説明

応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法

【課題】 応力腐食割れによる亀裂が起こらないように、あるいは起こりずらくすること。
【解決手段】 熱により収縮せしめられる部位と、該収縮せしめられる部位に連結する部位の組合せにおいて、該収縮せしめられる部位に連結した部位の拘束により、前記収縮せしめられる部位の収縮を起こりずらくして、該収縮せしめられる部位に連結した部位に圧縮応力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラント、化学プラント等で重大な問題となっている応力腐食割れの発生或いは既に発生した応力腐食割れの進展を抑制する応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原子力発電所等に代表されるように、発電プラント、化学プラント等における応力腐食割れの発生や発生した応力腐食割れの進展による事故の発生が大きな問題となっている。
【0003】
これらの問題に対応するために、応力腐食割れの発生或いは進展する対象部位となる例えば溶接部を、該溶接部から離れた位置に押圧部材を配置し、該押圧部材の押圧によって圧縮応力を生じさせる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−154683号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、圧縮応力を生じさせるために押圧部材を用いるので、これら押圧部材を配置できない部分には、これらの方法を適用できない場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、押圧部材を用いることなく、応力腐食割れの発生或いは進展を抑制することのできる応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法は、
熱により収縮せしめられる部位と、該収縮せしめられる部位に連結した部位の組合せにおいて、該収縮せしめられる部位に連結した部位の拘束により、前記収縮せしめられる部位の収縮を起こりずらくして、該収縮せしめられる部位に連結した部位に圧縮応力を発生させて応力腐食割れの発生或いは進展を抑制することを特徴とする。
この特徴によれば、応力腐食割れによる亀裂が発生し難くなるとともに、仮に応力腐食割れによる亀裂が発生しても、該発生した応力腐食割れ(亀裂)の進展をし難くできる。尚、本発明における収縮せしめられる部位と、収縮せしめられる部位に連結した部位の関係は、より収縮せしめられる部位と、より収縮せしめられる部位に連結したそれより少なく収縮せしめられる部位の関係に置き換えても同様である。
【0008】
本発明の請求項2に記載の応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法は、
熱により膨張せしめられる部位と、該膨張せしめられる部位に連結する部位の組合せにおいて、該膨張せしめられる部位に連結する部位の拘束により、前記膨張せしめられる部位の膨張を起こりずらくして、該膨張せしめられる部位に圧縮応力を発生させて応力腐食割れの発生或いは進展を抑制することを特徴とする。
この特徴によれば、応力腐食割れによる亀裂が発生し難くなるとともに、仮に応力腐食割れによる亀裂が発生しても、該発生した応力腐食割れ(亀裂)の進展をし難くできる。尚、本発明における膨張せしめられる部位と、膨張せしめられる部位に連結した部位の関係は、より膨張せしめられる部位と、より膨張せしめられる部位に連結したそれより少なく膨張せしめられる部位の関係に置き換えても同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を図1(a)〜(c)に示す。
【0010】
まず、図1(a)に示すように、応力腐食割れの発生或いは進展を抑制する対象部位となる溶接部から離れた部位を冷却する。ここに上記部位の位置は、配管軸方向にみたときに溶接部に外側を凸とする変形が生じるように定める。冷却部は、高温部材にあっては、周上に放熱用のフィンを取り付けることにより設けてもよいし、水等による冷却でもよいし、その部分だけ配管表面の熱伝達率を他に比べ大きくし、熱が逃げやすくすることにより設けてもよい。同部分以外の配管表面から熱が逃げにくくしてもよい。
【0011】
そして、図1(b)に示すように、図1(a)の処理を溶接部の左右両側で行う。ここに溶接部から冷却部位までの距離は左右で同じでも、異なってもよい。
【0012】
また、内外壁の温度が同じか、それに近い状態の場合には、図1(c)に示すように、加熱帯で溶接部を加熱し、配管軸方向にみたときに溶接部に外側を凸とする変形が生じるようにし、配管溶接部の内壁上に圧縮応力が生じるようにする。
【0013】
また、配管内壁が高温の流体に触れる場合には、図7に示すように、溶接部あるいはそれを含む領域の外表面上の熱伝達率を同領域以外の配管表面の熱伝達率に比べ大きくし、熱が逃げやすくすることにより、同領域の肉厚内での温度勾配(内壁上で高く、外壁上で低い)が、同領域以外の肉厚内での温度勾配より大きくなり、配管溶接部の内壁上に他に比べより大きな圧縮応力を作ることができる。同領域の周上に放熱用のフィンを取り付けることによってもよいし、水等による冷却によってもよい。
【0014】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
前述の図1(b)の一例を図2に示す。外径500mm, 肉厚35mmなるステンレス鋼配管溶接部を一例として想定し、内壁の温度を300℃とし、図のように溶接部の両側で配管外壁上において幅bにわたり熱伝達率を大きくした場合に、溶接部の配管内壁上に生じる軸方向応力σと周方向応力σθ の計算値を図3に示す。なお幅bなる部分以外の配管外壁の熱伝達率は10W/(m2・℃)とした。また図3はb=50mmとした例である。幅bなる部分の外壁上の熱伝達率も10W/(m2・℃) の場合に、σとσθが負の符号(圧縮)をとるのは、配管内壁の温度が300℃であり、配管外壁の温度(280℃)に比べ高いことによるものである。図3より、幅bなる部分の外壁上の熱伝達率が大きくなると、同部の外壁上の温度Tは同部以外の外壁上の温度280℃に比べ低下し、σ、σθ共に圧縮が大きくなることがわかる。
【実施例2】
【0016】
次に、図7の一例を図4に示す。配管寸法、内壁の温度、外気温は図2の場合と同じとした場合である。溶接部の配管外壁上において軸方向にBなる幅で熱伝達率を大きくした場合に、溶接部の配管内壁上に生じる軸方向応力σと周方向応力σθの計算値を図5に示す。なお幅Bなる部分以外の配管外壁の熱伝達率は10W/(m2・℃) とし、またB=50mmとした例である。図5より幅Bなる部分の外壁上の熱伝達率が大きくなると、同部の外壁上の温度tは減少し、したがって内壁上の温度300℃との温度差が大きくなり、温度が高い内壁側においてσ、σθ共に圧縮が大きくなることがわかる。
【0017】
尚、 図2に示す実施例1の形態と図4に示す実施例2の形態を組み合わせてもよい。一例として幅bなる部分と幅Bなる部分の熱伝達率を同じにして図3の場合と図5の場合を組み合わせた場合に生じるσ、σθは図6のようになり、溶接部の配管内壁上に大きな圧縮応力を生じさせることができる。
【0018】
以上に示した実施例は一例であり、種々の寸法、内壁の温度、外気温、熱伝達率等の値はここに示した値に限られるものではない。また幅bなる部分、幅Bなる部分に対する処理は放熱用のフィン、水等による冷却によってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法の配管への適用状況を示す図である。
【図2】本発明の実施例1を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における軸方向応力と周方向応力、幅bなる部分の外壁上の温度を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例2を示す図である。
【図5】本発明の実施例2における軸方向応力と周方向応力、幅Bなる部分の外壁上の温度を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1と実施例2の組み合わせにおける軸方向応力と周方向応力を示すグラフである。
【図7】本発明の応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法の配管への適用状況を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱により収縮せしめられる部位と、該収縮せしめられる部位に連結した部位の組合せにおいて、該収縮せしめられる部位に連結した部位の拘束により、前記収縮せしめられる部位の収縮を起こりずらくして、該収縮せしめられる部位に連結した部位に圧縮応力を発生させて応力腐食割れの発生或いは進展を抑制することを特徴とする応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法。
【請求項2】
熱により膨張せしめられる部位と、該膨張せしめられる部位に連結する部位の組合せにおいて、該膨張せしめられる部位に連結する部位の拘束により、前記膨張せしめられる部位の膨張を起こりずらくして、該膨張せしめられる部位に圧縮応力を発生させて応力腐食割れの発生或いは進展を抑制することを特徴とする応力腐食割れの発生或いは進展抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−83440(P2006−83440A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270644(P2004−270644)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】