説明

微小薄肉金属パイプおよびその製造方法

【課題】微小肉厚の金属パイプを確実に量産製造する方法の提供。
【解決手段】所望のパイプ3肉厚と同一な外径寸法の金属の線材もしくは所望のパイプ肉厚となるような複数本からなる線材(撚り線)によってコイル加工を行い、そのコイル1を貴金属もしくは貴金属合金(ろう材2)の溶解中に浸漬させ、毛細管現象によりコイルの隙間にその溶解材を浸透させ、その後、コイルをゆっくり引き上げて溶解材をコイルの隙間内で固化させることにより筒体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冠動脈内ステント等の医療用等に使用することができる微小薄肉金属パイプ(リングを含む。)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薄肉金属パイプの製造方法は、無垢の貴金属棒材を旋盤等で外周および中刳切削後、ダイス、芯パイプ等を用いて所定の形状まで伸管加工を行い、その芯パイプを薬品で除去する所謂シームレス加工(例えば、特許文献1参照)がある。
また、板材を筒状に巻いて継ぎ目を溶接し、前者同様にダイス、芯パイプ等を用いて所定の形状に伸管加工を行い、その芯パイプを薬品で除去する所謂シーム加工等の方法が用いられてきた。
【0003】
さらに、肉厚が0.07mm以下の微小肉厚貴金属パイプの製造を行う際は、上記した従来の方法もしくはその他の伸管加工により作製した薄肉厚の貴金属パイプ素管に、この貴金属パイプ素管の内径寸法以下の径の線材による芯材を挿入(嵌入)してダイス加工等によって密着させ、熱処理と伸管加工を繰り返して所望の形状および寸法のクラッド線を作製し、切断機により所望長さに切断し、その後に芯材を薬品で除去することにより0.07mm以下の肉厚のパイプを作製する方法がある(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−31632号公報
【特許文献2】特願2007−222994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような前者の従来の技術によると、肉厚が0.1mm程度の貴金属パイプの製造は可能であるが、肉厚約0.07mm以下(0.009〜0.07程度)の微小肉厚の場合は、肉厚が極薄肉であるために強度不足による変形(つぶれ)や不可避的な破れ、ワレが極めて発生し易く量産が困難であるという問題がある。
また、後者の技術によると、素管作製および芯材を挿入(嵌入)後のクラッド線加工の作製に多大の工数がかかる。例えば、評価試験用として外径が同一寸法に対し、数種類の肉厚寸法が異なるパイプを少量作製する場合、その種類分の異なった寸法の素管パイプを作製するには多大な工数を必要とする。
【0005】
また、例えば、カテーテルガイドワイヤ等の先端に、X線の不透過用の貴金属コイルやステンレススチールコイルの接合を行う際に、各々コイル素材の引張り強さ等の特性を損なわない条件下にて、Au合金やAg合金材等の所謂ろう材が使用される。
そのろう材は、適宜な質量にて所定の合金材になるように溶解を行い、伸線もしくは板圧延加工後、その合金材をカットまたはプレス抜き加工等によって所定の形状に仕上げるのが一般的である。しかし、例えば、Au−Sn、Au−Si、Au−Sb等のAu合金材は、延性および展性等の加工性に乏しく、線引き、板圧延ならびにカットまたはプレス抜き加工が容易ではなく、所望の形状に仕上げるには困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の各問題を解決するもので、微小肉厚の金属パイプを確実に量産製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、所望のパイプ肉厚と同一な外径寸法の金属の線材(図1)もしくは所望のパイプ肉厚となるような複数本からなる線材(撚り線)(図3)によってコイル加工を行い、そのコイルを貴金属もしくは貴金属合金(ろう材)の溶解中に浸漬させ、毛細管現象によりコイルの隙間にその溶解材(ろう材)を浸透させ、その後、コイルをゆっくり引き上げて溶解材をコイルの隙間内で固化させることにより筒体とすることを特徴とする。
【0008】
ここで、上記コイル加工に用いる金属とは、PtおよびPt−Ni、Pt−Ir、Pt−W等のPt合金、AuおよびAu−Ni等のAu合金、さらに、Niめっきを施したステンレス線等である。
また、浸漬させる貴金属もしくは貴金属合金溶解材とは、InまたはAu−Sn、Au−Ge、Au−Si、Au−Sb等のAu合金もしくはAg−Sn、Ag−Sn−Cu等のAg合金である。
【発明の効果】
【0009】
このようにした本発明は、コイルをろう材中に浸漬させ、そのコイルをゆっくり引き上げることにより微小肉厚の金属パイプを多くの工程を必要とせずに容易に作製することができると共に少量多量にかかわらず作製することが可能となる。
さらに、例えば、カテーテルガイドワイヤ等の先端にパイプもしくはコイル材を接合するような際に、接合に必要なろう材を、コイルの隙間内に充填されたろう材を使用することにより、接合の作業性が極めて向上すると共に接合用のろう材を不要にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
伸線加工により作製した線径φ0.010mmのPt−8W(wt%)線材を、コイリング加工によって、コイル内径φ0.20mm、ピッチ0.010mm、長さ10mmのコイル1とする(図1)。
また、ガス溶解炉等の溶解手段である上記コイルが十分に入る容量のカーボン坩堝内にて80Au−Sn(wt%)(融点280°C)を溶解し、坩堝内に80Au−Sn溶解材(ろう材)を入れたまま350°Cに熱したホットプレート上に移動する。
【0012】
そこで、脱脂および洗浄を行ったPt−8W製のコイルを80Au−Snが溶解したカーボン坩堝内に数秒間浸漬させた後、ゆっくりそのコイルを引き上げることにより、Pt−8Wコイルの隙間内に80Au−Snのろう材2が充填され、冷却することにより隙間のない良好なパイプ3を得た(図2)。
【実施例2】
【0013】
伸線加工により作製した線径φ0.030mmのPt−7Ni(wt%)線材を、コイリング加工によって、コイル内径φ0.20mm、ピッチ0.030mm、長さ30mmのコイル1とする(図1)。
また、ガス溶解炉等の溶解手段である上記コイルが十分に入る容量のカーボン坩堝内にて3.5Ag−Sn(wt%)(融点221°C)を溶解し、坩堝内に3.5Ag−Sn溶解材(ろう材)を入れたまま250°Cに熱したホットプレート上に移動する。
そこで、脱脂および洗浄を行ったPt−7Niコイルを3.5Ag−Snが溶解したカーボン坩堝内に数秒間浸漬させた後、ゆっくりそのコイルを引き上げることにより、Pt−7Niコイルの隙間内に3.5Ag−Snのろう材2が充填され、冷却することにより隙間のない良好なパイプ3を得た(図2)。
【0014】
また、このパイプ材を砥石等によるブレードや極細線によるワイヤソー等のカッタにより長さ3mmの長さに切断した。
つぎに、パイプ材の応用例として、医療用ガイドワイヤを作製するにあたり、Pt−7Ni(wt%)コイル寸法と同一の、線径φ0.030mm、コイル内径φ0.20、ピッチ0.030mmのステンレススチールコイルが、予め挿入されている医療用ガイドワイヤの先端に、上記したPt−7Niコイルの隙間内に3.5Ag−Snが充填された内径φ0.20mm、外形φ0.26mm、長さ3mmのPt−7Niパイプを、X線の不透過用として接合した。
【0015】
そこで、ステンレススチールパイプとコアワイヤとの接合を行うもので、不活性ガス中でPt−7Niパイプのろう材である3.5Ag−Snが溶け出て接合が行えた。
上記各実施例の他に、上記と同様に実施して良好なパイプとすることができた他の実施例となるコイルと溶解材(ろう材)を以下に説明する。
コイル(すべて線径φ0.030mmの線材を、コイル内径φ0.20mm、ピッチ0.010mm、長さ10mmとして実施した。)
(1)PtもしくはPt合金
ここで、Pt合金としては、Pt−10Ir、Pt−20Ir、Pt−10Ni
等である。
【0016】
(2)AuもしくはAu合金
ここで、Au合金としては、82Au−Ni等である。
(3)Niめっきを施したステンレススチール。
また、コイルを形成する線材は、上記説明では断面形状が丸線で説明したが、角線や長円線等の異形線を用いてもよい。
【0017】
溶解材(ろう材)(坩堝内の温度はそれぞれ融点以上の温度条件である。)
(1)Au合金
ここで、Au合金としては、88Au−Ge(融点361°C)、
97Au−Si(融点363°C)、75Au−Sb(融点360°C)等である。
(2)Ag合金
ここで、Ag合金としては、3Ag−96.5Sn−0.5Cu(融点220°C)等である。
【0018】
(3)In(融点156°C)
以上の各実施例で述べたすべてのコイルと溶解材とを適宜に組み合わせることによって本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コイルの説明図
【図2】パイプの断面説明図
【図3】コイルの他の例の説明図
【図4】コイル寸法項目の説明図
【符号の説明】
【0020】
1 コイル
2 ろう材
3 パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のパイプ肉厚と同一な外径寸法の金属の線材もしくは複数本からなる線材(撚り線)によって形成したコイルの隙間にろう材を充填して接合したことを特徴とする微小薄肉金属パイプ。
【請求項2】
請求項1において、コイルを、Pt、Pt合金、Au、Au合金もしくはNiめっきを施したステンレススチールのいずれかとしたことを特徴とする微小薄肉金属パイプ。
【請求項3】
請求項1において、ろう材を、Au合金、Ag合金もしくはInのいずれかにしたことを特徴とする微小薄肉金属パイプ。
【請求項4】
所望のパイプ肉厚と同一な外径寸法の金属の線材もしくは複数本からなる線材(撚り線)によってコイル加工を行い、そのコイルを溶解しているろう材中に浸漬させ、コイルの隙間にそのろう材を浸透させ、その後、コイルを引き上げてろう材をコイルの隙間内で固化させることにより、筒体とすることを特徴とする微小薄肉金属パイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−125774(P2009−125774A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302786(P2007−302786)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【Fターム(参考)】