説明

心筋梗塞に関する遺伝子検出方法

【課題】 mtDNAのハプログループに基づき、心筋梗塞の遺伝的危険度を予測する遺伝子検出方法等を提供すること、およびそれによって心筋梗塞の発症を予防すること。
【解決手段】 1181名の心筋梗塞患者と、956名の対照者とを合わせた2137名の日本人について、ミトコンドリアゲノムのコード領域における多型に関する遺伝子型を決定することにより、12個の代表的なハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4,およびD5)に分類した。統計解析の結果、ハプログループN9bが心筋梗塞に抵抗性があること、および男性の場合には、ハプログループG1が心筋梗塞に関係していることが明らかになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋梗塞に関する遺伝子検出方法に関し、特にヒトミトコンドリアDNAのハプログループを分類することにより心筋梗塞に関する遺伝子検出を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトミトコンドリアDNA(mtDNA)は、37個の遺伝子を含む16569塩基対の環状二重鎖分子である(非特許文献1:文献名については、末尾にまとめて示す)。mtDNAは、母親を通じてのみ遺伝するという特徴がある。mtDNA中の母系遺伝性の変異は、過去二十万年以上に渡り、ホモサピエンスがアフリカからアジアおよびヨーロッパに拡張した時代に、新たな突然変異が連続的に追加された事に起因している。ミトコンドリアゲノムの突然変異率は核ゲノムの突然変異率に比べると非常に速い(非特許文献2)ので、ホモサピエンスに蓄積されて来た古代のミトコンドリア多型は、比較的短い歴史を持つものではあっても、現代人類の代謝特性に影響している可能性がある。世界の様々な地域で発見されたミトコンドリアハプログループが、寒冷気候と栄養条件への適応を通じて選択されて来たものであると推測することができる。
【0003】
mtDNAにおける多型は、核DNAの多型に比べて、個々人の機能的差により広範囲に寄与する。このような事情に鑑みて、本発明者らは、mtDNAの多型(mtSNPs)と、エネルギー代謝に関係する疾患等(例えば、長寿(非特許文献3)、パーキンソン病(非特許文献4、5)、アルツハイマー病、肥満(非特許文献6)、やせ(非特許文献7)、2型糖尿病(非特許文献6)、動脈硬化)との関係を明らかにするために研究を重ねてきた。この目的のために、百寿者、パーキンソン患者、アルツハイマー病患者、若年肥満者、非肥満者、血管障害のない2型糖尿病患者、及び血管障害を持つ2型糖尿病患者の7つのグループに属する672名(個々のグループについて、それぞれ96名)のmtDNAの16569塩基対の塩基配列を全て決定した。更に、この結果に基づき、東アジアにおけるmtDNA進化系統樹を構築した。これらの知見から、ヒトミトコンドリアゲノム多型データベース(http://www.giib.or.jp/mtsnp/index_e.shtml)を構築した。これらのmtSNPデータに基づいて、本発明者らは、蛍光ビーズ法を用いた包括的なmtSNP分析システムを開発した。
【0004】
最近、ヨーロッパ人に関する研究から、16184−16193のpoly(C)tractの遺伝変異が、2型糖尿病発症においては主要な役割を担っていないことが示された(非特許文献8)。従って、非コード領域のみに於ける多型分析は、個々人の代謝特性とミトコンドリアゲノムに於ける機能的多型との間の相互関係については、直接的な証拠を提供し難いと思われる。
また、心筋梗塞・冠動脈疾患といった心疾患と、核DNAの変異との関係に関する多くの報告がなされているものの、これらの結果については、現在も議論が行われている。その理由としては、遺伝子と疾患との関係が明確でないこと、研究対象のサイズが小さいこと、多型に影響については集団の相違が認められるために特定の集団において認められる関係が他の集団に応用できるか否かに議論があること、環境要因が複雑であるために多型と疾患との関係が明らかと成り難いこと等が挙げられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の諸点に留意しつつ、本発明者らは、ミトコンドリアゲノムのコード領域に於ける包括的な多型分析に基づいて、日本人に於ける心筋梗塞と主要な12個のハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4,およびD5)との関係を調べる大規模な関連解析を行った。
本研究者らの研究目的は、mtDNAのハプログループ分けに基づき、心筋梗塞の遺伝的リスクを予測し、それによって心筋梗塞の一次予防に役立てることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、長年に亘ってヒトミトコンドリアゲノムに関する研究を行っている。ヒトミトコンドリアDNAは、強固に連鎖した複数のmtSNPを有するハプログループに分類することができる。図3〜図5には、mtSNPとハプログループ(及びサブハプログループ)との関係を示した。このハプログループの分布は、人種間において、かなり大きな隔たりがある。個々の日本人は、主要な12個のハプログループによって、そのほとんど(約90パーセント以上)を分類することができる。各ハプログループは、数個〜20個程度のmtSNPによって特徴付けられる。例えば、ハプログループFは、8701、9540、10398、10873、15301、16519、12705、16223、16183、16519、3970、13928、16304、248、6392、10310等の位置にmtSNPを有している(その他のハプログループについても、同様の状況が存在する)。ハプログループ分類をするために、これら全てのmtSNPを調べようとするのは、大変な労力が掛かるため大規模な研究には向きにくい。しかしながら、これらのうちのいずれのmtSNPを選択・検出すれば、適切にハプログループを分類することが可能であるかについては明確には知られていなかったことに加え、選択したmtSNPを迅速かつ的確に検出する方法については開発が十分に進んでいなかった。
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、新たなmtSNPの検出法を開発し、日本人における主要な12個のハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4及びD5)を迅速かつ的確に分類する検出法を開発した。
【0007】
つまり、各ハプログループが持っている数個〜二十個程度のmtSNPのうち、適当に1個〜5個のmtSNPを選択することにより、表1に記載のmtSNPsを検出すれば、12個のハプログループへの分類が可能であることを見出した。更に、この方法を用いて、今回、本発明者らは、ミトコンドリアゲノムのコード領域における包括的な多型分析を基にして、日本人における心筋梗塞と主要な12個のハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4およびD5)との関係を調べるために、2137名を対象とした大規模な関連解析を行った。その結果、ハプログループN9bを持つ者は心筋梗塞の危険性が低いこと、ハプログループG1を持つ者は心筋梗塞の危険性が高いこと(特に、男性の場合)を明らかとし、基本的には本発明を完成するに至った。
【0008】
こうして、上記課題を解決するために、本発明に係る心筋梗塞に関する遺伝子検出法は、ヒトミトコンドリアDNAにおいて、11016A、14893Gを有するハプログループN9bと、709A、4833G、5108C、8200C、15497Aを有するハプログループG1と、4820Aを有するサブハプログループB4bと、10398G、8701G、10400Tを有するハプログループMと、6023Aを有するサブハプログループB4b1a1と、8793Cを有するサブハプログループM10と、10410C、15314Aを有するサブハプログループD4aと、856Gを有するD4d1bと、8856Aを有するサブハプログループB5b3と、15860Gを有するサブハプログループG1aと、9296Tを有するサブハプログループD4b2bと、2766Tを有するサブハプログループD4d1と、5147Aを有するサブハプログループYと、9833Cを有するサブハプログループD4k2と、15508Tを有するサブハプログループB5bとを検出することを特徴とする。
【0009】
本明細書中において、多型の記載方法は、次の通りである。原則として、各遺伝子について、「多型が生じている位置、データベースに登録されている塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)>多型塩基」の順で記載する。例えば、「5231G>A」は、5231位のGがAとなっている多型を意味している。また、その多型が生じている遺伝子(rRNAまたはmRNA)の位置について、カッコ書きで情報を示すことがある。例えば、「5231G>A(ND2:syn)」とは、上記多型について、ND2遺伝子において、アミノ酸の変異を伴わない多型(synonymous mutation)であることを意味している。但し、挿入あるいは欠失多型については、「多型が生じている位置(欠失または挿入に関する塩基情報)」の順で記載する。例えば、「8272(9-bp deletion in non-coding region)」とは、8272位の非コード領域における9個の塩基の欠失多型であることを意味している。また、順方向(forward strand)に読んでA/G多型としてデータベースに記録されている場合であっても、逆方向(reverse strand)で読むとT/C多型となる。多くの文献について、「T/C」多型として記載されている場合には、データベース中の記録であるA/G多型と異なることがある。
【0010】
一般にミトコンドリアDNA多型(mtSNPs)或いはミトコンドリアDNAハプログループは、対象となる集団(例えば、日本人・中国人・韓国人を含む東アジア人集団、西洋人集団など)が異なると、その種類・頻度が異なる。このため、日本人以外の集団において、心筋梗塞との関係が指摘されているハプログループであっても、必ずしも日本人集団においてそのような関連が認められるわけではない。このため、従来の報告については、集団または疾患が異なる場合には、必ずしも日本人におけるハプログループおよび心筋梗塞との関連が裏付けられるわけではない。
【0011】
本発明において、mtDNAのハプログループを検出する方法としては、従来公知の方法、例えばDNAシークエンス、DNAチップ(或いはDNAマイクロアレイ)、RFLP、PCR−SSOP−Luminex法などの方法を用いることができる。これらの中でも、PCR−SSOP−Luminex法を用いることが好ましい。PCR−SSOP−Luminex法を用いることにより、数百個程度の多型であれば迅速に測定することができる。なお、同方法の詳細については後に詳述する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、mtDNAのハプログループを検出することにより、心筋梗塞の遺伝的危険度を予測することができる。この発明を用いることにより、心筋梗塞に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0014】
<研究対象>
研究対象は、互いに血縁関係の無い40歳以上の日本人2137名(男性1442名、女性695名)であった。対象者は、2002年10月から2005年3月までに3つの参加病院(岐阜県立岐阜病院、岐阜県立多治見病院、岐阜県立下呂温泉病院)の一つを外来した受診者、或いは入院患者であった。
心筋梗塞を伴う1181名(男性920名、女性261名)の対象者は、全てが冠動脈造影と左室造影検査によって、病態が確認された。残りの956名(男性522名、女性434名)は、対照群とした。対照群は、研究参加病院に例年の健康チェックのために外来受診した者であった。対照群は、うっ血性心不全、末梢性動脈閉塞性疾患、動脈硬化性疾患、梗塞性・出血性脳卒中、他の脳疾患、および他の血栓・塞栓・出血性疾患の既往歴が無い者であった。
研究プロトコールは、ヘルシンキ宣言に従っており、三重大学医学部、岐阜県国際バイオ研究所、各参加病院の倫理委員会によって承認され、また各参加者からは個別に書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0015】
<ハプログループ分類のためのミトコンドリア多型の選択>
本発明者らが作製したヒトミトコンドリアゲノム多型データベース(http://www.giib.or.jp/mtsnp/index_e.shtml)および日本人の系統樹(非特許文献9)を使用して、ミトコンドリアハプログループの分類に有用である149個の多型部位を選択した。更に、本発明者らの鋭意検討に基づき、日本人集団において見出された12個の主要なハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4,およびD5)を定義するmtSNPsを選択した。これらのmtSNPsを表1に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
表中、左欄より順に、ハプログループ(Haplogroup)、および各ハプログループを代表する多型(Polymorphism)を示している。また表中、「Syn」はアミノ酸の変異を伴わない多型(synonymous mutation)であることを示している。
本発明者らは、上記2137名の被験者について、これらハプログループと心筋梗塞との間の関係について研究を行った。
【0018】
<多型の遺伝子タイピング>
各参加者から50mmol/L EDTA(ジナトリウム塩)を含む試験管に、7mLの静脈血を採取し、市販のキット(Genomix, Talent, Trieste, Italy)を用いてDNAを分離した。
DNAをPCRにかけ、特定のDNAを増幅した。その際に使用したプライマーを表2および表3に示した。ミトコンドリアの多型は懸濁液アレイ技術(Luminex 100; Luminex, Austin, TX)を用い、シーケンス特異性オリゴヌクレオチド試験法(G&Gサイエンス株式会社、日本)で決定した。詳細な方法については、既報のもの(非特許文献10)を基本として、適宜に増幅条件を変えて行った。なお、条件については、後に詳述する。
【0019】
また、ハプロタイピングのために使用したプライマーは、表4〜表9に示した。今回のタイピングには、最大で100種類の多型の判定が行えるものを用いた。186種類のプローブを用いるために、全体を100種類のセット(プローブセットA)と86種類のセット(プローブセットB)とに分けて、タイピングを行った。表4〜表6にはプローブセットAの詳細を、表7〜表9にはプローブセットBの詳細を示した。
【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
【表6】

【0025】
【表7】

【0026】
【表8】

【0027】
【表9】

【0028】
表2および表3については、左欄よりPCR法によって合成されるフラグメント番号(Fragment)、フォワードプライマー(Forward primer)のmtDNAにおける位置(Position)と塩基配列(Sequence)、リバースプライマー(Reverse primer)のmtDNAにおける位置(Position)と塩基配列、および合成されるDNAフラグメント長(Product)を示している。
表4〜表6については、第1のセット(プローブセットA)について、mtDNAにおける位置(Position)、目的(Purpose)、プローブの塩基配列(Sequence)を示している。また、目的の欄については、「a」が多型チェック用、「b」が野生型チェック用、「p」がPCR産物チェック用、「m」および「n」がマクロハプログループチェック用のものであることを示している。表7〜表9については、第2のセット(プローブセットB)について、上記と同じ意味である。
表4〜表9に示したプローブセットは、前述の12個のハプログループを分類するmtSNPに加えて、更に細かいサブハプログループを検出するためのプローブを含んでいる。
【0029】
PCR−SSOP−Luminex法
方法の詳細については、非特許文献10に記載の通りである。以下には、この方法の概要について説明する。
図1には、Luminex100フローサイトメトリーで検出するマイクロビーズ(本発明における固相に該当する)の微細構造と特徴を示した。マイクロビーズ(図中の符号(A))は、直径が約5.5μm程度であり、ポリスチレン製である。ビーズ表面にはカルボキシル基が存在している。このカルボキシル基と、アミノ修飾された核酸プローブとを結合することにより、ビーズ表面に核酸プローブが結合されている(本発明における核酸プローブの固相化に該当する)。各ビーズには、一種類の核酸プローブが結合されている。このマイクロビーズには、赤色色素と赤外色素との二種類の色素が割合を変化させつつ配されている(Multi-Analyte Microsphere Carboxylated: Luminex, オースチン社(Austin)、米国テキサス州)。こうして、図中の符号(B)に示すように、最大で100種類のものを混合した状態で、各ビーズの同定が行えるようになっている。
【0030】
複数種類のプローブを備えたマイクロビーズ(但し、各マイクロビーズには一種類のプローブのみ)を適当な割合で混合し、100ビーズ/μLとなるようにしたビーズミックスを調製した(図中の符号(C))。
本実施例においては、表4〜表6に記載の100種類のプローブを第1セット(セットA)とし、表7〜表9に記載の86種類のプローブを第2セット(セットB)として、2セットを用いることで、合計186種類の多型を検出可能な検出系とした。これら186種類のプローブを用いることにより、ヒトミトコンドリアDNAを少なくとも12種類のハプログループ(F,B,A,N9a,N9b,M7a,M7b,M7c,G1,G2,D4およびD5)に分類することができる。
【0031】
図2には、PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示した。
<増幅反応(Amplification)>
目的とするDNAフラグメントを増幅するPCR反応には、5’末端をビオチン化したプライマーを用いた。mtDNAフラグメントを増幅するために28−plex PCRを行った。2mM塩化マグネシウムを含む1xPCR溶液(30mM KCl、20mM Tris−HCl、pH8.3)、2.5%DMSO、0.2mM dNTPs、0.1μMずつのプライマーセットを混合し、Taq DNAポリメラーゼ(0.625U)と1ngのゲノムDNAを加えて25μLとした。PCR反応は、95℃で10分間処理の後、94℃で20秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した。最後に、72℃で7分間の伸長反応を行った。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。
【0032】
<ハイブリダイゼーション(Hybridization)>
増幅したDNAを変性した後、ビーズミックスとハイブリダイズさせた。96ウエルプレートの各ウエルに、5μLの増幅反応後のPCR増幅液、5μLのビーズミックス、および40μLのハイブリダイズ用緩衝液(1.5M TMAC、62.5mM TB(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.125% N−ラウロイルザルコシン)を添加し、全量50μLとした。この混合液を添加した96ウエルプレートについて、95℃で2分間の変性、および52℃で30分間のハイブリダイゼーションを行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、増幅したDNAを認識するプローブを有するビーズ(1)のみが、DNAと結合する様子が示されている。
【0033】
<ストレプトアビジン−フィコエリトリン反応(SA−PE Reaction)>
次に、上記ビーズミックス−DNAをSA−PEと反応させた。ハイブリッド工程の後、各ウエルに75μLのPBS−Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去った後、再度100μLのPBS−Tweenを添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去ることで、マイクロビーズを洗浄した。各ウエルに残ったマイクロビーズに、それぞれ70μLのSA−PE溶液(PBS−Tweenにより、市販品(G&Gサイエンス株式会社製)を100倍希釈したもの)を添加し混合した後、52℃で15分間の反応を行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、ビーズ(1)のプローブにのみビオチン化DNAが結合しているので、そのビオチンにSA−PEが結合する様子が示されている。
【0034】
<測定(Measurement)>
次に、反応後のサンプルはLuminex100を用いて、ビーズ種類の同定と、そのビーズにPEが結合しているか否かを判定した。測定は2種類のレーザを使用して行い、ビーズの種類は635nmレーザにより同定し、PE蛍光は532nmレーザを用いて定量した。オリゴビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。
図2中には、各ビーズ(1)〜(3)が同定され、かつビーズ(1)にのみPEが測定されたことから、ビーズ(1)に結合させたプローブが認識するDNAが増幅された様子が示されている。
【0035】
この方法に拠る遺伝子タイピングの精度を確かめるために、91個のDNAサンプルを材料に使用した。これらのDNAサンプルは、ミトコンドリアゲノムの全塩基配列が直接シーケンスによって既に決定されているものである。各例において、ルミネックスシーケンス特異性オリゴヌクレオチドハイブリッドアッセイシステム(PCR−SSOP−Luminex法)によって決定された遺伝子型は、直接シーケンスによって決定されたものと一致した。
【0036】
<統計的分析>
数量的な臨床データは、心筋梗塞患者群と対照群との間で、対応のないスチューデントt検定、またはマン・ホイットニーU検定(the Mann−Whitney U test)を用いて比較した。質的なデータは、カイ二乗検定によって比較した。
心筋梗塞と関連する多型は、交絡因子を含む多項ロジスティック回帰分析法により解析した。このとき、交絡因子については、年齢(age)、性別(gender:0=女性、1=男性)、BMI、喫煙状態(smoker:0=非喫煙、1=喫煙)、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、高尿酸血症および各mtSNPの遺伝子型を独立変数とし、心筋梗塞を従属変数とした。P値、オッズ比(OR)、および95%信頼区間(CI)を計算した。特に説明しない限り、0.05未満のP値は統計上有意であると考えた。
【0037】
ハプログループを多重比較するために、ボンフェローニ(Bonferroni)の補正を適用した。我々は、12個のハプログループを調べたので、0.05を12で除して、0.004とした。こうして、0.004未満のP値を統計上有意であると見なした。
<結果>
2137名の被験者に関する基礎的データを表10に示した。
【0038】
【表10】

【0039】
表中において、最左欄は上段から順に、対象数(No. of subjects)、年齢(Age)、性別(男性/女性)(Gender)、BMI(Body mass index)、喫煙率(Smoker)、高血圧(Hypertension)、収縮期血圧(Systolic blood pressure)、拡張期血圧(Diastolic blood pressure)、高脂血症(Hypercholesterolemia)、全コレステロール(Total cholesterol)、中性脂肪(Triglycerides)、HDL−コレステロール(HDL-cholesterol)、2型糖尿病(Type-2 diabetes)、空腹時血糖値(Fasting blood glucose)、ヘモグロビンAlc(Glycosylated hemoglobin)を意味している。また、最上段は左から順に、被験者全員(All subjects)における心筋梗塞(MI)の値と対照群(Controls)の値とP値(P value)、男性(Male)における心筋梗塞患者群の値と対照群の値とP値、女性(Female)における心筋梗塞患者群の値と対照群の値とP値とをそれぞれ示している。また、各値において、「±」が付してあるものは、平均値±SDで示した。喫煙率については、1日あたり10本より多くの喫煙数がある者を喫煙者とした。高血圧については、収縮期血圧が140mmHgより大きい、または拡張期血圧が90mmHg未満、或いは両基準を満たす者、または高血圧薬を服用している者とした。2型糖尿病については、空腹時血糖値が126mg/dL(6.93mmol/L)より大きい、またはヘモグロビンAlcが6.5%より大きい、或いは両基準を満たす者、または抗糖尿病薬を服用している者とした。高脂血症については、全コレステロール値が220mg/dL(5.72mmol/L)より大きい、または高脂血症剤を服用している者とした。
【0040】
年齢、高血圧、中性脂肪、空腹時血糖、ヘモグロビンAlcでは心筋梗塞患者群と対照群との間に差がなかった。性別、BMI、喫煙率、高コレステロール血症(HC)、糖尿病については、心筋梗塞患者群のほうが対照群よりも有意に高値であった。HDLコレステロールは、対照群よりも心筋梗塞患者群の方が、有意に低値であった。
年齢、性別、喫煙歴、BMI、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症の有無を補正して多項ロジスティック回帰分析を行った結果を表11に示した。
【0041】
【表11】

【0042】
表中において、左欄より順に、変数(Variable)、P値(P value)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(95%CI)を示している。また、上段より被験者全員(All subjects)における従来の危険因子(Conventional risk factors)である性別(Gender)・高コレステロール血症(HC)・2型糖尿病(Type-2 diabetes)・BMIと遺伝的危険因子(Genetic risk factors)であるハプログループN9b,G1,M7cを、男性における従来の危険因子である高コレステロール血症・2型糖尿病・BMIと遺伝的危険因子であるハプログループN9b,G1を、女性における従来の危険因子である高コレステロール血症と遺伝的危険因子(該当なし)を、それぞれ意味している。
【0043】
ハプログループN9bは、被験者全員(P = 0.0019)、および男性(P = 0.0007)において、心筋梗塞に対して抵抗性が認められた。また、ハプログループM7cは、被験者全員において、有意に心筋梗塞に対して抵抗性が認められた(P = 0.0357)。一方、男性の場合には、ハプログループG1が心筋梗塞のリスクが高い傾向があった(P<0.05)。
表12には、ステップワイズ前向き選択法による解析結果を示した。
【0044】
【表12】

【0045】
表より、ハプログループN9bは、被験者全員において、心筋梗塞のリスクが低いことが明らかとなった(P = 0.0018)。
男性の場合には、高コレステロール血症、糖尿病とともに、ハプログループN9bは、心筋梗塞に対して独立した抵抗性の因子であった(P = 0.0005)。また、女性の場合には、心筋梗塞に関連したハプログループは認められなかった。
表13には、mtSNPsのうち、心筋梗塞に対する保護因子或いは危険因子として関連するものを示した。
【0046】
【表13】

【0047】
表中、「*」は表1において示すように、12個のハプログループを代表させるために用いた多型マーカであることを示している。また、表中の太字で示したP値は、0.004未満であることを示している。
年齢、性別、喫煙状態、BMI、2型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症を補正した多項ロジスティック回帰分析の結果、ハプログループN9bを代表する2個のmtSNPである11016G>A(ND4:Ser86Asn)、14893A>G(Cytb:syn)、およびハプログループB4bを代表する4820G>A(ND2:syn)の3個のmtSNPsが、心筋梗塞に抵抗性を示すことがわかった(P < 0.005)。一方、ハプログループMを代表するmtSNPである10398A>G(ND3:Thr114Ala)と8701A>G(ATP6:Thr59Ala)の2個のmtSNPsが、心筋梗塞に感受性が有ることがわかった(P < 0.005)。
【0048】
男性の場合には、年齢、喫煙歴、BMI、2型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症を補正した多項ロジスティック回帰分析の結果、ハプログループN9bを代表する2個のmtSNPである11016G>Aと14893A>Gが、心筋梗塞に抵抗性を示すことがわかった(各々P = 0.0006, P= 0.0007)。さらにハプログループN9b+Yを代表するmtSNPである5147G>Aは、心筋梗塞に対して抵抗性を示した。また、ハプログループB4bを代表するmtSNPである4820G>Aと6023G>Aは、男性の場合には、心筋梗塞に対して抵抗性があった(P < 0.05)。一方、ハプログループG1を代表するmtSNPである8200T>Cは、心筋梗塞に感受性があることがわかった(P = 0.034)。
【0049】
女性の場合には、ハプログループD4aを代表するmtSNPである10410T>Cは、心筋梗塞に感受性があることがわかった(P = 0.0012)。また、ハプログループD4aを代表する他の3個のmtSNPである15314G>A、8473T>C、14979T>C、ハプログループMを代表する3個のmtSNPである8701A>G、10398A>G、10400C>T、ハプログループBを代表するmtSNPである8272d9、およびハプログループN9aを代表するmtSNPである5231G>Aは、それぞれ心筋梗塞に対する危険性が高かった(P < 0.05)。
表14に示すように、ステップワイズ前向き選択法による解析結果を示した。
【0050】
【表14】

【0051】
表中、「*」は表1において示すように、12個のハプログループを代表させるために用いた多型マーカであることを示している。また、表中の太字で示したP値は、0.004未満であることを示している。
2個のmtSNP(11016G>A (N9a)、4820G>A (B4b))は、全対照者にとって心筋梗塞に抵抗性を示した(それぞれP = 0.0009, P = 0.0019)。10個のmtSNP(11016G>A, 4820G>A, 8793T>C, 856A>G,4850C>T, 9833T>C, 8200T>C, 10410T>C, 9296C>T and 15508C>T)の総合的な寄与は0.0197(上記10個の寄与率(R2)の総和)であった。
【0052】
男性の場合には、ハプログループN9bを代表するmtSNPである14893A>Gは、防御的な因子であった(P = 0.0005)。4個のmtSNP(14893A>G, 4820G>a, 8200T>C, 8793T>C)の総合的な寄与は0.0137(上記4個の寄与率(R2)の総和)であった。
女性の場合には、ハプログループD4aを代表するmtSNPである10410T>Cは、心筋梗塞に対する危険因子であった(P = 0.0012)。5個のmtSNP(10410T>C, 9296C>T, 10398A>G, 856A>G, 9833T>C)の総合的な寄与は0.0320(上記5個の寄与率(R2)の総和)であった。
【0053】
<考察>
我々は、12種類の主要なミトコンドリアハプログループと心筋梗塞との関係に付いて、2137名の日本人を対象とした大規模な関連解析を行った。年齢、性別、喫煙履歴、BMI、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症の有無で補正したところ、全対象者について、ハプログループN9bを持つ者は心筋梗塞の罹患率は有意に低値であった(P=0.0019)。特に、男性の場合には、ハプログループN9bは、心筋梗塞の罹患率は有意に低値であった(P=0.0007)。ハプログループN9bは、4カ所の多型(10607, 11016, 13183, 14893)で特徴付けられる。このハプログループは、東アジア全体で見ると、大変まれであり中国南部と韓国にはほとんど認められない。一方、土着の琉球人とアイヌ人を含めた日本人には最もよく認められる(非特許文献9)。
【0054】
遺伝子型タイピングに用いられる2個のmtSNPである11016G>Aと13183A>Gとを除くと、ハプログループN9bを特徴付けるほとんどのmtSNPは同義置換である(例えば、5147G>A, 10607C>T, 14893A>G 。非特許文献1)。ハプログループN9bを特徴付けるmtSNPのうち、心筋梗塞の危険性に関連する可能性のある機能的多型としては、2つの多型、すなわち11016G>A(ND4: Ser>Asn)と13183A>G(ND5: Ile>Val)がある。アミノ酸残基が、種の中で保存されているかどうか確認するために、この2個の多型について、mtSNPデータベースに登録された61種類の哺乳類のアミノ酸配列と比較した。13183A>G多型は、グランサム値(Grantham value)が29であり保存的置換であった(非特許文献11)。また、61種類の哺乳類の中で、この位置のアミノ酸は多様性があるために、機能的多型の一つである可能性は低かった。
【0055】
一方、11016G>A多型については、Ser>Asnはグランサム値は46であり、保存的置換としての値は高くなかった。しかし、61種類の哺乳類の中で、この位置のアミノ酸がセリンであったのは、3種類の生物種(ヒト、シロガオオマキザル、およびアフリカサバンナゾウ)で認められるのみであった。従って、セリンは、ヒトにとって特徴的なアミノ酸の一つである可能性が高い。
【0056】
ハプログループM7cは、2個の多型(4071, 4850)によって特徴付けられる。ハプログループM7cは、全対象者において、心筋梗塞が有意に低かった(P<0.05)。このハプログループは、中国全体では最も多様性が高いが(76%±11%)、アイヌでは存在せず、本州人には頻度が少ないが、マレーシアサバー州の住民とフィリピン人にはよく見られる(非特許文献9)。ハプログループM7cに属するHNsq0160は、9017T>C(グランサム値89のI164Tとなる)を伴い、百寿者に認められる。したがって、ハプログループM7cは、心筋梗塞に対抗し、長寿に関係が深いと思われる。
【0057】
本研究では、男性の場合には、ハプログループG1は、心筋梗塞の危険因子であった(P<0.05)。ハプログループGの本幹には、3個のmtSNPs(709, 4833, 5108)がある(非特許文献5、9)。近年、8200位と15497位のmtSNPsがハプログループG1の決定に用いられるようになった(非特許文献9、非特許文献19)。15323G>Aと15497G>Aは、Cytbに非同義置換を生じる多型であり、これらが機能的な多型である可能性がある。15323G>Aにより生じるAla193Thrと、15497G>Aにより生じるGly251Serの2つのアミノ酸置換のグランサム値は、それぞれ58、56である。CytbにおけるGly251は、61種類の哺乳類中、55種類で保存されている。国立長寿研究所の加齢研究(NILS−LSA)で行われた研究によれば、15497G>Aは、中年・初老日本人対象における肥満に関係があった(非特許文献12)。
【0058】
また、本発明者らの研究成果によれば、年齢と喫煙状態の補正をすると、女性の場合には、体重、BMI、ウエスト・ヒップ比、脂肪量、脂肪のない量(fat-free mass)、腹腔内脂肪、中性脂肪は、15497G型に比べると、15497A型の方が有意に増加していた。また、血糖とヘモグロビンAlcには違いが見られなかったが、血清中インシュリン量は、15497G型より15497A型の方が20%高値であった。したがってこれらの観察では、15497Aは、高血圧、高血糖、高コレステロール血症を伴わない単純肥満と関係があることが示唆された。したがって、Cytb遺伝子の15497G>A多型は、不完全なサイトクロムb分子を形成し、エネルギー代謝の減少を引き起こすような、重要な多型である可能性がある。
【0059】
15498G>A多型によるGly251Asp置換は、病的であると言われている。この位置のグリシンがアスパラギン酸に変わると、複合体IIIのユビキノン結合部位のQp部位の残基であるGlu271によって、電気的な斥力を生じることになる(非特許文献13、14)。そうすると、Qp部位の構造を変化させ、ヒドロキノン結合が弱くなる。15497G>Aにより生じるGly251Ser置換は、Glu271による斥力を生じることにならないが、この置換はQp部位のユビキノンとの結合に影響を与える可能性が高い。
【0060】
本研究の当初の目的は、心筋梗塞に対抗する或いは危険性のあるハプログループを明らかにする事であった。しかし、我々が予想しなかった事に、サブハプログループB4b、D4a、マクロハプログループMで示されるmtSNPが心筋梗塞に関連している事が示唆された。厳格な基準(P>0.005)で選んだ多型の中には、サブハプログループB4b、D4a、マクロハプログループMと心筋梗塞との間に有意な関連が示された。心筋梗塞・冠動脈疾患を含む心疾患と、核DNAの変異との間の関係を評価した報告が多く認められる。現在までに、心筋梗塞と関係のある多くの遺伝子(例えば、connexin 37, plasminogen-activator inhibitor type 1, and stromelysin-1遺伝子など)が報告されている。冠動脈疾患の遺伝的リスクを診断するシステムが、これらの核DNA多型を基礎として展開されている(非特許文献15)。mtDNAと核DNAとの多型が、心筋梗塞の予測をする情報を与えることが判明し、それによって、この疾患の一次予防に有用であろう。
【0061】
近年、脳梗塞などの動脈硬化性疾患とミトコンドリア多型やハプロタイプの関係を論じた報告が散見される。Finnilaらは、コンホメーション感受性ゲル電気泳動(conformation sensitive gel electrophoresis:CSGE)とダイレクト・シークエンス法を用いることによって、患者群と対照群のmtDNAのコード領域の全塩基配列を決定し、12308A>G多型によって見いだされるハプログループUが、偏頭痛において後頭葉発作のリスクの構成要素になることを示した(非特許文献16、17)。
【0062】
我々の大規模研究によれば、男性の場合には、ハプログループN9bは心筋梗塞の発症が有意に低くなる保護因子であった。一方、女性の場合には、そのような関係は見られなかった。この理由については、現段階では不明である。
一般的に、女性が冠動脈疾患や心筋梗塞に罹患する危険性は男性の危険性に比べると10歳程度の遅れがあることから考えると、同世代の男性と女性が心臓疾患に罹患する理由は異なっているのかも知れない。性ホルモンであるエストロゲンは、血管壁や血管運動神経系に対して、NOやPGI2の生産、血管内皮細胞からのエンドセリン1の放出抑制などの好ましい影響を及ぼす(非特許文献20)。このため、エストロゲンなどの性ホルモン量が男女で異なることにより、心筋梗塞に関与するmtSNPが男性と女性とで異なるのかも知れない。
【0063】
最近数年間の間に、心筋梗塞と核DNAにコードされる遺伝子中の多型との関係を調べた報告が相次いでいる(非特許文献15)。対象となった遺伝子としては、例えばシクロオキシゲナーゼ2(非特許文献21)、ロイコトリエンA4ヒドロゲナーゼ(非特許文献22)、5−リポキシゲナーゼ活性化蛋白質(非特許文献23)、リンフォトキシンα(非特許文献24)、LGALS2コード化ガレクチン2(非特許文献25)、細胞骨格蛋白パラディン、チロシンキナーゼ、2つのGタンパク結合受容体(非特許文献26)などがある。また、初期の心筋梗塞と遺伝子中の多型との関係を調べた報告として、対象とされた遺伝子には、血小板脱顆粒中のVAMP8、リボ核蛋白をコードするHNRPUL1(非特許文献27)、プラスミノーゲン・アクチベータ・インヒビター・タイプ1(非特許文献28)、血清マトリックスメタロプロテアーゼ3(非特許文献29)がある。そうすると、mtDNAの多型と核DNAの多型との両者が、心筋梗塞などの冠状動脈疾患に対する遺伝的リスクを評価するために役立ち、疾患の一次予防に寄与すると思われる。
このように、本実施形態によれば、mtDNAのハプログループを検出することにより、心筋梗塞の遺伝的危険度を予測することができる。このことにより、心筋梗塞の予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【0064】
【非特許文献1】Anderson S, Bankier AT, Barrell BG, de Bruijn MH, Coulson AR, Drouin J, Eperon IC, Nierlich DP, Roe BA, Sanger F, Schreier PH, Smith AJ, Staden R, Young IG (1981) Sequence and organization of the human mitochondrial genome. Nature 290: 457-65
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【非特許文献22】Helgadottir A, Manolescu A, Helgason A, Thorleifsson G, Thorsteinsdottir U, Gudbjartsson DF, Gretarsdottir S, Magnusson KP, Gudmundsson G, Hicks A, Jonsson T, Grant SF, Sainz J, O'Brien SJ, Sveinbjornsdottir S, Valdimarsson EM, Matthiasson SE, Levey AI, Abramson JL, Reilly MP, Vaccarino V, Wolfe ML, Gudnason V, Quyyumi AA, Topol EJ, Rader DJ, Thorgeirsson G, Gulcher JR, Hakonarson H, Kong A, Stefansson K (2006) A variant of the gene encoding leukotriene A4 hydrolase confers ethnicity-specific risk of myocardial infarction. Nat Genet 38: 68-74
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【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】Luminex100で検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示す図である。
【図2】PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示す図である。
【図3】mtSNPに基づくハプログループ分類を示す図(1)である。図の下端には、ハプログループ及びサブハプログループを示している(図4及び図4においても同じである)。
【図4】mtSNPに基づくハプログループ分類を示す図(2)である。
【図5】mtSNPに基づくハプログループ分類を示す図(3)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトミトコンドリアDNAにおいて、11016A、14893Gを有するハプログループN9bと、709A、4833G、5108C、8200C、15497Aを有するハプログループG1と、4820Aを有するサブハプログループB4bと、10398G、8701G、10400Tを有するハプログループMと、6023Aを有するサブハプログループB4b1a1と、8793Cを有するサブハプログループM10と、10410C、15314Aを有するサブハプログループD4aと、856Gを有するD4d1bと、8856Aを有するサブハプログループB5b3と、15860Gを有するサブハプログループG1aと、9296Tを有するサブハプログループD4b2bと、2766Tを有するサブハプログループD4d1と、5147Aを有するサブハプログループYと、9833Cを有するサブハプログループD4k2と、15508Tを有するサブハプログループB5bとを検出することを特徴とする心筋梗塞に関する遺伝子検出方法。
【請求項2】
前記ハプログループの検出方法が、PCR−SSOP−Luminex法であることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子検出方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−330149(P2007−330149A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165294(P2006−165294)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)12月14日 日本ミトコンドリア学会発行の「国際学術集会 ミトコンドリアと生命2007」に発表
【出願人】(597144060)
【出願人】(506023806)
【出願人】(399077674)G&Gサイエンス株式会社 (21)
【出願人】(597112472)財団法人岐阜県研究開発財団 (25)
【Fターム(参考)】