説明

微小針の製造方法

【課題】生体分解性樹脂を用いて、微小針の先端部に欠損のない、品質の安定した微小針を大量に製造すること。
【解決手段】所望の微小針に対応する貫通孔を有する金属製鋳型を用いて、生体分解性樹脂の遷移点から融点近傍で転写加工を行い、遷移点近傍で樹脂を離型させ、それによって樹脂製の微小針を製造する方法を提供する。これにより、微小針の先端部分に欠損が生じ難く、製品規格的に信頼性が高いものとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小針の製造方法に関するものである。特に生体分解性の材料で構築され、アレイ(行列)状に形成された多数の微小針の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を経皮的に投与する方法として、通常、皮膚表面への液剤・軟膏剤の塗布、貼付剤型の経皮投与製剤が用いられてきた。皮膚は、ヒトの場合、通常、厚さ10〜30μmの層状構造を持つ角質層と、厚さ約70μmの表皮組織層と、厚さ約2mmの真皮組織層の複数の組織から構成されている。
角質層は、皮膚の最上位にあって層状をなし、種々の薬剤が皮膚から浸透するのを防ぐ、バリヤーの働きを行っている。一般的には、皮膚のバリヤー作用の約50〜約90%は角質層で行われている。表皮層では角質層ほどのバリヤー作用を果たさないが、残りの約10%以上のバリヤー作用を果たしている。一方、真皮は、真皮層と表皮層の接合部付近に豊富な毛細血管網があり、そのため、薬剤が一度真皮の深さに到達すると、その毛細血管網を伝わって、より深部の組織(毛包、筋肉等)に素早く拡散する。そして、毛細血管から血液循環を経由して薬剤が全身に拡散される。
【0003】
今日、各種の液剤・軟膏剤の塗布、貼付剤型の経皮投与製剤が開発されているが、上記角質層のバリヤー作用のため、あまり薬効成分が吸収されていない状況にある。例えば、経皮吸収効率が高いと言われているインドメタシンの経皮投与製剤においてすら、インドメタシン全量の5%程度が経皮吸収されているに過ぎないとされている。
そこで、薬剤の皮膚透過性を上げるための方法の一つとして、特許文献1に示されるように、微小針(マイクニードルまたはマイクロシリンジ)を使用し、角質層を局所的に破壊して薬剤を真皮層に強制的に投与すると言うことが試みられてきた。
この目的で使用される微小針は、真皮層に微小針が到達すればよいことから、その針の長さは30μm以上であることが望ましく、その針を支持するために必要な基盤があればよいとされている。しかも、この微小針は、神経の末端が存在する真皮層に到達しないので痛くない。それ故、小児などに恐怖感を与えることなく薬剤の投与ができると言う長所が存在する。
【0004】
これまで微小針の製造方法に関して、色々な方法が報告されている。しかしその大半は、特許文献2に示されるように半導体を作製する際に用いられるX線照射のエッチングなどの方法を使用して、シリコン製、ガラス製、金属製の微小針を作製している。しかし、この製法では製造コストが高額となり、また破損等の問題で残留した微小針の破片が人体に障害を与えることとなる。
そこで、これを改善するために、例えば特許文献3では、ホトレジスト材料のポリメタアクリル酸メチル(PMMA)を用いてX線を照射し微小針の母型を作製し、これに金属メッキを施して母型を外し、金属の鋳雌型を作製している。この金属の鋳型に加熱ポリマー材料を押圧して、鋳型を外して目的の樹脂性微小針を作製している。
しかし、このような鋳型を使った微小針の製造方法では、鋳型から微小針を取り出す際に、摩擦応力が懸かって、微小針の先端部が欠けやすくなっている。そのため、品質のよい、先端部の欠損がない微小針を得ることは困難な状況にあった。
【0005】
従って、現在の経皮吸収用の微小針の課題は、生体分解性の材料で形成された、ある一定の強度および耐久性を持った微小針をどのように作製するかである。更に、このような微小針は、通常使い捨てのものであるので、コスト的にも安価なものであることが必要とされている。
【0006】
【特許文献1】特開2006‐149818
【特許文献2】特表2002‐517300
【特許文献3】特表2003‐501163
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、生体分解性材料を用いて、剣山型微小針を安価且つ量産規模で製造することを目的とする。更に詳しくは微小針の先端部分が欠けずに揃っている、規格信頼性の高い製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
微小針の先端部分が欠ける原因は、微小針の鋳型と転写された樹脂との間に働く摩擦応力に主によるものである。鋳型と樹脂間の摩擦応力が、樹脂の破断強度を上回った時に先端部の欠損が生じることになる。この摩擦応力を減少させるためには、2つの方法がある。一つには、鋳型を適切なコーテイング剤でコートし、鋳型と樹脂の間の摩擦抵抗を減少させる方法である。また一つには、樹脂の温度を昇温させて軟化させ、摩擦抵抗を低下させる方法である。
本発明者らは、上記2つの方向性に関して鋭意検討を行った結果、微小針の鋳型には無貫通孔型ではなく貫通孔型のものが先端部の欠損率が少ないことを見出した。更に、この貫通孔にフッ素樹脂処理または金属メッキ処理をすることで、樹脂製の微小針の離型の際の鋳型側の摩擦抵抗を減少させることができた。また、離型の際の樹脂の温度を、遷移点(ガラス転移温度)を越えた近傍の温度で行うことにより、樹脂を軟化させ樹脂側の摩擦抵抗を減少させることができた。本発明者らは、これらの知見を総合してコスト的に安価で、量産可能な微小針の製造方法を完成した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)生体分解性樹脂の微小針の製造方法であって、
a)円柱状または円錐状の貫通孔を有する金属製またはフッ素樹脂製の平板を作成し、金属製平板の貫通孔にはフッ素樹脂コーテイングまたは金属メッキを行い、鋳型とする、
b)生体分解性樹脂を加熱し、樹脂の遷移点から融点近傍で該鋳型に圧着させて転写加工を行う。
c)樹脂の遷移点付近で、鋳型から樹脂を離型させる、
ことからなる、微小針の製造方法。
(2)生体分解性樹脂を減圧下に鋳型に圧着させることからなる、上記(1)に記載の製造方法。
(3)生体分解性樹脂がポリ乳酸である、上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)生体分解性樹脂がポリ乳酸であり、50〜90℃で転写加工を行い、50℃付近の温度で離型させることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)薬効成分が生体分解性樹脂に混合されている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)円柱状または円錐状の貫通孔が以下の形状であることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
a)貫通孔の長さが30μm〜2mmであり、
b)貫通孔の最大径が50μm〜200μmである。
(7)フッ素樹脂コーテイングの厚さが少なくとも20μm〜50μmである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)フッ素樹脂コーテイングとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子を均一に分散共析させたニッケル皮膜をコーテイングするものである、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)金属メッキがクロムメッキである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(10)金属メッキの膜厚が20〜50μmである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(11)鋳型に圧着させて転写加工を行うことが、生体分解性樹脂が貫通孔をあふれ出ないように圧着することである、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法。
(10)以下の形状の円柱状または円錐状の貫通孔を有する金属製またはテフロン樹脂製の平板鋳型であって、金属製平板の貫通孔にはフッ素樹脂コーテイングまたは金属メッキが行われたもの、
a)平板の厚さが30μm〜2mmであり、
b)貫通孔の最大径が50μm〜200μmであり、
c)貫通孔の本数が10〜500本である、
ことを特徴とする微小針作製用の鋳型。

【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法では、所望の微小針に対応する貫通孔を有する、フッ素樹脂製または金属製の平板鋳型を用いて、生体分解性樹脂に対して遷移点から融点近傍の範囲で転写加工を減圧下に行い、遷移点近傍で樹脂と鋳型を離型させ、それによって樹脂製の微小針を製造する方法である。このため、微小針の先端部分に欠損が生じ難く、製品規格的に信頼性が高いものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
−本発明の第1態様―
本発明の第一の態様は生体分解性樹脂製の微小針の製造方法に関するものである。
本発明の製造方法は、図1に示すように、フッ素樹脂製または金属製の平板に円柱状もしくは円錐状の貫通孔を有し、金属製平板の場合その貫通孔がフッ素樹脂コーティングまたは金属メッキされているものを鋳型として使用する。そして、使用する生体分解性樹脂を遷移点から融点近傍の範囲の温度になるよう加熱し、減圧下、鋳型に圧着する。図2に示すように、鋳型に樹脂が充填された後、樹脂の遷移点(ガラス転移温度)を超えた、それに近い近傍の温度で離型を行う。離型後の樹脂製微小針を常温に放冷する。以上のプロセスで、先端部に欠損の少ない微小針が得られる。例えば、ポリ乳酸の場合、遷移点から融点近傍の温度範囲は50℃〜90℃となっており、この温度範囲で転写工程を行い、50℃付近で離型することが望ましい。
【0012】
本発明で言う「生体分解性樹脂」とは、生体内で分解して完全に溶解する高分子樹脂の中で、その分解物が生体に有害でないものを言う。例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリエチレンサクシネート、ポリアスパラギン酸等の化学合成高分子、例えば、コラーゲン等の天然高分子等を挙げることができる。好ましいものとしては、薬効成分を混合することを考慮すれば、遷移点が低いものが望ましく、例えばポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリアスパラギン酸、ポリ(3‐ヒドロキシブタン酸)等を挙げることができる。
本発明で「フッ素樹脂」とは、ポリテトラフルオロエチレンを中心とする各種フッ素樹脂のことを言い、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体を挙げることができる。好ましいものとして、生体分解性樹脂の遷移点から融点近傍の温度範囲で軟化せず、転写工程で変形しない物性のものが挙げられ、例えばポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体を挙げることができる。
本発明で「金属」とは、鋳型として使用できる金属であれば特に限定はされないが、例えば鋼材、銅、真鍮等を挙げることができる。より好ましくは、鋳型の耐久性や微細孔の切削性を考慮して鋼材、たとえばSS400をあげることができる。
本発明で言う「圧着」とは、樹脂の軟化状態にもよるが、貫通孔に樹脂が充填するように樹脂に圧力をかけることを言う。例えば、ポリ乳酸樹脂のシートを軟化させ、2〜5kg/cmの範囲で鋳型に樹脂を圧着する。その際、常圧で圧着してもよいが、減圧下で圧着を行えば、貫通孔への樹脂の充填をより加速できる。例えば10Pa近傍の陰圧下で行うことができる。これにより微小針製品に空孔が生じることを回避できる。その結果、微小針の強度低下を避けることが出来る。
なお、鋳型に圧着させて樹脂に転写加工を行う際には、離型の容易さを考慮して、貫通孔から樹脂があふれ出さないようにすることが必要である。また、樹脂が貫通孔をあふれ出た場合には、あふれ出た樹脂を削除し、離型に際して障害が起きないようにする。
本発明で言う「減圧下」とは、樹脂の軟化の状況に応じて、適宜、調整できる。通常は、0.5mmHg〜弱陰圧の減圧下で行うことが望ましい。
【0013】
本発明で言う「フッ素樹脂コーテイング」とは、金属表面の潤滑処理に使われるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等から、状況に応じて適宜一つ又は複数を選択して常法によりコーテイングすることができる。好ましくは、無電解ニッケルメッキの処理により、20〜35%のポリテトラフルオロエチレンを均一に分散共析コーテイングすることを挙げることができる。このコーテイングにより、金属加工表面の凹凸をマスクして円滑化すると共に、鋳型に対する樹脂の粘着性を抑制できる。従って、フッ素樹脂コーテイングの厚さは、金属加工の精度にもよるが、通常の場合、少なくとも20〜50μmの厚さがあれば、より好ましくは20〜30μmの厚さがあれば機械加工や微細放電加工技術による貫通孔の内部の凹凸をコーテイングして円滑化することができる。
本発明で言う「金属メッキ」とは、金属表面の潤滑処理に使われるものであれば特に限定されるものではないが、耐摩耗性のあるものが望ましい。例えばクロムメッキ等を好ましいものとして挙げることができる。金属メッキについてもフッ素樹脂コーテイングと同様に20〜30μmの厚さがあれば機械加工や微細放電加工技術による貫通孔の内部の凹凸をコーテイングして円滑化することができる。
本発明で言う「離型」とは、鋳型から樹脂を分離することを言う。離型の際の樹脂温度については、好ましくは樹脂の微小針部分については遷移点を越えた、遷移点近傍の温度で分離することが望ましいが、微小針の基盤部分の温度は、樹脂の変形を防ぐために遷移点以下になっていることが望ましい。
なお、生体分解性樹脂を鋳型に圧着させ、樹脂が貫通孔をあふれ出て固化する場合には、離型が困難になる。従って、離型を容易にするために、樹脂が貫通孔をあふれ出ないようにすることが必要である。万一、あふれ出た場合には、平板上にあふれ出て固化した部分をきれいに削除し、離型に影響が出ないようにする必要がある。
【0014】
本発明で言う「薬効成分」とは、非経口投与されるものであれば特に限定されるものではないが、生体分解性樹脂の遷移点の温度で安定な薬効成分が好ましい。例えば、皮下注射や静脈注射に用いられる薬効成分の中で、熱安定性の良いものを使用することができる。例えば、リスペリドン、オランザピン、クロザピン等の抗精神病薬、例えばインドメタシン、エトドラグ、ジクロフェナク等の非ステロイド性消炎鎮痛剤、リドカイン、ジブカイン等の局所麻酔剤などを挙げることができる。
なお、薬効成分は生体分解性樹脂と共に練り合わせ加温し、樹脂の遷移点以上の温度で融解することが望ましい。これにより薬効成分を含有する樹脂製微小針を作製することができる。
【0015】
−本発明の第2態様―
本発明の第2態様としては、微小針を製造するための鋳型に関するものである。
本発明で言う「平板鋳型」とは、微小針の高さに応じた厚みを持つテフロン製平板や金属製平板に、機械加工や微細放電加工技術により複数の貫通孔が空けられているものを言う。
貫通孔の形状は、開口部の径が最大部分で50〜200μm程度で、形状は大きな円柱状もしくは円錐状の穴である。図2に示されるように、貫通孔にフッ素樹脂コーティングを行い、マイクロニードルの寸法の孔径を形成させる。好ましい開口部の最大径は80〜120μmである。
なお、フッ素樹脂製または金属製の金型の厚みは、30μm〜2mmであり、より好ましくは、30μm〜1mmである。
【0016】
本発明の鋳型は貫通孔を有することを特徴としており、無貫通孔を有する鋳型よりも優れた機能を有している。例えば、図2に示されるように、樹脂の圧着を行う場合、無貫通孔の鋳型であれば生体分解性樹脂によって孔がふさがり空気が抜けず充分に樹脂が流入しないことが起きる。また、離型を行う場合には、無貫通孔の鋳型であれば図2のように空気溜りが陰圧になり樹脂の離型が難しくなり、針が折れたりすることが生じる。しかし、貫通孔を有する本発明の鋳型では上記の障害は解消されている。
更に、減圧下で圧着を行うことにより、鋳型への樹脂の流入充填は加速される。しかし、無貫通孔の鋳型であれば、返って離型の際に大きな陰圧の負荷が掛かるので、微小針の先端部分が破損して鋳型に残留することになる。本発明の貫通孔の鋳型であれば、減圧下で行うことにより、製品の微小針に空気が混入せず、微小針の強度を維持し、更には微小針の先端部分の欠失の少ない品質の安定した製品を製造することができるようになっている。
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0018】
(実施例1)金属製およびフッ素樹脂製鋳型の製造
ポリ乳酸を押し付けることによって剣山状に成形する図3のA部(SS400鋼材)は,厚み1mmのところに直径200μmの貫通穴が400μm間隔で縦横15行×15列,計225個機械加工にてあけられている。ドリルを使用し,送り速度を遅くすることで図4に示すように貫通孔の内表面の粗さをできるだけ小さくし滑らかにしている.ポリテトラフルオロエチレン型の場合も厚み1mmのポリテトラフルオロエチレンに貫通孔列を機械加工で同様にあける。
【0019】
(実施例2)金属鋳型の貫通孔へのフッ素樹脂コーテイング
実施例1で得られた金属鋳型の表面スケールを除去した後、ポリテトラフルオロエチレン微粒子を含む無電解ニッケル液に浸漬し、均一な分散共析コーテイングを行う。水洗後乾燥し、熱処理(300℃×1hr)を行って、被膜中に20〜35%のポリテトラフルオロエチレンを含有するニッケルメッキを行った。被覆された貫通孔を図5に示す。
図5に示されるように、貫通孔の内表面がポリテトラフルオロエチレンコーティングによって微細な凹凸が消され,一層平滑化されていることが分かる。
なお、この時の機械加工による貫通孔の凹凸は約20〜30μm以下の範囲であった。
【0020】
(実施例3)ポリ乳酸を用いた微小針の製造
実施例2で得られたフッ素樹脂コーティングされた金属鋳型に融点近傍まで加熱したポリ乳酸シートを常圧下、圧着して貫通穴にポリ乳酸を流入充填させる。次に遷移点近傍の温度まで冷却してポリ乳酸と鋳型を離型させ、剣山形状の微小針を製造した。
得られたポリ乳酸の剣山形状の微小針は、図6に示されるように直径約70μm、高さ600μmの針が並んでいる。

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の微小針の製造方法により、製品規格的に信頼性が高い剣山形微小針の大量生産が可能になった。また、生体分解性樹脂としてポリ乳酸を使用すれば、この樹脂の遷移点から融点近傍の温度範囲が50℃〜90℃であるため、この温度範囲内で熱安定性の良い薬剤であれば、生体分解性樹脂の中に加えることにより、薬剤の経皮吸収性の良い新たな製剤を作製することができる。

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】貫通孔のフッ素樹脂コーテイングの概略図
【図2】貫通孔と無貫通孔との効果の対比概略図
【図3】機械加工して貫通孔が開いた金属金型
【図4】貫通孔フッ素樹脂コーテイング前の内表面
【図5】貫通孔フッ素樹脂コーテイング後の内表面
【図6】ポリ乳酸の剣山形状の微小針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分解性樹脂の微小針の製造方法であって、
a)円柱状または円錐状の貫通孔を有する金属製またはフッ素樹脂製の平板を作成し、金属製平板の貫通孔にはフッ素樹脂コーテイングまたは金属メッキを行い、鋳型とする、
b)生体分解性樹脂を加熱し、樹脂の遷移点から融点近傍で該鋳型に圧着させて転写加工を行う。
c)樹脂の遷移点付近で、鋳型から樹脂を離型させる、
ことからなる、微小針の製造方法。
【請求項2】
生体分解性樹脂を減圧下に鋳型に圧着させることからなる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
生体分解性樹脂がポリ乳酸である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
生体分解性樹脂がポリ乳酸であり、50〜90℃で転写加工を行い、50℃付近の温度で離型させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
薬効成分が生体分解性樹脂に混合されている、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
円柱状または円錐状の貫通孔が以下の形状であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
a)貫通孔の長さが30μm〜2mmであり、
b)貫通孔の最大径が50μm〜200μmである。
【請求項7】
フッ素樹脂コーテイングの厚さが少なくとも20μm〜50μmである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
フッ素樹脂コーテイングとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粒子を均一に分散共析させたニッケル皮膜でコーテイングするものである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
金属メッキがクロムメッキである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
金属メッキの膜厚が20〜50μmである、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
鋳型に圧着させて転写加工を行うことが、生体分解性樹脂が貫通孔をあふれ出ないように圧着することである、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
以下の形状の円柱状または円錐状の貫通孔を有する金属製またはフッ素樹脂製の平板鋳型であって、金属製平板の貫通孔にはフッ素樹脂コーテイングまたは金属メッキが行われたもの、
a)平板の厚さが30μm〜2mmであり、
b)貫通孔の最大径が50μm〜200μmであり、
c)貫通孔の本数が10〜500本である、
ことを特徴とする微小針作製用の鋳型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61219(P2009−61219A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233911(P2007−233911)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】