説明

微粒子付着基板

高価な真空設備を用いることなく、大気圧プラズマスパッタ法を用いることにより製造することが可能で、また200℃以下の低温においても粒子を成長させることができ、粒子径、粒子密度、パターニング、集積度がコントロールされたナノオーダーの金属またはその酸化物をはじめとする各種の微粒子自体が、バインダまたはフィラー等の接着媒体を介さずに、密着性良く、一次粒子の形態においても直接付着していることを特徴とする微粒子付着基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子付着基板に関し、詳しくはナノ粒子を付着させた多機能性基板に関する。具体的には、太陽電池、結晶軟磁性体、磁気記録ディバイス、バイオチップ、光触媒、水素吸蔵材、ナノコンポジット磁石、次世代フラットパネルディスプレイ(FPD)の透明電極、蛍光体、光バリア材、ナノ炭素構造体製造用の触媒材料等の作製時に用いる、ナノ粒子を直接形成し付着させた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、微粒子を基材上に均一に付着させるために、バインダや溶剤に分散させた分散液を塗布する方法が採用されて来た。
【0003】
例えば、ナノ粒子を予め作製し、バインダや溶剤などで分散させ、分散溶液やペースト状分散物に調製し、塗布やスクリーン印刷などの手法により基材上に付与する方法が提案され、1例として、特許文献1では、その様な手法を用いてプラズマディスプレイの放電空間を形成する前面板又は背面板の構成層にカーボンナノチューブを含有させる事が記載される。
【0004】
バインダや溶剤などを用いた分散物で塗布や印刷により基材上に付与されたナノ粒子は、その様な分散媒が不純物となって性能の劣化が引き起こされるのみならず、表面近傍の粒子の密着力の不足による欠損や脱落で、不良発生が増大してしまう。又、塗膜と基材との接着性を考慮する必要があり、膜設計の側面からも、基材の前処理等の側面からも、工程が複雑化し、開発費用の増大を招いてしまう。更に分散物では粒子が凝集し易く、一次粒子の形態で基材上に付着させるのが技術的に困難である。
【0005】
ところで、従来のスパッタリング法やCVD法などでは、膜状の堆積物は形成できるものの、粒子の成長速度のコントロールが難しく、微粒子を基材上で直接成長させて付着させる事は困難である。更に高価な真空設備を必要とし、また加熱が必要なため、生産コストが掛かり、耐熱性基材しか採用できないと言う不都合がある。
【特許文献1】特開2003−272530号公報
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、直接付着された微粒子の密着性に優れる基板とその製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
(1) ナノオーダーの微粒子自体が一次粒子の形態で基材に直接付着していることを特徴とする微粒子付着基板。
(2) 前記微粒子の粒径が10nm〜100nmであることを特徴とする前記 (1)の微粒子付着基板。
(3) 接着媒体を介さずに微粒子が基材に直接付着していることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の微粒子付着基板。
(4) 微粒子が金属又はその酸化物であることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか一項に記載の微粒子付着基板。
(5) 付着微粒子が大気圧プラズマスパッタ法により形成されたことを特徴とする前記(1)〜(4)の何れか一項に記載の微粒子付着基板。
(6) 付着微粒子が大気圧プラズマスパッタ法により形成されることを特徴とする前記(1)〜(4)の何れか一項に記載の微粒子付着基板の製造方法。
即ち本発明は大気圧下でプラズマスパッタ法を採用することにより、原料物質の分子間の衝突回数が律速となり、その結果、粒子の成長速度を抑えることが可能で、粒子径のコントロールが容易になり、ナノオーダーの粒径分布の揃った微粒子を均一に基板上に形成することを可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明に係る大気圧プラズマスパッタ法に用いる放電処理装置のガス導入部、スパッタターゲット及び電極部の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で基材に直接付着している微粒子を構成する物質としては特に制限はなく、Cや、典型金属類、半金属類、遷移金属類、即ち、Mg、Al、Si、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。又、スパッタターゲットとして市販のものを用いることもできる。更に、化合物や合金のターゲットを用いて、化合物微粒子、ナノコンポジット微粒子としても良いが、金属又はその酸化物の微粒子であることが好ましい。また微粒子の粒径が数nm〜100nm、好ましくは10nm〜100nmであり、一次粒子の形態で基材に付着していることが様々な機能の発現という点から好ましい。
【0010】
以下に、本発明に係る微粒子の組成と、適用できる用途の例を挙げる。
(1) 酸化亜鉛:太陽電池、FDPの透明電極、蛍光体材料など
(2) Co、FePt、酸化鉄など磁性体:
磁気記録デバイス、磁性による脱吸着現象を利用した血液、DNA、タンパク分離等を対象とするバイオチップ
(3) Ni−Zr、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛、酸化セリウム:
光触媒、触媒及びその前駆体
(4) 酸化錫、四酸化三マンガン、酸化マグネシウム:
ガスセンサ、電池(リチウム・太陽電池など)、蛍光体、磁性材料
(5) 酸化ジルコニウム(ZrO):センサ
(6) 酸化チタン:誘電体
(7) 酸化アルミニウム:蛍光材料
(8) セリウムジルコネイト:燃料電池、酸素センサ
(9) チタンシリケート:誘電体、圧電体、塗料
(10) ITO:透明導電膜、デバイス駆動電極、太陽電池透明電極
なお、複合材料ターゲットや、複数のターゲットを用いることにより、ナノコンポジットによる新機能付与も可能である。
【0011】
またリソグラフィー技術などとの併用により、微粒子付着領域のパターニング、配置、パターン密度のコントロール等を行うことができる。
【0012】
大気圧プラズマスパッタ法を用いて基材上に微粒子を形成付着する際、温度は400℃以下、好ましくは300℃以下、更には200℃以下と抑えることができる。この様に温度の上昇を抑えることで、例えば、ガラスやプラスチックの様な耐熱性の小さい素材であっても基材として用いることができる様になる。
【0013】
用いる基材としては絶縁性、導電性、半導体性のいずれでも良く、例えば石英、ガラス、セラミックス、金属、シリコン基板などが使用できる。特にガラスは、ソーダライムガラスや低ソーダガラス、鉛アルカリケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスなどの透明ガラス基材を用いることが望ましく、特に高歪点低ソーダガラスが好適である。
【0014】
また、セラミックとしてはアルミナ、ジルコニア、チタニア、窒化珪素、炭化珪素などが挙げられる。
【0015】
また形成時の温度に対する耐熱性をみたすものであれば種々の樹脂を用いることができるが、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)やポリパラバン酸樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリレート樹脂、更にはエポキシ樹脂を用いることができる。中でもポリイミドは、好適に用いることができる。
【0016】
また、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四弗化エチレン樹脂(PTFE)、四弗化エチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四弗化エチレン−六弗化プロピレン共重合体(FEP)、高温ナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、三弗化塩化エチレン樹脂(CTFP)、変性フェノール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂にガラス繊維、ガラスビーズ、グラファイト、カーボン繊維、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、酸化チタン等の充填材を加え、耐熱性と共に摺動性、耐摩耗性を確保した耐熱摺動樹脂が用いられる。例えば、グラファイト入りポリイミド樹脂、グラファイト入りナイロン樹脂、PTFE入りアセタール樹脂、PTFE入りフェノール樹脂等である。
【0017】
また、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等のベース樹脂にガラス繊維、ガラスビーズ、グラファイト、カーボン繊維、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、酸化チタン等の充填材を加えた耐熱樹脂も可能であり耐熱温度250℃以上である。また、フッ素系樹脂に上記の充填材を加えた耐熱樹脂も連続使用温度250℃以上である。
【0018】
これらの樹脂基材、複合基材を板型、もしくはフィルム状として用いる。
【0019】
また微粒子の劣化や変質を防ぐために、微粒子付着基板の表面を樹脂や無機化合物などによりオーバーコートしても良く、湿式塗布や、CVD、スパッタリング、蒸着などのドライコーティングが採用できる。
【0020】
樹脂でオーバーコートする場合は硬化性樹脂を用いることができる。また樹脂硬化層は、オーバーコート以外の種々の機能を有していても良い。
【0021】
樹脂硬化層としては、エチレン性不飽和結合を有するモノマーを1種以上含む成分を重合させて形成した層を挙げることができる。エチレン性不飽和結合を有するモノマーを含む成分を重合させて形成した樹脂層としては、活性線硬化樹脂或いは熱硬化樹脂を硬化させて形成した層が好ましく、特に好ましくは活性線硬化樹脂層である。ここで、活性線硬化樹脂層とは紫外線や電子線の様な活性線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層を言う。なお活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線乗車によって硬化する樹脂でも良い。
【0022】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0023】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー若しくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に、更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させて容易に形成されるものを挙げることができ、例えば特開昭59−151110号に記載のものがある。
【0024】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させて容易に形成されるものを挙げることができ、例えば特開昭59−151110号に記載のものがある。
【0025】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、例えば特開平1−105738号に記載のものがある。なお光反応開始剤としては、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、αーアミロキシムエステル、チオキサントン及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0026】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等がある。
【0027】
これらの活性線硬化樹脂層は公知の方法で塗設することができる。また紫外線硬化性樹脂を硬化させるための光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。
【0028】
その他のオーバーコート用樹脂としては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体、部分加水分解した塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体等のビニル系ホモポリマー或いはコポリマー、セルロースニトラート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル系樹脂、マレイン酸/アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、アクリロニトリル/塩素化ポリエチレン/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アミノ樹脂、スチレン/ブタジエン樹脂、ブタジエン/アクリロニトリル樹脂等のゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートとポリメチルアクリレートの共重合体等を挙げることができ、好ましくはセルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートの様なセルロース系樹脂である。
【0029】
本発明で採用する大気圧プラズマスパッタ法について述べる。
【0030】
本発明において大気圧プラズマスパッタ法とは、大気圧又は大気圧近傍の圧力下で、スパッタターゲットとそれに対向する電極との間に高周波電圧を印加し、発生する放電プラズマを用いるスパッタ法である。
【0031】
ここに、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPa〜110kPa程度であり、93kPa〜104kPaが好ましい。また高周波とは、少なくとも0.5kHzの周波数を有するものを言う。好ましくは5kHz〜100MHz、更に好ましくは50kHz〜50MHzである。また、特開2003−96569に記載の如く、対向するスパッタターゲットと電極のそれぞれに異なる周波数で印加しても良い。
【0032】
本発明に係る大気圧プラズマスパッタ法に用いる放電処理装置は、スパッタターゲットとこれに対向する誘電体を被覆した電極との間に高周波電圧を印加して、その間で放電させて導入した放電ガスをプラズマ状態とし、放電空間に静置あるいは移送される基材上に
微粒子を形成付着させるものである。
【0033】
放電空間に導入する電圧の放電出力は、0.1〜40W/cmであることが好ましく、より好ましくは3〜20W/cmである。
【0034】
上記の大気圧プラズマスパッタ放電処理装置には、前記放電空間に、放電ガスを供給するガス供給手段を備える。更に、スパッタターゲットと電極の温度を制御する温度制御手段を有することが好ましい。
【0035】
ここでの放電ガスは、放電空間内で均一な放電を起こすことの出来るガスであり、窒素、希ガス、水素ガスなどがあり、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわない。希ガスとしては、周期表の第18属元素であるヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等が挙げられる。本発明において、放電ガスとしてはArと窒素がコストの点から工業的に好ましく、放電空間に導入するガスの50体積%以上がArガス及び/又はNガスであることが好ましい。
【0036】
所望のナノ粒子を得るために添加ガスを含有しても良い。当該添加ガスとしては水素ガス、水蒸気、過酸化水素ガス、一酸化炭素ガス、フッ化炭素やフッ化炭化水素等のガス等が挙げられるが、その中では、水素ガス、フッ化炭素やフッ化炭化水素、水蒸気が好ましい。
【0037】
図1は、本発明に係る大気圧プラズマスパッタ法に用いる放電処理装置のガス導入部、スパッタターゲット及び電極部の一例を示す断面図である。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、また、以下の説明には用語等に対する断定的な表現が含まれている場合があるが、本発明における好ましい例を示すものであって、本発明の用語の意義や技術的な範囲を限定するものではない。
【0038】
図においては、移動ステージ27がスパッタターゲットに対向する電極を構成し、保持部材29に装着され、電源11に接続した2本のスパッタターゲット21a、21bが移動ステージ電極27に各々平行になるように併設されている。移動ステージ電極27はターゲット側が誘電体22で被覆されており、そのターゲット21、電極27間で形成された空間23に電極11により高周波電圧が印加される様になっている。なお、ターゲット21を装着している保持部材29、電極27の内部は中空構造24を有し、放電中は水、オイルなどによって放電により発生する熱の排熱を行い、かつ安定な温度に保つための熱交換ができるようになっている。
【0039】
ここでは図示されないガス供給手段により、放電ガスを含むガス1が流路4を経て、また反応促進に必要な添加ガスを含むガス2が流路5を経て、混合空間25に合流混合される。混合されたガスは、ターゲット21a、21b間を通り空間23に供給され、空間23に高周波が印加されるとプラズマ放電が発生することにより放電ガスはプラズマ化される。プラズマ化された放電ガスにより、ターゲット表面よりたたき出された微粒子の原料原子が、移動ステージ電極27上の基材26上に高速で叩きつけられると思われる現象により、ナノ微粒子が形成付着する。
【0040】
ターゲット21と基材26間の間隙は5mm以下とすることが好ましい。
【0041】
移動ステージ電極27は往復走査、もしくは連続走査が可能な構造を有しており、必要に応じて、基材の温度が保てる様に前述の如く熱交換ができる構造になっている。また、基材上に吹き付けられたガスを排気する機構28を必要に応じて設けることもできる。これにより空間中に生成される不要な生成物を速やかに放電空間及び基材上から除去できる。用いる基材も板型の平面基材に限らず、立体物、フィルム状の基材も移動ステージの構造を変えることで採用可能となる。
【0042】
移動ステージ電極27は、金属母材上に誘電体22を被覆した誘電体被覆電極であり、金属母材としては、例えば、銀、白金、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属等が挙げられるが、加工の観点からステンレスやチタンであることが好ましい。誘電体は、比誘電率が6〜45の無機若しくは有機の化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材、更に、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリブタジエン、イソプリレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリウレタン、ポリシロキサン、6フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体等のゴム材等がある。この中では、アルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。また必要に応じて封孔処理を行うことが好ましい。
【0043】
また、特開2003−96569に記載の如く、対向するスパッタターゲット21と電極27に異なる周波数を印加する複数の電源を設置する方式で実施すると、ArガスやNガスの様に安価なガスで高エネルギーのプラズマを生成させることができる。またここでは図示しないが、スパッタターゲット、ステージ電極全体を囲み外気が入らないような構造にすることで、装置内を一定のガス雰囲気にすることができ、所望の高質なナノ微粒子を形成付着することができる。
【0044】
一例として、従来の磁気記録材料で用いられる磁性体材料の多くは透過性を持たないが、ナノ微粒子として粒径、密度を調整して基材上に直接付着させると、磁性機能を損なわずに透過性を付与することができる。
【0045】
またナノ微粒子を基材上に直接付着させるにあたり、集積させたり、パターニングしたりすることにより吸着性をコントロールして、赤血球、DNA、タンパクの分離等を行う簡易試験器(バイオチップ)とすることができる。
【0046】
また他の例として、本発明の微粒子付着基板上にナノ構造炭素材料の形成を容易に行うことができるので、フィールドエミッションディスプレイ用の電子放出源や、電子線源、微小真空管を製造する様な場合、好適な方法となる。この場合に、用いる物質としては、グラファイトの生成、カーボンナノチューブの気相分解成長において触媒作用を示す各種の金属を用いることができる。具体的には、たとえば、Ni,Fe,Coなどの鉄族、Pd,Pt,Rhなどの白金族,La,Yなどの希土類金属、あるはMo,Mnなどの遷移金属や、これらの金属化合物のいずれか1種、もしくはこれらの2種以上の混合物等を用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
実施例1
図1に示す装置構成で基材上に微粒子を付着させた。
【0049】
ターゲット21a、21bとしては、20×20mmで長さ120mmの角をR3に加工した純Feターゲットを用いた。このターゲットをステンレス製の保持部材29に装着し、保持部材29は保温冷却用シリコンオイルが流れるように貫通孔を有する。
【0050】
移動ステージ電極27としては、100×500×20mmの平板のチタン金属(JIS第2種)に保温用の穴を100×20mmの面に3カ所貫通させた部材を用い、さらに、電極の表面にアルミナセラミックを0.8mmになるまで溶射被覆させた後、アルコキシシランモノマーを有機溶媒に溶解させた塗布液をアルミナセラミック被膜に塗布し、乾燥させた後に、300℃で加熱し封孔処理を行って誘電体22を形成した。
【0051】
以上で作製したターゲット部材2本を2mmの間隙を作るように並べて、その間隙を放電ガスの導入口とした。またターゲット21a、21bと、移動ステージ電極27との距離Dは、1.0mmとなるように配置した。これを製造装置として排ガス導出路を備した容器内に設置した。
【0052】
基材26として、面積100×100mm、厚み0.5mmのガラス板をターゲット−電極間に設置し、搬送速度を0.1m/secとして移動ステージ電極27を反復移動させた。
【0053】
シリコンオイルを電極、ターゲット内に流通させて保温温度を250℃に保ちながらArガスをターゲット−電極間に導入し、約10分間空気をパージさせ、13.56MHz、800W/cmで電極とターゲット間で60秒間プラズマ放電させた。
【0054】
基材を電子顕微鏡にて観察した結果、10〜20nmのFeの微粒子が斑点状に堆積していた。
【0055】
実施例2
実施例1において、ターゲット材を純FeからTiOに変更し、放電ガスとして窒素ガスをターゲット−電極間に導入し、約10分間空気をパージさせ、ターゲット21には50kHzで8Kv、電極27には13.56MHzで10W/cmの2周波で印加し、電極とターゲット間で60秒間プラズマ放電させた。
【0056】
基材を電子顕微鏡にて観察した結果、30〜60nmのTiOの微粒子が斑点状に堆積していた。
【0057】
また、得られた微粒子付着基板について密着性を評価した。市販テープ(3M社scotchブランド)を貼り、基板に垂直な方向に速いスピードで剥離させた。テープ剥離前、後で光電子分光法(XPS、VG社製ESCALAB−200R)により原子ピークを比較した結果、Fe、Tiピークともに剥離前後で変化がなかった。よって、基材とナノ粒子の間に強固な密着性があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、大気圧プラズマスパッタ法を用いることにより、バインダ、フィラー等を用いずに、ナノオーダーの微粒子自体が密着性良く直接付着した微粒子付着基板を、高価な真空設備等を用いずに得ることができる。また大気圧プラズマスパッタ法では200℃以下の様な低温でも粒子を成長させることが可能なので、安価なガラス基材やプラスチック基材上に微粒子を付着させた微粒子付着基板とすることができる。
【0059】
また粒子径、粒子密度、パターニング、集積度がコントロールされて得られた本発明の微粒子付着基板は新たな機能を発現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノオーダーの微粒子自体が一次粒子の形態で基材に直接付着していることを特徴とする微粒子付着基板。
【請求項2】
前記微粒子の粒径が10nm〜100nmであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の微粒子付着基板。
【請求項3】
接着媒体を介さずに微粒子が基材に直接付着していることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の微粒子付着基板。
【請求項4】
微粒子が金属又はその酸化物であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の微粒子付着基板。
【請求項5】
付着微粒子が大気圧プラズマスパッタ法により形成されたことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の微粒子付着基板。
【請求項6】
付着微粒子が大気圧プラズマスパッタ法により形成されることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の微粒子付着基板の製造方法。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/083149
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510399(P2006−510399)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002316
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】