説明

心臓機能を改善するための医薬組成物及びその方法

【課題】本発明の主な目的は、KMUP-3及び/又はその塩類を提供することにより、心筋梗塞の医薬機能に応用し、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全の予防する。
【解決手段】本発明は、心臓機能を改善するための医薬組成物であって、薬学的に許容される担体と、KMUP-3化合物及びその塩類の一つである活性成分の有効量を含んでいる医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋梗塞の治療に関し、特に、KATPチャネル(KATP channel)を開くことにより、KMUP-3による心筋梗塞後の心機能の保護に関する。
【背景技術】
【0002】
KMUP-1(7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン)は、図1に示すように、テオフィリンのバックボーンを有するキサンチン誘導体であり、高血圧ラットに対して、心臓保護の治療効果が示され、心臓肥大と線維症が軽減されている(Wu et al., 2001; Yeh et al., 2010)。KMUP-1のバックボーンのN-7位置は、[(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル基を持つように修飾された。又、KMUP-3は、7-2-[4-(4-ニトロベンゼン)-ピペラジニル]エチル基を代入する誘導体であり、7-[2-[4-(4-ニトロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチンである。
【0003】
KMUP-3は、KMUP-1よりも強力なホスホジエステラーゼ阻害剤(phosphodiesterase inhibitor)を有し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を強化する能力を持っている(Wu et al., 2005; Lin et al., 2006)。
【0004】
KMUP-3は、KATPチャネルを開くこと及びeNOSの強化を通じて、大動脈平滑筋の弛緩を誘発することができる。KMUP-3の血管弛緩作用は、KATPチャンネルブロッカー(KATP channel blocker)のグリベンクラミドによって減衰し、細胞外のK+レベル(80 mM)を上げる(Wu et al., 2005; Lin et al., 2006)。
【0005】
左室リモデリングとうっ血性心不全(CHF)は、なお急性心筋梗塞(AMI)の生存者が死亡した主要な原因である。増大している証拠によると、心筋細胞アポトーシス(cardiomyocyte apoptosis)の抑制及び炎症性サイトカイン(proinflammatory cytokine)の減少は、心筋梗塞後に心機能を改善することを示している(Li et al., 2009)。心筋細胞においては、高いレベルのATP依存性カリウムチャネル(KATP channel)を示し、心保護効果を発揮している。急性の病気の状況では、KATPチャネルを開くことに起因する心臓保護は、虚血(ischaemia)/再灌流(reperfusion)による細胞傷害を減少させ、梗塞サイズを減らすことができる。最近、KATPチャネル活性剤(activator)の長期投与は、心筋梗塞後の心室リモデリングを減弱させることが示されている。
【0006】
さらに、eNOSは、一酸化窒素を放出することによって、一連の炎症反応を巻き込む。最近の報告によると、eNOSの過剰発現量(overexpression)を有する遺伝子組換え(transgenic)のマウスが、阻害ブレオマイシン誘発肺線維症モデルに対し、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)によってより少ない肺損傷を有する(Yoshimura et al., 2006)。これは、eNOSは、ただ急性炎症に関与するだけでなく、慢性線維症に対する治療効果を持ってる可能性があると意味する。しかし、慢性心不全において、eNOSとMMP-9との関係がまだ確立されていない。
【0007】
したがって、本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、ついに「心臓機能を改善するための医薬組成物及びその方法」を提出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、KMUP-3及び/又はその塩類を提供することにより、心筋梗塞の医薬機能に応用し、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全の予防をする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明による医薬組成物は、心臓機能を改善するための医薬組成物であって、薬学的に許容される担体と、KMUP-3化合物及びその塩類の一つである活性成分の有効量を含んでいること特徴とする。
【0010】
上記構造の本発明に係る医薬組成物において、前記医薬組成物は、心筋梗塞の治療、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全の予防、心筋線維症及び心臓の炎症の軽減に使用され、前記医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)の蛋白発現量を減少させ、前記医薬組成物は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の蛋白発現量を増加させるものである。
【0011】
上記構造の本発明に係る医薬組成物において、前記塩類は、KMUP-3-塩酸塩、KMUP-3-クエン酸塩およびKMUP-3-ニコチン酸塩からなる群から選ばれたものである。
【0012】
上述の目的を達成するために、本発明による心臓機能を改善するための方法は、KMUP-3化合物及びその塩類の一つである活性成分の有効量を提供する工程と、前記活性成分を被験者に投与する工程と、を含むこと特徴とする。
【0013】
上記の方法において、前記活性成分は、心筋梗塞の治療、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全をの予防、心筋線維症及び心臓の炎症の軽減に使用され、前記KMUP-3化合物の塩類は、KMUP-3-塩酸塩、KMUP-3-クエン酸塩およびKMUP-3-ニコチン酸塩からなる群から選ばれたものである。
【0014】
上述の目的を達成するために、本発明によるKMUP-3塩類を製造するための方法は、第一アルコール及び酸を含む溶液にKMUP化合物を溶解する工程と、第二アルコールを前記溶液に加える工程と、前記溶液からKMUP-3塩類を分離する工程と、を含むこと特徴とする。
【0015】
上記の方法において、前記KMUP-3塩類は、前記溶液中での結晶であり、前記第一アルコールは、エタノール(ethanol)であり、前記第二アルコールは、エタノール及びメタノール(methanol)のいずれかであり、前記酸は、塩酸、クエン酸、及びニコチン酸からなる群から一つを選び、前記KMUP化合物は、第一温度で溶解し、前記第二アルコールは、前記第一温度より高い第二温度で加え、前記第二温度は、室温である。
【0016】
フラミンガム心臓研究によると、高められた血漿MMP-9レベルは、左心室拡張末期径(LVEDD、left ventricular end-diastolic dimension)の増大と壁の厚さに関連付けられ、又、左心室リモデリングにおいてMMP-9の潜在的な役割を示す(Lin et al., 2007)。急性心筋梗塞と慢性心不全の両方では、強化されたMMP-9活性が示されている。既知の研究では、MMP-9の標的欠損又はMMP-9阻害剤の投与は、左心室機能不全を防ぐことができる。これらの理由から、MMP-9は、心室リモデリングの過程において主要な役割を果たしていると考えられている。MMP-9阻害剤、組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP-1、tissue inhibitor of metallopmteinase-1)は、心筋梗塞に対して、心筋治癒の制御因子(Halapas et al., 2008)として示され、又、TIMP-1の減少による心筋梗塞のマウスに対しては、左心室リモデリングを悪化させる(Creemers et al., 2003)。
【0017】
本発明についての実験によれば、KMUP-3化合物とその塩類は、ATP依存性カリウム(KATP)チャネルの高い発現量を引き起こし、心筋細胞における心保護効果を発揮することが証明されている。急性の状況で、KATPチャネルを開くことに起因する心臓保護は、虚血(ischaemia)/再灌流(reperfusion)による細胞傷害を減少させ、梗塞サイズを減らすことができる。本発明によるKMUP-3化合物とその塩類は、心筋梗塞後の心室リモデリングに役立つ。
【0018】
上記の塩類は、KMUP-3及び鉱酸又は有機酸からなる塩酸塩類、クエン酸塩類又はニコチン酸塩類含まれている。具体的には、KMUP-3をC1-C4アルコール(すなわちメタノール、エタノール等)と鉱酸又は有機酸の混合溶液に溶解して、40℃〜70℃で反応し、アルコールは、室温下で上記溶液に添加して結晶化し、KMUP-3塩を濾過によって得られる。上記の賦形剤は、“薬学的に許容される担体または賦形剤”、“バイオ利用可能な担体または賦形剤”呼ばれている、剤形を調製するために使用される公知の任意の適切な化合物を含み、例えば、溶剤、分散剤、錠皮、抗細菌剤、抗真菌剤、保存剤又は遅延吸収薬。通常は、このような担体や賦形剤は、治療活性を持っていない。本発明で開示された誘導体を、薬学的に許容される担体や賦形剤を組み合わせることにより、調製した各剤形は、動物やヒトに投与されて、望ましくない効果、アレルギー又はその他の不適切な影響を与えることはない。従って、本発明で開示された誘導体は、薬学的に許容される担体や賦形剤と組み合わせて、臨床及び人に適用される。本発明による剤形は、局所や舌下投与により、例えば静脈、経口又は吸入経路を介して、又は鼻、直腸又は膣のルートを経由して、治療効果を達成することができる。一日あたりの有効成分は、約0.1mg〜100 mgであり、様々な疾患の患者に対して投与される可能である。
【0019】
担体は、各々の剤形に伴って変化させる。滅菌注射用組成物は、非毒性の静脈注射希釈剤や溶媒(1,3-ブタンジオール)に溶解又は懸濁させることができる。そこで、許容される担体は、マンニトールまたは水であってもよい。又、固定油または合成されたグリセリンエステルやジ-グリセリンエステルは、一般的に使用される溶剤である。脂肪酸は、例えばオレイン酸、オリーブ油、ヒマシ油又はそのグリセリンエステル誘導体などであり、特にオキシ-アセチル化型は、注射剤を調製し天然医学的に許容される油として役立つ。このような油溶液や懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤または分散剤、カルボキシメチルセルロースまたはそれに類似した分散剤を含める。他の担体は、一般的な界面活性剤であり、例えばSpan、Tweenや他の乳剤、または製薬業界で製剤を開発するために、薬学的に許容される固体、液体や他の生物学的に利用可能な増強剤などに使用される。
【0020】
経口投与用組成物は、カプセル、錠剤、丸剤、乳剤、水性懸濁液、分散剤、溶剤を含む経口的に許容される製剤形態を採用している。錠剤を一例として、一般的な経口製剤で使用される担体は、乳糖、トウモロコシ澱粉及び潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム)等の基本添加剤である。カプセルに使用される希釈剤は、乳糖と乾燥コーンスターチを含む。水性懸濁液または乳化製剤を調製するために、有効成分を乳剤や懸濁化剤と組み合わせる油インターフェイスに懸濁又は溶解させ、甘味剤、調味料や色素は必要に応じて適当な量を追加する。
【0021】
鼻エアロゾルまたは吸入組成物は、よく知られている製造技術によって調製することができる。たとえば、前記組成物を生理食塩水に溶解し、ベンジルアルコールや他の適当な防腐剤、又は吸収増強剤を追加することによって生物学的利用能を増加させることができる。本発明による化合物は、直腸や膣の投与のための坐剤として使用できる。
【0022】
本発明による化合物は、静脈内投与することができ、例えば皮下、腹腔内、静脈内、筋肉、関節腔、頭蓋内、関節滑液、脊髄、大動脈、胸膜、内病変の注入、または他の適当な投与経路等を介して投与する。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明によると、本発明は、KMUP-3及び/又はその塩類を提供することにより、心筋梗塞の医薬機能に応用し、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全の予防ができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】KMUP-1およびKMUP-3の構造を示す図である。
【図2】本発明による、左心室の短縮率と径に対して、KMUP-3の効果を示す図である。記号*は、P<0.05に対する模擬(sham)グループを示し、記号#は、P<0.05に対する心筋梗塞グループを示す。(a)は、短縮率を示す図である。(b)は、左心室の拡張末期径(LVEDD)を示す図である。(c)は、左心室の収縮末期径(LVESD)を示す図である。
【図3】本発明による、心筋梗塞サイズに対して、KMUP-3の効果を示す図である。記号#は、P<0.05に対する心筋梗塞グループを示す。(a)は、エバンスブルー(Evans blue)染色(n=5)によって冠動脈結紮後のリスク領域を示す図である。(b)は、梗塞領域(n=10)の百分率を示す図である。
【図4】心筋梗塞領域の線維増生の百分率を示す図である。記号*は、記号*は、P<0.05に対する模擬グループを示し、記号#は、P<0.05に対する心筋梗塞グループを示す。(a)は、中央梗塞領域における線維増生面積(n=10)の百分率を示す図である。(b)は、周囲梗塞領域における線維増生面積(n=10)の百分率を示す図である。(c)は、非梗塞領域における線維増生面積(n=10)を示す図である。
【図5】MMP-9のレベルにおいてのKMUP-3の効果(a)、組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP-1)(b)、密度測定(n=9-10)によりラットの心臓におけるeNOSの蛋白発現量(c)のそれぞれを示す図であり、記号*は、記号*は、P<0.05に対する模擬グループを示し、記号#は、P<0.05に対する心筋梗塞グループを示す。
【図6】ヒト心筋線維芽細胞(HCFs)におけるMMP-9のレベル(a)及びTIMP-1の蛋白発現量(b)を示す図であり、記号*は、P<0.05に対する対照を示し、記号#は、P<0.05に対するTGF-bを示し、記号+は、P<0.05に対するKMUP-3を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下のように、本発明を実施例に基づいて詳述するが、あくまでも例示であって、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載されており、さらに特許請求の範囲の記載と均等な意味及び範囲内での全ての変更を含んでいる。
【0026】
[心筋梗塞実験]
実験動物としての雄性ラット(250-300g)は、台湾台北の国立実験動物繁殖及び研究センター(National Laboratory Animal Breeding and Research Center)によって提供され、一定の温度と制御照明の下に収容されている。又、食べ物と水は、自由に利用可能である。
【0027】
梁等の研究(Liang et al., 2006)によると、心筋梗塞は、左冠動脈前下行枝近位部(LAD、Left anterior descending artery)に対する結紮することによって誘導される。簡単に言えば、ペントバルビタールナトリウム(30 mg・KG-1、i.p.)の腹腔内投与による全身麻酔で、心臓は左小開胸術により露出される。LADの基部からの2mmで、6.0絹布と結合されており、一次縫合で傷を塞ぐ。手術の後、動物は完全に意識があるまで観察されている。模擬(sham)グループの動物は、同様の開胸術及び心膜切開術を受けるが、冠状動脈の周りに結紮されない。
【0028】
すべての動物は、皮下注射で鎮痛用量(ケトプロフェン、3mg・KG-1)及び抗生物質用量(ゲンタマイシン、0.7mg・KG-1)を2日間投与する。尚、本実験は、高雄医科大学動物実験委員会によって承認された。
【0029】
生存しているラットは、回復した後に、ALZET浸透圧ミニポンプ(Model 2ML4、DURECT Corporation、クパチーノ、カリフォルニア州、アメリカ)により直に取り付けられる。この時点では、ほとんどのラットは、前から投与したペントバルビタールナトリウムにより麻酔されており、必要に応じて、ペントバルビタールナトリウムの急速投与量(15 mg・KG-1)が更に与えられる。これらの2 mLの容量Alzet浸透圧ミニポンプは、2.5 mL・H-1の平均ポンピング速度を4週間維持している。治療グループでは、ミニポンプにKMUP-3の塩酸塩(0.3 mg・KG-1・day-1、KMUP-3・HCl)を入れる。模擬グループ及び心筋梗塞グループでは、ミニポンプに生理食塩水を入れる。
【0030】
手術4週間後、すべての動物に対し、心エコー検査を行う。各ラットには、ペントバルビタールナトリウム(30 mg・KG-1、i.p.)の腹腔内投与によって麻酔し、前胸壁が剃毛され、音響カップリングゲルを前胸壁に塗る。心エコー検査システム(機種:Hewlett-Packard 社製 sonos 1500、5MHzのプローブ、アンドーヴァー、マサチューセッツ州、アメリカ)により、M-モードの縦方向及び横の胸骨傍断面を介して、左心室の収縮末期径(LVESD)と拡張末期径(LVEDD)を測定する。左心室(LV)の短縮率(FS)は、以下の式をを用いて左心室の径から分析される (Louhelainen et al., 2007)。
【0031】
LVFS = [(LVEDD - LVESD) LVEDD] × 100
【0032】
心エコー検査の後、PE-50カテーテルが右頸動脈を介して挿入され、左心室収縮期圧(LVSP)、左心室拡張終期圧(LVEDP)及び圧力発達(LV+dP/dt)及び圧力緩和(LV-dP/dt)の最高率を測定する。記録の終了時に、下大静脈と肺静脈は、流体過負荷を避けるように切開され、心臓が摘出されており、心房と右心室が解剖される。左心室の切片は、封入剤に埋め込まれ、残りの組織は、さらに評価させるように液体窒素に転送されている。全体の手順にわたって、必要に応じて、ペントバルビタールナトリウムの急速投与量(15mg・KG-1)が更に与えられる。
【0033】
すべての心臓に組織学的分析を行う。ラットを無作為に選び、エヴァンブルー染色(Harada et al. 2005)によって、冠状動脈の結紮の後のリスクの領域を分析する。梗塞サイズは、2,3-,5-塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)染色によって決定され、左心室の全表面領域に対する梗塞壁の表面領域の比率として表される(Vandegriff et al., 2008)。心臓切片は、前述のように線維増生を評価するようにマッソン・トリクロームで染色される(Lin et al., 2009; Yeh et al., 2010)。TTCで染色された後、梗塞領域が白で表示され、非梗塞領域が赤で表示される。周囲の梗塞領域は、梗塞瘢痕から1mmを伸ばす心筋領域として定義される。それぞれの心臓の十個切片は、線維増生の百分率について分析する。心筋梗塞の後の平均線維増生変化は、研究グループ及び対照群としてマッソン・トリクロームで染色される模擬グループの間で比較される。米国NIH ImageJ 1.42qを用いて、治療群の知識がない研究者によって全体の左心室、梗塞領域及び線維増生領域が測定される。
【0034】
ヒトの心臓線維芽細胞(HCFs、カタログ番号:306-05f)は、CAI社(CELL APPLICATIONS Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州、アメリカ)から購入されている。前記細胞は、37℃、95%の湿度、5%のCO2で、10%のウシ胎児血清を含むダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium)において、単層として培養される。前記細胞は、3〜6継代の後、実験のために収穫される。治療の前に、HCFsは無血清培地で2回洗浄し、無血清培地を24時間で切り替える。MMP-9発現量を刺激するために、培養物は、24時間で10 ng・mL-1のトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)によって処理する。TGF-βの添加の前に、HCFsは、KMUP-3(10μmol・L-1)又はL-NAME(100mmol・L-1)と組み合わせにより1時間前処理する。各実験は3回繰り返す。
【0035】
ウェスタンブロット法(Western blot analysis)
心臓は、50 mmol・L-1のトリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane、Tris)において、10秒2回超音波処理し、4℃、13,000 rpmで30分間遠心分離する。ウシ血清アルブミンを標準液として使用することにより、上澄部のタンパク質濃度を決定する。細胞抽出物は、100 mmol・L-1のTris、20%のグリセロール、4%の硫酸ドデシルナトリウム(SDS)、及び0.2%のブロモフェノールブルーを含むpH6.8のサンプルバッファー(sample buffer)により、4:1の比率で煮沸されている。電気泳動は、10%のポリアクリルアミドゲル電気泳動(Poly-Acrylamide Gel Electrophoresis)で実行し、硝酸セルロース膜(ミリポア社、ビルリカ、マサチューセッツ州、アメリカ)に転送される。前記膜は、20 mmol・L-1のTris及び137 mmol・L-1 のpH7.6のNaClからなるTris緩衝食塩水と、0.1%のTween-20(TTBS)と、5%の脱脂粉乳によって室温で反応してブロックされる。TTBSで洗浄した後、MMP-9、TIMP-1(ミリポア社、テメキュラ、カリフォルニア州、アメリカ)、またはeNOSの一次抗体(BD Transduction Laboratories、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、アメリカ)において、4℃で一晩恒温放置する。前記膜は、マウスやウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology、サンタクルーズ、カリフォルニア州、アメリカ)に対する西洋ワサビペルオキシダーゼ複合抗体と1時間恒温放置する前に、TTBSで洗浄する。その後、前記膜は、TTBSで更に洗浄し、強化された化学発光性(chemiluminescence)を発展して特定抗原を検出する。バンドの強度は濃度測定によって定量化される。
【0036】
すべてのグループには、9%のラットは、手術後の6時間以内に重篤な胸部出血が発生し、早期の手術関連死に割り当てられ、従って、最終的な分析対象から除外した。心筋梗塞の後の治療期間に、動物は死亡していない。表1に示すように、心筋梗塞は、有意な心肥大を誘発すると共に、心臓重量(HW)に対する体重(BW)比が増加する。KMUP-3による治療は心臓リモデリングのプロセスを防ぐ。心筋梗塞グループには、KMUP-3(0.3mg・kg-1・day-1)を4週間投与し、左心室内圧の最大上昇率(LV+DP/dt)が減少して心臓の収縮機能を改善する。又、心筋梗塞グループには、左心室収縮期圧(LVSP)と左心室内圧の下降率(LV-dP/dt)が低下する傾向があるが、これらの相違は統計的有意性に達していない。KMUP-3治療後、心拍数が少し増加するが、これらの相違は統計的有意性に達していない。
【0037】
【表1】

【0038】
図2(b)〜2(c)に示すように、模擬(Sham)グループと比べて、心筋梗塞(MI)グループのラットは、左心室の収縮末期径(LVESD)と拡張末期径(LVEDD)が更に増加している。図2(a)に示すように、心筋梗塞グループにおけるFSの減少によって収縮機能の減少を示す。心臓リモデリング及び機能障害は、KMUP-3の4週間投与により防止することできる。
【0039】
冠動脈結紮後のリスク領域は、エバンスブルー染色により決定され、心筋梗塞(MI)グループと治療(MI+KMUP-3)グループ(図3(a))とは違いがない。図3(b)に示すように、梗塞サイズは、TTCで染色により決定され、KMUP-3治療後、有意に減少する(47.4±33.6対3.7パーセント±1.7%、それぞれP < 0.05)。マッソントリクローム染色によって決定される中央梗塞と周囲梗塞領域の両方では、KMUP-3は、心臓の線維増生を減弱させる。KMUP-3の抗線維増生効果は、非梗塞領域にも達し、模擬グループの線維増生百分率ほどに達する。
【0040】
心筋梗塞のラットにおけるMMP-9の発現量は、模擬グループのラットと比べて有意に増加している。心筋梗塞のラットにおいては、KMUP-3の投与により、MMP-9の発現量が低下する(図5(a))。又、KMUP-3による治療後、MMP-9阻害剤(TIMP-1)の発現量が有意に増加している(図5(b))。心筋梗塞のラットにおいて、eNOSの発現量が少し減少する。KMUP-3による治療後、eNOSの発現量は、心筋梗塞グループのラットと比べて有意に増加している(図5(c))。
【0041】
生体外でeNOSの依存による心保護メカニズムを研究するために、TGF-β(10 ng・mL-1)並びにMMP-9及びTIMP-1の発現量を測定することにより、HCFsを刺激する。図6(a)に示すように、TGF-bの刺激に従って、MMP-9の発現量は有意に増加し、又、KMUP-3(10 mmol・L-1)の投与によってMMP-9の発現量を減少させる。eNOSの阻害剤であるNG-ニトロアルギニンメチルエステル(L-NAME; 100 mmol・L-1)による前処理を行うと、MMP-9発現量の阻害を逆転させる。それと同時に、KMUP-3による治療により、TIMP-1の発現量は有意に増加している(図6(b))。
【0042】
実施例1:KMUP-3塩酸塩(7-[2-[4-(4-ニトロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン塩酸)の調製
KMUP-3(8.3 g)は、エタノール(10 ml)と1N塩酸(60 ml)の混合物に溶解し、それらからなる溶液は50℃で20分間反応させ、室温下でエタノール(またはメタノール)をその中に加え、前記溶液を結晶化するように一晩恒温放置し、KMUP-3塩酸塩(6.4 g)を取得するように濾過する。
【0043】
実施例2:KMUP-3-クエン酸塩の調製
KMUP-3(8.3 g)は、がをエタノール(10 ml)及びクエン酸(4 g)の混合物に溶解し、それらからなる溶液は50℃で20分間反応させ、室温下でエタノール(またはメタノール)をその中に加え、前記溶液を結晶化するように一晩恒温放置し、KMUP-3-クエン酸塩(10.5 g)を取得するように濾過する。
【0044】
実施例3:KMUP-3-ニコチン酸塩の調製
KMUP-3(8.3 g)は、がをエタノール(10 ml)及びニコチン酸(2.4 g)の混合物に溶解し、それらからなる溶液は50℃で20分間反応させ、室温下でエタノール(またはメタノール)をその中に加え、前記溶液を結晶化するように一晩恒温放置し、KMUP-3-ニコチン酸塩(8.3 g)を取得するように濾過する。
【0045】
実施例4:錠剤の組成物の調製
錠剤を製造するために、次の成分をそれぞれ混合した後、重み付けをし、打錠機に充填する。
【0046】
KMUP-3塩酸塩 0.12 g
乳糖 適量
トウモロコシ澱粉 適量
【0047】
以上の説明によると、当業者であれば本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、多様な変更及び修正が可能であることが分かる。従って、本発明の技術的な範囲は、明細書の詳細な説明に記載された内容に限らず、特許請求の範囲によって定めなければならない。
【0048】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓機能を改善するための医薬組成物であって、
薬学的に許容される担体と、
KMUP-3化合物及びその塩類の一つである活性成分の有効量を含んでいること特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記医薬組成物は、心筋梗塞の治療、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全の予防、心筋線維症及び心臓の炎症の軽減に使用され、
前記医薬組成物は、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)の蛋白発現量を減少させ、
前記医薬組成物は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の蛋白発現量を増加させること特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記塩類は、KMUP-3-塩酸塩、KMUP-3-クエン酸塩およびKMUP-3-ニコチン酸塩からなる群から選ばれたこと特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
KMUP-3化合物及びその塩類の一つである活性成分の有効量を提供する工程と、
前記活性成分を被験者に投与する工程と、を含むこと特徴とする心臓機能を改善するための方法。
【請求項5】
前記活性成分は、心筋梗塞の治療、心筋のリモデリングと心筋梗塞後の心機能不全をの予防、心筋線維症及び心臓の炎症の軽減に使用され、
前記KMUP-3化合物の塩類は、KMUP-3-塩酸塩、KMUP-3-クエン酸塩およびKMUP-3-ニコチン酸塩からなる群から選ばれたこと特徴とする請求項4に記載の心臓機能を改善するための方法。
【請求項6】
第一アルコール及び酸を含む溶液にKMUP化合物を溶解する工程と、
第二アルコールを前記溶液に加える工程と、
前記溶液からKMUP-3塩類を分離する工程と、
を含むこと特徴とするKMUP-3塩類を製造するための方法。
【請求項7】
前記KMUP-3塩類は、前記溶液中での結晶であり、
前記第一アルコールは、エタノール(ethanol)であり、
前記第二アルコールは、エタノール及びメタノール(methanol)のいずれかであり、
前記酸は、塩酸、クエン酸、及びニコチン酸からなる群から一つを選び、
前記KMUP化合物は、第一温度で溶解し、前記第二アルコールは、前記第一温度より高い第二温度で加え、
前記第二温度は、室温である、こと特徴とする請求項7に記載のKMUP-3塩類を製造するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−87115(P2012−87115A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184310(P2011−184310)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(505302362)高雄醫學大學 (11)
【Fターム(参考)】