説明

微粒子および製造方法

【課題】生理活性物質、薬剤、造影剤、遺伝子等を効率よく封入しうる親水性部分を内部に有し、生体内での安定性向上や体内動態を改善しうる微粒子および製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、両親媒性ポリマーからなる微粒子であって、両親媒性ポリマーの親水性セグメントで形成される内核に親水性ポリマーと親水性ポリマーの架橋成分を含む微粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する両親媒性ポリマーにより構成される微粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドなどの親水性薬物の封入・デリバリーを目的とした生分解性ポリマー微粒子として、ポリ乳酸またはポリ乳酸・ポリグリコール酸を含む生分解性ポリマーでウォーター・イン・オイル(W/O)型乳化物(逆相エマルジョン)を形成して親水性薬物を封入された微粒子、さらに微粒子化する製造技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、水溶性薬物を含む溶液を内水相とし、ポリマー化合物を含む溶液を油相としてウォーター・イン・オイル(W/O)型乳化物をつくり、該乳化物を水相に分散させてウォーター・イン・オイル・イン・ウォーター(W/O/W)型乳化物をつくり、水中乾燥に付して水溶性薬物の徐放性マイクロカプセルを製造する技術が開示されている。そして、内水相に水に溶解した状態で粘度の高い状態になるか、温度、pHなどの外部刺激や金属イオンや化学縮合剤の添加で半固体または固体となる薬物保持物質を添加することで、安定な微粒子形成が可能であることが開示されている。しかしながら、これらの方法で得られる粒子の粒径は、小さくても、せいぜい数ミクロンから数十ミクロンである。
【0004】
一方、両親媒性ポリマーの界面活性作用を利用して、親水性活性物質の水溶液を両親媒性ポリマーを添加した有機溶媒中で、所謂、逆相エマルジョン(逆ミセル)を形成させた後、微粒子を形成する方法が提案されてきた(特許文献2,3参照)。
【0005】
特許文献2には、機能性物質がブロックポリマーに内包されている粒子を含有する化粧剤または洗浄剤として、ビニルエーテル系の両親媒性ブロックコポリマーを使用して逆相ミセルを形成させ、内部が親水環境であり、外層が疎水的である微粒子が記載されている。この微粒子は、ビニルエーテル系の両親媒性ブロックコポリマーが生分解性を有しないために、注射や経口投与などによる生体内への投与には適用できない。また、外層が疎水的である微粒子であるために、この微粒子を、生体内への投与に好適な水系分散体にすることは困難である。
【0006】
特許文献3には、生分解性の両親媒性ブロックコポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液を用い、内水相に親水性活性物質を含有させ、表面改質剤を結合することで、生体内に投与可能で、水系分散体となり、かつ平均粒径が1ミクロン以下となる微粒子が開示されている。しかしながら、このような粒子においても、粒子調製時の内水相の漏出などにより、親水性活性物質の内包率が低下したり、粒子径の均一性の確保に課題があった。
【特許文献1】特公平1−57087号公報
【特許文献2】特開2004−18438号公報
【特許文献3】国際公開第2006/095668号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、ブロックポリマーなどの両親媒性ポリマーを使用した微粒子の開発が行われているが、粒子形状・粒子径の均一性を安定に維持し親水性薬物を効率よく封入できるような微粒子、また医薬品として有用なこれら微粒子の水系分散体は得られていない。
【0008】
本発明の目的は、生理活性物質、薬剤、造影剤、遺伝子等を効率よく封入しうる親水性部分を内部に有し、生体内での安定性向上や体内動態を改善しうる微粒子、特に、ナノサイズの微粒子ならびに該微粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下のような構成を有する。
〔1〕親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する両親媒性ポリマーにより構成され、該親水性セグメントで形成される内核及び該疎水性セグメントで形成される外層とからなる微粒子であって、該内核に親水性ポリマー及び親水性ポリマーの架橋成分を含む微粒子。
〔2〕親水性ポリマーがアニオン性ポリマーである〔1〕に記載の微粒子。
〔3〕アニオン性ポリマーが、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基、これら官能基の一部の酸性水酸基がアルキルエステル化された官能基、並びにこれらの官能基の酸性水酸基が遊離して生じるアニオン性官能基からなる群から選ばれる官能基Aを有する〔2〕に記載の微粒子。
〔4〕アニオン性ポリマーが、酸性多糖、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のいずれかのアニオン性ポリマーセグメントを有するポリマーである〔2〕に記載の微粒子。
〔5〕アニオン性ポリマーが酸性多糖のアニオン性ポリマーセグメントを有するポリマーであって、該酸性多糖が、アルギン酸、カラギーナン、グルコマンナン、ジェランガム又はペクチンのいずれかである〔2〕に記載の微粒子。
〔6〕親水性ポリマーの架橋成分が多価正イオンである〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の微粒子。
〔7〕多価正イオンが多価金属イオンである〔6〕に記載の微粒子。
〔8〕多価金属イオンが、カルシウム、鉛、銅、カドミウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、バリウム、ストロンチウム、鉄、マグネシウム、水銀のいずれかの金属イオンである〔7〕に記載の微粒子。
〔9〕平均粒径が25nm以上1000nm以下である〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の微粒子。
〔10〕両親媒性ポリマーが、ブロックポリマー、グラフトポリマーまたはブランチポリマーのいずれかの構造を有するコポリマーである〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の微粒子。
〔11〕両親媒性ポリマーの親水性セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンまたは多糖類のいずれかからなるセグメントを含む〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の微粒子。
〔12〕両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、脂肪族ポリエステル、ポリアルキレングリコールまたはポリアミノ酸のいずれかからなるセグメントを含む〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の微粒子。
〔13〕両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、ポリ(イプシロン−カプロラクトン)、ポリ乳酸またはポリグリコール酸のいずれかからなるセグメントを含む〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の微粒子。
〔14〕疎水性セグメントで形成される外層に表面改質剤が結合した〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の微粒子。
〔15〕親水性セグメントで形成される内核に薬物を含有する〔1〕〜〔14〕のいずれかに記載の微粒子。
〔16〕薬物が親水性薬物である〔15〕に記載の微粒子。
〔17〕薬物がタンパク質、ペプチド又は核酸である〔15〕又は〔16〕に記載の微粒子。
〔18〕親水性ポリマーを含む溶液と、両親媒性ポリマーを含む溶液とを混合してウォーター・イン・オイル型エマルションを作る工程(A)、及び工程(A)で得たウォーター・イン・オイル型エマルションと親水性ポリマーの架橋剤とを混合する工程(B)、とを含む、〔1〕〜〔17〕のいずれかに記載の微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、タンパク質、核酸等の生理活性物質を効率よく封入しうる親水性部分を内核に有し、その内核に親水性ポリマーと親水性ポリマーの架橋成分を有する、安定化されたナノサイズの微粒子を提供することができる。
【0012】
本発明は、いわゆるドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System)として用いる微粒子として有用である。本発明によってタンパク質、核酸等の生理活性物質を安定的に封入した微粒子を得ることができ、生体内での安定性向上や体内動態の改善が期待できる。例えば、従来では困難であったタンパク質の経口または経腸投与が容易に可能となり、また血中半減期が延びることで今まで注射による頻回投与が必要であった薬物も投与回数を減らすことができ、簡便で患者にとって優しい薬物治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマーからなる微粒子であって、親水性セグメントで形成される内核と疎水性セグメントで形成される外層とからなり、親水性セグメントで形成される内核に親水性ポリマーと親水性ポリマーの架橋成分を含む微粒子である。
【0014】
本発明における両親媒性ポリマーは、少なくとも2種類以上のセグメントから構成され、そのうち少なくとも1種類以上のセグメントが親水性であり、更に少なくとも1種類以上のセグメントが疎水性である。ここで、親水性とは、任意のセグメントの水への溶解度が、他のセグメントより高いとき、該セグメントを親水性であると言う。親水性セグメントは、水に可溶であることが望ましいが、難溶であっても他のセグメントと比較して、水への溶解度が高ければ良い。また、疎水性とは、任意のセグメントの水への溶解度が、他のセグメントより低いとき、該セグメントを疎水性であるという。疎水性セグメントは、水に不溶であることが望ましいが、可溶であっても他のセグメントと比較して、水への溶解度が低ければ良い。
【0015】
本発明における両親媒性ポリマーの構造は、特に限定されないが、ブロック型(ブロックポリマー)、グラフト型(グラフトポリマー)、ブランチ型(ブランチポリマー)のいずれかの構造を有するコポリマーであることが好ましい。親水性セグメントの平均分子量に対する疎水性セグメントの平均分子量の値としては、好ましくは0.1倍から10倍であり、より好ましくは、2倍から8倍である。
【0016】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマーの親水性セグメントが、生体適合性高分子であることが好ましい。本発明において、生体適合性高分子とは、生体に投与した際に著しく有害な影響を及ぼさないものを言い、より具体的には、ラットに該高分子を経口投与する場合のLD50が2,000mg/kg以上のものを言う。
【0017】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、生体適合性高分子であることが好ましい。本発明において、生体適合性高分子とは、生体に投与した際に著しく有害な影響を及ぼさないものを言い、より具体的には、ラットに該高分子を経口投与する場合のLD50が2,000mg/kg以上のものを言う。
【0018】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、生体投与時に著しく有害な影響を与えるものでないことが好ましく、生分解性高分子であることがより好ましい。本発明において、生分解性高分子とは、生体投与後に該高分子が代謝を受けて低分子化され、容易に体外に排泄されうるものを言う。
【0019】
本発明の微粒子を構成する両親媒性ポリマーの親水性セグメントとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ−1,3−ジオキソラン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー、ポリ−1,3,6−トリオキサン、多糖類またはこれらの誘導体ならびにこれらの共重合体が挙げられる。多糖類としては、セルロース、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、プルラン、シゾフィラン、レンチナン、ペスタロチアン、マンナン、アガロース、ガラクタン、アラビナンが好ましい。
【0020】
本発明の微粒子を構成する両親媒性ポリマーの疎水性セグメントは、特に限定されないが、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリシアノアクリル酸エステル、ポリエーテル、ポリビニル、ポリシロキサン、またはポリ無水物のいずれかから構成されることが好ましい。
【0021】
本発明の微粒子の両親媒性ポリマーの疎水性セグメントは、具体的には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(2−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプロン酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプリン酸)、ポリ(リンゴ酸)、ポリ(クエン酸)、ポリベンジルマロラクトナート、ポリマライトベンジルエステル、ポリ{3−〔(ベンジルオキシカルボニル)メチル〕−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン}}、ポリ(β−プロピオラクトン)、ポリ(δ−バレロラクトン)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(N−ベンジルオキシカルボニル−L−セリン−β−ラクトン)、ポリ〔1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)メタン〕、ポリ(テレフタル酸−セバシン酸無水物)、ポリ{3,9−ビス(エチリデン−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン−1,6−ヘキサンジオール)、ポリ−α−シアノアクリル酸イソブチル、ポリプロピレンオキサイド、ポリアルキルメタクリレート、ポリビニル酢酸、ポリシロキサン、またはこれらの高分子化合物の誘導体ならびにこれらの共重合体が挙げられる。
【0022】
本発明の微粒子の両親媒性ポリマーの疎水性セグメントは、特に、ポリ(イプシロン−カプロラクトン)、ポリ乳酸またはポリグリコール酸のいずれかから構成されることが好ましい。
【0023】
本発明の微粒子の両親媒性ポリマーは、疎水性セグメントの分子量が、1000から100,000であることが好ましい。
【0024】
本発明の微粒子に用いられる親水性ポリマーは、前記の親水性を有するポリマーであって、水溶性ポリマーであることが好ましい。さらに、後述する架橋成分の添加により、複数のポリマー鎖の直接的または間接的な結合が生じ、架橋構造を形成するポリマーが好ましい。
【0025】
本発明において、親水性ポリマーとしては、ポリマー鎖にアニオン性またはカチオン性の荷電基を有する荷電ポリマーが、多価対イオンの添加により、容易に前述の架橋構造を形成することが出来るので、好ましい。荷電ポリマーとしては、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーのいずれであっても良く、ポリマー鎖の一部にアニオン性またはカチオン性の荷電基を有するポリマーであれば、荷電モノマーの単独重合体やその共重合体、高分子反応により荷電基や荷電セグメントを導入したポリマーなど、とくに限定されるものではない。このうち、アニオン性ポリマーは、本発明の微粒子を薬物治療に試用する際に生体への毒性などがカチオン性ポリマーに比べ発現しにくいので、より好ましい。
【0026】
アニオン性ポリマーとしては、ポリマーの一部にアニオンを生じる官能基を有していればよい。具体的には、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基、これらの一部がアルキルエステル化された官能基、並びにこれらの水酸基が遊離して生じるアニオン性官能基からなる群から選ばれる官能基Aを有するポリマーが好ましい。前記官能基Aには、酸性の水酸基を有するものとしてカルボン酸基(-COOH)、リン酸基(-O(PO)(OH)2)、亜リン酸基(-O(PO)OH)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、ポリリン酸基、硫酸基(-OSO2OH)、亜硫酸基(-O(SO)OH)及びスルホン酸基(-SO2OH)が含まれる。また、これらのうち複数の酸性水酸基を有する官能基においては、該酸性水酸基の一部がアルキルエステル化された部分アルキルエステル官能基、例えばリン酸基、ホスホン酸基、ポリリン酸基の炭素数1〜4の低級アルキル基による部分エステルも官能基Aに含まれる。これらの官能基は、酸性の水酸基が遊離することでアニオン性官能基(O-)となり好ましい。すなわち、本発明でいうアニオン性官能基としては、カルボキシレート基(-COO-)、ホスフェート基(-O(PO)(OH)O-、-O(PO)(O-)2)、ホスファイト基(-O(PO)O-)、ホスホネート基(-PO(OH)O-、-PO(O-)2)、ポリホスフェート基、サルフェート基(-OSO2O-)、サルファイト基(-O(SO)O-)及びスルホネート基(-SO2O-)が挙げられる。また、官能基Aには、これらアニオン性官能基が任意の陽イオンともに塩として存在している形態も含まれる。陽イオンとしては、アルカリ金属イオン(Na+、K+等)、アルカリ土類金属イオン(Ca2+、Mg2+等)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、これらの官能基は、一部がエステル化されているなどの化学修飾がなされていても良い。
【0027】
本発明において、アニオン性ポリマーとしては、酸性多糖、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸から選ばれるアニオン性ポリマーセグメントを有するポリマーであることが好ましい。このうち、生体内での代謝による分解されやすい酸性多糖、ポリアミノ酸が、本発明の微粒子を医薬品製剤としての利用するためには、とくに好ましい。
【0028】
このうち、酸性多糖とは、酸性官能基を有する任意の多糖である。ここでいう多糖とは、単糖が2以上脱水縮合してなる糖を意味し、タンパク質、脂質などの糖以外の物質で修飾されていてもよい。単糖とは、特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース(D形、L形)、キシロース、マンノース、ラムノース、フコース、アラビノースなどの中性糖、グルロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸などのウロン酸、グルコサミン、ガラクトサミンなどのアミノ糖、等が挙げられる。酸性官能基としては、例えば、−COOH(カルボキシ基)、−SOH(スルホ基)、−OSOH、−CHOSOH等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、任意の陽イオンともに塩として存在していても良い。
【0029】
本発明に使用される酸性多糖としては、天然由来の酸性多糖類が好ましいが、人工的に合成された酸性多糖類であってもよい。ここで、天然由来とは、自然界に存在するあらゆる藻類、植物又は生物から得られることを意味する。藻類としては、例えば、褐藻類(例えば、コンブ属海藻、ワカメ属海藻、レッソニア属海藻、マクロシスチス属海藻、カジメ属海藻、アラメ属海藻、アスコフィラム、ダービリアなど)、紅藻類(例えば、キリンサイ属海藻、イバラノリ属海藻、ムカデノリ属海藻、テングサ属海藻、オゴノリ属海藻、フノリ属海藻、アマノリ属海藻など)、緑藻類(例えばミル属海藻、アオサ属海藻、アオノリ属海藻、イワヅタ属海藻、ヒトエグサ属海藻など)、等が挙げられる。植物としては、例えば、柑橘類、テンサイ、リンゴ等が挙げられる。その他の生物としては、例えば、哺乳動物、カブトガニ、イカ、細菌等が挙げられる。
【0030】
本発明で用いられる酸性多糖としては、具体的には、アルギン酸、カラギーナン、グルコマンナン、ジェランガム、ペクチン、ヒアルロン酸、ポルフィラン、フコイダン(硫酸化フカン)、アスコフィラン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸等が挙げられ、これらのなかでも、アルギン酸、カラギーナン、グルコマンナン、ジェランガム、ペクチンが好ましく、アルギン酸がより好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明において、親水性ポリマーの架橋成分とは、前述の親水性ポリマーで複数のポリマー鎖の直接的または間接的な結合を生じせしめ、架橋構造を形成させる成分である。親水性ポリマーの架橋成分としては、イオン結合により荷電ポリマーと結合を生成しうる多価イオンや、親水性ポリマーの官能基に反応して共有結合を形成する多官能性有機化合物(グルタルアルデヒドなど)、親水性ポリマーの官能基と水素結合を形成するポリエチレングリコールが挙げられるげられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明の微粒子において、親水性ポリマーが荷電ポリマーである場合には、親水性ポリマーの架橋成分としては、イオン結合により容易に架橋構造を形成しうる多価正イオンまたは多価負イオンが好ましい。複数の正電荷または負電荷を有していれば、有機イオンであっても無機イオンであっても良い。
【0033】
親水性ポリマーがカチオン性ポリマーの場合には、多価負イオンが好ましい。多価負イオンとしては、酒石酸、クエン酸、タンニン酸などの有機酸の負イオンが好ましい。
【0034】
また、親水性ポリマーがアニオン性ポリマーの場合には、多価正イオンが好ましい。多価正イオンとしては、複数のアンモニウム基を有する有機物や金属イオンなどが挙げられるが、生体内での毒性発現を回避する目的などから、多価金属イオンが好ましい。
【0035】
本発明の微粒子で用いられる多価金属イオンとは、上記アニオン性ポリマーの酸性官能基と塩を形成しうる多価金属イオンを意味している。ここでいう多価金属イオンには、例えば、カルシウム、鉛、銅、カドミウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、バリウム、ストロンチウム、鉄、銀、マグネシウム、水銀などの金属のイオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの金属イオンは、本発明の微粒子の製造においては、金属塩として添加されることが好ましく、酢酸塩、リン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、塩化物、炭酸塩、または水酸化物などの金属塩がより好ましい。
【0036】
本発明の微粒子の平均粒径は、1000ナノメートル(nm)以下であることが好ましく、より好ましくは500ナノメートル(nm)以下であり、さらに好ましくは25nm以上500nm以下である。微粒子の平均粒径は、例えば、レーザー散乱型粒度分布測定装置(Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製))を使用した動的光散乱法により求めることができる。測定で得られたデータから光子相関法にて自己相関関数を求め、例えばCONTIN法およびヒストグラム法によって解析することで微粒子の平均粒径や粒子径分布を算出することができる。
【0037】
本発明の微粒子の形状は特に限定されず、球状又は略球状であればよいが、楕円球状、不定形であってもよい。球状以外の場合は、長軸径の平均値をもって、該微粒子の平均粒径とみなすことができる。
【0038】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントからなる疎水性外層に表面改質剤が結合していてもよい。
【0039】
本発明における表面改質剤は、疎水性外層を形成する両親媒性ポリマーの疎水性セグメントに結合する。当該結合は非共有結合であっても共有結合であっても良い。非共有結合としては、疎水的相互作用、静電相互作用、水素結合、ファン・デル・ワールス力が挙げられるが、なかでも疎水的相互作用が好ましい。これらが複合した結合でも良い。非共有結合においては、両親媒性ポリマーを含む微粒子の疎水性外層と後述の表面改質剤の疎水部分とが、疎水的な相互作用により結合していることが好ましい。この場合、微粒子の分散媒が水、緩衝液、生理食塩水、表面改質剤水溶液または親水性溶媒である微粒子分散体であることがより好ましい。
【0040】
本発明では、表面改質剤は、微粒子の形成後に疎水性外層表面に結合させても良いし、両親媒性ポリマーに結合させた後に微粒子を形成させても良い。
【0041】
本発明における表面改質剤は、両親媒性ポリマーの疎水性セグメント中において、表面改質剤が溶媒または微粒子外部に存在する物質と接触可能な場所に存在することが好ましい。
【0042】
本発明における表面改質剤としては、好ましくは微粒子のコロイド安定性を向上させる性質又は生体投与後の微粒子の体内動態に影響を与える性質の何れか、あるいは両者を有する化合物である。表面改質剤は、1種でも複数の混合物でも良い。ここでコロイド安定性を向上させるとは、微粒子の溶媒中における凝集を防ぐことまたは遅延させることを言う。微粒子を生体投与した後に、該微粒子の体内動態に影響を与える化合物としては、生物学的障壁の表面へ付着するか、該障壁の中へ侵入するか、または該障壁を横切ることを促す化合物が挙げられる。特に、消化管に存在する粘膜、上皮細胞層を横切ることを促す化合物であることが望ましい。該微粒子の体内動態に影響を与える化合物としては、微粒子と蛋白質や細胞などの生体内に存在する物質との相互作用を減ずる化合物でも良い。
【0043】
表面改質剤は、限定されるものではないが、水溶性ポリマーであることが好ましい。
【0044】
本発明の微粒子の表面改質剤は、水溶性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ−1,3−ジオキソラン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー、ポリ−1,3,6−トリオキサン、ポリアミノ酸、タンパク質、または多糖類、あるいはこれらの類縁体あることが好ましい。
【0045】
該親水性ポリマーの類縁体としては、親水性ポリマーを長鎖アルキルなどの疎水基を部分的に修飾するなどした界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の微粒子の表面改質剤は、親水性ポリマーがポリエチレングリコールの場合、BASF社から市販されるプルロニック(Pluronic)(BASF社の登録商標)もしくは同等品が好ましい。
【0047】
本発明の微粒子の表面改質剤として用いるポリアミノ酸としては、ポリアスパラギン酸もしくはポリグルタミン酸またはこれらの類縁体が好ましい。特に、ポリアスパラギン酸もしくはポリグルタミン酸の一部に長鎖アルキル基を導入した類縁体が好ましい。
【0048】
本発明の微粒子の表面改質剤として用いるタンパク質は、ゼラチン、カゼインまたはアルブミンが、微粒子の分散性向上のために好ましい。
【0049】
本発明の微粒子の表面改質剤として用いる多糖類としては、セルロース、キチン、キトサン、ジェランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルランもしくはデキストラン、又はこれらの類縁体が好ましく、特にコレステロール化プルランは、粒子の分散性向上のために好ましい。
【0050】
本発明の微粒子に用いる表面改質剤は、両親媒性化合物であることが好ましい。両親媒性化合物としては、脂質又は界面活性剤であることが好ましい。
【0051】
本発明の微粒子の表面改質剤として用いる界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンジ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン性活性剤や、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩またはレシチンが好ましい。
【0052】
また、本発明の微粒子の表面改質剤としては、ペプチド、蛋白質、糖類およびその類縁体が好ましく、例えば、ターゲッティング抗体や塩基性ペプチドが挙げられる。これらのペプチド、蛋白質、糖類は、長鎖アルキルなどの疎水基を部分的に修飾するなどした類縁体や前述の親水性ポリマーや両親媒性化合物を修飾した類縁体がより好ましい。
【0053】
本発明の微粒子に結合させる表面改質剤の量は、好ましくは、粒子重量に対して0.0001%から1%である。
【0054】
本発明の微粒子は、親水性セグメントで形成される内核に薬物を含有させることができる。薬物を含有する本発明の微粒子は、医薬品組成物として用いることができる。この場合の薬物としては、親水性薬物が、本発明の微粒子への内包を高効率で行うことができるので、好適である。本発明における「親水性薬物」は、粒子の親水性内核に分配しうるものを言う。親水性薬物としては、特に限定されるものではないが、低分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸または診断用の造影成分などが例示される。
【0055】
本発明の親水性薬物として使用される生理活性タンパク質としては、ペプチドホルモン、酵素タンパク質、抗体などがある。例えば、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、インスリン、アンギオテンシン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、ガストリン、成長ホルモン、プロラクチン(黄体刺激ホルモン)、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)、サイロトロピックホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、バソプレシン、オキシトシン、プロチレリン、黄体形成ホルモン(LH)、コルチコトロピン、ソマトロピン、チロトロピン(甲状腺刺激ホルモン)、ソマトスタチン(成長ホルモン刺激因子)、視床下部ホルモン(GnRH)、G−CSF、エリスロポエチン、HGF、EGF、VEGF、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンγ、インターロイキン類、FGF(線維芽細胞増殖因子)類、BMP(骨形成蛋白)類、スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)、ウロキナーゼ、リゾチーム、ワクチン等をあげることができる。これら生理活性タンパク質は、天然のタンパク質またはペプチドであっても、その配列の一部を改変した誘導体であっても、ポリエチレングリコールや糖鎖などで修飾したものであっても構わない。
【0056】
本発明の親水性薬物として使用される核酸としては、DNA、RNA、一本鎖、二本鎖、カチオン性界面活性剤、カチオン性脂質、カチオン性ポリマーおよびそれらの類縁体と複合化した修飾核酸であってもよい。
【0057】
本発明の微粒子は、両親媒性ポリマー、親水性ポリマー、親水性ポリマーの架橋成分、表面改質剤および薬物以外の物質を含んでいても良い。
【0058】
本発明の微粒子に含有される物質としては、特に限定はされないが、微粒子粒径、微粒子構造、微粒子の安定性、両親媒性ポリマーの安定性、薬物の安定性、薬物の生理活性に影響を与える物質を添加することができる。
【0059】
本発明の微粒子には、粒子内核、粒子外層のいずれの場所に添加物が存在していても良い。本発明の微粒子に添加できる添加物は、特に限定されないが、緩衝剤、抗酸化剤、塩、ポリマーまたは糖であることができる。
【0060】
薬物を含有する本発明の微粒子を医薬品組成物として使用する場合の投与方法および応用分野は特に限定されるものではないが、多岐の利用が可能である。例えば、該医薬品組成物は、薬剤を経口投与、非経口投与、経腸投与、経肺投与、局所投与(鼻、皮膚、眼)および体腔投与等に利用できる。
【0061】
本発明の微粒子の製造方法は、親水性ポリマーを含む溶液と、両親媒性ポリマーを含む溶液とを混合してウォーター・イン・オイル型エマルション(W/O型エマルション)を作る工程(A)、及び工程(A)で得たウォーター・イン・オイル型エマルションと親水性ポリマーの架橋剤とを混合する工程(B)、とを含むものである。
【0062】
工程(A)は、親水性ポリマーを含む水系溶媒を、両親媒性ポリマーを含む油相に添加し、混和することでW/O型エマルションを形成される工程である。必要であれば、例えば、マグネティックスターラーなどの撹拌装置、タービン型攪拌機、ホモジナイザー、多孔質膜を装備した膜乳化装置などを使用しても良い。
【0063】
工程(A)における親水性ポリマーを含む水系溶媒には、親水性ポリマーが可溶である水あるいは水溶性成分を含有する水溶液を使用することが好ましい。該水溶性成分として、例えば、無機塩類、糖類、有機塩類、アミノ酸などが挙げられる。
【0064】
薬物を含有する微粒子を作製する場合は、工程(A)における親水性ポリマーを含む溶液中に薬物を添加したのちW/O型エマルションを形成させればよい。このとき、薬物の安定性、薬物の活性に影響を与える物質を同時に添加しておいても良い。
【0065】
工程(A)における両親媒性ポリマーを含む油相は、該両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが可溶で且つ、親水性セグメントが難溶または不溶であることが好ましいが、両セグメントが難溶もしくは両セグメントが可溶のいずれであっても良い。該油相は、凍結乾燥により揮散除去できることが好ましい。該油相の水への溶解度は、好ましくは10g(有機溶媒)/100mL(水)以下、より好ましくは1g(有機溶媒)/100mL(水)以下、更に好ましくは0.1g(有機溶媒)/100mL(水)以下である。油相としては、特に限定されないが、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、塩化メチレン、クロロフォルムが挙げられる。該有機溶媒に対する水系溶媒の比は、好ましくは1000:1〜1:1、より好ましくは100:1〜3:1である。該有機溶媒中の両親媒性ポリマーの濃度は、有機溶媒、両親媒性ポリマーの種類によって異なるが、好ましくは0.01〜90%(w/w)、より好ましくは0.1〜50%(w/w)、更に好ましくは、0.5〜20%(w/w)である。
【0066】
工程(A)で得られるW/O型エマルション中の微粒子の平均粒径は、所望する微粒子の粒径によりとくに限定されないが、医薬品用の微粒子を製造するには、500ナノメートル(nm)以下であることが好ましく、より好ましくは、10ナノメートル以上500ナノメートル以下である。平均粒径は工程(A)におけるポリマー濃度や油相として用いる溶媒、W/O型エマルション形成過程の混和条件、攪拌条件等を調節することで制御できる。
【0067】
工程(B)は、工程(A)で得たW/O型エマルションと親水性ポリマーの架橋剤とを混合する工程である。この工程(B)では、親水性ポリマーの架橋成分を適当な溶媒で溶解した溶液として用いて、W/O型エマルションと混合することが好ましい。
【0068】
工程(B)において、W/O型エマルションと親水性ポリマーの架橋成分とを混合する方法は、特に限定されるものではないが、例えばW/O型エマルションの油相に直接可溶な架橋成分ならば直接添加してもよく、不溶である場合には、可溶な溶媒で油相または内水相と相溶性がある溶媒に一旦溶解して架橋成分溶液とした後に混合することもできる。また、必要であれば、例えば、マグネティックスターラーなどの撹拌装置、タービン型攪拌機、ホモジナイザー、多孔質膜を装備した膜乳化装置などを使用しても良い。
【0069】
架橋成分が多価正イオンまたは多価負イオンの場合には、それらの塩をそのまま用いて混合するか、塩を適当な溶媒で溶解した溶液として混合しても良い。多価正イオンの場合には、塩としては、酢酸塩、リン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、塩化物、炭酸塩、または水酸化物などの塩が好ましい。架橋成分が多価金属イオンの場合には、油相に混和可能な溶媒または油相に混和可能な溶媒と水との混合溶媒に、多価金属イオンを含む金属塩を用いて溶解し、この溶液を混合することが好ましい。溶媒としては、とくに限定されるものではないが、エバポレーターや凍結乾燥により揮散除去できることが望ましく、水、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル(例えばエチルエーテル、イソプロピルエーテルなど)、脂肪族エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、芳香族炭化水素(例えばベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えばジクロロメタン、クロロフォルム、トリクロロエタン、四塩化炭素など)、ジオキサン、THF、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシドなどが挙げられる。また、架橋成分の溶液には、必要に応じて他の添加剤を共存させても良い。
【0070】
工程(B)において、使用される架橋成分の量は、実験的に定めれば良いが、例えば、好ましくは0.0001〜20重量%、より好ましくは0.001〜20重量%、さらに好ましくは0.01〜20重量%である。
【0071】
本発明の微粒子の製造方法は、工程(A)、工程(B)以外に、表面改質剤を加える工程、溶媒を除去する工程、分散媒を除去する工程、凍結乾燥する工程などの工程を含んでいても良い。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1 親水性ポリマーとしてアルギン酸、架橋成分としてカルシウムイオンを添加して作製した微粒子
両親媒性ポリマーであるポリエチレングリコール-ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(ポリエチレングリコールの分子量5,000、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)の分子量37,000)5mgを酢酸エチル1mLに加熱し溶解させた。該ポリマー溶液に、攪拌速度1,600rpmで攪拌しつつ、アルギン酸ナトリウム水溶液(0.35wt%アルギン酸ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH9.0)) 50μLを滴下した。更に1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。得られた逆相エマルジョン溶液を1wt%塩化カルシウム水溶液/ジオキサン混合溶液(体積比で1対20)10mLに滴下し、30分間攪拌を行った。30分後、さらに7.5wt%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌、さらに2wt%Pluronic(BASF社の登録商標) F−68水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌を行った。溶媒を蒸発させ約1mLまで濃縮した後、10mLの5wt%Pluronic F−68水溶液10mLに添加することで微粒子分散液を得た。
【0074】
得られた微粒子の粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製)を使用し、動的光散乱法で測定した。得られたデータはCONTIN法およびヒストグラム法によって解析し、粒径を算出した。
【0075】
<結果>
平均粒径が114nmの粒子が形成されていることが明らかとなった。また、粒度分布より非常に単分散な粒子が形成されていることも明らかとなった(図1)。なお、図1の横軸は粒径を縦軸は散乱光強度を表しており、図中Intensity/Volume/Numberはそれぞれ数分布/体積分布/散乱光強度分布を表す。
【0076】
比較例1 アルギン酸及びカルシウムイオンの添加なしで作製した微粒子
比較例1では、実施例1と比較して、親水性ポリマーとしてのアルギン酸、及び架橋成分としてのカルシウムイオンを添加せずに粒子を調製した。
【0077】
両親媒性ポリマーであるポリエチレングリコール-ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(ポリエチレングリコールの分子量5,000、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)の分子量37,000)5mgを酢酸エチル1mLに加熱し溶解させた。該ポリマー溶液に、攪拌速度1,600rpmで攪拌しつつ、緩衝液(10mM Tris−HCl(pH9.0)) 50μLを滴下した。更に1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。得られた逆相エマルジョン溶液をジオキサン10mLに滴下し、30分間攪拌を行った。30分後、さらに7.5wt%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌、さらに2wt%Pluronic(BASF社の登録商標) F−68水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌を行った。溶媒を蒸発させ約1mLまで濃縮した後、10mLの5wt%Pluronic F−68水溶液10mLに添加することで微粒子分散液を得た。
【0078】
得られた微粒子の粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製)を使用し、動的光散乱法で測定した。得られたデータはCONTIN法およびヒストグラム法によって解析し、平均粒径を算出した。
【0079】
<結果>
平均粒径が250.2nmであった。また、粒度分布より、実施例1と比較して粒径分布がひろく均一性に欠けるものであった(図2)。
【0080】
実施例2 タンパク質としてFITC−BSAを内封物として作製した微粒子
両親媒性ポリマーであるポリエチレングリコール-ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(ポリエチレングリコールの分子量5,000、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)の分子量37,000)5mgを酢酸エチル1mLに加熱し溶解させた。該ポリマー溶液に、攪拌速度1,600rpmで攪拌しつつ、フルオレセイン標識ウシ血清アルブミン(FITC−BSA)/アルギン酸ナトリウム混合溶液(5mg/mLフルオレセイン標識ウシ血清アルブミン、0.35wt%アルギン酸ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH9.0)) 50μLを滴下した。更に1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。得られた逆相エマルジョン溶液を1wt%塩化カルシウム水溶液/ジオキサン混合溶液(体積比で1対20)10mLに滴下し、30分間攪拌を行った。30分後、さらに7.5wt%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌、さらに2wt%Pluronic(BASF社の登録商標) F−68水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌を行った。溶媒を蒸発させ約1mLまで濃縮した後、10mLの5wt%Pluronic F−68水溶液10mLに添加することで微粒子分散液を得た。
【0081】
得られた微粒子の粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製)を使用し、動的光散乱法で測定した。得られたデータはCONTIN法およびヒストグラム法によって解析し、平均粒径を算出した。FITC−BSAの封入率は、粒子試料を6N HCl中105℃で22時間加水分解した後、アミノ酸分析を行いタンパク質量を定量することで決定した。
【0082】
<結果>
平均粒径が140.7nmの粒子が形成されていることが明らかとなった。また、粒度分布より非常に単分散な粒子が形成されていることも明らかとなった(図3)。アミノ酸分析を用いて内封タンパク量を測定すると、FITC−BSA封入率は63.8%であった。
【0083】
実施例3 生理活性タンパク質としてIFN−βを内封物として作製した微粒子
両親媒性ポリマーであるポリエチレングリコール-ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(ポリエチレングリコールの分子量5,000、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)の分子量37,000)5mgを酢酸エチル1mLに加熱し溶解させた。該ポリマー溶液に、攪拌速度1,600rpmで攪拌しつつ、インターフェロンーβ(IFN−β)/アルギン酸ナトリウム混合溶液(50μg/mLインターフェロンーβ、0.35wt%アルギン酸ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH9.0)) 50μLを滴下した。更に1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。得られた逆相エマルジョン溶液を1wt%塩化カルシウム水溶液/ジオキサン混合溶液(体積比で1対20)10mLに滴下し、30分間攪拌を行った。30分後、さらに7.5wt%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌、さらに2wt%Pluronic(BASF社の登録商標) F−68水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌を行った。溶媒を蒸発させ約1mLまで濃縮した後、10mLの5wt%Pluronic F−68水溶液10mLに添加することで微粒子分散液を得た。
【0084】
得られた微粒子の粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製)を使用し、動的光散乱法で測定した。得られたデータはCONTIN法およびヒストグラム法によって解析し、平均粒径を算出した。
【0085】
<結果>
平均粒径が123.8nmの粒子が形成されていることが明らかとなった。また、粒度分布より非常に単分散な粒子が形成されていることも明らかとなった(図4)。
【0086】
実施例4 生理活性タンパク質としてIL−6を内封物として作製した微粒子
両親媒性ポリマーであるポリエチレングリコール-ポリ(イプシロン-カプロラクトン)(ポリエチレングリコールの分子量5,000、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)の分子量37,000)5mgを酢酸エチル1mLに加熱し溶解させた。該ポリマー溶液に、攪拌速度1,600rpmで攪拌しつつ、インターロイキン−6(IL−6)/アルギン酸ナトリウム混合溶液(200μg/mLインターロイキン−6、0.35wt%アルギン酸ナトリウム、10mM Tris−HCl(pH9.0)) 50μLを滴下した。更に1時間攪拌することで逆相エマルジョンを製造した。得られた逆相エマルジョン溶液を1wt%塩化カルシウム水溶液/ジオキサン混合溶液(体積比で1対20)10mLに滴下し、30分間攪拌を行った。30分後、さらに7.5wt%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌、さらに2wt%Pluronic(BASF社の登録商標) F−68水溶液2.5mLを添加し5分間攪拌を行った。溶媒を蒸発させ約1mLまで濃縮した後、10mLの5wt%Pluronic F−68水溶液10mLに添加することで微粒子分散液を得た。得られた微粒子の粒径は、レーザー散乱型粒度分布測定装置Zetasizer3000HSA(MALVERN INSTRUMENTS社製)を使用し、動的光散乱法で測定した。得られたデータはCONTIN法およびヒストグラム法によって解析し、平均粒径を算出した。
【0087】
<結果>
平均粒径が131.7nmの粒子が形成されていることが明らかとなった。また、粒度分布より非常に単分散な粒子が形成されていることも明らかとなった(図5)。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、実施例1で親水性ポリマーとしてアルギン酸、架橋成分としてカルシウムイオンを添加して作製した微粒子の粒度分布の測定結果を表す図である。
【図2】図2は、比較例1でアルギン酸及びカルシウムイオンの添加なしで作製した微粒子の粒度分布の測定結果を表す図である。
【図3】図3は、実施例2でFITC−BSAを内封物として作製した微粒子の粒度分布の測定結果を表す図である。
【図4】図4は、実施例3でIFN−βを内封物として作製した微粒子の粒度分布の測定結果を表す図である。
【図5】図5は、実施例4でIL−6を内封物として作製した微粒子の粒度分布の測定結果を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する両親媒性ポリマーにより構成され、該親水性セグメントで形成される内核及び該疎水性セグメントで形成される外層とからなる微粒子であって、該内核に親水性ポリマー及び親水性ポリマーの架橋成分を含む微粒子。
【請求項2】
親水性ポリマーがアニオン性ポリマーである請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
アニオン性ポリマーが、カルボン酸基、リン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリリン酸基、硫酸基、亜硫酸基及びスルホン酸基、これら官能基の一部の酸性水酸基がアルキルエステル化された官能基、並びにこれらの官能基の酸性水酸基が遊離して生じるアニオン性官能基からなる群から選ばれる官能基Aを有する請求項2に記載の微粒子。
【請求項4】
アニオン性ポリマーが、酸性多糖、ポリアミノ酸、ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸のいずれかのアニオン性ポリマーセグメントを有するポリマーである請求項2に記載の微粒子。
【請求項5】
アニオン性ポリマーが酸性多糖のアニオン性ポリマーセグメントを有するポリマーであって、該酸性多糖が、アルギン酸、カラギーナン、グルコマンナン、ジェランガム又はペクチンのいずれかである請求項2に記載の微粒子。
【請求項6】
親水性ポリマーの架橋成分が多価正イオンである請求項1〜5のいずれかに記載の微粒子。
【請求項7】
多価正イオンが多価金属イオンである請求項6に記載の微粒子。
【請求項8】
多価金属イオンが、カルシウム、鉛、銅、カドミウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、バリウム、ストロンチウム、鉄、マグネシウム、水銀のいずれかの金属イオンである請求項7に記載の微粒子。
【請求項9】
平均粒径が25nm以上1000nm以下である請求項1〜8のいずれかに記載の微粒子。
【請求項10】
両親媒性ポリマーが、ブロックポリマー、グラフトポリマーまたはブランチポリマーのいずれかの構造を有するコポリマーである請求項1〜9のいずれかに記載の微粒子。
【請求項11】
両親媒性ポリマーの親水性セグメントが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンまたは多糖類のいずれかからなるセグメントを含む請求項1〜10のいずれかに記載の微粒子。
【請求項12】
両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、脂肪族ポリエステル、ポリアルキレングリコールまたはポリアミノ酸のいずれかからなるセグメントを含む請求項1〜11のいずれかに記載の微粒子。
【請求項13】
両親媒性ポリマーの疎水性セグメントが、ポリ(イプシロン−カプロラクトン)、ポリ乳酸またはポリグリコール酸のいずれかからなるセグメントを含む請求項1〜12のいずれかに記載の微粒子。
【請求項14】
疎水性セグメントで形成される外層に表面改質剤が結合した請求項1〜13のいずれかに記載の微粒子。
【請求項15】
親水性セグメントで形成される内核に薬物を含有する請求項1〜14のいずれかに記載の微粒子。
【請求項16】
薬物が親水性薬物である請求項15に記載の微粒子。
【請求項17】
薬物がタンパク質、ペプチド又は核酸である請求項15又は16に記載の微粒子。
【請求項18】
親水性ポリマーを含む溶液と、両親媒性ポリマーを含む溶液とを混合してウォーター・イン・オイル型エマルションを作る工程(A)、及び工程(A)で得たウォーター・イン・オイル型エマルションと親水性ポリマーの架橋剤とを混合する工程(B)、とを含む、請求項1〜17のいずれかに記載の微粒子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−297288(P2008−297288A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147825(P2007−147825)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成19年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】