説明

微生物などの検査方法及び検査装置

【課題】夾雑物が混在する検体液中で目的の細胞または微生物(生菌)を正確に計測する手段を提供する。
【解決手段】計測目的の細胞または微生物を含む検体液に、膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する一種類または複数種類の蛍光色素とグリセリンを検体液に追加し一定時間静置する。グリセリンは検体液と蛍光色素の混合の前後または同時に追加する。計測目的の細胞または微生物を染色後、特定の波長の光を照射し、細胞または微生物から発せられる蛍光を検出することで目的の細胞または微生物を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物などの検査方法及び検査装置にかかり、特に、蛍光サイトメトリー法を用いた微生物検査装置に関する。なお、本明細書において、微生物検査方法及び検査装置とは、細胞や微生物の検査方法及び検査装置を意味し、微生物のみの検査方法及び検査装置に限定されるものではない。また、本明細書及び特許請求の範囲において、表記を簡単にするため、「細胞または微生物」と表記しないで、単に「微生物」と表記する場合があるがその場合には細胞も含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
食品中に含まれる生菌数の計測の迅速化および簡便化を目的とした生菌数計測装置(微生物検査装置)が市場に提供されている。その中でも、迅速性と定量性に優れている生菌数計測装置として、蛍光サイトメトリー法を使用した生菌数計測装置が注目されている。蛍光サイトメトリー法は蛍光染色した生菌を短時間に一個ずつ計測する方法で、大きく蛍光イメージサイトメトリー法と蛍光フローサイトメトリー法に大別される。蛍光イメージサイトメトリー法は、蛍光色素で染色した生菌をガラスやフィルタなどに吸着させ、吸着した生菌を一個ずつ計測する方法である。一方、蛍光フローサイトメトリー法は、蛍光色素で染色した生菌を含む検体液の流径を細くすることによって、流路に流れる生菌を一個ずつ計測する方法である。
【0003】
蛍光サイトメトリー法を使用した生菌数計測装置で食品中の生菌数を測定するときの課題は、計測を行う前に夾雑物を取り除くための精製が必要であることである。夾雑物は、葉緑体,色素体,ミトコンドリア,糖質(でんぷんやグリコーゲン),脂質の塊などの食品由来の物質に加え、死菌や、染色のために使用する蛍光色素の粒子がある。これらの夾雑物は自家蛍光や蛍光色素による染色や吸着により蛍光を発するため、生菌として誤計測する要因となる。生菌を精製する方法には遠心分離法やカラム法などがあり、これらの方法は生菌と夾雑物を高い精製度で分離することが可能である。
【0004】
一方、精製を実施せずに生菌と夾雑物を判別する例の一つとして、二種類の蛍光色素を用いて生菌と死菌を判別し、生菌を計測する方法がある。この方法は、死菌の膜表面には損傷があるが、生菌の膜表面には損傷がないことを利用した判別方法で、膜透過性の青色の蛍光色素であるDAPI(4′,6−ヂアミジン−2′−フェニルインドール)と膜不透過性の赤色の蛍光色素であるPI(プロピディウムイオダイド)を用いて生菌と死菌を判別するものである。膜透過性のDAPIは損傷の有無にかかわらず菌体の膜を透過するため、DAPIの青色の蛍光は生菌・死菌から発するが、膜不透過性のPIは損傷のある膜しか透過しないため、PIの赤色の蛍光は死菌からしか発しない。この方法のように、波長が異なる複数の蛍光色素でそれぞれの物質を特異的に染色することで、蛍光の波長の違いにより物質を判別する方法を多重染色法という。
【0005】
尚、蛍光フローサイトメトリー法において、検体や試薬を微生物検査チップ内に保持させて簡易に微生物を検査するようにした技術として、特許文献1や特許文献2に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−157829号公報
【特許文献2】特開2009−178078号公報
【特許文献3】特開2000−342300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微生物検査装置において、生菌と検体液に含まれる夾雑物を判別して菌数精度を向上させることが重要である。この菌数精度を向上させる上では幾つかの課題がある。
【0008】
生菌と夾雑物を判別するための第一の課題は、生菌の蛍光染色の度合いが不十分で、生菌の蛍光強度が弱いことである。生菌の蛍光染色の度合いを促進するために、蛍光色素の他に界面活性剤やEDTAなどのキレート剤を染色促進剤として検体液に追加することが知られている。しかし、界面活性剤には殺菌性があるため生菌を死菌化する問題や、起泡性があるため発生した気泡が測定を阻害する問題がある。一方、EDTAは、殺菌性があるため生菌を死菌化する問題や、生分解性がないため、廃棄時の環境負荷が大きくなる問題がある。
【0009】
次に生菌と夾雑物を判別するための第二の課題は、生菌の蛍光の波長と蛍光強度が同じになるため、判別することが難しい夾雑物が存在することである。上述のDAPIとPIの二重染色を例とすると、生菌はDAPIの青色の蛍光のみを発するが、DAPIの粒子も青色の蛍光のみを発する。生菌の蛍光と同程度の強さの蛍光を発する粒子も存在するため、生菌とDAPIの粒子を判別することは難しい。生菌と色素粒子の判別の問題はDAPIに限定した問題ではなく、他の蛍光色素を使用した場合にもあてはまる。
【0010】
ところで検体液中に含まれる蛍光を発する洗剤,紙片屑と目的の菌種の菌体を正確に選別するために行う方法として、異なる波長の蛍光色素で染色した微小DNA(約200kbp)をもつファージを二種類使用することにより特定の菌体を二重染色する方法が知られている(特許文献3を参照)。この方法では、蛍光を発する洗剤,紙片屑が検体液に含まれていても、特定の菌体は二種類の蛍光を発するため洗剤,紙片屑と目的とする特定の菌体との判別が可能となる。この方法は特定菌種の計測を目的とする場合には、高精度の測定結果を得ることができるが、食品検査のように菌種に係らず全ての生菌を計測する必要のある用途には適さない。また、蛍光色素自体が夾雑物となることについては何等考慮されていない。
【0011】
次に生菌と夾雑物を判別するための第三の課題は、多重染色法のために使用する蛍光色素の種類が多いと蛍光色素の蛍光スペクトルの重なりが大きくなり、蛍光の情報から生菌を判別することが難しくなることである。一般的な蛍光サイトメーターでは、蛍光スペクトルの重なりを解析により排除することで生菌と夾雑物を特定しているが、高機能な解析装置が必要になり装置の製造コストが高くなる。
【0012】
本発明の第一の目的は、細胞または微生物(生菌)に蛍光色素を染色させて細胞または微生物を計測する微生物検査方法において、殺菌性や起泡性、生分解性の問題を低減して、細胞または微生物の蛍光染色を促進させ、細胞または微生物の測定が可能な微生物検査方法と検査装置を提供することにある。
【0013】
本発明の第二の目的は、細胞または微生物(生菌)計測において、細胞または微生物を染色する蛍光色素により細胞または微生物の計測精度が低下することを抑制することが可能な微生物検査方法と検査装置を提供することにある。
【0014】
本発明の第三の目的は、多重染色法を用いた微生物検査においても、高機能な解析装置を使用せずに生菌(菌体)の計測精度を向上することが可能な微生物検査方法と検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、第一の目的を達成するために、細胞または微生物(生菌)を含む検体液に、膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と蛍光促進剤としてグリセリンを追加して細胞または微生物を染色し、染色された細胞または微生物に特定の波長の光を照射し、細胞または微生物から発せられる蛍光を検出することで目的の細胞または微生物を計測するようにしたものである。
【0016】
グリセリンは検体液と蛍光色素の混合の前後または同時に追加することができる。
【0017】
検体液とグリセリンの混合液の終濃度は1%〜30%以内となるようすることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、第二の目的を達成するために、細胞または微生物(生菌)を含む検体液に、膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する、蛍光スペクトルが異なる二種類以上の蛍光色素を追加して細胞または微生物を染色し、細胞または微生物に特定の波長の光を照射し、細胞または微生物から発せられる発光スペクトルが異なる蛍光を検出することで目的の細胞または微生物を計測するようにしたものである。
【0019】
二種類以上の蛍光色素は、それぞれの蛍光スペクトルのピークが少なくとも50nm以上離れていることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、細胞または微生物(生菌)を含む検体液に、膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素を追加し、一定時間静置したのち検体液と蛍光色素の混合液に撹拌操作を加えずに、細胞または微生物に特定の波長の光を照射し、細胞または微生物から発せられる蛍光を検出することで目的の細胞または微生物を計測するようにしたものである。
【0021】
染色後の静置時間は30分から120分の間が好ましい。
【0022】
また、本発明の第三の目的を達成するために、食品を均質化(ホモジナイズ)した液に、膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と、膜不透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と、動物細胞または植物細胞由来の物質を染色する蛍光試薬を追加するようにしたものであって、膜不透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と動物細胞または植物細胞由来の物質を染色する蛍光色素は、その蛍光スペクトルのピークが550nm以上680nm未満の範囲内にあるものを選択し、これらの蛍光色素を検体液に追加して液中の生菌を染色し、生菌に特定の波長の光を照射し、生菌から発せられる蛍光を検出することで目的の生菌を計測するようにしたものである。
【発明の効果】
【0023】
(A)第一の目的に関する発明
グリセリンは、菌体の冷凍保存に使用されているように殺菌性は低く、食品・医薬品へ使用されているように生分解性に優れていることから環境負荷が低く、さらに起泡性も少ないため気泡の発生による測定阻害も発生しにくい。本発明では、このグリセリンを微生物検査における細胞または微生物(生菌)への蛍光色素の染色促進剤として使用することで、従来の使用されていた染色促進剤(界面活性剤やEDTAなどのキレート剤)における殺菌性や起泡性、生分解性の問題を低減して、細胞または微生物の蛍光染色を促進させることができ、その結果、細胞または微生物の計測精度を向上させることができる。
【0024】
(B)第二の目的に関する発明
膜透過性でかつ核酸結合性で、蛍光スペクトルが異なる蛍光色素を複数種類使用することで、目的とする細胞または微生物(生菌)からは複数の蛍光スペクトルが検出され、その結果、検出した蛍光の種類の情報から、目的とする細胞または微生物と、蛍光色素が凝集した粒子を判別でき、その結果、細胞または微生物の計測精度を向上させることができる。
【0025】
また、染色後に検体液を静置し、蛍光色素が凝集する時間を確保することで検体液中の色素粒子数を低減することができ、その結果、細胞または微生物の計測精度を向上させることができる。
【0026】
(C)第三の目的に関する発明
食品をホモジナイズした液中に含まれる生菌を検出する際、死菌用の蛍光色素と動物細胞または植物細胞由来の物質を染色する蛍光色素には蛍光スペクトルのピークが550以上680nm未満の範囲にあるものを選択することで、検出対象の生菌の蛍光のみを選別して検出し、死菌,葉緑体,ミトコンドリアなどの排除対象の蛍光を選別せず検出することができるため、解析回路を簡素化することができる。
【0027】
第一から第三の目的に関する本発明は、それぞれは単独でも細胞または微生物(生菌)の計測の精度を向上させることができるが、組み合わせることにより細胞または微生物(生菌)の計測精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るグリセリンを染色促進剤として使用したときの染色手順を示す図である。
【図2(A)】グリセリンを用いないで蛍光染色した大腸菌の顕微鏡写真の模式図である。
【図2(B)】本発明の実施の形態に係る蛍光染色した大腸菌の顕微鏡写真の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る蛍光染色した大腸菌の蛍光フローサイトメーターによる測定結果を示す図である。
【図4(A)】一種類の蛍光色素で染色を行ったときの菌体と色素粒子の発光の様子を説明する図である。
【図4(B)】本発明の実施の形態に係る二種類の蛍光色素で染色を行った時の菌体と色素粒子の発光の様子を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る各種物質の発光例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る二種類の蛍光色素で染色を行った時のフローサイトメーターのカウント数と培養法で得られた菌数との関係を説明する図である。
【図7】四種類の野菜の自家蛍光のスペクトルを示す図である。
【図8(A)】本発明の実施の形態に係る四種類の蛍光色素の蛍光スペクトルを示す図である。
【図8(B)】本発明の実施の形態に係る四種類の蛍光色素の蛍光スペクトルの他の例を示す図ある。
【図9】本発明の実施の形態に係る各種物質の発光例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置の概略構成を示す図である。
【図11(A)】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置に用いられる微生物検出チップにおける微生物検出用流路を含む断面例を示す図である。
【図11(B)】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置に用いられる微生物検出チップにおける微生物検出用流路を含む分解構造例を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置における分析工程を説明する図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置に用いられる微生物検査チップの概略構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る微生物検査装置に搭載される検出装置の概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、後述する実施の形態は一例であって、各実施の形態同士の組み合わせ、公知又は周知の技術との組み合わせや置換による他の態様も可能である。
【0030】
(A)染色促進剤を使用した菌体の蛍光強度増加
図1は本発明の実施の形態における染色手順を説明するためのフローチャートである。食品や飲料水などの検体液中に含まれる生菌を蛍光法で計測する手順を一例として示す。
(1)食品のストマッキング液,飲料水などの検査検体から一定量取り出し、検体液とする。
(2)検体液中には目的とする生菌以外の夾雑物が含まれている。生菌(直径約1ミクロン)より大きい夾雑物を遠心分離法などの手段によって取り除く。夾雑物を取り除く他の手段としては、濾過法,カラム法などがある。
(3)検体液にグリセリンを追加し、一定時間(例えば1分〜30分)静置する。グリセリン追加の目的は菌体内部に蛍光色素が透過しやすい状態をつくり染色性を促進させることである(詳細は後述)。従って、グリセリン追加後、一定時間静置したほうが蛍光色素の染色性が強まるが、蛍光色素とグリセリンを同時もしくは蛍光色素の追加後に追加しても、グリセリンによる蛍光色素の染色促進の効果が得られる。また、グリセリンの終濃度が高すぎると生菌の生体活性が失われる可能性があるが、我々が培養法により検討した結果では、グリセリンの終濃度が30%以内であれば、生菌の生体活性には影響がないことと、死菌用の染色色素が生菌を染色しないことを確認している。
(4)蛍光色素を追加し、検体を一定時間(30分〜120分)静置する。染色時の一定時間の静置には次の二つの理由がある。第一の理由として、膜透過性かつ核酸結合性の蛍光色素の場合、蛍光色素が生菌内に入り生菌内の核酸に結合するには一定の時間が必要になるからである。第二の理由として、膜透過性かつ核酸結合性の蛍光色素の大半は疎水性であるため、水溶液中では時間とともに凝集する傾向があるからである。一定の静置時間を確保することで色素粒子の凝集を促進し、色素粒子数を減少することができる。撹拌のエネルギーにより色素粒子が分裂することを防ぐため、静置後は撹拌しないことが好ましい。詳細は後述するが、色素粒子と生菌との区別のために複数種類の蛍光色素を使用してもよい。また、染色時に一定の静置時間を確保することが染色促進と色素粒子低減の効果を有することは、グリセリンの使用の有無にはかかわらない。
(5)顕微鏡による蛍光観察や蛍光サイトメトリー(イメージサイトメトリー(以下ICM)やフローサイトメトリー(以下FCM))などによる蛍光計測手段により蛍光染色した生菌を観察・計測する。
【0031】
図2は、染色促進剤としてのグリセリンの効果示す顕微鏡画像を模式的に図示したものである(実際の顕微鏡画像は、背景が黒色であり、輝点が白色であるが、模式図では背景が白、輝点が黒で図示されている。)。画像の模式図中の輝点は蛍光色素に染色された菌体(生菌および死菌)であり、蛍光色素に染まった菌体ほど明瞭な像となる。図2(A)は、大腸菌(菌種:NT9001,菌濃度:108個/ml)を含む液に、膜浸透性かつ核酸結合性の蛍光色素であるシアニン系橙蛍光色素を終濃度0.4μMとなるよう追加し、室温で40分静置後に光学顕微鏡で観察した時の顕微鏡画像の模式図である。一方、図2(B)は、大腸菌(菌種:NT9001,菌濃度:108個/ml)を含む液に、グリセリンを終濃度10%、シアニン系橙蛍光色素を終濃度0.4μMとなるように追加し、室温で40分静置後に光学顕微鏡で観察した時の顕微鏡画像の模式図である。二枚の顕微鏡画像の模式図を比較し、グリセリンを追加した検体のほうが菌体の像が明瞭になっていることから、グリセリンを追加することで蛍光色素の菌体への染色性が促進されたことがわかる。発明者はグリセリンを追加することで菌体の膜蛋白の働きが阻害され、蛍光色素が菌体内部に透過しやすくなったため染色性が促進されたものと考えている。
【0032】
図3は、染色促進剤としてのグリセリンの効果を示すもので、蛍光フローサイトメーターを用い、蛍光色素で染色した大腸菌の大きさと蛍光量を測定した結果を示す。横軸は粒子の大きさを示す前方散乱光の強度、縦軸は蛍光量を示す。測定した検体は以下の(1)コントロール(蛍光色素,グリセリン追加なし)、(2)蛍光色素を追加、(3)蛍光色素,グリセリンを追加の3条件で処理したものである。以下にそれらの測定手順を示す。
(1)コントロールとして、大腸菌(菌種:NT9001,菌濃度:105個/ml)を含む検体にグリセリン,蛍光色素を追加せずにフローサイトメーターで測定した。
(2)大腸菌(菌種:NT9001,菌濃度:105個/ml)を含む検体に膜浸透性かつ核酸結合性の蛍光色素であるシアニン系青蛍光色素を終濃度0.8μMとなるように追加し、室温で40分静置後にフローサイトメーターで測定した。
(3)大腸菌(菌種:NT9001,菌濃度:105個/ml)を含む検体に、グリセリンを終濃度10%、シアニン系青蛍光色素を終濃度0.8μMとなるように追加し、室温で40分静置後にフローサイトメーターで測定した。
【0033】
図3から、グリセリンを追加した検体のほうが菌体の蛍光が強くなっていることから、グリセリンを追加することで蛍光色素の全菌への染色性が促進されたことがわかる。
【0034】
グリセリンは、菌体の冷凍保存に使用されているように殺菌性は低く、食品・医薬品へ使用されているように生分解性に優れていることから環境負荷が低く、さらに起泡性も少ないため気泡の発生による測定阻害も発生しにくい。これらの点から染色促進剤として従来から知られている界面活性剤やEDTAより優れていると言える。
【0035】
(B)二重染色を用いた色素粒子の影響除去
図4(A),(B)は、二重染色による生菌と蛍光色素の色素粒子の判別の原理を示す説明図である。
【0036】
図4(A)は、膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する第一の蛍光色素で生菌を染色したときに、生菌201と、第一の蛍光色素の分子203の凝集物がそれぞれ発する蛍光の様子を示す。生菌を含む液体と第一の蛍光色素を混合すると、第一の蛍光色素の分子203は膜透過性であるため、第一の蛍光色素の分子203の一部は生菌201の細胞膜を透過し生菌201のDNA202に結合する。また、DNAに結合しなかった第一の蛍光色素の分子203の一部は凝集し粒子化する。この状態で第一の蛍光色素を励起する励起光204を照射すると、生菌201は第一の蛍光色素の蛍光205を発し、第一の蛍光色素の分子203の凝集物も蛍光206を発する。蛍光205と蛍光206はともに第一の蛍光色素の蛍光であるため、生菌201と第一の蛍光色素の分子203の粒子を波長の情報だけでは区別することができない。仮に蛍光強度に大きな差があれば、強度差から二つを判別することは可能であるが、生菌の蛍光強度分布と色素粒子の蛍光強度分布は重なっていることが多く、生菌201と第一の蛍光色素の分子203の凝集物を判別することは難しい。
【0037】
図4(B)は、膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する二種類の蛍光色素(第一の蛍光色素と第二の蛍光色素)で生菌を染色したときに、生菌201と、第一の蛍光色素の分子203の凝集物と、第二の蛍光色素の分子207の凝集物がそれぞれ発する蛍光の様子を示す。生菌を含む液体と第一の蛍光色素と第二の蛍光色素を混合すると、第一の蛍光色素の分子203と第二の蛍光色素の分子207は膜透過性であるため、第一の蛍光色素の分子203の一部と第二の蛍光色素の分子207の一部は、それぞれ生菌201の細胞膜を透過し生菌201のDNA202に結合する。また、DNAに結合しなかった第一の蛍光色素の分子203の一部と第二の蛍光色素の分子207の一部は凝集し粒子化する。この状態で第一の蛍光色素と第二の蛍光色素を励起する励起光204を照射すると、生菌201は蛍光208を発し、第一の蛍光色素の分子203の凝集物は蛍光206を発し、第二の蛍光色素の分子207の凝集物は蛍光209を発する。蛍光208は第一の蛍光色素と第二の蛍光色素の蛍光が合わさった蛍光であるが、蛍光206は第一の蛍光色素の蛍光であり、蛍光209は第二の蛍光色素の蛍光であるため、生菌201と第一の蛍光色素の分子203の凝集物および第二の蛍光色素の分子207の凝集物を、波長の情報だけで区別することができる。
【0038】
この方法で全菌(生菌と死菌)を二種類(第一及び第二)の蛍光色素で染色したときに、全菌並びに第一及び第二の蛍光色素の粒子から発する蛍光の種類を図5に示す。全菌は第一の蛍光色素および第二の蛍光色素に染色されているため、二種類の蛍光色素の蛍光を発するが、第一の蛍光色素の粒子は第一の蛍光色素の蛍光を、第二の蛍光色素の粒子は第二の蛍光色素の蛍光しか発しない。
【0039】
この方法によれば、波長の情報だけで全菌などの目的粒子と色素粒子の判別が可能になるため、蛍光の情報から目的粒子数の計測を行う蛍光サイトメトリー(ICM,FCM)に有用な方法である。特に後述の微生物検査チップを用いた蛍光フローサイトメトリー法のように計測の事前に夾雑物を遠心分離などの精製により除去できない場合に効果が大きい。これにより、誤検出の要因であった色素粒子の排除が容易になるため、計測精度と計測下限を向上することができる。
【0040】
図6は、二重染色による色素粒子の影響除去の効果をフローサイトメーターで実証した結果を示す図である。大腸菌(菌種:NT9001,菌終濃度:102〜105個/ml)を含む液体に、共に膜浸透性かつ核酸結合性の蛍光色素であるLDS751(終濃度:1μg/ml)とシアニン系赤蛍光色素(終濃度:0.4μM)を追加した後、染色した菌数をフローサイトメーターで測定し、その測定数と培養法で得られた菌数を比較したものである。図6には、(1)液体中の菌数を変えた時のLDS751の蛍光が検出された粒子の計測数、(2)LDS751とシアニン系赤蛍光色素の蛍光が同時検出された粒子の計測数を記載している。特にLDS751は色素粒子数が非常に多い蛍光色素で、おおよそ104〜105個/mlの色素粒子が含まれている。そのため菌濃度がLDS751の色素粒子数に対し圧倒的に少ない場合、LDS751の蛍光のみでは正確な菌数を求めることは困難になる。検体に含まれる色素粒子数の上限が菌数の検出下限とすると、LDS751のみ使用した場合の菌数の検出下限は105個/mlとなる。一方、LDS751とシアニン系赤蛍光色素を両方使用した場合、両方の蛍光色素の蛍光が同時検出された粒子を菌体として検出し、LDS751とシアニン系赤蛍光色素の色素粒子の影響は取り除かれるため、高精度に菌数を計測することができる。同時染色を行った場合は菌数の検出下限が102個/mlまで下げられることを確認している。
【0041】
菌体は複数の蛍光色素に染色されるため、使用する蛍光色素の種類が多いほど、色素粒子と菌体の選別率は向上する。しかし、蛍光色素の蛍光はスペクトルをもっているため、蛍光の分離を正確に行うためには、蛍光スペクトルのピークが最低でも50nmは離れている蛍光色素を使用することが好ましい。
【0042】
また、染色促進剤として菌体の染色時にグリセリンを検体に追加すると、グリセリンを追加しないときに比べ、色素粒子数が数倍増えることがある。しかし、二重染色により色素粒子を計測対象から除去することで、色素粒子数が増加しても正確に菌数を計測することができ、グリセリンによる蛍光強度の増加の効果と相俟って検出精度を向上させることができる。
【0043】
また、本実施の形態では全菌用色素を二種類使用し全菌数を計測したが、死菌用の色素を二種類使用することで、検体液中の死菌数を高精度に計測することが可能になる。死菌数は培養法でも計測することができないため、本方法は死菌数の計測に非常に有効な手段となる。
【0044】
(C)多重染色における波長域の設定
図7は、自家蛍光を発する葉緑体および色素体を含む野菜を波長532nmの励起光で励起したときの蛍光スペクトルを示す図である。ほうれん草は緑色の色素であるクロロフィルを含む葉緑体を多く保持し、じゃがいもはでんぷんを貯蔵するアミロプラストを保持し、南瓜は黄色の色素であるカロテノイドを含む色素体を多く保持し、葡萄の皮は紫色の色素であるアントシアニンを含む色素体を多く保持している。これらの野菜は黄色〜赤の波長域である550nm以上680nm未満の波長域で蛍光を発する。従って、これらの自家蛍光を発する粒子による検出精度の低下を避けるために、蛍光サイトメトリー(ICM,FCM)で食品中の細菌を検出する際には、全菌(生菌と死菌)を染色する色素の波長域は、550nm〜680nmの波長域以外の、青色か近赤外の波長域の色素を選択することが好ましい。また、ミトコンドリアなどの、計測からの排除対象を染色するための色素の波長域は550nm以上680nm未満の範囲内でも問題はない。また、死菌のみを染色するための色素の波長域も550nm以上680nm未満の範囲内で問題はない。
【0045】
図8(A),(B)は、蛍光サイトメーターで生菌を計測するために使用する蛍光色素の波長域の例である。本実施の形態では、計測からの排除対象である死菌を染色する蛍光色素には膜不浸透性の核酸結合性の蛍光色素である死菌用シアニン系橙蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:570nm)、同じく計測からの排除対象であるミトコンドリアを染色する色素にはミトコンドリア用赤蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:640nm)を、全菌(生菌と死菌)を染色する色素には膜浸透性の核酸結合性の蛍光色素である全菌用シアニン系青蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:450nm)と膜浸透性の核酸結合性の蛍光色素であるシアニン系橙蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:550nm)か(図8(A))、全菌用シアニン系青蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:450nm)とLDS751(蛍光スペクトルのピーク波長:720nm)を(図8(B))選択している。この方法では、死菌、ミトコンドリア、野菜の色素体や葉緑体を区別することはできないが、これらの物質は計測からの排除対象であるため、互いの蛍光スペクトルが重なっても生菌の計測には問題はない。全菌(生菌と死菌)を染色する色素の他の候補としては、DAPI(4′,6−ヂアミジン−2′−フェニルインドール,蛍光スペクトルのピーク波長:460nm),HOECHST33258(蛍光スペクトルのピーク波長:460nm),HOECHST34580(蛍光スペクトルのピーク波長:500nm),全菌用シアニン系赤蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:670nm付近)があげられる。死菌を染色する色素の他の候補としては、PI(プロピディウムイオダイド,蛍光スペクトルのピーク波長:630nm),EB(エチジウムイオダイド、蛍光スペクトルのピーク波長:605nm)があげられる。ミトコンドリアを染色する色素の他の候補としては、例えばミトコンドリア用橙蛍光色素(蛍光スペクトルのピーク波長:576nm)がある。
【0046】
計測からの排除対象の蛍光の波長域を550nm以上680nm未満に、全菌(生菌と死菌)を染色する色素の波長域をそれ以外にまとめ、生菌かそれ以外かの判断に特化することで蛍光サイトメーターの解析回路を単純化することが可能になり、また排除対象の波長(550nm以上680nm未満)の光はまとめて1〜2個の検出器で検出しても問題がないため、製造コストを大きく低減することができる。
【0047】
図9は、食品由来の検体に全菌を染色する蛍光色素として、全菌用シアニン系青蛍光色素(青色の蛍光)とLDS751(近赤外の蛍光)、死菌のみを染色する蛍光色素として死菌用シアニン系橙蛍光色素(橙色の蛍光)、ミトコンドリアを染色する蛍光色素としてミトコンドリア用赤蛍光色素(赤色の蛍光)を使用したときの生菌,死菌,食品由来の物質(ミトコンドリア,葉緑体,色素体,でんぷん,グリコーゲン,セルロース),各色素粒子の蛍光の種類を示すものである。蛍光サイトメーターで食品由来の検体を測定する際、図9をもとに粒子を下記のように特定することができる。
(1)生菌は全菌を染色する蛍光色素のみ染色されるため、青色と近赤外の蛍光を発する。
(2)死菌は、死菌のみを染色する蛍光色素にも染色されるため、青色,橙,近赤外の蛍光を発する。
(3)葉緑体や色素体は内部にDNAを持っているが、その長さは150kbpと菌体のDNA(数Mbp)に比べ短いため、全菌を染色する蛍光色素に染色してもその蛍光は微弱なものになる。これらの物質は橙もしくは赤の自家蛍光を発するため、生菌と区別することが可能である。
(4)ミトコンドリアは動物細胞由来と植物細胞由来の二種類存在する。動物細胞のミトコンドリアのDNAの長さは10kbpと非常に短いが、植物細胞のミトコンドリアのDNAの長さは菌体に近い長さを持っているという報告もあることから、全菌を染色する蛍光色素に染色した場合、菌体に近い蛍光を発するミトコンドリアも存在する。しかしミトコンドリアはミトコンドリア用の蛍光色素に染色され、赤色の蛍光を発するため生菌との区別が可能になる。
(5)でんぷん,グリコーゲン,セルロースなどの物質は核酸を持っていないが、蛍光色素が非特異的に吸着することで各種蛍光色素の蛍光を発する。
【0048】
以上より、生菌以外の物質は橙色もしくは赤色の蛍光を発するため、生菌との区別が可能になる。
(6)各蛍光色素の粒子は構成する蛍光色素の蛍光しか出さないため、一種類の蛍光しかを発しない。そのため、生菌との区別が可能になる。
【0049】
上述のように、本実施の形態によれば、検出対象の生菌の蛍光のみを選別して検出し、死菌,葉緑体,ミトコンドリアなどの排除対象の蛍光を選別せず検出することができるため、解析回路を簡素化することができる。
【0050】
(D)微生物検査装置の全体構成例
図10に、本発明の実施の形態に係る微生物検査装置1の構成図を示す。微生物検査装置1は、検体や試薬を内部に保持し、微生物計測に必要な工程を行うための機構を内部に備えた微生物検査チップ10と、微生物計測に必要な工程を行うために、微生物検査チップ10と連結したチップ連結管1441〜1443を介して微生物検査チップ10内に高圧気体を供給し、微生物検査チップ10内の検体や試薬の搬送を制御するための圧力供給装置14と、微生物検査チップ10を保持し、微生物検査チップ10の位置を調整するX−Y可動ステージ125と、微生物検査チップ10内の微生物に励起光を照射し、微生物からの散乱光及び蛍光を電気信号に変換する検出装置11で構成されている。微生物検査装置1に連結したシステム装置18は、圧力供給装置14に対する制御信号の出力と、検出装置11から入力される電気信号に対する信号処理を実行する。なお、電気信号の処理により得られた計測結果は、システム装置18に接続された出力装置19に表示される。
【0051】
圧力供給装置14は、圧力調節装置付のボンベ141を有する。ボンベ141には高圧の空気,不活性気体等が封入されている。ボンベ141と微生物検査チップ10の各通気口1591〜1593(図13を参照)は、チップ連結管1441〜1443によって接続されている。チップ連結管1441〜1443には、バルブ1421〜1423がそれぞれ設けられている。バルブ1421〜1423を開閉することにより、微生物検査チップ10の容器に所定の圧力の気体を供給し、又は、微生物検査チップ10の容器を大気開放する。この圧力の制御により、微生物検査チップ10内における検体や試薬の搬送を実現する。このような微生物検査装置は、本発明者等が先に出願した特開2008−157829号公報や特開2009−178078号公報などにも詳しく説明されている。
【0052】
微生物検査チップ10は、図10及び図13に示すように、検体1511を保持するための検体容器151と、検体中の微生物の染色するための染色液(試薬液)1521を保持し、検体と染色液を混合、反応させる微生物染色液容器(反応容器)152と、励起光源111からの励起光113が照射され、微生物を観測するための微生物検出用流路173を内部に備えた微生物検出部17と、微生物検出用流路173を通過した検体1511と染色液1521の混合液を廃棄するための検出液廃棄容器156と、検体容器151,微生物染色液容器152,微生物検出用流路173を連結し、検体1511や混合液が流動するための溶液用流路1571〜1573(図13)と、圧力供給装置14から検体1511や混合液を流動させるための高圧気体が供給される通気口1591〜1592(図13)と各容器を接続する通気用流路1581〜1582(図13)とで構成されている。この明細書においては、検体液の流れに沿って検体容器151の側を上流側、微生物検出用流路173の側を下流側と定義する。
【0053】
また、検体液と蛍光色素を混合する前後または同時にグリセリンを検体液に追加する工程を設ける場合には、例えば、微生物染色液容器152の下流に、グリセリンを保持する容器を設ける(図示省略)。
【0054】
検出装置11の概要を図10に基づき説明する。検出装置11は、励起光源111と、散乱光検出部と、蛍光検出部とで構成される。このうち、散乱光検出部は、微生物検出用流路173を通過する微生物からの散乱光124を検出するための散乱光検出器123と、励起光源111からの励起光113が散乱光検出器123に直接入射することを防ぐための遮光板122とから構成される。一方、蛍光検出部は、微生物検出用流路173を通過する微生物からの蛍光121を集光し、平行光にする対物レンズ114と、励起光113を微生物検出部17の方向に反射する一方で蛍光121は透過するダイクロイックミラー112と、蛍光121を通過するバンドパスフィルタ117と、平行光を集光させるための集光レンズ118と、迷光をカットするための空間フィルタとして用いるピンホール119と、バンドパスフィルタ117を通過した光を検出する光検出器120とで構成される。なお、照射部及び検出部は、互いの焦点が重なるように配置され、測定時には微生物検出用流路173を焦点の位置に調整できるように構成されている。
【0055】
検出装置11は、励起光源111から出力された励起光113を微生物検出用流路173に照射し、微生物検出用流路173から生じる散乱光の光量と微生物検出部17から生じる蛍光の光量をそれぞれ検出することにより、X−Y可動ステージ125の可動位置と各光量との関係をプロファイルとして取得する。また、検出装置11は、取得されたプロファイルに基づいてX−Y可動ステージ125を可動制御し、微生物検査チップ10(具体的には、微生物検出用流路173)を検出に適した位置に合わせる。
【0056】
(E)微生物検査チップの構造例
図11(A)及び図11(B)を用い、微生物検査チップ10のうち微生物検査部17の構造を説明する。図11(A)は、微生物検査チップ10の本体15と微生物検出部17の接合部の断面図を示す。なお、本体15と微生物検出部17はそれぞれ別工程で作製されている。図11(B)は、微生物検出部17の分解斜視図を示す。
【0057】
まず、微生物検出部17の製造方法を説明する。微生物検出部17はカバー部材171と流路部材172からなり、両者は共に薄い平板からなる。流路部材172には溝1731が形成されており、この溝1731の両端には貫通孔1741,1751が形成されている。溝1731が形成された面が張り合わせ面となるように、カバー部材171と流路部材172を張り合わせる。この貼り合わせにより微生物検出部17が形成される。流路部材172の溝1731とカバー部材171によって微生物検出用流路173が構成される。流路部材172の貫通孔1741,1751によって、微生物検出用流路入口174と微生物検出用流路出口175が構成される。
【0058】
一方、本体15に形成された微生物染色液容器−微生物検出用流路間の溶液用流路1572は、その下端にて流路方向を変更し、本体15の表面に開口を形成している。同様に、微生物検出用流路−検出液廃棄容器間の溶液用流路1573は、その上端にて流路方向を変更し、本体15の表面に開口を形成している。溶液用流路1572の開口は、微生物検出用流路入口174に接続され、溶液用流路1573の開口は、微生物検出用流路出口175に接続されている。
【0059】
本体15には検出用窓枠部161が形成されている。検出用窓枠部161は、貫通孔、又は、貫通溝である。検出用窓枠部161は、溶液用流路1572の開口と溶液用流路1573の開口の間に形成されている。作製された微生物検出部17は、前述したように、本体15に接合され装着される。図11(A)に示すように、本体15の検出用窓枠部161の上に微生物検出用流路173が配置されるように、微生物検出部17を装着する。
【0060】
本実施の形態の場合、微生物検出用流路173の背後に、本体15の貫通孔又は貫通溝である検出用窓枠部161が設けられる。従って、励起光113は、微生物検出部17のみを照射し、本体15を照射しない。このため、背景光の増加の原因となる本体15からの反射光や自家蛍光は発生しない。微生物検出用流路173を通過した励起光113が、本体15に照射されないためには、検出用窓枠部161を構成する貫通孔の断面は、励起光113の放射方向に沿って増加することが好ましい。
【0061】
カバー部材171の厚さは、例えば0.01μm〜1mmとする。流路部材172の厚さは、例えば0.01μm〜1mmとする。微生物検出用流路173の断面形状は、例えば正方形,長方形,台形に形成する。微生物検出用流路173の断面寸法は、大きいほど圧力損失は小さくなるが、微生物を一個ずつ流すためには小さいほうが良い。微生物検出用流路173の断面の一辺は、例えば1μm〜1mmが好ましく、長さは例えば0.01mm〜10mmが好ましい。微生物検出用流路173に照射する励起光113の光軸は、微生物検出用流路173の方向ベクトルに対して垂直になる。
【0062】
また、微生物検査チップ10は、ディスポーザブルタイプであるので安価な材料で構成され、また、蛍光計測に好適なように、自家蛍光が低く、光透過性,面精度,屈折率などに優れている材料で構成されている。例えば、カバー部材171はガラス又は石英などによって構成し、流路部材172は微細加工を考慮して、ポリメタクリル酸メチルエステル,ポリジメチルシロキサン,シクロオレフィンポリマー,ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネイトなどによって構成する。流路部材172をポリジメチルシロキサンによって構成した場合、カバー部材171と流路部材172の接合は、ポリジメチルシロキサンの自己接着性を利用する。また、カバー部材171及び流路部材172を、シクロオレフィンポリマー,ポリメタクリル酸メチルエステル,ポリエチレンテレフタラート、又は、ポリカーボネイトによって製造してもよい。この場合、ガラス、又は、石英によってカバー部材171を製造し、ポリジメチルシロキサンによって流路部材172を製造する場合より、単位体積あたりの自家蛍光量が約3倍以上増加するため、カバー部材171及び流路部材172の厚さは0.01mm以上0.3mm以下が好ましい。また、本体15は、内部に複雑な構造を有するので、微細加工が容易で、且つ、加工費が安価な材料によって形成され、処理前の検体や染色液を内部に保持するので、耐薬品性の材料によって形成される。例えば、本体15は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネイト,ポリスチレン,アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂,ポリメタクリル酸メチルエステル等で構成される。また、流路部材172は、本体15と同一の材料によって形成するのが好ましい。
【0063】
(F)生菌数計測の工程例
以下、本実施の形態に係る微生物検査装置1を用いて、食品由来の検体中の生菌数を計測する場合の実施例を説明する。図12に、微生物検査チップ10を用いた生菌数計測の工程をフローチャートで示す。
【0064】
最初に微生物検査チップ10の構成を、図13を用いて改めて説明する。微生物検査チップ10は、検体1511を保持するための検体容器151と、検体中の微生物の染色するための染色液(試薬液)1521を保持するための微生物染色液容器152と、検体中に含まれる食品残渣を取り除くためのフィルタである食品残渣除去部160と、外部光源からの励起光を照射して発生する微生物の蛍光を観測するための微生物検出用流路173と、微生物検出用流路173を通過した検体1511と微生物染色液1521の混合液を廃棄するための検出液廃棄容器156と、検体容器151,食品残渣除去部160,微生物染色液容器152,微生物検出用流路173を連結し、検体1511や混合液を流動させるための溶液用流路1571〜1573と、各容器内の検体1511や混合液を流動させるために高圧気体が供給されたり大気開放される通気口1591〜1593と、通気口1591〜1593と各容器を接続する通気用流路1581〜1583とを備える。
【0065】
溶液用流路1571〜1573,通気口1591〜1593及び通気用流路1581〜1583は、以下の説明では、纏めて表記する場合を除いて、連結する容器の名称から、検体容器−微生物染色液容器間流路1571,微生物染色液容器−微生物検出用流路間流路1572,微生物検出用流路−検出液廃棄容器間流路1573,検体容器通気口1591,微生物染色液容器通気口1592,検出液廃棄容器通気口1593,検体容器通気流路1581,微生物染色液容器通気流路1582,検出液廃棄容器通気流路1583とする。
【0066】
検体容器1511と、食品残渣除去部160と、微生物染色液容器152と、微生物検出用流路173と、検出液廃棄容器156は、溶液用流路1571〜1573により直列に連結されている。
【0067】
図13の場合、溶液用流路1571〜1573の深さ及び流路幅は例えば10μm〜1mm、通気用流路1581〜1583の深さ及び流路幅は例えば10μm〜1mmの範囲で形成され、溶液用流路1571〜1573の断面積は通気用流路1581〜1583の断面積より大きくなるように形成されている。
【0068】
微生物染色液1521は、微生物検査チップ10内に前もって封入されている。検体1511は、検査前に通気口1591から検体容器151に注入する(S901)。
【0069】
検体容器151の体積は、検体1511の体積より大きい。微生物染色液保持容器152の体積は、検体1511と微生物染色液1521の合計体積より大きい。また、検体容器−微生物染色液容器間流路1571の最高点は、検体容器151中の検体1511の水位より高くなるように形成されている。これと同様に、微生物染色液容器−微生物検出用流路間流路1572の最高点は、検体1511と微生物染色色素1521の混合液の水位より高くなるように形成されている。
【0070】
ここで使用した検体1511は、検査する食品に対し質量比10倍の生理食塩水を加え、ストマッキング処理を行った後、終濃度が10%になるようグリセリンを追加したものである。
【0071】
微生物染色液は、死菌を染色するための死菌染色液一種と全菌を染色するための全菌染色液二種とミトコンドリアを染色するためのミトコンドリア染色液の混合液であり、死菌染色液には、例えば、死菌用シアニン系橙蛍光色素(終濃度:0.01μM〜10μM)を使用し、全菌染色液には、全菌用シアニン系青蛍光色素(終濃度:0.01μM〜10μM)とLDS751(終濃度:0.1μg/ml〜1mg/ml)を使用し、ミトコンドリア染色液にはミトコンドリア用赤蛍光色素(終濃度:0.01μM〜10μM)を使用する。
【0072】
微生物検査チップ10を用いた生菌数測定は、図12に示すように、微生物検査チップ10を微生物検査装置(分析装置)1にセットした状態で開始される(S902)。この測定工程は、微生物検査チップ10の位置合わせを行う位置合わせ工程(S905)と、検体から食品残渣を取り除いて検体中の微生物を染色する前処理工程(S903〜S904)と、生菌数を実際に測定する計測工程(S906)とで構成される。
【0073】
位置合わせ工程(S905)と前処理工程(S903〜S904)は独立した工程であるため並列して行い、両工程が終了した段階で計測工程(S906)を行う。
【0074】
位置合わせ工程(S905)は、位置合わせとして一般的な手法である、標識となる蛍光微粒子を含む位置合わせ用試薬を微生物検出用流路173に流し、蛍光微粒子が発する蛍光を目印として行うようにしても良いし、本願出願人が先に出願した特願2009−109153号に記載の方法を用いるようにしても良い。前者の場合、微生物検査チップ10に位置合わせ用試薬を保持する容器が設けられる(図示省略)。後者の場合、励起光源111から出力された励起光113を微生物検出用流路173に照射し、微生物検出用流路173から生じる散乱光の光量と微生物検出部17から生じる蛍光の光量をそれぞれ検出することにより、X−Yステージ125の可動位置と各光量との関係をプロファイルとして取得する。また、検出装置11は、取得されたプロファイルに基づいてX−Y可動ステージ125を可動制御し、微生物検査チップ10(具体的には、微生物検出用流路173)を検出に適した位置に合わせる。具体的には、微生物検出用流路からの散乱光の強度変化でX方向の位置合わせを行い、微生物検出部から生じる蛍光の光量の強度変化でY方向の位置合わせを行う。先ず、X方向の位置合わせを行い、その後Y方向の位置合わせが行われる。X方向の位置合わせでは、検出装置11は、X方向の変位と検出される散乱光の光量のプロファイルをシステム装置18でストックし、散乱光の光量が最大となる位置に微生物検出用流路173の中心を移動する。Y方向の位置合わせでは、検査装置11は、Y方向の変位と検出される蛍光の光量のプロファイルをシステム装置18でストックし、蛍光の光量が最大となる位置に微生物検出用流路173の中心を移動する。このときの微生物検出用流路173の中心と励起光113の焦点の距離をAとすると、検査装置11は、微生物検出用流路173の中心と励起光113の焦点をより正確にあわせるためには距離Aだけ補正した位置に微生物検出用流路173を動かす。
【0075】
続いて、各工程における各液体の移動について説明する。前処理工程では、まず、検体1511を微生物染色液容器152に移動させる(S903)。この前処理工程では、通気口1591を介して検体容器151に対して圧力供給装置14からの圧力を加える。これにより、検体容器151内の気圧を上げる。同時に、微生物染色液容器通気口1592を介して微生物染色液容器152の内圧を大気圧に開放する。気圧差により、検体1511は、微生物染色液容器152に入り、微生物染色液1521と混合される。
【0076】
混合には、バブリングを使用する(S904)。バブリングは通気口1593に対して圧力供給装置14からの圧力を加え、検体容器151の気圧より低い範囲まで検出液廃液容器156の気圧を上げる。同時に通気口1591と通気口1592を介し、検体容器151と微生物染色液容器152を大気開放する。空気は検出液廃液容器156から微生物検出用流路173を経て微生物染色液容器152に流入する。空気は気泡となり、混合液の下から上まで上昇する際に、混合液を攪拌し混合を促進する。
【0077】
検体1511中の死菌は、死菌染色液(ここでは死菌用シアニン系橙蛍光色素(ピーク波長570nm)を使用する。)と全菌染色液(ここでは全菌用シアニン系青蛍光色素(ピーク波長450nm)とLDS751(ピーク波長710nm)を使用する。)により染色され、一方、検体1511中の生菌は全菌染色液のみにより染色される。
【0078】
二液の混合液の水位は、微生物染色液容器152と微生物検出用流路173連結する微生物染色液容器−微生物検出用流路間流路1572の最高点を越えず、さらに微生物染色液容器152中に入っている空気は、微生物染色液容器通気口1592を介して外部に放出される。微生物染色液容器152の気圧は大気圧と等しいため、二液の混合液は微生物検出用流路173に押し出されず、混合液を反応に必要な時間中、微生物染色液容器152に保持することができる。
【0079】
このとき、微生物検出用流路173への流入を防ぐ目的で、通気口1593に対して圧力供給装置14からの圧力を加え、検体容器151の気圧より低い範囲まで検出液廃液容器156の気圧を上げても良い。
【0080】
なお、染色中は、微生物検査チップ10の温度を一定に保つことにより、温度変化による染色の影響を小さくすることが望ましい。
【0081】
また、検体1511が食品残渣除去部160を経て、微生物染色液保持容器152へ流動する際に、検体1511中の食品残渣は、食品残渣除去部160により検体1511から取り除かれる。
【0082】
以上で、前処理工程が終了する。また、この前処理工程と並行して、微生物検査チップ10の位置合わせが実行される。
【0083】
以上の動作が終了すると、検体1511と微生物染色液1521の混合液を微生物検出用流路173に移動させ、検体中の生菌を計測する(S906)。この工程では、通気口1591を介して検体容器151に対して圧力供給装置14からの圧力を加える。これにより、検体容器151内の気圧を上げる。同時に、微生物染色液容器通気口1592を介して微生物染色液容器152の内圧を大気圧に開放する。気圧差により、検体1511は、微生物染色液容器152に入り、微生物染色液1521と混合される。通気口1592を介し、圧力供給装置14からの圧力を加え、微生物染色液容器152内の気圧をあげる。同時に通気口1593を介し、検出液廃棄容器156を大気開放する。その他の通気口1591は閉じる。気圧差により、混合液は、微生物染色液容器152から微生物検出用流路173を経由し検出液廃棄容器156まで流動する。
【0084】
混合液中の菌体は、微生物検出用流路173を通過するときに計測される。微生物検出用流路173における菌体の計測は、蛍光フローサイトメトリー法を用いて行われる。図13の場合、紙面垂直方向より、励起光113が照射される。このため、微生物からは微生物を染色した色素からの蛍光と、微生物による散乱光が生じ、葉緑体や色素体など食品由来の粒子からは、食品由来の粒子に吸着した色素からの蛍光や食品由来の物質がもつ自家蛍光と、粒子からの散乱光が生じる。蛍光の詳細は図8に示したとおりであり、これにより生菌,死菌,食品由来の物質の判別が可能になる。また、散乱光の光量は菌体や粒子の大きさにより変わるため、菌体や粒子の大きさの判別も可能になる。
【0085】
(G)検出装置の構成例
次に、微生物検査装置1を構成する検出装置11の構成例を、図14を参照しながら説明する。本実施の形態の検出装置11は、食品由来の検体中の生菌数を計測するのに好適である。すなわち、検出装置11を用いれば、生菌数と死菌数を判別することができる。検出装置の光学系は、蛍光色素の励起スペクトルと蛍光スペクトルによって異なる場合もある。ここでは、死菌染色液として死菌用シアニン系橙蛍光色素(ピーク波長570nm)を使用し、全菌染色液として全菌用シアニン系青蛍光色素(ピーク波長450nm)とLDS751(ピーク波長720nm)、ミトコンドリア用染色液としてミトコンドリア用赤蛍光色素(ピーク波長640nm)を使用する場合について説明する。
【0086】
図14における検出装置11の光学系は、4種類の蛍光色素を使用する場合に好適なように構成されている。勿論、5種類以上の蛍光色素を使用する場合には、各色素に応じて光学系を用意する。
【0087】
検出装置11の励起光源111は、励起用青色光源1111(波長405nm),励起用緑色光源1112(波長532nm)及び励起用青色光源1111と励起用緑色光源1112を合成するため光源合成用ダイクロイックミラー1113を有する。また検査装置11は、散乱光を検出するために、微生物検出用流路173を通過する微生物からの散乱光124を検出するための散乱光検出器123と、励起光源111からの励起光113が散乱光検出器123に直接入射することを防ぐための遮光板122を有する。また、検査装置は、蛍光を検出するために、励起光113を反射し、微生物の蛍光を透過する励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112と、微生物検出用流路173を通過する微生物や食材由来の粒子からの蛍光を集光し、平行光にする対物レンズ114と、平行光を集光させるための集光レンズ1181と、迷光をカットするための空間フィルタとして用いるピンホール119と、再び平行光に戻すためのレンズ1182と、波長480nm以下の光を反射し、波長480nm以上の光を通過させる青蛍光分離用ダイクロイックミラー1151と、波長450nm近傍の波長の光のみ通過させる青蛍光用バンドパスフィルタ1171と、波長600nm以上の光を通過させる橙蛍光分離用ダイクロイックミラー1152と、波長570nm近傍の波長の光のみ通過させる橙蛍光用バンドパスフィルタ1172と、波長680nm以上の光を通過させる赤蛍光分離用ダイクロイックミラー1153と、波長640nm近傍の波長の光のみ通過させる赤蛍光用バンドパスフィルタ1171と、波長720nm近傍の波長の光のみ通過させる近赤外蛍光用バンドパスフィルタ1174、青蛍光用バンドパスフィルタ1171を通過した蛍光を検出する青蛍光用光検出器1201と、橙蛍光用バンドパスフィルタ1172を通過した蛍光を検出する橙蛍光用光検出器1202と、赤蛍光用バンドパスフィルタ1173を通過した蛍光を検出する赤蛍光用光検出器1203と、近赤外蛍光用バンドパスフィルタ1174を通過した蛍光を検出する近赤外蛍光用光検出器1204を有する。
【0088】
なお、励起用青色光源1111と励起用緑色光源1112にはレーザー光源を使用し、散乱光用光検出器にはフォトダイオードを使用し、青蛍光用光検出器1201,橙蛍光用光検出器1202,赤蛍光用光検出器1203,近赤外蛍光用光検出器1204にはフォトマルチプライヤ(PMT:Photomultiplier)を使用している。上述したように、微生物検査チップ10の微生物検出用流路173の位置合わせは完了している。すなわち、対物レンズ114の焦点の位置に、微生物検査チップ10の微生物検出用流路173が配置されている。
【0089】
励起用青色光源1111と励起用緑色光源1112から出力された励起光(波長405nm,波長532nm)は、励起光−蛍光分離用ダイクロイックミラー112で反射されて進行方向を変更し、微生物検出用流路173を照射する。この照射により微生物検出用流路173を流れる微生物を染色した死菌用シアニン系橙蛍光色素,全菌用シアニン系青蛍光色素,LDS751,ミトコンドリアを染色したミトコンドリア用赤蛍光色素,葉緑体,色素体は励起される。死菌用シアニン系橙蛍光色素からの蛍光(ピーク波長570nm)と全菌用シアニン系青蛍光色素(ピーク波長450nm),LDS751からの蛍光(ピーク波長720nm),ミトコンドリア用赤蛍光色素(ピーク波長640nm)と、葉緑体や色素体の自家蛍光(560nm〜700nmの範囲)は、いずれも対物レンズ114に入射する。
【0090】
全菌用シアニン系青蛍光色素からの蛍光は青蛍光分離用ダイクロイックミラー1151で反射され、青蛍光用バンドパスフィルタ1171を通過後、青蛍光用光検出器1201に入射する。死菌用シアニン系橙蛍光色素からの蛍光と色素体の自家蛍光の一部は橙蛍光分離用ダイクロイックミラー1152で反射され、橙蛍光用バンドパスフィルタ1172を通過後、橙蛍光用光検出器1202に入射する。ミトコンドリア用赤蛍光色素からの蛍光,葉緑体の自家蛍光,色素体の自家蛍光の一部は赤蛍光分離用ダイクロイックミラー1153で反射され、赤蛍光用バンドパスフィルタ1173を通過後、赤蛍光用光検出器1203に入射する。全菌染色液LDS751からの蛍光は赤蛍光分離用ダイクロイックミラー1153、近赤外蛍光用バンドパスフィルタ1174を通過後、近赤外蛍光用光検出器1204に入射する。こうして、4つの色素由来の蛍光は波長の違いにより分離できる。
【0091】
また、励起用青色光源1111と励起用緑色光源1112から出力された励起光が微生物検出用流路173を流れる微生物に当たることにより散乱光124が生じる。散乱光の光量は微粒子の大きさによって変わるため、微粒子の大きさを計測することができる。微粒子の大きさについて測定情報が得られれば、微生物と食品残渣等のゴミとを判別の精度がさらに向上する。
【0092】
青蛍光用光検出器1201と橙蛍光用光検出器1202,赤蛍光用光検出器1203,近赤外蛍光用光検出器1204で検出された蛍光と、散乱光用光検出器123で検出された散乱光はそれぞれ電気信号に変換された後、システム装置18(図10)に送られる。システム装置18は、短波長用光検出器である青蛍光用光検出器1201,長波長用光検出器である橙蛍光用光検出器1202及び散乱光用光検出器123から送られた電気信号を処理し、微生物数の情報を検査結果として出力装置19(図10)に出力する。
【0093】
ところで、微生物検出部17の表面では、励起用青色光源1111と励起用緑色光源1112からの励起光113の一部が反射し、検出装置11に戻る可能性がある。この反射を防止するためには、微生物検出部17の法線ベクトルと励起光113の光軸は平行でないことが好ましい。すなわち、微生物検出部17の法線ベクトルと励起光113の光軸の間の角度αは、α=10〜20°であることが好ましい。図14では、このような取り付け例を表している。
【0094】
図14では、微生物検出部17の表面と励起光113の光軸の成す角をθとして表している。θ+α=90°である。θは90度未満であるが、励起光113が、微生物検出部17の表面で全反射しないように設定する。θは80〜70°であっても良い。なお、微生物検出部17の法線ベクトルと励起光113の光軸が平行とならないように、微生物検出部17を傾斜させるが、励起光は微生物検出用流路173に対して垂直方向より照射する。
【符号の説明】
【0095】
1 微生物検査装置
10 微生物検査チップ
11 検出装置
14 圧力供給装置
17 微生物検出部
18 システム装置
19 出力装置
111 励起光源
113 励起光
114 対物レンズ
119 ピンホール
121 蛍光
124 散乱光
125 X−Y可動ステージ
151 検体容器
152 微生物染色液容器
156 検出液廃棄容器
161 検出用窓部
173 微生物検出用流路
1171 青蛍光用バンドパスフィルタ
1172 橙蛍光用バンドパスフィルタ
1173 赤蛍光用バンドパスフィルタ
1174 近赤外蛍光用バンドパスフィルタ
1181,1182 集光レンズ
1201 青蛍光用光検出器
1202 橙蛍光用光検出器
1203 赤蛍光用光検出器
1204 近赤外蛍光用光検出器
1571〜1573 溶液用流路
1581〜1583 通気用流路
1591〜1593 通気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素で細胞または微生物を染色し、前記細胞または微生物に特定の波長の光を照射し前記細胞または微生物から発せられる蛍光によって前記細胞または微生物を検出する細胞または微生物の検査方法において、
前記細胞または微生物を含む検体液と前記蛍光色素を混合する前後または同時にグリセリンを前記検体液に追加するようにした細胞または微生物の検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の細胞または微生物の検査方法において、前記検体液とグリセリンの混合時のグリセリン濃度が1%〜30%であることを特徴とする細胞または微生物の検査方法。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞または微生物の検査方法において、前記蛍光色素として、蛍光スペクトルの異なる複数の蛍光色素を使用することを特徴とする細胞または微生物の検出方法。
【請求項4】
微生物を含む検体液を保持する検体容器と、前記微生物を染色する蛍光色素を保持すると共に前記検体液と前記蛍光色素とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出するための微生物検出部とを有する微生物検査チップと、
前記微生物検査チップと連結され、前記検体液,前記蛍光色素とを前記微生物検査チップ内に搬送する圧力供給装置と、
前記微生物検査チップを保持すると共に、前記微生物検査チップを移動させるステージと、
前記微生物検出部に励起光を照射する光源と、前記微生物検出部の検出用流路を流れる微生物からの蛍光を検出して電気信号に変換する検出器と、
前記微生物を含む検体液と前記蛍光色素を混合する前後または同時にグリセリンを前記検体液に追加する手段を有することを特徴とする微生物の検査装置。
【請求項5】
膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素で細胞または微生物を染色し、前記細胞または微生物に特定の波長の光を照射し前記細胞または微生物から発せられる蛍光によって前記細胞または微生物を検出する細胞または微生物の検査方法において、
前記蛍光色素として、蛍光スペクトルの異なる二種類以上の蛍光色素を使用することを特徴とする細胞または微生物の検査方法。
【請求項6】
請求項5記載の細胞または微生物の検査方法において、蛍光スペクトルのピークが50nm以上離れている複数の蛍光色素を用いることを特徴とする細胞または微生物の検査方法。
【請求項7】
微生物を含む検体液を保持する検体容器と、前記微生物を染色する蛍光色素を保持すると共に前記検体液と前記蛍光色素とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出するための微生物検出部とを有する微生物検査チップと、
前記微生物検査チップと連結され、前記検体液,前記蛍光色素とを前記微生物検査チップ内に搬送する圧力供給装置と、
前記微生物検査チップを保持すると共に、前記微生物検査チップを移動させるステージと、
前記微生物検出部に励起光を照射する光源と、前記微生物検出部の検出用流路を流れる微生物からの蛍光を検出して電気信号に変換する検出器とを有し、
前記蛍光色素として、蛍光スペクトルのピークが50nm以上離れた、膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する2種類以上の蛍光色素を用いるようにしたことを特徴とする微生物の検査装置。
【請求項8】
膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素を用いて染色した検出目的の細胞または微生物に特定の波長の光を照射し、前記細胞または微生物から発せられる蛍光によって前記目的の細胞または微生物を検出する細胞または微生物の検査方法において、
前記細胞または微生物を含む検体液と前記蛍光色素を混合・静置後、撹拌を行わずに前記細胞または微生物を検出することを特徴とする細胞または微生物の検査方法。
【請求項9】
請求項8記載の細胞または微生物の検査方法において、前記細胞または微生物を含む検体液と前記蛍光色素を混合し、30〜120分静置したのち、撹拌を行わずに前記細胞または微生物を検出することを特徴とする細胞または微生物の検査方法。
【請求項10】
膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と、膜不透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素と、動物細胞または植物細胞由来の物質を染色する蛍光色素を用い、食品をホモジナイズした液中の菌体を検出する微生物の検査方法において、
膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素の蛍光スペクトルのピークは550nm未満または680nm以上の範囲内にあり、膜不透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素の蛍光スペクトルのピークは550nm以上680nm未満の範囲内にあり、動物細胞または植物細胞由来の物質を染色する蛍光色素の蛍光スペクトルのピークは550nm以上680nm未満の範囲内にあることを特徴とする微生物の検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の微生物の検査方法において、前記膜透過性でかつ核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素として、蛍光スペクトルが異なる複数の蛍光色素を使用することを特徴とする微生物の検査方法。
【請求項12】
微生物を含む検体液を保持する検体容器と、前記微生物を染色する蛍光色素を保持すると共に前記検体液と前記蛍光色素とを反応させる反応容器と、前記微生物を検出するための微生物検出部とを有する微生物検査チップと、
前記微生物検査チップと連結され、前記検体液,前記蛍光色素とを前記微生物検査チップ内に搬送する圧力供給装置と、
前記微生物検査チップを保持すると共に、前記微生物検査チップを移動させるステージと、
前記微生物検出部に励起光を照射する光源と、前記微生物検出部の検出用流路を流れる微生物からの蛍光を検出して電気信号に変換する検出器とを有し、
前記蛍光色素として、蛍光スペクトルのピークが550nm未満または680nm以上の範囲内にある膜透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する二種類以上の蛍光色素と、蛍光スペクトルのピークが550nm以上680nm未満の範囲内にある膜不透過性で核酸結合により蛍光量が増幅する蛍光色素を用いるようにしたことを特徴とする微生物の検査装置。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(A)】
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【図8(B)】
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【図9】
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【図10】
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【図11(A)】
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【図11(B)】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−92104(P2011−92104A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249647(P2009−249647)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)
【Fターム(参考)】