説明

心臓弁の機能を改善するデバイス及び方法

心臓弁の機能を改善するデバイス(器具)は、第1の形状と第2の形状とを有する。デバイスは、2つの接触点を含んでおり、第1の形状のときのデバイスは、2つの接触点間に、心臓弁の2つの交連間の距離に本質的に相当する距離を示し、第2の形状のときのデバイスは、接触点間の距離の増大を示す。デバイスは、第1の形状では、接触点と交連との間の接触を確立するように心臓弁に挿入されるように構成される。デバイスは、前記第1の形状から前記第2の形状へと移行可能であり、該デバイスは、第2の形状では、心臓の動作サイクル全体を通して弁組織に当接して延びるように構成される。デバイスは、心臓弁が閉じる能力を改善するために、交連間で心臓弁を伸張させることによって心臓弁の形状を変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、心臓弁の機能を改善することに関する。より詳細には、本発明は、様々な奇形や機能障害をもつ心臓弁を処置するデバイス(器具)及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
罹患した僧帽弁及び三尖弁は、しばしば置換又は修復を必要とする。僧帽弁若しくは三尖弁の弁尖又はそれらを支持する索状組織は、変性して弱くなることがあり、或いは弁輪が広がって弁の漏れをまねくことがある(機能不全)。弁尖及び索状組織は、石灰化/肥厚化して狭窄状態になる(順方向の流れを妨げる)ことがある。最終的に、弁は、心室内側の索状組織の挿入に頼る。心室の形状が変化すると、弁の支持体が機能しなくなり、弁が漏れる虞がある。
【0003】
弁の修復では、罹患した弁は、もとの位置に残され、弁の機能を回復するために外科的処置が実施される。心臓弁の機能を回復又は改善するために心臓弁を修復する、多数の手法がある。しばしば、弁輪のサイズを縮小させるために弁形成リングが使用される。そのリングは、弁輪の直径を縮小させ、弁尖を互いに正常に向き合わせる働きをする。人工リングを弁輪に取り付け、弁輪の襞形成(plicating)を補助するために、縫合が使用される。
【0004】
他の方法によれば、弁尖は、縫着又はクリップを用いて弁尖の自由縁のところで互いに取り付けられる。このことは、弁尖の取付部の両側に1つずつ、2つのオリフィスが作り出されることを意味する。これで、これら2つのオリフィスは、適正に閉じることができる。弁尖を互いに対して取り付けるクリップの一例が、米国特許第2004/0220593号明細書に開示されている。
【0005】
米国特許第6723038号明細書には、僧帽弁の機能を改善するデバイスが開示されている。1つのデバイスは、心臓弁の機能を改善するスプリント(splint)を含む。スプリントは、細長い部材を含んでおり、その細長い部材の両端が心臓壁を貫いて延びるよう、該部材が、心腔を横切って位置決めされるように構成されており、スプリントは、さらに、心腔の外側に位置決めされ、且つ心腔をまたぐ位置で細長い部材を固定するために該部材の両端に取り付けられるように構成された、第1及び第2のアンカー部材を含む。第1のアンカー部材は、心臓を圧縮することによって弁輪の形状を変化させるために、弁輪のすぐ近くにある心臓の第1の領域に接触するように構成された第1の部分を含む。弁輪の形状の変化は、心臓の機能を回復するのに役立つ。しかし、このデバイスを使用すると、細長い部材が血流内に留置されることになり、したがって、患者は、血流内での血栓形成を防ぐために生涯にわたって抗血栓治療を必要とすることになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、心臓弁機能の改善をもたらすために、より容易に達成される弁の修復を提供することである。本発明の特定の目的は、心臓弁を通る血流に干渉しない弁修復を達成することである。
【0007】
本発明の前述及び他の目的は、独立請求項に記載のデバイス及び方法を用いて達成される。本発明の好ましい諸実施例は、従属請求項から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ゆえに、弁輪と、弁尖と、隣接弁尖間の少なくとも第1及び第2の交連とを含む弁組織から構成される心臓弁の機能を改善するデバイスが提供される。該デバイスは、第1の形状と第2の形状とを有し、第1の接触点と第2の接触点とを含んでおり、第1の形状のときのデバイスは、第1の接触点と第2の接触点との間に、心臓弁の前記第1の交連と第2の交連との間の距離に本質的に相当する距離を示し、第2の形状のときのデバイスは、第1の接触点と第2の接触点との間の距離の増大を示す。第1の形状では、デバイスは、第1の交連のところで第1の接触点と弁組織との間に接触を確立し、且つ第2の交連のところで第2の接触点と弁組織との間に接触を確立するように心臓弁に挿入されるように構成される。デバイスは、心臓弁に挿入されたときに前記第1の形状から前記第2の形状へと移行可能であり、第2の形状では、該デバイスは、第1の接触点と第2の接触点との間のほぼその長さ全体に沿って、心臓の動作サイクル全体を通して弁組織に当接して延びるように構成される。
【0009】
デバイスは、該デバイスの第1の形状で心臓弁に挿入することができ、また該デバイスは、交連間で心臓弁を伸張させることによって、心臓弁の形状を変化させることができる。交連間で心臓弁を伸張させることは、弁尖の中央部分が互いに近付けられることを意味する。それによって、弁尖が心臓弁を適正に閉じる能力が改善される。
【0010】
本発明は、漏出している心臓弁の機能を改善する、単純な方法で使用できるデバイスを提供する。該デバイスは、弁尖が適正に閉じる能力を改善するために、心臓弁の幾何学的形状の変化を達成するように構成される。漏出している弁を処置するために心臓弁の形状を変化させる公知の方法が、心臓弁を圧縮することに焦点を合わせてきたのに対して、本発明は、心臓弁の開口方向に心臓弁を伸張させるために使用されることになるデバイスを提供する。ゆえに、本発明は、弁を圧縮する代わりに弁を特定の方向に伸張させることで弁の幾何学的形状の変化を達成することによって、漏出している心臓弁を処置できるという着想に基づく。
【0011】
デバイスは、該デバイスと心臓弁の2つの交連との間に接触を確立できるよう、心臓弁に嵌合するように設計された第1の形状を提供する。したがって、デバイスは、2つの接触点間に、心臓弁の2つの交連間の距離に本質的に相当する距離をもたらす。デバイスは、交連内に厳密に接触して留置される必要はなく、交連の近くで弁組織と接触することができる。したがって、デバイスの第1の形状のときの該デバイスの接触点間の距離が、厳密に交連間の距離に一致する必要はない。デバイスは、一時的にその第1の形状を呈する若しくは示すように圧縮又は拘束することができ、それによって、該デバイスに対する拘束が解放されたときに、該デバイスは、その第2の形状を呈する。別法として、デバイスが所定の2つの形状間を移行することもできる。
【0012】
幾何学的形状の変化を達成するために提供されるデバイスは、心臓弁を通る血流に干渉しないように心臓弁に適用することができる。デバイスは、ほぼ該デバイスの長さ全体に沿って心臓弁組織に当接させて留置することができる。このことは、デバイスが、時間が経つにつれて弁組織化することができ、それによって該デバイスが、血栓形成を引き起こす虞のある異物表面をもたらさないことを意味する。デバイスは、弁組織化するのに、初めに該デバイスの長さ全体にわたって弁組織に当接する必要がないこともある。ただし、デバイスの主要な部分は、弁組織に当接する必要があり、弁組織に当接しない部分は、最終的には弁組織化するためなどの目的で、弁組織に近接して留置されるべきである。
【0013】
さらに、デバイスは、心臓の動作サイクル全体を通して弁組織に当接するように構成される。このことは、デバイスが、弁組織化した場合に、心臓動作時の弁尖の運動を損なわないことを意味する。
【0014】
心臓の動作サイクル全体を通してほぼデバイスの長さ全体に沿って弁組織に当接するという要件を満たすデバイスには、いくつか考えられる形状がある。ただし、弁輪のところで心臓弁の動きが最小となるので、その第2の形状のときのデバイスが主に弁輪の弁組織に当接すべき又は弁輪に近接すべきであることが、当業者には理解されよう。デバイスと弁組織との間の当接を達成するいくつかの異なる実施例を以下に提示する。
【0015】
本明細書で使用する用語「交連」は、心臓弁の弁尖間の結合部位を意味する。
【0016】
第1の形状から第2の形状への移行が心臓弁の形状の変化を達成するよう、心臓弁との接触を確立するようにデバイスを構成することができる。したがって、第1の形状から第2の形状へと移行するときにデバイスが心臓弁を該デバイスとともに動かして心臓弁の形状を変化させるよう、デバイスは、心臓弁が該デバイスに取り付けられる又は緊定されるように構成される。
【0017】
デバイスは、弁組織に該デバイスを取り付ける固定手段をさらに含むことができる。固定手段は、デバイスの形状の移行が起こる前に該デバイスを弁組織に取り付けるように構成することができる。このことが、弁組織をデバイスに固定し、それによって弁組織がデバイスの形状変化に従うことになる。
【0018】
固定手段は、例えば、弁組織に係合するようにデバイスから延びるように構成された、バーブ又はフックとすることができる。
【0019】
固定手段は、デバイスの接触点のところに配置することができる。このことは、デバイスを心臓弁の交連に取り付けることができ、また接触点間の距離の変化が交連間の距離を変化させることになることを意味する。
【0020】
デバイスは、固定手段を提供するように、接触点のところをフック形とすることができる。これらのフックは、デバイスを弁尖に掛着させるために、交連のところで弁尖の上側と下側の両方に係合することができる。
【0021】
別法として、デバイスは、弁組織に該デバイスを取り付ける固定手段を受けるように構成された部分を含むこともできる。デバイスは、例えば、クリップや縫合を用いて弁組織に取り付けることができる。
【0022】
固定手段を受ける部分は、デバイスの接触点のところに配置することができる。このことは、デバイスを心臓弁の交連に取り付けることができ、また接触点間の距離の変化が交連間の距離を変化させることになることを意味する。
【0023】
デバイスは、第1の接触点と第2の接触点との間に細長い部分を有することができる。その細長い部分の形態は、デバイスの第2の形状のときに細長い部分を弁組織に当接させて配置できるように、容易に心臓弁の形態に適合させることができる。
【0024】
細長い部分は、デバイスの第2の形状では、弁輪の少なくとも一部分に対応する形態を有することができる。ゆえに、細長い部分が心臓の動作サイクルの間静止している弁輪の部分に当接するように、デバイスを心臓弁内に配置することができる。
【0025】
心臓の動作サイクル全体を通して弁組織との当接を可能にするように、接触点のところでデバイスに角度を付けることができる。接触点は、心臓弁の開口部内にある心臓弁の交連と接触して留置されることになる。したがって、デバイスが接触点間で弁組織に当接して留置されるように、接触点のところで該デバイスに角度を付ける必要のある場合がある。
【0026】
デバイスの第2の形状のときの細長い部分は、C字形とすることができる。そのような形態をもつデバイスは、心臓弁内に留置されたときに、弁輪の弁組織に当接する又は弁輪に接近することができる。
【0027】
デバイスの細長い部分は、波状の形態を有することができる。このことは、デバイスの波状の形態を圧縮することによって該デバイスを第1の形状で圧縮できることを意味する。これで、デバイスは、波状の形態を伸ばすことによってその第2の形状を呈するように、該デバイスを押す弾性力を提供することができる。
【0028】
デバイスをリング形態とすることができる。このことは、デバイスを、大部分が弁輪に、又は弁輪に近接した弁組織に係合するように、心臓弁内に配置できることを意味する。
【0029】
デバイスは、前記第1の形状から前記第2の形状へと該デバイスを移行させる固有の力を示すことができる。このことは、心臓弁に挿入されたときにデバイス自体が形状の移行をもたらすことができることを意味する。
【0030】
デバイスは、前記第1の形状から前記第2の形状へと該デバイスを移行させる、ばねの力を示すように形成することができる。ゆえに、デバイスを第1の形状にするために該デバイスを圧縮することができ、該デバイスは、圧縮力が解放されたときに第2の形状を呈することになる。
【0031】
デバイスは、固有の力を提供する形状記憶材料製とすることができる。形状記憶は、デバイスが心臓弁に挿入されたときに、例えば該デバイスを所定の温度に加熱することによって作動させることができる。
【0032】
本発明は、また、弁輪と、弁尖と、隣接弁尖間の少なくとも第1及び第2の交連とを含む弁組織から構成される心臓弁の機能を改善する方法も提供する。該方法は、デバイスを第1の形状で心臓弁に挿入して、該デバイスの第1の接触点と前記第1の交連のところの弁組織との間、及び該デバイスの第2の接触点と前記第2の交連のところの弁組織との間に接触を確立する段階と、デバイスの第1の接触点と第2の接触点との間の距離が増大するように、またその結果、心臓弁の第1の交連と第2の交連との間の距離が増大するように、前記第1の形状から第2の形状への第1のデバイスの形状の移行を引き起こす段階と、心臓の動作サイクル全体を通してデバイスがほぼその長さ全体に沿って弁組織に当接するように、デバイスをその第2の形状で心臓弁内に配置する段階とを含む。
【0033】
本発明によって、心臓弁の交連間の距離を伸張させることにより、心臓弁の幾何学的形状の変化が達成される。このことは、交連間にある心臓弁の開口部が伸張され、また弁尖の中央部分が互いに近付けられ、それによって心臓弁が適正に閉じる能力が改善されることを意味する。
【0034】
該方法は、デバイスを接触点で交連に固定する段階をさらに含むことができる。このことは、デバイスの形状の移行が確実に弁組織を該デバイスとともに動かして心臓弁の幾何学的形状の変化を引き起こすように、該デバイスが交連に取り付けられることを意味する。
【0035】
該方法は、デバイスを心臓弁に挿入する間、該デバイスをその第1の形状で拘束する段階をさらに含むことができる。このことは、デバイスを挿入する間、該デバイスがその第2の形状を呈することが妨げられることを意味する。これによって、デバイスは、心臓弁の交連間に該デバイスが嵌合する第1の形状で、心臓弁へと運ばれる。
【0036】
デバイスの形状の移行を引き起こす段階は、該デバイスに対する拘束を解放することを含むことができる。デバイスは、拘束が解放されたときに形状の移行を引き起こすことになる、固有の力を示すことができる。
【0037】
デバイスの形状の移行を引き起こす段階は、該デバイスの形状記憶を作動させることを含むことができる。形状記憶が作動されるときには、デバイスは、その第2の形状を呈しようとする。形状記憶は、例えばデバイスを変態温度に加熱することによって、作動させることができる。
【0038】
ここで、本発明について、一例として添付図面を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
ここで、図1〜2を参照して、心臓12の僧帽弁18の機能について説明する。僧帽弁18は、心臓の左心房と左心室14との間に位置する。僧帽弁18は、弁輪20と、左心室14への血液の流れを選択的に許可/阻止する1対の弁尖22、24とを含む。弁尖22、24は、接合(coaptation)のために、各乳頭筋30、32から上方に延びる腱索若しくは索状組織26、28によって支持される。血液は、僧帽弁18を通って左心室14に進入し、その後の心臓12の収縮の間に大動脈弁34を通って排出される。図2aに示したように、弁尖22、24は、僧帽弁18を開くように引き離されて左心室14内へと延び、血液を左心室14へと通過させる。図2bに示したように、左心室14から左心房に戻る血液輸送を防ぐために、弁尖22、24は、接触して僧帽弁18を封止する。
【0040】
僧帽弁は、前尖22と後尖24とを有する。弁尖22、24は、交連36、38のところで結合されており、僧帽弁18は、交連36、38間に開口部40を有する。前尖22は、後尖24よりも大きく、それによって僧帽弁18の開口部40は、弓形をしている。開口部40は、弁尖22、24の運動によって開閉される。この運動は、主に、交連36、38間の弁尖22、24の自由縁42、44によって行なわれる。
【0041】
図3には、罹患した僧帽弁18が示されている。弁尖22、24は、適正に接合することができず、それによって弁18の開口部40は、完全に閉じられていない。この場合、血液は、開口部40を通って左心室14から左心房へと逆方向に漏出する。このことは、血液が大動脈へと送り出される代わりに系内を逆方向に流れるので、心臓12の機能が低下したことを意味する。したがって、確実に弁尖22、24が弁18を適正に閉じられるようにする必要がある。
【0042】
ここで、図4a〜4bを参照して、罹患した僧帽弁18を本発明によるデバイスで処置する原理について説明する。図4aは、弁尖22、24が適正に接合できないことが原因で開口部40が完全には閉じられていない僧帽弁18を示す。矢印Aは、弁尖22、24が適正に閉じられるように弁18をリモデリング(改造)するために、弁18に適用されるべき力を示す。図4aに示したように、弁は、交連36、38を、すなわち、弁尖22、24間の結合部位を引き離すことによってリモデリングされる。このことは、僧帽弁開口部40が伸張され、また弁尖22、24の自由縁42、44が互いに近付けられることを意味する。これによって、弁尖22、24は、弁18を閉じて漏出を防ぐことができる。
【0043】
僧帽弁に関して記載しているが、本発明が、2つの弁尖をもつ他の任意の弁又は3つの弁尖をもつ弁にも同様に適用可能であることが理解されよう。
【0044】
ここで、図5a〜5gを参照して、罹患した僧帽弁18を処置する本発明によるデバイス50の諸実施例について説明する。デバイスは、交連36、38と接触するように僧帽弁18に挿入されることになる。デバイス50と交連36、38との間に接触が確立されるときには、デバイス50は、弁組織を該デバイスとともに動かして、図4に関して前述したように弁18のリモデリングを実施するために、形状の移行を起こす。
【0045】
図5a〜5gに示したように、デバイス50は、交連36、38のところでそれぞれ弁組織と接触することになる、第1の接触点52と第2の接触点54とを含む。デバイス50は、接触点52、54のところがフック形をしたものとすることができ、それによって該デバイス50は、交連36、38のところで弁尖22、24の両側に接触を確立することができる。デバイス50は、接触点52、54のところに、該デバイス50を弁組織へと固定する、弁組織に貫入できるバーブ若しくはスパイク又は先の尖った任意の突起(図示せず)をさらに含むことができる。別法として、デバイス50を、縫合又はクリップによって弁組織に固定されるように構成することもできる。
【0046】
植え込まれるときには、デバイス50が弁組織化できるように、デバイス50全体が弁組織と接触すべきである。このことは、デバイス50が血流に対して異物表面を見せず、それによって血液凝固が妨げられることを意味する。この目的のために、デバイス50は、図5a〜5fに示したように、接触点52、54間に細長い部分56を有することができる。細長い部分56は、その長さ全体にわたって弁組織に沿って延びるように構成することができ、それによってデバイス50は、最終的には完全に弁組織化することができる。デバイス50は、心臓の動作サイクル全体を通して弁組織と接触すべきである。心臓が動作する間、弁尖22、24が僧帽弁18を開閉する動きをするので、細長い部分56が、弁輪20と接触して、又は弁輪20の近くの弁尖組織と接触して留置されることが好ましい。フック形状がその中を延びる平面にほぼ垂直な平面内を細長い部分が延びることができるように、デバイス50は、接触点52、54のところで曲げられている。このことは、接触点52、54が僧帽弁18の交連36、38と接触して配置された状態で、デバイス50の細長い部分56が、僧帽弁18の弁輪20の平面内を弁組織に沿って延びることができることを意味する。別法として、細長い部分56が弁輪20の平面内を延びることができるように、細長い部分56をデバイス50の接触部分に固定することもできる。
【0047】
細長い部分56は、図5a〜5fに示したように、接触点52、54間を多種多様な方法で延びることができる。細長い部分56は、交連36、38間に弁組織と接触して留置されることになる。図2〜4に示したように、僧帽弁18の開口部40は、弓形をしている。したがって、細長い部分56が交連36、38間を本質的に直線に沿って延びる場合でも、その細長い部分56は、弁組織と接触していることができる。ただし、細長い部分56が弓形若しくは湾曲した形状である場合、その細長い部分56を、心臓が動作する間にあまり動きを起こさない組織である、弁輪20のより近くの弁組織と接触させて留置することができる。したがって、細長い部分56を、図5aに示したように曲がったものとすることもでき、図5b及び5fに示したようにC字形とすることもでき、又は図5c及び5eに示したようにやや弓形とすることもできる。ただし、細長い部分は、図5dに示したように、僧帽弁18の前尖22に沿って延びる波状の形態を有することもできる。
【0048】
図5gに示したように、デバイスを、代替的に、大部分が僧帽弁18の弁輪20に沿って延びるように、リング形態とすることもできる。リング形態は、デバイス50と交連36、38との間の接触を可能にするように、交連36、38のところで弁輪20の形状から外れている。
【0049】
図6a及び6cに示したように、デバイス50は、第1の形状で僧帽弁18に挿入される。デバイス50は、第1の形状で該デバイス50と交連36、38との間の接触を確立するように構成される。次いで、デバイス50は、図6b及び6dに示したように、僧帽弁18をリモデリングする第2の形状へと移行することができる。細長い部分56は、デバイス50の第1の形状と第2の形状との間で形態を変化させる。弁尖22、24の自由縁42、44が互いに近付けられるように、接触点52、54を押してさらに離隔させ、それによって僧帽弁18の開口部40を伸張させるために、細長い部分56は、あまり弓形又は湾曲状ではなくなる。
【0050】
図6a〜6dでは、デバイス50が僧帽弁18の心房側に留置された状態で示されているが、代替的にデバイス50を弁18の心室側に留置することもできることを理解すべきである。その場合、デバイス50が弁18の心室側に当接して弁組織化できるように、該デバイス50を、索状組織26、28と接触させて留置することができる。
【0051】
第1の形状へと変形されたときに、デバイス50が第2の形状を呈しようとする内部の力をもつように、該デバイス50を弾力性のあるものとすることができる。その場合、デバイス50を心臓弁の交連36、38間に挿入する間、該デバイスを第1の形状に保つ外力によって該デバイス50を拘束することができる。デバイス50に対する拘束は、接触点52、54が互いに近付けられるよう、細長い部分56を曲げる又は圧縮するように構成することができる。デバイス50をかなり剛性の高い材料製とすることができ、その結果、該デバイス50に対する拘束が解放されたときに、該デバイス50の弾力性が、僧帽弁18をリモデリングするために該デバイス50の形状を回復させることになる。ただし、心臓が動作する間、リモデリングされた形状で交連36、38を依然として引き離された状態に保ちながら弁輪20及び交連36、38の小さな運動を可能にするように、デバイス50を、その第2の形状では、わずかに可撓性のあるものとすることができる。デバイスは、医療グレードの金属やプラスチックなど、任意の適切な(1つ若しくは複数の)医療グレード材料製とすることができる。
【0052】
別法として、デバイス50を形状記憶材料製とすることもできる。その場合、デバイスが比較的軟質で容易に変形できるマルテンサイト状態で、該デバイス50を僧帽弁18に挿入することができる。ゆえに、デバイス50をマルテンサイト状態で容易に挿入して、僧帽弁18の交連36、38と接触させることができる。デバイスが変態温度よりも高い温度に加熱されると、該デバイス50は、オーステナイト状態へと転換し、プログラムされた形状を呈する。ゆえに、デバイス50は、第2の形状を呈しようとする固有の力を有し、その所望の形状を維持する。デバイスは、ニチノールなどの形状記憶合金、又は形状記憶ポリマー製とすることができる。
【0053】
通常、その第1の形状のときのデバイスの接触点間の距離は、18〜20mmであり、これは、僧帽弁の交連間の標準的な距離に相当する。デバイスの形状の移行は、通常、僧帽弁をリモデリングする、接触点間距離の40%の増大を生み出すことができる。
【0054】
ここで、デバイスを用いて心臓弁を処置する方法について説明する。デバイスは、観血的手術を用いて心臓に植え込むことができる。デバイスは、僧帽弁18へと運ばれ、交連36、38と接触して留置される。デバイスは、図7に示したように、心臓12の尖部を通じて僧帽弁18に挿入することができる。例えば、細長い部分56を押してその細長い部分56を曲げることによって、或いは、細長い部分56の様々な部分の間を延び、これらの部分を互いに対して最大の距離に保つ拘束ワイヤによって、挿入の間、デバイス50を第1の形状で拘束することができる。別法として、デバイス50がその第2の形状を呈するのを妨げる、変態温度よりも低い温度を保持することによって、デバイス50がその第1の形状で保持される。
【0055】
デバイス50が交連36、38と接触して留置されたときには、該デバイス50は、弁組織に固定されている。これは、例えば、縫合を用いて、又はデバイス及び弁組織に1つ若しくは複数のクリップを適用することにより、デバイス50の複数の部分を弁組織に取り付けることによって達成することができる。別法として、固定手段がデバイス50上に配置され、この固定手段が弁組織に貫入してデバイス50を弁組織に固定する。
【0056】
デバイス50がしっかりと弁組織に固定されたときには、該デバイス50は、その第1の形状から第2の形状へと移行することができる。ゆえに、例えば、細長い部分56に加わる押圧力を解放することによって、又は拘束ワイヤを切断することによって、拘束が解放される。別法として、オーステナイト状態を呈するようにデバイス50を加熱し、それによってそのプログラムされた第2の形状へと転換させることもできる。デバイス50は、その第2の形状を呈するときには、僧帽弁18の開口部40が弁尖22、24によって適正に閉じることのできる形態をとるように、僧帽弁18のリモデリングを引き起こす。
【0057】
ここで、図8〜9を参照して、デバイス50を挿入するカテーテルベースの方法について説明する。デバイス50は、カテーテル60を用いて心臓12に挿入される。カテーテル60は、図8aに示したように、患者の鼠径部の大腿動脈62又は腕の鎖骨下動脈64を通じて身体に導入され、動脈を通じて逆行的に心臓12内へと案内され、大動脈弁34を通って左心室14に到達する。別法として、カテーテル60を、大静脈内を案内して右心房66に到達させることもでき、また図8bに示したように心房中隔68に貫入させて左心房70に到達させることもできる。
【0058】
デバイス50は、図9aに示したように、キャリア72の遠位端でカテーテル60内に配置して、拘束シース74によって覆うことができる。カテーテル60が僧帽弁18に挿入されたときには、図9bに示したように、キャリア72を拘束シース74からいくらか押し出すことができる。これで、デバイス50の接触点52、54は、交連36、38との接触を確立することができる。その後、デバイス50がその第2の形状を呈して僧帽弁18をリモデリングできるように、キャリア72を拘束シース74から完全に押し出すことができる。次いで、デバイス50をキャリア72から解放することができ、また、デバイス50を僧帽弁18内の適所に置いたままカテーテル60を身体から引き抜くことができる。
【0059】
本明細書に記載の諸実施例が決して制限的なものではなく、冒頭の特許請求の範囲によって定義される保護の範囲内で多くの代替実施例が可能であることを強調しておく。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】心臓の左心室の概略断面図である。
【図2a】心臓の僧帽弁を開いた状態で示す略図である。
【図2b】心臓の僧帽弁を閉じた状態で示す略図である。
【図3】罹患した僧帽弁の略図である。
【図4a】処置される前の僧帽弁の形状を示す、僧帽弁の略図である。
【図4b】処置された後の僧帽弁の形状を示す、僧帽弁の略図である。
【図5a】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5b】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5c】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5d】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5e】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5f】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図5g】本発明によるデバイスの一実施例の略図である。
【図6a】デバイスの第1の実施例が該デバイスの第1の形状で僧帽弁に適用される様子を示す略図である。
【図6b】デバイスの第1の実施例が該デバイスの第2の形状で僧帽弁に適用される様子を示す略図である。
【図6c】デバイスの第2の実施例が該デバイスの第1の形状で僧帽弁に適用される様子を示す略図である。
【図6d】デバイスの第2の実施例が該デバイスの第2の形状で僧帽弁に適用される様子を示す略図である。
【図7】本発明によるデバイスを僧帽弁に適用する方法を示す、心臓の略図である。
【図8】本発明によるデバイスを僧帽弁に適用する方法を示す、心臓の略図である。
【図9】本発明によるデバイスを僧帽弁に適用する方法を示す、心臓の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁輪と、弁尖と、隣接弁尖間の少なくとも第1及び第2の交連とを含む弁組織から構成される心臓弁の機能を改善するデバイスであって、
第1の形状と第2の形状とを有し、
第1の接触点と第2の接触点とを含んでおり、前記第1の形状のときの前記デバイスが、前記第1の接触点と前記第2の接触点との間に、前記心臓弁の前記第1の交連と前記第2の交連との間の距離に本質的に相当する距離を示し、前記第2の形状のときの前記デバイスが、前記第1の接触点と前記第2の接触点との間の距離の増大を示し、
前記第1の形状のときの前記デバイスが、前記第1の交連のところで前記第1の接触点と弁組織との間に接触を確立し、且つ前記第2の交連のところで前記第2の接触点と弁組織との間に接触を確立するように前記心臓弁に挿入されるように構成されており、
前記デバイスが、前記心臓弁に挿入されたときに前記第1の形状から前記第2の形状へと移行可能であり、
前記第2の形状のときの前記デバイスが、前記第1の接触点と前記第2の接触点との間のほぼその長さ全体に沿って、心臓の動作サイクル全体を通して弁組織に当接して延びるように構成されており、
それによって、前記デバイスを、前記デバイスの前記第1の形状で心臓弁に挿入することができ、前記弁尖が前記心臓弁を適正に閉じる能力を改善するために、前記デバイスが、前記交連間で前記心臓弁を伸張させることによって前記心臓弁の形状を変化させることができるデバイス。
【請求項2】
前記第1の形状から前記第2の形状への移行が前記心臓弁の形状の変化を達成するよう、前記デバイスが、前記心臓弁との接触を確立するように構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、弁組織に前記デバイスを取り付ける固定手段をさらに含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記固定手段が前記デバイスの前記接触点のところに配置される、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスが、前記固定手段を提供するように前記接触点のところでフック形をしている、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記デバイスが、弁組織に前記デバイスを取り付ける固定手段を受けるように構成された部分を含む、請求項2に記載のデバイス。
【請求項7】
固定手段を受ける前記部分が、前記デバイスの前記接触点のところに配置される、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスが、前記第1の接触点と前記第2の接触点との間に細長い部分を有する、請求項1から7までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスの前記第2の形状のときの前記細長い部分が、前記弁輪の少なくとも一部分に対応する形態を有する、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記デバイスが、心臓の動作サイクル全体を通して前記弁組織との当接を可能にするように前記接触点のところで角度を形成している、請求項8又は9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスの前記第2の形状のときの前記細長い部分が、C字形である、請求項8から10までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスの前記細長い部分が波状の形態を有する、請求項8から10までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスがリング形態である、請求項1から12までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、前記第1の形状から前記第2の形状へと前記デバイスを移行させる固有の力を示す、請求項1から13までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記デバイスが、前記第1の形状から前記第2の形状へと前記デバイスを移行させる、ばねの力を示すように形成される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記デバイスが、前記固有の力を提供する形状記憶材料製である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
弁輪と、弁尖と、隣接弁尖間の少なくとも第1及び第2の交連とを含む弁組織から構成される心臓弁の機能を改善する方法であって、
デバイスを第1の形状で前記心臓弁に挿入して、前記デバイスの第1の接触点と前記第1の交連のところの弁組織との間、及び前記デバイスの第2の接触点と前記第2の交連のところの弁組織との間に接触を確立する段階と、
前記デバイスの前記第1の接触点と前記第2の接触点との間の距離が増大するように、またその結果、前記心臓弁の前記第1の交連と前記第2の交連との間の距離が増大するように、前記第1の形状から第2の形状への前記第1のデバイスの形状の移行を引き起こす段階と、
心臓の動作サイクル全体を通して前記デバイスがほぼその長さ全体に沿って前記弁組織に当接するように、前記デバイスをその第2の形状で前記心臓弁内に配置する段階とを含む方法。
【請求項18】
前記デバイスを前記接触点で前記交連に固定する段階をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記デバイスを前記心臓弁に挿入する間、前記デバイスをその第1の形状で拘束する段階をさらに含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記デバイスの形状の移行を引き起こす前記段階が、前記デバイスに対する拘束を解放することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記デバイスの形状の移行を引き起こす前記段階が、前記デバイスの形状記憶を作動させることを含む、請求項17又は18に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図5c】
image rotate

【図5d】
image rotate

【図5e】
image rotate

【図5f】
image rotate

【図5g】
image rotate

【図6a】
image rotate

【図6b】
image rotate

【図6c】
image rotate

【図6d】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate

【図9a】
image rotate

【図9b】
image rotate


【公表番号】特表2008−523886(P2008−523886A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546607(P2007−546607)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/SE2005/001914
【国際公開番号】WO2006/065212
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507163806)メッドテンティア エービー (5)
【Fターム(参考)】