説明

微生物発電方法および装置

【課題】微生物発電装置の発電効率を長期間安定して高効率に維持する。
【解決手段】槽体30内に2枚の板状の区隔材31,31が互いに平行に配置されることにより、該区隔材31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該区隔材31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。正極室33の散気管51に酸素含有ガスを供給して正極溶液を曝気し、負極室に負極溶液Lを供給し、好ましくは負極溶液を循環させる。負極室32内通液量を間欠的に増加させる。負極室32への通液量を増加させると、負極室32内の微生物担体に固着した微生物群の剥離、分散、一部流出が起こり、負極室32内の微生物量が低減してプロトン移動の促進、隔膜の抵抗低下、液の均一分散が達成され、この結果、発電量の低下が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法および装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に配慮した発電方法へのニーズが高まり、微生物発電の技術開発も進められている。微生物発電は、微生物が有機物を資化する際に得られる電気エネルギーを取り出すことにより発電する方法である。
【0003】
一般的に、微生物発電では負極が配置された負極室内に、微生物、微生物に資化される有機物、および電子伝達媒体(電子メディエータ)を共存させる。電子メディエータは微生物体内に入り、微生物が有機物を酸化して発生する電子を受け取って負極に渡す。負極は外部抵抗(負荷)を介して正極と電気的に導通しており、負極に渡された電子は外部抵抗(負荷)を介して正極に移動し、正極と接する電子受容体に渡される。このような電子の移動により正極と負極との間に電流が流れる。
【0004】
微生物発電では、電子メディエータが微生物体から直接、電子を取り出すため、理論上のエネルギー変換効率は高い。しかし、実際のエネルギー変換効率は低く、発電効率の向上が求められている。そこで、発電効率を高めるため、電極の材料や構造、電子メディエータの種類、および微生物種の選択等について様々な検討および開発が行われている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0005】
特許文献1には、正極室と負極室とを固体電解質よりなるアルカリイオン導電体で隔て、正極室内及び負極室内をリン酸緩衝液(バッファ)でpH7とし、正極室内に空気を吹き込んで発電を行うことが記載されている。この特許文献1の第0010段落には、正極溶液中に酸化還元試薬としてフェリシアン化カリウムを存在させることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、正極室と負極室とを区画するイオン交換膜等の電解質膜に接触するように、正極及び負極を設置し、正極室を空室とし、空気を流通させることが記載されている。この特許文献2の第0012〜0013段落には、正極に電極反応促進用の触媒としてMnOを担持させることが記載されている。
【0007】
従来、このような微生物発電装置における発電効率の向上を目的として、
1)負極のメディエーター(例えば特許文献3)
2)負極室のpH調整
3)正極触媒の種類や触媒活性成分の担持方法
4)正極の形状
などについての検討がなされている。
【0008】
また、負極室への通液を正極側へ向けることによって、発電量が増加したという報告がなされているが(非特許文献1)、微生物発電装置による発電効率の長期安定化についての検討は報告されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−133326号公報
【特許文献2】特開2004−342412号公報
【特許文献3】特開2006−331706号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cheng,S.,et.al., Env.Sci.Technol.,2006,40,2426-2432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
微生物発電装置での発電を長期間継続すると、発電量が徐々に低下してくる。この発電量低下の原因は、装置の形状、運転方法により様々であるが、特に、正極室にフェリシアン塩等の酸化還元試薬を連続供給することによって、正極反応が律速とはならず、かつ安定している条件においても、運転を数ヶ月継続すると発電量の低下がみられる。
【0012】
本発明は、この発電量の低下を防止し、微生物発電装置の発電効率を長期間安定して高効率に維持する微生物発電方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく種々対策を検討した結果、負極室への通液量を間欠的に上昇させることによって、この長期連続運転時の発電量の低下を防止することができることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しプロトン透過体を介して隔てられた、正極を有する正極室とを備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給すると共に、該負極室に有機物含有水を通液して発電を行う微生物発電方法において、該負極室内の通液量を間欠的に増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【0015】
[2] [1]において、該負極室からの流出液の一部を循環液として該負極室に通液する方法であって、該循環液量を間欠的に増加させることによって、該負極室内の通液量を増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【0016】
[3] [1]又は[2]において、該正極室が正極溶液を保持することを特徴とする微生物発電方法。
【0017】
[4] [3]において、該正極溶液が酸化還元試薬を含むことを特徴とする微生物発電方法。
【0018】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、該負極室内の通液量を間欠的に通常運転時の1.5〜20倍に増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【0019】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、該負極室内の通液量を1〜3日に1〜2回の頻度で増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【0020】
[7] [6]において、該負極室の通液量を1日に1回の頻度で1分〜5時間増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【0021】
[8] 負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しプロトン透過体を介して隔てられた、正極を有する正極室と、該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と、該負極室に有機物含有水を通液する手段とを備えた微生物発電装置において、該負極室内の通液量を間欠的に増加させる流量調整手段を有することを特徴とする微生物発電装置。
【0022】
[9] [8]において、該負極室からの流出液の一部を循環液として該負極室に通液する循環手段を有し、該流量調整手段は、該循環手段の循環液量を間欠的に増加させる手段であることを特徴とする微生物発電装置。
【0023】
[10] [8]又は[9]において、該正極室が正極溶液を保持することを特徴とする微生物発電装置。
【0024】
[11] [10]において、該正極溶液が酸化還元試薬を含むことを特徴とする微生物発電装置。
【0025】
[12] [8]ないし[11]のいずれかにおいて、該負極室内の通液量を間欠的に通常運転時の1.5〜20倍に増加させることを特徴とする微生物発電装置。
【0026】
[13] [8]ないし[12]のいずれかにおいて、該負極室内の通液量を1〜3日に1〜2回の頻度で増加させることを特徴とする微生物発電装置。
【0027】
[14] [13]において、該負極室の通液量を1日に1回の頻度で1分〜5時間増加させることを特徴とする微生物発電装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、負極室への通液量を間欠的に増加させるという簡易な操作により、微生物発電装置の長期連続運転時の発電量の低下を防止して、微生物発電装置の発電効率を長期間安定して高効率に維持することができる。
【0029】
本発明に従って、負極室への通液量を増加させることによる発電効率の長期安定化の理由は明確ではないが、次のように推定される。
【0030】
通常、微生物発電装置の発電量の低下が始まるのは、装置の運転開始から1ヶ月以上後であることから、発電量の低下は、発電微生物の負極室内での増殖と関係していると推定される。
即ち、負極室内の微生物担体に微生物が多量に付着増殖すると、以下の現象が起こる。
1.微生物層が厚くなることによるプロトンの移動速度低下
2.隔膜に微生物が付着することによる隔膜の抵抗増加
3.過剰な微生物が増殖することによる水路の形成による液の不均一分散
これらは、いずれも発電量の低下を招く原因であると判断される。
【0031】
そこで、負極室への通液量を増加させると、負極室内の微生物担体に固着した微生物群の剥離、分散、一部流出が起こり、負極室内の微生物量が低減してプロトン移動の促進、隔膜の抵抗低下、液の均一分散が達成され、この結果、発電量の低下が防止されるものと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る微生物発電装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0034】
第1図は本発明の実施の形態に係る微生物発電装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0035】
槽体1内がプロトン透過性の区隔材2によって正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内にあっては、区隔材2に密着するように、導電性多孔質材料よりなる正極5が配置されている。正極5と槽体1の壁面との間のスペースは正極溶液で満たされている。この正極溶液を曝気するように、正極室3内の下部に散気管7が設けられている。この散気管7に空気などの酸素含有ガスが導入され、正極室上部のガス流出口8から曝気排ガスが流出する。なお、曝気に伴って正極溶液が蒸発したり、飛散して減少するので、弁15を有した補給口16から補充用の正極溶液を適宜供給する。
【0036】
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極6が配置されている。この負極6は、区隔材2に密着しており、負極6から区隔材2にプロトン(H)が受け渡し可能となっている。
【0037】
この多孔質材料よりなる負極6に微生物が担持されている。負極室4には流入口4aから負極溶液Lを導入し、流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
【0038】
負極室4内の負極溶液Lは循環往口9、循環配管10、循環用ポンプ11及び循環戻口12を介して循環される。この循環配管10には、負極室4から流出してきた液のpHを測定するpH計14が設けられると共に、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ添加用配管13が接続されている。
【0039】
散気管7に空気を供給して正極室3内の正極溶液を曝気すると共に、必要に応じポンプ11を作動させて負極溶液Lを循環させることにより、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子22、外部抵抗21、端子20を経て正極5へ流れる。
【0040】
上記反応で生じたプロトンHは、区隔材2を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。このような反応により、正極5と負極6との間に起電力が生じ、端子20,22を介して外部抵抗21に電流が流れる。
【0041】
負極室4では、微生物による有機物の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計14の検出pHが好ましくは7〜9となるようにアルカリが負極溶液Lに添加される。このアルカリは、負極室6に直接に添加されてもよいが、循環水に添加することにより、負極室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7〜9に保つことができる。
【0042】
第2図は本発明の別の実施の形態に係る微生物発電装置の概略的な断面図である。
【0043】
略直方体形状の槽体30内に2枚の板状の区隔材31が互いに平行に配置されることにより、該区隔材31,31同士の間に負極室32が形成され、該負極室32とそれぞれ該区隔材31を隔てて2個の正極室33,33が形成されている。
【0044】
負極室32内には、各区隔材31と密着するように、多孔質材料よりなる負極34が配置されている。負極34は、区隔材に対し軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられている。
【0045】
正極室33内には、区隔材31と接して多孔質材料よりなる正極35が配置されている。この正極35は、ゴム等よりなるスペーサ36に押圧されて区隔材31に軽く(例えば0.1kg/cm以下の圧力で)押し付けられて密着している。正極35と区隔材31との密着性を高めるために、両者を溶着したり、部分的に接着剤で接着してもよい。
【0046】
この正極35及び負極34は、端子37,39を介して外部抵抗38に接続されている。
【0047】
正極35と槽体30の側壁との間のスペースは正極溶液が満たされている。各正極室33内の下部に散気管51が設置され、正極溶液が曝気可能とされている。曝気排ガスは、正極室33の上部のガス流出口52から流出する。なお、図示は省略するが、各正極室33に対し正極溶液を補充するように補給口が設けられている。
【0048】
負極室32には、流入口32aから負極溶液Lが導入され、流出口32bから廃液が流出する。負極室32内は嫌気性とされる。
【0049】
負極室32内の負極溶液は、循環往口41、循環配管42、循環ポンプ43及び循環戻口44を介して循環される。この循環配管42に、pH計47が設けられると共に、アルカリ添加用配管45が接続されている。負極室32から流出する負極溶液のpHをpH計47で検出し、このpHが好ましくは7〜9となるように水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリが添加される。
【0050】
この第2図の微生物発電装置においても、散気管51に酸素含有ガスを供給して正極室33内の正極溶液を曝気すると共に、負極室32に負極溶液を流通させ、好ましくは負極溶液を循環させることにより、正極35と負極34との間に電位差が生じ、外部抵抗38に電流が流れる。
【0051】
第1,2図では、散気管を正極室3,33内に配置して正極室3,33内で正極溶液の曝気を行っているが、正極室内の正極溶液を別の曝気室に導入して曝気してもよい。
【0052】
第1,2図に示す微生物発電装置においては、負極室4,32内の負極溶液を循環させる循環ポンプ11,43の回転を制御して循環液量を増減する制御装置100が設けられ、間欠的に循環液量を通常運転時の循環液量よりも増加させて、負極室4,32内の通液量を増加させることができるように構成されている。
【0053】
この制御装置100により、循環ポンプ11,43の回転を制御して循環液量を間欠的に通常運転時よりも増加させることにより、負極室4,32内通液量を間欠的に増加させることができ、前述の如く、負極室4,32内の微生物量を一時的に低減させ、微生物の過剰増殖による発電量の低下を防止して発電効率を安定に維持することができる。
【0054】
本発明において、負極室内の通液量の増加の程度には特に制限はないが、通常運転時の負極室通液量(以下「通常負極通液量」と称す。)に対して、通液量増加時の通液量(以下「増加負極通液量」と称す。)が、1.5〜20倍、特に2〜5倍程度となるようにすることが好ましい。通常負極通液量に対する増加負極通液量の割合が上記下限未満では、通液量を増加させることによる本発明の効果を十分に得ることができず、上記上限を超えると、区隔材であるプロトン透過体の破損の恐れがある。
【0055】
この通液量の増加は、急激に行う方が、通液量増加の効果が有効に発揮されることができるが、過度に急激に通液量を増加させると区隔材破損の恐れがあるため、通常負極通液量から増加負極通液量への通液量の増加は、増加負極通液量の程度にもよるが、数秒〜数分、例えば、2秒〜1分、好ましくは5〜10秒かけて行うことが好ましい。なお、増加負極通液量から通常負極通液量へ戻すときの通液量の低減に要する時間については特に制限はなく、瞬時に行ってもよい。
【0056】
本発明において、この負極室内通液量の増加は、定期的に行っても不定期的に行っても良いが、制御装置100にタイムテーブルを繰み込んで定期的に行うことが、自動運転管理が容易となり好ましい。
【0057】
定期的に負極室内通液量を増加させる場合、その頻度としては、1日に1〜2回程度が好ましいが、2〜3日に1回でも発電量の低下を防止することはできる。
また、負極室内通液量を増加させる時間は、増加負極通液量や通液量を増加させる頻度によっても異なり、1日に1回の頻度で増加させる場合は、1分〜5時間程度、好ましくは10分〜2時間程度とし、微生物発電装置の連続運転期間中の、増加負極通液量で運転する期間(以下、増加負極通液量で運転することを「増加流量運転」と称し、その期間を「増加流量運転期間」と称す。)と、通常負極通液量で運転する期間(以下、通常負極通液量で運転することを「通常流量運転」と称し、その期間を「通常流量運転期間」と称す。)との比、即ち、増加流量運転期間:通常流量運転期間が1:12〜240程度となるようにすることが好ましい。
【0058】
1回の増加流量運転の時間が短い、或いは増加流量運転の頻度が低い、或いは全体の増加流量運転期間が短いと、本発明による効果を十分に得ることができず、逆に、1回の増加流量運転の時間が長い、或いは増加流量運転の頻度が高い、或いは全体の増加流量運転期間が長いと、区隔材に対する応力増加時間が長くなることで、区隔材が損傷しやすくなり、また、多大なポンプ動力を必要とする点でも好ましくない。
【0059】
なお、上記通常流量運転期間とは、通常負極通液量から増加負極通液量へ通液量を増加させ、再び通常負極通液量に戻す流量増減期間も含むものであり、また、増加流量運転中においては、必ずしも常に流量を一定に保つ必要はなく、数秒〜数分の間隔で適宜流量を増減させても良く、この流量の増減を複数回、例えば2〜10回程度繰り返しても良い。
【0060】
本発明によれば、このように、負極室循環液量を増減させるという簡易な操作で、通常流量運転と増加流量運転とを交互に行って、発電量の長期安定化を図ることが可能となる。
【0061】
なお、第1図及び第2図の装置では、負極室循環液量の制御で負極室内通液量を増加させているが、負極室内通液量の増加は、負極室への負極溶液Lの供給量の増加により行うことも可能である。ただし、負極溶液Lの供給量を増減することは、発電の安定化には好ましくなく、一方で、負極溶液Lの有機物濃度が高い場合には、通常、希釈のために、第1図、第2図に示すように負極溶液の循環が行われているため、この循環液量の制御で増加流量運転を行うのが有利である。
【0062】
次に、本発明の微生物発電装置の微生物、負極溶液、正極溶液などのほか、区隔材、負極及び正極の好適な材料等について説明する。
【0063】
負極溶液L中に含有させることで電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas及びProteus(Proteus vulgaris)の各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種として負極室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、負極室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1〜50g/Lであることが好ましい。
【0064】
負極溶液Lとしては、微生物又は細胞を保持し、かつ発電に必要な組成を有する溶液が用いられる。例えば、呼吸系の発電を行う場合は、負極側の溶液としては、ブイヨン培地、M9培地、L培地、Malt Extract、MY培地、硝化菌選択培地などの呼吸系の代謝を行うのに必要なエネルギー源や栄養素などの組成を有する培地が利用できる。また、下水、有機性産業排水、生ゴミ等の有機性廃棄物を用いることができる。
【0065】
負極溶液L中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー−O等のチオニン骨格を有する化合物、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン等の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン−O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0066】
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
【0067】
負極溶液Lは、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
【0068】
負極溶液Lは有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが用いられる。負極溶液は、下水、食品工場排水などの有機性廃液であってもよい。負極溶液L中の有機物濃度は、発電効率を高くするために100〜10000mg/L程度の高濃度であることが好ましい。
【0069】
負極溶液の温度は10〜70℃程度が好ましい。
【0070】
正極溶液は、中性もしくはアルカリ性、例えばpH6.0〜9.0であることが好ましく、pHをこのような範囲に保つためにバッファを含有してもよい。
また、正極溶液は、電子受容体として、フェリシアン化カリウム、硫酸マンガン、塩化マンガン、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の酸化還元試薬を含んでいても良い。この場合、正極溶液中の酸化還元試薬濃度としては、10〜2,000mM程度が好ましい。
【0071】
正極溶液はまた、本出願人より出願された特願2008−78373に記載されるマンガンイオンを含むものであっても良い。この正極溶液としては、具体的には、硫酸マンガン、塩化マンガンなどの少なくとも1種よりなる可溶性マンガン塩が溶解しているものが好ましい。マンガンイオン濃度は、MnOに換算して好ましくは1,000〜200,000mg/L、より好ましくは2,000〜100,000mg/L、さらに好ましくは50,000〜100,000mg/Lの濃度で存在させることが好ましい。マンガンイオンの存在量が少なすぎると、正極とマンガンイオンとの間での電子受容反応および、還元されたマンガンイオンの酸化再生反応が遅くなる。
【0072】
正極溶液はまたキレート剤を含んでもよい。キレート剤を配合することにより、4価のマンガンが溶解状態で存在できるようになり、還元反応の速度が速くなるという効果が得られる。
【0073】
キレート剤としては、マンガンイオンとキレート化合物を形成するものであれば制限なく使用できる。具体的には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1,2-ジヒドロキシアントラキノン-3-イル-メチルアミノ-N,N’-二酢酸、5,5’-ジブロモピロガロールスルホフタレイン、1-(1-ヒドロキシ-2-ナフチルアゾ)-6-ニトロ-2-ナフトール-4-スルホン酸ナトリウム塩、シクロ-トリス-[7-(1-アゾ-8-ヒドロキシナフタレン-3,6-ジスルホン酸)]6ナトリウム塩、4-メチルアンベリフェロン-8-メチレンイミノ二酢酸、3-スルホ-2,6-ジクロロ-3’,3’’-ジメチル-4’-フクソン-5’,5’’-ジカルボン酸3ナトリウム塩、3,3’-ビス[N,N-ジ(カルボキシメチル)アミノメチル]チモ-ルスルホンフタレイン,ナトリウム塩、7-(1-ナフチルアゾ)-8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸ナトリウム塩、4-(2-ピリジルアゾ)レゾルシノール、ピロカテコールスルホンフタレイン、3,3’-ビス[N,N-ジ(カルボキシメチル)アミノメチル]-オルソ-クレゾールスルホンフタレイン,2ナトリウム塩などが挙げられる。なお、キレート剤は生物分解されにくい安定なものが望ましい。
【0074】
キレート剤の添加量は、特に限定されないが、カソード室に存在するマンガンをすべてキレート化する量が存在するような添加量とすることが望ましい。添加するキレート剤にもよるが、添加量は100mg/Lから100,000mg/L程度がよい。生物酸化によりマンガンを酸化再生する場合、キレート剤の濃度が高すぎると生物反応を阻害するので50,000mg/L以下、特に10,000mg/L以下が望ましい。
【0075】
正極に供給する酸素含有ガスとしては、空気が好適である。正極室からの排ガスは、必要に応じ脱酸素処理した後、負極室に通気し、負極溶液Lからの溶存酸素のパージに用いてもよい。
【0076】
酸素含有ガスの供給量としては、正極溶液の溶存酸素(DO)濃度を測定した場合にDOが検出される程度(例えば0.5mg/L以下)であればよい。
【0077】
区隔材としては、非導電性材料よりなる紙、織布、不織布、いわゆる有機膜(精密濾過膜)、ハニカム成形体、格子状成形体等が使用できる。区隔材としては、プロトンの移動の容易さから親水的な材料で構成されたものを用いるか、もしくは疎水膜を親水化した精密濾過膜が好ましい。疎水性の材料を使用する場合は、織布、不織布、ハニカム等の形状として水が通りやすいように加工するとよい。上記の非導電性材料としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、酢酸セルロース等が好適である。プロトンを透過させ易くするために、区隔材は厚さが10μm〜10mm特に0.03〜0.1mm程度の薄いものが好ましい。
【0078】
負極溶液として有機性廃水を用いる場合、懸濁物質等による目詰りを防止するために、区隔材として厚さ1〜10mm程度の通水性に優れる、例えばハニカム状、格子状等のものを用いるのが好ましい。負極溶液として廃水を用いない場合、区隔材としては、厚みおよび価格の点で、厚さが1mm以下の紙が最適である。また、PESやPVDFを親水化した精密濾過膜は厚みが極めて薄いため、高出力を求める場合の区隔材として好適である。さらに、コスト面ではポリエチレンまたはポリプロピレンから作られた不織布が好適である。
【0079】
負極は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する多孔体が好ましい。具体的には、少なくとも表面が粗とされた導電性物質のシートや導電性物質をフェルト状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。このような多孔質の負極を区隔材に密着させた場合、電子メディエータを用いることなく、微生物反応で生じた電子が負極に渡るようになり、電子メディエータを不要とすることができる。
【0080】
負極は、フェルト等の繊維体よりなることが好ましい。かかる負極は、負極室厚みよりも大きい厚さを有する場合、それを押し縮めて負極室に挿入し、それ自身の復元弾性によって区隔材に密着するようになる。
【0081】
複数のシート状導電体を積層して負極としてもよい。この場合、同種の導電体シートを積層してもよく、異なる種類の導電体シート同士(例えばグラファイトフェルトと粗面を有するグラファイトシート)を積層してもよい。
【0082】
負極は全体の厚さが3mm以上50mm以下、特に5〜40mm程度であることが好ましい。積層シートによって負極を構成した場合、シート同士の合わせ面(積層面)に沿って液が流れるように、積層面を液の流入口と流出口とを結ぶ方向に配向させるのが好ましい。
【0083】
正極は、フェルト状又は多孔質状の導電性材料、例えばグラファイトフェルト、発泡ステンレス、発泡チタン等で構成される。多孔質材の場合、空隙の直径が0.01〜1mm程度であることが好ましい。正極としては、区隔材と密着させやすい形状(例えば板状)にこれら導電性材料を成形されたものを用いることが好ましい。正極の厚みは0.03〜50mmであることが好ましい。
【0084】
なお、第1図及び第2図は、いずれも正極室内に正極溶液を保持した微生物発電装置を示しているが、本発明は、このような微生物発電装置に何ら限定されることなく、正極室を空室として空気を流通させるエアーカソードタイプの微生物発電装置にも適用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。説明の便宜上、まず比較例を挙げる。
【0086】
[比較例1]
第2図に示す微生物発電装置を作製した。この発電装置の槽体30の全体の容積は700mL、負極室32の容積は350mL、各正極室33の容積は175mLである。各正極室33には上部に空気流出口を設け、下部に散気管51を設けた。
【0087】
区隔材31としてカチオン透過膜(デュポン株式会社製 商品名(登録商標)「ナフィオン115」)を使用した。
【0088】
負極34としては、250mm×70mmで厚さ10mmのグラファイトフェルト(東洋カーボン株式会社製)2枚を導電性接着剤で張り合わせて構成した。接着剤は、グラファイトフェルトの面に部分的に(面全体の10%程度)に塗布し(いわゆる「ベタ塗り」を避け)、互いに向かい合うグラファイトフェルトの面の微小な凹凸が接着剤で埋められてしまわないようにした。各グラファイトフェルトの両表面は粗面である。なお、2枚のカーボンフェルトの積層体は負極室32の厚さと同じ厚さを有したものであり、負極室32内全体に充填され、区隔材31と接触する。
【0089】
この微生物発電装置は、従って、負極室32に供給された液はすべて多孔性の負極34を透過するように構成されており、負極34内を通らずに負極室32を通過すること(ショートパス)が実質的にないよう構成されている。負極室32には種菌として下水処理場の生物処理槽から採取した活性汚泥を添加して培養し、負極を構成する各グラファイトフェルトの表面に微生物を付着させた。負極室32内の微生物濃度は約2200mg/Lであった。
【0090】
正極35は、それぞれ、厚さ3mmのグラファイトフェルト1枚で構成し、厚さ5mmのハニカムスペーサ36を配置し、正極35を区隔材31に接触させた。このグラファイトフェルトは、厚さが異なる以外は負極用のグラファイトフェルトと同様の構成であり、両表面は粗面である。
正極室33には、電子受容体として50mMのフェリシアン化カリウムとリン酸バッファとを含む正極溶液(pH7.0)を70mL/minの流入量となるように供給した。
一方、負極室32には、1,000mg/Lの濃度の酢酸と、50mMの濃度のリン酸バッファ、及び塩化アンモニウム50mg/Lを含む負極溶液を1mL/minの流入量で供給し、同量の廃液を排出させた。
【0091】
循環配管42の循環流量は69mL/minとした。即ち、負極室32内の合計の通液量は70mL/min(=69+1)である。
pH計47の検出pHが約7.0となるように2Nの水酸化ナトリウムを循環液に添加した。外部抵抗は2.0Ωとした。負極引出線、正極引出線、及び導通線にはステンレス製針金を用いた。
【0092】
この装置で負極温度を25℃に維持して運転を開始した結果、2日後には、負極容積当たり100mW/m−負極の発電量となり、一週間後には300W/m−負極に達した。その後、約1ヶ月間、発電量は300〜330W/m−負極の範囲で維持された。
しかし、継続して運転した結果、徐々に発電量が低下し、運転開始から45日後には、220W/m−負極まで低下、60日後には140W/m−負極に、90日後には110W/m−負極に低下した。
【0093】
[実施例1]
比較例1におけると同一装置、同一条件で発電を行った。その結果、当初の発電量は比較例1と同様、1週間で300W/m−負極に達した。そこで、一日に一回の頻度で、循環液量を増加させることにより、負極室内通液量を70mL/minから700mL/minに増加させる増加流量運転を10分間行った。なお、この10分間の増加流量運転中、初期の5秒で循環液量を69mL/minから699mL/minに増加させ、その後9分50秒間循環液量を640mL/minで維持した後、5秒間で699mL/minから69mL/minに戻した。
このようにして通常流量運転と増加流量運転とを繰り返したところ、発電量は3ヶ月間、290〜350W/m−負極で安定した。
【0094】
[実施例2]
実施例1に引き続いて、負極室内通液量が70mL/min(通常流量運転)から210mL/min(増加流量運転)となるように、1日に1回の頻度で(ただし、土日は除く)、2時間の増加流量運転を行った。その結果、その後1ヶ月間発電量は、280〜330W/m−負極で安定していた。
なお、この2時間の増加流量運転中、初期の5分で循環液量を69mL/minから209mL/minに増加させ、その後1時間50分循環液量を150mL/minで維持した後、5分間で150mL/minから50mL/minに戻した。
【0095】
[実施例3]
実施例2に引き続き、1日に1回、負極室内通液量70mL/minの通常流量運転1分間と、負極室内通液量350mL/minの増加流量運転1分間とを交互に10回繰り返す運転を行った。その結果、発電量は、その後2ヶ月間以上、300〜350W/m−負極で安定していた。
なお、この増加流量運転は、循環液量69mL/minから5秒で349mL/minに増加させて55秒349mL/minを維持した後、瞬時に69mL/minに戻すものである。
【符号の説明】
【0096】
1,30 槽体
2,31 区隔材
3,33 正極室
4,32 負極室
5,35 正極
6,34 負極
7,51 散気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しプロトン透過体を介して隔てられた、正極を有する正極室と
を備えた微生物発電装置の該正極室に酸素含有ガスを供給すると共に、該負極室に有機物含有水を通液して発電を行う微生物発電方法において、
該負極室内の通液量を間欠的に増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項2】
請求項1において、該負極室からの流出液の一部を循環液として該負極室に通液する方法であって、該循環液量を間欠的に増加させることによって、該負極室内の通液量を増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、該正極室が正極溶液を保持することを特徴とする微生物発電方法。
【請求項4】
請求項3において、該正極溶液が酸化還元試薬を含むことを特徴とする微生物発電方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、該負極室内の通液量を間欠的に通常運転時の1.5〜20倍に増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該負極室内の通液量を1〜3日に1〜2回の頻度で増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項7】
請求項6において、該負極室の通液量を1日に1回の頻度で1分〜5時間増加させることを特徴とする微生物発電方法。
【請求項8】
負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、
該負極室に対しプロトン透過体を介して隔てられた、正極を有する正極室と、
該正極室に酸素含有ガスを供給する手段と、
該負極室に有機物含有水を通液する手段と
を備えた微生物発電装置において、
該負極室内の通液量を間欠的に増加させる流量調整手段を有することを特徴とする微生物発電装置。
【請求項9】
請求項8において、該負極室からの流出液の一部を循環液として該負極室に通液する循環手段を有し、該流量調整手段は、該循環手段の循環液量を間欠的に増加させる手段であることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項10】
請求項8又は9において、該正極室が正極溶液を保持することを特徴とする微生物発電装置。
【請求項11】
請求項10において、該正極溶液が酸化還元試薬を含むことを特徴とする微生物発電装置。
【請求項12】
請求項8ないし11のいずれか1項において、該負極室内の通液量を間欠的に通常運転時の1.5〜20倍に増加させることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項13】
請求項8ないし12のいずれか1項において、該負極室内の通液量を1〜3日に1〜2回の頻度で増加させることを特徴とする微生物発電装置。
【請求項14】
請求項13において、該負極室の通液量を1日に1回の頻度で1分〜5時間増加させることを特徴とする微生物発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−65820(P2011−65820A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214668(P2009−214668)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】