説明

心臓同期不全を定量化するシステムおよび方法

一実施形態では、心臓同期不全を定量化するシステムおよび方法は、心臓が鼓動するにつれて時間に渡って心臓の画像を捕捉し、捕捉された画像から、心筋層の離散した部位について、その各々が時間の関数としての心機能パラメータに関わるものである心機能プロファイルを生成し、生成された心機能プロファイル上で相互相関を行って、心臓同期不全の度合いを示す時間遅延であって心機能プロファイルが時間的に最も近く相関する時間遅延を同定する相互相関関数を作り出す、ことに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願へのクロスリファレンス]この出願は、2006年9月11日に出願され、シリアル番号第60/843,633を持つ、「心臓における収縮と弛緩の同期を定量化すること」と題された係属中の米国特許仮出願および2006年10月13日に出願され、シリアル番号第60/846,240を持つ、「心臓同期不全を定量化するシステムおよび方法」と題された係属中の米国特許仮出願の優先権を主張し、これら両方の全体をここに引用によって組み込む。
【背景技術】
【0002】
心臓再同期療法(CRT)は、深刻な心臓疾患をもつ多くの患者を治療するのに効果的であることが判明している。そのような療法では、「ペースメーカー」を使って心筋層を規則正しい周期的な間隔で収縮して、体の残りへの血液の送り出しをする。CRTが効果的であると信じられている1つの理由は、それが少なくとも部分的に、心臓の異なる部分が時間的に位相をずらして収縮するという現象である心臓同期不全を克服することである。そのような同期不全は、それが心臓の肥大化を引き起こすことによる慢性的な問題と、心臓が血液を送り出す効率をそれが低下させることによる急性の問題との両方であると信じられている。
【0003】
CRTが同期不全によって苦しんでいる心臓患者にとって有益であることができるとすると、そのような同期不全を顕現する患者を同定することができることが重要である。一時期には、同期不全は心電図(EKG)を行うことによって診断された。しかしながら、EKGは同期不全の存在についていくらか逸話的な証拠を提供するだけであることが判明している。従って、より最近では、心臓の離散したポイントの相対的速度を決めてそれらの部分の間に存在するあらゆる同期不全を同定するのに組織ドップラー速度撮像(TDI)が使われている。例えば、TDIは、左心室壁上の第一のポイントと、第一のポイントとは反対の左心室上の第二のポイントについての速度カーブを展開するのに使っても良い。一旦速度カーブが展開されると、心臓サイクルの収縮フェーズの間のカーブのピーク速度が比較され、2つのピークの間の時間差が同期不全の尺度として使われる。
【0004】
現行のTDIを使った同期不全診断は、EKGデータに対して行われた以前の診断よりもっと効果的であるが、現行の技術は、得られた結果が首尾一貫しないことがあるということでいくらか限定されている。特に、心臓の一領域から観察された収縮速度ピーク間の時間差は比較的高い同期不全を示し得る一方、心臓の他の領域から観察されたピーク間の時間差は比較的低い同期不全を示し得る。そのような一致しない結果の1つの理由は、ピーク収縮速度、即ち各速度カーブ方の単一のポイント、との関係だけで同期不全診断がなされていることにより得る。各カーブの単一のポイントだけを考慮することによって、ノイズの影響はより重大となり、分析の結果を歪め得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図中のコンポーネントは必ずしも実物大ではなく、代わりに本開示の原理を明確に説明することに強調が置かれている。図面において、同様の参照符号は対応する部分をいくつかの図を通して示す。
【図1】図1は、心機能に関わるデータを収集し、収集されたデータに対して同期不全を定量化するシステムの実施形態のブロック図である。
【図2】図2は、図1に示したコンピューターの実施形態のブロック図である。
【図3】図3は、心臓同期不全を定量化する方法の実施形態のフロー図である。
【図4】図4は、患者の心臓の2つの離散した位置についての速度カーブを示すグラフである。
【図5】図5は、図4の速度カーブに対して同期不全を定量化する相互相関関数を示すグラフである。
【図6】図6は、カーブの1つが図5の相互相関関数によって定量化された同期不全に対して時間に渡ってシフトされた後の図4の速度カーブを示すグラフである。
【図7】図7は、代表的な負の対照被験者についての速度カーブと相互相関関数を示すグラフからなる。
【図8】図8は、CRT前後の代表的な正の対照体についての速度カーブと相互相関関数を示すグラフからなる。
【図9】図9は、CRT前後の全ての正の対照被験者についての同期不全パラメータの値を示すグラフからなる。
【図10】図10は、全ての対照体グループ被験者についての同期不全パラメータの値を、同期不全を診断するのに使われた閾値と共に示すグラフからなる。
【図11】図11は、同期不全パラメータの受信機動作特性比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
前述した通り、現行の同期不全診断技術は、それらが収縮期の間のピーク心室壁速度における同期不全だけを考慮していることからいくらか限定されている。後述する通り、心臓サイクルの離散したポイントではなく、心臓サイクルの周期に対して同期不全が定量化されたシステムと方法が開示される。そのような方式の下では、ノイズの影響が削減し得て、同期不全のより正確な定量化を獲得し得る。いくつかの実施形態では、考慮される周期は1つ以上の完全な心臓サイクルからなる。他の実施形態では、1つ以上の収縮フェーズや1つ以上の拡張フェーズにような、心臓サイクルの1つ以上の部分が考慮される。以下に更に詳しく記載される通り、対象となる周期に関わるプロファイルの相互相関を行って、存在するあらゆる同期不全を示す時間値を決めることができる。いくつかの実施形態では、その時間値はそれからテスト被験者から取られた経験的なデータと比較して、患者がCRTについての良い候補であるかないかを決定をすることができる。
【0007】
心臓同期不全を定量化するシステムと方法の様々な実施形態が以下に記載される。特定の実施形態が記載されるが、これらの実施形態はシステムと方法の単なる例示的実装であって、他の実施形態も可能であることに注意されたい。そのような全ての実施形態はこの開示の範囲内に入ることが意図されている。
【0008】
図1は、それにより心機能が評価できる例示的システム100を描いている。図1に示されるように、システム100は全体的には心臓データ収集システム102とコンピューター104からなり、データをデータ収集システムからコンピューターに送ることができるようにそれらは結合されている。例として、システム100は、ローカルエリアネットワーク(LAN)やワイドエリアネットワーク(WAN)のようなネットワークの一部からなる。
【0009】
その名前が示唆するように、心臓データ収集システム102は、心臓の機能についてのデータを収集するように構成されている。より特定には、データ収集システム102は、心臓が鼓動するにつれての心筋層の収縮に関するデータを収集するように構成されている。いくつかの実施形態では、データ収集システムは、心臓サイクル中の心筋層の離散した部位の動きを同定する手段として、時間に渡って心臓の画像を捕捉するように構成された撮像システムからなる。そのような撮像システムは、それにより比較的高い解像度の画像を捕捉することができる実質的にあらゆる形の撮像システムからなることができる。例には、組織ドップラー速度撮像(TDI)システム、磁気共鳴撮像(MRI)システム、コンピューター断層(CT)撮像システムが含まれる。
【0010】
後述する通り、コンピューター104、より特定にはコンピューター上に提供されたソフトウェアは、心臓データ収集システム102によって収集されたデータを受け取り、そのデータを評価して心臓同期不全を定量化するように構成されている。注意すべきことに、データ収集システム102とコンピューター104は図1では別々のコンポーネントとして描かれているが、もし望ましければ、2つのコンポーネントおよび/またはそれらのそれぞれの機能性の1つ以上は単一のシステムまたはマシーンに一体化されることができる。
【0011】
図2は、図1に示したコンピューター104の例示的アーキテクチャを描いたブロック図である。図2のコンピューター104は、処理装置200と、メモリ202と、ユーザインターフェース204と、各々がローカルインターフェース208に接続された少なくとも1つの入出力装置206からなる。
【0012】
処理装置200は、中央処理ユニット(CPU)またはマイクロチップの形状の半導体ベースのマイクロプロセッサを含むことができる。メモリ202は、揮発性メモリ素子(例えば、RAM)および不揮発性メモリ素子(例えば、ハードディスク、ROM,テープ等)の組合せのいずれか1つを含む。
【0013】
ユーザインターフェース204は、それによりユーザがコンピューター104と相互作用するコンポーネントからなり、従って例えば、キーボードと、マウスと、液晶ディスプレイ(LCD)モニターのようなディスプレイからなり得る。1つ以上の入出力装置206は他の装置またはシステムとの通信を容易にするように適応されており、変調器/復調器(例えば、モデム)、無線(例えば、ラジオ周波数(RF))送受信機、ネットワークカード等のような1つ以上の通信コンポーネントを含み得る。
【0014】
メモリ202は、オペレーティングシステム210、心臓プロファイル生成システム212、同期不全定量化システム214を含んだ様々なソフトウェアプログラムからなる。オペレーティングシステム210は、他のプログラムの実行を制御し、スケジューリング、入出力制御、ファイルおよびデータ管理、メモリ管理、通信制御および関連サービスを提供する。心臓プロファイル生成システム212は、時間に渡って心臓の機能に関する心機能プロファイルまたはカーブを生成する。例として、心臓プロファイル生成システム212は、心臓データ収集システム102によって収集されたデータから、速度プロファイル、変位プロファイル、ひずみレートプロファイル、またはひずみプロファイルを生成する。いくつかの実施形態では、左心室のような心臓心室の壁の離散した部位に関わるデータに対してプロファイルが生成される。
【0015】
同期不全定量化システム214は、心臓プロファイル生成システム212によって生成された機能プロファイルを受け取るように構成されている。図2の実施形態では、同期不全定量化システム214は、受け取ったプロファイルを相互相関させて、同期不全を示す時間遅延であるプロファイル間の時間遅延を決める相互相関器216からなる。いくつかの実施形態では、相互相関器216は、その最大値が時間遅延を同定する相互相関関数を生成する。相互相関が特に記載されているが、収集されたデータを使って同期不全を定量化するのに、他の数学的テクニックを使うことも出来ることは理解されたい。そのような他のテクニックの例は、Granger因果性、指向性伝達関数、直接指向性伝達関数、短時間指向性伝達関数、二変量(bivariate)コヒーレンス、部分的指向性コヒーレンスを含む。
【0016】
ここには様々なプログラム(即ち、ロジック)が記載されている。これらのプログラムは、あらゆるコンピューター関連システムまたは方法による、またはそれとの繋がりでの使用のためのあらゆるコンピューター読み取り可能な媒体上に格納することができる。この文書の文脈では、コンピューター読み取り可能な媒体は、コンピューター関連システムまたは方法による、またはそれとの繋がりでの使用のためのコンピュータープログラムを含んだ、または格納した、電子的、磁気的、光学的、またはその他の物理的装置または手段である。これらのプログラムは、コンピューターベースのシステム、プロセッサを含んだシステム、または命令実行システム、装置またはデバイスから命令をフェッチして命令を実行することができるその他のシステムのような、命令実行システム、装置またはデバイスによる、またはそれとの繋がりでの使用のためのあらゆるコンピューター読み取り可能な媒体に具現することができる。
【0017】
例示的システムが上述されたので、ここでシステムの動作を説明する。以下の説明において、フロー図が提示される。そのフロー図中のプロセスステップまたはブロックは、プロセス中の特定の論理機能またはステップを実装するための1つ以上の実行可能な命令を含むモジュール、セグメント、またはコードの一部を表し得ることに注意されたい。特定の例示的プロセスステップが記載されるが、代替的な実装も可能である。しかも、ステップは、関わる機能性によっては、実質的に同時または逆順を含む、示されたまたは説明されたものから外れた順序で実行されても良い。
【0018】
図3は、同期不全を定量化する方法の実施形態を描いている。ブロック300から始まり、例えば心臓データ収集システム102(図1)によって、心機能に関わるデータが収集される。例として、データは、1つ以上の完全な心臓サイクル、1つ以上の収縮フェーズ、または1つ以上の拡張フェーズのような、心臓サイクルの所定の部分の間に時間に渡って捕捉された心臓の画像からなる。いくつかの実施形態では、画像は1つ以上の先端の2−、3−、および4−室ビューから捕捉される。
【0019】
次に、ブロック302を参照して、例えば心臓プロファイル生成システム212(図2)によって、収集されたデータから心機能プロファイルが生成される。いくつかの実施形態では、プロファイルは、その機能が生命を脅かす同期不全を最も示し得る、例えば左心室の対向する壁上に位置するポイントのペアのような、心筋層壁の離散した部位のペアとの関係で生成される。例として、プロファイルは左心室壁の底部セグメントに対して生成される。
【0020】
いくつかの実施形態では、プロファイルは、時間に対する対象となる心筋層部位の速度を同定する速度プロファイルまたはカーブからなる。そのような速度カーブの例が図4に提示されている。その図に示されるように、1000ミリ秒(ms)の周期について2つの速度カーブがプロットされており、各カーブは心筋層の壁(例えば左心室壁)上の2つの対向するポイントの1つに関わっている。図4から明白であるように、2つのカーブは同様の時間の関数であるが、心臓同期不全のために位相がずれている。
【0021】
他の実施形態では、プロファイルはもう1つの心機能パラメータに関連している。例えば、プロファイルは、心筋層の離散した部位の位置を時間の関数として同定する変位プロファイルまたはカーブからなることができる。そのようなカーブは、速度カーブの積分を行うことで生成することができ、それはデータ捕捉プロセスに付随するノイズを除去し得る。もう1つの例として、プロファイルは、心筋層の離散した部位のひずみレートを時間の関数として同定するひずみレートプロファイルまたはカーブからなることができる。そのようなカーブは、心筋層壁の隣接する部位の速度の比較を通して、それらの壁に適用できるひずみレートを推定することで生成することができる。更なる例として、プロファイルは、心筋層の離散した部位のひずみを時間の関数として同定するひずみプロファイルまたはカーブからなることができる。そのようなカーブは、ひずみレートカーブの積分を行うことで生成することができる。
【0022】
心機能プロファイルが関わる特定のパラメータに拘わらず、ブロック304に示されるように、例えば同期不全定量化システム214、より特定には相互相関器216(図2)によって、それからプロファイル上で相互相関が行われる。そのようなプロセスでは、相互相関関数Cxy(m)が、様々な時間的遅延、m、についての心機能プロファイルのペアの間で、以下の関係に従って計算される:
【数1】

【0023】
ここでxとyは2つの心機能プロファイルの心筋層パラメータ(例えば、速度)ベクトルであり、Nはデータポイントの数、mは整数である。ブロック306に示されるように、その関係を使って、mの各値についての相互相関を計算して、相互相関関数を生成することができる。図5は、図4に示した2つの速度カーブの相互相関から得られる例示的相互相関関数(図5の部分A参照)を描いている。相互相関関数は、複数のデータポイントから形成され、各データポイントはmの異なる値における2つのカーブの間の相関のレベルを表している。従って、本質的には、相互相関関数は、多数の時間遅延におけるカーブを比較することによって生成されて、2つのカーブが最も近く相関する時間遅延を同定する。
【0024】
次いで図3のブロック308を参照すると、相互相関関数について最大相関時が決められる。その行為は、単純に相互相関関数の最大値を同定することによって行うことができる。図5の例では、その最大は約98ミリ秒(ms)で起こる(図5の部分B参照)。従って、図4の2つの速度カーブで表された心筋層の2つの部位は、約98msで同期から外れている、または同期不全となっている。
【0025】
図6は、カーブの1つ(即ち、実線のカーブ)が最大相関時に等しい量、即ち98ms、同期不全の時間遅延定量化、でもって時間においてシフトされた後の図4の速度カーブを示す。図6から明らかなように、カーブはそのようなシフトの後では実質上時間的にお互い整合しており、これにより相互相関を通して決められた時間遅延が確認される。
【0026】
時間遅延が決められた後、それは様々なテスト被験者から収集された経験的データおよび/または計算されたデータと比較されて、評価されている患者が心臓再同期療法(CRT)によって恩恵を受け得るか受け得ないかを決めることができる。いくつかの実施形態では、それを越えるとCRTが推薦される閾値時間遅延を確立することができる。そのような閾値は、例えば負と正の対照体、即ち、健康な被験者とCRTによって恩恵を受けた心臓疾患被験者、を参照して同定することができる。他の実施形態では、相関分析から導出された相関値は、CRT決定を行う助けとして使用することができる。そのような値は、+1が完璧な相関、−1が完璧な逆相関であるとして、+1から−1の間の範囲にあることができる。
【0027】
同期不全決定は、心筋層壁の対向するポイントの単一のペアよりも多くに対して行うことができることに注意されたい。例えば、同期不全の「大域的」推定は、ポイントの多数のペア間の時間遅延を計算し、それからそれらの時間遅延を平均化することによって決めることができる。他の実施形態では、時間遅延をポイントの多数のペアについて計算することができ、最大時間遅延をCRTを処方するかどうかについての決定に使用することができる。更なる実施形態では、時間遅延をポイントの多数のペアについて計算することができ、CRTを処方するかどうかを考慮する際にそれらの時間遅延に異なる加重を割り当てることができる。
【0028】
同期不全の大域的推定に加えて、同期不全の「局所的」推定を行うことができる。例えば、心筋層壁上のポイントのペアについて多数の局所プロファイルを生成することができ、局所プロファイルは大域的プロファイルを展開するように平均化され、それから個々の局所プロファイルは大域的プロファイルと相互相関されて、心臓の各局所領域についての同期不全の表示を提供する。そのような同期不全の局所的推定は、ペースメーカーのペーシングワイヤを設置する場所、例えば最新の活性化の領域、を決めるにあたって医師を援助し得る。
【0029】
心機能プロファイルを生成するにあたって様々な異なる時間周期を考慮することができることに更に注意されたい。いくつかの実施形態では、時間周期は1つの完全な心臓サイクルからなる。代替的に、時間周期は2つ以上の連続した完全な心臓サイクルからなることができる。更に他の実施形態では、時間周期は1つの収縮期または拡張期フェーズ、多数の収縮期フェーズ、または多数の拡張期フェーズからなる。多数の収縮期または拡張期フェーズが考慮されるときには、各フェーズのプロファイルは、例えば相互相関することができる平均化されたプロファイルを作り出すように互いに平均化されることができる。
【0030】
上述したやり方で相互相関を使って心臓同期不全を定量化することの恩恵を確認するように試験が行われた。試験においてテストされた被験者および使われた方法が、以下に記載される。
【0031】
エモリー大学クロフォードロング病院においてCRTを受けた患者のデータベースから、11人の正の対照体が同定された。含める判断基準は、(1)ベースラインにおけるCRTから3ヶ月後のTDIと2次元心エコー検査、(2)6分間ホール歩行、ミネソタ心不全持ち生存のアンケート(Minnesota Living with Heart Failure questionnaire)に基づいた生存品質スコアとニューヨーク心臓協会分類(New York Heart Association (NYHA) classification)を含んだベースラインにおけるCRTから3ヶ月後の臨床的評価、(3)ペースメーカー移植から3ヶ月後の少なくとも15%の左心室(LV)収縮終期容積の減少によって規定されるCRTへの肯定的反応、であった。全ての患者は、駆出率<35%、QRS持続時間≧120msという標準CRT選択基準と、NYHAクラスIIIまたはIV心不全に合致する。心房細動または慢性的右心室(RV)ペーシングを有する患者は除外されなかった。患者は、平均年齢68±14才で、11人中8人は男性であった。5人の患者は虚血性病因を有し、4人はベースラインに右心室ペースメーカーを有し、1人の患者は心房細動を有していた。
【0032】
心臓疾患の既知の履歴がなく、正常な2次元心エコー検査と正常な12誘導心電図を有する12人の成人ボランティア(平均年齢29±7才)が、負の対照体として同定された。
【0033】
駆出率は、変形シンプソンルール(modified Simpson’s rule)を使って定量化された。収縮終期および拡張終期寸法は、Mモード胸骨傍短軸乳頭中央画像(N-mode parasternal short axis mid-papillary images)から測定された。僧坊弁逆流は、先端の2−および4−室ビューからのカラーフロードップラー(color flow Doppler)上のジェットの平均面積として、また両ビューにおけるジェットの左心房面積に対する比として定量化された。
【0034】
心筋層の先端の2−、3−および4−室組織ドップラー画像は、Vivid 7 system (GE Vingmed, Horten, Norway)によって取得された。心筋層壁は、インソネーション(insonation) 角度を最小化するようにドップラービームと平行に揃えられ、フレームレートは100から140ヘルツ(Hz)に最適化された。大動脈流出路のパルス化されたドップラー画像が、後処理のために取得された。
【0035】
全ての調査は、独立した心臓病専門医によって技術的に妥当であることが確認された。EchoPAC PC後処理ソフトウェア(Version 4.0.3, GE Vingmed, Horten, Norway)が、TDIデータから速度カーブをエクスポートするのに使用された。平均速度カーブは、時間対ピーク(Times-to-peak)を測定する前の速度データの3回の心臓サイクルから生成された。大動脈流出路のパルス化されたドップラーが、収縮期を規定するのに使われた。心筋層速度データは、LVの12個の底部および壁中央セグメントからエクスポートされた。
【0036】
時間対ピーク収縮期速度は、MatLab定量分析ソフトウェア(Version 7.10, MathWorks, Inc., Natick, MD)で書かれたコンピュータープログラムによって自動的に同定された。プログラムは、EchoPACソフトウェアから速度カーブと大動脈弁開閉をインポートし、駆出フェーズにおけるQ−波から最大速度までの時間をエクスポートした。これは、ピーク速度の選択における観察者の偏見によるあらゆるエラーを排除するためになされた。
【0037】
これらの時間対ピーク値から3つの公表された同期不全パラメータが計算された:(1)時間対ピーク収縮期速度における底部の隔壁−側方(septal-to-lateral)遅延(SLD)、(2)底部、隔壁、側方、前方、下方LVセグメントのいずれか2つの間の時間対ピーク収縮期速度における最大差(MaxDiff)、(3)LVの12個の底部および壁中央セグメントにおける時間対ピーク収縮期速度の標準偏差(Ts−SD)。
【0038】
速度データの3つの連続したサイクルは、6個の標準LV壁(4−室ビューにおける隔壁および側方壁、3−室ビューにおける隔壁前方および背面壁、2−室ビューにおける前方および下方壁)の底部セグメントからエクスポートされた。速度カーブは、MatLabにインポートされた。正規化された相互相関スペクトルは、1つのカーブを他のカーブに対して時間上でシフトし、各時間シフトについてカーブ間の正規化された相関を計算することによって、2つの速度カーブ間で計算された。1という正規化された相関値は従って2つのカーブが完璧に時間上で同期していたことを意味する一方、−1という値は2つのカーブが完全に同期不全であったことを意味する。最大相関値に結果としてなった二つのカーブ間の時間シフトは、2つのカーブ間の時間的遅延として規定された。この時間的遅延は、各先端ビューにおける対向する底部心室セグメントから計算された(即ち、相互相関スペクトルから導出された時間的遅延が、隔壁対側方底部速度カーブ、前方対下方底部速度カーブ、前方隔壁対背面底部速度カーブについて計算された)。大域的同期不全は、これら3つの時間的遅延の最大絶対値として規定された。この最大遅延は相互相関遅延(XCD)と呼ばれる。
【0039】
SLD、MaxDiff、Ts−SDは、XCDを計算するのに使われたのと全く同じ速度カーブにより計算された。同期不全パラメータは、2つの判断基準によって比較された:(1)数値的閾値により正と負の対照体の間を区別する能力、(2)CRT(移植から3ヶ月後に定量化された)による同期不全の削減を検出する能力。
【0040】
SPSS Version 14.0 (SPSS Inc., Chicago, IL)が、パラメータの正と負の対照体の間を区別する能力の尺度としての受信機動作特性(ROC)カーブ下の面積を計算するのに使われた。ROCカーブ下の面積は、HanleyとMcNeilによって記載された方法を使って統計的に比較された。正と負の対照体における各パラメータの平均値は、ペア化されていない(unpaired)t-testにより比較された。同期不全のベースラインおよびCRT後3ヶ月の値は、ペア化された(paired) t-testを使って各パラメータについて比較された。p<0.05の値が、統計的に有意であると規定された。観察者内および観察者間再現性を定量化するために、XCDは、全ての被験者において同じ観察者によって2回、独立した観察者によって1回定量化された。
【0041】
負の対照体における平均観察者間および観察者内再現性は、それぞれ0.3±0.8%と0.5±1%であった。表1は、各パラメータによる平均同期不全と同期不全を顕現する負の対照体の割合を示す。SLD、MaxDiff、Ts−SDは、12人の負の対照体の中からそれぞれ6人、7人、6人の同期不全を示した。XCDは、0人の対照体に同期不全を示した。図7は、XCDを除く全てのパラメータによる同期不全を顕現した代表的な負の対照体の例を示す。
【表1】

【0042】
正の対照体における平均観察者間および観察者内再現性は、それぞれ6.1±8.7%と5.9±8.8%であった。表2は、CRT前と3ヶ月後の両方の正の対照体グループの平均同期不全、心エコー診断および臨床的特性を報告する。患者は、LV収縮終期容積、LV拡張終期容積およびNYHA機能クラスにおいて、顕著(p<0.05)な下落を示した。患者はまた、LV駆出率および生存品質において顕著(p<0.05)な上昇を示した。平均僧坊弁逆流は減少したが、下落は顕著ではなかった。同様に、平均6分間ホール歩行距離は増加したが、顕著ではなかった。
【表2】

【0043】
XCDは、ベースラインから二心室(biventricular)ペースメーカー移植から3ヶ月後までに顕著な低下(57%)を示した唯一の同期不全パラメータであった。SLD、MaxDiff、Ts−SDのそれぞれについて3人、4人、4人だけであったのと対照的に、11人の正の対照体中10人は、CRTから3ヵ月後にXCDの減少を示した。図8は、CRTに続いてXCDの減少を顕現した代表的な正の対照体の例を示す。図9は、(CRT前と3ヶ月後の両方の)全ての正の対照体についての各同期不全パラメータの値を示す。SLD、MaxDiff、Ts−SDについての(表1に報告された)公表された閾値によると、それぞれ合計11人の正の対照体中4人、6人、11人が同期不全を示した。
【0044】
XCDとTs−SDは、正と負の対照体において顕著に異なった(それぞれp<0.0001とP=0.0001)。SLDとMaxDiffは、正と負の対照体グループの間で顕著に異ならなかった(それぞれp=0.754とP=0.195)。図10は、全ての正と負の対照体についての各同期不全パラメータの値を、同期不全を診断するのに使われた閾値を共に示す。
【0045】
図11は、同期不全パラメータのROC比較を示す。XCDとTs−SDは、正と負の対照体の間で顕著な区別を実証した唯一のパラメータであった(両方p<0.0001)。XCDとTs−SDの両方は、SLDとMaxDiffのそれよりも顕著に高いROCカーブ下の面積を有していた(4つの比較全てについてp<0.01)(図11)。ROC分析は、31msという閾値XCDが、全ての同期不全パラメータの最も高い感度と特異性を有していたと決定した(それぞれ100と100%)(表1)。
【0046】
上記から理解できるように、本開示のシステムと方法は、現行の技術よりも高い正確さで同期不全を定量化するのに使用することができる。各心機能(例えば、速度)プロファイルの単一のポイントを比較する代わりに、心機能の与えられた時間周期についてのプロファイルの何十または何百のポイントを評価して、考慮に入れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓同期不全を定量化する方法であって、
心臓が鼓動するにつれて時間に渡って心臓の画像を捕捉し、
捕捉された画像から、心筋層の離散した部位について、その各々が時間の関数としての心機能パラメータに関わるものである心機能プロファイルを生成し、
生成された心機能プロファイル上で相互相関を行って、心臓同期不全の度合いを示す時間遅延であって心機能プロファイルが時間的に最も近く相関する時間遅延を同定する相互相関関数を作り出す、
ことからなる方法。
【請求項2】
画像を捕捉することは、組織ドップラー速度撮像を使って画像を捕捉することからなる、請求項1の方法。
【請求項3】
心機能プロファイルは、1つ以上の完全な心臓サイクルに渡る画像データとの関係で生成される、請求項1の方法。
【請求項4】
心機能プロファイルは、1つ以上の収縮期間に渡る画像データとの関係で生成される、請求項1の方法。
【請求項5】
心機能プロファイルは、1つ以上の拡張期間に渡る画像データとの関係で生成される、請求項1の方法。
【請求項6】
心機能プロファイルを生成することは、第一の心筋層壁上の第一のポイントと、第一の心筋層壁と反対の第二の心筋層壁上の第二のポイントについて心機能プロファイルを生成することからなる、請求項1の方法。
【請求項7】
心機能プロファイルを生成することは、左心室の対向する壁上の2つのポイントについて心機能プロファイルを生成することからなる、請求項1の方法。
【請求項8】
心機能プロファイルを生成することは、速度プロファイル、変位プロファイル、ひずみレートプロファイル、またはひずみプロファイルの1つを生成することからなる、請求項1の方法。
【請求項9】
心臓同期不全を定量化する方法であって、
第一の心筋層壁の第一のポイントについて、時間の関数としての第一のポイントの速度を示す第一の速度プロファイルを生成し、
第一の心筋層壁と反対の第二の心筋層壁上の第二のポイントについて、時間の関数としての第二のポイントの速度を示す第二の速度プロファイルを生成し、
第一と第二の速度プロファイル上を相互相関させて、その最大値が速度プロファイルが時間的に最も近く相関する時間遅延を同定する相互相関関数を作り出し、
心臓同期不全の度合いを示す時間遅延を同定する、
ことからなる方法。
【請求項10】
第一と第二のポイントは、左心室の対向する壁上のポイントである、請求項9の方法。
【請求項11】
心筋層壁上の他のポイントについての更なる速度プロファイルと、心筋層壁上の対向するポイントに関わる更なる速度プロファイルの相互相関するペアを生成して、多数の時間遅延を生成する、ことから更になる請求項9の方法。
【請求項12】
多数の時間遅延を平均化し、平均化された時間遅延を使って心臓同期不全を定量化する、ことから更になる請求項11の方法。
【請求項13】
システムを格納するコンピューター読み取り可能な媒体であって、
時間の関数としての心機能パラメータに関わる心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックと、
心機能プロファイル上で相互相関を行って、心臓同期不全の度合いを示す時間遅延であって心機能プロファイルが時間的に最も近く相関する時間遅延を同定する相互相関関数を作り出すように構成されたロジックと、
からなるコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項14】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、第一の心筋層壁上の第一のポイントについての第一の心機能プロファイルと、第一の心筋層壁と反対の第二の心筋層壁上の第二のポイントについての第二の心機能プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項15】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、1つ以上の完全な心臓サイクルに渡る心機能プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項16】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、1つ以上の収縮期間だけに渡る心機能プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項17】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、1つ以上の拡張期間だけに渡る心機能プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項18】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、左心室の対向する壁上のポイントに関わる心機能プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項19】
心機能プロファイルを受け取るように構成されたロジックは、時間の関数として心筋層の離散した部位の速度に関わる速度プロファイルを受け取るように構成されている、請求項13のコンピューター読み取り可能な媒体。
【請求項20】
その間心臓が鼓動している所定期間の間に心臓の画像を捕捉するように構成された撮像システムと、
撮像システムによって捕捉された画像データを受け取り、画像データに跨って時間に渡って心筋層の離散したポイントを追跡し、その各々が時間の関数としての心機能パラメータに関わるものである別々の心機能プロファイルを離散したポイントの各々について生成するように構成されたプロファイル生成システムと、
プロファイル生成システムによって生成された心機能プロファイルを受け取り、心機能プロファイルを相互相関させて、心臓同期不全の度合いを示す時間遅延であって心機能プロファイルが時間的に最も近く相関する時間遅延を決めるように構成された心臓同期不全定量化システムと、
からなるシステム。
【請求項21】
撮像システムは、組織ドップラー撮像システムである、請求項20のシステム。
【請求項22】
プロファイル生成システムは、離散したポイントの各々についての速度プロファイルを生成するように構成されている、請求項20のシステム。
【請求項23】
プロファイル生成システムは、1つ以上の完全な心臓サイクルについての心機能プロファイルを生成するように構成されている、請求項20のシステム。
【請求項24】
プロファイル生成システムは、1つ以上の収縮期間だけについての心機能プロファイルを生成するように構成されている、請求項20のシステム。
【請求項25】
プロファイル生成システムは、1つ以上の拡張期間だけについての心機能プロファイルを生成するように構成されている、請求項20のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−502412(P2010−502412A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528426(P2009−528426)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/078112
【国際公開番号】WO2008/033803
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(509071585)エモリー ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】