説明

弾性表面波アクチュエータ

【課題】弾性表面波アクチュエータにおいて、簡単な構成により、移動子の固定子との接触部の磨耗を低減すると共に剥離による破損の回避を実現して長寿命化を図る。
【解決手段】弾性表面波アクチュエータは、弾性表面波を励振する交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、交差指電極への電力供給により固定子2の表面に励振された弾性表面波による駆動力を当該表面との接触面に生じる摩擦力を介して加えられて移動する移動子3と、を備えている。移動子3の固定子2との接触面Aは、移動子3の下地材6に形成した複数の突起30の表面からなる。突起30は、移動子3の下地材6に形成した柱状突起61の表面に、その下地材6よりも高硬度の材料から成る被膜7を形成して構成され、柱状突起61の先端部は、固定子2との接触面Aの外縁近傍において、固定子2の表面Sに対して鋭角θとなる表面10を備え、被膜7の密着力の向上が図られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝搬する弾性表面波であるレイリー波を利用したリニアモータ形式の弾性表面波アクチュエータが知られている。弾性表面波アクチュエータは、通常、圧電材料からなる固定子と、固定子との複数の点接触部を有し固定子の表面に配置される移動子と、によって構成される。弾性表面波は、固定子の表面に形成される交差指電極(Interdigital transducer,IDT)に高周波電圧を印加することにより、固定子の表面に励振される。移動子は、弾性表面波から、摩擦力を介して駆動力を受けて、移動する。
【0003】
移動子は、上述の複数の点接触部における摩擦力を介して駆動力を受けるので、その接触部の磨耗は弾性表面波アクチュエータの寿命に影響する。点接触部は、通常、複数の柱状突起で形成されている。そこで、その点接触部の表面に、下地材よりも高硬度の材料による膜を形成し、接触部のアブレッシブ摩耗の低減や吸着現象の解消を図り、移動子の耐久性の向上を図るものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−235275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に示されるような弾性表面波アクチュエータにおいては、移動子の点接触部の磨耗を防ぐことはできるものの、膜が剥離することによる点接触部の破壊防止については、従来、何ら開示されていない。
【0005】
ここで、図10(a)(b)を参照して、移動子の点接触部における膜剥離について説明する。移動子3における固定子2の表面との点接触部は、図10(a)に示すように、移動子3の下地材6に形成された柱状突起90の表面を覆う被膜7を備えている。被膜7は、下地材6よりも高硬度の材料によって形成されている。被膜7の表面(接触面A)は、固定子2の表面Sに接触している。固定子2の表面Sが波面状に変形して弾性表面波の励振に伴う速度Uの運動を行うと、接触面Aと表面Sとの間の摩擦力に伴う作用F1と反作用F2が発生する。移動子3は、被膜7において駆動力(反作用F2)を受けて速度Vの運動を行う。
【0006】
ところで、被膜7は、通常、イオンプレーティング法やスパッタ法などによって成膜される。このような成膜方法によると、柱状突起90の角部の被膜9aや側壁部の被膜9bなどは、下地材6との密着力が他の部分よりも弱くなったり、その膜厚が他の部分よりも薄くなったりする。このような被膜7を備えた移動子3が反作用F2によって駆動されると、図10(b)に示すように、被膜7が剥離する事態が起こる可能性がある。なお、このような剥離は、移動子3の移動速度Vと固定子2の表面の速度Uとのずれに伴うせん断力によって発生する。
【0007】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、移動子の固定子との接触部の磨耗を低減すると共に剥離による破損の回避を実現して寿命をより長くできる弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、前記交差指電極への電力供給により前記圧電基板の表面に励振された弾性表面波による駆動力を当該表面との接触面に生じる摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の前記固定子との接触面が、該移動子の下地材に形成した複数の柱状突起の表面にその下地材よりも高硬度の材料によって形成した被膜から成り、前記下地材の柱状突起の先端部が、前記固定子との接触面の外縁近傍において、前記固定子の表面に対して鋭角となる面を備えて形成されているものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記下地材に形成した柱状突起の表面が、前記被膜の形成前に当該被膜の密着力を向上させるように荒らされているものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記被膜は、その材料組成が前記柱状突起の表面から前記被膜の表面に向かって下地材組成から連続的に変化するように形成されているものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記被膜が多層膜構造とされており、各層の膜は互いに積層される下地材または上層の膜との間で互いに密着性の良い材料により形成されているものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、下地材の柱状突起の先端部が、固定子との接触面の外縁近傍において、固定子の表面に対して鋭角となる面を備えているので、このような柱状突起の先端部にイオンプレーティング法やスパッタ法などによって形成した被膜は、下地との密着性の優れた膜とすることができ、また、より均一な膜厚とすることができる。従って、このような弾性表面波アクチュエータは、簡単な構成により、移動子の固定子との接触部の被膜の剥離やせん断による破損を回避でき、長寿命のものとなる。
【0013】
請求項2の発明によれば、下地材と被膜との密着力をより効果的に向上でき、被膜剥離による破損を防ぐことができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、被膜の材料組成が下地材の表面から最外表面に向かって連続的に変化する、いわゆる傾斜組成となっているので、下地材と最外膜とを一体化できると共に、より高硬度の被膜を接触部に設けることができ、剥離と磨耗に強い信頼性の高い接触部を有する移動子が得られる。従って、このような移動子を備えた弾性表面波アクチュエータは、長寿命のものとなる。
【0015】
請求項4の発明によれば、被膜が互いに密着力の高い多層膜構造であるので、傾斜組成の被膜と同様に、剥離と磨耗に強い信頼性の高い接触部を有する移動子が得られる。従って、このような移動子を備えた弾性表面波アクチュエータは、長寿命のものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて、図面を参照して説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1(a)(b)は第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの外観および断面を示し、図2(a)は移動子と固定子の接触部分の拡大断面を示し、図2(b)は移動子の裏面の一部を示し、図3は移動子の柱状突起部分の拡大断面を示す。
【0018】
弾性表面波アクチュエータ1は、図1(a)(b)に示すように、弾性表面波Wを励振するための交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、高周波電源Eからの交差指電極4への電力供給により圧電基板(固定子2)の表面に励振された弾性表面波Wによる駆動力を当該表面との接触面に生じる摩擦力を介して加えられて移動する移動子3と、を備えている。
【0019】
また、移動子3の固定子2との接触面Aは、図2(a)(b)、図3に示すように、移動子3の下地材6に形成した複数の突起30の表面からなり、その突起30は、移動子3の下地材6に形成した柱状突起61の表面に、その下地材6よりも高硬度の材料から成る被膜7を形成して構成されている。突起30は、移動子3の裏面に、一様に分布するように配置されている。そして、下地材6の柱状突起61の先端部は、固定子2との接触面Aの外縁近傍において、固定子2の表面Sに対して鋭角θとなる表面10を備えて形成されている。以下、詳細を述べる。
【0020】
固定子2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)のように圧電体そのものであったり、シリコン基板などの上に圧電材であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜を形成したものでもよい。また、これら以外の圧電材料を用いることもできる。固定子2の表面形状は、平面とは限らず円柱面やその他の曲面でもよい。圧電体のこのような平面や曲面の表面、または、このような面上に形成された圧電体の膜の表面に、弾性表面波Wが励振される。
【0021】
交差指電極4は、複数の櫛歯状の電極を、互いに異極となる櫛歯が交互に入り込むように対向させて、固定子2の表面に形成されている。交差指電極4の電極ピッチの2倍(図中λ)は、励振される弾性表面波Wの波長に一致する。
【0022】
移動子3は、固定子2における表面波発生領域に、固定子2と接触させて設けられている。移動子3は、固定子2に対して、相対的に移動する。通常、固定子2が固定され、移動子3が移動する。しかしながら、弾性表面波アクチュエータ1において、どちらが移動するかということは、相対的なものであり、移動子3が固定され、固定子2が移動する場合もある。
【0023】
移動子3は、例えば、シリコンで形成される。移動子3における固定子2との接触面には、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達するための複数の突起30が設けられている。このような突起30は、移動子3がシリコンで形成される場合、シリコンのエッチング工法で製作される。なお、移動子3の材料は、シリコンでなくても硬い材料であればよい。
【0024】
移動子3は、予圧手段31によって予圧Fが加えられて、固定子2に圧接される。移動子3は、この予圧Fに基づく摩擦力によって駆動されて、固定子2上を移動する。固定子2の表面の弾性表面波Wは、予圧Fに逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって励振される必要がある。
【0025】
弾性表面波アクチュエータ1において、弾性表面波Wが励振され、移動子3に予圧Fが加えられた状態で、移動子3は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆の、方向a2に向かって移動する。このような方向関係は、弾性表面波Wが、後方楕円運動を行っていることに基づく。
【0026】
弾性表面波Wの振幅は、交差指電極4に印加する高周波電源Eによる印加電圧が大きいほど大きく、弾性表面波Wの波束の長さは、印加電圧の印加時間できまる。従って、移動子3の移動速度は、印加電圧の大きさできまり、その位置や移動距離は、印加電圧の大きさと印加時間の長さとで決まる。
【0027】
移動子3の裏面の突起30は、図3に示すように、下地材6の柱状突起61とその表面の被膜7からなっている。柱状突起61は、先端の形状が、先端に行くにしたがって細くなっている。柱状突起61の形状は、直径がφ1〜50μm、高さが0.5〜2μmである。この形状や寸法は、例示であり、ここに示したものに限るものではない。
【0028】
また、移動子3の下地材6の柱状突起61の先端部の側壁形状が、接触面Aの外縁近傍において、固定子2の表面Sに対して鋭角θ(すなわち、θ<90゜)となる表面10を備えて形成されている。従って、このような柱状突起61の先端部にイオンプレーティング法やスパッタ法などによって形成した被膜7は、その先端部における下地材6との密着性の優れた膜となり、また、より均一な膜厚となる。つまり、このような移動子3を備えた弾性表面波アクチュエータ1は、簡単な構成により、移動子3の固定子2との接触部の被膜7の剥離やせん断による破損を回避でき、長寿命のものとなる。
【0029】
なお、一般に、イオンプレーティング法やスパッタ法などによって下地表面に形成される被膜は、その下地表面への成膜粒子(イオン、ラジカル原子や分子など)の入射速度が小さいと、下地材との密着力が悪化する。また、これらの成膜方法における成膜粒子は、その粒子源から異方性を有して、すなわち略一方方向に揃って、下地表面に飛来する。そこで、上述のように、柱状突起61の側壁表面の角度を鋭角θとすることによって、被膜表面への入射角度をより垂直に近づけて入射速度の低下を防ぎ、被膜7の密着力を向上できる。
【0030】
また、被膜7の密着力は、下地材の表面状態にも依存し、下地表面の微視的な粗さが粗いほど、いわゆるアンカー効果などによって、密着力が向上する。そこで、弾性表面波アクチュエータ1において、移動子3の下地材6に形成した柱状突起61の表面に粗化処理を行ってもよい。粗化処理は、スパッタ粒子による粗化や、ブラスト処理などによる粗化のように物理的に行う処理の他に、腐食性の薬品によるシャワー吹き付けなどの化学的に行う処理を用いることができる。このような弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3の下地材6と被膜7との密着力をより効果的に向上でき、被膜剥離による破損を防ぐことができるので、長寿命のものとなる。
【0031】
(交差指電極の配置と構造の変形例)
弾性表面波アクチュエータ1における、交差指電極の配置と構造の変形例を、図4(a)〜(d)を参照して説明する。
【0032】
これらの弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3を正逆両方向に移動可能とするように、移動子3の移動領域の両端に復帰機構として交差指電極4を備えている。さらに、これらの弾性表面波アクチュエータ1は、交差指電極4の移動子3側とは反対側に向かう弾性表面波を反射させてそのエネルギを有効利用するための機構(交差指電極5、追加電極43、反射部40など)を備えている。なお、交差指電極4,5などの構造や配置は、一例であって、これらの図に示されるものに限られない。
【0033】
図4(a)(b)に示す弾性表面波アクチュエータ1における交差指電極5は、隣接する駆動用の交差指電極4を一方向性の交差指電極とする反射用電極となっている。これらの電極は、多重反射によって弾性表面波を移動子3側に戻すものである。なお、このような櫛形電極ではなく、梯子型の電極としてもよい。
【0034】
また、図4(c)(d)に示す弾性表面波アクチュエータ1における駆動用の交差指電極4は、それぞれ、一方向性の交差指電極を構成するための構造が作り込まれている。図4(c)において、追加電極43は、互いに異極となる一対の個別電極の間に配置されており、フロート電位となって弾性表面波を反射する。
【0035】
また、図4(d)において、反射部40は、互いに異極となる交差指電極4の電極を所定間隔で配置し、これらの電極の各個別電極部分の一部表面と圧電基板(固定子2)の一部表面とにまたがる表面領域に、例えば、シリコン酸化物SiO膜を形成したものである。反射部40は、圧電基板の表面における弾性表面波の伝搬に影響して反射材として機能する。以上の、反射用の交差指電極5、追加電極43、反射部40などと組み合わせた交差指電極4は、一方向性の交差指電極と見做すことができる。
【0036】
(突起の構造の変形例)
移動子3の裏面における突起30の変形例を、図5(a)(b)(c)、図6(a)(b)、図7を参照して説明する。これらの図において、柱状突起61の先端部近傍の表面11〜15が、固定子2の表面S(不図示)に対して鋭角θとなるように形成されている。図5(a)(b)(c)の突起30は、上述の図3のものに比べて、先端部分をより丸みを持たせて形成したものである。
【0037】
また、図6(a)の突起30は、先端部分に凹部を形成し、その凹凸構造によりせん断力への耐性を持たせるものである。図6(b)の突起30は、柱状突起61の側壁の広い部分において鋭角θを備えると共に、突起30の先端をより点接触に近い形状とするものである。これらはいずれも、以下に説明する図7のものも含めて、下地材6と被膜7との密着力を高めて被膜剥離による破損の防止を図るものである。
【0038】
図7に示す突起30は、上述の図3に示した突起30において、突起先端周辺の角部、および柱状突起61の根本部分における角張った凹部に対して、丸みを持たせたものである。図7中、点p1,p2周辺の表面が滑らかに形成されている。このような滑らかな表面を有する凸角部や凹角部に対し、イオンプレーティング法やスパッタ法などによってその表面に形成される被膜7も滑らかとなり、滑らかな表面を有する被膜7は、滑らかでない場合よりも、より緻密で密着力の良いものとなる。
【0039】
(第2の実施形態)
図8は第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態におけるものとは、柱状突起61に形成する被膜7の形成方法が異なり、その他の点は同様である。すなわち、本実施形態において、被膜7は、その材料組成が柱状突起61の表面から被膜7の表面に向かって、下地材組成から連続的に変化するように形成されている。
【0040】
下地材6は、上述同様にシリコンが用いられる。シリコンは半導体加工技術などによって、シリコンウエハを用いて容易に形状加工を行うことができる。なお、シリコン以外の下地材6を用いることもできる。被膜7は、例えば、摩擦係数の大きいSiC膜(炭化珪素膜)を用いることができるがこの限りでない。SiC膜は、イオンプレーティング、スパッタ、プラズマCVD、エピタキシャル成長等の成膜方法を用いることができるがこの限りでない。
【0041】
ここでは、SiC膜からなる被膜7を、イオンプレーティングによって成膜する場合を説明する。イオンプレーティングでは、シリコンSiおよび炭素Cを含むガスを用いてプラズマを生成し、SiイオンとCイオンを下地材6に向けて加速し、下地材6の表面に堆積して成膜する。
【0042】
SiC膜の成膜に当たり、最初は炭素Cのガスを少なくし、成膜が進むに従って多くすれば、段階的に、Si単体の下地材6から、SiC単体の被膜7へと、膜境界の影響を小さくして、膜境界における密着力の低下を防ぐことができる。図8は、3段階の成膜を行う例を示している。この例では、下地材6側から、SiC膜71(Si:SiC=8:2)、SiC膜72(Si:SiC=4:6)、SiC膜73(Si:SiC=0:10)となるように成膜している。
【0043】
上述の被膜7は、3段階に分けた成膜例となっているが、3段階に限らず、多段階で成膜したり、連続的に組成を変化させる成膜としてもよい。このような移動子3は、その被膜7の材料組成が下地材6の表面から最外表面に向かって段階的、または連続的に変化する、いわゆる傾斜組成となっているので、下地材6と最外膜とを一体化させると共により高硬度の被膜を、固定子2との接触部に設けることができ、剥離と磨耗に強い信頼性の高い接触部を有するものとなる。従って、このような被膜7が形成された移動子3を有する弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3の下地材6と被膜7との密着力をより効果的に向上でき、被膜剥離による破損を防ぐことができるので、長寿命のものとなる。
【0044】
(第3の実施形態)
図9は第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1、第2の実施形態におけるものとは、柱状突起61に形成する被膜7の形成方法が異なり、その他の点は同様である。すなわち、本実施形態において、被膜7は、多層膜構造とされており、各層の膜(中間膜)は互いに積層される下地材6または上層の膜との間で互いに密着性の良い材料により形成されている。
【0045】
下地材6は、上述同様にシリコンが用いられ、シリコンウエハ(Siウエハ)を用いて形状加工するものとする。また、被膜7として、摩擦係数の大きいSiC膜や、より硬度の高いDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)などを用いることができるが、この限りでない。また、成膜は、イオンプレーティング、スパッタ、プラズマCVD、エピタキシャル成長等の成膜方法を用いることができるがこの限りでない。
【0046】
図9において、下地材6の上に、中間膜74を挟み、その上に、表面膜75を成膜して、中間膜74と表面膜75との2層構造によって、被膜7を形成している。被膜7の構成として、下表1に示すパターン1、およびパターン2を用いることができる
【0047】
【表1】

【0048】
パターン1の被膜7は、中間膜74として、Si膜やTiC膜を用い、表面膜75として、SiC膜を用いるものである。パターン2の被膜7は、中間膜74として、Si膜やTiC膜の他にSiC膜などを用い、表面膜75として、DLC膜を用いるものである。中間膜74は、1層とは限らず、多層とすることもできる。
【0049】
このような移動子3は、その被膜7が下地材6と密着性の良い多層膜構造であるので、剥離と磨耗に強い信頼性の高い接触部を有するものとなる。従って、このような被膜7が形成された移動子3を有する弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3の下地材6と被膜7との密着力をより効果的に向上でき、被膜剥離による破損を防ぐことができるので、長寿命のものとなる。
【0050】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、移動子3の裏面の突起30の配置は、図2(b)において、千鳥配置の例を示したが、格子状配置とすることもできる。また、突起30の突起方向に直交する断面形状は、矩形や円形などに限らず、(例えば、弾性表面波Wの進行方向に直交する方向に長い)長細形状のものや、異種形状のものの混合配列したものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの平面図、(b)は同断面図。
【図2】(a)は同上弾性表面波アクチュエータにおける移動子と固定子の接触部分の拡大断面図、(b)は同弾性表面波アクチュエータの移動子の裏面の部分拡大平面図。
【図3】同上弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図4】(a)〜(d)は同上弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す平面図。
【図5】(a)(b)(c)は同上弾性表面波アクチュエータの変形例示す移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図6】(a)(b)は同上弾性表面波アクチュエータの他の変形例示す移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図7】同上弾性表面波アクチュエータのさらに他の変形例示す移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図8】第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図9】第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面図。
【図10】(a)は従来の弾性表面波アクチュエータの移動子の柱状突起部分の拡大断面図、(b)は同柱状突起部分の問題点を説明する部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0052】
1 弾性表面波アクチュエータ
10〜16 表面(柱状突起の先端部の)
2 固定子
3 移動子
30 突起
4 交差指電極
6 下地材
61 柱状突起(下地材の)
7,71〜74 被膜
A 接触面(突起の)
S 表面(固定子の)
W 弾性表面波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、
前記交差指電極への電力供給により前記圧電基板の表面に励振された弾性表面波による駆動力を当該表面との接触面に生じる摩擦力を介して加えられて移動する移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記移動子の前記固定子との接触面が、該移動子の下地材に形成した複数の柱状突起の表面にその下地材よりも高硬度の材料によって形成した被膜から成り、前記下地材の柱状突起の先端部が、前記固定子との接触面の外縁近傍において、前記固定子の表面に対して鋭角となる面を備えて形成されていることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
前記下地材に形成した柱状突起の表面が、前記被膜の形成前に当該被膜の密着力を向上させるように荒らされていることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記被膜は、その材料組成が前記柱状突起の表面から前記被膜の表面に向かって下地材組成から連続的に変化するように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記被膜が多層膜構造とされており、各層の膜は互いに積層される下地材または上層の膜との間で互いに密着性の良い材料により形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−106042(P2009−106042A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274489(P2007−274489)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】