説明

弾性追従による非弾性歪推移の算出方法およびプログラム

【課題】本発明は変位制御型荷重がかけられる構造物において、応力集中部位における弾性追従の推移をより適切に解析する弾性追従による非弾性歪推移の算出方法を提供する。
【解決手段】弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出する方法であって、弾性追従が始まる際の初期歪値と初期応力値に基づいて無次元化された、無次元応力歪平面を設定し、該無次元応力歪平面において、点(1,1)で表され弾性追従が始まるときの応力歪状態を意味する弾性追従原点を通り、且つ該弾性追従の初期状態の応力歪状態の推移に関連する緩和初期勾配を有する、緩和初期直線を設定し、該平面において、弾性追従の進行に伴い中終期状態を迎えたときの応力歪状態の推移に相当する、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線を設定し、該平面においてこれら緩和初期直線と緩和中終期直線に漸近する応力歪曲線を、弾性追従時の非弾性歪の推移として算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に変位制御型荷重がかけられているとき、該構造物の所定部位、特に応力集中が生じやすい部位での弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温で稼働される構造物が熱膨張などの変位制御型荷重を受ける時、クリープ変形しやすい応力集中部位には、時間の経過に従い初期の弾性状態よりも大きな変形が累積する、いわゆる弾性追従が起こる。従って、構造物の疲労寿命計算を行うに際しては、変位制御型荷重がかかる際の弾性追従の推移をより正確に把握することが求められるものであり、以下に示す非特許文献1には、いわゆる参照応力法に従った弾性追従の解析方法が開示されている。
【0003】
また、上記の応力集中部位の疲労寿命を計算するにあたり、Neuber則に基づいた解析手法が広く用いられている。しかし、このNeuber則に従うと、比較的大きい安全率を含んだ解析結果となるため、強度設計的に冗長な構造物となる傾向がある。そこで、より適切な解析結果を得るために、新たに応力再配分軌跡法(Stress Relaxation Locus法、以下「
SRL法」と言う。)を用いた解析方法が開発されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【非特許文献1】Teramae, T., A Simplified Method for Elastic Follow-up Analysis of Elevated Temperature Piping Systems, The Inernational Journal of Pressure Vessels and Pipingt. Vol. 12, No.1(1983), pp. 29-41.
【非特許文献2】Shimakawa, T., Watanabe, O., Kasahara, N., Kobayashi, K., Takizawa, Y. and Asada, S., Creep-Fatigue Life Evaluation based on Stress Redistribution Locus (SRL) Method, PVRC/EPEREC/JPVRC Joint Workshop(2002).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
応力集中部位における弾性追従の解析手法については、従来までの参照応力法やSRL法では、やはり比較的大きい安全率を含んだ結果となることが否めない。変位制御型荷重がかかる構造物として原子力発電所等の高温で稼動される構造物が挙げられるが、もちろんこのような構造物で安全率が高いことは、施設の運転上必ずしも悪いことではない。しかし、必要以上に高い安全率は構造物の構築、維持に多大なコストを強いるものであるから避けるのが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は変位制御型荷重がかけられる構造物において、応力集中部位における弾性追従の推移をより適切に解析し、該部位の疲労寿命計算に資する弾性追従による非弾性歪推移の算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記した課題を解決するために、所定部位での弾性追従が始まってすぐの初期状態での応力歪状態と、比較的時間が経過し弾性追従が中期状態から終期状態に向かうときの応力歪状態に着目した。両応力歪状態は、弾性追従を特徴的に示す状態であり、少なくともこれらの状態を踏まえることで、弾性追従をより適切に把握することが可能となることを本出願人が見出したものである。
【0007】
そこで、本発明は、構造物に変位制御型荷重がかけられているとき、該構造物の所定応
力集中部位において弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出する方法であって、弾性追従が始まる際の、前記所定応力集中部位における初期歪値と初期応力値に基づいて無次元化された、無次元応力歪平面を設定する第一ステップと、前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、点(1,1)で表され前記所定応力集中部位で弾性追従が始まるときの応力歪状態を意味する弾性追従原点を通り、且つ該弾性追従の初期状態の応力歪状態の推移に関連する緩和初期勾配を有する、緩和初期直線を設定する第二ステップと、前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、前記弾性追従の進行に伴い中終期状態を迎えたときの応力歪状態の推移に相当する、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線を設定する第三ステップと、前記無次元応力歪平面において前記第二ステップおよび前記第三ステップで設定された前記緩和初期直線と前記緩和中終期直線に漸近する応力歪曲線を、前記所定応力集中部における弾性追従時の非弾性歪の推移として算出する第四ステップと、を含む。
【0008】
本発明に係る上記算出方法では、第一ステップで設定される無次元応力歪平面上での計算を基本とする。この無次元応力歪平面は、無次元化された応力と歪をそれぞれ縦、横の各軸に設定して形成される平面である。即ち、本発明は、この無次元応力歪平面上での弾性追従の推移に関する特徴点を見出し、それを該推移算出に効率的に利用するものである。
【0009】
上述したように、本発明では、弾性追従の初期状態と中終期状態で現れる特徴点に着目したものであり、上記第二ステップがその初期状態での弾性追従の推移に関連し、上記第三ステップがその中終期状態での弾性追従の推移に関連するものである。先ず、第二ステップについて、同ステップは、弾性追従の初期状態での応力歪状態を、無次元応力歪平面において緩和初期直線で近似するステップであり、本出願人によってこの緩和初期直線での近似が見出された。
【0010】
また、第三ステップについては、同ステップは、弾性追従が初期状態を経て、中期から終期状態に至ろうとするときの応力歪状態を、無次元応力歪平面において緩和中終期直線で示す処理である。弾性追従の中終期状態は、所定応力集中部位での最終的な弾性追従の大きさに影響を与える。構造物のクリープによる疲労寿命を計算するに当たり、安全率を適切に設定するためには、この弾性追従の中終期的な状態を正確に把握することが重要である。そして、本出願人はこの中終期状態が無次元応力歪平面では、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線で近似できることを見出したものである。
【0011】
そして、第二ステップおよび第三ステップで得られた知見に基づいて、第四ステップでは緩和初期直線と緩和中終期直線の両方に漸近する曲線である応力歪曲線を、所定応力集中部位における弾性追従時の非弾性歪の推移を示すものとして算出する。即ち、この第四ステップで得られる応力歪曲線は、弾性追従の特徴点であり且つ重要な部分である初期状態と中終期状態とを強く反映するものであるから、弾性追従の推移全体をより適切に表している。そして、この応力歪曲線を算出するためには、主に上記二つの直線を算出すればよく、弾性追従の推移全体を把握するのに要する計算量を低減させることにもつながる。
【0012】
ここで、上記の弾性追従による非弾性歪推移の算出方法において、該算出方法は、前記構造物に変位制御型荷重がかけられているときの、該構造物全体の全体参照応力を算出する全体参照応力算出ステップと、前記構造物における前記所定応力集中部位の部分的な参照応力を算出する部分参照応力算出ステップと、所定の参照応力法に従い、前記全体参照応力算出ステップと前記部分参照応力算出ステップによる算出結果に基づいて前記所定応力集中部位における弾性追従係数であるqを算出する係数q算出ステップと、前記構造物に変位制御型荷重がかけられている状態で、弾性追従開始時に該変位制御型荷重が緩和しないと仮定した場合に、前記所定応力集中部位が迎える仮想定常クリープ状態での仮想定
常クリープ応力を、前記初期応力値に基づいて無次元化することで無次元仮想定常クリープ応力σcを算出する応力σc算出ステップと、を更に含み、そこで、前記第二ステップでは、前記係数q算出ステップで算出された弾性追従係数qに基づいて前記緩和初期勾配を算出し、該緩和初期勾配を有し前記弾性追従原点を通る直線を前記緩和初期直線として設定し、前記第三ステップでは、前記係数q算出ステップと前記応力σc算出ステップの算出結果に従い、前記無次元応力歪平面で点(1,σc)と点(q,0)とを結んで得られる直線を前記緩和中終期直線として設定するようにしてもよい。
【0013】
係数q算出ステップで算出される弾性追従係数qは、弾性追従が開始される直前の初期弾性変位に対する、弾性追従で得られる変位の累積値の割合で定義され、弾性追従の強さを表すパラメータである。そして、本発明に係る算出方法では、全体参照応力算出ステップで算出される構造物全体の全体参照応力と、部分参照応力算出ステップで算出される所定応力集中部位の部分参照応力との比は、弾性追従で得られる変位の累積値と物理的な関連性を有していることに着目をして、弾性追従係数qが算出される。
【0014】
次に、本出願人は、弾性追従が開始されてから終期を迎えるまでの過程での所定応力集中部位での応力状態に着目した。弾性追従が開始される時点は、当該応力状態は弾性応力状態にあり、それが時間の経過とともにクリープ応力状態に至っていくと考えられる。そして、本出願人は、この弾性応力状態からクリープ応力状態への移行は比較的早い段階で行われ、その後はクリープ応力状態が継続することを見出した。この知見に基づいて、上記応力σc算出ステップが行われる。即ち、弾性追従開始時の変形制御型荷重が緩和しないと仮定し、この仮想クリープ応力状態の初期状態から、弾性追従が終期状態に向かっていくと仮定し、そのための弾性追従開始時の仮想的な無次元仮想定常クリープ応力σcが算出される。
【0015】
そして、上記弾性追従の終期状態とは、係数q算出ステップで算出される弾性追従係数qで示される弾性追従の強さであるから、第三ステップで設定される緩和中終期直線は、無次元応力歪平面上での仮想的な弾性追従の開始点である点(1,σc)と、該弾性追従の最終的な収束点である点(q,0)を結んで得られる直線とすることが可能であることを、本出願人は見出した。
【0016】
また、緩和初期直線については、本出願人は上記係数q算出ステップで算出される弾性追従係数qと緩和初期直線の緩和初期勾配とが関連性を有していることを実験的に見出した。そこで、第二ステップで設定される緩和初期直線は、弾性追従原点(1,1)を通り、弾性追従係数qから算出される緩和初期勾配として設定することが可能となる。そして、このように設定された無次元応力歪平面での緩和初期直線と緩和中終期直線とに基づいて、上記第四ステップによって、弾性追従の推移全体を表す応力歪曲線を算出することが可能である。
【0017】
ここで、第二ステップにおける緩和初期直線の設定については、前記弾性追従係数qに基づいて算出された前記緩和初期直線と前記緩和中終期直線との交点と、前記弾性追従原点とを結ぶことで設定されるようにしてもよい。即ち、弾性追従係数qと、緩和初期直線と緩和中終期直線との交点との間に所定の関連性を見出し、その関連性に基づいて緩和初期直線を設定することが可能となる。
【0018】
また、上記の弾性追従による非弾性歪推移の算出方法においては、前記構造物が梁モデルで表される場合、前記無次元仮想定常クリープ応力σcを2/3と算出するようにしてもよい。本出願人は、上記無次元仮想定常クリープ応力σcは、構造物が特定の構造モデルである場合には、予め決められた値となることを見出した。これにより、弾性追従による非弾性歪推移の算出に要する時間を可及的に短縮することが可能となる。尚、構造
物が梁モデルで表される場合、その構造物のクリープ指数が高くなるに従い、無次元仮想定常クリープ応力σcの値は2/3に接近していくため、上記第四ステップによって算出される弾性追従の推移全体を表す応力歪曲線が、より適切なものとなる。
【0019】
上述までの弾性追従による非弾性歪推移の算出方法において、前記変位制御型荷重による前記初期歪および前記初期応力値は、該変位制御型荷重の大きさにかかわらず該構造物が弾性変形すると仮定した上でFEM(Finite Element Method)解析に従って算出された
仮想初期弾性歪および仮想初期弾性応力の値であってもよい。
【0020】
また、本発明をコンピュータのプログラム、即ち弾性追従による非弾性歪推移を算出するためのコンピュータのプログラムの側面から捉えることも可能である。即ち、本発明は、コンピュータにおいて、構造物に変位制御型荷重がかけられているとき、該構造物の所定応力集中部位において弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出するためのプログラムであって、コンピュータに、前記コンピュータの計算領域に、弾性追従が始まる際の、前記所定応力集中部位における初期歪値と初期応力値に基づいて無次元化された、無次元応力歪平面を設定する第一ステップと、前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、点(1,1)で表され前記所定応力集中部位で弾性追従が始まるときの応力歪状態を意味する弾性追従原点を通り、且つ該弾性追従の初期状態の応力歪状態の推移に関連する緩和初期勾配を有する、緩和初期直線を設定する第二ステップと、前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、前記弾性追従の進行に伴い中終期状態を迎えたときの応力歪状態の推移に相当する、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線を設定する第三ステップと、前記無次元応力歪平面において前記第二ステップおよび前記第三ステップで設定された前記緩和初期直線と前記緩和中終期直線に漸近する応力歪曲線を、前記所定応力集中部における弾性追従時の非弾性歪の推移として算出する第四ステップと、を実行させるプログラムである。
【0021】
そして、前記コンピュータに、前記構造物に変位制御型荷重がかけられているときの、該構造物全体の全体参照応力を算出する全体参照応力算出ステップと、前記構造物における前記所定応力集中部位の部分的な参照応力を算出する部分参照応力算出ステップと、所定の参照応力法に従い、前記全体参照応力算出ステップと前記部分参照応力算出ステップによる算出結果に基づいて前記所定応力集中部位における弾性追従係数であるqを算出する係数q算出ステップと、前記構造物に変位制御型荷重がかけられている状態で、弾性追従初期に該変位制御型荷重が緩和しないと仮定した場合に、前記所定応力集中部位が迎える仮想定常クリープ状態での仮想定常クリープ応力を、前記初期応力値に基づいて無次元化することで無次元仮想定常クリープ応力σcを算出する応力σc算出ステップと、を更に実行させ、また、前記第二ステップでは、前記係数q算出ステップで算出された弾性追従係数qに基づいて前記緩和初期勾配を算出し、該緩和初期勾配を有し前記弾性追従原点を通る直線を前記緩和初期直線として設定し、前記第三ステップでは、前記係数q算出ステップと前記応力σc算出ステップの算出結果に従い、前記無次元応力歪平面で点(1,σc)と点(q,0)とを結んで得られる直線を前記緩和中終期直線として設定するようにしてもよい。
【0022】
その他、本発明に係る非弾性歪推移の算出方法で示した上記各発明特性事項も、このプログラムに適用が可能である。
【発明の効果】
【0023】
変位制御型荷重がかけられる構造物において、応力集中部位における弾性追従の推移をより適切に解析し、該部位の疲労寿命計算に資する弾性追従による非弾性歪推移の算出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法は、様々な構造物における弾性追従の解析に使用することが可能であるが、本実施例では説明の簡便化のために、解析の対象となる構造物10を、図1に示すような梁モデルとする。図1においては、梁モデルである構造物10は、梁1が一方の端部で梁2と連結され、且つ梁1の他方の端部が固定壁に連結されることで、全体として片持ち梁の構造となっている。このとき、梁2の、梁1とは連結されていない端部においてモーメントMがかけられてその先端部が角度φ変位した状態で、所定の高温環境下に置かれることで、構造物10へ変位制御型荷重がかけられた状態となっている。
【0025】
このように変位制御型荷重がかけられている構造物10において、梁1および梁2の各スペックは、ヤング率はE1、E2、梁断面積はA1、A2、梁長さL1、L2、梁高さH1、H2で表される。そして、本実施では、ヤング率については、E1とE2は等しいとし、梁1、2の梁断面積、梁長さ、梁高さについては、構造物10において梁1に応力が集中するように各スペックが決定されているものとする。従って、モーメントMがかけられ所定の高温環境下に置かれた構造物10では、モーメントMがかけられた直後は、梁1には比較的高い応力がかかり、一方では梁2には比較的低い応力がかかる。そのため、時間の経過に従って、梁1の変形量が極めて大きくなる弾性追従が生じる。
【0026】
本実施例に係る弾性追従による非弾性歪推移の算出方法(以下、単に「本実施例に係る算出方法」と言う。)は、この梁1における弾性追従の推移を、より適切に且つより簡便に算出するものである。そこで、本実施例に係る算出方法を、図2に基づいて詳細に説明する。図2は、当該算出方法の核を為す非弾性歪推移算出処理のフローを示すフローチャートである。
【0027】
先ず、S101では、当該算出処理を行うために重要な無次元応力歪平面の設定を行う。この無次元応力歪平面は、弾性追従が始まる直前に構造物10にかけられた外力(本実施例では上記モーメントM)によって梁1に生じている初期弾性状態に基づいて形成される二次元平面である。この初期弾性状態は、梁1における初期応力σ0および初期歪ε0で表される。そして、弾性追従が進行している間の梁1における応力σおよび歪εを、それぞれ初期応力σ0および初期歪ε0で除した値を、それぞれ無次元応力σ、無次元歪εと称すると共に、前者を無次元応力歪平面の縦軸に、後者を無次元応力歪平面の横軸に設定することで、S101の処理を完了する。尚、具体的な無次元応力歪平面は、後述する図4に示す。
【0028】
S102では、無次元仮想定常クリープ応力σcの算出が行われる。無次元仮想定常クリープ応力σcとは、弾性追従開始時の梁1における弾性応力状態が、その応力が緩和しないという条件下でクリープ応力状態に瞬時に移行したと仮定したときの仮想的なクリープ応力状態における梁1での応力である。言い換えると、モーメントMがかかり初期応力σ0が生じている梁1であるが、仮想的に定常クリープ応力状態となっているとみな
し、この状態から徐々に弾性追従が進行していくと仮定したときの、無次元歪εが1のときの無次元応力σの値である。
【0029】
ここで、梁1にモーメントMがかかった直後(弾性追従が始まる前)の梁1における応力分布の様子を図3Aに示す。図3Aに示すように、モーメントMの向きに応じて、図中梁1の上部では引っ張り応力が生じ、梁1の下部では圧縮応力が生じている。そして、この応力の包絡線は、直線のL1で示される。しかし、S102における処理は、実際には図3Aに示す応力分布を図3Bに示す応力分布とみなして、そのときの梁1の表面応力σcを無次元化したものを無次元仮想定常クリープ応力σcとする。尚、この場合の梁1における応力の包絡線は太線のL3で表されるとともに、仮想定常クリープ応力σcと初
期応力σ0とは、梁1はいわゆる梁モデルであることを考慮すると、以下の式で相関関係
が示される。従って、無次元仮想定常クリープ応力σcは、以下に示すKtの逆数で表される。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、上記nは、梁1のクリープ指数であって、この値が高くなるに従い梁1は完全塑性体に近づいていく。そして、nが無限大となるときの無次元仮想定常クリープ応力σcは、(数1)より2/3となり、その場合の梁1における応力の包絡線を線L2で示す。一般的に、原子力発電所や火力発電所等の可変制御型荷重がかかる構造物のクリープ指数はn=4〜5程度であり、この場合で既に無次元仮想定常クリープ応力σcの値は、ほぼ2/3に近い値となる。そこで、本実施例では、S102の処理として、無次元仮想定常クリープ応力σcを2/3と算出する。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
【0032】
S103では、モーメントMが梁1にかかることで生じる弾性追従の強さを表すパラメータであり、物理的には弾性追従が開始される前の初期弾性変位に対する、弾性追従で得られる変位の累積値の割合で定義される、弾性追従係数qが算出される。弾性追従係数qは、いわゆるNorton則に従うと、以下の(数2)で示される。
【数2】

【0033】
また、数2中のσLRは構造物10における梁1の部分参照応力を表し、σGRは構造物10全体の全体参照応力を表す。それぞれの値は、従来からの参照応力法により以下の式に従って算出される。
【数3】

【数4】

【0034】
このようにして算出される弾性追従係数qは、梁1において弾性追従が無限時間経過したときに、最終的に到達する無次元歪εの値を意味するものである。S103の処理が終了すると、S104へ進む。
【0035】
S104では、緩和中終期直線L20を無次元応力歪平面に設定する。具体的には、図4に示すように、S102で算出された無次元仮想定常クリープ応力σcに従い、点(1,σc)と、S103で算出された弾性追従係数qに従い、点(q,0)とを結んで、緩和中終期直線L20とする。ここで、無次元仮想定常クリープ応力σcは、梁1における応力緩和が開始される時点、即ちε=1での無次元化された定常クリープ応力を意味するものであるので、特に弾性追従の中終期状態では時間の経過と共に、梁1における応力歪状態は、無次元応力歪平面で緩和中終期線L20に沿って推移すると考えられる。従って、この緩和中終期直線L20は、弾性追従の最終的な推移を表すものとみなすことが可能である。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
【0036】
S105では、S104で設定された緩和中終期直線L20と、後述するS106で設定される緩和初期直線L10との交点P(εTP,σTP)が算出される。このように交点Pを算出するのは、本出願人が、S103で算出された弾性追従係数qと緩和初期直線の緩和初期勾配とが関連性を有していることを実験的に見出したからである。この緩和初期直線L10は、弾性追従の初期状態における梁1の応力歪状態の推移を示すものである。弾性追従の初期状態では、梁1内での応力はそれ程緩和されていないため、Norton則に従うとクリープ速度が非常に大きくなる。従って、この緩和初期直線L10の存在意義は極めて大きい。
【0037】
そこで、本実施例では、構造物10は梁モデルであるので、既に梁モデルの構造物のFEM解析から得られた結果から、出願人は、無次元応力歪平面での横軸方向(無次元歪方向)に関して、交点Pの座標と弾性追従係数qとの比と、弾性追従係数qとの間に反比例の相関があることを見出した。そして、その知見に従い、交点Pに関して以下に示す式が導出される。
【数5】

この(数5)に示す式と、上記S104で設定された緩和中終期直線L20の関数式から交点P(εTP,σTP)が導出可能である。S105の処理が終了すると、S106へ進む。
【0038】
S106では、緩和初期直線L10を無次元応力歪平面に設定する。具体的には、図4に示すように、弾性追従開始時の応力歪状態を表す点(1,1)(以下、「弾性追従原点」と言う。)と、S105で算出された交点P(εTP,σTP)とを結ぶ直線として、緩和初期直線L10が設定される。S106の処理が終了すると、S107へ進む。
【0039】
S107では、S104で設定された緩和中終期直線とL20とS106で設定された緩和初期直線L10とに漸近する曲線を、梁1における弾性追従の推移を表す応力歪曲線L30として算出する。即ち、梁1における弾性追従の推移において、特に特徴的であり且つ構造物のクリープによる疲労寿命を検討するために必要な緩和初期および緩和中終期の推移状態を滑らかに結ぶ曲線を、応力歪曲線L30として算出する。応力歪曲線L30の算出に当たっては、緩和初期直線L10および緩和中終期直線L20に適宜漸近する曲
線を設定すればよい。本実施例では、以下に示す式に従って、応力歪曲線L30が算出される。
【数6】

【0040】
ここで、図2に示す非弾性歪推移算出処理で算出された応力歪曲線L30の計算精度を示すべく、図5に当該算出処理の結果とFEM解析の結果とを比較する。図5では、梁1と梁2のスペックの3つの条件毎に、それぞれの結果を比較して示した。図5中の参照番号のうちL41が付されているものは、梁1と梁2のスペックの条件がH2/H1=2,L2/L1=15であって、L42が付されているものは、梁1と梁2のスペックの条件がH2/H1=2,L2/L1=8であって、L43が付されているものは、梁1と梁2のスペックの条件がH2/H1=2,L2/L1=2である。また、参照番号中aが付されているものはFEM解析による結果を、参照番号中bが付されているものは上記非弾性歪推移算出処理による応力歪曲線L30で示される弾性追従の推移結果である。更に、参考として、梁1と梁2のスペックの条件がH2/H1=2,L2/L1=15である場合の従来のSRL法による解析結果を、線L40として示した。
【0041】
図5からも明らかなように、本実施例に係る非弾性歪推移算出処理の結果は、FEM解析の結果とほぼ一致するものであり、その計算精度はFEMと同等程度を有すると言い得る。一方で、当該非弾性歪推移算出処理は、上述したように比較的簡便な方法が採用されているため、結果算出に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。このように本実施例に係る非弾性歪推移算出処理で算出された応力歪曲線L30が、梁1における弾性追従の特徴点である緩和初期と緩和中終期の応力歪状態の推移を強く反映して導かれるという、本発明の特徴点は非常に有用であることが明らかである。
【0042】
尚、上記までの実施例においては、弾性追従が開始される時点では梁1は弾性変形状態であるが、梁1にかけられた応力がその降伏応力を超え塑性変形を生じている場合であっても、同様に弾性追従の推移を解析することが可能である。そのような場合には、変位制御型荷重による初期歪および初期応力値を、該変位制御型荷重の大きさにかかわらず該構造物が弾性変形すると仮定した上で、FEM解析に従って算出された仮想初期弾性歪および仮想初期弾性応力の値を初期値として使えばよい。そして、このような弾塑性状態での弾性追従歪みは、上述の本発明に係る算出方法によって算出される、クリープ変形に対する非弾性歪み推移曲線と、物理的な特性として決まっている、材料の初期弾性応力及び歪みで無次元化した弾塑性応力歪み特性曲線との交点として推定することができる。
【0043】
また、上述までの記載においては、梁1における弾性追従の推移を算出するための方法を詳細に述べてはいるが、これは同様の技術的思想をコンピュータのプログラムに適用し、コンピュータで図2に示す処理を行わせている。即ち、コンピュータのCPU等の計算領域において、上述した無次元応力歪平面を基礎とした弾性追従推移の算出のための演算処理を行うことで、より簡便に且つ正確な弾性追従の推移を算出することが可能となる。尚、コンピュータの利用は、本発明に係る算出方法に必ずしも必要ではなく、部分的にコンピュータを利用し、又は可能な限りその利用を少なくしても構わない。
【0044】
<その他の実施例>
上記の実施例では、図1に示す梁モデルを前提としたが、その他の実施例として、柱モデルが挙げられる。図1を前提に説明すると、柱モデルでは柱(先に述べた梁)1と柱2の軸方向に外力を加えて弾性変形させた状態で、所定の高温環境下に置くことで弾性追従が生じる。この柱モデルは静定モデルであるため、結果的に上述した緩和初期直線と緩和
中終期直線とが一致し、結果的に無次元応力歪平面では一直線の応力歪の推移となる。従って、このときの応力歪の推移を示す直線は、無次元応力歪平面上で弾性追従原点(1,1)と点(q,0)を結ぶ線であり、以下の式で示される。尚、この式は、(数6)においてm=0としたときの式に相当する。
【0045】
【数7】

【0046】
また、本発明は静定でない他のモデルにも適用は可能であり、梁モデルの場合と同様に、より適切な弾性追従の推移を解析することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施例に係る、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法が適用される梁モデルとして表される構造物の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法の処理の流れを示す図である。
【図3A】図1に示す構造物の梁における応力分布を示す第一の図である。
【図3B】図1に示す構造物の梁における応力分布を示す第二の図である。
【図4】本発明の実施例に係る、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法において、無次元応力歪平面での緩和初期直線、緩和中終期直線および弾性追従における応力歪曲線の相関を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法の結果と、FEM解析の結果とを比較して示した図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・梁
2・・・・梁
L10・・・・緩和初期直線
L20・・・・緩和中終期直線
L30・・・・弾性追従における応力歪曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に変位制御型荷重がかけられているとき、該構造物の所定応力集中部位において弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出する方法であって、
弾性追従が始まる際の、前記所定応力集中部位における初期歪値と初期応力値に基づいて無次元化された、無次元応力歪平面を設定する第一ステップと、
前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、点(1,1)で表され前記所定応力集中部位で弾性追従が始まるときの応力歪状態を意味する弾性追従原点を通り、且つ該弾性追従の初期状態の応力歪状態の推移に関連する緩和初期勾配を有する、緩和初期直線を設定する第二ステップと、
前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、前記弾性追従の進行に伴い中終期状態を迎えたときの応力歪状態の推移に相当する、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線を設定する第三ステップと、
前記無次元応力歪平面において前記第二ステップおよび前記第三ステップで設定された前記緩和初期直線と前記緩和中終期直線に漸近する応力歪曲線を、前記所定応力集中部における弾性追従時の非弾性歪の推移として算出する第四ステップと、
を含む、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法。
【請求項2】
前記構造物に変位制御型荷重がかけられているときの、該構造物全体の全体参照応力を算出する全体参照応力算出ステップと、
前記構造物における前記所定応力集中部位の部分的な参照応力を算出する部分参照応力算出ステップと、
所定の参照応力法に従い、前記全体参照応力算出ステップと前記部分参照応力算出ステップによる算出結果に基づいて前記所定応力集中部位における弾性追従係数であるqを算出する係数q算出ステップと、
前記構造物に変位制御型荷重がかけられている状態で、弾性追従開始時に該変位制御型荷重が緩和しないと仮定した場合に、前記所定応力集中部位が迎える仮想定常クリープ状態での仮想定常クリープ応力を、前記初期応力値に基づいて無次元化することで無次元仮想定常クリープ応力σcを算出する応力σc算出ステップと、
を更に含み、
前記第二ステップでは、前記係数q算出ステップで算出された弾性追従係数qに基づいて前記緩和初期勾配を算出し、該緩和初期勾配を有し前記弾性追従原点を通る直線を前記緩和初期直線として設定し、
前記第三ステップでは、前記係数q算出ステップと前記応力σc算出ステップの算出結果に従い、前記無次元応力歪平面で点(1,σc)と点(q,0)とを結んで得られる直線を前記緩和中終期直線として設定する、
請求項1に記載の、弾性追従による非弾性歪推移の算出方法。
【請求項3】
前記応力σc算出ステップでは、前記構造物が梁モデルで表される場合、前記無次元仮想定常クリープ応力σcを2/3と算出する、請求項2に記載の非弾性歪推移の算出方法。
【請求項4】
前記変位制御型荷重による前記初期応力値は、該変位制御型荷重の大きさにかかわらず該構造物が弾性変形すると仮定した上でFEM解析に従って算出された仮想初期弾性応力の値である、請求項1から請求項3の何れかに記載の非弾性歪推移の算出方法。
【請求項5】
コンピュータにおいて、構造物に変位制御型荷重がかけられているとき、該構造物の所定応力集中部位において弾性追従によって生じる非弾性歪の推移を算出するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記コンピュータの計算領域に、弾性追従が始まる際の、前記所定応力集中部位における初期歪値と初期応力値に基づいて無次元化された、無次元応力歪平面を設定する第一ステップと、
前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、点(1,1)で表され前記所定応力集中部位で弾性追従が始まるときの応力歪状態を意味する弾性追従原点を通り、且つ該弾性追従の初期状態の応力歪状態の推移に関連する緩和初期勾配を有する、緩和初期直線を設定する第二ステップと、
前記第一ステップで設定された無次元応力歪平面において、前記弾性追従の進行に伴い中終期状態を迎えたときの応力歪状態の推移に相当する、緩和中終期勾配を有する緩和中終期直線を設定する第三ステップと、
前記無次元応力歪平面において前記第二ステップおよび前記第三ステップで設定された前記緩和初期直線と前記緩和中終期直線に漸近する応力歪曲線を、前記所定応力集中部における弾性追従時の非弾性歪の推移として算出する第四ステップと、
を実行させる、弾性追従による非弾性歪推移の算出プログラム。
【請求項6】
前記コンピュータに、
前記構造物に変位制御型荷重がかけられているときの、該構造物全体の全体参照応力を算出する全体参照応力算出ステップと、
前記構造物における前記所定応力集中部位の部分的な参照応力を算出する部分参照応力算出ステップと、
所定の参照応力法に従い、前記全体参照応力算出ステップと前記部分参照応力算出ステップによる算出結果に基づいて前記所定応力集中部位における弾性追従係数であるqを算出する係数q算出ステップと、
前記構造物に変位制御型荷重がかけられている状態で、弾性追従初期に該変位制御型荷重が緩和しないと仮定した場合に、前記所定応力集中部位が迎える仮想定常クリープ状態での仮想定常クリープ応力を、前記初期応力値に基づいて無次元化することで無次元仮想定常クリープ応力σcを算出する応力σc算出ステップと、
を更に実行させ、
前記第二ステップでは、前記係数q算出ステップで算出された弾性追従係数qに基づいて前記緩和初期勾配を算出し、該緩和初期勾配を有し前記弾性追従原点を通る直線を前記緩和初期直線として設定し、
前記第三ステップでは、前記係数q算出ステップと前記応力σc算出ステップの算出結果に従い、前記無次元応力歪平面で点(1,σc)と点(q,0)とを結んで得られる直線を前記緩和中終期直線として設定する、
請求項5に記載の、弾性追従による非弾性歪推移の算出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−58224(P2009−58224A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223041(P2007−223041)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】