説明

心不全治療剤

【課題】 心不全治療剤の提供。
【解決手段】 (±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレート(シルニジピン)はmBP、HR及び血中のNEを低下するため、心不全殊に慢性心不全の治療に用いることができる。また、シルニジピンは心不全患者に投与すると、LVEF、FS及びLVDdの測定結果から心臓のポンプ機能を改善することが確認された。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、構造式
【化2】


で表される(±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレート(以下、シルニジピンという)を有効成分として含有する心不全治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】心不全とは、心臓のポンプ機能が総合的に低下する疾患である。従来、心不全の治療には心臓の筋肉の働きを高める薬剤としてジキタリス薬、カテコラミン類等の強心薬が用いられていた。強心薬は、短期的には自覚症状の改善を示すものの、長期的に投与すると心筋への副作用が生ずることが報告されている。そこで、長期間投与を必要とする心不全患者、殊に慢性心不全患者には、ACE阻害剤、β遮断薬、利尿剤、カルシウム拮抗剤(以下Ca拮抗剤という)等を投与して、循環動態を改善し心臓への負担軽減によって心不全を治療しようとする試みが広く行われるようになった(今日の治療薬(1997年版)427〜436頁,南江堂)。
【0003】一方、心不全患者では心臓のポンプ機能の低下に伴い、心臓運動機能や心機能を向上させようとする生体防御機構の働きによって、血中ノルエピネフィリン(NE)が亢進していることが知られている。この血中NEの上昇は、心筋障害を引き起こす原因となるため、NEの放出を制御して心機能を改善しようとする試みがなされている。Ca拮抗剤の「アムロジピン」は、持続的な血圧降下作用による循環動態の改善作用とN型Caチャンネル拮抗作用によるNEの放出抑制作用とを有することが知られ、心不全の治療に用いられている(Br.J.Pharmacol.;121,1136〜1140(1997))。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、アムロジピンは、循環動態の改善効果を示す用量ではNE放出抑制作用が弱いため、心不全の治療には更にNE低下作用の強い薬剤が求められていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、鋭意研究を行った結果、本発明のシルニジピンを心不全患者に投与すると血中のNEが低下し、更に心臓のポンプ機能の改善作用を示すため、心不全の治療に用いられることを見出し本発明を完成した。
【0006】本発明のシルニジピンは、N型Caチャンネル拮抗作用を有し、投与によって不全患者で亢進している血中のNEを優位に低下する。このNEの低下作用は、NE亢進による心筋障害を抑制し、心不全、殊に慢性心不全の治療に有用である。
【0007】 0本発明で用いるシルニジピンは、前記構造式(±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートであり、例えば特公平3−14307号に記載の方法により製造することができる。このシルニジピンはラセミ体であり光学異性体が存在し、そのいずれの光学活性体を用いることもできる。この光学活性体は、例えば特公平6−43397号に記載の方法により製造することができる。
【0008】本発明のシルニジピンの投与量は、1日当たり有効成分1mg〜200mg、好ましくは3〜50mgの用量の範囲で1回又は数回の分けて投与することができる。その投与量は、患者の体重、症状及び当業者が認める他の因子によって変化させることができる。
【0009】本発明のシルニジピンの投与形態は任意であるが、有効成分に加えて、医薬上許容し得るベヒクル、担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に一般的に認められた製薬実施に要求される単位用量で形態で混和することができる。これらの組成物又は製剤中の有効成分の量は、指示された範囲の適当な用量が得られるように適宜決められる。
【0010】本発明のシルニジピンの投与経路は、特に限定されないが、好ましくは経口投与又は吸入投与される。また、皮下、筋肉、又は静脈内投与することも可能である。また、シルニジピンは心不全の治療に悪影響を与えない他の薬剤と併用して投与することもできる。
【0011】本発明のシルニジピンの治療剤の形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、吸入液、注射液等が挙げられる。
【0012】
【実施例】以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0013】実施例1心不全の病態は、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類により重症度が分類されている。その分類は、無症候性(NYHAクラス1)、軽症心不全(NYHAクラス2)、中等症心不全(NYHAクラス3)、重症心不全(NYHAクラス4)である。本発明では、NYHAクラス1から2の慢性心不全患者16症例を対象にした。慢性心不全患者16症例内訳は、突発性拡張型心筋症6症例、陳旧性心筋梗塞6症例及び慢性心筋炎4症例(平均年齢67±8歳)である。
【0014】アムロジピンを2.5〜5mg/日投与していた前記患者にアムロジピンに代えてシルニジピン5〜10mg/日を変更投与し、8週後の平均血圧(mBP)及び平均心拍数(HR)を測定した。また、同時に患者血中のNE、心房性Na利尿ペプチド(ANP)及び脳性Na利尿ペプチド(BNP)を測定した。シルニジピンの投与前と投与開始8週後の測定結果を表1に示す。
【0015】
【表1】


【0016】慢性心不全患者にシルニジピンを投与すると、投与8週後には血中のNEが低下し、更にANP及びBNPも低下する傾向を示した。
【0017】実施例2慢性心不全患者に対し、ジルチアゼム(90mg又は200mg/1日)、ニフェジピン(20又は40mg/1日)又はアムロジピン(2.5又は5mg/1日)のCa拮抗剤投与からシルニジピン(10又は20mg/1日)に変更投与し、4週間継続投与後にmBP、HR、血中NE、ANP、BNP、左心室駆出率(LVEF)、左心室内径短縮率(FS)及び左心室拡張末期径(LVDd)を測定した。慢性心不全患者9症例内訳は、拡張型心筋症6症例及び陳旧性心筋梗塞3症例(平均年齢65.1±11歳)である。シルニジピンの投与前と投与開始4週後の測定結果を表2に示す。
【0018】
【表2】


【0019】Ca拮抗剤を投与中の慢性心不全患者において、前記のCa拮抗剤(ジルチアゼム、ニフェジピン又はアムロジピン)からシルニジピンに変更投与すると、投与4週後には血中のNEが低下し、更にANP及びBNPも優位に低下した。また、心臓のポンプ機能改善の指標となるLVEFは増加し、心室の拡張不全の指標となるLVDdも改善することが確認された。
【0020】
【発明の効果】シルニジピンは心不全の患者におけるmBP、HR及びNEを低下させ、殊にNEはp=0.003と優位に低下させた。シルニジピンは心不全患者におけるNEの低下作用を有し、LVEF、FS及びLVDdの測定結果から心臓のポンプ機能改善作用を有するため、心不全、殊にNYHAクラス1〜2の慢性心不全患者の治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構造式
【化1】


で表される(±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートを有効成分として含有する心不全治療剤。
【請求項2】 心不全が慢性心不全である請求項1記載の治療剤。

【公開番号】特開2000−309535(P2000−309535A)
【公開日】平成12年11月7日(2000.11.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−372050
【出願日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(500307269)ユーシービージャパン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】