説明

微細構造転写装置及び微細構造転写方法

【課題】本発明は、スタンパが十分な光の透過性を有しており、微細構造転写時における転写精度に優れ、良好なスループットを発揮することができると共に、スタンパの劣化を防止することができる微細構造転写装置を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の微細構造転写装置は、第1の波長の光で硬化させた第1の光硬化性樹脂組成物からなるスタンパと、前記第1の波長よりも長い第2の波長の光を発する光源と、前記光源から発する前記第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物が供給された被転写体と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に微細構造を形成する際に使用される微細構造転写装置及び微細構造転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス等で必要とされる微細パターンを加工する技術として、フォトリソグラフィ技術が多く用いられてきた。しかし、パターンの微細化が進み、要求される加工寸法が露光に用いられる光の波長程度まで小さくなるとフォトリソグラフィ技術での対応が困難となってきた。そのため、これに代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
この電子線を使用したパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用したパターン形成における一括露光方法と異なり、マスクパターンを直接描画する方法をとる。よって、描画するパターンが多いほど露光(描画)時間が増加し、パターン完成までに時間がかかるという欠点があり、半導体集積回路の集積度が高まるにつれて、パターン形成に必要な時間が増大して、スループットが低下することがある。
【0004】
そこで、電子線描画装置の高速化を図るために各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子ビームを照射することで複雑な形状の電子ビームを形成する、一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、パターンの微細化が進む一方で、電子線描画装置の大型化や、マスク位置の高精度制御等、装置コストが高くなるという欠点がある。
【0005】
これに対し、高精度なパターン形成を低コストで行うことができるナノインプリント法を応用した微細構造転写技術が知られている。この微細構造転写技術は、形成しようとする微細パターンの凹凸に対応する凹凸(表面形状)が形成されたスタンパを、被転写体上に塗布等によって供給した樹脂に型押しするものであり、微細パターンをこの樹脂に転写するものである。
【0006】
また、光透過性を有するスタンパを使用すると、被転写体に供給した光硬化性樹脂に対してこのスタンパを型押しし、このスタンパを介して高圧水銀ランプやLEDなどの光源を用いて光を照射することで光硬化性樹脂を硬化させることができる。したがって、このスタンパによれば、短時間で高精度なパターンが作製できる。
このような微細構造転写技術(ナノインプリント技術)は、大容量記録媒体における記録ビットのパターンの形成や、半導体集積回路のパターンの形成への応用が検討されている。
【0007】
従来より微細構造転写技術に用いられているスタンパで光透過性を有するものとしては、石英等のハードスタンパが知られている。
しかしながら、石英等のハードスタンパは、転写の際、被転写体の微小な反りや突起等の不均一に追従できずに、広範囲で転写不良領域が発生する恐れがある。また、転写不良領域を縮小するためには、前記した樹脂が供給される被転写体の反り及び突起等の不均一を吸収することができるスタンパが要求される。
【0008】
そこで、被転写体の反りと突起の両方に追従する樹脂スタンパが提案されている(例えば、特許文献1から特許文献3参照)。この樹脂スタンパによれば、樹脂のもつ柔軟性等により転写不良を防止することができる。
特に樹脂スタンパの樹脂層に光硬化性樹脂を用いたものは、熱可塑性樹脂を用いたものと比べて、より高精度なパターンを低コストで形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−5972号公報
【特許文献2】特開2009−1002号公報
【特許文献3】特開2004−351693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、昨今においては、前記したナノインプリント技術の利用分野が拡大するにつれて、被転写体の転写面積が拡大する傾向にある。一方、樹脂スタンパは、被転写体の転写面積が拡大すると、被転写体に対する前記した追従性に一層優れたものが要求されてその樹脂層の厚さが増すこととなる。
しかしながら、樹脂層の厚さが増すと、光を被転写体の光硬化性樹脂に照射する際に樹脂スタンパでの光の透過性が低下するために、光硬化性樹脂の硬化時間が長くなる。つまり、微細構造転写時におけるスループットが低下することとなる。
【0011】
また、樹脂スタンパを介して照射する光の波長が短いほど光硬化性樹脂の硬化効率が良好となるが、照射する光の波長が短くなるにつれて、樹脂スタンパにおける光の透過率が低下すると共に、樹脂スタンパを構成する樹脂(有機基)へのダメージが大きくなる。特に、樹脂スタンパが繰り返して使用される場合には、この傾向は更に顕著となる。これとは逆に、照射する光の波長が長くなるほど樹脂スタンパへのダメージが小さくなると共に光の透過率も向上するが、被転写体の光硬化性樹脂に照射される光のエネルギー量が小さくなるために、光硬化性樹脂の硬化効率が低下してスループットが低下することとなる。
また、樹脂層の厚さが増して光の透過性が低くなった樹脂スタンパは、照射された光を吸収することで熱膨張し、転写精度や位置合わせ精度等の転写精度が低下する恐れもある。
したがって、微細構造転写技術においては、樹脂スタンパが十分な光の透過性を有しており、微細構造転写時における転写精度に優れ、良好なスループットを達成することができると共に、樹脂スタンパの劣化を防止することができるものが望まれている。
【0012】
そこで、本発明の課題は、樹脂スタンパが十分な光の透過性を有しており、微細構造転写時における転写精度に優れ、良好なスループットを達成することができると共に、樹脂スタンパの劣化を防止することができる微細構造転写装置及び微細構造転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決する本発明の微細構造転写装置は、微細構造を有するスタンパを、被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの光硬化性樹脂組成物に前記スタンパを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体上に微細構造を転写する微細構造転写装置において、前記スタンパは、マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して作製されたものであると共に、前記第1の波長よりも長い第2の波長の光を発する光源を備え、前記被転写体上には、前記光源から発する前記第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物が供給されることを特徴とする。
【0014】
また、前記課題を解決する本発明の微細構造転写方法は、微細構造を有するスタンパを、被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの光硬化性樹脂組成物に前記スタンパを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体上に微細構造を転写する微細構造転写方法において、マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して前記スタンパを作製する第1工程と、前記第1の波長よりも長い第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物を被転写体上に供給する第2工程と、前記被転写体上に供給した第2の光硬化性樹脂組成物に、前記第1工程で作製した前記スタンパを押し付けてこのスタンパを介して前記第2の波長の光を照射することで前記第2の光硬化性樹脂組成物を硬化させる第3工程と、硬化させた前記第2の光硬化性樹脂組成物から前記スタンパを剥離する第4工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂スタンパが十分な光の透過性を有しており、微細構造転写時における転写精度に優れ、良好なスループットを達成することができると共に、樹脂スタンパの劣化を防止することができる微細構造転写装置及び微細構造転写方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図である。
【図2】(a)から(d)は、図1の微細構造転写装置を構成する樹脂スタンパの作製方法を模式的に示す工程説明図である。
【図3】(a)から(d)は、微細構造転写方法を模式的に示す工程説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図である。
【図5】本発明の実施例で作製した微細構造体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、本実施形態に係る微細構造転写装置及び微細構造転写方法をこの順番で説明する。
【0018】
<微細構造転写装置>
図1に示すように、本実施形態に係る微細構造転写装置10aは、微細構造2aを有する光透過性の樹脂スタンパ2と、樹脂スタンパ2の微細構造2aが転写される光硬化性樹脂組成物Bが供給(塗布)される被転写体7と、樹脂スタンパ2を介して光を光硬化性樹脂組成物Bに照射する光源1と、樹脂スタンパ2の背面に設けられてこの樹脂スタンパ2を被転写体7の光硬化性樹脂組成物Bに押し付ける光透過性のプレート6と、樹脂スタンパ2と対向するように被転写体7を配置するステージ8と、を備えている。
なお、プレート6は、特許請求の範囲にいう「加圧部材」に相当し、光硬化性樹脂組成物Bは、特許請求の範囲にいう「第2の光硬化性樹脂組成物」に相当する。
【0019】
樹脂スタンパ2は、図1に示すように、支持基材3と、この支持基材3上に設けられて微細構造2aを有する樹脂層4とで主に構成されている。
樹脂スタンパ2の微細構造2aとは、ナノメートルからマイクロメートルのサイズで形成された構造のことを指す。具体的には、複数の微小突起が規則的に配置されたドットパターンや、これとは逆に微小凹部が規則的に配置されたパターン、複数の条が規則的に配置されたラメラパターン(ラインアンドスペースパターン)等が挙げられる。このような微細構造2aは、後記する光硬化性樹脂組成物A(図2(a)参照)の硬化物で形成される樹脂層4の表面に形成されている。
この樹脂スタンパ2における支持基材3、光硬化性樹脂組成物A、及び微細構造2aの詳細については後記する微細構造転写方法と共に説明する。
【0020】
被転写体7としては、要求される強度と加工精度が実現できれば特に制限はなく、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック、樹脂等が挙げられる。
また、被転写体7の表面には、光硬化性樹脂組成物Bの硬化物との接着を高めるための接着層を形成してもよいし、金属薄膜などを形成してもよい。
この被転写体7上に塗布される光硬化性樹脂組成物Bの詳細については後記する微細構造転写方法と共に説明する。
【0021】
光源1は、第2の波長の光L2(図3(c)参照)を照射するように構成されている。この第2の波長については、後に詳しく説明するが、樹脂スタンパ2の樹脂層4を形成する光硬化性樹脂組成物Aを硬化させる第1の波長の光L1(図2(c)参照)の当該第1の波長よりも、第2の波長は長波長となるように設定されている。
したがって、例えば、光硬化性樹脂組成物A(図2(c)参照)を365nmの波長の光で硬化させて微細構造2aを有する樹脂層4(図2(d)参照)を形成した場合には、図1に示す光源1としては、365nmを超える波長の光を発するものが選択される。なお、以下では、波長にブロードな分布を有する光については、光スペクトルのピークの波長を表すものとする。
【0022】
この第2の波長は、第1の波長よりも長ければ特に制限はないが、第1の波長との差が、10nm以上に設定することが望ましく、25nm以上に設定することが更に望ましい。更に具体的には、第2の波長は、375nm以上の範囲で設定することが望ましく、390nm以上の範囲で設定することが更に望ましい。なお、第2の波長の上限は、光硬化性樹脂組成物Bを硬化できる範囲で設定できるが、微細構造2aの転写時における良好なスループットを実現する範囲で設定することが望ましい。
【0023】
この光源1には、一般に光硬化性樹脂を硬化させる光源として従来から使用されている高圧水銀ランプ等を使用することができるが、この光源1としては、LED光源(LEDランプ)が望ましい。このLED光源は、オゾンの発生、照射装置の大型化、ランプ寿命が短い等の問題を有する高圧水銀ランプと異なって、コンパクトで取り付け面積が小さく、ランプ寿命が長いこと、及び選択されるべき波長の光を発するものを特定し易い等の有利な点を有する。
【0024】
また、LED光源のブロードな波長特性を考慮して390nm以上の波長をピークにもつ光源1を使用するのが望ましい。390nm以上の波長の光を使用すれば、プレート6、樹脂スタンパ2及びその周辺部材の劣化も少なく、これらの部材の選択の幅が広がって低コスト化を図ることができる。特に390〜405nmの光が透過率の向上とスループットの点で望ましい。
光源1の照度としては、硬化効率の観点から10mWcm−2以上が望ましい。
【0025】
プレート6は、前記したように、樹脂スタンパ2の背面、つまり樹脂スタンパ2の微細構造2aが設けられる側と反対の側(光源1側)に配置される板体で構成されている。
このプレート6の材料としては、例えばガラス、石英、樹脂等が挙げられる。また、プレート6は、単層で構成することができるし、又は異なる材料からなる多層構造で構成することもできる。また、プレート6には、弾性体を使用することができる。
【0026】
プレート6は、光源1が照射する光(前記した第2の波長の光)を透過するものがよく、光源1の発する第2波長の光の透過率が、80%以上のものが望ましい。
更に具体的に説明すると、プレート6は、365nm付近の波長の光を吸収し、375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光を透過することのできる材料で形成することが望ましい。
【0027】
また、プレート6には、光学フィルタ(図示省略)を設けることができる。この光学フィルタとしては、例えば、光源1の発する第2の波長の光の透過を許容すると共に、これよりも短波長の光(例えば、365nm付近の波長の光)を吸収するものが挙げられる。この光学フィルタによれば、前記した短波長の光が樹脂スタンパ2の樹脂層4を劣化させるのを防止することができる。
【0028】
この光学フィルタの位置としては、樹脂スタンパ2から光源1寄りであれば特に制限はないが、樹脂製のプレート6を用いる場合には、このプレート6の光源1の対向面に設けることが望ましい。この位置に設けられた光学フィルタは、樹脂層4の劣化防止に加えてプレート6の劣化防止にも寄与する。
【0029】
このようなプレート6は、被転写体7と向き合うように樹脂スタンパ2を支持している。この支持手段としては、例えば、真空吸着や機械固定など、既存の手段を採用することができる。
【0030】
ステージ8は、図1に示すように、被転写体7に塗布した光硬化性樹脂組成物Bが樹脂スタンパ2の樹脂層4(微細構造2a)と向き合うように支持している。この支持手段としては、真空吸着や機械固定など、既存の手段を採用することができる。
【0031】
このような微細構造転写装置10aにおいては、プレート6及びステージ8の少なくともいずれか一方に、被転写体7と樹脂スタンパ2とを平行に維持しつつ加圧し、その後、これらを互いに剥離させる昇降機構(図示省略)を有している。
【0032】
また、このような微細構造転写装置10aにおいては、被転写体7に光硬化性樹脂組成物Bを塗布する塗布機構(図示省略)を備えることができる。この塗布機構としては、被転写体7上に光硬化性樹脂組成物Bを塗布できる機構であれば特に制限はなく、ディスペンス法、インクジェット法、スプレー法、スピンコート法等により光硬化性樹脂組成物Bを塗布する機構が挙げられる。中でも、スピンコート法を使用する塗布機構は、被転写体7の表面に光硬化性樹脂組成物Bの薄膜を均一に形成できるので望ましい。
なお、塗布機構は、この微細構造転写装置10a外に独立に設けられたものであってもよい。
【0033】
<微細構造転写方法>
次に、本実施形態に係る微細構造転写方法について説明する。
この微細構造転写方法は、光硬化性樹脂組成物A(第1の光硬化性樹脂組成物)を第1の波長の光で硬化させて樹脂スタンパ2を作製する第1工程と、被転写体7に光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を供給する第2工程と、被転写体7の光硬化性樹脂組成物Bに樹脂スタンパ2を押し付けてこの樹脂スタンパ2を介して光硬化性樹脂組成物Bに第2の波長の光を照射して光硬化性樹脂組成物Bを硬化させる第3工程と、硬化した光硬化性樹脂組成物Bから樹脂スタンパ2を剥離する第4工程と、を有している。
【0034】
次に参照する図2(a)から(d)は、樹脂スタンパの作成方法を模式的に示す工程説明図である。
【0035】
先ずこの作製方法では、図2(a)に示すように、準備された樹脂スタンパ2の支持基材3の表面に、前記した光硬化性樹脂組成物Aが塗布される。
【0036】
前記支持基材3としては、樹脂層4を保持する機能を有するものであれば、形状、材料、サイズ、作製方法は特に限定されない。
支持基材3の形状としては、平面形状で円形、正方形、長方形等が挙げられる。
支持基材3の材料としては、光透過性材料からなるものが使用される。特に、ガラス、石英、樹脂等の強度と加工性を有するものが好ましい。また、支持基材3の表面には、樹脂層4との接着力を強化するために表面処理を施すことができる。
【0037】
また、支持基材3は、弾性率の異なる2種以上の層で構成することもできる。このような支持基材3においては、弾性率の高い層と低い層との積層順や、組み合わせ、層数等について特に制限はない。このような2種以上の層を有する支持基材3としては、例えば、前記した材料を2種以上選択して各層を形成したものや、前記した材料からなる層と樹脂からなる層とを組み合せたもの、樹脂からなる層同士を組み合せたもの等が挙げられる。
【0038】
支持基材3を形成する前記樹脂の具体例としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン(PUR)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、シクロオレフィンポリマ、ポリ乳酸、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。これらのいずれかを単独で用いても、異なる樹脂を複数混合して用いてもよい。
【0039】
≪光硬化性樹脂組成物A≫
光硬化性樹脂組成物Aとしては、365nm付近の波長の光で硬化するものが望ましい。また、375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で硬化しないか、硬化し難いものが更に望ましい。
この光硬化性樹脂組成物Aに含まれる光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタニル基等を有するものが挙げられ、特にエポキシ基、オキセタニル基を有するものが望ましい。
光硬化性樹脂組成物Aの光硬化性樹脂としては、これらの反応性官能基を骨格中に有するものを複数種用いることができる。
【0040】
また、光硬化性樹脂組成物Aの光硬化性樹脂としては、光の吸収を防ぐために、その硬化物に、アルキレン基やフェニル基などの二重結合を極力含まないものが好ましい。具体的には、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物における炭素の結合状態のうち、炭素−炭素間二重結合が5%以下となる光硬化性樹脂が望ましい。
【0041】
末端に(メタ)アクリレート基を有する前記光硬化性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エトキシ化ビスフェノールA型アクレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネートの他、アクリル変性脂環式エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、アクリルシリコーン、アクリルジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0042】
また、単量体を用いることもでき、末端に(メタ)アクリレート基又はビニル基を有するものとしては、例えば、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化2メチル1,3プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロキシプロピルメタクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチェル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
また、末端にエポキシ基を有するものとしては、例えば、脂環式エポキシド、変性脂環式エポキシド、ビスフェノールA系エポキシド、水添ビスフェノールA系エポキシド、ビスフェノールF系エポキシド、ノボラック型エポキシド、脂肪族環式エポキシド、ナフタレン型エポキシド、ビフェニル型エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールグリシジルエーテル、エポキシシリコーン、エポキシシルセスキオキサン等が挙げられる。
また、末端にオキセタニル基を有するものとしては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0044】
また、末端にビニル基を有するものとしては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4−ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ビニルシリコーン、ビニルシルセスキオキサン等が例示される。以上、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基のいずれかの官能基を有する単量体成分を例示したがこれらに限定されるものではない。
【0045】
また、光硬化性樹脂組成物Aには、光重合開始剤A´が含まれている。
この光重合開始剤A´としては、前記反応性官能基の反応を開始させるものであり、具体的には、365nm付近の波長の光に対して吸収を示し、375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光に対して吸収が弱いか、又はほとんど吸収しないものが挙げられる。
【0046】
この光重合開始剤A´としては、例えば、ベンジルケタール、α−ヒドロキシケトン、α−アミノケトン、アシルフォスフィンオキサイド、チタノセノン、オキシフェニル酢酸エステル、オキシムエステル等が挙げられる。
【0047】
また、(メタ)アクリル基及びビニル基の重合反応を光照射により開始させる光重合開始剤A´の具体例としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0048】
また、エポキシ基及びオキセタニル基の重合反応を光照射により開始させる光重合開始剤A´の具体例としては、求電子試薬であり、カチオン発生源を有し有機成分を光により硬化させるものであれば特に制限はなく、公知の光カチオン光重合開始剤を用いることができる。例えば鉄−アレン錯体化合物、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ピリジニウム塩、アルミニウム錯体/シリルエーテルや、プロトン酸、ルイス酸等が挙げられる。
【0049】
また、紫外光により重合を開始するカチオン光重合開始剤の具体例としては、例えば、IRGACURE261(チバガイギー社製)、オプトマーSP−150(ADEKA社製)、オプトマーSP−151旭電化工業社製)、オプトマーSP−152旭電化工業社製)、オプトマーSP−170(ADEKA社製)、オプトマーSP−171(ADEKA社製)、オプトマーSP−172(ADEKA社製)、UVE−1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、CD−1012(サートマー社製)、サンエイドSI−60L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−80L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−100L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−110(三新化学工業社製)、サンエイドSI−180(三新化学工業社製)、CI−2064(日本曹達社製)、CI−2639(日本曹達社製)、CI−2624(日本曹達社製)、CI−2481(日本曹達社製)、Uvacure 1590(ダイセルUCB)、Uvacure 1591(ダイセルUCB)、RHODORSILPhotoInItiator2074 (ローヌ・プーラン社製)、UVI−6990(ユニオンカーバイド社製)、BBI−103(ミドリ化学社製)、MPI−103(ミドリ化学社製)、TPS−103(ミドリ化学社製)、MDS−103(ミドリ化学社製)、DTS−103(ミドリ化学社製)、DTS−103(ミドリ化学社製)、NAT−103(ミドリ化学社製)、NDS−103(ミドリ化学社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカーバイト日本)等が挙げられる。これらは単独で使用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0050】
この光硬化性樹脂組成物Aの塗布方法としては、特に制限はなく、例えば、ディスペンス法、インクジェット法、スプレー法、スピンコート法等が挙げられる。中でもスピンコート法は、支持基材3の表面に光硬化性樹脂組成物Aからなる薄膜を均一に形成できるので好ましい。なお、図2(a)は、支持基材3上の光硬化性樹脂組成物Aを模式的に示すものであり、現実に支持基材3の表面に塗布された光硬化性樹脂組成物Aの様子を示すものではない。
【0051】
≪微細構造2a≫
次に、この製造方法では、図2(b)に示すように、準備されたマスタースタンパ5(樹脂スタンパ2の原型)が、支持基材3の表面に塗布された光硬化性樹脂組成物Aに押し付けられる。その結果、光硬化性樹脂組成物Aは、マスタースタンパ5の微細構造5aの形状に倣いつつ支持基材3の表面で広がる。
ちなみに、マスタースタンパ5の微細構造5aは、例えば、電子ビーム描画法、フォトリソグラフィ、集束イオンビームリソグラフィ、ナノプリント法等により形成されたものであり、これらの方法は、微細構造5aに要求される加工精度に応じて適宜に選択することができる。
【0052】
そして、図2(c)に示すように、光硬化性樹脂組成物Aにマスタースタンパ5が押し付けられた状態で、図示しない光源によって発せられる第1の波長の光L1がマスタースタンパ5を介して光硬化性樹脂組成物Aに照射される。その結果、光硬化性樹脂組成物Aが硬化することで、マスタースタンパ5の微細構造5aは、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物に転写される。
【0053】
その後、図2(d)に示すように、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物からマスタースタンパ5が剥離されることによって、支持基材3上に微細構造2aを有する樹脂層4が形成されて樹脂スタンパ2が完成する。ちなみに、樹脂スタンパ2に形成された微細構造2aは、マスタースタンパ5の微細構造5aの凹凸形状が反転して形成されたものである。
なお、樹脂スタンパ2の樹脂層4(微細構造2a)の表面には、後記するように、被転写体7(図3(d)参照)の光硬化性樹脂組成物B(図3(d)参照)の硬化物から樹脂スタンパ2を剥離する際にその剥離を促進するための離型層(図示省略)を形成してもよい。この離型層としては、既存のフッ素系樹脂、シリコーン樹脂、炭化水素鎖、ダイヤモンドライクカーボン、金属等の樹脂の付着を防止するような離型材料からなる薄膜が挙げられる。
【0054】
次に参照する図3(a)から図3(d)は、図1の微細構造転写装置を使用した微細構造転写方法を模式的に示す工程説明図である。
先ず、この微細構造転写方法では、図3(a)に示すように、樹脂スタンパ2をプレート6に固定する。次いで、ステージ8に配置した被転写体7の表面には、図示しない塗布機構により、光硬化性樹脂組成物Bが塗布される。
【0055】
≪光硬化性樹脂組成物B≫
光硬化性樹脂組成物Bには、光源1(図3(c)参照)から照射される第2の波長の光L2(図3(c)参照)で硬化するものが使用される。この光硬化性樹脂組成物Bとしては、375nm以上の波長の光で硬化するものが望ましく、390nm以上の波長の光で硬化するものが更に望ましい。
光硬化性樹脂組成物Bは、光硬化性樹脂と、光重合開始剤B´とを含んで構成することができる。
【0056】
光硬化性樹脂組成物Bの光硬化性樹脂としては、前記した光硬化性樹脂組成物Aの光硬化性樹脂と同様のものを使用することができるが、中でも、反応性の高い(メタ)アクリロイル基を有するものが望ましい。
また、光硬化性樹脂組成物Bの光硬化性樹脂としては、前記した光硬化性樹脂組成物Aの光硬化性樹脂と異なって、フェニル基やアルキレン基などの炭素−炭素間二重結合を多く含むものを使用することができる。
【0057】
光硬化性樹脂組成物Bに使用する光重合開始剤B´は、光硬化性樹脂組成物Bの光硬化性樹脂における反応性官能基の反応を開始させるものである。この光重合開始剤B´としては、前記した光硬化性樹脂組成物Aの光重合開始剤A´と比較して、375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光の吸収が強いものが望ましい。
【0058】
この光重合開始剤B´としては、例えば、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:IRGACURE 819、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(商品名:DAROCUR TPO、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1(商品名:IRGACURE 369、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、(商品名:IRGACURE 379、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(商品名:IRGACURE 784、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、[2−(o-ベンゾイルオキシム)−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−1,2−オクタンジオン](商品名:IRGACURE OXE 01、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。特にこれらの光重合開始剤B´は、吸収を示す光の波長が400nm以上にまで及ぶものが好ましい。これらは単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、光重合開始剤B´は、これと共に、375nm以上、特に390nm以上の波長の光の吸収が弱いか、又はほとんど吸収しない光重合開始剤と混合しても効果を発揮する。
【0059】
以上のように、光重合開始剤B´としては、前記した光重合開始剤A´と比較して光の吸収波長の帯域が異なるものを使用することを想定しているが、光硬化性樹脂組成物A及び光硬化性樹脂組成物Bにおけるそれぞれの光重合開始剤A´及び光重合開始剤B´の濃度や組成によっては、必ずしも光の吸収波長の帯域が異なるものを使用しなくてもよい。
【0060】
具体的には、例えば、光硬化性樹脂組成物Bにおいて所定の濃度で含まれる光重合開始剤B´を、光硬化性樹脂組成物Aにおいては、光硬化性樹脂組成物Bでの濃度よりも低い濃度で光重合開始剤B´を含むように調節することで、第1の波長の光で硬化し、第2の波長の光では硬化しない、又は硬化し難い光硬化性樹脂組成物Aを得ることができる。
【0061】
また、組成によって光硬化性樹脂組成物A及び光硬化性樹脂組成物Bのそれぞれが硬化し始める前記した所定の光の波長の帯域となるように調節する具体例としては、増感剤を光硬化性樹脂組成物Bに加える方法が挙げられる。
つまり、光硬化性樹脂組成物Bは、前記した光硬化性樹脂と、光重合開始剤B´とを組み合わせで構成することができるが、この光重合開始剤B´に代えて、前記した光重合開始剤A´に増感剤を加えたものを使用し、前記した光硬化性樹脂と、この光重合開始剤A´に増感剤を加えたものとを組み合わせた構成とすることもできる。
【0062】
この増感剤としては、例えば、375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で増感機能を発現するものが挙げられる。この増感剤の具体例としては、例えば、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)アントラセン等のアントラセン誘導体、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン系増感剤が挙げられる。
【0063】
また、光源1の発する光の波長(第2の波長)が長いほど、光硬化性樹脂組成物Bを硬化させるエネルギー量が小さくなるので、光硬化性樹脂組成物Bは、スピンコート法等で被転写体7の表面にあらかじめ薄層化して形成したり、樹脂スタンパ2による加圧で薄層化したりすることが望ましい。具体的には、光硬化性樹脂組成物Bの膜厚は100nm以下が望ましい。
【0064】
再び図3(a)に戻って、この微細構造転写方法においては、プレート6を昇降機構(図示省略)で下降させることで、樹脂スタンパ2をステージ8に固定した被転写体7に向かって移動させる。
【0065】
その結果、図3(b)に示すように、樹脂スタンパ2が、被転写体7の表面に塗布された光硬化性樹脂組成物Bに押し付けられる。その結果、光硬化性樹脂組成物Bは、樹脂スタンパ2の微細構造2aの形状に倣いつつ被転写体7の表面で広がる。
【0066】
そして、図3(c)に示すように、光硬化性樹脂組成物Bに樹脂スタンパ2が押し付けられた状態で、光源1によって発せられる第2の波長の光L2が、プレート6及び樹脂スタンパ2を介して光硬化性樹脂組成物Bに照射される。その結果、光硬化性樹脂組成物Bが硬化することで、樹脂スタンパ2の微細構造2aは、光硬化性樹脂組成物Bの硬化物に転写される。
【0067】
その後、図3(d)に示すように、プレート6を昇降機構(図示省略)で上昇させることで、光硬化性樹脂組成物Bの硬化物から樹脂スタンパ2が剥離される。このことによって、被転写体7上には、微細構造2aが反転した微細構造、つまり、マスタースタンパ5(図2(d)参照)の微細構造5a(図2(d)参照)と同様の微細構造が形成される。
【0068】
このような微細構造を有する被転写体7は、それ自体を微細構造体として供してもよいが、光硬化性樹脂組成物Bの硬化物に転写された微細構造をマスクとして被転写体7にエッチングを施して、この微細構造に対応する凹凸を有する被転写体7を微細構造体として供してもよい。
【0069】
次に、本発明の微細構造転写装置10a及び微細構造転写方法の作用効果について説明する。
【0070】
本発明の前記実施形態によれば、樹脂スタンパ2の樹脂層4は、光硬化性樹脂組成物Aを、比較的エネルギー量の大きい365nm付近の波長の光(第1の波長の光)の照射によって硬化させて形成するので、硬化効率に優れると共に光重合開始剤A´の選択の幅が広がる。
【0071】
本発明の前記実施形態によれば、樹脂スタンパ2の樹脂層4を形成する光硬化性樹脂組成物Aの光重合開始剤A´として、365nm付近の波長の光(第1の波長の光)を吸収して光硬化性樹脂組成物Aの光硬化性樹脂の硬化を開始する開始剤効果が現れるものを用い、更に365nmよりも長波長の光(第2の波長の光)では開始剤効果が低いもの用いることによって、樹脂スタンパ2(樹脂層4)における365nmを超える波長の光(第1の波長よりも長波長の第2の波長の光)の透過性が良好となる。
その結果、第2の波長の光で硬化する被転写体7の表面の光硬化性樹脂組成物Bの硬化効率が良好となって、微細構造転写におけるスループットが良好となる。
【0072】
また、本発明の前記実施形態においては、プレート6の365nm付近の波長の光の透過率を50%以下とし、375nm以上(望ましくは390nm以上)の波長の光の透過率を80%以上とすることで、光硬化性樹脂組成物Bの硬化効率が更に良好となって、微細構造転写におけるスループットが一段と良好となる。
【0073】
本発明の前記実施形態においては、樹脂スタンパ2の樹脂層4を形成するために光硬化性樹脂組成物Aに照射した波長の光(第1の波長の光)は、硬化後に得られた樹脂層4に対しても吸収され易く、透過率は低い。その一方で、このような短波長の光に樹脂層4が曝されると、樹脂層4を構成する光硬化性樹脂組成物Aの硬化物の主要骨格となり得る炭素−炭素結合は、340nm程度の波長の光で切断される。そして、炭素−酸素結合は374nm程度の波長の光で切断される。また、光硬化性樹脂組成物Aの硬化物に、オレフィン基などの共役二重結合がある場合は、紫外光によって酸化しやすいため、劣化要因になり得る。
これに対して、本発明の前記実施形態によれば、光源1から発する、365nmよりも長波長の375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を硬化させる。そのため、樹脂スタンパ2の樹脂層4における炭素―酸素結合などの結合を切断しうる短波長の光(例えば、365nm付近の紫外光)に樹脂層4が曝されることがないので、樹脂スタンパ2の劣化を防止できる。
【0074】
また、本発明の前記実施形態によれば、プレート6に前記した光学フィルタを設置することで、樹脂スタンパ2の樹脂層4における炭素―酸素結合などの結合を切断しうる短波長の光(例えば、365nm付近の紫外光)に樹脂層4が曝されることがないので、樹脂スタンパ2の劣化を防止できる。
【0075】
本発明の前記実施形態によれば、光源1から発する、365nmよりも長波長の375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を硬化させるので、プレート6(加圧部材)と樹脂スタンパ2を介して光硬化性樹脂組成物Bに光源1から光を照射する際に、樹脂スタンパ2の光の吸収量を低減することができる。そのため樹脂スタンパ2の微細構造2a(微細パターン)の熱膨張が抑制され、被転写体7に対する微細構造2aの転写精度に優れる。
【0076】
本発明の前記実施形態によれば、光源1から発する、365nmよりも長波長の375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を硬化させるので、光透過性の条件が緩やかになるため、プレート6及び樹脂スタンパ2の支持基材3の材料選択性が多様化し、低コスト化を達成できる。
【0077】
本発明の前記実施形態によれば、光源1から発する、365nmよりも長波長の375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を硬化させるので、樹脂スタンパ2の樹脂層4を厚くすることができ、被転写体7への追従性が向上する。その結果、被転写体7の転写面積を拡大することができる。
【0078】
本発明の前記実施形態によれば、光源1から発する、365nmよりも長波長の375nm以上、望ましくは390nm以上の波長の光で光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)を硬化させるので、光源1から発生する熱が抑えられる。そのため光源1用の冷却機構が簡略化又は不要となるため光源1の大面積化が容易になる。
【0079】
本発明の前記実施形態で微細構造2a(微細パターン)が転写された被転写体7は、磁気記録媒体や光記録媒体等の情報記録媒体に適用可能である。また、この被転写体は、大規模集積回路部品やレンズ、偏光板、波長フィルタ、発光素子、光集積回路等の光学部品、免疫分析、DNA分離、細胞培養等のバイオデバイスへの適用が可能である。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
【0081】
前記実施形態では、図1に示すように、一つの樹脂スタンパ2を備えると共に、被転写体7の片面にのみ微細構造2aを転写する微細構造転写装置10aについて説明したが、本発明は被転写体7の両面に微細構造2aを転写するものであってもよい。
次に参照する図4は、本発明の他の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図である。
【0082】
図4に示すように、微細構造転写装置10bは、両面に光硬化性樹脂組成物Bが塗布された被転写体7を備えると共に、この被転写体7の両面にそれぞれ対向するように、一対の樹脂スタンパ2,2、プレート6,6(加圧部材)、及び光源1,1が、被転写体7側からこの順番で配置されている。
この微細構造転写装置10bは、プレート6,6の少なくともいずれか一方に前記した昇降装置(図示省略)を備えている。
【0083】
このような微細構造転写装置10bにおいては、図示しない塗布機構によって光硬化性樹脂組成物Bが被転写体7の両面に供給された後、この被転写体7が、下側の樹脂スタンパ2上に載置される。そして、前記した昇降装置(図示省略)によって一対のプレート6,6が被転写体7側に移動することで、一対の樹脂スタンパ2,2が被転写体7を挟み込むようになっている。そして、図示しないが、一対の樹脂スタンパ2,2が被転写体7を挟み込んだ状態で、光源1,1のそれぞれは第2の波長の光を被転写体7の両面の光硬化性樹脂組成物B,Bのそれぞれに照射する。その結果、光硬化性樹脂組成物B,Bが硬化することで、被転写体7の両面に樹脂スタンパ2の微細構造2aが転写される。そして、前記した昇降装置(図示省略)によって、一対のプレート6,6が被転写体7から離反するように移動することで、一対の樹脂スタンパ2,2が被転写体7から剥離されて、両面に微細構造2aが転写された被転写体7からなる微細構造体が得られる。
【0084】
また、本発明の微細構造転写装置10a,10bは、樹脂スタンパ2と被転写体7の位置合わせを行うアライメント機構を更に備えることができる。このアライメント機構としては、例えば光学アライメント機構、機械アライメント機構等が挙げられるが、既存のアライメント機構を好適に採用することができる。
【0085】
また、本発明の微細構造転写方法は、樹脂スタンパ2を作製する際に、支持基材3上に供給した光硬化性樹脂組成物Aにマスタースタンパ5を押し付ける構成となっているが、本発明はマスタースタンパ5上に供給した光硬化性樹脂組成物Aに支持基材3を押し付ける構成とすることができる。
【0086】
また、本発明の微細構造転写方法は、樹脂スタンパ2と被転写体7を接触させる際に、樹脂スタンパ2の表面と被転写体7の表面とを減圧下又は窒素等のガス雰囲気中に曝した後に、樹脂スタンパ2と被転写体7とを接触させることができる。このような微細構造転写方法によれば、被転写体7の表面に供給した光硬化性樹脂組成物Bの硬化を促進することができる。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、以下のように、光硬化性樹脂組成物A(第1の光硬化性樹脂組成物)を第1の波長の光で硬化させて樹脂スタンパを作製し、この樹脂スタンパを被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物B(第2の光硬化性樹脂組成物)に押し付けた状態で、この光硬化性樹脂組成物Bを第2の波長の光で硬化させて微細構造体を得た。
【0088】
光硬化性樹脂組成物Aとしては、OX−SQ(東亞合成社製)100重量部に対して、光重合開始剤A´としてのアデカオプトマーSP−152(ADEKA社製)を5重量部混合したものを使用した。
【0089】
樹脂スタンパを作製するために、マスタースタンパと支持基材を準備した。
マスタースタンパは、厚さ0.675mm、直径150mmφのシリコンウエハ上に既知のEB描画法によって、内径25mmから外形60mmφの間の領域にライン幅50nm、ピッチ100nm、高さ50nmの同心円状パターンを形成した。マスタースタンパの表面は、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)を用いて離型処理した。
支持基材には、厚さ0.7mm、直径100mmφの石英基板を使用した。
【0090】
先ず、マスタースタンパの中央に光硬化性樹脂組成物Aを、スポイトを用いて0.3mL滴下した。次いで、支持基材で加圧し、光硬化性樹脂組成物Aを押し広げた後、支持基材の裏面から365nmの波長の光(第1の波長の光)をLEDランプにて2分間照射した。
そして、マスタースタンパを支持基材から剥離することで、マスタースタンパの微細パターンが光硬化性樹脂組成物Aの硬化物に転写された微細構造体を得た。
【0091】
同様の条件で作製した樹脂スタンパの樹脂層をカッターナイフで削り取り、段差計を用いて樹脂層の厚さを測定したところ、平均30μmであった。また、樹脂スタンパの透過率を分光光度計で測定したところ、波長365nmの光の透過率は75%であり、波長375nmの光の透過率82%であり、波長390nmの光の透過率は90%であり、波長400nmの光の透過率は93%であった。
【0092】
また、同様の条件で作製した樹脂スタンパの樹脂層の表面を、X線分子分光法を用いて、C1sのスペクトルから炭素の結合状態を解析したところ、樹脂層の組成中、炭素―炭素間二重結合は確認されなかった。
【0093】
また、本実施形態では、390nmの波長の光を発するLEDランプ(照度30mWcm−2)を使用して、光を光硬化性樹脂組成物Aに10分間照射したが、光硬化性樹脂組成物Aは、十分に硬化しなかった。
【0094】
次に、作製した樹脂スタンパを使用して光硬化性樹脂組成物Bに微細構造を転写した。
光硬化性樹脂組成物Bとしては、ウレタンアクリレートのUA−53H(新中村化学社製)を100重量部に対して、光重合開始剤B´としてのIRGACURE 819(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部混合したものを使用した。
【0095】
まず、被転写体には、厚さ0.38mm、直径76.2mmのシリコンウエハを使用した。またプレートには、厚さ20mm、直径75mmの石英ガラスに、厚さ20mm、直径75mmのSylgard(登録商標)184(ダウコーニング社製)からなる緩衝層を設けたものを使用した。プレートの透過率を分光光度計で測定したところ、波長365nmの光の透過率は80%であり、波長375nmの光の透過率84%であり、波長390nmの光の透過率89%であり、波長400nmの光の透過率は92%であった。ステージにはステンレスを用いた。
【0096】
光源は、プレートの上部に設置した。光源には、400nmの波長の光を発するLEDランプを一対並設して使用した。被転写体の配置位置における中心付近の照度を測定したところ70mWcm−2であった。
【0097】
ここでは、先ず、樹脂スタンパをプレートに固定すると共に、光硬化性樹脂組成物Bをスピンコート法にて膜厚40nmに塗布した被転写体をステージに固定した。
【0098】
次いで、プレートを下降させて、樹脂スタンパを被転写体上の光硬化性樹脂組成物Bに押し当てることで、樹脂スタンパの微細構造の形状に倣うように光硬化性樹脂組成物Bを広げた。
【0099】
そして、プレート及び樹脂スタンパを介して光源からの光を10秒間照射して、光硬化性樹脂組成物Bを硬化させた。
【0100】
その後、プレートを上昇させ、被転写体から樹脂スタンパを剥離させた。そして、被転写体の表面を観察したところ、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。この微細構造のSEM写真を図5に示す。
なお、本実施例1では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0101】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の400nmの波長の光を発するLEDランプに代えて、375nmの波長の光を発するLEDランプを使用した以外は実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例2では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0102】
(実施例3)
実施例3では、実施例1の光硬化性樹脂組成物Bに代えて、ウレタンアクリレートのUA−53H(新中村化学社製)を100重量部に対して、光重合開始剤B´としてIRGACURE 903(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を4.5重量部と、2−イソプロピルチオキサントン(東京応化社製)を0.5重量部混合した光硬化性樹脂組成物Bを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例3では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0103】
(実施例4)
実施例4では、実施例1で使用したプレートに、更に385nm以下の波長をカットする光学フィルタ(LU0385、朝日分光株式会社製)を張り付けたものを使用した。この光学フィルタの波長365nmの光の透過率は0.04%であり、波長375nmの光の透過率は0.8%であり、波長390nmの光の透過率は94%であり、波長400nmの光の透過率は95%であった。そして、この光学フィルタを張り付けた以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例4では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0104】
(実施例5)
実施例5では、実施例1の樹脂スタンパの支持基材に代えて、厚さ0.7mm、縦120mm、横80mmのアクリル板を支持基材として使用した。この樹脂スタンパの波長365nmの光の透過率は50%であり、波長375nmの光の透過率は60%であり、波長390nmの光の透過率は92%であり、波長400nmの光の透過率は95%であった。そして、この樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例5では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0105】
(実施例6)
実施例6では、実施例1のプレートに代えて、厚さ10mm、縦120mm、横80mmのアクリル板をプレートとして使用した。このプレートの波長365nmの光の透過率は30%であり、波長375nmの光の透過率は45%であり、波長390nmの光の透過率は82%であり、波長400nmの光の透過率は84%であった。そして、このプレートを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例6では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0106】
(実施例7)
実施例7では、実施例1において樹脂スタンパの作製に使用した光硬化性樹脂組成物Aに代えて、EHPE 3150(ダイセル化学社製)60重量部とネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(東京化成工業社製)40重量部、光重合開始剤A´としてのアデカオプトマーSP−300(ADEKA社製)を5重量部混合した光硬化性樹脂組成物Aを使用した。そして、この光硬化性樹脂組成物Aを使用した以外は実施例1と同様に作製した樹脂スタンパには、更にOPTOOL DSX(ダイキン工業社製)にて離型処理を施した。この樹脂スタンパの波長365nmの光の透過率は70%であり、波長375nmの光の透過率は80%であり、波長390nmの光の透過率は92%であり、波長400nmの光の透過率は95%であった。そして、この樹脂スタンパの樹脂層の表面を、X線分子分光法を用いて、C1sのスペクトルから炭素の結合状態を解析したところ、樹脂層の組成中、炭素―炭素間二重結合は確認されなかった。
【0107】
そして、この樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例7では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0108】
(実施例8)
実施例8では、実施例1において樹脂スタンパの作製に使用した光硬化性樹脂組成物Aに代えて、UV−7630B(日本合成化学社製)60重量部とネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成工業社製)40重量部、光重合開始剤A´としてDAROCUR1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部混合した光硬化性樹脂組成物Aを使用した。そして、この光硬化性樹脂組成物Aを使用した以外は実施例1と同様に作製した樹脂スタンパには、更にOPTOOL DSX(ダイキン工業社製)にて離型処理を施した。この樹脂スタンパの波長365nmの光の透過率は75%であり、波長375nmの光の透過率は80%であり、波長390nmの光の透過率は91%であり、波長400nmの光の透過率は93%であった。
【0109】
そして、この樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例8では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに50回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±3nm以内であった。
【0110】
(実施例9)
実施例9では、実施例1と樹脂スタンパに使用する光硬化性樹脂組成物Aと光硬化性樹脂組成物Bの材料及び光硬化性樹脂組成物Bの被転写体への塗布方法が異なる。
この実施例9では、光硬化性樹脂組成物Aとして、UV−7630B(日本合成化学社製)60重量部とネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成工業社製)40重量部、光重合開始剤A´としてIRGACURE 379(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部混合して用いた。そして、この光硬化性樹脂組成物Aを使用した以外は実施例1と同様に樹脂スタンパを作製した。この樹脂スタンパの波長365nmの光の透過率は70%であり、波長375nmの光の透過率は80%であり、波長390nmの光の透過率は92%であり、波長400nmの光の透過率は93%であった。
【0111】
光硬化性樹脂組成物Bとしては、UV−7630B(日本合成化学社製)15重量部とネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成工業社製)85重量部、光重合開始剤A´としてIRGACURE379(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部混合して用いた。
【0112】
また、実施例9では、被転写体に光硬化性樹脂組成物Bを、インクジェット装置を使用して供給した。インクジェット装置としては、ノズルヘッドが512(256×2列)個配列され、ピエゾ方式で樹脂を吐出するものを採用した。ヘッドのノズル間隔は、列方向に70μm、列間140μmであった。各ノズルからは、約5pLの光硬化性樹脂組成物Bが吐出されるように制御した。光硬化性樹脂組成物Bの滴下は同心円状になるように行い、半径方向のピッチは140μmとし、周回方向のピッチは280μmとした。
【0113】
以上のような光硬化性樹脂組成物A、光硬化性樹脂組成物B、及び光硬化性樹脂組成物Bの塗布方法を採用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例9では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに50回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±3nm以内であった。
【0114】
(実施例10)
実施例10では、実施例1における樹脂スタンパの樹脂層の厚さを厚くした樹脂スタンパ2を作製した。具体的には、実施例1での光硬化性樹脂組成物Aの使用量(0.3mL)を、1mLに変更した以外は、実施例1と同様に樹脂スタンパを作製した。そして、樹脂層の厚さを実施例1と同様に測定したところ、平均120μmであった。この樹脂スタンパ2の波長365nmの光の透過率は44%であり、波長375nmの光の透過率は50%であり、波長390nmの光の透過率は82%であり、波長400nmの光の透過率は85%であった。
【0115】
そして、この樹脂スタンパを使用した以外は、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに対して転写を行った。その結果、被転写体の表面には、樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例10では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0116】
(実施例11)
実施例11では、マスタースタンパとして、厚さ0.775mm、直径300mmφのシリコンウエハ上に既知のEB描画法を使用して、このシリコンウエハの中央の200mm×200mmの領域にライン幅50nm、ピッチ100nm、高さ50nmのラインドスペースパターンを形成したものを用意した。このマスタースタンパの表面には、OPTOOL DSX(ダイキン工業社製)を用いて離型処理を施した。
樹脂スタンパの支持基材には、厚さ0.7mm、直径200mmφの石英基板を使用した。
【0117】
先ず、マスタースタンパの中央に光硬化性樹脂組成物Aを、スポイトを用いて10mL滴下した。次いで、支持基材で加圧し、光硬化性樹脂組成物Aを押し広げた後、支持基材の裏面から365nmの波長の光(第1の波長の光)をLEDランプにて2分間照射した。
そして、マスタースタンパを支持基材から剥離することで、マスタースタンパの微細パターンが光硬化性樹脂組成物Aの硬化物に転写された微細構造体を得た。
【0118】
同様の条件で作製した樹脂スタンパの樹脂層をカッターナイフで削り取り、段差計を用いて樹脂層の厚さを測定したところ、平均120μmであった。また、樹脂スタンパの透過率を分光光度計で測定したところ、波長365nmの光の透過率は44%であり、波長375nmの光の透過率は50%であり、波長390nmの光の透過率は82%であり、波長400nmの光の透過率は85%であった。
また、実施例11では被転写体として、厚さ0.625mm、直径150mmφのシリコンウエハを使用した。
【0119】
以上のように作製した樹脂スタンパと被転写体を用いて、実施例1と同様に微細構造の転写を行ったところ、被転写体の全面に樹脂スタンパの微細構造の凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例11では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0120】
(実施例12)
実施例12では、実施例11で作製した樹脂スタンパと同様のものを2枚準備した。
そして、この樹脂スタンパを使用して、図4に示す微細構造転写装置10bと同様のものを組み立てた。
ここでは、図4に示す被転写体7として、直径65mm,厚さ0.63mm,中心穴径20mmの磁気記録媒体用ガラス基板を使用した。また図4に示す光源1及びプレート6としては、実施例1と同様の光源及びプレートを一対使用した。
【0121】
まず、図4に示すように、2枚の樹脂スタンパ2を、上下に設置されたプレート6,6のそれぞれに固定した。次いで、被転写体7の両面に光硬化性樹脂組成物Bをスピンコート法にて膜厚が40nmとなるように塗布した。そして、この被転写体7を下側の樹脂スタンパ2上に載置した。
【0122】
次に、上部のプレート6を下降させて、上部の樹脂スタンパ2を被転写体7の上面に塗布された光硬化性樹脂組成物Bに押し当てることで、上下の樹脂スタンパ2,2で被転写体7を挟むように加圧した。
そして、被転写体7を樹脂スタンパ2,2で挟み込んだ状態で、光源1,1のそれぞれから第2の波長の光を10秒間照射することで、被転写体7の両面の光硬化性樹脂組成物Bを硬化させた。その後、上部のプレート6を上昇させて被転写体7から上下の樹脂スタンパ2,2を剥離させた。
【0123】
この被転写体7の両面を観察したところ、被転写体7の両面には、樹脂スタンパ2の微細構造2aの凹凸が反転して転写された微細構造が確認された。
なお、本実施例12では、この樹脂スタンパを使用して、光硬化性樹脂組成物Bに500回繰り返して転写を行ったが、微細構造の寸法変動は±2nm以内であった。
【0124】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の光硬化性樹脂組成物Bに代えて、ウレタンアクリレートのUA−53H(新中村化学社製)を100重量部に対して、DAROCUR1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5重量部混合した光硬化性樹脂組成物を使用した。そして、実施例1と同様に被転写体に塗布した光硬化性樹脂組成物Bに樹脂スタンパを押し当てて、光源から波長390nmの光を照度25mWcm−2で2分間照射したが、光硬化性樹脂組成物Bは硬化しなかった。なお、DAROCUR1173自体には、波長390nmの光の吸収が殆どない。
【0125】
(比較例2)
比較例2では、実施例1の光硬化性樹脂組成物Aを使用した樹脂スタンパ2と異なって、熱可塑性樹脂のポリオレフィンからなる樹脂スタンパを作製した。
まず、比較例2では、支持基材の表面に0.5μmの厚さのポリオレフィン薄膜を形成した。次いで、このポリオレフィン薄膜に対して、実施例1と同様のマスタースタンパを転写温度200℃、圧力10kgf/cm(981kPa)、保持時間3分で加圧した。そして、60℃まで冷却した後に、ポリオレフィン薄膜からマスタースタンパを剥離することで樹脂スタンパを作製した。
この樹脂スタンパの表面を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、微細構造は丸みをおびており、パターン成型性が悪化していることが確認された。
【0126】
次に、この樹脂スタンパ2を用いて、実施例1と同様に光硬化性樹脂組成物Bに転写を行った。しかしながら、光硬化性樹脂組成物Bは硬化したが、走査型電子顕微鏡で確認したところ、光硬化性樹脂組成物Bの硬化物に転写された微細構造は、更に丸みを増しており、パターン成型性が更に悪化していることが確認された。
【符号の説明】
【0127】
1 光源
2 樹脂スタンパ
2a 微細構造
3 支持基材
4 樹脂層
5 マスタースタンパ
5a 微細構造
6 プレート
7 被転写体
10a 微細構造転写装置
10b 微細構造転写装置
A 光硬化性樹脂組成物(第1の光硬化性樹脂組成物)
B 光硬化性樹脂組成物(第2の光硬化性樹脂組成物)
L1 光(第1の波長の光)
L2 光(第2の波長の光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造を有するスタンパを、被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの光硬化性樹脂組成物に前記スタンパを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体上に微細構造を転写する微細構造転写装置において、
前記スタンパは、マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して作製されたものであると共に、
前記第1の波長よりも長い第2の波長の光を発する光源を備え、
前記被転写体上には、前記光源から発する前記第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物が供給されることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記光源は、前記第1の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤が吸収する波長よりも長い波長の光を発するLED光源であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項3】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記第2の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤が吸収する波長は、前記第1の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤が吸収する波長よりも長いことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項4】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記第2の光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤が、前記第1の光硬化性樹脂材料に含まれる光重合開始剤よりも、前記第2の波長の光の吸収が強いことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項5】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記第1の光硬化性樹脂組成物及び前記第2の光硬化性樹脂組成物には、互いに同種の光重合開始剤が含まれていると共に、
前記第1の光硬化性樹脂組成物の前記光重合開始剤の濃度よりも前記第2の光硬化性樹脂組成物の前記光重合開始剤の濃度が高いことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項6】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記第1の波長と前記第2の波長との差が10nm以上であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項7】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記第1の波長と前記第2の波長との差が25nm以上であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項8】
請求項2に記載の微細構造転写装置において、
前記LED光源は、375nm以上の波長の光を発することを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項9】
請求項2に記載の微細構造転写装置において、
前記LED光源は、390nm以上の波長の光を発することを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項10】
微細構造を有する2枚のスタンパのそれぞれを、被転写体の両面にそれぞれ供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けて両面の前記光硬化性樹脂組成物に前記スタンパのそれぞれを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体の両面に微細構造を転写する微細構造転写装置において、
前記スタンパは、マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して作製されたものであると共に、
前記第1の波長よりも長い第2の波長の光を発する光源を備え、
前記被転写体上には、前記光源から発する前記第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物が供給されることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項11】
加圧部材によって微細構造を有するスタンパを、被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの光硬化性樹脂組成物に前記加圧部材及び前記スタンパを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体上に微細構造を転写する微細構造転写装置において、
前記スタンパは、マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して作製されたものであると共に、
前記第1の波長よりも長い第2の波長の光を発する光源を備え、
前記被転写体上には、前記光源から発する前記第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物が供給されることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項12】
請求項1、請求項10及び請求項11のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記スタンパは、前記第1の波長の光の透過率が50%以下であると共に、前記第2の波長の光の透過率が80%以上であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項13】
請求項11に記載の微細構造転写装置において、
前記加圧部材は、前記第1の波長の光の透過率が50%以下であると共に、前記第2の波長の光の透過率が80%以上であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項14】
請求項11に記載の微細構造転写装置において、
前記加圧部材に、350nm以下の波長の光の透過率が1%以下である光学フィルタを配置したことを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項15】
微細構造を有するスタンパを、被転写体上に供給した光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの光硬化性樹脂組成物に前記スタンパを介して光を照射して硬化させた後に剥離することで、前記被転写体上に微細構造を転写する微細構造転写方法において、
マスタースタンパの微細構造を、第1の光硬化性樹脂組成物に押し付けてこの第1の光硬化性樹脂組成物に第1の波長の光を照射して硬化させた後に剥離して前記スタンパを作製する第1工程と、
前記第1の波長よりも長い第2の波長の光で硬化する第2の光硬化性樹脂組成物を被転写体上に供給する第2工程と、
前記被転写体上に供給した第2の光硬化性樹脂組成物に、前記第1工程で作製した前記スタンパを押し付けてこのスタンパを介して前記第2の波長の光を照射することで前記第2の光硬化性樹脂組成物を硬化させる第3工程と、
硬化させた前記第2の光硬化性樹脂組成物から前記スタンパを剥離する第4工程と、
を有することを特徴とする微細構造転写方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169313(P2012−169313A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26646(P2011−26646)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】