説明

心臓発作検出器

植え込み型トリガー事象検出器および植え込み型虚血検出器を含むシステム。植え込み型トリガー事象検出器は、少なくとも1つの第1状態を検出し、第1状態が検出されたかどうかに関する情報を含む応答性トリガー信号を出力するように適応される。植え込み型虚血検出器は、被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象を示す第2状態を検出するように適応される。虚血検出器は、第1状態が検出されたことを示すトリガー信号を受信するようにトリガー事象検出器に結合され、トリガー信号によってイネーブルされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本分野は、一般に、植え込み型医療デバイスに関し、特に心筋虚血を検出するシステムおよび方法に関するが、制限はしない。
2007年1月19日に出願され、また、「HEART ATTACK DETECTOR」という名称の米国特許出願第11/625,045号に対して、優先権の利益が主張され、この出願は、共に参照により本明細書に組込まれる、2007年1月19日に出願された「Ischemia Detection Using Heart Sound Timing」という名称の同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/625,003号明細書(代理人登録番号第279.C99US1号)および2007年1月19日に出願された「Ischemia Detection Using Pressure Sensor」という名称の同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/624,974号明細書(代理人登録番号第279.C98US1号)に関連する。
【背景技術】
【0002】
植え込み型医療デバイス(IMD)は、患者に埋め込まれるように設計されたデバイスである。これらのデバイスの一部の例は、植え込み型ペースメーカ、植え込み型除細動器(ICD)、心臓再同期デバイスおよびこうした機能の組合せを含むデバイスなどの心臓機能管理(CFM)デバイスを含む。デバイスは、通常、電気治療または他の治療を使用して患者を処置するため、及び医師または介護者が、患者の状態の内部監視によって患者を診断するのを補助するために使用される。デバイスは、患者内の電気心臓活動(electricalheart activity)を監視するセンス増幅器と通信する1つまたは複数の電極を含んでもよく、またしばしば、1つまたは複数の他の内部患者パラメータを監視する1つまたは複数のセンサを含む。植え込み型医療デバイスの他の例は、植え込み型診断デバイス、植え込み型薬物送達システムまたは神経刺激能力を有する植え込み型デバイスを含む。
【0003】
さらに、一部のIMDは、電気心臓活動信号を監視することによって事象を検出する。電気的な事象に加えて、CFMデバイスは、心腔充満および収縮に関連する血行力学的パラメータを測定してもよい。虚血は、心筋への血流が心臓の代謝要求より低下するときに起こる。虚血を早期に検出することは、患者の健康にとって重要であり、処置の早期の始動を可能にする。虚血性がある心筋細胞は、電気的に過敏であり、異常な心臓リズム(たとえば、細動)を受け易い可能性がある。さらに、虚血は心臓のポンピング機能を損なう。処置されないままにされる場合、一般に動脈硬化性疾患である虚血の基礎となる原因は、心筋梗塞(すなわち、心臓発作)をもたらす可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本文書は、とりわけ、患者または被検者の心臓機能を監視するシステムおよび方法を説明する。例1では、システムは、植え込み型トリガー事象検出器および植え込み型虚血検出器を含む。植え込み型トリガー事象検出器は、少なくとも1つの第1状態を検出し、第1状態が検出されたかどうかに関する情報を含む応答性トリガー信号を出力するように構成されている。植え込み型虚血検出器は、被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象を示す第2状態を検出するように構成されている。虚血検出器は、第1状態が検出されたことを示すトリガー信号を受信するようにトリガー事象検出器に結合され、トリガー信号によってイネーブルされる。
【0005】
例2では、例1のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路を含み、虚血検出器は、心拍数が所定の心拍数閾値を越えることを示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0006】
例3では、例1〜2のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路を含み、虚血検出器は、任意選択で、心拍数の変化率が所定の心拍数閾値を越えることを示すトリガー信号によってイネーブルされる
例4では、例1〜3のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路を含み、虚血検出器は、任意選択で、心拍変動(HRV)の減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0007】
例5では、例1〜4のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する、植え込み型心臓信号検知回路および植え込み型呼吸センサを含み、虚血検出器は、任意選択で、呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0008】
例6では、例1〜5のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器に結合される、植え込み型患者活動センサおよびタイマ回路を含み、虚血検出器は、任意選択で、所定期間内の患者活動レベルの減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0009】
例7では、例1〜6のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する、植え込み型患者活動センサおよび植え込み型呼吸センサを含み、虚血検出器は、任意選択で、患者運動の増加および患者ストレスの増加のうちの少なくとも一方を示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0010】
例8では、例1〜7のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路を含み、虚血検出器は、任意選択で、異常心臓リズムを示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0011】
例9では、例1〜8のシステムは、任意選択で、トリガー事象検出器に結合されるタイマ回路を含み、虚血検出器は、任意選択で、概日リズムを使用して、トリガー事象検出器によってイネーブルされる。
【0012】
例10では、例1〜9のトリガー事象検出器および虚血検出器は、任意選択で、植え込み型医療デバイス(IMD)内に含まれ、システムは、さらに、IMDと通信するようになっている外部デバイスを含み、虚血検出器は、外部デバイスとの通信に応答してトリガー事象検出器によってイネーブルされる。
【0013】
例11では、例1〜10の虚血検出器は、任意選択で、心音センサ、心臓血圧センサ、心臓内電位図を検知するようになっている心臓信号検知回路、皮下ECG検知回路、心壁運動センサ、経胸郭インピーダンスセンサ、心臓内インピーダンスセンサ、化学センサ、酸素センサ、加速度計、および、温度センサからなる群からの1つまたは複数の植え込み型センサを含む。
【0014】
例12では、例1〜11の虚血検出器は、任意選択で、被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成された少なくとも1つの第1植え込み型センサと、被検者の姿勢に関連する電気信号を生成するよう構成された植え込み型姿勢センサとを含む。虚血検出器は、被検者の姿勢に関連する第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される。
【0015】
例13では、例1〜12の虚血検出器は、任意選択で、被検者にいて虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成された少なくとも1つの第1植え込み型センサと、被検者の活動に関連する電気信号を生成するよう構成された植え込み型活動センサとを含む。虚血検出器は、被検者の活動に関連する第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される。
【0016】
例14では、例1〜13の虚血検出器は、任意選択で、被検者にいて虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成された少なくとも1つの第1植え込み型センサと、被検者の心拍数に関連する電気信号を生成するよう構成された植え込み型心臓信号検知回路とを含む。虚血検出器は、被検者の心拍数に関連する第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される。
【0017】
例15では、例1〜14のトリガー事象検出器および虚血検出器は、任意選択で、植え込み型医療デバイス(IMD)内に含まれ、IMDは、虚血検出器に結合する可聴アラーム回路を含み、虚血検出器は、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、可聴アラームを提供するよう構成される。
【0018】
例16では、例1〜15のトリガー事象検出器および虚血検出器は、任意選択で、植え込み型医療デバイス(IMD)内に含まれ、例のシステムは、任意選択で、IMDと通信するようになっている外部デバイスをさらに含む。IMDは、心筋虚血の表示を前記外部デバイスに通信するよう構成される。
【0019】
例17では、例1〜16のシステムは、任意選択で、通信またはコンピュータネットワークを通じてIMDと通信する遠隔サーバを含む外部デバイスを含む。
例18では、例1〜17のシステムは、任意選択で、患者についての虚血に関連する情報を含むログを格納するための、虚血検出器と通信するメモリを含む。
【0020】
例19では、例1〜18のトリガー事象検出器および虚血検出器は、任意選択で、IMD内に含まれ、IMDは、さらに、虚血検出器に結合される治療回路を含む。虚血検出器は、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作(episode of myocardia ischemia)が診断される場合、デバイス治療を始動するよう構成される。
【0021】
例20では、方法は、任意選択で、植え込み型センサによって生成される、生理的心臓血管情報を含む1つまたは複数のセンサ信号を検知すること、少なくとも1つの第1状態を判定すること、および、第1状態を検出することによって、被検者において心筋虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第2状態の検出をイネーブルすることを含む。
【0022】
例21では、例20の方法は、任意選択で、センサ信号についてベースラインを確立するために、第1サンプリングレートでセンサ信号をサンプリングすることを含み、第2状態の検出をイネーブルすることは、異なる第2サンプリングレートでのセンサ信号のサンプリングをイネーブルすることを含む。
【0023】
例22では、例20〜21において第1状態を判定することは、任意選択で、所定心拍数閾値を越える心拍数の増加、所定の心拍数閾値を越える心拍数の変化率の増加、心拍変動(HRV)の減少、呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少、異常な心臓リズム、所定期間内での患者活動レベルの所定の減少、患者運動および患者ストレスのうちの一方の増加、および、患者概日リズムに応じて予め決められる時間からなる群からの少なくとも1つの生理的事象を検出することを含む。
【0024】
例23では、例20〜22において第1状態を判定することは、任意選択で、被検者の概日リズムを確定することを含む。
例24では、例20〜23において第1状態を判定することは、任意選択で、第2状態を検出するためのイネーブルが、外部デバイスから通信されていると判定することを含む。
【0025】
例25では、例20〜24において第2状態を検出することは、任意選択で、ST異常(ST segment deviation)、心臓興奮シーケンスの変化、1つまたは複数の心音特徴の変化、確立されたベースライン血圧からの血圧の変化、右心室および左心室同調性の変化、検知された心臓脱分極信号の形態変化、心臓血中酸素飽和度の減少、心壁運動の変化、経胸郭インピーダンスの変化、心臓内インピーダンスの変化、および、患者運動レベルの増加の検出を伴うことのない、心臓温度の変化のうちの1つまたは複数を検出することを含む。
【0026】
例26では、例20〜25の方法は、任意選択で、センサ信号をサンプリングすること、生理的雑音の存在下でセンサ信号を傾向付けること、および、サンプリングされる信号から生理的雑音を除去するために傾向付けを使用することを含む。
【0027】
例27では、例20〜26の方法は、任意選択で、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、アラームを通信することを含む。
例28では、例20〜27の方法は、任意選択で、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、患者についての虚血ログを更新することを含む。
【0028】
例29では、例20〜28の方法は、任意選択で、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、デバイス治療を始動することを含む。
この要約は、本特許出願の主題の概要を提供することを意図される。この要約は、本発明の排他的なまたは網羅的な説明を提供することは意図されない。詳細な説明は、本特許出願の主題に関するさらなる情報の提供が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】植え込み型医療デバイス(IMD)を使用するシステムの複数の部分のブロック図である。
【図2】1つまたは複数のリード線によって心臓に結合されたIMDを示す図である。
【図3A】心臓信号を検知するために心臓内リード線を使用しないIMDの例を示す図である。
【図3B】心臓信号を検知するために心臓内リード線を使用しないIMDの例を示す図である。
【図4】心筋虚血を検出するシステムの例の複数の部分のブロック図である。
【図5】心筋虚血を検出する別のシステムの例の複数の部分のブロック図である。
【図6】心筋虚血を検出する方法の例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の詳細な説明では、詳細な説明の一部を形成する添付図面が参照され、本発明が実施されてもよい特定の実施形態が、例証として示される。他の実施形態が使用されてもよく、また、本発明の範囲から逸脱することなく、構造的または論理的変更が行われてもよいことが理解される。
【0031】
植え込み型医療デバイス(IMD)は、本明細書に記載する、特徴、構造、方法またはその組合せのうちの1つまたは複数を含んでもよい。たとえば、心臓モニタまたは心臓刺激器は、以下に記載する有利な特徴および/またはプロセスの1つまたは複数を含むように実施されてもよい。こうしたモニタ、刺激器あるいは他の植え込み型デバイスまたは部分植え込み型デバイスは、本明細書に記載する特徴の全てを含む必要があるのではなく、独特の構造および/または機能を提供する選択された特徴を含むように実施されてもよいことが意図される。こうしたデバイスは、種々の治療機能または診断機能を提供するように実施されてもよい。
【0032】
IMDは、経静脈電極、心内膜電極および心外膜電極(すなわち、経胸郭電極)、および/または、缶電極、ヘッダ電極および不関電極を含む皮下非胸郭内電極、ならびに、皮下アレイ電極またはリード線電極(すなわち、非胸郭内電極)を含む種々の電極配置構成で構成されてもよい。心臓活動に関連する電気信号の監視は、即座でなくとも、早期の虚血の診断を提供する可能性がある。
【0033】
図1は、植え込み型医療デバイス(IMD)110を使用するシステム100の複数の部分のブロック図である。一例として、図示するシステム100は、心臓不整脈を処置するのに使用される。IMD110は、通常、心臓リード線108またはさらなるリード線によって患者102または被検者の心臓105に結合されるか、あるいはその他の方法で心臓105に連結する電子機器ユニットを含む。IMD110の例は、神経刺激デバイス、薬物、薬物送達システムまたは他の治療を含むか、または、それと協調して働く心臓デバイスを含む、ペースメーカ、カーディオバータ、デフィブリレータ、心臓再同期治療(CRT)デバイスならびに他の心臓監視および治療送デバイスを含むが、これらには限定されない。システム100はまた、通常、無線周波数(RF)信号または他のテレメトリ信号を使用することなどによって、無線信号160をIMD110に通信するIMDプログラマまたは他の外部デバイス170を含む。
【0034】
心臓リード線108は、IMD110に結合する近位端、および、1つまたは複数の電極によって心臓105の1つまたは複数の部分に結合される遠位端を含む。電極は、通常、カーディオバージョン、デフィブリレーション、ペーシングまたは再同期治療あるいはその組合せを、心臓105の少なくとも1つの腔に送出する。IMD110の電子機器ユニットは、通常、密封されたキャニスタまたは「缶」内に閉囲された構成要素を含む。ペーシングエネルギー、デフィブリレーションエネルギーまたは両方を、心臓105上かまたは心臓105の周りに配設された電極と連携して供給することなどの目的で、他の電極は、缶上か、缶から延在する絶縁ヘッダ上かまたはIMD110の他の部分上に位置してもよい。1つのリード線108または複数のリード線および電極はまた、通常、心臓105の内因性かまたは他の電気活動を検知するために使用されてもよい。
【0035】
図2は、1つまたは複数のリード線108によって心臓105に結合されたIMD110を示す。心臓105は、右心房200A、左心房200B、右心室205Aおよび左心室205Bを含む。リード線108は、右心室205Aに対して、信号を検知するか、ペーシング治療を送出するか、または、その両方のために、心臓105の右心室205A内に配設された電極(リング電極225および先端電極230などの電気接点)を含む。リード線108はまた、心臓の電気信号を検知するか、ペーシング治療を送出するか、または、信号を検知すると共にペーシング治療を送出するために、リング電極235およびリング電極240などの、右心房200A内に設置するための1つまたは複数の電極を含む。検知およびペーシングは、IMD110が心腔収縮のタイミングを調整することを可能にする。たとえば、IMD110は、右心房200Aにおける収縮を検知し、所望の心房−心室(AV)遅延時間で右心室205Aをペーシングすることによって、心房収縮遅延のタイミングに関して心室収縮のタイミングを調整することができる。IMD110はまた、IMD缶245上に形成された電極250およびIMDヘッダ255上に形成されたヘッダ電極260を含む。
【0036】
IMD110はまた、任意選択で、心房カーディオバージョン、心房デフィブリレーション、心室カーディオバージョン、心室デフィブリレーションまたはその組合せを心臓105に送出することなどのための、さらなるリード線および電極を含む。こうした電極は、通常、デフィブリレーションで必要となる大きなエネルギーを扱うために、ペーシング電極より大きな表面積を有する。任意選択で、リード線108は、2つ以上の電極をそれぞれ含む2つのリード線を含む。例として、第1リード線は、右心室205Aの尖部に位置する先端電極および先端電極の近位に位置する第1リング電極を含む。第2リード線は、右心房200A内に位置する先端電極および先端電極の近位の右心房200A内に位置するリング電極を含む。
【0037】
任意選択で、IMD110は、左心室205Bの壁に沿って延在する冠状静脈内に設置するためのリング電極を含むさらなる心臓リード線を含む。左心室205B内に設置されるリード線および右心室205A内に設置されるリード線は、再同期治療を心臓105に、任意選択で、提供するのに使用されてもよい。
【0038】
他の形態の電極は、IMD110によって生成される電流を「操向する(steer)」ことに役立つために、心臓105の複数の部分に貼り付けられてもよい、または、身体の他のエリア内に埋め込まれてもよいメッシュおよびパッチを含む。本方法およびシステムは、種々の構成で、また、種々の電極を用いて働くことになる。図3A〜3Bは、心臓信号を検知するための血管内リード線を使用しないIMD300の例を示す。図3Aは、IMD300が電力源および回路を保持する肉厚の端部313を含むことを示す。IMD300はまた、心臓信号の遠隔検知用の電極325および327を含む。カーディオバージョン/デフィブリレーションは、電極315および317を通して供給される。図3Bは、患者内に位置決めされたIMD300の例を示す。
【0039】
大多数の心臓発作(急性心筋梗塞)は、アテローム性動脈硬化症によって生じたプラークなどの不安定プラークの破裂によって引き起こされ、突然の冠閉塞を生じ、通常、重大な医療緊急事態をもたらす。心臓発作による死亡率の減少は、再灌流治療によって達成される可能性があるが、成功率は、再灌流治療の前の冠閉塞の継続時間に依存する。処置のための重要な時間は、心臓発作の症状の開始後の最初の数時間であり、心筋虚血の早期検出は、患者の健康にとって有利である。
【0040】
患者の心筋虚血の徴候は、種々の方法で明らかになる。冠血流閉塞の発生は、通常、心拍数の即座の増加、および、特に虚血性心壁セグメントにおける心筋短縮の減少をもたらす。心室収縮の非同期性もまたしばしば起こる。ときとして、異常は、閉塞後の30秒〜1分の間の心電図(ECG)において検出可能である。心筋虚血は、左心室(LV)内のピーク負の圧力変化率(dP/dt)を抑制し、同様に、LVピーク正dP/dtを抑制する。心筋虚血は、最終的に、QRST心臓興奮シーケンスのS−Tセグメントの上昇をもたらす可能性がある。複数のセンサが使用されて、虚血に関連する一連の事象を検出することができる。患者が、実際に虚血事象にさらされたという確率は、検出される一連の事象の数と共に高くなる。
【0041】
植え込み型心臓リズム管理(CRM)デバイスは、心臓および肺機能に関連する種々の生理的変数を検出する能力を有する植え込み型センサを装備することがある。これらのセンサは、通常、レート応答性ペーシング、ならびに、たとえば遠隔患者監視およびデバイス治療の遠隔トリガーなどの高度患者管理機能などの用途で使用される。心筋虚血は種々の生理的変数の変化をもたらす可能性があるため、これらのセンサはまた、心筋虚血の早期検出に使用されてもよい。そのため、虚血検出の特異性は、各センサが一連の事象の一部を測定する複数のセンサを使用して、一連の虚血関連事象を検出することによって改善される可能性がある。こうしたセンサを使用するときの困難さは、センサを動作させ、検出で使用されるアルゴリズムを実施することが、電池エネルギーの観点からコストが高いことである。
【0042】
図4は、心筋虚血を検出するためのシステム400の例の複数の部分のブロック図を示す。システム400は、植え込み型トリガー事象検出器405および植え込み型虚血検出器410を含む。トリガー事象検出器405は、第1状態を検出し、応答性トリガー信号を出力する。トリガー信号は、第1状態が検出されたかどうかに関する情報を含む。虚血検出器410は、トリガー事象検出器405に結合され、トリガー信号を受信する。虚血検出器410は、第1状態が検出されたことを示すトリガー信号によってイネーブルされる。
【0043】
一部の例では、第1状態は、患者が心筋虚血にさらされたことを示す患者の生理的状態を含む。第1状態は、虚血を高感度で示す可能性がある(すなわち、第1状態検出は、虚血を示す生理的事象を過剰に含む可能性が高い)が、虚血に特異的である必要はない。イネーブルされると、虚血検出器410は、虚血を示す患者または被検者内の1つまたは複数の生理的心臓血管事象を示す第2状態を検出する。第2状態は、好ましくは、第1状態に比べて心筋虚血に対してより特異的である。虚血検出器410をイネーブルすることは、虚血検出器410の少なくとも一部分をパワーオンすることを含む可能性がある。イネーブルすることはまた、虚血検出モジュールにおいて分岐に命令を実行させることを含む可能性がある。
【0044】
モジュールは、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェアまたはその任意の組合せであることができる。複数の機能が、所望に応じて1つまたは複数のモジュールで実施されることができるが、記載した実施形態は例に過ぎない。ソフトウェアおよび/またはファームウェアは、通常、デジタル信号プロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、マイクロプロセッサまたは他のタイプのプロセッサ上で実行される。プロセッサは、植え込み型医療デバイス(IMD)の一部として動作してもよい。
【0045】
第1状態は、1つまたは複数の生理的事象を含んでもよい。事象は、患者の神経活動の変化を示す可能性がある生理的変化の検出を含んでもよい。植え込み型センサ415は、1つまたは複数の事象を検出するために、トリガー事象検出器405と電気的に通信するよう配置されてもよい。一部の例では、トリガー事象検出器405は、センサ出力信号用のベースラインを確立し、第1状態は、確立されたベースラインからの変化が起こるときに検出される。ベースラインは、たとえば周期的など、再帰的に確立されてもよい。
【0046】
一部の例では、植え込み型センサ415は、トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路を含み、第1状態は、所定の心拍数閾値を越える被検者の心拍数を含む。一部の例では、第1状態は、所定の心拍数閾値を越える被検者の心拍数の変化率を含む。
【0047】
心臓の右心室内に設置された電極は、インピーダンス対時間の信号を提供する。この心臓内インピーダンス波形は、信号処理されて、ペーシングされたまたは自発的なQRS群(収縮期マーカ)で始まり、インピーダンス信号が、QRS群に続いて正方向にゼロ軸を交差する点で終わる時間間隔の尺度を得ることができる。得られる時間間隔は、心臓の収縮力に反比例する。心臓内インピーダンスを測定するシステムおよび方法は、参照により本明細書に組込まれる、1987年8月21日に出願された、「Physiologic Control of Pacemaker Rate Using Pre−Ejection Interval as the Controlling Parameter」という名称のCitak他による米国特許第4,773,401号明細書に記載されている。
【0048】
心拍変動(HRV)は、洞調律中の連続する心拍動間の時間間隔の変化を指す。システム400の一部の例では、第1状態は、検出されるHRVの減少を含む。測定されたHRVの量が小さい患者は、動脈圧の変化を補償する能力を患者が減退させている可能性があることを意味する。HRVを測定するシステムおよび方法は、参照により本明細書に組込まれる、1994年11月15日に出願された、「Method and Apparatus to Continuously Optimize the A−V Delay in a Dual Chamber Pacemaker」という名称のSpinelli他による米国特許第5,466,245号明細書に記載される。
【0049】
一部の例では、第1状態は、異常心臓リズムの検出を含む。異常心臓リズムは、被検者が心拍数の突然の増加を経験するときに、心臓リズム安定性の評価を使用して検出されることができる。異常心臓リズムを検出し、リズムの安定性を評価する方法およびシステムの例は、参照により本明細書に組込まれる、1999年8月20日に出願された、「System and Method for Detection Enhancement Programming」という名称のGilkerson他による米国特許第6,493,579号明細書に見出される。
【0050】
一部の例では、異常心臓リズムは、検知された心臓信号の形態を、メモリに格納された形態テンプレートと比較することによって検出される。一部の例では、検知される心臓脱分極の形態が、メモリに格納された(正常洞調律、心室頻脈性不整脈または上室性頻脈性不整脈などの)知られている正常または異常脱分極形態と比較される。たとえば、テンプレートは、電気エネルギーパルスを患者の心臓の上室性領域に供給することによってCRMを使用して患者について作成されることができる。得られる心臓の群は、その後、検知され、形態ベース心臓信号分類アルゴリズムで使用するためのテンプレートを作成するのに使用される。形態ベースアルゴリズム用のテンプレートを作成するシステムおよび方法は、参照により本明細書に組込まれる、2002年7月23日に出願された、「Classification of Supra−ventricular and Ventricular Cardiac Rhythms Using Cross Channel Timing Algorithm」という名称のHsuによる米国特許第6,889,081号明細書に記載される。
【0051】
複数の植え込み型センサ415が、トリガー事象検出器405と電気通信するよう配置されて、1つまたは複数の第1状態事象を検出してもよい。一部の例では、システム400は、トリガー事象検出器と通信する、植え込み型心臓信号検知回路および植え込み型呼吸センサを含み、第1状態は、呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少を含む。RSAは、患者の吸気と呼気との間の被検者の心拍数の変化を指す。RSAは、洞房結節への交換神経および迷走神経インパルスの流れに対する呼吸の影響によって起こる不整脈の自然なサイクルである。心臓のリズムは、主に、心拍数および収縮力を調節する迷走神経の制御下にある。息が吸い込まれると、迷走神経活動が減衰し、心拍数が増加し始める。吐出されると、迷走神経活動が増加し、心拍数が減少し始める。吸気と呼気との間の心拍数の差の減少は、患者の迷走神経反応の悪化を示す可能性がある。
【0052】
植え込み型呼吸センサの例は、分時呼吸量を測定する経胸郭インピーダンスセンサである。経胸郭インピーダンスを測定する手法は、参照により本明細書に組込まれる、1998年2月27日に出願された、「Rate Adaptive Cardiac Rhythm Management Device Using Transthoracic Impedance」という名称のHartley他による米国特許第6,076,015号明細書に記載される。
【0053】
一部の例では、システム400は、トリガー事象検出器405と電気通信する、植え込み型患者活動センサおよび植え込み型呼吸センサを含む。第1状態は、患者活動の増加および患者呼吸レベルの増加によって示される、患者運動の増加または患者ストレスの増加を含む。植え込み型患者活動センサの例は加速度計を含む。
【0054】
一部の例では、1つの植え込み型センサ415または複数の植え込み型センサは、植え込み型患者活動センサを含み、システム400は、トリガー事象検出器405に結合したタイマ回路425を含む。第1状態は、患者活動レベルの突然の減少の検出を含む。突然の減少は、活動センサによって測定される指定期間における患者活動の指定された減少によって示される可能性がある。
【0055】
一部の例では、虚血検出器410は、虚血検出器をオン/オフにデューティサイクリングすることによってイネーブルされる。例証的な例では、虚血検出器は、1時間おきにイネーブルされる。一部の例では、虚血検出器410は、患者の概日リズムを使用してトリガー事象検出器によってイネーブルされる。例証的な例では、虚血検出器は、早朝の時間など、患者について高い虚血のリスクが存在する1日のある時刻の間にイネーブルされる。
【0056】
トリガー事象検出器405は、センサおよびモジュールを含んでもよい虚血検出器410をトリガーする虚血を示す可能性がある第1層の事象を検出することがわかる。こうして、心筋虚血が患者に存在する可能性が高くなったことを、第1層の1つまたは複数の事象が示すときに、虚血検出器410がイネーブルされるため、電池電力が保存される。
【0057】
虚血検出器410は、1つまたは複数の植え込み型センサ420を含む。植え込み型センサ420は、虚血を示す、被検者内の1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する電気センサ信号を生成する。一部の例では、植え込み型センサの組合せの出力は、生理的心臓血管事象を検出するのに使用される。一部の例では、植え込み型センサは、断続線430で示すように、トリガー事象検出器405と虚血検出器410の両方によって使用される。一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型センサ420によって生成される信号を第1レートでサンプリングし、虚血検出器410をイネーブルすることは、植え込み型センサ420によって生成される信号を異なる第2レートでサンプリングすることを含む。例証的な例では、第2レートは、より高いサンプリングレートである。
【0058】
一部の例によれば、虚血検出器410は、センサ信号の変化が虚血を示すことを認識する機能および方法を実施する1つまたは複数のモジュールを含む。以下で記載するように、センサ信号に関連する情報は、外部デバイスに通信されてもよく、また、プロセッサは、パーソナルコンピュータ、サーバまたは他のコンピュータシステムなどのコンピュータシステム上で動作してもよい。
【0059】
一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型心音センサを含む。心音は、患者の心臓の活動および心臓を通る血流による機械的振動に関連する。心音は、各心周期によって繰返し、振動に関連する活動に従って分離され分類される。第1心音(S1)は、僧房弁の試験中に心臓によって作られる振動音である。第2心音(S2)は、拡張期の開始を特徴付ける(mark)。第3心音(S3)および第4心音(S4)は、拡張期中の左心室の充満圧に関連する。心音センサは、患者の心臓の機械的活動を表す電気信号を生成する。心音センサは、心臓内または心臓の近くで音響エネルギーが検知されることができるロケーションに配設される。一部の例では、心音センサは、心臓内または心臓の近くに配設された加速度計を含む。別の実施形態では、心音センサは、心臓内または心臓の近くに配設されたマイクロフォンを含む。
【0060】
心音を監視することは、医師が、患者の血行力学的性能を観察するかまたは評価することを可能にする。心腔収縮力の変化は、虚血事象を伴う可能性があり、こうした変化は、心音センサを使用して測定されることができる。虚血は、心室腔収縮力の減少に関連するため、S1心音の音量の減少に関係付けられる。心音を監視する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2002年12月30日に出願された、「Method and Apparatus for Monitoring of Diastolic Hemodynamics」という名称のSiejko他による米国特許出願公報第2004/0127792号明細書に見出される。
【0061】
一部の例では、虚血検出器410は、確立されたベースライン心音信号からの心音信号の測定された変化を使用して虚血事象を検出するために、植え込み型心音センサと通信する心音監視モジュールを含む。虚血事象を検出するために心音を監視する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2005年6月8日に出願された、「Ischemia Detection Using a Heart Sound Sensor」という名称のZhang他による米国特許出願第11/148,107号明細書に見出される。
【0062】
虚血事象は、心音と、別の生理的心臓血管事象との間の時間間隔の変化で反映されてもよい。こうした時間間隔の変化を検出するために、たとえば、第1の検出された生理的心臓血管事象と第2の検出された生理的心臓血管事象との間など、第1事象と第2事象との間に、ベースライン時間間隔が確立されてもよい。第1生理的事象および第2生理的事象の少なくとも一方は、心音信号から検出される心音事象を含む。こうした時間間隔の例は、QRS群のQ波からS1またはS2心音までの時間間隔、R波からS1またはS2心音までの時間間隔および2つの心音間の時間間隔を含むが、これには限定されない。
【0063】
確立されたベースライン時間間隔からのその後の測定される変化が、指定された範囲の時定数内にある時定数で起こるとき、虚血事象が起こったと判定される。たとえば、移動平均が使用されて、ベースライン時間間隔が測定されると仮定する。ベースライン時間間隔からの測定される変化が、移動平均に使用される最後の値から、数秒から数分(たとえば、5分)の範囲内にある時定数で、比較的突然に起こる場合でも、発作は、虚血事象であると判定されてもよい。一部の例では、間隔の測定される変化は、指定される継続時間内で、指定される閾変化を超えなければならない。心音を含む生理的事象の時間間隔の変化から虚血を検出する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2007年1月19日に出願された、「Ischemia Detection Using Heart Sound Timing」という名称のPatangay他による同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/625,003号明細書(代理人登録番号第279.C99US1号)に記載される。
【0064】
虚血事象は、被検者のECG内の異常を含んでもよい。そのため、一部の例では、虚血検出器410は、心臓内電位図を検知するようになっている植え込み型心臓信号検知回路およびECG異常を検出する1つまたは複数のモジュールを含む。一部の例では、虚血検出器は、QRS群の継続時間の増加を伴う患者のQRS心臓信号群の振幅の減少から異常を検出する。一部の例では、ECG異常は、被検者のS波からT波までの(「ST」)間隔において明らかになる可能性がある。虚血検出器410は、患者のECGについてベースラインを確立し、ECGのS波からT波までの(「ST」)間隔が、ベースラインECGのST間隔から指定された量だけ偏移すると判定することによって虚血を検出する。心電図信号の変化から心筋虚血を検出する手法は、参照により本明細書に組込まれる、1999年4月26日に出願された、「Method and Apparatus for Detecting Changes in Electrocardiogram Signals」という名称のBenserによる米国特許第6,108,577号明細書に記載されている。
【0065】
一部の例では、虚血検出器410は、虚血を検出するセンサの組合せからの信号を使用する。心音監視およびECG監視の組合せを使用して虚血を検出する手法は、先に述べた、Zhang他の米国特許出願第11/148,107号明細書に見出される。
【0066】
以下の表1は、植え込み型心音センサおよび植え込み型心臓信号検知回路の出力が、決定マトリクスに従って混合される例を示す。虚血検出器410は、測定されたS4心音変化の強度に低、中、高の重みを適用する。同様に、虚血検出器410は、ECG信号内の測定されたST間隔の偏移に低、中、高の重みを適用する。一例では、重みは、対応する患者固有のベースラインからの振幅変化に基づいて適用される。
【0067】
測定された信号の重みが共に低である場合、虚血検出器410は、虚血事象が起こったという低信頼度レベルを有する。測定された信号の重みが共に高である場合、虚血検出器410は、虚血事象が起こったという高信頼度レベルを有する。決定マトリクスの残りは、患者の履歴または介護者の経験などの因子に基づいてプログラムされることができる。
【0068】
【表1】

一部の例では、虚血検出器410は、虚血事象が起こったかどうかを判定するために、重みを使用して、センサ出力および心音信号の測定された変化を融合する1つまたは複数のファジーロジックルールを適用する。虚血検出器410は、虚血を検出するために、本明細書で記載するセンサの任意の組合せを使用してもよい。
【0069】
一部の例では、植え込み型心臓信号検知回路は、無線皮下ECG検知回路を含む。無線ECGは、表面ECGを近似する信号であり、表面(皮膚接触)電極を使用することなく採取される。無線ECGを検知する回路の例は、参照により本明細書に組込まれる、2004年3月5日に出願された、「Wireless ECG in Implantable Devices」という名称のMcCabe他による米国特許出願第2005/0197674号明細書に説明されている。
【0070】
心筋虚血は、患者の心臓興奮シーケンスの変化をもたらす可能性がある。一部の例では、虚血検出器410は、虚血を検出するために心臓興奮の変化を検出する。一部の例では、虚血検出器410は、複数の植え込み型心臓信号検知回路に関連する複数の複合電気センサ信号を受信する。虚血検出器は、信号源分離を実施し、信号源分離に基づいて、1つまたは複数の心臓興奮シーケンスの全てまたは一部分に関連する1つまたは複数の心臓信号ベクトルを生成する。無線ECGベースの虚血検出器を使用して虚血を検出する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2005年3月14日に出願された、「Cardiac Activation Sequence Monitorig for Ischemia Detection」という名称のZhang他による米国特許出願公報第2006/0116593号明細書に説明されている。
【0071】
心筋虚血は、右心室と左心室同期性の変化をもたらす可能性がある。一部の例では、虚血検出器410は、右心室および左心室内またはその近くに設置された電極に結合する植え込み型心臓信号検知回路を含む。これは、虚血検出器410が、RV/LV同期性の変化から虚血を検出することを可能にする。ある例では、虚血検出器410は、冠状静脈内に設置され、冠状静脈を介して左心室上に心外膜的に載置される1つまたは複数の電極を含む心臓リード線を含む。これは、左心室の収縮の検知を可能にする。
【0072】
一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型心臓血圧センサを含む。左心室の心筋の約25%が急性に虚血状態になると、拡張終末期圧および容積が増加する。通常、急性冠閉塞事象では、LVEDPは、10mmHgだけ増加し、LV内の圧力変化率(「LV dP/dt」)は、1分未満以内に、500mmHg/sだけ減少する可能性がある。左心室充満圧の増加を検出することができるセンサの例は、植え込み型心臓圧力センサおよび心音センサを含む。一部の例では、虚血検出器410は、左心室の心腔圧を測定するために植え込み型心臓圧力センサを含む。ある例では、圧力センサは、冠状静脈内に埋め込まれて、冠状静脈圧の直接測定により左心室圧を確定する。
【0073】
こうした植え込み型圧力センサを使用するシステムおよび方法の説明は、参照により本明細書に組込まれる、2002年1月4日に出願された、「Method and Apparatus for Measuring Left Ventricular Pressure」という名称のSalo他による米国特許第6,666,826号明細書に見出される。他の心臓圧力センサの例は、右心室(RV)腔圧力センサ、肺動脈圧センサおよび左心房腔圧力センサを含む。
【0074】
拡張期中に、肺動脈(PA)拡張期圧は、一般に、LVEDPに関係付けられる。そのため、LVの心筋に対する血液供給の減少中におけるLVEDPの変化は、PA拡張期圧を監視することによって検出されてもよい。LVの心筋などの心臓の少なくとも一部分に対する血液供給の減少(虚血または心筋梗塞など)は、一般に、植え込み型PA圧力センサからの情報を使用して検出される可能性がある。
【0075】
心臓の一部分に対する血液供給の減少を検出するために、たとえば植え込み型PA圧力センサを使用することなどによって、肺動脈圧(PAP)信号が検知される。PAP信号の少なくとも1つの特徴が識別される。識別可能な特徴の例は、とりわけ、少なくとも1つのPA圧力特徴における、少なくとも1つの検出された振幅、少なくとも1つの検出された大きさ、少なくとも1つの検出されたピーク、少なくとも1つの検出された谷、少なくとも1つの検出された値、少なくとも1つの検出された変化、少なくとも1つの検出された増加、少なくとも1つの検出された減少および少なくとも1つの検出された変化率を含む。識別可能な特徴の2つの発生間の時間が、その後、確定される。特徴および特徴の2つの発生間の時間間隔は、信号プロセッサによって識別される。
【0076】
1つまたは複数の時間間隔が使用されて、心臓の少なくとも一部分に対する血液供給の減少が計算される。ある例として、識別可能な特徴がPA拡張終末期圧(「PAEDP」)の大きさである場合、第1レベルを有するPAEDPの大きさの検出と、第1レベルをある量(たとえば、50mmHg)だけ超える第2レベルを有するPAEDPの大きさの検出との間の間隔が、ある時間量(たとえば、45秒)以内に起こる場合、心臓の一部分に対する血液供給の25%減少が計算される。PA圧力を使用して心臓の一部分に対する血液供給の減少を検出する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2007年1月19日に出願された、「Ischemia Detection Using Pressure Sensor」という名称のZhang他による同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/624,974号明細書に記載される。
【0077】
心筋虚血は、心壁の局所短縮をもたらす可能性がある。この変化は、たとえば左心室(LV)壁運動異常として明らかにされることができる。一部の例では、虚血検出器410は、心筋虚血から生じることが多いLV収縮力の低下を検出するために、植え込み型心壁運動センサを含む。こうしたセンサの例は、心音、加速度信号および/または心臓インピーダンスを使用して心壁運動を測定する。
【0078】
局所短縮は、心音センサによって検出可能な心音の変化をもたらす。壁運動を検知するシステムおよび方法の説明は、参照により本明細書に組込まれる、2005年5月24日に出願された、「Systems and Methods for Multi−Axis Cardiac Vibration Measurements」という名称の同一譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/135,985号明細書に見出される。
【0079】
加速度計は、それぞれが局所心壁運動を示す加速度信号を提供するのに使用される。1つまたは複数の加速度計が、心臓上または心臓内に位置決めされたリード線の一部分内に組込まれることができる。加速度計は、局所心臓加速度の振幅の急激な減少として壁運動異常を検出する。
【0080】
心臓インピーダンスセンサは、心臓内に挿入された電極間の電気インピーダンス信号を検知する。たとえば、図2では、心臓インピーダンスセンサは、右心室205Aの尖部に設置された電極と、右心房200Aに設置された電極との間の、右心室205Aの心臓内インピーダンスを検知することができる。所定の励起電流が、電極間に送出され、インピーダンスは、電極間で検知される電圧から確定される。被検者の経胸郭インピーダンスは、リング電極225と、缶電極250またはヘッダ電極260との間で測定されることができる。
【0081】
心臓インピーダンスセンサが使用されて、心臓収縮と共にインピーダンス信号を追跡し、ベースラインインピーダンスまたは正常インピーダンス信号パターンを作成することができる。心臓インピーダンスは心臓収縮に応答性があるため、局所短縮による変化は、各心臓収縮によって起こるインピーダンス揺動の形態を変化させる可能性がある。一部の例では、虚血検出器410は、インピーダンス信号形態をベースライン信号パターンと比較するモジュールを含む。たとえば、信号のフィデューシャル点に基づいて、または、信号間の振幅距離(平均絶対偏差または2乗平均平方根(RMS)差など)に基づいて、パターンが著しく異なるとき、虚血事象が診断される。一部の例では、虚血検出器410は、インピーダンス信号に形態スコアを割当てることによって形態を比較する。形態スコアが、所定の閾スコアと指定量だけ異なる場合に、虚血事象が診断される。一部の例では、形態変化は、他のセンサ測定によって確認されてもよい。
【0082】
一部の例では、心臓インピーダンスセンサは、異なる周波数の励起電流でインピーダンスを測定するのに使用される。虚血状態の心筋は、1KHzと500KHzとの間などの、異なる周波数で実質的に異なるインピーダンス応答を示し、一方、肺組織および浮腫流体は、1MHz未満の周波数では大きな変化を示さない。心筋虚血の程度は、500KHzで行うインピーダンス測定にほとんど影響を及ぼさず、一方、1KHzでは、虚血の程度は、インピーダンスにかなりの影響を及ぼす。したがって、複数周波数測定が行われる可能性があり、その結果が使用されて、たとえば、インピーダンス変化を、肺浮腫または心筋虚血から生じるものとして分類することができる。
【0083】
異なる周波数で心臓インピーダンスを測定するシステムおよび方法は、参照により本明細書に組込まれる、2005年2月15日に出願された、「Pathology Assessment with Impedance Measurements using Convergent Bioelectric Lead Fields」という名称のBelalcazar他による米国特許公報第20060184060号明細書に記載されている。電流が、対電極間に注入され、身体内の評価部位の近くの第2の対電極間で、電位差が測定される。電流が1kHzと500kHzで注入されている間に、測定が行われる。インピーダンス値は、電位差および電流注入に基づいて計算され、評価部位の近くの病理を評価するのに使用される。
【0084】
一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型心臓温度センサを含む。一部の例では、植え込み型心臓温度センサは、患者の冠状静脈洞内に埋め込まれるリード線システム内に含まれる。植え込み型心臓温度センサは、心筋組織を通過した後に、冠状静脈洞を通って戻る血液の温度を測定する。正常心臓機能の副産物として、心臓は熱を発生する。この熱は、灌流血液によって取出される。血液は、右心房および右心室内に流れる前に、冠状静脈を通って出て、冠状静脈洞内に入る。血液は、その後、肺を通して圧送され、肺において、過剰な熱が、除去され、吐出される空気によって身体から出る。
【0085】
左心室によって実施される有効仕事(W)は、心室を通って移動する血液容積に関連し、一方、左心室からの熱出力は、総合仕事(W)に関連する。左心室に入る血液と冠状静脈洞内の血液との温度差は、左心室仕事に関連する。活動または患者運動の増加についての他の指定を伴わない、Wまたは代用測定値としての心臓温度の増加は、心筋虚血による患者の血行力学的システムの効率の低下を示す可能性がある。
【0086】
冠状静脈内の温度を検知する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2001年12月31日に出願された、「Method and Apparatus for Monitoring Left Ventricular Work or Power」という名称のSaloによる米国特許出願公報第2003/0125774号明細書に見出される。
【0087】
一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型酸素飽和度センサを含む。酸素飽和度センサは、心臓の機械的活動、収縮力および血流に関連する流体酸素飽和度の変化に関連する電気センサ信号を生成する。虚血事象は、心腔収縮力の変化を伴う可能性がある。収縮力のこの変化は、血中酸素飽和度レベルにおいてレベルの減少として明らかにされる可能性がある。血中酸素飽和度レベルを測定する植え込み型センサを使用する手法は、参照により本明細書に組込まれる、1992年10月7日に出願された、「Oxgen Sensor Based Capture Detection for a Pacer」という名称のThompsonによる米国特許第5,342,406号明細書に見出される。
【0088】
一部の例では、虚血検出器410は、植え込み型化学センサを含む。心筋虚血は、冠状静脈洞内の血中乳酸レベルの増加を伴う可能性がある。血中乳酸レベルの増加は、化学センサによって検出可能な血液pHの減少を伴う。冠状静脈洞内に化学センサを設ける手法は、参照により本明細書に組込まれる、2006年5月17日に出願された、「Implantable Medical Device with Chemical Sensor and Related Methods」という名称のKaneによる米国特許出願第11/383,933号明細書に見出される。
【0089】
図5は、心筋虚血を検出するシステムの別の例500の複数の部分のブロック図を示す。システム500は、植え込み型医療デバイス525(IMD)内にトリガー事象検出器505および虚血検出器510を含む。IMD525は、さらに、外部デバイス535との通信を可能にする通信回路530を含む。トリガー事象検出器505に虚血検出器510をイネーブルさせる第1状態は、虚血検出器510をイネーブルするために、外部デバイス535がIMD525と通信することを含む。こうした通信は、たとえば、虚血検出器510をイネーブルするためのコマンドを通信することを含んでもよい。システム500は、トリガー事象検出器505と電気的に通信する1つまたは複数のセンサ515を含んでもよい。第1状態は、トリガー事象検出器505によって検出される1つまたは複数の生理的事象を含んでもよい。
【0090】
虚血検出器は、1つまたは複数の植え込み型センサ520を含む。一部の植え込み型センサは、生理的雑音を受け易い信号を供給する。たとえば、人の心音の振幅および心音の周波数成分は、人が立ているかまたは座っているときは、人が寝ているときと異なる。植え込み型センサによって供給される信号の変化が、虚血によるのではなく、生理的雑音によるときを知ることは、虚血検出器510が偽陽性を示す可能性を減らす。患者の姿勢の変化に加えて、生理的雑音の他の信号源は、患者活動の変化および患者の心拍数の変化を含む。
【0091】
偽陽性を減らすために、虚血検出器510の1つの植え込み型センサ520または複数の植え込み型センサによって供給されるセンサ信号は、種々の姿勢、活動レベルおよび心拍で、すなわち、生理的雑音の存在下で測定されることができる。測定値は、メモリに格納され、種々の状態について別々に傾向付けされる。一部の例では、IMD525は、センサ信号に関連する情報を外部デバイス535に通信し、外部デバイス535で、測定値がメモリ540に格納される。一部の例では、メモリ540はIMD525内に含まれる。測定値は、外部デバイス535かまたはIMD525においてメモリ540を使用して傾向付けされることができる。これは、測定値から生理的雑音を除去する。虚血検出器510は、IMD525または外部デバイス535の一部であってよい傾向付けモジュールを含む。
【0092】
一部の例では、虚血検出器510は、被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成する少なくとも1つの第1植え込み型センサ520および植え込み型姿勢センサを含む。植え込み型姿勢センサは、被検者の姿勢に関連する電気信号を生成する。虚血検出器510は、被検者の姿勢に関して第1電気センサ信号を傾向付けする。
【0093】
一部の例では、虚血検出器510は、少なくとも1つの第1植え込み型センサ520および植え込み型活動センサを含む。植え込み型活動センサは、被検者の活動に関連する電気信号を生成し、虚血検出器510は、被検者の活動に関して第1電気センサ信号を傾向付けする。一部の例では、虚血検出器510は、少なくとも1つの第1植え込み型センサ520および患者の心拍数に関連する電気信号を生成する植え込み型心臓信号検知回路を含む。虚血検出器510は、被検者の心拍数に関して第1電気センサ信号を傾向付けする。
【0094】
一部の例では、IMD525は、虚血検出器510に結合する可聴アラーム回路545を含む。虚血検出器510は、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、ブザーまたは他の可聴指示などの可聴アラームを提供する。虚血の検出は、薬物を自動的に投与する薬物送達デバイスのトリガーであってもよい。一部の例では、IMD525は、心筋虚血の表示を外部デバイス535に通信し、外部デバイス535は、可聴アラーム、ディスプレイなどによる視覚アラームまたは可聴アラームと視覚アラームの両方を提供する。外部デバイスによって提供される視覚アラームは、何らかの所定の投薬療法を受けること、投薬療法を調整することまたは即座に医療援助を求めることなど、患者のための指示を含むテキストを含んでもよい。
【0095】
一部の例では、外部デバイス535は、通信またはコンピュータネットワーク550を通じてIMD525と通信する遠隔サーバを含む。一部の例では、IMD525は、リピータなどの第2中間外部デバイスを使用して、ネットワーク550を通じて外部デバイス535と通信してもよい。一部の例では、システム500は、心筋虚血の早期検出のために概日システム内に含まれる。
【0096】
一部の例では、メモリ540は、患者についての虚血に関連する情報を含むログを格納する。ログは、発作の時間および継続時間などの虚血発作に関連する情報を含む。発作を検出するのに使用されるサンプリングされた電気信号は、メモリに通信され、ログに格納されてもよい。これらの信号の例は、本明細書で説明したセンサのうちの任意のセンサからの信号を含む。ログはまた、センサ信号から引出される、患者の活動または運動に関連する情報を含む。一部の例では、虚血発作の確認時にだけ、ログへの入力が行われる。一部の例では、1つまたは複数の所定のセンサ信号が、所定の閾値を越えるときなど、少なくとも偽アラームが検出される場合に、ログへの入力が行われる。
【0097】
一部の例では、IMD525は、虚血検出器510に結合する治療回路555を含む。虚血検出器510は、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合にデバイス治療を始動する。一部の例では、治療回路555は、1つまたは複数の心臓リード線に結合し、電気治療を患者に送出する。一部の例では、電気治療はカーディバージョン/デフィブリレーション治療を含む。一部の例では、電気治療は神経刺激治療を含む。一部の例では、治療回路555は、薬物治療を始動する。
【0098】
一部の例では、電気治療はペーシング治療を含む。一部の例では、虚血検出器510は、虚血事象の検出に応答して、1つまたは複数の心臓保護ペーシングシーケンスを始動する。1つまたは複数の心臓保護ペーシングシーケンスは、交互のペーシング期間と非ペーシング期間を含んでもよい。非ペーシング期間はそれぞれ、その間、ペーシングパルスが全く送出されない非ペーシング継続時間を有する。虚血を検出することに応答して保護ペーシングを行う手法は、参照により本明細書に組込まれる、2005年5月13日に出願された、「Method and Apparatus for Cardiac Protection Pacing」という名称のBaynham他による米国特許出願第11/129,050号明細書に見出される。
【0099】
一部の例では、治療回路555は、長期継続的な治療を供給し、虚血事象の検出に応答して虚血後治療を始動するよう動作する。長期継続的なペーシング治療は、1つまたは複数の大域的なペーシングパラメータを調整して患者の心臓に対する全作業負荷を軽減し、虚血後のペーシング治療は、1つまたは複数の局所的なペーシングパラメータを調整して虚血領域の早期興奮を提供し、虚血領域のストレスおよび作業負荷を低減する。長期継続的な治療および虚血後治療を供給する手法は、参照により本明細書に組込まれる、2005年8月19日に出願された、「Method and Apparatus for Delivering Chronic and Post−Ischmia Cardiac Therapies」という名称のBrockway他による米国特許出願第11/207,251号明細書に見出される。
【0100】
本明細書で記載する機能および方法は、一実施形態では、通常、ソフトウェアで、または、ソフトウェアと人によって実施される手順の組合せで実施される。ソフトウェアは、通常、メモリまたは他のタイプの記憶デバイスなどのコンピュータ読取り可能媒体上に格納されるコンピュータ実行可能命令を含む。コンピュータ読取り可能媒体はまた、遠隔サイトに存在する可能性があり、ソフトウェアは、遠隔サイトから機械にダウンロード可能である。
【0101】
図6は、心筋虚血を検出する方法600の図である。605にて、1つまたは複数の植え込み型センサによって生成される1つまたは複数のセンサ信号が検知される。各センサ信号は、生理的心臓血管情報を含む。610にて、第1状態が起こったかどうかが判定される。一部の例では、第1状態は、患者が心筋虚血を経験したことを示すかもしれない1つまたは複数の生理的事象を含む。第1状態に関連する生理的事象は、高感度で虚血を示してよい(すなわち、得られる検出は、虚血を示す事象を過剰に含む可能性がある)が、虚血に特異的である必要はない。一部の例では、ベースラインが、1つまたは複数のセンサ信号について確立される。所定の閾値差を越える、確立されたベースラインからの偏移が信号において起こるときに、状態が検出される。
【0102】
一部の例では、第1状態を判定することは、心拍数の増加が、所定の心拍数閾値を越えることを判定することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、被検者の心拍数の変化率が、所定の心拍数閾値を越えることを判定することを含む。
【0103】
一部の例では、第1状態を判定することは、心拍変動(HRV)の減少を検出することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少を検出することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、異常心臓リズムを検出することを含む。異常心臓リズムは、被検者が心拍数の突然の増加を経験するときに心臓リズム安定性の評価を使用するか、または、検知される心臓信号の形態をメモリに格納された形態テンプレートと比較することによって、検出される。
【0104】
一部の例では、第1状態を判定することは、患者運動の増加および患者ストレスの増加を検出することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、所定期間内での患者活動の減少を判定することなどによって、患者活動レベルの突然の減少を検出することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、患者について高い虚血のリスクが存在する1日のある時刻などに応じて、患者の概日リズムを監視することを含む。一部の例では、第1状態を判定することは、事象の任意の組合せを検出することを含む。
【0105】
610にて、第1状態が起こったと判定される場合、615にて、被検者における1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第2状態の検出がイネーブルされる。第2状態は、第1状態を検出するときの心筋虚血示す1つまたは複数の事象を含む。1つまたは複数の第2状態は、好ましくは、第1状態と比べて心筋虚血により特異的な生理的心臓血管事象を含む。一部の例では、第2状態の検出をイネーブルする第1状態は、外部デバイスによって提供される。たとえば、外部デバイスは、第2状態を検出することをイネーブルするために、IMDにコマンドを通信する。
【0106】
第2状態の検出をイネーブルすることは、検出回路要素の少なくとも一部分をパワーオンすることを含む可能性がある。イネーブルすることはまた、第2状態を検出する、モジュール内の命令を分岐に実行させることを含む可能性がある。一部の例では、第2状態を検出することは、植え込み型センサによって供給される電気信号をサンプリングすることを含む。信号は、センサ信号用のベースラインを確立するために第1サンプリングレートでサンプリングされる。第2状態の検出をイネーブルすることは、第2サンプリングレートでのセンサ信号のサンプリングをイネーブルすることを含む。一部の例では、第2レートは、第1サンプリングレートと比較して高いレートである。これは、第2状態を能動的に検出しようとしないときに、電池電力が保存されることを可能にする。
【0107】
一部の例では、第2状態は、検知されたECG信号のSTセグメントの、そのセグメントに対して確立されたベースラインからの偏移を含む。一部の例では、第2状態は、心臓興奮シーケンスの変化を含む。一部の例では、第2状態は、確立されたベースライン血圧値からの血圧の変化を含む。一部の例では、第2状態は、右心室と左心室同期性の変化を含む。一部の例では、第2状態は、検知された心臓脱分極信号の形態の変化を含む。一部の例では、第2状態は、測定された心臓血中酸素飽和度の減少を含む。一部の例では、第2状態は、心壁運動の変化を含む。
【0108】
一部の例では、方法600は、生理的雑音の存在下で、センサ信号をサンプリングすること、および、センサ信号を傾向付けることを含む。生理的雑音は、患者姿勢の変化、患者活動の変化または患者の心拍数の変化による、サンプリングされるセンサ信号の変化である可能性がある。雑音を除去するために、サンプリングされる信号からの測定値が、種々の姿勢、活動レベルおよび心拍数において別々に傾向付けされる。センサ信号の変化は、その後、格納された測定値と比較される。傾向付けは、IMD内のメモリを使用して行われることができる、または、測定値は、傾向付けのために外部デバイスに通信されることができる。
【0109】
一部の例では、方法600は、第2状態を検出することによって心筋虚血発作が診断される場合、アラームを通信することを含む。アラームは、ブザーまたはIMDからの他の可聴指示などの可聴アラームである可能性がある。一部の例では、心筋虚血の表示は、IMDから外部デバイスへ通信され、外部デバイスは、可聴アラーム、ディスプレイなどによる視覚アラームまたは可聴アラームと視覚アラームの両方を提供する。外部デバイスによって提供される視覚アラームは、何らかの所定の投薬療法を受けること、投薬両方を調整することまたは即座に医療援助を求めることなど、患者のための指示を含むテキストを含んでもよい。一部の例では、外部デバイスは、通信またはコンピュータネットワークを通じてアラームを通信する。
【0110】
一部の例では、方法600は、第2状態を検出することによって心筋虚血発作が診断される場合、患者についての虚血ログを更新することを含む。ログは、メモリに格納され、発作の時間および継続時間などの虚血発作に関連する情報を含むことができる。一部の例では、発作を検出するのに使用されるサンプリングされた信号は、メモリに通信され、ログに格納されてもよい。ログはまた、センサ信号から引出される患者の活動または運動に関連する情報を含んでもよい。一部の例では、方法600は、虚血発作の確認時にだけログへ入力を行うことを含む。一部の例では、方法600は、1つまたは複数の所定のセンサ信号が所定の閾値を越えるときに、ログへ入力を行うことを含む。
【0111】
一部の例では、方法600は、第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合にデバイス治療を始動することを含む。一部の例では、デバイス治療は、薬物治療を含むことができる。一部の例では、デバイス治療は、カーディバージョン/デフィブリレーション治療、神経刺激治療またはペーシング治療などの電気治療を含む。
【0112】
ペーシング治療は、虚血事象の検出に応答した1つまたは複数の心臓保護ペーシングシーケンスを含むことができる。1つまたは複数の心臓保護ペーシングシーケンスは、交互のペーシング期間と非ペーシング期間を含んでもよい。ペーシング治療は、長期継続的なペーシング治療および虚血後ペーシング治療を含んでもよい。長期継続的なペーシング治療は、患者の心臓に対する総合作業負荷を軽減し、虚血後ペーシング治療は、虚血領域のストレスおよび作業負荷を低減するため虚血領域の早期興奮を提供する。
【0113】
本明細書の一部を形成する添付図面は、制限としてではなく例証として、主題が実施されてもよい特定の実施形態を示す。図示された実施形態は、本明細書に開示される教示を当業者が実施することを可能にするのに十分詳細に記載される。本開示の範囲から逸脱することなく、構造的なまた論理的な置換および変更が行われるように、示す実施形態から他の実施形態が利用され導出されてもよい。したがって、この詳細な説明は、制限的な意味で考えられるべきでなく、種々の実施形態の範囲は、添付特許請求の範囲がそれに対して権利を与えられる等価物の全範囲と共に、添付特許請求の範囲によって規定されるだけである。
【0114】
本主題のこうした実施形態は、単に便宜上、また、実際には2つ以上が開示される場合、本出願の範囲を、任意の単一の発明または発明の概念に進んで限定することを意図することなく、「発明」という用語によって、個々にかつ/またはひとまとめに本明細書において言及されてもよい。そのため、特定の実施形態が、本明細書で示され記載されたが、同じ目的を達成するために計算される任意の配置構成が、図示される特定の実施形態と置換えられてもよいことが理解されるべきである。本開示は、種々の実施形態の任意のまた全ての適応または変形または組合せを包含することを意図される。上記実施形態の組合せおよび本明細書に特に述べられない他の実施形態は、上記説明を検討することによって当業者に明らかになるであろう。
【0115】
開示の要約は、技術的開示の本質を読者が迅速に確認することを可能にすることになる要約を要求する、37C.F.R.(米国特許施行規則)§1.72(b)に適合するように提供される。開示の要約は、特許請求の範囲または意味を解釈するかまたは制限するために使用されないことを理解した上で提出される。さらに、先の詳細な説明では、開示を簡素化するために、種々の特徴が、単一実施形態にグループ化されることがわかる。本方法の開示は、特許請求される実施形態が、各特許請求の範囲で明示的に述べられるより多くの特徴を必要とするという意図を反映するものと、解釈されるべきでない。むしろ、添付特許請求の範囲が反映するように、本主題は、開示される単一実施形態の全ての特徴より少ない特徴にある。そのため、添付特許請求の範囲は詳細な説明に組込まれ、各添付特許請求の範囲はそれ自身に基づく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
少なくとも1つの第1状態を検出し、前記第1状態が検出されたかどうかに関する情報を含む応答性トリガー信号を出力するように適合された植え込み型トリガー事象検出器と、
被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象を示す第2状態を検出するように適合された植え込み型虚血検出器であって、前記虚血検出器は、トリガー事象検出器に結合して前記トリガー信号を受信し、前記虚血検出器は、前記第1状態が検出されたことを示す前記トリガー信号によってイネーブルされる、植え込み型虚血検出器と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路をさらに含み、前記虚血検出器は、心拍数が所定の心拍数閾値を越えることを示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路をさらに含み、前記虚血検出器は、心拍数の変化率が所定の心拍数閾値を越えることを示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路をさらに含み、前記虚血検出器は、心拍変動(HRV)の減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記トリガー事象検出器と通信する、植え込み型心臓信号検知回路および植え込み型呼吸センサをさらに含み、前記虚血検出器は、呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記トリガー事象検出器に結合される、植え込み型患者活動センサおよびタイマ回路をさらに含み、前記虚血検出器は、所定期間内の患者活動レベルの減少を示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記トリガー事象検出器と通信する、植え込み型患者活動センサおよび植え込み型呼吸センサをさらに含み、前記虚血検出器は、患者運動の増加および患者ストレスの増加のうちの少なくとも一方を示すトリガー信号によってイネーブルされる請求項1から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記トリガー事象検出器と通信する植え込み型心臓信号検知回路をさらに含み、前記虚血検出器は、異常心臓リズムを示すトリガー信号によってイネーブルされる、請求項1から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記トリガー事象検出器に結合されるタイマ回路をさらに含み、前記虚血検出器は、概日リズムを使用して前記トリガー事象検出器によってイネーブルされる、請求項1から8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記トリガー事象検出器および前記虚血検出器は、植え込み型医療デバイス(IMD)内に含まれ、前記システムは、前記IMDと通信するように適応される外部デバイスをさらに含み、前記虚血検出器は、前記外部デバイスとの通信に応答して前記トリガー事象検出器によってイネーブルされる、請求項1から9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
前記虚血検出器は、
a)心音センサ、
b)心臓血圧センサ、
c)心臓内電位図を検知するように適応される心臓信号検知回路、
d)皮下ECG検知回路、
e)心壁運動センサ、
f)経胸郭インピーダンスセンサ、
g)心臓内インピーダンスセンサ、
h)化学センサ、
i)酸素センサ、
j)加速度計、および、
k)温度センサ
からなる群からの1つまたは複数の植え込み型センサを含む、請求項1から10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
前記虚血検出器は、
被検者において、虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成される、少なくとも1つの第1植え込み型センサと、
前記被検者の姿勢に関連する電気信号を生成するよう構成される植え込み型姿勢センサとを含み、
前記虚血検出器は、前記被検者の姿勢に関連する前記第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される、請求項1から10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記虚血検出器は、
被検者にいて虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成される、少なくとも1つの第1植え込み型センサと、
前記被検者の活動に関連する電気信号を生成するよう構成される、植え込み型活動センサとを含み、
前記虚血検出器は、前記被検者の活動に関連する前記第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される、請求項1から10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記虚血検出器は、
被検者において虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第1電気センサ信号を生成するよう構成された少なくとも1つの第1植え込み型センサと、
患者の心拍数に関連する電気信号を生成するよう構成される植え込み型心臓信号検知回路とを含み、
前記虚血検出器は、前記被検者の心拍数に関連する前記第1電気センサ信号を傾向付けするよう構成される、請求項1から10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記トリガー事象検出器および前記虚血検出器は、植え込み型医療デバイス(IMD)内に含まれ、前記IMDは、前記虚血検出器に結合する可聴アラーム回路をさらに含み、前記虚血検出器は、前記第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、可聴アラームを提供するよう構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記トリガー事象検出器および前記虚血検出器は、IMD内に含まれ、前記システムは、前記IMDと通信するように適応される外部デバイスをさらに含み、前記IMDは、心筋虚血の表示を前記外部デバイスに通信するよう構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記外部デバイスは、通信またはコンピュータネットワークを介して前記IMDと通信する遠隔サーバを含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記虚血検出器と通信し、患者についての虚血に関連する情報を含むログを格納するメモリをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記トリガー事象検出器および前記虚血検出器は、IMD内に含まれ、前記IMDは、前記虚血検出器に結合される治療回路をさらに含み、前記虚血検出器は、前記第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、デバイス治療を始動するよう構成される請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
デバイス内で虚血検出を実施する方法であって、
植え込み型センサによって生成される1つまたは複数のセンサ信号であって、それぞれのセンサ信号が生理的心臓血管情報を含む、前記1つまたは複数のセンサ信号を検知すること、
少なくとも1つの第1状態を判定すること、
前記第1状態を検出することによって、被検者にいて心筋虚血を示す1つまたは複数の生理的心臓血管事象に関連する第2状態の検出をイネーブルすること
を備える方法。
【請求項21】
第1サンプリングレートで前記センサ信号をサンプリングして前記センサ信号に対してベースラインを確立することを含み、
前記第2状態の検出をイネーブルすることは、異なる第2サンプリングレートでの前記センサ信号のサンプリングをイネーブルすることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1状態を判定することは、
a)所定心拍数閾値を越える、心拍数の増加、
b)所定の心拍数閾値を越える、心拍数の変化率の増加、
c)心拍変動(HRV)の減少、
d)呼吸性洞性不整脈(RSA)の減少、
e)異常な心臓リズム、
f)所定期間内での患者活動レベルの所定の減少、
g)患者運動および患者ストレスのうちの一方の増加、および、
h)患者概日リズムに応じて予め決められる時間
からなる群からの少なくとも1つの生理的事象を検出することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記第1状態を判定することは、前記被検者の概日リズムを確定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記第1状態を判定することは、前記第2状態を検出するためのイネーブルが、外部デバイスから通信されていると判定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記第2状態を検出することは、
a)ST異常、
b)心臓興奮シーケンスの変化、
c)1つまたは複数の心音特徴の変化、
d)確立されたベースライン血圧からの血圧の変化、
e)右心室および左心室同調性の変化、
f)検知された心臓脱分極信号の形態の変化、
g)心臓血中酸素飽和度の減少、
h)心壁運動の変化、
i)経胸郭インピーダンスの変化、
j)心臓内インピーダンスの変化、および、
k)患者運動レベルの増加の検出を伴うことのない、心臓温度の変化
のうちの1つまたは複数を検出することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記センサ信号をサンプリングすること、
生理的雑音の存在下で前記センサ信号を傾向付けること、
前記サンプリングされる信号から生理的雑音を除去するために前記傾向付けを使用すること
をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、アラームを通信することをさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項28】
前記第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、患者の虚血ログを更新することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記第2状態を検出することによって、心筋虚血発作が診断される場合、デバイス治療を始動することをさらに含む、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−516335(P2010−516335A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546437(P2009−546437)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/000720
【国際公開番号】WO2008/088897
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(505003528)カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド (466)
【Fターム(参考)】