説明

循環腫瘍細胞アッセイ

インスリン様成長因子1受容体(IGF−1R)を発現する循環腫瘍細胞を検出、計数、および分析する方法を開示する。これらの方法は、癌のスクリーニングおよびステージ判定、治療レジメンの開発、ならびに治療効果または癌再発などのモニタリングに有用である。そのような循環腫瘍細胞の検出、計数、および分析を容易にする試験キットも提供する。
【図1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍学および診断検査の分野、より詳細には、癌スクリーニングの方法、ならびに化学療法治療効果または癌再発などを予測およびモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン様成長因子(IGF−1)は、高濃度で血しょう中を循環している7.5kDポリペプチドであり、ほとんどの組織で検出可能である。IGF−1は、構造的にインスリンに類似しており、細胞分化および細胞増殖を刺激し、持続的な増殖をするために、ほとんどの哺乳類細胞型によって必要とされている。これらの細胞型には、とりわけ、ヒト二倍体線維芽細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、Tリンパ球、神経細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、および骨髄系幹細胞が含まれる。
【0003】
IGF−1刺激の細胞増殖または分化をもたらす伝達経路における最初のステップは、IGF−1受容体(IGF−1R)へのIGF−1またはIGF−2(または超生理学的濃度のインスリン)の結合である。IGF−1Rは、チロシンキナーゼ成長因子受容体ファミリーに属し(Ullrichら、Cell、61:203−212、1990年)、インスリン受容体と構造的に類似している(Ullrichら、EMBO J.5:2503−2512、1986年)。
【0004】
疫学研究は、正常レベルの上端にあるIGF−1レベルが、正常レベルの下端にあるIGF−1レベルを有する個体と比較して、肺癌、乳癌、前立腺癌、および結腸直腸癌などの癌のリスクを増大させることを示している。さらに、in vitroおよびin vivoでの腫瘍細胞の維持における、IGF−1および/またはIGF−1Rの役割に関する考慮すべき証拠がある。IGF−1Rレベルは、肺癌(Kaiserら、J.Cancer Res.Clin.Oncol.119:665−668、1993年;Moodyら、Life Sciences 52:1161−1173、1993年;Macauleyら、Cancer Res.、50:2511−2517、1990年)、乳癌(Pollakら、Cancer Lett.38:223−230、1987年;Foekensら、Cancer Res.49:7002−7009、1989年;Arteaqaら、J.Clin.Invest.84:1418−1423、1989年)、前立腺癌および大腸癌(Remaole−Bennetら、J.Clin.Endocrinol.Metab.75:609−616、1992年;Guoら、Gastroenterol.102:1101−1108、1992年)で上昇している。前立腺上皮におけるIGF−1の脱調節発現は、トランスジェニックマウスにおける異常増殖をもたらす(DiGiovanniら、Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 97:3455−3460、2000年)。加えて、IGF−1は、ヒト神経膠腫のオートクリン刺激因子のようであるが(Sandberg−Nordqvistら、Cancer Res.53(11):2475−78、1993年)、一方で、IGF−1は、IGF−1Rを過剰発現する線維肉腫の成長を刺激することが示されている(Butlerら、Cancer Res.58:3021−3027、1998年)。IGF−1/IGF−1R相互作用が様々なヒト腫瘍の成長で演じている役割に関する概説については、Macaulay,Br.、J.Cancer、65:311−20、1992年を参照のこと。
【0005】
IGF−1R RNAに対するアンチセンス発現ベクターまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、IGF−1Rの干渉によって、IGF−1媒介の細胞成長の阻害がもたらされることが示された(例えば、Wraightら、Nat.Biotech.18:521−526、2000年を参照)。IGF−1のペプチドアナログ(Pietrzkowskiら、Cell Growth&Diff.3:199−205、1992年;Pietrzkowskiら、Mol.Cell.Biol.12:3883−3889、1992年)またはIGF−1 RNAに対するアンチセンスRNAを発現するベクター(Trojanら、Science 259:94−97、1992年)を用いて、成長を抑制することもできる。加えて、IGF−1Rに対する抗体(Arteagaら、Breast Canc.Res.Treatm.22:101−106、1992年;およびKalebicら、Cancer Res.54:5531−34、1994年)、およびIGF−1Rのドミナントネガティブ変異体(Pragerら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 91:2181−85、1994年;Liら、J.Biol.Chem.269:32558−2564、1994年;Jiangら、Oncogene 18:6071−6077、1999年)は、形質転換表現型を逆戻りさせること、腫瘍形成を阻害すること、および転移性表現型の減失を誘導することができる。
【0006】
IGF−1は、アポトーシスの調節でも重要である。アポトーシスは、プログラム細胞死であり、免疫系および神経系の成熟過程を含めた様々な発生過程に関与している。発生での役割に加えて、アポトーシスは、腫瘍形成に対する細胞の重要な安全装置としても意味づけられている(Williams、Cell 65:1097−1098、1991年;Lane、Nature 362:786−787、1993年)。アポトーシスプログラムの抑制は、悪性腫瘍の発達および進行に寄与しうる。
【0007】
IGF−1は、IL−3依存性造血細胞におけるサイトカイン供給停止によるアポトーシス(Rodriguez−Tarduchy,G.ら、J.Immunol.149:535−540、1992年)およびRat−1/mycER細胞における血清供給停止によるアポトーシス(Harrington,E.ら、EMBO J.13:3286−3295、1994年)から防御する。c−mycによる誘導を受けた線維芽細胞がそれらの生存に関してIGF−1に依存していることの実証は、IGF−1受容体が、アポトーシスの特異的な抑制による腫瘍細胞の維持における重要な役割、IGF−1またはIGF−1Rの増殖効果とは異なる役割を有することを示唆している。
【0008】
アポトーシスに対するIGF−1の防御効果は、IGF−1と相互作用する、細胞表面に存在するIGF−1Rを有することに依存している(Resnicoffら、Cancer Res.55:3739−41、1995年)。腫瘍細胞の維持における、IGF−1Rの抗アポトーシス機能への支持は、IGF−1Rレベルと、アポトーシスの程度と、ラット同系腫瘍の腫瘍形成能との間の定量的相関性を同定した、IGF−1Rに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた研究によっても提供された(Rescinoffら、Cancer Res.55:3739−3741、1995年)。過剰発現されたIGF−1Rがin vitroでエトポシド誘導性アポトーシスから腫瘍細胞を防御すること(Sellら、Cancer Res.55:303−06、1995年)、さらに劇的なことに、野生型レベルより低いレベルへの、IGF−1Rレベルの低減がin vivoで腫瘍細胞の大規模なアポトーシスを引き起こしたこと(Resnicoffら、Cancer Res.55:2463−69、1995年)が見出されている。
【0009】
一部の研究は、IGF−1Rの発現レベルが臨床成果と相関していることを示している。腫瘍モデルにおいて、IGF−1Rは、細胞増殖、生存、および転移を調節し、標的療法に対する耐性を誘導する。IGF−1Rの阻害は、細胞障害性薬物の活性を有意に増強する(Cohen,B.ら、Clin.Cancer Res.11(5):2063−73)。したがって、IGF−1Rシグナル伝達の阻害は、新規な癌療法開発のための有望な戦略と思われる。
【0010】
上皮組織の悪性腫瘍は、癌の最も一般的な形態であり、癌関連死の大部分の原因となっている。これらの腫瘍の手術療法における進歩により、死亡率は、早期の転移および再発に関連したものが増加しているが、これらは一次診断の時点では、しばしば潜在性である(Racilaら、Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 95:4589−94、1998年;Pantelら、J.Nat’l Cancer Inst.91(13):1113−24、1999年)。例えば、一部の臓器は解剖学的に離れた位置にあるので、それによって、それらが隣接している構造に浸潤し、かつ1cmより大きくなっている前に、それらの臓器の腫瘍が検出される可能性は低くなっている。乳癌に関してさえ、マンモグラフィーによって検出される、乳癌の小腫瘍(<1cm)の12〜37%は、診断時に既に転移している(Chadha M.ら、Cancer 73(2):350−3、1994年)。
【0011】
循環腫瘍細胞(「CTC」)は、様々な固形悪性腫瘍を有する患者の血行中に存在している上皮由来の細胞である。それらは原発腫瘍のクローンに由来し、悪性である(Fehmら、Clin.Cancer Res.8:2073−84、2002年を参照)。CTCを、癌腫の癌進行に関する独立的な徴候であると考えることができることを示す証拠が諸文献に蓄積されている(BeitschおよびClifford、Am.J.Surg.180(6):446−49、2000年(乳房);Feezorら、Ann.Oncol.Surg.9(10):944−53、2002年(結腸直腸);Ghosseinら、Diagn.Mol.Pathol.8(4):165−75、1999年(黒色腫、前立腺、甲状腺);Glaves、Br.J.Cancer 48:665−73、1983年(肺);Matsunamiら、Ann.Surg.Oncol.10(2):171−5、2003年(胃);Racilaら、1998年;Pantelら、1999年)。
【0012】
循環腫瘍細胞の検出および計数は、いくつもの理由から患者ケアにとって重要である。これらは、原発腫瘍の前に検出可能でありえ、したがって、早期診断が可能となる。これらは治療に反応して減少する。したがって、CTCを計数する能力は、所与の治療レジメンの有効性をモニタリングすることを可能にする。これらは、アジュバントセッティングで、測定可能疾患がない患者における再発をモニタリングするツールとして用いることができる。例えば、CTCは、乳房切除術の8〜22年後に、36%の乳癌患者で存在していることが判明しており、これらは明らかに微小転移巣(単一腫瘍細胞の沈着または複数の腫瘍細胞の非常に小さいクラスター)由来のものであった(Mengら、Clin.Can.Res.10(24):8152−62、2004年)。
【0013】
加えて、転移性癌を有する患者の循環腫瘍細胞の存在/数は無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の両方と相関していることが示されているので、CTCは、PFSおよびOSを予測するのにも使用できる。例えば、Cristofanilliら、J.Clin.Oncol.23(1):1420−1430、2005年;Cristofanilliら、N.Engl.J.Med.351(8):781−791、2004年を参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、CTCの単なる検出より感度が高い迅速かつ信頼性の高いアッセイの必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を予測する方法であって、a)患者から生物検体を取得するステップと、b)他の試料成分が実質的に除外されるように、生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、試料を調製するステップと、c)試料を、上皮細胞に特異的に結合する少なくとも1種の試薬と接触させるステップと、d)試料を、細胞表面のインスリン様成長因子受容体(IGF−1R)に対する結合親和性を有する薬剤と接触させるステップと、e)試料を分析して、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在を決定するステップとを含み、試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在が、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を予測するものである方法を対象とする。
【0016】
本発明は、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性をモニタリングする方法であって、a)患者から第1の生物検体を取得するステップと、b)他の試料成分が実質的に除外されるように、第1の生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、第1の試料を調製するステップと、c)第1の試料を、上皮細胞に特異的に結合する少なくとも1種の試薬と接触させるステップと、d)第1の試料を、細胞表面のインスリン様成長因子受容体(IGF−1R)に対する結合親和性を有する薬剤と接触させるステップと、e)第1の試料を分析して、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在および数を決定するステップと、f)IGF−1Rアンタゴニスト療法を患者に施すステップと、g)IGF−1Rアンタゴニスト療法を施した後に、患者から第2の生物検体を取得するステップと、h)第2の生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、第2の生物検体から第2の試料を調製し、第2の試料に関してステップc)〜e)を行うステップと、i)第1の試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の数を、第2の試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の数と比較するステップとを含み、第2の試料中の数の方が少ないことが、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を示すものである方法も対象とする。
【0017】
好ましい実施形態では、IGF−1Rアンタゴニスト療法が抗IGF−1R抗体である。
【0018】
本発明は、IGF−1Rを発現する循環腫瘍細胞の存在に関して患者試料をスクリーニングするためのキットであって、a)磁気コア物質、タンパク質ベースコーティング物質、および腫瘍細胞に特徴的な決定基に特異的に結合する抗体を含み、抗体が前記ベースコーティング物質に直接または間接的に連結されているコーティングされた磁性ナノ粒子と、b)腫瘍細胞以外の試料成分を分析から除外するための細胞特異的色素と、c)IGF−1Rに対する結合親和性を有する少なくとも1つの検出可能標識された薬剤とを含むキットをさらに対象とする。
【0019】
以下において明らかになるであろう本発明の以上および他の目的、ならびに利点および特徴と共に、以下の本発明の詳細な説明、図、および添付されている特許請求の範囲を参照して、本発明の本質を、より明確に理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本明細書中で別段に定義されない限り、本発明に関連して使用する科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。さらに、文脈が別段のことを要求しない限り、単数形の用語には複数が含まれるものとし、複数形の用語には単数が含まれるものとする。
【0021】
米国では毎年、100万件を超える、癌の新規の症例が診断されており、この国での死亡のうち約5件につき1件が、癌、またはその治療に関連した合併症によって引き起こされている。この疾患の治療および診断の改善を目的として、少なからぬ継続的努力が行われている。ほとんどの癌患者は、彼らの原発腫瘍によって死亡するのではなく、むしろ彼らは転移、すなわち元の腫瘍から脱離し、しばしば遠隔部位まで体内を移動する悪性細胞によって確立された複数の広範囲の腫瘍コロニーのため死亡する。残念ながら、転移コロニーは、しばしば、検出および排除するのが原発腫瘍より困難であり、それらすべての治療に成功することはしばしば不可能である。悪性細胞の転移能は、依然として癌治療に対する主要な障害の1つとして残っており、IGF−1受容体によって促進されうる。例えば、Bahrら、Growth Factors 23:1−14、2005年を参照。
【0022】
癌および癌転移の複雑さ、ならびに癌患者を治療する際の長年にわたるフラストレーションに基づいて、治療を導き、かつ転移または再発へのそのような治療の影響をモニタリングするための診断検査を開発するために、多くの試みがなされてきた。そのような試験は、おそらく、乳房腫瘍に関するマンモグラフィー、または前立腺癌に関するデジタル直腸試験などの比較的粗い試験の代わりに、癌のスクリーニングにも使用できるであろう。
【0023】
IGF−1およびIGF−1Rの、ある種の癌との相関に関する知識に鑑みて、循環腫瘍細胞の数およびそれらのIGF−1R発現への抗IGF−1R抗体の影響、ならびに抗体の臨床的有効度を評価する研究を行った。現在では、IGF−1Rを発現する循環腫瘍細胞(IGF−1R陽性CTC)を検出および計数するための、癌の診断および治療に有用であり、かつCTCに関する従来技術の方法より優れているアッセイが開発されている。上記アッセイは、IGF−1受容体の生物学的機能の、より良い理解に寄与しうる。例えば、腫瘍細胞の侵襲的/転移性表現型を誘発するのには、高いIGF−1Rレベルが必要であると仮定されているが、IGF−1R発現のレベルと転移能との間の相関は、まだ完全に解明されているわけではない。IGF−1R陽性CTC数が高い患者は、急速な疾患進行によって証明される、より攻撃的な腫瘍を有するようであったことが見出されている。したがって、IGF−1R発現の増大と転移能との間の潜在的相関は、不良転帰および/または治療介入の予測因子として、IGF−1R陽性CTCの検出の基礎となりうるであろう。
【0024】
まず初めに、本発明のCTC−IGF−1Rアッセイ法は、腫瘍の早期検出に、または診断を確認するのに有用である。それらは、予後の評価にも使用できる。
【0025】
本発明の方法は、治療の計画にも有用である。治療前にIGF−1R陽性循環腫瘍細胞を有する患者は、そうでない患者より、IGF−1Rアンタゴニスト療法に反応する可能性が高いことが見出されている。何らかの治療を開始する前に、IGF−1R陽性抗体に関して患者をスクリーニングすることによって、IGF−1Rアンタゴニスト療法に反応する可能性が最も高い集団を予め選択し、それに従って治療レジメンを計画することが可能である。抗IGF−1R抗体の生物マーカーとしての、CTC−IGF−1Rアッセイの潜在的使用は、生物学的最適用量の同定、用量および治療レジメン選択、ならびに治療期間の決定を含みうるであろう。
【0026】
化学療法を受けた血中におけるIGF−1R陽性CTCレベルの変化と、臨床状態との間に良好な相関関係があることが見出されている。この相関関係に鑑みて、治療に対する患者の反応または疾患進行を、本発明のアッセイ法を用いて評価することも可能である。循環腫瘍細胞表面のIGF−1受容体の測定は、真の薬力学的(PD)エンドポイントを提供する。ひとたび治療が開始されたならば、腫瘍細胞表面のIGF−1Rの測定は、最大耐量(MTD)に到達せずに、標的の最大阻害に到達したかどうかを判定するのに使用できる。所与の治療に対する耐性の進展をモニタリングすることもできる。本発明の付加的利益は、CTCを測定することによって、伝統的な手段によるものより頻繁に薬物効果を測定できることである。
【0027】
最後に、本発明の方法は、臨床症状がないときでさえ、腫瘍の再発を検出するのにも使用できる。
【0028】
本発明の方法は、乳房、前立腺、卵巣、肺、および大腸の癌、とりわけ非小細胞肺癌(NSCLC)およびホルモン不応性前立腺癌(HRPC)を含めた非血液学的悪性腫瘍の診断および/または治療に関連して使用できる。
【0029】
複数の腫瘍型を有する患者のスクリーニングは、HRPC患者でCTCおよびIGF−1R陽性CTCが頻繁に検出されることを示している。HRPCにおけるこれらの細胞の同定は、予後または治療上の含意を有しうる。実際、以前の研究において、HRPC患者の生存期間を予測する上で、CTCの存在が最も有意なパラメータであることが見出された(Morenoら、Urology 65:713−718、2005年)。複数の研究が、前立腺癌の進展におけるIGF−1Rの役割を確立しており、in vitroデータは、IGF−1R発現および/または活性の増大が、ホルモン不応性表現型への進行と関連していることを示唆している(Hellawellら、Cancer Res.、62:2942−2950、2002年;Chottら、Am.J.Pathol.155:1271−1279、1999年)。ここに記載の一研究では、IGF−1R陽性と考えられたHRPC患者(すなわち、少なくとも1つのIGF−1R陽性CTCが検出された)が、検出可能なCTCのない患者より高い血清PSAレベルの中央値を登録時に有していた。さらに、PSAレベル、ならびにCTCおよびIGF−1R陽性CTCの数は、治療反応または疾患進行中に平行して変化した。進行性の転移性HRPCを有する患者は、より早期の疾患群におけるものより有意に高いCTC数を有したことが以前に示されており、さらに、2人の患者で、ドセタキセルを用いた初期治療の1週間後におけるCTC数の低下が報告された(Morenoら、2005年、同上)。しかし、両方の患者とも進行し、ドセタキセルを追加投与したのにもかかわらず、CTC数およびPSAレベルの上昇を示した。ここに記載された研究は、CTC数の持続的な低減のみがHRPCでの治療に対する反応と関連していることを示唆している。したがって、CTC数は、PSAレベルのものとは独立した予後情報を提供しうる。重要なことに、前臨床データは、抗IGF−1R治療に反応したPSAの変化が、前立腺腫瘍成長における変化を反映することを示している(Wuら、Clin.Cancer Res.11:3065−3074、2005年)。
【0030】
試験参入時に検出可能なIGF−1R陽性CTCを有する患者における、抗IGF−1R抗体およびドセタキセル療法の併用に対する反応者の比率が、これらの細胞が検出されなかった患者におけるものより高かったことも見出されている。さらに、遅延反応は必ずしも臨床利益と関連しているわけではないが(例えば、Petrylakら、J.Nat’l Cancer Inst.98:516−521、2006年参照)、IGF−1R−CTC陰性患者で遅延反応が見られた。これらのデータは、抗IGF−1R療法の利益を得ることができるであろうHRPC患者を同定するための、IGF−1R CTC計数の潜在的使用を示唆するものである。
【0031】
本発明の方法は、IGF−1Rシグナル伝達を抑制する様々な化学療法化合物を用いた治療の計画および/またはモニタリングに使用することができる。米国特許第7037498号および米国特許出願公開第2005/0069539号に記載のものなど、抗IGF−1R抗体が特に好ましい。他の好ましい抗IGF−1R抗体には、F−50035およびMK−0646(Pierre Fabre社/Merck社)、19D12(Schering−Plough社)、R1507(Roche社/Genmab社)、EM−164/AVE−1642(Immunogen社/Sanofi−Aventis社)、IMC−A12(ImClone Systems社)、ならびにAMG479(Amgen社)と、国際公開第2006/069202号、米国特許出願公開第2005/0147612号、米国特許出願公開第2005/0084906号、米国特許出願公開第2005/0249730号、米国特許出願公開第2004/0018191号、米国特許出願公開第2005/0136063号、米国特許出願公開第2003/0235582号、米国特許出願公開第2004/0265307号、米国特許出願公開第2004/0228859号、米国特許出願公開第2005/0008642号、欧州特許出願公開第1622942号、米国特許出願公開第2003/0165502号、および米国特許出願公開第2005/0048050号に記載の抗体とが含まれる。
【0032】
本発明を用いた使用に適した分子の他のクラスには、IGF−1Rに特異的に結合するペプチドアプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチドIGF−1R調節因子、および小分子IGF−1R阻害剤が含まれる。好ましい小分子IGF−1R阻害剤には、OSI−906(OSI Pharmaceuticals社)、AEW−541(Novartis社)、BMS−536924およびBMS−554417(Bristol−Myers Squibb社)、INSM−18(Insmed社)、AG−1024(Pfizer社)、XL228(Exelixis社)、ピクロポドフィリン、ならびに国際公開第2004/043962号および国際公開第2004/054996号に開示されているものが含まれる。
【0033】
以下により詳細に記述するように、本発明の方法は、患者試料からの特定の抗原性反応部位を有する細胞の選択的除去を行うものである。そのような選択的除去の方法および装置は当業者によく知られている。例えば、米国特許第4551435号、第4795698号、第4925788号、第5108933号、第5200084号、および米国特許出願公開第2004/0157271号を参照のこと。好ましい実施形態では、対象とする細胞を、磁性流体を用いて患者試料から免疫磁気的に単離する。磁性流体は、小さな磁性粒子をコロイド懸濁液中に含有しており、この磁性粒子の流動を磁石または磁場によって制御することができる。
【0034】
本発明がより明解に理解されるように、以下の実施例を記述する。これらの実施例は、例示のみを目的とし、いかなる意味でも本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0035】
ここに記載する実施例では、複数の地理的位置でヒト対象から、細胞形態および細胞表面抗原の発現を保存する細胞保存剤を含有している10mL真空採血管であるCELLSAVE(商標)保存チューブ(Immunicon社、米国ペンシルベニア州ハンティンドンバレー(Huntingdon Valley)所在)内に血液試料を採取した。試料は、室温で維持し、血液採取の72時間以内に上述の通りに処理した。
【0036】
治療に対する患者の反応は、固形癌の治療効果判定のための基準(RECIST)(Therasseら、J.Nat’l Cancer Inst.92:205−216、2000年を参照)を用いて、またはHRPC患者では、前立腺特異抗原ワーキンググループ(PSAWG)判定規準(Bubleyら、J.Clin.Oncol.17:3461−3467、1999年を参照)を用いて放射線学的に評価した。
【0037】
(実施例1)
(IGF−1R循環腫瘍細胞アッセイの開発)
細胞培養および細胞スパイキング(Cell Spiking):乳癌細胞系MCF−7、前立腺細胞系PC3−9、膀胱細胞系T−24、および造血細胞系CEMは、10%FCSを補足したRPMI−1640細胞培養培地を含有するフラスコ中で培養し、その後、トリプシンを用いて採取した。トリパンブルー排除で評価した、細胞懸濁液の生存率が90%を超えた場合のみ、その細胞懸濁液を用いた。実際の細胞数を決定するために、50μlアリコートの細胞を透過処理し、0.05%サポニンと、最終濃度0.5μg/mlの、フィコエリトリン(PE)に結合した抗サイトケラチンモノクローナル抗体10μlとを含有するPBS200μlを添加することによって蛍光標識した。室温での15分間のインキュベーションの後、緩衝液200μlと、全部で約2万個のビーズを含有する蛍光ビーズ(Beckman−Coulter社、米国フロリダ州マイアミ(Miami)所在)20μlを添加した。ビーズのみを含有するデュプリケートチューブを、試料の100%が吸引されるまでフローサイトメータ(FACSCalibur(商標)、BD Biosciences社、米国カリフォルニア州サンノゼ(San Jose)所在)で計測した。これは、20μl中に存在するビーズの数の正確な推定値を与えた。その後、実験チューブを、各チューブ内で1万個のビーズが計数されるまで、上記フローサイトメータ上でトリプリケートで試験した。単位容積あたりのビーズの既知数を用いて、細胞の濃度を決定した。IGF−1R検出用には、スパイキングされた細胞の数は、7.5mL血液中で130から220の間であると見積もられた。
【0038】
CTCの単離および計数:血液から細胞を単離するための試料は、CELLTRACKS AUTOPREP(登録商標)システム、試薬キット、およびCELLSPOTTER(登録商標)アナライザーからなるCELLTRACKS(登録商標)システム(Immunicon社、米国ペンシルベニア州ハンティンドンバレー所在)を用いて、調製および分析した。CELLTRACKS AUTOPREPシステムは、希少細胞検出用の自動試料調製システムである。上記試薬キットは、免疫磁気的に細胞を濃縮するための、抗体でコーティングされた磁気流体と、蛍光結合した抗体のカクテル(それぞれ上皮細胞および白血球を標識するためのPEおよびアロフィコシアニン(APC)に結合した抗体)と、核色素と、上記細胞を洗浄、透過処理、および再懸濁するための緩衝液とからなる。癌細胞の検出には、血液7.5mLを、腫瘍関連抗原EpCAM(上皮細胞接着分子または上皮細胞表面抗原)に対する抗体でコーティングされた磁性流体と混合する。免疫磁気濃縮後に、免疫磁気的に標識された細胞を蛍光標識するために、サイトケラチン4、5、6、8、10、13、18、および19を認識するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗体、白血球抗原CD45を認識するAPC標識抗体、IGF−1Rを認識するPE標識抗体、および核酸色素4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)を透過処理緩衝液と共に添加した。上記システムでのインキュベーションの後に、磁気分離を反復し、余分な染色試薬を吸引した。最終加工ステップでは、細胞をMAGNEST(登録商標)細胞プレゼンテーション装置(Immunicon社、米国ペンシルベニア州ハンティンドンバレー所在)内で再懸濁した。この装置は、1つのチャンバーと、蛍光顕微鏡を用いた分析に供する免疫磁気標識細胞を方向付ける2つの磁石とからなる。
【0039】
上記MAGNESTを、半自動四色蛍光顕微鏡であるCELLSPOTTERアナライザー上に置いた。4つの蛍光フィルターキューブそれぞれのためのカートリッジの全表面を包含する画像フレームをキャプチャーした。所定の判定規準を満たした対象を含有するキャプチャー画像をウェブ対応ブラウザに自動的に提示させ、それらから、オペレータが細胞の最終選択を行った。CTCと定義されるべき対象の判定規準には、円形から楕円形の形態、可視的な核(DAPI陽性)、サイトケラチン染色陽性、およびCD45の発現の欠如(ネガティブCD45−APC染色によって判定される)が含まれた。細胞計数の結果は、常に、7.5mL血液あたりの細胞数で表した。
【0040】
IGF−1R抗体の選択および腫瘍細胞系におけるIGF−1Rの検出:抗IGF−1R抗体1H7(PE結合体;BD Biosciences社、米国カリフォルニア州サンノゼ所在)および33255.111(R&D Systems社、米国ミネソタ州ミネアポリス所在)を、乳癌細胞系MCF−7細胞由来の細胞で力価決定した。交差ブロック実験は、いかなる阻害も示さなかった。これは、これらの抗体がIGF−1Rの別々の非競合的エピトープに結合することを示している。CP−751,871ヒト抗IGF−1R抗体(Pfizer社;米国特許第7037498号を参照)を用いた交差ブロック実験は、本質的に等モル量のCP−751,871によって、細胞への抗体33255.111の結合が完全にブロックされたことを示した。対照的に、1H7抗体は、CP−751,871の存在下で、結合の阻害を示さなかった。これらのデータは、33255.111およびCP−751,871が同一または関連したエピトープのいずれかに結合することを実証する。IGF−1Rへの1H7抗体の結合がCP−751,871の存在下でブロックされないので、これ以降の評価用に1H7を選択した。
【0041】
造血細胞系CEM、前立腺癌細胞系PC3−9、膀胱細胞系T−24、およびMCF−7乳癌細胞系の抗原密度を、PE標識された抗IGF−1R抗体1H7で染色し、その後フローサイトメトリー分析を行うことによって評価した。図1は、上記細胞系のIGF−1R−PE染色のヒストグラムのオーバレイを示す。CEM細胞の染色は、対照のものに類似しており、したがってIGF−1R密度は検出限界以下であった。PC3−9細胞のIGF−1R−PE染色は、バックグランドから分離することができた。また、T24およびMCF−7細胞は、さらに明るい染色を明確に有した。既知数のPE分子を有するビーズを用いた、フローサイトメータの較正によって、抗原密度の推定値を得た。PC3−9細胞表面のIGF−1R密度は約10000IGF−1R抗原、T−24細胞表面は約50000IGF−1R抗原、MCF−7細胞は約1000000IGF−1R抗原であった。
【0042】
IGF−1Rアッセイ特性分析:CELLTRACKSシステムを用いた標準CTCアッセイは、上皮由来の細胞表面に存在するサイトケラチンを検出するのにPEを使用し、造血系由来の細胞表面に存在するCD45を検出するのにAPCを使用し、サイトケラチン陽性かつCD45陰性の有核細胞として特定されたCTC表面の分析物特異試薬を検出するためにFITCを使用する。FITC標識抗体を用いた抗原検出に関する、CELLSPOTTERアナライザーの現在の検出限界は、1細胞あたり約100000抗原である。この感度を増強するために、IGF−1R検出の検出限界が低下するように上記CTCアッセイを再構成した。上皮細胞表面で高密度で発現されているサイトケラチンをFITCで標識した。これは、PE標識された抗IGF−1R抗体の使用を可能にした。別々の実験で、130から200のPC3−9細胞、T−24またはMCF−7細胞を7.5mL血液中にスパイキングし、新規に構成された染色試薬を用いて調製した。調製の後、上記試料をCELLSPOTTERアナライザー上でスキャンした。サイトケラチンFITC陽性であり、かつ有核のDAPI陽性であるイベントがCTC候補として使用者に提示されるようにアナライザーを再構成した。
【0043】
図2のパネルAに、7.5mLの血液から回収されたMCF−7細胞の典型的な例を示す。最上列は、IGF−1R受容体を明確に発現した3つのMCF−7細胞のクラスターを示す。合成画像の横のチェックマークは、オペレータがその細胞をCTCとして分類したことを示し、IGF−1R染色を示す画像の横のチェックマークは、オペレータがこのCTCを、IGF−1Rを発現したものとして分類したことを示している。パネルAに示したすべての細胞が明確にIGF−1R受容体を発現した。MCF−7細胞でスパイキングされた、16人の健康個体からの血液では、回収されたMCF−7細胞の80.6%(SD7.7)が、IGF−1Rを発現したCTCとして分類された。図2のパネルBに、7.5mLの血液から回収されたT−24細胞の典型的な例を示す。4つのT−24細胞のIGF−1Rの発現は、MCF−7細胞のIGF−1R染色と比較して明確に暗かった。最下部の2つの細胞のみが、オペレータによってIGF−1R受容体を発現したCTCとして分類された。T−24細胞でスパイキングされた、6人の健康個体からの血液では、回収されたMCF−7細胞の13.6%(SD3.9)が、IGF−1Rを発現したCTCとして分類された。PC3−9細胞でスパイキングされた、6人の健康個体からの血液では、回収されたMCF−7細胞の3.8%(SD6.0)が、IGF−1Rを発現したCTCとして分類された。これらのデータは、転移性癌を有する患者のCTC表面の、このアッセイによって転移性癌が検出されるのに必要とされているIGF−1R抗原密度に関するガイダンスを提供した。
【0044】
転移性癌のCTC表面におけるIGF−1R発現:139人の健康個体からの7.5mL血液中には、事実上、CTCが欠如していた(135人でCTC数0、4人でCTC数1)。転移性癌を有する患者のCTCで、実際にIGF−1Rを検出することができるであろうかどうか試験するために、50人の患者からの血液試料を試験した。7.5mL血液中において、50人の患者のうちの11人(22%)でCTCが検出された。これら50人の患者のうち、18人は乳癌を有し、その28%でCTCが検出され、13人が結腸直腸癌を有し、その31%でCTCが検出され、3人が前立腺癌を有し、その33%でCTCが検出され、12人が肺癌を有し、その8%でCTCが検出され、卵巣癌を有する4人の患者では、誰もCTCが検出されなかった。検出されたCTCの例を図3に示す。8つのCTC候補を図に示す。イベント1、4、5、7、および8はCTCとして分類された。横列1および4のCTCのみが、IGF−1Rを発現したCTCとして分類された。潜在的なIGF−1R染色が、横列5および7のCTCで観察できるが、これは、IGF−1R陽性のCTCであると分類するには不十分であると考えられたことに留意されたし。表1は、CTCを有する11人の患者で検出されたCTCの数と、IGF−1Rを発現したCTCの数と、IGF−1Rを発現するCTCの割合とを示す。11人の患者のうちの8人(91%)で、IGF−1Rを発現したCTCが検出された。しかし、IGF−Rを発現したCTCの割合は大きく異なっていた。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例2)
(抗IGF−1R抗体の第1相用量設定試験におけるCTC表面のIGF−R発現)
試験1は、進行固形腫瘍を有する患者における、米国特許第7037498号に記載の完全ヒト抗IGF−1R抗体の安全性および耐容性を定めるために設計された用量設定第1相試験であった。この試験では、抗IGF−1R抗体治療を3〜20mg/kgの用量で21日毎(21日サイクル)に与えた。これらの患者におけるCTCの数およびIGF−1Rを発現するCTCの数への抗IGF−1R抗体を用いた治療の影響を評価するために、21日の治療サイクルそれぞれの1日目投与前および試験8日目のスクリーニングの際に血液試料を採取した。増悪により患者が試験を中止した場合には常に、追加試料を1つ採取した。この試験の過程において、26人の患者が、CTCの計数のために血液試料を提供した。
【0047】
26人の患者のうち16人(61%)は、試験中(投薬前または治療中)の何らかの時点で1つまたは複数のCTCを有していた。試験中の何らかの時点で検出されたCTCを有していた16人の患者のうちの3人では、IGF−1R陽性のCTCが検出されなかった。2つの事例では、7.5mL血液中にCTCが1つのみ検出された。CTCおよびIGF−1R陽性CTCのレベルを時間に対してプロットし、抗IGF−1R抗体治療に対するいくつかのパターンの反応が観察された。4つの例を図4に示す。パネルAには、6mg/kgの抗IGF−1R抗体の単回投与で治療された患者からのCTC数を示す。この患者では、抗IGF−1R抗体を用いた治療の8日目に、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数が減少し、15日目には、もはや検出可能でなく、その後、サイクル2の開始前に再出現した。パネルBには、10mg/kgの抗IGF−1R抗体の単回投与で治療された患者からのCTC数を示す。治療の8日後および15日後におけるCTCの微減の後、患者が試験を中止するまでに、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数が増大した。この患者は、CTスキャンで増悪を示した。パネルCには、20mg/kgの抗IGF−1R抗体の単回投与で治療された患者からのCTC数を示す。上記用量を投与した15日後のCTCの急上昇を除いて、CTCおよびIGF−1R陽性の数は影響されなかった。パネルDは、3mg/kgの抗IGF−1R抗体の単回投与で治療された患者からのCTC数を示す。ここでは、ほとんどすべての検出されたCTCがIGF−1Rを発現していた。患者が試験を中止した時に、CTCの増大が認められた。これらのデータの1つの可能な解釈は、これらの患者におけるほとんどの循環腫瘍細胞がIGF−1Rを発現し、かつCTCの維持に必要な生存シグナルを、抗IGF−1R抗体での治療が遮断するようであるというものである。別の解釈では、抗IGF−1R抗体の効果が直接的に腫瘍塊に作用し、CTCの移動を抑制している可能性がある。
【0048】
可変的ではあるが、投与後におけるCTCおよびIGF−1R陽性CTCの数の減少が観察され、同様に、治療サイクルの終わりまでに、循環細胞の数の再増加が観察された。試験後のフォローアップ来診でも、CTCおよびIGF−1R陽性CTC数の増大が認められた。これらのデータは、抗IGF−1R抗体に対する生物学的反応および臨床反応のモニタリングにおける、CTCおよびCTC−IGF−1Rアッセイの役割を支持するものである。
【0049】
(実施例3)
(ドセタキセルと併用した抗IGF−1R抗体の試験におけるCTC表面のIGF−1R発現)
試験2は、進行固形腫瘍を有する患者における、ドセタキセル(TAXOTERE(登録商標))と併用した、米国特許第7037498号に記載の完全ヒト抗IGF−1R抗体の第1b相用量設定試験であった。ドセタキセルおよび抗IGF−1R抗体は、それぞれ75mg/mおよび0.1〜10mg/kgの用量で、1日目および22日目に投与した。19人のホルモン不応性前立腺癌(HRPC)患者を含めた27人の患者がCTCの計数のために血液試料を提供した。CTC試料は、各サイクルにおける1日目投与前および8日目に収集した。
【0050】
27人の患者のうちの19人(70%)が、試験中の何らかの時点で1つまたは複数のCTCを有していた。試験中の何らかの時点でCTCが検出された19人の患者のうち1人のみで、IGF−1R−陽性CTCが検出されなかった。興味深いことに、この患者の5回のCTC評価すべてで、CTCが検出され、かつIGF−1R−陽性CTCは検出されなかった。これは、この患者の腫瘍部位自体がIGF−1Rを発現していない可能性があることを示している。
【0051】
治療に反応したCTC数の減少は、患者の大部分で観察された。CTCおよびIGF−1R陽性CTCのレベルを時間に対してプロットし、抗IGF−1R抗体治療に対するいくつかのパターンの反応が観察された。4つの例を図5に示す。パネルAは、10mg/kgの抗IGF−1R抗体および75mg/mのドセタキセル(21日サイクル)で治療されたホルモン不応性前立腺癌患者における、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数を示す。治療の後、併用治療に対する反応を反映して、CTCの総数が減少した。この患者から得られたPSA値は、治療に対する臨床反応を確認した。加えて、この患者では、CTCの約50%が、抗IGF−1R抗体/ドセタキセル治療の前に、元々、IGF−1R陽性であった。治療に伴って、IGF−1R−陽性CTCの数は急速に減少した。抗IGF−1R抗体の生物学的作用はIGF−1Rの下方調節を誘導することであるので、これらのデータは、抗IGF−1R抗体の臨床的活動性および生物学的活性(バイオマーカー)の両方のモニタリングにおける、CTCおよびCTC−IGF−1Rアッセイの潜在的役割を支持する。パネルBは、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数における同様な減少を有する患者を示す。パネルCおよびDは、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数が、それぞれの用量の投与の後に減少したが、その度に再増加もあった2人の患者を示す。両方の患者とも、低用量(それぞれ0.8および3mg/kg)の抗IGF−1R抗体で治療された。
【0052】
試験2で登録されたHRPC患者は、登録時に少なくとも1つの検出可能なIGF−1R陽性CTCを有していたが、IGF−1R−CTC陰性であった患者(n=8、PSAの中央値は92ng/mL)より高いPSAレベル(n=10、PSAの中央値は475ng/mL)を有していた。2人の患者では、試料が失われたので、いかなる評価も可能でなかった。表2に示す通り、見かけの腫瘍量が、より多いのにもかかわらず、登録時にIGF−1R−CTC陽性であった患者は、ドセタキセルおよび抗IGF−1R抗体の併用に対する、PSA判定規準による反応を、IGF−1R−CTC陰性であった患者(8人のうちの2人)より高い割合(10人のうちの6人)で、かつ全体的に早く示した。
【0053】
【表2】

【0054】
試験参入時に検出可能なCTCを有していなかった8人のHRPC患者のうち、6人は治療に反応しなかった。彼らのうちの3人は、増悪時に、CTCおよびIGF−1R陽性CTC数の増大を実際に経験した。最後に、検出可能なCTCを有していたが、検出可能なIGF−1R陽性CTCを有していなかった、ドセタキセルおよび抗IGF−1R抗体で治療された1人のHRPC患者は、併用治療に反応しなかった。彼のCTC数の減少も長続きしなかった(1サイクル)。
【0055】
表3に、試験2におけるHRPC患者の最良患者反応(Patient Best Response)の概要を示す。治療開始前に、検出可能なIGF−1R陽性CTCを7.5mL中に有していなかった8人の患者のうちの2人(25%)は治療の部分奏功を示し、7.5mL中に>1のIGF−1R陽性CTCを有していた11人の患者のうちの6人(55%)は部分奏功を示した。これらのデータは、抗IGF−1R抗体治療で利益を得ることができるであろう患者を特定するのに、最適用量を特定し、かつ治療時間を決定するのに、CTC−IGF−1Rアッセイを利用することができるであろうという考えを強く支持する。
【0056】
【表3】

【0057】
(実施例4)
(パクリタキセルおよびカルボプラチンと併用した抗IGF−1R抗体の試験におけるCTC表面のIGF−1R発現)
試験3は、進行固形腫瘍を有する患者における、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))およびカルボプラチン(PARAPLATIN(登録商標))と併用した、米国特許第7037498号に記載の完全ヒト抗IGF−1R抗体の第1b相試験であった。パクリタキセル、カルボプラチン、および抗IGF−1R抗体の用量は、それぞれ、200mg/m、6のAUC、および0.05〜10mg/kgであった。41人の患者が、CTCの計数のために血液試料を提供した。血液試料は、各サイクルにおける1日目投与前および8日目に収集した。
【0058】
41人の患者のうちの21人(51%)は、試験中何らかの時点で1つまたは複数のCTCを有しており、一方、41人の患者のうちの10人(24%)は、初回用量が投与される前に1つまたは複数のCTCを有していた。41人の患者のうちの16人(39%)は、試験中何らかの時点で1つまたは複数のIGF−1R陽性CTCを有しており、一方、41人の患者のうちの8人(20%)は、初回用量が投与される前に1つまたは複数のIGF−R陽性CTCを有していた。試験に登録された1人のHRPC患者は、試験参入時に多数のCTC(71のCTCおよび15のIGF−1R陽性CTC)を有しており、それらは治療に反応して減少した(治療21日目までに21のCTCおよび2つのIGF−1R CTC)。
【0059】
CTCおよびIGF−1R陽性CTCのレベルを時間に対してプロットし、治療に対するいくつかのパターンの反応が観察された。4つの例を図6に示す。パネルAは、非常に少ない数のCTCを有する状態で試験に参加した患者のデータを表す。パクリタキセル/カルボプラチンおよび0.05mg/kgの抗IGF−1R抗体を用いた6サイクルと、その後における3mg/kgの抗IGF−1R抗体を用いた追加の2サイクルの治療の後には、この患者は、もはや治療に反応しなかった。臨床反応のこの欠如は、CTCおよびIGF−1R陽性CTCの数の劇的な増加を伴っていた。この患者における疾患の進行は、CTスキャンで確認した。パネルBには、試験の経過中に、CTCおよびIGF−1R陽性CTCが上昇した類似したパターンを有する患者のデータを示す。パネルCおよびDには、治療開始前にCTCを有した2人の患者を示す。これらの患者には、それぞれ1.5および6mg/kgの抗IGF−1R抗体を投与した。患者が抗IGF−1R治療を続けている間は、IGF−1R陽性細胞の数は減少しているか(パネルC)、または低いまま(パネルD)のようである。これらのデータは、抗IGF−1R抗体治療の影響および耐性進展のモニタリングにおける、CTCおよびCTC−IGF−1Rアッセイの潜在的役割をさらに支持する。
【0060】
本発明の特定の現在好ましい実施形態をここに記載したが、本発明が属する分野の技術者には、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、記載した実施形態の変形および改変を行えることが容易に明らかとなるであろう。したがって、本発明は、添付されている特許請求の範囲および法の適用可能な規則によって必要とされる範囲でのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0061】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を予測する方法であって、a)患者から生物検体を取得するステップと、b)他の試料成分が実質的に除外されるように、生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、試料を調製するステップと、c)試料を、上皮細胞に特異的に結合する少なくとも1種の試薬と接触させるステップと、d)試料を、細胞表面のインスリン様成長因子受容体(IGF−1R)に対する結合親和性を有する薬剤と接触させるステップと、e)試料を分析して、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在を決定するステップとを含み、試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在が、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を予測するものである方法。
【請求項2】
IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の数を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドが第1の検出可能標識に連結されており、上皮細胞に特異的に結合する試薬が第2の検出可能標識に連結されており、IGF−1Rに対する結合親和性を有する薬剤が第3の検出可能標識に連結されており、第1、第2、および第3の検出可能標識が相違しており、少なくとも1種の試薬がサイトケラチンに特異的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
リガンドが、腫瘍細胞表面の上皮細胞接着分子に特異的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
分析からの残留無核細胞および細胞破片の除外を可能にするために、試料に細胞特異的色素を添加するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
標識腫瘍細胞が、多パラメータフローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、レーザー走査サイトメトリー、明視野ベース画像解析、毛細管容積測定、スペクトル画像分析、手操作細胞解析、CELLSPOTTER分析、および自動細胞解析からなる群から選択された少なくとも1つのプロセスで分析される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
試料が、リガンドに連結された磁性粒子と混合されている生物検体を含む免疫磁気試料であり、免疫磁気試料が濃縮腫瘍細胞懸濁液となるように、免疫磁気試料を磁場にさらすステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
磁性粒子がコロイド性である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性をモニタリングする方法であって、a)患者から第1の生物検体を取得するステップと、b)他の試料成分が実質的に除外されるように、第1の生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、第1の試料を調製するステップと、c)第1の試料を、上皮細胞に特異的に結合する少なくとも1種の試薬と接触させるステップと、d)第1の試料を、細胞表面のインスリン様成長因子受容体(IGF−1R)に対する結合親和性を有する薬剤と接触させるステップと、e)第1の試料を分析して、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の存在および数を決定するステップと、f)IGF−1Rアンタゴニスト療法を患者に施すステップと、g)IGF−1Rアンタゴニスト療法を施した後に、患者から第2の生物検体を取得するステップと、h)第2の生物検体を、腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドと混合して、第2の生物検体から第2の試料を調製し、第2の試料に関してステップc)〜e)を行うステップと、i)第1の試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の数を、第2の試料中の、IGF−1Rを発現する腫瘍細胞の数と比較するステップとを含み、第2の試料中の数の方が少ないことが、患者でのIGF−1Rアンタゴニスト療法の有効性を示すものである方法。
【請求項10】
リガンドが、腫瘍細胞表面の上皮細胞接着分子に特異的に結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍細胞と特異的に反応するリガンドが第1の検出可能標識に連結されており、上皮細胞に特異的に結合する試薬が第2の検出可能標識に連結されており、IGF−1Rに対する結合親和性を有する薬剤が第3の検出可能標識に連結されており、第1、第2、および第3の検出可能標識が相違している、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
標識腫瘍細胞が、多パラメータフローサイトメトリー、免疫蛍光顕微鏡法、レーザー走査サイトメトリー、明視野ベース画像解析、毛細管容積測定、スペクトル画像分析、手操作細胞解析、CELLSPOTTER分析、および自動細胞解析からなる群から選択された少なくとも1つのプロセスで分析される、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
試料が、リガンドに連結された磁性粒子と混合されている生物検体を含む免疫磁気試料であり、免疫磁気試料が濃縮腫瘍細胞懸濁液となるように、免疫磁気試料を磁場にさらすステップをさらに含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
磁性粒子はコロイド性である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
IGF−1Rアンタゴニスト療法が抗IGF−1R抗体を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
IGF−1Rを発現する循環腫瘍細胞の存在に関して患者試料をスクリーニングするための試験キットであって、a)磁気コア物質、タンパク質ベースコーティング物質、および腫瘍細胞に特徴的な決定基に特異的に結合する抗体を含み、抗体が前記ベースコーティング物質に直接または間接的に連結されているコーティングされた磁性ナノ粒子と、b)腫瘍細胞以外の試料成分を分析から除外するための細胞特異的色素と、c)IGF−1Rに対する結合親和性を有する少なくとも1つの検出可能標識された薬剤とを含む試験キット。
【請求項17】
IGF−1Rを発現する循環腫瘍細胞を分析するための装置をさらに含む、請求項16に記載の試験キット。

【図1】様々な細胞系のIGF−1R−フィコエリトリン染色のヒストグラムのオーバレイを示す図である。
【図2】標識されたMCF−7肺癌細胞(パネルA)およびT−24膀胱細胞(パネルB)の蛍光顕微鏡画像の収集物を示す図である。
【図3】潜在的循環腫瘍細胞の蛍光顕微鏡画像の収集物を示す図である。
【図4】抗IGF−1R抗体で治療された4人の患者の総循環腫瘍細胞およびIGF−1R−陽性循環腫瘍細胞の数を示すグラフである。
【図5】ドセタキセルと併用した抗IGF−1R抗体で治療された4人の患者の総循環腫瘍細胞およびIGF−1R−陽性循環腫瘍細胞の数を示すグラフである。
【図6】パクリタキセルおよびカルボプラチンと併用した抗IGF−1R抗体で治療された4人の患者の総循環腫瘍細胞およびIGF−1R−陽性循環腫瘍細胞の数を示すグラフである。
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公表番号】特表2009−539097(P2009−539097A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512704(P2009−512704)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001483
【国際公開番号】WO2007/141626
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】