説明

微弱光および高強度光の画像を撮像可能な顕微鏡撮像装置

【課題】本発明の目的は、発光像の明るさを確保しながら、蛍光像も観察することができる、顕微鏡撮像装置を提供することにある。
【解決手段】本発明は、微弱光および高強度光による撮像を共通の撮像手段を用いて行う顕微鏡撮像装置であって、観察対象からの光を前記撮像手段に顕微鏡的に導くための対物レンズと結像レンズとを具備し、前記対物レンズと結像レンズの間の距離を、微弱光観察の場合に高強度光観察の場合より短く設定したことを特徴とする顕微鏡撮像装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオイメージング分野等において、光強度が微弱な光と高強度な光を同時期に発生する観察対象を観察する顕微鏡撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
肉眼では見えないような微弱光と肉眼で容易に観察し得る高強度光とを組み合わせた画像観察は、各種解析のために有効に用いられる傾向にある。例えば、バイオイメージング分野において、蛍光タンパク質や発光タンパク質は生体内分子の動態を調べるための強力なツールである。光強度が高く、高感度な検出が可能である蛍光観察と、生物試料に物理的損傷を与えることの少ない微弱光からなる発光観察とを同じ観察視野で行うように共通の撮像手段(CCDカメラ等)と組み合わせることによって、長期間にわたる生体内分子の動態観察が可能となり、現在、多くの生体内分子の詳細な動態がイメージング技術によって明らかとなっている。一般に、蛍光および発光観察が可能な撮像装置は、鮮明な蛍光画像を撮像するために、励起フィルター・ダイクロイックミラー・蛍光吸収フィルターを組み合わせた蛍光キューブを、対物レンズと結像レンズの間に装着した落射型の照明方式を採用している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/088109号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高強度光による観察のための撮像手段とは別に、微弱光による観察専用の高感度の撮像手段を併用した撮像装置を用いると、観察角度の違いや光路切替えに伴って画像間の同一性が損なわれ易くなる。また、落射型の照明方式を採用した場合、対物レンズと結像レンズの間に蛍光キューブを含む蛍光ユニットが入り込むため、対物レンズと結像レンズ間の距離が長くなってしまう。一般に、対物レンズと結像レンズ間の距離が長くなるほど、光軸中心からの像周辺の明るさは暗くなってしまう。したがって、従来のような落射型の撮像装置を用いて発光観察を行うと、発光タンパク質の微弱光を十分に検出することが難しくなる。
【0005】
従って、本発明の目的の一つは、共通の撮像手段を用いて、微弱光観察と高強度光観察の両方の画像を同一視野で取得することができる、顕微鏡撮像装置を提供することにある。
【0006】
また、本発明のもう一つの目的は、光軸中心からの像周辺の明るさを十分に確保し、蛍光画像の取得とともに、鮮明な発光画像を取得することができる、顕微鏡撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、蛍光ユニットを明視野観察用の照明ユニット側に配置した透過型の顕微鏡撮像装置を採用した場合を例にして、発光画像のような微弱光を観察する際に対物レンズと結像レンズ間の距離を狭めることによって、撮像手段を共用しながらも光軸中心の像周辺の明るさを充分に確保することに成功した。さらに、本発明者は、共通の撮像手段を用いながら、微弱光である発光観察と高強度光である蛍光観察の両方を満足できる共通の条件が有ることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、微弱光および高強度光による撮像を共通の撮像手段を用いて行う顕微鏡撮像装置であって、観察対象からの光を前記撮像手段に顕微鏡的に導くための対物レンズと結像レンズとを具備し、前記対物レンズと結像レンズの間の距離を、微弱光観察の場合に高強度光観察の場合より短く設定したことを特徴とする顕微鏡撮像装置を提供する。
【0009】
さらにまた、本発明は、前記顕微鏡撮像装置を使用した発光観察方法であって、対物レンズと結像レンズ間の距離を調節することができる第1の可動制御ユニットを用いて、前記対物レンズと結像レンズ間の距離を38mm以下に調節する、レンズ間距離制御ステップと、生物試料内で発現した発光タンパク質を撮像する、発光撮像ステップと、を含む、発光観察方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の顕微鏡撮像装置によって、光軸中心からの像周辺の明るさを十分に確保することができ、その結果、蛍光画像の取得とともに、鮮明な発光画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態における、蛍光および発光画像を撮像可能な顕微鏡撮像装置100の模式図
【図2】第1の実施形態における撮像手段120の第1の模式図
【図3】第1の実施形態における撮像手段120の第2の模式図
【図4a】対物レンズと結像レンズ間の距離を5mmに設定して撮像した発光画像
【図4b】対物レンズと結像レンズ間の距離を38mmに設定して撮像した発光画像
【図4c】対物レンズと結像レンズ間の距離を81mmに設定して撮像した発光画像
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の構成を詳細に説明するために例示的に示したものに過ぎない。従って、本発明は、以下の実施形態に記載された説明に基づいて限定解釈されるべきではない。本発明の範囲には、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内にある限り、以下の実施形態の種々の変形、改良形態を含む全ての実施形態が含まれる。なお、以下の説明で用いる顕微鏡撮像装置は、試料ステージのような保持手段に生物試料を保持する光学顕微鏡を例にしているが、同種の光学系を組み込んだ他の光学システム(例えば、内視鏡、小動物in vivoイメージング機器等)を含むものである。
【0013】
1.顕微鏡撮像装置
<第1の実施形態>
図1
図1は、第1の実施形態における、蛍光および発光画像を撮像可能な顕微鏡撮像装置100の模式図である。
【0014】
図1の顕微鏡撮像装置100は、蛍光観察用の励起光を照射する励起光照射手段110と、前記励起光を透過する標本保持手段60と、前記透過した励起光を集光する撮像手段120とを備えている。
【0015】
前記励起光照射手段110には、蛍光観察用の励起光を照射可能な任意の照射手段を用いることができる。その具体的構成としては、例えば、励起光照射手段110は、光源101、励起用分光フィルター102、光ファイバー103、コンデンサーレンズ104、およびシャッター105により構成される。光源101から発せられた励起光は、励起用分光フィルター102を通して波長領域の異なる複数の励起光に分離され、分離された各励起光のうち、対象である蛍光タンパク質を励起させるために適した波長の励起光を、光ファイバー103およびコンデンサーレンズ104を通して生物試料Aに照射する。例えば、緑色蛍光蛋白質(GFP; Green Fluorescent Protein)を用いた蛍光観察の場合、波長480nm前後の励起光を照射することによってGFPが励起され、波長510nm前後の緑色の蛍光を発する。なお、シャッター105は、光ファイバー103から照射される励起光を遮断することによって、生物試料Aへの励起光の照射のオン/オフを制御する。
【0016】
励起光照射手段110は、明視野観察用の照明ユニットとしても機能することができる。したがって、蛍光観察の前後に明視野観察を行い、生物試料の形態や局在性などを確認することができる。他の実施形態として、明視野観察用の照明ユニットは、励起光照射手段110と別体として設けてもよい。
【0017】
続いて、標本保持手段60には、前記励起光照射手段110によって照射された励起光が透過する任意の保持手段を用いることができ、これに限定されるわけではないが、例えば、光経路に空孔または透明部材が設けられた観察ステージが用いられる。第1の実施形態における顕微鏡撮像装置100は、透過型の顕微鏡撮像装置であり、励起光および蛍光は、標本保持手段60を透過して下方の撮像手段120に導かれる。標本保持手段60には、生物試料Aを収納したサンプル用容器50が配置される。サンプル用容器50には、これに限定されるわけではないが、例えば、シャーレ、スライドガラス、マイクロプレートなどの透明容器が用いられる。
【0018】
次に、前記撮像手段120には、生物試料Aが発する蛍光や発光を撮像可能な任意の撮像手段を用いることができる。その具体的構成としては、例えば、前記撮像手段120は、対物レンズ111、蛍光吸収フィルター112、結像レンズ113、およびCCDカメラ114により構成される。生物試料Aから放出された光は、対物レンズ111を通過し、蛍光吸収フィルター112に至る。対物レンズ111(および/または結像レンズ113)の光学条件は、「(開口数/倍率)の値が0.01以上」を満たすものであることが、発光タンパク質のような極微弱な発光を画像化する上で好ましい。蛍光吸収フィルター112は、生物試料Aの励起に用いた励起光を遮断し、生物試料Aから放出された蛍光のみを通過させる。蛍光吸収フィルター112を通過した蛍光は、結像レンズ113を通過し、CCDカメラ114によって検出される。一方、生物試料Aから放出された発光もまた、蛍光と同様、対物レンズ111と結像レンズ113を通過してCCDカメラ114によって検出される。このとき、蛍光吸収フィルター112は、発光色の分離に用いることができる。CCDカメラ114によって検出された蛍光や発光は、パーソナルコンピュータ130に送信され、公知の種々のソフトウェアを用いた画像処理および光量計測が行われる。
【0019】
第1の実施形態において、対物レンズ111と結像レンズ113との間の距離は、38mm以下、好ましくは25mm以下、さらに好ましくは15mm以下、最も好ましくは5mm以下である。第1の実施態様における顕微鏡撮像装置100は、蛍光および発光観察が可能な顕微鏡装置であって、蛍光ユニットが明視野観察用の照明ユニット側に設置された透過型の顕微鏡装置である。透過型の顕微鏡装置は、対物レンズ111と結像レンズ113との間に蛍光ユニットを設置する必要がないので、対物レンズ111と結像レンズ113との間の距離を狭めることができる。対物レンズ111と結像レンズ113間の距離が短ければ、生物試料Aから放出された発光の明るさを確保することができる。したがって、対物レンズ111と結像レンズ113が近接して配置された第1の実施形態における顕微鏡撮像装置100は、蛍光観察とともに、発光観察において鮮明な発光画像を得ることができる。
【0020】
また、第1の実施形態における顕微鏡撮像装置100は、任意的には第1の可動制御ユニット140および/または第2の可動制御ユニット150を備えていてもよい。
【0021】
第1の可動制御ユニット140は、対物レンズ111と結像レンズ113間の距離を調節することができる自動または手動の制御手段である。対物レンズ111と結像レンズ113間の距離を所定の距離に調節した後、発光観察を行うことによって、鮮明な発光画像を得ることができる。ここで、発光観察のときだけレンズ間の距離を小さくするように、選択的に結像レンズを光軸上で移動させるような機構にするのが好ましい。かかる機構によれば、発光観察の際には高感度な画像を取得すると共に、相対的に明るい観察(例えば、蛍光観察または明視野観察)の際には高画質な画像を取得することができるので、観察する目的に応じた光量と画質の両方を満足する各種観察画像を得ることが出来る。このことは、高画質の観察画像と高感度の観察画像を同じ視野間で重ね合わせて、正確な診断等の検査を行うのに都合の良いシステムを提供する。また、第2の可動制御ユニット150は、蛍光吸収フィルター112を光路から外れた位置まで移動させることができる自動または手動の制御手段である。事前に蛍光吸収フィルター112を移動させておくことによって、対物レンズ111と結像レンズ113間の距離をさらに狭めることができ、結果としてより鮮明な発光画像を得ることができる。
【0022】
かかる可動制御ユニット140、150を具備しない構成においては、上記レンズ間のスペースを最小にするために、蛍光吸収フィルター112を挟んで対物レンズ111と結像レンズ113を一体化してもよい。
【0023】
図2
図2は、第1の実施形態における撮像手段120の第1の模式図である。
【0024】
第1の可動制御ユニット140によって対物レンズ111と結像レンズ113が蛍光吸収フィルター112を境にして限界付近まで近接している。このとき、対物レンズ111と結像レンズ113間の距離は、蛍光吸収フィルター112の厚みにもよるが、5〜15mm、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15mmである。このとき、蛍光吸収フィルター112は発光色の分離に用いることができる。
【0025】
図3
図3は、第1の実施形態における撮像手段120の第2の模式図である。
【0026】
第2の可動制御ユニット150によって蛍光吸収フィルター112を光路から外れた位置まで移動させた後、第1の可動制御ユニット140によって対物レンズ111と結像レンズ113を近接させる。このとき、両レンズ間には蛍光吸収フィルター112が存在しないので、レンズ間距離を限界まで短くすることができ、その距離は0〜5mm、例えば、0.1、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0mmである。対物レンズ111と結像レンズ113間の距離が極めて短いので、発光像の明るさを最大限に確保することができ、極めて鮮明な発光画像を得ることができる。
【0027】
2.発光観察方法
以下、第1の実施形態における顕微鏡撮像装置を使用した発光観察方法について説明する。
【0028】
(1)レンズ間距離制御ステップ
先ず、対物レンズ111と結像レンズ113間の距離を調節することができる第1の可動制御ユニット140を用いて、両レンズ間の距離を短く調節する。上述したように、対物レンズと結像レンズ間の距離が長くなると、結像レンズヘの入射光像高が高くなり、結像レンズ経を超えた光線は欠けてしまう。このため、光軸中心の像周辺の光量が減少し、十分な発光像の明るさを確保することができない。したがって、発光観察前に第1の可動制御ユニット140を用いて両レンズ間距離を短く調節することによって、十分な光量を確保する必要がある。ここで十分な光量とは、前記レンズ間距離が5mmのときに像高(IMH)2mmで得られる光量を基準として、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の光量である。このとき、両レンズ間距離は、例えば、38mm以下、好ましくは25mm以下、より好ましくは15mm以下、最も好ましくは5mm以下に調節するとよい。
【0029】
また、前記レンズ間距離制御ステップは、対物レンズの開口数(NA)と倍率(β)との関係において、(NA/β)の2乗が0.01以上の関係が成立している光学系において行われる。前記条件を満たす光学系においてレンズ間距離を狭めることによって、発光像の明るさを十分に確保することができる。
【0030】
(2)発光撮像ステップ
次に、生物試料A内で発現した発光タンパク質を撮像する。
【0031】
第1の実施形態に用いる「生物試料」は、特に制限されることなく、例えば、動物(ヒトを除く)、植物、菌類、真核単細胞生物、および原核生物からなる群から選択された生物体など、任意の生物種を選択することができる。また、生物試料は、生物個体から取り出した各種の器官もしくはその組織片であってもよく、あるいは前記組織片から取り出した細胞であってもよい。また、小動物用in vivoイメージングや各種内視鏡のように、各種生体を直接観察することによって、生体の所望の部位に関する観察を行ってもよい。
【0032】
第1の実施形態に用いる「発光タンパク質を発現する遺伝子」には、任意の発光基質を添加することによって発光を誘導可能な発光タンパク質を発現する遺伝子(以下、発光タンパク質遺伝子ともいう)が含まれる。代表的なものとして、例えば、ホタル、ウミシイタケなど、各種生物に由来するルシフェラーゼ遺伝子が挙げられる。ルシフェラーゼは、発光基質であるルシフェリンをオキシルシフェリンに酸化し、その際に530nm付近の黄色の発光を誘導する。
【0033】
前記発光タンパク質遺伝子は、観察対象となる標的遺伝子のイメージングに用いているため、両遺伝子は連動して発現する必要がある。具体的には、発光タンパク質遺伝子を標的遺伝子のプロモーターに融合するように配置する。標的遺伝子のプロモーターに発光タンパク質遺伝子を融合したベクターを生物試料に導入することによって、標的遺伝子とともに発光タンパク質遺伝子が共発現するので、生物試料における標的遺伝子の発現を発光タンパク質を通して視覚的に捉えることができる。
【0034】
前記発光タンパク質遺伝子は、当業者に既知の任意の遺伝子組換え技術によって生物試料内に導入することができる。例えば、プラスミドなどの発現ベクターに発光タンパク質遺伝子を組み込み、該発現ベクターを、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、パーティクルガン法、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法などを用いて生物試料内に導入してもよい。また、アデノウイルスやレトロウイルスベクターの感染力を利用して、発光タンパク質遺伝子を生物試料内に導入してもよい。さらにまた、発光タンパク質遺伝子を発現するトランスジェニック生物を作製してもよい。
【0035】
なお、第1の実施形態では、発光観察の前後に蛍光観察が行われてもよい。例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子などをルシフェラーゼ遺伝子とともに標的遺伝子のマーカーとして組み込むことによって、蛍光と発光を組み合わせた観察が可能になり、標的遺伝子のより詳細な動態を明らかにすることができる。
【0036】
前記発光タンパク質遺伝子を導入した生物試料では、標的遺伝子の発現とともに発光タンパク質遺伝子が共発現するため、発光タンパク質の発光画像を取得することによって、標的遺伝子の発現量および発現の局在性が明らかになる。第1の実施形態では、対物レンズ111と結像レンズ113間の距離が短く制御された状態で発光観察が行われるため、発光像の明るさを十分に確保することができ、鮮明な発光画像を取得することができる。
【実施例】
【0037】
<実験方法>
40倍用対物レンズ(UAPO40×Oil, NA=1.35, f=4.5mm, オリンパス社製)と、結像レンズ(5倍用対物レンズLMPLFL5X, NA=0.13, f=36mm, オリンパス社製を結像レンズとして使用)とを用いて細胞の発光観察を行った。両レンズ間の距離を5mm、38mm、81mmに設定し、それぞれ細胞の発光画像を撮像した。81mmの距離は、現在蛍光顕微鏡に用いられている蛍光キューブを装着した場合の値に相当する(比較例)。観察に用いた細胞はHeLa細胞であり、ルシフェラーゼ遺伝子pGL3 control vector(プロメガ社)をポリフェクト・トランスフェクション試薬(キアゲン社)を用いて遺伝子導入し、一晩培養した。その後、培養液中に500μMの濃度になるようにルシフェリン(プロメガ社)を添加し、発光画像を取得した。撮影したCCDカメラはORCA-ER(浜松ホトニクス社)で、露出時間は2分である。CCDカメラの撮像素子の大きさは2/3インチチップで、画素サイズは6.45μm×6.45μm、TVアダプターの倍率は1倍に設定した。
【0038】
<実験結果>
図4
図4は、上記各レンズ間距離において撮像した発光画像である。
【0039】
(実施例1)
図4aは、対物レンズと結像レンズ間の距離を5mmに設定して撮像した発光画像である。両レンズ間距離を5mmまで接近させて撮像を行うことによって、鮮明な発光画像を得ることができた。
【0040】
(実施例2)
続いて、図4bは、対物レンズと結像レンズ間の距離を38mmに設定して撮像した発光画像である。両レンズ間距離を38mmまで接近させて撮像を行った場合、その発光画像の明るさは、両レンズ間距離が5mmのときと比較してそれ程低下することなく、鮮明な発光画像を得ることができた。上記実験では、蛍光キューブユニットが介在した場合に相当する距離(例えば50〜100mm)よりも短くすることが有効と確認できた。また、実験に用いた装置では、5mmでも蛍光観察可能であったが、38mmの方が蛍光画像としてのピント合わせや各種光学素子の挿入による画質向上が容易となるので好ましく、この理由により15mm〜38mm、好ましくは25mm〜38mmのレンズ間距離において、発光画像による高感度観察と蛍光画像による高画質観察との両方を適度に満足する共通の設定条件であるということが出来る。なお、上記実験で用いた対物レンズおよび結像レンズの倍率等のレンズ仕様については、観察対象に応じて適宜変更してもよい。
【0041】
(比較例)
図4cは、対物レンズと結像レンズ間の距離を81mmに設定して撮像した発光画像である。両レンズ間距離を81mmまで離して撮像を行った場合、発光像の十分な明るさを確保することができず、鮮明な発光画像を得ることができなかった。
【0042】
続いて、上記撮像した各発光画像の白枠領域内(像高2付近)について平均輝度を算出した。また、算出された平均輝度から相対輝度(%)を算出した。相対輝度(%)は、両レンズ間距離が5mmのときの平均輝度を100%として算出した。
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、両レンズ間距離が離れるにつれて、得られる発光像が暗くなっていることが分かる。具体的には、両レンズ間距離が81mmになると(比較例)、平均輝度は半分近くまで低下し、発光像の十分な明るさを確保することができなかった。一方、両レンズ間距離が38mmまで接近すると(実施例2)、その平均輝度は実施例1と比較してもほとんど低下しなかった(相対輝度96%)。したがって、少なくとも両レンズ間距離が38mmまで接近すれば、発光像の十分な明るさを確保することができ、その結果、鮮明な発光画像を得ることができることが明らかになった。
【0044】
以上の説明において、微弱光としては、個々の細胞から発せられる発光タンパク質に由来する発光が典型例であるが、それ以外にも、顕微鏡光学では瞬時に可視できないほど微弱な光を発生するあらゆる光(例えば各走査ポイントについて0.5秒以内であるような一般のレーザ走査では画像化できないような、長い露光時間を要する光)を含むものであって、そのような微弱な光であれば蛍光や散乱光をも含む場合があり得、生体等の深部や、脂肪や気泡等の散乱性媒体中を経由したあらゆる微弱光も含まれる。逆に、高強度光としては、顕微鏡光学において接眼レンズ等を介して肉眼でも観察可能な光、または前記レーザ走査での画像化が可能なあらゆる光を含むものであって、そのような高強度な光であれば、明視野観察(主に透過光による観察)や蛍光観察を含み、場合によっては高光強度の発光を発生する改良型の生物発光試薬(BRET試薬を含む)による観察を高強度光の画像観察という場合もあり得る。また、観察対象としては、生物試料が最も有効な応用先であるが、生物試料以外であっても同様に微弱光による観察と高強度光による観察の両方を同一視野で行うような他の撮像装置または観察方法に種々適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
50・・・サンプル用容器、60・・・標本保持手段、100・・・顕微鏡撮像装置、101・・・光源、102・・・励起用分光フィルター、103・・・光ファイバー、104・・・コンデンサーレンズ、105・・・シャッター、110・・・励起光照射手段、111・・・対物レンズ、112・・・蛍光吸収フィルター、113・・・結像レンズ、114・・・CCDカメラ、120・・・撮像手段、130・・・パーソナルコンピュータ、140・・・第1の可動制御ユニット、150・・・第2の可動制御ユニット、A・・・生物試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微弱光および高強度光による撮像を共通の撮像手段を用いて行う顕微鏡撮像装置であって、
観察対象からの光を前記撮像手段に顕微鏡的に導くための対物レンズと結像レンズとを具備し、
前記対物レンズと結像レンズの間の距離を、微弱光観察の場合に高強度光観察の場合より短く設定したことを特徴とする顕微鏡撮像装置。
【請求項2】
蛍光観察用の励起光を照射する励起光照射手段と、前記励起光を透過する標本保持手段と、前記透過した励起光を集光する撮像手段とを備える、蛍光および発光画像を撮像可能な顕微鏡撮像装置であって、
前記撮像手段を構成する対物レンズと結像レンズ間の距離が38mm以下であることを特徴とする、顕微鏡撮像装置。
【請求項3】
前記撮像手段が、前記対物レンズと結像レンズ間の距離を調節することができる第1の可動制御ユニットを備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項4】
前記撮像手段が、蛍光吸収フィルターを光路から外れた位置まで移動させることができる第2の可動制御ユニットを備えることを特徴とする、請求項3に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項5】
前記対物レンズと結像レンズ間の距離が25mm以下であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項6】
前記対物レンズと結像レンズ間の距離が15mm以下であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項7】
前記対物レンズと結像レンズ間の距離が5mm以下であることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項8】
前記蛍光吸収フィルターを挟んで前記対物レンズと結像レンズを一体化したことを特徴とする、請求項7に記載の顕微鏡撮像装置。
【請求項9】
請求項3に記載の顕微鏡撮像装置を使用した発光観察方法であって、
対物レンズと結像レンズ間の距離を調節することができる第1の可動制御ユニットを用いて、前記対物レンズと結像レンズ間の距離を38mm以下に調節する、レンズ間距離制御ステップと、
生物試料内で発現した発光タンパク質を撮像する、発光撮像ステップと、
を含む、発光観察方法。
【請求項10】
前記レンズ間距離制御ステップが、対物レンズの開口数(NA)と倍率(β)との関係において、(NA/β)の2乗が0.01以上の関係が成立している光学系において行われる、請求項8に記載の発光観察方法。
【請求項11】
明視野観察用の照明光源を蛍光励起用光源として用いることが可能な顕微鏡撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公開番号】特開2010−224231(P2010−224231A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71579(P2009−71579)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】