DY39−051:東レダウコ−ニング社製)を塗布、焼き付けを行った。
【0163】
実施例1同様に軸芯体202を金型中心に配置した後、この金型内に導電性ゴムコンパウンド−1をインジェクション成型後、170℃の雰囲気中に20分間放置し、加硫処理を施した。次に、冷却した後脱型し、軸芯体の外周面上に、長さ230mm、厚さ3mmのエピクロルヒドリンゴム弾性層を有する現像ローラ502を作成した。冷却後、弾性層203の外径を測定した結果12.000±0.030mmであった。このようにして単層構成の弾性層203を作製した。
【0164】
上記現像ローラ502に対して、実施例1−1と同様に再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順を経て、クリープ変形を生じさせした。圧接を解放後すぐに凹みの深さを測定した結果を表1に示す。
【0165】
実施例1―1と同じ条件で再生処理を行い、実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表1に示す。
【0166】
【表1】

【0167】
表1に示すように、本発明の再生処理を行った現像ローラ502では、クリープ変形が回復し、横スジ画像のない良好な画像が得られた。再生処理中に弾性層203に破損は生じなかった。
【0168】
一方、比較例1のように、本発明の再生処理を行わずにそのまま再利用した場合、現像ローラ502に生じたクリープ変形により横スジ画像が見られた。
【0169】
比較例2、3、4、5のように、加熱、加圧、開放繰り返し、および液体中での再生処理の場合はクリープ変形の回復効果が不十分で、再利用において横スジ画像が見られ、良好な画像が得られなかった。
【0170】
比較例6では、弾性層203にフィラーが含まれないため、圧接を解放後すぐの凹みの深さは小さいが、本発明の超音波振動によるクリープ変形回復の効果が充分でなかったため再利用において横スジ画像が見られた。
【0171】
(実施例1−2〜25)
実施例1−1と同様の工程で樹脂層204を形成し、さらに実施例1−1同様の工程で膜厚10μmの表面層205を形成した。ただし、樹脂層204の膜厚および表面層205の膜厚の合計(弾性層膜厚)は表2に示す値となるようにし、軸芯体202外径を調整することで現像ローラ502外径はどの実施例でも12.000±0.03mmとした。
【0172】
次に、実施例1−1と同様に、再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順によりクリープ変形を生じた現像ローラ502を準備した。圧接開放直後のクリープ変形の凹み量を測定し表2に示す。
【0173】
超音波振動の条件を表2の様にした以外は、実施例1−1と同じ方法で再生処理を行った。実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表2に示す。
【0174】
表2において実施例1−1乃至実施例1−16に示すように、本発明の再生処理を行った現像ローラ502では、クリープ変形が回復した。さらに再利用においても横スジ画像のない良好な画像が得られた。
【0175】
一方、実施例1−19、実施例1−20のように超音波の振動数が21KHzよりも低い場合は、べた画像、ハーフトーン画像で許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0176】
また、超音波の振動数が2MHzより大きい場合も、べた画像、ハーフトーン画像において許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0177】
超音波振動の振動数が2MHzより高い場合は、超音波振動エネルギーが弾性層203内で減衰しやすくなり、振動エネルギー弾性層203内部まで達せず、クリープ変形の回復効率が低下する。
【0178】
実施例1−27のように、超音波振動のエネルギーを該弾性層の体積で割った値が10W/cm3より小さい場合は、クリープ変形を回復し再生するにはエネルギーが不充分であり、通常の画像形成装置の出力画像として許容範囲内の横スジ画像が見られた。
【0179】
超音波振動のエネルギーを該弾性層の体積で割った値が100W/cm3より大きい場合、弾性層203が超音波振動のエネルギーで破損して、表面層205の剥がれ、樹脂層204に裂け目が発生する場合があった。画像評価の結果、弾性層203の破損に対応した画像欠陥(スジ、ポチ、リーク)が見られた。
【0180】
超音波振動のエネルギーを該弾性層の体積で割った値が10W/cm3より小さい場合は、本発明の効果が小さめであり、通常の画像形成装置の出力画像として許容範囲内の横スジ画像が見られた。
【0181】
【表2】

【0182】
高周波発信機として(商品名:Generator SG3510、TELSONIC社製)を、振動子103として(商品名:SE3512、TELSONIC製)を用いた。
【0183】
実施例1−2乃至27において振動手段は以下の装置を使用した。
・実施例1−2乃至4、および17、18;
高周波発信機:商品名:Generator SG3510、TELSONIC社製。
【0184】
振動手段 :商品名:SE3512、TELSONIC社製。
・実施例1−5乃至7、および21、22;
高周波発信機:商品名:UE‐1200Z21S、超音波工業株式会社製。
【0185】
振動手段 :商品名:SWP−9−49C 、超音波工業株式会社製。
・実施例1−8乃至9、および23、24;
高周波発信機:商品名:UE‐1200Z28S、超音波工業株式会社製。
【0186】
振動手段 :商品名:SWP−9−49C 、超音波工業株式会社製。
・実施例1−10および11;
高周波発信機:商品名:GH‐12100、千代田電機工業株式会社製。
【0187】
振動手段はPZT振動子(千代田電機工業株式会社製)を用い図3のような構成の振動手段を作成した。
・実施例1−12および13;
高周波発信機:商品名:αメガ高周波超音波、千代田電機工業株式会社製。
【0188】
振動手段はPZT振動子(千代田電機工業株式会社製)を用い図3のような構成の振動手段を作成した。
・実施例1−14乃至16、および25、26;
高周波発信機:商品名:#69101 、株式会社カイジョー製。
【0189】
振動手段はPZT振動子(株式会社カイジョー製)を用い、図3のような構成の振動手段を作成した。
・実施例1−19および20;
高周波発信機:商品名:UE‐1200Z15S、超音波工業株式会社製。
【0190】
振動手段 :商品名:SWP−9−49C 、超音波工業株式会社製。
・実施例1−27;
高周波発信機:商品名:W‐357‐3MP、本田電子工業株式会社製。
【0191】
振動手段 :振動子を取り出し図3のような構成の振動手段に改造した。
【0192】
(実施例2−1〜4)
弾性ローラの作製例−1の作製手順において、石英粉末、及びカーボンブラックの添加量を表3の値に変えた以外は実施例1−1と同様に現像ローラ502を作成した。
【0193】
次に、実施例1−1と同様に、再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順により、クリープ変形を生じた現像ローラ502を準備した。実施例2−1乃至、実施例2−4において、圧接を解放直後の凹みの深さを前述の方法で測定した。結果を表3に示す。再生処理条件を表3の条件にした以外は、実施例1−1と同じ様に再生処理を行った。実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表3に示す。
【0194】
(実施例2−5〜8)
弾性ローラの作製例−2において、樹脂層204材料をニーダで混練加工する程時でエピクロルヒドリンゴム100重量部に対して、
・石英粉末(商品名:Min-USil;ペンシルバニアガラスサンド社製)。
・カ−ボンブラック(商品名:トーカブラック#7360;東海カーボン株式会社製)を表3に示した量を変更した以外は、比較例6と同様にして弾性ローラ502を作成した。
【0195】
実施例1−1と同様に、再生前の連続画像出力、及び使用後の保管条件で述べた手順によりクリープ変形を生じた現像ローラ502を準備した。圧接を解放した直後に凹みの深さを前述の方法で測定した。結果を表3に示す。再生処理条件を表3の様にした以外は、実施例1−1と同様に、再生処理を行った。実施例1−1と同様に現像ローラ502の評価を行った。結果を表3に示す。
【0196】
【表3】

【0197】
表3の実施例2−1および実施例2−2に示すように、本発明の再生処理を行った現像ローラ502ではクリープ変形が回復し、再利用しても横スジ画像のない良好な画像が得られた。
【0198】
実施例2−3に示すように、無機フィラー含有量が弾性樹脂100質量部に対して7質量部より小さい場合は、本発明の再生処理の効果が小さめの結果となった。再生処理後、べた画像、ハーフトーン画像で許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0199】
実施例2−4に示すように無機フィラー302の含有量が弾性樹脂100質量部に対して80質量部より多い場合は、圧接によるクリープ変形が大きいため、本発明の再生処理をおこなった後も、比較的大きな凹が残留していた。そして、べた画像、ハーフトーン画像には許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0200】
実施例2−5より実施例2−8のように、弾性層の樹脂がシリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂以外の場合は、圧接によるクリープ変形が大きいため、本発明の再生処理をおこなった後も、比較的大きな凹が残留していた。そして、べた画像、ハーフトーン画像には許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0201】
実施例2−8はカーボンブラックを含まない弾性層として、エピクロルヒドリンゴムを使用した。しかしながら、圧接によるクリープ変形が大きいため、本発明の再生処理をおこなった後も、比較的大きな凹が残留していた。そして、べた画像、ハーフトーン画像には許容範囲内のわずかな横スジ画像が確認された。
【0202】
(実施例3−1)
実施例1−1同様のクリープ変形を生じた現像ローラ502を準備し、再生処理工程の処理時間を表4の様にした以外は、実施例1−1と同様に再生処理を行った。この後、実施例1−1と同様に現像ローラの評価を実施し、一連の評価結果を表4に示す。
【0203】
なお、実施例3−1乃至、実施例3−6において圧接を解放した直後の凹みの深さは実施例1−1と同等であった。
【0204】
【表4】

【0205】
表4の実施例3−1乃至実施例3−3に示すように、超音波振動付与時間は20秒以上で、クリープ変形回復効果が見られる。横スジ画像が見られるが、通常の電子写真装置の出力画像として許容範囲内に達する。さらに、実施例1−1、実施例3−4乃至実施例3−6に示すように50秒以上の処理で高画質用電子写真装置の出力画像として良好なレベルに達する。
【0206】
一方、振動を与えず加熱のみでクリープ変形を回復し再生処理を行う方法(比較例2)では弾性層全体を加温するまでに1時間以上必要であるが本発明の再生方法のレベルに達しない。比較例3、4、5のように、加熱、加圧、開放繰り返し、液体中での処理の場合は10分間処理してもクリープ変形の回復効果が不十分で、再利用において横スジ画像が発生し良好な画像が得られなかった。
【0207】
(実施例4−1〜4)
実施例1−1同様のクリープ変形を生じた現像ロ−ラ502を準備した。前処理として現像ローラ502の温度が表5の値になるまで、加熱オーブン(商品名:PV−211:エスペック株式会社製)にて加温した後、温度が保たれているうちに実施例1−1と同様の再生処理をおこなった。なお、実施例4−1乃至、実施例4−5において圧接を解放した直後の凹みの深さは実施例1−1と同等であった。
【0208】
実施例1と同様に現像ローラ502の評価を実施し、一連の評価結果を表5に示す。
【0209】
表5の結果より、実施例4−2より実施例4−4に示すように40℃以上、160℃以下に加熱した現像ローラ502では実施例1−1よりクリープ変形の回復が良好であった。再利用した場合でも横スジ画像のない良好な画像が得られた。
【0210】
実施例4−2のように現像ローラ502の温度が40℃より低い場合はクリープ変形回復促進効果が少なく常温(23℃)と効果に差が見られなかった。
【0211】
実施例4−5のように現像ローラ502の温度が160℃より高い場合は弾性層203の弾性樹脂301が高温のため熱劣化し弾性が失われゴムとしての特性を失った状態となり、クリープ変形が固定化され、常温に戻しても回復が少なかった。
【0212】
【表5】

【符号の説明】
【0213】
100 再生装置
101 振動手段
102 下部押え
103 振動子
104 伝達部材
105 ホーン
201 弾性ローラ
202 軸芯体
203 弾性層
204 樹脂層
205 表面層
301 弾性樹脂
302 無機フィラー
303 圧力
401 円筒状圧接部材
402 圧接部(円筒状圧接部材による)
403 板状圧接部材
404 圧接部(板状圧接部材による)
405 凹み(円筒状圧接部材による)
406 凹み(板状圧接部材による)
407 距離測定センサ
408 円周の延長
409 凹みの深さの例
410 凹みの深さの例
500 電子写真装置
501 プロセスカートリッジ
502 現像ローラ
503 帯電ローラ
504 感光体ドラム
505 露光
506 給紙ローラ
507 記録材
508 転写ローラ
509 定着部定着ローラ
510 加圧ローラ
511 クリーニングブレード
512 廃トナー容器
513 トナー供給ローラ
514 トナー貯留槽
515 現像ブレード
516 乾式トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体と、該軸芯体の周囲に形成される、弾性樹脂および無機フィラーを含む弾性層とを有し、
かつ該弾性層に圧接によってクリープ変形を生じた弾性ローラの再生方法であって、
超音波振動発振手段より直接または固体を介して超音波振動を該軸芯体に伝達し該軸芯体を超音波振動させる工程を有することにより該クリープ変形を回復させることを特徴とする弾性ローラの再生方法。
【請求項2】
該超音波振動手段が発振する超音波振動の周波数が21KHz以上、2MHz以下であり、かつ該超音波振動のエネルギーを該弾性層の体積で割った値が10W/cm3以上、100W/cm3以下である請求項1に記載の弾性ローラの再生方法。
【請求項3】
該弾性層中の無機フィラーの含有量が、弾性樹脂100質量部に対して7質量部以上80質量部以下である請求項1または2に記載の弾性ローラの再生方法。
【請求項4】
該無機フィラーがカーボンブラックである請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性ローラの再生方法。
【請求項5】
該弾性樹脂が、シリコーン樹脂またはポリウレタン樹脂である請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性ローラの再生方法。
【請求項6】
該軸芯体を超音波振動させる工程における該弾性層の温度が40℃以上、160℃以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の弾性ローラの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−181002(P2010−181002A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27201(P2009−27201)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】