説明

微細凹部の加工装置

【課題】工具ホルダに対するフォームローラのオフセット量や工具ホルダの回転速度が変化しても、遠心力の影響を解消することができる微細凹部の加工装置を提供する。
【解決手段】シリンダボアBの内周面Baに微細凹部を形成する装置であって、回転駆動される工具ホルダ10と、工具ホルダ10の回転軸L1と直交する方向に移動可能なローラ支持部材12と、工具ホルダ10の回転軸L1と平行なローラ軸L2回りに回転自在なフォームローラ13と、ローラ支持部材12に荷重を付与してフォームローラ13を内周面Baに圧接させる荷重発生手段14と、工具ホルダ10の回転により生じた遠心力を検出する遠心力検出手段15と、検出した遠心力に基づいて重心を調整するためのバランスウエイト16を備えた加工装置とし、工具ホルダ10を回転駆動した際の遠心力の影響を可及的に解消した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用エンジンのシリンダブロックにおけるシリンダボア(円形穴)の内周面に、低フリクション化を実現するための油溜まりとして機能する多数の微細凹部を形成するのに用いられる微細凹部の加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、微細凹部の加工装置としては、回転駆動される工具ホルダに、ローラ支持部材を介して、工具ホルダの回転軸と平行なローラ軸回りに回転自在なフォームローラを設けたものがある。この加工装置は、被加工物の円形穴にフォームローラを入り込ませ、円形穴の中心線と工具ホルダの回転軸を一致させると共に、フォームローラを円形穴の内周面に所定荷重で圧接させる。そして、工具ホルダを回転駆動することで、円形穴の内周面に沿ってフォームローラを転動させ、同円形穴の内周面に微細凹部を形成する。
【0003】
ところで、上記したような加工装置では、工具ホルダの回転軸に対してフォームローラのローラ軸がオフセットされた位置にあるので、工具ホルダの回転によりローラ支持部材及びフォームローラに遠心力が生じる。この遠心力は、回転速度の二乗に比例して大きくなる。このため、低荷重で加工するには工具ホルダの回転を低速にする必要があり、加工効率や加工コストの面で好ましくなかった。
【0004】
そこで、従来の微細凹部の加工装置には、工具ホルダにおいて、ローラ支持部材やフォームローラを含む機能部に、重心調整用の錘を取り付けて、遠心力の影響をキャンセルし得る構成にしたものがあった(特許文献1参照)。この加工装置は、重心調整用の錘の採用により、高速回転時においても低荷重で加工することが可能になり、加工効率の向上や加工コストの節減を実現することができた。
【特許文献1】特開2006−026676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記したような従来の微細凹部の加工装置は、機能部の所定位置に所定重量の錘を選択的に取り付ける構造であったため、工具ホルダに対するフォームローラのオフセット量や工具ホルダの回転速度によって変化する遠心力に充分に対処することが困難であるという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、工具ホルダに対するフォームローラのオフセット量や工具ホルダの回転速度が変化しても、遠心力の影響を可及的に解消することができる微細凹部の加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の微細凹部の加工装置は、被加工物の円形穴の内周面に微細凹部を形成する加工装置である。加工装置は、円形穴と同軸状態に配置して回転駆動される工具ホルダと、工具ホルダに対してその回転軸と直交する方向に移動可能なローラ支持部材と、ローラ支持部材に対して工具ホルダの回転軸と平行なローラ軸回りに回転自在に設けた微細凹部形成用のフォームローラを備えている。
【0008】
さらに、加工装置は、ローラ支持部材に対してその移動方向に荷重を付与してフォームローラを円形穴の内周面に圧接させる荷重発生手段と、工具ホルダの回転によりローラ支持部材に生じた遠心力を検出する遠心力検出手段と、遠心力検出手段が検出した遠心力に基づいてローラ支持部材の重心を調整するためのバランスウエイトを備えている。本発明の微細凹部の加工装置は、上記の構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
上記構成において、フォームローラは、そのローラ軸が、工具ホルダの回転軸に対してオフセットされた位置にある。そして、フォームローラのオフセット方向と、工具ホルダに対するローラ支持部材の移動方向と、荷重発生手段による荷重の付与方向を同じ方向にするのがより望ましい。
【0010】
また、本発明の微細凹部の加工方法は、被加工物の円形穴の内周面に微細凹部を形成するに際し、加工前において、工具ホルダを回転させてローラ支持部材に生じた遠心力を検出し、その遠心力に基づいてバランスウエイトによりローラ支持部材の重心を調整し、その後、工具ホルダの回転軸と円形穴の中心線とを一致させると共に、フォームローラを円形穴の内周面に圧接させ、工具ホルダを回転駆動によりフォームローラを円形穴の内周面に沿って転動させて、円形穴の内周面に微細凹部を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の微細凹部の加工装置及び加工方法によれば、工具ホルダに対するフォームローラのオフセット量や工具ホルダの回転速度が変化しても、遠心力の影響を可及的に解消することができる。これにより、微細凹部の高精度化、加工効率の向上及び加工コストの節減などに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図2に示す微細凹部の加工装置1は、自動車用エンジンのシリンダブロックを被加工物としており、円形穴であるシリンダボアBの内周面Baに微細凹部を形成するNC工作機械である。加工装置1は、鉛直方向に移動可能な主軸ヘッド2と、主軸ヘッド2に下向きに突出した状態で支持された主軸3と、主軸ヘッド2の下側において水平面内で互いに直交する二軸方向に移動可能な被加工物載置用のテーブル4と、主軸3に同軸に装着されて一体で回転駆動される工具ホルダ10を備えている。
【0014】
この実施形態では、昇降可能な主軸ヘッド2が、シリンダブロック(被加工物)と工具ホルダ10をシリンダボア(円形穴)Bの中心線L3に沿う方向に相対的に移動させる軸方向移動手段を構成している。なお、主軸ヘッド2は、テーブル4と同様に、水平面内で互いに直交する二軸方向に移動可能な構成であっても良い。
【0015】
工具ホルダ10は、図1に示すように、主軸3に装着する部位であるシャンク部10Aと、その下側に連続するボディ部10Bを有しており、ボディ部10Bの下側には、アダプタ10Cを備えている。
【0016】
また、工具ホルダ10は、アダプタ10Cの下側に、ハウジング11が一体的に設けてあり、ハウジング11に、工具ホルダ10の回転軸L1と直交する水平方向(図1a中で左右方向)に移動可能なローラ支持部材12を備えている。ローラ支持部材12には、工具ホルダ10の回転軸L1と平行なローラ軸L2回りに回転自在な微細凹部形成用のフォームローラ13が装着してある。ここで、フォームローラ13は、そのローラ軸L2が、工具ホルダ10の回転軸L1に対して、ローラ支持部材12の移動方向と同方向(図1a中で右方向)にオフセットされた位置にある。
【0017】
さらに、工具ホルダ10は、ローラ支持部材12に対してその移動方向に荷重を付与してフォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに圧接させる荷重発生手段14と、当該工具ホルダ10の回転によりローラ支持部材12に生じた遠心力を検出する遠心力検出手段15と、遠心力検出手段15が検出した遠心力に基づいてローラ支持部材12の重心を調整するためのバランスウエイト16を備えている。遠心力検出手段15には、例えば、圧電型のロードセルを用いることができ、これにより、簡単な構成で高精度な遠心力検出が可能になる。
【0018】
アダプタ10Cは、ハウジング11を固定したフレーム17と、フレーム17を案内するガイドバー29と、作動油の導入によりフレーム17を図1a中で右方向へ前進させるアクチュエータ(油圧シリンダ)18と、作動油の排出とともにアクチュエータ18を後退させる戻しばね19等を備えている。このアダプタ10Cは、ハウジング11をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動(前後進)させる径方向移動手段を構成している。なお、径方向とは、シリンダボアBやフォームローラ13等の半径方向である。
【0019】
ハウジング11は、ローラ支持部材12を水平方向に移動可能に保持するもので、下方向に開放された中空状の部材であり、図1a中で左側である一方側と、その反対側である他方側に、軸線を水平方向とした円筒部11a,11bを互いに同軸状に有している。
【0020】
ローラ支持部材12は、軸線を垂直にした概略円柱状の部材であって、ハウジング11に設けた複数のクロスローラガイド20によって上端部が水平方向に案内され、工具ホルダ10の回転軸L1に直交する方向に移動可能である。そして、ローラ支持部材12の下端部には、組合せアンギュラ玉軸受を含む垂直な支持軸21を介して、フォームローラ13が回転自在に装着してある。この支持軸21の中心がローラ軸L2である。
【0021】
フォームローラ13は、シリンダボアBの直径よりも小さい直径を有すると共に、外周部に微細凹部形成用の微細凸部を有している。このフォームローラ13は、ディンプル状の微細凹部を形成する突起型の微細凸部を所定間隔で設けたものや、溝状の微細凹部を連続的に形成する鍔型の微細凸部を設けたものとすることができる。
【0022】
また、フォームローラ13は、材料がとくに限定されるものではないが、例えば、超硬、超硬以外の硬質金属やアルミナ、窒化珪素等のセラミックスなどから成ると共に、高い強度と靭性を有しており、被加工物が焼入れ鋼などの高硬度材料であっても微細凹部を形成することができる。
【0023】
荷重発生手段14は、ハウジング11の一方側の円筒部11aに端部を挿設したばね座22と、ローラ支持部材12との間に介装した圧縮コイルばねである。この荷重発生手段14は、工具ホルダ10の回転軸L1とシリンダボアBの中心線L3とを一致させた状態において、ローラ支持部材12に対して水平方向に荷重を付与することで、フォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに圧接させる。
【0024】
また、ハウジング11において、一方側の円筒部11aの端部には、受圧部材23が螺着してあり、受圧部材23とばね座22との間には、荷重発生手段14すなわち圧縮コイルばねによる発生荷重を検出するための荷重検出手段24が設けてある。この荷重検出手段24には、例えば、圧電型のロードセルを用いることができ、これにより、簡単な構成で高精度な荷重検出が可能になる。
【0025】
さらに、ハウジング11において、他方側の円筒部11bの端部には、調整ねじ25が螺着してあり、調整ねじ25と、ローラ支持部材12に固定したストッパ26との間に、遠心力検出手段15が移動可能に収容してある。つまり、調整ねじ26を操作することにより、遠心力検出手段15の位置を自在に調整することができる。
【0026】
さらに、ローラ支持部材12には、軸線を水平方向とした複数の保持ロッド27が固定してあり、各保持ロッド27に対して、その軸線方向に位置調整可能な状態でバランスウエイト16が装着してある。
【0027】
ここで、工具ホルダ10は、荷重検出手段24、荷重発生手段(圧縮コイルばね)14、及び遠心力検出手段15を同軸線上に配置している。この際、工具ホルダ10では、先述の如く、工具ホルダ10の回転軸L1に対してフォームローラ13のローラ軸L2がオフセットされた位置にあり、そのオフセット側(図1a中で右側)に、遠心力検出手段15を配置すると共に、反オフセット側(図1a中で左側)に、荷重検出手段24及びバランスウエイト16を配置している。
【0028】
また、この実施形態では、調整ねじ25が、遠心力検出手段15をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる検出位置調整手段を構成している。さらに、この実施形態では、バランスウエイト16及び保持ロッド27が、バランスウエイト16をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる重心位置調整手段を構成している。つまり、この実施形態の検出位置調整手段及び重心位置調整手段は、調整操作を手作業で行うものである。
【0029】
さらに、遠心力検出手段15及び荷重検出手段24にロードセルを用いた場合、これらの手段による検出信号は、ハウジング11に設けたトランスミッタ28を経て図外の制御装置に出力する。
【0030】
次に、上記構成を備えた微細凹部の加工装置1の動作と共に、微細凹部の加工方法を説明する。
【0031】
加工装置1は、加工前において、アダプタ10Cのアクチュエータ18に作動油を導入して、ハウジング11、ローラ支持部材12及びフォームローラ13を一体的に前進させる。この際、ローラ支持部材12は、アクチュエータ18の動作と関係なく、荷重発生手段14の作用により、図1(a)に示す隙間Sが零になる前進限の位置にある。
【0032】
また、工具ホルダ10の回転軸L1に対するフォームローラ13のローラ軸L2のオフセット量は、工具ホルダ10の回転軸L1とシリンダボアBの中心線L3を一致させた状態を前提として、シリンダボアBの材質及び内径や、フォームローラ13の圧接荷重などに応じて予め設定してある。したがって、重心調整時のオフセット量は、図1(a)に示す状態よりも大きくなり、上記の如くアクチュエータ18でハウジング11を前進させるとさらに大きくなる。
【0033】
次に、調整ねじ25の操作により、遠心力検出手段15を移動させる。すなわち、調整ねじ25の操作により、遠心力検出手段15を押動してストッパ26に当接させ、上記のオフセット量が加工時の設定値になるまでローラ支持部材12を押し戻す。これにより、図1(a)に示す如く隙間Sが生じる。
【0034】
このとき、遠心力検出手段15及び荷重検出手段24には、その間に同軸状態で位置する荷重発生手段14の反発力が加わるので、遠心力検出手段15で検出した初期荷重F0と荷重検出手段24で検出した初期荷重F1は同等(F0=F1)となる。
【0035】
次に、当該加工装置1では、上記の状態のままで工具ホルダ10を加工時と同じ回転速度で回転駆動し、遠心力検出手段15で検出した荷重を遠心力F2とする。この際、荷重発生手段14やばね座22は、遠心力による影響が発生しないように調整してある。
【0036】
当該加工装置1では、遠心力F2が遠心力検出手段15で検出した初期荷重F0よりも大きい場合(F2>F0)場合には、ローラ支持部材12に作用する遠心力がフォームローラ13のオフセット側(図1a中で右側)に生じているので、ローラ支持部材12に作用する遠心力が小さくなるように、バランスウエイト16をフォームローラ13の反オフセット側(図1a中で左側)に移動させる。
【0037】
また、遠心力F2が遠心力検出手段15で検出した初期荷重F0よりも小さい場合(F2<F0)には、ローラ支持部材12に作用する遠心力がフォームローラ13の反オフセット側(図1a中で左側)に生じているので、ローラ支持部材12に作用する遠心力が小さくなるように、バランスウエイト16をフォームローラ13のオフセット側(図1a中で右側)に移動させる。
【0038】
なお、遠心力検出手段15の初期荷重F0と荷重検出手段24の初期荷重F1は同等であるから、重心調整においては、荷重検出手段24の初期荷重F1と遠心力F2とを比較しても良い。そして、初期荷重F0,F1及び遠心力F2が等しくなった状態(F0=F1=F2)で重心調整を終了する。また、若干の遠心力の影響を許容し得る場合は、許容差を含む状態(F0≒F1≒F2)で重心調整を終了しても良い。
【0039】
上記の如く重心調整を終了した後には、アダプタ10Cのアクチュエータ18から作動油を排出し、戻しばね19の作用によって、ハウジング11、ローラ支持部材12及びフォームローラ13を一体的に後退させる。また、調整ねじ25を逆回転操作し、遠心力検出手段15とストッパ26を離間させると共に、ローラ支持部材12を重心調整前の前進限に戻す。
【0040】
こののち、加工装置1は、工具ホルダ10の回転軸L1とシリンダボアBの中心線L3を一致させた状態で、主軸3により工具ホルダ10を回転駆動する。そして、主軸ヘッド2により、フォームローラ13をシリンダボアB内の所定位置まで下降させたところで、アダプタ10Cのアクチュエータ18により、ハウジング11、ローラ支持部材12及びフォームローラ13を一体的に前進させる。
【0041】
フォームローラ13の前進過程では、同ローラ13がシリンダボアBの内周面Baに当接した後、荷重発生手段(圧縮コイルばね)14が圧縮され、これによる発生荷重を荷重検出手段24で検出している。そこで、荷重検出手段24の検出荷重が所定値に達したところで、フォームローラ13の前進を停止する。これにより、工具ホルダ10の回転軸L1に対するフォームローラ13のローラ軸L2のオフセット量は、予め決定した加工時の設定値になる。なお、フォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに圧接させた後に、工具ホルダ10を回転駆動するようにしても良い。
【0042】
その後、加工装置1は、工具ホルダ10の回転駆動を継続することにより、フォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに沿って転動させ、さらに、主軸ヘッド2により工具ホルダ10を低速で下降させることにより、シリンダボアBの内周面Baに対して、中心線L3回りの螺旋に沿って広範囲に微細凹部を形成する。また、必要な範囲に微細凹部を形成した後には、アダプタ10Cによりフォームローラ13を後退させ、主軸ヘッド2によりフォームローラ13をシリンダボアBの外側まで上昇させる。
【0043】
このように、上記の微細凹部の加工装置1及び加工方法によれば、加工前において、遠心力検出手段15によりローラ支持部材12に生じた遠心力を検出し、その遠心力に基づいてバランスウエイト16によりローラ支持部材12の重心調整を行うので、加工時における遠心力の影響を零又は限りなく零に近くすることができる。
【0044】
また、上記の微細凹部の加工装置1及び加工方法によれば、加工時における遠心力の影響が殆ど無いので、工具ホルダ10の回転開始から所定の回転速度に至る間において、フォームローラ13の圧接荷重が変化することがなく、加工初期から高精度な微細凹部を形成することができる。
【0045】
さらに、上記の微細凹部の加工装置1及び加工方法によれば、加工時における遠心力の影響が殆ど無いので、工具ホルダ10を高速回転させてもフォームローラ13の圧接荷重を小さく抑えることができる。これにより、加工時間のさらなる短縮化や、フォームローラ13の長寿命化をも実現することができる。
【0046】
そして、上記の微細凹部の加工装置1は、工具ホルダ10に対するフォームローラ13のオフセット量や工具ホルダ10の回転速度が変化しても、上記の遠心力検出及び重心調整により、遠心力の影響を可及的に解消することができる。これにより、微細凹部の高精度化、加工効率の向上及び加工コストの節減などに貢献することができる。
【0047】
また、上記実施形態の加工装置1及び加工方法では、加工時において、工具ホルダ10を回転駆動すると共に、被加工物(シリンダブロック)と工具ホルダ10を円形穴(シリンダボアB)の中心線L3に沿う方向に相対的に移動、具体的には工具ホルダ10を下降させることから、シリンダボアBの内周面Baに対して、広範囲にわたって微細凹部を連続的に形成することができ、加工効率のさらなる向上を実現している。
【0048】
さらに、上記実施形態の加工装置1では、工具ホルダ10に、ローラ支持部材12を移動可能に保持するハウジング11と、ハウジング11をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる径方向移動手段(アダプタ10C)を備えているので、ローラ支持部材12の前進量を大きく確保することができ、内径が異なる複数種のシリンダボアBに容易に対処することができる。
【0049】
このとき、例えば、シリンダボアBの内径をD、フォームローラ13の外径をdとした場合、工具ホルダ10の回転軸L1に対するフォームローラ13のローラ軸L2のオフセット量が(D−d)/2となるように位置調整をして加工を行えば良い。
【0050】
また、上記の径方向移動手段(アダプタ10C)を備えたものとすれば、工具ホルダ10を回転させたままフォームローラ13をシリンダボアB内に移動させ、その後、フォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに圧接させることができるので、加工時間のさらなる短縮化を実現することができる。
【0051】
さらに、上記実施形態の加工装置1では、荷重発生手段14として圧縮コイルばねを採用することにより、油圧、空気圧及び電気等の配管及び配線の必要が無く、簡単な構成で充分な発生荷重を得ることができる。
【0052】
さらに、上記実施形態の加工装置1では、荷重検出手段、荷重発生手段、及び遠心力検出手段を同軸線上に配置したことにより、装置構造の小型化や簡略化を実現したうえで、遠心力検出を正確に且つ容易に行うことができる。
【0053】
さらに、上記実施形態の加工装置1では、バランスウエイト16をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる重心位置調整手段として、手作業により操作するバランスウエイト16及び保持ロッド27を採用したことから、装置構造のさならる簡略化等を実現することができる。
【0054】
さらに、上記実施形態の加工装置1では、遠心力検出手段15をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる検出位置調整手段として、手作業により操作する調整ねじ25を採用したことから、装置構造のさならる簡略化等を実現することができる。
【0055】
図3は、本発明の微細凹部の加工装置の他の実施形態を説明する図である。なお、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
図示の加工装置は、仮想線で示す主軸ヘッド2が、水平方向とくにフォームローラ13のオフセット方向(図3中で左右方向)に移動可能であると共に、主軸定位置停止機能を有しており、主軸3の回転を停止させるときには、ローラ支持部材12のオフセット位置が図3に示す通り工具ホルダ10の回転軸L1の右側に位置するようになっている。また、工具ホルダ10は、シャンク部10A及びボディ部10Bを備えると共に、先の実施形態で説明したアクチュエータ等を具備しないアダプタ10Dを備えている。
【0057】
この実施形態の加工装置は、先の実施形態と同じ要領でローラ支持部材12に生じる遠心力を検出し、その検出値に基づいてローラ支持部材12の重心調整を行い、フォームローラ13とシリンダボアBの内周面Baとが干渉しない位置まで主軸ヘッド2をローラ支持部材12のオフセット側(図3の左側)へ移動させた後、シリンダボアB内の所定位置までフォームローラ13を下降させたところで、工具ホルダ10の回転軸L1とシリンダボアBの中心線L3が一致するように、主軸ヘッド2により工具ホルダ10を移動させると共に、フォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに圧接させる。この際、圧接荷重の設定は先の実施形態と同様である。
【0058】
その後、加工装置は、先の実施形態と同様に、工具ホルダ10を回転駆動してフォームローラ13をシリンダボアBの内周面Baに沿って転動させると共に、主軸ヘッド2により工具ホルダ10を低速で下降させることにより、シリンダボアBの内周面Baに対して中心線L3回りの螺旋に沿って微細凹部を連続的に形成する。なお、工具ホルダ10を回転駆動するのと同時に、テーブル4により、シリンダブロックをシリンダボアBの中心線L3回りに回転させても良い。
【0059】
図4は、本発明の微細凹部の加工装置のさらに他の実施形態を説明する図である。なお、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0060】
図示の加工装置は、工具ホルダ10において、径方向移動手段、重心位置調整手段及び検出位置調整手段の各々が、伸縮駆動されるアクチュエータ及び回転駆動されるモータのいずれか一方を駆動源として含むものとなっている。
【0061】
すなわち、径方向移動手段は、ハウジング11をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる手段であって、具体的には、伸縮駆動されるアクチュエータ(油圧シリンダ)18等を駆動源とするアダプタ10Cである。
【0062】
重心位置調整手段は、バランスウエイト16をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる手段であって、具体的には、バランスウエイト16と、バランスウエイト16を移動可能に装着した保持ロッド27と、駆動機構31である。駆動機構31は、アクチュエータ又はモータである駆動源と、その駆動力をバランスウエイト16又は保持ロッド27に伝達する動力伝達部を備えている。
【0063】
検出位置調整手段は、遠心力検出手段15をローラ支持部材12の移動方向と同方向に往復動させる手段であって、具体的には、調整ねじ25と、駆動機構32である。駆動機構32は、アクチュエータ又はモータである駆動源と、その駆動力を調整ねじ25に伝達する動力伝達部を備えている。
【0064】
そして、この実施形態の加工装置は、荷重検出手段24及び遠心力検出手段15からの検出信号に基づいて、径方向移動手段(アダプタ10C)、重心位置調整手段(バランスウエイト16、保持ロッド27及び駆動機構31)及び検出位置調整手段(調整ねじ25及び駆動機構32)を制御する自動制御手段33を備えている。
【0065】
なお、荷重検出手段24及び遠心力検出手段15からの検出信号は、先の実施形態と同様にトランスミッタ28を経て自動制御手段33に入力する。また、各駆動機構31,32は、工具ホルダ10とともに回転することになるので、いずれも極力小型で軽量なものが望ましい。
【0066】
上記構成を備えた加工装置は、アダプタ10Cによりフォームローラ13を前進させた後、遠心力検出手段15及び荷重検出手段24からの検出信号を参照しつつ、駆動機構32により、遠心力検出手段15を所定量移動させ、この状態で工具ホルダ10を回転駆動して遠心力を検出する。そして、検出した遠心力に基づいて、駆動機構31により、遠心力が小さくなるようにバランスウエイト16を移動させて重心調整を行う。その後、加工装置は、微細凹部の加工工程に移行する。
【0067】
つまり、この実施形態の加工装置は、先の実施形態と同様に、遠心力検出と重心調整を行った後に、微細凹部を加工することになるが、自動制御手段33により、径方向移動手段(アダプタ10C)、重心位置調整手段(バランスウエイト16、保持ロッド27及び駆動機構31)及び検出位置調整手段(調整ねじ25及び駆動機構32)の夫々の動作を自動制御する。
【0068】
上記の加工装置は、先の実施形態と同様の効果を得ることができるうえに、微細凹部の加工の全自動化を実現して、さらなる高効率化や低コスト化に貢献することができる。
【0069】
なお、本発明の微細凹部の加工装置は、構成の細部が上記各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各手段等の構成を変更することが可能である。
【0070】
また、上記の実施形態では、被加工物として、円形穴であるシリンダボアBを有するシリンダブロックである場合を例示したが、本発明の微細凹部の加工装置は、円形穴であるシリンダボアを有するコンプレッサや、円形穴である軸孔を有するすべり軸受などのように、円形穴である摺動穴を有する各種摺動部材、とくに自動車用部品を構成する各種摺動部材に対して、その円形穴の内周面に微細凹部を形成するのに極めて有用である。
【0071】
そして、上記のシリンダブロック、コンプレッサ及びすべり軸受といった各種摺動部材は、本発明の加工装置を用いて微細凹部を形成することで、円形穴の内周面に高精度な微細凹部を有するものとなり、とくに自動車用部品を構成する摺動部材においては、フリクションのさらなる低減やエンジン性能の向上などを実現し得るものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の微細凹部加工装置の一実施形態を説明する断面図(a)及び側面図(b)である。
【図2】微細凹部の加工装置の全体を示す斜視図である。
【図3】本発明の微細凹部加工装置の他の実施形態を説明する断面図
【図4】本発明の微細凹部加工装置のさらに他の実施形態を説明する断面図
【符号の説明】
【0073】
B シリンダボア(円形穴)
Ba 内周面
L1 工具ホルダの回転軸
L2 ローラ軸
L3 シリンダボアの中心線
1 加工装置
2 主軸ヘッド(軸方向移動手段)
10 工具ホルダ
10C アダプタ(径方向移動手段)
11 ハウジング
12 ローラ支持部材
13 フォームローラ
14 荷重発生手段
15 遠心力検出手段
16 バランスウエイト(重心位置調整手段)
24 荷重検出手段
25 調整ねじ(検出位置調整手段)
27 保持ロッド(重心位置調整手段)
31 重心位置調整手段の駆動機構
32 検出位置調整手段の駆動機構
33 自動制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の円形穴の内周面に微細凹部を形成する加工装置であって、
円形穴と同軸状態に配置して回転駆動される工具ホルダと、
工具ホルダに対してその回転軸と直交する方向に移動可能なローラ支持部材と、
ローラ支持部材に対して工具ホルダの回転軸と平行なローラ軸回りに回転自在に設けた微細凹部形成用のフォームローラと、
ローラ支持部材に対してその移動方向に荷重を付与してフォームローラを円形穴の内周面に圧接させる荷重発生手段と、
工具ホルダの回転によりローラ支持部材に生じた遠心力を検出する遠心力検出手段と、
遠心力検出手段が検出した遠心力に基づいてローラ支持部材の重心を調整するためのバランスウエイトを備えたことを特徴とする微細凹部の加工装置。
【請求項2】
被加工物と工具ホルダを円形穴の中心線に沿う方向に相対的に移動させる軸方向移動手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項3】
工具ホルダに、ローラ支持部材を移動可能に保持するハウジングと、ハウジングをローラ支持部材の移動方向と同方向に往復動させる径方向移動手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項4】
荷重発生手段が、圧縮コイルばねであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項5】
荷重発生手段による発生荷重を検出する荷重検出手段を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項6】
荷重検出手段、荷重発生手段、及び遠心力検出手段を同軸線上に配置したことを特徴とする請求項5に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項7】
荷重検出手段及び遠心力検出手段の少なくとも一方がロードセルであることを特徴とする請求項5又は6に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項8】
バランスウエイトをローラ支持部材の移動方向と同方向に往復動させる重心位置調整手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項9】
遠心力検出手段をローラ支持部材の移動方向と同方向に往復動させる検出位置調整手段を備えたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項10】
径方向移動手段、重心位置調整手段及び検出位置調整手段の各々が、伸縮駆動されるアクチュエータ及び回転駆動されるモータのいずれか一方を駆動源として含み、荷重検出手段及び遠心力検出手段からの検出信号に基づいて径方向移動手段、重心位置調整手段及び検出位置調整手段を制御する自動制御手段を備えたことを特徴とする請求項3〜9のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置を用いて、被加工物の円形穴の内周面に微細凹部を形成するに際し、加工前において、工具ホルダを回転させてローラ支持部材に生じた遠心力を検出し、その遠心力に基づいてバランスウエイトによりローラ支持部材の重心を調整し、その後、工具ホルダの回転軸と円形穴の中心線とを一致させると共に、フォームローラを円形穴の内周面に圧接させ、工具ホルダを回転駆動によりフォームローラを円形穴の内周面に沿って転動させて、円形穴の内周面に微細凹部を形成することを特徴とする微細凹部の加工方法。
【請求項12】
工具ホルダを回転駆動すると共に、被加工物と工具ホルダを円形穴の中心線に沿う方向に相対的に移動させることを特徴とする請求項11に記載の微細凹部の加工方法。
【請求項13】
被加工物が、円形穴である摺動穴を有する摺動部材であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置を用いて、摺動穴の内周面に微細凹部を形成したことを特徴とする摺動部材。
【請求項14】
被加工物が、円形穴であるシリンダボアを有するシリンダブロックであって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置を用いて、シリンダボアの内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項15】
被加工物が、円形穴であるシリンダボアを有するコンプレッサであって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置を用いて、シリンダボアの内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするコンプレッサ。
【請求項16】
被加工物が、円形穴である軸孔を有するすべり軸受であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載の微細凹部の加工装置を用いて、軸孔の内周面に微細凹部を形成したことを特徴とするすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275619(P2009−275619A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128136(P2008−128136)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】