説明

志賀トキソイドキメラタンパク質

本発明のキメラ志賀トキソイドは、酵素的に不活化されたStxAサブユニット及び天然のStxBサブユニットを含む。このハイブリッド志賀トキソイドは、免疫の後に、志賀毒素に対する交差反応性の広い抗体種の産生を誘導する。StxAサブユニットは、酵素的に不活性になるように改変される。すなわち、本発明は、志賀トキソイド又はその断片、及び志賀トキソイドの核酸配列又はその断片を包含する。本発明はさらに、志賀トキソイドの製造、志賀トキソイドを用いる抗体の製造、及び製造方法、並びに志賀トキソイドを含む免疫原性組成物を包含する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、志賀毒素(Shiga toxins)に対するワクチン接種に用いることができるキメラ志賀トキソイドに関する。
【0002】
連邦政府の支援に対する謝辞:
本発明の一部分は、連邦政府助成金NIH AI20148−23により資金を受けた研究に基づく。
【0003】
関連出願:
本出願は、参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる、2006年2月16日に出願された米国仮出願第60/773658号の利益を主張する。
【発明の背景】
【0004】
米国において、志賀毒素(Stx)産生大腸菌(Escherichia coli)(STEC)は、感染性出血性下痢の最も一般的な原因であり(Rangelら(2005)、Emerg.Infect.Dis.11、603〜9)、年間約110000件の感染の原因である(Meadら(1999)、Emerg.Infect.Dis.5、607〜25)。Stx媒介疾患の大部分は、原型の血清型O157:H7を含むSTEC、腸管出血性大腸菌(E.coli)、のサブセットが原因である。溶血尿毒症症候群(HUS)は、特に最も脆弱な患者、すなわち小児及び老人の間で、溶血性貧血、血栓性血小板減少症、及び腎不全を特徴とするSTEC(特にO157:H7)感染の重篤な後遺症である。HUSを経験した患者における致死率は5〜10パーセントであり、生存者の間では腎臓の後遺症及び神経損傷の潜在性がある。STEC感染の治療法は、対症療法、水分補給及び腎臓透析を含む(Andreoliら(2002)、Pediatr.Nephrol.17、293〜8;Kleinら(2002)、J.Pediatr.141、172〜7;及びTarrら(2005)、Lancet 365(9464)、1073〜86)。現在、介入療法又はワクチンは利用可能でない。さらに、抗生物質治療は、大腸菌のStxをコードする毒素転換ファージの溶菌サイクルの誘導に起因し得るHUSの危険性が増加することから禁忌である(Wongら(2000)、N.Engl.J.Med.342、1930〜6)。
【0005】
Stxには2つの主な型がある。第1の型のメンバーである、志賀赤痢菌(S.dysenteriae)1型により産生されるStx、及び大腸菌により産生されるStx1は、実質的に同一である。第2の型であるStx2も大腸菌によりコードされる。しかし、これは、Stx1に対するポリクローナル抗血清により交差中和されず、その逆も同じである(O’Brienら(1984)、Science 226(4675)、694〜6)。各Stx血清型のバリアントが存在する(例えばStx1c、Stx1d、Stx2c、Stx2d、Stx2d−活性化型、Stx2e、Stx2f)(Melton−Celsaら(2005)、EcoSal−Escherichia coli and Salmonella:Cellular and Molecular Biology、ASM Press、第8.7.8章)が、これらは、原型毒素に対するポリクローナル血清により中和可能なままである(Schmittら(1991)、Infect Immun 59、1065〜73;Lindgrenら(1994)、Infect.Immun.62、623〜31)。Stxは、AB5配置を有する複合ホロ毒素である。これらは、酵素活性(A)サブユニットと、それぞれ約7.7kDaで五量体を形成する5つの同一のBタンパク質で構成される結合ドメイン(B)と、を有する。Aサブユニットは、約32kDaタンパク質であり、これは、トリプシン又はフューリンによりA1サブユニット(約27kDa)と、ジスルフィド結合を介して会合したままのA2ペプチド(約5kDa)と、に非対称に切断される。Stx1及びStx2の成熟A及びBサブユニットは、それぞれ55%及び61%の同一性、並びに68%及び73%の類似性を有する。アミノ酸配列の違いに関わらず、ホロ毒素の結晶構造は著しく類似しており(Fraserら(1994)、Nat.Struct.Biol.1、59〜64;Fraserら(2004)、J.Biol.Chem.279、27511〜7)、これらの毒素は同じ作用機序を有する。A1サブユニットは酵素活性領域であるN−グリコシダーゼを含み、これは、60Sリボソーム由来の28S rRNAからアデノシン残基を除去する。この変更がタンパク質合成を停止させ、中毒になった細胞を死滅させる。A2ペプチドは、B五量体を横切ってホロ毒素を非共有結合的に一緒につなぎとめる。Bの五量体は、真核細胞受容体グロボトリアオシルセラミド(Gb3)又はGb4(Stx2eの場合)に結合する。
【0006】
両方の型のStxに対して防御性があるワクチンを開発するための努力は、今のところ思うようになっていない。Stxは非常に強力であり、ホロ毒素をワクチンとして利用するには酵素活性の不活性化が必要である。1つの選択肢は、Bサブユニットを用いて、B五量体のGB3細胞受容体への結合を遮断する抗体を誘発することである。このアプローチは、StxB1を用いて、Stx1曝露に対する防御を高めるのに成功しているが、StxB2サブユニットを用いる免疫は、Stx2に対する防御においては効果がない。さらに、抗StxA2モノクローナル抗体を用いるマウスの受動免疫は、Stx2産生株への感染の影響からマウスを防御するが、抗StxB1モノクローナル抗体はこのような曝露に対して防御性がない(Wadolkowskiら(1990)、Infect.Immun.58、2438〜45;Lindgrenら(1993)、Infect.Immun.61、3832〜42)。しかし、それぞれ抗StxB1又は抗StxA2での受動免疫を行うことにより、そうでなければ致死的である量のStx1又はStx2を注射されたマウスは防御される。StxAサブユニットの毒性は、B五量体結合ドメインなしでは大きく抑制され、StxA1及びStxA2で構成されるワクチンがウサギにおいて同種毒素防御を提供するという証拠がある(Bielaszewskaら(1997)、Infect.Immun.65、2509〜16)。しかし、安全性の観点から、ヒトにおいてAサブユニットワクチンを用いるには酵素活性の不活化が必要であろう。ホロ毒素はサブユニットワクチンよりも防御抗体のより広いスペクトルを与えやすいという見通しから、サブユニットワクチンは一般にあまり望ましくない。
【0007】
トキソイド(不活化ホロ毒素)ワクチンを用いる免疫による、毒素媒介疾患に対する防御は、破傷風及びジフテリアについて成功している。残念なことに、ホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドを用いるStxの化学的不活化は、残留毒性(Metzら(2003)、Vaccine 22、156〜67;Gordonら(1992)、Infect.Immun.60、485〜90)、又は中和抗体が作製されないか、低い力価になるような天然ホロ毒素構造の潜在的なゆがみ、をもたらし得る中途半端な化学的プロセスである。化学的に調製された志賀トキソイドを用いてワクチン接種された動物において、交差中和が達成されたことを示唆する文献報告がいくつかある(Bielaszewskaら(1997)、Infect.Immun.65、2509〜16;Ludwigら(2002)、Can.J.Microbiol.48、99〜103)。しかし、このような生命を脅かすワクチンの潜在的な毒性は、ヒトにおける化学的Stxトキソイドの使用を排除する。化学的に誘導されるStxトキソイドよりも安全な代替物は、StxAサブユニット遺伝子に特定の変異を導入して酵素活性ドメインの重要なアミノ酸を改変することによる、遺伝的トキソイドの構築である。ハイブリッドStx1及びStx2毒素は、A及びBサブユニットの単一オペロンとしての発現を可能にするオペロン融合(Weinsteinら(1989)、Infect.Immun.57、3743〜50)を始めとするStxの機能的研究のために作製されている(Headら(1991)、J.Biol.Chem.266、3617〜3621;Weinsteinら、既出;Melton−Celsaら(2002)、Molecular Microbiology 43、207〜215)。致死的な結果をもたらすStx1又はStx2のいずれかの曝露から動物を防御する、Stx1又はStx2の遺伝的トキソイドは、以前に作製されている(Gordonら(1992)、Infect.Immun.60、485〜90;Ishikawaら(2003)、Infect.Immnun.71、3235〜9;Wenら(2006)、Vaccine 24、1142〜8)。しかし、このような遺伝的トキソイドは、Stx1及びStx2血清グループの間の交差中和の欠失を回避することができず、それらが作製されたStxグループに対してのみ防御する。今日まで、Stxハイブリッドトキソイドが作製されたという文献報告はない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、1つ又は複数の活性部位に1つ又は複数の改変を有する少なくとも1つのStxAポリペプチド又はその断片と、少なくとも1つのStxBポリペプチドと、を含むキメラタンパク質を包含する。いくつかの実施形態において、キメラタンパク質は、五量体として存在する。さらなる実施形態において、StxBポリペプチド又はその断片は、1つ又は複数の改変を含み、該1つ又は複数の改変はアミノ酸置換、付加及び/又は欠失である。いくつかの実施形態において、置換は保存的アミノ酸置換である。さらなる実施形態において、StxAポリペプチドは、StxA2若しくはその断片であり、かつ/又はStxBポリペプチドは、StxB1若しくはその断片である。別の実施形態において、タンパク質は、配列番号2及び/又は3のアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列からなる。
【0009】
さらなる実施形態において、本発明のキメラタンパク質は、Stx2Aポリペプチド又はその断片中の、残基77、167又は170に相当するアミノ酸残基での1つ又は複数の改変を含む。いくつかの実施形態において、残基77での改変はセリン残基への置換であり、残基167での改変はグルタミン、アスパラギン又はその他のアミノ酸残基への置換であり、残基170での改変はロイシン残基への置換である。いくつかの実施形態において、改変は、本明細書に記載のStx2Aポリペプチドの酵素活性を減少させるか、消失させることができる。他の実施形態において、改変は、タンパク質を哺乳動物にとって無毒化する。
【0010】
本発明はまた、本明細書に記載の本発明のキメラトキソイドタンパク質に結合する単離抗体を包含する。いくつかの実施形態において、抗体はポリクローナル抗体である。本発明はまた、本明細書に記載の1つ又は複数の本発明のキメラトキソイドタンパク質のいずれかを含む組成物を包含する。いくつかの実施形態において、キメラタンパク質は、これに限定されないが、志賀毒素に対する免疫原性応答を含む免疫原性応答を誘導可能なものである。いくつかの実施形態において、組成物は、1つ又は複数の薬学的に許容される担体及び/又はアジュバントをさらに含む。別の実施形態において、組成物はヒトへの投与に適する。
【0011】
本発明は、本明細書に記載の本発明のキメラトキソイドタンパク質をコードする単離核酸分子をさらに包含する。いくつかの実施形態において、単離核酸分子は、配列番号2及び/又は3を含むアミノ酸配列をコードする。さらなる実施形態において、核酸分子は、配列番号1のヌクレオチド配列を含むか、又はそのヌクレオチド配列からなる。いくつかの実施形態において、ヌクレオチド配列は、配列番号1の連続したヌクレオチド配列と少なくとも90%、95%又は99%までもの配列同一性を示し、かつStxに対する免疫原性応答を誘導可能なポリペプチドをコードする。
【0012】
本発明は、本明細書に記載の本発明の核酸を含むように形質転換された宿主細胞を包含し、また、単離核酸を含むベクターを包含する。本発明はまた、前記ベクターを含む宿主細胞を包含する。いくつかの実施形態において、宿主は、原核生物宿主及び真核生物宿主からなる群より選択される。本発明は、本発明の核酸分子で形質転換された宿主細胞を、前記核酸分子によりコードされるタンパク質が発現される条件下で培養するステップを含む、ポリペプチドを製造する方法をさらに包含する。
【0013】
本発明は、本明細書に記載の本発明のキメラトキソイドタンパク質を、哺乳動物又は細胞培養物に投与するステップを含む、Stxに結合可能な抗体を作製する方法を包含する。本発明は、本発明のキメラトキソイドタンパク質を含む組成物を哺乳動物に投与するステップを含む、Stxに結合可能な抗体を作製する方法をさらに包含する。いくつかの実施形態において、哺乳動物はヒトである。さらなる実施形態において、ヒトは、下痢及び/又は溶血尿毒症症候群に罹患している。
【0014】
本発明はまた、本発明のキメラトキソイドタンパク質を含む組成物を投与するステップを含む、ヒトにおける溶血尿毒症症候群を予防する方法を包含する。本発明は、前記組成物を投与するステップを含む、ヒトにおける志賀毒素産生大腸菌感染に関連する下痢を予防する方法を包含する。本発明は、これらの方法のいずれかにより製造された単離抗体、及び該抗体を含むキットを包含する。いくつかの実施形態において、キットは、1つ又は複数の本発明のキメラトキソイドタンパク質をさらに含む。
【詳細な説明】
【0015】
Stx及び溶血尿毒症症候群(HUS)に対する免疫の目標は、これに限定されないが、Stx1及び2、並びにStx1及びStx2のバリアントを含む複数の型のStxに対して広く反応性がある中和抗体応答(NA)を誘導することである。本発明者らは、Stx産生大腸菌(STEC)を研究し、このハイブリッドトキソイド中の1つ又は複数の部位での改変を有するキメラ志賀トキソイドの創出により、免疫の後に、Stxに対する交差反応性の広い抗体種の産生が誘導されることを見出した。すなわち、本発明は、キメラ志賀トキソイド、使用方法及び組成物を包含する。本明細書において、「トキソイド」とは、不活化されたホロ毒素のことである。本明細書において、「酵素不活化StxA2サブユニット」とは、例えば置換、付加及び/又は欠失のような変異によりその機能を失ったStxA2サブユニットのことである。
【0016】
志賀トキソイドキメラタンパク質及び使用方法:
本発明は、酵素不活化StxA2サブユニットと天然のStxB1サブユニットとを含むキメラ志賀トキソイドタンパク質を包含する。StxA2サブユニットは、部位特異的突然変異誘発により単独又は組合せで1つ又は複数の部位にて不活化されている。いくつかの実施形態において、アミノ酸は欠失されており、いくつかの実施形態においては、アミノ酸は置換されている。欠失及び/又は置換にも関わらず、StxA2サブユニットの立体配座は、哺乳動物への投与の後に、Stxの多様なサブユニットに対する抗体を誘導できるように十分に損なわれないままである。改変されたキメラトキソイドで免疫される哺乳動物(例えば、ヒト及び/又はマウス。これらに限定されない。)は、免疫応答を生じ、これがHUS又はSTEC感染若しくはStx中毒のその他の影響を減少させるか、遮断する。
【0017】
StxA2タンパク質中の適切な置換部位の例としては、これらに限定されないが、配列番号2の残基77、167及び170に相当するStxA2のアミノ酸が挙げられる。置換は、Y77S、E167Q及びR170L又はその等価物であってもよい。本発明のある実施形態において、本発明は、配列番号2及び3に示すアミノ酸配列並びにそれらの断片を含む。本発明の別の実施形態において、本発明は、配列番号2及び/又は3に示すアミノ酸配列並びにその断片の、酵素不活化StxA2サブユニット及び天然StxB1サブユニットを含むキメラ志賀トキソイドを包含する。
【0018】
本発明のある実施形態において、StxB1サブユニットは、GB3受容体に結合しないか、又はGB3受容体への結合が制限されているが、防御抗体応答を誘発可能である。
【0019】
本発明は、少なくとも1つの志賀トキソイドタンパク質と少なくとも1つの第2のポリペプチドとを含む、キメラ及び/又は融合ポリペプチド並びにその塩を含む。ある実施形態において、第2のポリペプチドは、第2の型のStxを含む。
【0020】
第2のポリペプチドは、融合ポリペプチドの半減期をin vitro及びin vivoで増大させる安定化ドメインも含み得る。本明細書において、「安定化ドメイン」とは、志賀トキソイド単独と比較したときに、志賀トキソイドのin vitro及びin vivoでの半減期を延長可能なアミノ酸配列のことをいう。安定化ドメインは、ヒト血清アルブミン、トランスフェリンのようなヒトタンパク質(例えば細胞外断片からの全長又は短縮された可溶性タンパク質など)、又はキメラトキソイドタンパク質のin vivo又はin vitroでの半減期を安定化するその他のタンパク質を含み得る。これらの付加的な機能的ドメインは、それら自体で、例えば志賀トキソイドを第2のタンパク質に接続するためのリンカーペプチドとして働いてもよい。或いは、これらは、融合分子の他の場所(例えば、そのアミノ又はカルボキシ末端)に位置してもよい。他の実施形態において、安定化ドメインは、化学的部分(chemical moiety)(例えば、PEG(ポリエチレングリコール)又はデキストラン)である。
【0021】
本明細書において、「キメラ」又は「融合ポリペプチド」とは、(i)所定の機能的ドメイン(すなわち志賀トキソイド)が、そのカルボキシ末端にて、非共有結合により、第2のタンパク質(すなわち第2の志賀トキソイド)のアミノ末端又はそれ自体が非共有結合により第2のタンパク質のアミノ末端に結合するリンカーペプチドのいずれかに結合し、(ii)所定の機能的ドメイン(すなわち志賀トキソイド)が、そのアミノ末端にて、非共有結合により、第2のタンパク質(すなわち第2の志賀トキソイド)のカルボキシ末端又はそれ自体が非共有結合により第2のタンパク質のカルボキシ末端に結合するリンカーペプチドのいずれかに結合し、及び/又は(iii)Stxが本明細書に記載のAB5配置を有し、酵素活性(A)サブユニットと、五量体を形成する5つの同一のBタンパク質で構成される結合ドメイン(B)と、を有する複合ホロ毒素として存在するポリペプチドのことをいう。
【0022】
同様に、本発明の核酸中間体に関連して用いる場合、「融合」は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列の3’−[又は5’−]末端が、第2のタンパク質をコードするヌクレオチド配列のそれぞれの3’−[又は5’−]末端に、共有結合により、又はそれ自体が第1機能的ドメインをコードするポリヌクレオチドと所望により第2機能的ドメインをコードする核酸に好ましくはその末端にて共有結合するヌクレオチドリンカーを介して間接的に、結合していることを意味する。
【0023】
本発明のキメラ又は融合ポリペプチドの例は、これらに限定されないが、下記式により表され得る。
R1−L−R2 (i)
R2−L−R1 (ii)
R1−L−R2−L−R1 (iii)
R1−L−R1−L−R2 (iv)
R2−L−R1−L−R1 (iv)
式中、R1は第1志賀トキソイドのアミノ酸配列であり、R2は第2志賀トキソイド又は安定化ドメイン(例えばヒト血清アルブミン)のアミノ酸配列であり、それぞれのLは、R1及び/又はR2の末端に共有結合により結合するリンカーペプチドである(ここで、上記の分子断片は、方向付けて読まれる。すなわち、左側は分子のアミノ末端に、右側はカルボキシ末端に相当する)。別の実施形態において、インチミン結合ドメイン(カルボキシ末端)を含むインチミンタンパク質(Carvalhoら(2005)、Infect.Immun.73、2541〜2546)の全て又は一部分はR1であり、R2はキメラトキソイドタンパク質である。
【0024】
核酸分子及び使用方法:
本発明は、酵素不活化StxA2サブユニットと天然StxB1サブユニットとを有するキメラタンパク質又はその断片を含む本発明のキメラ志賀トキソイドタンパク質をコードする、好ましくは単離された形の核酸分子をさらに提供する。本明細書において、「核酸」とは、上記で定義されるタンパク質又はペプチドをコードするか、このようなペプチドをコードする核酸配列に相補的であるか、酵素不活化StxA2サブユニットと天然StxB1サブユニットとをコードする核酸分子にオープンリーディングフレームにわたって適切なストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするか、又は不活化StxA2と少なくとも約65%の同一性及びStxB1と約91%の同一性、若しくは不活化StxA2と少なくとも約90%の同一性及びStxB1と約91%の同一性、若しくは不活化StxA2と少なくとも約99%の同一性及びStxB1と約95%の同一性、若しくは不活化StxA2と少なくとも99.4%の同一性及びStxB1と約99%の同一性を有するポリペプチドをコードするRNA又はDNAとして定義される。
【0025】
本発明の核酸は、配列番号2及び/又は3を含む酵素不活化StxA2サブユニット及び天然StxB1サブユニットを含むキメラ志賀トキソイドをコードする核酸分子の連続したヌクレオチド配列と、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%又はそれより高い同一性を有する核酸分子、をさらに含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態において、核酸分子は、例えばStxA2タンパク質(配列番号2)のアミノ酸残基77、167及び170をコードするコドンのように、適切な置換部位をコードするコドンにおけるStxA2遺伝子のコード領域内に、二重又は三重の塩基置換を含む。
【0027】
別の実施形態において、核酸分子は、StxB1タンパク質が腎臓細胞と(例えば宿主細胞のGB3受容体を介して)相互作用するのを妨げる改変(例えば置換、付加及び/又は欠失)を、StxB1遺伝子のコード領域内に含む。ある実施形態において、このような改変は、StxB1タンパク質のアミノ酸残基16及び/又は17をコードする1つ又は複数のコドンにある。これらの改変は、D16H及びD17H又はその等価物のアミノ酸置換を増加させ得る。別の実施形態において、このような改変は、StxB1タンパク質のアミノ酸残基33、43及び/又は60をコードする1つ又は複数のコドンにある。これらの改変は、R33C、A43T及びG60D又はその等価物のアミノ酸置換を増加させ得る。さらに別の実施形態において、このような改変は、StxB1のアミノ酸残基16及び/又は17をコードする1つ又は複数のコドンと、StxB1タンパク質のアミノ酸残基33、43及び/又は60をコードする1つ又は複数のコドンとにある。これらの改変は、D16H及びD17H又はその等価物のアミノ酸置換と、R33C、A43T及びG60D又はその等価物のアミノ酸置換と、を増加させ得る。
【0028】
特に企図されているのは、ゲノムDNA、cDNA、mRNA及びアンチセンス分子、並びに代替骨格をベースとするか代替塩基を含む核酸(天然の供給源に由来するか、合成のものか、は問わない。)である。しかし、そのような核酸は、本発明のタンパク質をコードする核酸、該核酸と適切なストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする核酸、又は該核酸に相補的である核酸、を含むいずれの従来の核酸に対しても、さらに、新規かつ非自明であるものとする。ヌクレオチド又はアミノ酸配列のレベルでの相同性又は同一性は、配列類似性検索のために作られたblastp、blastn、blastx、tblastn及びtblastx(Altschulら(1997)、Nucleic Acids Res.25、3389〜3402;及びKarlinら(1990)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、2264〜2268。ともに、参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。)のプログラムにより採用されるアルゴリズムを用いるBLAST(asic ocal lignment earch ool)分析により決定される。BLASTプログラムにより用いられるアプローチは、まず、問合せ配列とデータベース配列との間のギャップの存否での類似セグメントを考慮し、次に、同定された全ての一致の統計的有意性を評価し、最後に、有意性の予め選択した閾値を満足する一致のみをまとめることである。配列データベースの類似性検索における基本的な問題の論説については、Altschulら(1994)、Nature Genetics 6、119〜129(参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。)を参照されたい。ヒストグラム、表示、アラインメント、期待値(すなわち、データベース配列に対する一致を報告するための統計的有意性の閾値)、カットオフ、行列及びフィルタ(低い複雑度)のついての検索パラメータは初期設定である。blastp、blastx、tblastn及びtblastxにより用いられる初期設定のスコア行列は、長さ85(ヌクレオチド塩基)を超える問合せ配列に推奨されるBLOSUM62行列(Henikoffら(1992)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、10915〜10919。参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。)である。
【0029】
blastnについて、スコア行列は、M(すなわち一致残基の対についてのリワードスコア)のN(すなわち不一致残基についてのペナルティスコア)に対する比(ここで、M及びNについての初期設定値はそれぞれ+5及び−4である)により設定される。blastnについての4つのパラメータは、以下のようにして調節した:Q=10(ギャップ生成ペナルティ);R=10(ギャップ伸長ペナルティ);wink=1(問合せに沿ってwink番目の位置ごとにワードヒットを作製する);及びgapw=16(ギャップを含むアラインメントを作製する範囲内でウィンドウ幅を設定する)。等価なBlastpパラメータ設定は、Q=9;R=2;wink=1及びgapw=32であった。GCGパッケージバージョン10.0で利用可能な配列間のBestfit比較は、DNAパラメータGAP=50(ギャップ生成ペナルティ)及びLEN=3(ギャップ伸長ペナルティ)を用い、タンパク質比較における等価な設定は、GAP=8及びLEN=2である。
【0030】
「ストリンジェントな条件」とは、(1)低イオン強度及び高温を洗浄に用いる(例えば、50℃〜68℃で、0.015M NaCl/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1% SDSを用いる)か、或いは(2)ハイブリダイゼーション時にホルムアルデヒドのような変性剤を用いる(例えば、50%(体積/体積)ホルムアルデヒドを、0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)(750mM NaCl、75mMクエン酸ナトリウムを含む。)とともに42℃で用いる)条件である。別の例としては、50%ホルムアルデヒド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理サケ精子DNA(50μg/ml)、0.1% SDS、10%硫酸デキストラン中、42℃でのハイブリダイゼーションと、0.2×SSC、0.1% SDS中、42℃、又は0.1×SSC、0.5% SDS中、68℃での洗浄と、を行うことが挙げられる。当業者であれば、容易に、ストリンジェンシー条件を適宜決定、変更して、明確で検出可能なハイブリダイゼーションシグナルを得ることができる。好ましい分子は、配列番号1の相補鎖に上記の条件下でハイブリダイズし、機能的タンパク質をコードするものである。さらに好ましいハイブリダイジング分子は、酵素不活化StxA2サブユニットと天然StxB1サブユニットとを含むキメラ志賀トキソイドをコードする核酸のオープンリーディングフレームの相補鎖に、上記の条件下でハイブリダイズするものである。本明細書において、核酸分子が他のポリペプチドをコードする混入核酸分子から実質的に分離されている場合、核酸分子は「単離された」という。
【0031】
酵素不活化StxA2サブユニットと天然StxB1サブユニットとを含むキメラ志賀トキソイドをコードする核酸分子は、オペロンの一部分である。本発明のある実施形態は、酵素不活化StxA2サブユニットをコードする核酸と、続いて、StxB1の翻訳のためのリボソーム結合部位を含む天然stxB遺伝子間領域をコードする核酸分子と、次いで、天然StxB1をコードする核酸分子とで構成される融合オペロンである。
【0032】
本発明は、酵素不活化StxA2サブユニットと天然StxB1サブユニットとを含むキメラ志賀トキソイドを含む核酸分子をコードする断片をさらに提供する。本明細書において、コード核酸分子の断片とは、全体のタンパク質コード配列の小さい部分のことをいう。断片のサイズは、目的の用途により決定される。例えば、推定抗原領域に相当するペプチドをコードする断片を調製してもよい。断片が、核酸プローブ又はPCRプライマーとして用いられる場合、断片の長さは、プローブ付加/プライマー結合の間の偽陽性を比較的少数にするように選択される。
【0033】
本発明のタンパク質をコードする遺伝子配列を合成するために用いられる本発明の核酸分子をコードする断片(すなわち合成オリゴヌクレオチド)は、例えば、Matteucciら(1981)、J.Am.Chem.Soc.103、3185〜3191のホスホトリエステル法のような化学的手法により、又は自動合成法を用いて容易に合成できる。さらに、より大きいDNAセグメントは、遺伝子の種々のモジュラーセグメントを規定するオリゴヌクレオチドの群の合成、続いて、オリゴヌクレオチドの連結による完全改変遺伝子の構築のような公知の方法により容易に調製できる。ある実施形態において、本発明の核酸分子は、少なくとも約1253ヌクレオチドの連続したオープンリーディングフレームを含み、この配列は、最適化されたシャイン−ダルガルノ配列で始まり、stxB停止コドンの後に終結する。
【0034】
本発明のコード核酸分子は、診断及びプローブ目的の検出可能な標識を含むようにさらに改変されてもよい。本発明のコード核酸分子は、単離用の標識を含むようにさらに改変(例えば、ニッケルアフィニティー精製で用いるヒスチジン分子をコードする反復コドンを付加)してもよい。このような多様な標識は、当技術分野において知られており、本明細書に記載のコード分子とともに容易に用い得る。適切な標識としては、これらに限定されないが、例えば、ビオチン、放射性標識ヌクレオチドが挙げられる。当業者であれば、容易に、そのような標識を用いて、本発明の核酸分子の標識されたバリアントを得ることができる。翻訳の間にタンパク質配列中へ組み込まれるアミノ酸の欠失、付加又は変更による1次構造自体の改変は、タンパク質の活性を破壊することなく行い得る。
【0035】
ある実施形態において、6ヒスチジンタグを天然又はわずかに改変されたStxB1タンパク質のC末端に付加して、例えばニッケルアフィニティー法によるStxA2/StxB1トキソイドの精製を補助する。別の実施形態において、6ヒスチジンタグを天然又はわずかに改変されたStxB1タンパク質のC末端に付加し、6ヒスチジンタグをStxA2タンパク質にも付加する。StxA2タンパク質中のヒスチジンタグは、StxA2の244及び245位に存在する2つのヒスチジンのすぐ近傍に位置してもよい。ヒスチジンタグは、例えばQ246H、G247H、A248H及びR249Hのように、StxA2タンパク質中の4つ以下のアミノ酸を変化させることにより付加してもよい。有利には、StxA2及びStxB1サブユニットへのそれぞれのタグ付加は、ニッケルアフィニティーカラム精製と組み合わせてイオン交換及びサイズ排除精製手法を用いる、サブユニットのよりよい精製を可能にする。
【0036】
組換え核酸及び使用方法:
本発明は、キメラ酵素不活化StxA2サブユニット及び天然StxB1サブユニットのコード配列を含む組換え核酸分子(例えば、DNA、RNA)をさらに提供する。本明細書において、「組換え核酸分子」は、in situでの分子操作に供された核酸分子である。組換え核酸分子を作製する方法は、当技術分野で公知であり、例えば、Sambrookら(2001)、Molecular Cloning−A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。好ましい組換え核酸分子において、コードヌクレオチド配列は、発現調節配列及び/又はベクター配列に操作可能に連結している。
【0037】
本発明のタンパク質ファミリーコード配列の1つが操作可能に連結しているベクター及び/又は発現調節配列の選択は、当技術分野において知られているように、所望の機能的特性、例えばタンパク質発現、及び形質転換される宿主細胞に直接依存する。本発明が意図するベクターは、組換え核酸分子に含まれる構造遺伝子の複製又は宿主染色体への挿入、及び好ましくは発現をも、少なくとも支配し得る。
【0038】
操作可能に連結されたタンパク質コード配列の発現を調節するために用いられる発現制御要素は、当技術分野において知られており、これらに限定されないが、誘導性プロモーター、構成性プロモーター、分泌シグナル、及びその他の調節要素を含む。好ましくは、誘導性プロモーターは、宿主細胞の培地中の栄養素に応答性であるように、容易に制御される。
【0039】
ある実施形態において、コード核酸分子を含むベクターは、原核生物レプリコン、すなわち自律複製及び形質転換される細菌宿主細胞のような原核生物宿主細胞内の染色体外での組換えDNA分子の維持を支配し得る能力を有するDNA配列を含む。このようなレプリコンは、当技術分野において公知である。さらに、原核生物レプリコンを含むベクターは、その発現が薬剤耐性のような検出可能なマーカーを与える遺伝子も含んでもよい。典型的な細菌薬剤耐性遺伝子は、アンピシリン又はテトラサイクリンへの耐性を与えるものである。
【0040】
原核生物レプリコンを含むベクターは、大腸菌のような細菌宿主細胞におけるコード遺伝子配列の発現(転写及び翻訳)を支配し得る原核生物又はバクテリオファージのプロモーターをさらに含み得る。プロモーターは、RNAポリメラーゼの結合と、転写の開始を可能にするDNA配列により形成される発現制御要素である。細菌宿主に適合するプロモーター配列は、本発明のDNAセグメントの挿入のための簡便な制限部位を含むプラスミドベクターに、典型的には提供される。このようなベクタープラスミドの典型的な例は、pBluescript II KS(−)(Stratagene)、pTrcHis2C(Invitrogen)、pUC8、pUC9、pBR322及びpBR329(BioRad)、pPL及びpKK223(Pharmacia)である。
【0041】
真核細胞に適合する発現ベクター、好ましくは脊椎動物細胞に適合するものを用いても、コード配列を含む組換え核酸分子を形成できる。ウイルスベクターを含む真核細胞発現ベクターは、当技術分野において公知であり、いくつかの商業的供給元から入手可能である。典型的には、このようなベクターは、所望のDNAセグメントの挿入のための簡便な制限部位を含んで提供される。このようなベクターの典型は、pSVL及びpKSV−10(Pharmacia)、pBPV−1/pML2d(International Biotechnologies Inc.)、pTDT1(ATCC)、本明細書に記載のベクターpCDM8などの真核生物発現ベクターである。
【0042】
本発明の組換え核酸分子を構築するために用いられる真核細胞発現ベクターは、真核細胞で効果がある選択可能なマーカー、好ましくは薬剤耐性選択マーカーをさらに含んでもよい。好ましい薬剤耐性マーカーは、その発現がネオマイシン耐性をもたらす遺伝子、すなわちネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子である(Southernら(1982)、J.Mol.Anal.Genet.1、327〜341)。或いは、選択可能なマーカーは、別のプラスミド上に存在することができ、2つのベクターが宿主細胞の同時トランスフェクションにより導入され、選択可能なマーカーについての適切な薬剤中で培養することにより選択される。本発明は、本発明のタンパク質をコードする核酸分子で形質転換された宿主細胞をさらに提供する。宿主細胞は、原核生物又は真核生物のいずれかであり得る。
【0043】
本発明のキメラタンパク質の発現に有用な真核細胞は、細胞株が細胞培養法と適合し、発現ベクターの伝播及び遺伝子産物の発現に適合する限り限定されない。適切な真核生物宿主細胞としては、これらに限定されないが、酵母、昆虫及び哺乳動物細胞、好ましくは脊椎動物細胞(例えば、マウス、ラット、サル又はヒトの細胞株由来のもの)が挙げられる。真核生物宿主細胞の例は、ATCCからCCL61として入手可能なチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ATCCからCRL1658として入手可能なNIHスイスマウス胚細胞(NIH−3T3)、ハムスター仔腎臓細胞(BHK)などの真核生物組織培養細胞株を含む。
【0044】
本発明のキメラタンパク質をコードする組換え核酸分子を発現するために、いずれの原核生物宿主も用い得る。ある実施形態において、原核生物宿主は、DH5α又はBL21株のような大腸菌である。別の実施形態において、原核生物宿主は、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)(Barryら(2003)、Vaccine 21、333〜40)又はコレラ菌(V.cholerae)(Leytenら(2005)、Vaccine 23、5120〜5126)のような生弱毒口腔細菌ワクチン株である。
【0045】
本発明のrDNA分子を用いる適切な細胞宿主の形質転換は、用いられるベクターの型と採用する宿主系に典型的に依存する公知の方法により達成される。原核生物宿主細胞の形質転換について、エレクトロポレーション及び塩処理法が典型的に用いられ、例えばCohenら(1972)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69、2110;及びSambrookら(2001)、Molecular Cloning−A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。rDNAを含むベクターを用いる脊椎動物細胞の形質転換について、エレクトロポレーション、カチオン脂質又は塩処理法が典型的に用いられ、たとえばGrahamら(1973)、Virol.52、456;Wiglerら(1979)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76、1373〜1376を参照されたい。
【0046】
形質転換が成功した細胞、すなわち本発明の組換え核酸分子を含む細胞は、選択可能なマーカーの選択を含む公知の方法により同定することができる。例えば、本発明の組換え核酸の導入により得られる細胞は、クローン化して、単一のコロニーを産生することができる。これらのコロニーからの細胞を採集し、溶解し、それらの核酸含量を、Southern(1975)、J.Mol.Biol.98、503〜504又はBerentら(1985)、Biotech.3、208〜209に記載の方法のような方法を用いて、組換え核酸の存在について調べ、或いは細胞から産生されるタンパク質を免疫学的方法によりアッセイすることができる。
【0047】
組換えタンパク質の製造:
当業者であれば、本発明のキメラ志賀トキソイドをコードする組換え核酸分子をどのように作製するか、が分かるであろう。さらに、当業者であれば、これらの組換え核酸分子を用いて、それによりコードされるタンパク質をどのように得るか(これは、ハイブリッド志賀トキソイドをコードする組換え核酸分子について、本明細書に記載されている)、が分かるであろう。
【0048】
本発明では、ハイブリッド志賀トキソイドの発現のための多くのベクター系を採用することができる。例えば、あるクラスのベクターは、ウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTV又はMoMLV)、セムリキ森林ウイルス又はSV40ウイルスのような動物ウイルスに由来するDNA要素を利用する。さらに、それらの染色体にDNAを安定に組み込んだ細胞は、トランスフェクトされた宿主細胞の選択を可能にする1つ又は複数のマーカーを導入することにより選択することができる。マーカーは、例えば、栄養要求宿主に対する原栄養性、殺生物剤耐性(例えば、抗生物質)、又は銅のような重金属に対する耐性を提供するものであってもよい。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるDNA配列に直接連結するか、又は同時形質転換により同じ細胞に導入することができる。mRNAの最適な合成のために、さらなる要素を要求してもよい。そのような要素としては、スプライシングシグナルの他、転写プロモーター、エンハンサー及び終結シグナルが挙げられる。そのような要素を組み込んだcDNA発現ベクターとしては、Okayama(1983)、Mol.Cell.Biol.3、280〜289に記載のものが挙げられる。
【0049】
ハイブリッド志賀トキソイドは、(a)細胞を、ハイブリッド志賀トキソイドをコードする発現ベクターでトランスフェクトするステップと、(b)得られたトランスフェクト細胞を、ハイブリッド志賀トキソイドが産生される条件下で培養するステップと、(c)細胞培養培地又は細胞自体からハイブリッド志賀トキソイドを回収するステップと、により製造することができる。
【0050】
発現ベクター又は構築物を含むDNA配列を発現用に調製した後、発現ベクターは、適切な真核生物又は原核生物の細胞宿主にトランスフェクト又は導入することができる。これを実現するために、例えばプロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション又はその他の従来の方法のような種々の方法を用いることができる。プロトプラスト融合の場合、細胞を培地中で増殖させ、適切な活性についてスクリーニングする。
【0051】
得られたトランスフェクト細胞の培養、及びそのようにして製造されたハイブリッド志賀トキソイドの回収のための方法及び条件は、当業者に公知であり、採用する具体的な発現ベクター及び宿主細胞に応じて変更又は最適化することができる。
【0052】
ハイブリッド志賀トキソイドを発現するための宿主細胞は、原核生物であっても真核生物であってもよい。原核生物宿主の例は、大腸菌DH5α又はBL21のような大腸菌を含む。真核生物宿主の例は、バキュロウイルスベクター/昆虫細胞発現系、酵母シャトルベクター/酵母細胞発現系を含む。培養培地からハイブリッド志賀トキソイドを精製する方法及び条件は本発明において提供されるが、これらの手順は変更又は最適化することができること(当業者には周知である。)が認識されるべきである。
【0053】
本発明のハイブリッド志賀トキソイドタンパク質は、任意の既知の合成法により調製することができる。簡便には、タンパク質は、Merrifield(1965)(参照されることにより、本明細書に組み込まれる。)により最初に記載された固相合成法を用いて調製することができる。その他のペプチド合成法は、例えばBodanszkyら(1976)、Peptide Synthesis、Wileyに見出される。
【0054】
免疫原性組成物及びその使用:
本発明のキメラハイブリッド志賀トキソイドは、ワクチン、免疫原性組成物又は医薬組成物中で用いて、Stxに対する免疫応答を発生させることができる。キメラ志賀トキソイドは、免疫原性のより小さい他の組成物と併用して、免疫原性組成物に対する免疫応答の誘発を補助することもできる。一般に、他の免疫原性組成物と併用する場合、免疫原性組成物自体は、免疫応答を誘発するのにも、病原体に対する防御効果を提供するのにも十分でない。ある実施形態において、本発明の志賀トキソイドは、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による感染に対する防御効果を提供するための手段として、ジフテリア毒素と併用される。
【0055】
ある実施形態において、ハイブリッド志賀トキソイドは、当技術分野において通常理解されるように、適切なアジュバントとともに用いられる。現在、米国でヒトへの使用について認可されているアジュバントは、例えばアルミニウム塩(ミョウバン)を含む。これらのアジュバントは、B型肝炎、ジフテリア、ポリオ、狂犬病及びインフルエンザを含むいくつかのワクチンに有用である。その他の有用なアジュバントは、完全フロイントアジュバント(CFA)、ムラミルジペプチド(MDP)、MDPの合成類似体、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミル−L−アラニン−2−[1,2−ジパルミトイル−s−グリセロ−3−(ヒドロキシホスホリルオキシ)]エチルアミド(MTP−PE)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、及び実質的に全ての油滴が直径1ミクロン未満の油滴である水中油型エマルジョンの形で油と乳化剤とが存在する、分解性油及び乳化剤を含む組成物を含む。
【0056】
本発明のワクチン、免疫原性組成物又は医薬組成物の製剤は、有効量のキメラ志賀トキソイドを用いる。すなわち、アジュバントと併用されて、その後のStxへの曝露からの防御を個体に与えるような特異的かつ十分な免疫原性応答を個体に生じさせる量の抗原が含まれる。免疫原性組成物として用いる場合、製剤は、アジュバントと併用されて、個体に特異的抗体を産生させる量の抗原を含む。そして、それは診断又は治療目的で用いることができる。
【0057】
本発明のワクチン、免疫原性組成物又は医薬組成物は、溶血尿毒症症候群(HUS)の予防若しくは治療、及び/又は下痢の治療に有用であり得る。ある実施形態において、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、老人及び小児のHUSの予防に用いられる。別の実施形態において、ワクチン及び/又は免疫原性組成物は、HUSの予防、又は特に軍の職員への投与のための、テロリズムの行動により引き起こされたSTEC感染若しくはStx中毒のその他の結果のために用いられる。しばしば、所望の予防的又は治療的効果をもたらすために、1回より多い投与が必要とされる。正確なプロトコール(投与量及び頻度)は、標準の臨床手法により確立され得る。
【0058】
ハイブリッド志賀トキソイド、又は本発明のハイブリッド志賀トキソイドを含む医薬組成物は、腸管外、皮下、静脈内、筋内、腹腔内、経皮又は頬側経路を介して投与できる。代わりに、又は同時に、投与は経口経路によるものでもよい。小児に特に適切なある実施形態において、志賀トキソイドを含む医薬組成物は、経口経路により投与される。投与される投与量は、受容者の年齢、健康及び体重、存在するならば併用療法の種類、治療頻度、並びに所望の効果の性質に依存する。
【0059】
本発明の医薬組成物は、作用部位への送達のために薬学的に使用可能な製剤への活性化合物の加工を容易にする賦形剤及び添加剤を含む、薬学的に許容される適切な担体を含んでもよい。腸管外投与用に適する製剤としては、水溶性形態の活性化合物、例えば水溶性塩の水性液剤、が挙げられる。さらに、適切な油性注射懸濁剤として、活性化合物の懸濁剤を投与してもよい。適切な親油性溶剤又はビヒクルとしては、例えば、ごま油のような脂肪油、又はエチルオレエート、トリグリセリドのような合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、デキストランのような、懸濁剤の粘度を増加させる物質を含んでもよい。所望により、懸濁剤は安定化剤を含んでもよい。
【0060】
予防又は治療のいずれかにおいて用いられる正確な量及び製剤は、抗原の固有の純度及び活性、任意の付随的な成分又は担体、投与方法などの状況に応じて変動し得る。
【0061】
本発明の全身投与用の医薬製剤は、経腸、腸管外又は局所投与用に処方してもよい。実際に、3つの型全ての製剤を同時に用いて、活性成分の全身投与を実現することができる。
【0062】
局所投与を用いてもよい。液剤、懸濁剤、ゲル剤、軟膏、膏薬のような任意の通常の局所製剤を採用することができる。このような局所製剤の調製については、例えばGennaroら(2000)、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishingを始めとする、医薬製剤に関する技術文献に記載されている。局所投与のために、組成物は、散剤又は噴霧剤として、特にエアロゾルの形態で投与することもできる。
【0063】
経口投与用の適切な製剤としては、ゼラチンハード若しくはゼラチンソフトカプセル、丸剤、被覆錠剤を始めとする錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤又は吸入剤、及びそれらの放出制御形態のものが挙げられる。
【0064】
以下の説明は本発明を限定するものではないが、投与されるワクチン投与量は、典型的には、抗原に関して、最少で約0.1mg/用量、より典型的には最少で約1mg/用量、及びしばしば最少で約10mg/用量である。最大投与量は、典型的には、重要でない。しかし、通常、投与量は、500mg/用量以下、しばしば250mg/用量以下である。これらの投与量は、投与量を保持するのに十分な容量の任意の薬学的な適切なビヒクル又は担体中に懸濁することができる。一般に、担体、アジュバント等を含む最終容量は、典型的には少なくとも0.1ml、より典型的には少なくとも約0.2mlである。上限は、投与される量の実行可能性に支配され、通常、約0.5ml〜約1.0ml以下である。
【0065】
他の形態において、ワクチン、免疫原性組成物又は医薬組成物は、キメラハイブリッド志賀トキソイド又はその断片を宿主動物中で発現するワクチンベクターとして調製することができる。生ベネズエラウマ脳炎ウイルス(live Venezuelan Equine Encephalitis virus)(米国特許第5643576号を参照されたい)、ポリオウイルス(poliovirus)(米国特許第5639649号を参照されたい)、ポックスウイルス(pox virus)(米国特許第5770211号を参照されたい)、及びワクシニアウイルス(vaccina virus)(米国特許第4603112号及び第5762938号を参照されたい)を含む任意の入手可能なワクチンベクターを用いることができる。或いは、タンパク質又はその断片をコードする裸の核酸を直接投与して、抗原を発現させてもよい(米国特許第5739118号を参照されたい)。
【0066】
本発明のある実施形態において、ハイブリッド志賀トキソイドをコードするヌクレオチドは、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)(Barryら(2003)、Vaccine 21、333〜40)又はコレラ菌(V.cholerae)(Leytenら(2005)、Vaccine 23、5120〜5126)のような生弱毒口腔細菌ワクチン株に形質転換される。したがって、そのような口腔細菌ワクチン株は、Stxを含む拡張された防御範囲を有する。
【0067】
本発明の別の実施形態では、ハイブリッド志賀トキソイドをコードするヌクレオチドを植物に形質転換して、食用植物ベースのワクチンを創出する。或いは、ハイブリッド志賀トキソイドをコードするヌクレオチドは、DNAに基づくワクチンとして投与することができる。キメラトキソイドをコードする核酸は、単一遺伝子又は遺伝子の組合せのいずれかとしてのDNAワクチンとして投与される。裸のDNAワクチンは、当技術分野において一般に知られている(Brower(1998)、Nature Biotechnology、16:1304〜1305を参照されたい)。DNAワクチンとしての遺伝子の使用方法は、当業者に公知であり、キメラトキソイド遺伝子又はその一部分を、治療を必要とする個体における発現のためのプロモーターの制御下におくことを含む。DNAワクチンに用いられる遺伝子は、全長キメラトキソイドタンパク質をコードし得るが、任意の志賀毒素遺伝子に由来するペプチドを含むトキソイドタンパク質の部分をコードしてもよい。DNAワクチンは、個別の及び/又は別のプロモーターの支配の下での個別のオペロンとしての発現のためのA及びBサブユニット遺伝子を含んでよく、2つのコード領域の順序の並べ替えを含む。ウイルス又は真核生物起源の5’及び3’非翻訳領域の組み込み、ポリアデニル化シグナル、真核生物系での最適発現のためのコドンの最適化のようなヌクレオチド配列への改変も、本発明において包含される。ある実施形態において、個体は、キメラトキソイドタンパク質をコードする複数のヌクレオチド配列を含むDNAワクチンで免疫される。同様に、本明細書で定義される複数のトキソイド遺伝子又はその一部分で個体を免疫することも可能である。
【0068】
別の実施形態において、DNAワクチンは、DNAワクチンとともにアジュバント分子をコードする遺伝子を含む。このようなアジュバント分子は、DNAワクチンによりコードされるトキソイドタンパク質に対する免疫原性応答を増加させるサイトカインを含む。付加的又は代替的なアジュバントは当業者に知られており、本発明でも用いられる。或いは、キメラトキソイド遺伝子自体を、別の異なる免疫原をコードする核酸を含むDNAワクチンにおけるアジュバントとして作用させることができる。
【0069】
ハイブリッド志賀トキソイドは、別の疾患のためのワクチンとともに、例えば同時に併用してもよい。したがって、ハイブリッド志賀トキソイドは、旅行者下痢を含む赤痢及び下痢の治療及び予防のための組成物の一部分であってもよい。このような組成物は、Stx及び/又はStxを発現する細菌に曝される第三世界の小児に特に有用であろう。小児におけるStxの影響は、重篤になる傾向があり、永続性の腎臓損傷を導く場合もある。したがって、Stxへの小児の感染、その後の曝露を予防することは、本発明のキメラ志賀トキソイドタンパク質の好ましい使用である。
【0070】
抗体及び使用方法:
本発明は、StxA2サブユニットの少なくとも1つのエピトープ及びStxB1サブユニットの少なくとも1つのエピトープを対象とし、溶血尿毒症症候群を予防、治療又は診断することができるポリクローナル抗体をさらに提供する。
【0071】
本発明の抗体は、検出可能なマーカーで標識することができる。本発明の実施において有用な検出可能なマーカーは当業者に公知であり、これらに限定されないが、例えば、放射性同位体、色素、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼのような酵素、及びナノ粒子である。検出可能なマーカーで標識された抗体は、診断用に特に有用である。キットは、検出可能なマーカー及び当技術分野で公知のその他の置換基で標識されたモノクローナル又はポリクローナル抗StxA2及び抗StxB1抗体をさらに含んでもよい。このようなキットは、Stx、又は志賀赤痢菌及び大腸菌のようなStx産生細菌のin vitro及びin vivoでの検出、並びにHUSの診断のために特に有用である。
【0072】
本発明は、ヒトポリクローナル抗体に対する抗イディオタイプ抗体にも関する。この抗イディオタイプ抗体も、検出可能なマーカーで標識することができる。適切な検出可能なマーカーは当業者に公知であり、これらに限定されないが、例えば、放射性同位体、色素、又はペルオキシダーゼ若しくはアルカリホスファターゼのような酵素である。
【0073】
抗イディオタイプ抗体は、StxA2サブユニットの1つのエピトープ及びStxB1サブユニットの少なくとも1つのエピトープに結合するポリクローナル抗体を動物に注射したときに産生される。動物は、次いで、注射された抗体のイディオタイプ決定基に対する抗体を産生する(Wassermanら(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.79、4810〜4814)。
【0074】
或いは、抗イディオタイプ抗体は、(1)動物のリンパ系細胞を、抗体発生有効量の抗原(すなわち、StxA2サブユニットの1つのエピトープ及びStxB1サブユニットの少なくとも1つのエピトープに結合するポリクローナル抗体)と接触させるステップと、(2)得られたリンパ系細胞を回収し、回収したリンパ系細胞を骨髄腫細胞と融合させて、それぞれがモノクローナル抗体を産生する一連のハイブリドーマ細胞を作製するステップと、(3)一連のハイブリドーマ細胞をスクリーニングして、そのようにして同定された得られたハイブリドーマ細胞に結合可能なモノクローナル抗体を分泌するものを同定するステップと、(4)この細胞により産生される抗イディオタイプ抗体を別個に回収するステップと、により作製される(Clevelandら(1983)、Nature 305、56〜57)。上記の2つの方法のいずれかで抗イディオタイプ抗体の作製のために使用可能な動物としては、これらに限定されないが、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット又はウサギが挙げられる。
【0075】
診断アッセイ:
本発明のハイブリッド志賀トキソイドは、免疫アッセイにおいて診断試薬として用いて、抗Stx抗体、特に抗StxA2抗体及び抗StxB1抗体を検出することができる。免疫アッセイのプロトコールは、例えば、配合、直接反応又はサンドイッチ型のアッセイをベースとするものである。プロトコールはまた、例えば、不均質で、固体支持体を用いるものでもよく、また、均質で、溶液中の免疫反応を含むものでもよい。ほとんどのアッセイでは、標識抗体又はポリペプチドを使用する。標識は、例えば、蛍光、化学発光、放射活性、ナノ粒子、又は色素分子である。プローブからのシグナルを増幅するアッセイも知られており、そのようなアッセイの例は、ビオチン及びアビジンを用いるもの、並びにELISAアッセイのような酵素標識媒介免疫アッセイである。
【0076】
典型的には、抗Stx抗体についての免疫アッセイは、生体試料のような試験試料を選択及び調製するステップと、次いで、これを本発明の改変ハイブリッド志賀トキソイドと、抗原−抗体複合体の形成を可能にする条件下でインキュベートするステップと、を含む。このような条件は、当技術分野において公知である。不均質な形式において、タンパク質又はペプチドは、固体支持体に結合して、インキュベーション後にポリペプチドからの試料の分離を促進する。用い得る固体支持体の例は、メンブレン又はマイクロタイターウェルの形のニトロセルロース、シート又はマイクロタイターウェルのポリ塩化ビニル、ビーズ又はマイクロタイタープレートのポリスチレンラテックス、ポリフッ化ビニリデン、ジアゾ化された紙、ナイロンメンブレン、活性ビーズ、及びプロテインAビーズである。最も好ましくは、Dynatech、Immulon(登録商標)マイクロタイタープレート、又は0.25インチポリスチレンビーズを、不均質な形式で用いる。固体支持体は、それを試験試料から分離した後に、典型的に洗浄される。
【0077】
一方、均質な形式において、試験試料は、溶液のハイブリッド志賀トキソイドと、当技術分野において知られているように、形成されるいずれの抗原−抗体複合体も沈殿する条件下でインキュベートされる。沈殿した複合体は、次いで、例えば遠心分離により試験試料から分離される。抗Stx抗体を含む形成された複合体は、次いで、任意の数の方法により検出される。形式に応じて、複合体は、標識抗異種免疫グロブリンを用いて、又は競合形式が用いられる場合は、結合した標識競合抗体の量を測定することにより検出できる。これらの及びその他の形式は、当技術分野において公知である。
【0078】
本発明のこのようなアッセイにおいて有用な診断プローブは、Stxに対する抗体を含む。抗体は、当技術分野で公知の標準的な方法を用いて作製された、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってもよい(Harlow及びLane(1988)、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい)。これらは、タンパク質に特異的に結合し、その後、ELISA、ウェスタンブロットなどにより抗体−タンパク質複合体を検出することによりStxを検出するために用い得る。これらの抗体を誘発するために用いられるハイブリッド志賀トキソイドは、上記の任意のバリアントであり得る。抗体も、当技術分野の標準的な方法を用いて、ハイブリッド志賀トキソイドのペプチド配列から作製される(Harlow及びLane、既出)。免疫学的に重要な部分を含むモノクローナル又はポリクローナル抗血清の断片も調製できる。
【0079】
以下の実際の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指し示すものであり、本開示の残りの部分を、どんな形であれ限定するものと解釈されるべきではない。他の一般的な構成は、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0080】
〔実施例1:キメラstxA/stxB及びトキソイド変異の構築〕
Stx1及びStx2の両方に対して防御するワクチンとして用い得る、Stxの遺伝子的にトキソイド化した型を構築した。StxB1タンパク質は、免疫原性が高く、StxB2サブユニットタンパク質よりも防御性が高いので(Marcatoら(2001)、J.Infect.Dis.183、435〜43)、StxB1をワクチンのBサブユニット部分のために用いた。StxA2を、ワクチン構築物のAサブユニットとして選択した。
【0081】
stxA及びstxB遺伝子を、一緒にスプライスして、stxA、その後に続くStxB1の翻訳のためのリボソーム結合部位を含む天然stxB遺伝子間領域、そしてstxB遺伝子で構成される融合オペロンを作製した。ホロトキソイド発現カセットを、天然のオペロン構成中に設計して、AB5ホロトキソイドの翻訳及び組立てを最適化した。
【0082】
次に、キメラトキソイドのStxA2部分を、3つの改変(Y77S、E167Q及びR170L)を導入することにより改変して、毒性復帰の可能性を阻害し、免疫原性を最大化した。これらの変異の選択は、これらの変異が毒素の細胞毒性を低減させるか、トキソイドの免疫原性を増加させることを示した以前の研究に基づくものであった。77位のチロシンのセリンへの置換を行ったのは、この変異がStx1の活性を実質的に低減させること、同様のことがStx2にも当てはまると予測したことによる(Deresiewiczら(1992)、Biochemistry 31、3272〜80;Deresiewiczら(1993)、Mol.Gen.Gent.241、467〜73)。StxA2の167位のグルタミン酸をグルタミンに改変したのは、このアミノ酸がStx1及びStx2の両方の活性部位にあり、このような改変が毒素のベロ細胞活性の劇的な減少を導くことによる(Gordonら(1992)、Infect.Immun.65、2509〜16;Hovdeら(1988)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85 2568〜72;Jacksonら(1990)、J Bacteriol 182、3346〜50;Yamaskiら(1991)、Mircob.Pathog.11、1〜9)。170位のアルギニンのロイシンへの置換は、StxA1タンパク質が、このような置換の後に、より強い免疫原性を有するというIshikawaらの観察を反映したものである(Ishikawaら(2003)、Infect Immun 71、3235〜9)。方法の詳細な説明は次のとおりである。
【0083】
用いた細菌プラスミドを表1に列挙する。細菌は、組換えプラスミドの選択のために必要であれば100μg/mlのアンピシリンを補ったルリア−ベルターニ(LB)ブロス中又はLB寒天上(Becton Dickinson)上で成長させた。
【0084】
【表1】

【0085】
キメラstxA/stxBオペロンは、一連のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の後に、重複伸長(SOE)ステップによるスプライシングを行うことにより創出した(Higuchiら(1989)、PCR Technology、Stockton Press)。具体的には、プライマーMJS5及びMJS32(表2を参照されたい)を用いるpMJS2からの配列のPCR増幅を用いて、stxAを合成した。同様に、プライマーMJS20及びMJS2を用いるpMJS1からの配列のPCR増幅を用いて、stxBを作製した。stxA及びstxBの後に、PCR産物を一緒にスプライスし、キメラstxA/stxBオペロンを、stxプロモーターの支配下にpBluescript II KS(Stratagene)にクローニングした。得られたプラスミドをpMJS21と命名し、大腸菌DH5αを形質転換した。
【0086】
【表2】

【0087】
次に、一連のヌクレオチドの変異を、stxA/stxBのstxA遺伝子中に作り出して、ハイブリッドトキソイド分子が発現され得るオペロンを作製した。具体的には、StxA2成熟タンパク質の77位のチロシンを、突然変異誘発プライマーMJS88及びMJS89、並びに隣接プライマーMJS2及びMJS5を用いてDNAを増幅することにより、セリン残基に変更して、pMJS22を得た。突然変異誘発プライマーMJS90及びMJS91、並びに隣接プライマーMJS2及びMJS5を用いるPCRにより、StxA2の活性部位のグルタミン酸(残基167)がグルタミンに変更され、同時に、170位のアルギニンがリジンに変更されて、pMJS23を得た。キメラトキソイドオペロンを、次いで、2A5SD及びMJS2プライマーを用いるPCRによりpMJS23から、増幅して、最適シャイン−ダルガルノ配列(TAAGGAGGACAGCTATG)(配列番号24)をStxA2の開始コドンの上流に導入して、天然stxプロモーターを除去した。得られたキメラクローンを、発現ベクターpTrcHis2 C(Invitrogen)に連結し、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。DNA配列の分析は、Uniformed Services UniversityのBiomedical Instrumentation Centerにより行って、正しい変異が行われたことを確認した。
【0088】
〔実施例2:StxA2/StxB1トキソイドの精製〕
StxA2/StxB1トキソイドの精製は、従来文献に記載の方法(Ishikawaら(2003)、Infect.Immun.71、3235〜9;Wenら、既出)で、Gb3アフィニティー精製により行った。Gb3アフィニティー精製は、Bサブユニット結合ドメインを捕捉する方法である。pTrcHis2 C−stxA/stxBクローンを含む大腸菌BL21(DE3)の1晩培養物を、それぞれ500mlのLBブロスを含む2つのフラスコで1:50に希釈した。2時間成長させた後に、培養物を1mMのイソプロピル 3−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導し、さらに4時間インキュベートした。
【0089】
細菌を、遠心分離により沈殿させ、10mlの1×リン酸緩衝食塩水、pH7.4(PBS)に再懸濁することにより50倍に濃縮した。濃縮した細菌懸濁物を、次いで、超音波破砕し、得られた溶解物を遠心分離により清澄化した。StxA2/StxB1トキソイドは、これらの溶解物から、従来文献に記載の方法(Ishikawaら、既出;Wenら、既出)で、Globotriose Fractogelカラム(IsoSep AB)でのGb3アフィニティー精製により精製した。トキソイドの精製の後に、BCAアッセイ(Pierce)を行って、調製物のタンパク質濃度を定量した。
【0090】
〔実施例3:細胞毒性アッセイ〕
種々の試料のベロ細胞についての細胞毒性活性を、従来文献に記載の方法で評価した。手短に説明すると、pBluescript II KS(−)中のトキシンクローンで形質転換された大腸菌DH5αを、同じ光学密度(O.D.)600に標準化し、細菌を超音波破砕し、遠心分離により清澄化した。清澄化した超音波溶解物又は精製されたトキソイドを、ベロ細胞での細胞毒性活性について、9%胎児ウシ血清(BioSource International)、1.8mMグルタミン(Cambrex)、9U/mlのペニシリン 9pg/mlのストレプトマイシン(Invitrogen Corporation)、及び90μg/mlのゲンタマイシン(Quality Biological)を補ったイーグル最少必須培地(Cambrex BioScience)(完全EMEM)で試料を希釈した後に、評価した(Schmittら(1991)Infect.Immun.59、1065〜73;Gentryら(1980)26、2127〜31)。試料の50%細胞毒性用量(CD50)は、未処置の対照細胞と比較して、ベロ細胞の50%を死滅させる希釈の逆数として定義した。
【0091】
種々の型の変異StxA2/StxB1トキソイドのベロ細胞についての細胞毒性活性を、親のStxA2/StxB1毒素と比較した(表3を参照されたい)。親のハイブリッドトキシンの清澄化された超音波溶解物1mlは、7.2×10のCD50を含んでいたが、単独変異(Y77S)又は三重変異(Y77S、E167Q及びR170L)のいずれかを有する変更されたキメラ分子の同様に調製された溶解物は、細胞毒性活性を示さず、これにより、これらの構築物がトキソイドを産生したことが確認された。さらに、2.1μgの精製StxA2/StxB1トキソイドは、ベロ細胞に対して細胞毒性でなかった。これは、アッセイした親のStxA2/Stx1Bトキシンの濃度の約97倍であった。親のStxA2/Stx1Bトキシンの量は、Stx2に対するポリクローナル抗体を用い、Stx2標準物質との比較によりStA2サブユニットを定量するウェスタンブロット分析により測定した。非常に低いレベルのStx2A/Stx1Bトキソイドでいずれかの残存活性があるかを確認するために、粗細菌溶解物の100倍の調製物を、ベロ細胞に対する細胞毒性及びマウスにおける毒性について試験した。5匹のCD−1雄性マウスに、86μgのトキソイド(これは、マウスを免疫し、追加免疫するために用いられる量の20倍に相当する)を腹腔内注射し、全てのマウスは生存した。さらに、100倍調製粗細菌溶解物からの61.3μgのトキソイドを、細胞毒性について試験し、ベロ細胞に対して非細胞毒性であることが見出された。
【0092】
【表3】

【0093】
毒素溶解物は、pMJS1(Stx1)、pMJS2(Stx2)、pMJS21(StxA2/StxB1)、pMJS22(StxA2 Y77Sを有するStxA2/StxB1)、pMJS23(StxA2 Y77S、E167Q及びR170Lを有するStxA2/StxB1)で形質転換された大腸菌DH5αからであった。精製StxA2/StxB1トキソイドは、大腸菌Bl21から精製した。値は、50%のベロ細胞を死滅させた希釈の逆数を表す。この実験の検出限界は、1×10であった。
【0094】
〔実施例4:ウェスタンブロット分析〕
精製Stx1、Stx2又はStxA2/StxB1トキソイド(それぞれ300ng)を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE;15%ポリアクリルアミド)に供し、次いで、タンパク質を0.45μM Optitranニトロセルロースメンブレン(Schleicher&Schuell)に、Trans−Blot SD Semi−Dryトランスファー装置(Bio−Rad)を用いて移動させた(図1を参照されたい)。メンブレンを、0.1% Tween 20を加えた1×Tris緩衝食塩水(pH7.5)(TBST)中の5%脱脂粉乳溶液中で4℃にて1晩ブロックした。それぞれ抗StxA2及び抗StxB1モノクローナル抗体(MAb)11E10及び13C4の、ブロッキング溶液中でそれぞれ1:5に希釈されたハイブリドーマ組織培養上清である1次抗体(Gentryら(1980)、J.Clin.Microbiol.12、361〜6;Pereraら(1980)、J.Clin.Microbiol.26、2127〜31)を、イムノブロットと2時間インキュベートした。次いで、メンブレンを、TBSTで洗浄し、ブロッキング溶液で1:3000に希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bio−Rad)にコンジュゲートしたヤギ抗マウス免疫グロブリンG(IgG)と1時間インキュベートした。メンブレンを、上記のようにして再び洗浄し、2次抗体を、ECL−Plus Western Blotting Detectionキット(Amersham)を用いて化学発光により検出した。
【0095】
精製トキソイドのイムノブロットにより、StxB1及びStxA2がともに存在することが明らかになり(図1を参照されたい)、ホロトキソイドがワクチン構築物により発現されるという我々の仮定が確認された。さらに、トキソイドの免疫反応性のバンドのサイズは、対照の天然毒素サブユニットに相当した(図1を参照されたい)。StxA2及びStxB1サブユニットは、銀染色されたゲルでも確認され、さらなる混入タンパク質は、ほとんどないことが示された(データは示さず)。
【0096】
〔実施例5:マウスの免疫及び曝露〕
免疫前血清を、体重14〜16グラムの雄性CD−1マウス(Charles River)から採取した。マウスを、次いで、PBS、又は油中水型アジュバントであるTiterMax Gold(TiterMax USA)と1:1で混合した、PBS中の4.3μgの精製StxA2/StxB1トキソイド(合計容量100μl)のいずれかで、腹腔内(i.p.)免疫した。マウスは、3週間の間隔で、合計3回の追加免疫をした。最初の免疫から10日後、及び各追加免疫の後に血清を採取して、Stx1又はStx2に対する血清免疫グロブリンG(IgG)のレベルを測定した。マウスに、3回目の追加免疫の14日後に、Stx1(1250ng)若しくはStx2(10ng)のいずれか、又はStx1及びStx2の両方(それぞれ1250及び10ng/マウス)の50%致死用量(LD50)の10倍で、i.p.曝露した。
【0097】
PBSで免疫されたマウスは全て、投与されたStxの型に関わらず、4日目までに死亡した(表4を参照されたい)。キメラトキソイドで免疫され、その後、Stx1又はStx2のいずれかに曝露されたマウスは全て、観察期間の14日間全て生存した。キメラトキソイドで免疫され、その後、Stx1及びStx2の両方に曝露された10匹のマウスのうち、9匹が生存した。致死容量のStx1及びStx2の両方に曝露された後に死亡した、キメラトキソイドで免疫されたマウスは、抗Stx1中和抗体も抗Stx2中和抗体も産生できなかったマウスであった。このマウスは、擬似免疫された動物が死亡したのとほぼ同じ時期に死亡した。LD50は、Stx1及びStx2について125及び1ng/マウスであることが以前に測定されている。曝露されたときのマウスの平均体重は、40.4gであった。
【0098】
【表4】

【0099】
〔実施例6:ELISAによる抗Stx1又は抗Stx2抗体の測定〕
雄性CD−1マウスを免疫し、PBS、又は三重変異トキソイドのいずれかで3週間隔で追加免疫した。3回目の最終の追加免疫の後に、各マウスから血清を採取し、Stx1及びStx2に対するIgG抗体の力価を、ELISAにより適切な免疫前血清試料と比較した(図2を参照されたい)。
【0100】
精製Stx1又はStx2(100ml PBS中に100ng)を用いて、U底96ウェルマイクロタイタープレート(Thermo Electron)のウェルを被覆し、マイクロタイタープレートを、4℃にて1晩インキュベートした。次いで、マイクロタイタープレートを、0.05% Tween−20を含むPBS(PBST)で3回洗浄し、ウェルあたり200μlの3%ウシ血清アルブミン含有PBSTで、4℃にて1晩ブロックした。次の日に、別のマイクロタイタープレートにて、1:50の最初の希釈、及びその後1:5の希釈で、マウスの免疫前及び免疫後の血清をPBSTで希釈した。ブロックしたマイクロタイタープレートを洗浄した後に、100μlの希釈した血清をELISAの1次抗体として用い、マイクロタイタープレートを37℃にて2時間インキュベートした。次いで、100μlの2次抗体であるHRPにコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgGを、PBST中の1:3000の希釈で加え、プレートを室温にて45分間インキュベートした。2次抗体は、TMB Peroxidase EIA基質キット(Bio−Rad)で検出し、マイクロタイタープレートを室温にて15分間インキュベートして、色の変化を発生させた。次いで、100μlの1M HSOを加えて反応を停止し、色の発生を、OD450の測定により判定した。ELISAの力価を、バックグラウンド及び免疫前のレベルの両方を超える血清希釈と定義した。免疫前のレベルが免疫後のレベルよりも高い場合は、ELISA力価として0.3の値を当てた。これらのアッセイは、重複して1回行った。抗Stx1及び抗Stx2 ELISAのための陽性対照は、1次抗体として、PBSTで1:20000にそれぞれ希釈した精製11E10又は13C4(Hycult Biotechnology)のいずれかであった。
【0101】
〔実施例7:In vitro Stx1及びStx2毒素中和アッセイ〕
毒素中和力価は、ELISA力価よりもStxに対する防御応答についてのよりよい予測となるので(Wenら、既出)、精製Stx1又はStx2に対するin vitroベロ細胞中和アッセイも、血清試料に対して行った。
【0102】
免疫前及び免疫後の血清を、以前に報告されるようにして(Marquesら(1986)、J.Infect.Dis.154、338〜41)、Stx1及びStx2についての中和アッセイにおいて用いた。中和力価を、Stx1又はStx2の細胞毒性の50%を中和するマウス血清の希釈と定義した。これらのアッセイにおいて用いたStx1又はStx2の量は、それぞれ20又は38CD50であった。擬似免疫されたマウスの血清又は免疫後血清がStx1もStx2も中和しなかった場合、中和力価として0.3の値を当てた。これらのアッセイは、重複して1回行った。
【0103】
〔実施例8:統計的分析による中和抗体力価の比較〕
トキソイドで免疫された群からの抗Stx1又は抗Stx2 ELISA及びin vitro中和抗体力価を、プログラムSPSS 12.0.1を用いる両側t検定により、擬似免疫された群と比較した。免疫されたマウスの生存は、Stx1若しくはStx2又はStx1及びStx2のいずれかの10LD50で曝露した後の擬似免疫されたマウスと、フィッシャーの正確確率検定により比較した。これらの結果は、p値が<0.05であると有意差があるとみなした。
【0104】
免疫前の及び擬似免疫されたマウスは、Stx1及びStx2と反応する抗体のバックグラウンドレベルが低かった(図2を参照されたい)。トキソイドで免疫されたマウスは、1匹以外全て、Stx1及びStx2の両方に対して高いIgG力価を示し、バックグラウンドよりもそれぞれ4.4及び4.1log高かった。トキソイドで免疫されたマウスのELISA力価を擬似免疫されたマウスと比較した場合、結果は有意であった(p<0.001)。
【0105】
Stx1又はStx2のいずれに対する中和抗体も、免疫前又は擬似免疫されたマウスにおいて測定できなかった(図3を参照されたい)。対照的に、トキソイドで免疫されたマウスは、1匹以外全てがStx1及びStx2に対して中和力価を示した(図3を参照されたい)。平均の抗Stx1及び抗Stx2中和力価は、バックグラウンドより2.9及び1.9log高かった。Stx2中和力価がより低いことは、中和アッセイにおいてStx1よりも高い濃度のStx2を用いたことに起因するであろう(それぞれ20CD50に比較して、約38CD50)。乏しい抗Stx1 ELISA力価を示したトキソイド免疫されたマウスは、いずれの毒素に対する中和抗体も産生できなかった。トキソイド免疫されたマウスの中和力価を、擬似免疫されたマウスと比較したときに、結果は、有意に異なっていた(p<0.001)。
【0106】
本発明を詳細に説明したが、本発明の意図から逸脱することなく、種々の変更を行うことができることが理解される。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定される。本出願において言及される全ての引用特許、特許出願及び文献は、参照されることによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】キメラStxA2/StxB1トキソイドのウェスタンブロット分析。野生型Stx1、Stx2及びキメラStxA2/StxB1トキソイド(それぞれ300ng)を、15%のSDSポリアクリルアミドゲルで分離し、StxB1及びStxA2に対して誘導されたモノクローナル抗体(MAb)ハイブリドーマ上清(それぞれ13C4及び11E10MAb)をプローブ付加した。レーン1はStx1を含み、レーン2はStx2を含み、レーン3はStxA2/StxB1トキソイドを含む。
【図2】ELISAによる抗Stx1又は抗Stx2抗体の検出。PBS(群A及びC)又はStxA2/StxB1トキソイド(群B、D及びE)のいずれかで免疫されたマウスからのStx1(左)又はStx2(右)に対する血清IgG力価を図2に示す。水平のバーは、Stx1又はStx2に対するIgG血清力価のlogの幾何平均を表し、誤差バーは、±1標準偏差を示す。群Eの影をつけた丸は、Stx1及びStx2に曝露したときに死亡したマウスを表す。点線は検出限界を表す。
【図3】in vitroでのStx1及びStx2毒素中和アッセイ。PBS(群A及びC)又はStxA2/StxB1トキソイド(群B、D及びE)のいずれかで免疫されたマウスからの抗血清での、Stx1(左)又はStx2(右)に対するin vitro中和力価を、図3に示す。水平のバーは、Stx1又はStx2に対する中和力価のlogの幾何平均を表し、誤差バーは、±1標準偏差を示す。用いたStx1及びStx2の量は、それぞれ20及び38 50%細胞毒性用量(CD50)であった。群Eの影をつけた丸は、Stx1及びStx2に曝露したときに死亡したマウスを表す。点線は検出限界を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の活性部位に1つ又は複数の改変を有する少なくとも1つのStxAポリペプチド又はその断片と、少なくとも1つのStxBポリペプチドと、を含むキメラタンパク質。
【請求項2】
前記StxBポリペプチド又はその断片が1つ又は複数の改変を含む、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
前記1つ又は複数の改変がアミノ酸の置換又は欠失である、請求項1又は2に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
前記置換が保存的置換である、請求項3に記載のキメラタンパク質。
【請求項5】
前記StxAポリペプチドがStxA2又はその断片である、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項6】
前記StxBポリペプチドがStxB1又はその断片である、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項7】
配列番号2及び3のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項8】
配列番号2及び3のアミノ酸からなる、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項9】
前記1つ又は複数の改変が、前記Stx2Aポリペプチド又はその断片中の、残基77、167又は170に相当するアミノ酸残基に存在する、請求項5に記載のキメラタンパク質。
【請求項10】
残基77での改変がセリン残基への置換である、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項11】
残基167での改変がグルタミン残基への置換である、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項12】
残基170での改変がロイシン残基への置換である、請求項9に記載のキメラタンパク質。
【請求項13】
前記1つ又は複数の改変が、前記StxB1ポリペプチド中の、残基16、17、33、43又は60に相当するアミノ酸残基に存在する、請求項6に記載のキメラタンパク質。
【請求項14】
残基16での改変が、アスパラギン酸残基のヒスチジンへの置換である、請求項13に記載のキメラタンパク質。
【請求項15】
残基17での改変が、アスパラギン酸残基のヒスチジンへの置換である、請求項13に記載のキメラタンパク質。
【請求項16】
残基33での改変が、アルギニン残基のシステインへの置換である、請求項13に記載のキメラタンパク質。
【請求項17】
残基43での改変が、アラニン残基のスレオニンへの置換である、請求項13に記載のキメラタンパク質。
【請求項18】
残基60での改変が、グリシン残基のアスパラギン酸への置換である、請求項13に記載のキメラタンパク質。
【請求項19】
請求項1に記載のキメラタンパク質に結合する単離抗体。
【請求項20】
ポリクローナルである、請求項19に記載の単離抗体。
【請求項21】
請求項1に記載のキメラタンパク質を含む組成物。
【請求項22】
前記キメラタンパク質が、免疫原性応答を誘導可能なものである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記キメラタンパク質が、志賀毒素に対する免疫原性応答を誘導可能なものである、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項25】
アジュバントをさらに含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項26】
ヒトへの投与に適する、請求項21に記載の組成物。
【請求項27】
請求項1に記載のキメラタンパク質をコードする単離核酸分子。
【請求項28】
配列番号2及び/又は3を含むアミノ酸配列をコードする単離核酸分子。
【請求項29】
配列番号1のヌクレオチド配列を含む、請求項28に記載の単離核酸分子。
【請求項30】
配列番号1のヌクレオチド配列からなる、請求項28に記載の単離核酸分子。
【請求項31】
請求項27に記載の核酸分子を含むように形質転換された宿主細胞。
【請求項32】
請求項27に記載の単離核酸分子を含むベクター。
【請求項33】
請求項32に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項34】
前記宿主が、原核生物宿主及び真核生物宿主からなる群より選択される、請求項33に記載の宿主細胞。
【請求項35】
ポリペプチドを製造する方法であって、請求項33に記載の核酸分子で形質転換された宿主細胞を、前記核酸分子によりコードされるタンパク質が発現される条件下で培養するステップを含む方法。
【請求項36】
ヌクレオチド配列が、配列番号1の連続したヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を示し、かつStxに対する免疫原性応答を誘導可能なポリペプチドをコードする、請求項27に記載の単離核酸分子。
【請求項37】
ヌクレオチド配列が、配列番号1の連続したヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を示し、かつStxに対する免疫原性応答を誘導可能なタンパク質をコードする、請求項27に記載の単離核酸分子。
【請求項38】
ヌクレオチド配列が、配列番号1の連続したヌクレオチド配列と少なくとも99%の配列同一性を示し、かつStxに対する免疫原性応答を誘導可能なタンパク質をコードする、請求項27に記載の単離核酸分子。
【請求項39】
Stxに結合可能な抗体を作製する方法であって、請求項1に記載のキメラタンパク質を哺乳動物に投与するステップを含む方法。
【請求項40】
Stxに結合可能な抗体を作製する方法であって、請求項1に記載のキメラタンパク質を細胞培養物に投与するステップを含む方法。
【請求項41】
Stxに結合可能な抗体を作製する方法であって、請求項21に記載の組成物を哺乳動物に投与するステップを含む方法。
【請求項42】
前記哺乳動物がヒトである、請求項39又は41に記載の方法。
【請求項43】
前記ヒトが下痢に罹患している、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記ヒトが溶血尿毒症症候群に罹患している、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
ヒトにおける溶血尿毒症症候群を予防する方法であって、請求項1に記載のキメラタンパク質を含む組成物を投与するステップを含む方法。
【請求項46】
ヒトにおける志賀毒素産生大腸菌(Escherichia coli)感染に関連する下痢を予防する方法であって、請求項1に記載のキメラタンパク質を含む組成物を投与するステップを含む方法。
【請求項47】
請求項39、40又は41に記載の方法により製造された単離抗体。
【請求項48】
請求項47に記載の抗体を含むキット。
【請求項49】
請求項1に記載のキメラタンパク質を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−527226(P2009−527226A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555421(P2008−555421)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/004513
【国際公開番号】WO2007/098201
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(501051125)ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデーション フォー ザ アドヴァンスメント オブ ミリタリー メディシン インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】