説明

弾性表面波デバイス

【課題】圧電基板上に少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したSAWデバイスにおいて、デバイスサイズを大型にすることなく通過特性を改善することを目的とする。
【解決手段】圧電基板1の主面上にIDT電極2、3を所定の間隔をあけて配置し、中心周波数をfo(Hz)、IDT電極2、3の交差長をW(mm)、IDT電極2、3間の距離をD(mm)とした時、0<(W/D)×fo/10≦0.6に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波デバイスにおいて圧電基板上に少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置した弾性表面波デバイスに関する。
【0002】
近年、弾性表面波(Surface Acoustic Wave:以下、SAW)フィルタは移動体通信分野で広く利用され、高性能、小型、量産性等の優れた特徴があることから特に携帯電話、無線LAN等に多く用いられている。これらの機器に用いられるIF用SAWフィルタは、小型軽量、広帯域、低損失であると共に、隣接するキャリア周波数を阻止するために、例えば通過帯域近傍において最小挿入損失を基準として50dBもの高減衰な特性が要求される場合がある。このような要求仕様を満足するIF用SAWフィルタとしては、トランスバーサルSAWフィルタが最も適している。
【0003】
図6は、特開平7−321594号公報、特開平9−270660号公報に開示されているトランスバーサルSAWフィルタの平面図である。圧電基板1上にはSAWの伝搬方向に沿ってIDT電極2、3を所定の間隔をあけて配置している。IDT電極2、3はそれぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対のくし形電極で構成され、IDT電極2の一方のくし形電極を入力端子INに接続すると共に他方のくし形電極は接地し、IDT電極3の一方のくし形電極を出力端子OUTに接続すると共に他方のくし形電極は接地する。また、基板端面からの不要な反射波を抑圧するために、圧電基板1の長辺方向(SAWの伝搬方向)の両端に吸音材5を塗布する。当該発明では、IDT電極2、3の間にシールド電極4を配置することにより、入出力端子間の電磁結合により生じる直達波を抑圧することを特徴としている。
【特許文献1】特開平7−321594号公報
【特許文献2】特開平9−270660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記トランスバーサルSAWフィルタにおいて、圧電基板には水晶基板が用いられる場合が多いが、比帯域幅が2%を超えるような中・広帯域なフィルタでは電気機械結合係数の小さい水晶基板を用いると挿入損失が劣化する問題があった。
【0005】
この問題を解決するには、電気機械結合係数が大きいタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等を用いれば挿入損失の劣化を避けることができる。しかしながら、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムは水晶基板と比較して誘電率が約10倍と大きいためIDT電極間の電磁的な結合が強まり、IDT電極の間隙にシールド電極を配置したとしても直達波の影響を完全に抑圧することは困難であった。
【0006】
図7は前記トランスバーサルSAWフィルタにおいて、圧電基板にタンタル酸リチウムを用いた時の通過特性であり、(a)に伝達応答を、(b)に時間応答を示している。なお、フィルタの中心周波数を350MHzとし、IDT電極の交差長Wを0.75mm、IDT電極間の距離Dを0.26mmとしている。(a)の伝達応答に示すように、従来のトランスバーサルSAWフィルタは、通過帯域内に歪みが生じ、通過帯域近傍の減衰量は最小挿入損失を基準(0dB)として50dBを満足していないことが分かる。また、(b)の時間応答を見ると、横軸の遅延時間が0付近の応答は入出力IDT電極間の電磁結合により生じる直達波の振幅レベルを示しており、SAWの主応答の振幅最大レベルを基準(0dB)としたときの直達波の振幅レベルを直達波レベルとした時、前記トランスバーサルSAWフィルタの直達波レベルは約−20dBであることが分かる。直達波とSAWの主応答との干渉を防ぐためには直達波レベルを少なくとも−30dB以下に抑圧する必要があり、従来のトランスバーサルSAWフィルタは直達波レベルが大きいために直達波とSAWの主応答との干渉が生じ、通過帯域内に歪みが生じたり、減衰量が劣化してしまうと考えられる。
【0007】
上述の如く、従来のトランスバーサルSAWフィルタにおいて、広帯域な特性を実現すべく圧電基板にタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムを用いると、直達波とSAWの主応答との干渉により通過帯域内に歪みが生じたり、通過帯域近傍の減衰量が劣化してしまう問題がある。従って、直達波とSAW応答との干渉を生じさせないようにIDT電極の距離を十分離す必要があった。
【0008】
図8は、前記トランスバーサルSAWフィルタにおいて、IDT電極間の距離Dと直達波レベルの関係を示している。なお、圧電基板にはタンタル酸リチウムを用い、IDT電極の交差長Wを0.75mmとし、中心周波数を310MHz、又は350MHzとしており、SAWの波長λで基準化した入出力IDT電極間の距離D(λ)と直達波レベル(dBc)との関係を(a)に、入出力IDT電極間の距離Dの実測値(mm)と直達波レベル(dBc)との関係を(b)に示している。同図より、直達波レベルを−30dB以下とするには、中心周波数が310MHzのフィルタの場合は入出力用IDT電極間の距離Dを47λ又は0.50mm以上とする必要があり、中心周波数が350MHzのフィルタの場合は入出力用IDT電極間の距離Dを45λ又は0.43mm以上とする必要がある。従って、入出力IDT電極間の距離Dを十分大きくしなければ直達波レベルを−30dB以下に小さくすることができず、デバイスが大型になってしまう問題がある。
【0009】
以上説明した問題を解決すべく、本発明では少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置したSAWデバイスにおいて、デバイスを大型にすることなく通過帯域内に歪みが生じるのを防止し、広帯域で低損失、高減衰な特性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るSAWデバイスの請求項1に記載の発明は、 圧電基板上に少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置した弾性表面波デバイスにおいて、中心周波数をfo(Hz)、IDT電極の交差長をW(mm)、IDT電極間の距離をD(mm)とした時、0<(W/D)×fo/10≦0.6とすることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記圧電基板はタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、圧電基板上に少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置した弾性表面波デバイスにおいて、中心周波数をfo(Hz)、IDT電極の交差長をW(mm)、IDT電極間の距離をD(mm)とした時、0<(W/D)×fo/10≦0.6とすることにより、入出力端子間の直達波を抑圧でき、デバイスを大型にすることなく通過帯域内に歪みが生じるのを防止し、低損失、高減衰な通過特性を実現できる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明において圧電基板をタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムとすることにより、広帯域な通過特性を実現しつつ、デバイスを大型にすることなく通過帯域内に歪みが生じるのを防止し、低損失、高減衰な通過特性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に図示した実施の形態例に基づいて詳細に説明する。本発明に係るトランスバーサルSAWフィルタは図6に示すトランスバーサルSAWフィルタと基本的な構造は同じであり、圧電基板1の主表面上にSAWの伝搬方向に沿って入力用のIDT電極2と出力用のIDT電極3を所定の間隔をあけて配置すると共に、IDT電極2、3の間にシールド電極4を配置する。前記IDT電極2、3はそれぞれ互いに間挿し合う複数の電極指を有する一対のくし形電極より構成されており、IDT電極2の一方のくし形電極を入力端子INに接続すると共に他方のくし形電極は接地し、IDT電極3の一方のくし形電極を出力端子OUTに接続すると共に他方のくし形電極は接地する。また、基板端面からの不要な反射波を抑圧するために、圧電基板1の長辺方向(SAWの伝搬方向)の両端に吸音材5を塗布している。
【0015】
本発明の特徴は、IDT電極2、3の交差長WとIDT電極2、3間の距離Dを最適に設定することにより、IDT電極2、3間の電磁結合により生じる直達波の低減を図った。
【0016】
図1は、前記トランスバーサルSAWフィルタにおいて、圧電基板にタンタル酸リチウムを用い、IDT電極間の距離Dを0.26mmとし、交差長W(mm)を変化させた時の伝達応答を示しており、(a)は中心周波数を310MHzとした時の通過特性を、(b)は中心周波数を350MHzとした時の通過特性を示している。同図に示すように、いずれの周波数においても交差長Wを小さくするほど通過帯域内の歪みが抑圧され、低損失になると共に、通過帯域近傍の減衰量が高減衰となっていることが分かる。特に(a)ではW=0.50mmの特性、(b)ではW=0.25mmの特性において、通過帯域近傍で最小挿入損失を基準(0dB)として約50dBもの高減衰な特性が得られていることが分かる。
【0017】
次に、図2は図1に示すトランスバーサルSAWフィルタの通過特性において、交差長W(mm)を変化させた時の直達波レベル(dBc)を示している。なお、図1と同様に圧電基板にタンタル酸リチウムを用い、IDT電極間の距離Dは0.26mmとし、中心周波数を310MHz、又は350MHzとしている。いずれの周波数においても交差長を小さくするほど直達波レベルが小さくなり、中心周波数が310MHzの場合は交差長Wを0.49mm以下、中心周波数が350MHzの場合は交差長Wを0.40mm以下とすれば直達波レベルを−30dB以下に抑圧でき、直達波とSAWの主応答が干渉するのを防ぐことができる。
【0018】
以上説明したように、本発明のトランスバーサルSAWフィルタは、IDT電極間の距離Dを0.26mmと従来より狭くしても、IDT電極の交差長Wを小さく設定することにより直達波レベルを−30dB以下に抑圧できるので、デバイスサイズを大型にすることなく、通過帯域内に歪みが生じるのを防止し、広帯域、低損失で高減衰な通過特性を実現できる。
【0019】
これまでは、IDT電極間の距離Dを固定した例について説明したが、以下ではIDT電極間の距離D、交差長W、中心周波数foを複合的に変化させた時について検討した。図3は、中心周波数fo(Hz)、IDT電極間の距離D(mm)及び交差長W(mm)を変数とした(W/D)×fo/10と直達波レベルの関係を示している。なお、圧電基板にはタンタル酸リチウムを用いている。同図に示すように、直達波レベルと(W/D)×fo/10の関係はおおよそ直線の近似式で表すことができ、直達波レベルを−30dB以下とするには、0<(W/d)×fo/10≦0.6とすれば良いことが分かる。
【0020】
図4は、中心周波数を310MHzとしたフィルタにおいて、0<(W/d)×fo/10≦0.6となるようにIDT電極間の距離Dと交差長Wを定めた時の通過特性を示しており、(a)に伝達応答を、(b)に時間応答を示している。ここでは、D=0.26mm、W=0.25mmとし、圧電基板をタンタル酸リチウムとしている。同図に示すように、直達波レベルは−37dB程度まで抑圧されており、低リップル、低損失で且つ高減衰な通過特性を実現している。
【0021】
図5は、中心周波数を350MHzとしたフィルタにおいて、0<(W/d)×fo/10≦0.6となるようにIDT電極間距離Dと交差長Wを定めた時の通過特性を示しており、(a)に伝達応答を、(b)に時間応答を示している。ここでは、D=0.26μm、W=0.25mmとし、圧電基板をタンタル酸リチウムとしている。同図に示すように、直達波レベルは−35dB程度まで抑圧されており、低リップル、低損失、且つ高減衰な通過特性を実現している。
【0022】
以上説明したように、本発明では少なくとも2個のIDT電極を所定の間隔をあけて配置したSAWデバイスにおいて、中心周波数fo(Hz)、IDT電極間の距離D(mm)、交差長W(mm)を0<(W/d)×fo/10≦0.6の範囲内に設定することにより直達波を十分抑圧することができ、デバイスを大型にすることなく通過特性を改善することができる。
【0023】
これまで、圧電基板にタンタル酸リチウムを用いた例について説明したが、ニオブ酸リチウムとした場合においてもほぼ同等な効果が得られた。また、それ以外の水晶、四硼酸リチウム、ランガサイト等に用いた場合にも本発明を適用できることは明らかである。また、圧電基板上にIDT電極を3個以上配置した場合や、トランスバーサルSAWフィルタ以外のフィルタ形式した場合においても本発明を適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るSAWデバイスの交差長Wを変化させた時の通過特性を示しており、(a)に中心周波数を310MHzとした時の特性を、(b)に中心周波数を350MHzとした時の特性を示す。
【図2】本発明に係るSAWデバイスの交差長Wと直達波レベルの関係を示す。
【図3】本発明に係るSAWデバイスの(W/D)×fo/10と直達波レベルの関係を示す。
【図4】本発明に係るSAWデバイスの中心周波数を310MHzとしたときの伝達応答を(a)に、時間応答を(b)に示す。
【図5】本発明に係るSAWデバイスの中心周波数を350MHzとしたときの伝達応答を(a)に、時間応答を(b)に示す。
【図6】トランスバーサルSAWフィルタの平面図を示す。
【図7】従来のトランスバーサルSAWフィルタの伝達応答を(a)に、時間応答を(b)に示す。
【図8】従来のトランスバーサルSAWフィルタの波長λで基準化したIDT電極間距離Dと直達波レベルの関係を(a)に、IDT電極間距離Dの実測値と直達波レベルの関係を(b)に示す。
【符号の説明】
【0025】
1:圧電基板
2:IDT電極
3:IDT電極
4:シールド電極
5:吸音材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に少なくとも2つのIDT電極を所定の間隔をあけて配置した弾性表面波デバイスにおいて、中心周波数をfo(Hz)、IDT電極の交差長をW(mm)、IDT電極間の距離をD(mm)とした時、0<(W/D)×fo/10≦0.6とすることを特徴とした弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記圧電基板はタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムであることを特徴とした請求項1に記載の弾性表面波デバイス。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate