説明

往復動エンジン

【課題】区画部材との摺動におけるシリンダの内面の局所的な摩耗を低減することができる往復動エンジンを提供すること。
【解決手段】往復動エンジン1は、リング溝7及び8と、ピストンリング9及び10と、ピストンリング9及び10間の空間11を、スラスト側の空間12及び反スラスト側の空間13に区画する区画手段14と、スラスト側の空間12を燃焼室15に連通させる連通手段16とを具備しており、区画手段14は、ピストンリング9及び10間に設けられた少なくとも一対の区画部材40及び41を具備しており、区画部材40及び41の夫々は、ピストン3のX方向における一方の端部82がピストン3のX方向における他方の端部81に対してスラスト側又は反スラスト側に位置するように、X方向に対して傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発膨張行程において、ピストンに作用する側圧に対抗して、ピストンを高温高圧燃焼ガスによって支持(ガス圧フロート)し、ピストンとシリンダとの摩擦抵抗を減少させた往復動エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1では、ピストンの往復動方向で互いに隣接して配されており、ピストンの側面に形成されている第一及び第二のリング溝と、第一及び第二のリング溝に夫々嵌入された第一及び第二のピストンリングと、第一及び第二のピストンリング間の空間を、スラスト側の空間及び反スラスト側の空間に区画する区画手段と、スラスト側の空間を燃焼室に連通させる連通手段とを具備しており、区画手段は、第一及び第二のピストンリング間に設けられた少なくとも一対の区画部材を具備している往復動エンジンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/001215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、斯かる往復動エンジンでは、ピストンの往復動に伴って区画部材がシリンダの内面に対して摺動するために、区画部材に当接するシリンダの内面が局所的に摩耗する虞がある。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ピストンの往復動において、区画部材によるシリンダの内面の局所的な摩耗を低減することができる往復動エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の往復動エンジンは、ピストンの往復動方向で互いに隣接して配されており、ピストンの側面に形成されている第一及び第二のリング溝と、第一及び第二のリング溝に夫々嵌入された第一及び第二のピストンリングと、第一及び第二のピストンリング間の空間を、スラスト側の空間及び反スラスト側の空間に区画する区画手段と、スラスト側の空間を燃焼室に連通させる連通手段とを具備しており、区画手段は、第一及び第二のピストンリング間に設けられた少なくとも一対の区画部材を具備しており、一対の区画部材の夫々は、ピストンの往復動方向における一方の端部がピストンの往復動方向における他方の端部に対してスラスト側又は反スラスト側に位置するように、ピストンの往復動方向に対して傾斜している。
【0007】
本発明の往復動エンジンによれば、ピストンの往復動において、区画部材によるシリンダの内面の局所的な摩耗を低減することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、区画部材によるシリンダの内面の局所的な摩耗を低減することができる往復動エンジンを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の例の断面説明図である。
【図2】図2は、図1に示す例のII−II線断面矢視説明図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態の他の例の断面説明図である。
【図4】図4は、図3に示す例のIV−IV線断面矢視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に示した実施例に基づいて説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されない。
【実施例】
【0011】
図1は、爆発膨張行程におけるピストン3の降下行程初期の様子を示す。本例の往復動エンジン1は、4サイクルガソリンエンジンである。
【0012】
図1及び図2において、本例の往復動エンジン1は、シリンダ2と、シリンダ2内を往復動方向としてのX方向に往復動するピストン3と、小端部4でピストンピン4aを介してピストン3に回動自在に連結しているコンロッド5と、X方向で互いに隣接して配されており、ピストン3の側面(側周面)6に形成されているリング溝7及び8と、リング溝7及び8に夫々嵌入されたピストンリング9及び10と、ピストンリング9及び10間の空間11を、スラスト側の半環状の空間12及び反スラスト側の半環状の空間13に区画する区画手段14と、スラスト側の空間12を燃焼室15に連通させる連通手段16とを具備している。
【0013】
シリンダ2は、その内面17によって規定された円柱状の空間18を有しており、空間18には、ピストン3が方向Xで往復動自在となるように配されている。シリンダ2には、吸気弁及び排気弁が配設されている。
【0014】
ピストン3は、本例では、その側周面6にオイルリング19を備えている。
【0015】
コンロッド5は、その大端部(図示せず)で回転自在なクランクシャフト(図示せず)に連結している。
【0016】
リング溝7及び8は、夫々側周面6に沿って環状となっており、リング溝7は、燃焼室15を規定しているピストン3の頭部端面(トップ面又は冠面)23に隣接して配されており、リング溝8は、頭部端面23との間でリング溝7を挟んで側周面6に配されている。
【0017】
ピストンリング(トップリング又はガスリング)9は、頭部端面23に隣接して配されている。ピストンリング9は、その合口部が区画部材40及び41よりも空間12側に位置するように、リング溝7に配されている。ピストンリング9は、その外周面34で内面17に弾性力をもって当接している。
【0018】
ピストンリング(セカンドリング又はガスリング)10は、頭部端面23との間でピストンリング9を挟んで側周面6に配されている。ピストンリング10は、その合口部が区画部材40及び41よりも空間13側に位置するように、リング溝8に配されている。ピストンリング10は、その外周面39で内面17に弾性力をもって当接している。
【0019】
区画手段14は、ピストンリング9及び10間に設けられた区画部材40及び41と、区画部材40を内面17に向かって弾性的に付勢する付勢部材としてのばね42と、区画部材41を内面17に向かって弾性的に付勢する付勢部材としてのばね43と、ピストンリング9及び10間に位置して側周面6に配されていると共に、内面17に向かって凹状となっている溝部44及び45とを具備している。
【0020】
区画部材40は、溝部44によって規定される空間に配されており、区画部材41は、溝部45によって規定される空間に配されている。
【0021】
区画部材40及び41と、ばね42及び43と、溝部44及び45とは、ピストンピン4aの軸方向としてのY方向で夫々互いに対向して配されている。
【0022】
区画部材40及び41の夫々は、X方向においてピストンリング10側に位置する端部82がX方向においてピストンリング9側に位置する端部81に対してスラスト側に位置するように、X方向に対して傾斜して伸びている。ばね42及び43並びに溝部44及び45の夫々は、区画部材40及び41の夫々の長手方向に沿ってX方向に対して傾斜して伸びている。
【0023】
連通手段16は、スラスト側のシリンダ2の内面17に設けられた連通通路70を具備しており、連通通路70は、ピストン3が上死点近傍に位置した際に、空間12を連通通路70を介して燃焼室15に連通させるように配されている。連通通路70は、本例では、シリンダ2の内面17に形成された凹部71に規定されている。
【0024】
以下、本例の往復動エンジン1の動作について説明する。
【0025】
圧縮行程の終了後に開始される燃料及び空気の混合気の燃焼行程では、ピストン3が上死点を通過した後であって当該上死点近傍に位置している間に、燃焼ガス99のガス圧が高まり、高まったガス圧の圧力をピストン3が受けることで下死点に向かって加速すると共に、複数の連通通路70によりスラスト側の空間12を燃焼室15に連通させてスラスト側の空間12に燃焼ガス99を導入する。ここで、ピストン3から、X方向に対して傾斜しているコンロッド5に往動力が与えられることによってピストン3にスラスト側に向かう側圧力が与えられるが、当該側圧力に抗して、空間12に導入した燃焼ガス99のガス圧によりピストン3に反スラスト側に向かう抗側圧力を与えて、当該ピストン3をガスフロートさせる。このようにして、燃焼行程時に生じるピストンリング9及び10とシリンダ2の内面17との間のスラスト側における摺動摩擦抵抗を低減する。尚、燃焼行程では、ピストン3は、下死点近傍まで往動する。燃焼行程の終了後に開始される燃焼ガス99の排気行程においても、図8に示すように、上述の燃焼行程で、空間12に導入された燃焼ガス99のガス圧に基づく前記抗側圧力が維持され、ピストン3がガスフロートされていることにより、当該ピストン3のY方向に直交する面内における揺動を抑えている。
【0026】
往復動エンジン1の連通手段16は、例えば図3に示すように、連通通路70を複数具備していてもよく、斯かる複数の連通通路70は、ピストン3が上死点近傍に位置した際に、空間12を連通通路70を介して燃焼室15に連通させるように配される。
【0027】
往復動エンジン1の区画手段14は、例えば図4に示すように、リング溝8を規定する底面54と底面54に対向するピストンリング10の内周面55との間に生じる隙間を介して空間12及び13が互いに連通するのを阻止するように、リング溝8に配された阻止部材56及び57と、リング溝8に配されていると共に、阻止部材56及び57をピストンリング10の内周面55に向かって夫々弾性的に押圧する押圧部材としてのコイルばね58及び59と、底面54に配されており、ピストンリング10の内周面55に向かって凹状となっている凹状部(穴部)60及び61とを更に具備していてもよい。
【0028】
阻止部材56及び57の夫々は、本例では、円柱状のピンからなっている。
【0029】
阻止部材56及びコイルばね58は、凹状部60によって規定される空間に配されており、阻止部材57及びコイルばね59は、凹状部61によって規定される空間に配されている。
【0030】
阻止部材56及びコイルばね58は、X方向において区画部材40の端部82に隣接して配されており、阻止部材57及びコイルばね59は、X方向において区画部材41の端部82に隣接して配されている。
【0031】
斯かる阻止部材56及び57等を更に具備した区画手段14によれば、阻止部材56及び57の夫々をリング溝8に配し、且つ、これらをコイルばね58及び59によって夫々弾性的に押圧することで、往復動エンジン1の各作動行程において、空間12及び13がリング溝8を介して連通することを阻止すると共に、区画部材40及び41をピストンリング9及び10間に夫々配し、且つ、これらをばね42及び43によって夫々弾性的に押圧することで、往復動エンジン1の各作動行程において、空間12及び13が互いに連通することを阻止することができ、更に、例えば、ピストン3がガス圧及び慣性力によりY方向に直交する面内で回転運動した場合にあっても、阻止部材56及び57と、ピストンリング10との間に隙間が生じることをなくすことができると共に、区画部材40及び41とシリンダ2の内面17との間に隙間が生じることをなくすことができるため、スラスト側の空間12に導入された燃焼ガスのガス圧を維持することができる。
【0032】
本例の往復動エンジン1によれば、X方向で互いに隣接して配されており、ピストン3の側周面6に形成されているリング溝7及び8と、リング溝7及び8に夫々嵌入されたピストンリング9及び10と、ピストンリング9及び10間の空間11を、スラスト側の空間12及び反スラスト側の空間13に区画する区画手段14と、スラスト側の空間12を燃焼室15に連通させる連通手段16とを具備しており、区画手段14は、ピストンリング9及び10間に設けられた少なくとも一対の区画部材40及び41を具備しており、区画部材40及び41の夫々は、X方向における一方の端部82がX方向における他方の端部81に対してスラスト側に位置するように、X方向に対して傾斜しているために、区画部材40及び41との摺動におけるシリンダ2の内面17の局所的な摩耗を低減することができる。
【0033】
上記では、区画部材40及び41の夫々の端部82が端部81に対してスラスト側に位置するようにして区画部材40及び41をX方向に対して傾斜させたが、これに対して端部82が端部81に対して反スラスト側に位置するようにして区画部材40及び41をX方向に対して傾斜させてもよく、更には、区画部材40と区画部材41とを反対方向に傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 往復動エンジン
3 ピストン
7、8 リング溝
9、10 ピストンリング
11、12、13 空間
14 区画手段
15 燃焼室
16 連通手段
40、41 区画部材
81、82 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの往復動方向で互いに隣接して配されており、ピストンの側面に形成されている第一及び第二のリング溝と、第一及び第二のリング溝に夫々嵌入された第一及び第二のピストンリングと、第一及び第二のピストンリング間の空間を、スラスト側の空間及び反スラスト側の空間に区画する区画手段と、スラスト側の空間を燃焼室に連通させる連通手段とを具備しており、区画手段は、第一及び第二のピストンリング間に設けられた少なくとも一対の区画部材を具備しており、一対の区画部材の夫々は、ピストンの往復動方向における一方の端部がピストンの往復動方向における他方の端部に対してスラスト側又は反スラスト側に位置するように、ピストンの往復動方向に対して傾斜している往復動エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76387(P2013−76387A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217813(P2011−217813)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000174220)坂東機工株式会社 (51)
【Fターム(参考)】