説明

形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板

【課題】実装したICが高速動作をして自らノイズを発生する場合に於いても、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を増加させる事無く、安定した動作が可能なプリント配線板の提供。
【解決手段】複数の導体層と絶縁層が交互に積層され、少なくとも1つの能動部品を含む複数の電子部品が搭載される部品搭載面と、電源パターン層と、グラウンドパターン層と、当該電源パターン層と当該グラウンドパターン層の層間に配された誘電体を対向する陽電極と陰電極とで挟んだ構成のキャパシタとを有する形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該能動部品が、当該電源パターン層に配され、且つ、当該陽電極に接続している電源パターンと電気的に接続されている事を特徴とする形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の内部に部品を有する部品内蔵型プリント配線板に関するもので、特に、プリント配線板の電源系に発生するノイズを、当該プリント配線板の内層に形成された形成キャパシタを用いて抑制する、形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市場に出ている多種多様の電子機器の殆どにはプリント配線板が組み込まれ、このプリント配線板の多くは、当該プリント配線板に実装された部品や機能ブロックを駆動する為の電力を必要とする。
一般に、プリント配線板は、外部から供給される電源から、所謂電源系ラインと呼ばれる電源パターンやビア等の層間接続構造を用いると共に、必要に応じて電圧調整機能を介して、各所に必要な電源電圧を供給している。
ここで、プリント配線板の部品レイアウトや配線パターンレイアウトをする際、注意が必要な事項の1つとして、電源系ラインにノイズ(雑音)が加わらないように配慮する事が挙げられる。
【0003】
プリント配線板に配された部品や機能ブロックが安定して駆動する為には、安定した電源電圧の供給が必要であるが、電源系ラインにノイズが加わり電源電圧自体に揺らぎ(微小な電圧変動)が発生すると、部品や機能ブロックが安定して駆動出来なくなる場合が有り、更に、そのノイズが空間や電源系ラインを伝って外部に放射されるEMI(Electro Magnetic Interference:電磁妨害)の原因となっていた。
このような電源系ラインのノイズ対策としては、一般に、電源パターンとグラウンドパターン(GNDパターン)の間にバイパスコンデンサ(パスコン)を設置する手法が用いられている。
【0004】
パスコンとして、既知の又は予測されるノイズの周波数特性に応じて適切な(当該ノイズの周波数が通過し易い)容量値のコンデンサを電源パターンとGNDパターンの間に設置する事で、パスコンがノイズ成分を優先的に流す為、電源パターンに寄生したノイズ、又は電源パターンで発生したノイズは、その先の部品や機能ブロックに行かず、パスコンを介して直接GNDパターンに流れ、結果、ノイズ成分が除去された電流が部品や機能ブロックに流れ、安定した電源電圧が供給される。
ところが、このパスコンは、部品や機能ブロックの動作周波数が高周波数である場合、部品や機能ブロックの電源系ラインとの距離が大きいと、当該電源系ラインまでの接続配線が持つ寄生インダクタンス(誘導成分)によって、パスコンまでのインピーダンスが上昇し、ノイズ成分が除去出来ず、部品や機能ブロックに供給する電源電圧の安定化を図ることが難しく成る為、部品や機能ブロックとパスコンとの距離を可能な限り小さくする事が求められていた。
【0005】
そこで、図3に示すような方法が提案されている(例えば特許文献1)。
図3(a)は、内部に形成キャパシタを備える形成キャパシタ内蔵型プリント配線板の断面の一部を簡略的に示した概要図で、プリント配線板P3は、回路パターン層37、グラウンドパターン層31、電源パターン層33、回路パターン層36の各々の導体層の間に、32a乃至32cの絶縁層が配されている多層回路基板であり、回路パターン層36及び回路パターン層37には各々、実装パッド、信号パターン、電源パターン、グラウンドパターン等の内の何れか少なくとも1つを含む回路パターン36aが配され、当該回路パターン36aの中の一部である実装パット上に能動部品(IC)38と電子部品39が配され、絶縁層32aと絶縁層32bとの間に、誘電体34aを陽電極34bと陰電極34cで挟み込んだ形成キャパシタ34が形成され、当該陽電極34bは層間接続部(ビア)35bを介して電源パターン33aと接続され、当該陰電極34cはグラウンドパターン31aと接続されている。
【0006】
図3(a)に於いて、プリント配線板P3は内層に形成キャパシタ34を有し、当該形成キャパシタ34が電源パターン33aとグラウンドパターン31aの間に接続されている事により、当該形成キャパシタ34が電源系ラインのパスコンとしての働きを成すと共に、電源系ラインがバイパスコンデンサと接続する為の配線長を短くする事が可能と成り、当該配線長による寄生インダクタンスを小さくする事が出来る為、部品に供給する電源電圧を従来よりも安定させる事が可能と成った。
【0007】
ここで、ノイズのフロー(流れ)を図3(b)及び図3(c)を用いて説明する。
図3(b)は、図3(a)に示した構造のプリント配線板P3に電源系ノイズ(電源ラインに加えられたノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したものであり、また図3(c)は、図3(a)に示した構造のプリント配線板P3にICスイッチングノイズ(ICが駆動する事により新たに発生したノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したものである。
尚、図3(b)及び図3(c)の構成は図3(a)と同一のものであり、符号は省略している。
【0008】
図3(b)に於いて、プリント配線板P3に<1>から印加された電源系ノイズは<2>で2手に分岐され、一方(これを「電源系ノイズのカット分」とする)は層間接続部(ビア)35bの<5>に流れ、キャパシタ34を通って、陰電極34cの<6>を経由して<7>から<8>のGNDに流れ、もう一方(これを「電源系ノイズのリーク分」とする)は<3>から能動部品(IC)38を通り<4>から出たものが<7>を経て<8>のGNDに流れる。
通常、電源系ノイズ対策として設置されるキャパシタ34は、<5>の層間接続部(ビア)35bや<6>の陰電極34cと共にノイズ抑制(フィルタリング)する(キャパシタ34に流れ込む)周波数帯を考慮し設定されている。
従って、図3(b)の矢印の太さで示したように、電源系ノイズの大部分がカット分としてキャパシタ34に流れ込む為、能動部品(IC)38に電源系ノイズが流れ込むリーク分は僅かと成り、電源系ノイズが回路動作に影響を及ぼす割合を大幅に低減出来る。
【0009】
ところが、前述の従来技術の構造では、1つのキャパシタで、実装された能動部品(IC)38が駆動する事により能動部品(IC)38内部に発生するICスイッチングノイズの多くが、電源パターン層33に伝搬する事を阻止する事が出来ず、当該電源パターン層33を介して、プリント配線板P3に実装された他の電子部品39に影響を与えてしまう事があった。
具体的には、図3(c)に示すように、能動部品(IC)38から出たICスイッチングノイズは、<3>のビアを経由し<2>で2手に分岐され、一方(これを「ICスイッチングノイズのカット分」とする)は層間接続部(ビア)35bの<5>に流れ、キャパシタ34を通って、陰電極34cの<6>から<7>を経由し、<4>からICに帰還され、もう一方(これを「ICスイッチングノイズのリーク分」とする)は電源パターン層33を伝搬し、<9>から電子部品39にも入り込んでしまう。
【0010】
前述のように、電源系ノイズ対策として設置されたキャパシタ34には、流し込める周波数が異なる為、図3(c)の矢印の太さで示したように、ICスイッチングノイズがカット分としてキャパシタ34に流れ込む分は少なく、大部分がリーク分と成り、電源パターン層33へ伝搬してしまう為、結果として、プリント配線板P3に実装された他の電子部品39に影響を与えてしまう事と成った。
つまり、当該構成によって配線長による寄生インダクタンスを小さくしても、キャパシタに至るまでの層間接続部(ビア)35bによって、ICスイッチングノイズを抑制する事は出来ず、部品に供給する電源電圧を十分に安定させる事が出来ない為、結果、耐ノイズ性が低く、プリント配線板の動作安定性が低いという不具合があった。
又、昨今の製品は更なる軽薄短小を求められ、当然ながら、プリント配線板も同様に薄型化、小型化が望まれている為、電源系ノイズ抑制用のキャパシタの他にICスイッチングノイズ用のキャパシタを新たに追加する事も難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−152884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前述の問題と実状に鑑み、プリント配線板の電源系に発生するノイズを、当該プリント配線板の内層に形成された形成キャパシタを用いて抑制する、形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、当該プリント配線板の電源系ラインに発生した電源系ノイズが、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼす事を抑制すると共に、当該ICが駆動する際に発生するICスイッチングノイズが、当該プリント配線板の電源系ラインに影響を及ぼすのを抑制する事を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者等は、上記の課題を解決すべく、まず配線長による寄生インダクタンスを抑えた状態を保持しつつ、キャパシタに流れるノイズの帯域幅を意図的に広げる事で、周波数の異なる複数のノイズに対応したノイズ抑制が可能に成ると考え、ノイズ抑制機能を構成するキャパシタ成分とインダクタ成分の内、インダクタ成分を従来より小さくする構造を検討した。
その結果、キャパシタの陽電極と電源パターンとの接続に関し、従来技術のような電気的な枝分かれをせず分岐が発生しない(分岐点が無い)構造とする事で、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造のノイズ抑制機能が得られる事を見い出した。
【0014】
又、キャパシタの陽電極と電源パターンが異なる層である場合でも、キャパシタの陽電極の両端各々に電源パターンとの層間接続ビアを設け、且つ、当該陽電極の両端に設けた層間接続ビア間の電源パターンが分断されている構造とする事で、見掛け上、陽電極が電源パターンの一部と成る為、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の層間接続ビア分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造のノイズ抑制機能が得られる事も見い出した。
【0015】
これにより、配線長による寄生インダクタンスを抑えた状態を保持しつつ、キャパシタに流れるノイズの帯域幅を意図的に広げる事が出来、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、周波数の異なる複数のノイズに対応したノイズ抑制が可能と成った。
【0016】
すなわち、請求項1に係る本発明は、複数の導体層と絶縁層が交互に積層され、少なくとも1つの能動部品を含む複数の電子部品が搭載される部品搭載面と、電源パターン層と、グラウンドパターン層と、当該電源パターン層と当該グラウンドパターン層の層間に配された誘電体を対向する陽電極と陰電極とで挟んだ構成のキャパシタとを有する形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該能動部品が、当該電源パターン層に配され、且つ、当該陽電極に接続している電源パターンと電気的に接続されている事を特徴とする形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0017】
又、請求項2に係る本発明は、複数の導体層と絶縁層が交互に積層され、少なくとも1つの能動部品を含む複数の電子部品が搭載される部品搭載面と、電源パターン層と、グラウンドパターン層を有し、対向する陽電極と陰電極とで誘電体を挟んだ構成のキャパシタが、当該電源パターン層と当該グラウンドパターン層の層間に配された絶縁層の内部に配されている形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該電源パターン層に配された電源パターンの内、当該能動部品と電気的に接続されている電源パターンが、当該同一の電源パターン層上に於いて、第1の電源パターンと第2の電源パターンの2つに分断されていると共に、当該分断された第1の電源パターンが第1の層間接続部を介して当該陽電極と接続され、且つ、当該分断された第2の電源パターンが、当該第1の層間接続部とは異なる第2の層間接続部を介し、当該第1の層間接続部とは異なる位置で当該陽電極と接続されている事を特徴とする形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0018】
又、請求項3に係る本発明は、前記第1の層間接続部と前記第2の層間接続部は、少なくとも一方が、前記陽電極上の端部に配されている事を特徴とする請求項2記載の形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0019】
又、請求項4に係る本発明は、前記第1の層間接続部と前記第2の層間接続部は、少なくとも一方が、分断された電源パターンの端部に接続されている事を特徴とする請求項2又は3記載の形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、実装した能動部品(IC)が高速動作をして自らノイズを発生する場合に於いても、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を増加させる事無く、安定した動作が可能なプリント配線板を得る事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態のプリント配線板の構成及びノイズフローを説明する為の概略断面構成図。
【図2】本発明の第二実施形態のプリント配線板の構成及びノイズフローを説明する為の概略断面構成図。
【図3】従来のプリント配線板の構成及びノイズフローを説明する為の概略断面構成図。
【図4】従来のプリント配線板の等価回路を説明する為の概略等価回路図。
【図5】本発明のプリント配線板の等価回路を説明する為の概略等価回路図。
【図6】本発明のプリント配線板及び従来のプリント配線板を説明する為のシミュレーションモデル図。
【図7】本発明のプリント配線板及び従来のプリント配線板を説明する為のシミュレーション結果グラフ図。
【図8】本発明のプリント配線板及び従来のプリント配線板を説明する為の実機検証実験結果グラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図1乃至図5を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の第一実施形態のプリント配線板の断面構造の一例を説明する為の概略構成図である。
図1(a)は、内部に形成キャパシタを備える形成キャパシタ内蔵型プリント配線板の断面の一部を簡略的に示した概要図で、プリント配線板P1は、回路パターン層7、グラウンドパターン層1、電源パターン層3、回路パターン層6の各々の導体層の間に、2a乃至2cの絶縁層が配されている多層回路基板であり、回路パターン層6及び回路パターン層7には各々、実装パッド、信号パターン、電源パターン、グラウンドパターン等の内の何れか少なくとも1つを含む回路パターン6aが配され、当該回路パターン6aの中の一部である実装パット上に能動部品(IC)8と電子部品9が配され、絶縁層2bと絶縁層2cとの間に、誘電体4aを陽電極4bと陰電極4cで挟み込んだ形成キャパシタ4が形成され、当該陽電極4bは電源パターン3aと接続されると共に電源パターン3bと接続され、当該陰電極4cは層間接続部(ビア)5bを介してグラウンドパターン1aと接続されている。
【0024】
図1(a)に於いて、プリント配線板P1は、電源パターン3aと電源パターン3bの間に形成キャパシタ4の陽電極4bを配しており、見掛け上、当該陽電極4b自体が電源パターンの一部と成り、2つの電源パターンを接続するような構成と成っている。
つまり、陽電極4bは、2つの電源パターン3a及び3bを接続する事で、内層に形成された形成キャパシタ4の電極機能と、電源パターン機能の両方を兼ね備えた構造と成っている。
【0025】
このように本構成は、キャパシタの陽電極と電源パターンとの接続に関し、従来技術のような電気的な枝分かれをせず分岐が発生しない(分岐点が無い)構造とする事で、電源パターンからキャパシタに分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来構成よりインダクタ成分を小さく出来、結果、従来よりも広帯域のノイズ抑制機能が得られる。
従って、本構成により、配線長による寄生インダクタンスを抑えた状態を保持しつつ、キャパシタに流れるノイズの帯域幅を意図的に広げる事が出来、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、周波数の異なる複数のノイズに対応したノイズ抑制が可能と成る。
【0026】
結果、当該プリント配線板の電源系ラインに発生した電源系ノイズが、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼす事を抑制すると共に、当該ICが駆動する際に発生するICスイッチングノイズが、当該プリント配線板の電源系ラインに影響を及ぼす事を抑制する事が可能と成る為、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、耐ノイズ性に優れ、動作安定性の高い形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板を提供する事が出来る。
尚、不要な配線パターンは、インダクタ成分を増加させる要因と成る為、2つの電源パターン3a及び3bと陽電極4bとの接続は、その距離が可能な限り小さい方が望ましい。
【0027】
又、2つの電源パターン3a及び3bと陽電極4bとの接続は、流れる電流量やその他の設計都合等により、一箇所の接続に複数の接続経路を設ける事も可能であるが、接続経路の数を増加させると、新たな寄生インダクタの発生を助長しかねない為、接続箇所各々に対して1つずつの接続経路が望ましい。
又、接続経路の形状は、高周波のノイズが反射しないように、可能な限り屈曲が少ない形状が望ましく、直線形状がより望ましい。
又、接続経路の形状は、伝送線路のインピーダンス変化により新たなノイズが発生しないように、可能な限り一定幅形状が望ましい。
【0028】
ここで、ノイズのフロー(流れ)を図1(b)及び図1(c)を用いて説明する。
図1(b)は、図1(a)に示した構造のプリント配線板P1に電源系ノイズ(電源ラインに加えられたノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したものであり、また図1(c)は、図1(a)に示した構造のプリント配線板P2にICスイッチングノイズ(ICが駆動する事により新たに発生したノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したものである。
尚、図1(b)及び図1(c)の構成は図1(a)と同一のものであり、符号は省略している。
【0029】
図1(b)に於いて、プリント配線板P1に<1>から印加された電源系ノイズは、陽電極4bに流れ、その大部分がキャパシタ4から<5>の層間接続ビアを介してグラウンドパターン層1を通り<7>を経由し<8>のGNDに流れ(これを「電源系ノイズのカット分」とする)、<2>で陽電極4bに流れた電源系ノイズの内のキャパシタ4に流れなかった一部(これを「電源系ノイズのリーク分」とする)が、陽電極4bから電源パターン3bに流れ、<3>の層間接続ビアを介して能動部品(IC)8に流れ込み、再び<4>で能動部品(IC)8から出た後に<7>を経由して<8>のGNDに流れる。
【0030】
又、図1(c)に於いて、能動部品(IC)8から出たICスイッチングノイズは、<3>の層間接続ビアを経由し電源パターン3bから陽電極4bに流れ、その大部分がキャパシタ4を通り(これを「ICスイッチングノイズのカット分」とする)、<5>の層間接続ビアを通ってグラウンドパターン層1から<7>を経由し<4>の能動部品(IC)8に戻り、<2>で陽電極4bからキャパシタ4に流れなかった一部(これを「ICスイッチングノイズのリーク分」とする)が、電源パターン3aに伝搬し<9>へ伝わる。
【0031】
ここで、本発明の特徴と成るのは、キャパシタ4の陽電極4bは、2つの電源パターン3a及び3b間に直列接続され、見掛け上、当該陽電極4b自体が電源パターンの一部と成り、2つの電源パターンを接続するような構成を成している事である。
これにより、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造と成り、従来よりも広帯域のノイズ抑制機能が得られる構成と成っている。
【0032】
この広帯域ノイズ抑制機能により、図1(b)を用いて示したように、電源系からプリント配線板に印加された電源系ノイズを従来技術同様にその大部分をカットし、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼさない程度まで電源系ノイズのレベルを低減すると共に、同じキャパシタを用いて、図1(c)を用いて示したように、当該プリント配線板に実装されたICからプリント配線板に印加されたICスイッチングノイズの大部分をカットし、他の電子部品に影響を及ぼさない程度までICスイッチングノイズのレベルを低減する事が可能と成る。
【0033】
続いて、図2は、本発明の第二実施形態のプリント配線板の断面構造の一例を説明する為の概略構成図である。
図2(a)は、内部に形成キャパシタを備える形成キャパシタ内蔵型プリント配線板の断面の一部を簡略的に示した概要図で、プリント配線板P2は、回路パターン層27、グラウンドパターン層21、電源パターン層23、回路パターン層26の各々の導体層の間に、22a乃至22cの絶縁層が配されている多層回路基板であり、回路パターン層26及び回路パターン層27には各々、実装パッド、信号パターン、電源パターン、グラウンドパターン等の内の何れか少なくとも1つを含む回路パターン26aが配され、当該回路パターン26aの中の一部である実装パット上に能動部品(IC)28と電子部品29が配され、絶縁層22aと絶縁層22bとの間に、誘電体24aを陽電極24bと陰電極24cで挟み込んだ形成キャパシタ24が形成され、当該陽電極24bは、第1の層間接続部(ビア)25baを介して第1の電源パターン23aと接続されると共に、第2の層間接続部(ビア)25bbを介して第2の電源パターン23bと接続され、当該陰電極24cはグラウンドパターン21aと接続されている。
【0034】
図2(a)に於いて、プリント配線板P2は、内層に形成された形成キャパシタ24の陽電極24bに、第1の層間接続部(ビア)25baと第2の層間接続部(ビア)25bbの2箇所の層間接続ビアを設け、3端子構造の形成キャパシタとすると共に、当該陽電極の2箇所の層間接続ビアを用いて、第1の電源パターン23aと第2の電源パターン23bの2つに分断された電源パターン間に当該陽電極24bを直列に接続し、見掛け上、当該陽電極24b自体が電源パターンの一部と成り、分断された2つの電源パターンを接続するような構成と成っている。
言い換えれば、陽電極24bに、層間接続部(ビア)25ba及び25bbを介して、分断された電源パターン23a及び23bを接続する事で、内層に形成された形成キャパシタ24の電極機能と、電源パターン機能の両方を兼ね備えた構造と成っている。
これにより、キャパシタの陽電極と電源パターンとの接続に関し、従来技術のような電気的な枝分かれをせず分岐が発生しない(分岐点が無い)構造とする事で、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造のノイズ抑制機能が得られる。
【0035】
又、キャパシタの陽電極と電源パターンが異なる層である場合でも、キャパシタの陽電極の両端各々に電源パターンとの層間接続ビアを設け、且つ、当該陽電極の両端に設けた層間接続ビア間の電源パターンが分断されている構造とする事で、見掛け上、陽電極が電源パターンの一部と成る為、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の層間接続ビア分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造のノイズ抑制機能が得られる。
【0036】
本構成により、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造と成り、従来よりも広帯域のノイズ抑制機能が得られる。
従って、本構成により、配線長による寄生インダクタンスを抑えた状態を保持しつつ、キャパシタに流れるノイズの帯域幅を意図的に広げる事が出来、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、周波数の異なる複数のノイズに対応したノイズ抑制が可能と成る。
【0037】
結果、当該プリント配線板の電源系ラインに発生した電源系ノイズが、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼす事を抑制すると共に、当該ICが駆動する際に発生するICスイッチングノイズが、当該プリント配線板の電源系ラインに影響を及ぼす事を抑制する事が可能と成る為、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、耐ノイズ性に優れ、動作安定性の高い形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板を提供する事が出来る。
【0038】
尚、部品や機能ブロックの動作周波数が高周波数である場合、実装面、電源パターン層、陽電極、が互いに異なる層に配されている事が望ましい。
部品や機能ブロックの動作周波数が高周波数である場合、実装面と電源パターン層が同一だと、電源ノイズや回路動作ノイズが互いに影響し合うばかりでなく、互いに干渉してノイズを助長する事も有る。
従って、実装面、電源パターン層、陽電極、は可能な限り互いに異なる層に配される事が望ましく、更には、各層間にグラウンド層が配されているとより望ましい。
【0039】
又、キャパシタの容量値は、誘電率や誘電体の厚み等の他の条件が一定であるならば、誘電体と陽電極と陰電極の3つが全て重なり合った領域の面積に左右される為、所望の容量値が確保出来るのであれば、誘電体の大きさは陽電極や陰電極よりも大きくても構わないが、部品や機能ブロックの動作周波数が高周波数である場合は、陽電極又は陰電極の何れか面積の小さい電極と略同じ大きさである事が望ましい。
部品や機能ブロックの動作周波数が高周波数である場合、キャパシタとして機能しない領域に不用意に誘電体が配されていると、当該誘電体の影響を受けて、信号の伝送特性が劣化し、結果的に回路の動作不良要因と成る事がある。
従って、誘電体は、可能な限り、キャパシタとして機能する領域の必要最小限に留める事が望ましく、陽電極又は陰電極の何れか面積の小さい電極と略同じ大きさであれば、他の信号配線領域等に与える影響を抑制出来る。
【0040】
ここで、本発明は、使用しているパスコンが実装タイプのチップコンデンサではなく、基材(導体と誘電体)を用いて基板に形成された形成キャパシタである事により、本構成が可能と成る。
チップコンデンサは、先ず、電極の形状が決まっており、当該電極には、本発明に用いたような2箇所の層間接続ビアを設ける事が出来ないが、本発明の形成キャパシタは、所望の容量値を実現する際にも、電極の面積を同じにすれば、その形状は有る程度自由に設計する事が出来る為、本発明の2箇所の層間接続ビア間を接続出来るように(電極の幅を調整する事で)電極の長さを必要な距離に対応した長さに調整する事が出来る。
【0041】
又、チップコンデンサは、一般的に使用されるように、2つの電極を共に同じ層に実装する場合は、当該チップコンデンサ(本体)自体の長さや実装占有面積を加味して設計する必要があり、仮に、本発明に構成を近付けようとしても、電極に接続する為に必須の配線パターンが発生し、その分、不要なインダクタが増加してしまう為、本発明のような(接続分の不要インダクタ成分を排除する)効果は得られない。
又、チップコンデンサを、基板の断面に対して縦に埋め込み、2つの電極を異なる層に接続した場合は、基板の厚みが厚く成り、昨今の基板の軽薄短小化の要求に対応出来ないばかりでなく、厚みを増した層間を相互接続する配線が必要と成る為、上記同様に、不要なインダクタが増加し、本発明のような(接続分の不要インダクタ成分を排除する)効果は得られない。
【0042】
又、本発明は、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域の増加を抑制する構造である為、プリント配線板全体の小型化にも寄与する。
尚、「ICに影響が及ぶノイズレベル」とは、ノイズを受ける側のICが設計段階で設定された耐ノイズ性により千差万別であり一概に定義する事は難しいが、発生したノイズを最低でも10分の1以下にする必要があり、一般的には100分の1にする事が望ましい。
ノイズのレベルは、通常、常用対数で表される事が多く、電力換算ならば常用対数の10倍、電圧換算ならば常用対数の20倍で示される。
例えば上記の「ICに影響が及ぶノイズレベル」の例では、受信すべき信号に対して電圧換算で−6dB〜−20dB必要で、一般的には−40dB以上の差が望ましい事と成る。
【0043】
又、本発明を利用出来る周波数領域は限定される事無く、抑制が必要とされる周波数帯に応じてキャパシタ電極の形状を変更し所望の(ノイズ抑制)効果を得る事が可能であるが、後の本稿実施例で示すような、数GHzの高周波領域、或いは数Gbpsの高速伝送領域に特に良好な効果を得る事が出来る。
具体的には、周波数換算で1GHz以上10GHz未満の領域に有効で、更には1GHz以上7GHz未満の領域で特に有効である。
ノイズ抑制対象の周波数帯が1GHz未満の場合、基板に実装したICのスイッチングノイズが電源系ラインに周り込む量は少なく、当該基板に実装された他の電子部品に影響を与える事も少ない。
又、ノイズ抑制対象の周波数帯が10GHz以上の場合、本発明自体は十分に機能しても、周波数が高過ぎて、それ(本発明の機能による効果)以上に配線パターンやIC本体の各所から電磁放射(不要輻射)が発生してしまう事が懸念されると共に、ノイズフィルタ機能を構成する回路内のインダクタ成分がキャパシタ成分を抑えて支配的に成ってしまう為、基板全体が確実に機能出来ない可能性を有する。
【0044】
尚、陽電極24b上の層間接続部(ビア)25baと層間接続部(ビア)25bbにより、見掛け上、当該陽電極24b自体が電源パターンの一部と成り、分断された2つの電源パターンを接続するような構成と成る。
その為、当該陽電極24b上に於ける各層間接続ビアの外側(各層間接続ビアから陽電極24bの端までの部分)は、不要な配線パターンである。
当該不要な配線パターンは、インダクタ成分を増加させる要因と成る為、可能な限りゼロに近い方が良い。
従って、層間接続部(ビア)25baと層間接続部(ビア)25bbは、互いに異なる陽電極24b上の端部、又は端部に可能な限り近い位置に配されている事が望ましい。
つまり、層間接続部(ビア)25baと層間接続部(ビア)25bbは、陽電極上に於いて、互いの距離が最も大きく成る対角、或いは対辺を成す端部に配されている事により、不要なインダクタ成分を増加させる事無く、最も好ましい状態と成る。
【0045】
又、層間接続部(ビア)25baと電源パターン23aの接続位置関係に於いても、層間接続部(ビア)25baから電源パターン分断位置までの距離があると不要なインダクタを増加させる要因と成る為、当該距離は可能な限りゼロに近い方が望ましい。
従って、層間接続部(ビア)25baは電源パターン23aの端部、つまり、分断されたところに可能な限り近い方が良い。
同様に、層間接続部(ビア)25bbと電源パターン23bの接続も、層間接続部(ビア)25baが電源パターン23aの分断された端部に可能な限り近い方が良い。
【0046】
又、層間接続部は、流れる電流量やその他の設計都合等により、一箇所の層間接続部に複数の層間接続ビアを設ける事も可能であるが、層間接続ビアの数を増加させると、新たな寄生インダクタの発生を助長しかねない為、層間接続部各々に対して1つずつの層間接続ビアが望ましい。
【0047】
又、層間接続ビアの形状は、ノイズの反射が発生し難いように、可能な限りテーパー(斜面)が少ない形状が望ましく、貫通スルーホールのようなテーパーが無い(側面がストレートな)形状がより望ましい。
尚、層間接続ビアのテーパーが少ない形状とする為に、層間接続ビアを形成する絶縁層は出来るだけ薄い方が望ましい。
【0048】
又、分断された電源パターン23a及び23bの端部は、不要なノイズを周囲に排出したり、不要なノイズを周囲から取り込んだりし難いように、角が無いラウンド形状とした方が望ましい。
又、分断された電源パターン23a及び23bは、当該電源パターンと同一面上に在る実装パッド及び/又はビアランド及び/又はスルーホールランドに接続されていても良い。
又、分断された電源パターン23a及び23bは、当該電源パターンと同一面上に在る能動部品を実装する為の実装パッド及び/又はビアランド及び/又はスルーホールランドであっても良い。
【0049】
ここで、ノイズのフロー(流れ)を図2(b)及び図2(c)を用いて説明する。
図2(b)は、図2(a)に示した構造のプリント配線板P1に電源系ノイズ(電源ラインに加えられたノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したもので、図2(c)は、図2(a)に示した構造のプリント配線板P2にICスイッチングノイズ(ICが駆動する事により新たに発生したノイズ)が印加された際のノイズのフローを模式的に示したものである。
尚、図2(b)及び図2(c)の構成は図2(a)と同一のものであり、符号は省略している。
【0050】
図2(b)に於いて、プリント配線板P1に<1>から印加された電源系ノイズは、<5>で層間接続部(ビア)25baを通って陽電極24bに流れ、その大部分がキャパシタ24を介して<6>の陰電極24cを通り(これを「電源系ノイズのカット分」とする)、グラウンドパターン層21から<7>を経由し<8>のGNDに流れ、<5>で層間接続部(ビア)25baを通って陽電極24bに流れた電源系ノイズの内のキャパシタ24に流れなかった一部(これを「電源系ノイズのリーク分」とする)が、陽電極24bから<2>の層間接続部(ビア)25bbを介して電源パターン23bに流れ、<3>の層間接続ビアを介して能動部品(IC)28に流れ込み、再び<4>で能動部品(IC)28から出た後に<7>を経由して<8>のGNDに流れる。
【0051】
又、図2(c)に於いて、能動部品(IC)28から出たICスイッチングノイズは、<3>の層間接続ビアを経由し電源パターン23bに入り、<2>で更に層間接続ビアを介して陽電極24bに流れ、その大部分がキャパシタ24を介して<6>の陰電極24cを通り(これを「ICスイッチングノイズのカット分」とする)、グラウンドパターン層21から<7>を経由し<4>の能動部品(IC)28に戻り、<2>で層間接続部(ビア)25bbを通って陽電極24bに流れたICスイッチングノイズの内のキャパシタ24に流れなかった一部(これを「ICスイッチングノイズのリーク分」とする)が、陽電極24bから<5>の層間接続部(ビア)25baを介して電源パターン23aに伝搬し<9>へ伝わる。
【0052】
ここで、本発明の特徴と成るのは、キャパシタ24の陽電極24bは、層間接続部(ビア)25baと層間接続部(ビア)25bbの2箇所の層間接続ビアを用いて、分断された電源パターン間に直列接続され、見掛け上、当該陽電極24b自体が電源パターンの一部と成り、分断された2つの電源パターンを接続するような構成を成している事である。
【0053】
これにより、従来の構成にあったような電源パターンからキャパシタ方向に分岐する為の接続分のインダクタ成分が無くなり、従来よりインダクタ成分を小さくした構造と成り、従来よりも広帯域のノイズ抑制機能が得られる構成と成っている。
この広帯域ノイズ抑制機能により、図2(b)を用いて示したように、電源系からプリント配線板に印加された電源系ノイズを従来技術同様にその大部分をカットし、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼさない程度まで電源系ノイズのレベルを低減すると共に、同じキャパシタを用いて、図2(c)を用いて示したように、当該プリント配線板に実装されたICからプリント配線板に印加されたICスイッチングノイズの大部分をカットし、他の電子部品に影響を及ぼさない程度までICスイッチングノイズのレベルを低減する事が可能と成る。
【0054】
ここで、本発明の構造を成す事によって、従来よりも広帯域なノイズ抑制機能を有する事と成る仕組みを、等価回路を用いて説明する。
【0055】
先ず、従来技術の等価回路に関して、図4を用いて説明する。
図4は、図3に示した従来技術の構造に於ける、電源系ノイズとICスイッチングノイズの各フローに基づいた等価回路を説明する為の図である。
具体的には、図4(a)は従来技術の断面構造図に簡略的なノイズフロー等価回路図を重ねたもの、図4(b)は図4(a)から断面構造図を外しノイズフロー等価回路が見易いようにしたもの、図4(c)は図4(b)の等価回路を更に説明し易いようにノイズフロー等価回路を見易く書き直したものである。
尚、図4各図の等価回路は、ノイズフローの説明に特化したもので、ノイズフロールートの層間接続ビアや層間接続スルーホールに存在する寄生インダクタと、プリント配線板に内蔵されたキャパシタのみを対象として記載し、その他の配線やIC等に存在する寄生インダクタやキャパシタは省略している。
【0056】
図4(b)のノイズフロー等価回路図に於いて、電源系ノイズのフローとICスイッチングノイズのフローの何れの場合でも、ノイズがキャパシタ方向とそれ以外の方向とに分岐する点となる「ノイズ分岐点」から、キャパシタを通過して、GNDポートまでが、電源系ラインから選択的にノイズを通過させる部分である。
当該図4(b)の等価回路を、更に説明し易いようにノイズフロー等価回路を見易く書き直した図4(c)より明らかなように、電源系ラインから選択的にノイズを通過させる部分は、図4(c)の破線枠に示すように、キャパシタと寄生インダクタの直列接続の構成と成っており、L(インダクタ)とC(キャパシタ)の定数によってフィルタリング(ノイズ抑制)帯域が決定されるLC回路の体を成していることが分かる。
尚、LC回路でのフィルタリング帯域とは、ノイズを減衰させたい周波数範囲(減衰帯域)を示し、当該フィルタを通過後に、目的とする周波数帯に於いて減衰させたいノイズが所望のレベルまで落ちているか否かで判断する。
【0057】
通常、LC回路では、低い周波数から高い周波数に向かって周波数を上げていくに連れて、自己共振周波数までは信号の通過量が大きく成っていくが、自己共振周波数よりも高い周波数からは、周波数を上げていくに連れて通過量が小さく成っていく。
LC回路として実際に使用可能な周波数帯域は、ノイズのLC回路通過レベルによって決定される。
つまり、LC回路に取り込みたいノイズの周波数帯域を広げたいならば、自己共振周波数をより高い周波数帯にシフトさせる必要がある。
【0058】
尚、LC回路に於ける自己共振周波数は、自己共振周波数をfLC[Hz]、インダクタンスをLX[H]、キャパシタンスをCX[F]とすると、以下の式(1)より求められる。
【0059】
【数1】

【0060】
式(1)より、自己共振周波数fLCを上げるには、インダクタンスLXか、キャパシタンスCXの何れかを小さくしなければならない事が分かる。
図4に於いて、キャパシタンスCXは固定であるから、必然的にインダクタンスLXを小さくする事が必要と成る。
【0061】
図4(c)では、ノイズカットフィルタとして機能する破線枠内で、キャパシタの陽電極に接続されている層間接続ビアのインダクタがインダクタンスLXと成る。
従って、ノイズカットフィルタとして機能する破線枠内のインダクタンスLXを減らせば、自己共振周波数を上げる事が出来、結果としてLC回路に取り込みたいノイズの周波数帯域を広げる事が可能と成る。
図4(c)では、ノイズ分岐点からキャパシタまでの寄生インダクタを、小さくするか排除すれば、インダクタンスLXを小さくする事が出来、自己共振周波数を上げる事が可能と成る。
よって、内蔵しているキャパシタと電源パターン層との接続構造を変えて、ノイズカットフィルタとして機能する領域のインダクタンスを減らす構造が望まれる。
【0062】
次に、本発明の等価回路に関して、図5を用いて説明する。
図5は、図2に示した本発明の構造に於ける、電源系ノイズとICスイッチングノイズの各フローに基づいた等価回路を説明する為の図である。
具体的には、図5(a)は本発明の断面構造図に簡略的なノイズフロー等価回路図を重ねたもの、図5(b)は図5(a)から断面構造図を外しノイズフロー等価回路が見易いようにしたもの、図5(c)は図5(b)の等価回路を更に説明し易いようにノイズフロー等価回路を見易く書き直したものである。
尚、図5各図の等価回路は、前記図4各図の等価回路と同様に、ノイズフローの説明に特化したもので、ノイズフロールートの層間接続ビアや層間接続スルーホールに存在する寄生インダクタと、プリント配線板に内蔵されたキャパシタのみを対象として記載し、その他の配線やIC等に存在する寄生インダクタやキャパシタは省略している。
【0063】
図5(b)のノイズフロー等価回路図に於いて、電源系ノイズのフローとICスイッチングノイズのフローの何れの場合でも、ノイズがキャパシタ方向とそれ以外の方向とに分岐する点となるノイズ分岐点から、キャパシタを通過して、GNDポートまでが、電源系ラインから選択的にノイズを通過させる部分である。
当該図5(b)の等価回路を、更に説明し易いようにノイズフロー等価回路を見易く書き直した図5(c)より明らかなように、電源系ラインから選択的にノイズを通過させる部分は、図5(c)の破線枠に示すように、キャパシタのみの構成と成っている。
【0064】
ここで、図4(c)に示した従来技術の等価回路にある破線枠で示したノイズカットフィルタと、図5(c)に示した本発明の等価回路にある破線枠で示したノイズカットフィルタを比較してみると、図4(c)にはノイズ分岐点とキャパシタの間に寄生インダクタが存在するが、図5(c)にはノイズ分岐点とキャパシタの間に寄生インダクタが存在しないことが分かる。
従って、図4(c)の従来技術のノイズカットフィルタと図5(c)の本発明のノイズカットフィルタでは、ノイズ分岐点とキャパシタの間の寄生インダクタの分だけ、図5(c)の本発明のノイズカットフィルタの方がLC回路としてのL成分(インダクタンス)が小さい事と成る。
【0065】
これより、ノイズカットフィルタとして機能する破線枠内のインダクタンスが従来技術より少なく成り、前記式(1)に示したLC回路としてのインダクタンスLXが小さく成った為、自己共振周波数fLCが上がり、結果として通過信号の周波数帯域を広げる事が可能と成った。
よって、本発明の如く、内蔵しているキャパシタと電源パターン層との接続構造を従来技術より変えて、ノイズカットフィルタとして機能する領域のインダクタンスを減らす構造とする事により、通過信号の周波数帯域を広げ、電源系ノイズフローとICスイッチングノイズフローの両方に対応する事が可能と成った。
【0066】
その結果、プリント配線板の電源系に発生するノイズを当該プリント配線板の内層に形成された形成キャパシタを用いて抑制する形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該プリント配線板の電源系ラインに発生した電源系ノイズが、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼす事を抑制すると共に、当該ICが駆動する際に発生するICスイッチングノイズが、当該プリント配線板の電源系ラインに影響を及ぼす事を抑制する事が可能と成る為、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、耐ノイズ性に優れ、動作安定性の高い形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板を得る事が可能と成った。
つまり、本発明により、実装したICが高速動作をして自らノイズを発生する場合に於いても、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を増加させる事無く、安定した動作が可能なプリント配線板を得る事が出来た。
【0067】
◎試験例1
以下に、前述の本発明と従来技術の各々の構造に、具体的な定数や設計条件を数値で当て嵌め、電磁界シミュレータによる計算を施した、本発明と従来技術の周波数特性比較結果を、図6及び図7を用いて説明する。
【0068】
図6は、本発明と従来技術の周波数特性比較の為に、HDMI(High−Difinition Multimedia Interface:高品位マルチメディア・インターフェース)回路の電源ラインに適した伝送線路と形成キャパシタをモデル化したもので、図6(a)が従来技術のモデル、図6(b)が本発明の構造を用いたモデルである。
又、図7は、図6(a)及び図6(b)の各々のモデルを用いてシミュレーションした結果を示したものである。
【0069】
尚、シミュレータは、ソネット社の「Sonnet Lite Plus」を用いた。
シミュレーション条件は、図6(a)及び図6(b)共に共通で、以下の通りとした。
・モデリング対象:HDMI回路の電源ラインに適した伝送線路及び形成キャパシタ
・HDMI規格:伝送速度fHDMI=3.4Gbps
・パスコン目標値:Ctarget=0.1Ω@1.7GHz
・キャパシタ容量値:Creal=936pF
・配線パターン:材質=銅、厚みtCu=32μm、配線幅wCu=100μm
・絶縁層:材質=通常のFR−4相当の絶縁材、誘電率εrins=4.5、厚みtins=90μm、
・上部電極(陽電極):材質=銅、厚みtPOS=32μm、面積APOS=(2×2)mm2
・誘電体:誘電率εrdie=13.5、厚みtdie=0.5μm、
・GND層:材質=銅、厚みtGND=18μm、面積AGND=∞
・層間接続ビア:穴径Dvia=100μm、厚みtvia=90μm
【0070】
又、図7に於いて、縦軸はノイズカットフィルタ(機能)による挿入損失を表し、例えば入力レベルより出力レベルが30dB低下する場合は、低下量の絶対値にマイナス符号をつけて−30(dB)と示すように表記し、横軸は周波数を常用対数で表している。
【0071】
図7より、従来技術では1.65GHzで自己共振が発生している為、当該1.65GHzの自己共振周波数までしかノイズカットが出来ない事が分かる。
この従来技術に対して、本発明は、1.65GHzを超えても挿入損失の急峻な落ち込みが無く、約7GHzまで安定して挿入損失が増加し、それ以上の周波数においても十分な損失量があるため、高周波においてもノイズカットが出来る事が分かる。
【0072】
ここで、HDMI規格の伝送速度fHDMI=3.4Gbpsは、伝送信号fHDMIが矩形波である為、周波数換算で1.7GHzとし、第3高調波まで考慮すると約5GHzの帯域を必要とすると考えられる。
従って、実際に除去すべきICスイッチングノイズは5GHz以上の周波数と成り、従来技術では1.65GHz以下までしか対応出来なかったのに対して、本発明は10GHzまで安定したノイズ抑制機能を有し、当該HDMI規格の伝送速度に対しても十分に対応可能と成る。
尚、図7からも明らかなように、ICスイッチングノイズよりも低い周波数である電源系ノイズも、同じ1つのキャパシタを用いて、十分にノイズカット出来る事が分かる。
【0073】
◎試験例2
次に、前述の本発明と従来技術の各々の構造を実際のプリント配線板で作製し、各々の周波数特性の比較結果を図8に示す。
尚、当該実際のプリント配線板での実施例結果検証では、測定装置の関係上、約6GHz以上の測定が出来なかった為、図8は本発明と従来技術共に6GHzまでの結果表示と成っている。
【0074】
結果、図8も図7と同様に、従来技術では1.65GHzで自己共振しているのに対して、本発明は1.65GHzを超えても挿入損失の急峻な落ち込みが無く、約6GHzまで安定して挿入損失が増加している。
従って、実機を用いた検証実験に於いても、前述のシミュレーション結果と同様に、除去すべきHDMI規格のICスイッチングノイズを十分に除去出来ると共に、ICスイッチングノイズよりも低い周波数である電源系ノイズも、同じ1つのキャパシタを用いて、十分にノイズカット出来る事が確認出来た。
【0075】
以上より、本発明の構造により、ノイズ抑制用のキャパシタの数や領域を新たに増加させる事無く、プリント配線板の電源系ラインに発生した電源系ノイズが、当該プリント配線板に実装されたICに影響を及ぼす事を抑制すると共に、当該ICが駆動する際に発生するICスイッチングノイズが、当該プリント配線板の電源系ラインに影響を及ぼす事を抑制する事が可能である事が確認出来た。
【0076】
本発明を説明するに当たって、前述の実施の形態を例として説明したが、本発明の構成はこれらの限りでなく、また、これらの例により何ら制限されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1,21,31:グラウンドパターン層
1a,21a,31a:グラウンドパターン
2a,2b,2c,22a,22b,22c,32a,32b,32c:絶縁層
3,23,33:電源パターン層
3a,3b,23a,23b,33a:電源パターン
4,24,34:キャパシタ
4a,24a,34a:誘電体
4b,24b,34b:陽電極
4c,24c,34c:陰電極
5b,25ba,25bb,35b:層間接続部(ビア)
6,7,26,27,36,37:回路パターン層
6a,26a,36a:回路パターン
8,28,38:能動部品IC
9,29,39:電子部品
P1,P2,P3:プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体層と絶縁層が交互に積層され、少なくとも1つの能動部品を含む複数の電子部品が搭載される部品搭載面と、電源パターン層と、グラウンドパターン層と、当該電源パターン層と当該グラウンドパターン層の層間に配された誘電体を対向する陽電極と陰電極とで挟んだ構成のキャパシタとを有する形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該能動部品が、当該電源パターン層に配され、且つ、当該陽電極に接続している電源パターンと電気的に接続されている事を特徴とする形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板。
【請求項2】
複数の導体層と絶縁層が交互に積層され、少なくとも1つの能動部品を含む複数の電子部品が搭載される部品搭載面と、電源パターン層と、グラウンドパターン層を有し、対向する陽電極と陰電極とで誘電体を挟んだ構成のキャパシタが、当該電源パターン層と当該グラウンドパターン層の層間に配された絶縁層の内部に配されている形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板に於いて、当該電源パターン層に配された電源パターンの内、当該能動部品と電気的に接続されている電源パターンが、当該同一の電源パターン層上に於いて、第1の電源パターンと第2の電源パターンの2つに分断されていると共に、当該分断された第1の電源パターンが第1の層間接続部を介して当該陽電極と接続され、且つ、当該分断された第2の電源パターンが、当該第1の層間接続部とは異なる第2の層間接続部を介し、当該第1の層間接続部とは異なる位置で当該陽電極と接続されている事を特徴とする形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板。
【請求項3】
前記第1の層間接続部と前記第2の層間接続部は、少なくとも一方が、前記陽電極上の端部に配されている事を特徴とする請求項2記載の形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板。
【請求項4】
前記第1の層間接続部と前記第2の層間接続部は、少なくとも一方が、分断された電源パターンの端部に接続されている事を特徴とする請求項2又は3記載の形成キャパシタ内蔵型多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−30528(P2013−30528A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163961(P2011−163961)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000228833)日本シイエムケイ株式会社 (169)
【Fターム(参考)】