説明

心不全処置のための複合治療

【課題】心不全治療のための複合製剤を提供する。
【解決手段】レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとの組み合わせを患者に投与することからなる、心不全処置のための複合治療。レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩を、β−アドレナリン受容体アンタゴニストと組み合わせて含有する、心不全患者の死亡率低下剤。該組み合わせは、心不全患者の死亡率を相乗作用的に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとの相乗作用のある組み合わせを、心不全の処置を必要する患者に投与することによる心不全処置のための方法に関する。また、本発明は、複合製剤(combined preparation)として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとを含有する医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
レボシメンダンは、[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの(−)−エナンチオマーであり、その製剤方法は、欧州特許565546号明細書に記載されている。レボシメンダンは、心不全の治療に効能があり、トロポニンに対する重要なカルシウム依存性結合を有している。レボシメンダンを化学式により示す。
【0003】
【化1】

【0004】
ヒトにおけるレボシメンダンの血流力学的効果については、sundberg, S. et al., Am. J. Cardiol., 1995; 75: 1061-1066およびLilleberg, J. et al., J. Cardiovasc. pharmacol., 26(Suppl. 1), S63-S69, 1995に記載されている。i.v.および経口投与後のヒトにおけるレボシメンダンの薬物動態については、Sandell, E. P. et al., J. Cardiovasc. Pharmacol., 26(Suppl.1), S57-S62, 1995に記載されている。心筋虚血の治療におけるレボシメンダンの使用については、国際公開第93/21921号パンフレットに記載されている。肺高血圧症の治療におけるレボシメンダンの使用については、国際公開第99/66912号パンフレットに記載されている。臨床研究において、うっ血性心不全患者におけるレボシメンダンの有益な効果を確認されている。
【0005】
特許公報国際公開第98/58638号明細書には、β−アドレナリン受容体アンタゴニストとともにエノキシモン(enoximone)やベスナリノンのような筋収縮性のホスホエステラーゼ(phosphoesterase)阻害剤を投与することによる、心不全の治療方法が記載されている。
【発明の概要】
【0006】
今日、β−アドレナリン受容体アンタゴニストとともにするレボシメンダンの投与は、うっ血性心不全患者の血流学的な機能においてだけでなく、死亡率においても有益な相乗効果を有することが見出された。したがって、この組み合わせは、急性および慢性の心不全を含む心不全の治療に対して、特に有用である。
【0007】
したがって、第1の局面において、本発明は、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩を、β−アドレナリン受容体アンタゴニストと組み合わせて、心不全の治療を必要する患者に投与することからなる、心不全の治療方法を提供する。
【0008】
他の局面において、本発明は、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩を、β−アドレナリン受容体アンタゴニストと組み合わせて、心不全の治療を必要する患者に投与することからなる、心不全患者の死亡率を低下させる方法を提供する。
【0009】
他の局面において、本発明は、活性成分として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとを、個別にまたはともに含有する複合製剤としての医薬品を提供する。
【0010】
他の局面において、本発明は、活性成分として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとを含有する医薬組成物を提供する。
【0011】
他の局面において、本発明は、同時に、個別に、または連続的に投与するための複合製剤の製造において、活性成分として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとの使用を提供する。
【0012】
さらに他の局面において、本発明は、心不全患者の死亡率を低下するための薬剤の製造において、活性成分として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとの使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、活性成分として、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとを、心不全の治療を必要する患者に投与することによる心不全処置、とくに心不全患者の死亡率を低下させる処置のための複合治療(combination therapy)に関する。
【0014】
前記活性成分は、同時に、個別に、または連続的に投与され得る。とくに、該方法は、活性成分またはその組み合わせの、患者の死亡率が低下させるのに有効な量を患者に投与することを含む。好ましくは、その組み合わせの相乗作用的に効果的な量を患者に投与することを含む。この活性成分の投与経路は限定されないが、口または直腸などの経腸投与、静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮内などの非経口投与を含む。急性心不全の処置において、活性成分は、非経口的に投与されることが好ましく、静脈経路がとくに好ましい。慢性心不全の処置においては、経口投与がとくに好ましい。
【0015】
レボシメンダンは、たとえば静脈内に、約0.01〜10μg/kg/分、好ましくは約0.02〜5μg/kg/分、一般に約0.05〜0.4μg/kg/分の注入速度を用いて投与され得る。静脈内ボーラスにおいて、適当な投与量は、約1〜200μg/kg、好ましくは約2〜100μg/kg、一般に約5〜30μg/kgの範囲である。急性心不全の処置においては、静脈内ボーラスののち連続的な注入が必要とされ得る。
【0016】
レボシメンダンは、経口的に、約0.1〜20mg、好ましくは0.2〜15mg、より好ましくは0.5〜10mgの範囲の1日の投与量で、患者の年齢、体重および症状に応じて、一日一回または何回かに分けて、ヒトに投与される。患者に投与されるレボシメンダンの有効量は、患者の処置されるべき症状、投与経路、年齢、体重、および症状に依存する。
【0017】
現在、β−ブロッカーとも言われる様々なβ−アドレナリン受容体アンタゴニストが、心臓の衰弱によって引き起こされる重大な慢性心筋刺激を排除するために臨床で使用されている。好ましいβ−アドレナリン受容体アンタゴニストは、メトプロロール、カルベジロール、アテノロール、プロプラノロール、アセブトロール、ベタキソロール、ナドロール、タリノロール、またはそれらの薬学的に許容し得る塩を包含する。
【0018】
本発明で使用されるとくに好ましいβ−アドレナリン受容体アンタゴニストは、メトプロロール、カルベジロールまたはそれらの薬学的に許容し得る塩である。
【0019】
本発明によると、β−アドレナリン受容体アンタゴニストは、そのような薬剤に対して臨床的に許容された1日の投与量で投与され得る。たとえば、酒石酸塩またはコハク酸塩としてのメトプロロールの1日の投与量は、患者の処置されるべき症状、投与経路、年齢、体重、および症状に応じて約100〜200mgであり、カルベジロールにおいては約5〜50mgである。
【0020】
この組み合わせは、1つまたはそれ以上の他の活性成分で補充され得る。
【0021】
前記活性成分またはその組み合わせは、定期的に、たとえば週1回、週2回(biweekly)、毎日、または1日に複数回など、患者の必要性に応じて投与され得る。
【0022】
前記活性成分は、当技術分野に周知の原理(principles)を使用して、本発明にしたがい、処置に適当な薬学的な投与形態に処方できる。それらは、それそのもの、また好ましくは、適当な製薬賦形剤と組み合わせて、その処方(formulation)中の活性化合物の含有量が、約0.5〜100重量%となるように錠剤、糖衣錠、カプセル、座薬、乳剤、懸濁液または溶液の形態で患者に与えられる。その組成物に適当な成分の選択は、当業者にルーチンに行なわれる。適当な担体、溶剤、ゲル形成成分、ディスパージョン形成成分、抗酸化剤、着色剤(colors)、甘味料、湿潤化合物、放出制御(release controlling)成分、およびこの技術分野で通常使用されるその他の成分もまた使用され得ることは、明らかである。
【0023】
前記活性成分は、同じ製薬処方で処方されてもよい。または、活性成分は個別の製薬投与形態として処方される。本発明の方法で使用するために、2つの製薬投与形態の組み合わせは、単一の医薬品として、またはキットとしてまとめることができる。
【0024】
注射または注入処方などの静脈投与に適当な処方は、活性成分とビヒクルとの滅菌等張液、好ましくは水溶液を含む。通常、レボシメンダンの静脈内注入溶液は、約0.01〜0.1mg/mlのレボシメンダンを含有する。メトプロロールの静脈注射用溶液は、通常、約1mg/mlのメトプロロールを含有する。該製薬処方は、使用前に水性ビヒクルで希釈される静脈内注入濃縮物の形態でもあり得る。このような濃縮物は、ビヒクルとして、脱水エタノールなどの薬学的に許容し得る有機溶剤を含有してもよい。
【0025】
錠剤形態での活性成分の経口投与において、適当な担体および賦形剤は、たとえば、ラクトース、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウムおよびタルクを含んでいる。カプセル形態での経口投与において、有用な担体および賦形剤は、たとえば、ラクトース、コーンスターチ、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを含んでいる。制御された放出経口組成物において、放出制御成分を使用できる。一般的な放出制御成分は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸またはそれらの混合物などの親水性ゲル形成ポリマー;硬化大豆油、硬化ひまし油またはひまし種子のオイル(商品名Cutina HRで市販されている)、綿実油(商品名SterotexまたはLubritabで市販されている)またはそれらの混合物などの植物性固形オイルを含む植物油脂;飽和脂肪酸のトリグリセリドまたはそれらの混合物、たとえば、トリステアリン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリル(商品名Compritolで市販されている)およびグリセリルパルミトステアリン酸エステルなどの脂肪酸エステルを含んでいる。
【0026】
錠剤は、担体および賦形剤とともに活性成分を混合し、粉状の混合物を圧縮することによって製造できる。カプセルは、担体および賦形剤とともに活性成分を混合し、粉状の混合物を、カプセル(たとえば硬質ゼラチンカプセル)に入れることにより製造できる。一般的な錠剤またはカプセルは、約0.1〜10mg、より一般的には0.2〜5mgのレボシメンダンまたは/および約20〜200mgのメトプロロールを含有する。
【0027】
β−アドレナリン受容体アンタゴニストは、レボシメンダン処方に含まれてもよいし、前記のように当技術分野に周知の原理を使用して、個別に処方されてもよい。
【0028】
レボシメンダンの塩は、公知の方法により製造され得る。薬学的に許容し得る塩は活性な薬物として有用であるが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が好ましい。
【実施例】
【0029】
製薬例
実施例1.静脈内注入用濃縮液
(a)レボシメンダン 2.5mg/ml
(b)Kollidon PF12 10mg/ml
(c)クエン酸 2mg/ml
(d)脱水エタノール ad 1ml(785mg)
濃縮液は、滅菌された調整容器内で、撹拌しながら、クエン酸、Kollidon PF121およびレボシメンダンを脱水エタノールに溶解することにより調製した。得られたバルク溶液(bulk solution)を、滅菌フィルター(0.22μm)により濾過した。ついで、滅菌濾過されたバルク溶液を、無菌的に(5mlおよび10mlの注入容量で)8mlおよび10ml注入瓶に充填し、ゴム閉塞栓で密封した。
【0030】
静脈内注入用濃縮液は、使用前に水性ビヒクルで希釈する。一般に、濃縮液は、レボシメンダンの量が、通常約0.001〜1.0mg/ml、好ましくは約0.01〜0.1mg/mlの範囲内である水性の静脈内注射用溶液を得られるよう、5%グルコース溶液または0.9%NaCl溶液などの水性等張ビヒクルで希釈される。
【0031】
実施例2
硬質ゼラチンカプセル サイズ3
レボシメンダン 2.0mg
ラクトース 198mg
カプセル形態における製薬調製物は、ラクトースとともにレボシメンダンを混合し、粉状の混合物を硬質ゼラチンカプセルに入れることによって、製造される。
【0032】
実施例3
硬質ゼラチンカプセル サイズ3
メトプロロール酒石酸塩 100.0mg
ラクトース 198mg
【0033】
実験例
心不全患者の死亡率における組み合わせの効果
6、12または24μg/kgのボーラス、続いて0.1、0.2または0.4μg/kg/分の注入を用いるレボシメンダンの6時間の注入を、β−ブロッカーをともに使用して、または使用せずに、心不全患者に与えた。72時間、14日および180日の死亡率を測定した。結果を表1に示す。該組み合わせが、心不全患者の死亡率を相乗作用的に減少させることが分かる。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全患者の死亡率を低下させるための薬剤の製造における、活性成分としての、レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩とβ−アドレナリン受容体アンタゴニストとの使用。
【請求項2】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩と、β−アドレナリン受容体アンタゴニストとを複合製剤として含有する、心不全の治療のための医薬品。
【請求項3】
レボシメンダンまたはその薬学的に許容し得る塩を、β−アドレナリン受容体アンタゴニストと組み合わせて含有する、心不全患者の死亡率低下剤。

【公開番号】特開2010−65060(P2010−65060A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288100(P2009−288100)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2003−513569(P2003−513569)の分割
【原出願日】平成14年7月4日(2002.7.4)
【出願人】(300046083)オリオン コーポレーション (31)
【Fターム(参考)】