説明

微弱電波送信装置

【課題】 OFDM信号に対して特定のレベルを越えるピークの発生を無くし、瞬時送信電力の急峻な変化にも対応できる微弱電波送信装置を提供する。
【解決手段】 OFDM信号を入力し、入力信号波形のピーク値が特定の値を越える波形に対しては越える波形分をカットした信号を出力する振幅制限回路3と、この振幅制限回路3の出力を増減する利得変更回路4と、振幅制限回路3の振幅制限レベル情報を基に利得変更回路5の利得を制御する制御回路6とを備え、制御回路6は振幅制限レベルに対して微弱電波送信装置が送信する信号のピーク電力が一定になるよう利得変更回路5を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRF信号を送信する微弱電波送信装置に関し、特にOFDM方式の信号を所定の電界強度以下で送信する微弱電波送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワンセグ放送を受信できる携帯端末の普及に伴い、特定の狭いエリアを対象に独自にワンセグ放送を実施して情報を提供するサービスが検討されている。このような放送は免許を必要としない微弱な電波を使用すれば容易に実施できる。この場合、例えば数メートルの所定の間隔で多数のアンテナを設置することになる。
【0003】
例えば特許文献1では、送信装置と中継器を備えて、送信装置によりワンセグ放送の周波数より低い周波数の電波を比較的大きな電力で出力し、この電波を中継器が受信してワンセグ放送の周波数に再変換して出力することで、電波の届かないエリアや特定のエリアにおいてワンセグ放送を受信可能としている。
但し、ここで再変換して出力される電波は、322MHz〜10GHzの範囲の免許を必要としない微弱電波であり、AGC回路を使用して送信電力が大きくならないように制御を行っている。
【0004】
尚、ここで言う免許を必要としない微弱電波とは、電波法の免許対象から除外される電波のことで、ワンセグ放送で使用される周波数帯(470〜710MHz)では無線局から3メートルの距離において電界強度がピーク値で35μV/m以下の電波を言う。
また、ワンセグ放送とは、地上デジタルテレビ放送の1チャンネルに使用される14のOFDMセグメントのうち、携帯電話や移動体端末向けの1セグメントを使用する放送のサービスを言う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−93542号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】映像情報メディア学会誌Vol.55,No.7「地上デジタルテレビジョン中継装置の多段伝送時におけるC/N改善の検討」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ワンセグ放送はOFDM信号を用いているため、信号波形のピーク電力は平均送信電力より大きな値となる。微弱電波はピーク値で規定されているため、微弱電波の条件を満たす送信装置は、平均送信電力をピーク電力と平均送信電力の比に相当する量だけ下げる必要があった。その結果、平均送信電力を下げることで、受信可能エリアが狭くなる問題があったり、受信可能エリアが狭くなるため、単位面積あたりの送信装置数が増加して設置コストが増加する問題が発生し、微弱電波を用いたワンセグ放送を受信するユーザーの利便性が低下する問題があった。
【0008】
ワンセグ放送はOFDM信号を用いているため、信号波形の瞬時送信電力は急峻な変化をし、AGC回路でこの急峻な変化をする瞬時送信電力のピーク値を制限しようすると、時定数を短くし、応答を高速にする必要がある。しかしながら、AGC回路の時定数を短くすると、次のような問題が発生した。
【0009】
図13はAGC回路の一例を示し、41はAGC回路、42はAGC回路41の時定数を設定する時定数設定回路である。図14はこのAGC回路41をOFDM信号のピーク電力制限に適用し、時定数設定回路を高速に設定した場合の出力スペクトラム波形の一例を示している。図14は、上述したワンセグ放送周波数帯でワンセグ信号に非常に大きな歪みが生じることを示している。この図14に示すように、AGC回路41をOFDM信号のピーク電力制限に適用させようと時定数を短く高速に設定すると過応答となり、ワンセグ信号に非常に大きな歪みが生じてしまう問題があった。
そのため、OFDM信号のような瞬時送信電力変動の大きい信号に対しては、AGC回路41の時定数を短くしピーク電力を制限することは困難であり、AGC回路41は平均電力の制御目的にしか使用することはできなかった(非特許文献1参照)。
【0010】
一方、リミッター回路の場合は通常ダイオードが使用される。図15は、一対のダイオードD43,D44を使用したリミッター回路を示し、図16はこのリミッター回路の入力レベル対振幅制限レベル特性を示している。この図16から、瞬時送信電力変動のピーク値を制限するには、高い入力レベルが必要であることがわかる。具体的に、微弱無線局の送信電力は、通常−70dBm程度であるが、ダイオードによる振幅制限では、図16から−3dBの抑制するために17dBm程度の入力レベルが必要となっている。そのため、微弱電波を対象とする装置に適用する場合、−70dBmの信号を87dB増幅して17dBmとし、ダイオードによる振幅制限を行った後アッテネータにより87dBレベルを減衰させて−70dBmの信号とする必要があり、非常に高利得の増幅器が必要となる問題があった。また、同一周波数帯域で非常に大きなレベル差のある信号が同居するため、信号間でアイソレーションを確保することが困難であるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、OFDM信号に対して所定のレベルを越えるピークの発生を無くし、急峻な瞬時送信電力の変化にも対応でき、受信可能エリアの拡大が可能な微弱電波送信装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明に係る微弱電波送信装置は、OFDM信号を入力し、入力信号波形のピーク値が特定の値を越える波形に対しては、越える波形分をカットした信号を出力する信号振幅制限手段と、前記信号振幅制限手段の出力を増減する送信電力増減手段とを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、信号振幅制限手段により特定のレベルを越えるピークの発生を無くすことができる。そのため、ピーク値を一定の電界強度以内に抑制しながら平均送信電力を大きくでき、受信可能エリアを拡大することができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、前記送信電力増減手段の利得を制御する利得制御回路を備え、前記利得制御回路は、前記信号振幅制限手段の振幅制限情報を基に前記送信電力増減手段の平均出力電力が特定の値になるよう制御することを特徴とする。
この構成によれば、振幅制限量に応じて微弱電波送信装置の平均送信電力を制御することができる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2に記載の構成において、前記信号振幅制限手段が、入力された信号のピーク電力を制限し、前記送信電力増減手段が、前記振幅制限情報を基に前記微弱電波送信装置の送信する信号のピーク電力を一定とするよう平均送信電力を増加させる制御を行うことを特徴とする。
この構成によれば、微弱電波送信装置が送信する瞬時送信電力のピーク値を一定にすることができる。
【0015】
請求項4の発明は、請求項3に記載の構成において、前記送信電力増減手段が、微弱電波の条件である所定の距離で測定した電界強度がピーク値で所定の値以下を満たしながら、送信する信号の平均送信電力を増加させる制御を行うことを特徴とする。
この構成によれば、現行の微弱電波の条件である3メートルの距離で電解強度のピーク値が35μV/m以下を満たしながら、受信可能エリアを拡大することができる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、前記信号振幅制限手段は、入力信号を増幅して出力する少なくとも1つのトランジスタを備え、前記トランジスタを入力信号波形のうち半波成分を越え且つ全波形に満たない波形を増幅して出力するAB級動作、或いは入力信号波形のうち半波成分のみ増幅して出力するB級動作させてピーク値をカットすることを特徴とする。
この構成によれば、簡易な回路で瞬時送信電力の急峻な変化にも対応でき、ピーク値を良好に制限できる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、前記信号振幅制限手段は、AB級動作するトランジスタを備えたクリップ回路を2段有して入力信号の正負のピーク値に対してピーク値カットを実施し、ピーク値を所定の値以下とした信号を送信することを特徴とする。
この構成によれば、トランジスタをAB級動作させることにより簡易な回路で瞬時送信電力の急峻な変化にも対応でき、ピーク値を良好に制限できる。
【0018】
請求項7の発明は、請求項6に記載の構成において、前記信号振幅制限手段は、前記2段のクリップ回路の間に後段のクリップ回路の入力を調整するレベル調整回路を有することを特徴とする。
この構成によれば、前段と後段のクリップ回路の特性が異なっても、入力信号の正負の波形に対して特定の値を越えるピークを良好にカットすことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、信号振幅制限手段により、入力したOFDM信号に対して特定のレベルを越えるピークの発生を無くすことができる。そのため、ピーク値を一定の電界強度以内に抑制しながら平均送信電力を大きくでき、受信可能エリアを拡大することが可能となり、単位面積あたりの送信機数を減らすことができ、設置コストを低減することができる。
また、トランジスタをAB級或いはB級動作させることにより簡易な回路で瞬時送信電力の急峻な変化にも対応でき、ピーク値を良好に制限できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る微弱電波送信装置の一例を示す回路図である。
【図2】図1の微弱電波送信装置の周波数を横軸にとったピーク電力を示し、(a)は振幅制限前、(b)は振幅制限後である。
【図3】図1の微弱電波送信装置の時間を横軸にとった瞬時送信電力を示し、(a)は振幅制限前、(b)は振幅制限後である。
【図4】本発明の他の形態を示す微弱電波送信装置の回路図である。
【図5】図4の回路の入力レベル対振幅制限レベル特性図である。
【図6】本発明に係る微弱電波送信装置の他の例を示す回路図である。
【図7】図6の振幅制限回路の動作特性図であり、(a)は第1のクリップ回路の特性、(b)は第2のクリップ回路の特性、(c)はクリップ回路をA級動作させた場合の特性を示している。
【図8】振幅制限回路のクリッピング量と入力レベルの関係を示し、(a)はクリップ回路1段のみの特性、(b)はクリップ回路2段の特性を示している。
【図9】(a)〜(c)はレベル調整回路の一例を示している。
【図10】微弱電波送信装置の他の例を示す回路図である。
【図11】微弱電波送信装置の他の例を示す回路図である。
【図12】微弱電波送信装置の他の例を示す回路図である。
【図13】従来の微弱電波送信装置の一例を示す回路図である。
【図14】図13の回路をワンセグに適用した場合の出力スペクトラム波形図である。
【図15】従来の微弱電波送信装置の他の例を示す回路図である。
【図16】図15の入力レベル対振幅制限レベル特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る微弱電波送信装置の一例を示す回路図であり、1はワンセグ信号を入力する信号入力端子、2はアンテナが接続される信号出力端子、3はトランジスタQ1を備えた信号振幅制限手段としての振幅制限回路、5は送信電力増減手段としての利得変更回路(GC)、6は利得変更回路5を制御する制御回路、7はA/Dコンバータ(ADC)、8はD/Aコンバータ(DAC)である。
【0022】
振幅制限回路3は、高周波増幅用NPNトランジスタQ1のエミッタ接地回路で構成したAB級動作回路であり、信号入力端子1から入力するOFDM信号から成るワンセグ信号に対して特定の値を越えるピーク波形をクリップ(カット)して出力するクリップ回路である。
具体的に、振幅制限回路3のトランジスタQ1のエミッタに、振幅制限レベルを調整するためにコレクタ電流Icを変化させる可変抵抗VR1、コレクタ電流を検出するための判定抵抗R10、コレクタ電圧Vc設定のための第1DC電源V1、ベース電圧Vb設定のための第2DC電源V2を備え、入力信号波形のピーク値が特定の値を越える波形に対しては、トランジスタQ1がAB級動作して特定の値を越える波形をクリップして出力するよう可変抵抗VR1が調整される。
【0023】
尚、振幅制限回路3のピーク波形をカットする閾値は、具体的に利得変更回路5の利得バランスを加味して設定され、信号出力端子2から出力される信号のピーク電力の値を加味して設定される。また、L1は出力インピーダンスを整合するための整合トランス、L2,L3は高周波信号の通過を阻止するチョークコイルである。
【0024】
制御回路6はマイクロコンピュータから成り、A/Dコンバータ7でデジタルデータに変換された抵抗R10の電圧降下量情報(振幅制限情報)を基に振幅制限回路3の抵抗制限レベルを判断して制御信号を生成して出力し、この制御信号がD/Aコンバータ8でアナログデータに変換されて利得変更回路5の利得が制御される。この結果、信号出力端子2から出力される信号は、振幅制限を行ったレベル分の平均電力を増加させることができる。
【0025】
図2は図1の微弱電波送信装置の周波数を横軸にとったピーク電力を示している。また、図3は図1の微弱電波送信装置の時間を横軸にとった瞬時送信電力を示している。何れも、(a)は振幅制限前、(b)は可変抵抗VR1を調整して特定の値以上のピーク値を制限した状態を示している。この図2及び図3から、振幅制限後は周波数軸上でも時間軸上でも特定値以上の大きさの電力が抑制されていることがわかる。
【0026】
このように構成された微弱電波送信装置は、可変抵抗VR1で設定された特定の値を越えるピーク波形がカットされ、且つ平均送信電力は一定の値を維持するよう制御して入力信号を増幅して出力される。例えば、信号出力端子2に接続された図示しないアンテナから輻射される信号の電界強度の最大値が、3メートルの距離においてピーク値で35μV/m以下となるよう振幅制限を行ったレベルを補償するように、制御回路6が利得変更回路5を制御する。この結果、ピーク電力が所定の値以下の状態を維持しながら平均送信電力が大きくなるよう制御される。
【0027】
このように、振幅制限回路3により特定のレベルを越えるピークの発生を無くすことができ、利得変更回路5を制御して平均送信電力を大きくしてもピーク値を一定の電界強度以内に抑制し、ピーク値を大きくすること無く平均送信電力を大きくできる。更に、利得変更回路5は、振幅制限回路3の振幅制限量に応じてピーク電力が一定になるよう制御でき、微弱電波送信装置の瞬時送信電力のピーク値を一定に保持することができる。その結果、微弱電波の条件を満足しながら受信可能エリアを拡大することができる。
更に、トランジスタをAB級動作させる簡易な回路で送信信号のピーク値を制限できる。
【0028】
図4は、微弱電波送信装置の他の例を示し、同一の構成要素には同一の符号を付与している。上記図1とは出力回路の構成が異なり、利得変更回路5を備えていない。また、振幅制限レベルを調整するための可変抵抗R10は設けず固定抵抗R7となっている。図5はこの回路の入力レベル対振幅制限レベル特性を示し、この図5に示すようにNPNトランジスタを使用した振幅制限回路だけでも、AB級動作にすることで低い入力レベルで瞬時送信電力変動のピーク値を制限できる。よって、ピーク電力を抑制でき、特定の値を越えた電界強度の信号を送信しない微弱電波送信装置を構成できる。
【0029】
尚、上記実施形態は、NPNトランジスタをAB級動作させることでピーク値を制限した信号を出力させているが、NPNトランジスタをB級動作させてもピーク値を制限した信号を出力させることができる。このように、AB級或いはB級により増幅することで、例えばC級増幅回路を使用する場合に比べて信号品質を高くできる。
【0030】
図6の回路図は、本発明に係る微弱電波送信装置の他の例を示している。23は入力信号の特定の大きさ以上のピーク値をクリップ(カット)して出力するクリップ回路(第1クリップ回路23aと第2クリップ回路23b)、24は第2のクリップ回路23bに入力する信号レベルを調整するレベル調整回路であり、上記図1と共通する構成要素には同一の符号を付与してある。尚、第1のクリップ回路23aと、第2のクリップ回路23bと、レベル調整回路24とで、特定の値以上のピーク値をカットする振幅制限回路30を構成している。
【0031】
図6に示すように、振幅制限回路30は2段構成のクリップ回路23(23a,33b)を備え、双方のクリップ回路23は、同様の回路構成となっている。但し、後段となる第2のクリップ回路23bに入力される信号は、前段の第1のクリップ回路23aの入力信号に対して反転した位相となるため、互いに補完動作する。
【0032】
具体的に、第1のクリップ回路23aは、高周波増幅用NPNトランジスタから成る第1トランジスタQ11のエミッタ接地回路であり、AB級動作するようバイアス設定した構成となっている。同様に、第2のクリップ回路23bも、高周波増幅用NPNトランジスタから成る第2トランジスタQ12のエミッタ接地回路であり、AB級動作するようバイアス設定した構成となっている。
【0033】
この結果、第1のクリップ回路23a及び第2のクリップ回路23bは、何れも入力する信号に対して特定の値を越えるピーク波形をクリップして出力しする。よって、信号入力端子1から入力するOFDM信号から成るワンセグ信号に対して、特定の値を越えるピーク波形をカットして出力する。而も、第1のクリップ回路23aが正負一方のピークをクリップして出力し、第2のクリップ回路23bが、他方のピークをクリップして出力する。また、クリップ回路23はNPNトランジスタをAB級動作させる構成とすることで、ワンセグ放送の周波数帯域においてピーク値を良好に制限できる。
【0034】
図7はクリップ回路23の動作特性図(Ic−Vce特性図)を示し、(a)は1段目の第1のクリップ回路23aの特性を示し、(b)は2段目の第2のクリップ回路23bの特性を示しており、この図を参照して更に説明する。各図において、Pは動作点、Siは入力信号、Soは出力信号、Ioは出力電流を示している。2段設けることにより、信号波形の正負双方の波形に対して確実にピークをカットして出力を制限している。尚、(c)は参考のためにA級増幅した場合の特性を示している。
【0035】
図7(a)に示すように、第1トランジスタQ11の動作点Pを設定することで、一定の電圧値を越えるピーク波形に対してそのピークをクリップして出力する。この時、クリップする電圧レベルは抵抗R4により設定される。また、図7(b)に示すように第2トランジスタQ12の動作点Pを設定することで、一定の電圧を越えるピーク波形に対してそのピークをクリップして出力する。この時クリップする電圧レベルは抵抗VR2により設定される。この結果、正負双方のピーク波形がクリップされて出力される。
【0036】
尚、クリップ回路23は上記図1に示す振幅制限回路3と同様の回路であり、図2に示すようなピーク電力特性を示す。また、図3に示す瞬時送信電力特性を示す。
【0037】
そして、上記図1の回路と同様に、利得変更回路5は出力電力が一定に成るようマイクロコンピュータから成る制御回路6により制御される。制御回路6は、A/Dコンバータ(ADC)7でデジタルデータに変換された抵抗R10の電圧降下量情報(振幅制限情報)を基に、第2のクリップ回路23bの抵抗制限レベルを判断して制御信号を生成して出力する。この制御信号がD/Aコンバータ(DAC)8でアナログデータに変換されて利得変更回路5に送られ、利得変更回路5の利得が制御される。こうして、入力された信号のピーク電力をクリップ回路23が制限し、振幅制限情報を基にクリップ回路23の出力する信号のピーク電力が一定になるよう利得変更回路5が平均送信電力を増加させる制御を実施する。
【0038】
図8は振幅制限回路30のクリッピング量と入力レベルの関係を示し、図8(a)は、第1のクリップ回路23aのみのクリッピング量と入力レベルの特性を示し、図8(b)は第1のクリップ回路23aに第2のクリップ回路23bを加えた2段のクリップ回路のクリッピング特性を示している。M1がクリッピング量、M2がMER(変調誤差比)である。例えば、MERが12dBにおけるクリッピング量を比較すると、図5(a)では3.8dB、図5(b)では4.8dBであり、正負双方のピーク値をクリッピングすることで、MER値を劣化させることなくクリッピング量を大きくできることがわかる。また、1段の場合は振幅制限に限界があるが、2段とすることで振幅制限を大きくできることがわかる。
【0039】
こうして、夫々のクリップ回路23において、特定の値を越えるピーク波形がカットされてピーク電力が制限される。そして、振幅制限情報を基にクリップ回路23の出力する信号の平均送信電力を特定の値となるよう利得変更回路5が平均送信電力を増減して出力する。例えば、信号出力端子2に接続された図示しないアンテナから輻射される信号の電界強度の最大値が、3メートルの距離においてピーク値で35μV/m以下となるよう振幅制限を行ったレベルを補償するように、制御回路6が利得変更回路5を制御する。この結果、ピーク電力が所定の値以下の状態を維持しながら平均送信電力が大きくなるよう制御される。但し、電界強度の最大値は、使用周波数帯域により規格値が異なる。
【0040】
図9はレベル調整回路24を示し、(a)、(b)は固定型、(c)は可変型の回路を示している。図6(c)では可変抵抗VR31を調整することで、レベルを変更できる。このようなレベル調整回路を設けることで、第1のクリップ回路23aの第1トランジスタQ11と第2のクリップ回路23bの第2トランジスタQ12の特性が異なっても、また回路特性が異なっても、入力信号の正負のピーク波形に対して特定の値を越えるピークを良好にカットすることができる。
【0041】
このように、振幅制限回路30をクリップ回路23を2段設けて構成することにより、入力したOFDM信号に対して特定のレベルを越える正負のピークの発生を無くすことができる。そのため、ピーク値を一定の電界強度以内に抑制しながら平均送信電力を大きくでき、受信可能エリアを拡大することが可能となる。
また、トランジスタQ11,Q12をAB級動作させることにより簡易な回路で瞬時送信電力の急峻な変化にも対応でき、ピーク値を良好に制限できるし、クリップ回路23の振幅制限量に応じて微弱電波送信装置の平均送信電力を制御することができる。
そして、現行の微弱電波の条件である3メートルの距離で電解強度のピーク値が35μV/m以下を満たしながら、受信可能エリアを拡大することができる。尚、通常のワンセグ放送の周波数帯より低い322MHz以下の周波数帯であっても、同様の作用を奏するものである。
【0042】
図10〜図12は、2段のクリップ回路を備えた他の例を示している。図10は、レベル調整回路24に自動調整機能を設けている。1段目の第1のクリップ回路23aのエミッタ電流をA/Dコンバータ(ADC)31で検出し、この電流情報からマイクロコンピュータ(マイコン)32が振幅制限量を判断し、D/Aコンバータ(DAC)33を介してレベル調整部24aに制御信号を出力している。この制御によりレベル調整部24aは、第1のクリップ回路23aの出力を、2段目の第2のクリップ回路23bが最適な振幅制限を実施するレベルに自動調整する。
【0043】
図11、図12は、レベル調整回路を持たない構成となっている。第1のクリップ回路23aの第1トランジスタQ11の特性と、第2のクリップ回路23bの第2トランジスタQ12の特性に特定の関係を持たせることで、レベル調整回路を無くすことができる。例えば、第1トランジスタQ11に対して、第2トランジスタQ12を高出力のものにすることで、図11に示すようにレベル調整回路が無くても、良好な振幅制限を行うことができる。
また図12は、双方のトランジスタQ11,Q12のエミッタに可変抵抗VR4、VR10を設け、バイアスを調整することでレベル調整回路を無くしている。
【0044】
尚、これらの構成以外に第1トランジスタQ11のコレクタ電流情報を基に、第2トランジスタQ12のコレクタ電流を制御するよう構成してもレベル調整回路を無くすことができる。
【符号の説明】
【0045】
1・・信号入力端子、2・・信号出力端子、3・・振幅制限回路(信号振幅制限手段)、5・・利得変更回路(送信電力増減手段)、6・・制御回路(利得制御回路)、Q1・・トランジスタ、23・・クリップ回路、23a・・第1のクリップ回路、23b・・第2のクリップ回路、24・・レベル調整回路、30・・振幅制限回路(信号振幅制限手段)、Q11・・第1トランジスタ、Q12・・第2トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDM信号を入力し、入力信号波形のピーク値が特定の値を越える波形に対しては、越える波形分をカットした信号を出力する信号振幅制限手段と、前記信号振幅制限手段の出力を増減する送信電力増減手段とを備えたことを特徴とする微弱電波送信装置。
【請求項2】
前記送信電力増減手段の利得を制御する利得制御回路を備え、
前記利得制御回路は、前記信号振幅制限手段の振幅制限情報を基に、前記送信電力増減手段の平均出力電力が特定の値となるよう制御することを特徴とする請求項1記載の微弱電波送信装置。
【請求項3】
前記信号振幅制限手段が、入力された信号のピーク電力を制限し、前記送信電力増減手段が、前記振幅制限情報を基に前記微弱電波送信装置の送信する信号のピーク電力を一定とするよう平均送信電力を増加させる制御を行うことを特徴とする請求項2記載の微弱電波送信装置。
【請求項4】
前記送信電力増減手段が、微弱電波の条件である所定の距離で測定した電界強度がピーク値で所定の値以下を満たしながら、送信する信号の平均送信電力を増加させる制御を行うことを特徴とする請求項3記載の微弱電波送信装置。
【請求項5】
前記信号振幅制限手段は、入力信号を増幅して出力する少なくとも1つのトランジスタを備え、前記トランジスタを入力信号波形のうち半波成分を越え且つ全波形に満たない波形を増幅して出力するAB級動作、或いは入力信号波形のうち半波成分のみ増幅して出力するB級動作させてピーク値をカットすることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の微弱電波送信装置。
【請求項6】
前記信号振幅制限手段は、AB級動作するトランジスタを備えたクリップ回路を2段有して入力信号の正負のピーク値に対してピーク値カットを実施し、
ピーク値を所定の値以下とした信号を送信することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の微弱電波送信装置。
【請求項7】
前記信号振幅制限手段は、前記2段のクリップ回路の間に後段のクリップ回路の入力を調整するレベル調整回路を有することを特徴とする請求項6記載の微弱電波送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−105155(P2012−105155A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253198(P2010−253198)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(307022424)ソフトバンクテレコム株式会社 (42)
【Fターム(参考)】