説明

心事象を検出する方法および装置

【課題】心事象を検出する際に、解析に用いられるものと同じ心周期からの心尖像を用いてAVCを直接決定する方法および装置を提供する。
【解決手段】心事象を検出する方法(200〜216)および装置(100)である。心周期を含む超音波データがプローブによって取得される。超音波データに関連する組織速度が検出される(250、454、604、612)。組織速度に基づいて最大値と最小値のうちの1つが検出される(208、460、610、616)。最大値または最小値に関連する心周期内での時間が決定され(460、608、616)、心事象が心周期内での時間および最大値または最小値に関して検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、心事象(カーディアック・イベント)を検出することに関し、さらに具体的には、大動脈弁の閉鎖を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
心周期の特定の部分での事象を評価するためには、各時相の間の移行についての情報が重要である。大動脈弁閉鎖(AVC)は左室の時間サイクルにおける重要な事象であり、駆出の末期から心拡張期の開始までの移行を区分する。AVCのタイミングを決定する幾つかの方法が存在する。心エコー法は、大動脈弁の傍胸骨Mモード、および大動脈弁を通る血流のパルスドプラ/連続ドプラを含んでいる。他の方法としては、第二心音による心音図法および心拍数に基づく経験的な回帰式がある。
【特許文献1】米国特許第6592522号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
心尖位置からの心エコー記録は、解析に用いられる組織ドプラ情報の殆どを与えるが、AVCのタイミングを決定する心エコー法は通常、他の像または記録モダリティを用い、従って別個の心周期のタイミングを与える。心拍数はサイクル間で異なり、この心拍数のばらつきによって心収縮期と心拡張期との間の関係が変化するため、心周期に対するAVCのタイミングが変化する。
【0004】
従って、解析に用いられるものと同じ心周期からの心尖像を用いてAVCを直接決定する方法および装置が必要とされている。本発明の幾つかの実施形態は、これらの要求、ならびに以下の記載および図面から明らかになる他の課題を満たしている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
心事象を検出する方法は、心周期を含む超音波データを取得するステップを含んでいる。組織速度が超音波データに関連して検出される。組織速度に基づく値が検出される。値は最大値と最小値のうちの1つである。値に関連する時間が心周期内で識別される。心事象がこの値および時間に関して検出される。
【0006】
心事象を検出する装置は、超音波データを送受する超音波プローブを含んでいる。ECG装置が、超音波データに関連してECGデータを取得する。信号プロセッサが、超音波データを処理して、超音波データに関連して組織速度に基づいて最大値と最小値のうちの1つを検出する。信号プロセッサは、最大値と最小値のうちの1つに関連する時間を識別して、この時間および値に関して心事象を検出する。
【0007】
心事象を検出する方法は、心周期を含む超音波データを取得するステップを含んでいる。第一の最大値または最小値が、超音波データに関連して組織速度に基づいて検出される。心周期の一部を含む検索区間が第一の最大値または最小値に基づいて位置決定される。第二の最大値または最小値が、検索区間内で組織速度に基づいて検出される。第二の最大値または最小値を用いて心事象を検出する。
【0008】
以上の概要、および本発明の幾つかの実施形態についての以下の詳細な説明は、添付図面と併せて読むとさらに十分に理解されよう。尚、本発明は添付図面に示す構成および手段に限定されないことを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態に従って形成される超音波システム100のブロック図を示す。超音波システム100は送信器102を含んでおり、送信器102はプローブ106内部のトランスデューサ104を駆動してパルス型超音波信号を体内に向かって放出する。多様な幾何学的構成を用いてよい。超音波信号は、血液細胞や筋肉組織のような体内の構造から後方散乱してエコーを発生し、エコーはトランスデューサ104に帰投する。エコーは受信器108によって受信される。受信されたエコーはビームフォーマ110を通過し、ビームフォーマ110はビーム形成を実行してRF信号を出力する。次いで、RF信号はRFプロセッサ112を通過する。代替的には、RFプロセッサ112は、RF信号を復調してエコー信号を表わすIQデータ対を生成する複素復調器(図示されていない)を含んでいてもよい。次いで、RF信号データまたはIQ信号データはRF/IQバッファ114に直接送られて一時的に記憶される。利用者入力120を用いて患者データ、走査パラメータ、走査モードの変更等を入力することができる。
【0010】
超音波システム100はまた、取得された超音波情報(すなわちRF信号データまたはIQデータ対)を処理して表示システム118に表示するための超音波情報のフレームを準備する信号プロセッサ116を含んでいる。信号プロセッサ116は、取得された超音波情報に対して複数の選択可能な超音波モダリティに従って1または複数の処理演算を実行するように構成されている。取得された超音波情報は、走査セッション中にエコー信号が受信されると同時に実時間で処理されてもよい。加えてまたは代替的には、走査セッション中に超音波情報をRF/IQバッファ114に一時的に記憶して、ライブ動作またはオフライン動作で実時間に満たない速度で処理してもよい。
【0011】
超音波システム100は、肉眼の近似的な認知速度である秒当たり50フレームを上回るフレームレートで超音波情報を連続的に取得することができる。取得された超音波情報は、より遅いフレームレートで表示システム118に表示される。画像バッファ122が、直ちに表示される予定になっていない取得された超音波情報の処理済みフレームを記憶するために含まれている。これらの画像フレームはデータセットとして記憶されてよい。好ましくは、画像バッファ122は少なくとも数秒間分の超音波情報のフレームを記憶するのに十分な容量を有する。超音波情報のフレームは、取得順または取得時間に従って検索を容易にする態様で記憶される。画像バッファ122は任意の公知のデータ記憶媒体を含んでいてよい。ECG装置124による多数の誘導を介して患者からのECGデータのような追加データを取得してもよい。ECGデータはしばしば、超音波データと同時に取得される。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に従って心周期中の時間172にわたって異なる活動を表わす多数の波形を示す。大動脈圧波形174、心房圧波形176および心室圧波形178が示されている。大動脈圧波形、心房圧波形および心室圧波形174、176および178は血圧の尺度を表わす。大動脈弁波形180および僧帽弁波形182が、それぞれの弁の開放および閉鎖を時間172にわたって示している。心音図法によって記録される心音184が、第一心音186および第二心音188として参照のためにのみ示されている。ECG装置124によって記録されるECGトレース152も示されている。
【0013】
心周期は、僧帽弁(mitral valve)および大動脈弁(aortic valve)の開放および閉鎖によって画定される様々な相に分割され、これらの事象を心事象とも呼ぶ。左室収縮は、心室の電気的活動を表わすECG152のQRSコンプレクス150の略開始時に開始する。僧帽弁閉鎖(MVC)154は、拡張期充満時間(DFP)190の終了および等容性収縮期(IVC)156の開始を区分する。図2では、MVC154は2箇所の異なる位置に示されている。大動脈弁開放(AVO)158は、IVC156の終了および駆出期(EP)160の開始を区分する。大動脈弁閉鎖(AVC)162はEP160の終了および等容性拡張(IVR)164の開始を区分する。IVR164は僧帽弁開放(MVO)166で終了して、DFP190の開始を区分する。DFP190は、継続的な心室弛緩による初期充満(E波)168、心拍静止期と呼ばれる純粋に受動的な流動相192、および心房収縮による後期充満(A波)170の三つの相を有している。
【0014】
QRSコンプレクス150は、MVC154の同時近くで開始し、MVC154の直前に開始しても直後に開始してもよい。QRSコンプレクス150の最初の部分の検出は、胸部での電極の位置に依存する。収縮サイクルの開始のおおよその参照点としてRピークの前端を用いることができる。
【0015】
超音波組織ドプラ撮像(TDI)は、ドプラ効果を用いて組織速度を測定する。速度は、ドプラカラーフロー撮像(CFI)に類似した二次元カラー画像で表わされるが、CFIと比較してTDIではさらに高いフレームレートが可能である。例えば、左室全体をカバーする心尖画像のために40フレーム/秒の白黒濃淡画像を用いて、TDIフレームレートを160フレーム/秒で同時に取得および表示することが達成可能である。このように、心尖像(四室像、二室像および長軸像)を用いて左室の基部全体においてAVC162を手動で検出することができ、このことについては、2004年3月9日出願の米国特許出願第10/796,834号“Trigger Extraction from Ultrasound Doppler Signals”に記載されている。尚、この出願の完全な主題を参照によりその全体として本出願に援用する。
【0016】
図3は、本発明の実施形態による心尖画像に基づく左室のTDIの速度グラフ400および加速度グラフ402を示す。速度グラフ400の速度曲線406および図2を参照して述べると、TDIによって測定された左室の通常の組織速度は、IVC156およびEP160では略正であり、E波168およびA波170では負であり、心拍静止期190にはゼロに近い。
【0017】
TDIでは、画像の各々の点で各々の時間段階毎に組織ドプラ画像に用いられる定量的な速度を捕えて抽出することが可能である。組織標本のTDI速度は、超音波ビームの方向での組織の速度を表わす。AVC162のような組織運動の方向の急変はTDIを用いて視覚化可能である。開いた大動脈弁が急に閉じると、大動脈弁は心尖部に配置されたプローブ106に向かって短時間の運動を行う。プローブ106に向かう速度を正と定義すると、大動脈弁閉鎖は正の加速度となる。基部区画からの速度/時間曲線においては、このことは、速度曲線406が近似的に点414で上昇するときの図3に示すように典型的には正の加速度を有するIVR164の開始によって観察することができる。加速度グラフ402の加速度曲線408を併せて参照すると、僧帽弁はAVCの点410とE波最小値412との間に開く。
【0018】
図4は、本発明の実施形態に従って心尖像からのTDIデータを用いてAVC162を検出する方法を示す。図5、図6および図7は、図4の方法の範囲内の詳細なステップを示す。図5は、本発明の実施形態に従ってE波168を検出する方法を示す。図6は、本発明の実施形態に従って空間的検索および時間的検索を用いて候補MVO値を検出する方法を示す。図7は、本発明の実施形態に従ってAVC162を検索する方法を示す。
【0019】
この方法の範囲内の幾つかのステップは完全に自動化されていてもよいし、他のステップは利用者入力120を介した利用者からの入力を要求してもよい。僧帽弁は、左房と左室との間で僧帽弁輪に装置した尖頭を有する。この方法は、全ての心尖像で位置決定され得る僧帽弁輪上で識別される点の運動を利用する。僧帽弁輪点は、心周期中に強いエコーを発生して大幅に移動する。従って、追跡されている僧帽弁輪点からの速度/時間曲線は、超音波画像内での心臓の他の部分に比べて雑音に関してロバストで、大きい速度値を含む。
【0020】
ステップ200では、超音波システム100は、プローブ106を用いて1または複数の心周期にわたって患者の心臓データを取得する。患者の心臓データは、TDIを用いて取得された超音波データの心尖像を含んでいてよい。同時に、超音波システム100は、ECG装置124を介して患者の心周期のECGデータを取得する。患者の心臓データはバッファ114に保存されて、信号プロセッサ116による処理に供される。患者の心臓データは直ちに処理されてもよいし、または患者が検査から去った後に処理されてもよい。
【0021】
図8は、本発明の実施形態による心周期中に取得された心尖TDI超音波データのフレーム500を示す。フレーム500は表示システム118に表示され、所望のフレームを選択する前に、利用者入力120を用いて、取得されたデータのフレームの全部または一部を通じてスクロールすることができる。ECGトレース512をフレーム500に示してもよい。ECGトレース512上の標識514が、心周期内の何処にフレーム500が位置しているかを示す。
【0022】
図4に戻り、利用者がデータを入力する場合には処理はステップ202に移る。ステップ202では、利用者が利用者入力120を用いて、2点の僧帽弁輪点516および518をTDI超音波データのフレーム500上で選択する。
【0023】
ステップ204では、信号プロセッサ116は、1回の心周期を通じて僧帽弁輪点516および518の運動を追跡する。例示のみのために述べると、信号プロセッサ116はスペックル追跡アルゴリズム(Bモード画像の)、組織ドプラまたは他の方法を用いて僧帽弁輪点516および518を追跡することができる。尚、僧帽弁輪点516および518以外の心臓標認点を識別して心周期を通じて追跡してもよいことを理解されたい。
【0024】
ステップ200に戻り、2点の僧帽弁輪点516および518を自動検出したい場合には、処理はステップ206へ移る。ステップ206では、信号プロセッサ116は2点の僧帽弁輪点516および518を検出して、僧帽弁輪検出器アルゴリズム(Torp等)を用いて1回の心周期を通じてこれら2点の僧帽弁輪点516および518の運動を追跡する。
【0025】
方法はステップ204および206からステップ208へ移る。ステップ208では、信号プロセッサ116は僧帽弁輪点516および518に由来するTDI速度/時間曲線を抽出する。
【0026】
図9は、本発明の実施形態による速度/時間グラフ304および関連する区間グラフ306を示す。ステップ208で抽出されたTDI速度/時間曲線が、第一の速度/時間曲線300および第二の速度/時間曲線302として示されている。
【0027】
ステップ210では、信号プロセッサ116はE波168(図2)を検出する。E波168を検出する方法を図5に示す。E波168を検出することにより、さらにロバストなAVC162検出を達成することができる。尚、他の方法を用いてE波168を検出してもよいことを理解されたい。
【0028】
図9に移り、E波168は、僧帽弁輪点516および518の第一および第二の速度/時間曲線300および302において時間336にわたる比較的大きい負の沈下部として表わされている。A波170が心周期内に存在している場合には、E波の沈下部に続いて、時間338にわたるA波170を表わす第二の負の沈下部を観察することができる。時間336および338は参照のみのために掲げられているのであって、E波168およびA波170の正確な位置を示すために用いているのではない。
【0029】
図5に移り、ステップ250では、信号プロセッサ116が、第一の速度/時間曲線300と第二の速度/時間曲線302とを平均することにより平均速度/時間曲線308(図9)を算出する。第一および第二の速度/時間曲線300および302を平均することにより、E波168が第一および第二の速度/時間曲線300および302のうちの1つにのみ見える可能性のケースが回避される。
【0030】
ステップ252では、信号プロセッサ116が、平均速度/時間曲線308上で負のピーク速度値312を識別する。ステップ254では、信号プロセッサ116は閾値Vを算出する。閾値Vは、速度/時間グラフ304の横線で閾値310として示されている。例えば、閾値Vは負のピーク速度値312の10%であってよい。尚、他の値の閾値Vを用いてもよいことを理解されたい。従って、平均速度/時間曲線308がE波168とA波170との間でゼロよりも上に上昇しない場合に、二つの区間が単一の区間として検出される可能性のケースが回避される。
【0031】
ステップ256では、信号プロセッサ116は、平均速度/時間曲線308の閾値310を下回る区間を検出する。区間グラフ306は、区間316、318、320、322および324を示す。
【0032】
ステップ258では、信号プロセッサ116は、早期区間を廃棄する閾値T314を算出する。例えば、閾値T314は、全心周期長の14%と算出することができ、図9の縦線として示されている。ECGトレース152のQRS150の近くで検出された区間は、IVC156すなわち早期心収縮期相の事象に対応しており、E波168の識別には必要でない。従って、閾値T314に先立って生ずる区間316および318は廃棄される。
【0033】
ステップ260では、信号プロセッサ116は、区間320、322および324の時間長を算出する。時間長326、328および330が区間320、322および324にそれぞれ対応している。
【0034】
ステップ262では、信号プロセッサ116は時間長326、328および330を区間長閾値すなわち区間閾値Tと比較する。例示のみのために述べると、区間閾値Tは0.065秒であってよい。従って、時間長326は区間閾値Tよりも短いので廃棄される。時間長328および330は両方とも区間閾値Tよりも大きい。
【0035】
時間長328および330の2区間が区間閾値Tよりも大きい場合には、処理はステップ264へ進む。ステップ264では、信号プロセッサ116は、時間的に最初に生ずる区間をE波区間と識別する。このため、図9では、区間322はE波区間と識別され、区間324はA波区間と識別される。
【0036】
ステップ262に戻り、時間長326、328および330のいずれも区間閾値Tよりも大きくない場合には、処理はステップ266へ進む。ステップ266では、信号プロセッサ116は、時間長326、328および330のうち最大区間二つを識別する。図9では、これら二つの最大区間は区間322および324である。
【0037】
ステップ268では、信号プロセッサ116は、A波170が心周期の後期に開始する場合のA波170を識別する後期開始閾値Tを算出する。例示のみのために述べると、後期開始閾値Tは、全心周期長の80%として算出されてよい。
【0038】
ステップ270では、信号プロセッサ116は、後期開始閾値Tの後に生ずる区間322または324をA波区間と識別する。従って、ステップ272では、心周期の範囲内で最初に生ずる区間をE波区間と識別する。このように、区間322をE波区間と識別し、区間324をA波区間と識別する。
【0039】
ステップ262に戻り、1つの区間322および324のみが区間閾値Tを上回っている場合には、処理はステップ274へ進む。
【0040】
図10は、本発明の実施形態による速度/時間グラフ356および関連する区間グラフ358を示す。区間グラフは、区間閾値Tを上回る単一の区間350を有している。図5に戻り、ステップ274では、信号プロセッサ116は区間350を分割閾値Tと比較する。例えば、分割閾値Tは0.140秒であってよい。区間350は分割閾値Tよりも長いので、処理はステップ276へ進む。
【0041】
ステップ276では、信号プロセッサ116は、区間350を心周期の時間軸に沿って二等分の部分に分割する。第一の検索区間352はE波区間であり、第二の検索区間354はA波区間である。
【0042】
ステップ274に戻り、区間閾値Tを上回る区間350が分割閾値Tよりも小さい場合には、処理はステップ278へ進む。ステップ278では、信号プロセッサ116は、区間350をE波区間と識別する。A波170は存在しない(図示されていない)。例えば、比較的高い心拍数を有する患者では、分割閾値Tよりも短い単一の区間が、E波およびA波168および170が1つの波として連結されていることを示す。
【0043】
一旦、E波区間およびA波区間(存在する場合)がステップ264、272、276および278において検出されたら、処理はこれらのステップの各々からステップ280へ進む。ステップ280では、信号プロセッサ116は、E波区間およびA波区間(存在する場合)の範囲内の負のピーク値を識別する。例えば、E波168に関連する区間を時間長328を有する区間322(図9)として識別した場合には、信号プロセッサ116は時間長328にわたって負のピーク値について平均速度/時間曲線308を検索する。負のピーク値は図9ではE波最小値332と識別される。A波170に関連する区間を時間長330を有する区間324として識別した場合には、信号プロセッサ116は時間長330にわたって負のピーク値について平均速度/時間曲線308を検索する。負のピーク値はA波最小値334と識別される。同様に、図10では、負のピーク値は第一の検索区間352ではE波最小値360と識別され、第二の検索区間354ではA波最小値362と識別される。
【0044】
次いで、方法は図4のステップ212に戻る。ステップ212では、信号プロセッサ116は候補MVO値のタイミングを検索する。
【0045】
図11は、本発明の実施形態による心尖像に基づくTDI速度グラフ550、552および554を示す。僧帽弁の少なくとも一部を含む関心領域内の値のTDI速度曲線556、およびスケーリングされたECG558がTDI速度グラフ550に示されている。E波最小値560の位置は前述のようにして識別されている。TDI速度グラフ552および554は、左右AVCの関心領域に基づく速度/時間曲線570および576を示す。関心領域は図8で画定されており、以下で詳述する。
【0046】
図6に移り、ステップ450では、信号プロセッサ116が、候補MVO値について検索すべき時間的な検索区間を設定する。時間的な検索区間を括弧564および566によって示す。括弧564は、E波区間の丁度開始時または開始の前に位置する時間的な検索区間の開始を示しており、括弧566はE波最小値560のタイミングでの時間的な検索区間の終了を示している。時間的な検索区間は心周期中の時間をカバーしており、図8のフレーム500のような取得された超音波データの対応するフレームに変換される。
【0047】
ステップ452では、信号プロセッサ116は、候補MVO値の空間的検索のためのフレーム500内部の領域を画定する関心領域(ROI)502を設定する。従って、ROI502は、フレーム500内の超音波データの部分集合を画定する。MVO166は、フレーム500の全域に見える訳ではない。従って、フレーム500全体を候補MVO値568について検索する必要はない。ROI502は、僧帽弁が開いている時間に開いている僧帽弁の部分をカバーすべきである。従って、ROI502は、追跡された僧帽弁輪の点516と点518との間で空間的に中間に画定される。ROI502の上辺504は、フレーム500の下方3/5の部分に位置するように限定され、ROI502の下縁506は、心周期内で追跡された僧帽弁輪点516および518の最も深い位置に配置される。ROI502の幅は超音波ビームの幅に基づいていてよい。
【0048】
ステップ454では、信号プロセッサ116は、図11でカギ括弧564および566によって示すようなTDI超音波データの関心のある時間区間内で、全フレーム500についてROI502内の全セルについて速度を抽出する。
【0049】
ステップ456では、信号プロセッサ116は、抽出された速度を微分して対応する加速度を得る。ステップ458では、信号プロセッサ116は、心周期内で各々のセルについて最大の負の加速度および関連する時間を識別する。
【0050】
ステップ460では、信号プロセッサ116は、最大の負の加速度を有するROI502内のセルを識別する。候補MVO値568がTDI速度曲線556に図示されており、この値は識別されたセルのタイミングに対応している。従って、候補MVO値568は、MVO166のタイミングの近くで生ずるタイミング値を与える。
【0051】
図4の方法に戻り、ステップ214では、信号プロセッサ116は、候補MVO値568のタイミングに基づいてAVC162を検索する。候補MVO値568のタイミングが判明したことにより、AVC162の検出のための時間的な区間を設定して、MVO166の時点またはその後に生ずる加速度値を回避することができる。
【0052】
図7に移り、ステップ600では、信号プロセッサ116は、左AVCについてのTDI速度曲線570(図11)上でカギ括弧572および574によって示される検索区間を設定する。信号プロセッサ116はまた、TDI速度曲線576上でカギ括弧578および580によって示される検索区間を設定する。カギ括弧572および578によって示されるAVC検索区間の開始は、心周期長の22%といった第一の算出される百分率に基づいて候補MVO値568の前に設定される。カギ括弧574および580によって示されるAVC検索区間の終了は、心周期長の5%といった第二の算出される百分率に基づいて候補MVO値568の前に設定される。従って、心拍数が分当たり60拍である場合には、心周期長は1000ミリ秒となり、カギ括弧572および578は候補MVO値568から220ms前に設定され、カギ括弧574および580は候補MVO値568から50ms前に設定される。尚、第一および第二の算出される百分率として22%および5%以外の値を用いてよいことを理解されたい。
【0053】
AVC162の空間的検索を達成したい場合には、処理はステップ602へ進む。ステップ602では、信号プロセッサ116は、追跡された僧帽弁輪点516および518の位置に基づいて左室の左右壁の各々について空間的な関心領域を画定する。左壁についての左ROI508および右壁についての右ROI510を図8に示す。左右のROI508および510は、フレーム500の下方3/5の部分に限定され、僧帽弁輪点516および518の最大移動量または変位量に基づいている。
【0054】
ステップ604では、信号プロセッサ116は、TDI速度グラフ552のカギ括弧572および574ならびにTDI速度グラフ554のカギ括弧578および580によって示すTDI画像の関心のある時間区間内で、全フレーム500についてROI508および510内の全てのセルについて速度を抽出する。
【0055】
ステップ606では、信号プロセッサ116は、抽出された速度を微分して対応する加速度を得る。ステップ608では、信号プロセッサ116は、各々のセルについて最大の正の加速度の時間値および正の加速度値を識別する。
【0056】
ステップ610では、信号プロセッサ116は、ROI508および510の各々の範囲内で最大の正の加速度を有するセルを識別する。このようにして、セルは、左右の壁についてそれぞれ候補点582および584を識別し、AVC162のフレーム500内での特定の空間的位置および心周期内での時間の両方を示す。
【0057】
代替的には、AVC162の時間推定値を僧帽弁輪点516および518の速度/時間曲線のみを用いて決定してもよい。ステップ600に戻り、処理はステップ612へ進む。ステップ612では、信号プロセッサ116は、僧帽弁輪点516および518の各々について速度(図示されていない)を抽出する。ステップ614では、信号プロセッサ116は、ステップ612の抽出された速度をステップ600で設定された時間区間内で微分して、対応する加速度を得る。
【0058】
ステップ616では、信号プロセッサ116は、左右の壁の各々について最大の正の加速度値のタイミングを識別する。各々の壁についてのAVC162推定値が、ステップ610の候補点582および584のように識別される。
【0059】
AVC162についての空間的検索(ステップ600〜610)およびAVC162についての僧帽弁輪に基づく検索(ステップ600、612〜616)は各々別個の方法として実行してもよいが、各方法を結合することも可能である。従って、方法の各々が完了したら、処理はステップ610および616からステップ618へ進む。ステップ618において、各方法を結合したくない場合には、処理は図4のステップ216へ戻る。ステップ618において、各方法を結合したい場合には、処理はステップ620へ進む。尚、各方法のうちの1つまたは両方を自動算出するプロトコルを確立し得ることを理解されたい。また、いずれの方法を用いるかを定義する選択肢を入力するように利用者にプロンプトを出してもよい。
【0060】
ステップ620では、信号プロセッサ116はステップ610および616の二つの推定値の間でタイミングを比較する。僧帽弁輪による方法の方がばらつきが小さいことが判明しており、このことは前述したように僧帽弁輪点516および518の位置に由来する速度が堅牢であることの結果であると考えられる。このことから、速度が僧帽平面に由来することが確実になるが、僧帽平面が如何なる場合にもAVC効果を検出するための最良の位置であるとは限らない。比較すると、空間的検索方法はより多数の位置で検索を行い、このことが解剖学的構造によっては有利な場合がある。
【0061】
ステップ622では、これら二つの方法でのタイミング推定値の間の差が20msを上回る場合には、信号プロセッサ116は、ステップ616の僧帽弁輪によるAVCタイミングを選択する。二つの方法でのタイミング推定値の間の差が20ms以下である場合には、信号プロセッサ116は、ステップ610の空間的検索によるAVCタイミングを選択する。次いで、処理は図4のステップ216に戻る。尚、タイミング推定値の間の差を比較するのに20ms以外の値を用いてよいことを理解されたい。
【0062】
図4に戻り、ステップ216では、利用者による精査のためにデータを表示システム118に表示する。例えば、図8のフレーム500を表示することができる。ROI502、508および510を僧帽弁輪点516および518と共に表示する。検出された左AVC520および検出された右AVC522の空間的位置を検出された候補MVO値524と共に示す。ROI502、508および510、僧帽弁輪点516および518、ならびに検出された左AVC520、検出された右AVC522および検出された候補MVO値524を示すために線、四角または他の標識をオーバレイとして用いてよい。利用者が多数のフレームを循環的に観察して精査している間に移動を経る超音波データとは対照的に、オーバレイは表示システム118に表示されて静止したままにしてよい。例示のみのために述べると、フレーム500は、右AVCが検出される時間枠である。
【0063】
超音波データ、オーバレイ、曲線、グラフ等を精査することにより、利用者は上述の方法の首尾を評価することができる。例えば、僧帽弁輪点516および518が正しい位置から1センチメートルを上回って離隔している場合には、僧帽弁輪点516および518の自動検出の失敗が表示システム118で利用者によって識別され得る。E波168検出の性能は、図9のような速度/時間曲線を観察することにより評価することができる。候補MVO値524の検出は、図8および図11のようなグラフを観察することにより評価することができる。
【0064】
利用者に左右のAVC推定値の両方を提供するプロトコルをプログラムしてもよい。代替的には、左AVC等のように1つの推定値のみを提供してもよい。選択随意で、利用者は、データを表示システム118で観察するときに大動脈弁に最も近い左室壁からの推定値を選択してもよい。
【0065】
従って、上述の方法および装置を用いて、同じ心周期内で心事象および心臓の区間のタイミングを自動的にまたは半自動的に検出することができる。心事象およびタイミング区間が自動的に検出される場合には、患者データの自動または半自動の解析および診断を達成することができる。さらに、一旦、最初の心事象が見出されたら、さらなる心事象は第一の心事象に基づいて位置決定することができる。AVO158およびAVC162のような心事象が自動的に検出されると、二次的なパラメータの検索区間を自動的に、且つ現在用いられている回帰式よりも遥かに正確に設定することができる。かかる二次的パラメータの例は、組織共時性撮像(tissue synchronicity imaging、TSI)に用いられるような時間対ピーク速度、および心収縮期変位であって、後者は組織追跡(TT)とも呼ばれる。自動AVC162検出のその他の用途は、心収縮末期歪み値、心収縮期後の歪み指標、およびIVR/ES歪み指標を算出する場合であり、これら全てが収縮末期(AVC162)の正確な画定を必要とする。
【0066】
様々な特定の実施形態によって本発明を説明したが、当業者であれば特許請求の範囲の要旨および範囲内で改変を施して本発明を実施し得ることを認められよう。また、図面の符号に対応する特許請求の範囲中の符号は、単に本願発明の理解をより容易にするために用いられているものであり、本願発明の範囲を狭める意図で用いられたものではない。そして、本願の特許請求の範囲に記載した事項は、明細書に組み込まれ、明細書の記載事項の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に従って形成されている超音波システムのブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に従って心周期中の経時的に異なる活動を表わす多数の波形を示す図である。
【図3】本発明の実施形態による心尖画像に基づく左室のTDI速度グラフおよび加速度グラフの図である。
【図4】本発明の実施形態に従って心尖像からTDIデータを用いてAVCを検出する方法を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に従ってE波を検出する方法を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に従って空間的検索および時間的検索を用いて候補MVO値を検出する方法を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に従ってAVCを検索する方法を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に従って心周期中に取得される心尖TDI超音波データのフレームを示す図である。
【図9】本発明の実施形態による速度/時間グラフおよび関連する区間グラフの図である。
【図10】本発明の実施形態による速度/時間グラフおよび関連する区間グラフの図である。
【図11】本発明の実施形態による心尖像に基づくTDI速度グラフの図である。
【符号の説明】
【0068】
100 超音波システム
104 トランスデューサ
106 プローブ
114 RF/IQバッファ
122 画像バッファ
150 QRSコンプレクス
152 ECGトレース
154 僧帽弁閉鎖(MVC)
156 等容性収縮期(IVC)
158 大動脈弁開放(AVO)
160 駆出期(EP)
162 大動脈弁閉鎖(AVC)
164 等容性拡張(IVR)
166 僧帽弁開放(MVO)
168 初期充満(E波)
170 後期充満(A波)
172 時間
174 大動脈圧波形
176 心房圧波形
178 心室圧波形
180 大動脈弁波形
182 僧帽弁波形
184 心音
186 第一心音
188 第二心音
190 拡張期充満時間(DFP)
192 心拍静止期
300、302 速度/時間曲線
304、356 速度/時間グラフ
306、358 区間グラフ
308 平均速度/時間曲線
310 閾値V
312 負のピーク速度値
314 早期区間を廃棄する閾値T
316、318 Tによって廃棄される区間
320、322、324 区間
326、328、330 各区間の時間長
332、360 E波最小値
334、362 A波最小値
336 E波の負の沈下時間
338 A波の負の沈下時間
350 閾値Tを上回る単一の区間
352 E波検索区間
354 A波検索区間
400 左室TDI速度グラフ
402 左室TDI加速度グラフ
406 速度曲線
408 加速度曲線
410 AVC
412 E波最小値
414 速度曲線の上昇点
500 フレーム
502 関心領域
504 ROIの上辺
506 ROIの下辺
508 左ROI
510 右ROI
512 ECGトレース
514 標識
516、518 僧帽弁輪点
520 検出された左AVC
522 検出された右AVC
524 候補MVO値
550、552、554 TDI速度グラフ
556 TDI速度曲線
558 スケーリングされたECG
560 E波最小値
564、566 時間的検索区間
568 候補MVO値
570 左AVCの速度/時間曲線
572、574 検索区間
576 右AVCの速度/時間曲線
578、580 検索区間
582、584 左右壁の候補点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心周期を含む超音波データを取得するステップ(200)と、
前記超音波データに関連する組織速度を検出するステップ(250、454、604、612)と、
前記組織速度に基づいて最大値と最小値のうちの1つである値を検出するステップ(280、460、610、616)と、
前記値に関連する前記心周期内の時間を識別するステップ(460、608、616)と、
を備えており、心事象は前記値および前記時間に関して検出される、心事象を検出する方法(200〜216)。
【請求項2】
前記心事象はさらに、僧帽弁開放(166)、僧帽弁閉鎖(154)、大動脈弁開放(158)および大動脈弁閉鎖(162)の1つを含んでいる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
自動検索検出(206)と利用者入力(202)のうちの1つにより識別される心臓標認点を検出するステップと、
前記超音波データの部分集合を含んでおり、前記心臓標認点に関して位置決定される関心領域(502、508、510)を画定するステップ(452、602)と、
をさらに含んでおり、前記値は前記関心領域(502、508、510)内で検出される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記値に基づいて時間的な検索区間を識別するステップ(450、600)と、
前記時間的な検索区間内で前記超音波データの前記組織速度に基づいて最大の正値と最大の負値のうちの1つである最大加速度値を識別するステップ(460、610、616)と、
前記最大加速度値に基づいて第二の心事象を検出するステップと、
をさらに含んでいる請求項1記載の方法。
【請求項5】
超音波データを送受する超音波プローブ(106)と、
前記超音波データに関連して心電図(ECG)データを取得する心電図装置(124)と、
前記超音波データを処理する信号プロセッサ(116)であって、前記超音波データに関連して組織速度に基づいて最大値と最小値のうちの1つを検出し(280、460、610、616)、前記最大値と最小値のうちの1つに関連する時間を識別し、前記時間、ならびに前記最大値と最小値のうちの1つに関して心事象を検出する信号プロセッサ(116)と、
前記超音波データと前記心電図データのうちの少なくとも1つを表示する表示器(118)と、
を備えた心事象を検出する装置。
【請求項6】
前記超音波データ内の点を画定する(202)利用者入力(120)をさらに含んでおり、前記最大値と最小値のうちの1つは前記点に基づいて検出される、請求項5記載の装置。
【請求項7】
心周期にわたって前記超音波データを取得することをさらに含んでいる前記プローブ(106)と、
前記超音波データ内で関心のある点を画定する(206、452、602)こと、および前記心周期にわたって前記関心のある点を追跡する(204)ことをさらに含み、前記関心のある点に基づいて前記組織速度を抽出する(208、454、604)前記信号プロセッサ(116)と、
をさらに含んでいる請求項5記載の装置。
【請求項8】
心周期にわたって僧帽弁を示すデータを含む前記超音波データを取得する(200)ことをさらに含んでいる前記プローブ(106)と、
前記僧帽弁の少なくとも一部を含む超音波データの部分集合(450、600)を含んでいる関心領域を画定する(452、602)ことをさらに含んでいる前記信号プロセッサ(116)と、
をさらに含んでおり、前記最大値と最小値のうちの1つは超音波データの前記部分集合(450、600)に基づく、請求項5記載の装置。
【請求項9】
心周期にわたって僧帽弁を示すデータを含む前記超音波データを取得する(200)ことをさらに含んでいる前記プローブ(106)と、
前記僧帽弁の開放を示す時間点(166)を識別し(460)、前記心周期内で前記時間点の前に位置する検索区間を識別する(600)前記信号プロセッサ(116)と、
をさらに含んでおり、前記心事象は前記検索区間内で検出される、請求項5記載の装置。
【請求項10】
心周期にわたって前記超音波データを取得することをさらに含んでいる前記プローブ(106)と、
E波(168)とA波(170)のうちの1つを識別し、前記心周期内で前記E波(168)と前記A波(170)のうちの1つの前に検索区間を設定し(460、600)、前記検索区間内で前記最大値と最小値のうちの1つを検出する(460)前記信号プロセッサ(116)と、
をさらに含んでいる請求項5記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate