説明

微多孔性フィルム及びその製造方法、並びに電池用セパレータ

【課題】電池過充テスト及びオーブンテストの両方で良好な結果が得られる微多孔性フィルムを提供すること。
【解決手段】破膜温度が200℃以上400℃未満であり、140℃でのTD方向の熱収縮率が0%以上5%未満であり、140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上20%未満である微多孔性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルム及びその製造方法、並びに電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に使用されており、特にリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。近年、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器に使用されている一方で、ハイブリッド電気自動車等へ車載用途への応用も図られている。
【0003】
ここで、車載用途のリチウムイオン電池は、一般に大型でかつ高エネルギー容量を必要とするため、より高い安全性の確保が要求される。電池の安全性を確保するためには、電池用セパレータは重要な部材である。
【0004】
従来、高い安全性を確保するセパレータとして用いることのできる微多孔性フィルムの提供を目的として、いくつかの技術が開示されている。例えば、特許文献1には、従来のポリエチレン微多孔性フィルムにポリプロピレン微多孔性フィルムを積層した積層構造を有する複合微多孔性フィルム(電池用セパレータ)が開示されている。特許文献1に記載の複合微多孔性フィルムは、高温域での熱収縮特性と破膜温度とを改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−251069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池の安全性を確保するために、例えば、セパレータがシャットダウン(SD)機能を備えることが好ましい。SD機能とは、電池内部の温度が過度に上昇した場合に、セパレータの電気抵抗を急激に増大させることにより電池反応を停止させて、それ以上の温度上昇を防止する機能である。上記SD機能の発現機構として、例えば微多孔性フィルム製のセパレータの場合、所定の温度まで電池内部の温度が上昇すると、セパレータの多孔質構造を喪失して無孔化することにより、セパレータでのイオン透過を遮断することが挙げられる。
【0007】
しかしながら、このように無孔化してイオン透過を遮断しても、電池内部の温度が更に上昇してセパレータのフィルム全体が溶融し破膜した場合は、電気的絶縁性を維持できなくなってしまう。このようにフィルムがその形態を保持できなくなりイオン透過を遮断することができなくなる温度を破膜温度という。この破膜温度が高い、すなわち耐破膜性が高いほど、電池用セパレータは耐熱性に優れているといえる。また、上記破膜温度とSDが開始する温度との差が大きいほど、安全性に優れているといえる。
【0008】
電池の安全性を確保するために、高温状態において、電池用セパレータの収縮に伴う電池短絡(ショート)を防止することも重要である。この高温状態での収縮(以下、「熱収縮」ともいう。)について、例えば捲回型電池の場合、端部が拘束されていないフィルムの幅方向(以下、「TD方向」という。)の収縮挙動が重要視されてきたが、最近では、電池形態及び構造の多様化に伴い、フィルムの流れ方向(以下、「MD方向」という。)についても収縮量が小さいことが強く望まれている。
【0009】
ところで、電池がより高い安全性を確保できるか否かを確認する試験として、電池過充テスト及びオーブンテストが挙げられる。電池過充テストは、電池を過充電したときに発火するか否かを確認する試験であり、オーブンテストは、電池をオーブン内に収容し所定の温度条件に置いた際に発火するか否かを確認する試験である。
【0010】
本発明者らは、上記特許文献1に記載の複合微多孔性フィルムをセパレータに用いた電池は、電池過充テスト及びオーブンテストの両方が良好な結果となるものではないことを見出した。
【0011】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、電池過充テスト及びオーブンテストの両方で良好な結果が得られる微多孔性フィルム及びその製造方法、並びにその微多孔性フィルムからなる電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、耐破膜性が高いこと、及び高温状態でのセパレータの収縮が小さいこと、のいずれの特性をも高いレベルで有する微多孔性フィルムを用いるのが有効な手段であり、それにより電池の安全性を飛躍的に改良できることを見出し、本発明を完成するに至った。例えば特許文献1に記載の複合微多孔性フィルムでは、特に耐破膜性がそれほど高くないために、上記目的を達成することが困難となる。
【0013】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]破膜温度が200℃以上400℃未満であり、140℃でのTD方向の熱収縮率が0%以上5%未満であり、140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上20%未満である、微多孔性フィルム。
[2]前記140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上10%未満である、[1]の微多孔性フィルム。
[3]シャットダウン温度が120℃以上200℃未満である、[1]又は[2]の微多孔性フィルム。
[4]前記シャットダウン温度が120℃以上180℃未満である、[3]の微多孔性フィルム。
[5]ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部と、を含有する熱可塑性樹脂組成物を含む、[1]〜[4]のいずれか一つの微多孔性フィルム。
[6]前記熱可塑性樹脂組成物は混和剤を更に含有する、[5]の微多孔性フィルム。
[7][1]〜[6]のいずれか一つの微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
[8]ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部と、を含有する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、ドロー比10〜300で引き取ってフィルムを得る第1の工程と、前記フィルムを100〜160℃で熱処理する第2の工程と、前記第2の工程を経たフィルムを、−20℃以上100℃未満の温度で延伸する第3の工程と、前記第3の工程を経たフィルムを、100℃以上150℃未満の温度で延伸する第4の工程と、前記第4の工程を経たフィルムに対して、150℃以上の温度で熱固定を施す第5の工程と、を含む、微多孔性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、電池過充テスト及びオーブンテストの両方で良好な結果が得られる微多孔性フィルム及びその製造方法、並びにその微多孔性フィルムからなる電池用セパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)はSD温度の測定装置の概略図であり、(B)はSD温度の測定装置のサンプル部分を示す平面図であり、(C)はSD温度の測定装置のサンプル部分を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
本実施形態の微多孔性フィルムは、破膜温度が200℃以上400℃未満であり、140℃でのTD方向の熱収縮率が0%以上5%未満であり、140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上20%未満のものである。
【0018】
破膜温度は下記実施例に記載のようにして測定される温度であり、この破膜温度が高いほど耐破膜性が高く、微多孔性フィルムを電池のセパレータとして用いた場合に、電池の安全性が高いといえる。微多孔性フィルムの加工性をも考慮して、その破膜温度は、200℃以上400℃未満であると好ましく、200〜300℃であるとより好ましい。後述する樹脂組成物を用いて、後述する製造方法を経ることで、微多孔性フィルムの破膜温度を上述の範囲内に調節することができる。
【0019】
TD方向(フィルムの幅方向)の熱収縮率は、下記実施例に記載のようにして測定される値であり、この熱収縮率が低いほど、電池のセパレータとして用いた場合に安全性が高いといえ、0%以上5%未満であると好ましく、0〜3%であるとより好ましい。なお、本明細書において、フィルムが収縮せずに膨張する場合も、そのフィルムの熱収縮率は0%と定義する。後述する樹脂組成物を用いて、後述する製造方法を経ることで、微多孔性フィルムのTD方向の熱収縮率を上述の範囲内に調節することができる。
【0020】
MD方向(フィルムの流れ方向)の熱収縮率は、下記実施例に記載のようにして測定される値であり、この熱収縮率が低いほど、電池のセパレータとして用いた場合に安全性が高いといえ、0%以上20%未満であると好ましく、さらに好ましくは0%以上10%未満である。なお、本明細書において、フィルムが収縮せずに膨張する場合も、そのフィルムの熱収縮率は0%と定義する。後述する樹脂組成物を用いて、後述する製造方法を経ることで、微多孔性フィルムのMD方向の熱収縮率を上述の範囲内に調節することができる。
【0021】
本実施形態の微多孔性フィルムは、そのシャットダウン温度(以下、「SD温度」という。)が、120℃以上200℃未満であると好ましい。このSD温度は下記実施例に記載のようにして測定される温度である。微多孔性フィルムがSD機能をより有効に備える観点から、SD温度は120℃以上200℃未満であると好ましく、更に好ましくは120℃以上180℃未満である。後述する樹脂組成物を用いて、後述する製造方法を経ることで、微多孔性フィルムのSD温度を上述の範囲内に調節することができる。
【0022】
本実施形態の微多孔性フィルムは、その破膜温度及びTD、MD両方向の熱収縮率が上記条件を満足するものであれば、原料は特に限定されるものではない。本実施形態の微多孔性フィルムの原料としては、破膜温度及びTD、MD両方向の熱収縮率が上記条件を満足しやすい観点から、熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ペンテン、1−ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4−メチル−1−ペンテン、といったオレフィン系モノマーの単独重合体若しくは共重合体であるポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。そのポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂(以下、「PE」と略記する場合もある。)、ポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と略記する場合もある。)、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、プロピレン/1−ブテン共重合体が挙げられる。
【0023】
本実施形態の微多孔性フィルムの原料となる熱可塑性樹脂組成物は、特に高温特性と他の性能とのバランスを高めるために、ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物であると好ましい。
【0024】
ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレンを単量体成分として含む重合体であり、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、共重合成分としては特に限定されず、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセンが挙げられる。ポリプロピレン樹脂がコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。
【0025】
これらのポリプロピレン樹脂の中では、得られる微多孔性フィルムの物性や用途の観点から、ホモポリマーが好ましい。
【0026】
また、ポリプロピレン樹脂を得る際に用いられる重合触媒も特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒が挙げられる。さらには、ポリプロピレン樹脂の立体規則性も特に制限はなく、アイソタクチック、シンジオタクチック及びアタクチックのいずれの立体規則性を有するポリプロピレン樹脂であってもよい。
【0027】
ポリプロピレン樹脂は、原料、製法及び製造条件が同一である1種類を単独で、又は原料、製法及び製造条件のいずれか1つ以上が異なる2種類以上を混合して用いられる。ポリプロピレン樹脂は、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよく、得られる微多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる性質を有する2種以上のポリプロピレン樹脂を特定の比率で配合したものであってもよい。
【0028】
本実施形態で用いるポリプロピレン樹脂は、通常、メルトフローレート(ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kgの荷重下で測定。以下同様。)が好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.1〜80g/10分の範囲のものから選択できる。かかるメルトフローレートを有するポリプロピレン樹脂を用いることで、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が良好となり、また微多孔性フィルムに加工する際にフィルムが破断し難くなる等の成型性の観点から、上記範囲であることが好ましい。
【0029】
本実施形態で用いるポリプロピレン樹脂は、上述のポリプロピレン樹脂の他に、特公昭44−15422号公報、特公昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。さらに、本実施形態で用いるポリプロピレン樹脂は、上述のポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0030】
ポリフェニレンエーテル樹脂(以下、「PPE」と略記する場合もある。)としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0031】
【化1】

ここで、式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基、からなる群より選ばれる化学種を示す。
【0032】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、PPEとして、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール化合物(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール及び2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中では特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、及び、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0033】
また、PPEの製造方法に関しては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で得られるPPEであれば、本実施形態で用いることができる。
【0034】
本実施形態で用いるPPEは、上述のPPEとスチレン系モノマー及び/又はα,β−不飽和カルボン酸若しくはその誘導体(例えば、エステル化合物、酸無水物化合物)とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で80〜350℃の温度で反応させることによって得られる公知の変性PPEであってもよい。
【0035】
さらに、上述のPPEと変性PPEとの任意の割合の混合物であってもよい。また、上述のPPEに対してポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及び/又はゴム補強したシンジオタクチックポリスチレン等のPPEと相溶化する他のポリマーを加えたものも、本実施形態のPPEとして好適に用いられる。この場合、PPEと他のポリマーとの合計量に対して、PPEの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0036】
本実施形態で用いるPPEの還元粘度は0.15〜2.5が好ましく、0.30〜2.00がより好ましい。
【0037】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、上述のとおり、ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部とを含有すると好ましく、より好ましくはポリフェニレンエーテル樹脂を10〜65質量部含有する。PPEの含有割合を上記範囲に設定することは、得られる微多孔性フィルムの延伸性の観点からも好適である。
【0038】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂及びポリフェニレンエーテル樹脂に加えて、混和剤を更に含有することが好ましい。
【0039】
混和剤は、上述のポリプロピレン樹脂のマトリックス中にポリフェニレンエーテル樹脂を分散粒子化させるための分散剤として作用する。さらには、その混和剤は、本実施形態の微多孔性フィルムに良好な気孔率及び良好な透気度を付与する効果を奏する。
【0040】
混和剤としては、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性の観点から、水添ブロック共重合体が好ましい。この水添ブロック共重合体とは、ビニル芳香族化合物の構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物の構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加反応して得られるブロック共重合体である。
【0041】
重合体ブロックBの構造単位を与える共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。共役ジエン化合物の構造単位を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物の構造単位を少なくとも70質量%以上含有する重合体ブロックであることが好ましい。共役ジエン化合物の構造単位を主体とする重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック、又は、共役ジエン化合物とその共役ジエン化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体ブロックを意味する。
【0042】
重合体ブロックBにおけるミクロ構造(共役ジエン化合物の結合形態)については、1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計(以下、「ビニル結合量」と略記する。)が40〜90%、好ましくは45〜85%である。ここで、「ビニル結合量」とは、共役ジエン化合物が重合前に有するビニル結合の数に対する、重合後に重合体ブロックB中に残存するビニル結合の数の割合をいう。これらの共役ジエン化合物の結合形態及び「ビニル結合量」は、赤外分光スペクトルから導出される。ただし、NMRスペクトルを用いて導出した「ビニル結合量」の値を、赤外分光スペクトルから導出した値に換算してもよい。その換算は、ビニル結合量が同量の重合体について、それぞれ赤外分光スペクトル及びNMRスペクトルから「ビニル結合量」を導出して、それらの測定法の間の検量線を作成して行うことができる。かかるビニル結合量が40%以上であれば、本実施形態の微多孔性フィルムは気孔率と透過度とのバランスに一層優れる傾向にある。
【0043】
重合体ブロックAの構造単位を与えるビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン及びジフェニルエチレンからなる群より選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。
【0044】
ビニル芳香族化合物の構造単位を主体とする重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物の構造単位を70質量%以上含有する重合体ブロックであることが好ましい。ビニル芳香族化合物の構造単位を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又は、ビニル芳香族化合物とそのビニル芳香族化合物と共重合可能なモノマーとの共重合体ブロックを意味する。
【0045】
上記の構造を有するブロック共重合体の数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したもので、5000〜1000000の範囲であることが好ましい。また、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布は10以下であることが好ましい。さらに、このブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
【0046】
このような構造を有するブロック共重合体は、それに含まれる重合体ブロックBの脂肪族系二重結合(ビニル結合)に水素を添加することにより、水添ブロック共重合体、すなわち、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物となり、混和剤として好適に用いられる。かかる脂肪族系二重結合に対する水素添加率は、水素添加前のブロック共重合体が有する脂肪族系二重結合の全量を基準として、80%以上であることが好ましい。この水素添加率は、上述のビニル結合量と同様に、赤外分光スペクトルにより導出されるが、NMRスペクトルによって導出した水素添加率の値を赤外分光スペクトルから導出した値に換算したものであってもよい。
【0047】
混和剤が、上記熱可塑性樹脂組成物中に占める割合は、その組成物の全量に対して、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%である。これにより、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性及びこの分散性に起因した本実施形態における微多孔性フィルムの気孔率及び透気度がより良好なものとなる。
【0048】
また、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の原料には、上記各成分の他に、本発明により奏される効果を損なわない範囲で、必要に応じて付加的成分、例えば、充填材(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、酸化チタン、タルク等の無機粒子)、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、スリップ剤、無機又は有機充填材及び強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が添加されてもよい。
【0049】
本実施形態の微多孔性フィルムは、その破膜温度、各方向の熱収縮率及びSD温度が上述の範囲にあるだけでなく、下記のような物性を示すことも可能であり、これにより、高温特性のみならず、微多孔性フィルムの基本特性のバランスにも優れるようになる。
【0050】
本実施形態に係る微多孔性フィルムの気孔率は、好ましくは20%〜70%、より好ましくは35%〜65%、更に好ましくは45%〜60%である。この気孔率を20%以上に設定することにより、微多孔性フィルムを電池用途に用いた場合に十分なイオン透過性を確保し得る。一方、この気孔率を70%以下に設定することにより、微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る。本実施形態に係る微多孔性フィルムの膜厚は、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0051】
なお、本実施形態に係る微多孔性フィルムの気孔率は、後述の実施例に記載のようにして導出される。熱可塑性樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより、微多孔性フィルムの気孔率を上述の範囲内に調節することができる。
【0052】
本実施形態に係る微多孔性フィルムの透気度は、好ましくは10秒/100cc〜5000秒/100cc、より好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、更に好ましくは100秒/100cc〜500秒/100ccである。この透気度を5000秒/100cc以下とすることは、微多孔性フィルムの十分なイオン透過性を確保することに寄与し得る。一方、この透気度を10秒/100cc以上とすることは、欠陥のないより均質な微多孔性フィルムを得る観点から好適である。
【0053】
なお、本実施形態に係る微多孔性フィルムの透気度は、後述の実施例で説明するようにして導出される。熱可塑性樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより、微多孔性フィルムの透気度を上述の範囲内に調節することができる。
【0054】
本実施の形態の微多孔性フィルムの製造方法は、以下の(A)〜(E)の各工程を含む。すなわち、(A)ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部とを含有する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、ドロー比10〜300で引き取ってフィルムを得る工程と、(B)上記フィルムを100℃〜160℃で熱処理する工程と、(C)上記工程(B)を経たフィルムを、−20℃以上100℃未満の温度で延伸する冷延伸工程と、(D)上記工程(C)を経たフィルムを100℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程と、(E)上記工程(D)を経たフィルムに対して、150℃以上の温度で熱固定を施す熱固定工程と、を含む。
【0055】
以下、(A)〜(E)の各工程を、(A)シート成形工程、(B)熱処理工程、(C)冷延伸工程、(D)熱延伸工程、(E)熱固定工程ともいう。
【0056】
(A)シート成形工程において、熱可塑性樹脂組成物を成形してフィルムを得る方法としては、Tダイ押出し成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。これらの中でも、本実施形態で得られる微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出し成形が好ましい。
【0057】
一方、(C)冷延伸工程、(D)熱延伸工程においては、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、一軸方向及び/又は二軸方向に延伸、緩和する方法を採用し得る。これらの中でも、本実施形態で得られる微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、ロールによる2段階以上の一軸延伸が好ましい。
【0058】
以下に、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法について一例を挙げて説明するが、本実施形態はこの例に限定されるものではない。
【0059】
(A)シート成形工程では、まず、上述のポリプロピレン樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂と、必要に応じて混和剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度で溶融混練する。これにより得られた混練物をペレット化することで、ポリプロピレン樹脂中にポリフェニレンエーテル樹脂が分散した熱可塑性樹脂組成物のペレットを得る。次いで、得られたペレットを押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度でT型ダイよりフィルム状に押し出し、得られたフィルムを20〜150℃、好ましくは50℃〜120℃のロールにキャストして冷却固化する。
【0060】
あるいは、上述のポリプロピレン樹脂とポリフェニレンエーテル樹脂と、必要に応じて混和剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度で溶融混練する。これにより、ポリプロピレン樹脂中にポリフェニレンエーテル樹脂が分散した混練物を得る。この混練物を一旦ペレット状に成形することなく、直接T型ダイよりフィルム状に押し出し、得られたフィルムを20〜150℃、好ましくは50℃〜120℃のロールにキャストして冷却固化する。
【0061】
(A)シート成形工程においては、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物をT型ダイより吐出させることによりシート状溶融物とし、該シート状溶融物をドロー比10〜300、好ましくは50〜250、より好ましくは130〜200で引き取ることによりフィルム状成形体に成形する。ドロー比を上記範囲とすることは、後述する(C)及び(D)の各延伸工程において、海部/島部界面の剥離による微細孔とマトリックス領域である海部中に形成される微細孔と、の異なる2種類の微細孔を形成させる観点から好ましい。ドロー比を10以上にすることで、海部中に微細孔が形成されやすくなり、またドロー比を300以下にすることで安定したフィルム状成形体の成形が可能となる傾向にある。
【0062】
(B)熱処理工程においては、工程(A)で得られたフィルム状成形体(前駆体フィルム)を100℃〜160℃の温度で一定時間保持することにより熱処理する。フィルム状成形体に対する熱処理の方法は特に限定されるものではない。また熱処理の温度を上記範囲にすることは、後述する延伸工程において、マトリックス領域である海部中に微細孔が形成しやすくなることから好ましい。熱処理温度を100℃以上とすることで、ポリプロピレン樹脂のラメラ結晶が成長しやすくなり、また160℃以下とすることで、ポリプロピレン樹脂のラメラ結晶が溶融せず安定に存在できる。
【0063】
(C)冷延伸工程においては、上記(B)熱処理工程を経たフィルムに対して、−20℃以上100℃未満、好ましくは0℃以上50℃未満の温度で、MD方向に好ましくは1.1倍以上2.0倍未満、TD方向に好ましくは1.0倍〜2.0倍、それぞれ第1の延伸を施す。これにより、第1の延伸フィルムが得られる。この第1の延伸における温度及び延伸倍率は、より好ましくは、0℃以上50℃未満の温度でMD方向に1.1倍〜2.0倍であり、一軸延伸が好ましい。−20℃未満で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、100℃以上で延伸した場合は、得られる微多孔性フィルムの気孔率が低く、透気度が高くなる傾向がある。
【0064】
(D)熱延伸工程においては、上記(C)冷延伸工程を経て得られた第1の延伸フィルムに対して、100℃以上150℃未満、好ましくは110℃以上140℃未満の温度で、MD方向に好ましくは1.1倍以上5.0倍未満、TD方向に好ましくは1.0倍〜5.0倍、それぞれ第2の延伸を施す。これにより、第2の延伸フィルムが得られる。100℃未満で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、150℃以上で延伸した場合は、得られる微多孔性フィルムの気孔率が低く、透気度が高くなる傾向がある。
【0065】
本実施形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点からは、上述したような条件で2段階以上延伸することが好ましい。延伸工程を1段階とすると、得られる微多孔性フィルムが、要求された物性を満たさない場合がある。
【0066】
次に、(E)熱固定工程においては、上記(D)熱延伸工程を経て得られた第2の延伸フィルムに対して、150℃以上、好ましくは150℃以上200℃未満の温度で熱固定を施す。これにより、本実施形態の微多孔性フィルムが得られる。熱固定は、残留応力によるフィルムの延伸方向への収縮を防ぐために、熱処理を施す工程である。
【0067】
熱固定の温度は150℃以上、好ましくは150℃以上200℃未満の温度であり、より好ましくは150〜180℃である。この温度が150℃未満では微多孔性フィルムの熱収縮率が大きくなる傾向があり、200℃以上では微多孔性フィルムの透気度が高くなる傾向がある。また、微多孔性フィルムの透過性と熱収縮とのバランスを更に改善する観点から、(E)熱固定工程において、上記(D)熱延伸工程における最終段階の温度で熱緩和を施すことが好ましい。
【0068】
驚くべきことに、本実施形態の微多孔性フィルムの製造方法は、上記熱可塑性樹脂組成物を適用すると、予想以上に透気度と熱収縮率とのバランスに改善が認められた。その理由は定かではないが、PPマトリックス中に高耐熱のPPE樹脂が分散して存在することにより、熱緩和時の収縮応力緩和挙動がより効率的になるためと考えられる。ただし、理由はこれに限定されない。
【0069】
本実施形態の微多孔性フィルムは、上述したように、高温特性、膜物性のバランスが良好であり、電池過充テスト及びオーブンテストの両方で良好な結果が得られるので、電池用セパレータ、より具体的にはリチウムイオン電池用セパレータとして好適に利用できる。その他、各種分離膜としても用いられる。
【実施例】
【0070】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び各種特性の評価方法は下記のとおりである。
【0071】
[原材料]
(1)ポリプロピレン樹脂
PPとして、JIS K−7120(温度230℃)で測定したメルトフローレートが0.4g/10分のものを用いた。
【0072】
(2)ポリフェニレンエーテル樹脂
PPEとして、2,6−キシレノールを酸化重合して得た還元粘度0.54のものを用いた。
【0073】
(3)混和剤
混和剤として、ポリスチレン(i)−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレン(ii)の構造を有し、結合スチレン量43%、数平均分子量95000、水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量との合計量80%、ポリスチレン(i)の数平均分子量30000、ポリスチレン(ii)の数平均分子量10000、ポリブタジエン部の水素添加率99.9%のスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を用いた。
【0074】
[評価方法]
(1)膜厚(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所:「PEACOCK No.25」(商標))にて測定した。
【0075】
(2)気孔率(%)
10cm×10cm角のサンプルを採取し、その体積と質量から次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積(cm3)−質量(g)/組成物の密度(g/cm3))/体積(cm3)×100
【0076】
(3)透気度(秒/100cc)
JIS P−8117に準拠してガーレー式透気度計にて測定した。なお、膜厚を20μmに換算した値を用いた。
【0077】
(4)突刺強度(N)
カトーテック製「KES−G5ハンディー圧縮試験器」(商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突き刺し速度2mm/秒の条件で突き刺し試験を行い、最大突き刺し荷重(N)を測定し、突刺強度とした。
【0078】
(5)熱収縮率
フィルムから12cm×12cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルのMD方向、TD方向にそれぞれ10cm間隔で2つずつ(計4つ)の印を付けた。そのサンプルを紙で挟んだ状態で、100℃のオーブン中に60分間静置した。オーブンからサンプルを取り出し冷却した後、印間の長さ(cm)を測定し、下記式にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(TD方向)(%)=(10−加熱後のTD方向の印間の長さ(cm))/10×100
熱収縮率(MD方向)(%)=(10−加熱後のMD方向の印間の長さ(cm))/10×100
【0079】
(6)SD温度
図1(A)にSD温度の測定装置の概略図を示す。符号1は微多孔性フィルムを示し、符号2A及び2Bは厚さ10μmのニッケル箔、符号3A及び3Bはガラス板をそれぞれ示す。符号4は電気抵抗測定装置(安藤電気製LCRメーター「AG−4311」(商標))を示し、ニッケル箔2A、2Bと接続されている。符号5は熱電対を示し、温度計6と接続されている。符号7はデーターコレクターを示し、電気抵抗測定装置4及び温度計6と接続されている。符号8はオーブンを示し、微多孔性フィルム1を加熱するものである。
【0080】
さらに詳細に説明すると、図1(B)に示すようにニッケル箔2A上に微多孔性フィルム1を重ねて、縦方向に「テフロン(登録商標)」テープ(図の斜線部)でニッケル箔2Aに固定した。微多孔性フィルム1には電解液として1mol/リットルのホウフッ化リチウム溶液(溶媒:プロピレンカーボネート/エチレンカーボネート/γ−ブチルラクトン=1/1/2)が含浸されているものを用いた。ニッケル箔2B上には図1(C)に示すように「テフロン(登録商標)」テープ(図の斜線部)を貼り合わせ、ニッケル箔2Bは、その中央部分に15mm×10mmの窓の部分を残してマスキングした。
【0081】
ニッケル箔2Aとニッケル箔2Bとを、微多孔性フィルム1を挟むような形で重ね合わせ、さらにその両側からガラス板3A、3Bによって2枚のニッケル箔を挟み込んだ。このとき、箔2Bの窓の部分と微多孔性フィルム1とが対向するように位置合わせした。2枚のガラス板3A、3Bは市販のダブルクリップで挟むことにより固定した。熱電対5は「テフロン(登録商標)」テープでガラス板に固定した。
【0082】
このような測定装置で、オーブン8により、微多孔性フィルム1、ニッケル箔2A、2B、ガラス板3A、3Bを加熱して、そのときの温度と、ニッケル箔2A、2B間の電気抵抗とを連続的に測定した。なお、温度は25℃から200℃まで2℃/分の速度にて昇温させ、電気抵抗値は1kHzの交流にて測定した。電気抵抗の値が一旦103Ωに達した温度を、微多孔性フィルム1のSD温度とした。
【0083】
(7)破膜温度
微多孔性フィルムを5cm×5cmに切り出し、内寸4cm×4cmで幅5mmのSUS製金枠2枚に挟み、クリップで固定した。これを150℃のオーブンに投入し、1時間放置後に160℃に昇温し、さらに1時間放置した。このような昇温と放置とを10℃の幅で200℃まで行い、目視にて破膜を確認したときの温度を破膜温度とした。
【0084】
(8)電池安全性試験
LiCoO2を正極活物質とし、グラファイト及びアセチレンブラックを導電剤とし、フッ素ゴムを結着剤とし、各々LiCoO2:グラファイト:アセチレンブラック:フッ素ゴム=88:7.5:2.5:2の質量比で混合したものを、更にジメチルホルムアミドに混合してペーストを得た。このペーストをAl箔に塗布し乾燥して得られたシートを正電極として用いた。また、ニードルコークス:フッ素ゴム=95:5の質量比で混合したものを、更にジメチルホルムアミドに混合してペーストを得た。このペーストをCu箔に塗布し乾燥して得られたシートを負電極として用いた。電解液として、プロピレンカーボネートとブチロラクトンとの混合溶媒(体積比=1:1)にホウフッ化リチウムを1.0Mの濃度で調製した液を用いた。これらの正電極、負電極及び電解液からリチウムイオン電池を製造した。
【0085】
(8−1)過充電テスト
上述のようにして作製したリチウムイオン電池に対して、1C、12Vの条件で過充電試験を行った。発火が認められたものを×、発火が認められなかったものを○と評価した。
【0086】
(8−2)オーブンテスト
上述のようにして作製したリチウムイオン電池をオーブンに投入し、室温から5℃/分で150℃まで昇温した後、その温度で30分間静置した。このときに発火が認められたものを×、発火が認められなかったものを○と評価した。
【0087】
[実施例1]
第一原料供給口(トップフィード)及び第二原料供給口(サイドフィード;押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機を準備した。また、ポリプロピレン樹脂100質量部、ポリフェニレンエーテル樹脂11質量部、混和剤3質量部を準備した。温度260〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定した上記二軸押出機の第一原料供給口からポリフェニレンエーテル樹脂を、また、第二原料供給口からポリプロピレン樹脂と混和剤とを押出機に供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
【0088】
上記のようにして得た熱可塑性樹脂組成物のペレットを、口径20mm、L/D=30、260℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚5mmのTダイから押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂組成物に25℃の冷風を当て、次いで95℃に冷却したキャストロールによりドロー比200で樹脂組成物を引き取り、前駆体フィルムを成形した。
【0089】
この前駆体フィルムに対して150℃で3時間熱処理を施した。次いで、熱処理を施した後の前駆体フィルムに対して、25℃の温度でMD方向に1.2倍に一軸延伸を施し、第1の延伸フィルムを得た。その後、第1の延伸フィルムをさらに、130℃の温度でMD方向に2.5倍に一軸延伸して第2の延伸フィルムを得た。次いで、第2の延伸フィルムに対して155℃で熱固定を施し、微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムにつして、膜厚、気孔率、透気度、突刺強度、熱収縮率、SD温度、破膜温度を測定した。その結果を表1に示す。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたリチウムイオン電池の評価結果を表1に示す。
【0090】
[実施例2]
熱固定の際の温度を155℃から160℃に変更した以外は実施例1と同様にして微多孔性フィルムを作製し、実施例1と同様の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
【0091】
[実施例3]
ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂を11質量部から25質量部に代え、混和剤を3質量部から7質量部に代え、熱固定の際の温度を155℃から160℃に変更した以外は実施例1と同様にして微多孔性フィルムを作製し、実施例1と同様の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
【0092】
[比較例1]
ポリプロピレン樹脂を、口径20mm、L/D=30、220℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚5mmのTダイから押し出した。その後直ちに、溶融した樹脂に25℃の冷風を当て、次いで95℃に冷却したキャストロールによりドロー比200で樹脂を引き取り、前駆体フィルムを成形した。
【0093】
この前駆体フィルムに対して140℃で3時間熱処理を施した。次いで、熱処理後前駆体フィルムに対して、25℃の温度でMD方向に1.2倍に一軸延伸を施した。その後、この延伸フィルムをさらに、130℃の温度でMD方向に2.0倍に一軸延伸して、次に145℃で熱固定を施し、微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、実施例1と同様の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
【0094】
[比較例2]
熱固定温度を145℃から155℃に変更した以外は比較例1と同様にして微多孔性フィルムを作製し、実施例1と同様の方法により評価を行った。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
実施例及び比較例の結果から、本発明の微多孔性フィルムは、電池セパレータとしての透過性(気孔率及び透気度)、強度などの基本特性を備え、かつ、良好な熱収縮率、SD特性及び耐破膜性を有しており、セパレータとして用いた場合の電池安全性を大きく向上させていることが分かった。
【符号の説明】
【0097】
1…微多孔性フィルム、2A、2B…ニッケル箔、3A、3B…ガラス板、4…電気抵抗測定装置、5…熱電対、6…温度計、7…データーコレクター、8…オーブン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破膜温度が200℃以上400℃未満であり、140℃でのTD方向の熱収縮率が0%以上5%未満であり、140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上20%未満である、微多孔性フィルム。
【請求項2】
前記140℃でのMD方向の熱収縮率が0%以上10%未満である、請求項1記載の微多孔性フィルム。
【請求項3】
シャットダウン温度が120℃以上200℃未満である、請求項1又は2に記載の微多孔性フィルム。
【請求項4】
前記シャットダウン温度が120℃以上180℃未満である、請求項3記載の微多孔性フィルム。
【請求項5】
ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部と、を含有する熱可塑性樹脂組成物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の微多孔性フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物は混和剤を更に含有する、請求項5に記載の微多孔性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の微多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
【請求項8】
ポリプロピレン樹脂100質量部と、ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部と、を含有する溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、ドロー比10〜300で引き取ってフィルムを得る第1の工程と、
前記フィルムを100〜160℃で熱処理する第2の工程と、
前記第2の工程を経たフィルムを、−20℃以上100℃未満の温度で延伸する第3の工程と、
前記第3の工程を経たフィルムを、100℃以上150℃未満の温度で延伸する第4の工程と、
前記第4の工程を経たフィルムに対して、150℃以上の温度で熱固定を施す第5の工程と、
を含む、微多孔性フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−76851(P2011−76851A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226888(P2009−226888)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】