微生物の処理方法
【課題】微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理における従来の欠点を解決することができる微生物の処理方法を提供する。
【解決手段】微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、目的処理工程を行う前に、微生物の試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行う。
【解決手段】微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、目的処理工程を行う前に、微生物の試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の処理方法に係り、特に微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う前の前処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物に関する処理の中には、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理があり、従来は以下のように行われていた。
【0003】
〈微生物数のカウント処理〉
微生物数をカウント処理する場合には、計数板を用いて微生物試料液を観測することが一般的に行われている(非特許文献1)。しかし、この方法は、微生物が一つ一つばらばらになっている状態であれば問題ないが、微生物が凝集している場合には、微生物が重なり合うことによって、容易には数をカウントできないことが多い。また、凝集していることにより複数の微生物から構成された試料液の場合には個別の種ごとに微生物数をカウントすることもできなかった。
【0004】
そこで、試料液を超音波処理することによって、微生物の凝集体をばらばらにする方法が採用されている(例えば特許文献1)。しかし、この方法は、核酸を切断する際に、超音波処理を行うことでもわかるとおり、超音波条件によっては、微生物の細胞壁を傷つけてしまったりする等により、微生物そのものを死滅してしまう問題点があった。また、微生物の種類によって細胞壁の固さが異なり、微生物の種類に合わせて細胞壁を傷つけないための超音波条件を見つけることは、作業者にとって極めて煩雑で非能率である。
【0005】
別の微生物数のカウント方法として、微生物の濁度から微生物濃度を測定することも可能であるが、予め微生物数と濁度との関係を求めておく必要がある。したがって、この場合にも、微生物数をカウントすることが必要であることから、凝集した微生物を忍耐強くカウントするしか方法はなかった。さらに、凝集した微生物を濁度で計数する場合には、光の乱反射が起こりやすく、積分球のような特殊な装置が必要であった。
【0006】
また、微生物、特に、クロロフィルを持つ光合成微生物の場合、クロロフィルの定量から微生物数を測定することも行われてきた。しかし、この方法でも、予めクロロフィル量と微生物数の数との相関を予め求めておく必要性があり、その困難さは、前記と同様である。また、微生物中のクロロフィル量は、微生物の培養条件や、微生物の増殖ステージによって異なることがあり、そのたびに、クロロフィル量と微生物数との相関を求める必要性があり煩雑であった。
【0007】
更に別の微生物数のカウント方法として、フローサイトメトリーを用いる方法もあるが、この装置の場合、1つの微生物の大きさとほぼ同程度の直径を持つ細管内を通過させる必要性があることや、いくつかの微生物が集合した集合物が細管を通過した場合、微生物数は1つとして認識してしまう点から、微生物の集合物に対して使用することは困難であった。
【0008】
〈微生物の増殖処理〉
大腸菌などの原核生物は、数十分で1回分裂することから非常に増殖速度が速いが、真核生物、例えば、藻類などは、一回分裂する時間が非常に長い。例えば、バイオマス燃料として注目されているオイルを蓄積する藻類の1種で地球温暖化を解決する有力な微生物と考えられているBotryococcus Brauniiは、1回の分裂に要する日数が数日から数週間と非常に増殖速度が遅いことで知られている。このことが原因のひとつとなって、Botryococcus Brauniiを用いたオイル生産は、商業レベルの生産に至っていないのが実情である。
【0009】
従来は、微生物の培養条件を工夫することで、その増殖速度を向上させることが検討され、増殖速度を向上させる方法が種々報告されてきたが、現状での増殖速度は満足できるものではない。
【0010】
〈微生物の純菌化処理〉
従来の微生物を純菌化する方法は、採取してきた微生物を含む溶液を希釈し、寒天培地上に塗布することによって行われてきた。しかし、一般的には、一回の純菌化工程で、単菌が得られることは稀であり、通常は数回の純菌化工程を繰り返すことによって、単菌を得ている。凝集体を形成する微生物や一般的に複数の微生物から構成されているバイオフィルム中の微生物などは、希釈する程度では数種類の微生物が混合された状態で純菌化を行うことになる。これにより、純菌化工程の繰り返し回数も極めて多くなってしまい、結果的に純菌化が非常に難しくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】藻類研究法、西澤一俊、千原光雄編、共立出版、1979年、p275
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−298869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、従来の微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理にはそれぞれ欠点があり、いずれも満足できるものではなかった。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理における従来の欠点を解決することができる微生物の処理方法を提供することを目的とする。
【0015】
即ち、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントする処理方法を提供することにある。
【0016】
また、微生物の増殖処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる処理方法を提供することにある。
【0017】
また、微生物の純菌化処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化工程の繰り返し数を従来よりも顕著に低減でき、純菌化時間を大幅に短縮できる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、前記目的処理工程を行う前に、前記微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行うことを特徴とする微生物の処理方法を提供する。
【0019】
本発明の微生物の処理方法によれば、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の前処理工程として、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させるようにした。
【0020】
本発明では、従来の超音波振動のように微生物自体に直接振動を当てるのではなく、密閉容器を高速振幅運動させて微生物の凝集体の塊を試料液中に分散させることで、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができる。
【0021】
かかる凝集体の分散効率の観点から、密閉容器に充填する試料液の所定量は、密閉容器の内容積に対する試料液の容積比率が15〜75容積%の範囲であることが好ましい。
【0022】
これは、微生物を含む試料液を密閉容器に充填したときに、密閉容器内に一定以上の容積のヘッドスペースを形成しないと、密閉容器を高速振幅運動したときに微生物凝集体(以下単に、凝集体という場合もある)の分散効率が顕著に低下するためである。また、密閉容器内の試料液が少な過ぎると、高速振幅運動したときに微生物凝集体の分散効率が顕著に低下するためである。これは、試料液の重量が軽過ぎて高速振幅運動時における密閉容器内壁への衝突力が小さいため、凝集体を分散させるに足るエネルギーを十分に発揮できないためと推察される。
【0023】
また、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができる高速振幅運動としては、密閉容器を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることが好ましい。この振幅数と振幅時間との組み合わせであれば、各種の微生物について、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるからである。
【0024】
これにより、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0025】
また、微生物の増殖処理では、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、個々の微生物が栄養源等の増殖に必要な要素に接触し易くなり、要素を十分に取り込むことができる。これにより、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0026】
また、微生物の純菌化処理では、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化する微生物を雑菌と区別させた状態で取り出し易くなる。これにより、純菌化工程の繰り返し回数を従来よりも顕著に低減できるので、純菌化時間(工程数)を大幅に短縮できる。
【0027】
これらの場合、凝集体の分散効果が所望程度まで達しない場合に、微生物の破砕を抑制可能な範囲で樹脂粒子等のビーズを密閉容器内に充填することは可能であるが、基本的にはビーズは充填せずに振幅数と振幅時間との組み合わせで調整することが良い。
【0028】
本発明の微生物の処理方法においては、前記密閉容器の振幅形態は、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であることが好ましい。この場合、上下方向、左右方向、前後方向の2形態以上を組み合わせた高速振幅運動が一層好ましい。
【0029】
本発明の微生物の処理方法においては、前処理工程では、前記試料液が充填された密閉容器内に消泡剤を添加することが好ましい。
【0030】
試料液中の微生物が高濃度の場合や、種々の代謝物を菌体外に放出する微生物の場合には、前処理工程によって密閉容器内に気泡が発生し、この気泡により微生物凝集体の分散効率が低下するからである。
【0031】
本発明の微生物の処理方法においては、前記前処理工程を複数回に分けて行うことが好ましい。これは、前処理工程の高速振幅運動により、試料液が温度上昇して微生物が死滅する等の好ましくない結果になることを防止するためである。特に、熱に弱い微生物の前処理工程では重要になる。
【0032】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物は凝集性を有する微生物であることが好ましい。
【0033】
これは、凝集性を有する微生物の処理において、本発明が一層有効だからであり、例えば凝集性を有する微生物として付着性微生物を挙げることができる。
【0034】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物は複数種の微生物から構成された集合体も使用可能である。
【0035】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物がバイオマスを産生する微生物であることが好ましい。
【0036】
本発明の微生物の処理方法は、バイオマスを産生する微生物、例えばオイルを含有するBotryococcus属を利用したバイオマス燃料等の工業化のための技術として極めて有効だからである。
【0037】
本発明の微生物の処理方法においては、前記目的処理工程が前記微生物の増殖処理の場合には、前記前処理工程と前記目的処理工程とを複数回繰り返すことが好ましい。
【0038】
これは、増殖処理工程で微生物が再び凝集する傾向にあるため、前処理工程と増殖処理工程とを繰り返すことにより、増殖速度を一層向上できるからである。
【発明の効果】
【0039】
本発明の微生物の処理方法によれば、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の従来の欠点を解決することができる。
【0040】
即ち、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0041】
また、微生物の増殖処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0042】
また、微生物の純菌化処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化工程の繰り返し数を従来よりも顕著に低減でき、純菌化時間(工程数)を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の微生物の処理方法で使用する前処理装置の一例を示した外観図
【図2】図1の前処理装置の容器ホルダーと駆動部とを示した斜視図
【図3】前処理装置に使用する密閉容器に微生物を充填する様子を示した斜視図
【図4】前処理工程における密閉容器の各種の振幅形態を示した説明図
【図5】実施例Aにおいて前処理工程を行う前の微細藻類の顕微鏡写真図
【図6】実施例Aにおいて前処理工程を行った後の微細藻類の顕微鏡写真図
【図7】実施例Aにおいて従来の超音波照射を行った後の微細藻類の顕微鏡写真図
【図8】実施例Aにおいて従来の超音波照射を行った後の微細藻類の細胞破壊を示す顕微鏡写真図
【図9】実施例Aにおいて密閉容器に微生物と一緒にビーズを入れて高速振幅運動させた後の微細藻類の細胞破壊を示す顕微鏡写真図
【図10】実施例Bにおいて密閉容器の内容積に対する試料液の容積比率と微生物凝集体の分散効果との関係を説明する説明図
【図11】実施例Cにおいて前処理工程を行う前のBotryocuccosの顕微鏡写真図
【図12】実施例Cにおいて前処理工程における密閉容器の振動数と分散効果との関係を説明する説明図
【図13】実施例Cにおいて前処理工程での密閉容器の振幅数×振幅時間と分散効果との関係を説明する説明図
【図14】実施例Dにおいて前処理工程の有り無しが微細藻類の増殖に及ぼす影響を説明する説明図
【図15】実施例Eにおいて前処理工程における密閉容器の振幅数×振幅時間と微細藻類の増殖効果との関係を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の微生物の処理方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0045】
本発明は、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う目的処理工程と、該目的処理工程を行う前に、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程と、で構成される。
【0046】
[微生物]
本発明で言うところの微生物とは、人の肉眼では、その個々の存在が識別できないような微小な生物を指し、原核生物、真核生物のいずれで良い。原核生物とは、細胞核を持たない生物のことを言い、真性細菌と古細菌の2つの生物を含めることができるものとする。真核生物としては、藻類、原生生物、菌類、粘菌やワムシなどの小型の動物をも含む。
【0047】
また、微生物の中でも、個々の微生物がお互いに集合することによって、人の肉眼でその集合体が識別可能になる場合もある。しかし、その様な場合でも、集合体構造を崩して個々の微生物にすることによって、人の肉眼では識別することができない場合は、本発明では微生物と定義する。また、個々の微生物の状態にはあるが、菌体数(例えば微細藻類の藻体数)が増加することによって、色の変化でその存在を知ることが可能となるものもある。しかし、そのような場合でも、個々の微生物を人の肉眼によって観察することはできないことから、本発明で言うところの微生物に含むものとする。
【0048】
本発明における藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上で生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものを言い、原核生物であるシアノバクテリアから、真核生物で単細胞生物、多細胞生物の海藻類など、異なるグループの総称を言う。
【0049】
本発明における微細藻類とは、本発明で定義した上記微生物の中から、本発明で定義した上記藻類を選択した生物群のことを言う。例えば、藍色植物門、灰色植物門、紅色植物門、緑色植物門、クリプト植物門、ハプト植物門、不等毛植物門、渦鞭毛植物門、ユーグレナ植物門、クロララクニオン植物門などから構成されている生物のことを言う。
【0050】
本発明で使用される微生物としては、バイオマスを産生する微生物であることが一層好ましい。ここでバイオマスとは、生物由来の資源のことを言い、化石資源を除いた、再生可能な生物由来の有機性資源のことであり、生物由来の物質、食料や資材、燃料、資源などのことを言う。バイオマスには、生物が産生する、多糖、オイル(炭化水素化合物、トリグリセリドなど)を含む。特に、バイオマスを産生する微生物としては、オイルを含有するBotryococcus属があり、本発明はBotryococcus属を利用したバイオマス燃料等の工業化のための技術として特に有効である。
【0051】
[前処理工程]
本発明における前処理工程とは、微生物が含まれている試料液を密閉容器内に入れ、高速振幅運動を行うことによって、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体をバラバラにして個々(単一)の微生物に分散させる工程を言う。
【0052】
図1〜図3は前処理工程を行う前処理装置の一例である。
【0053】
図1に示すように、前処理装置10は、装置本体12と蓋部材14とで構成される。図2に示すように、装置本体12の内部には、高速振幅運動を行う円板状の密閉容器ホルダー16が配置され、駆動軸18を介して振幅駆動部20に支持される。密閉容器ホルダー16の周縁部には、蓋22A付き密閉容器22(図3参照)を着脱自在に保持する複数のチャック部24が設けられる。
【0054】
図3に示すように、蓋12A付き密閉容器22は、試験管形状に形成され、微生物24及びその微生物を分散させるための分散液25(例えば純水や培養液)で構成される試料液26が充填された後、蓋22Aにより密閉できるように構成されている。
【0055】
また、図1に示すように、装置本体12の正面には、ON−OFFスイッチ28、密閉容器ホルダー16を介して密閉容器22を高速振幅運動する際の振幅数を設定する振幅数ダイヤル30及び振幅時間を設定するタイマーダイヤル32が設けられる。更には密閉容器22を高速振幅運動させる振幅方向の形態設定を行う切り換えスイッチ34等が設けられる。
【0056】
図4に示すように、密閉容器22を高速振幅運動させる振幅形態としては、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であるが、例えば図4(A)に示すように、上下方向と左右方向との組み合わせ、図4(B)に示すように、左右方向と前後方向との組み合わせを採用することが好ましい。また、上下しながら8の字を描くように密閉容器22が振幅する特殊な振幅形態を一層好適に採用することができる。
【0057】
このように、本発明における前処理工程は、従来のように超音波振動で微生物自体を振動させるのではなく、微生物が入った密閉容器22を高速振幅運動させて密閉容器22内の微生物の凝集体の塊を試料液中に分散させる。これにより、微生物の破砕を抑制しつつ微生物の凝集体を効果的に分散させることができる。
【0058】
本発明で言うところの微生物の破砕とは、微生物の外側の膜が破壊され、微生物内部の物質が微生物外に溶出してくる現象のことを言う。この様な破砕が発生すると、後記する微生物数のカウント処理において正確な数を数えることができなくなる。また、破砕により微生物の培養に悪影響が生じる等の不都合が起こる。
【0059】
しかし、本発明の前処理工程によっても微生物の破砕を完全に防ぐことは難しく、本発明において「破砕を抑制する」とは微生物の70%以上が少なくとも破砕されないことを言う。破砕の抑制レベルは80%以上であることが一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0060】
また、密閉容器内に分散液を入れることにより、分散液を入れない状態で密閉容器22を高速振幅運動させる場合に比べて、微生物の分散効率が向上するのみならず微生物の破砕を確実に抑制できる。また、分散液を密閉容器22に入れることで微生物の温度上昇による微生物の失活や死滅を防止できる。微生物が失活したり死滅したりすると、後記する目的処理工程において細胞数をカウントすることができなくなったり、以後の増殖処理に対して悪影響を及ぼす。
【0061】
前処理工程において微生物の破砕を抑制し且つ分散効率を向上するための密閉容器22の高速振幅運動の好ましい条件は、振幅数と振幅時間との組み合わせで決まる。振幅数と振幅時間との関係としては、振幅数が高目(例えば5000rpm)の場合には、短時間(例えば5秒)の振幅時間で十分な分散効率を得ることができる。このときの振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は10000になる。しかし、振幅数が低目(例えば3500rpm)の場合には、振幅時間を長め(例えば20秒以上)にすることが好ましい。このときの振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は70000になる。
【0062】
一方、振幅数が高過ぎる(例えば10000rpm超え)と、前処理装置10からの発熱が大きく、発熱による温度上昇は、耐熱性菌を除く一般的な微生物の活性にとっては好ましくない。また、振幅時間としては微生物の破砕を考慮すると5分(300秒)以内であることが好ましく、より好ましくは1分(60秒)以内である。そして、振幅数10000rpmで振幅時間が300秒での振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は3000000になる。
【0063】
これらのことから、高速振幅運動としては、密閉容器22を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることが好ましい。より好ましい振幅数(rpm)×振幅時間(秒)としては、後記する実施例の結果から70000〜330000の範囲である。この振幅数と振幅時間との組み合わせであれば、各種の微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるからである。
【0064】
また、密閉容器22の内容積に対する試料液26の容積比率が15〜75容積%になるように充填し、試料液26の上方にヘッドスペース36(図4参照)が形成されるようにすることが好ましい。これは、試料液26で密閉容器22を完全に満たした場合には、高速振幅運動による前処理において、凝集体の分散効率が大幅に低下するためである。より好ましい容積比率の範囲は20〜60容積%の範囲である。また、容積比率が小さ過ぎても分散効率が大幅に低下し、容積比率の下限は15容積%であることが好ましい。
【0065】
上述した前処理装置10の高速振幅運動を市販の装置で代用する場合には、株式会社トミー精工(東京都)のビーズ式細胞破砕装置、MS-100あるいはBioSpec Product社のビーズ式ホモジナイザーBSP-3110BXを使用することが可能である。
【0066】
しかし、これらの装置は、元々、微生物を破砕し、微生物から核酸を抽出したりするための装置であり、微生物と一緒に充填したビーズを微生物に衝突させることで細胞を破壊する。したがって、そのまま使用すると、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させる本発明における前処理工程を達成できない。その場合、密閉容器22に充填するビーズの粒径や添加量と、高速振幅運動の条件(振幅数、振幅時間)と、微生物の破砕状態と、を予備試験等により把握しておくことが必要である。したがって、本発明における前処理工程では、基本的にビーズは密閉容器22に充填しないで使用する。
【0067】
但し、微生物によっては凝集体の凝集力が強く、分散効果を十分に達成できない場合には、微生物の破砕を抑制可能な範囲で樹脂粒子等のビーズを密閉容器22内に充填することは可能である。しかし、前述の通り、基本的にはビーズは充填せずに高速振幅運動の振幅数と振幅時間とで調整することが良い。
【0068】
さらに、前処理工程を行う際に、1回の前処理工程を行うのではなく、複数回の前処理工程を行うことが好ましい。これは、前処理工程を複数回に分けることによって、密閉容器22中の試料液26の温度上昇を防ぐためである。温度上昇は、微生物を死滅させる等、好ましくない影響を与える。
【0069】
本発明では、前処理工程を行う際に、微生物の溶液に消泡剤を添加することが好ましい。これは、試料液26中の微生物が高濃度の場合や、種々の代謝物を菌体外に放出する微生物の場合には、前処理工程によって密閉容器22内に気泡が発生する場合がある。密閉容器22内に気泡が発生すると、微生物凝集体の分散効率が著しく低下する。この様な場合に、消泡剤を試料液26に添加してから前処理工程を行うことが好ましい。
【0070】
なお、前処理工程を微生物のカウント処理、増殖処理、純菌化処理の前処理として使用する際には、前処理工程で分散させた微生物を直ちに使用することが好ましい。これは、微生物が再凝集する可能性があるからである。もし、再凝集した場合には、上記した前処理装置10を使用して再分散させることができる。
【0071】
[目的処理工程(微生物数のカウント処理)]
微生物数のカウント処理とは、微生物の数を数えることを言う。カウントする方法は、特に、限定されず、前処理工程によって得られた試料液26を血球計数盤上で、顕微鏡を用いて数を数えることも可能であるし、フローサイトメーターを用いて微生物数を自動的に数えることも可能である。また、光学顕微鏡を用いて微生物を直接カウントする場合には、微生物を染色することで、より明瞭に微生物数をカウントすることができる。更に、明視野の光学顕微鏡の代わりに、偏光や微分緩衝顕微鏡を用いた方法も使用することもできる。即ち、本発明における前処理工程を行った試料液26は、微生物の形状を観察する手段を用いる限りにおいて、いかなる方法を用いてもかまわない。
【0072】
また、予め吸光度と微生物数との相関関係を求めておけば、吸光光度計を用いて、その吸光度から微生物数を算出することも可能である。また、予め濁度と細胞数との相関関係を求めておけば、濁度計を用いて、その濁度から細胞数を算出することも可能である。さらに、予め蛍光光度計によって、クロロフィルの蛍光量と細胞数との相関を求めておけば、クロロフィルの蛍光量から細胞数を算出することも可能である。
【0073】
吸光度、濁度、及びクロロフィルの蛍光量のいずれを利用して微生物のカウントを行う場合にも、予備試験を行って微生物との相関関係を予め求めておく必要があり、その予備試験に本発明における前処理工程を好適に使用することができる。
【0074】
また、本発明における前処理工程を行うことにより、微生物数のカウントに、画像認識ソフトウェアを使用することが可能となる。凝集した微生物に対して画像認識ソフトを用いた場合、各微生物の認識能力は人間の目と比較して極めて精度が悪い。したがって、従来は使用に耐えるものではないのが実情であった。
【0075】
しかし、本発明における前処理工程を行うことによって、凝集した微生物群を個別の微生物に分離することができることから、画像認識ソフトウェアの認識能力を最大限に生かすことができる。しかも、人間自身が手動で細胞数を数えるのではなく、自動で数えることができることから、実験者の負担を大幅に減らすことができるとともに、細胞の大きさの分布などの情報も同時に得ることが可能となる。
【0076】
本発明で言うところの凝集とは、複数個の微生物が集合した構造体のことをいい、その微生物の構造体は、複数の種類から構成されていても、単一の種類から構成されていてもよい。さらに、微生物同士が直接隣接していてもよいし、ある種の物質、例えば、細胞間マトリックスのような物質を介して凝集していてもよい。また、群体と言われているものも、本発明では、凝集のことを意味するものとする。
【0077】
したがって、従来の微生物数のカウント方法では、凝集した微生物の数を数えることは非常に困難であったが、本発明を用いることで、凝集した微生物がバラバラの状態、もしくは凝集物が小さくなっていることから、容易に微生物数をカウントすることができるようになった。例えば、藻体内外にオイルを蓄積することで知られているBotryococcus Brauniiは、凝集したコロニーを形成することで知られているが、従来は、クロロフィルに由来する吸収を用いる方法や重量測定が行われてきた。しかし、本発明では、前処理工程を行うだけで、容易にその数をカウントすることができる。また従来の凝集体の分散のように、超音波による微生物の分散を行った場合には、微生物中の核酸などの構造物への影響から、微生物が破裂するなどの悪影響があった。しかし、本発明における前処理工程ではそのようなことはない。
【0078】
したがって、微生物数のカウント処理を行う前に前処理工程を行えば、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0079】
[目的処理工程(微生物の増殖処理)]
本発明で言うところの微生物の増殖処理とは、微生物を培養する際に、ある一定時間が経過した時に培養液中に存在している微生物の単位培養液体積中の微生物の数のことを言う。培養開始からある一定時間が経過するまでの時間から増殖速度を算出することができるが、本発明による前処理工程の効果を、増殖速度の向上という表現で言い換えることも可能な場合がある。
【0080】
また、本発明における前処理工程を行った微生物を用いて増殖を行った場合、分散した微生物の増殖が進展するに伴って、再び凝集体を形成する様になる場合もある。そのような場合に、再び凝集体を前処理工程で処理して、再び増殖を行うことが好ましい。この前処理工程と増殖工程を何度繰り返してもかまわない。
【0081】
したがって、本発明における前処理工程を行うことによって、増殖工程での増殖速度を向上できるので、微生物の濃度を増加させることも可能となる。この前処理工程の効果は、凝集性の高い微生物ほど効果的である。即ち、微生物の凝集体のうち培地と接触している凝集体表面に存在する微生物は栄養分が豊富であり、光合成微生物の場合には、豊富に光量を得ることが可能である。さらに、増殖するための空間も存在することから、活発に増殖することができると考えられる。一方、凝集体内部に存在する微生物は、培地との間に多数の微生物が存在することから、栄養分の拡散性が悪い。もしくは、より培地に近い微生物によって栄養分を消費されることによって、栄養分を獲得する機会が少なくなり栄養分を得にくくなる。さらに、増殖を行えるだけの空間も少なく、光合成微生物の場合には、光も届きにくい。このため、凝集体内部の増殖は抑えられてしまうという問題がある。
【0082】
そこで、本発明における前処理工程を行うことによって、微生物の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、より小さな凝集体もしくは単体の微生物にすることができるので、前記の問題点を回避することができる。その結果、微生物の増殖速度を向上させることが可能となる。
【0083】
本発明における前処理工程を用いることによって、バイオマスを産生する微細藻類の培養液中での濃度を向上させることも可能である。バイオマスを産生する微細藻類、例えば、重油相当のオイルを微生物体内外に蓄積することで知られているBotryococcus Brauniiの場合には、その増殖速度が数日から数週間と非常に長い。このことが原因で、世界的には非常に注目度が高いものの商業レベルでの生産には至っていない。
【0084】
従来、その増殖速度を向上させるために、光量を最適化したり、光の照射間隔を最適なものにしたり、培地の組成を詳細に検討したりすることで、増殖速度を向上させることが検討されてきたが、まだ現状では不十分である。これは、Botryococcus Brauniiは、細胞間マトリックスによって凝集体を形成することが知られており、前記に示したことが原因で、増殖速度が遅くなっていると考えられる。
【0085】
そこで、本発明における前処理工程を用いれば、微生物の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、凝集体をバラバラの状態にし、凝集性に起因する前記問題点をなくすことができるので、より多くの微生物固体を増殖に関与させることができる。これにより、Botryococcus Brauniiの増殖速度を顕著に向上できるので、商業レベルでの生産が可能になるかもしれない。
【0086】
[目的処理工程(微生物の純菌化処理)]
本発明で言うところの、純菌化処理とは、複数種の微生物集合体から単一種の微生物集合体を得る手法のことを言い、一般的には、以下の工程によって行われる。先ず、自然界から採取してきた微生物集合体を寒天ゲル上に展開し、増殖培養後、得られたコロニーを採取し、採取したコロニーが単菌から構成されているかどうかを確認する。ここで、得られたコロニーが複数の微生物から構成されている場合には、もう一度寒天培地上で展開する。この純菌化工程を単菌が得られるまで繰り返す。
【0087】
凝集体を形成しない微生物の場合には、従来法と同じように、微生物濃度を適切に希釈することによって良好なコロニー形成を経て、微生物を純菌化させることができる。
【0088】
しかし、自然界から採取した凝集体を形成する微生物の多くは、凝集体内部に多種類の微生物の混合物であることが多い。そして、この様な場合、従来法と同様の方法で純菌化を行うと、コロニー形成が見られたとしても、コロニー内には数種の微生物が混入されている可能性が高く、純菌化工程を何度も繰り返さなければ、微生物を純菌化することはできなかった。
【0089】
しかし、本発明における前処理工程を用いると、微生物の凝集体を前処理工程で破壊し、単独の微生物にすることで、単独の微生物から構成されているコロニーを形成することが可能となる。これにより、より少ない純菌化工程で単独微生物から構成されたコロニーを得やすくなる。
【0090】
例えば、Botryococcus Brauniiなどの凝集性を示す微細藻類の場合、お互いが細胞間マトリックスによって結合しあうことによって凝集体を形成している。しかし、この細胞間マトリックスの中にバクテリアなどが入り込み、このことが原因で、この様な微細藻類の純菌化は非常に難しいといわれている。
【0091】
しかし、本発明における前処理工程を行うことによって、微細藻類の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、単体に近い状態にまでバラバラにすることができる。この結果、微細藻類とバクテリアとが離れて存在するようになる。これにより、微細藻類の純菌化を容易化することができる。純菌化処理に際して、試料液の前処理工程を行った後に、更に遠心分離処理や多孔質膜による濾過処理を行ってもよい。例えば、微細藻類とバクテリアとでは大きさが異なるため、前処理工程の後に多孔質膜の使用によって分離したり、遠心により比重差を利用して分離したりすることが一層好ましい。このようにすることで、純菌化処理が一層容易となる。
【0092】
また、共存するバクテリアを殺菌するために、殺菌剤を使用することで純菌化を行うこともあるが、細胞間マトリックス内に存在するバクテリアに対しては、殺菌剤が浸透しづらく、その効果はかなり限定されたものとなる。
【0093】
このような場合にも、本発明における前処理工程を行うことで、細胞間マトリックスもバラバラにされるか、もしくは細胞間マトリックスがより断片化される。これにより、殺菌剤の浸透性が良くなり、その効果を向上させることができる。
【0094】
また、上記の方法を用いると、純菌化する場合に、純菌化対象の微生物群の状態で、純菌化がある程度進行していることから、本発明における前処理工程による効果(即ち各微生物の単独状態での存在)を考え合わせると、純菌化工程の回数を削減することができ、純菌化処理の時間を大幅に短縮化することができる。したがって、本発明の方法を用いることによって、微生物の純菌化工程がより簡便になるとともに、純菌化のための時間を大幅に短縮できる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
[実施例A]
実施例Aでは、微生物を含む試料液を充填した密閉容器を高速振幅運動させる本発明の前処理工程と、微生物を含む試料液を充填した密閉容器に超音波を照射する従来の超音波処理工程とにおける微生物凝集体の分散効果及び微生物の破砕状態を対比した。合わせて、試料液を充填した密閉容器にビーズを入れて高速振幅運動させた場合の微生物の破砕状態を調べた。
【0097】
(サンプルの調製)
500mLの三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れ、この培地上に天然海水から採取した微細藻類(珪藻の一種)を播種した。そして、振盪培養機(Incubator Shaker Model RGS-20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。得られた微細藻類(珪藻)を含む試料液を顕微鏡(倍率:4倍)で観察した結果が図5である。本実施例で使用した珪藻は凝集性が高く、図5のように凝集体を形成するため、顕微鏡で観察しても個々(単一)の微細藻類をカウントすることはできなかった。
【0098】
そして、この図5に示す微細藻類の凝集体を試験サンプルとし、本発明の前処理工程(実施例1)と、従来の超音波処理(比較例1)とで次のように処理した。
【0099】
(実施例1)
上記の如く培養した微細藻類の試料液を0.5mL採取し、図3で示した2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れて前処理装置10にセットした。このときの密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率は25容積%になる。また、前処理装置10として、上下方向と8の字を描くように高速振幅運動を行うビーズ式細胞破砕装置MS−100 (株式会社トミー精工)を用いるとともに密閉容器22にはビーズは入れなかった。そして、5500rpmの振幅数で20秒間の前処理工程を行った。前処理工程後の微細藻類について顕微鏡(倍率:10倍)で観察した結果を図6に示す。
【0100】
図6から分かるように、微細藻類の凝集体は単一の微細藻類に分散されており、それぞれの微細藻類を顕微鏡で容易にカウントすることができた。また、顕微鏡(倍率:10倍 )で前処理工程後の微細藻類が破砕されているかどうかを観察したが、採取した試料(10μL)をスライドガラスに滴下し、カバーガラス(22mm×22mm)の範囲内では、微細藻類の破砕は観察できなかった。
【0101】
(比較例1)
上記の如く培養した試料液を0.5mL採取し、図3で示した2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れ、超音波洗浄機USD−4R (アズワン株式会社)にセットした。そして、試料液に対して28kHzで5分間超音波を印加した後、微細藻類について顕微鏡で観察した。
【0102】
その結果を図7及び図8に示す。図7(倍率10倍)を見ると、微細藻類の凝集体の分散状態は超音波を印加しない前の状態に近く、超音波の印加による分散化の程度は実施例1(図6)に比べて明らかに悪かった。また、顕微鏡(倍率:40倍)で超音波処理後の微細藻類が破砕されているかどうかを観察したが、細胞が部分的に壊れていた。このように、超音波処理を行うことによって、分散がうまくいかず、しかも部分的に細胞が壊れたものも存在した(図8)。
【0103】
実施例1と比較例1との対比から分かるように、従来の超音波処理は分散効率が悪く、且つ部分的に細胞が壊れたのに対し、試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器22を前処理装置10で高速振幅運動させた実施例1は、高い分散効率を示すとともに、微細藻類の破砕を効果的に抑制することができた。
【0104】
(比較例2)
上記の如く培養した試料液を0.5mL採取し、2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れるとともに、直径2mmのジルコニアビーズ20個を密閉容器22に入れた。そして、密閉容器22を実施例1と同様に前処理装置10にセットし、実施例1と同じ5500rpmで20秒間の高速振幅運動を行った。
【0105】
その結果を図9(倍率10倍)に示す。図9から分かるように、密閉容器22内にジルコニアビーズを入れることによって、微細藻類の細胞が破砕されており、微細藻類数を正確にカウントすることができなかった。
【0106】
実施例1と比較例2との試験結果から分かるように、本発明のおける前処理工程は、基本的に密閉容器22内にジルコニアビーズ等のビーズを入れることは、微生物の破砕を抑制しながら凝集体の分散効果を得る上で好ましくない。したがって、密閉容器22の振幅数と振幅時間との組み合わせを変えることで高速振幅運動を行うことが好ましい。しかし、微生物によっては凝集性が極めて高く十分な分散効果が得られない場合が想定されるので、予め予備試験等により微生物を破砕しない条件(ビーズ径、ビーズ数)を把握した上でビーズを使用することは可能である。要は、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができればよい。
【0107】
[実施例B]
実施例Bでは、前処理工程において密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率の好ましい範囲について調べた。
【0108】
2mLの蓋22A付き密閉容器22を10本用意し、実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を、それぞれ0.1mL(容積比率5%)、0.2mL(容積比率10%)、0.3mL(容積比率15%)、0.4mL(容積比率20%)、0.5mL(容積比率25%)、1.0mL(容積比率50%)、1.2mL(容積比率60%)、1.5mL(容積比率75%)、1.8mL(容積比率90%)、2.0mL(容積比率100%)充填した。但しビーズは使用していない。そして、実施例Aで使用したと同じ前処理装置10に10本の密閉容器22をセットし、5500rpmで20秒間前処理工程を行った。
【0109】
その結果を図10の表に示す。なお、分散効果の評価判定は次のように行った。
【0110】
○…図6と同程度まで分散されて顕微鏡で容易に微細藻類数をカウントできる
△…図11に示すように凝集体は存在するがその大きさが小さく微細藻類をカウント可能
×…図5及び図7に示すように凝集体の大きさが大きく微細藻類数をカウントすることが困難
図10の表の結果から分かるように、密閉容器22への充填量が0.1mL(容積比率5%)及び0.2mL(容積比率10%)の場合には×の評価であり、分散効果が悪く微細藻類数のカウントが困難であった。充填量を0.3mL(容積比率15%)まで多くすると、△の評価になり、0.4mL(容積比率20%)〜1.2mL(容積比率60%)までは○の評価であった。更に、充填量を上げて1.5mL(容積比率75%)にすると△の評価になり、1.8mL(容積比率90%)以上では×の評価となった。
【0111】
このように、密閉容器22に充填する試料液の充填量が少な過ぎても多過ぎても凝集体を良好に分散させることができなかった。このことは、高速振幅運動したときの密閉容器22内のヘッドスペースが凝集体の分散効率に大きく影響していることが推察される。また、充填量が少な過ぎても分散性が悪くなる理由は、試料液の重量が軽過ぎて高速振幅運動時における密閉容器内壁への衝突力が小さいため、凝集体を分散させるに足るエネルギーを十分に発揮できないためと推察される。
【0112】
密閉容器22に試料液をどの程度充填することが好ましいかを、密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率でみた場合、図10の試験結果から15容積%〜75容積%の範囲であることが好ましく、20容積%〜60容積%であることが特に好ましい。
【0113】
[実施例C]
実施例Cは、前処理工程における高速振幅運動の好ましい振幅数と振幅時間について調べたものである。
【0114】
2mLの蓋22A付き密閉容器22を9本用意し、実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を0.5mL充填した。但しビーズは使用しなかた。そして、9本の密閉容器22を実施例Aで使用したと同じ前処理装置10に試験ロットごとにセットし、前処理工程を行った。即ち、2000rpm、2500rpm、3000rpm、3500rpm、4000rpm、4500rpm、5000rpm、5500rpmの振幅数で振幅時間20秒間の高速振幅運動を行った。
【0115】
その結果を図12の表に示す。また、分散効果の評価判定は実施例Bと同様である。
【0116】
図12から分かるように、振幅数が0(高速振幅運動なしの状態)〜3000rpm(振幅数×振幅時間が0〜60000)までは×の評価であったが、3500〜4000rpm(振幅数×振幅時間が70000〜80000)で△の評価まで良くなり、4500〜5500rpm(振幅数×振幅時間が90000〜110000)で○の評価となった。この結果から、振幅時間が20秒と比較的短い場合には、振幅数は3500rpm以上が必要であり、4500rpm以上にすることが一層好ましことが分かる。
【0117】
このことから、試験を行った0〜5500rpmの振幅数範囲のうち、△の評価を得た3500rpmと、○の評価を得た5500rpmの2水準について振幅時間を5秒から60秒まで検討したときに評価がどうなるかを調べた。
【0118】
その結果を図13の表に示す。図13から分かるように、振幅数3500rpmでは、振幅時間10秒間(振幅数×振幅時間が35000)までは×の評価であったが、20秒間(振幅数×振幅時間が70000)で△の評価になり、60秒間(振幅数×振幅時間が210000)で○の評価になった。一方、振幅数5500rpmでは、5秒間(振幅数×振幅時間が27500)の振幅時間で既に○の評価になり60秒間(振幅数×振幅時間が330000)まで○の評価であった。
【0119】
上記図12の表及び図13の表の試験結果から、微細藻類の場合には、破砕に対する影響を考慮すると、振幅時間60秒以内で高速振幅運動を行うことが好ましく、そのためには振幅数は少なくとも3500rpm以上で行うことが好ましく、5500rpm〜10000rpmの範囲で行うことが一層好ましい。振幅数の上限を10000rpmとしたのは、10000rpmを超えると前処理装置10からの発熱が大きく、発熱による温度上昇は一般的な微生物の活性にとって好ましくないためである。
【0120】
したがって、上記結果をまとめると、高速振幅運動としては、密閉容器22を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が70000〜330000の範囲であることが好ましい。
【0121】
[実施例D]
実施例Dでは、本発明の微生物の処理方法の効果を調べたものであり、前処理工程を目的処理工程の一態様である増殖処理に組み込んだときの増殖効果を調べた。
【0122】
実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を、2mLの蓋付き密閉容器22に1mL充填(容積比率50容積%)し、5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理工程を行って微細藻類を分散させた。前処理工程後の試料液を、500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種し、振盪培養機(RGS−20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。その結果、培地中には茶色の凝集した微細藻類の凝集体が形成された。
【0123】
このようにして得られた茶色の凝集体を試験サンプルとして取り出して半分に分け、そのうちの一方の凝集体(試験サンプル1)を2mLの蓋つき密閉容器22に1mL充填し、5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理工程を再び行うことで凝集体をバラバラに壊した。そして、前処理工程を行った後の試験サンプル1を、500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種した。
【0124】
また、半分に分けたうちの他方の凝集体(試験サンプル2)は、前処理工程を行わずに500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種した。なお、試験サンプル1と試験サンプル2の両方ともに、播種量は2.5×104個/mLの藻体濃度である。播種量の確認は、試験サンプル1及び2を前処理装置10でそれぞれ5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理した試料を、血球計数盤を用いてカウントすることにより行った。
【0125】
次に、試験サンプル1と試験サンプル2のそれぞれの三角フラスコを、振盪培養機(RGS−20RL)にセットし、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで17日間培養した。そして、培養後、3日目、5日目、10日目、17日目に、試験サンプル1及び試験サンプル2のそれぞれの三角フラスコから培養溶液を取り出し、2mLの蓋付き密閉容器22に0.5mL入れ、前処理装置10にセット後、5500rpm20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理を行った後、血球計数盤を用いて微細藻類数をカウントした。
【0126】
図14のグラフに、培養日数に対する藻体濃度の関係を示した。
【0127】
図14の結果から分かるように、培養日数が5日目までは、前処理工程を行ってから培養工程を行った試験サンプル1も、前処理工程を行わずに培養工程を行った試験サンプル2も藻体濃度はほぼ同一であった。
【0128】
しかしながら、培養日数が5日目以降になると、試験サンプル1は藻体濃度曲線は上昇する傾向にあるのに対して、試験サンプル2は藻体濃度曲線が寝る傾向にある。具体的には、培養日数17日目における試験サンプル1の藻体濃度は63×105個/mLまで高くなったのに対して、試験サンプル2の藻体濃度は39×105個/mLであった。
【0129】
[実施例E]
実施例Eでは、実施例Dにおける前処理工程の条件(振幅数及び振幅時間)を変えたときに、培養速度がどのようになるかを調べた。
【0130】
実施例Dと同様の操作により微細藻類の凝集体を有する試験サンプルを調製した。次に、2mLの蓋付き密閉容器22を4本用意し、試験サンプルを5つに分け(試験サンプル1、2、3、4)、これらの試験サンプル1〜4をそれぞれの密閉容器22に0.5mL充填した。
【0131】
そして、試験サンプル1〜4を次の条件で前処理工程を行った。
【0132】
・試験サンプル1…振幅数0rpm、振幅時間0秒(前処理工程なし)
・試験サンプル2…振幅数2000rpm、振幅時間5秒(振幅数×振幅時間が10000)
・試験サンプル3…振幅数2000rpm、振幅時間20秒(振幅数×振幅時間が40000)
・試験サンプル4…振幅数5500rpm、振幅時間20秒(振幅数×振幅時間が110000)
このように作成した試験サンプル1〜4のそれぞれを、100mLの三角フラスコに25mLの滅菌したIMK培地を入れた培地上に播種し、振盪培養機(RGS−20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。
【0133】
そして、培養開始から10日目に培養を停止して、それぞれの三角フラスコから試料(試験サンプル1〜4)をそれぞれ0.5mL採取した。採取した試料を、2mLの蓋付き密閉容器22にそれぞれ充填して前処理装置10にセットし、5500rpmで20秒間前処理工程を行って分散した後、血球計数盤を用いて藻体数をカウントした。
【0134】
その結果を図15の表に示す。なお、培養開始時の100mL三角フラスコ中の藻体濃度は1.6×105個/mLであった。
【0135】
図15の結果から分かるように、前処理工程を行わないで培養処理を行った試験サンプル1の微細藻類濃度は4.1×105個/mLであった。
【0136】
これに対して、2000rpmで5秒間前処理工程を行った後で培養処理を行った試験サンプル2の微細藻類濃度は5.2×105個/mLであり、2000rpmで20秒間前処理工程を行った試験サンプル3の微細藻類濃度は5.8×105個/mLであった。また、5500rpmで20秒間前処理工程を行った後で培養処理を行った試験サンプル4の微細藻類濃度は6.0×105個/mLであった。
【0137】
試験サンプル2と3との対比から分かるように、同じ振幅数であれば、振幅時間が長いほど、即ち微生物凝集体の分散程度が大きいほど、培養処理での培養速度は向上する。また、試験サンプル3と4との対比から分かるように、振幅時間が同じあれば、振幅数が大きいほど、即ち微生物凝集体の分散程度が大きいほど、培養処理での培養速度は向上する。
【0138】
上記した実施例D及びEの結果から分かるように、目的処理工程の一態様である培養処理を行う前に、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器22を高速振幅運動させる前処理工程を行うことで培養速度を向上させることができる。これは、微生物の増殖処理に前処理工程を組み合わせることで、微生物の破砕を抑制しつつ微生物凝集体を効果的に分散させることができるので、個々の微生物が栄養源等の増殖に必要な要素に接触し易くなり、要素を十分に取り込むことができるためと考察される。これにより、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0139】
なお、培養速度を示す藻体濃度と、(振幅数×振幅時間)との関係をみると、振幅数×振幅時間が10000以上で効果が発揮されており、実施例C(図12、図13)の分散効率を調べた試験での振幅数×振幅時間の下限値70000よりも低い値で良い結果がでている。
【符号の説明】
【0140】
10…前処理装置、12…装置本体、14…蓋部材、16…容器ホルダー、18…駆動軸、20…駆動部、22…密閉容器、24…チャック部、26…試料液、28…ON−OFFスイッチ、30…振幅数ダイヤル、32…タイマーダイヤル、34…切り換えスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の処理方法に係り、特に微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う前の前処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物に関する処理の中には、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理があり、従来は以下のように行われていた。
【0003】
〈微生物数のカウント処理〉
微生物数をカウント処理する場合には、計数板を用いて微生物試料液を観測することが一般的に行われている(非特許文献1)。しかし、この方法は、微生物が一つ一つばらばらになっている状態であれば問題ないが、微生物が凝集している場合には、微生物が重なり合うことによって、容易には数をカウントできないことが多い。また、凝集していることにより複数の微生物から構成された試料液の場合には個別の種ごとに微生物数をカウントすることもできなかった。
【0004】
そこで、試料液を超音波処理することによって、微生物の凝集体をばらばらにする方法が採用されている(例えば特許文献1)。しかし、この方法は、核酸を切断する際に、超音波処理を行うことでもわかるとおり、超音波条件によっては、微生物の細胞壁を傷つけてしまったりする等により、微生物そのものを死滅してしまう問題点があった。また、微生物の種類によって細胞壁の固さが異なり、微生物の種類に合わせて細胞壁を傷つけないための超音波条件を見つけることは、作業者にとって極めて煩雑で非能率である。
【0005】
別の微生物数のカウント方法として、微生物の濁度から微生物濃度を測定することも可能であるが、予め微生物数と濁度との関係を求めておく必要がある。したがって、この場合にも、微生物数をカウントすることが必要であることから、凝集した微生物を忍耐強くカウントするしか方法はなかった。さらに、凝集した微生物を濁度で計数する場合には、光の乱反射が起こりやすく、積分球のような特殊な装置が必要であった。
【0006】
また、微生物、特に、クロロフィルを持つ光合成微生物の場合、クロロフィルの定量から微生物数を測定することも行われてきた。しかし、この方法でも、予めクロロフィル量と微生物数の数との相関を予め求めておく必要性があり、その困難さは、前記と同様である。また、微生物中のクロロフィル量は、微生物の培養条件や、微生物の増殖ステージによって異なることがあり、そのたびに、クロロフィル量と微生物数との相関を求める必要性があり煩雑であった。
【0007】
更に別の微生物数のカウント方法として、フローサイトメトリーを用いる方法もあるが、この装置の場合、1つの微生物の大きさとほぼ同程度の直径を持つ細管内を通過させる必要性があることや、いくつかの微生物が集合した集合物が細管を通過した場合、微生物数は1つとして認識してしまう点から、微生物の集合物に対して使用することは困難であった。
【0008】
〈微生物の増殖処理〉
大腸菌などの原核生物は、数十分で1回分裂することから非常に増殖速度が速いが、真核生物、例えば、藻類などは、一回分裂する時間が非常に長い。例えば、バイオマス燃料として注目されているオイルを蓄積する藻類の1種で地球温暖化を解決する有力な微生物と考えられているBotryococcus Brauniiは、1回の分裂に要する日数が数日から数週間と非常に増殖速度が遅いことで知られている。このことが原因のひとつとなって、Botryococcus Brauniiを用いたオイル生産は、商業レベルの生産に至っていないのが実情である。
【0009】
従来は、微生物の培養条件を工夫することで、その増殖速度を向上させることが検討され、増殖速度を向上させる方法が種々報告されてきたが、現状での増殖速度は満足できるものではない。
【0010】
〈微生物の純菌化処理〉
従来の微生物を純菌化する方法は、採取してきた微生物を含む溶液を希釈し、寒天培地上に塗布することによって行われてきた。しかし、一般的には、一回の純菌化工程で、単菌が得られることは稀であり、通常は数回の純菌化工程を繰り返すことによって、単菌を得ている。凝集体を形成する微生物や一般的に複数の微生物から構成されているバイオフィルム中の微生物などは、希釈する程度では数種類の微生物が混合された状態で純菌化を行うことになる。これにより、純菌化工程の繰り返し回数も極めて多くなってしまい、結果的に純菌化が非常に難しくなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】藻類研究法、西澤一俊、千原光雄編、共立出版、1979年、p275
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−298869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、従来の微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理にはそれぞれ欠点があり、いずれも満足できるものではなかった。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理における従来の欠点を解決することができる微生物の処理方法を提供することを目的とする。
【0015】
即ち、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントする処理方法を提供することにある。
【0016】
また、微生物の増殖処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる処理方法を提供することにある。
【0017】
また、微生物の純菌化処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化工程の繰り返し数を従来よりも顕著に低減でき、純菌化時間を大幅に短縮できる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、前記目的処理工程を行う前に、前記微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行うことを特徴とする微生物の処理方法を提供する。
【0019】
本発明の微生物の処理方法によれば、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の前処理工程として、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させるようにした。
【0020】
本発明では、従来の超音波振動のように微生物自体に直接振動を当てるのではなく、密閉容器を高速振幅運動させて微生物の凝集体の塊を試料液中に分散させることで、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができる。
【0021】
かかる凝集体の分散効率の観点から、密閉容器に充填する試料液の所定量は、密閉容器の内容積に対する試料液の容積比率が15〜75容積%の範囲であることが好ましい。
【0022】
これは、微生物を含む試料液を密閉容器に充填したときに、密閉容器内に一定以上の容積のヘッドスペースを形成しないと、密閉容器を高速振幅運動したときに微生物凝集体(以下単に、凝集体という場合もある)の分散効率が顕著に低下するためである。また、密閉容器内の試料液が少な過ぎると、高速振幅運動したときに微生物凝集体の分散効率が顕著に低下するためである。これは、試料液の重量が軽過ぎて高速振幅運動時における密閉容器内壁への衝突力が小さいため、凝集体を分散させるに足るエネルギーを十分に発揮できないためと推察される。
【0023】
また、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができる高速振幅運動としては、密閉容器を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることが好ましい。この振幅数と振幅時間との組み合わせであれば、各種の微生物について、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるからである。
【0024】
これにより、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0025】
また、微生物の増殖処理では、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、個々の微生物が栄養源等の増殖に必要な要素に接触し易くなり、要素を十分に取り込むことができる。これにより、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0026】
また、微生物の純菌化処理では、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化する微生物を雑菌と区別させた状態で取り出し易くなる。これにより、純菌化工程の繰り返し回数を従来よりも顕著に低減できるので、純菌化時間(工程数)を大幅に短縮できる。
【0027】
これらの場合、凝集体の分散効果が所望程度まで達しない場合に、微生物の破砕を抑制可能な範囲で樹脂粒子等のビーズを密閉容器内に充填することは可能であるが、基本的にはビーズは充填せずに振幅数と振幅時間との組み合わせで調整することが良い。
【0028】
本発明の微生物の処理方法においては、前記密閉容器の振幅形態は、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であることが好ましい。この場合、上下方向、左右方向、前後方向の2形態以上を組み合わせた高速振幅運動が一層好ましい。
【0029】
本発明の微生物の処理方法においては、前処理工程では、前記試料液が充填された密閉容器内に消泡剤を添加することが好ましい。
【0030】
試料液中の微生物が高濃度の場合や、種々の代謝物を菌体外に放出する微生物の場合には、前処理工程によって密閉容器内に気泡が発生し、この気泡により微生物凝集体の分散効率が低下するからである。
【0031】
本発明の微生物の処理方法においては、前記前処理工程を複数回に分けて行うことが好ましい。これは、前処理工程の高速振幅運動により、試料液が温度上昇して微生物が死滅する等の好ましくない結果になることを防止するためである。特に、熱に弱い微生物の前処理工程では重要になる。
【0032】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物は凝集性を有する微生物であることが好ましい。
【0033】
これは、凝集性を有する微生物の処理において、本発明が一層有効だからであり、例えば凝集性を有する微生物として付着性微生物を挙げることができる。
【0034】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物は複数種の微生物から構成された集合体も使用可能である。
【0035】
本発明の微生物の処理方法においては、前記微生物がバイオマスを産生する微生物であることが好ましい。
【0036】
本発明の微生物の処理方法は、バイオマスを産生する微生物、例えばオイルを含有するBotryococcus属を利用したバイオマス燃料等の工業化のための技術として極めて有効だからである。
【0037】
本発明の微生物の処理方法においては、前記目的処理工程が前記微生物の増殖処理の場合には、前記前処理工程と前記目的処理工程とを複数回繰り返すことが好ましい。
【0038】
これは、増殖処理工程で微生物が再び凝集する傾向にあるため、前処理工程と増殖処理工程とを繰り返すことにより、増殖速度を一層向上できるからである。
【発明の効果】
【0039】
本発明の微生物の処理方法によれば、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の従来の欠点を解決することができる。
【0040】
即ち、微生物数のカウント処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0041】
また、微生物の増殖処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0042】
また、微生物の純菌化処理では、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるので、純菌化工程の繰り返し数を従来よりも顕著に低減でき、純菌化時間(工程数)を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の微生物の処理方法で使用する前処理装置の一例を示した外観図
【図2】図1の前処理装置の容器ホルダーと駆動部とを示した斜視図
【図3】前処理装置に使用する密閉容器に微生物を充填する様子を示した斜視図
【図4】前処理工程における密閉容器の各種の振幅形態を示した説明図
【図5】実施例Aにおいて前処理工程を行う前の微細藻類の顕微鏡写真図
【図6】実施例Aにおいて前処理工程を行った後の微細藻類の顕微鏡写真図
【図7】実施例Aにおいて従来の超音波照射を行った後の微細藻類の顕微鏡写真図
【図8】実施例Aにおいて従来の超音波照射を行った後の微細藻類の細胞破壊を示す顕微鏡写真図
【図9】実施例Aにおいて密閉容器に微生物と一緒にビーズを入れて高速振幅運動させた後の微細藻類の細胞破壊を示す顕微鏡写真図
【図10】実施例Bにおいて密閉容器の内容積に対する試料液の容積比率と微生物凝集体の分散効果との関係を説明する説明図
【図11】実施例Cにおいて前処理工程を行う前のBotryocuccosの顕微鏡写真図
【図12】実施例Cにおいて前処理工程における密閉容器の振動数と分散効果との関係を説明する説明図
【図13】実施例Cにおいて前処理工程での密閉容器の振幅数×振幅時間と分散効果との関係を説明する説明図
【図14】実施例Dにおいて前処理工程の有り無しが微細藻類の増殖に及ぼす影響を説明する説明図
【図15】実施例Eにおいて前処理工程における密閉容器の振幅数×振幅時間と微細藻類の増殖効果との関係を説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の微生物の処理方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0045】
本発明は、微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う目的処理工程と、該目的処理工程を行う前に、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程と、で構成される。
【0046】
[微生物]
本発明で言うところの微生物とは、人の肉眼では、その個々の存在が識別できないような微小な生物を指し、原核生物、真核生物のいずれで良い。原核生物とは、細胞核を持たない生物のことを言い、真性細菌と古細菌の2つの生物を含めることができるものとする。真核生物としては、藻類、原生生物、菌類、粘菌やワムシなどの小型の動物をも含む。
【0047】
また、微生物の中でも、個々の微生物がお互いに集合することによって、人の肉眼でその集合体が識別可能になる場合もある。しかし、その様な場合でも、集合体構造を崩して個々の微生物にすることによって、人の肉眼では識別することができない場合は、本発明では微生物と定義する。また、個々の微生物の状態にはあるが、菌体数(例えば微細藻類の藻体数)が増加することによって、色の変化でその存在を知ることが可能となるものもある。しかし、そのような場合でも、個々の微生物を人の肉眼によって観察することはできないことから、本発明で言うところの微生物に含むものとする。
【0048】
本発明における藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上で生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものを言い、原核生物であるシアノバクテリアから、真核生物で単細胞生物、多細胞生物の海藻類など、異なるグループの総称を言う。
【0049】
本発明における微細藻類とは、本発明で定義した上記微生物の中から、本発明で定義した上記藻類を選択した生物群のことを言う。例えば、藍色植物門、灰色植物門、紅色植物門、緑色植物門、クリプト植物門、ハプト植物門、不等毛植物門、渦鞭毛植物門、ユーグレナ植物門、クロララクニオン植物門などから構成されている生物のことを言う。
【0050】
本発明で使用される微生物としては、バイオマスを産生する微生物であることが一層好ましい。ここでバイオマスとは、生物由来の資源のことを言い、化石資源を除いた、再生可能な生物由来の有機性資源のことであり、生物由来の物質、食料や資材、燃料、資源などのことを言う。バイオマスには、生物が産生する、多糖、オイル(炭化水素化合物、トリグリセリドなど)を含む。特に、バイオマスを産生する微生物としては、オイルを含有するBotryococcus属があり、本発明はBotryococcus属を利用したバイオマス燃料等の工業化のための技術として特に有効である。
【0051】
[前処理工程]
本発明における前処理工程とは、微生物が含まれている試料液を密閉容器内に入れ、高速振幅運動を行うことによって、試料液中に微生物の凝集体が存在していても、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体をバラバラにして個々(単一)の微生物に分散させる工程を言う。
【0052】
図1〜図3は前処理工程を行う前処理装置の一例である。
【0053】
図1に示すように、前処理装置10は、装置本体12と蓋部材14とで構成される。図2に示すように、装置本体12の内部には、高速振幅運動を行う円板状の密閉容器ホルダー16が配置され、駆動軸18を介して振幅駆動部20に支持される。密閉容器ホルダー16の周縁部には、蓋22A付き密閉容器22(図3参照)を着脱自在に保持する複数のチャック部24が設けられる。
【0054】
図3に示すように、蓋12A付き密閉容器22は、試験管形状に形成され、微生物24及びその微生物を分散させるための分散液25(例えば純水や培養液)で構成される試料液26が充填された後、蓋22Aにより密閉できるように構成されている。
【0055】
また、図1に示すように、装置本体12の正面には、ON−OFFスイッチ28、密閉容器ホルダー16を介して密閉容器22を高速振幅運動する際の振幅数を設定する振幅数ダイヤル30及び振幅時間を設定するタイマーダイヤル32が設けられる。更には密閉容器22を高速振幅運動させる振幅方向の形態設定を行う切り換えスイッチ34等が設けられる。
【0056】
図4に示すように、密閉容器22を高速振幅運動させる振幅形態としては、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であるが、例えば図4(A)に示すように、上下方向と左右方向との組み合わせ、図4(B)に示すように、左右方向と前後方向との組み合わせを採用することが好ましい。また、上下しながら8の字を描くように密閉容器22が振幅する特殊な振幅形態を一層好適に採用することができる。
【0057】
このように、本発明における前処理工程は、従来のように超音波振動で微生物自体を振動させるのではなく、微生物が入った密閉容器22を高速振幅運動させて密閉容器22内の微生物の凝集体の塊を試料液中に分散させる。これにより、微生物の破砕を抑制しつつ微生物の凝集体を効果的に分散させることができる。
【0058】
本発明で言うところの微生物の破砕とは、微生物の外側の膜が破壊され、微生物内部の物質が微生物外に溶出してくる現象のことを言う。この様な破砕が発生すると、後記する微生物数のカウント処理において正確な数を数えることができなくなる。また、破砕により微生物の培養に悪影響が生じる等の不都合が起こる。
【0059】
しかし、本発明の前処理工程によっても微生物の破砕を完全に防ぐことは難しく、本発明において「破砕を抑制する」とは微生物の70%以上が少なくとも破砕されないことを言う。破砕の抑制レベルは80%以上であることが一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0060】
また、密閉容器内に分散液を入れることにより、分散液を入れない状態で密閉容器22を高速振幅運動させる場合に比べて、微生物の分散効率が向上するのみならず微生物の破砕を確実に抑制できる。また、分散液を密閉容器22に入れることで微生物の温度上昇による微生物の失活や死滅を防止できる。微生物が失活したり死滅したりすると、後記する目的処理工程において細胞数をカウントすることができなくなったり、以後の増殖処理に対して悪影響を及ぼす。
【0061】
前処理工程において微生物の破砕を抑制し且つ分散効率を向上するための密閉容器22の高速振幅運動の好ましい条件は、振幅数と振幅時間との組み合わせで決まる。振幅数と振幅時間との関係としては、振幅数が高目(例えば5000rpm)の場合には、短時間(例えば5秒)の振幅時間で十分な分散効率を得ることができる。このときの振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は10000になる。しかし、振幅数が低目(例えば3500rpm)の場合には、振幅時間を長め(例えば20秒以上)にすることが好ましい。このときの振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は70000になる。
【0062】
一方、振幅数が高過ぎる(例えば10000rpm超え)と、前処理装置10からの発熱が大きく、発熱による温度上昇は、耐熱性菌を除く一般的な微生物の活性にとっては好ましくない。また、振幅時間としては微生物の破砕を考慮すると5分(300秒)以内であることが好ましく、より好ましくは1分(60秒)以内である。そして、振幅数10000rpmで振幅時間が300秒での振幅数(rpm)×振幅時間(秒)は3000000になる。
【0063】
これらのことから、高速振幅運動としては、密閉容器22を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることが好ましい。より好ましい振幅数(rpm)×振幅時間(秒)としては、後記する実施例の結果から70000〜330000の範囲である。この振幅数と振幅時間との組み合わせであれば、各種の微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができるからである。
【0064】
また、密閉容器22の内容積に対する試料液26の容積比率が15〜75容積%になるように充填し、試料液26の上方にヘッドスペース36(図4参照)が形成されるようにすることが好ましい。これは、試料液26で密閉容器22を完全に満たした場合には、高速振幅運動による前処理において、凝集体の分散効率が大幅に低下するためである。より好ましい容積比率の範囲は20〜60容積%の範囲である。また、容積比率が小さ過ぎても分散効率が大幅に低下し、容積比率の下限は15容積%であることが好ましい。
【0065】
上述した前処理装置10の高速振幅運動を市販の装置で代用する場合には、株式会社トミー精工(東京都)のビーズ式細胞破砕装置、MS-100あるいはBioSpec Product社のビーズ式ホモジナイザーBSP-3110BXを使用することが可能である。
【0066】
しかし、これらの装置は、元々、微生物を破砕し、微生物から核酸を抽出したりするための装置であり、微生物と一緒に充填したビーズを微生物に衝突させることで細胞を破壊する。したがって、そのまま使用すると、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させる本発明における前処理工程を達成できない。その場合、密閉容器22に充填するビーズの粒径や添加量と、高速振幅運動の条件(振幅数、振幅時間)と、微生物の破砕状態と、を予備試験等により把握しておくことが必要である。したがって、本発明における前処理工程では、基本的にビーズは密閉容器22に充填しないで使用する。
【0067】
但し、微生物によっては凝集体の凝集力が強く、分散効果を十分に達成できない場合には、微生物の破砕を抑制可能な範囲で樹脂粒子等のビーズを密閉容器22内に充填することは可能である。しかし、前述の通り、基本的にはビーズは充填せずに高速振幅運動の振幅数と振幅時間とで調整することが良い。
【0068】
さらに、前処理工程を行う際に、1回の前処理工程を行うのではなく、複数回の前処理工程を行うことが好ましい。これは、前処理工程を複数回に分けることによって、密閉容器22中の試料液26の温度上昇を防ぐためである。温度上昇は、微生物を死滅させる等、好ましくない影響を与える。
【0069】
本発明では、前処理工程を行う際に、微生物の溶液に消泡剤を添加することが好ましい。これは、試料液26中の微生物が高濃度の場合や、種々の代謝物を菌体外に放出する微生物の場合には、前処理工程によって密閉容器22内に気泡が発生する場合がある。密閉容器22内に気泡が発生すると、微生物凝集体の分散効率が著しく低下する。この様な場合に、消泡剤を試料液26に添加してから前処理工程を行うことが好ましい。
【0070】
なお、前処理工程を微生物のカウント処理、増殖処理、純菌化処理の前処理として使用する際には、前処理工程で分散させた微生物を直ちに使用することが好ましい。これは、微生物が再凝集する可能性があるからである。もし、再凝集した場合には、上記した前処理装置10を使用して再分散させることができる。
【0071】
[目的処理工程(微生物数のカウント処理)]
微生物数のカウント処理とは、微生物の数を数えることを言う。カウントする方法は、特に、限定されず、前処理工程によって得られた試料液26を血球計数盤上で、顕微鏡を用いて数を数えることも可能であるし、フローサイトメーターを用いて微生物数を自動的に数えることも可能である。また、光学顕微鏡を用いて微生物を直接カウントする場合には、微生物を染色することで、より明瞭に微生物数をカウントすることができる。更に、明視野の光学顕微鏡の代わりに、偏光や微分緩衝顕微鏡を用いた方法も使用することもできる。即ち、本発明における前処理工程を行った試料液26は、微生物の形状を観察する手段を用いる限りにおいて、いかなる方法を用いてもかまわない。
【0072】
また、予め吸光度と微生物数との相関関係を求めておけば、吸光光度計を用いて、その吸光度から微生物数を算出することも可能である。また、予め濁度と細胞数との相関関係を求めておけば、濁度計を用いて、その濁度から細胞数を算出することも可能である。さらに、予め蛍光光度計によって、クロロフィルの蛍光量と細胞数との相関を求めておけば、クロロフィルの蛍光量から細胞数を算出することも可能である。
【0073】
吸光度、濁度、及びクロロフィルの蛍光量のいずれを利用して微生物のカウントを行う場合にも、予備試験を行って微生物との相関関係を予め求めておく必要があり、その予備試験に本発明における前処理工程を好適に使用することができる。
【0074】
また、本発明における前処理工程を行うことにより、微生物数のカウントに、画像認識ソフトウェアを使用することが可能となる。凝集した微生物に対して画像認識ソフトを用いた場合、各微生物の認識能力は人間の目と比較して極めて精度が悪い。したがって、従来は使用に耐えるものではないのが実情であった。
【0075】
しかし、本発明における前処理工程を行うことによって、凝集した微生物群を個別の微生物に分離することができることから、画像認識ソフトウェアの認識能力を最大限に生かすことができる。しかも、人間自身が手動で細胞数を数えるのではなく、自動で数えることができることから、実験者の負担を大幅に減らすことができるとともに、細胞の大きさの分布などの情報も同時に得ることが可能となる。
【0076】
本発明で言うところの凝集とは、複数個の微生物が集合した構造体のことをいい、その微生物の構造体は、複数の種類から構成されていても、単一の種類から構成されていてもよい。さらに、微生物同士が直接隣接していてもよいし、ある種の物質、例えば、細胞間マトリックスのような物質を介して凝集していてもよい。また、群体と言われているものも、本発明では、凝集のことを意味するものとする。
【0077】
したがって、従来の微生物数のカウント方法では、凝集した微生物の数を数えることは非常に困難であったが、本発明を用いることで、凝集した微生物がバラバラの状態、もしくは凝集物が小さくなっていることから、容易に微生物数をカウントすることができるようになった。例えば、藻体内外にオイルを蓄積することで知られているBotryococcus Brauniiは、凝集したコロニーを形成することで知られているが、従来は、クロロフィルに由来する吸収を用いる方法や重量測定が行われてきた。しかし、本発明では、前処理工程を行うだけで、容易にその数をカウントすることができる。また従来の凝集体の分散のように、超音波による微生物の分散を行った場合には、微生物中の核酸などの構造物への影響から、微生物が破裂するなどの悪影響があった。しかし、本発明における前処理工程ではそのようなことはない。
【0078】
したがって、微生物数のカウント処理を行う前に前処理工程を行えば、微生物数を容易且つ正確にカウントすることができる。
【0079】
[目的処理工程(微生物の増殖処理)]
本発明で言うところの微生物の増殖処理とは、微生物を培養する際に、ある一定時間が経過した時に培養液中に存在している微生物の単位培養液体積中の微生物の数のことを言う。培養開始からある一定時間が経過するまでの時間から増殖速度を算出することができるが、本発明による前処理工程の効果を、増殖速度の向上という表現で言い換えることも可能な場合がある。
【0080】
また、本発明における前処理工程を行った微生物を用いて増殖を行った場合、分散した微生物の増殖が進展するに伴って、再び凝集体を形成する様になる場合もある。そのような場合に、再び凝集体を前処理工程で処理して、再び増殖を行うことが好ましい。この前処理工程と増殖工程を何度繰り返してもかまわない。
【0081】
したがって、本発明における前処理工程を行うことによって、増殖工程での増殖速度を向上できるので、微生物の濃度を増加させることも可能となる。この前処理工程の効果は、凝集性の高い微生物ほど効果的である。即ち、微生物の凝集体のうち培地と接触している凝集体表面に存在する微生物は栄養分が豊富であり、光合成微生物の場合には、豊富に光量を得ることが可能である。さらに、増殖するための空間も存在することから、活発に増殖することができると考えられる。一方、凝集体内部に存在する微生物は、培地との間に多数の微生物が存在することから、栄養分の拡散性が悪い。もしくは、より培地に近い微生物によって栄養分を消費されることによって、栄養分を獲得する機会が少なくなり栄養分を得にくくなる。さらに、増殖を行えるだけの空間も少なく、光合成微生物の場合には、光も届きにくい。このため、凝集体内部の増殖は抑えられてしまうという問題がある。
【0082】
そこで、本発明における前処理工程を行うことによって、微生物の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、より小さな凝集体もしくは単体の微生物にすることができるので、前記の問題点を回避することができる。その結果、微生物の増殖速度を向上させることが可能となる。
【0083】
本発明における前処理工程を用いることによって、バイオマスを産生する微細藻類の培養液中での濃度を向上させることも可能である。バイオマスを産生する微細藻類、例えば、重油相当のオイルを微生物体内外に蓄積することで知られているBotryococcus Brauniiの場合には、その増殖速度が数日から数週間と非常に長い。このことが原因で、世界的には非常に注目度が高いものの商業レベルでの生産には至っていない。
【0084】
従来、その増殖速度を向上させるために、光量を最適化したり、光の照射間隔を最適なものにしたり、培地の組成を詳細に検討したりすることで、増殖速度を向上させることが検討されてきたが、まだ現状では不十分である。これは、Botryococcus Brauniiは、細胞間マトリックスによって凝集体を形成することが知られており、前記に示したことが原因で、増殖速度が遅くなっていると考えられる。
【0085】
そこで、本発明における前処理工程を用いれば、微生物の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、凝集体をバラバラの状態にし、凝集性に起因する前記問題点をなくすことができるので、より多くの微生物固体を増殖に関与させることができる。これにより、Botryococcus Brauniiの増殖速度を顕著に向上できるので、商業レベルでの生産が可能になるかもしれない。
【0086】
[目的処理工程(微生物の純菌化処理)]
本発明で言うところの、純菌化処理とは、複数種の微生物集合体から単一種の微生物集合体を得る手法のことを言い、一般的には、以下の工程によって行われる。先ず、自然界から採取してきた微生物集合体を寒天ゲル上に展開し、増殖培養後、得られたコロニーを採取し、採取したコロニーが単菌から構成されているかどうかを確認する。ここで、得られたコロニーが複数の微生物から構成されている場合には、もう一度寒天培地上で展開する。この純菌化工程を単菌が得られるまで繰り返す。
【0087】
凝集体を形成しない微生物の場合には、従来法と同じように、微生物濃度を適切に希釈することによって良好なコロニー形成を経て、微生物を純菌化させることができる。
【0088】
しかし、自然界から採取した凝集体を形成する微生物の多くは、凝集体内部に多種類の微生物の混合物であることが多い。そして、この様な場合、従来法と同様の方法で純菌化を行うと、コロニー形成が見られたとしても、コロニー内には数種の微生物が混入されている可能性が高く、純菌化工程を何度も繰り返さなければ、微生物を純菌化することはできなかった。
【0089】
しかし、本発明における前処理工程を用いると、微生物の凝集体を前処理工程で破壊し、単独の微生物にすることで、単独の微生物から構成されているコロニーを形成することが可能となる。これにより、より少ない純菌化工程で単独微生物から構成されたコロニーを得やすくなる。
【0090】
例えば、Botryococcus Brauniiなどの凝集性を示す微細藻類の場合、お互いが細胞間マトリックスによって結合しあうことによって凝集体を形成している。しかし、この細胞間マトリックスの中にバクテリアなどが入り込み、このことが原因で、この様な微細藻類の純菌化は非常に難しいといわれている。
【0091】
しかし、本発明における前処理工程を行うことによって、微細藻類の破砕を抑制しながら凝集体を分散させて、単体に近い状態にまでバラバラにすることができる。この結果、微細藻類とバクテリアとが離れて存在するようになる。これにより、微細藻類の純菌化を容易化することができる。純菌化処理に際して、試料液の前処理工程を行った後に、更に遠心分離処理や多孔質膜による濾過処理を行ってもよい。例えば、微細藻類とバクテリアとでは大きさが異なるため、前処理工程の後に多孔質膜の使用によって分離したり、遠心により比重差を利用して分離したりすることが一層好ましい。このようにすることで、純菌化処理が一層容易となる。
【0092】
また、共存するバクテリアを殺菌するために、殺菌剤を使用することで純菌化を行うこともあるが、細胞間マトリックス内に存在するバクテリアに対しては、殺菌剤が浸透しづらく、その効果はかなり限定されたものとなる。
【0093】
このような場合にも、本発明における前処理工程を行うことで、細胞間マトリックスもバラバラにされるか、もしくは細胞間マトリックスがより断片化される。これにより、殺菌剤の浸透性が良くなり、その効果を向上させることができる。
【0094】
また、上記の方法を用いると、純菌化する場合に、純菌化対象の微生物群の状態で、純菌化がある程度進行していることから、本発明における前処理工程による効果(即ち各微生物の単独状態での存在)を考え合わせると、純菌化工程の回数を削減することができ、純菌化処理の時間を大幅に短縮化することができる。したがって、本発明の方法を用いることによって、微生物の純菌化工程がより簡便になるとともに、純菌化のための時間を大幅に短縮できる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
[実施例A]
実施例Aでは、微生物を含む試料液を充填した密閉容器を高速振幅運動させる本発明の前処理工程と、微生物を含む試料液を充填した密閉容器に超音波を照射する従来の超音波処理工程とにおける微生物凝集体の分散効果及び微生物の破砕状態を対比した。合わせて、試料液を充填した密閉容器にビーズを入れて高速振幅運動させた場合の微生物の破砕状態を調べた。
【0097】
(サンプルの調製)
500mLの三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れ、この培地上に天然海水から採取した微細藻類(珪藻の一種)を播種した。そして、振盪培養機(Incubator Shaker Model RGS-20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。得られた微細藻類(珪藻)を含む試料液を顕微鏡(倍率:4倍)で観察した結果が図5である。本実施例で使用した珪藻は凝集性が高く、図5のように凝集体を形成するため、顕微鏡で観察しても個々(単一)の微細藻類をカウントすることはできなかった。
【0098】
そして、この図5に示す微細藻類の凝集体を試験サンプルとし、本発明の前処理工程(実施例1)と、従来の超音波処理(比較例1)とで次のように処理した。
【0099】
(実施例1)
上記の如く培養した微細藻類の試料液を0.5mL採取し、図3で示した2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れて前処理装置10にセットした。このときの密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率は25容積%になる。また、前処理装置10として、上下方向と8の字を描くように高速振幅運動を行うビーズ式細胞破砕装置MS−100 (株式会社トミー精工)を用いるとともに密閉容器22にはビーズは入れなかった。そして、5500rpmの振幅数で20秒間の前処理工程を行った。前処理工程後の微細藻類について顕微鏡(倍率:10倍)で観察した結果を図6に示す。
【0100】
図6から分かるように、微細藻類の凝集体は単一の微細藻類に分散されており、それぞれの微細藻類を顕微鏡で容易にカウントすることができた。また、顕微鏡(倍率:10倍 )で前処理工程後の微細藻類が破砕されているかどうかを観察したが、採取した試料(10μL)をスライドガラスに滴下し、カバーガラス(22mm×22mm)の範囲内では、微細藻類の破砕は観察できなかった。
【0101】
(比較例1)
上記の如く培養した試料液を0.5mL採取し、図3で示した2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れ、超音波洗浄機USD−4R (アズワン株式会社)にセットした。そして、試料液に対して28kHzで5分間超音波を印加した後、微細藻類について顕微鏡で観察した。
【0102】
その結果を図7及び図8に示す。図7(倍率10倍)を見ると、微細藻類の凝集体の分散状態は超音波を印加しない前の状態に近く、超音波の印加による分散化の程度は実施例1(図6)に比べて明らかに悪かった。また、顕微鏡(倍率:40倍)で超音波処理後の微細藻類が破砕されているかどうかを観察したが、細胞が部分的に壊れていた。このように、超音波処理を行うことによって、分散がうまくいかず、しかも部分的に細胞が壊れたものも存在した(図8)。
【0103】
実施例1と比較例1との対比から分かるように、従来の超音波処理は分散効率が悪く、且つ部分的に細胞が壊れたのに対し、試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器22を前処理装置10で高速振幅運動させた実施例1は、高い分散効率を示すとともに、微細藻類の破砕を効果的に抑制することができた。
【0104】
(比較例2)
上記の如く培養した試料液を0.5mL採取し、2mLの蓋22A付き密閉容器22に入れるとともに、直径2mmのジルコニアビーズ20個を密閉容器22に入れた。そして、密閉容器22を実施例1と同様に前処理装置10にセットし、実施例1と同じ5500rpmで20秒間の高速振幅運動を行った。
【0105】
その結果を図9(倍率10倍)に示す。図9から分かるように、密閉容器22内にジルコニアビーズを入れることによって、微細藻類の細胞が破砕されており、微細藻類数を正確にカウントすることができなかった。
【0106】
実施例1と比較例2との試験結果から分かるように、本発明のおける前処理工程は、基本的に密閉容器22内にジルコニアビーズ等のビーズを入れることは、微生物の破砕を抑制しながら凝集体の分散効果を得る上で好ましくない。したがって、密閉容器22の振幅数と振幅時間との組み合わせを変えることで高速振幅運動を行うことが好ましい。しかし、微生物によっては凝集性が極めて高く十分な分散効果が得られない場合が想定されるので、予め予備試験等により微生物を破砕しない条件(ビーズ径、ビーズ数)を把握した上でビーズを使用することは可能である。要は、微生物の破砕を抑制しつつ凝集体を効果的に分散させることができればよい。
【0107】
[実施例B]
実施例Bでは、前処理工程において密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率の好ましい範囲について調べた。
【0108】
2mLの蓋22A付き密閉容器22を10本用意し、実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を、それぞれ0.1mL(容積比率5%)、0.2mL(容積比率10%)、0.3mL(容積比率15%)、0.4mL(容積比率20%)、0.5mL(容積比率25%)、1.0mL(容積比率50%)、1.2mL(容積比率60%)、1.5mL(容積比率75%)、1.8mL(容積比率90%)、2.0mL(容積比率100%)充填した。但しビーズは使用していない。そして、実施例Aで使用したと同じ前処理装置10に10本の密閉容器22をセットし、5500rpmで20秒間前処理工程を行った。
【0109】
その結果を図10の表に示す。なお、分散効果の評価判定は次のように行った。
【0110】
○…図6と同程度まで分散されて顕微鏡で容易に微細藻類数をカウントできる
△…図11に示すように凝集体は存在するがその大きさが小さく微細藻類をカウント可能
×…図5及び図7に示すように凝集体の大きさが大きく微細藻類数をカウントすることが困難
図10の表の結果から分かるように、密閉容器22への充填量が0.1mL(容積比率5%)及び0.2mL(容積比率10%)の場合には×の評価であり、分散効果が悪く微細藻類数のカウントが困難であった。充填量を0.3mL(容積比率15%)まで多くすると、△の評価になり、0.4mL(容積比率20%)〜1.2mL(容積比率60%)までは○の評価であった。更に、充填量を上げて1.5mL(容積比率75%)にすると△の評価になり、1.8mL(容積比率90%)以上では×の評価となった。
【0111】
このように、密閉容器22に充填する試料液の充填量が少な過ぎても多過ぎても凝集体を良好に分散させることができなかった。このことは、高速振幅運動したときの密閉容器22内のヘッドスペースが凝集体の分散効率に大きく影響していることが推察される。また、充填量が少な過ぎても分散性が悪くなる理由は、試料液の重量が軽過ぎて高速振幅運動時における密閉容器内壁への衝突力が小さいため、凝集体を分散させるに足るエネルギーを十分に発揮できないためと推察される。
【0112】
密閉容器22に試料液をどの程度充填することが好ましいかを、密閉容器22の内容積に対する試料液の容積比率でみた場合、図10の試験結果から15容積%〜75容積%の範囲であることが好ましく、20容積%〜60容積%であることが特に好ましい。
【0113】
[実施例C]
実施例Cは、前処理工程における高速振幅運動の好ましい振幅数と振幅時間について調べたものである。
【0114】
2mLの蓋22A付き密閉容器22を9本用意し、実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を0.5mL充填した。但しビーズは使用しなかた。そして、9本の密閉容器22を実施例Aで使用したと同じ前処理装置10に試験ロットごとにセットし、前処理工程を行った。即ち、2000rpm、2500rpm、3000rpm、3500rpm、4000rpm、4500rpm、5000rpm、5500rpmの振幅数で振幅時間20秒間の高速振幅運動を行った。
【0115】
その結果を図12の表に示す。また、分散効果の評価判定は実施例Bと同様である。
【0116】
図12から分かるように、振幅数が0(高速振幅運動なしの状態)〜3000rpm(振幅数×振幅時間が0〜60000)までは×の評価であったが、3500〜4000rpm(振幅数×振幅時間が70000〜80000)で△の評価まで良くなり、4500〜5500rpm(振幅数×振幅時間が90000〜110000)で○の評価となった。この結果から、振幅時間が20秒と比較的短い場合には、振幅数は3500rpm以上が必要であり、4500rpm以上にすることが一層好ましことが分かる。
【0117】
このことから、試験を行った0〜5500rpmの振幅数範囲のうち、△の評価を得た3500rpmと、○の評価を得た5500rpmの2水準について振幅時間を5秒から60秒まで検討したときに評価がどうなるかを調べた。
【0118】
その結果を図13の表に示す。図13から分かるように、振幅数3500rpmでは、振幅時間10秒間(振幅数×振幅時間が35000)までは×の評価であったが、20秒間(振幅数×振幅時間が70000)で△の評価になり、60秒間(振幅数×振幅時間が210000)で○の評価になった。一方、振幅数5500rpmでは、5秒間(振幅数×振幅時間が27500)の振幅時間で既に○の評価になり60秒間(振幅数×振幅時間が330000)まで○の評価であった。
【0119】
上記図12の表及び図13の表の試験結果から、微細藻類の場合には、破砕に対する影響を考慮すると、振幅時間60秒以内で高速振幅運動を行うことが好ましく、そのためには振幅数は少なくとも3500rpm以上で行うことが好ましく、5500rpm〜10000rpmの範囲で行うことが一層好ましい。振幅数の上限を10000rpmとしたのは、10000rpmを超えると前処理装置10からの発熱が大きく、発熱による温度上昇は一般的な微生物の活性にとって好ましくないためである。
【0120】
したがって、上記結果をまとめると、高速振幅運動としては、密閉容器22を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が70000〜330000の範囲であることが好ましい。
【0121】
[実施例D]
実施例Dでは、本発明の微生物の処理方法の効果を調べたものであり、前処理工程を目的処理工程の一態様である増殖処理に組み込んだときの増殖効果を調べた。
【0122】
実施例Aと同様に培養した微細藻類の試料液を、2mLの蓋付き密閉容器22に1mL充填(容積比率50容積%)し、5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理工程を行って微細藻類を分散させた。前処理工程後の試料液を、500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種し、振盪培養機(RGS−20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。その結果、培地中には茶色の凝集した微細藻類の凝集体が形成された。
【0123】
このようにして得られた茶色の凝集体を試験サンプルとして取り出して半分に分け、そのうちの一方の凝集体(試験サンプル1)を2mLの蓋つき密閉容器22に1mL充填し、5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理工程を再び行うことで凝集体をバラバラに壊した。そして、前処理工程を行った後の試験サンプル1を、500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種した。
【0124】
また、半分に分けたうちの他方の凝集体(試験サンプル2)は、前処理工程を行わずに500mL三角フラスコに滅菌したIMK培地を200mL入れた培地上に播種した。なお、試験サンプル1と試験サンプル2の両方ともに、播種量は2.5×104個/mLの藻体濃度である。播種量の確認は、試験サンプル1及び2を前処理装置10でそれぞれ5500rpmで20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理した試料を、血球計数盤を用いてカウントすることにより行った。
【0125】
次に、試験サンプル1と試験サンプル2のそれぞれの三角フラスコを、振盪培養機(RGS−20RL)にセットし、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで17日間培養した。そして、培養後、3日目、5日目、10日目、17日目に、試験サンプル1及び試験サンプル2のそれぞれの三角フラスコから培養溶液を取り出し、2mLの蓋付き密閉容器22に0.5mL入れ、前処理装置10にセット後、5500rpm20秒間(振幅数×振幅時間が110000)前処理を行った後、血球計数盤を用いて微細藻類数をカウントした。
【0126】
図14のグラフに、培養日数に対する藻体濃度の関係を示した。
【0127】
図14の結果から分かるように、培養日数が5日目までは、前処理工程を行ってから培養工程を行った試験サンプル1も、前処理工程を行わずに培養工程を行った試験サンプル2も藻体濃度はほぼ同一であった。
【0128】
しかしながら、培養日数が5日目以降になると、試験サンプル1は藻体濃度曲線は上昇する傾向にあるのに対して、試験サンプル2は藻体濃度曲線が寝る傾向にある。具体的には、培養日数17日目における試験サンプル1の藻体濃度は63×105個/mLまで高くなったのに対して、試験サンプル2の藻体濃度は39×105個/mLであった。
【0129】
[実施例E]
実施例Eでは、実施例Dにおける前処理工程の条件(振幅数及び振幅時間)を変えたときに、培養速度がどのようになるかを調べた。
【0130】
実施例Dと同様の操作により微細藻類の凝集体を有する試験サンプルを調製した。次に、2mLの蓋付き密閉容器22を4本用意し、試験サンプルを5つに分け(試験サンプル1、2、3、4)、これらの試験サンプル1〜4をそれぞれの密閉容器22に0.5mL充填した。
【0131】
そして、試験サンプル1〜4を次の条件で前処理工程を行った。
【0132】
・試験サンプル1…振幅数0rpm、振幅時間0秒(前処理工程なし)
・試験サンプル2…振幅数2000rpm、振幅時間5秒(振幅数×振幅時間が10000)
・試験サンプル3…振幅数2000rpm、振幅時間20秒(振幅数×振幅時間が40000)
・試験サンプル4…振幅数5500rpm、振幅時間20秒(振幅数×振幅時間が110000)
このように作成した試験サンプル1〜4のそれぞれを、100mLの三角フラスコに25mLの滅菌したIMK培地を入れた培地上に播種し、振盪培養機(RGS−20RL)を用いて、照度2000LUXの下、温度20℃、振盪数100rpmで培養した。
【0133】
そして、培養開始から10日目に培養を停止して、それぞれの三角フラスコから試料(試験サンプル1〜4)をそれぞれ0.5mL採取した。採取した試料を、2mLの蓋付き密閉容器22にそれぞれ充填して前処理装置10にセットし、5500rpmで20秒間前処理工程を行って分散した後、血球計数盤を用いて藻体数をカウントした。
【0134】
その結果を図15の表に示す。なお、培養開始時の100mL三角フラスコ中の藻体濃度は1.6×105個/mLであった。
【0135】
図15の結果から分かるように、前処理工程を行わないで培養処理を行った試験サンプル1の微細藻類濃度は4.1×105個/mLであった。
【0136】
これに対して、2000rpmで5秒間前処理工程を行った後で培養処理を行った試験サンプル2の微細藻類濃度は5.2×105個/mLであり、2000rpmで20秒間前処理工程を行った試験サンプル3の微細藻類濃度は5.8×105個/mLであった。また、5500rpmで20秒間前処理工程を行った後で培養処理を行った試験サンプル4の微細藻類濃度は6.0×105個/mLであった。
【0137】
試験サンプル2と3との対比から分かるように、同じ振幅数であれば、振幅時間が長いほど、即ち微生物凝集体の分散程度が大きいほど、培養処理での培養速度は向上する。また、試験サンプル3と4との対比から分かるように、振幅時間が同じあれば、振幅数が大きいほど、即ち微生物凝集体の分散程度が大きいほど、培養処理での培養速度は向上する。
【0138】
上記した実施例D及びEの結果から分かるように、目的処理工程の一態様である培養処理を行う前に、微生物を含む試料液の所定量を密閉容器22に充填し、該密閉容器22を高速振幅運動させる前処理工程を行うことで培養速度を向上させることができる。これは、微生物の増殖処理に前処理工程を組み合わせることで、微生物の破砕を抑制しつつ微生物凝集体を効果的に分散させることができるので、個々の微生物が栄養源等の増殖に必要な要素に接触し易くなり、要素を十分に取り込むことができるためと考察される。これにより、増殖速度の遅い微生物であっても従来に比べて顕著に増殖速度を向上させることができる。
【0139】
なお、培養速度を示す藻体濃度と、(振幅数×振幅時間)との関係をみると、振幅数×振幅時間が10000以上で効果が発揮されており、実施例C(図12、図13)の分散効率を調べた試験での振幅数×振幅時間の下限値70000よりも低い値で良い結果がでている。
【符号の説明】
【0140】
10…前処理装置、12…装置本体、14…蓋部材、16…容器ホルダー、18…駆動軸、20…駆動部、22…密閉容器、24…チャック部、26…試料液、28…ON−OFFスイッチ、30…振幅数ダイヤル、32…タイマーダイヤル、34…切り換えスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、
前記目的処理工程を行う前に、前記微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行うことを特徴とする微生物の処理方法。
【請求項2】
前記所定量は、前記密閉容器の内容積に対する前記試料液の容積比率が15〜75容積%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の微生物の処理方法。
【請求項3】
前記高速振幅運動は、前記密閉容器を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物の処理方法。
【請求項4】
前記密閉容器の振幅形態は、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項5】
前記前処理工程では、前記試料液が充填された密閉容器内に消泡剤を添加することを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項6】
前記前処理工程を複数回に分けて行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項7】
前記微生物は凝集性を有する微生物であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項8】
前記凝集性を有する微生物が微細藻類であることを特徴とする請求項7に記載の微生物の処理方法。
【請求項9】
前記微生物は複数種の微生物から構成された集合体であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項10】
前記微生物がバイオマスを産生する微生物であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項11】
前記バイオマスを産生する微生物がBotryococcus属であることを特徴とする請求項10の微生物の処理方法。
【請求項12】
前記目的処理工程が前記微生物の増殖処理の場合には、前記前処理工程と前記目的処理工程とを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜11の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項1】
微生物数のカウント処理、微生物の増殖処理、微生物の純菌化処理の何れか1の目的処理を行う微生物の処理方法において、
前記目的処理工程を行う前に、前記微生物を含む試料液の所定量を密閉容器に充填し、該密閉容器を高速振幅運動させる前処理工程を行うことを特徴とする微生物の処理方法。
【請求項2】
前記所定量は、前記密閉容器の内容積に対する前記試料液の容積比率が15〜75容積%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の微生物の処理方法。
【請求項3】
前記高速振幅運動は、前記密閉容器を振幅数(rpm)×振幅時間(秒)が10000〜3000000の範囲になるように振幅させることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物の処理方法。
【請求項4】
前記密閉容器の振幅形態は、上下方向、左右方向、前後方向の少なくとも1形態であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項5】
前記前処理工程では、前記試料液が充填された密閉容器内に消泡剤を添加することを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項6】
前記前処理工程を複数回に分けて行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項7】
前記微生物は凝集性を有する微生物であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項8】
前記凝集性を有する微生物が微細藻類であることを特徴とする請求項7に記載の微生物の処理方法。
【請求項9】
前記微生物は複数種の微生物から構成された集合体であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項10】
前記微生物がバイオマスを産生する微生物であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【請求項11】
前記バイオマスを産生する微生物がBotryococcus属であることを特徴とする請求項10の微生物の処理方法。
【請求項12】
前記目的処理工程が前記微生物の増殖処理の場合には、前記前処理工程と前記目的処理工程とを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜11の何れか1に記載の微生物の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2011−87477(P2011−87477A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241663(P2009−241663)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]