説明

微小物体回収装置および微小物体回収方法

【課題】回収対象となる微小物体のみを簡易に回収すること。
【解決手段】ピペットの吸引口を、待機位置に移動したのちに、ピペットに対して負圧を印加して、吸引を開始させ、培養液の吸引を開始したピペットの吸引口を、吸引位置まで回収対象となる細胞が配置されるウェルに一定の速度で近接させたのちに、ピペットを停止時間にわたって停止させる。さらに、停止時間が経過したのちに、所定の速度でピペットをウェルから遠ざける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微小物体回収装置および微小物体回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、微小物体を、微細なピペットなどの細管を用いて自動的に回収する技術の開発が進められている。
【0003】
例えば、近年、遺伝子配列とたんぱく質の関係をライブラリー化するため、作製した遺伝子ライブラリーを動物細胞や酵母菌などの細胞に導入し、遺伝子ライブラリーが導入された大量の細胞を、微小物体整列用のチップ(以下、単にチップと記載する場合がある)に整列して配置することが行なわれている。
【0004】
微小物体整列用のチップは、膨大な数の穴(ウェル)が、基板上に集積して作製されたものである。例えば、微小物体整列用のチップにおいては、図7に示すように、ガラスや樹脂などの基板上に、直径15μm、深さ7μmの10000個以上の微細な凹状の穴が、50μm間隔で集積して作製され、これらのウェル内に、遺伝子ライブラリーが導入された大量の細胞が配置される。図7は、微小物体整列用のチップの一例を説明するための図である。
【0005】
ここで、遺伝子ライブラリーとともに、GFP(Green Fluorescent Protein)などの蛍光たんぱく質の遺伝子を細胞に導入しておくことで、導入した遺伝子配列に対応するたんぱく質を高発現している細胞が選択される。具体的には、培養液を重層したチップに整列された膨大な数の細胞を、蛍光顕微鏡により観察し、蛍光たんぱく質が高発現されていることにより蛍光強度が高くなっている細胞を、たんぱく質を高発現している細胞として選択する。
【0006】
そして、選択した蛍光強度の高い細胞を、微細なピペットで吸引回収するが、ピペットを手動で操作して細胞などの微小物体を回収することは、高度な技術を持つ技術者でなければ困難である。例えば、技術者は、顕微鏡に接続されるモニタに表示される画像を参照しながら、吸引口の内径が10μm〜15μmの微細なピペットを、直径が4〜5μmの酵母菌に近接させる必要がある。このため、第一の従来技術においては、図8に示すように、回収対象である細胞が配置されているウェルまでピペットの吸引口を移動させて、負圧をピペットに印加することにより、細胞を自動的に回収することが行なわれている。なお、図8は、第一の従来技術を説明するための図である。
【0007】
しかし、第一の従来技術では、図8に示すように、回収対象となる微小物体を吸引する際に、周囲のウェルに配置された細胞も同時に誤吸引することがあった。また、上記した従来技術では、周囲のウェルにある細胞を、ウェルから吹き飛ばしてしまうこともあった。周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生する原因としては、以下のように2つの原因が挙げられる。
【0008】
第一の原因は、チップの構造に起因するものである。すなわち、チップのウェルは、図7に示すように、微細な構造であるため、ウェルごとに培養液を充填しても、培養液は、すぐに蒸発してしまう。培養液の蒸発を防止するためには、チップに作製されたウェルすべてを覆うように培養液を重層する必要がある。すなわち、すべてのウェルが同じ培養液により繋がっているために、ピペットに印加された負圧により生じる流れ場は、図8に示すように、広範囲に及んでしまうので、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生する。
【0009】
第二の原因は、回収時には回収対象となる細胞のみを回収し、回収時以外の待機時には周囲の細胞を誤吸引や吹き飛ばしたりすることがないように、微小な流れ場を発生するための精密な制御が困難であることに起因する。すなわち、ピペットによる吸引動作は、うず状の流れを発生する管外流れとなるため、流速分布は、ピペットおよびチップ面の形状や位置関係によって、流体力学的に大きく変化する。また、細胞のような微小物体を吸引する微細な吸引口を持つピペットでは、界面などの影響により、流体力学的に応答遅延や圧力のヒステリシスが顕著になる。さらに、ピペットに印加する圧力を発生するために空圧ポンプを制御する際に、空圧ポンプからの応答遅延が発生することは、避けられない。
【0010】
すなわち、「流体力学的な流速分布の変化、応答遅延および圧力のヒステリシス」や「空圧ポンプからの応答遅延」を考慮して微小な流れ場の発生を制御することは困難であるので、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生する。
【0011】
そこで、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしの発生を回避するための技術として、ピペットをウェルに密着させて吸引を開始する第二の従来技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。第二の従来技術においては、図9の(A)に示すように、チップ上のウェルそれぞれに、微細な溝が設けられる。図9は、第二の従来技術を説明するための図である。
【0012】
そして、図9の(B)に示すように、ピペットをウェルに密着させた状態で、ピペットに負圧を印加することで、回収対象となる細胞(微小物体)の吸引を開始し、溝とピペット先端との僅かな隙間から溶液を吸引させる事によって、周囲の細胞(微小物体)を巻き込むような液体流れが発生する事を防止している。すなわち、微小な絞りで流量を抑制して、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生することを回避している。
【0013】
【特許文献1】特開2007−139704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記した従来の技術は、回収対象となる微小物体のみを簡易に回収することができないという課題があった。
【0015】
すなわち、上記したピペットをウェルに密着させて吸引を開始する技術では、ピペットとチップとの密着度を上げるために、ピペットが破損する可能性が高くなる。また、チップ面に対して、ピペットを垂直方向から接近させる必要があるために、装置の設計自由度が低くなる。さらに、上記したピペットをウェルに密着させて吸引を開始する技術にて用いられるチップでは、ウェルの形状が、溝を設けるといった特殊であるために、チップの製造が困難である。従って、上記したピペットをウェルに密着させて吸引を開始する技術では、回収対象となる微小物体のみを簡易に回収することができない。
【0016】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、回収対象となる微小物体のみを簡易に回収することが可能になる微小物体回収装置および微小物体回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、この装置は、微小物体を細管により回収する微小物体回収装置であって、前記細管を移動する移動機構と、前記細管に対して印加される圧力を調整するレギュレータとを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記細管の吸引口を、所定の待機位置に移動したのちに、前記細管に対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させ、吸引を開始した前記細管の吸引口を、所定の吸引位置まで前記微小物体が配置される穴に近接させたのちに、前記細管を所定の停止時間にわたって停止させるように、前記移動機構と前記レギュレータとを制御することを要件とする。
【発明の効果】
【0018】
開示の装置は、吸引を開始した細管の移動を制御するだけで、回収対象となる微小物体のみを簡易に回収することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る微小物体回収装置および微小物体回収方法の実施例を詳細に説明する。なお、以下では、この発明に係る微小物体回収装置を顕微鏡本体と組み合わせた顕微鏡システムに適用した場合を実施例として説明する。
【実施例】
【0020】
[用語の説明]
まず最初に、以下の実施例で用いる主要な用語を説明する。以下の実施例で用いる「酵母菌」または「細胞」とは、遺伝子ライブラリーがGFP(Green Fluorescent Protein)の遺伝子とともに導入された形質転換済みの酵母菌のことである。
【0021】
また、「チップ」とは、大量の微小物体としての「酵母菌」を、整列して配置するために用いられるものである。例えば、「チップ」においては、ガラスや樹脂などの基板上に、直径15μm、深さ7μmの10000個以上の微細な凹状の「ウェル」が、50μm間隔で集積して作製され、作製された「ウェル」内に、大量の「酵母菌」が配置される。なお、「ウェル」は、特許請求の範囲に記載の「穴」に対応する。
【0022】
また、「回収対象となる細胞」とは、導入した遺伝子配列に対応するたんぱく質を高発現している細胞として選択された「酵母菌」のことであり、特許請求の範囲に記載の「微小物体」に対応する。具体的には、培養液を重層した「チップ」に整列された膨大な数の「酵母菌」が、蛍光顕微鏡としての顕微鏡本体により観察され、蛍光たんぱく質が高発現されていることにより蛍光強度が高くなっている細胞が、たんぱく質を高発現している「回収対象となる細胞」として選択される。
【0023】
また、「ピペット」とは、「回収対象となる細胞」を吸引するための微細な吸引口(例えば、内径が10μm〜15μm)をもつガラス管であり、特許請求の範囲に記載の「細管」に対応する。
【0024】
[本実施例における微小物体回収装置の概要および特徴]
続いて、図1を用いて、本実施例における微小物体回収装置の概要および特徴について説明する。図1は、本実施例における微小物体回収装置の概要および特徴を説明するための図である。
【0025】
図1に示すように、本実施例における微小物体回収装置は、チップのウェル内に配置された回収対象となる細胞をピペットに負圧を印加することにより回収することを概要とし、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になることに主たる特徴がある。
【0026】
この主たる特徴について簡単に説明すると、本実施例における微小物体回収装置は、ピペットの吸引口を、回収対象となる細胞が配置されるウェルから遠方にある待機位置に移動したのちに、ピペットに対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させる(図1の(1)参照)。すなわち、本実施例における微小物体回収装置は、ピペットに印加した負圧によって発生した流れ場によって、回収対象となる細胞の位置が乱されないことが事前に確認された待機位置で、培養液の吸引を開始することで、流れ場を安定化する。
【0027】
そして、本実施例における微小物体回収装置は、培養液の吸引を開始したピペットの吸引口を、回収対象となる細胞が配置されるウェルに対して、吸引位置まで一定の速度で素早く近接させる(図1の(2)参照)。そして、本実施例における微小物体回収装置は、ピペットを、所定の停止時間にわたって短時間停止させ(図1の(3)参照)、さらに、所定の停止時間が経過したのちに、ピペットを、一定の速度で素早く待機位置まで戻す(図1の(4)参照)。
【0028】
すなわち、ピペットの移動中では、吸い込みの強い領域が小さくなり、また、ピペットの移動制御が精密かつ迅速に実行できるために、吸い込みの強い領域が拡大する前にピペットを引き戻せることにより、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしを回避して回収対象となる細胞のみが回収される。
【0029】
なお、待機位置、ピペットを移動させる速度(上記した「一定の速度」)およびピペットを停止させる時間(上記した「所定の停止時間」)は、試験用の細胞を用いて、事前に決定されるが、決定方法については後述する。また、図1においては、ピペットがチップ面に対して垂直方向に移動する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チップ面に対して任意の角度で移動する場合であっても、回収対象となる細胞のみが回収される。
【0030】
このようなことから、本実施例における微小物体回収装置は、周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生することなく回収対象となる細胞のみを、吸引を開始したピペットの移動を制御するだけで回収することができる。すなわち、本実施例における微小物体回収装置は、上記した主たる特徴の通り、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になる。
【0031】
[本実施例における顕微鏡システムの構成]
次に、図2を用いて、本実施例における顕微鏡システムを説明する。図2は、本実施例における顕微鏡システムの構成を説明するための図である。
【0032】
図2に示すように、本実施例における顕微鏡システムは、微小物体回収装置10と、顕微鏡本体200とを備える。
【0033】
まず、顕微鏡本体200について説明する。顕微鏡本体200は、図2に示すように、マニピュレーション機能を有する倒立型の蛍光顕微鏡である。マニピュレーション機能に関しては、正圧ポンプ201と、負圧ポンプ202と、移動機構203と、電空レギュレータ204と、マニピュレータ205と、ピペット206と、チップ207と、自動ステージ208と、培養ディッシュ209とを備える。
【0034】
また、蛍光顕微鏡としての機能に関しては、CCDカメラ210と、フォーカスモータ211と、蛍光ランプ212と、シャッター213と、蛍光フィルタ214と、対物レンズ215と、照明216とを備える。なお、図示しないが、顕微鏡本体200には、接眼レンズも備えられる。
【0035】
ピペット206は、微細な吸引口を有するガラス管であり、マニピュレータ205は、ピペット206を支持する支持体であり、移動機構203は、後述する移動・圧力コントローラ14による制御に基づいて、マニピュレータ205が支持するピペット206を3次元的に移動させる。なお、移動機構203は、特許請求の範囲に記載の「移動機構」に対応する。
【0036】
電空レギュレータ204は、正圧ポンプ201および負圧ポンプ202によって生成される正圧および負圧を、後述する移動・圧力コントローラ14による制御に基づいて、調整し、調整した圧力を、ピペット206に印加する。ここで、ピペット206に圧力を印加する機構としては、電気浸透流、電気泳動、空圧、油圧などのいずれでもよく、ピペット206に印加される圧力を任意に調整可能であればよい。なお、電空レギュレータ204は、特許請求の範囲に記載の「レギュレータ」に対応する。
【0037】
チップ207は、大量の酵母菌を整列して配置されるウェルを備え、ウェルすべてを覆うように培養液が重層される。培養ディッシュ209は、ピペット206が回収した「回収対象となる細胞」を分離して培養するためのディッシュであり、ディッシュ内には、培養液が注入されている。
【0038】
自動ステージ208は、チップ207および培養ディッシュ209が設置されるステージであり、後述する移動・圧力コントローラ14による制御に基づいて、3次元的に移動する。
【0039】
CCDカメラ210は、後述するCCDコントローラ15による制御に基づいて、対物レンズ215を介して取得された顕微鏡画像(明視野画像または蛍光画像)を生成するためのセンサである。
【0040】
蛍光ランプ212は、蛍光観察用の励起波長を照射するための光線を発生するランプであり、例えば、超高圧水銀灯、キセノンランプ、紫外線LEDなどが挙げられる。蛍光フィルタ214は、蛍光ランプ212が発生した光線を用いて、試料(本実施例では、チップ207のウェル内に配置された酵母菌)に対して所定の波長をもつ励起光を照射し、試料から発生した蛍光の波長のみを透過するためのフィルタセットを有する。
【0041】
シャッター213は、蛍光ランプ212によって発生された光線を、蛍光フィルタ214に供給する時のみに開口される。フォーカスモータ211は、試料に対する焦点を合わせるために、対物レンズ215を上下方向に駆動するモータであり、照明216は、試料を撮影する場合に、試料に対して可視光もしくは励起光を照射する。なお、シャッター213の開閉、フォーカスモータ211の駆動および照明216の可視光もしくは励起光の照射は、後述する光学系コントローラ16によって制御される。
【0042】
続いて、微小物体回収装置10について説明する。図2に示すように、微小物体回収装置10は、モニタ11と、キーボード12と、マウス13と、移動・圧力コントローラ14と、CCDコントローラ15と、光学系コントローラ16と、制御条件決定部17と、制御条件記憶部18とを備える。
【0043】
モニタ11は、CCDコントローラ15の制御に基づいてCCDカメラ210が生成した撮影画像を表示したりするための表示部である。キーボード12およびマウス13は、微小物体回収装置10の操作者から、撮影要求や、後述する制御条件決定要求を受け付けたりするための入力部である。
【0044】
光学系コントローラ16は、キーボード12およびマウス13を介して微小物体回収装置10の操作者から受け付けた撮影要求に応じて、フォーカスモータ211、シャッター213および照明216を制御する。また、CCDコントローラ15は、同じく撮影要求に応じて、CCDカメラ210を制御する。光学系コントローラ16およびCCDコントローラ15による制御により、CCDカメラによって顕微鏡画像が生成される。
【0045】
移動・圧力コントローラ14は、後述する制御条件決定部17による吸引試験を実行するために、移動機構203および電空レギュレータ204を制御して、ピペット206の移動や、ピペット206に印加される圧力の調整を行なう。なお、移動・圧力コントローラ14は、特許請求の範囲に記載の「制御部」に対応する。
【0046】
ここで、光学系コントローラ16およびCCDコントローラ15の制御により、顕微鏡本体200におけるチップ207のウェル内に配置された酵母菌の蛍光画像が、CCDカメラ210によって撮影される。そして、撮影された蛍光画像を参照した操作者によって、GFPが発現して蛍光強度が強い酵母菌が選択される。具体的には、蛍光強度が強い酵母菌が配置されるウェルが、マウス13を介して操作者によって選択され、選択されたウェル内に配置される酵母菌が、回収対象となる細胞となる。
【0047】
なお、本実施例では、回収対象となる細胞が、操作者の手動によって選択される場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回収対象となる細胞が、自動的に選択される場合であってもよい。例えば、自動ステージ208の位置から、チップ207の上にあるウェルそれぞれの位置を取得し、CCDカメラ210によって撮影された蛍光画像において蛍光強度が強い領域の中で、ウェルの位置と一致する領域を検出する。そして、検出された領域の位置にあるウェルを、回収対象となる細胞が配置されているウェルとして、自動的に選択する場合であってもよい。
【0048】
制御条件決定部17は、回収対象となる細胞を回収する際に用いられる「待機位置」、「吸引位置」、「所定の負圧」、「停止時間」および「一定の速度」からなる制御条件を、事前に行なった吸引試験の結果に基づいて決定する。具体的には、制御条件決定部17は、制御条件決定部17が記憶する制御条件の初期値を読み込み、チップ207のウェル内にある酵母菌のうち、回収対象となる細胞として選択されなかった酵母菌(以下、テスト用酵母菌と記す)を用いて吸引試験を行なう。
【0049】
なお、以下では、制御条件決定部17が記憶する制御条件の初期値として、「待機位置」の初期値を「初期待機位置」、「吸引位置」の初期値を「初期吸引位置」、「所定の負圧」の初期値を「初期負圧」、「停止時間」の初期値を「初期停止時間」、「一定の速度」の初期値を「初期速度」として記載する。
【0050】
例えば、制御条件決定部17は、初期待機位置にピペット206の位置を移動したうえで、初期負圧をピペット206に印加するように、移動・圧力コントローラ14を介して制御する。そして、制御条件決定部17は、初期待機位置を変更することで、ピペット206の吸引口が、テスト用酵母菌が配置されるウェルから順次遠ざけるように、移動・圧力コントローラ14を介して制御する。
【0051】
そして、制御条件決定部17は、初期負圧を印加した場合でも、ピペット206にテスト用酵母菌が回収されない位置を、待機位置として決定する。なお、制御条件決定部17は、テスト用酵母菌が回収された場合は、ピペット206を別のテスト用酵母菌が配置されるウェルに移動したうえで、待機位置を決定するための吸引試験を行なう。
【0052】
そして、制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14を介して、ピペット206を別のテスト用酵母菌が配置されるウェルに移動し、さらに、決定した待機位置までピペット206を移動させる。そして、制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14を介して、ピペット206に初期負圧を印加したうえで、ピペット206の位置を初期速度にて初期吸引位置まで移動し、初期停止時間させて、初期速度にて待機位置まで移動させる。
【0053】
ここで、制御条件決定部17は、テスト用酵母菌が回収されなかった場合、ピペット206を別のテスト用酵母菌が配置されるウェルに移動したうえで、初期停止時間を減少するように、また、初期速度を増加するように変更して吸引試験を行なう。なお、制御条件決定部17は、テスト用酵母菌以外の周囲の酵母菌が吹き飛ばされた場合も、同様の変更をして吸引試験を行なう。
【0054】
そして、制御条件決定部17は、初期停止時間や初期速度を変更した吸引試験を行なって、目標とするウェル内にある酵母菌(テスト用酵母菌)のみが吸引される「停止時間:T0」および「一定の速度:V0」を決定する。そして、制御条件決定部17は、決定した待機位置、「停止時間:T0」および「一定の速度:V0」を、制御条件記憶部18に格納する。
【0055】
なお、制御条件決定部17は、待機位置、「停止時間:T0」および「一定の速度:V0」を決定するための吸引試験において、CCDコントローラ15による制御に基づいてCCDカメラ210が撮影した明視野画像を画像処理することにより、テスト用酵母菌が吸引されたか否かを判定する。
【0056】
上述したように、本実施例における制御条件決定部17は、吸引位置を「初期吸引位置」に、所定の負圧を「初期負圧」に固定したうえで、「初期待機位置」、「初期停止時間」および「初期速度」を変更して、待機位置、停止時間および一定の速度を決定する。
【0057】
すなわち、本実施例における制御条件決定部17は、「ピペット206の位置」を変更して待機位置を決定し、「ピペット206をウェルに対して近接させ遠ざける速度」および「ピペット206を停止させる時間」を変更して、停止時間および一定の速度を決定する。なお、上述した制御条件決定部17による処理については、後に、フローチャートを用いて、さらに詳述する。
【0058】
しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、変更される初期値としては、「初期待機位置」、「初期吸引位置」、「初期負圧」、「初期停止時間」あるいは「初期速度」のいずれであってもよく、変更される初期値の組み合わせについても任意に変更できる。
【0059】
また、ピペット206が移動する際の加速度および減速度や、ピペット206が移動する際の空間軌道を、制御条件に加える場合であってもよい。
【0060】
また、吸引試験としては、「ピペット206の位置」、「ピペット206をウェルに対して近接させ遠ざける速度」、「ピペット206を停止させる時間」あるいは、「ピペット206とチップ207の面との角度」を任意の組み合わせにおいて変更して行なうことができる。
【0061】
また、本実施例では、ピペット206をウェルに対して近接させる速度と、ピペット206をウェルから遠ざける速度とが同じ場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、近接させる速度と、遠ざける速度とが異なる値である場合であってもよい。例えば、ピペット206をウェルから遠ざける際に、周囲のウェルにある酵母菌が吹き飛ばされないような速度を、吸引試験により第二の一定の速度として決定する場合であってもよい。
【0062】
また、本実施例では、制御条件決定部17によって、制御条件が自動決定される場合について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、微小物体回収装置10の操作者が、モニタ11に表示される顕微鏡画像を参照しながら、キーボード12およびマウス13を介して移動・圧力コントローラ14を操作して、上記した吸引試験を手動で行なうことで、制御条件が決定される場合であってもよい。
【0063】
移動・圧力コントローラ14は、制御条件決定部17によって決定された待機位置、「停止時間:T0」および「一定の速度:V0」を用いて、移動機構203および電空レギュレータ204を制御することにより、図3に示すように、回収対象となる細胞を回収する。図3は、移動・圧力コントローラを説明するための図である。
【0064】
すなわち、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、移動機構203を制御して、ピペット206の吸引口が待機位置に位置するように、マニピュレータ205を移動させる。そして、移動・圧力コントローラ14は、電空レギュレータ204を制御することによって、ピペット206に負圧(初期負圧)を印加して、培養液の吸引を開始させる。
【0065】
そして、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、移動機構203を制御して、ピペット206の吸引口を「一定の速度:V0」にて、回収目的となる細胞(酵母菌)が配置されるウェルに向かって、吸引位置(初期吸引位置)まで降下させる。
【0066】
そして、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、移動機構203を制御して、ピペット206を「停止時間:T0」の間、停止することによって、回収目的となる細胞を回収する。
【0067】
そして、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、移動機構203を制御して、ピペット206を「一定の速度:V0」にて、回収目的となる細胞(酵母菌)が配置されるウェルから遠ざける。すなわち、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206が周囲の酵母菌を吸う前に、ピペット206を退避する。
【0068】
そして、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、自動ステージ208を移動させることで、ピペット206を培養ディッシュ209まで移動させる。さらに、移動・圧力コントローラ14は、図3に示すように、電空レギュレータ204を制御して、ピペット206に正圧を印加して、回収した酵母菌を培養ディッシュ209に吐出させる。
【0069】
[本実施例における顕微鏡システムによる処理の手順]
次に、図4および図5を用いて、本実施例における顕微鏡システムによる処理を説明する。図4は、本実施例における顕微鏡システムによる制御条件決定処理を説明するためのフローチャートであり、図5は、本実施例における顕微鏡システムによる回収処理を説明するためするためのフローチャートである。
【0070】
[本実施例における顕微鏡システムによる制御条件決定処理の手順]
まず、図4に示すように、本実施例における顕微鏡システムが備える微小物体回収装置10は、回収対象となる細胞が配置されるウェルが選択されたうえで、操作者からの制御条件決定要求が入力されると(ステップS401肯定)、制御条件決定処理を開始する。
【0071】
すなわち、制御条件決定要求を受け付けた制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14により、自動ステージ208を移動してテスト用酵母菌を、ピペット206の吸引口の下へ移動させる(ステップS402)。具体的には、制御条件決定要求を受け付けた制御条件決定部17は、制御条件記憶部18が記憶する初期待機位置および初期負圧を読み込んだうえで、ピペット206の吸引口を、初期待機位置まで移動させる。
【0072】
そして、制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14を介して電空レギュレータ204を制御して、ピペット206に負圧(初期負圧)を印加し(ステップS403)、酵母菌(テスト用酵母菌)を吸い込んだか否かを判定する(ステップS404)。
【0073】
ここで、酵母菌(テスト用酵母菌)がピペット206に吸い込まれた場合(ステップS404肯定)、制御条件決定部17は、マニピュレータ205を移動してピペット206を遠ざける(ステップS405)。例えば、制御条件決定部17は、ピペット206を、初期待機位置から、一定距離(例えば、5μm)遠ざける。
【0074】
そして、制御条件決定部17は、再度、ステップS402〜ステップS404の処理を実行する。なお、ステップS402に戻る際は、移動・圧力コントローラ14により、自動ステージ208を移動して別のテスト用酵母菌を、ピペット206の吸引口の下へ移動させる。
【0075】
一方、テスト用酵母菌がピペット206に吸い込まれなかった場合(ステップS404否定)、制御条件決定部17は、テスト用酵母菌がピペット206に吸い込まれなかった位置を、ピペット206の待機位置として決定する(ステップS406)。
【0076】
続いて、制御条件決定部17は、制御条件記憶部18から吸引位置(初期吸引位置)、速度V(初期速度)、停止時間T(単位:秒、初期停止時間)を読み込む(ステップS407)。
【0077】
そののち、制御条件決定部17は、ピペット206を速度Vで、テスト用酵母菌が配置されるウェルに対して吸引位置(初期吸引位置)まで近づけ(ステップS408)、ピペット206を、吸引位置(初期吸引位置)でT秒間停止する(ステップS409)。
【0078】
さらに、制御条件決定部17は、速度V(初期速度)でウェルからピペット206を離し(ステップS410)、ピペット206の移動を、決定した待機位置にて停止させる(ステップS411)。
【0079】
そして、制御条件決定部17は、ピペット206が、目標とするウェルの酵母菌(テスト用酵母菌)のみを吸引したか否かを判定する(ステップS412)。
【0080】
ここで、制御条件決定部17は、ピペット206が、目標とするウェルの酵母菌(テスト用酵母菌)を吸引していなかった場合(ステップS412否定)、ステップS409にて用いた「T」が「0」であるか否かを判定する(ステップS413)。また、制御条件決定部17は、目標とするウェル以外の酵母菌を吸引したり吹き飛ばしていたりした場合も、ステップS413の処理を実行する。
【0081】
ステップS409にて用いた「T」が「0」でない場合(ステップS413否定)、制御条件決定部17は、Tを、T秒間から一定時間(例えば、「T/10」秒間)減少させた値として変更する(ステップS414)。
【0082】
そして、制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14により、自動ステージ208を移動して別のテスト用酵母菌を、ピペット206の吸引口の下へ移動させ(ステップS416)、変更したTを用いて、再度、ステップS408からの処理を実行する。
【0083】
一方、ステップS409にて用いた「T秒」が「0」である場合(ステップS413肯定)、制御条件決定部17は、「T=0」と固定したえうで、制御条件決定部17は、Vを、Vから一定速度(例えば、「V/10」)増加させた値として変更する(ステップS415)。
【0084】
そして、制御条件決定部17は、移動・圧力コントローラ14により、自動ステージ208を移動して別のテスト用酵母菌を、ピペット206の吸引口の下へ移動させる(ステップS416)。そののち、制御条件決定部17は、「T=0」および変更したVを用いて、再度、ステップS408からの処理を実行する。
【0085】
一方、制御条件決定部17は、ピペット206が、目標とするウェルの酵母菌(テスト用酵母菌)のみを吸引した場合(ステップS412肯定)、「V0=V、T0=T」として決定し(ステップS417)、処理を終了する。すなわち、制御条件決定部17は、最新のステップS408およびステップS410にて用いた速度Vを「一定の速度:V0」として決定し、最新のステップS409にて用いたT秒を「停止時間:T0」として決定する。
【0086】
[本実施例における顕微鏡システムによる回収処理の手順]
まず、図5に示すように、本実施例における顕微鏡システムが備える微小物体回収装置10は、制御条件決定部17によって制御条件が決定されると(ステップS501肯定)、回収のための準備処理を行なう。
【0087】
すなわち、移動・圧力コントローラ14は、回収のための準備処理として、自動ステージ208を廃棄位置に移動させて、ピペット206に正圧を印加し、吸い込んだテスト用酵母菌を吐出させる(ステップS502)。
【0088】
そして、移動・圧力コントローラ14は、移動機構203を制御して、マニピュレータ205を移動してピペット206を退避させる(ステップS503)。
【0089】
続いて、移動・圧力コントローラ14は、自動ステージ208を移動して、回収したい酵母菌(回収対象となる細胞)を、ピペット206の下に移動させ(ステップS504)、ピペット206を、決定された待機位置へ移動する(ステップS505)。
【0090】
さらに、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206に吸引圧(初期負圧)を印加し(ステップS506)、ピペット206を「速度V0」で回収したい酵母菌(回収対象となる細胞)のウェルに、吸引位置まで近づける(ステップS507)。
【0091】
そして、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206を、吸引位置で「T0秒間」停止させ(ステップS508)、ピペット206を「速度V0」でウェルから離す(ステップS509)。
【0092】
そののち、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206を、待機位置で停止させ(ステップS510)、電空レギュレータ204を制御して、ピペット206に印加する圧力を、待機圧力に変更する(ステップS511)。すなわち、回収した酵母菌が、ピペット206の奥に吸い込まれずに、一定の位置で留まるような待機圧力に、吸引圧(初期負圧)から変更する。
【0093】
さらに、移動・圧力コントローラ14は、マニピュレータ205を移動してピペット206を退避させ(ステップS512)、自動ステージ208を移動して、培養ディッシュ209をピペット206の下に移動する(ステップS513)。
【0094】
そして、移動・圧力コントローラ14は、マニピュレータ205を移動してピペット206を下降させ(ステップS514)、ピペット206に正圧を印加して、回収した酵母菌を培養ディッシュ209に吐出させる(ステップS515)。
【0095】
そののち、移動・圧力コントローラ14は、選択された酵母菌をすべて回収したか否かを判定し(ステップS516)、選択された酵母菌が残っている場合(ステップS516否定)、ステップS504に戻って、別の選択された酵母菌の回収処理を行なう。すなわち、ステップS504において、自動ステージ208を移動して、別の回収したい酵母菌を、ピペット206の下に移動させて、ステップS505〜ステップS515の処理を行なう。
【0096】
これに反して、移動・圧力コントローラ14は、選択された酵母菌がすべて回収された場合(ステップS516肯定)、処理を終了する。
【0097】
これにより、図6に示すように、ターゲットの酵母菌に対して、負圧が印加されたピペット206が近づいて離れるだけで、ターゲットの酵母菌のみ回収される。なお、図6は、本実施例における顕微鏡システムによる回収処理結果を説明するための図である。
【0098】
[本実施例の効果]
上記したように、本実施例によれば、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206の吸引口を、待機位置に移動したのちに、ピペット206に対して負圧を印加して、吸引を開始させるように、移動機構203と電空レギュレータ204とを制御する。そして、移動・圧力コントローラ14は、培養液の吸引を開始したピペット206の吸引口を、吸引位置まで回収対象となる細胞が配置されるウェルに近接させたのちに、ピペット206を停止時間にわたって停止させるように、移動機構203を制御する。これにより、ピペット206の移動中では吸い込みの強い領域が小さくなることを利用して、吸引を開始したピペットの移動を制御するだけで、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になる。すなわち、精密な制御が必要となるのは、圧力や流体ではなく、ピペット206の機械運動のみとなるので、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になる。
【0099】
また、本実施例によれば、移動・圧力コントローラ14は、ピペット206を、所定の速度(V0)にて吸引位置までウェルに近接させ、さらに停止時間が経過したのちに、所定の速度(V0)にてピペット206をウェルから遠ざけるように、移動機構206を制御する。これにより、ピペット206の移動により周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生することなく、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になる。すなわち、吸い込みの強い領域が小さい間に、所定の速度(V0)で素早く吸引位置までピペット206の吸引口を到達させる。そして、停止時間の間に拡大する吸い込みの強い領域によって周囲のウェルにある細胞の誤吸引や吹き飛ばしが発生ないように、所定の速度(V0)で素早くピペット206を引き戻すことにより、回収対象となる細胞のみを簡易に回収することが可能になる。
【0100】
また、本実施例によれば、制御条件決定部17によって、細胞を回収する際の制御条件を、様々なパラメータを変更した吸引試験を行なうことで、自動的に決定することができ、回収対象となる細胞のみを確実に回収することが可能になる。
【0101】
また、本実施例によれば、回収処理の際に、ピペット206の吸引口とウェルとを密着させる必要が無いため、ピペット206やウェルが破損することを回避できる。また、精密な圧力制御が不要であるので、正圧ポンプ201や負圧ポンプ202や電空レギュレータ204などの吸引吐出装置にかかるコストを低減できる。また、特殊な構造を持たない従来のチップや、マニピュレータ機能をそのまま流用することができ、微小物体を回収する装置にかかるコストを低減できる。
【0102】
なお、上記した実施例では、回収対象となる微小物体として酵母菌を回収する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回収対象となる微小物体として、酵母菌以外の動物細胞、植物細胞、真菌、大腸菌などの細胞を回収する場合であってもよい。また、細胞だけでなく、化学的に合成されたポリマーなど任意の微粒子が本発明の回収対象となる。
【0103】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる(例えば、図2において、制御条件決定部17と移動・圧力コントローラ14とを統合するなど)。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0104】
なお、本実施例で説明した微小物体回収方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVDなどのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0105】
以上の本実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0106】
(付記1)微小物体を細管により回収する微小物体回収装置であって、
前記細管を移動する移動機構と、前記細管に対して印加される圧力を調整するレギュレータとを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記細管の吸引口を、所定の待機位置に移動したのちに、前記細管に対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させ、
吸引を開始した前記細管の吸引口を、所定の吸引位置まで前記微小物体が配置される穴に近接させたのちに、前記細管を所定の停止時間にわたって停止させるように、前記移動機構と前記レギュレータとを制御することを特徴とする微小物体回収装置。
【0107】
(付記2)前記制御部は、前記細管を、所定の第一の速度にて前記所定の吸引位置まで前記穴に近接させるように前記移動機構を制御することを特徴とする付記1に記載の微小物体回収装置。
【0108】
(付記3)前記制御部は、前記所定の停止時間が経過したのちに、所定の第二の速度にて前記細管を前記穴から遠ざけるように、前記移動機構を制御することを特徴とする付記2に記載の微小物体回収装置。
【0109】
(付記4)前記所定の待機位置、前記所定の吸引位置、前記所定の負圧、前記所定の停止時間、前記所定の第一の速度および前記第二の速度からなる制御条件を、事前に行なった吸引試験の結果に基づいて決定する制御条件決定部をさらに備えたことを特徴とする付記3に記載の微小物体回収装置。
【0110】
(付記5)前記制御条件決定部は、前記吸引試験を、前記細管の位置、前記細管を前記穴に対して近接させる速度、前記細管を停止させる時間、前記細管を前記穴から遠ざける速度、あるいは前記細管と前記基板の面との角度を、任意の組み合わせにおいて変更して行なうことを特徴とする付記4に記載の微小物体回収装置。
【0111】
(付記6)微小物体を細管により回収する微小物体回収方法であって、
前記細管の吸引口を、所定の待機位置に移動したのちに、前記細管に対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させる第一のステップと、
吸引を開始した前記細管の吸引口を、所定の吸引位置まで前記微小物体が配置される穴に近接させたのちに、前記細管を所定の停止時間にわたって停止させる第二のステップと、
を含んだことを特徴とする微小物体回収方法。
【0112】
(付記7)前記第一のステップは、前記細管を、所定の第一の速度にて前記所定の吸引位置まで前記穴に近接させることを特徴とする付記6に記載の微小物体回収方法。
【0113】
(付記8)前記所定の停止時間が経過したのちに、所定の第二の速度にて前記細管を前記穴から遠ざける第三のステップをさらに含んだことを特徴とする付記7に記載の微小物体回収方法。
【0114】
(付記9)前記所定の待機位置、前記所定の吸引位置、前記所定の負圧、前記所定の停止時間、前記所定の第一の速度および前記第二の速度からなる制御条件を、事前に行なった吸引試験の結果に基づいて決定する制御条件決定ステップをさらに含んだことを特徴とする付記8に記載の微小物体回収方法。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本実施例における微小物体回収装置の概要および特徴を説明するための図である。
【図2】本実施例における顕微鏡システムの構成を説明するための図である。
【図3】移動・圧力コントローラを説明するための図である。
【図4】本実施例における顕微鏡システムによる制御条件決定処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】本実施例における顕微鏡システムによる回収処理を説明するためするためのフローチャートである。
【図6】本実施例における顕微鏡システムによる回収処理結果を説明するための図である。
【図7】微小物体整列用のチップの一例を説明するための図である。
【図8】第一の従来技術を説明するための図である。
【図9】第二の従来技術を説明するための図である。
【符号の説明】
【0116】
10 微小物体回収装置
11 モニタ
12 キーボード
13 マウス
14 移動・圧力コントローラ
15 CCDコントローラ
16 光学系コントローラ
17 制御条件決定部
18 制御条件記憶部
200 顕微鏡本体
201 正圧ポンプ
202 負圧ポンプ
203 移動機構
204 電空レギュレータ
205 マニピュレータ
206 ピペット
207 チップ
208 自動ステージ
209 培養ディッシュ
210 CCDカメラ
211 フォーカスモータ
212 蛍光ランプ
213 シャッター
214 蛍光フィルタ
215 対物レンズ
216 照明

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小物体を細管により回収する微小物体回収装置であって、
前記細管を移動する移動機構と、前記細管に対して印加される圧力を調整するレギュレータとを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記細管の吸引口を、所定の待機位置に移動したのちに、前記細管に対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させ、
吸引を開始した前記細管の吸引口を、所定の吸引位置まで前記微小物体が配置される穴に近接させたのちに、前記細管を所定の停止時間にわたって停止させるように、前記移動機構と前記レギュレータとを制御することを特徴とする微小物体回収装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記細管を、所定の第一の速度にて前記所定の吸引位置まで前記穴に近接させるように前記移動機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の微小物体回収装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記所定の停止時間が経過したのちに、所定の第二の速度にて前記細管を前記穴から遠ざけるように、前記移動機構を制御することを特徴とする請求項2に記載の微小物体回収装置。
【請求項4】
前記所定の待機位置、前記所定の吸引位置、前記所定の負圧、前記所定の停止時間、前記所定の第一の速度および前記第二の速度からなる制御条件を、事前に行なった吸引試験の結果に基づいて決定する制御条件決定部をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の微小物体回収装置。
【請求項5】
前記制御条件決定部は、前記吸引試験を、前記細管の位置、前記細管を前記穴に対して近接させる速度、前記細管を停止させる時間、前記細管を前記穴から遠ざける速度、あるいは前記細管と前記基板の面との角度を、任意の組み合わせにおいて変更して行なうことを特徴とする請求項4に記載の微小物体回収装置。
【請求項6】
微小物体を細管により回収する微小物体回収方法であって、
前記細管の吸引口を、所定の待機位置に移動したのちに、前記細管に対して所定の負圧を印加して、吸引を開始させる第一のステップと、
吸引を開始した前記細管の吸引口を、所定の吸引位置まで前記微小物体が配置される穴に近接させたのちに、前記細管を所定の停止時間にわたって停止させる第二のステップと、
を含んだことを特徴とする微小物体回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−270875(P2009−270875A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120194(P2008−120194)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】