説明

微粒化固体電解質、微粒化固体電解質含有組成物、それからなる電極層及び電解質層、並びにリチウムイオン電池

【課題】一次粒子の凝集が起こり難い粒径が非常に小さい電解質粒子を含む組成物を提供する。
【解決手段】固体電解質微粒子及び溶媒を含む組成物であって、前記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒化固体電解質、微粒化固体電解質含有組成物、それからなる電極層及び電解質層、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のリチウムイオン電池には、電解質として有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、電解液が液体で且つ可燃性であることから、電池に用いた場合に、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。従って、次世代リチウムイオン電池用電解質として、より安全性の高い固体電解質の開発が期待されている。
【0003】
全固体電池を実現するために、固体電解質の開発が精力的に行なわれているが、イオン伝導度が有機系電解液に比べて一般的に小さく、実用化が難しいのが現状である。
また、固体電解質として室温で高いイオン伝導度(10−3S/cm)を示す材料としてLiNをベースとするリチウムイオン伝導性セラミックが報告されているが、分解電圧が低く、例えば3V以上で作動する全固体電池を構成することが困難であった。
【0004】
上記課題を解決するために、イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する固体電解質粒子であって、リチウムイオン電池の電解質層の厚さを薄くするため、全固体電解質粒子の90体積%以上が粒径20μm以下の技術が開発された(特許文献1)。
リチウムイオン電池の電解質層の厚さを薄くするとスラリー状態を一定時間維持させることを目的に、固体電解質粒子の平均粒径が1.5μm以下であって、固体電解質粒子の90%以上の粒子の体積粒径が2.5μm以下である固体電解質が開発された(特許文献2)。
【0005】
しかし、特許文献2の固体電解質粒子は、一定期間スラリー状態を維持できるが、一次粒子が分散してスラリー状態を維持しているものではないと推定される。また、徐々に粒子の凝集が起こりスラリー状態を維持し続けることが難しくなる。このスラリーは、一次粒子が分散しているスラリーではないので、非常に薄い電解質層を形成することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−4459号公報
【特許文献2】特開2009−211950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、粒径が非常に小さい電解質粒子であっても、一次粒子の凝集が起こり難い組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の組成物等が提供される。
1.少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である固体電解質微粒子。
2.固体電解質微粒子を含む組成物であって、前記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である組成物。
3.固体電解質微粒子及び溶媒を含む組成物であって、
前記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である組成物。
4.さらにニトリル化合物を含む3に記載の組成物。
5.前記溶媒が、有機溶媒である3又は4に記載の組成物。
6.少なくとも硫黄元素とリチウム元素とを含む固体電解質粒子を、ニトリル化合物及び溶媒を含む組成物中で粉砕する固体電解質微粒子の製造方法。
7.3〜5のいずれかに記載の組成物を用いて製造した電解質層。
8.3〜5のいずれかに記載の組成物を用いて製造した電極層。
9.固体電解質微粒子を含む電解質層であって、
前記固体電解質微粒子が、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である電解質層。
10.固体電解質微粒子を含む電解質層であって、
前記固体電解質微粒子が、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である電極層。
11.7及び9に記載の電解質層、並びに8及び10に記載の電極層の少なくとも1つを備えるリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒径が非常に小さい電解質粒子であっても、一次粒子の凝集が起こり難い組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の組成物は、固体電解質微粒子及び溶媒を含む組成物である。
上記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である。
【0011】
[固体電解質微粒子]
本発明の固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄(S)元素及びリチウム(Li)元素を含み、好ましくはさらにP、B、Si、Ge及びAlからなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含む。
固体電解質微粒子が、例えば硫化リチウム(LiS)及び五硫化二りん(P)から得られる固体電解質微粒子である場合、LiSとPの混合モル比は、通常LiS:P=50:50〜80:20であり、好ましくはLiS:P=60:40〜75:25であり、特に好ましくはLiS:P=68:32〜74:26(モル比)である。また、好ましくはLiS:P=68:32〜80:20(モル比)であり、特に好ましくはLiS:P=68:32〜76:24(モル比)である。
【0012】
固体電解質微粒子は、結晶化していても結晶化していなくてもよいが、結晶化固体電解質微粒子はイオン伝導度が高く、リチウムイオン電池を高性能化することができる。
固体電解質微粒子が、結晶化している場合、その結晶構造は好ましくはLi11構造体である。
【0013】
固体電解質微粒子は、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下であり、好ましくは体積基準平均粒子径が0.01μm以上0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.0μm以下である。
上記粒径を有する固体電解質微粒子を含む本発明の組成物は、膜厚10μm以下の電解質層を製造することができる。また、上記粒径を有する固体電解質微粒子を含む本発明の組成物を用いて製造した電極層では、電極活物質と電解質との接触点が増加し、リチウムイオン電池の出力を向上させることができる。
【0014】
レーザー回折式粒度分布測定方法は、組成物を乾燥せずに粒度分布を測定することができ、組成物中の粒子群にレーザーを照射してその散乱光を解析することで粒度分布を測定することができる。
【0015】
レーザー回折式粒度分布測定装置がMalvern Instruments Ltd社製マスターサイザー2000である場合の測定例は以下の通りである。
まず、装置の分散槽に脱水処理されたトルエン(和光純薬製、製品名:特級)110mlを入れ、さらに分散剤として脱水処理されたターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を6%添加する。ここで、トルエンに分散剤を添加するのは、固体電解質含有組成物内の「凝集している固体電解質粒子」を一次粒子にする(分散させる)ためではなく、測定する固体電解質含有組成物内の固体電解質粒子が凝集しないようにするためである。
上記混合物を十分混合した後、固体電解質含有組成物を添加して粒子径を測定する。固体電解質含有組成物の添加量は、マスターサイザー2000で規定されている操作画面で、粒子濃度に対応するレーザー散乱強度が規定の範囲内(10〜20%)に収まるように加減して加える。この範囲を超えると多重散乱が発生し、正確な粒子径分布を求めることができなくなるおそれがある。また、この範囲より少ないとSN比が悪くなり、正確な測定ができないおそれがある。マスターサイザー2000では、固体電解質含有組成物の添加量に基き、レーザー散乱強度が表示されるので、上記レーザー散乱強度に入る添加量を見つけるとよい。
固体電解質含有組成物の添加量は組成物の濃度によって最適量は異なるが、概ね10μL〜200μL程度である。
【0016】
本発明の固体電解質微粒子を含む組成物では、沈降容積分率が、好ましくは20%以上95%以下であり、より好ましくは30%以上90%以下であり、さらに好ましくは50%以上90%以下であり、最も好ましくは50%以上80%以下である。
上記沈降容積分率は、「固体電解質粒子が沈降した容積/全スラリー容積×100」で表わされ、一次粒子の凝集状態に関係する指標である。沈降容積分率が20%未満の場合、粉砕エネルギーが凝集体の再粉砕に使われるために、微粒化が十分に行われないおそれがあるほか、固体電解質粒子を含む組成物をバーコート法等により塗布する場合に、一部にしか固体電解質膜を形成する事ができず、均一な膜を形成することができないおそれがある。一方、沈降容積分率が95%超の場合、組成物を乾燥して固体電解質粉体を得る時や固体電解質膜を得る場合に、溶媒の乾燥が十分に行われなくなるおそれがある。
沈降容積分率は、後述する実施例に記載の方法で評価できる。
【0017】
[溶媒]
本発明の組成物の溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくは固体電解質と反応性の少ない炭化水素類である
上記炭化水素類としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、デカリン等が挙げられる。塗布形成後の乾燥工程を考慮した場合、沸点が低いヘキサン、トルエン及びキシレンが好適に使用できる。
【0018】
本発明の組成物は、好ましくは固体電解質微粒子と溶媒を5:95〜50:50(重量比)で含み、より好ましくは5:95〜5:30(重量比)で含む。
固体電解質微粒子の含有量が少ない5:95(重量比)未満では、後述する製造方法において、固体電解質の粉砕量が少ないために製造の効率が悪くなるおそれがあり、50:50超では、組成物スラリーの粘度が増大して、移送等の点で取扱いにくくなるおそれがある。
【0019】
[ニトリル化合物]
本発明の組成物は、好ましくはさらにニトリル化合物を含む。
ニトリル化合物は、例えば下記式(1)で表わされる化合物である。
【化1】

(式中、Rは、炭素数が1以上10以下のアルキル基、環形成炭素数が3以上10以下のシクロアルキル基、又は環形成炭素数が6以上18以下の芳香族環を有する基であり、好ましくは分岐した構造を有する炭素数3以上6以下のアルキル基であり、より好ましくは分岐した構造を有する炭素数3以上5以下のアルキル基である。)
【0020】
上記ニトリル化合物としては、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリル、ターシャルブチロニトリル、イソブチロニトリル等が挙げられ、好ましくはイソブチロニトリルである。
【0021】
ニトリル化合物を含む場合の本発明の組成物は、好ましくはニトリル化合物と溶媒を0.1:99.9〜50:50(重量比)で含み、より好ましくは1:99〜30:70(重量比)で含み、さらに好ましくは3:97〜15:85(重量比)で含む。
ニトリル化合物の含有量が少ない0.1:99.9(重量比)未満では、固体電解質微粒子の分散効果が低くなるおそれがあり、ニトリル化合物の含有量が多い50:50超では、固体電解質微粒子の分散効果が向上しないおそれがある。
【0022】
[製造方法]
本発明の固体電解質微粒子及び本発明の組成物は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素とを含む固体電解質粒子を、ニトリル化合物及び溶媒を含む組成物中で粉砕することで製造することができる。
【0023】
粉砕する固体電解質粒子の組成及び構造、ニトリル化合物、溶媒、並びにこれらの混合比(重量比)は、上記と同様である。
尚、特にニトリル化合物の溶媒に対する含有量が少ない、ニトリル化合物:溶媒=0.1:99.9(重量比)未満の場合、分散中の固体電解質粒子の凝集を防止できないおそれがあり、固体電解質粒子の微粒化ができないおそれがある。
【0024】
固体電解質粒子の粉砕方法は特に制限されないが、例えば粉砕機を用いて固体電解質粒子を粉砕する。
上記粉砕機としては、好ましくはボールミル、ビーズミル、ウォータジェットミル、ホモジナイザー等であり、より好ましくはボールミル、ビーズミル等の反応容器の内部にボール又はビーズを備える装置である。
【0025】
粉砕する固体電解質粒子の平均粒径は、ビーズミル等で効率的に粉砕可能な粒径が、通常、用いるビーズ等の径の10分の1以下であることから、ビーズ等のボールの径の10分の1以下であることが好ましい。従って、一般的にビーズミル等では1mm〜0.1mmの径のビーズ等が使用されるため、粉砕する固体電解質粒子の平均粒径は好ましくは100μm以下である。
尚、ビーズミル等での粉砕は、必要に応じて粒径の異なるビーズ等を併用した多段式粉砕を用いることが好ましい。
【0026】
本発明の固体電解質微粒子は、電解質層に好適に用いることができ、活物質と混合して電極層(正極層及び/又は負極層)に好適に用いることもできる。
本発明の電解質微粒子の用いることにより、電解質層及び電極層を非常に薄くすることができ、電解質層自体のイオン伝導性を高めることができる。例えば本発明の電解質微粒子を含む電解質層及び電極層の膜厚は、10μm以下とすることができる。
【0027】
[電解質層]
本発明の電解質層は、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である固体電解質微粒子を含み、さらにバインダーを含んでもよい。
上記固体電解質微粒子は、好ましくは本発明の固体電解質微粒子である。
【0028】
本発明の電解質層は、本発明の組成物を用いて製造することができ、例えば本発明の組成物を乾燥して、静電スクリーン印刷又は静電スプレー印刷することによって製造できる。
電解質層の製造に用いる組成物は、さらにバインダーを含んでもよい。
【0029】
[電極層]
本発明の電極層は、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である固体電解質微粒子、並びに活物質を含み、さらにバインダーを含んでもよい。
上記固体電解質微粒子は、好ましくは本発明の固体電解質微粒子である。
【0030】
活物質が正極活物質である場合、当該正極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な金属酸化物等の電池分野において公知の正極活物質を使用できる。
上記正極活物質としては、例えば、硫化物系では、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)及び硫化ニッケル(Ni)等が使用でき、特にTiSが好適である。これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
正極活物質として、酸化物系を用いることができ、好ましくは下記式(1)又は(2)を満たす正極活物質である。
LiNi1−x (1)
LiNiCoAl1−a−b (2)
(式中、xは0.1<x<0.9を満たす数であり、MはFe,Co,Mn及びAlからなる群から選ばれる元素であり、0≦a≦1、0≦b≦1である。)
【0032】
酸化物系正極活物質としては、例えば、酸化ビスマス(Bi)、鉛酸ビスマス(BiPb)、酸化銅(CuO)、酸化バナジウム(V13)、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)や、ニッケルーマンガン系酸化物(LiNi0.5Mn0.5)、ニッケルーアルミニウムーコバルト系酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、ニッケルーマンガンーコバルト系酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)等が使用でき、特にLiCoOやLiNi0.8Co0.15Al0.05が好適である。これらの物質は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
正極活物質は、上記の硫化物系と酸化物系を混合して用いることも可能である。また、上記硫化物系及び酸化物系の他に、セレン化ニオブ(NbSe)も使用することができる。
正極活物質は、必要に応じて表面を酸化物、硫化物等でコート処理した正極活物質も好適に使用できる。
【0034】
活物質が負極活物質である場合、当該負極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な電池分野において公知の負極活物質を使用できる。
【0035】
[リチウムイオン電池]
本発明のリチウムイオン電池は、上記電解質層及び電極層の少なくとも1つを備える。
上記電解質層以外の電解質層は公知の電解質層(ポリマー電解質、非水系電解質等)を用いることができる。また、上記電極層以外の電極層は公知の電極層を用いることができ、
例えば、上記活物質と電解質との合材を用いた電極がある。
【実施例】
【0036】
製造例
(1)硫化リチウムの製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報における第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した水硫化リチウムを脱硫化水素化し硫化リチウムを得た。
尚、昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。水硫化リチウムの脱硫化水素反応が終了後(約80分)に反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0037】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウム(LiS)を常圧下で3時間乾燥した。
【0038】
得れらた硫化リチウムについて、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)及びチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、並びにN−メチルアミノ酪酸リチウム(NMAB)の不純物含有量を、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、N−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)は0.07質量%であった。
【0039】
実施例1
[固体電解質ガラス粗粒子1の製造]
上記製造例で得られた平均粒径30μm程度のLiSを32.54gと平均粒径50μm程度のP(アルドリッチ社製)67.46gを10mmφアルミナボール175個が入った500mlアルミナ製容器に入れ密閉した。このとき、LiS:P(モル比)=70:30である。この密閉したアルミナ容器を、遊星ボールミル(レッチェ社製PM400)にて室温下、36時間メカニカルミリング処理することで白黄色の固体電解質ガラス粗粒子を得た。同様の操作を10回行い、このとき得られた固体電解質ガラス粗粒子1は780gで、体積基準平均粒子径は122μmあった。
尚、上記の計量及び密閉作業は、すべてグローブボックス内で実施し、使用する器具類はすべて乾燥機で事前に水分除去して用いた。
得られた粗粒子のX線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった結果、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0040】
[固体電解質ガラスセラミック粗粒子1の製造]
上記固体電解質ガラス粗粒子1を、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でSUS製チューブに密閉し、300℃、2時間の加熱処理を施し固体電解質ガラスセラミック粗粒子1(体積基準平均粒子径152μm)を得た。
得られた固体電解質ガラスセラミック粗粒子1について、X線回折測定したところ、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。また、得られた固体電解質ガラスセラミック粗粒子1の伝導度は、1.3×10−3S/cmであった。
【0041】
[固体電解質粒子1の製造]
アシザワファインテック社製ビーズミルLMZ015に攪拌機付容器を連結し、ポンプにより得られた固体電解質ガラスセラミック粗粒子1を含むスラリーを循環する方法で粉砕した。
具体的には、ビーズミルに0.5φZrOビーズを440g仕込み、攪拌機付容器に無水トルエン溶媒1031.9g、イソブチロニトリル102.1g、固体電解質ガラスセラミック粗粒子1を126.0gからなるスラリーを仕込んだ。スラリーを200mL/minで循環しながら、ミルの翼先端速度10m/srpmで2時間処理し、固体電解質粒子を含むスラリーを回収した。次に、ビーズミルのZrOビーズを0.1φに入れ換え、この回収した固体電解質粒子を含むスラリーを上記方法と同様にして再度処理し、固体電解質粒子1を含むスラリー得た。
得られた固体電解質粒子1の粒径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern Instruments Ltd製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、体積基準平均粒子径0.14μmであり、体積基準粒子径0.32μm以下の粒子が90%であった。
また、得られた固体電解質粒子1を含むスラリーをよく攪拌した後、24時間静置し、沈降容積分率(固体電解質粒子1が沈降した容積/全スラリー容積×100)を測定したところ、78%であった。加えて、得られたスラリーを用いてバーコード法で塗布膜を形成したところ、目視で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0042】
尚、上記沈降容積分率は、次のように測定した。
固体電解質粒子1を含むスラリーを攪拌しながら20ml抜き出し、メスシリンダーで全スラリー容積を測定した。スラリーをよく攪拌した後、24時間静置し、固体電解質粒子1が沈降した部分の容積を測定した。それぞれの値を用いて、固体電解質粒子1が沈降した容積/全スラリー容積×100から、沈降容積分率を求めた。全ての操作は、不活性ガス雰囲気下で行い、試料が大気に触れないように実施した。
【0043】
実施例2
固体電解質粒子1の製造において、無水トルエン溶媒の仕込み量を1088.6g、及びイソブチロニトリルの仕込み量を45.4gとした他は実施例1と同様にして、固体電解質粒子を含むスラリーを調製し、評価した。
その結果、得れらた固体電解質粒子の体積基準平均粒子径は0.35μmであり、体積基準粒子径1.25μm以下の粒子が90%であった。また、沈降容積分率は48%であった。実施例1と同様に塗布膜を形成したところ、目視で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
固体電解質粒子1の製造において、固体電解質ガラスセラミック粗粒子1の代わりに固体電解質ガラス粗粒子1を用いた他は実施例1と同様にして、固体電解質粒子を含むスラリーを調製し、評価した。
その結果、得られた固体電解質粒子の体積基準平均粒子径0.16μmであり、粒子径0.49μm以下の粒子が90%であった。また、沈降容積分率は75%であった。実施例1と同様に塗布膜を形成したところ、目視で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
[固体電解質ガラス粗粒子2の製造]
固体電解質ガラス粗粒子1の製造において、LiSを30.62gとP(アルドリッチ社製)を49.38gをアルミナ容器に入れ密閉した他は、実施例1と同様にして452gの固体電解質ガラス粗粒子2を得た。このとき、LiS:P=75:25(モル比)である。得られた固体電解質ガラス粗粒子2の体積基準平均粒子径は126μmであり、X線回折測定(CuKα:λ=1.5418Å)を行なった結果、原料LiSのピークは観測されず、固体電解質ガラスに起因するハローパターンであった。
【0046】
[固体電解質粒子2の製造]
固体電解質粒子1の製造において、固体電解質ガラスセラミック粗粒子1の代わりに固体電解質ガラス粗粒子2を用いた他は実施例1と同様にして、固体電解質粒子を含むスラリーを調製し、評価した。
その結果、得れらた固体電解質粒子2の体積基準平均粒子径は0.29μmであり、粒子径0.98μm以下の粒子が90%であった。また、沈降容積分率は71%であった。実施例1と同様に塗布膜を形成したところ、目視で均一な膜が得られた。結果を表1に示す。
【0047】
比較例1
脱水トルエンの仕込み量を1134.0gとし、イソブチロニトリルを添加しなかった他は実施例1と同様にして、固体電解質粒子を含むスラリーを調製し、評価した。
その結果、得れらた固体電解質粒子の体積基準平均粒子径は2.89μmであり、粒子径5.60μm以下の粒子が90%であった。また、沈降容積分率は12%であった。実施例1と同様に塗布膜を形成したところ、一部に穴の開いた膜が得られた。結果を表1に示す。
【0048】
比較例2
比較例1において、固体電解質ガラスセラミック粗粒子1の代わりに固体電解質ガラス粗粒子2を用いた他は比較例1と同様にして、固体電解質粒子を含むスラリーを調整し、評価した。
その結果、得れらた固体電解質粒子の体積基準平均粒子径は3.05μmであり、粒子径6.74μm以下の粒子が90%であった。また、沈降容積分率は11%であった。実施例1と同様に塗布膜を形成したところ、一部に穴の開いた膜が得られた。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の組成物を用いることにより、電解質層及び電極層が薄いリチウムイオン電池を製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である固体電解質微粒子。
【請求項2】
固体電解質微粒子を含む組成物であって、前記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である組成物。
【請求項3】
固体電解質微粒子及び溶媒を含む組成物であって、
前記固体電解質微粒子は、少なくとも硫黄元素及びリチウム元素を含み、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、及び90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である組成物。
【請求項4】
さらにニトリル化合物を含む請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、有機溶媒である請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも硫黄元素とリチウム元素とを含む固体電解質粒子を、ニトリル化合物及び溶媒を含む組成物中で粉砕する固体電解質微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれかに記載の組成物を用いて製造した電解質層。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれかに記載の組成物を用いて製造した電極層。
【請求項9】
固体電解質微粒子を含む電解質層であって、
前記固体電解質微粒子が、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である電解質層。
【請求項10】
固体電解質微粒子を含む電解質層であって、
前記固体電解質微粒子が、レーザー回折式粒度分布測定方法により測定される体積基準平均粒子径が0.5μm以下であり、90%以上の粒子の体積基準粒子径が1.5μm以下である電極層。
【請求項11】
請求項7及び9に記載の電解質層、並びに請求項8及び10に記載の電極層の少なくとも1つを備えるリチウムイオン電池。

【公開番号】特開2012−134133(P2012−134133A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257678(P2011−257678)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】