説明

微粒子状複合有機顔料の分散物及びその微粒子状複合有機顔料の製造方法

【課題】ナノメートルサイズでかつ粒度分布が狭く、しかも高い分散安定性を示し、インクないし塗料としたときに色滲みが小さい微粒子状複合有機顔料の分散物及びその複合有機顔料の製造方法を提供する。また、有機顔料のカラーバリエーションを豊富化し、とくに黒の底色に優れ、しかも透明性を有する微粒子状複合有機顔料の分散物及びその微粒子状複合有機顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状複合有機顔料の分散物であって、前記複合有機顔料が、前記3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて析出生成させたナノメートルサイズの顔料微粒子である複合有機顔料分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3種以上の有機顔料を成分として有する微粒子状複合有機顔料の分散物及びその製造方法に関し、特に黒の原料色材として好適に用いられる微粒子状複合有機顔料の分散物及びその微粒子状複合有機顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機顔料は鮮明な色調と高い着色力とを示す。しかも無機顔料とは異なり分子修飾が可能であり、粒子形状の制御性にも富み、また様々な有機化合物系の分散剤とのシナジーも期待できることから、多くの分野で広く研究開発が進められている。例えば、着色料として自動車用塗料、筆記用具、捺染用塗料を始め、印刷インク、電子写真用トナー、インクジェットインク、カラーフィルタ等を用途として挙げることができる。
【0003】
有機顔料の製造技術としては、例えばインクジェットインクやカラーフィルタ用の色材としてその開発がこれまで精力的に進められてきている。特に近年デジタルカメラの高画素化に伴いその薄層化が望まれる等、顔料微粒子をナノメートルサイズでしかも単分散に近づけることを求め開発がなされてきた。かかる顔料粒子の形成方法としてブレークダウン法(粉砕法)が挙げられる。その例は多数挙げられるが、たとえばキナクリドンキノン顔料の混合結晶を作製し、耐候性のある自動車用塗料を調製する方法を開示したものがある(特許文献1参照)。このブレークダウン法では粒子の微細化に多大な時間とエネルギーが必要となり、また適用できる物質も限定される。この点を改善しうる方法として、気相中または液相中で顔料を粒子成長させるビルドアップ法の研究が進められている。具体的に、マイクロ化学プロセスにより有機顔料分散液を効率良く調製する方法を開示したものがある(特許文献2、3参照)。さらに、有機顔料微粒子の粒径を下げると通常その光堅牢性は低下することに着目し、その解決策として、同系色の2種の有機顔料を同時に析出させて有機顔料混合微粒子とする方法が提案されている。(特許文献4参照)
【0004】
【特許文献1】特開昭62−62867号公報
【特許文献2】特開2005−307154号公報
【特許文献3】特開2006−342304号公報
【特許文献4】特開2008−201914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機顔料は特定の種類のもつ色味をそのまま利用するのが一般的であり、その色味において諸性能の向上を試みることが通常なされてきた。本発明者らは、そのような従来的なものとは異なる新たなアプローチとして、複数の異なる色の有機顔料を用い、かつビルドアップ法を活用することにより、これまでにない有機顔料の調色を実現することを考えた。その着想に基づき鋭意研究を継続した結果、微粒子状複合有機顔料に3種以上の成分を含有させることで、単にそれらの顔料種を混合したのでは得られない、特有の色味を有する色材としうることを見出した。とりわけ有機顔料の調製においてカラーバリエーションを広げることはもとより、これまで有機顔料ではその種類に選択の幅があまりない黒の色味に優れるものも提供することができることが分かってきた。自動車用塗料等の工業製品の着色料に用いられるものとして、カーボンブラックに代わる底色に優れ、かつ高濃度では漆黒となる黒の色材を、多様な有機顔料で調製することができれば、色材種の豊富化はもとより、より高性能の色材の開発の可能性が大幅に広がる。
【0006】
すなわち本発明は、ナノメートルサイズでかつ粒度分布が狭く、しかも高い分散安定性を示し、インクないし塗料としたときに色滲みが小さい微粒子状複合有機顔料の分散物及びその複合有機顔料の製造方法の提供を目的とする。また、有機顔料のカラーバリエーションを豊富化し、とくに黒の底色に優れ、しかも透明性を有する微粒子状複合有機顔料の分散物及びその微粒子状複合有機顔料の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
(1)3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状複合有機顔料の分散物であって、前記複合有機顔料が、前記3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて析出生成させたナノメートルサイズの顔料微粒子であることを特徴とする複合有機顔料分散物。
(2)前記微粒子状複合有機顔料が黒色有機顔料であることを特徴とする(1)に記載の分散物。
(3)前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料において色相角差異が60度以上となる有機顔料の組合せを含むことを特徴とする(1)に記載の分散物。
(4)前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の混合比において、もっとも多い粒子成分が80質量%未満であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分散物。
(5)前記微粒子状複合顔料の体積平均粒径(Mv)を100nm以下としたことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分散物。
(6)前記微粒子状複合顔料の体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)との比(Mv/Mn)を2.0以下としたことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの1項に記載の分散物。
(7)前記微粒子状複合顔料の有機顔料成分のひとつとしてフタロシアニン顔料を用いることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載の分散物。
(8)前記微粒子状複合顔料の分散物成分のひとつとして無金属フタロシアニン顔料PB−16を用いることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載の分散物。
(9)3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて、前記3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状の複合有機顔料を析出させることを特徴とする微粒子状複合有機顔料の製造方法。
(10)前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の混合比において、もっとも多い粒子成分を80質量%未満とすることを特徴とする(9)に記載の製造方法。
(11)前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の色相角差異が60度以上はなれた色の組合せを含むことを特徴とする(9)又は(10)に記載の製造方法。
(12)前記混合有機顔料溶液が前記3種以上の有機顔料をアルカリまたは酸で溶解させた溶液として調製することを特徴とする(9)〜(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
(13)前記微粒子状複合有機顔料の体積平均粒径(Mv)を100nm以下とすることを特徴とする(9)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法。
(14)前記微粒子状複合有機顔料の体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)との比(Mv/Mn)を2.0以下としたことを特徴とする(9)〜(13)のいずれか1項に記載の製造方法。
(15)前記混合有機顔料溶液と水性媒体とをマイクロリアクターの流路内で接触させることを特徴とする(9)〜(14)のいずれか1項に記載の製造方法。
(16)前記マイクロリアクターの流路の等価直径を1mm以下とすることを特徴とする(15)に記載の製造方法。
(17)前記混合有機顔料溶液と水性媒体とを層流過程で接触させることを特徴とする(9)〜(16)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の微粒子状複合有機顔料は、ナノメートルサイズでかつ粒度分布が狭く、しかも高い分散安定性を示し、インクないし塗料としたときに色滲みが小さいという優れた作用効果を奏する。また、本発明の微粒子状複合有機顔料は、有機顔料のカラーバリエーションを豊富化し、とくに黒の底色に優れ、しかも透明性を有するものとして提供することができる。さらに、本発明の製造方法によれば、上記の優れた特性を有する微粒子状複合有機顔料を効率良くかつ純度良く提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の分散物は、3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状複合有機顔料を含有する。この複合有機顔料は後述するビルドアップ法により形成されたものであり、単に複数の顔料を混ぜたのでは得られない特有の色味を呈する。その呈色形態については、未だ未解明の点を含むが、例えば後記再沈法において有機顔料が析出するときに複数の種類のものが混晶ないしそれに類似する形態で複合一体化することが考えられる。推定を含めていえば、微粒子内における複数の有機顔料の複合一体化によってその表面がモザイク状に着色され、単なる混合物では得られない独特の色彩を発現していることが考えられる。以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0010】
[有機顔料]
本発明に用いられる有機顔料は、色相ないし構造について特に限定されるものではなく、例えば、ペリレン化合物顔料、ペリノン化合物顔料、キナクリドン化合物顔料、キナクリドンキノン化合物顔料、アントラキノン化合物顔料、アントアントロン化合物顔料、ベンズイミダゾロン化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料、ジスアゾ化合物顔料、アゾ化合物顔料、インダントロン化合物顔料、インダンスレン化合物顔料、キノフタロン化合物顔料、キノキサリンジオン化合物顔料、金属錯体アゾ化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、トリアリールカルボニウム化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、アミノアントラキノン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ナフトールAS化合物顔料、チオインジゴ化合物顔料、イソインドリン化合物顔料、イソインドリノン化合物顔料、ピラントロン化合物顔料、イソビオラントロン化合物顔料などが挙げられる。なかでも、フタロシアニン化合物顔料(特に無金属フタロシアニン顔料 PB−16が好ましい)、キナクリドン化合物顔料(特にPR−122が好ましい)、縮合アゾ化合物顔料(PY−128)、ジスアゾ化合物顔料(PY−14が好ましい)、ナフトール化合物顔料(PR−170)を用いることが好ましい。
【0011】
3種以上の顔料の組み合わせは特に限定されないが、所望の色味を得ることを考慮すると、微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の色相角差異が60度以上となる有機顔料の組合せを含むことが好ましく、80度以上である有機顔料の組合せを含むことがより好ましく、100度以上である有機顔料の組合せを含むことが特に好ましい。換言すれば、含有成分となる有機顔料の任意の2種の組合せのうち、すくなくとも1つの組合せにおいて上記色相角差異があることが好ましい。色相角度を上記下限値以上とすることで、該微粒子状複合有機顔料により表現できる色のバリエーション、つまり色域を広くし、特に黒色粒子作成においては3種以上の顔料種組み合わせにおいて、少ない顔料種で黒色微粒子ができる。本発明において「色相角」は特に断らない限り、CIE(1976)ab色相角(JIS−Z−8730 3.9参照)に準拠する。各顔料における上記色相角の値は、例えば、橋本勲著「有機顔料ハンドブック」カラーオフィス社、2006年5月に記載された値を参照することができ、さらに個別的に求める必要があるときには、実施例に記載の方法で測定した値を採用することとする。
【0012】
具体的な有機顔料種の組合せとしては例えば下記のものが挙げられる。
【0013】
【表A】

なかでも、No.1、2、7の組合せが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の混合比において、もっとも多い粒子成分が80質量%未満であることが好ましく、35質量%以上70質量%未満であることがより好ましく、40質量%以上50質量%未満であることが特に好ましい。主成分有機顔料の量を上記上下限値内とすることで、顔料濃度が低濃度から高濃度まで色相角変化が少ない顔料分散物ができる。上記主成分顔料100質量部に対して副成分顔料(より少なくなる成分)の含有量は、それぞれ20〜100質量部であることが好ましく、40〜80質量部であることがより好ましい。
【0015】
[再沈法]
本発明の微粒子状複合有機顔料は、前記3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて析出生成させたものである。まず、上記混合有機顔料溶液の調製について説明する。
【0016】
○混合有機顔料溶液
混合有機顔料溶液を調製するときに用いる良溶媒は、溶解する有機顔料が溶解すればどのようなものでもよいが、例えば、非プロトン性溶剤が挙げられ、水に対する溶解度が5質量%以上であるものが好ましく用いられ、さらには水に対して自由に混合するものが好ましい。具体的には、ジメチルスルホキシド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、プロピオニトリル、ブタノン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジアセテート、γ−ブチロラクトン等が好ましい溶剤として挙げられる。中でもジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトン又はアセトニトリル、テトラヒドロフランが好ましい。これらは1種類単独でまたは2種類以上を併用して用いることができる。3種以上の顔料によりそれぞれ溶解性が異なるようであれば、最も多い量を用いる主成分顔料に併せて上記良溶媒種を選定することができる。このことは以下に述べる溶解条件についても同様である。
【0017】
有機顔料はアルカリまたは酸で均一に溶解するとき、そのどちらで溶解するかは対象とする顔料がどちらの条件で均一に溶解し易いかで選択することができる。一般に分子内にアルカリで解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリが用いられる。他方、アルカリで解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するようなときには、酸が用いられる。例えば、キナクリドン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ジスアゾ縮合化合物顔料はアルカリで、フタロシアニン化合物顔料は酸で溶解することができる。
【0018】
アルカリで溶解させる場合、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどの無機塩基、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基を用いることができ、なかでも無機塩基を用いることが好ましい。
使用する塩基の量は特に限定されないが、無機塩基の場合、顔料に対して1.0〜30モル当量であることが好ましく、2.0〜25モル当量であることがより好ましく、3〜20モル当量であることが特に好ましい。有機塩基の場合は、顔料に対して1.0〜100モル当量であることが好ましく、5.0〜100モル当量であることがより好ましく、20〜100モル当量であることが特に好ましい。
【0019】
酸で溶解させる場合に、硫酸、塩酸、燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸を用いることができ、なかでも無機酸であることが好ましく、硫酸であることが特に好ましい。
使用する酸の量は特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、顔料に対して3〜500モル当量であることが好ましく、10〜500モル当量であることがより好ましく、30〜200モル当量であることが特に好ましい。
【0020】
混合有機顔料溶液において、有機顔料の溶解量は特に限定されないが、有機顔料の総量として0.1〜15質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。有機顔料の含有量(濃度)を上記下限値以上とすることで、色相角の再現性が高い粒子を得ることができ、上記上限値以下とすることでシャープな粒度分布を持つ分散物を作成することができる。
【0021】
○水性媒体
本発明において、水性媒体とは、水単独または水に可溶な有機溶媒の混合溶媒である。このとき有機溶媒の添加は、顔料や分散剤を均一に溶解するために水のみでは不十分な場合、および流路中を流通するのに必要な粘性を得るのに水のみで不十分な場合などに用いることが好ましい。有機溶媒として例えば、アルカリ性の場合はアミド系溶媒または含イオウ系溶媒であることが好ましく、含イオウ系溶媒であることがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)であることが特に好ましい。酸性の場合はカルボン酸系溶媒、イオウ系溶媒、またはスルホン酸系溶媒であることが好ましく、スルホン酸系溶媒であることがより好ましく、メタンスルホン酸であることが特に好ましい。なお、水性媒体には必要に応じて無機化合物塩や後述する分散剤等を溶解させてもよい。
【0022】
○混合有機顔料溶液と水性媒体との接触
本発明においては、有機顔料を均一に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とをそれぞれ長さのある流路に、その同じ長手方向に送りこみ、その流路を通過する間に両液を接触させ微粒子状複合有機顔料を析出させることが好ましい。このとき懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広い顔料微粒子になったりし、場合によっては流路を閉塞してしまう。本発明において「均一に溶解」とは、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、1μm以下のミクロフィルターを通して得られる液相の状態、換言すれば1μmのフィルタを通した場合に濾過される物を液相中に含まない状態と定義する。
【0023】
混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて微粒子状複合有機顔料を析出させる際、水素イオン指数(pH)を変化させることが好ましい。水素イオン指数(pH)の変化は、アルカリに溶解した顔料から顔料微粒子を析出させる場合は、pH16.0〜5.0の範囲内でpHを低下させることが好ましく、pH16.0〜10.0の範囲内で低下させることがより好ましい。酸に溶解した顔料から顔料微粒子を析出させる場合は、おおむねpH1.5〜9.0の範囲内でpHを上昇させることが好ましく、pH1.5〜4.0の範囲内で上昇させることがより好ましい。変化の幅は有機顔料溶液の水素イオン指数(pH)の値にもよるが、微粒子状複合有機顔料の析出をうながすのに十分な幅であればよい。
【0024】
微粒子状複合有機顔料を析出させるときの反応温度は、溶媒が凝固あるいは気化しない範囲内であることが好ましく、具体的には−20〜90℃であることが好ましく、0〜50℃であることがより好ましく、5〜15℃であることが特に好ましい。微粒子状複合有機顔料を形成するとき、流路内を流れる流体の速度(流速)は、0.1mL〜300L/hrであることが好ましく、0.2mL〜30L/hrであることがより好ましく、0.5mL〜15L/hrであることが更に好ましく、1.0mL〜6L/hrであることが特に好ましい。
【0025】
[分散剤]
本発明においては、微粒子状複合有機顔料として共沈法により析出させたものを用いることが好ましく、有機顔料溶液および/または水性媒体中に分散剤を添加し、両者を接触させて形成したものであることが好ましい。分散剤は(1)析出した顔料表面に素早く吸着して、微細な顔料粒子を形成し、かつ(2)これらの粒子が再び凝集することを防ぐ作用を有するものである。このような分散剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料性の、低分子または高分子分散剤を使用することができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0026】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0029】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
顔料性分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料性分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料分散剤、ピペリジル含有顔料分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料分散剤、スルホンアミド基を有する顔料分散剤、エーテル基を有する顔料分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料分散剤などがある。
【0031】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これらの高分子分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
好ましい態様として、アニオン性分散剤を水性媒体に含有させ、かつノニオン性分散剤および/または高分子分散剤を有機顔料溶液に含有させる態様を挙げることができる。
【0033】
分散剤を含有させる量は、顔料の均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、顔料100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、1〜500質量部の範囲であることがより好ましく、10〜250質量部の範囲であることが特に好ましい。この量が少なすぎると複合有機顔料の分散安定性が向上しないことがある。
【0034】
[微粒子状複合有機顔料]
本発明の分散物に含有させた微粒子状複合有機顔料の粒径(本発明において粒径とは粒子の直径をいう。)及び単分散性は特に限定されないが、平均粒径がナノメートルサイズ(1μm未満)であり、100nm以下であることが好ましく、5〜80nmであることがより好ましく、5〜50nmであることが特に好ましい。単分散性については、その指標である体積平均粒径(Mv)を個数平均粒径(Mn)で除した値(Mv/Mn)を用い、その値が2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。本発明において上記平均粒子径及び単分散度は特に断らない限り後記実施例に記載された方法で求めた値をいう。なお本発明において「分散物」とは、所定の微粒子を媒体に分散させた組成物をいい、その形態は特に限定されず、液状の組成物(分散液)、ペースト状の組成物、及び固体状の組成物を含む意味に用いる。本発明の分散物において、微粒子状複合有機顔料の含有率は特に限定されないが、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
【0035】
上記微粒子状複合顔料における3種の有機顔料の含有形態は特に限定されず、上述のように混晶になっていても、多結晶状態あるいは会合体となっていてもよく、調色の観点からは所定の形態で複合一体化していることが好ましい。微粒子内に3種の有機顔料が含まれることは、再沈法による調製手順から明らかであるが、その確認の手法としては、たとえば発光スペクトル測定によって、微粒子状複合有機顔料の構成有機顔料のそれぞれ一種類で作成された有機顔料微粒子では、計測されない波長域に発光ピークを確認することが挙げられる。
【0036】
[マイクロリアクター]
本発明の分散物に含有させる微粒子状複合有機顔料は、マイクロリアクターの流路中で形成したものであることが好ましく、その好ましい態様として、(i)マイクロリアクターの流路の等価直径を1mm以下(好ましくは0.01〜0.5mm)にする態様、(ii)マイクロリアクターの流路中に層流を形成する態様が挙げられる。層流下で粒子形成を行うと、核生成から核成長の過程が安定化し粒子サイズが小さくかつ粒子分布が狭い微粒子を形成することができ、透明性が高く濁りのない顔料分散液が効率良く得られ、好ましい。とりわけ、層流過程で、しかも上述のようにpHを変化させながら顔料微粒子を析出させた分散液は、粒子サイズ、その分布、分散安定性、および生産性に優れ、特に好ましい。
【0037】
等価直径(equivalent diameter)は、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管ないし流路に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a/4a=a、一辺aの正三角形管ではdeq=a/√3、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0038】
層流及び乱流の区別についてはおよそ次の値が基準となる(Reはレイノルズ数)。
Re<2300 層流
Re>3000 乱流
3000≧Re≧2300 過渡状態
【0039】
本発明においてマイクロリアクターのマイクロ流路からなる液体混合空間の長さは特に限定されないが、1mm以上10m以下であることが好ましく、5mm以上10m以下であることがより好ましく、10mm以上5m以下であることが特に好ましい。本発明に用いられる流路の数は特に限定されず、必要に応じて流路を並列化(ナンバリングアップ)し顔料微粒子分散物の生産量を増大させることができる。そのほか、マイクロリアクターの製造方法及び制御方法については、例えば特開2005−307154号公報の段落0035〜0046を参考にすることができる。
【0040】
図1は中心衝突型マイクロリアクター装置の一実施態様を模式的に示した分解斜視図である。本実施態様の立体型マイクロリアクター装置100は、主として、それぞれが円柱状の形状をした供給ブロック11、合流ブロック12、及び反応ブロック13により構成される。そして、マイクロリアクター装置80を組み立てるには、円柱状をしたこれらのブロック11、12、13を、この順番で互いの側面同士を合わせて円柱状になるようにし、例えばこの状態で各ブロックをボルト・ナット等により一体的に締結する。
【0041】
供給ブロック11の合流ブロック12に対向する側面14には、2本の環状溝15、16が同芯状に穿設されており、マイクロリアクター装置100を組み立てた状態において、2本の環状溝15及び16は液体Bと液体Aとがそれぞれ流れるリング状流路を形成する。そして、供給ブロック11の合流ブロック12に対向しない反対側の側面24から外側環状溝16と内側環状溝15に達する貫通孔18、17がそれぞれ形成される。かかる2本の貫通孔18、17のうち、外側の環状溝16に連通する貫通穴18には、液体Aを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結され、内側環状溝15に連通する貫通孔17には、液体Bを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結される。図1中、外側環状溝16に液体Aを流し、内側環状溝15に液体Bを流すように示したが、逆にしてもよい。
【0042】
合流ブロック12の反応ブロック13に対向する側面19の中心には円形状の合流部20が形成され、この合流部20から放射状に4本の長尺放射状溝21と4本の短尺放射状溝22が交互に穿設される。これら合流穴20や放射状溝21,22はマイクロリアクター装置100を組み立てた状態において、合流領域20となる円形状空間と液体A,Bが流れる放射状流路とを形成する。また、8本の放射状溝21,22のうち、長尺放射状溝21の先端から合流ブロック12の厚み方向にそれぞれ貫通穴25が形成され、これらの貫通穴25は供給ブロック11に形成されている前述の外側環状溝16に連通される。同様に、短尺放射状溝22の先端から合流ブロック12の厚み方向にそれぞれ貫通穴26が形成され、これらの貫通穴26は供給ブロック11に形成されている内側環状溝15に連通される。
【0043】
また、反応ブロック13の中心には、反応ブロック13の厚み方向に合流部20に連通する1本の貫通孔23が形成され、この貫通孔23がマイクロ流路からなる液体混合空間となる。
これにより、液体Aは供給ブロック11の貫通孔18から外側環状溝16を経て合流ブロック12の貫通孔25を通り、長尺放射溝21の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部20に至る。一方、液体Bは供給ブロック11の貫通孔17から内側環状溝15を経て合流ブロック12の貫通孔26を通り短尺放射溝22の供給流路を流れる。その4つの分割流が合流部20に至る。合流部20において液体Aの分割流と液体Bの分割流とがそれぞれの運動エネルギーを有して合流した後、90°流れ方向を変えてマイクロ流路23に流入する。
【0044】
その他、Y字型流路を有する反応装置、円筒管型流路を有する反応装置、またそれらの装置において2液の流れが層流のまま出口まで到達する場合、それらを分離できるように改良を加えた装置などを用いることができる(例えば特開2005−307154号公報の段落0049〜52及び図1〜図4参照)。また、2液の接触角度や接触流路の数を適宜に調節した平面型マイクロリアクターや立体型マイクロリアクターを用いることも好ましい(例えば特願2006−78637号公報の段落0044〜0050参照)。
【0045】
上記の複合有機顔料分散物を乾燥させることにより複合有機顔料固形物とすることができる。乾燥方法は通常の方法によればよく特に限定されないが、例えば、凍結乾燥、媒体となる液体の減圧留去(エバポレーターなどによる)などの乾燥方法が挙げられる。固形物化したときの微粒子状複合有機顔料の含有率は特に限定されないが、5〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
【0046】
本発明の微粒子状複合有機顔料分散物は優れたインクジェットインクとすることができる。具体的には、上述のとおりビルドアップ法により複合有機顔料を析出させた分散物を遠心分離及び/または限外ろ過により精製し濃縮する。これに、例えば、グリセリン類、グリコール類等の水溶性高沸点有機溶剤を添加する。さらに、必要に応じて、pHや表面張力、粘度を調整する剤、あるいは防腐等のための添加剤を加えることで良好なインクジェットインクとすることができる。また、前述した、分離、濃縮、液物性の調整などを適宜に行って高性能カラーフィルタ用の分散物とすることができる。
【0047】
[その他の分散剤等]
本発明の分散物に含有させる微粒子状複合有機顔料は、重合性化合物の重合体が微粒子に固定化されているものであることが好ましい。固定化とは、含有する重合性化合物のすべて(あるいはその一部)が単独重合、あるいは共重合した状態で該微粒子状複合有機顔料と接している状態をいう。このとき重合体は、微粒子状複合有機顔料の表面上及び内部のいずれに存在していてもよく、重合体のすべて(あるいはその一部)が該微粒子状複合有機顔料と接している状態であればよく、分散物中での移動によっても脱離しないように接着していることが好ましい。ここで重合体とは、重合性化合物2分子以上が重合した結果生じた化合物をいい、微粒子上のすべての重合性化合物が重合反応に関与している必要はなく、未反応の重合性化合物が残存していてもよい。重合性化合物としては、例えば、特開2008−201914号公報の段落[0051]〜[0062]に記載の化合物を用いることができ、その使用方法も参照することができる。微粒子状複合有機顔料の堅牢性等を上げる目的で、紫外線吸収剤や酸化防止剤、香料、防カビ剤、表面張力調整剤、水溶性樹脂、殺菌剤、pH調整剤、尿素などの添加剤を併用してもよい。これらはその添加時期や方法は特に限定されない。
【0048】
[アプリケーション]
本発明の微粒子状複合有機顔料を含有する分散物は、インクジェットインク、自動車用塗料、筆記具用、捺染用水性塗料として好適に利用することができる。これらのインクもしくは塗料とするときに、上記再沈法で得られた分散物ないしその濃縮物を用いてもよいが、一度濃縮もしくは乾燥粉末として、それぞれのアプリケーションに応じた所定のバインダーや媒体に再分散させて用いることが好ましい。本発明の微粒子状複合有機顔料は所望の色味に調色されており、たとえば要求に応じて良好な色味を呈するものとしたオーダーメード顔料として提供することができる。特に、カーボンブラックに代替し、さらにそれでは実現できない黒色度と透明性(低ヘイズ)とを両立する色材として提供することもでき、濃度の低い塗料としても黒もしくはグレーの着色性に優れており工業用塗料として有用である。なお、本発明において黒とは、後記実施例に記載の測定方法により求めたO.D.(optical density:色濃度)値及びL値(JIS−Z−8730 3.3 L表示系参照)により定められる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」もしくは「部」は特に断らない限り質量基準である。
【0050】
(実施例1)
赤顔料(PR−122)15.38g 色相角343度と、黄色顔料(PY−128)8.1g 色相角94度と、青顔料(PB−16)4.96g 色相角226度とを、ジメチルスルホキシド(DMSO:有機溶剤)1.22 lにテトラメチルアンモニウムを25%溶解させた良溶媒68.2gで溶解させた。このとき、分散剤としてアクアロンKH−10(アニオン性界面活性剤)22.7gとポリビニルピロリドンK15(水溶性高分子分散剤)5.4gとを混合顔料溶解液に加えた。この混合顔料溶解液と水とを下記構造のマイクロリアクター内で接触混合させることで微細かつ単分散な混合ナノ顔料を得た。マイクロリアクター装置として、図1の中心衝突型マイクロリアクター装置を使用した。
(i)供給流路本数(n)・・・2種類の反応液それぞれについて5本に分割(合計10本の流路が合流する。なお図1の装置は各4本合計8本流路が合流する装置である。ただし、下記の符号は図1に記載のものに沿って示した。)
(ii)供給流路21、22の幅(W)・・・各400μm
(iii)供給流路21、22の深さ(H)・・・各400μm
(iv)合流領域20の直径(D)・・・800μm
(v)マイクロ流路23の直径(R)・・・800μm
(vi)合流領域20において各供給流路21、22とマイクロ流路23との中心軸同士の交差角度…90°
(vii)装置の材質・・・ステンレス(SUS304)
(viii)流路加工法・・・マイクロ放電加工で行い、供給ブロック11、合流ブロック12、反応ブロック13の3つのパーツの封止方法は鏡面研磨による金属面シールで行った。二つの入り口に長さ50cm、等価直径1mmのテフロン(登録商標)チューブ2本をコネクターを用いて接続し、その先にそれぞれ顔料溶解液と水とを入れたシリンジをそれぞれ繋ぎ、ポンプにセットした。コネクターの出口には長さ1.5m、等価直径2mmを有するテフロン(登録商標)チューブを接続した。
混合顔料溶解液を図1のa部分より150mL/min、水を図1のb部分より600mL/minの送液速度にて送り出し、複合顔料分散液を得た。この顔料分散液を限外濾過装置(アドバンテック東洋社製、UHP−25K、分画分子量5万)により液量を保持するよう蒸留水を加えながら精製・顔料濃度調整処理をした。得られた複合有機顔料分散物試料における、微粒子の粒径及び単分散度、分散安定性、ペーパークロマトによる色にじみ、および普通紙へ塗布したサンプルの底色、色相角再現性について下記表1に示した。
【0051】
実施例2
実施例1と同一顔料種で、添加割合を替えた、赤顔料(PR−122)11.9g黄色顔料(PY−128)11.9g、青顔料(PB−16)3.1g、を原料として、実施例1と同じ製法により、分散物を得た。結果を下表1に示した。
【0052】
実施例3
用いる顔料として赤顔料(PR−170)(色相角 10度)、黄色顔料(PY−14)(色相角93度)、青顔料(PB−16)とした以外は、実施例1と同じ製法により、分散物を得た。結果を下表1に示した。
【0053】
実施例4
実施例1と同じ組成の混合顔料溶解液を水を張って、攪拌したビーカーに滴下する方法で粒子形成を行い、その後、実施例1と同じ製法により分散物を得た。結果を下表1に示した。
【0054】
<試薬>
・PY−128:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP(商品名)
・PB−16:東京化成工業(株)社製
・PR−122:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、Jet
Magenta DMQ(商品名)
・PR−170:クラリアント社製、 Graphtol Red F3RK70
・PY−14:クラリアント社製、 Graphtol Yellow GXS
・アクアロンKH−10:商品名、第一工業製薬(株)社製
・ポリビニルピロリドンK15:商品名、東京化成工業(株)社製
・25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液:商品名、和光純薬工業(株)社製
【0055】
(比較例1)
実施例1に対して3種の顔料を同時に良溶媒に溶解するのではなく、それぞれ溶解した顔料溶解液を調製した。これら3つの顔料溶解液を水と上記マイクロリアクターにより接触させ顔料微粒子分散物をそれぞれ得た。この3色の顔料微粒子分散物をビーカー内で混合し混色した分散物試料を得た。上記実施例1と同様に各項目について評価した結果を下表1に示す。ペーパークロマトにおいてY,M,C3色に分離した色が10cm以上の部位に観察された。
【0056】
(比較例2)
実施例1で用いた3種の顔料固体20質量%、スチレン−アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体(分子量10000、酸価160)15質量%、グリセリン10質量%、イオン交換水55質量%で混合し、0.3mmのジルコニアビーズを体積率で60%充填したビーズミルを用いて40℃で8時間粉砕した。これを水で希釈して顔料濃度が5質量%であるブレークダウン顔料分散物を得た。この分散物を実施例1と同じ限外ろ過精製処理を行い、分散物を得た。上記実施例1と同様に各項目について評価した結果を下表1に示す。
【0057】
(比較例3)
特開2008−201914号公報(特許文献4)の実施例1を参考にして分散物を作成した。ピグメントイエロー128(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、CROMOPHTAL YELLOW 8GNP(商品名),最大吸収波長(λmax)=410nm)40g、ピグメントオレンジ13(東京化成(株)社製)0.8g、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(和光純薬(株)社製)37g、アクアロンKH−10(商品名)(第一工業製薬(株)社製)32g、N−ビニルピロリドン(和光純薬(株)社製,減圧蒸留にて精製して使用)8g、ポリビニルピロリドンK30(商品名)(東京化成工業(株)社製)4gをジメチルスルホキシド600mLに室温で溶解し、これを混合顔料溶解液とした。実施例1と同様に処理を行い、分散物を得た。上記実施例1と同様に各項目について評価した結果を下表1に示す。
【0058】
[色相角の測定方法]
色相角h=tan−1(b/a)の関係より、色相角hを求めた。測定試料の作成方法は顔料分散物をバーコータNo.3で普通紙に塗布して作成した。本塗布サンプルを色相計「SpectroEye」(グレタグ社製)で測定。測定条件は観測光源D65、観測視野角10°とした。
[平均粒子径及び単分散度]
日機装(株)社製、商品名:ナノトラックUPAを用いて動的講散乱法による体積平均粒子径(Mv)及び単分散度(Mv/Mn)を求めた。
[分散安定性評価]
上記の分散体試料を60℃で240時間加熱保存処理した後の体積平均粒子サイズMvの変化率で評価した。Mv変化率4%未満を○、4%以上10%未満を△、10%以上を×とした。
[にじみ性評価]
ペーパークロマトグラフィー法で水を展開液として実施し、15cm展開したときの色分離性を目視評価した。結果を以下のとおりに区別し評価した。
○:原点から15cmまでにおいて色にじみがまったく観察されないもの
△:YMCの単色のうち、1色が色にじみとして観察されるもの
×:YMCの単色が2色以上が色にじみとして観察されるもの
[底色]
分散物試料を顔料濃度0.01質量%に調整し、普通紙にバーコータNO.3で塗布し乾燥後に目視により評価した。
[黒色度]
分散物試料を顔料濃度15質量%に調整し、塗布サンプルの測色計(グレタグ社製、商品名:SpectroEye)で色度を測定した。O.D.値が2.0以上でありかつL値が2以下である場合に良好な黒であると判定した。
[色相角再現性]
同一処方・製法で5回繰り返し8%質量%分散物を作成し、それぞれの分散物塗布サンプルについて上記記載の方法で色相角を算出し、色相角度の変化幅より評価した。
○:色相角変化幅 5°未満
△:色相角変化幅 5°以上 20度未満
×:色相角変化幅 20度以上
【0059】
【表1】

【0060】
上記の結果より本発明の微粒子状複合有機顔料は、ナノメートルサイズでかつ粒度分布が狭く、しかも高い分散安定性を示し、インクないし塗料としたときには色滲みが小さいことが分かる。また、異なる色味に調色することができ、色相角再現性に優れ、とりわけ単純に顔料微粒子を混合したのでは実現しがたい透明感のある黒ないしグレーに調色されたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】中心衝突型マイクロリアクター装置の一実施態様を模式的に示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
100 反応装置(マイクロリアクター)
11 供給ブロック
12 合流ブロック
13 反応ブロック
16 外側環状溝
15 内側環状溝
17、18 供給ブロックの貫通孔
20 合流部(合流領域)
21 長尺放射状溝
22 短尺放射状溝
23 反応ブロックの貫通孔(マイクロ流路からなる液体混合空間)
25、26 合流ブロックの貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状複合有機顔料の分散物であって、前記複合有機顔料が、前記3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて析出生成させたナノメートルサイズの顔料微粒子であることを特徴とする複合有機顔料分散物。
【請求項2】
前記微粒子状複合有機顔料が黒色有機顔料であることを特徴とする請求項1に記載の分散物。
【請求項3】
前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料において色相角差異が60度以上となる有機顔料の組合せを含むことを特徴とする請求項1に記載の分散物。
【請求項4】
前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の混合比において、もっとも多い粒子成分が80質量%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項5】
前記微粒子状複合顔料の体積平均粒径(Mv)を100nm以下としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項6】
前記微粒子状複合顔料の体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)との比(Mv/Mn)を2.0以下としたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかの1項に記載の分散物。
【請求項7】
前記微粒子状複合顔料の有機顔料成分のひとつとしてフタロシアニン顔料を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項8】
前記微粒子状複合顔料の分散物成分のひとつとして無金属フタロシアニン顔料PB−16を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の分散物。
【請求項9】
3種以上の有機顔料を良溶媒に溶解した混合有機顔料溶液と水性媒体とを接触させて、前記3種以上の有機顔料を粒子成分として有する微粒子状の複合有機顔料を析出させることを特徴とする微粒子状複合有機顔料の製造方法。
【請求項10】
前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の混合比において、もっとも多い粒子成分を80質量%未満とすることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記微粒子状複合有機顔料の粒子成分となる該3種類以上の有機顔料の色相角差異が60度以上はなれた色の組合せを含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記混合有機顔料溶液が前記3種以上の有機顔料をアルカリまたは酸で溶解させた溶液として調製することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記微粒子状複合有機顔料の体積平均粒径(Mv)を100nm以下とすることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記微粒子状複合有機顔料の体積平均粒径(Mv)と数平均粒径(Mn)との比(Mv/Mn)を2.0以下としたことを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記混合有機顔料溶液と水性媒体とをマイクロリアクターの流路内で接触させることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記マイクロリアクターの流路の等価直径を1mm以下とすることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記混合有機顔料溶液と水性媒体とを層流過程で接触させることを特徴とする請求項9〜16のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202081(P2011−202081A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72365(P2010−72365)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】