説明

心臓弁送達ための方法およびシステム

【課題】心臓に送達デバイスを導入する新規な方法およびシステムを提供する。
【解決手段】心臓12中、または心臓の尖部またはその近傍に送達デバイスを導入するための方法およびシステムを提供し、ここで、この送達デバイスは補綴具29を含み、この補綴具を標的部位に進行する工程、およびこの補綴具を上記送達デバイスから、移植のために標的部位で取り外す工程を含む。詳細には、本発明は、置換心臓弁を、心臓中またはその近傍の標的部位に送達するための弁置換システムを提供する。この弁置換システムは、心臓の尖部またはその近傍で心臓を貫通するためのトロカールまたはその他の適切なデバイス、このトロカール内に移動可能に配置される送達部材、および上記送達部材上に配置された置換心臓弁を備える。上記送達部材は、さらに、標的部位において補綴具弁の移植を容易にするための機械的または膨張可能な拡大部材をさらに備え得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、心臓血管手術のための方法およびシステムに関する。より詳細には、本発明は、心臓弁の修復、除去、および/または置換のため、そしてまた心臓血管手術の間の一時弁および/または遠位栓塞保護を提供するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
(弁の輪を収縮する)輪状形成術、(弁の小葉を狭める)四角切除、(弁の小葉を分離するための弁交連を切断する)交連切開術、または弁および輪組織の脱灰のような、種々の外科的技法が、疾患または損傷心臓弁を修復するために用いられ得る。あるいは、疾患腎臓弁は、補綴具弁によって置換され得る。心臓弁の置換が示される場合、この機能不全弁は、代表的には、除去され、そして機械的または組織弁のいずれかで置換される。組織弁は、しばしば、機械的弁より好まれる。なぜなら、それらは、代表的には、抗凝固剤での長期間処理を必要としないからである。
【0003】
欠陥心臓弁を修復または置換するために、多くの異なる戦略が用いられている。開放心臓弁修復または置換手術は、長い、そして冗漫な手順であり、そして、通常、胸骨正中切開の形態である大きな開胸術を含む。この手順では、鋸またはその他の切断器具が用いられ、胸骨が長軸方向に切断され、そして肋骨の前部または腹側部分の2つの対向する半分体が離れて開かれる。従って、胸部の腔中に大きな開口部が生成され、それを通って外科医が、心臓およびその他の胸部内容物を直接見て、そしてそれに対して手術し得る。患者は、この手術の持続時間の間、心肺バイパス上に配置されなければならない。
【0004】
開放−胸弁置換手術は、その意図される部位に置換弁の直接移植を許容する利点を有している。この方法は、しかし、高度に侵襲的であり、そして、しばしば、患者にとって、顕著な外傷、合併症のリスク、および延長された入院および痛みのある回復期間を生じる。
【0005】
開放−胸部手術に対する代替として最小侵襲経皮的弁置換手順が出現した。開放−心臓手順とは異なり、この手順は、間接的であり、そして大腿動脈から心臓への血管内カテーテル法を含む。この最小侵襲的アプローチは、小切開のみを必要とするので、それは、より少ない痛みと身体の外傷とともに患者にとってより速い回復を可能にする。これは、次に、患者の生涯に対し、医療コストおよび全体の破壊を減少する。
【0006】
最小侵襲的アプローチの使用は、しかし、手術に新たな複雑さを導入する。この最小侵襲的経皮的アプローチにおける固有の困難さは、血管系内で利用可能である限られたスペースである。開放心臓手術とは異なり、最小侵襲的心臓手術は、できる限り大きな直径の血管のみである手術場を提供する。結果として、ツール類および補綴具デバイスの導入は、相当より複雑になる。このデバイスは、血管系中に導入され、それを通って操縦され、そして所望の位置で位置決めされることを許容するような寸法および形態でなければならない。これは、導入の初期点から特定の距離にある有意な回旋を通る通過を含み得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、心臓弁手術手順は、多くの患者のために、有益な結果を生成するけれども、このような手術から利益を受け得る多くの他者は、現在の技法の外傷およびリスクを受けることができないか、または希望しない。従って、必要なのは、現在の最小侵襲敵技法より心臓弁への接近のより大きな容易さを、より侵襲的な技法にともなう外傷、リスク、回復時間および痛みを同時に減少しながら提供する心臓および心臓内の大血管内の心臓弁修復および置換、ならびに、その他の手順である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、心臓血管手術を実施するための方法およびシステムを提供し、ここで、心臓または大血管への接近が、心臓の尖部領域を通じて提供される。この心臓の尖部領域は、一般に、左心室および右心室によって形成される心臓の鈍い丸まった下部末端である。モ通常の健常なヒトでは、それは、中央胸骨線から第5肋間スペースの後にある。
【0009】
この尖部領域の特有の解剖学的構造は、自然の機械的および電気的心臓機能の有意な破壊なくして、心臓中に種々の外科用デバイスおよびツールの導入を許容する。本発明の方法およびシステムは、この尖部を通って心臓および大血管への直接接近を許容するので、経皮的外科的方法によって提示されるサイズ束縛によって制限されない。経皮的方法における大腿血管を通る心臓への接近は、血管の直径(約8mm)に制限される一方、この尖部領域を通る心臓への接近は、有意により大きい(約25mm)。従って、心臓への尖部接近は、心臓および大血管で実施され得るデバイスおよび外科的方法のタイプに関してより大きな柔軟性を許容する。
【0010】
従って、心臓の尖部領域を通る接近による、心臓弁の修復、除去、および/または置換のための方法およびデバイスを提供することが本発明の1つの目的である。
【0011】
本発明の1つの好ましい実施形態では、心臓中または心臓近傍の標的部位に補綴具を送達する方法である。この方法は、心臓の尖部またはその近傍で、心臓中に送達デバイスを導入する工程であって、該送達デバイスが補綴具を含む、工程、該補綴具を該標的部位に進行する工程、および該標的部位で、移植のために、該送達デバイスから該補綴具を外す工程を包含する。
【0012】
本発明はまた、心臓中または心臓近傍の標的部位に置換心臓弁を送達するための弁置換システムを提供する。1つの実施形態では、この弁置換システムは、心臓の尖部またはその近傍で該心臓を貫通するためのトロカール、該トロカール内に移動可能に配置された送達部材、および該送達部材上に配置された置換心臓弁を備える。
【0013】
この弁置換システムは、ストント付き、およびステントレス組織弁を含む、種々の補綴具心臓弁を送達するために用いられ得る。本発明の別の実施形態では、上記送達部材は、機械的または膨張可能な拡大部材をさらに備え得、標的部位における補綴具弁の移植を容易にする。
【0014】
本発明の別の実施形態では、造影システムが、操作の場を見るために提供され得る。この造影システムは、手術の持続時間の任意の時間またはその全体で用いられ得る。造影システムは、当業者に周知であり、そして経食道エコー、経胸腔エコー、血管内超音波造影(IVUS)、または放射線不透過性である注入可能な色素を含む。蛍光像映画撮影もまたは利用され得る。
【0015】
1つの実施形態では、上記造影システムは、カテーテルまたはカニューケを通じて手術の場に送達可能である。本発明の別の実施形態では、超音波トランスデューサーが、拡大可能なバルーンの一方の側または両側でこの送達部材上に位置され得る。本発明のなお別の実施形態では、この超音波トランスデューサーは、上記送達部材のバルーン上に位置され得る。
【0016】
本発明のなお別の実施形態では、上記方法およびシステムは、上記送達部材上に配置される切断ツールにより、患者の心臓弁の少なくとも一部分を除去する手段をさらに備え得る。この切断ツールは、弁除去を高めるために切断ツールに高周波エネルギーを提供する電気的に伝導性の金属から作製され得る。この高周波エネルギーアブレーションは、当該技術分野で周知である。
【0017】
本発明のさらなる実施形態では、本発明の方法およびデバイスは、弁脱灰システムを提供するように適合され得、ここで、上記送達部材は、心臓の尖部領域を通る接近によって処置部位に溶解溶液を提供し得る。この送達部材は、上記処置部位に溶解溶液の導入および除去の両方のための手段をともなう形態であるカテーテルであり得る。この送達部材はまた、この溶解溶液が患者の循環系中に入ることを防ぐために処理部位を隔離するための手段を提供し得る。この処置部位を隔離するための手段は、この処置部位の両側面上で膨張し得るカテーテル上の二重バルーンシステムのような障壁を含み得る。
【0018】
本発明はまた、遠位栓塞保護を提供するためのデバイスおよび方法を提供する。より詳細には、本発明は、同じデバイス中に一時的な弁を同時に提供しながら、栓塞材料を捕捉するためのフィルターを提供する。フィルターアセンブリ中の弁の存在は、栓塞材料および残渣の逆流を防ぎ、その一方、手術の間にこのフィルター中への流体流れをなお可能にする。この弁−フィルター組み合わせは、圧縮および拡大され得、小血管またはその他の身体腔中への侵入を可能にする。本発明の1つの実施形態では、弁−フィルターアセンブリは、手術部位から下流の心臓または心臓の大血管中に移植される。
より特定すれば、本願発明は以下の項目に関し得る。
(項目1)
心臓中または心臓近傍の標的部位に補綴具を送達する方法であって:
心臓の尖部またはその近傍で、心臓中に送達デバイスを導入する工程であって、上記送達デバイスが補綴具を含む、工程;
上記補綴具を上記標的部位に進行する工程;および
上記標的部位で、上記送達デバイスから上記補綴具を外す工程、を包含する、方法。
(項目2)
手術の間に上記心臓を造影する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記心臓を造影する工程が:超音波観察器具、血管内超音波システム、経食道エコーシステム、経胸腔エコーシステム、蛍光透視法、蛍光像映画撮影、および注入可能な放射線不透過性色素からなる群から選択される造影システムによって実施される、項目2に記載の方法。
(項目4)
上記補綴具が、一時弁である、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記補綴具が、遠位栓塞保護アセンブリである、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記補綴具が、置換心臓弁である、項目1に記載の方法。
(項目7)
上記標的部位が、大動脈弁および僧帽弁からなる群から選択される、項目6に記載の方法。
(項目8)
上記送達デバイスが、上記心臓の左心室中に導入される、項目7に記載の方法。
(項目9)
上記標的部位が、肺弁および三尖弁からなる群から選択される、項目6に記載の方法。
(項目10)
上記送達デバイスが、上記心臓の右心室中に導入される、項目9に記載の方法。
(項目11)
上記置換心臓弁が、支持構造体に固定された組織弁を備える、項目6に記載の方法。
(項目12)
上記支持体構造が、半径方向に折り畳み可能で、かつ拡大可能な円筒形ステントである、項目11に記載の方法。
(項目13)
上記円筒形ステントが、Nitinolから作製される、項目12に記載の方法。
(項目14)
上記送達デバイスから補綴具を外す工程の前に、機能不全または疾患ネイティブ弁を除去する工程をさらに包含する、項目6に記載の方法。
(項目15)
上記ネイティブ弁を除去する工程の前に、上記標的部位の近傍に遠位栓塞保護アセンブリを移植する工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(項目16)
上記ネイティブ弁の領域を洗浄する工程をさらに包含する、項目6に記載の方法。
(項目17)
置換弁を、心臓中または心臓近傍の標的部位に送達するための弁置換システムであって:
心臓の尖部またはその近傍で上記心臓を貫通するためのトロカール;
上記トロカール内に移動可能に配置された送達部材であって、遠位端および近位端、ならびに拡大および収縮部材を有する送達部材;および
上記送達部材の拡大および収縮部材上に配置された置換心臓弁、を備える、システム。
(項目18)
上記トロカールが、内部管腔および上記内部管腔内に配置されたストップバルブを備える、項目17に記載のシステム。
(項目19)
上記送達部材が、中空チューブである、項目17に記載のシステム。
(項目20)
上記送達部材が、超音波トランスデューサーをさらに備える、項目17に記載のシステム。
(項目21)
上記送達部材中に、バルーンの両端部に第1および第2の超音波トランスデューサーをさらに備える、項目20に記載のシステム。
(項目22)
カテーテルが、先端部取り付け具をさらに備える、項目17に記載のシステム。
(項目23)
上記先端部取り付け具が、遠位栓塞保護システム、一時弁、造影システム、弁除去システム、および弁洗浄システムからなる群から選択される、項目22に記載のシステム。
(項目24)
上記送達部材が、内部要素をさらに備える、項目17に記載のシステム。
(項目25)
上記内部要素が、ガイドワイヤを挿入するため、または上記先端部の曲げを制御するための引っ張りワイヤを挿入するために用いられる、項目24に記載のシステム。
(項目26)
上記内部要素が、上記拡大および収縮部材のための流体注入導管である、項目25に記載のシステム。
【0019】
本発明の上記の局面およびその他の目的、特徴および利点は、添付の図面もをともに考慮して好ましい実施形態の以下の説明から当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、患者の胸部の部分前面図であり、第5肋間スペースを通り心臓の尖部中に導入される置換弁送達デバイスを示す。
【図2】図2は、心臓の尖部をそして左心室へと貫通する置換弁送達デバイスのトロカールを示す。
【図3】図3は、心臓の尖部に位置決めされたトロカールを通り左心室中に導入されるバルーン拡大可能な送達部材を示す。
【図4】図4は、大動脈弁に向かって進行されているバルーン拡大可能な部材を描写する。
【図5】図5は、狭窄症大動脈弁内のバルーン拡大可能な部材の配置を示す。
【図6】図6は、狭窄症大動脈弁内の拡大されたバルーン拡大可能な部材の配置を示す。
【図7】図7は、心臓の尖部を通ってバルーン拡大可能な部材の周りに配置された補綴具置換弁を有する置換弁送達部材の挿入を示す。
【図8】図8は、大動脈内に位置決めされた置換弁送達部材の断面図である。
【図9】図9は、置換弁送達部材のバルーンによる補綴具置換弁の拡大を描写する。
【図10】図10は、完全に拡大され、そして展開された補綴具置換弁、および外された置換弁送達部材を示す。
【図11】図11は、大動脈に位置決めされた補綴具置換弁を示す心臓の部分断面図である。
【図12】図12は、弁置換システムにおける使用のための送達部材の1つの実施形態を示す。
【図13】図13は、大動脈弁の下流の大動脈中に位置決めされた、弁−フィルターアセンブリの1つの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(好ましい実施形態の説明)
図1〜13は、心臓弁の修復、除去、および/または置換のため、そしてまた心臓血管手術の間に遠位栓塞保護および一時弁を提供するための方法およびシステムの実施形態を示す。
【0022】
弁置換方法およびシステム
図1は、患者(10)の胸部(11)の部分前部図であり、そして胸骨(13)、剣状突起(14)、肋骨(15)、および心臓(12)のようなその他の解剖学的目印に対する弁置換システム(29)の位置を示す。この弁置換システム(29)は、第5肋間スペース(16)を通り、そして心臓(12)の尖部を通って身体の腔に入るように描写されている。この弁置換システム(29)は、胸部(11)中の種々のその他の位置(17A、17Bおよび17C)を通って身体の腔に入り得る。
【0023】
本発明の1つの好ましい実施形態では、この弁置換システムは、トロカールまたは心臓の尖部領域を貫通するためのその他の適切なデバイス、および送達部材、およびこの送達部材上に配置された置換補綴弁を備える。
【0024】
本発明の方法およびシステムは、ステント付き組織弁およびステントのない組織弁を含む、当該技術分野で公知の種々の補綴具心臓弁アセンブリを移植するために用いられ得る。ステント付き弁は、機械的またはバルーン拡大デバイスによって拡大可能であり得るか、またはそれらは自己拡大性であり得る。自己拡大性ステントは、本明細書中に参考として援用される米国特許番号第6,451,025号中に記載のNitinolのような合金から構築され得る。
【0025】
あるいは、本発明の方法およびデバイスはまた、ステンレス補綴心臓弁を移植するために用いられ得る。本発明の1つの実施形態では、上記送達部材は、標的部位に組織弁を位置決めするように適合され、そして上記送達部材は、上記組織弁を弁の輪に縫合またはステープル留めするための手段を備える。
【0026】
適切な補綴具弁の例は、参考として本明細書中に援用される以下の同一出願人による特許:米国特許第6,682,559号;同第5,480,424号;同第5,713,950号;同第5,824,063号;同第6,092,529号;同第6,270,526号;同第6,673,109号;同第6,719,787号;同第6,719,788号;および同第6,719,789号に記載されている。本発明と組合せた使用のために適切なその他の弁アセンブリの例は、本明細書中に参考として援用される、米国特許第5,411,552号;同第6,458,153号;同第6,461,382号;および同第6,582,462号に記載されている。
【0027】
本発明と組合せた使用のために適切なトロカールは、代表的には、中空の管腔ならびに第1および第2の端部を備える。この第1の端部は心臓組織を貫通するための手段を備え、そして第2の手段は、上記送達部材が、上記トロカールの中空管腔中に、心臓へと導入され得るポートを備える。図2は、心臓(12)の尖部(18)を通って貫通するトロカールを描写する。トロカール(31)の移動方向は、矢印(19)によって示される。このトロカール(31)は、右心室(20)また左心室(21)にいずれかに入り得る。大動脈または僧帽弁に接近するために、このトロカール(31)は、好ましくは、左心室(21)を通過し得る。これは、大動脈または僧帽弁への直接接近を生む。肺または三尖弁に接近するため、このトロカール(31)は、好ましくは、右心室(20)を通過し得る。
【0028】
本発明の別の実施形態では、上記トロカールは、管腔内に配置された弁をさらに備える。この弁は、トロカールが拍動する心臓中に挿入された後、心臓からの血液の有意な逆流を減少し、その一方、同時に、トロカールを通じてこの送達部材およびその他の外科用デバイスの導入を許容するよう設計されている。その他の適切なトロカールおよびデバイスは、当該技術分野で周知であり、そして本明細書中に参考として援用される、米国特許番号第5,972,030号;同第6,269,819号;同第6,641,366号;同第6,478,806号;および同第6,613,063号に記載されている。
【0029】
弁置換システムの送達部材は、心臓の尖部領域を通って移植の部位に穂綴具弁を送達するように適合されている。本発明の1つの実施形態では、上記送達部材は、機械的拡大および収縮するデバイスを備える。本発明の1つの実施形態では、この機械的拡大および収縮するデバイスは、円形の配列にある複数の中空のワイヤ、グリップハンドル、およびその周に沿って外側に角度をなす穴を備えるシリンダーを備え得る。この補綴具弁は、収縮された状態で機械的拡大部材の周りに配置され、そして移植のために標的部位に送達される。一旦、適正に配置されると、この機械的拡大部材は、上記角度をなす穴を通ってワイヤを押すことにより拡大され、そして補綴具弁が移植のために拡大される。
【0030】
本発明の別の実施形態では、上記補綴具弁アセンブリを移植するための機械的拡大および収縮するデバイスは、チューブの外部からこのチューブの内部にある中央プレートまで延びる複数のスプリング負荷されたピンに連結される複数の壁パネルによって取り囲まれる中空のチューブを含み得る。この中央プレートは、螺旋形状のエッジを有し、その結果、この中央プレートの回転が、これらピンを半径方向の外側に押す。その他の機械的拡大および収縮デバイスは、同時係属中の米国特許出願番号第10/680,719号により詳細に記載されている。
【0031】
本発明のなお別の実施形態では、上記送達部材は、バルーンのような拡大可能な部材を有する中空チューブであり得る。図3は、尖部(18)を通り、そして左心室(21)中へと挿入されており、心臓(12)のネイティブの大動脈弁(23)に向かって進行しているバルーン(41)を有する送達部材(40)を描写する。一旦、バルーン(41)が大動脈弁(23)内に配置されると、それは、膨張され得、固いまたは狭い心臓弁(狭窄症心臓弁)を広げ、そして心臓を通り、身体の残りへの血流を改善する。これは、この心臓が、より効率的にポンプ輸送することを可能にし、そして心臓および肺中の圧力を減少する。弁形成術を実施するための従前の方法は、大腿動脈においてカテーテルの挿入を必要とし、これは、次に、心臓を通って案内され、そして疾患心臓弁を通って位置決めされる。本発明の方法は、しかし、処理されるべき弁へのより直接的な経路を提供する。
【0032】
図4は、大動脈狭窄症が明確である大動脈弁(23)に向かって進行する送達部材(40)およびバルーン(41)のクローズアップを示す。ここで描写されるように、この大動脈弁は、複数の弁小葉(24)を有する。1つの実施形態では、この送達部材(40)は、弁置換手順を支援するための種々の補助デバイスを受容するよう適合された先端部または遠位取り付け部材(42)を備える。このような補助デバイスは、遠位塞栓保護アセンブリ、一時弁、造影システム、弁除去システム、弁脱灰システムを含み得る。
【0033】
図5は、大動脈(22)中、ならびに大動脈弁(23)および大動脈弁輪(25)内に位置決めされるバルーン(41)を示す。このバルーン(41)は、大動脈(22)の壁に対して弁の小葉(24)を圧縮するために矢印(58)によって示されるような半径方向に膨張するとして描写されている。図6では、バルーン(41)は、完全に膨張されて狭窄症大動脈弁(23)を、大動脈壁に対して小葉(24)を押すことにより広げる。内部要素(59)はまた、先端部偏向またはバルーン膨張のための流体注入導管を制御するためのガイドワイヤを挿入するために用いられ得る。
【0034】
図7は、バルーン拡大部材(41)を有する送達部材(40)の挿入を示す。折り畳まれた置換補綴具弁(51)は、バルーン拡大部材(41)上に配置され、そしてトロカール(31)のポート(32)中に導入される。この送達デバイス(40)は、心臓(12)の尖部(18)を通過するとして描写される。
【0035】
図8〜9は、ネイティブな大動脈弁(23)内に位置決めされたバルーン(41)の拡大を示す。図8は、バルーン(41)および非拡大バルーン(41)上に配置された置換弁(51)を備える置換弁送達部材(40)の断面図である。この置換弁(51)は、ここでは、大動脈弁(23)内に位置決めされているとして描写される。図9は、バルーン(41)の半径方向拡大(52)を描写し、これは、置換弁(51)が、輪(25)に対し、大動脈弁(23)の大動脈弁小葉(24)に対し、押すようにする。
【0036】
図10は、その完全に展開された状態にある展開された弁を示す。ここで描写されるような、置換補綴具弁(51)は、ベースリング(57)およびタブ(56)を備えた支持構造またはステント(54)を備え、組織弁(55)を支持する。一旦、この補綴具弁(51)が移植されると、バルーン(41)が次いで、しぼめられ、そして送達部材(40)が、身体から、矢印(53)によって示された方向に引き抜かれる。図11は、大動脈弁位置中に位置決めされた移植された置換弁(51)を示す。
【0037】
造影システム
操作の場を見るための造影システムは、手術の持続時間の任意の時間、またはその間中用いられ得る。造影システムは、当業者に周知であり、そして経食道エコー、経胸腔エコー、血管内超音波造影(IVUS)、または放射線不透過性である注入可能な色素を含む。蛍光像映画撮影もまた利用され得る。1つの実施形態では、この造影システムは、カテーテルまたはカニューレを通じて操作の場まで送達可能である。
【0038】
血管内超音波造影(IVUS)は、トランスデューサーと呼ばれるデバイスで送られる高周波数音波を用いる。このトランスデューサーは、本発明の送達部材に連結され得る。この整列では、音波は、血管または心臓の壁に当たって跳ね返り、そしてエコーとしてトランスデューサーに戻る。
【0039】
本発明の1つの実施形態では、送達部材は、少なくとも1つの超音波トランスデューサーを含み得、弁移植の前、その間、およびその後に標的部位の像を提供する。図12は、本発明の送達部材の別の実施形態を示す。この実施形態では、この送達部材は、外側部材(49B)の管腔内で退却可能である内側部材(49A)を備える。送達部材(40)の展開に際し、この内側部材(49A)の遠位端(44)は、外側部材(49B)の端部(45)を超えて曝される。
【0040】
上記内側部材の遠位端(44)は、流体注入機構(48)および送達部材のハンドル(43)と流体連通している拡大可能なバルーン(41)を備え、それによって、バルーン(41)は、膨張または収縮のいずれかを行い得る。この送達部材(40)の内側部材(49A)は、この拡大可能なバルーン(41)に隣接する超音波トランスデューサー(47)、および弁置換手順を支援するための種々の補助デバイスを受容するよう適合されている先端部または遠位取り付け部(42)をさらに備える。このような補助デバイスは、遠位栓塞保護アセンブリ、一時弁、造影システム、弁除去システム、弁脱灰システムを含み得る。
【0041】
本明細書に開示される超音波トランスデューサーは、バルーンに隣接して位置されるけれども、この超音波トランスデューサーは、送達部材上、バルーン上、および/または先端部または遠位取り付け部上のいずれの位置にも配置され得ることが認識される。
【0042】
弁除去システム
本発明はまた、心臓の尖部領域を通る接近により、弁除去デバイスとともに、弁を除去するための方法およびシステムを提供する。例により、この弁除去は、それらの全体が提示されるように、参考として本明細書中に援用される、同時係属中の米国特許出願番号第10/375,718号および同第10/680,562号に教示されるように達成され得る。
【0043】
本発明の1つの実施形態では、この方法は、上記送達部材上に配置される切断ツールにより、患者の心臓の少なくとも一部分を除去する工程をさらに包含し得る。本発明の別の局面では、上記切断ツールは、増大された弁除去のためにこの切断ツールに高周波エネルギーを提供する電気的に伝導性の金属から作製され得る。この高周波数エネルギーアブレーションは、当該技術分野で周知である。
【0044】
本発明の別の実施形態では、上記送達部材は、複数の顎要素を備える切断部材を含み、各顎要素は、この顎要素が、ネイティブな弁の少なくとも一部分を通って切断することを可能にする鋭い端部を有する。別の局面では、上記切断部材は、複数の電極要素を備え、ここで、高周波エネルギーが、各電極要素に送達され、この電極要素が上記ネイティブな弁の少なくとも一部分を通って切断することを可能にする。本発明のさらなる局面では、上記切断手段は、複数の超音波トランスデューサーを備え、ここで、超音波エネルギーは、各トランスデューサー要素に送達され、このトランスデューサー要素が上記ネイティブな弁の少なくとも一部分を通って切断することを可能にする。
【0045】
弁脱灰システム
血管また心臓弁のような心臓血管組織上のアテローム性動脈硬化症プラークの形成は、心臓血管疾患の主要構成要素である。種々の異なる方法が、石灰化アテローム性動脈硬化症プラークおよび損傷にともなう心臓血管疾患を処置するために開発されている。このような方法は、バイパス手術、バルーン血管形成,機械的病巣清掃術、アテローム切除術、および弁置換のような、損傷の機械的除去または減少を含む。
【0046】
石灰化アテローム性動脈硬化症プラークおよび損傷はまた、種々のカテーテルデバイスにより罹患した領域に送達され得る化学的手段によって処理され得る。例えば、Constantzらによる米国特許第6,562,020号は、酸性溶解溶液および血管部位を局在化して掃き出し得るカテーテル流体送達システムを用いることによる血管の石灰化損傷の処置を開示する。適切なカテーテルデバイスは、その全体があたかも提示されるように参考として本明細書中に援用される米国特許第6,562,020号に記載のようなものを含む。
【0047】
従って、本発明の別の実施形態では、本発明の方法およびデバイスは、弁脱灰システムを提供するように適合され得、ここで、この送達部材は、心臓の尖部領域を通る接近により処置部位に溶解溶液を提供し得る。適切な溶解溶液は、当該技術分野で公知であり、そして、一般に、処理部位において、石灰化アテローム性動脈硬化症損傷のミネラル構成要素を少なくとも部分的に溶解するに十分な所望のレベルまでプロトン濃度を増加し得る溶液として特徴付けられる。
【0048】
上記送達部材は、処置部位に溶解溶液を導入および除去する両方のための手段をともなう形態であるカテーテルであり得る。この送達部材はまた、患者の循環系中にこの溶解溶液が侵入することを防ぐためにこの処置部位を隔離するための手段を提供し得る。処置部位を隔離するためのこのような手段は、処置部位の両方の側面上で膨張する、カテーテル上の二重バルーンシステムのような障壁を含み得る。
【0049】
一時弁
弁置換手術の間、置換されているネイティブな弁の機能は停止され、そして心臓中の自然な流体流れの血流は、それ故、破壊される。これは、次いで、心臓および血管中の有意な逆流血液圧力を生じ得る。それ故、置換弁手術の間に、自然の弁機能が停止されるとき、生じる逆流血圧を防ぐか、または減少する必要性がある。
【0050】
本発明は、置換心臓弁の送達の前、またはそれと同時にいずれかで一時弁を提供する手段を提供する。
【0051】
本発明の1つの実施形態では、上記送達部材は一時弁を備え、これは、折り畳まれた状態で所望の位置で展開され得、拡大され、そして心臓または血管の壁に固定され、そして次に、再び折り畳まれ、そして弁置換手術の終了後、身体から取り出される。この一時弁は、置換弁を備える送達部材への先端部取り付け部として提供され得る。あるいは、この一時弁は、上記置換心臓弁に類似の様式で別個の送達部材上に配置され得る。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、上記一時弁は、非機能弁に十分近接している位置で展開される。この一時弁の位置は、この非機能弁の上流または下流のいずれかに配置され得る。
【0053】
遠位栓塞保護アセンブリ
弁修復または置換手術では、重度に石灰化された弁の操作は、次の栓塞および詰まりをともなうカルシウムおよび弁またはその他の周囲組織の剥がれを生じ得る。アテロームの残渣は、脳において最も頻繁に栓塞するが、その他の影響される身体部位は、脾臓、腎臓、膵臓、および胃腸管を含む。これらの末梢器官への栓塞および詰まりは、組織虚血または死亡に至り得る。従って、心臓血管手術の間に安全に塞栓材料を含むための必要性が存在する。
【0054】
本発明の1つの実施形態では、弁−フィルターアセンブリが提供される。この弁−フィルターアセンブリは、手術が実施されるべき前にこの部位から下流に移植され得る。この弁−フィルターアセンブリの好ましい実施形態を図13に示し、これは、大動脈(22)中で、かつ大動脈弁(23)の下流に位置決めされる弁−フィルターアセンブリ(61)を示す。この一時的弁−フィルターアセンブリ(61)は、一時弁(62)およびそれから延びるフィルター(63)を備える。この弁−フィルターアセンブリは、遠位塞栓保護を提供し、そしてカテーテルまたはカニューレまたは任意の従来法によって、ネイティブな大動脈弁(23)の下流側に送達され得る。この一時的弁−フィルターアセンブリが、所望の位置(64)に位置決めされた後、それは、展開されて、一時チェック弁、および手術の間の任意のゆるい栓塞または残渣を捕獲するフィルターの二重の機能に供され得る。
【0055】
弁が、この遠位栓塞保護アセンブリ中に含められ、弁置換手術の間の一時弁として作用すること、および塞栓材料が上記フィルターから逃れることを防ぐ二重の機能を提供する。フィルイターの流入で一方向弁を付加することは、栓塞物質が逃れることを防ぎ、従って、栓塞および詰まりの発生を低減する。弁は、同時に、弁手術の間の使用のために一時弁を提供し得る。同じ配列でフィルターおよび弁の両方を組合せることはまた、よりコンパクトなデバイスを生成し、その他の手順を行うためのより多くのスペースを可能にする。大動脈修復および置換手術では、例えば、大動脈弁と腕頭動脈分岐との間には、限られたスペースしかない。コンパクトなデバイス中にフィルターおよび弁を組合せることは、弁修復または置換手順のために用いられるデバイスのためのより多くのスペースを可能にする。
【0056】
上記で述べたような、弁−フィルターデバイスの経皮的移植における固有の困難さは、脈管系内で利用可能である限られた量のスペースである。上記デバイスは、それが、血管系中に導入され、それを通って操縦され、そして処置部位の下流に位置決めされることを許容するような寸法および形態でなければならない。これは、導入の初期点から特定の距離にある顕著な回旋を通る通過を含み得る。一旦、配置されると、上記デバイスは、その流速を受容不能に減少することなく、それを通って通過する血液の実質的すべてを有効に通すに十分に大きな断面まで展開可能でなければならない。さらに、このようなデバイスの使用または存在は、脈管部位の処理を妨害してはならず、処理デバイスは、塞栓捕捉デバイスの機能を阻害してはならない。
【0057】
さらに、上記に記載のフィルターによって捕獲される材料は、フィルターの近傍に含まれ、それを去ることを許容されないことが重要である。弁修復手術では、例えば、手術の間に剥がれ、そして大動脈弁と腕頭動脈分岐との間に配置されたフィルターにより捕獲された材料が、逆流の間にフィルターを去らないようにし、そしてそれ故、冠状動脈に侵入しないようすることが重要である。残渣がフィルターを去ることを防ぐことは、フィルター材料に容易に付着しないより大きな粒子が存在するとき、特に重要である。
【0058】
弁−フィルターアセンブリのフィルターは、使用の間に満足する血流を提供するために十分な表面領域をなお提供しながら、すべての塞栓材料を捕獲するために必要な任意のサイズおよび形状のメッシュであり得る。このフィルターは、異なるメッシュサイズのシートまたはバッグであり得る。好ましい実施形態では、このメッシュサイズは、流れの状態、適用部位、フィルターバッグのサイズ、および凝固の速度のような因子を考慮して最適化される。
【0059】
本発明を、好ましい実施形態および詳細な実施例を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の多くの改変および適合が、本明細書に添付の請求項に記載されるような本発明の思想および範囲から逸脱することなく可能であることを容易に認識し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓中または心臓近傍の標的部位に補綴具を送達する方法であって:
心臓の尖部またはその近傍で、心臓中に送達デバイスを導入する工程であって、該送達デバイスが補綴具を含む、工程;
補綴具を該標的部位に進行する工程;および
標的部位で、該送達デバイスから該補綴具を外す工程、を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−42280(P2010−42280A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236734(P2009−236734)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願2007−509687(P2007−509687)の分割
【原出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(502208733)スリーエフ・セラピューティクス・インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】