説明

弾性波フィルタ装置

【課題】通過帯域が異なる第1,第2の弾性波フィルタが並列接続されている弾性波フィルタ装置において、通過帯域が低い側の弾性波フィルタの通過帯域内における挿入損失の劣化が生じ難い弾性波フィルタ装置を得る。
【解決手段】中心周波数が相対的に高い第1の弾性波フィルタ11と、中心周波数が相対的に低い第2の弾性波フィルタ12の入力端及び出力端の内少なくとも一方同士が共通接続されており、第1の弾性波フィルタ11が、5個のIDT電極21a〜21cを備えた5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタである、弾性波フィルタ装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば帯域フィルタとして用いられる弾性波フィルタ装置に関し、より詳細には、複数の縦結合共振子型の弾性波フィルタが、入力端及び出力端の内少なくとも一方において共通接続されている構造を備えた弾性波フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機の帯域フィルタなどにおいて、通過帯域が異なる複数の弾性表面波フィルタを備えた弾性表面波フィルタ装置が用いられている。例えば、下記の特許文献1には、図14に示す弾性表面波フィルタ装置が開示されている。
【0003】
弾性表面波フィルタ装置1001では、不平衡端子1002と第1,第2の平衡端子1003,1004との間に第1,第2のバランス型弾性表面波フィルタ1005,1006とが接続されている。すなわち、不平衡端子1002に、第1,第2の弾性表面波フィルタ1005,1006の各一端が共通接続されている。弾性表面波フィルタ1005,1006は、いずれも平衡−不平衡変換機能を有する。弾性表面波フィルタ1005が、第1,第2の平衡端子1003,1004に接続されており、第2の弾性表面波フィルタ1006も、第1,第2の平衡端子1003,1004に接続されている。ここでは、インピーダンスマッチングを図るために、第1,第2の平衡端子1003,1004間にインピーダンスマッチッグ用インダクタンス1007が接続されている。
【特許文献1】特開2002−208832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性表面波フィルタ装置では、中心周波数が高い側の第1の弾性表面波フィルタにおける、第2の弾性表面波フィルタの通過帯域でのインピーダンスが、並列接続されている第1,第2の平衡端子間での反射特性により低くなる。そのため、中心周波数が低い側のフィルタである第2の弾性波フィルタが駆動されている場合、第2の弾性表面波フィルタの通過帯域内の周波数の信号が、第1の弾性表面波フィルタ側に漏洩することがあった。その結果、第2の弾性表面波フィルタの通過帯域内における挿入損失が劣化するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、通過帯域が異なる第1,第2の弾性波フィルタが入力端及び出力端の少なくとも一方において共通接続されている弾性波フィルタ装置において、中心周波数が高い側の弾性波フィルタにおける中心周波数が低い側の弾性波フィルタの通過帯域でのインピーダンスが高く、従って、中心周波数が低い側の弾性波フィルタにおける通過帯域内の挿入損失の劣化が生じ難い、弾性波フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、弾性波を用いた縦結合共振子型の弾性波フィルタ装置であって、入力端と出力端とを有する縦結合共振子型の第1の弾性波フィルタと、入力端と出力端とを有し、第1の弾性波フィルタよりも中心周波数が低い縦結合共振子型の第2の弾性波フィルタとを備え、前記第1,第2の弾性波フィルタの入力端及び出力端の少なくとも一方が共通接続されており、前記第1の弾性波フィルタが、5個のIDT電極を備えた5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタであることを特徴とする、弾性波フィルタ装置が提供される。
【0007】
本発明の弾性波フィルタ装置のある特定の局面では、前記第1,第2の弾性波フィルタが、平衡−不平衡変換機能を有する、バランス型弾性波フィルタである。この場合には、平衡−不平衡変換機能が弾性波フィルタ装置において実現されるので、バランを省略することができる。
【0008】
また、本発明の弾性波フィルタ装置の他の特定の局面では、圧電基板をさらに備え、該圧電基板上に、前記第1,第2の弾性波フィルタが構成されている。この場合には、同一圧電基板を用いて、第1,第2の弾性波フィルタが構成されているため、弾性波フィルタ装置の小型化を図ることができる。同様に、パッケージ部材内に、第1,第2の弾性波フィルタが収納されている場合にも、1つのパッケージ部材内に第1,第2の弾性波フィルタが収納されるので、弾性波フィルタ装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弾性波フィルタ装置では、中心周波数が高い側の第1の弾性波フィルタが5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタであるため、第1の弾性波フィルタにおける第2の弾性波フィルタの通過帯域におけるインピーダンスが高められる。そのため、第2の弾性波フィルタから第1の弾性波フィルタ側に、第2の弾性波フィルタの通過帯域の信号が漏洩し難いので、第2の弾性波フィルタにおける通過帯域内の挿入損失の劣化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性波フィルタ装置のブロック図である。弾性波フィルタ装置1は、縦結合共振子型の第1の弾性波フィルタ11と縦結合共振子型の第2の弾性波フィルタ12とを有する。第1の弾性波フィルタ11の通過帯域の中心周波数は、第2の弾性波フィルタ12の通過帯域の中心周波数よりも高くされている。本実施形態の弾性波フィルタ装置1は、UMTS方式の携帯電話機の2つの受信フィルタとして用いられる。従って、第1の弾性波フィルタ11の中心周波数は2140MHzであり、第2の弾性波フィルタ12の中心周波数は1960MHzである。
【0012】
第1の弾性波フィルタ11は平衡−不平衡変換機能を有し、入力端が第1の不平衡端子2であり、出力端が第1,第2の平衡端子3,4である。
【0013】
他方、第2の弾性波フィルタ12も、平衡−不平衡変換機能を有する。第2の弾性波フィルタ12の入力端は第2の不平衡端子5に接続されており、出力端が、第1,第2の平衡端子3,4に接続されている。
【0014】
ここでは、第1の弾性波フィルタ11の第1,第2の平衡出力端に接続されている信号線6,8が、それぞれ、第2の弾性波フィルタ12の一対の平衡出力端に接続されている信号線7,9と共通接続されている。信号線6と信号線7とが共通接続され、第1の平衡端子3に接続されており、信号線8と信号線9とが共通接続され、第2の平衡端子4に接続されている。
【0015】
なお、第1,第2の平衡端子3,4間に、インピーダンスマッチングを図るためにインダクタンスが接続されていてもよい。
【0016】
上記弾性波フィルタ装置1は、具体的には、図1(b)に模式的正面断面図で示す弾性境界波フィルタ装置である。図1(b)に示すように、圧電基板13上に、電極14が形成されている。電極14は、弾性波フィルタ11,12を形成するための電極であり、後述するように、複数のIDT電極を含む。
【0017】
電極14は、電極パッド14a,14bを有する。電極パッド14a,14bは、IDT電極の後に電気的に接続されている。
【0018】
圧電基板13上には、誘電体層15が積層されている。電極14は、圧電基板13と誘電体層15との界面に形成されている。圧電基板13は、LiNbOからなるが、LiTaOや水晶などの他の圧電単結晶により圧電基板13が構成されていてもよい。
【0019】
誘電体層15は、SiOからなるが、SiNなどの適宜の誘電体材料により形成され得る。
【0020】
電極14は、適宜の金属により形成される。このような金属としては、特に限定されないが、Ag、Pt、Au、W、Cu、Al、Ti、NiCrなどからなる群から選択した少なくとも1種の金属または合金が好適に用いられる。
【0021】
上記電極14の内のIDT電極が励振されることにより、圧電基板13と誘電体層15との界面を伝搬する弾性境界波が励振される。
【0022】
誘電体層15には、貫通孔15a,15bが形成されている。貫通孔15a,15bに、電極パッド14a,14bが露出されている。この貫通孔15a,15bに、接続導電膜16a,16bが形成されている。接続導電膜16a,16bは、電極パッド14a,14bに電気的に接続されている。接続導電膜16a,16bは、誘電体層15の上面に至っている。接続導電膜16a,16bの誘電体層15の上面に至っている部分において、端子電極17,18が電気的に接続されている。
【0023】
図2(a)は、第1の弾性波フィルタ11の電極構造を示す模式的平面図であり、図2(b)は第2の弾性波フィルタ12の電極構造を模式的に示す平面図である。
【0024】
図2(a)に示すように、第1の弾性波フィルタ11は、第1の不平衡端子2に一端が接続された1ポート型弾性境界波共振子20を有する。1ポート型弾性境界波共振子20の他端には、第1,第2の弾性波フィルタ部21,22が接続されている。第1,第2の弾性波フィルタ部21,22は、いずれも5個のIDT電極を有する5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタである。
【0025】
第1,第2の弾性波フィルタ部21,22の各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子20を介して第1の不平衡端子2に接続されている。より具体的には、第1〜第5のIDT21a〜21eが境界波伝搬方向において順に配置されている。また、反射器21f,21gが備えられている。第1,第3,第5のIDT21a,21c,21eの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子20に接続されている。IDT21a,21c,21eの他端はアース電位に接続されている。
【0026】
第2,第4のIDT21b,21dの各一端はアース電位に接続されており、各他端が共通接続されて、第1の平衡端子3に接続されている。
【0027】
IDT21a〜21eが設けられている領域の境界波伝搬方向両側には、反射器21f,21gが配置されている。第2の弾性波フィルタ部22も同様の構成を有し、第1〜第5のIDT22a〜22eと反射器22f,22gとを有する。
【0028】
第2の弾性波フィルタ部22では、第1,第3,第5のIDT22a,22c,22eの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子20を介して第1の不平衡端子2に接続されている。第1,第3,第5のIDT22a,22c,22eの他端はアース電位に接続されている。第2,第4のIDT22b,22dの各一端がアース電位に接続されており、各他端が共通接続され、第2の平衡端子4に接続されている。
【0029】
第1の不平衡端子2を入力端としたとき、第1,第2の平衡端子3,4から出力が取り出される。第1の平衡端子3から取り出される出力信号の位相に対して、第2の平衡端子4から取り出される出力信号の位相が180°異なるように、第1〜第5のIDT21a〜21e及び第1〜第5のIDT22a〜22eの極性が選択されている。より具体的には、第2,第4のIDT21b,21dが、第2,第4のIDT22b,22dに対して反転されている。従って、第1の弾性波フィルタ11は、平衡−不平衡変換機能を有する。
【0030】
図2(b)に示す第2の弾性波フィルタ12もまた、平衡−不平衡変換機能を有する。すなわち、第2の不平衡端子に、1ポート型弾性境界波共振子30を介して、第1,第2の弾性波フィルタ部31,32が接続されている。第1,第2の弾性波フィルタ部31,32は、3個のIDTを有する3IDT型の縦結合共振子型の弾性境界波フィルタである。
【0031】
第1の弾性波フィルタ部31では、境界波伝搬方向に沿って第1〜第3のIDT31a〜31cが配置されている。IDT31a〜31cが設けられている領域の境界波伝搬方向両側に、反射器31d,31eが配置されている。同様に、第2の弾性波フィルタ部32もまた、第1〜第3のIDT32a〜32cと、反射器32d,32eとを有する。ここでは、IDT32bの極性が、IDT31bの極性と反転されている。
【0032】
第2のIDT31b及び第2のIDT32bの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子30を介して第2の不平衡端子5に接続されている。IDT31b,32bの他端はアース電位に接続されている。
【0033】
第1,第3のIDT31a,31cの一端がアース電位に接続され、各他端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子33を介して第1の平衡端子3に接続されている。
【0034】
第2の弾性波フィルタ部32においても同様に、第1,第3のIDT32a,32cの一端がアース電位に接続されており、他端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子34を介して第2の平衡端子4に接続されている。
【0035】
本実施形態の弾性波フィルタ装置1の特徴は、中心周波数が相対的に高い第1の弾性波フィルタ11において、第1,第2の弾性波フィルタ部21,22が、いずれも5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタにより構成されていることにある。それによって、第2の弾性波フィルタ12が動作している際に、通過帯域内の周波数の信号が、第1の弾性波フィルタ側に漏洩し難い。従って、第2の弾性波フィルタ12の通過帯域内における挿入損失の劣化を抑制することができる。これを、具体的な実験例に基づき説明する。
【0036】
図3は、第1の弾性波フィルタ11の減衰量周波数特性を示し、実線は上記実施形態の弾性波フィルタ装置1において、第2の弾性波フィルタ12と並列接続した後の減衰量周波数特性を示し、破線は並列接続しない場合、すなわち第1の弾性波フィルタ11単独の減衰量周波数特性を示す。
【0037】
図4は、第2の弾性波フィルタ12の減衰量周波数特性を示す。図4において、実線は、図3の場合と同様に、並列接続後の上記実施形態における第2の弾性波フィルタ12の減衰量周波数特性を示し、破線は並列接続しない場合、すなわち第2の弾性波フィルタ12単独の減衰量周波数特性を示す。
【0038】
図3及び図4の減衰量周波数特性は、第1,第2の弾性波フィルタ11,12の仕様を以下のように設定した場合の結果である。
【0039】
(1)第1の弾性波フィルタ11
電極指の対数:第1〜第5のIDTの順に、13.5/9/7.5/9/13.5
電極指交叉幅=35λ(λはIDTの電極指の周期による定まる波長)
デューティ=0.40
1ポート型弾性境界波共振子の構成
電極指の対数=50
電極指交叉幅=46λ
デューティ=0.40
【0040】
(2)第2の弾性波フィルタ12
第1〜第3のIDTの電極指の対数=第1〜第3のIDTの順に9/16/9
電極指交叉幅=59λ
デューティ=0.40
入力側1ポート型弾性境界波共振子
電極指の対数=100
電極指交叉幅=53λ
デューティ=0.40
出力側1ポート型弾性境界波共振子
電極指の対数=105
電極指交叉幅=52λ
デューティ=0.40
【0041】
第1の弾性波フィルタ11では、電極材料は、圧電基板側からTi/Pt/Au/Pt/Ti/NiCrをこの順序で積層した積層金属膜とした。各層の厚みは、順に、0.7λ/0.7λ/5.0λ/0.7λ/0.7λ/0.7λとした。また、第2の弾性波フィルタ12では、電極材料は、圧電基板側からTi/Pt/Au/Pt/Ti/NiCrの順にこれらを積層した積層金属膜とした。各層の厚みは、同じ順序で0.6λ/0.6λ/5.3λ/0.6λ/0.6λ/0.6λとした。
【0042】
なお、電極材料は、上記積層金属膜に限らず、Pt、Au、Pd、Ag、Cu、W、Rh、Tiなどの金属またはこれを主成分とする合金からなる材料を適宜用いることができる。
【0043】
また、これらの金属を主たる電極層として含む積層金属膜であってもよい。他の電極層とは、単一の電極層からなる。電極の場合には、該電極層であり、複数の電極層を積層した構造では、同じ金属材料からなる電極層の厚みの合計がもっとも大きい場合、該もっとも合計の厚みが厚い電極層を主たる電極層とする。
【0044】
図3から明らかなように、中心周波数が相対的に高い第1の弾性波フィルタ11では、並列接続前の通過特性と、並列接続された後のフィルタ特性とがほとんど変わらないことがわかる。
【0045】
また、図4から明らかなように、第2の弾性波フィルタ12においても、並列接続前のフィルタ特性に対し、並列接続後のフィルタ特性では、挿入損失の劣化は非常に小さいことがわかる。このように、本実施形態では、中心周波数が低い第2の弾性波フィルタ12側においても、通過帯域内における挿入損失の劣化が非常に少ないのは、第1の弾性波フィルタ11が5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタであることによる。
【0046】
すなわち、第1の弾性波フィルタにおける、第2の弾性波フィルタ12の中心周波数である1960MHzにおけるインピーダンスが高められ、それによって、第2の弾性波フィルタ12が動作している場合に、通過帯域内の周波数の信号が、第1の弾性波フィルタ11側に漏洩し難くなり、それによって、第2の弾性波フィルタ12の通過帯域内における挿入損失の劣化が抑制されていることによる。
【0047】
なお、本実施形態では、第2の弾性波フィルタ12の第1,第2の弾性波フィルタ部31,32は3IDT型の縦結合共振子型の弾性波フィルタである。この場合、第2の弾性波フィルタ12は5IDT型の弾性波フィルタであってもよい。すなわち、第1の弾性波フィルタ11のIDTの数は第2の弾性波フィルタ12におけるIDTの数に対して相対的なものではない。また、5IDT型であることより、必ずしもインピーダンスが高くなると予想されるものではない。すなわち、縦結合共振子型弾性波フィルタにおけるインピーダンスと電極指の対数とは関係があるものの、インピーダンスとIDTの数とは直接関係するものではない。
【0048】
図5は、上記実施形態の弾性波フィルタにおいて、第1の弾性波フィルタにおけるIDTの電極指の本数を変化させた場合の第2の弾性波フィルタの挿入損失の変化を示す図である。ここでは、IDTの電極指の本数が13本である場合と37本である場合との結果が示されており、実線が13本の場合の結果を、破線が37本の場合の結果を示す。また、図5では示されていないが、電極指の本数を17本、21本、25本、29本、33本とした弾性波フィルタ装置においても、同様に減衰量周波数特性を測定した。その結果、IDTの電極指の本数が多くなるにつれて、図5の実線から破線で向かう方向に通過帯域のフィルタ特性が変化した。すなわち、IDTの電極指の本数が多くなると、通過帯域内において、挿入損失が若干劣化することがわかる。そして、本願発明者の実験によれば、IDTの電極指の本数を33本以下とすれば、通過帯域内における挿入損失を十分に小さくし得ることが確かめられた。
【0049】
次に、上記のように、5IDT型の縦結合共振子型弾性境界波フィルタを第1の弾性波フィルタ11に用いることにより、第2の弾性波フィルタの通過帯域おいて挿入損失が劣化し難いこと、図6〜図9を参照してより詳細に説明する。
【0050】
図6は、図1に示したブロック図の第1の弾性波フィルタ11における出力側のインピーダンス特性を示すインピーダンススミスチャートを示す図である。このインピーダンススミスチャートにおいて、Xで示す位置が、第2の弾性波フィルタの中心周波数の位置である。
【0051】
他方、図7は、第2の弾性波フィルタの出力側におけるインピーダンス特性を示すインピーダンススミスチャートを示す図である。図7のXの点は、第1の弾性波フィルタの中心周波数におけるインピーダンスを示す。
【0052】
図6において、相手方である第2の弾性波フィルタの中心周波数におけるインピーダンスは短絡状態に近いところにあることがわかる。すなわち、第2の弾性波フィルタ12が動作している場合、第1の弾性波フィルタ11側に電流が流れ、その結果、第2の弾性波フィルタ12の挿入損失が大きくなる。
【0053】
他方、図7において、相手方である第1の弾性波フィルタ11の中心周波数におけるインピーダンスはオープンに近いところにあることがわかる。すなわち、第1の弾性波フィルタ11が動作している場合には、第2の弾性波フィルタ12側には電流は流れず、第1の弾性波フィルタ11の挿入損失は悪くならない。すなわち、第2の弾性波フィルタから第1の弾性波フィルタをみたときに、インピーダンスはオープンに近い状態にあることがわかる。
【0054】
図8は、第1の弾性波フィルタの出力側のインピーダンス特性を示すインピーダンススミスチャートであり、ここで、実線は上記実施形態のように5IDT型の弾性波フィルタの場合であり、破線は比較のために用意した3IDT型の弾性波フィルタの場合のインピーダンス特性を示す。
【0055】
また、インピーダンス特性上のXは、それぞれ、1960MHz、すなわち、第2のバンドパスフィルタの中心周波数の位置を示す。図8から明らかなように、3IDT型の弾性波フィルタの場合には、インピーダンススミスチャートにおけるインピーダンス特性がいわゆる横巻きであるのに対し、5IDT型の構成では、IDTの電極指の対数を少なくすることにより、インピーダンス特性を縦巻きにすることができることがわかる。
【0056】
また、第1のバンドパスフィルタの第2のバンドパスフィルタの通過帯域におけるインピーダンスを高め得ることがわかる。
【0057】
なお、図9は、第1の弾性波フィルタにおけるIDTの電極指の本数と、第2の弾性波フィルタにおける通過帯域内挿入損失劣化量との関係を示す図である。図9から明らかなように、IDTの電極指の本数が多くなるにつれて、第2の弾性波フィルタにおける挿入損失が悪化することがわかる。これは、前述した図5の結果に対応している。よって、IDTの電極指の本数を少なくすることが望ましく、具体的は、33本以下とすれば、上記挿入損失の劣化量を、要求特性である0.3dB以下とし得ることがわかる。
【0058】
上記実施形態では、第1,第2の弾性波フィルタ11,12は、図2(a),(b)に示した電極構造を有していたが、第1の弾性波フィルタ11の電極構造は、適宜変形することができる。図10〜図12は、第1の弾性波フィルタの電極構造の第1〜第3の変形例を示す各模式的平面図である。
【0059】
なお、第2の弾性波フィルタ12において、図10〜図12に示すような電極構造を用いてもよい。
【0060】
図10に示す弾性波フィルタ101では、不平衡端子102と、第1,第2の平衡端子103,104との間に図示の電極構造が形成されている。
【0061】
すなわち、不平衡端子102に、1ポート型弾性境界波共振子106を介して、5IDT型の縦結合共振子型の第1,第2の弾性波フィルタ部107,108が接続されている。ここでは、第1の弾性波フィルタ部107の第1〜第5のIDT107a〜107eのうち、第2,第4のIDT107b,107dの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子106を介して不平衡端子102に接続されている。第2,第4のIDT107b,107dの各他端はアース電位に接続されている。他方、第1,第3,第5のIDT107a,107c,107eの各一端がアース電位に接続されており、各他端が共通接続され、第1の平衡端子103に接続されている。
【0062】
第2の弾性波フィルタ部108もまた、同様に第1〜第5のIDT108a〜108eを有する。そして、第2,第4のIDT108b,108dの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子106を介して不平衡端子102に接続されており、各他端がアース電位に接続されている。
【0063】
第1,第3,第5のIDT108a,108c,108eの各一端はアース電位に接続され、各他端が共通接続され、第2の平衡端子104に接続されている。
【0064】
第1の弾性波フィルタ部107から第1の平衡端子103に伝送される信号の位相に対し、第2の弾性波フィルタ部108から第2の平衡端子104に伝送される信号の位相が180°異なるように、第1〜第5のIDT107a〜107c,108a〜108cが形成されている。
【0065】
図11に示す弾性波フィルタ111では、不平衡端子102に、1ポート型弾性境界波共振子106を介して、1つの5IDT型の縦結合共振子型の弾性波フィルタ部112が接続されている。ここでは、第1,第3,第5のIDT112a,112c,112eの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子106を介して不平衡端子102に接続されており、各他端がそれぞれアース電位に接続されている。
【0066】
第2,第4のIDT112b,112dの各一端はアース電位に接続されており、IDT112bの他端が第1の平衡端子103に接続されており、第4のIDT112dの他端が第2の平衡端子104に接続されている。ここでは、IDT112bとIDT112dの位相が反転されて、第1,第2の平衡端子103,104から、位相が180°異なる信号が取り出される。
【0067】
図12に示す弾性波フィルタ121では、不平衡端子102に、1ポート型弾性境界波共振子106を介して、5IDT型の縦結合共振子型の弾性波フィルタ部122が接続されている。もっとも、中央の第3のIDT122cは、境界波伝搬方向に2分割することにより設けられた第1,第2の分割IDT部123,124を有する。そして、第1のIDT122a及び第3のIDT122cの第1の分割IDT部123が共通接続され、第1の平衡端子103に接続されている。また、第2の分割IDT部124と、第5のIDT122eとが共通接続され、第2の平衡端子104に接続されている。IDT122a,122c,122eの各他端はアース電位に接続されている。また、第2,第4のIDT122b,122dの各一端が共通接続され、1ポート型弾性境界波共振子106を介して不平衡端子102に電気的に接続されている。IDT122b,122dの各他端はアース電位に接続されている。
【0068】
また、本発明においては、第1,第2の弾性波フィルタは平衡−不平衡変換機能を有するものである必要は必ずしもない。すなわち、第1,第2の弾性波フィルタ11,12は、それぞれ、入力端と出力端を有する弾性波フィルタであってもよく、その場合においても、入力端及び出力端の内、少なくとも一方同士が共通接続されている構成であれば、本発明に従って、中心周波数が相対的に高い第1の弾性波フィルタを5IDT型の構成とすることにより、第2の弾性波フィルタの挿入損失の劣化を抑制することができる。
【0069】
また、上記実施形態は、弾性境界波を利用した弾性境界波につき説明したが、図13に模式的断面図で示すように、圧電基板501上にIDT電極を含む502が形成されている弾性表面波フィルタ装置に本発明を適用してもよい。
【0070】
また、本発明においては、第1,第2の弾性波フィルタを構成するための圧電基板は、同一の圧電基板でもよく、異なる圧電基板でもよい。同一の圧電基板上に第1,第2の弾性波フィルタが構成されている場合には、圧電基板の種類を減らすことができ、コストを低減することができる。また、弾性波フィルタ装置の小型化を進め得る。
【0071】
もっとも、第1,第2の弾性波フィルタ11,12が異なる圧電基板を用いて形成されている場合には、第1,第2の弾性波フィルタに適した結晶方位の圧電材料を用いて第1,第2の弾性波フィルタを構成することができる。
【0072】
また、図13に一点鎖線で示すように、パッケージ部材511がさらに備えられていてもよい。その場合には、同じパッケージ部材511内に、第1,第2の弾性波フィルタチップが収納されていることが望ましく、それによって、弾性波装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る弾性波フィルタ装置のブロック図であり、(b)はその立体的構造を説明するための模式的正面断面図である。
【図2】(a)は図1に示した実施形態で用いられている第1の弾性波フィルタの電極構造を示す平面図であり、(b)は第2の弾性波フィルタの電極構造を示す平面図である。
【図3】図1に示した実施形態において、第1の弾性波フィルタの並列接続前及び並列接続後の減衰量周波数特性を示す図である。
【図4】図1に示した実施形態において、第2の弾性波フィルタの並列接続前及び並列接続後の減衰量周波数特性を示す図である。
【図5】第2の弾性波フィルタのIDTの電極指の本数を17本から37本に変化させた場合の通過帯域におけるフィルタ特性の変化を示す図である。
【図6】第1の弾性波フィルタのインピーダンス特性を示すインピーダンススミスチャートである。
【図7】第2の弾性波フィルタのインピーダンス特性を示すインピーダンススミスチャートである。
【図8】3IDT型の第1の弾性波フィルタのインピーダンス特性を破線で、5IDT型の第1の弾性波フィルタのインピーダンス特性を実線で示すインピーダンススミスチャートである。
【図9】第1の弾性波フィルタのIDTの電極指の本数と、第2の弾性波フィルタの通過帯域における挿入損失劣化量との関係を示す図である。
【図10】本発明において第1の弾性波フィルタとして用い得る電極構造の第1の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明において第1の弾性波フィルタとして用い得る電極構造の第2の変形例を示す平面図である。
【図12】本発明において第1の弾性波フィルタとして用い得る電極構造の第3の変形例を示す平面図である。
【図13】本発明が適用される弾性波フィルタ装置を説明するための模式的断面図である。
【図14】従来の弾性表面波フィルタ装置を説明するための概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0074】
1…弾性波フィルタ装置
2…第1の不平衡端子
3…第1の平衡端子
4…第2の平衡端子
5…第2の不平衡端子
6〜9…信号線
11…第1の弾性波フィルタ
12…第2の弾性波フィルタ
13…圧電基板
14…電極
14a,14b…電極パッド
15…誘電体層
15a,15b…貫通孔
16a,16b…接続導電膜
17,18…端子電極
20…1ポート型弾性境界波共振子
21…第1の弾性波フィルタ部
21a〜21e…IDT
21f,21g…反射器
22…第2の弾性波フィルタ部
22a〜22e…IDT
22f,22g…反射器
30…1ポート型弾性境界波共振子
31…第1の弾性波フィルタ部
31a〜31c…IDT
31d,31e…反射器
32…第2の弾性波フィルタ部
32a〜32c…IDT
32d,32e…反射器
33…1ポート型弾性境界波共振子
34…1ポート型弾性境界波共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波を用いた縦結合共振子型の弾性波フィルタ装置であって、
入力端と出力端とを有する縦結合共振子型の第1の弾性波フィルタと、
入力端と出力端とを有し、第1の弾性波フィルタよりも中心周波数が低い縦結合共振子型の第2の弾性波フィルタとを備え、
前記第1,第2の弾性波フィルタの入力端及び出力端の少なくとも一方が共通接続されており、
前記第1の弾性波フィルタが、5個のIDT電極を備えた5IDT型の縦結合共振子型弾性波フィルタであることを特徴とする、弾性波フィルタ装置。
【請求項2】
前記第1,第2の弾性波フィルタが、平衡−不平衡変換機能を有する、バランス型弾性波フィルタである、請求項1に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項3】
圧電基板をさらに備え、該圧電基板上に、前記第1,第2の弾性波フィルタが構成されている、請求項1または2に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項4】
パッケージ部材をさらに備え、パッケージ部材内に、前記第1,第2の弾性波フィルタが収納されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−260463(P2009−260463A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104526(P2008−104526)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】