説明

恒温輸送容器

【課題】恒温輸送容器において、輸送品温度を所定時間だけ所定温度に保持する。
【解決手段】恒温輸送容器30は、断熱容器1と、この断熱容器を密閉可能にする蓋15とを備える。断熱容器は内周面側に複数の断熱部材3が重ねて配置されている。断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材4が配置されている。熱伝導部材は内部に蓄熱材5と輸送品6とを収容する複数の個装容器8を積層して収容可能である。一方の個装容器内の蓄熱材の熱を、他の個装容器に熱伝導部材を介して伝達可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は輸送容器及びそれに収容される個装容器に係り、所定温度に輸送対象品の温度を保持する恒温輸送容器及び個装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞組織等の物質を保温して輸送する恒温輸送容器の例が、特許文献1に記載されている。この公報に記載の輸送容器では、細胞組織医療用具を室温領域で輸送するために、輸送容器を内側容器と外側容器の二重構造としている。そして内側容器には蓄熱及び熱移動を緩衝させる機能を設け、外側容器には断熱機能を設けている。これにより、室温領域での輸送を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−217290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の医療用具の輸送容器は、簡便に輸送対象品を所定の温度範囲に保持することができる。しかしながら輸送容器内における熱移動を抑制しているので、輸送容器内における温度分布の非一様性が甚だしくなる恐れがある。例えば輸送容器の底面からの放熱量が大き過ぎると底面側の温度が下がり、底面側の蓄熱材温度が早期に低下する。この場合、上面側に、底面側からの放熱を考慮して十分な蓄熱量を有する蓄熱材を配していても、断熱機能により蓄熱量を放熱部に伝達することが困難になり、その熱量を有効に利用することができない。輸送対象品の温度が、底面側から低下する。
【0005】
複数個の輸送対象品を輸送するときには、各輸送対象品間で熱の移動が困難であるから、各輸送品の温度間にバラツキが生じる。その結果、所望の温度範囲内に保持できない輸送品が発生する恐れがある。また、外気温度が低い場合や輸送時間が長い場合などには放熱量が多くなるので、放熱を補うために蓄熱量を追加する必要が生じるが、断熱機能のため追加した蓄熱材を有効に利用できないおそれがある。
【0006】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便な構成の恒温輸送容器において、長時間にわたって所定温度範囲を保つことにある。本発明の他の目的は、輸送対象品を長期にわたり恒温で輸送可能にすることにある。そして本発明は、これらの目的の少なくとも一つを達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、恒温輸送容器において、断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材は内部に蓄熱材と輸送品とを収容する複数の個装容器を積層して収容可能であるとともに、この個装容器に熱的に接するように配置されており、一の個装容器の蓄熱材の熱を他の容器に熱伝導部材を介して伝達可能にした。
【0008】
この恒温輸送容器において、熱伝導部材の上端部を折り曲げた形状に形成し、この折り曲げた形状部を用いて使用者が前記個装容器を取り出し可能にしてもよく、輸送品の外表面を第2の熱伝導部材で覆ってもよい。また、断熱容器の内面形状は円筒形状であり、前記断熱材はマット状の真空断熱材であり、この円筒面にそって複数の真空断熱材を積層し、この真空断熱材の周方向端部を積層方向に変えてもよく、真空断熱材の下側端面を、前記断熱容器の内底面よりも低くしてもよい。蓋の裏面に温度センサーを、蓋の表面にこの温度センサーが検出した温度を表示する表示部を設けてもよく、温度センサーは、前記熱伝導部材と接していてもよい。
【0009】
上記目的を達成するために、恒温輸送容器において、断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材は、内部に輸送品を収容する断熱部材を有する容器と蓄熱材とを交互に積層して収容可能であるとともに、この容器及び蓄熱材に熱的に接するように配置されており、蓄熱材の熱を容器に熱伝導部材を介して伝達可能にした。
【0010】
上記目的を達成するために、恒温輸送容器において、断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材の内面側には蓄熱材が配置されており、この蓄熱材は、内部に輸送品を収容する複数の個装容器が積層され第2の熱伝導部材で覆われた輸送対象品を収容可能とした。
【0011】
上記目的を達成するために恒温輸送容器に用いる個装容器は、断熱容器とこの断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、内部に蓄熱材を収容する。そして、開閉可能な蓋と、この蓋とともに密閉容器を形成する箱部と、蓋及び箱部が形成する空間に蓄熱材を収容し、前記蓋とはその合わせ面にそれぞれ空間を閉じる可撓性の膜を有し、各々の膜の中央部には輸送品を保管可能な空間が形成されており、前記蓋及び箱部が形成する空間にそれぞれ複数のリブを形成した。
【0012】
この個装容器において、外表面を熱伝導部材で覆ってもよく、前記リブを蓄熱材収容部の外側壁面から内側へ突出して設けてもよい。前記蓋に形成したリブの高さを、前記箱部に形成したリブの高さよりも高くしてもよく、蓄熱材は少なくとも一部が透明な材料で構成された容器に封入されていてもよい。
【0013】
さらに上記目的を達成するために、恒温輸送容器の搬送容器は、恒温輸送容器を複数個収容可能な断熱容器であり、各恒温輸送容器の温度センサーが検出した温度を表示する温度表示手段を備えるようにしたものであり、恒温輸送容器の温度が所定範囲を逸脱した場合に警報を発する手段を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、恒温輸送容器内に適切に熱伝導部材を配したので、熱伝導により恒温輸送容器内における温度分布が制御され、恒温輸送容器内の温度分布が一様化される。また、輸送容器内における蓄熱材からの熱移動が促進され、蓄熱材の保有蓄熱量を有効に利用することができるので、輸送品の温度を長時間に亘りほぼ一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る恒温輸送容器の一実施例の縦断面図。
【図2】図1に示した恒温輸送容器に収納される個装容器部分断面斜視図。
【図3】図1に示した恒温輸送容器の横断面図。
【図4】図1に示した恒温輸送容器を収容する搬送容器の斜視図。
【図5】本発明に係る恒温輸送容器の他の実施例の縦断面図。
【図6】本発明に係る恒温輸送容器のさらに他の実施例の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る恒温輸送容器の一実施例を、図1ないし図4を用いて説明する。図1に恒温輸送容器30の縦断面図を、図2にこの恒温輸送容器30に収容される個装容器8の詳細斜視図を、図3に恒温輸送容器30の横断面図を示す。恒温輸送容器30は、円柱状の断熱容器1とこの断熱容器1の上面を覆う蓋15とを有している。
【0017】
断熱容器1は、外形が円柱状の断熱材の容器2で形成されており、この容器2の内壁に沿って二重に真空断熱材3が配置されている。真空断熱材3の内側には、板を折り曲げた形状の熱伝導性の良い金属製の熱伝導部材4が上下方向に延びて配置されている。熱伝導部材4の下端部は真空断熱材3よりも僅かに上方に位置しており、底面部4aを形成している。蓋15の内側の面には、熱伝導部材4bが貼られている。蓋15の一部には、熱伝導部材4に接して熱伝導部材4の温度を検出する温度センサー20が取り付けられている。蓋15の上面には、温度センサー20が検出した温度を表示する温度表示器21が設けられている。
【0018】
図3に示すように、熱伝導部材4は対向して配置された2枚の板が下端部で連結された形状である。熱伝導部材4の2枚の板間に形成される空間は、個装容器8を複数個、図1では3個積層して収容する空間になっている。この個装容器8を収容する空間の外部であって、真空断熱材3との間の空間にはウレタンが充填されており、断熱作用とともに熱伝導部材4を保持している。個装容器8は角部に丸みをつけた直方体状であり、熱伝導部材4の形成する空間に合わせた大きさになっている。熱伝導部材4に個装容器8の大きさを合わせているので、輸送中に恒温輸送容器30内で個装容器8が位置ずれするのが防止される。個装容器8の内部には、第2の熱伝導部材7に覆われた直方体状の輸送品6が保持されており、第2の熱伝導部材7と個装容器8との間の隙間には、蓄熱材5が充填されている。
【0019】
ここで、真空断熱材3は、形状維持のための繊維状のコア部材の周囲を薄板またはフィルムで密封し、内部を真空引きして形成したもので、コア部材としては例えば金属細線やグラスウール繊維、フィルム材としてはアルミやステンレスの薄板またはフィルムを用いる。熱伝導部材4は例えば銅板であり、個装容器8には内部の状態を把握できるように透明の樹脂製のものを用いる。真空断熱材3をマット状に形成し、断熱容器1の内周に沿って巻きまわすので、真空断熱材3の周方向端部には僅かな隙間が形成される。そこで、この端部をカバーするようにさらに他の真空断熱材3を内側に巻く。この場合、内側の真空断熱材3の周方向端部位置を外側の真空断熱材3の周方向端部位置と異ならせる。
【0020】
図2に、個装容器8に輸送品6を保持する詳細を示す。個装容器8は、ほぼ同一形状の蓋部10と箱部11とを有する。蓋部10の天板部10aの内側には複数本の上リブ12が、箱部11の底板部11aの内側には複数本の下リブ13が形成されている。上リブ12及び下リブ13はそれぞれ側壁10b、11bに平行に形成されている。蓋部10の箱部11との合わせ面、及び箱部11の蓋部10との合わせ面は、可撓性を有する膜16で覆われている。この膜16が形成する空間内には、蓄熱材5が保持される。蓄熱材5には、リン酸ナトリウムやパラフィン、水等の一定温度で固液の相変化をおこなう潜熱蓄熱材が望ましい。
【0021】
膜16、16の中央部付近には、輸送品6を保持する空間が形成されている。輸送品は、熱伝導性のよい第2の熱伝導部材7に覆われて、この空間に保持される。この第2の熱伝導部材7には、例えばフィルムや薄板状の銅を用いる。
【0022】
このように構成した本実施例の恒温輸送容器30の作用及び動作を、以下に説明する。熱伝導部材4は内側に配置した個装容器8や蓄熱材5よりも熱伝導率が十分高く、断熱容器1の底部1aからの入熱量が側面1bからの入熱量に対して大きい。底部1aの温度が上昇しても、底部1aから入った熱は熱伝導部材4により断熱容器1内へ伝わる。断熱容器1の内部に輸送品6を上下方向に積層しても、上下方向の温度偏差を抑制することができる。また、温度分布の非一様性を抑制できるので、断熱容器1内に収容した全ての個装容器8において、蓄熱材5が均等に吸熱して蓄熱材5の吸熱量のバラツキが抑制される。
【0023】
蓄熱材5が蓄熱した蓄熱量の残量が個装容器8ごとに異なり、断熱容器1の底部1a側の個装容器8の蓄熱材5の保有蓄熱量が早期に失われても、他の個装容器8に収容した蓄熱材5の蓄熱量を熱伝達により伝達できるので、熱伝導部材4の温度上昇が抑制される。
これにより、断熱容器1の底部1a側に配置した輸送品6の温度上昇を抑制できる。
【0024】
個装容器8の内部には蓄熱材5と輸送品6が保持されており、蓄熱材5が輸送品6の周囲に配置されているので、個装容器8の外部から入熱があっても蓄熱材5の温度が上昇しない限り輸送品6の温度は上昇しない。蓄熱材5を設けたので、輸送品6の温度を長時間所定範囲に維持することができる。熱伝導部材4に各個装容器8の熱が伝達されるので、熱伝導部材4は各個装容器8の温度を均一化する。したがって、蓄熱材5に対する入熱量が場所によって偏るとか、蓄熱材5の一部が融け残るなどの不具合を回避できる。蓄熱材5の熱量を、有効に利用することができる。本実施例では断熱容器1で輸送品6を保冷する例を説明したが、断熱容器1で輸送品6を保温する場合も同様な効果が得られる。
【0025】
輸送品6を第2の熱伝導部材7で覆っているので、輸送品6の下側に配置した蓄熱材5だけ蓄熱熱量が失われても、その輸送品6の上方や側方に残っている蓄熱熱量を利用して、輸送品6の温度上昇を抑制することができる。なお、個装容器8の内部に収容する蓄熱材5の量は、生産性を考慮して一定量としてもよいし、各輸送品6に応じて可変とすることもできる。蓄熱材5の量を一定にする場合は、必要な蓄熱量が最も多い条件で設定する。蓄熱材5の保有量を変えた個装容器8を用意すれば、輸送品6の輸送時間の変化等に容易に対応できる。この場合蓄熱材5が少なくても良いときには、蓄熱材5に熱を蓄える時間を短縮でき、また熱量を抑制できる。なお、蓄熱材5の種類等を変化させても、対応できる。
【0026】
一部の個装容器8だけで内部に収容する蓄熱材5の量を変えると、蓄熱量の残量にバラツキが生じるが、熱伝導部材4を介して他の個装容器8内の蓄熱材8の蓄熱が断熱容器1内に伝達される。したがって、長期にわたり断熱容器1内の温度を均一化できる。
【0027】
個装容器8内部に蓄熱材5の収容空間を形成し、膜16の合わせ面間に輸送品6を保持するようにしたので、輸送品6の周囲に容易かつ確実に蓄熱材5を配置することができる。これにより、蓄熱材5の偏在等により輸送品6の温度が部分的に適正範囲外に逸脱してしまう不具合を防止できる。蓋部10および箱部11に形成した上リブ10、下リブ11は蓄熱材5に向かっているので、蓄熱材5と個装容器8との接触面積が増加する。蓄熱材5と個装容器8との熱交換が促進され、個装容器8の温度均一化が促進される。個装容器8を透明な樹脂で成型したので、蓄熱材5の溶融状態を視覚的にかつ容易に確認することができる。したがって、個装容器を輸送時に、蓄熱状態を視覚的に把握でき、十分に蓄熱されていない個装容器8を誤って使用するミスを未然に防止できる。
【0028】
蓄熱材5が、蓄熱時に液体であり放熱時に固体となる相変化をすると、放熱が進んで蓄熱材5を収容する空間内の下部に蓄熱材5が溜まってくる。その場合、図2に示すように蓄熱材5と天板部10a、及び蓄熱材5と底板部11aとの距離が相違してくるので、上リブ12を下リブ13よりも長くする。これにより、蓄熱材5の内部まで、確実に上リブ12および下リブ13が届く。上リブ12の端面および下リブ13の端面を膜16に接触させると、蓄熱材5の温度が上昇する前に各リブ12、13を介して輸送品6の温度が上昇する。そのため、各リブ12、13が、個装容器8の天板部10aまたは底板部11aにだけ接続する構造とする。
【0029】
本実施例では、ウレタンを成形した個装容器8の保持部40に折り曲げ形状の熱伝導部材4を配置したので、断熱容器1から個装容器8を取り出す際には、熱伝導部材4の上端縁部を持ち上げるだけでよい。したがって、個装容器8を複数個積層した場合でも、輸送品6を容易に取り出すことができ、作業性が向上する。なお、構成を簡易にするために、個装容器8の外表面を銅のような熱伝導性の良い金属で覆い、熱伝導部材4と兼用させて、断熱容器1内の温度分布の非一様化を抑制させてもよい。
【0030】
真空断熱材3は、面垂直方向には断熱性が優れている。しかしながら、真空断熱材3の外表面が金属で覆われているので縁部からは熱が漏洩し易い。同一の真空断熱材3の縁部を周方向にはできるだけ接近させるとともに、真空断熱材3を2重構造として内外層の縁部が周方向に一致しないようにしている。これにより、周方向縁部から周り込む熱量を抑制することができる。真空断熱材3の下縁部を断熱容器1の内底面1cよりも低くして、下縁部からの熱の周り込みを抑制したので、断熱容器1の断熱性能が向上する。
【0031】
蓋15に温度表示器21を設けたので、内部の温度が所定の温度範囲に保たれているかを蓋15を開けずに確認できる。なお、温度センサー20を蓋15の内部に温度表示器21を表面部に設けたので、両者の間を結ぶ配線が外部に出ることはなく、取り扱いが容易である。温度センサー20の温度が所定範囲から逸脱した後に、輸送品6の温度が所定範囲から逸脱するので、温度センサー20の値が所定範囲内であれば、輸送品6の温度が所定範囲外となることはない。本実施例では、熱伝導部材4の温度を断熱容器1内の代表温度として採用しているので、常に安全サイドに断熱容器1を管理できる。
【0032】
図1に示した恒温輸送容器30を、搬送用容器31内に複数本収容して搬送する様子を、図4に示す。この図4では、各恒温輸送容器30に輸送品6が収容された個装容器8が複数個保管されている。搬送用容器31は、恒温輸送容器30の高さと同程度の高さの穴が複数形成された本体33と、収容した恒温輸送容器30の上面を覆う蓋34とを有する開閉可能な箱状容器である。内部に保管する各恒温輸送容器30の温度センサー20が検出した温度を、一括して表示することのできる温度表示部32を手前側の側面に備えている。
【0033】
本実施例によれば、搬送用容器31の蓋34を開閉することなく、各恒温輸送容器30内の温度を把握することができる。この搬送用容器31は、搬送用容器31の周囲に対する断熱材として機能するので、蓋34を開閉する回数が減少することは断熱性の維持の面で有利であり、輸送品6の温度を長時間所定温度に保持できる。なお、各恒温輸送容器30の温度センサー20が計測した温度は、図示しない切替え器の接点を切替えて搬送用容器31の温度表示部32に表示される。この温度表示部32が、複数の温度を表示できるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0034】
温度表示器21および温度表示部32は、各温度センサー20が検出した温度が所定範囲を逸脱したことを輸送者に知らせる警報を有している。警報により、輸送者は蓄熱材5の交換や搬送用容器31、恒温輸送容器30、個装容器8の密閉状態を確認でき、必要な対応を迅速にとることができ、輸送品の異常な温度上昇または温度低下を回避できる。
【0035】
温度表示器21または温度表示部32に、輸送品6の温度を予測する手段を設けてもよい。予測手段は、温度センサー20が検出した温度の値とその時間的な変化率から、その後の温度変化を予測する。そして、予測した温度が所定範囲を逸脱したら輸送者に事前に報知する。この予測手段には、例えば電子体温計等に適用されるものを使用できる。電子体温計を利用すれば、低コストで設置が容易になる。輸送者は、輸送品6の温度が所定の範囲を逸脱する前に、搬送用容器31の周囲の状況を改善する、あるいは輸送元や輸送先に連絡を取るなどの適切な対応を取ることができる。これにより、輸送品6の温度変化による損害を最小限に止めることが可能となる。また、温度表示器21または温度表示部32自体に輸送元あるいは輸送先に温度予測の結果を報知する機能を付加してもよいし、輸送品6の温度変化履歴を記憶させてもよい。
【0036】
本発明に係る恒温輸送容器30の他の実施例を、図5に縦断面図で示す。本実施例画図1に示した実施例と相違するのは、個装容器8の代わりに断熱材9で輸送品6を覆い、この断熱材9で覆われた輸送品6を積層する際に、断熱材9の上下方向の間に蓄熱材5を間挿したことにある。蓄熱材5は、最下層の断熱材9の下側、及び最上層の断熱材9の上側にも積層する。断熱材9には、上記真空断熱材を用いてもよいし、市販の断熱材を用いてもよい。
【0037】
本実施例では専用の個装容器8を使用しないので、製作が容易である。蓄熱材5を板状に形成できるので、蓄熱材5を事前に凝固もしくは融解させて使用する場合に容積が小さくて済み、加熱または冷却面積を大きく確保できる。したがって、凝固もしくは融解に要する処理時間を短縮できる。輸送品6の個数が少ない場合には、恒温輸送容器30の内部の空いた空間に、断熱材9や蓄熱材5を容易に充填することができる。蓄熱材5を充填すると蓄熱量が増加し、輸送品の保温性能を容易に増強させることができる。外気等の温度条件が厳しい場合や、輸送時間が長い場合などに好適である。その場合、例えば上方に蓄熱材5を多く配置する。蓄熱量に偏りが生じても熱伝導部材4により温度の均一化が測られ、蓄熱効果を長期にわたり享受できる。確実に輸送可能時間を延ばすことができ、過剰に蓄熱材5を投入する必要もない。本実施例では蓄熱材5と輸送品6を交互に積層しているが、必ずしも交互に積層する必要はなく、例えば蓄熱材5を1層として、輸送品6のみ積層してもよい。
【0038】
図6に本発明に係る恒温輸送容器のさらに他の実施例を、縦断面図で示す。本実施例では、断熱材9で覆った輸送品6を積層し、積層した断熱材9全体を金属製の第2の熱伝導部材7で覆い、第2の熱伝導部材7の外周部に、蓄熱材5を充填している。板状の容器に封入した蓄熱材5を、複数個断熱容器1内に配置したので、蓄熱材5単体の体積を小さくすることができる。また、蓄熱材5の内側にも第2の熱伝導部材7を配置し、その内側に断熱材9を配置したので、蓄熱材5の一部の温度が所定温度よりも低下しても、他の蓄熱材5の保有熱量が第2の熱伝導部材7を介して伝達されるので、第2の熱伝導部材の内側で局所的な温度低下が生じることを回避できる。
【0039】
図1および図5に示した実施例では、熱伝導部材4が輸送品6の上下左右の各面を覆っているが、本実施例のように熱伝導部材4を一部にだけ設けてもよい。本実施例では、熱伝導部材4の量を低減したので恒温輸送容器30が軽量化される。
【符号の説明】
【0040】
1…断熱容器、3…真空断熱材、4…熱伝導部材、5…蓄熱材、6…輸送品、7…第2の熱伝導部材、8…個装容器、9…断熱材、12、13…リブ、20…温度センサー、21…温度表示器、30…恒温輸送容器、31…搬送用容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材は内部に蓄熱材と輸送品とを収容する複数の個装容器を積層して収容可能であるとともに、この個装容器に熱的に接するように配置されており、一の個装容器の蓄熱材の熱を他の容器に熱伝導部材を介して伝達可能にしたことを特徴とする恒温輸送容器。
【請求項2】
前記熱伝導部材の上端部を折り曲げた形状に形成し、この折り曲げた形状部を用いて使用者が前記個装容器を取り出し可能としたことを特徴とする請求項1に記載の恒温輸送容器。
【請求項3】
断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材は、内部に輸送品を収容する断熱部材を有する容器と蓄熱材とを交互に積層して収容可能であるとともに、この容器及び蓄熱材に熱的に接するように配置されており、蓄熱材の熱を容器に熱伝導部材を介して伝達可能にしたことを特徴とする恒温輸送容器。
【請求項4】
前記輸送品の外表面を第2の熱伝導部材で覆ったことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の恒温輸送容器。
【請求項5】
断熱容器とこの断熱容器を密閉可能にする蓋とを備える恒温輸送容器に用いられ、内部に蓄熱材を収容する個装容器において、開閉可能な蓋と、この蓋とともに密閉容器を形成する箱部と、蓋及び箱部が形成する空間に蓄熱材を収容し、前記蓋とはその合わせ面にそれぞれ空間を閉じる可撓性の膜を有し、各々の膜の中央部には輸送品を保管可能な空間が形成されており、前記蓋及び箱部が形成する空間にそれぞれ複数のリブを形成したことを特徴とする恒温輸送容器用の個装容器。
【請求項6】
外表面を熱伝導部材で覆ったことを特徴とする請求項5に記載の個装容器。
【請求項7】
前記リブを蓄熱材収容部の外側壁面から内側へ突出して設けたことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の個装容器。
【請求項8】
前記蓋に形成したリブの高さを、前記箱部に形成したリブの高さよりも高くしたことを特徴とする請求項6に記載の個装容器。
【請求項9】
前記蓄熱材は少なくとも一部が透明な材料で構成された容器に封入されていることを特徴とする請求項5に記載の個装容器。
【請求項10】
前記断熱容器の内面形状は円筒形状であり、前記断熱材はマット状の真空断熱材であり、この円筒面にそって複数の真空断熱材を積層し、この真空断熱材の周方向端部を積層方向に変えたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の恒温輸送容器。
【請求項11】
前記真空断熱材の下側端面を、前記断熱容器の内底面よりも低くしたことを特徴とする請求項10に記載の恒温輸送容器。
【請求項12】
蓋の裏面に温度センサーを、蓋の表面にこの温度センサーが検出した温度を表示する表示部を設けたことを特徴とする請求項1または請求項3に記載の恒温輸送容器。
【請求項13】
前記温度センサーは、前記熱伝導部材と接していることを特徴とする請求項12に記載の恒温輸送容器。
【請求項14】
断熱容器と、この断熱容器を密閉可能にする蓋とを備え、前記断熱容器は内周面側に複数の断熱部材が重ねて配置され、この断熱部材が形成する断熱容器内空間に熱伝導部材が配置され、この熱伝導部材の内面側には蓄熱材が配置されており、この蓄熱材は、内部に輸送品を収容する複数の個装容器が積層され第2の熱伝導部材で覆われた輸送対象品を収容可能としたことを特徴とする恒温輸送容器。
【請求項15】
請求項1または請求項3に記載の恒温輸送容器を複数個収容可能な断熱容器であり、各恒温輸送容器の温度センサーが検出した温度を表示する温度表示手段を備えたことを特徴とする恒温輸送容器の搬送容器。
【請求項16】
前記恒温輸送容器の温度が所定範囲を逸脱した場合に警報を発する手段を有することを特徴とする請求項15に記載の恒温輸送容器の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−116210(P2010−116210A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29647(P2010−29647)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2005−49920(P2005−49920)の分割
【原出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】