説明

微細構造転写成形方法

【課題】微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧し、冷却・固化させてその微細構造が転写成形された微細構造体を成形する方法において、高精度、高生産性で肉厚の微細構造体を成形することができる微細構造転写成形方法を提供する。
【解決手段】本微細構造転写成形方法は、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を塗布して固体状の転写素材を形成した後、その転写素材を転写成形温度まで加熱するとともに押圧し前記微細構造の転写成形を行うことにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧しその微細構造を転写成形して微細構造を有する成形体(微細構造体)を成形する微細構造転写成形方法に係り、特に肉厚の微細構造体を好適に成形することができる微細構造転写成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧し、冷却・固化させてその微細構造が転写成形された微細構造体を成形する微細構造転写成形方法は、高精度、高生産性の方法として知られている。そして、この溶融樹脂を用いて微細構造体を成形する方法は、任意の厚さの微細構造体を容易に製造することができる利点も有するとされる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された方法は、溶融樹脂を塗布する樹脂供給口とスタンパとの隙間高さを調整することにより任意の厚さの微細構造体を成形することができるとされる。そして、この方法によれば、微細構造部の凹凸が10nm〜1mmの幅または直径を有するとともに、10nm〜1mmの深さまたは高さを有し、成形体の厚さが50μm〜5mmである微細構造体を成形できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-56107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、スタンパ又はこれを保持する金型を介して転写成形された溶融樹脂を冷却・固化する方式であるから、成形される樹脂の厚みが大きくなると溶融樹脂の中心部に近付くほど樹脂温度が高く弾性率・粘度が低い状態であり、この状態で溶融樹脂を押圧すると弾性率・粘度が低い部分が平面方向に流動して樹脂全体が薄くなり目的とする厚みの成形体を作製することができないという問題が発生する。一方、この問題を避けるために、溶融樹脂の中心部が十分な弾性率・粘度になるまで冷却すると、冷却時間は樹脂の厚みの二乗に比例して長くなるので生産性が低下するという問題もある。また、特許文献1に記載されたものよりもさらに肉厚の微細構造体を成形することができる方法も求められている。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点及び要請に鑑み、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧し、冷却・固化させてその微細構造が転写成形された微細構造体を成形する方法において、高精度、高生産性で肉厚の微細構造体を成形することができる微細構造転写成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る微細構造転写成形方法は、まず微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を塗布して固体状の転写素材を形成した後、その転写素材を転写成形温度まで加熱するとともに押圧し前記微細構造の転写成形を行う。ここに、固体状態とは、押圧時の負荷(圧力×時間)による樹脂の全体厚の変化が5%未満程度に収まる程度に硬化した状態をいう。
【0008】
上記発明において、転写成形温度Tsは、転写素材の表面温度であり、非晶性樹脂においてはTg<Ts<Tg+100、結晶性樹脂においてはTc<Ts<Tc+100であるのがよい。ここに、Tgはガラス転移温度、Tcは結晶性樹脂の結晶化温度であり、温度の単位は℃である。
【0009】
上記発明においては、厚さ0.5mm〜30mmの転写素材を形成し、厚さ0.5mm〜30mmの微細構造体を成形することができる。特に肉厚の微細構造体は、下記のプレス式微細構造転写成形装置を使用して好適に成形することができる。すなわち、この微細構造転写成形方法は、下金型とこれに対向する上金型と、下金型に保持され微細構造を有するスタンパとを有するプレス式微細構造転写成形装置を使用し、前記下金型と上金型によりスタンパ上の樹脂を押圧して前記微細構造を転写成形する微細構造転写成形方法であって、先ず前記スタンパ上に溶融樹脂を塗布した後、その溶融樹脂に前記上金型を当接させ、次に、前記上金型と溶融樹脂との当接を保持したまま前記下金型及び/又は上金型を冷却して固体状の転写素材を形成し、次に、前記下金型及び/又は上金型を加熱して前記転写素材の表面を軟化させるとともに前記下金型と上金型とにより押圧して前記微細構造の転写成形を行う微細構造転写成形方法である。
【0010】
上記発明において、溶融樹脂に上金型を当接させているときの押圧力は、0〜0.03Mpaであるのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧し、冷却・固化させてその微細構造が転写成形された微細構造体を成形する方法において、高精度、高生産性で肉厚の微細構造体を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る微細構造転写成形方法において、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を塗布した状態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る微細構造転写成形方法における溶融樹脂の温度制御、押圧の様子を示す説明図である。
【図3】プレス式微細構造転写成形装置を使用して本発明に係る微細構造転写成形方法を実施する場合の各工程の説明図である。
【図4】実施例における溶融樹脂の温度制御、押圧の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、微細構造1aを有するスタンパ1に所定厚さの溶融樹脂2を塗布した状態を示す。本発明に係る微細構造転写成形方法は、先ずこのスタンパ1に塗布された溶融樹脂2を冷却し、固体状の転写素材を成形する。そして、その転写素材を転写成形温度まで加熱するとともに押圧し微細構造1aの転写成形を行う。すなわち、本微細構造転写成形方法は、溶融樹脂の熱エネルギーを巧みに利用することにより微細構造の転写成形を迅速に行うことができる方法であり、スタンパ1上の樹脂の表面温度を迅速、かつ効果的に制御することにより微細構造の転写成形を行う方法である。
【0014】
本微細構造転写成形方法は、図2に示すように行われる。図2は、スタンパ1上に塗布された溶融樹脂から転写素材が成形され、そして、その転写素材に微細構造が転写成形される過程を示す。図2において、縦軸は塗布された溶融樹脂2又は転写素材、微細構造体(樹脂)の中心部の温度(ST1)と表面の温度(ST2)、スタンパ1の温度(DT)及び樹脂に負荷される押圧力(P)を示し、横軸は時間(t)を示す。なお、図2に、以下に説明する本微細構造転写成形方法を微細構造転写成形装置により実施する場合の各工程(図3)の手順を合わせて記載した。
【0015】
先ず、所定の温度に保持されたスタンパ1に溶融樹脂が塗布される(図2の(i))。この時に形成される、スタンパ1と溶融樹脂2の界面は、流動性の高い溶融状態で接触するため、良好な接触状態となり、伝熱の界面抵抗が少ないものとなる。このため溶融樹脂2の表面温度ST2は、急速にスタンパ1の温度(DT)に近づき、その後スタンパ1の温度と同等になり、その状態が保持される。一方、溶融樹脂2の中心部温度ST1は樹脂自体の伝熱係数に応じて次第に低下してくる。
【0016】
次に、スタンパ1を急冷し溶融樹脂2の表面の温度ST2を急速に下げる。溶融樹脂2の表面の温度ST2は、ほぼスタンパ1の温度に従って急速に低下する。この溶融樹脂2の表面の温度ST2の急速な低下により、樹脂表面から内部に向かって順次固化して固体状の転写素材が成形される。
【0017】
次に、スタンパ1を急加熱して転写素材の表面温度ST2を転写成形温度にまで昇温させるとともに、転写素材を押圧し始める。押圧力は、転写素材の転写成形される表層部分が転写成形温度に達したときに所定値に達するようにするのがよい。転写素材は、図2の矢印範囲(転写成形)において行われる。転写成形温度は、転写素材の表面温度(℃)で、非晶性樹脂においてはTg<Ts<Tg+100、結晶性樹脂においてはTc<Ts<Tc+100になるように制御するのがよい。なお、ここに、Tgはガラス転移温度、Tcは結晶性樹脂の結晶化温度であり、温度の単位は℃である。転写成型時において、スタンパ1の温度(DT)は樹脂中心部の温度(ST1)より高くなるように制御される。
【0018】
上述のように、本微細構造転写成形方法は、流動性の高い状態の樹脂(溶融状態及び固体状態を含む)をそれが直接接触するスタンパ(あるいは型表面)を介して樹脂の表面温度を制御するので、樹脂の表面温度を応答性よく制御することができる方法である。すなわち、本微細構造転写成形方法は、先ず、樹脂の内部が所定の弾性率、粘度になり転写成形したときに樹脂が圧縮されて全体の形状又は厚さが変形しない(例えば、弾性率・粘度が低い部分が平面方向に流動して樹脂全体が薄くならないなど)程度になるまで樹脂の表面から冷却する。このような冷却を行って固体状の転写素材が成形される。転写素材が形成されたときは、その厚さ(塗布された樹脂の厚さ)に関係するが、その表面温度が転写成形を行うには低すぎる状態になっている。このため、上記の状態になった転写素材の表面を転写成形するのに適した温度まで迅速に加熱する。そして、転写成形を行う。本微細構造転写成形方法によれば、精度が高く内部歪みのない微細構造体を成形することができる。特に、本微細構造転写成形方法は、厚肉の微細構造体を成形する方法として好適に使用することができる。例えば、厚さが0.5mm〜30mmの微細構造体を成形することができる。
【0019】
また、本微細構造転写成形方法は、迅速に温度を制御しやすい樹脂表面の温度(ST2)を制御し、温度制御に時間がかかる樹脂中心部の温度(ST1)が低下して弾性率又は粘度が一定範囲にあるときに転写成形を行うので、微細構造体を効率的に成形することができ、生産性が高い。
【0020】
上記微細構造転写成形方法において、溶融樹脂2の冷却又転写素材の加熱は、例えば、スタンパ1又はスタンパ1が保持された金型を冷却又は加熱することによって行われる。また、溶融樹脂2の冷却又は転写素材の加熱は、溶融樹脂2の転写面側(底面)からのみ行うもの、底面及び天面の両方から行うもの、あるいは周囲から行うものであってもよい。溶融樹脂2の表面温度の制御は、以下に説明するプレス式の微細構造転写成形装置により効率的に行うことができる。なお、溶融樹脂2の厚さ、形状あるいは材質により最適な冷却又は加熱方法が選ばれる。
【0021】
溶融樹脂2は、非晶性の樹脂又は結晶性の樹脂の溶融樹脂を使用することができる。溶融樹脂2のスタンパへの塗布方法、塗布時の溶融樹脂温度等は、微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を押圧し、冷却・固化させてその微細構造が転写成形された微細構造体を成形する公知の方法と同様の方法を使用することができる。
【0022】
以上、本発明に係る微細構造転写成形方法について説明した。本微細構造転写成形方法は、下記のプレス式の微細構造転写成形装置を使用し好適に実施することができる。すなわち、この微細構造転写成形方法は、図3(a)に示すように、下金型10とこれに対向する上金型20と、下金型10に保持され微細構造を有するスタンパ1とを有し、下金型10と上金型20によりスタンパ上の溶融樹脂2を押圧して微細構造を転写成形する微細構造転写成形装置により好適に実施することができる。本微細構造転写成形方法は、先ずスタンパ上に溶融樹脂2を樹脂供給装置30により塗布する(図3(a))。塗布は、Tダイを有する樹脂供給装置30により行うのがよい。これにより、Tダイの樹脂供給口とスタンパとの隙間を調整することによって任意の厚さの転写素材及び微細構造体を容易に成形することができる。
【0023】
次に、図3(b)に示すように、溶融樹脂2に上金型20を当接させる。溶融樹脂2と上金型20との界面が良好な伝熱の接触状態となるよう当接のタイミングとしては、塗布完了後、速やかに行うことが望ましい。そして、上金型20と溶融樹脂2との当接を保持したまま下金型10及び/又は上金型20を冷却して固体状の転写素材を形成する。上金型20と溶融樹脂2との当接を保持するには、上金型20が溶融樹脂の冷却に伴う収縮に追随するように僅かの負荷、例えば、0〜0.03Mpaの押圧力を溶融樹脂に負荷するようにするのがよい。溶融樹脂2は、この当接した上金型20及び下金型10の冷却により効果的に冷却される。

【0024】
次に、図3(c)に示すように、下金型10及び/又は上金型20を急加熱して転写素材の表面を軟化させるとともに下金型10と上金型20とにより押圧して微細構造の転写成形を行う。その後、下金型10及び上金型20を冷却して転写成形された微細構造体を冷却し、図3(d)に示すように、冷却された微細構造体をスタンパ1から剥離する。なお、溶融樹脂2の冷却、転写素材の加熱は、必要に応じて下金型10又は上金型20のみの温度制御により行うことができる。
【実施例1】
【0025】
図3に示す微細構造転写成形装置を使用して、ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる厚さ5.1mmの非球面レンズ形状の微細構造体を成形する試験を行った。下金型10及び上金型20の温度を150℃に保持し、250℃の溶融樹脂を下金型10に保持されているスタンパ1に塗布した。本試験における下金型10及び上金型20の温度制御、溶融樹脂2又は転写素材の温度制御、溶融樹脂2又は転写素材に負荷した圧力の様子を図4に示す。図4において、樹脂の中心部の温度(ST)、スタンパ1の温度(DTL)、上金型20の温度(DTU)、上金型20による溶融樹脂2又は転写素材に負荷される押圧力(P)を示し、横軸は時間(t)を示す。
【0026】
図4に示す微細構造転写成形方法も基本的には図2に示す方法と同じである。しかし、本例の場合は、スタンパ1の温度(DTL)と上金型20の温度(DTU)をそれぞれ個別に制御した。スタンパ1の温度(DTL)は、溶融樹脂の塗布性状が好ましい状態になるように、また、転写素材が転写成形に適した温度になるように制御した。上金型20の温度(DTU)は、ダイラインがなく平滑で整形された表面を有する転写素材が得られるように制御した。なお、転写成型時において、スタンパ1の温度(DTL)及び上金型20の温度(DTU)は、樹脂中心部の温度(ST)より高くなるように制御されるが、スタンパ1の温度(DTL)と上金型20の温度(DTU)との関係は、必ずしも一定していない。図4において、(i)と(ii)は、それぞれ溶融樹脂塗布の開始と終了を示す。
【0027】
溶融樹脂2又は転写素材に負荷される押圧力(P)は、スタンパ1の温度(DTL)及び上金型20の温度(DTU)が一定値に保持されているときは、P1に保持し、スタンパ1の温度(DTL)及び上金型20の温度(DTU)を急速に低下させるときは、P2に保持した。これは、樹脂の温度低下による収縮を考慮し樹脂表面に常に0〜0.03Mpaの押圧力が負荷されるようにするためである。この押圧力により、転写素材の表面の整形が進み、また、そりなどの変形が防止される。転写成形を行った押圧力P3は7Mpであった。
【符号の説明】
【0028】
1 スタンパ
2 溶融樹脂
10 下金型
20 上金型
30 樹脂供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造を有するスタンパに溶融樹脂を塗布して固体状の転写素材を形成した後、その転写素材を転写成形温度まで加熱するとともに押圧し前記微細構造の転写成形を行う微細構造転写成形方法。
【請求項2】
転写成形温度Tsは、転写素材の表面温度であり、非晶性樹脂においてはTg<Ts<Tg+100、結晶性樹脂においてはTc<Ts<Tc+100であることを特徴とする請求項1に記載の微細構造転写成形方法。ここに、Tgはガラス転移温度、Tcは結晶性樹脂の結晶化温度であり、温度の単位は℃である。
【請求項3】
転写素材の厚さは、0.5mm〜30mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細構造転写成形方法。
【請求項4】
下金型とこれに対向する上金型と、下金型に保持され微細構造を有するスタンパとを有し、前記下金型と上金型によりスタンパ上の樹脂を押圧して前記微細構造を転写成形する微細構造転写成形方法であって、
先ず前記スタンパ上に溶融樹脂を塗布した後、その溶融樹脂に前記上金型を当接させ、
次に、前記上金型と溶融樹脂との当接を保持したまま前記下金型及び/又は上金型を冷却して固体状の転写素材を形成し、
次に、前記下金型及び/又は上金型を加熱して前記転写素材の表面を軟化させるとともに前記下金型と上金型とにより押圧して前記微細構造の転写成形を行う微細構造転写成形方法。
【請求項5】
溶融樹脂に上金型を当接させているときの押圧力は、0〜0.03Mpaであることを特徴とする請求項4に記載の微細構造転写成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250432(P2012−250432A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124547(P2011−124547)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】