弾性波デバイスの製造方法
【課題】大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電薄膜14を成膜する工程と、圧電薄膜14の格子定数を測定する工程と、格子定数cが所定の値c0以上である場合、圧電薄膜14を成膜する工程における成膜条件を変更する工程と、を有する弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、大きな電気結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【解決手段】本発明は、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電薄膜14を成膜する工程と、圧電薄膜14の格子定数を測定する工程と、格子定数cが所定の値c0以上である場合、圧電薄膜14を成膜する工程における成膜条件を変更する工程と、を有する弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、大きな電気結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の通信機器が普及している。通信機器のフィルタ、デュプレクサ等として、弾性波を利用した弾性波デバイスが用いられることがある。弾性波デバイスの例として、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用するデバイス、及び厚み振動波(BAW:Bulk Acoustic Wave)を利用するデバイス等がある。圧電薄膜共振子はBAWを利用するデバイスであり、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)、SMR(Solidly Mounted Resonator)等のタイプがある。またラム波(Lamb Wave)を利用するデバイスもある。圧電膜の電気機械結合定数が大きくなることで、弾性波デバイスの周波数特性が改善し、また広帯域化も可能となる。非特許文献1には、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電薄膜の配向性を制御することで、圧電薄膜共振子の電気機械結合定数を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】アイイーイー・トランザクションズ オン ウルトラソニックス フェロエレクトロニクス アンド フリークェンシー コントロール 第47巻 292ページ 2000年(IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS, FERROELECTRICS AND FREQUENCY CONTROL, vol.47, p.292, 2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電薄膜の配向性を高くした場合でも、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造が難しいことがある。本発明は上記課題に鑑み、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電膜を成膜する工程と、前記圧電膜の格子定数を測定する工程と、前記格子定数に基づいて、前記圧電膜を成膜する工程における前記圧電膜の成膜条件を変更する工程と、を有する弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0006】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数を測定する工程であり、前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程とすることができる。この構成によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0007】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数及びa軸方向の格子定数を測定する工程であり、前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数とa軸方向の格子定数との比が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数の比が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程とすることができる。この構成によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0008】
上記構成において、前記圧電膜の面内における前記圧電膜の格子定数の分布を測定する工程と、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布を低減する工程と、を有する構成とすることができる。この構成によれば、弾性波デバイスの特性を安定させることができる。
【0009】
上記構成において、前記格子定数の分布を低減する工程は、前記成膜条件を変更する工程の後に行われる構成とすることができる。この構成によれば、弾性波デバイスの特性をより安定させることができる。
【0010】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程と、前記格子定数の分布を測定する工程とは、同時に行われる構成とすることができる。この構成によれば、工程を簡略化することができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電膜を成膜する工程は、前記弾性波デバイスの基板上又は下部電極上に圧電膜を成膜する工程であり、前記格子定数を測定する工程は、前記基板上又は前記下部電極上に成膜された圧電膜の格子定数を測定する工程とすることができる。この構成によれば、精度高く格子定数を測定することができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電膜を成膜する工程は、温度補償膜が挿入された圧電膜を成膜する工程であり、前記格子定数を測定する工程は、前記度補償膜が挿入された圧電膜の格子定数を測定する工程とすることができる。この構成によれば、精度高く格子定数を測定することができる。また弾性波デバイスの温度特性が安定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)はFBARを例示する平面図であり、図1(b)はFBARを例示する断面図である。
【図2】図2(a)はθ−2θ法の実験を例示する模式図である。図2(b)は格子定数と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は残留応力と格子定数との関係を示すグラフである。図3(b)は残留応力と格子定数の変化率との関係を示すグラフである。
【図4】図4(a)は残留応力と格子定数の比の変化率との関係を示すグラフである。図4(b)は残留応力と電気機械結合定数の変化率との関係を示すグラフである。
【図5】図5(a)から図5(d)は格子定数管理工程に用いるウェハの構成を例示する断面図である。
【図6】図6は格子定数管理工程を例示するフローチャートである。
【図7】図7(a)から図7(c)は実施例1に係るFBARの製造方法を例示する断面図である。
【図8】図8は実施例2に係るFBARの製造方法を例示するフローチャートである。
【図9】図9(a)及び図9(b)は上部電極の残留応力による格子定数の分布低減を模式的に例示する断面図である。
【図10】図10は格子定数の分布を示すグラフである。
【図11】図11は実施例2の変形例に係るFBARを例示する断面図である。
【図12】図12(a)及び図12(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。
【図13】図13(a)及び図13(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、弾性波デバイスの例としてFBARについて説明する。まずFBARの構成について説明する。図1(a)はFBARを例示する平面図であり、図1(b)はFBARを例示する断面図であり、図1(a)のA−Aに沿った断面を図示している。
【0016】
図1(a)及び図1(b)に示すように、FBAR100は基板10、下部電極12、圧電薄膜14、及び上部電極16を備える。下部電極12は基板10の上に設けられている。基板10と下部電極12との間には、ドーム状の空隙18が形成されている。言い換えれば、空隙18の中央部においては基板10と下部電極12との距離が大きく、空隙18の周辺部においては基板10と下部電極12との距離が小さい。下部電極12は例えば空隙18に露出している。圧電薄膜14は下部電極12の上に設けられている。上部電極16は圧電薄膜14の上に設けられている。言い換えれば、下部電極12と上部電極16とは圧電薄膜14を挟む。下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16が重なり共振領域11が形成される。共振領域11において励振された弾性波は厚さ方向(図1(b)の縦方向)に振動し、かつ面方向(図1(b)の横方向)に進行する。圧電薄膜14の開口部から露出する下部電極12の一部は、電気信号を取り出すための端子部として機能する。下部電極12には、空隙18と連結する導入路13が設けられている。導入路13の先端には穴部15が形成されている。導入路13及び穴部15は、空隙18を形成する工程において使用される。
【0017】
基板10は例えばシリコン(Si)、ガラス、ガリウム砒素(GaAs)等の絶縁体からなる。下部電極12はルテニウム/クロム(Ru/Cr)、上部電極16はCr/Ruの2層構造を有する。言い換えれば、下部電極12及び上部電極16はそれぞれ、圧電薄膜14に近い方から順にCr層及びRu層を積層したものである。下部電極12のCr層の厚さは例えば100nm、Ru層の厚さは例えば250nmである。上部電極16のCr層の厚さは例えば20nm、Ru層の厚さは例えば250nmである。圧電薄膜14は(002)方向を主軸とするAlN、又は酸化亜鉛(ZnO)からなる。このように、圧電薄膜14は、c軸が厚さ方向を向き、a軸が面方向を向くような配向性を有する。
【0018】
次に圧電薄膜の結晶構造と電気機械結合定数との関係について説明する。まず配向性と電気機械結合定数k332との関係について説明する。圧電薄膜14のc軸配向性が高いほど電気機械結合定数k332は高くなる。圧電薄膜14の電気機械結合定数k332が高いほど、FBARの特性は良好になる。
【0019】
Siからなる基板10上にAlNからなる圧電薄膜14を成膜したサンプルを用い、配向性と電気機械結合定数k332との関係を検証した。圧電薄膜14の配向性はAlNの(002)面方向におけるX線ロッキングカーブ法により評価した。ロッキングカーブのFWHM(Full Width Half Maximum:半値幅)は配向性を表す。FWHMが小さいほど配向性が高い。各サンプルを用いてFBARを形成することで、電気機械結合定数k332を評価した。表1は圧電薄膜14の成膜条件が異なるサンプルB1、B2及びB3における配向性と電気機械結合定数k332との関係を示す表である。基板10はSiからなり、圧電薄膜14は厚さ1200nmのAlNからなる。
【表1】
表1の左端の列はサンプルを示す。表1の左から2番目のFWHM1は、基板10上における圧電薄膜14のFWHMを示す。表2の左から3番目のFWHM2は、下部電極12の上における圧電薄膜14のFWHMを示す。左から4番目は電気機械結合定数k332を示す。
【0020】
表1に示すように、サンプルB1〜B3のいずれにおいてもFWHM1は1.3degであり、FWHM2は2.7degである。言い換えれば、サンプルB1〜B3における配向性は同じである。これに対し、サンプルBの電気機械結合定数k332は6.07%、サンプルB2のk332は6.11%、サンプルB3のk332は6.31%である。このように、圧電薄膜14の配向性が同じであっても、電気機械結合定数k332に差異が生じ、所望の電気機械結合定数k332を得られない可能性がある。この結果、所望の特性を有する圧電薄膜共振子を得ることが難しくなり、また歩留まりが低下する可能性がある。
【0021】
次に格子定数と電気機械結合定数k332との関係を検証するための実験について説明する。成膜条件を変更して、基板10上に格子定数の異なる複数のAlN膜を形成した。X線回折によるθ−2θ測定(θ−2θ法)により、各AlN膜の格子定数を測定した。また、異なる格子定数と同一の膜厚とを有するAlN膜の各々を圧電薄膜14としてFBARを作成し、電気機械結合定数k332を求めた。これにより格子定数と電気機械結合定数k332との関係を検証した。各圧電薄膜共振子間において、圧電薄膜14の成膜条件以外の製造条件は同一である。圧電薄膜14の厚さは1200nmである。AlNのc軸の格子定数をc、a軸の格子定数をaとする。θ−2θ法について説明する。図2(a)はθ−2θ法の測定を例示する模式図である。
【0022】
図2(a)に示すように、θ−2θ法にはX線発生源20、X線検出器22及びサンプル24を用いる。サンプル24はSiからなる基板上に成膜されたAlN膜である。X線発生源20はサンプル24に向けてX線を照射する。X線はサンプル24により散乱される。X線検出器22は散乱されたX線を検出する。
【0023】
サンプル24のX線発生源20及びX線検出器22と対向する面は(002)面である。サンプル24のX線発生源20及びX線検出器22と対向する面と散乱されたX線とのなす角はθである。照射されるX線と散乱されるX線とのなす外角は2θである。X線発生源20及びサンプル24を図中の矢印の方向に回転させることでθ及び2θを変化させる。例えば、サンプル24を1°回転させた場合、X線発生源20をサンプル24と同方向に2°回転させる。これにより角度の比率は一定に保たれる。上記のように角度を変化させながら、X線検出器22により検出されるX線の強度がピークを示す角θを求める。
【0024】
X線強度がピークを示すとき、サンプル24の結晶面間隔d、角θ及びX線の波長λとの関係は次の式で表される。
【数1】
上記の数1から結晶面間隔dを求めることができる。なお、(002)面におけるX線強度がピークを示すのは2θが約36deg(θが約18deg)のときである。また、AlNのようなウルツ鉱型結晶構造においては、結晶の面方位(hkl)、結晶面間隔d、格子定数a及びcの関係は次の式で表される。
【数2】
AlNの(002)面にX線を照射するので、h=k=0、かつl=2である。数1から算出したdを数2に代入することで、c軸方向の格子定数cを求めることができる。なお、X線強度が36deg付近でピークを示すのは、X線の管球がCu管球の場合である。他の管球を用いる場合、異なる角度にピークが発生する。管球の種類によってλが異なるためである。
【0025】
実験結果について説明する。図2(b)は格子定数と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。横軸は格子定数c、縦軸は電気機械結合定数k332をそれぞれ表す。
【0026】
図2(b)に示すように、格子定数cが小さいほど電気機械結合定数k332は大きくなる。例えば格子定数cが約4.988Åの場合、電気機械結合定数k332は約6.10%である。これに対し、格子定数cが約4.980Åの場合、電気機械結合定数k332は約6.35%である。図2(b)の結果から、電気機械結合定数k332を大きくするためには、格子定数cを小さくすればよいことが分かる。
【0027】
次に格子定数cを制御する条件について説明する。格子定数cと圧電薄膜14に残留する残留応力との関係について検証する実験及びシミュレーションを行った。まず実験について説明する。実験は、成膜条件の異なる圧電薄膜14において、残留応力と格子定数cとの関係を検証したものである。
【0028】
図3(a)は残留応力と格子定数との関係を示すグラフである。横軸は残留応力、縦軸は格子定数cをそれぞれ表す。残留応力が引張応力である場合、残留応力は正の値をとる。残留応力が圧縮応力である場合、残留応力は負の値をとる。圧縮応力とは図1(b)における圧電薄膜14の上面を狭くする方向の応力である。引張応力とは圧電薄膜14の上面を広げる方向の応力である。圧電薄膜14はAlNからなる。図3(a)に示すように、残留応力が負の場合よりも、残留応力が正の場合において格子定数cは小さくなる。言い換えれば残留応力が引張応力である場合、格子定数cは小さくなる。
【0029】
次にシミュレーションについて説明する。シミュレーションは、計算手法として擬ポテンシャル法、計算のためのプログラムとしてABINITを用いて、構造最適化を含むAlNの電子状態の第1原理計算を行ったものである。応力を入力した場合にAlNが安定構造となる格子定数a及びcを求めた。なお、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードチャートによれば、応力がゼロの場合における格子定数cは0.498nm(4.98Å)、格子定数aとcとの比(格子定数の比)c/aは1.6である。
【0030】
図3(b)は残留応力と格子定数の変化率との関係を示すグラフである。縦軸は格子定数cの変化率である。格子定数cの変化率とは、応力がゼロの場合の格子定数cを基準とした格子定数cの変化率である。図3(b)に示すように、残留応力の値が大きいほど、格子定数cの変化率は小さくなる。詳細には、残留応力が圧縮応力(負の値)である場合、格子定数cの変化率は正の値である。言い換えれば、応力がゼロのときに比べて、格子定数cが大きくなる。残留応力が引張応力(正の値)である場合、格子定数cの変化率は負の値となる。言い換えれば、応力がゼロのときに比べて、格子定数cが小さくなる。
【0031】
さらに格子定数の比c/aの変化率を検証した。図4(a)は残留応力と格子定数の比の変化率との関係を示すグラフである。縦軸は格子定数の比c/aを表す。図4(a)に示すように、残留応力が圧縮応力である場合、c/aの変化率は正の値となる。言い換えればc/aは大きくなる。残留応力が引張応力である場合、c/aの変化率は負の値となる。言い換えればc/aは小さくなる。
【0032】
次に電気機械結合定数k332のシミュレーションについて説明する。上記と同様にシミュレーションはAlNの電子状態の第1原理計算を行ったものである。安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、AlNのc軸方向における圧電定数e33、弾性定数C33及び誘電率ε33を求めた。電気機械結合定数k332と圧電定数e33、弾性定数C33及び誘電率ε33との間には次の関係が成立する。
【数3】
数3に基づき電気機械結合定数k332を算出することができる。応力がゼロの場合における安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、応力がゼロの場合の電気機械結合定数k332を求めることができる。応力が入力された場合における安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、応力が入力された場合の電気機械結合定数k332を求めることができる。
【0033】
図4(b)は残留応力と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。横軸は残留応力、縦軸は電気機械結合定数k332の変化率をそれぞれ表す。電気機械結合定数の変化率は、応力がゼロの場合の電気機械結合定数k332を基準としたものである。図4(b)に示すように、残留応力が圧縮応力である場合、電気機械結合定数k332の変化率は負の値となる。言い換えれば、残留応力が圧縮応力である場合、電気機械結合定数k332は小さくなる。残留応力が引張応力である場合、電気機械結合定数k332の変化率は正の値となる。以上のように残留応力が引張応力である場合、格子定数c及び格子定数の比c/aは小さくなり、電気機械結合定数k332は大きくなる。
【実施例1】
【0034】
以上の知見に基づく実施例1について説明する。実施例1に係るFBARの製造方法は、圧電薄膜14の格子定数を管理するための格子定数管理工程を含む。図5(a)から図5(d)は格子定数管理工程に用いるウェハの構成を例示する断面図である。
【0035】
図5(a)に示すウェハは、基板10上に圧電薄膜14を形成したものである。図5(b)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成したものである。図5(c)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成し、圧電薄膜14上に上部電極16を形成したものである。図5(d)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成し、圧電薄膜14に温度補償膜19を挿入したものである。温度補償膜19は例えば酸化シリコン(SiO2)、又はSiO2に例えばフッ素(F)等をドープしたドープSiO2等からなる。温度補償膜19は、下部電極12と上部電極16との間において、圧電薄膜14の面方向に挿入されている。
【0036】
格子定数管理工程に用いられるウェハは、ダミーウェハでもよいし、製品ウェハでもよい。ダミーウェハとは、製品を形成するためのものではなく、格子定数の管理のために用いられるウェハである。製品ウェハとは、製品(FBAR)を形成するためのウェハである。またダミーウェハ及び製品ウェハの両方を用いてもよい。
【0037】
図6は実施例1に係るFBARの格子定数管理工程を例示するフローチャートである。以下の説明では、図5(a)に示す構成のダミーウェハを用いる場合を説明する。
【0038】
図6に示すように、例えばスパッタリング法を用いて、基板10上に圧電薄膜14(圧電膜)を成膜する(ステップS10)。成膜された圧電薄膜14の格子定数を測定する(ステップS11)。測定されるのはc軸方向の格子定数cである。測定の方法として、例えばθ−2θ法を用いることができる。格子定数cが所定の値c0未満であるか判断する(ステップS12)。所定の値c0とは、例えば所望の電気機械結合定数k332と対応する格子定数の値である。例えば図2(b)に基づくと、電気機械結合定数k332を6.3%以上にしたい場合、c0を約4.982Åと定めればよい。
【0039】
Noの場合、すなわち格子定数cがc0以上である場合、圧電薄膜14の成膜条件を変更する(ステップS13)。成膜条件は、格子定数cがc0より小さくなるように変更される。成膜条件については後述する。ステップS13の後、工程はステップS10に戻る。変更された成膜条件を用いて別のダミーウェハに圧電薄膜14を成膜する。ステップS12においてYesの場合、格子定数管理工程は終了する。
【0040】
格子定数管理工程により変更された成膜条件を用いて、FBARを製造する。図7(a)から図7(c)は実施例1に係るFBARの製造方法を例示する断面図である。
【0041】
図7(a)に示すように、例えばスパッタリング法または蒸着法を用い、基板10上に犠牲層17を形成する。犠牲層17は例えば酸化マグネシウム(MgO)からなり、空隙18が形成される領域に設けられる。犠牲層17の厚さは例えば20nmである。
【0042】
図7(b)に示すように、例えばスパッタリング法を用いて下部電極12を形成する。スパッタリング法は、例えば0.6〜1.2Paの圧力下、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で行う。圧力及び雰囲気とは、スパッタリング装置内の圧力及び雰囲気である。成膜後、例えば露光技術及びエッチング技術等を用い、下部電極12を所定の形状とする。図7(b)の右側に示すように、下部電極12の一方の端部と犠牲層17の一方の端部とは重なる。一方、図7(c)の左側に示すように、下部電極12は基板10の上面に延びる。
【0043】
図7(c)に示すように、例えばスパッタリング法を用いて、圧電薄膜14を形成する。圧電薄膜14は、膜厚が例えば400nm、c軸を主軸とするAlNからなる。スパッタリング法は、例えば約0.3Paの圧力下、アルゴン/窒素(Ar/N2)混合ガス雰囲気中において行う。成膜条件は、図6において変更された条件を用いる。
【0044】
例えばスパッタリング法を用いて、上部電極16を形成する。スパッタリング法は、例えば0.6〜1.2Paの圧力下、Arガス雰囲気中で行う。例えば露光技術及びエッチング技術等を用い、上部電極16及び圧電薄膜14を所定の形状とする。下部電極12、圧電薄膜14、上部電極16及び犠牲層17が重なる領域が形成される。圧電薄膜14に形成された開口部から下部電極12が露出する。図1(a)に示した穴部15及び導入路13からエッチング液を導入し、犠牲層17を除去する。下部電極12、圧電薄膜14、及び上部電極16からなる複合膜の残留応力は圧縮応力である。このため、犠牲層17のエッチングが完了した時点で、複合膜は膨れ上がり、下部電極12と基板10との間に複合膜側にドーム状形状を有する空隙18が形成される。以上の工程により、所望の電気機械結合定数k332を有するFBARが形成される。
【0045】
実施例1によれば、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電薄膜14を成膜する工程と、圧電薄膜14の格子定数cを測定する工程と、格子定数cが所定の値c0以上である場合、成膜条件を変更する工程と、を行う。成膜条件の変更により、格子定数cが所定の値c0より小さくなる。この結果、大きな電気機械結合定数k332を有するFBARを得ることができる。
【0046】
図6のステップS13において変更する成膜条件とは、例えば圧電薄膜14を成膜するためのスパッタリング法におけるArガスの流量等である。Ar/N2混合ガス中のAr流量比を増加させることにより圧電薄膜14の応力は引張応力となり、Ar流量比を減少させることにより圧電薄膜14の応力は圧縮応力となる。ステップS13においては、Ar流量比を例えばAr流量/(Ar流量+N2流量)=0.25に増加させることで圧電薄膜14の応力を引張応力とする。なお、Ar流量比は装置に応じて変更してもよい。図3(a)から図4(a)に示したように、残留応力が引張応力となることで格子定数c及び格子定数の比c/aが小さくなる。この結果、電気機械結合定数k332が大きくなる。
【0047】
図6のステップS12においては、格子定数cとして、一回の測定により得られた値を用いてもよいし、複数回の測定結果の平均値を用いてもよい。また、例えば格子定数の比c/aを管理することで格子定数を管理してもよい。この場合、格子定数a及びcを測定し、c/aを算出する(ステップS11)。比c/aが所定の値c0/a0未満であるか判断する(ステップS12)。Noの場合、つまりc/aがc0/a0以上である場合、成膜条件はc/aが所定の値c0/a0未満となるように変更される(ステップS13)。格子定数c及びc/aの一方、又は両方を管理してもよい。
【0048】
図6に示した格子定数管理工程は、製造工程一回ごとに行ってもよい。しかし、毎回の製造工程において格子定数管理工程を行うことは、工程数の増大、製造工程の複雑化等を招き、FBARの高コスト化の原因となる。従って、格子定数管理工程は定期的に行うことが好ましい。定期的とは、例えば毎日、毎週、スパッタリング法に用いるターゲットを変更したとき、製造ロットを変更したとき、製造工程を所定回数繰り返したとき等である。
【0049】
格子定数管理工程に図5(b)に示す構成のウェハを用いる場合、図6のステップS10において下部電極12と圧電薄膜14とを成膜する。ステップS11において下部電極12上の圧電薄膜14の格子定数を測定する。図5(c)に示す構成のウェハを用いる場合、ステップS10において、下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16を成膜する。ステップS11において、下部電極12と上部電極16との間に設けられた圧電薄膜14の格子定数を測定する。図5(d)に示す構成のウェハを用いる場合、ステップS10において、下部電極12、圧電薄膜14、上部電極16及び温度補償膜19を成膜する。言い換えれば、温度補償膜19が挿入された圧電薄膜14を成膜する。ステップS11において、温度補償膜19が挿入された圧電薄膜14の格子定数を測定する。格子定数管理工程に用いるウェハの圧電薄膜14を、FBARにおける圧電薄膜14と同じ状況に置くことが好ましい。これにより、格子定数を精度高く測定することが可能となる。
【0050】
前述のように格子定数管理工程に製品ウェハを用いてもよいし、ダミーウェハ及び製品ウェハの両方を用いてもよい。格子定数管理工程を経た製品ウェハにより、FBARを形成することができる。図6のステップS12においてNoと判定された場合、製品ウェハは廃棄してもよいし製品ウェハを用いてFBARを形成してもよい。
【0051】
なお、実施例1では格子定数cを所定の値c0以下に調整する例を示したが、例えば格子定数cを所定の値c0以上に調整してもよい。つまり格子定数cが所定の値c0より小さい場合(図6のステップS12においてYes)、ステップS13において成膜条件を調整する。これにより格子定数cを所定の値c0以上とし、所望の電気機械結合定数k332を得ることができる。
【0052】
圧電薄膜14は、AlN及びZnO以外のウルツ鉱型結晶構造を有する圧電体からなるとしてもよい。下部電極12及び上部電極16は、二層構造としたが単層構造でもよいし、三層以上の構造でもよい。下部電極12及び上部電極16の材料として、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の金属を用いることができる。下部電極12は空隙18に露出してもよいし、露出しなくてもよい。
【実施例2】
【0053】
実施例2は電気機械結合定数k332の分布を低減する例である。表2は圧電薄膜14の面内の異なる位置C1〜C3における配向性及び電気機械結合定数k332の測定結果を示す表である。
【表2】
表2に示すように、位置C1〜C3のいずれにおいてもFWHM1は1.3degであり、FWHM2は2.7degである。言い換えれば、位置C1〜C3における配向性は同じである。これに対し、位置C1におけるk332は6.07%、位置C2におけるk332は6.19%、位置C3におけるk332は6.25%である。このように、圧電薄膜14の面内において電気機械結合定数k332に差異が生じることがある。このため、圧電薄膜共振子の周波数特性が不安定になることがある。
【0054】
電気機械結合定数k332の分布の原因について説明する。圧電薄膜14は例えばスパッタリング法により成膜される。スパッタリング法を行うと、圧電薄膜14の表面温度は100℃程度となることがある。圧電薄膜14をスパッタリング装置から取り出した際、温度変化により熱応力が圧電薄膜14に残留することがある。また、成膜時に圧電薄膜14に生じうる格子欠陥により残留応力が生じることもある。残留応力の分布は、格子定数cの分布、又は比c/aの分布の原因となる。格子定数cの分布、又は比c/aの分布が、表2に示したような電気機械結合定数k332の分布の原因となることがある。
【0055】
電気機械結合定数k332の分布を低減するためには、格子定数の分布を低減すればよい。実施例2に係るFBARの製造方法は、格子定数の分布を低減するための分布低減工程を含む。図8は実施例2に係る圧電薄膜共振子の製造方法を例示するフローチャートである。なお分布低減工程には製品ウェハを使用する。
【0056】
図8に示すステップS10は図6に示したものと同じである。圧電薄膜14の面内における格子定数cを測定する(ステップS11)。実施例2においては、圧電薄膜14の面内の複数の箇所において格子定数cを測定する。言い換えれば圧電薄膜14の面内における格子定数cの分布を測定する。ステップS12及びS13は図6に示したものと同じである。ステップS12においてYesの場合、圧電薄膜14の面内における格子定数cの分布が大きいか判断する(ステップS14)。例えば複数箇所において測定された格子定数cの最大値と最小値との差Δcが所定の値Δc0以上であるか判断する。Yesの場合、FBARを形成するための後工程を行う(ステップS15)。例えば製品ウェハが図5(b)に示した構成である場合、後工程として上部電極16を設ける工程、及び空隙18を形成する工程を行う。ステップS14においてNoの場合、後工程を行う(ステップS16)。ステップS16の後、面内における格子定数cの分布を低減させる(ステップS17)。ステップS14の後、又はステップS17の後、工程は終了する。
【0057】
格子定数の分布を低減させるための具体的な方法について説明する。格子定数の分布を低減するためには、残留応力の分布を低減すればよい。残留応力の分布を低減するために、例えば上部電極16の残留応力を用いることができる。上部電極16中の残留応力の分布は、例えば上部電極16の成膜圧力等の成膜条件を変更することにより生成する。図9(a)及び図9(b)は上部電極の残留応力による格子定数の分布低減を模式的に例示する断面図である。図9(a)及び図9(b)はFBARのうち圧電薄膜14及び上部電極16を抜き出して、かつハッチングを省略して図示したものである。なお、図の簡略化のため、圧電薄膜14と上部電極16とは同程度の厚さとしている。ブロック矢印は強い残留応力を表し、実線の矢印は弱い残留応力を表す。強い残留応力とは絶対値が大きい残留応力を意味し、弱い残留応力とは絶対値が小さい残留応力を意味する。
【0058】
図9(a)に示す例では、圧電薄膜14の残留応力は引張応力である。圧電薄膜14の中心部には弱い残留応力が存在する。圧電薄膜14の周辺部には強い残留応力が存在する。このように圧電薄膜14の残留応力は面内において異なる大きさを有することがある。その一方、上部電極16の中心部には強い残留応力が存在する。上部電極16の周辺部には弱い残留応力が存在する。上部電極146の残留応力は引張応力である。圧電薄膜14の中心部には、上部電極16の中心部の強い残留応力が加わる。圧電薄膜14の周辺部には、上部電極16の周辺部の弱い残留応力が加わる。この結果、圧電薄膜14の残留応力は中心部と周辺部とで同程度の大きさとなる。言い換えれば、圧電薄膜14の残留応力の分布は低減される。この結果、圧電薄膜14の格子定数cの分布も低減される。
【0059】
図9(b)に示す例では、圧電薄膜14の中心部には弱い圧縮応力が存在し、周辺部には強い圧縮応力が存在する。上部電極16の中心部には弱い引張応力が存在し、周辺部には強い引張応力が存在する。圧電薄膜14と上部電極16とでは、残留応力の方向が反対である。従って、圧電薄膜14の残留応力と上部電極16の残留応力とは打ち消し合う。この結果、圧電薄膜14の残留応力の分布は低減される。より効果的に残留応力の分布を低減するためには、圧電薄膜14と上部電極16とが接触することが好ましい。
【0060】
格子定数の分布の低減を検証した実験について説明する。実験では図9(a)及び図9(b)に示したように、上部電極16により圧電薄膜14の残留応力の分布を低減することで、格子定数の分布を低減した。圧電薄膜14はAlNからなる。上部電極16は、圧電薄膜14に近い方からCr層とRu層とを積層したものである。圧電薄膜14の厚さは1200nm、上部電極16の厚さは250nmである。
【0061】
図10は格子定数の分布を示すグラフである。横軸は圧電薄膜14の面内における位置(面内位置)1〜10を表す。縦軸は格子定数cを表す。黒丸は分布低減前における格子定数、白丸は分布低減後における格子定数をそれぞれ表す。分布低減前とは上部電極形成前を意味し、分布低減後とは上部電極形成後を意味する。図10に黒丸で示すように、分布低減前は最小の格子定数が約4.985Å、最大の格子定数が約4.99Åである。これに対し図19に白丸で示すように、分布低減後は最小の格子定数が約4.983Å、最大の格子定数が約4.984Åである。このように格子定数cの分布が大きく低減される。
【0062】
実施例2によれば、圧電薄膜14の格子定数の分布を測定する工程と、格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、格子定数の分布を低減する工程と、を行う。圧電薄膜14の格子定数の分布が低減されることにより、電気機械結合定数k332の分布も低減される。この結果、FBARの特性が安定する。
【0063】
図8に示すように、格子定数の分布を低減する工程(ステップS17)は、成膜条件を変更する工程(ステップS13)の後に行われる。従って、所望の電気機械結合定数k332を有する圧電薄膜14において、電気機械結合定数k332の分布が低減される。この結果、FBARの特性がより安定する。
【0064】
図8のステップS11において説明したように、格子定数を測定する工程と、格子定数の分布を測定する工程とは同時に行われる。言い換えれば、ステップS11において測定した格子定数cの値を用いて、ステップS12、及びステップS14の両方を行う。このため工程を簡略化することができる。ただし、格子定数を測定する工程と、格子定数の分布を測定する工程とは別個に行われてもよい。例えば、図8のステップS12の後であってステップS14の前に、格子定数の分布を測定する工程を行ってもよい。なお格子定数の比c/aの分布を低減してもよい。格子定数c及び格子定数の比c/aの一方又は両方の分布を低減してもよい。
【0065】
図9(a)及び図9(b)には上部電極16の残留応力により、圧電薄膜14の残留応力の分布を低減する例を示した。言い換えれば、図8のステップS17に示した格子定数の分布を低減する工程は、上部電極16を設ける工程である。残留応力の分布を低減するために、他の方法を用いてもよい。付加膜を用いる例を実施例2の変形例とする。
【0066】
図11は実施例2の変形例に係るFBARを例示する断面図である。図1(a)及び図1(b)において既述した構成については、説明を省略する。図11に示すように、FBAR110は付加膜30を備える。付加膜30は、上部電極16上に設けられている。付加膜30は例えばSiO2、窒化シリコン(SiN)等の絶縁体から形成されてもよいし、金属から形成されてもよい。上部電極16の残留応力と付加膜30の残留応力とにより、圧電薄膜14の残留応力を緩和することができる。
【0067】
また、ステップS17は圧電薄膜14を加熱する工程でもよい。圧電薄膜14を例えば600℃まで加熱することで、残留応力の分布を低減することができる。FBARの製造工程における最高温度よりも高い温度まで圧電薄膜14を加熱することが好ましい。上部電極16の残留応力による分布の低減、加熱による分布の低減の両方を行ってもよい。
【0068】
圧電薄膜14の加熱は上部電極16を形成する前、形成する後のどちらでもよい。言い換えれば、ステップS16をステップS17の後に行ってもよい。図9(a)及び図9(b)に示したように、上部電極16を設けることで、分布低減が可能となる。言い換えれば、ステップS16はステップS17を含んでもよい。
【0069】
格子定数の分布が大きいとは、例えば複数箇所において測定された格子定数cの最大値と最小値との差Δcが大きいことを意味する。図8のステップS14においてΔcが、所定の値Δc0以上であるか判断する。ΔcがΔc0以上である場合、Yesと判断される。また格子定数cの標準偏差等を用いて分布の大きさを判断してもよい。
【0070】
実施例1及び実施例2それぞれに係る製造方法は、他の弾性波デバイスにも適用可能である。図12(a)から図13(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。図1(a)及び図1(b)において既述した構成については、説明を省略する。
【0071】
図12(a)に示すように、FBAR120の基板10には空隙32が形成されている。空隙32は、下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16と重なる。下部電極12は空隙32に露出している。空隙32は、例えばエッチング法等により基板10の一部を除去することで形成される。空隙32は、基板10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0072】
図12(b)に示すように、SMR130は音響反射膜34を備える。音響反射膜34は基板10と下部電極12との間に設けられている。音響反射膜34は、音響インピーダンスが高い膜と音響インピーダンスが低い膜との積層膜である。
【0073】
図13(a)に示すように、弾性波共振子140は、圧電膜31、第1支持基板38、第2支持基板40、及び電極42を備える。第1支持基板38の下面は第2支持基板40と、例えば表面活性化接合、樹脂接合等により接合されている。第1支持基板38の上面には圧電膜31が設けられている。第1支持基板38には、第1支持基板38を厚さ方向に貫通する孔部が形成されている。孔部は圧電膜31と第2支持基板40との間の空隙44として機能する。圧電膜31の上面の空隙44と重なる領域には電極42が設けられている。圧電膜31は例えばAlN等のように、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電体からなる。弾性波共振子140はラム波を利用する共振子である。
【0074】
図13(b)に示すように、FBAR150は温度補償膜19を備える。温度補償膜19は圧電薄膜14に挿入され、圧電薄膜14と接触している。温度補償膜19の弾性定数の温度係数の符号は、圧電薄膜14の弾性定数の温度係数の符号と反対である。従って、FBAR150の温度特性が安定する。なお、図12(a)から図13(a)に示した弾性波デバイスが温度補償膜19を備えてもよい。実施例1又は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法により、図12(a)から図13(b)に示したような弾性波デバイスを製造することができる。実施例1又は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法は、共振子を備えるフィルタ及びデュプレクサ、並びにフィルタ及びデュプレクサ等を含むモジュール等の弾性波デバイスの製造方法にも適用可能である。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 基板
12 下部電極
14 圧電薄膜
16 上部電極
17 共振領域
18、32、44 空隙
19 温度補償膜
31 圧電膜
100、110、120、150 FBAR
130 SMR
140 弾性波共振子
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の通信機器が普及している。通信機器のフィルタ、デュプレクサ等として、弾性波を利用した弾性波デバイスが用いられることがある。弾性波デバイスの例として、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用するデバイス、及び厚み振動波(BAW:Bulk Acoustic Wave)を利用するデバイス等がある。圧電薄膜共振子はBAWを利用するデバイスであり、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)、SMR(Solidly Mounted Resonator)等のタイプがある。またラム波(Lamb Wave)を利用するデバイスもある。圧電膜の電気機械結合定数が大きくなることで、弾性波デバイスの周波数特性が改善し、また広帯域化も可能となる。非特許文献1には、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電薄膜の配向性を制御することで、圧電薄膜共振子の電気機械結合定数を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】アイイーイー・トランザクションズ オン ウルトラソニックス フェロエレクトロニクス アンド フリークェンシー コントロール 第47巻 292ページ 2000年(IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS, FERROELECTRICS AND FREQUENCY CONTROL, vol.47, p.292, 2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圧電薄膜の配向性を高くした場合でも、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造が難しいことがある。本発明は上記課題に鑑み、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電膜を成膜する工程と、前記圧電膜の格子定数を測定する工程と、前記格子定数に基づいて、前記圧電膜を成膜する工程における前記圧電膜の成膜条件を変更する工程と、を有する弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0006】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数を測定する工程であり、前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程とすることができる。この構成によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0007】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数及びa軸方向の格子定数を測定する工程であり、前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数とa軸方向の格子定数との比が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数の比が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程とすることができる。この構成によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0008】
上記構成において、前記圧電膜の面内における前記圧電膜の格子定数の分布を測定する工程と、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布を低減する工程と、を有する構成とすることができる。この構成によれば、弾性波デバイスの特性を安定させることができる。
【0009】
上記構成において、前記格子定数の分布を低減する工程は、前記成膜条件を変更する工程の後に行われる構成とすることができる。この構成によれば、弾性波デバイスの特性をより安定させることができる。
【0010】
上記構成において、前記格子定数を測定する工程と、前記格子定数の分布を測定する工程とは、同時に行われる構成とすることができる。この構成によれば、工程を簡略化することができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電膜を成膜する工程は、前記弾性波デバイスの基板上又は下部電極上に圧電膜を成膜する工程であり、前記格子定数を測定する工程は、前記基板上又は前記下部電極上に成膜された圧電膜の格子定数を測定する工程とすることができる。この構成によれば、精度高く格子定数を測定することができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電膜を成膜する工程は、温度補償膜が挿入された圧電膜を成膜する工程であり、前記格子定数を測定する工程は、前記度補償膜が挿入された圧電膜の格子定数を測定する工程とすることができる。この構成によれば、精度高く格子定数を測定することができる。また弾性波デバイスの温度特性が安定する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大きな電気機械結合定数を有する弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)はFBARを例示する平面図であり、図1(b)はFBARを例示する断面図である。
【図2】図2(a)はθ−2θ法の実験を例示する模式図である。図2(b)は格子定数と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は残留応力と格子定数との関係を示すグラフである。図3(b)は残留応力と格子定数の変化率との関係を示すグラフである。
【図4】図4(a)は残留応力と格子定数の比の変化率との関係を示すグラフである。図4(b)は残留応力と電気機械結合定数の変化率との関係を示すグラフである。
【図5】図5(a)から図5(d)は格子定数管理工程に用いるウェハの構成を例示する断面図である。
【図6】図6は格子定数管理工程を例示するフローチャートである。
【図7】図7(a)から図7(c)は実施例1に係るFBARの製造方法を例示する断面図である。
【図8】図8は実施例2に係るFBARの製造方法を例示するフローチャートである。
【図9】図9(a)及び図9(b)は上部電極の残留応力による格子定数の分布低減を模式的に例示する断面図である。
【図10】図10は格子定数の分布を示すグラフである。
【図11】図11は実施例2の変形例に係るFBARを例示する断面図である。
【図12】図12(a)及び図12(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。
【図13】図13(a)及び図13(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、弾性波デバイスの例としてFBARについて説明する。まずFBARの構成について説明する。図1(a)はFBARを例示する平面図であり、図1(b)はFBARを例示する断面図であり、図1(a)のA−Aに沿った断面を図示している。
【0016】
図1(a)及び図1(b)に示すように、FBAR100は基板10、下部電極12、圧電薄膜14、及び上部電極16を備える。下部電極12は基板10の上に設けられている。基板10と下部電極12との間には、ドーム状の空隙18が形成されている。言い換えれば、空隙18の中央部においては基板10と下部電極12との距離が大きく、空隙18の周辺部においては基板10と下部電極12との距離が小さい。下部電極12は例えば空隙18に露出している。圧電薄膜14は下部電極12の上に設けられている。上部電極16は圧電薄膜14の上に設けられている。言い換えれば、下部電極12と上部電極16とは圧電薄膜14を挟む。下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16が重なり共振領域11が形成される。共振領域11において励振された弾性波は厚さ方向(図1(b)の縦方向)に振動し、かつ面方向(図1(b)の横方向)に進行する。圧電薄膜14の開口部から露出する下部電極12の一部は、電気信号を取り出すための端子部として機能する。下部電極12には、空隙18と連結する導入路13が設けられている。導入路13の先端には穴部15が形成されている。導入路13及び穴部15は、空隙18を形成する工程において使用される。
【0017】
基板10は例えばシリコン(Si)、ガラス、ガリウム砒素(GaAs)等の絶縁体からなる。下部電極12はルテニウム/クロム(Ru/Cr)、上部電極16はCr/Ruの2層構造を有する。言い換えれば、下部電極12及び上部電極16はそれぞれ、圧電薄膜14に近い方から順にCr層及びRu層を積層したものである。下部電極12のCr層の厚さは例えば100nm、Ru層の厚さは例えば250nmである。上部電極16のCr層の厚さは例えば20nm、Ru層の厚さは例えば250nmである。圧電薄膜14は(002)方向を主軸とするAlN、又は酸化亜鉛(ZnO)からなる。このように、圧電薄膜14は、c軸が厚さ方向を向き、a軸が面方向を向くような配向性を有する。
【0018】
次に圧電薄膜の結晶構造と電気機械結合定数との関係について説明する。まず配向性と電気機械結合定数k332との関係について説明する。圧電薄膜14のc軸配向性が高いほど電気機械結合定数k332は高くなる。圧電薄膜14の電気機械結合定数k332が高いほど、FBARの特性は良好になる。
【0019】
Siからなる基板10上にAlNからなる圧電薄膜14を成膜したサンプルを用い、配向性と電気機械結合定数k332との関係を検証した。圧電薄膜14の配向性はAlNの(002)面方向におけるX線ロッキングカーブ法により評価した。ロッキングカーブのFWHM(Full Width Half Maximum:半値幅)は配向性を表す。FWHMが小さいほど配向性が高い。各サンプルを用いてFBARを形成することで、電気機械結合定数k332を評価した。表1は圧電薄膜14の成膜条件が異なるサンプルB1、B2及びB3における配向性と電気機械結合定数k332との関係を示す表である。基板10はSiからなり、圧電薄膜14は厚さ1200nmのAlNからなる。
【表1】
表1の左端の列はサンプルを示す。表1の左から2番目のFWHM1は、基板10上における圧電薄膜14のFWHMを示す。表2の左から3番目のFWHM2は、下部電極12の上における圧電薄膜14のFWHMを示す。左から4番目は電気機械結合定数k332を示す。
【0020】
表1に示すように、サンプルB1〜B3のいずれにおいてもFWHM1は1.3degであり、FWHM2は2.7degである。言い換えれば、サンプルB1〜B3における配向性は同じである。これに対し、サンプルBの電気機械結合定数k332は6.07%、サンプルB2のk332は6.11%、サンプルB3のk332は6.31%である。このように、圧電薄膜14の配向性が同じであっても、電気機械結合定数k332に差異が生じ、所望の電気機械結合定数k332を得られない可能性がある。この結果、所望の特性を有する圧電薄膜共振子を得ることが難しくなり、また歩留まりが低下する可能性がある。
【0021】
次に格子定数と電気機械結合定数k332との関係を検証するための実験について説明する。成膜条件を変更して、基板10上に格子定数の異なる複数のAlN膜を形成した。X線回折によるθ−2θ測定(θ−2θ法)により、各AlN膜の格子定数を測定した。また、異なる格子定数と同一の膜厚とを有するAlN膜の各々を圧電薄膜14としてFBARを作成し、電気機械結合定数k332を求めた。これにより格子定数と電気機械結合定数k332との関係を検証した。各圧電薄膜共振子間において、圧電薄膜14の成膜条件以外の製造条件は同一である。圧電薄膜14の厚さは1200nmである。AlNのc軸の格子定数をc、a軸の格子定数をaとする。θ−2θ法について説明する。図2(a)はθ−2θ法の測定を例示する模式図である。
【0022】
図2(a)に示すように、θ−2θ法にはX線発生源20、X線検出器22及びサンプル24を用いる。サンプル24はSiからなる基板上に成膜されたAlN膜である。X線発生源20はサンプル24に向けてX線を照射する。X線はサンプル24により散乱される。X線検出器22は散乱されたX線を検出する。
【0023】
サンプル24のX線発生源20及びX線検出器22と対向する面は(002)面である。サンプル24のX線発生源20及びX線検出器22と対向する面と散乱されたX線とのなす角はθである。照射されるX線と散乱されるX線とのなす外角は2θである。X線発生源20及びサンプル24を図中の矢印の方向に回転させることでθ及び2θを変化させる。例えば、サンプル24を1°回転させた場合、X線発生源20をサンプル24と同方向に2°回転させる。これにより角度の比率は一定に保たれる。上記のように角度を変化させながら、X線検出器22により検出されるX線の強度がピークを示す角θを求める。
【0024】
X線強度がピークを示すとき、サンプル24の結晶面間隔d、角θ及びX線の波長λとの関係は次の式で表される。
【数1】
上記の数1から結晶面間隔dを求めることができる。なお、(002)面におけるX線強度がピークを示すのは2θが約36deg(θが約18deg)のときである。また、AlNのようなウルツ鉱型結晶構造においては、結晶の面方位(hkl)、結晶面間隔d、格子定数a及びcの関係は次の式で表される。
【数2】
AlNの(002)面にX線を照射するので、h=k=0、かつl=2である。数1から算出したdを数2に代入することで、c軸方向の格子定数cを求めることができる。なお、X線強度が36deg付近でピークを示すのは、X線の管球がCu管球の場合である。他の管球を用いる場合、異なる角度にピークが発生する。管球の種類によってλが異なるためである。
【0025】
実験結果について説明する。図2(b)は格子定数と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。横軸は格子定数c、縦軸は電気機械結合定数k332をそれぞれ表す。
【0026】
図2(b)に示すように、格子定数cが小さいほど電気機械結合定数k332は大きくなる。例えば格子定数cが約4.988Åの場合、電気機械結合定数k332は約6.10%である。これに対し、格子定数cが約4.980Åの場合、電気機械結合定数k332は約6.35%である。図2(b)の結果から、電気機械結合定数k332を大きくするためには、格子定数cを小さくすればよいことが分かる。
【0027】
次に格子定数cを制御する条件について説明する。格子定数cと圧電薄膜14に残留する残留応力との関係について検証する実験及びシミュレーションを行った。まず実験について説明する。実験は、成膜条件の異なる圧電薄膜14において、残留応力と格子定数cとの関係を検証したものである。
【0028】
図3(a)は残留応力と格子定数との関係を示すグラフである。横軸は残留応力、縦軸は格子定数cをそれぞれ表す。残留応力が引張応力である場合、残留応力は正の値をとる。残留応力が圧縮応力である場合、残留応力は負の値をとる。圧縮応力とは図1(b)における圧電薄膜14の上面を狭くする方向の応力である。引張応力とは圧電薄膜14の上面を広げる方向の応力である。圧電薄膜14はAlNからなる。図3(a)に示すように、残留応力が負の場合よりも、残留応力が正の場合において格子定数cは小さくなる。言い換えれば残留応力が引張応力である場合、格子定数cは小さくなる。
【0029】
次にシミュレーションについて説明する。シミュレーションは、計算手法として擬ポテンシャル法、計算のためのプログラムとしてABINITを用いて、構造最適化を含むAlNの電子状態の第1原理計算を行ったものである。応力を入力した場合にAlNが安定構造となる格子定数a及びcを求めた。なお、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードチャートによれば、応力がゼロの場合における格子定数cは0.498nm(4.98Å)、格子定数aとcとの比(格子定数の比)c/aは1.6である。
【0030】
図3(b)は残留応力と格子定数の変化率との関係を示すグラフである。縦軸は格子定数cの変化率である。格子定数cの変化率とは、応力がゼロの場合の格子定数cを基準とした格子定数cの変化率である。図3(b)に示すように、残留応力の値が大きいほど、格子定数cの変化率は小さくなる。詳細には、残留応力が圧縮応力(負の値)である場合、格子定数cの変化率は正の値である。言い換えれば、応力がゼロのときに比べて、格子定数cが大きくなる。残留応力が引張応力(正の値)である場合、格子定数cの変化率は負の値となる。言い換えれば、応力がゼロのときに比べて、格子定数cが小さくなる。
【0031】
さらに格子定数の比c/aの変化率を検証した。図4(a)は残留応力と格子定数の比の変化率との関係を示すグラフである。縦軸は格子定数の比c/aを表す。図4(a)に示すように、残留応力が圧縮応力である場合、c/aの変化率は正の値となる。言い換えればc/aは大きくなる。残留応力が引張応力である場合、c/aの変化率は負の値となる。言い換えればc/aは小さくなる。
【0032】
次に電気機械結合定数k332のシミュレーションについて説明する。上記と同様にシミュレーションはAlNの電子状態の第1原理計算を行ったものである。安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、AlNのc軸方向における圧電定数e33、弾性定数C33及び誘電率ε33を求めた。電気機械結合定数k332と圧電定数e33、弾性定数C33及び誘電率ε33との間には次の関係が成立する。
【数3】
数3に基づき電気機械結合定数k332を算出することができる。応力がゼロの場合における安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、応力がゼロの場合の電気機械結合定数k332を求めることができる。応力が入力された場合における安定構造のAlNの結晶格子に歪みを加えることで、応力が入力された場合の電気機械結合定数k332を求めることができる。
【0033】
図4(b)は残留応力と電気機械結合定数との関係を示すグラフである。横軸は残留応力、縦軸は電気機械結合定数k332の変化率をそれぞれ表す。電気機械結合定数の変化率は、応力がゼロの場合の電気機械結合定数k332を基準としたものである。図4(b)に示すように、残留応力が圧縮応力である場合、電気機械結合定数k332の変化率は負の値となる。言い換えれば、残留応力が圧縮応力である場合、電気機械結合定数k332は小さくなる。残留応力が引張応力である場合、電気機械結合定数k332の変化率は正の値となる。以上のように残留応力が引張応力である場合、格子定数c及び格子定数の比c/aは小さくなり、電気機械結合定数k332は大きくなる。
【実施例1】
【0034】
以上の知見に基づく実施例1について説明する。実施例1に係るFBARの製造方法は、圧電薄膜14の格子定数を管理するための格子定数管理工程を含む。図5(a)から図5(d)は格子定数管理工程に用いるウェハの構成を例示する断面図である。
【0035】
図5(a)に示すウェハは、基板10上に圧電薄膜14を形成したものである。図5(b)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成したものである。図5(c)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成し、圧電薄膜14上に上部電極16を形成したものである。図5(d)に示すウェハは、下部電極12上に圧電薄膜14を形成し、圧電薄膜14に温度補償膜19を挿入したものである。温度補償膜19は例えば酸化シリコン(SiO2)、又はSiO2に例えばフッ素(F)等をドープしたドープSiO2等からなる。温度補償膜19は、下部電極12と上部電極16との間において、圧電薄膜14の面方向に挿入されている。
【0036】
格子定数管理工程に用いられるウェハは、ダミーウェハでもよいし、製品ウェハでもよい。ダミーウェハとは、製品を形成するためのものではなく、格子定数の管理のために用いられるウェハである。製品ウェハとは、製品(FBAR)を形成するためのウェハである。またダミーウェハ及び製品ウェハの両方を用いてもよい。
【0037】
図6は実施例1に係るFBARの格子定数管理工程を例示するフローチャートである。以下の説明では、図5(a)に示す構成のダミーウェハを用いる場合を説明する。
【0038】
図6に示すように、例えばスパッタリング法を用いて、基板10上に圧電薄膜14(圧電膜)を成膜する(ステップS10)。成膜された圧電薄膜14の格子定数を測定する(ステップS11)。測定されるのはc軸方向の格子定数cである。測定の方法として、例えばθ−2θ法を用いることができる。格子定数cが所定の値c0未満であるか判断する(ステップS12)。所定の値c0とは、例えば所望の電気機械結合定数k332と対応する格子定数の値である。例えば図2(b)に基づくと、電気機械結合定数k332を6.3%以上にしたい場合、c0を約4.982Åと定めればよい。
【0039】
Noの場合、すなわち格子定数cがc0以上である場合、圧電薄膜14の成膜条件を変更する(ステップS13)。成膜条件は、格子定数cがc0より小さくなるように変更される。成膜条件については後述する。ステップS13の後、工程はステップS10に戻る。変更された成膜条件を用いて別のダミーウェハに圧電薄膜14を成膜する。ステップS12においてYesの場合、格子定数管理工程は終了する。
【0040】
格子定数管理工程により変更された成膜条件を用いて、FBARを製造する。図7(a)から図7(c)は実施例1に係るFBARの製造方法を例示する断面図である。
【0041】
図7(a)に示すように、例えばスパッタリング法または蒸着法を用い、基板10上に犠牲層17を形成する。犠牲層17は例えば酸化マグネシウム(MgO)からなり、空隙18が形成される領域に設けられる。犠牲層17の厚さは例えば20nmである。
【0042】
図7(b)に示すように、例えばスパッタリング法を用いて下部電極12を形成する。スパッタリング法は、例えば0.6〜1.2Paの圧力下、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で行う。圧力及び雰囲気とは、スパッタリング装置内の圧力及び雰囲気である。成膜後、例えば露光技術及びエッチング技術等を用い、下部電極12を所定の形状とする。図7(b)の右側に示すように、下部電極12の一方の端部と犠牲層17の一方の端部とは重なる。一方、図7(c)の左側に示すように、下部電極12は基板10の上面に延びる。
【0043】
図7(c)に示すように、例えばスパッタリング法を用いて、圧電薄膜14を形成する。圧電薄膜14は、膜厚が例えば400nm、c軸を主軸とするAlNからなる。スパッタリング法は、例えば約0.3Paの圧力下、アルゴン/窒素(Ar/N2)混合ガス雰囲気中において行う。成膜条件は、図6において変更された条件を用いる。
【0044】
例えばスパッタリング法を用いて、上部電極16を形成する。スパッタリング法は、例えば0.6〜1.2Paの圧力下、Arガス雰囲気中で行う。例えば露光技術及びエッチング技術等を用い、上部電極16及び圧電薄膜14を所定の形状とする。下部電極12、圧電薄膜14、上部電極16及び犠牲層17が重なる領域が形成される。圧電薄膜14に形成された開口部から下部電極12が露出する。図1(a)に示した穴部15及び導入路13からエッチング液を導入し、犠牲層17を除去する。下部電極12、圧電薄膜14、及び上部電極16からなる複合膜の残留応力は圧縮応力である。このため、犠牲層17のエッチングが完了した時点で、複合膜は膨れ上がり、下部電極12と基板10との間に複合膜側にドーム状形状を有する空隙18が形成される。以上の工程により、所望の電気機械結合定数k332を有するFBARが形成される。
【0045】
実施例1によれば、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電薄膜14を成膜する工程と、圧電薄膜14の格子定数cを測定する工程と、格子定数cが所定の値c0以上である場合、成膜条件を変更する工程と、を行う。成膜条件の変更により、格子定数cが所定の値c0より小さくなる。この結果、大きな電気機械結合定数k332を有するFBARを得ることができる。
【0046】
図6のステップS13において変更する成膜条件とは、例えば圧電薄膜14を成膜するためのスパッタリング法におけるArガスの流量等である。Ar/N2混合ガス中のAr流量比を増加させることにより圧電薄膜14の応力は引張応力となり、Ar流量比を減少させることにより圧電薄膜14の応力は圧縮応力となる。ステップS13においては、Ar流量比を例えばAr流量/(Ar流量+N2流量)=0.25に増加させることで圧電薄膜14の応力を引張応力とする。なお、Ar流量比は装置に応じて変更してもよい。図3(a)から図4(a)に示したように、残留応力が引張応力となることで格子定数c及び格子定数の比c/aが小さくなる。この結果、電気機械結合定数k332が大きくなる。
【0047】
図6のステップS12においては、格子定数cとして、一回の測定により得られた値を用いてもよいし、複数回の測定結果の平均値を用いてもよい。また、例えば格子定数の比c/aを管理することで格子定数を管理してもよい。この場合、格子定数a及びcを測定し、c/aを算出する(ステップS11)。比c/aが所定の値c0/a0未満であるか判断する(ステップS12)。Noの場合、つまりc/aがc0/a0以上である場合、成膜条件はc/aが所定の値c0/a0未満となるように変更される(ステップS13)。格子定数c及びc/aの一方、又は両方を管理してもよい。
【0048】
図6に示した格子定数管理工程は、製造工程一回ごとに行ってもよい。しかし、毎回の製造工程において格子定数管理工程を行うことは、工程数の増大、製造工程の複雑化等を招き、FBARの高コスト化の原因となる。従って、格子定数管理工程は定期的に行うことが好ましい。定期的とは、例えば毎日、毎週、スパッタリング法に用いるターゲットを変更したとき、製造ロットを変更したとき、製造工程を所定回数繰り返したとき等である。
【0049】
格子定数管理工程に図5(b)に示す構成のウェハを用いる場合、図6のステップS10において下部電極12と圧電薄膜14とを成膜する。ステップS11において下部電極12上の圧電薄膜14の格子定数を測定する。図5(c)に示す構成のウェハを用いる場合、ステップS10において、下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16を成膜する。ステップS11において、下部電極12と上部電極16との間に設けられた圧電薄膜14の格子定数を測定する。図5(d)に示す構成のウェハを用いる場合、ステップS10において、下部電極12、圧電薄膜14、上部電極16及び温度補償膜19を成膜する。言い換えれば、温度補償膜19が挿入された圧電薄膜14を成膜する。ステップS11において、温度補償膜19が挿入された圧電薄膜14の格子定数を測定する。格子定数管理工程に用いるウェハの圧電薄膜14を、FBARにおける圧電薄膜14と同じ状況に置くことが好ましい。これにより、格子定数を精度高く測定することが可能となる。
【0050】
前述のように格子定数管理工程に製品ウェハを用いてもよいし、ダミーウェハ及び製品ウェハの両方を用いてもよい。格子定数管理工程を経た製品ウェハにより、FBARを形成することができる。図6のステップS12においてNoと判定された場合、製品ウェハは廃棄してもよいし製品ウェハを用いてFBARを形成してもよい。
【0051】
なお、実施例1では格子定数cを所定の値c0以下に調整する例を示したが、例えば格子定数cを所定の値c0以上に調整してもよい。つまり格子定数cが所定の値c0より小さい場合(図6のステップS12においてYes)、ステップS13において成膜条件を調整する。これにより格子定数cを所定の値c0以上とし、所望の電気機械結合定数k332を得ることができる。
【0052】
圧電薄膜14は、AlN及びZnO以外のウルツ鉱型結晶構造を有する圧電体からなるとしてもよい。下部電極12及び上部電極16は、二層構造としたが単層構造でもよいし、三層以上の構造でもよい。下部電極12及び上部電極16の材料として、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の金属を用いることができる。下部電極12は空隙18に露出してもよいし、露出しなくてもよい。
【実施例2】
【0053】
実施例2は電気機械結合定数k332の分布を低減する例である。表2は圧電薄膜14の面内の異なる位置C1〜C3における配向性及び電気機械結合定数k332の測定結果を示す表である。
【表2】
表2に示すように、位置C1〜C3のいずれにおいてもFWHM1は1.3degであり、FWHM2は2.7degである。言い換えれば、位置C1〜C3における配向性は同じである。これに対し、位置C1におけるk332は6.07%、位置C2におけるk332は6.19%、位置C3におけるk332は6.25%である。このように、圧電薄膜14の面内において電気機械結合定数k332に差異が生じることがある。このため、圧電薄膜共振子の周波数特性が不安定になることがある。
【0054】
電気機械結合定数k332の分布の原因について説明する。圧電薄膜14は例えばスパッタリング法により成膜される。スパッタリング法を行うと、圧電薄膜14の表面温度は100℃程度となることがある。圧電薄膜14をスパッタリング装置から取り出した際、温度変化により熱応力が圧電薄膜14に残留することがある。また、成膜時に圧電薄膜14に生じうる格子欠陥により残留応力が生じることもある。残留応力の分布は、格子定数cの分布、又は比c/aの分布の原因となる。格子定数cの分布、又は比c/aの分布が、表2に示したような電気機械結合定数k332の分布の原因となることがある。
【0055】
電気機械結合定数k332の分布を低減するためには、格子定数の分布を低減すればよい。実施例2に係るFBARの製造方法は、格子定数の分布を低減するための分布低減工程を含む。図8は実施例2に係る圧電薄膜共振子の製造方法を例示するフローチャートである。なお分布低減工程には製品ウェハを使用する。
【0056】
図8に示すステップS10は図6に示したものと同じである。圧電薄膜14の面内における格子定数cを測定する(ステップS11)。実施例2においては、圧電薄膜14の面内の複数の箇所において格子定数cを測定する。言い換えれば圧電薄膜14の面内における格子定数cの分布を測定する。ステップS12及びS13は図6に示したものと同じである。ステップS12においてYesの場合、圧電薄膜14の面内における格子定数cの分布が大きいか判断する(ステップS14)。例えば複数箇所において測定された格子定数cの最大値と最小値との差Δcが所定の値Δc0以上であるか判断する。Yesの場合、FBARを形成するための後工程を行う(ステップS15)。例えば製品ウェハが図5(b)に示した構成である場合、後工程として上部電極16を設ける工程、及び空隙18を形成する工程を行う。ステップS14においてNoの場合、後工程を行う(ステップS16)。ステップS16の後、面内における格子定数cの分布を低減させる(ステップS17)。ステップS14の後、又はステップS17の後、工程は終了する。
【0057】
格子定数の分布を低減させるための具体的な方法について説明する。格子定数の分布を低減するためには、残留応力の分布を低減すればよい。残留応力の分布を低減するために、例えば上部電極16の残留応力を用いることができる。上部電極16中の残留応力の分布は、例えば上部電極16の成膜圧力等の成膜条件を変更することにより生成する。図9(a)及び図9(b)は上部電極の残留応力による格子定数の分布低減を模式的に例示する断面図である。図9(a)及び図9(b)はFBARのうち圧電薄膜14及び上部電極16を抜き出して、かつハッチングを省略して図示したものである。なお、図の簡略化のため、圧電薄膜14と上部電極16とは同程度の厚さとしている。ブロック矢印は強い残留応力を表し、実線の矢印は弱い残留応力を表す。強い残留応力とは絶対値が大きい残留応力を意味し、弱い残留応力とは絶対値が小さい残留応力を意味する。
【0058】
図9(a)に示す例では、圧電薄膜14の残留応力は引張応力である。圧電薄膜14の中心部には弱い残留応力が存在する。圧電薄膜14の周辺部には強い残留応力が存在する。このように圧電薄膜14の残留応力は面内において異なる大きさを有することがある。その一方、上部電極16の中心部には強い残留応力が存在する。上部電極16の周辺部には弱い残留応力が存在する。上部電極146の残留応力は引張応力である。圧電薄膜14の中心部には、上部電極16の中心部の強い残留応力が加わる。圧電薄膜14の周辺部には、上部電極16の周辺部の弱い残留応力が加わる。この結果、圧電薄膜14の残留応力は中心部と周辺部とで同程度の大きさとなる。言い換えれば、圧電薄膜14の残留応力の分布は低減される。この結果、圧電薄膜14の格子定数cの分布も低減される。
【0059】
図9(b)に示す例では、圧電薄膜14の中心部には弱い圧縮応力が存在し、周辺部には強い圧縮応力が存在する。上部電極16の中心部には弱い引張応力が存在し、周辺部には強い引張応力が存在する。圧電薄膜14と上部電極16とでは、残留応力の方向が反対である。従って、圧電薄膜14の残留応力と上部電極16の残留応力とは打ち消し合う。この結果、圧電薄膜14の残留応力の分布は低減される。より効果的に残留応力の分布を低減するためには、圧電薄膜14と上部電極16とが接触することが好ましい。
【0060】
格子定数の分布の低減を検証した実験について説明する。実験では図9(a)及び図9(b)に示したように、上部電極16により圧電薄膜14の残留応力の分布を低減することで、格子定数の分布を低減した。圧電薄膜14はAlNからなる。上部電極16は、圧電薄膜14に近い方からCr層とRu層とを積層したものである。圧電薄膜14の厚さは1200nm、上部電極16の厚さは250nmである。
【0061】
図10は格子定数の分布を示すグラフである。横軸は圧電薄膜14の面内における位置(面内位置)1〜10を表す。縦軸は格子定数cを表す。黒丸は分布低減前における格子定数、白丸は分布低減後における格子定数をそれぞれ表す。分布低減前とは上部電極形成前を意味し、分布低減後とは上部電極形成後を意味する。図10に黒丸で示すように、分布低減前は最小の格子定数が約4.985Å、最大の格子定数が約4.99Åである。これに対し図19に白丸で示すように、分布低減後は最小の格子定数が約4.983Å、最大の格子定数が約4.984Åである。このように格子定数cの分布が大きく低減される。
【0062】
実施例2によれば、圧電薄膜14の格子定数の分布を測定する工程と、格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、格子定数の分布を低減する工程と、を行う。圧電薄膜14の格子定数の分布が低減されることにより、電気機械結合定数k332の分布も低減される。この結果、FBARの特性が安定する。
【0063】
図8に示すように、格子定数の分布を低減する工程(ステップS17)は、成膜条件を変更する工程(ステップS13)の後に行われる。従って、所望の電気機械結合定数k332を有する圧電薄膜14において、電気機械結合定数k332の分布が低減される。この結果、FBARの特性がより安定する。
【0064】
図8のステップS11において説明したように、格子定数を測定する工程と、格子定数の分布を測定する工程とは同時に行われる。言い換えれば、ステップS11において測定した格子定数cの値を用いて、ステップS12、及びステップS14の両方を行う。このため工程を簡略化することができる。ただし、格子定数を測定する工程と、格子定数の分布を測定する工程とは別個に行われてもよい。例えば、図8のステップS12の後であってステップS14の前に、格子定数の分布を測定する工程を行ってもよい。なお格子定数の比c/aの分布を低減してもよい。格子定数c及び格子定数の比c/aの一方又は両方の分布を低減してもよい。
【0065】
図9(a)及び図9(b)には上部電極16の残留応力により、圧電薄膜14の残留応力の分布を低減する例を示した。言い換えれば、図8のステップS17に示した格子定数の分布を低減する工程は、上部電極16を設ける工程である。残留応力の分布を低減するために、他の方法を用いてもよい。付加膜を用いる例を実施例2の変形例とする。
【0066】
図11は実施例2の変形例に係るFBARを例示する断面図である。図1(a)及び図1(b)において既述した構成については、説明を省略する。図11に示すように、FBAR110は付加膜30を備える。付加膜30は、上部電極16上に設けられている。付加膜30は例えばSiO2、窒化シリコン(SiN)等の絶縁体から形成されてもよいし、金属から形成されてもよい。上部電極16の残留応力と付加膜30の残留応力とにより、圧電薄膜14の残留応力を緩和することができる。
【0067】
また、ステップS17は圧電薄膜14を加熱する工程でもよい。圧電薄膜14を例えば600℃まで加熱することで、残留応力の分布を低減することができる。FBARの製造工程における最高温度よりも高い温度まで圧電薄膜14を加熱することが好ましい。上部電極16の残留応力による分布の低減、加熱による分布の低減の両方を行ってもよい。
【0068】
圧電薄膜14の加熱は上部電極16を形成する前、形成する後のどちらでもよい。言い換えれば、ステップS16をステップS17の後に行ってもよい。図9(a)及び図9(b)に示したように、上部電極16を設けることで、分布低減が可能となる。言い換えれば、ステップS16はステップS17を含んでもよい。
【0069】
格子定数の分布が大きいとは、例えば複数箇所において測定された格子定数cの最大値と最小値との差Δcが大きいことを意味する。図8のステップS14においてΔcが、所定の値Δc0以上であるか判断する。ΔcがΔc0以上である場合、Yesと判断される。また格子定数cの標準偏差等を用いて分布の大きさを判断してもよい。
【0070】
実施例1及び実施例2それぞれに係る製造方法は、他の弾性波デバイスにも適用可能である。図12(a)から図13(b)は弾性波デバイスの別の例を例示する断面図である。図1(a)及び図1(b)において既述した構成については、説明を省略する。
【0071】
図12(a)に示すように、FBAR120の基板10には空隙32が形成されている。空隙32は、下部電極12、圧電薄膜14及び上部電極16と重なる。下部電極12は空隙32に露出している。空隙32は、例えばエッチング法等により基板10の一部を除去することで形成される。空隙32は、基板10を厚さ方向に貫通してもよい。
【0072】
図12(b)に示すように、SMR130は音響反射膜34を備える。音響反射膜34は基板10と下部電極12との間に設けられている。音響反射膜34は、音響インピーダンスが高い膜と音響インピーダンスが低い膜との積層膜である。
【0073】
図13(a)に示すように、弾性波共振子140は、圧電膜31、第1支持基板38、第2支持基板40、及び電極42を備える。第1支持基板38の下面は第2支持基板40と、例えば表面活性化接合、樹脂接合等により接合されている。第1支持基板38の上面には圧電膜31が設けられている。第1支持基板38には、第1支持基板38を厚さ方向に貫通する孔部が形成されている。孔部は圧電膜31と第2支持基板40との間の空隙44として機能する。圧電膜31の上面の空隙44と重なる領域には電極42が設けられている。圧電膜31は例えばAlN等のように、ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電体からなる。弾性波共振子140はラム波を利用する共振子である。
【0074】
図13(b)に示すように、FBAR150は温度補償膜19を備える。温度補償膜19は圧電薄膜14に挿入され、圧電薄膜14と接触している。温度補償膜19の弾性定数の温度係数の符号は、圧電薄膜14の弾性定数の温度係数の符号と反対である。従って、FBAR150の温度特性が安定する。なお、図12(a)から図13(a)に示した弾性波デバイスが温度補償膜19を備えてもよい。実施例1又は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法により、図12(a)から図13(b)に示したような弾性波デバイスを製造することができる。実施例1又は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法は、共振子を備えるフィルタ及びデュプレクサ、並びにフィルタ及びデュプレクサ等を含むモジュール等の弾性波デバイスの製造方法にも適用可能である。
【0075】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 基板
12 下部電極
14 圧電薄膜
16 上部電極
17 共振領域
18、32、44 空隙
19 温度補償膜
31 圧電膜
100、110、120、150 FBAR
130 SMR
140 弾性波共振子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電膜を成膜する工程と、
前記圧電膜の格子定数を測定する工程と、
前記格子定数に基づいて、前記圧電膜を成膜する工程における前記圧電膜の成膜条件を変更する工程と、を有することを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数を測定する工程であり、
前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程であることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数及びa軸方向の格子定数を測定する工程であり、
前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数とa軸方向の格子定数との比が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数の比が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程であることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記圧電膜の面内における前記圧電膜の格子定数の分布を測定する工程と、
前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布を低減する工程と、を有することを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記格子定数の分布を低減する工程は、前記成膜条件を変更する工程の後に行われることを特徴とする請求項4記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記格子定数を測定する工程と、前記格子定数の分布を測定する工程とは、同時に行われることを特徴とする請求項4又は5記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記圧電膜を成膜する工程は、前記弾性波デバイスの基板上又は下部電極上に圧電膜を成膜する工程であり、
前記格子定数を測定する工程は、前記基板上又は前記下部電極上に成膜された圧電膜の格子定数を測定する工程であることを特徴とする請求項1から6いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記圧電膜を成膜する工程は、温度補償膜が挿入された圧電膜を成膜する工程であり、
前記格子定数を測定する工程は、前記度補償膜が挿入された圧電膜の格子定数を測定する工程であることを特徴とする請求項1から7いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項1】
ウルツ鉱型結晶構造を有する圧電膜を成膜する工程と、
前記圧電膜の格子定数を測定する工程と、
前記格子定数に基づいて、前記圧電膜を成膜する工程における前記圧電膜の成膜条件を変更する工程と、を有することを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数を測定する工程であり、
前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程であることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記格子定数を測定する工程はc軸方向の格子定数及びa軸方向の格子定数を測定する工程であり、
前記成膜条件を変更する工程は、前記c軸方向の格子定数とa軸方向の格子定数との比が所定の値以上である場合に行われ、かつ前記格子定数の比が前記所定の値より小さくなるように前記成膜条件を変更する工程であることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記圧電膜の面内における前記圧電膜の格子定数の分布を測定する工程と、
前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布が所定の大きさ以上である場合、前記圧電膜の面内における前記格子定数の分布を低減する工程と、を有することを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記格子定数の分布を低減する工程は、前記成膜条件を変更する工程の後に行われることを特徴とする請求項4記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記格子定数を測定する工程と、前記格子定数の分布を測定する工程とは、同時に行われることを特徴とする請求項4又は5記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記圧電膜を成膜する工程は、前記弾性波デバイスの基板上又は下部電極上に圧電膜を成膜する工程であり、
前記格子定数を測定する工程は、前記基板上又は前記下部電極上に成膜された圧電膜の格子定数を測定する工程であることを特徴とする請求項1から6いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記圧電膜を成膜する工程は、温度補償膜が挿入された圧電膜を成膜する工程であり、
前記格子定数を測定する工程は、前記度補償膜が挿入された圧電膜の格子定数を測定する工程であることを特徴とする請求項1から7いずれか一項記載の弾性波デバイスの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−46110(P2013−46110A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180818(P2011−180818)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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