説明

微細粗面化ポリプロピレンフィルムおよびその製造方法

【課題】 巻き加工適性に優れたコンデンサー用途に好適な極薄の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供する。
【解決手段】230℃におけるメルトフローインデックス(MFR)が、1〜5g/10分であるアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(A)に、MFRが、当該樹脂(A)より1〜30g/10分大きいアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上30質量%以下の範囲で添加してなる樹脂混合体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.17μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたハンドリング性を有する工業用粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関する、さらに詳しくは、高温下での短時間耐電圧性に優れ、小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサーに好適であり、かつ非常に薄いフィルム厚であるコンデンサー用粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、包装用をはじめ工業用材料フィルムとして広く用いられているが、特に、その耐電圧特性、低い誘電損失特性などの優れた電気特性、及びそれに加え、高い耐湿性を活かしてコンデンサー用の誘電体フィルムとしても、広く利用されている。また、その原料樹脂の価格が、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどの他のコンデンサー用樹脂に比較して安価であるため、その市場における伸びが大きい。
【0003】
コンデンサー用ポリプロピレンフィルムは、高電圧コンデンサーをはじめとし、各種スイッチング電源や、コンバーター、インバーター等のフィルター用や平滑用として使用されるコンデンサー類に好ましく用いられている。この市場では、近年は、特にコンデンサーの小型化、高容量化の要求が非常に強くなっている。そこで、コンデンサーにおいて、一層の高容量化を実現するため、所定の大きさ(低体積=小型)内で巻回数を増やして誘電体の面積を広げることで対処することを目的に、フィルムでは、これまで以上に、薄いことが求められるようになってきている。
【0004】
しかしながら、このような非常に薄いコンデンサー用フィルムでは、加工の際のハンドリング性が極めて悪く、コンデンサー素子を作製する巻回の際、シワや巻きずれを発生し易いと言う難点がある。
【0005】
また、一般工業用途においても、フィルム表面上に各種の印刷が施されたり、金属蒸着が施されることが多い。これらの工程では、巻き取りや巻き戻しの作業が何度も行われる上、近年においては、生産性向上の観点から、これらの作業を高速で行うことが必須となってきている。薄いフィルムを、高速で巻き取り、巻き戻しを行うと、前述のコンデンサー素子同様に、一般工業用途においても、端面ずれやシワが多く発生し、製品加工上、大きな課題となっている。
【0006】
そこで、加工する際の滑り性を向上させ、一般工業用途においては、加工生産性を向上させるために、また、コンデンサー作製にあっては、素子巻きを容易にする目的で、表面を適度に微細粗面化する事が、一般的に行われている。
【0007】
表面の微細粗面化の方法としては、従来、エンボス法やサンドラミ法などの機械的方法、溶剤を用いたケミカルエッチングなどの化学的方法、ポリエチレンなどの異種ポリマーをブレンドないしは共重合体化したシートを延伸する方法、そして、ポリプロピレンの結晶形の一つであるβ晶を生成させたシートを延伸する方法等が提案されている(非特許文献1)。中でも、β晶を用いた表面粗化方法は、樹脂に添加剤などの不純物を混入させる必要がないため、電気的特性を落とすことがなく、非常にミクロな凹凸を付与させることができるという特徴を持つ。
【0008】
β晶を用いた微細粗面化方法では、キャスト原反シート作製の際、β晶をいかに制御しながら生成させるかが技術上重要な要点となる。β晶生成技術に関して、特許文献1、2および3などに、特定の触媒によって重合した一定の範囲のメルトフローレート、分子量および分子量分布を有するポリプロピレン樹脂をシート化すると、高いβ晶比率を持ったシートが得られることを開示している。さらに、特許文献4では、高いヘプタンインデックス、つまり高い立体規則性を有した粗面化フィルムについて開示されている。
【0009】
しかしながら、フィルムの加工適性を向上させるためには、粗面化は必須であるが、粗面化のためのこれらの技術は、一般的に、延伸性を低下させる方向にある上、粗面化し過ぎると、コンデンサー用途においては、その耐電圧特性の低下を招くというマイナス面も併せ持つ。
【0010】
産業用コンデンサーの需要が増える中、市場では、より高耐電圧のコンデンサーへの要求が非常に強く、併せて電気容量のより一層の向上も求められている。電気容量を向上させるためには、誘電体フィルムを薄くする必要がある。そのように極薄のフィルムを得るためには、樹脂及びキャスト原反シートの延伸性向上が必須となるが、この特性は耐電圧化のための手法である結晶性向上(高立体規則性化)とは一般的に相容れない物性である。
【0011】
このように、 1)フィルムの加工適性(粗面化)、2)フィルム極薄化のための延伸性向上、さらに、コンデンサー用途においては、3)高温高耐電圧性(面平滑化、高結晶性化、高融点化)、といった市場の要求する特性を同時に満たし得る二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得る方法を開示している文献は非常に希薄な状況にあり、効果的な解決策を見出すには至っていない。
【0012】
特許文献5および6には、特定の範囲の分子量分布と立体規則性度をバランスさせた樹脂を用い、β晶量の比較的低いキャスト原反から延伸した微細粗面化フィルムが開示されている。この延伸した微細粗面化フィルムは、耐電圧特性を有する薄いフィルムであり、適度な表面粗化性を有していることから前記3つの特性に関して満足できるレベルに達した微細粗面化フィルムであるが、コンデンサーとした際の高温下での耐電圧性に関する厳しい要求規格を満たすためには改善の余地がある。
【0013】
さらに、市場の要求する課題を、原料樹脂の混合により解決しようとする試みがある。
特許文献7、8および9には、長鎖分岐構造や架橋構造を有する高溶融張力ポリプロピレン樹脂を含有させる技術が開示されている。これらのように樹脂を添加する技術を応用することによって、薄膜化と加工適性の向上、耐電圧性とのバランスが、図られるようになった。しかしながら、これら技術をもってしても、進展著しい先端産業からの、極薄膜化、加工適性、さらにその上、高温下での耐電圧性に関する厳しい要求規格を、同時には、依然充分に満足できるに至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】藤山光美、「高分子加工」、38巻3号、139頁 (1989年)
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−2655号公報(3−7頁)
【特許文献2】特開2004−175932号公報(4−8頁)
【特許文献3】特開2004−175933号公報(3−6頁)
【特許文献4】特開平11−147962号公報(2−3頁)
【特許文献5】特開2007−137988号公報(4−7頁)
【特許文献6】特開2007−204646号公報(3−6頁)
【特許文献7】特開2006−63186号公報(3−4頁)
【特許文献8】特開2007−84813号公報(4−6頁)
【特許文献9】特開2007−246898号公報(4−9頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、巻き加工適性に優れた極薄の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下に記載の態様を含む。
【0018】
(1)230℃におけるメルトフローインデックス(MFR)が、1〜5g/10分であるアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(A)に、MFRが、当該樹脂(A)より1〜30g/10分大きいアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上30質量%以下の範囲で添加してなる樹脂混合体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.17μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0019】
(2)前記記載の主要ポリプロピレン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下である分子特性を有することを特徴とする前記(1)記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0020】
(3)前記(1)または(2)記載の主要ポリプロピレン樹脂(A)の高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%以下である分子特性を有することを特徴とする前記(1)〜(2)記載の記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0021】
(4)ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が5%以上15%以下である分子特性を有することを特徴とする前記(1)〜(3)記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0022】
(5)厚さが1μm以上10μm未満であることを特徴とする前記(1)〜(4)記載のコンデンサー用の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0023】
(6)230℃におけるMFRが、1〜5g/10分であるアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(A)に、MFRが、当該樹脂(A)より1〜30g/10分大きいアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(B)を、1質量%以上30質量%以下の範囲で添加してなる樹脂混合体から得られるキャスト原反シートを二軸延伸することを特徴とする前記(1)記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法
【発明の効果】
【0024】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、その原料樹脂の主要構成成分のポリプロピレン樹脂(A)が比較的高結晶性であるので高い耐熱性、高い電気特性(耐電圧性)を有しており、その主要成分(A)樹脂に高いMFRを持ったポリプロピレン樹脂(B)を特定量混合されている効果により、この耐熱・耐電圧性を維持したまま高い延伸性が付与されており、非常に薄いフィルムとする事が出来る。さらにその上、高いMFRを持った樹脂(B)の適度な混合によって、フィルム上に制御された微細粗面を形成され得るので、ハンドリング、加工適性に極めて優れている。
【0025】
そのため、薄いフィルムを必要とする加工性が良好な工業用フィルムとして好適であり、特に、厚みが1〜10μm程度の非常に薄いフィルム厚であり、かつ、高い素子加工適性を持ったコンデンサー用耐電圧化フィルムとして優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】低分子量(Log(M)〜4.5)領域の構成が異なる樹脂1及び2に関する分子量微分分布曲線の例を示す図
【図2】積分分布曲線と微分分布曲線の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成する主要原料樹脂(A)として用いられるポリプロピレン樹脂は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であり、プロピレンの単独重合体である。
【0028】
主要ポリプロピレン樹脂(A)の230℃における荷重2.16kgのMFRは、1〜5g/10分であり、より好ましくは、2〜4g/10分である。
本発明を構成する主要原料ポリプロピレン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)は、25万以上45万以下であり、好ましくは、25万以上40万以下である。さらに好ましくは、30万以上40万未満である。
【0029】
重量平均分子量が45万を超えると、樹脂流動性が著しく低下し、キャスト原反シートの厚さの制御が困難となり、本発明の目的である非常に薄い延伸フィルムを幅方向に精度良く作製することが出来なくなるため実用上好ましくない。また、重量平均分子量が25万に満たない場合、押し出し成形性には富むが、出来たシートの力学特性や熱−機械的特性の低下とともに延伸性が著しく低下し、2軸延伸成形が出来なくなるという製造上や製品性能上に難点を生じるため好ましくない。
【0030】
また、主要ポリプロピレン樹脂(A)のGPC法により得られる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の比から計算される分子量分布は4以上7以下であり、4.5以上6.5以下がより好ましい。
【0031】
主要原料ポリプロピレン樹脂(A)の分子量・分子量分布測定値を得るためのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置には特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置を利用することが可能である。本発明においては、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC−8121GPC−HTを用いた。GPCカラムには、東ソー株式会社製、TSKgelGMHHR−H(20)HTを3本連結させて用い、カラム温度は140℃、溶離液にはトリクロロベンゼンを用い、流速は1.0ml/minにて測定した。検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0032】
本発明を構成する主要原料ポリプロピレン樹脂(A)は、前述の如き分子量・分子量分布を持つと同時に、高温核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%以下であり、さらに好ましくは、95%以上98%以下であることを特徴とするアイソタクチックポリプロピレン樹脂である。
【0033】
高い立体規則性成分を持つことで、樹脂の結晶性が向上し、高い耐熱特性や電気的特性(耐電圧)が期待されるので、メソペンダット分率[mmmm]=94%以上が良い。それより低いと、所望の機械的耐熱性や耐電圧性を得ることが出来ず好ましくない。しかしながら、あまり高すぎると、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速さが早くなりすぎ、シート成形用の金属ドラムからの剥離が発生し易くなったり、延伸性が低下するなど製造上の難点を有するので98%以下にすることが好ましい。
【0034】
本発明のメソペンタッド分率([mmmm])を得るために高温NMR装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の立体規則性度が可能な一般に市販されている高温型核磁気共鳴(NMR)装置が利用可能である。本発明においては、日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)、JNM−ECP500を用いた。観測核は、13C(125MHz)であり、測定温度は、135℃、溶媒には、オルト−ジクロロベンゼン〔ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1)〕を用いた。高温NMRによる方法は、公知の方法によって行うことが出来るが、本発明では、例えば、「日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、610頁」に記載の方法を参考にしながら行った。
【0035】
測定モードは、シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は、9.1μsec(45°パルス)、パルス間隔5.5sec、積算回数4500回、シフト基準は、CH(mmmm)=21.7ppmである。
ペンタッド分率の算出方法は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より百分率で算出した。
【0036】
本発明のコンデンサー用キャスト原反シート、および2軸延伸ポリプロピレンフィルムは、このような主要原料ポリプロピレン樹脂(A)が、比較的高い範囲の立体規則性度と、前出の分子量・分子量分布を持つことにより、高い耐熱性とある程度の電気特性、そして延伸性を持つことが出来る。
【0037】
本発明では、さらに、この耐熱性を有する主要原料ポリプロピレン樹脂(A)に、この樹脂(A)よりも高いMFRを有するポリプロピレン樹脂(B)を、添加・混合することにより、分子量分布における低分子量領域の構成を調整し、高い耐電圧性の維持と高い延伸性とを、さらにその上、微細な粗化面の形成とを同時に、かつ高度に両立させた。
【0038】
即ち、主要樹脂の立体規則性度(つまり、結晶性)の値を高くすることによって、高い機械的耐熱性や高い耐電圧などの電気特性を発現できるが、それだけでは、非常に薄い延伸フィルムを得る事ができない。本発明のように、高いMFRを有する樹脂を本発明に係る範囲で添加することにより、ある程度調整された分子量分布を併せ持つものとすることにより、さらなる延伸性が兼ね備わると同時に、微細な粗化面をも形成出来る。
【0039】
主要原料樹脂(A)に添加するMFRの高いポリプロピレン樹脂(B)は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であり、プロピレンの単独重合体である。
添加する高MFRポリプロピレン樹脂(B)の230℃における荷重2.16kgのMFRは、主要ポリプロピレン原料樹脂(A)のそれよりも、1g/10分以上高くなければならず、主要樹脂(A)より1〜30g/10分高く、1〜15g/10分高いのがより好ましい。
【0040】
主原料樹脂(A)と添加高MFR樹脂(B)とのMFRの差が、1g/10分より小さいと、延伸性の改良においても、粗化面の付与においてもなんら効果は得られない。一方、その差が、30g/10分より高くなると、混合の際の相溶性に難点を生じたり、混合物の平均分子量が低分子量化して成形性に影響を及ぼすため好ましくない。
【0041】
本発明において添加する高MFRポリプロピレン原料樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)には、前記範囲の高MFRが実現されていれば特に制限は無い。しかし、樹脂(A)(B)混合物の分子量分布を調整する観点から、添加ポリプロピレン樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、15万以上40万以下が好ましく、さらに好ましくは、15万以上30万以下である。
【0042】
また、添加ポリプロピレン樹脂(B)の分子量分布 (Mw/Mn)にも、前記範囲の高MFRが実現されていれば特に制限は無いが、主要樹脂(A)との混合性や、分子量分布の調整の観点から、Mw/Mnは、4以上7以下が好ましい。
添加する高MFRポリプロピレン原料樹脂(B)の立体規則性は、主要原料樹脂(A)と同程度であるのが良いが、主要原料樹脂(A)より低くても構わない。しかしながら、あまり低すぎると、耐熱性の効果が損なわれ、高温下での耐電圧性にも影響を及ぼすので、好ましくない。高MFRポリプロピレン原料樹脂(B)の立体規則性は、前記高温NMR法によるメソペンタッド分率([mmmm])で、94%以上98%以下であるのが好ましい。この範囲であれば、主要原料樹脂(A)とメソペンタッド分率が異なっていても本発明に係る効果を損なわず実用上問題ない。
【0043】
主要原料樹脂(A)に添加するMFRの高いポリプロピレン樹脂(B)の添加率は、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上30質量%以下である。好ましくは、5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以上20質量%以下である。
1質量%より低いと、添加効果が得られず、好ましくない。30質量%より多いと、添加する樹脂のMFRにもよるが、一般的に、相溶性に難点が生じ、キャスト原反シートの押出成形時に、いわゆるフィッシュアイを生じやすく、高度な延伸が困難になるなど、成型加工性に問題を生じやすくなるため好ましくない。
【0044】
従来技術では、高い立体規則性度を持てば持つほど、より高い延伸性を付与する必要があるため、分子量分布Mw/Mnを7以上と広げるなどの必要があった。しかしながら、広い分子量分布は、多くの場合、耐熱性や耐電圧性を損なう傾向にある上、粗化面を制御出来なくなる、即ち多くの場合、粗面化しなくなると言う傾向にあった。
【0045】
本発明では、高立体規則性を有し、ある程度の分子量分布を持った主要樹脂(A)にそれよりも高いMFRを有する添加樹脂(B)を添加・混合することによって、図1のように、分子量分布の構成において、分子量数千〜10万の重量平均分子量より低分子量側の成分を適度に多く含む構成とすることに大きな特徴を持つ。
【0046】
即ち、本発明のもう一つの態様は、GPC法で測定した分子量微分分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が5%以上15%以下であり、好ましくは、8%以上12%以下である必要が有る。この事は、対数分子量Log(M)が4〜5の間、つまり重量平均分子量より低分子量側の分子量1万から10万の成分(以下、低分子量成分とも称する)の分布値が、重量平均分子量より高分子量側のLog(M)=6(分子量100万前後)の成分(以下、高分子量成分とも称する)の分布値に比較してある程度高い構成である事を意味している(図1参照)。低分子量成分の代表値として、Log(M)=4.5における微分分布値を、また、高分子量成分の代表値として、Log(M)=6のときの微分分布値を採用した。
【0047】
つまり、従来の技術のように、分子量分布値のみを示しても、単に分布幅の広さを表しているに過ぎず、その中の高分子量成分、低分子量成分の構成状況までは分からない。そこで、本態様においては、その分布構成を調整し、分子量1万から10万の分子量の分布の構成を、分子量100万の成分に対して、ある一定割合含むことにより、延伸性と微細粗面の形成とを付与しつつ、高い耐熱性、耐電圧性とを高度に維持させた。
【0048】
本態様のフィルムにおいては、低分子量成分の構成を、高分子量成分の構成より多くする必要が有るため、重量平均分子量より低分子量側であるLog(M)=4.5の微分分布値から、高分子量側のLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差は、「正」でなければならず、その量は5%以上を必要とする。しかしこの差が15%を超えると、低分子量成分が多すぎるため、製膜性や機械的耐熱性に難点が生じるため、実用上好ましくない。
【0049】
微分分布値は、GPC法においては、一般に次のようにして得る。GPCの示差屈折(RI)検出計において検出される強度分布の時間曲線(一般には、溶出曲線と呼ぶ)を、分子量既知の物質から得た検量線を用い、分子量(Log(M))に対する分布曲線とする。さて、RI検出強度は、成分濃度と比例関係にあるので、次に、分布曲線の全面積を100%とした場合のLog(M)に対する積分分布曲線を得ることが出来る。微分分布曲線は、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによって得る。したがって、ここで言う微分分布とは、濃度分率の分子量に対する微分分布を意味する。この曲線から、特定のLog(M)のときの微分分布値を読み、本態様に係る関係を得ることが出来る(図2参照)。
【0050】
微分分布値を得るためのGPC装置には、前述同様に特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置を利用することが可能である。本態様の検討においては、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC−8121GPC−HTを用い、前記同様の測定条件にて測定を行った。
【0051】
高いMFR樹脂の混合、即ち、適度な低分子量成分の含有によって、その成分が一種の可塑剤的な役割を演じ、超高分子量成分の配向・移動を容易化させるため、高い耐熱性、耐電圧性を維持したまま、適度な延伸性を付与される。さらに、この低分子量成分が、樹脂混合体の結晶化挙動を大きく変化させるため、表面の粗化性を付与するためのキャスト原反シートにおけるβ晶の形成状態も大きく変わる。つまり、低分子量成分の含有によって、微細なβ球晶が形成されるようになり、よって、二軸延伸フィルムの表面が適度に粗面化していく。
【0052】
従来、粗面化制御の重要な要素であるβ晶の制御は、β晶の全体に占める割合(量)によって、行われるのが普通であった。β晶の量とは、例えば、X線法によるK値などのいわゆるβ晶分率(詳細は後述する)を指す。しなしながら、本発明に係る技術では、β晶量が、例え同じであっても、粗面性を変えることも可能である。それは、β晶の全体の量ではなく、個々の大きさ、換言すると、球晶密度が変わるためである。つまり、低分子量成分を制御しながら樹脂混合技術を用いて適度に含有させることにより、製造条件を大きく変えなくても、キャスト原反シートに含まれるβ晶の大きさ(球晶密度)のコントロールが可能となり、よって、適切な微細粗面を発現させることが出来る。
【0053】
このように、低分子量成分を本発明に係る範囲で適度に調整することによって、従来技術のようにメソペンタッド分率で98%を超えるような非常に高い立体規則性度の樹脂を用いることなく、高い耐熱性、耐電圧性を維持しつつ、さらに、加工に適した延伸性と表面性を付与できるようになった。これは、フィルムを構成する樹脂の分子量、分子量分布、その分布構成、立体規則性が、バランスすることによって、始めて得られる現象である。
【0054】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するためのポリプロピレン樹脂を製造する重合方法としては、一般的に公知の重合方法をなんら制限無く用いることが出来る。一般的に公知の重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法、スラリー重合法が例として挙げられる。
【0055】
また、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合反応であっても良く、また、反応器中に水素あるいはコモノマーを分子量調整剤として添加して行う重合方法であっても良い。ある程度広い分子量分布を得るためには、多段重合反応を用いるのが好ましい。
【0056】
使用される触媒は、特に限定されるものではなく、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒が広く適用される。また、助触媒成分やドナーを含んでも構わない。触媒や重合条件、分子量調整剤などを適宜調整することによって、MFRをコントロールすることが可能となる。
【0057】
樹脂中には、必要に応じて酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の必要な安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲であれば添加しても良い。
【0058】
酸化防止剤の種類は、特に制限無く使用可能であるが、コンデンサー用途としては、Irganox1010、Irganox1330、BHT等のフェノール系酸化防止剤が、一般的であり、添加量としては、10〜8000ppm程度である。本発明のフィルムよりなるコンデンサー素子を高電圧で使用する場合には、特に、酸化防止剤の総量を、例えば1000ppm〜8000ppmと高配合にしておく事が好ましい。塩素吸収剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸が好ましく用いられる。
【0059】
MFRの異なる2種類のポリプロピレン原料樹脂(A)および(B)を混合する方法としては、特に制限はないが、重合粉あるいはペレットを、ブレンドタンブラー、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、主要樹脂(A)と添加樹脂(B)の重合粉あるいはペレットを、混練機に供給し、溶融混練してブレンド樹脂を得る方法などがあるが、いずれでも構わない。
【0060】
ミキサーや混練機にも特に制限は無く、また、混練機も、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプあるいは、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでも良い。さらに、2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプでも構わない。
【0061】
溶融混練によるブレンドの場合は、良好な混練さえ得られれば、混練温度にも特に制限はないが、一般的には、200℃から300℃の範囲であり、230℃から270℃が好ましい。あまり高い混練温度は、樹脂の劣化を招くので好ましくない。樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージしても構わない。
溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズすることによって、混合ポリプロピレン原料樹脂ペレットを得ることが出来る。
【0062】
本発明の混合ポリプロピレン原料樹脂中に含まれる重合触媒残渣等に起因する総灰分は、電気特性を良化するために可能な限り少ないことが好ましく、50ppm以下、好ましくは40ppm以下である。
【0063】
本発明の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得るためのキャスト原反シートを成形する方法としては、公知の各種方法を採用することが出来る。例えば、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット(および/あるいは重合粉)あるいは、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットからなる原料ペレット類を押出機に供給し、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、170℃〜320℃、好ましくは、200℃〜300℃で加熱溶融してTダイから溶融押し出し、70℃〜140℃に保持された少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させ、未延伸のキャスト原反シートを成形する方法を採用できる。
【0064】
このシート成形の際に、金属ドラム群のうち少なくとも1つ目のドラムの温度を、70℃〜140℃、好ましくは80℃〜120℃に保持することにより、得られるキャスト原反シートのβ晶分率は、X線法で1%以上50%以下、好ましくは、5%以上30%未満程度となる。なお、この値は、β晶核剤を含まない時の値である。
【0065】
前述したように、低すぎるβ晶分率は、フィルム表面を平滑化するため、素子巻き等の加工適性には不利となるが、耐電圧特性などコンデンサーの特性が向上する。しかしながら、前述のβ晶分率の範囲になると、コンデンサー特性と素子巻き加工性の両物性を十分に満足させる。
【0066】
前記β晶分率は、X線回折強度測定によって得られ、「A.Turner−Jones et al.,Makromol.Chem.,75巻,134頁 、1964年」に記載されている方法によって算出される値であり、K値と呼ばれている値である。即ち、α晶由来の3本の回折ピークの高さの和とβ晶由来の1本の回折ピークの比によってβ晶の比率を表現したものである。
【0067】
上記キャスト原反シートの厚さには特に制限はないが、通常、0.05mm〜2mm、好ましくは、0.1mm〜1mmであるのが望ましい。
【0068】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、前記ポリプロピレンキャスト原反シートに延伸処理を行って作製することができる。延伸は、縦及び横に2軸に配向せしめる二軸延伸が良く、延伸方法としては、同時二軸延伸、あるいは逐次二軸延伸のどちらでも構わないが、逐次二軸延伸方法が実用的であり好ましい。逐次二軸延伸方法としては、まずキャスト原反シートを100〜160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に3〜7倍に延伸し、直ちに室温に冷却する。この縦延伸工程の温度を適切に調整することにより、β晶は融解しα晶に転移し、凹凸が顕在化する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて160℃以上の温度で幅方向に5〜11倍に延伸した後、緩和、熱固定を施し巻き取る。
【0069】
巻き取られたフィルムは、20〜50℃程度の雰囲気中でエージング処理を施された後、所望の製品幅に断裁することが出来る。
このような延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなり、また、表面の凹凸もより明確化され、微細に粗面化された延伸フィルムとなる。
【0070】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、金属蒸着加工工程などの後工程において、接着特性を高める目的で、延伸・熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行っても構わない。コロナ放電処理としては公知の方法を用いることができるが、雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガス中で処理することが望ましい。
【0071】
本発明のフィルムの表面には、素子巻き適性を向上させつつ、コンデンサー特性を良好とする適度な表面粗さを付与することが好ましい。
本発明の態様は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.17μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とすることにある。
【0072】
RaやRmaxがある程度大きい値であると、巻き取り、巻き戻しなどの加工や、コンデンサー加工の際には、素子巻き加工において、フィルム間に適度な空隙が生じるためフィルムが適度にすべり、巻取りにシワが入りにくく、かつ横ズレも起こしにくくなる。しかし、それらの値が大きすぎると、表面光沢性や透明性などに実用上の問題を生じる他、コンデンサーにおいては、フィルム間の層間空隙が大きくなることによる重量厚み低下が起こり、耐電圧性の低下を招くため、好ましくない。逆に、突起体積が低くある程度平滑であると、耐電圧性の面では有利となるが、低い値になりすぎると、フィルムが滑りにくく、巻き加工の際にシワが発生しやすくなり、生産性が低下するため好ましくなく、コンデンサーの耐電圧性の悪化をも招くので実用上不適と言える。
【0073】
RaおよびRmaxの測定は、例えばJIS−B0601等に定められている方法によって、一般的に広く使用されている触針式あるいは非接触式表面粗さ計などを用いて測定される。装置のメーカーや型式には何ら制限は無い。本発明における検討では、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601に定められている方法に準拠してRaおよびRmaxを求めた。接触法(ダイヤモンド針等による触針式)、非接触法(レーザー光等による非接触検出)のどちらでも測定可能であるが、本発明における検討では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足参照して行った。
【0074】
フィルム表面に微細な凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法など、公知の各種粗面化方法を採用することが出来るが、その中でも、不純物の混入などの必要がない、β晶を用いた粗面化法が好ましい。β晶の生成割合は、一般的には、キャスト温度やキャストスピードによってもβ晶の割合はコントロールされ得る。また、縦延伸工程のロール温度ではβ晶の融解/転移割合を制御することができ、これらβ晶生成とその融解/転移の二つのパラメーターについて最適な製造条件を選択することで、微細な粗表面性を得ることが出来る。
【0075】
本発明においては、本発明に係る範囲の高MFR樹脂との適切な量の混合体を用いることによって、低分子量成分による結晶化挙動変化によって、特徴的な微結晶の形成状態を発現するため、微細な表面の凹凸を得るためのβ晶生成にも有用な効果を得ることが出来る。つまり、β晶生成の割合を調整するための製造条件を従来条件から大きく変更しなくても、小さな球晶サイズかつ、あまり多すぎない球晶密度を制御でき、よって、本発明に係る前記表面粗さを実現することができ、他の性能を損なうことなく、効果的に巻き加工適性を付与することが可能となる。
【0076】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、1μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上7μm以下である。この延伸フィルムは、表面が微細に粗面化されているため、巻き取り、巻き戻しなどの加工性、コンデンサー素子においては、素子巻き加工性に優れており、耐電圧特性も高く、非常に薄いフィルムであるため高い電気容量も発現し易く、工業用極薄延伸フィルム、特に、コンデンサー用の延伸フィルムとして極めて好適である。
【0077】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムをコンデンサーとして加工する際の電極は、特に限定されるものではなく、例えば、金属箔や、少なくとも片面を金属化した紙やプラスチックフィルムであるのが良いが、小型・軽量化が一層要求されるコンデンサー用途においては、本発明のフィルムの片面もしくは両面を直接金属化した電極が好ましい。金属化するのに用いられる金属は、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの単体、複数種の混合物、合金などが制限無く用いられるが、環境や、経済性、コンデンサー性能などを考慮すると亜鉛やアルミニウムが好ましい。
【0078】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムを直接金属化する方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法を挙げることが出来、これらに限定されるものではないが、生産性や経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法としては、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを挙げることができるが、特に限定されるものではなく、適宜最適なものを選択すればよい。
【0079】
蒸着により金属化する際のマージンパターンも特に限定されるものではないが、コンデンサーの保安性等の特性を向上させる点からフィッシュネットパターンないしはTマージンパターン等といった、いわゆる特殊マージンを含むパターンを本発明のフィルムの片方の面上に施した場合は、保安性が高まり、コンデンサーの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的であり好ましい。
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限無く使用することが出来る。
【0080】
前記金属化フィルムを巻回して作製されるコンデンサーの構造は、乾式であっても液体に含浸する方式であっても良い。また、コンデンサーを作製する方法にも、何ら制限が無く、一般に入手可能な自動巻取り装置が使用可能である。巻き上げられたコンデンサー素子は、丸型であっても扁平型であっても構わない。また、巻き上げられた素子は、素子に熱安定性を付与する目的で、熱処理を施すのが良い。
【0081】
本発明のフィルムは、小型かつ高容量のコンデンサーに好適である。前記コンデンサーの電気容量は、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上の素子で構成されるコンデンサーに好ましく用いることが出来る。
【実施例】
【0082】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、もちろん、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。また、特に断らない限り、例中の部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0083】
〔特性値の測定方法ならびに効果の評価方法〕
実施例における特性値の測定方法及び効果の評価方法はつぎの通りである。
【0084】
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)および微分分布値の測定
樹脂ペレットの分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)および微分分布曲線の評価は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で測定を行った。
測定機:東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC、
HLC−8121GPC−HT型
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結
カラム温度:140℃、
溶離液:トリクロロベンゼン
流速:1.0ml/min
検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0085】
微分分布値は、次のような方法で得た。まず、RI検出計において検出される強度分布の時間曲線(溶出曲線)を、検量線を用いて分子量(Log(M))に対する分布曲線とした。次に、分布曲線の全面積を100%とした場合のLog(M)に対する積分分布曲線を得た後、この積分分布曲線をLog(M)で、微分することによってLog(M)に対する微分分布曲線を得ることが出来る。この微分分布曲線から、Log(M)=4.5およびLog(M)=6のときの微分分布値を読んだ。なお、微分分布曲線を得るまでの一連の操作は、通常、GPC測定装置に内蔵の解析ソフトウェアを用いて行うことが出来る。
【0086】
メソペンタッド分率([mmmm])測定
樹脂ペレットを溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)を用いて、以下の条件で、メソペンタッド分率([mmmm])を求めた。
測定機:日本電子株式会社製、高温FT−NMR JNM−ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト−ジクロロベンゼン(ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(4/1))
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4500回
シフト基準:CH(mmmm)=21.7ppm
5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。各シグナルの帰属は、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁、1988年」を参照して行った。
【0087】
延伸フィルムの厚さの評価
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、マイクロメーター(JIS−B7502)を用いて、JIS−C2330に準拠して測定した。
【0088】
(4)表面粗さの測定
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの中心線平均粗さ(Ra)、および、最大高さ(Rmax)の測定は、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601に定められている方法に準拠して求めた。測定回数は3回行い、その平均値を評価に用いた。本評価では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足、確認した。
【0089】
(5)コンデンサー素子の作製
フィルムに、フィッシュネット蒸着パターン(1mmマージン)と全蒸着(ベタ)パターン(1mmマージン)を蒸着抵抗6Ω/□にてアルミニウム蒸着を施した。小幅にスリットした後、両蒸着パターンを相合わせて、株式会社皆藤製作所製、自動巻取機 3KAW−4L(B)を用い、巻き取り張力400gにて、956ターン巻回を行った。素子巻きした素子は、120℃にて2時間熱処理を施した後、素子端面に亜鉛金属を溶射し、コンデンサーとした。出来上がったコンデンサーの電気容量は、20μF(±1μF)であった。
また、素子巻きの際の加工適性を、目視で定性的に評価した。まったくシワなどが入らず実用上問題ないものを「○」、シワが入るなど巻き加工画不適のものを「×」と評価した。
【0090】
(6)コンデンサー素子の高温耐電圧性試験
得られたコンデンサー素子の高温耐電圧試験を以下の手順で行った。
まず、予め素子を試験温度(105℃)にて1時間予熱した後、試験前の初期の電気容量を安藤電気株式会社製LCRテスターAG4311にて評価した。次に、105℃の高温槽中にて、高圧電源を用い、コンデンサー素子に直流1.3KVの電圧を1分間負荷した。電圧負荷を終えた後の素子の容量をLCRテスターで測定し、電圧負荷前後の容量変化率を算出した。ついで、素子を再度高温槽内に戻し、2回目の電圧負荷を行い、2回目の容量変化(累積)を求め、これを4回繰り返した。4回目の容量変化率を評価に用いた。
4回目の電気容量変化率が、−20%以下が実用上好ましいといえる。
【0091】
(7)コンデンサー用フィルムとしての総合評価
電気容量向上に必要な10μ未満のフィルムの成否、素子巻き加工に必要な表面の微細粗化が可能か否か、かつ、高温での耐電圧特性等、コンデンサー用フィルムとしての好適性を総合的に評価した。従来技術に基づくフィルムより向上したものを「○」、コンデンサーフィルムとして適さないものを「×」とした。
【0092】
〔ポリプロピレン樹脂〕
プライムポリマー社、およびボレアリス社より、表1に示す樹脂No.1〜No.6の6種の樹脂を入手した。
表1に、これら樹脂の分子特性を記した。また、混合樹脂について、その内容を表1にまとめた。
【0093】
〔実施例1〕
主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、MFRが3g/10minの樹脂No.1ペレットに、添加樹脂(B)であるプライムポリマー社製のMFRが10g/10minの樹脂No.2を、添加率10質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(1))を、押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を90℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約250μmのキャスト原反シートを作製した。引き続きこの未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムは、中心線平均粗さ(Ra)が0.12μmであり、最大高さ(Rmax)が0.95μmであって、微細に粗面化されていた。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0094】
〔実施例2〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、添加樹脂(B)である樹脂No.2の添加率を20質量%にて混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(2))に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムは、中心線平均粗さ(Ra)が0.14μmであり、、最大高さ(Rmax)が1.38μmと、微細に粗面化されていた。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0095】
〔比較例1〕
押出機に供給する原料樹脂ペレットを、混合樹脂ペレットに代えて、主要樹脂(A)であるプライムポリマー社製MFRが3g/10minの樹脂No.1ペレットのみとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムの中心線平均粗さ(Ra)が0.08μmであり、、最大高さ(Rmax)が0.75μmと、充分な粗化面を有していなかった。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0096】
〔比較例2〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、添加樹脂(B)である樹脂No.2の添加率を40質量%にて混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(3))に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製膜を試みた。しかしながら、安定的に延伸することが出来ず、フィルムを得られなかった。
結果を表1にまとめる。
【0097】
〔実施例3〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、主要樹脂(A)である、ボレアリス社製、MFRが4g/10minの樹脂No.3ペレットに、添加樹脂(B)であるボレアリス社製のMFRが9g/10minの樹脂No.4を、添加率10質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(4))を、押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を90℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約150μmのキャスト原反シートを作製した。引き続きこの未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ3μmの非常に薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムは、中心線平均粗さ(Ra)が0.13μmであり、最大高さ(Rmax)が0.97μmと、微細に粗面化されていた。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0098】
〔実施例4〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、低い立体規則性を有したMFRが3g/10minの樹脂No.5ペレットに、添加樹脂(B)であるボレアリス社製のMFRが15g/10minの樹脂No.6ペレットを、添加率20質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(5))に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムは、中心線平均粗さ(Ra)が0.13μmであり、最大高さ(Rmax)が0.95μmと、微細に粗面化されていた。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0099】
〔比較例3〕
押出機に供給する原料樹脂ペレットを、混合樹脂ペレットに代えて、主要樹脂(A)であるプライムポリマー社製MFRが3g/10minの低立体規則性樹脂No.5ペレットのみとした以外は、実施例4と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムの中心線平均粗さ(Ra)が0.18μmであり、、最大高さ(Rmax)が1.87μmと、非常に粗い粗化面を有していた。
【0100】
〔実施例5〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、MFRが3g/10minの樹脂No.1ペレットに、添加樹脂(B)であるボレアリス社製のMFRが4g/10minの樹脂No.3ペレットを、添加率20質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット(混合(6))に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
得られた二軸延伸フィルムは、中心線平均粗さ(Ra)が0.09μmであり、最大高さ(Rmax)が0.92μmと、微細に粗面化されていた。
フィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0101】
【表1】























【0102】
実施例1〜5で明らかな通り、本発明に係る範囲の主要ポリプロピレン樹脂(A)に、それよりもMFRが特定の範囲で大きい添加ポリプロピレン樹脂(B)を、本発明の添加率の範囲内で添加して得た混合樹脂から作製された低分子量成分の構成が大きい分子量分布を有したポリプロピレンフィルムは、樹脂を混合しない場合(比較例1および3)に比して、適度な微細粗面を有しており、巻き加工が容易となっており、さらに、コンデンサー素子の耐電圧性も向上しており、よって、コンデンサーフィルムとして優れたものであった。
【0103】
また、本発明の技術によって、粗面性と耐電圧性を維持したまま、非常に薄いフィルムも得ることが出来た(実施例3)
【0104】
主要樹脂(A)の立体規則性が、従来技術の常識から考えて比較的低い樹脂を用いても、本発明に係る範囲の主要樹脂(A)としての要件を満たしていれば、本発明の技術によって、素子巻き加工において好ましく、実用に十分な耐電圧性向上効果を上げることができた。(実施例4)
【0105】
添加樹脂(B)を、本発明の係る範囲を超えて添加すると、フィルムの成形状態が不安定となり、延伸中の破断が多発し、薄い延伸フィルムを安定的に作製することが出来なかった(比較例2)。
【産業上の利用可能性】
【0106】
薄いフィルムを必要とする加工性が良好な工業用フィルムとして好適であり、特に、厚みが1〜10μm程度の非常に薄いフィルム厚であり、かつ、高い素子加工適性を持ったコンデンサー用耐電圧化フィルムとして優れた効果を有するので、小型かつ大容量型のコンデンサーに好ましく利用可能である。
【符号の説明】
【0107】
低分子量領域(Log(M)=4.5)の構成割合が多い樹脂
低分子量領域(Log(M)=4.5)の構成割合が少ない樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
230℃におけるメルトフローインデックス(MFR)が、1〜5g/10分であるアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(A)に、MFRが、当該樹脂(A)より1〜30g/10分大きいアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上30質量%以下の範囲で添加してなる樹脂混合体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.17μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記記載の主要ポリプロピレン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下である分子特性を有することを特徴とする前記請求項1項記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記請求項1または2記載の主要ポリプロピレン樹脂(A)の高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が、94%以上98%以下である分子特性を有することを特徴とする前記請求項1〜2記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)=4.5のときの微分分布値からLog(M)=6のときの微分分布値を引いた差が5%以上15%以下である分子特性を有することを特徴とする前記請求項1〜3記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
厚さが1μm以上10μm未満であることを特徴とする前記請求項1〜4記載のコンデンサー用の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
230℃におけるMFRが、1〜5g/10分であるアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(A)に、MFRが、当該樹脂(A)より1〜30g/10分大きいアイソタクチックポリプロピレンの単独重合体(B)を、1質量%以上30質量%以下の範囲で添加してなる樹脂混合体から得られるキャスト原反シートを二軸延伸することを特徴とする請求項1記載の粗面化二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−254794(P2010−254794A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106125(P2009−106125)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】