説明

徐放性の口腔用組成物

口腔内に付着させることができ、薬剤の徐放性に優れており、したがって、長時間局所的に有効成分を作用させることができ、口腔内の種々の疾病に対する予防および治療効果を効率的に発揮でき、かつ長時間使用しても口の中の違和感が少なく、安全で副作用も少ない、直接打錠法により製造可能な口腔用徐放性組成物およびその製造方法を提供する。
ラクトフェリンを含有する口腔用組成物であって、ペクチン質を含有することを特徴とする徐放性の口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品および医薬などに使用できるラクトフェリンを含有する徐放性の口腔用組成物およびその製造方法に関する。
さらに詳しくは、口腔内における粘膜付着性および徐放性を高めたラクトフェリンを含有する口腔用組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化、ストレスおよび医薬品の副作用などによる口腔乾燥症(ドライマウス)、歯周病、歯肉炎、口臭、口内炎、苔舌、上気道炎、逆流性食道炎などの口腔領域の疾病が社会問題となっている。
【0003】
例えば、口腔乾燥症は、種々の原因によって唾液分泌が減少(唾液減少症)または枯渇(無唾液症)したために口内の乾燥をきたす状態の総称である。口腔乾燥症が起こると、唾液によって口腔内が洗い流されないため、口臭の発生原因になるだけでなく、食物の咀嚼および嚥下に困難をきたすようになる。
【0004】
また、口内炎は、口腔、舌および歯肉にみられる炎症であり、重症疾患、栄養失調および急性感染症の患者等にも生じる。特に、ほとんどの抗がん剤には難治性の口内炎を頻発させる副作用があり、抗がん剤治療を受けた患者の9割以上が口内炎に悩まされるといわれている。口内炎のほとんどは放置しても自然に治癒するが、食事の摂取時に痛みを伴う。
【0005】
このように、これらの口腔領域の疾病は、患者の生命を脅かすようなものではないとしても、生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく低下させる。
【0006】
従来、これら口腔領域における疾患の予防および治療としては、抗生物質、抗炎症剤、抗ウイルス剤などの合成医薬品による予防や治療が主に行われている。
しかしながら、これら合成医薬品による予防および治療には、耐性菌の出現、副作用などの問題があり、これらの問題を解決できるより有効な技術の開発が望まれていた。
【0007】
ラクトフェリンは、主に哺乳動物の乳汁中に存在し、好中球、涙、唾液、鼻汁、胆汁、精液などにも見出されている分子量約80,000の糖タンパク質である。ラクトフェリンは、ヒトでは初乳中に6〜8g/L、常乳中に3〜4g/Lと多量に含まれ、赤ちゃんは母乳から1日に2〜3gのラクトフェリンを摂取している。このように、抵抗力の弱い赤ちゃんがこれ程多量に摂取しても副作用などの問題がないことから、ラクトフェリンは安全性が非常に高いタンパク質と考えられている。
【0008】
ラクトフェリンの生理活性としては、抗菌作用、鉄吸収制御作用、細胞増殖活性化作用、造血作用、抗炎症作用、抗酸化作用、食作用亢進作用、抗ウイルス作用、ビフィズス菌生育促進作用、抗がん作用、がん転移阻止作用などが知られている。さらに、最近、ラクトフェリンがドライマウスや眼球乾燥症(ドライアイ)にも有効なことも報告されている。
【0009】
口腔領域の疾患に関するラクトフェリンの利用としては、ラクトフェリンの抗菌作用や抗ウイルス作用などの生理活性を利用した、口内炎を治療する新規医薬組成物(特開平08−217693;特許文献1)、ムチン産生促進する口腔乾燥症の治療剤(特開平09−012473;特許文献2)、歯周疾患の治療および予防のための口腔用組成物(特開2001−089339;特許文献3)、嚥下可能な口腔清浄組成物(特開2001−181160;特許文献4)、口腔貼付用組成物(特開2002−322088;特許文献5)、口腔衛生用途に用いる散剤(特開2003−137809;特許文献6)、口腔内の健康維持のための錠剤型歯磨き剤(特開2004−26816;特許文献7)等が開発され、特許出願されている。
【0010】
しかし、上記のような従来のラクトフェリン含有口腔用組成物は、いずれも嗽剤、歯磨き剤、散剤、軟膏などの剤型がほとんどであり、口腔内でラクトフェリンの作用を局所的に長く発揮させるには適していない。また、従来のラクトフェリンを含有する口腔用固形製剤は、錠剤が厚いために口の中での異物感が強く、長時間の使用に耐えることは困難である。
【0011】
すなわち、口腔内の種々の疾病の治療や予防を行うためには、口腔粘膜に付着し、長時間薬物を作用させる除放性の製剤が望まれているが、現在までにそのようなものは実現していなかった。
【0012】
また、ラクトフェリンは水分や熱処理に対して不安定である。そのため、ラクトフェリンを含有する製剤を製造する場合、一般的に錠剤の製造に利用されている湿式顆粒圧縮法は不適であり、原料を粉末状態で直接圧縮成型する直接打錠法による製造が望ましい。しかし、従来の口腔用貼付剤では、直接打錠法によって薄い錠剤に成型することが困難であった。
【0013】
【特許文献1】特開平08−217693
【特許文献2】特開平09−012473
【特許文献3】特開2001−089339
【特許文献4】特開2001−181160
【特許文献5】特開2002−322088
【特許文献6】特開2003−137809
【特許文献7】特開2004−26816
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、口腔内に付着させることができ、薬剤の徐放性に優れており、したがって、長時間局所的に有効成分を作用させることができ、口腔内の種々の疾病に対する予防および治療効果を効率的に発揮でき、かつ長時間使用しても口の中の違和感が少なく、安全で副作用も少ない、直接打錠法により製造可能な口腔用徐放性組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、有効成分として、口腔内の種々の疾病に対する予防および治療効果を期待できるラクトフェリンに、粘膜付着性および徐放性を有するペクチン質を組み合わせることによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1) ラクトフェリンを含有する口腔用組成物であって、ペクチン質を含有することを特徴とする徐放性の口腔用組成物;
(2) ペクチン質が、ペクチンである、前記(1)記載の組成物;
(3) 糖アルコールをさらに含む、前記(1)または(2)記載の組成物;
(4) 糖アルコールが、キシリトールである、前記(1)〜(3)のいずれか1記載の組成物;
(5) 粉末ラクトフェリンおよび粉末ペクチン質を含む原料粉末混合物が、加圧成型されている、前記(1)〜(4)のいずれか1記載の組成物;
(6) 粉末ラクトフェリン1重量部に対し、粉末ペクチン質0.5〜2重量部および粉末糖アルコール0.2〜1重量部を含む、前記(1)〜(5)のいずれか1記載の組成物;
(7) 厚さ0.5〜2mmに成型されている、前記(1)〜(6)のいずれか1記載の組成物;
(8) 原料粉末を構成する粒子の平均粒径が、1〜250μmである、前記(1)〜(7)のいずれか1記載の組成物;
(9) 口腔乾燥症(ドライマウス)、歯周病、歯肉炎、口臭、口内炎、苔舌、上気道炎、逆流性食道炎、口角炎、舌痛症および抜歯後のドライソケットなどの口腔領域の疾病の治療または予防のための前記(1)〜(8)のいずれか1記載の組成物;
(10) 容器に収容された前記(1)〜(9)のいずれか1記載の組成物、および使用説明書を含む、製品、を提供する。
【0017】
また、本発明は、
(11) 粉末ラクトフェリンおよび粉末ペクチン質を含む原料粉末を混合し、得られた粉末混合物を加圧成型することを特徴とする、徐放性の口腔用組成物の製造方法;
(12) 原料粉末が、粉末糖アルコールをさらに含む、前記(11)記載の方法;
(13) 原料粉末が、混合の前、または混合の後であって加圧成型の前に、微粉化されている、前記(11)または(12)記載の方法;
(14) 原料粉末を構成する粒子の平均粒径が、1〜250μmである、前記(11)〜(13)のいずれか1記載の方法、をも提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の徐放性の口腔用組成物は、有効成分としてラクトフェリンを含有する組成物において、ペクチン質を含有させることにより、良好な口腔内への付着性および優れた徐放性を実現することができる。
【0019】
また、本発明によれば、貼付用製剤の厚さを薄くすることが可能になるため、口腔内に長時間付着させても違和感が少なく、しかもラクトフェリンが口腔内で徐放されて長時間にわたって局所を中心に生理活性を発揮することができる。
【0020】
さらに、本発明の徐放性の口腔用組成物に必須成分として含有されるラクトフェリンおよびペクチン質は、いずれも食品添加物として長い間使用された実績があり、安全性が充分に確保されている。
【0021】
糖アルコールをも含む本発明の組成物は、上記の効果に加えて、さらに、改良された吸水性および結合性を有する。また、糖アルコールも食品添加物として長期間使用されており、安全である。さらに、ペクチンおよび糖アルコールも唾液に溶解するため、固形物の残存が殆どない点でも有利である。
【0022】
したがって、本発明の徐放性の口腔用組成物によれば、ドライマウス、歯周病、歯肉炎、口臭、口内炎、苔舌、上気道炎、逆流性食道炎などの口腔領域の疾病の治療または予防に使用する場合、有効成分としてのラクトフェリンの効果がより効率的に発揮される。
【0023】
また、本発明の徐放性の口腔用組成物は、顆粒製造工程を経ることなく、直接打錠法により各原料粉末を直接加圧成型して製造することができるため、水分や熱に対して不安定なラクトフェリンの失活を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】は、各付着成分の錠剤厚さに対する効果を示す図である。
【図2】は、各付着成分の錠剤硬度に対する効果を示す図である。
【図3】は、各付着成分の錠剤粘膜付着性に対する効果を示す図である。
【図4】は、キシリトール含量の錠剤厚さに対する効果を示す図である。
【図5】は、キシリトール含量の錠剤硬度に対する効果を示す図である。
【図6】は、キシリトール含量の錠剤付着性に対する効果を示す図である。
【図7】は、錠剤からのラクトフェリンの放出プロファイル(徐放性試験)の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において、「ラクトフェリン」とは、天然のラクトフェリン分子そのもののほか、遺伝子組換え型ラクトフェリン、およびラクトフェリンの活性フラグメントなどのラクトフェリンの機能的等価物をも包含し、鉄イオンの有無またはその含有量、由来する生物種などを問わない。「粉末ラクトフェリン」とは、乾燥粉末状態のラクトフェリンを指す。粉末ラクトフェリンを構成する個々のラクトフェリン粒子の平均粒径は、通常は500μm以下、好ましくは1〜250μm、さらに好ましくは1〜180μmの範囲である。
【0026】
なお、本発明に関して、「粒子」は、必ずしもそれが球形であることを意味せず、したがって、「粒径」は、粒子が球形である場合はその直径であるが、そうでない場合は、その粒子が通過し得る円孔の直径を指す。また、「平均粒径」は、粉末を構成する粒子の粒径にばらつきがある場合に、10以上の粒子の粒径を測定した平均値を指す。
【0027】
本発明において、「ペクチン質」とは、ガラクツロナンまたはポリガラクツロン酸を主体とする植物由来のコロイド性の炭水化物誘導体であり、プロトペクチン、ペクチニン酸、ペクチナート、ペクチン、ペクチン酸などの総称であり、その由来する植物種などを問わない。ペクチン質としては、上記で例示したような各種の物質の1種または2種以上の混合物を使用することができる。好ましくは、ペクチン質にはペクチンが含まれ、さらに好ましくは、本発明の組成物にペクチン質として添加される成分の50(重量)%以上がペクチンであり、最も好ましくは、本発明の組成物にペクチン質として添加される成分の実質的にすべてがペクチンである。「粉末ペクチン質」とは、乾燥粉末の状態のペクチン質を指す。粉末ペクチンを構成する個々のペクチン質粒子の平均粒径は、通常は500μm以下、好ましくは1〜250μm、さらに好ましくは1〜180μmの範囲である。
【0028】
本発明において、「糖アルコール」とは、水素添加されて水酸基を有する糖類であり、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、還元麦芽糖、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、イソマルチトール、パラチノース、パラチニット、ラクチトールなどの総称である。本発明に使用される糖アルコールは、上記のような各種の物質の1種または2種以上であることができる。糖アルコールとして本発明の組成物に添加される成分は、好ましくはキシリトールを含む。本発明に使用される糖アルコールは、好ましくは粉末であり、本発明においては粉末の糖アルコールを「粉末糖アルコール」という。粉末糖アルコールを構成する個々の糖アルコール粒子の平均粒径は、通常は500μm以下、好ましくは1〜250μm、さらに好ましくは1〜180μmの範囲である。キシリトール粒子のような糖アルコール粒子は、固まり易いので、凝集を防止するために粉砕時にデンプン等の固結防止剤を少量添加することが望ましい。
【0029】
本発明の徐放性の口腔用組成物を構成する上記の各成分の比率は、ラクトフェリン1重量部に対し、ペクチン質0.5〜4重量部が好ましい。糖アルコールを含有する本発明の組成物の場合は、ラクトフェリン1重量部に対し、ペクチン質0.3〜4重量部および糖アルコール0.1〜2重量部が好ましく、最も好ましくはラクトフェリン1重量部に対してペクチン質0.5〜2.0重量部および糖アルコール0.2〜1.0重量部の範囲である。
【0030】
本発明の組成物において、ラクトフェリンは、口腔領域の疾病の予防または治療のため、またはその他の疾病の予防または治療のため、または一般的な健康増進のための有効成分としての役割を果たすことができる。また、ペクチン質は付着剤および/またはゲル化剤として、糖アルコールは吸水調節剤および/または結合剤として、それぞれ作用することができる。本発明の組成物は、これらの成分に加えて、ラクトフェリン以外の有効成分または生理活性物質、ペクチン質以外の付着剤および/またはゲル化剤、糖アルコール以外の吸水調節剤および/または結合剤をも含むことができ、さらに、増量剤、香料、呈味料、着色料などの機能的な成分、および後述する滑沢剤のように製造工程上必要な成分など、製剤の分野で公知の各種の付加的成分を含むことができる。これらの付加的成分の種類および添加量は、当業者が適宜選択することができる。
【0031】
本発明の徐放性の口腔用組成物は、任意の形・大きさの錠剤とすることができる。口腔内貼付用の錠剤の厚さは、0.5〜2mmの範囲であることが好ましい。また、錠剤の水平方向の硬度(実施例に記載する方法で測定したもの)は、通常は1.5〜5Kg、好ましくは2〜4Kgの範囲である。
【0032】
本発明の組成物は、製剤の分野で公知の任意の方法(特に錠剤製造法)で製剤化することができるが、ラクトフェリンの失活を避ける点からは、水分の添加および加熱の工程を含まない直接打錠法によって製造することが有利である。直接打錠法は、原料粉末を加圧して任意の形態に圧縮成型する手法である。
【0033】
たとえば、各成分の粉末を含む原料粉末を混合し、均一な状態になった粉末混合物を一定の錠剤に加圧成型することができる。原料粉末は、微粉化されていることが好ましく、この微粉化は各成分粉末の状態(混合の前)に行ってもよく、各成分を混合した後であって加圧成型の前に行ってもよい。本発明に関して、微粉化とは、粉末を構成する粒子の大きさもしくは形を揃えるため、または粒径を小さくするために行う処理を指し、このような処理の具体的な方法・作業は当業者には公知である。
【0034】
上記の方法の打錠工程においては、一般的に、粉末の流動性、付着性、充填性を高めるために滑沢剤が添加されることが好ましい。当業者は、滑沢剤を、一般的に製剤分野の打錠工程で利用されるものから適宜選ぶことができ、その添加濃度も、使用する滑沢剤の種類により最適値に合わせることができる。
【0035】
本発明の徐放性の口腔用組成物は、ドライマウス、歯周病、歯肉炎、口臭、口内炎、苔舌、上気道炎、逆流性食道炎などの口腔領域の疾病の治療または予防に使用することができる。また、一般にラクトフェリンが有効であるその他の疾病の予防または治療のためにも使用することができる。さらに、ラクトフェリンの一般的な健康増進作用を利用するために使用することもできる。
【0036】
したがって、本発明の組成物は、1個ずつまたは一定の個数を容器に収容し、使用説明書を含む製品として提供されることができる。製品は、上記のような使用目的に応じて、医薬品、健康食品、嗜好品など任意のものであることができる。ここで、「容器」は、袋、箱、瓶、缶などのあらゆる材質・形態のものであってよく、セロハン、紙などのシートによる包装であってもよい。また、ここで、「使用説明書」は、提供される商品の使用方法、特徴、使用上の注意などのいずれか1以上を含む説明が記載されていればよく、容器に貼られたシール、電子文書、図案などであってもよく、文書の記載された書面に限らない。
【0037】
本発明の徐放性の口腔用組成物は、口腔内に長時間保持されて使用されることができる。したがって、本発明の組成物は、舌下などに置いた状態で使用することもできるが、有利な使用方法としては、口腔内、特に患部またはその周辺部に貼付して使用することが挙げられる。特に、本発明の組成物は安全性が極めて高く、副作用の心配もないので、同時に複数個を複数箇所へ、連続して同一箇所へ、などの貼付が可能である。使用量は使用目的、改善したい症状、使用者の状態などに応じて適宜決定することができるが、たとえば1日1〜10個、好ましくは1日1〜5個程度を、1回または2〜5回程度に分けて使用することができる。また、本発明の組成物は、連続的に使用してもよく、あるいは任意の間隔をおいて継続的に使用してもよい。さらに、他の医薬品などと組み合わせてもよく、他の医薬品などと同時にまたは交替的に用いることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および試験例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は下記の例に制限されるものではない。
【0039】
実施例1:平板錠製剤の調製
粉末のラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社製)25mgと粉末のペクチン(「スローセット」;八宝商会製)40mgとを秤量し、各成分の粉末(全量65mg)をよく混合した後、赤外吸収スペクトル用油圧式打錠機(島津製作所製)を用いて、打錠圧10kNで30秒間加圧し、直径8mmの平板錠に圧縮成型した。なお、各成分は、瑪瑙製乳鉢で微粉化した後、60メッシュで篩過して使用した。
【0040】
比較のため、ペクチンの代わりにタマリンドガム(和光純薬工業製)またはCMC(カルボキシメチルセルロース:和光純薬工業製)のいずれかを40mg添加して同様に平板錠の製剤を調製した。上記の製剤の組成を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
試験例1:ペクチン添加の効果
上記の実施例で製造した各錠剤について、以下の方法により、(1)錠剤の厚さ、(2)硬度、(3)吸水性、(4)粘膜付着性を試験した。
【0043】
(1)錠剤の厚さ:ノギスを用いて測定した(n=10)。測定値の平均値±S.D.を算出した。
(2)硬度:木屋式硬度計((株)藤原製作所製)を用いて、直径方向の硬度を測定した(n=10)。測定値の平均値±S.D.を算出した。
(3)吸水性:中村らの方法(F.Nakamura,R.Ohta,Y.Machida T.Nagai; In vitro and in vivo nasal mucoadhesion of some water−soluble polymers, Int. J. Pharm., 134,173−181(1996))に従って測定した。概略は、ガラスの円筒部分にあらかじめ精製水を充填し、目盛りを開始点に合わせた後、錠剤をガラスフィルターからなる試料部に設置し、設置と同時に90秒間にわたり経時的に液面の開始点からの移動量(吸水量、μL)を測定した。吸水性を示す特性値として、30秒後の吸水量および5秒間毎の速度を20秒まで計算し、平均化した値を算出して、平均吸水率とした。
【0044】
(4)粘膜付着性:レオメーター(不動工業(株)製、NRM−2002D・D型)を用いて測定した。ddY系マウス(体重25〜30g)の腹膜を摘出し、その腹膜でレオメーター専用アダプター(直径10mmの平円板)を腹膜側が外側になるように覆い、糸で縛り固定した。錠剤は、レオメーターの台上に両面テープで固定した。その台を上昇させ、錠剤を腹膜に200gの力で30秒間押し当てた。その後、2cm/minの速度で台を下降させ、錠剤と腹膜が離れる応力を測定した(n=5)。測定値の平均値±S.D.を算出した。
【0045】
結果を図1〜3および表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
図1は厚さ、図2は硬度、図3は粘膜付着性、表2は吸水性についての試験結果である。錠剤の厚さについては、成分による影響は殆どなく(図1)、粘膜付着性については、ペクチンが最も優れていた(図3)。硬度(図2)についてはCMCが最も優れていたが、CMCは粘膜付着性が最も悪く、ペクチンの約半分程度にすぎなかった。また、吸水性(表2)については、吸水量および吸水率ともに、低い方から順に、タマリンドガム、ペクチン、CMCであった。
【0048】
以上の結果から、ペクチンを含有する本発明の組成物は、口腔貼付用として優れていることが明らかになった。
【0049】
実施例2:キシリトールを含有する本発明の製剤の調製
試験例1と同じ条件で赤外吸収スペクトル用油圧式打錠機(島津製作所製)を用いた直接打錠法によって、表3に示す種々の量のキシリトール(「キシリット」;東和化成工業製)を含有する製剤(直径8mmの平板錠)を調製した。ただし、各成分粉末としては、各成分を瑪瑙乳鉢で微粉化した後、60メッシュ(粒径:〜250μm)で篩過したものと100メッシュ(粒径:〜147μm)で篩過したものとのそれぞれを使用した。
【0050】
【表3】

【0051】
試験例2:糖アルコール添加の効果
実施例2で製造した各錠剤について、試験例1と同様の方法により、(1)錠剤の厚さ、(2)硬度、(3)吸水性、(4)粘膜付着性を試験した。
【0052】
結果を図4〜6、表4および5に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
図4は厚さ、図5は硬度、図6は粘膜付着性、そして表4および表5は吸水性についての結果である。キシリトールを含有する組成の製剤(D〜H)は、キシリトールを含有しない組成の製剤(A)と比較して、厚さの点では有意差がなかったが(図4)、キシリトールの含有量が高い(ペクチンの含有量が低い)と硬度が低下する傾向が見られた(図5、GおよびH)。粘膜付着性については、キシリトールが含有されている(ペクチンの含有量が低い)と低下する傾向が見られるが、試験した範囲の量では有意差はなかった(図6)。
【0056】
一方、吸水性については、キシリトールを含有する組成では、キシリトールを含有しない組成よりも向上しており、CMCに匹敵するまたはそれを上回る吸水性を示したものもあった(表4、G;表5、D〜G)。
【0057】
以上の結果をまとめると、硬度では組成EおよびFが優れ、吸水性では組成Gが優れ、また粘膜付着性では組成D、E、Fが優れていた。総合的な特性としては、組成EおよびFが優れていた。また、成分粉末の粒径については、各成分を100メッシュで篩過したもの(図4〜6において黒色の棒で示す)が、60メッシュで篩過したもの(図4〜6において灰色の棒で示す)より、硬度、吸水性、粘膜付着性など何れについても優れており、組成の変更によって特性が不利に変化する場合でも粒径を小さくすることによってその影響を軽減するまたは無くすことができることがわかった。
【0058】
試験例3:徐放性の試験
実施例2の「F」の組成(錠剤1個当り、ラクトフェリン1部(25mg)に対し、ペクチン1部(25mg)、キシリトール0.6部(15mg))で、全て100メッシュで篩過した粉末材料を使用して実施例2と同様に製造した錠剤について、以下のようにして錠剤からのラクトフェリンの放出性を測定した。
【0059】
日局14溶出試験装置(NTR−3000型;富山産業)を用いて、パドル法により測定した。試験液としては、1/15Mリン酸緩衝液(pH6.8)250mLを使用した。パドルの回転数は60rpmとした。ガラス板に10μLの試験液を滴下し、錠剤を貼り付けた。37±1℃の試験液中にガラス板に固定した錠剤を投入し、経時的に試験液を0.5mL採取し、同温度の試験液を等量加えた。この試験液中のラクトフェリン濃度を、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて測定した。
【0060】
HPLCの測定条件は以下のとおりであった:
(装置)島津製作所製、クロマトグラフ(LC−6AD)、検出器(SPD−10V)
(移動相)水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=60:40:0.1(v/v/v)(カラム)東ソー(株)製、TSKgel Phenyl−5PW RP(4.6mmI.D× 7.5cm)
(検出波長)220nm
(流速) 0.5mL/min
(注入量) 20μL
【0061】
結果を図7に示す。ラクトフェリンは約2時間かけて徐々に放出されており、本発明の製剤が徐放性に優れていることが確認された。
【0062】
実施例3:錠剤の製造(1)
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社製)385g、ペクチン(「スローセット」;八宝商会製)385g、キシリトール(「キシリット」;東和化成工業製)230g、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステル「B−370F」;三菱化学フーズ製)15gを充分に混合し、卓上型ロータリー式打錠機(RIVA社)を使用して、打錠圧5kNで10mm平板錠(厚さ約1mm)を調製した。ラクトフェリンおよびキシリトールは、微粉砕後、100メッシュで篩過したものを使用し、ペクチンは市販品を80メッシュで篩過したものを使用した。
【0063】
調製した錠剤の直径方向の硬度は2〜3Kgの範囲にあり、ヒトロ腔内における付着性も良く、また付着後の違和感も殆どなかった。さらに、口腔内に付着した錠剤は、徐々に溶解し、約2時間後にほぼ消失したので、徐放性も問題ないことが確認された。
【0064】
実施例4:錠剤の製造(2)
ラクトフェリン(タツア・ミルク・バイオロジクス社製)38.5g、ペクチン(「スローセット」;八宝商会製)38.5g、キシリトール(「キシリット」;東和化成工業製)23g、ショ糖脂肪酸エステル(リョートーシュガーエステル「B−370F」;三菱化学フーズ(株)製)1.5gを充分に混合し、卓上型ロータリー式打錠機(RIVA社)を使用して、打錠圧5kNで10mm平板錠(厚さ約1mm)を調製した。原料のラクトフェリン、キシリトールおよびペクチンは、全て市販の粉末(32メッシュ篩過程度)を、粉砕せず、そのまま混合して打錠を行った。
【0065】
この場合、調製した錠剤の直径方向の硬度は1Kg程度であった。そのため、保存中・運搬中にやや崩れやすい心配があるが、口腔内での使用に関しては特に問題はなかった。
【0066】
この出願は、平成16年3月9日出願の日本特許出願、特願2004−065313に基づくものであり、特願2004−065313の明細書および特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを含有する口腔用組成物であって、ペクチン質を含有することを特徴とする徐放性の口腔用組成物。
【請求項2】
ペクチン質が、ペクチンである、請求の範囲1記載の組成物。
【請求項3】
糖アルコールをさらに含む、請求の範囲1または2記載の組成物。
【請求項4】
糖アルコールが、キシリトールである、請求の範囲1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
粉末ラクトフェリンおよび粉末ペクチン質を含む原料粉末混合物が、加圧成型されている、請求の範囲1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
粉末ラクトフェリン1重量部に対し、粉末ペクチン質0.5〜2重量部および粉末糖アルコール0.2〜1重量部を含む、請求の範囲1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
厚さ0.5〜2mmに成型されている、請求の範囲1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
原料粉末を構成する粒子の平均粒径が、1〜250μmである、請求の範囲1〜7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
口腔乾燥症(ドライマウス)、歯周病、歯肉炎、口臭、口内炎、苔舌、上気道炎、逆流性食道炎、口角炎、舌痛症および抜歯後のドライソケットなどの口腔領域の疾病の治療または予防のための請求の範囲1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
容器に収容された請求の範囲1〜9のいずれか1項記載の組成物、および使用説明書を含む、製品。
【請求項11】
粉末ラクトフェリンおよび粉末ペクチン質を含む原料粉末を混合し、得られた粉末混合物を加圧成型することを特徴とする、徐放性の口腔用組成物の製造方法。
【請求項12】
原料粉末が、粉末糖アルコールをさらに含む、請求の範囲11記載の方法。
【請求項13】
原料粉末が、混合の前、または混合の後であって加圧成型の前に、微粉化されている、請求の範囲11または12記載の方法。
【請求項14】
原料粉末を構成する粒子の平均粒径が、1〜250μmである、請求の範囲11〜13のいずれか1項記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/084703
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510783(P2006−510783)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003978
【国際出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(599012167)株式会社NRLファーマ (18)
【Fターム(参考)】