説明

微多孔質基材上の多機能性被膜

微多孔質基材の少なくとも一部に多孔性を維持しつつ下地の微多孔質材料に多機能性を付与する被膜が、低表面エネルギー微多孔質基材のような微多孔質基材に付与された、構成物を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多機能性被膜を有する微多孔質基材に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングされた微多孔質基材は、様々な用途に被膜材料の機能性を利用しながら、微多孔質基材の特性も利用する目的で、多くの用途において使用される。
【0003】
特に興味深い基材は、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)及び微多孔質ポリテトラフルオロエチレンである。PTFEは本質的に疎水性であるため、これらの材料の膜は、レインウェアのような反撥製品の形状にする場合に特に興味深い。商品名GORE−TEX(登録商標)で販売される、W.L. Gore and Associates, Inc.から入手可能なものなどの、延伸した微多孔質の(液体水に対する)防水性ポリテトラフルオロエチレン材料に加えて、他の供給元から入手可能な延伸PTFE製品は、とりわけこの目的によく適している。延伸PTFE材料は液体水に対して防水性であるが、汗などの水蒸気は通過させる。ポリウレタン及び他のポリマーもこの目的に使用されている。
【0004】
米国特許第4194041号は、微多孔質ポリマーに追加の被膜を使用することを記載しており、この被膜は、拡散によって水蒸気分子を輸送するポリエーテルポリウレタン又はポリパーフルオロスルホン酸から構成される薄くて空気不透過性の被膜に基づく。この薄い被膜は、微多孔質構造体の気孔の少なくとも一部を完全に満たす。この薄い被膜は、ポリマーを通る表面活性作用物質及び汚染物質の通過を低減するために使用される。ポリマーの化学構造のおかげで、この、微多孔質構造体上のモノリシック被膜は、ポリマー材料を通る水分子の高い輸送力(水蒸気に対する高い透過性)を示す。
【0005】
微多孔質の低表面エネルギー材料に適した被膜が従来技術に記載されており、その多くは所望の基材を濡らすための溶媒に頼っている。例えば、EP0581168(Mitsubishi)には、多孔質のポリエチレン及びポリプロピレンの膜をコーティングするために、パーフルオロアルキルメタクリレート及びパーフルオロアルキルエチルアクリレートを使用することが記載されており、ここでは、コーティングされた物質が、ポリオレフィン多孔質膜の表面と物理的に接触した状態にある。これらのコーティングされた多孔質膜を製造するためには、フッ素化モノマー、又はフッ素化モノマー及び架橋モノマーを、重合開始剤と一緒に適当な溶媒に溶解して溶液を作る。例えば、この溶液は、典型的にモノマー約15質量%及びアセトン約85質量%を含んでもよい。この溶媒溶液は多孔質基材上にコーティングされる。コーティング後、溶媒を揮発させる。
【0006】
溶媒が多い同様の状況において、ポリマーの表面を低濃度(例えば1.0質量%未満)の無定形フルオロポリマーを含有する本質的に純粋な溶媒溶液を用いて処理する方法もまた報告されている(WO92/10532)。
【0007】
さらに別の同様な方法では、フッ素含有ポリマーの溶液は、テトラフルオロエチレンの無定形コポリマーを用いてePTFEをコーティングする特許にも含まれる(EP0561875)。これらの場合のいずれにおいても、コーティングの凝集(coalescence)過程中にかなりの量の溶媒が放出される。これらの溶媒の排出は、コストがかかりかつ環境にも望ましくない。
【0008】
米国特許第6228477号は、かなりのパーセントのイソプロパノール(「IPA」)を用いることにより、低表面エネルギーの微多孔質PTF基材を、他の非濡れ性の水性フルオロポリマー分散液でコーティングする手段を教示している。
【0009】
Wuらの米国特許第5460872号は、均一にコーティングされた微多孔質PTFE基材を製造する手段として、表面エネルギー及び微多孔質PTFEとの接触角を低下させるために、フッ素化界面活性剤を使用することを教示している。
【0010】
他の特許及び刊行物(例えばWO91/01791(Gelman Sciences Technology);EP0561277(Millipore)/米国特許第5217802号)は、フッ素含有モノマー及び架橋剤を用いて多孔質膜を処理することを提案している。処理後に重合が行われる。
【0011】
撥水仕上げとして使用するための、ePTFEと組み合わせるパーフルオロポリエーテルが、WO92/21715に言及されている。さらに、米国特許第6676993号は、微多孔質ePTFE基材を濡らすためにイソプロパノール及び水の混合物を使用する方法を教示しており、この溶媒を含む溶液中に特定のフルオロアクリレートを分散した場合、この溶液が濡らすePTFE表面へのコーティングに、この溶液を使用可能である。
【0012】
慣習的に粒子がePTFE構造体に組み込まれてきたが、粒子を微多孔質構造体の孔壁に効果的に結合する被膜に、粒子が組み込まれることはなかった。例えば、米国特許第5279742号は、抽出媒体として使用するためのePTFEフィルムのノード及びフィブリルに炭素粒子を巻き込むことを教示している。欧州特許第0528998B1号は、歯周パッチに薬物治療を送達する方法として、ePTFEマトリクスに治療マイクロスフェアを機械的に閉じこめることを教示している。
【0013】
今日まで微多孔質基材のコーティング技術は、微多孔質基材の微細構造上に単一で均質の材料を堆積することに注目してきた。(例えば米国特許第6228477号などに記載されているような)溶媒湿潤システム及び水性湿潤システムは、様々な添加剤又は複合添加剤と相溶性ではなかった。典型的には、これらの湿潤システムは、単離された、独特の疎油性のモノマー、ポリマー又はエマルジョンと相溶性であった。基材の微小孔を閉塞することなく、低表面エネルギー微多孔質基材上の単一のコンフォーマル(conformal)被膜に2つ以上の機能性を提供するために、コーティング技術におけるさらなる柔軟性が必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、低表面エネルギー微多孔質基材のような微多孔質基材上に単一のコンフォーマル被膜を提供することによって従来技術の制約を克服し、微多孔質基材の少なくとも一部で多孔性を維持しつつも、下地の微多孔質材料に多機能性を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、被膜が2つ以上の機能性を含む、コーティングされた微多孔質基材を製造する。詳細には、多機能性被膜は少なくとも2種の添加剤を含み、各添加剤が少なくとも1種の機能性を提供する。ある実施態様では、第1の添加剤は、第2の添加剤の周りにフィルムを形成してもよく、第2の添加剤を包含してもよく、あるいは第2の添加剤を微多孔質構造体に結合してもよい。第1の添加剤は、疎水性、親水性などの何らかの機能性を複合材に付与し、第2の添加剤はさらなる何らかの機能性を複合材に付与する。本発明の別の側面において、多機能性被膜は、以下に限られないが、表面エネルギー改質(例えば低下など)ポリマーバインダーなどの第1の機能性添加剤を、追加の機能性添加剤と組み合わせる。ここで得られる多機能性被膜は、微多孔質基材の気孔面に存在する。本明細書で使用する「機能性添加剤」とは、例えば、微多孔質基材の化学的特性、物理的特性又は機械的特性を変化させることによって、その機能性添加剤がないときに存在していた機能性以外のさらなる機能性をコーティングした微多孔質基材に付与する、任意の追加材料を指すことを意図している。本発明のある種類のポリマーバインダーはフルオロポリマーバインダーであり、本質的に疎水性の延伸PTFE基材の表面エネルギー又は濡れ特性を変化させるのにそれらが使用可能であることが理由である。驚くべきことに、コーティングして得られる微多孔質基材が、フルオロポリマーバインダーによる表面エネルギー変化だけでなく、追加の機能性添加剤による第2の機能性変化の両方とも示すように、追加の機能性添加剤をポリマーバインダー混合物に含ませることができる。表面エネルギーを変化させるポリマーバインダーは本発明において特に興味深いものであるが、他の実施態様は非ポリマーバインダーを組み入れることを包含する。非ポリマーバインダーを使用するそのような実施態様では、多機能性は、複数の機能性添加剤を微多孔質基材の表面上に組み入れることから得られ、そこでは少なくとも1種の機能性添加剤がバインダーとしても作用する。本明細書で使用する「バインダー」とは、下地の微多孔質構造体の少なくとも一部に付着もしくは取り付いて第2の機能性成分の保持を助ける材料を指す。
【0016】
本発明の多機能性被膜は、微細構造表面に所望の被膜の均一性をもたらす任意の手段によって、微多孔質基材に適用することができ、微多孔質基材の気孔を閉塞しないことが好ましい。本発明のある側面では、追加の機能性添加剤、例えば粒子が添加された有機溶媒に機能性ポリマーバインダーを溶解する。選択する有機溶媒は、微多孔質基材表面を濡らすことが可能でなければならない。この多機能性添加剤の溶媒混合物を、次に微多孔質基材上にコーティングして溶媒を揮発させる。そこに含まれる機能性ポリマーバインダー及び機能性添加剤粒子を、所望の効果を作り出すために基材表面上に堆積させる。そのような多機能性被膜に付与可能な機能性の例として、以下に限られないが、顔料の場合の色変化、又はpH感受性材料の場合の親水性変化、及び赤外線吸収材料の場合の赤外線反射率変化が挙げられる。基材の電磁気スペクトル応答性又は導電率もしくは熱伝導率の変化が望まれる用途では、炭素粒子が特に興味深い。
【0017】
本発明の重要な側面は、得られる微多孔質基材が、表面エネルギーを変化させるポリマーバインダーの機能性、及びスペクトル、電磁気又は熱に対する応答性の変化のような、多機能性を示さなければならないことである。
【0018】
本発明の重要な側面の1つは、コーティング混合物が、適用しようとする基材を濡らすことが可能でなければならないことである。微多孔質PTFEの場合、コーティング混合物は、通常約30ダイン/cm以下の表面張力を有していなければならない。
【0019】
本発明の他の実施態様では、多機能性被膜は水性湿潤システムを用いて製造できる。この実施態様では、ポリマーバインダー及び第2の機能性添加剤は、水性湿潤システム中で安定化され、その水性湿潤システムは、所望する微多孔質基材上にその後コーティングされる。界面活性剤によって乳化された(例えばC5−C10直鎖骨格の)水に不溶性のアルコールを含有する水性湿潤システムが適したシステムの1つである。界面活性剤又は複数の界面活性剤は、添加剤及びその添加剤を安定化するために使用されうる任意の界面活性剤と相溶性であるように選択できる。水が蒸発して、多機能性被膜が微多孔質基材の表面に生成する。適した機能性添加剤として、送達されるのに適した安定性を有していて、湿潤システム(水又は湿潤剤のいずれか)に溶解可能であるか湿潤システムに分散可能である材料が挙げられる。本発明の典型的な実施態様の1つにおいて、本来疎油性でないポリマー層が基材である場合、疎油性材料である機能性添加剤を水性送達システム中に組み入れることによって、基材を疎油性にできる。この本発明の独特の特徴は、基材の孔壁の少なくとも一部のコーティングを容易に促進するように本発明を変更可能である点において、従来のコーティングされた材料と比べて顕著な利点を提供する。
【0020】
本発明のある実施態様において、適した微多孔質材料として、フルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン又はポリフッ化ビニリデン、ポリオレフィン、例えばポリエチレン又はポリプロピレン;ポリアミド;ポリエステル;ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)及びこれらの組み合わせ、ポリカーボネート、ポリウレタンを挙げることができる。空気透過性の保持又は高い通気性が望まれる例では、微小孔を満たすと微多孔質基材の水蒸気透過特性を破壊する又は非常に低下させる場合があるため、開放した微多孔質構造を保存するように本発明を設計しなければならない。従って、微多孔質ポリマーの空隙を画定する壁は、そのような実施態様では非常に薄い被膜のみを有することが好ましい。その上、基材の可撓性を維持するために、機能性材料の被膜は、コーティングしたときに基材の可撓性に影響を与えない程十分に薄くなければならない。
【0021】
本発明に適した一般的な疎油性機能性添加剤組成物として、疎油性フルオロカーボン化合物が挙げられる。例えば、フルオロカーボンは、パーフルオロアルキル基CF3−(CF2n−(nは0以上)を含有するものであってよい。以下の化合物又は以下の種類の疎油性材料を使用できるが、これらは網羅的ではない。
・CF3側基を有する無極性パーフルオロポリエーテル、例えばFomblinY−Ausimont;Krytox−DuPont
・無極性パーフルオロエーテルと1官能性極性パーフルオロポリエーテルPFPEとの混合物(Ausimontから入手可能なFomblin及びGalden MF グレード)
・水に不溶性の極性PFPE、例えばリン酸塩(もしくはリン酸エステル)末端基、シラン末端基又はアミド末端基を有するGalden MFなど
・無極性PFPEと、(モノマーの又はポリマー状態の)フッ素化アルキルメタクリレート及びフッ素化アルキルアクリレートとの混合物
【0022】
上述の化合物は、例えば水溶液状態又はエマルジョンでのUV照射によって、必要に応じて架橋することも可能である。
【0023】
また、以下のポリマー粒子溶液も使用できるが、これらも網羅的ではない。
・PFPE系マイクロエマルジョン(EP0615779参照、Fomblin Fe20 マイクロエマルジョン)
・シロキサン及びパーフルオロアルキル置換(メタ)アクリレートのコポリマー系エマルジョン(Hoechst)
・パーフルオロ化又は部分フルオロ化したコポリマー又はターポリマーに基づくエマルジョン(ある成分は少なくともヘキサフルオロプロペン又はパーフルオロアルキルビニルエーテルを含有する)
・パーフルオロアルキル置換ポリ(メタ)アクリレート及びコポリマーに基づくエマルジョン(Asahi Glass、Hoechst、DuPont及び他の製品)
・パーフルオロアルキル置換ポリ(メタ)アクリレート及びコポリマーに基づくマイクロエマルジョン(WU、米国特許第5539072号;米国特許第5460872号)
【0024】
本発明により提供される機能性材料の濃度は、所望する結果に応じて大幅に変化させることが可能である。以下に限定されないが、−(CF2n−CF3ペンダント基を有するポリマーなどの疎油性フルオロポリマーを機能性添加剤材料として使用する場合、この種類の機能性材料は、ポリマーに非常に低い表面エネルギー値を与えることが可能であり、従って良好な耐油特性及び耐水特性を与えることが可能である。代表的な疎油性ポリマーは、ペンダントパーフルオロアルキル基を有する有機モノマーから作ることができる。これらには、下式の末端パーフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルアクリレート及びフルオロアルキルメタクリレート:
【化1】

(nは1〜21の基数、mは1〜10の基数、RはH又はCH3);フルオロアルキルアリールウレタン、フルオロアルキルアリルウレタン、フルオロアルキルウレタンアクリレート;フルオロアルキルアクリルアミド;フルオロアルキルスルホンアミドアクリレートなどが含まれる。
【0025】
低表面エネルギー被膜が望ましい場合、コーティング混合物の全質量に対して、固形分で約1質量%〜約30質量%の濃度の疎油性材料が効果的でありうる。微多孔質基材をコーティングする場合、疎油性機能性材料の濃度は、コーティング混合物の全質量に対して約3質量%〜約12質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の代替実施態様には、他の機能性添加剤材料が含まれる。粒子が湿潤システムに分散可能であることを条件として、本発明を粒子状機能性材料を表面に送達するために使用できる。いくつかの例では、湿潤システムに後程分散可能な分散剤に、粒子を分散することが有利な場合がある。カーボンのような粒子を含む用途では、この追加の機能性添加剤の持つ所望の機能的効果を付与するのに、混合物の全質量に対して約0.1質量%〜約5質量%の濃度が適切であることが多い。
【0027】
また、本発明の任意選択の機能性材料は、本発明の水性湿潤システムに溶解可能な材料であってよく、あるいは本発明の水性湿潤システムに分散可能な材料であってもよい。本発明に関して使用できる溶解可能な材料の一覧には、以下に限られないが、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、メラミン、ポリビニルアルコール、塩及び色素が含まれる。本発明に関して使用できる分散可能な材料の一覧には、以下に限られないが、フルオロアクリレート、ポリスチレン、顔料、カーボンブラック及び酸化アルミニウムが含まれる。粒径が十分に小さくて、そのため適用される微多孔質基材の気孔に物理的に進入可能であることが、これらの分散可能な材料に対する要求の1つである。微多孔質基材が本質的に疎水性である場合、そのような被膜は表面特性を疎水性から親水性へと変化させることが可能である。
【0028】
本発明の追加の実施態様では、幅広い範囲の機能性を、低表面エネルギー微多孔質基材に組み入れることが可能である。いくつかの例として、以下に限られないが、吸水性、疎水性、疎油性、遮光性、色変化、耐炎性及び難燃性、抗菌性、帯電防止性、弾性、赤外及び近赤外吸収性、UV吸収性、触媒、光触媒、生体適合性、及び治療薬の放出制御を変化させるために提供可能な機能性添加剤が挙げられる。本発明の主な側面の1つは、コーティングシステムにこれらの機能性を2種以上提供可能であることである。
【0029】
上述の実施態様のいくつかを実現するために、これらの本発明の構成に組み入れることが可能な機能性添加剤として、以下に限られないが、炭素、金属、金属酸化物(例えばTiO2)、フルオロポリマー、アクリレート、ポリアクリル酸、ヘパリン、ペルメトリン(permetherin)、酸化セリウム、ベンゾフェノン、ナノ粒子、カーボンナノチューブ、量子ドット、カドミウムセレン、鉛セレン、色素及び顔料、アンチモンドープした酸化インジウムスズが挙げられる。
【0030】
本発明の他の有用な置換もまた、単一被膜によって基材に提供される多機能性を備えた単一被膜を有する、コーティングされた微多孔質基材の範囲に包含される。本発明の追加の利点は、単一の微多孔質基材上に酸性及び塩基性の両方の反応性を付与するために、本発明を使用できることである。さらに、粒子をいくらか追加すると、微多孔質基材の水進入圧を低下させる場合があるため、本発明は、追加の機能性添加剤又は粒子の機能性を付与しつつ、微多孔質基材の防水性を維持する又はさらに高めるための方法を提供する。興味の持たれる追加の機能性添加剤として、以下に限られないが、金属、例えば銀、金属炭酸塩、例えば炭酸銅もしくは炭酸亜鉛、金属酸化物、例えば酸化銅(I)もしくは酸化モリブデン、又はトリエチレンジアミンのような有機材料が挙げられる。
【0031】
本願において、他に指示のない限り、以下の用語は以下に記載された意味を有するものとする。
【0032】
「空気透過性」とは、以下に記載するガーレー(Gurley)試験によって決定されるように、空気流が観察されることを意味する。空気透過性材料が水蒸気透過性でもあることは、当業者にとって当然に理解されることである。
【0033】
「空気不透過性」とは、以下に記載するガーレー試験によって決定されるように、空気流が少なくとも2分間観察されないことを意味する。
【0034】
「親水性」材料とは、1.0psi以下の圧力で液体水にさらしたときに、気孔が液体水で満たされる多孔質材料を表す。
【0035】
「微多孔質」を、層の一方の表面から層の反対の表面へと延在する通路を作り出す、相互連結した気孔から構成される材料の連続層を表すために使用する。
【0036】
「疎油性」とは、撥油性試験によって測定したときに、油等級(oil rating)が1以上である材料を意味する。
【0037】
「被膜」とは、基材の少なくとも一部に材料が存在することを指す。
【0038】
「コンフォーマル(conformal)被膜」とは、下地の基材の表面的特徴(topography)と適合する又はその表面的特徴に従う被膜を指す。
【0039】
試験手順
空気透過性/不透過性−ガーレー数試験:ガーレー数は次のように得られた。W.& L.E. Gurley & Sonsの製造するGurley デンソメーター(ASTM D726−58)によって、空気流に対するサンプルの抵抗を測定した。水の圧力損失が1.215kN/m2において、6.54cm2の試験サンプルを100cm3の空気が通過する秒数である、ガーレー数で結果を報告する。120秒間にわたって空気の通過が観察されない場合、材料は空気不透過性である。
【0040】
撥油性試験:これらの試験では、フィルム複合材を試験する場合に、AATCC試験法118−1983を用いて油等級(oil rating)を測定した。フィルム複合材の油等級は、複合材の2つの面を試験したときに得られる2つの等級のうち低い方である。数字が大きい程、撥油性が良好である。1より大きい値、好ましくは2以上、より好ましくは4以上であることが好ましい。
【0041】
布地を有するフィルム複合材の積層体を試験する場合、試験を以下のように変更する。試験油を3滴、布地表面に置く。ガラス板を油滴の上に直接置く。3分後、積層体の反対側を、試験油による浸透又は汚れを示す外観変化について検査する。積層体の油等級は、積層体を通って濡らさない、あるいは油の接触した反対側から目に見える汚れが生じない、最も大きい番号の油に相当する。数字が大きい程、撥油性が良好である。1より大きい値、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、最も好ましくは6以上であることが好ましい。
【0042】
可視光及び近赤外光スペクトルについての平均反射率試験:スペクトル反射率のデータは、サンプルの技術的処理面(technical face)(例えば、布地、積層体又は複合材のカモフラージュ印刷面)について決定し、硫酸バリウム標準に対し、(400〜1100nm又はそれ以上の波長で反射率を測定可能な)分光光度計(Data Color CS−5)で、20nm間隔で400〜1100ナノメートル(nm)について得る。スペクトルバンド幅は860nmで26nm未満に設定する。反射率測定は、単色光動作モードを用いて行う。
【0043】
サンプルは、同じ布帛及び色合いの6つの層で裏打ちした単一層として測定した。測定は少なくとも2つの異なる領域で行い、データを平均した。測定した領域は、耳(端)から少なくとも6インチ離れるように選択した。試験片を垂直から10度以下の角度で観察し、このとき正反射成分も含まれていた。
【0044】
装置:分光光度計の測光精度は1パーセント以内であり、波長精度は2nm以内である。色測定装置に使用する標準口径サイズは、森林・砂漠地帯のカモフラージュについては直径1.0〜1.25インチであり、ユニバーサルカモフラージュ、MARPAT森林地帯及びMARPAT砂漠地帯については直径0.3725インチである。MIL−DTL−31011A、MIL−DTL−31011B又はMIL−PRF−32142に指定された4つ以上の波長において限界値から外れるスペクトル反射率値を有する色があれば、試験失敗であると見なす。
【0045】
他に特別に記載のない限り、特定波長範囲についての平均反射率で結果を報告する。
【実施例】
【0046】
例1:例1は、疎油性、空気透過性及び近赤外抑制性の、低表面エネルギー微多孔質基材が製造可能であることを例証するために行った。(W.L. Gore & Associates, Inc.から入手した、気孔の公称寸法が0.2μm、質量が20g/m2の)0.001インチ厚微多孔質ePTFE膜を、フルオロカーボンポリマーバインダー及び湿潤剤を用いて、カーボンブラック(Vulcan XC72、Cabot Corporation, Boston, MA)でコーティングした。バインダーシステムは、Witcolate ES2(30%溶液)(Witco Chemicals/Crompton Corporation, Middlebury, CTから入手)2.6g、1−ヘキサノール(Sigma−Aldrich Chemical Corporation, St. Louis, MO)1.2g、及びフルオロポリマー(AG8025、Asahi Glass, Japan)3.0gを、脱イオン水13.2g中で混合することによって組成した。カーボンブラック0.015gをそのバインダーシステムに添加した。混合物を1分間超音波処理した。被膜質量がおよそ3g/m2となるよう、ローラーを用いてその混合物で膜をハンドコーティングした。コーティングした膜を190℃で2.5分間硬化した。
【0047】
得られた微多孔質延伸PTFE基材の、ガーレー数は約29秒〜約49秒であり、水蒸気透過率は約45942g/m2(24時間)であった。油等級は8であった。そしてこの例では、720nm〜1100nmの近赤外波長領域における平均反射率は、疎油性であっただけの単一機能性の対照サンプルと比較して実質的に低下した。この例では、多機能性コーティングシステムをどのように使用して、多機能性を有する空気透過性の微多孔質基材を製造可能であるかが明らかに示されている。
【0048】
比較例A:比較例Aは、フルオロカーボンポリマーバインダー及び湿潤剤にカーボンが含まれないことを除き、例1と同様に作製した。この構造体の平均反射率を、720〜1100nmの波長域で測定した。結果を「比較例A」として表1に報告する。
【0049】
【表1】

【0050】
例2:本発明によって異なる外観色及び疎油性の両方が提供可能であることを例証するために(例2)、以下の組成物を調製した(Witcolate ES−2(Witco Chemical Co.)1.5g、1−ヘキサノール0.6g、脱イオン水6.7g、AG8025(Asahi Glass Co. Ltd.)1.5g及び青色染料(Techtilon Blue)0.2g)。これらの成分を、水、界面活性剤、アルコールの順序で添加した。この水性システムに残りの機能性添加剤を添加した。この水性システムを周囲条件でおよそ1分間振とうすることにより混合した。この水性混合物を20g/m2のePTFE膜の片面に適用した。この水性混合物は1分以内にePTFE基材を濡らした。コーティングされた膜を、190℃で2分間、実験用オーブン中で硬化した。空気透過性の青色に着色した疎油性膜が得られた。コーティングされた膜のガーレー測定が約28秒であったことから、空気透過性が確認された。このコーティングされた膜の油等級は8であった。
【0051】
例3:pH指示被膜及びpHで切り替え可能な親水性を微多孔質基材に付与可能なことを例証するため、以下の組成の混合物を調製した(Witcolate ES−2(Witco Chemical Co.)1.3g、1−ヘキサノール0.6g、脱イオン水6.3g、ポリアクリル酸(Aldrich Chemical, 19203−1)2.0g、及びブロモフェノールブルー0.3g)。この混合物は、20g/m2のePTFE膜を即座に濡らした。コーティングされた膜を、190℃で2分間、実験用オーブン中で硬化した。空気透過性の黄色に着色した膜が得られた。水滴に接触させた時に、この膜は黄色いままであって、軽い指圧を与えても濡れなかった。NaOH溶液(〜pH10)に接触させた時に、膜の色が黄色から青色に変化し、軽い指圧を与えるとNaOH希薄溶液が膜に浸透した。この膜は、塩基性溶液に対して親水特性を有し、塩基性溶液の存在を示すためのpH指示薬を含んでいる。
【0052】
この例では、遮光性という追加の機能性要素を提供した。未コーティングの膜を通常の屋内光条件下で書類の頁の上に置くと、その書類は目に見えた。この多機能性コーティングを施した膜を同じ光条件で書類の同じ頁の上に置くと、書類は目に見えなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】コーティングした微多孔質ポリマー層の概略的な断面図である。
【図2】コーティングした延伸ポリテトラフルオロエチレン膜の、コーティングしたフィブリルを斜めから見た概略的な横断面図である。
【図3】コーティングした延伸ポリテトラフルオロエチレン膜の、コーティングしたフィブリルの全体の概略的な横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔壁及び開放した多孔性を有する微多孔質層と、
該微多孔質層の孔壁の少なくとも一部にある多機能性被膜であって、第1の機能性添加剤及び少なくとも1種の追加の機能性添加剤を含む多機能性被膜と
を含んでなり、該微多孔質層が、コーティングされた微多孔質構造部分において、少なくともいくらかの開放した多孔性を保持している、複合材。
【請求項2】
前記複合材が微多孔質である、請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記微多孔質層が、延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
前記第1の機能性添加剤が疎油性である、請求項1に記載の複合材。
【請求項5】
前記第1の機能性添加剤がフルオロアクリレートを含む、請求項1に記載の複合材。
【請求項6】
前記少なくとも1種の追加の機能性添加剤がフィラーである、請求項1に記載の複合材。
【請求項7】
前記フィラーが粒子状である、請求項6に記載の複合材。
【請求項8】
前記フィラーが炭素を含む、請求項6に記載の複合材。
【請求項9】
前記フィラーが、顔料、金属、金属酸化物及び混合金属酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の材料を含む、請求項6に記載の複合材。
【請求項10】
前記フィラーが、被膜の全質量に対して10質量%以下存在する、請求項6に記載の複合材。
【請求項11】
前記フィラーが、被膜の全質量に対して5質量%以下存在する、請求項6に記載の複合材。
【請求項12】
前記フィラーが、被膜の全質量に対して1質量%以下存在する、請求項6に記載の複合材。
【請求項13】
前記フィラーが、被膜の全質量に対して0.5質量%以下存在する、請求項6に記載の複合材。
【請求項14】
孔壁及び開放した多孔性を有する微多孔質ポリマーと、
該微多孔質ポリマーの孔壁の少なくとも一部にある多機能性被膜であって、第1の機能性添加剤及び少なくとも1種の追加の機能性添加剤を含む多機能性被膜と
を含んでなり、該微多孔質ポリマーが、コーティングされた部分において、少なくともいくらかの開放した多孔性を保持している、複合材。
【請求項15】
前記第1の機能性添加剤が、ポリマーと、被膜の全質量に対して、前記被膜の約50%以下の量の少なくとも1種の界面活性剤と、前記微多孔質ポリマーをコーティングするために使用する水性混合物の約30質量%以下の量の、C5−C10直鎖骨格を有する少なくとも1種の水に不溶性のアルコールとを含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項16】
前記複合材が、少なくとも1つの追加の被膜をさらに含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項17】
前記少なくとも1つの追加の被膜が、前記微多孔質ポリマーの気孔を満たさない、請求項16に記載の複合材。
【請求項18】
前記少なくとも1つの追加の被膜が、前記微多孔質ポリマーの気孔の少なくとも一部を実質的に満たす、請求項16に記載の複合材。
【請求項19】
前記微多孔質ポリマーが延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項20】
前記第1の機能性添加剤が疎油性である、請求項14に記載の複合材。
【請求項21】
前記第1の機能性添加剤がフルオロポリマーである、請求項14に記載の複合材。
【請求項22】
前記第1の機能性添加剤がポリフルオロアクリレートである、請求項14に記載の複合材。
【請求項23】
前記第1の機能性添加剤がスチレン−ブタジエンコポリマーを含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項24】
前記第1の機能性添加剤が親水性である、請求項14に記載の複合材。
【請求項25】
前記第1の機能性添加剤がポリアクリル酸を含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項26】
前記第1の機能性添加剤がポリアクリル酸ナトリウムである、請求項14に記載の複合材。
【請求項27】
前記第1の機能性添加剤がポリビニルアルコールである、請求項14に記載の複合材。
【請求項28】
前記第1の機能性添加剤がポリエチレンイミンである、請求項14に記載の複合材。
【請求項29】
前記第1の機能性添加剤がアクリル酸のコポリマーを含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項30】
前記第1の機能性添加剤がアクリルアミドのコポリマーを含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項31】
前記第1の機能性添加剤が界面活性剤を含む、請求項14に記載の複合材。
【請求項32】
前記第1の機能性添加剤が架橋性材料である、請求項14に記載の複合材。
【請求項33】
前記第1の機能性添加剤が弾性である、請求項14に記載の複合材。
【請求項34】
前記第2の機能性添加剤が粒子状である、請求項14に記載の複合材。
【請求項35】
前記第2の機能性添加剤が炭素である、請求項14に記載の複合材。
【請求項36】
前記第2の機能性添加剤が酸化アンチモンである、請求項14に記載の複合材。
【請求項37】
前記第2の機能性添加剤が、被膜の全質量に対して10質量%以下存在する、請求項14に記載の複合材。
【請求項38】
前記第2の機能性添加剤が、被膜の全質量に対して5質量%以下存在する、請求項14に記載の複合材。
【請求項39】
前記第2の機能性添加剤が、被膜の全質量に対して1質量%以下存在する、請求項14に記載の複合材。
【請求項40】
前記第2の機能性添加剤が、被膜の全質量に対して0.5質量%以下存在する、請求項14に記載の複合材。
【請求項41】
孔壁及び開放した多孔性を有する微多孔質構造を備えた微多孔質層と、
該微多孔質層の孔壁の少なくとも一部にある多機能性被膜であって、第1の機能性添加剤及び少なくとも1種の追加の機能性添加剤を含む多機能性被膜と
を含んでなり、該微多孔質層が、コーティングされた部分において、少なくともいくらかの開放した多孔性を保持しており、該第1の機能性添加剤及び該第2の機能性添加剤の少なくとも一方が、該多機能性被膜を該微多孔質層に結合している、複合材。
【請求項42】
微多孔質構造体に多機能性被膜を形成する方法であって、
水性湿潤混合物を調製する工程と、
該湿潤混合物に、第1の機能性添加剤及び少なくとも1種の追加の機能性添加剤を添加する工程と、
該微多孔質構造体を該水性湿潤混合物でコーティングする工程と、
そのコーティングした微多孔質材料を加熱して、その材料に被膜を形成する工程と
を含む、方法。
【請求項43】
微多孔質構造体に多機能性被膜を形成する方法であって、
溶媒湿潤混合物を調製する工程と、
該湿潤混合物に、第1の機能性添加剤及び少なくとも1種の追加の機能性添加剤を添加する工程と、
該微多孔質構造体を該溶媒湿潤混合物でコーティングする工程と、
そのコーティングした微多孔質材料を加熱して、その材料に被膜を形成する工程と
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−542064(P2008−542064A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513728(P2008−513728)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際出願番号】PCT/US2006/020322
【国際公開番号】WO2006/127946
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】