説明

感光性平版印刷版材料

【課題】高感度であり、pHが9未満の中性現像液、もしくはpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液を用いて現像を行っても地汚れの発生のない、また、現像処理後あるいは印刷中に長時間放置されても地汚れの発生のない、耐刷性およびインキ着肉性に優れた感光性平版印刷版材料を与える。
【解決手段】光硬化性感光層が、少なくとも下記一般式Iで示される化合物を用いて合成され、かつ側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基およびスルホン酸塩基の少なくとも一つを有するポリマーを含有する感光性平版印刷版材料。
【化1】


(一般式Iにおいて、R、RおよびRは各々独立しては炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つはアルコキシ基を表す。Yは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像性と印刷性および製版後の置き版性が改良された高感度な感光性平版印刷版材料に関する。特に現像処理に際してpHが9未満の中性現像液もしくはpHが9〜12の範囲であるアルカリ水溶液で現像処理を行う感光性平版印刷版材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター上で作製したデジタルデータをもとにフィルム上に出力せずに直接印刷版上に出力するコンピューター・トゥー・プレート(CTP)技術が開発され、出力機として種々のレーザーを搭載した各種プレートセッターとこれらに適合する感光性平版印刷版材料の開発が盛んに行われている。この場合の出力レーザーとしては、現在のところ、近赤外光半導体レーザーとして830nm付近に発光するレーザーを利用する系と、405nm付近の青紫色半導体レーザーを利用する系の2つが主流であり、これらのレーザーに適合するCTP技術が盛んに検討されてきている。CTP方式の普及と共にクローズアップされてきた重要な問題点あるいは要望として、現像処理に関わる諸点が挙げられる。通常方式のCTPでは、印刷版材料をレーザー画像露光した後、アルカリ性現像液により非画像部を溶出し、水洗およびガム引き工程を経て印刷に供される。特に、特開2001−290271号公報(特許文献1)、特開2002−278066号公報、特開2003−43687号公報等には、側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーを感光層に使用することで、高感度でかつ耐刷性に優れたCTPに適合する印刷版材料の例が開示されているが、これらに使用される現像液としては、特開2002−278083号公報(特許文献2)、特開2002−278084号公報、特開2002−278085号公報等に記載されるpHが12を超える高アルカリ性の現像液を使用することが行われてきた。
【0003】
こうした高アルカリ性の現像液を使用した場合、大気中の二酸化炭素の吸収によるpHの低下が問題となり、pHの低下と共に次第に現像性が低下するため、これを補うために現像液の補充を頻繁に行う必要があり、結果的に高アルカリ性の現像液の使用量が増大し、また結果として生じる高アルカリ性の現像廃液の保管および処理に大きな負担が生じる問題があった。
【0004】
現像液のpHを12以下に設定した系で処理が可能である感光性平版印刷版材料の例としては、例えば特開2006−39177号公報(特許文献3)、特開2006−64952号公報(特許文献4)等が挙げられる。これらはpHが12以下であるアルカリ性現像液を使用した場合に問題になる現像不良等により引き起こされる地汚れの回避を主として意図したものである。こうした地汚れを回避するためには感光性平版印刷版材料の現像性を高めることが必須であるが、現像液のpHが12より低くなるに従って、一般に非画像部の現像性が低くなり、現像温度や非画像部の膜厚等の変動による現像性への影響が顕著になる問題があった。この影響はpHが12以上である高pHの現像液を使用した場合にはさほど顕著に認められないが、これより低いpHの現像液を使用した場合には大きな変化として認められることがあった。現像性が低下した場合、残膜の影響により地汚れが発生し、特に製版後に印刷機にかける前に製版物が放置された場合や、印刷時に長時間にわたり停機があり、版が印刷機上において放置される等した場合に、その後の印刷の開始時に著しい地汚れが生じる問題があった。こうした置き版に関わる問題を回避するために印刷版表面の親水性を長時間にわたり維持するための改良が必要とされていた。
【0005】
置き版により地汚れが発生しやすくなる問題は使用する支持体表面の性質にも大きく関わる。特に当該分野で頻繁に使用される支持体としては、粗面化処理し陽極酸化された表面を有するアルミニウム板や、あるいは後述する特開2008−265297号公報(特許文献5)等に記載されるコロイダルシリカを含有する親水性層を表面に有する支持体が知られているが、これらの支持体上に光硬化性感光層を形成して感光性平版印刷版材料を作製すると、支持体表面が非常に微細な細孔を有していることから、こうした細孔内に該光硬化性感光層が進入し、現像時に溶出出来ないで細孔内に留まる現象が認められる場合がある。こうした細孔内に残膜が発生した場合には肉眼では顕著に残膜が確認出来ないが、印刷時には地汚れが発生しやすく、特に置き版時に次第に細孔内部から該感光層成分が拡散し、次第に地汚れが発生しやすくなる場合があった。
【0006】
一方で、上記のようなアルカリ性現像液を用いない試みとして、例えば特開2008−265297号公報(特許文献5)では、水により現像が可能である感光性平版印刷版材料の例が開示されており、これによると特定の親水性層を設けた支持体上に、スルホン酸基とヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基の両方を側鎖に有する重合体を含む光硬化性感光層を設けた感光性平版印刷版材料の例が開示されている。この場合には先のアルカリ性現像液を使用する場合よりも遙かに現像性が低いために、現像温度や非画像部の膜厚等の変動による現像性への影響や、光硬化性感光層の細孔内への侵入による地汚れの発生および置き版後の地汚れの悪化等の影響が極めて顕著に現れる問題があった。
【0007】
こうした地汚れや置き版後の地汚れの問題は、本質的には支持体表面に形成される光硬化性感光層の溶出性、現像性を改善することで回避出来るが、反面、このように現像性を高め、特に水や低pHのアルカリ性水溶液で現像出来るほどに現像性を高めた場合に、印刷時においては、耐刷性に悪影響を与え、地汚れは回避出来ても耐刷性が犠牲になる等、両者をバランスさせることが非常に困難であった。
【0008】
更には、通常は製版時に露光および現像処理を経て印刷版表面にはガム引きが行われる場合が多く、通常行われるガム引き処理で置き版に関わる地汚れの発生はある程度改善されるものの、未だ十分なレベルではなく、更にはガム引き処理を施さずとも、置き版による地汚れが発生しない印刷版の実現が望まれていた。
【0009】
また、pHが9未満の中性現像液もしくはpHが9〜12の範囲であるアルカリ水溶液で現像処理を行う感光性平版印刷版材料は、上記のような置き版性や地汚れの問題に加えて、画像部の耐摩耗性が弱いために、印刷を続けてゆくと、細線の線細りが発生したり、網点面積率が5%以下の微小網点画像の耐刷性が弱く、印刷枚数が増加するに従って印刷物上での網点面積率が徐々に減少する問題があった。また、インキ着肉性に関しても、印刷枚数が増加するに従って印刷版上の画像部が次第に摩耗し、印刷物濃度が低下する問題があった。こうした問題は本質的に光硬化後の感光層の耐摩耗性および接着性が十分でないために引き起こされたものであり、耐摩耗性の改善のためには光硬化性感光層を形成する樹脂成分の改良が必要であり、また接着性の改善に関しても従来の光硬化性感光層は隣接する親水性層の性質により大きくその接着性が左右される問題があったことから本質的な改善が求められていた。特に、pHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液もしくはpHが9未満の中性現像液による現像が可能であるという特徴を維持したままこのような問題を解決することが求められていた。
【0010】
一方、特開2001−228614号公報(特許文献6)には、ポリジメチルシロキサン等のオルガノポリシロキサン基を有するアルカリ可溶性ポリウレタンバインダーを含む平版印刷版材料において、耐刷性に優れ、特にプレートクリーナーに対する耐性の優れた平版印刷版原版が与えられることを示しているが、確かにポリシロキサン基の導入により耐刷性は向上するものの、導入によりアルカリ現像性が低下する傾向が顕著であり、特に本発明が目的とするpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液もしくはpHが9未満の中性現像液による現像が可能である感光性平版印刷版材料に対しては、良好な現像性を示す系ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−290271号公報
【特許文献2】特開2002−278083号公報
【特許文献3】特開2006−39177号公報
【特許文献4】特開2006−64952号公報
【特許文献5】特開2008−265297号公報
【特許文献6】特開2001−228614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高感度であり、pHが9未満の中性現像液もしくはpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液で現像処理を行っても地汚れの発生のない、また、ガム引き処理を施さずとも現像処理後あるいは印刷中に長時間放置されても地汚れの発生のない、耐刷性およびインキ着肉性に優れた感光性平版印刷版材料を与えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記課題は、支持体及びその上に形成された光硬化性感光層からなり、該光硬化性感光層が、少なくとも下記一般式Iで示される化合物を用いて合成され、かつ側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基およびスルホン酸塩基の少なくとも一つを有するポリマーを含有することを特徴とする感光性平版印刷版材料によって、基本的に解決される。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、R、RおよびRは各々独立して、炭素数1〜10のアルキル基またはアルコキシ基を表す;但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つはアルコキシ基を表す;Yは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高感度であり、pHが9未満の中性現像液もしくはpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液を用いて現像を行っても地汚れの発生のない、また、ガム引き処理を施さずとも現像処理後あるいは印刷中に長時間放置されても地汚れの発生のない、耐刷性およびインキ着肉性に優れた感光性平版印刷版材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般式Iで示される化合物を用いて合成されるポリマーについての一般的な説明を最初に行う。一般式Iにおいて、R、RおよびRは各々独立して、炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4の、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つはアルコキシ基を表す。Yは炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4の、アルキレン基を表す。
【0018】
一般式Iで示される化合物は分子内にメルカプト基を有していることから、ラジカル重合反応において公知である所謂連鎖移動剤として作用する。ラジカル重合反応において生成する活性中間体であるラジカルによりメルカプト基から水素原子が引き抜かれ、硫黄ラジカルが発生する。この硫黄ラジカルがモノマーに付加することでラジカル重合が再開始され、末端に硫黄原子が結合したポリマーが生成することは良く知られている。しかしながら、本発明において用いる一般式Iの化合物はその構造中に同時にアルコキシ基が少なくとも2個結合した珪素原子を併せて有することが特徴である。珪素原子に結合したアルコキシ基は水の存在下において容易に加水分解を受け、水酸基を生成する場合がある。あるいは加水分解により生成した水酸基同士が縮合して−Si−O−Si−結合を生成する場合もある。このことから、一般式Iで示される化合物を用いてラジカル重合を行った場合、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーとして、以下の2つのポリマーが得られる。
【0019】
最初の場合は、ポリマー主鎖末端に下記一般式IIで示す基を有するポリマーの場合である。本発明においては、具体的には以下の構成からなる感光性平版印刷版材料が本発明の解決しようとする課題を解決出来ることを見出した。即ち、支持体上の光硬化性感光層中に、主鎖末端に下記一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーを含む感光性平版印刷版材料である。
【0020】
【化2】

【0021】
一般式IIにおいて、R、RおよびRは各々独立して、水酸基、炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4の、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つは水酸基もしくはアルコキシ基を表す。Yは炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4の、アルキレン基を表す。
【0022】
もう一つの場合は、上記一般式IIで示す基同士が脱水縮合して−Si−O−Si−結合を生成し、ポリマーの末端基同士が結合することでポリシロキサンを生成する場合である。この場合においても、以下の構成からなる感光性平版印刷版材料が本発明の解決しようとする課題を解決出来ることを見出した。即ち、支持体上の光硬化性感光層中に、ポリオルガノシロキサン構造を有するユニットと、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するユニットが、硫黄原子で結合しているポリマーを含む感光性平版印刷版材料である。
【0023】
最初に、上記一般式IIで示される基を主鎖末端に有し、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーについて説明を行う。
【0024】
ポリマーの主鎖末端に様々な官能基を導入する一つの方法として、下記スキームIに示すように、各種メルカプト化合物(R−SH)の存在下にモノマー(M)のラジカル重合を行う方法が広く用いられている。
【0025】
【化3】

【0026】
上記スキームIにおいてmはモノマーMの付加モル数を表し、重合によって重合度mのポリマーのα末端にRS基が結合し、ω末端に水素原子が結合していることを表す。また、式中、Rは、前記一般式Iの−Y−Si(R)(R)(R)を表し、mは、2〜1000の範囲の整数、より好ましくは10〜100の範囲の整数を表す。
【0027】
使用するモノマーMと上記メルカプト化合物のモル比には好ましい範囲が存在し、モノマーMに対するメルカプト化合物の好ましい添加量は、後述するように0.5〜60モル%の範囲が好ましく、更には1〜40モル%の範囲が好ましい。重合条件に関しては、重合開始剤の種類や添加量、重合温度、モノマー濃度等の各種条件は、公知の範囲で選択することができ、特に限定されない。
【0028】
上記でメルカプト基の結合した基Rに様々な官能基を導入することで、ポリマー主鎖のα末端に様々な官能基を有するRS−基が導入され、ω末端に水素原子(−H)が導入されたポリマーが合成される。本発明において、用いるメルカプト化合物(R−SH)として前記一般式Iで表されるメルカプト化合物を使用し、これの存在下で後述する種々のモノマーを重合させて本発明の目的とするポリマーを得るものである。
【0029】
一般式Iで表される化合物の特に好ましい例として、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
本発明の該ポリマーを得るためには、上記した一般式Iで表される化合物の存在下で、側鎖に重合性二重結合基を与えるためのモノマーと、カルボキシル基もしくはスルホン酸塩基を有するモノマーを共重合することで目的とするポリマーを得ることが出来る。
【0031】
ここで用いられるカルボキシル基を有するモノマーについてまず説明を行う。本発明で用いることの出来るカルボキシル基を有するモノマーとは、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、部分エステル化マレイン酸、および下記化学式に示されるような各種カルボキシル基含有モノマーを好ましく用いることが出来る。
【0032】
【化4】

【0033】
次に本発明のポリマーを構成するもう一つの場合の要素としてのスルホン酸塩基を有するモノマーについて説明を行う。こうしたスルホン酸塩基を有するモノマーの例として、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、アミン塩および4級アンモニウム塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、アミン塩および4級アンモニウム塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩、アミン塩および4級アンモニウム塩、アリルスルホン酸のアルカリ金属塩、アミン塩および4級アンモニウム塩、メタリルスルホン酸のアルカリ金属塩アミン塩および4級アンモニウム塩、メタクリル酸3−スルホプロピルエステルのアルカリ金属塩、アミン塩および4級アンモニウム塩等が好ましい例として挙げられる。ここでいうアルカリ金属塩とはナトリウム塩、カリウム塩およびリチウム塩であり、アミン塩とはアミンとしてアンモニア、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、n−ブチルジエタノールアミン、t−ブチルジエタノールアミン等のアミン類、あるいは4級アンモニウム塩とは、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロキサイド、コリン、フェニルトリメチルアンモニウムハイドロキサイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロキサイドを用いて形成される塩を意味する。
【0034】
次に、本発明のポリマーを形成するための、側鎖に重合性二重結合基を与えるためのモノマーについて説明を行う。ここでいうモノマーは、それ自身を前述のスキームIに従って重合することで側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーを与えるモノマーと、前述のスキームIにてモノマーを重合した段階では未だ側鎖には重合性二重結合基が導入されておらず、前述のスキームIでの重合後に引き続いて得られたポリマーに重合性二重結合基を導入する場合に用いられるモノマーの2つが挙げられる。
【0035】
前者のような、それ自身を重合することで側鎖に重合性二重結合基を有するポリマーを与えるモノマーの例としては、例えば(メタ)アクリル酸アリルエステルを挙げることが出来る。このモノマーの場合には、分子内に2個の重合性二重結合基が存在するが、一方の(メタ)アクリル酸エステル基の重合性と、他方のアリル基の重合性には大きな差があり、前者の重合性が圧倒的に高いため、重合は優先的に(メタ)アクリル酸エステル部分において進行し、側鎖にアリル基がペンダントしたポリマーが形成される。従って、得られるポリマーは側鎖に重合性二重結合基であるアリル基が結合したポリマーとなる。このように分子内に重合性が大きく異なる2個の重合性二重結合基を有するモノマーの他の例として、下記に示すようなモノマーが挙げられる。これらの例では、いずれも重合性の高い方の基として(メタ)アクリル酸エステル基およびスチリル基を有し、他方の重合性が低い方の基として、酢酸ビニルエステル基、ビニルエーテル基およびアリル基の例を挙げている。これらのうち、酢酸ビニルエステル基は、単独では極めて重合性が高い基であるが、(メタ)アクリル酸エステル基やスチリル基の存在では、後者が重合して消費されるまで酢酸ビニルエステル基の重合が起こりにくいことを利用するものである。従って、これらの場合の分子内に2個の重合性二重結合基を有するモノマーを用いて本発明のポリマーを合成する場合には、重合を完結することなく、途中で重合を停止することで、重合性の低い方の重合性二重結合基が未だ重合していない段階でポリマーを得ることが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
次に、スキームIでの重合後に引き続いて側鎖に重合性二重結合基を導入するために用いるモノマー(以下「前駆体モノマー」と称する)について説明する。
【0038】
前駆体モノマーとして用いることの出来るモノマーは分子内に重合性二重結合基と更に別の反応性基を併せ持つモノマーであり、該反応性基として、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ(グリシジル)基、イソシアネート基、ハロアルキル基、酸無水物基、アミノ基その他の公知の反応性基を挙げることが出来る。前駆体モノマーとして用いることの出来る好ましい化合物の例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、メルカプトメチルスチレン、アミノスチレン、クロロメチルスチレン、クロロエチルビニルエーテル、無水マレイン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
上記の前駆体モノマーとして特に好ましく用いることの出来る化合物として、下記一般式IIIで示される複素環基を介してメルカプト基が結合した化合物を挙げることが出来る。
【0040】
【化6】

【0041】
式中、Lは連結基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。pは1または2を表す。Zは複素環基を表す。
【0042】
の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R)−、−C(O)−O−、−C(R)=N−、−C(O)−、スルホニル基およびこれらが複合した連結基が挙げられる。ここでRおよびRは、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していても良い。また一般式IIIの連結基Lが有するアルキレン基およびアルケニレン基の炭素数は1〜20の範囲であることが好ましく、アリーレン基の炭素数は6〜20の範囲であることが好ましい。
【0043】
上記Zで示す複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。一般式IIIで表される化合物の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
上記のような複素環基に結合したメルカプト基の特徴として、アルキル基に結合したメルカプト基と比較して酸性度が高いという特徴が挙げられる。複素環基に結合したこうしたメルカプト基は、比較的弱い塩基として例えば有機アミン等の添加によって中和され、塩を形成する場合がある。有機アミン等と塩を形成することでメルカプト基の連鎖移動性基としての作用が低下することから、上記のような化合物は通常のラジカル重合開始剤を使用した重合(スキームI)によって側鎖に重合性二重結合基を導入する前の前駆体ポリマーを形成することが可能となる。従って、前述の一般式Iのメルカプト化合物の存在下(一般式Iのメルカプト化合物は有機アミン等の弱い塩基の存在下でも塩を形成することはなく、高い連鎖移動性を有する)で上記のような複素環基を介してメルカプト基を有する化合物の塩を用いて重合を行うことで、上述した前駆体ポリマーを形成することが出来る。
【0047】
上記の有機アミンとして用いることの出来る化合物として、アンモニア、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、n−ブチルジエタノールアミン、t−ブチルジエタノールアミン等の化合物を好ましく用いることが出来る。
【0048】
前述した前駆体モノマーに対して結合することが出来る重合性二重結合基を有する化合物を前駆体ポリマーに付加することで、前駆体ポリマーの側鎖に重合性二重結合基を導入することが出来る。こうした重合性二重結合基を有する化合物として、反応性基を有するモノマーとして公知である種々の化合物を用いることが出来る。反応性基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ(グリシジル)基、ハロアルキル基、酸無水物基、アミノ基その他の公知の反応性基が挙げられる。こうした反応性基を有するモノマーとして用いることの出来る好ましい化合物の例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、クロロメチルスチレン、クロロエチルビニルエーテル、無水マレイン酸、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
前駆体モノマーとして先に一般式IIIで示した複素環基を介してメルカプト基が結合した化合物を用いる場合、最も好ましい該反応性基を有するモノマーとしてクロロメチルスチレンを挙げることが出来る。メルカプト基とクロロメチルスチレンの組み合わせで生起する反応は穏和な条件下に高収率で行うことが出来るため極めて好ましく用いることが出来る。
【0050】
あるいは逆の組み合わせとして、後述する合成例に示すように、前駆体モノマーとしてクロロメチルスチレンを使用して前駆体ポリマーを合成し、ついでメルカプトメチルスチレンやあるいは前記一般式IIIで示す化合物を、前駆体ポリマーの側鎖に重合性二重結合基を導入するための反応性基を有するモノマーとして加えて反応を行うことでも、本発明のポリマーを高収率で得ることが出来、好ましく用いることが出来る。
【0051】
本発明のポリマーの側鎖に導入する重合性二重結合基としてフェニル基に結合したビニル基を用いる場合には、該ビニル基の反応性が高いため特に好ましい。更には、複素環を介して連結したフェニル基に結合したビニル基である場合が特に好ましい。この場合、良好な光硬化性を有し、かつ酸素による硬化阻害を示さず、更には経時によっても安定であり、光照射後に熱処理を施すことなく良好な光硬化性を示すことが特徴である。このような側鎖に導入する重合性二重結合基の好ましい例を一般式IVと共に下記に示す。
【0052】
【化9】

【0053】
一般式IVにおけるLおよびZは先の一般式IIIにおける各々LおよびZと同一である。qは1または2を表す。
【0054】
一般式IVで表される重合性二重結合基の具体例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0055】
【化10】

【0056】
以上説明を行ったカルボキシル基を有するモノマーを用いる場合には、pHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液に可溶な本発明のポリマーを得ることが出来る。あるいは、前記スルホン酸塩基を有するモノマーを用いる場合には、pHが9未満の中性現像液に可溶な本発明のポリマーを得ることが出来る。
【0057】
本発明のポリマーには前述したモノマー以外に、共重合モノマーとして、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、4−アセトキシスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の種々のアルキル(メタ)アクリレート、あるいは4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、あるいは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、あるいは(メタ)アクリロニトリル、また(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体、更にはフェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。
【0058】
この場合、共重合体組成に於けるカルボキシル基含有モノマーあるいはスルホン酸塩基含有モノマーの割合として、全組成100質量%中においてこれらモノマーは20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%〜70質量%、更に好ましくは35質量%〜70質量%である。これ未満の割合では共重合体がpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液もしくはpHが9未満の中性現像液に溶解しない場合がある。更に、共重合体中に於けるこれらのモノマーの割合が70質量%を超えて含まれる場合には、十分な耐刷力が得られない場合がある。
【0059】
本発明において好ましく使用することの出来る、ポリマーの主鎖末端に前記一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基およびカルボキシル基を有するポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。図中の化学式の左端に末端基構造を示したが、この末端基構造において珪素原子に結合しているアルコキシ基は加水分解反応により水酸基に変化している場合も含む。
【0060】
【化11】

【0061】
ポリマーの主鎖末端に前記一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基およびカルボキシル基を有するポリマーの最も好ましい例として、重合性二重結合基が例えば特開2001−290271号公報に記載されるような、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基であるポリマーが挙げられる。こうしたポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0062】
【化12】

【0063】
本発明において好ましく使用することの出来る、ポリマーの主鎖末端に前記一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基およびスルホン酸塩基を有するポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0064】
【化13】

【0065】
ポリマーの主鎖末端に前記一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基およびスルホン酸塩基を有するポリマーの最も好ましい例として、例えば特開2008−265297号公報に記載されるような、スルホン酸塩基と、ヘテロ環を介してビニル基が結合したフェニル基を有するポリマーが挙げられる。こうした最も好ましい該バインダーポリマーの例を下記に示す。図中の数値は共重合組成比(質量比)を表す。
【0066】
【化14】

【0067】
ここで注意すべき点は、上記のラジカル重合を行う際の、一般式Iのメルカプト化合物と使用する全モノマーのモル比が極めて重要であることである。一般式Iのメルカプト化合物は分子内にアルコキシ基を少なくとも2つ以上有しているが、このアルコキシ基は良く知られているように水中で酸あるいはアルカリの存在下で容易に加水分解を受け、水酸基になる。この水酸基は条件によって脱水、縮合しポリシロキサン結合を形成してポリマーもしくはオリゴマーを形成することは良く知られている。例えば一般式IIの化合物を単独で酸性もしくはアルカリ性水溶液中で加熱を行うとポリシロキサン化合物が溶液から沈殿してくることからも明らかである。しかしながら、一般式Iのメルカプト化合物が重合において本発明のポリマーの主鎖末端に導入された場合には、ポリマー末端の前記一般式IIで示されたアルコキシシリル基は、たとえ加水分解反応を行っても、ポリマー末端間同士では極めて反応性に乏しく互いに縮合してポリシロキサンを形成することが困難であることを見出した。即ち、一般式Iのメルカプト化合物のモル数が使用する全モノマーのモル数に対して10モル%以下である場合には、実質上一般式Iのメルカプト化合物は全てポリマーの主鎖末端に導入され、一般式IIで示される末端基構造を与える。一方、一般式Iのメルカプト化合物のモル数が使用する全モノマーのモル数に対して10モル%以上である場合には、ポリマー主鎖末端に導入される基以外に、溶液中にラジカル重合に関与せずに存在する一般式Iのメルカプト化合物が存在することになる。この場合、重合系に水が存在し、かつ媒体が酸性もしくはアルカリ性である場合、一般式Iのメルカプト化合物同士および主鎖末端の一般式IIの末端基と一般式Iのメルカプト化合物が互いに縮合し結合することで、ポリシロキサン構造を形成することを見出した。この場合においては、最終的に得られるポリマーとしては、ポリシロキサン骨格を有するポリマーにグラフトした形で、側鎖に重合性二重結合基とカルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーが形成されることになる。
【0068】
上記に説明するように、ポリマーの主鎖末端に先の一般式IIで示す基を導入する場合と、ポリシロキサン骨格を有するポリマーにグラフトさせる2つの場合については、一般式Iで示すメルカプト化合物の添加の仕方でも区別することが出来る。即ち、側鎖に重合性二重結合基を与えるためのモノマーと、カルボキシル基もしくはスルホン酸塩基を有するモノマーを共重合する際に、重合開始剤を添加する直前に該メルカプト化合物を添加すると、該メルカプト化合物がポリシロキサンを生成するよりも先に重合が進行し、該メルカプト化合物は連鎖移動反応により効率的にポリマーの主鎖末端に導入されるため、選択的にポリマー主鎖末端に一般式IIの基が導入されることになる。これとは逆に、重合を開始する前にポリシロキサンの生成を促すよう十分な時間をかけて意図的にポリシロキサン骨格を有するポリマーを生成しておくことで、これへのグラフト重合を選択的に引き起こすことが出来る。
【0069】
本発明の目的である感光性平版印刷版材料への適用において、置き版性の改良と地汚れの回避に対して顕著な効果を見出したのは、上記の説明において一般式Iのメルカプト化合物のモル数が使用する全モノマーのモル数に対して10モル%以下である場合であり、好ましくは0.5モル%〜10モル%、更に好ましくは1モル%〜10モル%である。この場合に形成される本発明のポリマーの分子量は重量平均分子量で5000〜20万の範囲であることが好ましく、より好ましくは1万〜20万の範囲、更に好ましくは2万〜15万の範囲である。これより大きい分子量では末端基である一般式IIの基がポリマー中に占める割合が小さく本発明の効果が認められない場合がある。また、重量平均分子量が5000未満である場合には、後述する感光性平版印刷版材料に利用した場合に耐刷性が劣る場合がある。この範囲の分子量を与えるための一般式Iのメルカプト化合物のモル数と使用する全モノマーのモル数の比率は0.005:1〜0.1:1の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.01:1〜0.1:1の範囲、更に好ましくは0.02:1〜0.1:1の範囲である。
【0070】
本発明の目的である感光性平版印刷版材料への適用において、印刷中の線細りの問題や、網点面積率の減少の問題、更に印刷中のインキ着肉性の低下に対して特に効果を見出したのは、上記の説明において一般式Iのメルカプト化合物のモル数が使用する全モノマーのモル数に対して10モル%以上である場合であり、好ましくは10モル%〜60モル%、更に好ましくは10モル%〜40モル%である。この場合、上述のように、連鎖移動剤として作用する量以上に存在する一般式Iのメルカプト化合物により重合系内においてポリシロキサン骨格を有するポリマーが形成される。この際形成されるポリシロキサン骨格とは、一般式Iのメルカプト化合物が2個のアルコキシ基を有する場合と3個のアルコキシ基を有する場合で骨格の構造が異なる場合がある。前者の2個の場合には一般式IにおいてRがアルキル基であれば下記に示すような線状のポリシロキサン骨格のポリマーが形成される。
【0071】
【化15】

【0072】
式中、R及びYは前記と同義である。
一般式Iのメルカプト化合物が3個のアルコキシ基を有する場合には、下図で示すようなラダー型のポリシロキサン骨格が形成される。
【0073】
【化16】

【0074】
式中、Yは前記と同義である。
上記、各々の場合、モノマーMがこうした条件下で重合すると各々下記で示すような構造のポリシロキサン骨格にグラフトしたモノマーMによる重合体が形成されることになる。下記式中、mおよびm′は任意の整数を表し、R及びYは前記と同義である。
【0075】
【化17】

【0076】
【化18】

【0077】
前述のように、上記においてモノマーMで模式的に示したのは、具体的には側鎖に重合性二重結合基を与えるためのモノマーと、カルボキシル基もしくはスルホン酸塩基を有するモノマーの共重合体を与えるための混合物である。従って、この場合得られる本発明のポリマーは、上記のようなポリオルガノシロキサン構造を有するユニットと側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するユニットが硫黄原子で結合しているポリマーである。なお、側鎖に重合性二重結合基を与えるためのモノマー、カルボキシル基もしくはスルホン酸塩基を与えるためのモノマーとしては、先に示した主鎖末端に一般式IIで示す基を有し、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーを得るために用いた各種モノマーと同様のモノマーが挙げられる。
【0078】
より明確にポリオルガノシロキサン構造を有するユニットを形成するためには、一般式Iのメルカプト化合物を、重合に先立ってあらかじめ水の存在下で加水分解、重縮合を行うことで側鎖にメルカプト基を有するポリオルガノシロキサン構造ユニットを形成する方法がより好ましい。
【0079】
ポリオルガノシロキサン構造ユニットを形成するモノマーとして、先の一般式Iで示す構造の化合物と併せて用いることの出来る化合物を下記一般式Vで示す。
【0080】
【化19】

【0081】
一般式Vにおいて、置換基R、R、R10およびR11はメチル基、エチル基等の炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基またはメトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜10の、好ましくは炭素数1〜6の、更に好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基あるいは置換を有しても良いフェニル基等の炭素数6〜12の、好ましくは炭素数6〜10のアリール基を表す。但し、R、R、R10およびR11のうち少なくとも2つはアルコキシ基である。一般式Vで表される化合物の好ましい例として、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、トリメトキシプロピルシラン、イソブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等の化合物を挙げることが出来、これらの中から複数の種類の化合物を選んで用いても良い。
【0082】
一般式Iで示されるメルカプト化合物を単独あるいは一般式Vで示されるシラン化合物と併用して用いて水の存在下で加水分解、重縮合を行うことで側鎖にメルカプト基を有するポリオルガノシロキサン構造ユニットが形成される。
【0083】
ここで上記後者の場合、即ち、一般式Iで示されるメルカプト化合物と一般式Vで示されるシラン化合物を併用して、あらかじめ側鎖にメルカプト基を有するポリオルガノシロキサンを合成し、これの存在下で前述したグラフト重合を行う場合には、グラフト重合に用いる全モノマーのモル数に対する一般式Iのメルカプト化合物と一般式Vのシラン化合物のモル数を合わせたモル数の割合が10モル%以上である場合が好ましく、一般式Iのメルカプト化合物単独でポリオルガノシロキサンを合成してグラフト重合に用いる場合と同様に、好ましくは10モル%〜60モル%、更に好ましくは10モル%〜40モル%である。
【0084】
上記の一般式Iのメルカプト化合物やこれと共に用いる一般式Vのシラン化合物の加水分解、重縮合の際には、両方のシラン化合物の全モル数を上回る量の水の存在下で、酸性あるいはアルカリ性条件下で反応を行うことで収率良くポリオルガノシロキサン構造ユニットが形成される。酸性条件下で用いる酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸あるいはp−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸1水和物、スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、酢酸、蟻酸等の有機酸が挙げられる。
【0085】
また塩基性条件下で用いる塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物や炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸塩あるいはナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシド、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等の金属アルコキシドを用いることが出来、更にはメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン等の1級アミンやジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミンあるいはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン等の3級アミン、更にはピリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等の含窒素複素環化合物等を好ましく用いることが出来る。
【0086】
酸触媒または塩基触媒の使用量は、使用する全シラン化合物の量100質量部に対して、通常、0.001質量部〜25質量部、好ましくは0.01質量部〜20質量部の範囲である。反応温度は、通常0℃から用いられる溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは15℃〜130℃の範囲である。反応温度があまりに低いと縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応温度が高くなりすぎるとゲル化抑制が困難となる。反応は通常数分から数10時間で完結する。
【0087】
ポリオルガノシロキサン構造ユニットの分子量については好ましい範囲が存在し、ポリスチレン換算重量平均分子量において500から2万の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1000〜1万の範囲、更に好ましくは1000〜8000の範囲である。これ未満の分子量では本発明の効果が現れない場合がある。また分子量が2万を超える場合には、溶媒不溶性ゲルが生成する場合があり、均一な本発明のポリマーが得られない場合がある。
【0088】
ポリオルガノシロキサン構造ユニットにグラフトした前駆体ポリマーを合成し、ついで該前駆体ポリマーに重合性二重結合基を導入することで本発明のポリマーを得る場合には、この重合性二重結合基を導入する方法については先に述べた主鎖末端に一般式IIの基を有する本発明のポリマーの場合と同様である。また具体的な合成方法については後述する合成例の中で詳しく説明を行う。
【0089】
本発明の感光性平版印刷版材料は、支持体上の光硬化性感光層が前記一般式Iで示される化合物を用いて合成され、かつ側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーを含有することを特徴とするが、他の成分としては以下に記載する成分が挙げられる。
【0090】
本発明の感光性平版印刷版材料の光硬化性感光層には光照射によりラジカルを発生する光重合開始剤が含まれることが好ましい。本発明においては以下に例示する種々の化合物以外にも基本的にラジカルを生成するものであれば任意の化合物が使用可能である。光重合開始剤としては、例えば、(a)芳香族ケトン類、(b)有機過酸化物、(c)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(d)ケトオキシムエステル化合物、(e)アジニウム化合物、(f)チタノセン化合物、(g)トリハロアルキル置換化合物および(h)有機ホウ素塩化合物等が挙げられる。
【0091】
光重合開始剤としての(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、ベンゾフェノン骨格あるいはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報記載のジアルコキシベンゾフェノン、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報記載のアシルホスフィン、特公昭63−61950号公報記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報記載のクマリン類を挙げることが出来る。
【0092】
本発明に関わる光重合開始剤の他の例である(b)有機過酸化物としては分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物の殆ど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(t−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0093】
本発明に関わり用いることが好ましい光重合開始剤の他の例である(c)ヘキサアリールビイミダゾールとしては、特公昭45−37377号公報、特公昭44−86516号公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0094】
本発明に関わる光重合開始剤の他の例である(d)ケトオキシムエステルとしては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0095】
光重合開始剤の他の例である(e)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報ならびに特公昭46−42363号公報記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることが出来る。
【0096】
光重合開始剤の他の例である(f)チタノセン化合物の例としては、例えば、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41483号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−291号公報、特開平3−27393号公報、特開平3−12403号公報、特開平6−41170号公報等に記載されている各種チタノセン化合物を好ましく使用することが出来る。具体的なチタノセン化合物としては、例えば、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−2,6−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イル等を挙げることが出来る。
【0097】
光重合開始剤の他の例として(g)トリハロアルキル置換化合物が挙げられる。ここでいうトリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも1個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、あるいは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。好ましいトリハロアルキル置換化合物の例を下記に示す。
【0098】
【化20】

【0099】
【化21】

【0100】
本発明に関わる好ましい光重合開始剤として(h)有機ホウ素塩化合物が挙げられ、特に下記一般式VIで示される有機ホウ素アニオンを有する化合物を用いることが好ましい。
【0101】
【化22】

【0102】
上記式中、R12、R13、R14およびR15は各々同じであっても異なっていても良く、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらのうちで、R12、R13、R14およびR15のうちの一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0103】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオンおよびカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0104】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式VIで表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0105】
【化23】

【0106】
【化24】

【0107】
本発明において最も好ましく用いることの出来る光重合開始剤として、上述のトリハロアルキル置換化合物および有機ホウ素塩化合物、あるいはこれらを組み合わせて用いる場合が挙げられる。
【0108】
上記のような光重合開始剤と本発明のポリマーとの量的な割合については好ましい範囲が存在し、該ポリマー100質量部に対して光重合開始剤は0.1〜30質量部の範囲で使用されることが好ましく、更には0.2〜20質量部の範囲で使用することが特に好ましい。
【0109】
本発明の目的である置き版性と地汚れ性に優れた、あるいは接着性や耐摩耗性に優れた感光性平版印刷版材料を与えるために最も好ましい光重合開始剤としては有機ホウ素塩化合物が挙げられ、更に上記に述べたトリハロアルキル置換化合物と有機ホウ素塩とを併せて含む系が挙げられる。両者を併せて用いることで光硬化性が相乗的に促進され、本発明のポリマーとの組み合わせにおいて極めて良好な接着性と耐摩耗性を実現出来る。
【0110】
本発明に関わる感光性平版印刷版材料の光硬化性感光層中には、光波長域が400〜430nmもしくは750〜1100nmに感度のピークを有し、この波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤を増感する化合物を併せて含有することが好ましい。400〜430nmの波長域の感度を増大される化合物としてシアニン系色素、特開平7−271284号公報、特開平8−29973号公報等に記載されるクマリン系化合物、特開平9−230913号公報、特開2001−42524号公報等に記載されるカルバゾール系化合物や、特開平8−262715号公報、特開平8−272096号公報、特開平9−328505号公報等に記載されるカルボメロシアニン系色素、特開平4−194857号公報、特開平6−295061号公報、特開平7−84863号公報、特開平8−220755号公報、特開平9−80750号公報、特開平9−236913号公報等に記載されるアミノベンジリデンケトン系色素、特開平4−184344号公報、特開平6−301208号公報、特開平7−225474号公報、特開平7−5685号公報、特開平7−281434号公報、特開平8−6245号公報等に記載されるピロメチン系色素、特開平9−80751号公報等に記載されるスチリル系色素、あるいは(チオ)ピリリウム系化合物等が挙げられる。これらのうち、シアニン系色素またはクマリン系化合物あるいは(チオ)ピリリウム系化合物が好ましい。好ましく用いることの出来るシアニン系色素の例を下記に示す。
【0111】
【化25】

【0112】
【化26】

【0113】
400〜430nmの波長域の感度を増大させるために用いることの出来る好ましいクマリン系化合物としての例を下記に示す。
【0114】
【化27】

【0115】
【化28】

【0116】
【化29】

【0117】
400〜430nmの波長域の感度を増大させるために用いることの出来る好ましい(チオ)ピリリウム系化合物としての例を下記に示す
【0118】
【化30】

【0119】
750〜1100nmの波長域における増感色素として、シアニン系色素、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ系化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム系化合物、(チオ)ピリリウム系化合物が挙げられ、更に、欧州特許第568,993号明細書、米国特許第4,508,811号明細書、米国特許第5,227,227号明細書に記載の化合物も用いることが出来る。
【0120】
750〜1100nmの波長域の近赤外光に対応する好ましい増感色素の例を下記に示す。
【0121】
【化31】

【0122】
【化32】

【0123】
本発明の感光性平版印刷版材料が有する光硬化性感光層中には、多官能性モノマーを含有することも出来る。こうした多官能性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性アクリル系モノマー、あるいは、(メタ)アクリロイル基を導入した各種重合体としてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。こうした多官能モノマーを本発明のポリマーと共に用いる場合、本発明のポリマー100質量部に対して100質量部以下の割合で用いることが好ましい。
【0124】
光硬化性感光層を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0125】
光硬化性感光層中には、更に長期にわたる保存に関して、熱重合による暗所での硬化反応を防止するために重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。こうした目的で好ましく使用される重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル類、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩類等が好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、光硬化性感光層のトータルの固形分量100質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0126】
本発明に関わる感光性平版印刷版材料の支持体としては各種プラスチックフィルム支持体およびアルミニウム板が挙げられる。プラスチックフィルム支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロース等が代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは表面に本発明に関わる感光性平版印刷版材料を用いた層を設ける前にフィルム表面に親水化加工が施されていることが好ましい。
【0127】
こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。更なる親水化加工としてフィルム上に種々の水溶性ポリマーを含む層を設けることも好ましく行うことが出来る。例えば、前述の特開2008−250195号公報(特許文献1)に記載される水溶性ポリマー、コロイダルシリカおよび架橋剤から構成される親水性層を上記フィルム上に形成することが好ましく行われる。更には、設ける親水性層との接着性を高めるためフィルム上にあらかじめ下引き層を設けても良い。下引き層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂が好ましい。特に好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコールが挙げられる。こうした下引き層を介してフィルム支持体と親水性層を形成することで、多部数にわたるロングラン印刷条件での耐刷性が向上するため好ましく利用される。
【0128】
支持体としてアルミニウム板を使用する場合には、粗面化処理され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板が好ましく用いられる。更に、表面をシリケート処理したアルミニウム板も好ましく用いることが出来る。あるいは、更に表面に上記の親水性層を形成したアルミニウム板を用いることも出来る。
【0129】
上記のような支持体を用いてこれに光硬化性感光層を用いて感光性平版印刷版材料を形成するためには、本発明のポリマーと光重合開始剤および増感剤その他先に述べた素材を含む層を光硬化性感光層として支持体表面あるいは上記の親水性層を介して支持体表面に形成することが好ましい。この場合の光硬化性感光層自体の乾燥固形分塗布量に関しては、乾燥質量で1平方メートルあたり0.3gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更に0.5gから3gの範囲であることが良好な解像度を発揮し、かつ細線画像や微小網点画像の耐刷性を確保し、同時に耐摩耗性を大幅に向上させるために極めて好ましい。光硬化性感光層は上述の種々の要素を混合した溶液を作製し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体表面あるいは親水性層上に塗布、乾燥される。
【0130】
本発明の感光性平版印刷版材料においては、光重合性組成物からなる光硬化性感光層の上に、更に保護層を設けることも好ましく行われる。保護層は、感光層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素や塩基性物質等の低分子化合物の感光層への混入を防止し、大気中での露光感度を更に向上させる好ましい効果を有する。更には感光層表面を傷から防止する効果も併せて期待される。従って、このような保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低く力学的強度に優れ、更に、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、感光層との密着性に優れ、かつ、露光後の現像工程で容易に除去出来ることが望ましい。本発明の水現像可能な感光性平版印刷版材料においては、水現像の過程においてこうした保護層と光硬化性感光層の未露光部の除去が同時に行うことも可能であるため、特に保護層の除去工程を設ける必要がないことが特徴である。更に、先に述べたような光硬化性感光層に含まれる該重合体が水溶性であるが故に大気中の水分を吸湿しブロッキングを発生したり、保存中に感度変化等の問題を生じる場合があるが、保護層を光硬化性感光層の上部に設けることでこうしたブロッキングや感度変化の問題を解消することが可能である。加えて、特に400〜430nmの波長域の青紫色半導体レーザーを使用して記録を行う場合、一般的にはレーザー出力が近赤外半導体レーザーと比較して低いため、特に高感度である感光層が要求される。こうした場合に、保護層を設けることで更に感度が上昇するため特に好ましく適用することが出来る。
【0131】
このような、保護層に関する工夫が従来よりなされており、米国特許第3,458,311号明細書、特開昭55−49729号公報等に詳しく記載されている。保護層に使用出来る材料としては例えば、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが良く、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸等のような水溶性ポリマーが知られているが、これらのうち、ポリビニルアルコールを主成分として用いることが、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。こうした保護層を適用する際の乾燥固形分塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、感光層上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.1gから10gの範囲の乾燥固形分塗布量で形成することが好ましく、更には0.2gから2gの範囲が好ましい。保護層は、公知の種々の塗布方式を用いて光硬化性感光層上に塗布、乾燥される。
【0132】
上記のようにして支持体上に形成された光硬化性感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することで溶解性が低下することから、pHが9未満の中性現像液またはpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0133】
本発明において、pHが9未満の中性現像液とは、pHが4から9未満の範囲、好ましくはpHが6から9未満の範囲にあり、実質的に何ら化学薬品を含まない場合が最も好ましい。但し、感光性平版印刷版材料の現像性に合わせて、純水に各種無機、有機イオン性化合物が1質量%以下の濃度で含まれても良く、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオン等が含まれる水であっても良い。あるいは水中に公知である各種界面活性剤等が1質量%以下の濃度で含まれていても良い。また、水には各種アルコール類として、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ポリエチレングリコール等の溶剤が1質量%以下の濃度で含まれていても良い。あるいは、現像の際に、市販される各種ガム液を1質量%以下の濃度で添加して現像することも、版面を指紋汚れ等から保護する目的で好ましく用いることが出来る。純水中に各種無機、有機イオン性化合物、各種界面活性剤、あるいは溶剤、あるいはガム液等のこれら化学薬品が単体あるいは混合して含まれる場合であっても、本発明に関わる中性現像液には、化学薬品は質量%濃度において3質量%以下で用いることが好ましい。
【0134】
本発明の感光性平版印刷版材料は上記の中性現像液以外にもpHが9〜12の範囲であるアルカリ現像液を使用しても印刷版としての良好な性能を発揮出来る。こうした現像液には、界面活性剤とアルカリ剤を含有することが出来る。現像液には、更に有機溶剤、緩衝剤、キレート剤等を含有することが出来る。適当なアルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、第三リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム等の無機アルカリ剤、あるいは、トリメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン類等の有機アミン化合物等が挙げられ、これらは単独もしくは組み合わせて使用出来る。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、モノグリセリドアルキルエステル類等のノニオン系界面活性剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類、アルキルスルホン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類等のアニオン界面活性剤;アルキルベタイン類、アミノ酸類等の両性界面活性剤が使用可能である。また、有機溶剤としては例えば、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、プロピレングリコール、ジアセトンアルコール等を必要により含有させることが可能である。
【0135】
更には、特開2006−39177号公報や特開2006−64952号公報等に記載されるような水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有するpH10〜12の現像液を用いることも好ましく行うことが出来る。この場合の水酸化テトラアルキルアンモニウムのアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特に炭素数が1〜4のアルキル基が好ましい。これらのアルキル基は更にヒドロキシ基、メトキシ基のようなアルコキシ基等で置換されていても良い。
【0136】
現像方法としては特に限定されないが、現像液に浸積する方法や物理的にブラシ等で現像液により溶解しかかった非画像部を除去する方法や、現像液をスプレー状に吹き付けて非画線部を除く方法等が挙げられる。現像時間は、上記現像方法に応じて未露光部が十分に除去出来る時間を選定すれば良く5秒〜10分の範囲から適宜選ばれる。現像後は、特に印刷版に置いて必要に応じてアラビアガム等の親水化処理等を適宜行っても良い。また、必要に応じて現像前にあらかじめ酸素遮断層を水洗しても良い。
【0137】
上記のようにして現像処理を行った後に、アラビアガム等のガム液を使用して印刷版表面を傷や汚れから保護するための版面保護のためのガム引き処理を行っても良い。
【実施例】
【0138】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は特に記載しない限り質量基準である。
【0139】
(合成例1)ポリマーAP−4の合成例
特開2001−290271号公報に記載される合成例に従って、p−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)とビスムチオールから化学式M−1で示される化合物(以下M−1と称する)を得た。M−1を60部、メタクリル酸40部をエタノール170部、蒸留水30部に加え、ジメチルアミノエタノール62部を加えて均一に溶解した。窒素気流下、75℃に加熱した水浴上に移し、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン5部を添加し、直ちに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1部添加して重合を開始した。この場合のメルカプト化合物の全モノマーに対するモル%は4.0%であった。内温73℃で10時間加熱攪拌を行った後、室温に冷却した。蒸留水を加えて全体を1リットルとし、重合禁止剤としてクペロン(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を1部添加し、さらにp−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)を35部加えて、40℃で5時間加熱、攪拌を行った。氷冷しながら塩酸を徐々に加え反応系のpHを2まで低下し、析出した沈殿を濾過により分離した。蒸留水で洗浄を行い、真空乾燥器内で乾燥し、AP−4で示される構造のポリマーを得た。
【0140】
(合成例2)ポリマーSP−2の合成例
3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン10部をエタノール300部に加え、蒸留水50部とアリルメタクリレート50部、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40部および水酸化ナトリウム7.7部を加えて溶解した。この場合のメルカプト化合物の全モノマーに対するモル%は9.3%であった。70℃に加熱を行い、窒素雰囲気下において重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2部を加えて重合を行った。70℃にて6時間加熱攪拌を行い、SP−2の推定構造のポリマー溶液を得た。
【0141】
(合成例3)ポリマーSP−6の合成例
エタノール170部および蒸留水30部の混合溶媒中に、合成例1で得たM−1を47部、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸60部およびジメチルアミノエタノール78部を加え均一に溶解した。窒素気流下、75℃に加熱した水浴上に移し、3−メルカプトプロピル(トリメトキシ)シラン5部を添加し、直ちに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1部添加して重合を開始した。この場合のメルカプト化合物の全モノマーに対するモル%は5.5%であった。内温73℃で10時間加熱攪拌を行った後、室温に冷却した。重合禁止剤としてクペロン(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を1部添加し、さらにp−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)35部加えて、40℃で5時間加熱、攪拌を行った。反応後、全体を多量の酢酸エチル中に移し、析出したポリマーをアセトンで洗浄後、真空乾燥を行った。推定構造SP−6のポリマーを得た。
【0142】
(合成例4)ポリオルガノシロキサン骨格にグラフトしたポリマーの合成例
(第1段階)側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンの合成
3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン5部およびジメチルジメトキシシラン25部を混合し、0.1規定硝酸を加えて室温で混合、攪拌して加水分解を行った後、メチルイソブチルケトン(MIBK)および炭酸ナトリウム水溶液を加えて室温で20時間反応させ、重縮合反応を行った。希塩酸により中和後、有機相を分液し減圧下にMIBKを溜去することで側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンを得た。生成物の分子量はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒としてGPCにより分子量測定を行いポリスチレン換算で重量平均分子量約5000であった。
【0143】
(第2段階)ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーの合成
上記で合成したポリオルガノシロキサン30部をエタノール300部に溶解し、更にp−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)30部およびアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成(株)製ATBS)70部とジメチルアミノエタノール52部を加えて溶解した。70℃に加熱を行い、窒素雰囲気下において重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部を加えて重合を行った。70℃にて6時間加熱攪拌を行い、ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーを得た。得られた前駆体ポリマーは水系GPCにより分子量測定を行った。その結果、グラフト重合した該前駆体ポリマーの重量平均分子量は約5万であった。この合成例において、ポリオルガノシロキサンの合成に用いたシラン化合物の合計は0.236モル%であり、グラフト重合に用いた全モノマーに対する割合は44モル%であった。
【0144】
(メルカプトメチルスチレンの合成)
p−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)153部をエタノール100部および蒸留水500部に溶解し、トリエチルアミン101部を氷浴中で冷却しながら徐々に加えた。内温0〜5℃に保った状態でチオ酢酸76部を1時間にわたって滴下を行った。室温で3時間攪拌を行った後、酢酸エチル500部を加え、有機相を水洗後、エバポレートした。得られた無色のオイルを大過剰のアンモニア水に加え、70℃で1時間加熱を行った後、再度酢酸エチルで抽出を行い、有機相を水洗後エバポレートして目的とするメルカプトメチルスチレンを得た。
【0145】
(第3段階)本発明のポリマーの合成
先の第2段階で得た前駆体ポリマー溶液全体について上記で合成したメルカプトメチルスチレンを30部加え、重合禁止剤としてクペロン(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を1部添加して70℃に加熱した水浴上で5時間加熱攪拌を行った。室温まで冷却した後、全体を酢酸エチル中に移し、析出した重合体を濾過し乾燥した。生成物のGPCによる解析では重量平均分子量約7万であり、プロトンNMRによる構造解析の結果、重合性二重結合の存在とポリオルガノシロキサン構造ユニットの存在が確認され、推定構造として下記構造と矛盾しないことが分かり、目的とする本発明のポリマーが得られた。式中、数字は質量部を表す。
【0146】
【化33】

【0147】
(比較合成例1)
ポリオルガノシロキサン構造ユニットを有しない比較ポリマーの合成を行った。即ち、p−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)30部およびアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成(株)製ATBS)70部とジメチルアミノエタノール52部を加えて溶解した。70℃に加熱を行い、窒素雰囲気下において重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部を加えて重合を行った。70℃にて6時間加熱攪拌を行いポリマーを得た。得られたポリマー溶液にメルカプトメチルスチレンを30部加え、重合禁止剤としてクペロン(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を1部添加して70℃に加熱した水浴上で5時間加熱攪拌を行った。室温まで冷却した後、全体を酢酸エチル中に移し、析出した重合体を濾過し乾燥した。生成物のGPCによる解析では重量平均分子量約9万であり、プロトンNMRによる構造解析の結果、重合性二重結合の存在が確認され、推定構造として下記構造と矛盾しないことが分かった。
【0148】
【化34】

【0149】
(合成例5)ポリオルガノシロキサン骨格にグラフトしたポリマーの合成例
(第1段階)側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンの合成
3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン15部およびジメチルジメトキシシラン25部を混合し、0.1規定硝酸を加えて室温で混合、攪拌して加水分解を行った後、メチルイソブチルケトン(MIBK)および炭酸ナトリウム水溶液を加えて室温で20時間反応させ、重縮合反応を行った。希塩酸により中和後、有機相を分液し減圧下にMIBKを溜去することで側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンを得た。生成物の分子量はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒としてGPCにより分子量測定を行いポリスチレン換算で重量平均分子量約7000であった。
【0150】
(第2段階)ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーの合成
上記で合成したポリオルガノシロキサン40部をエタノール350部および蒸留水50部に懸濁し、合成例1で得られたM−1を80部およびアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸120部とジメチルアミノエタノール79部を加えて溶解した。70℃に加熱を行い、窒素雰囲気下において重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2部を加えて重合を行った。70℃にて6時間加熱攪拌を行い、ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーを得た。得られた前駆体ポリマーは水系GPCにより分子量測定を行った。その結果、グラフト重合した該前駆体ポリマーの重量平均分子量は約10万であった。この合成例において、ポリオルガノシロキサンの合成に用いたシラン化合物の合計は0.29モル%であり、グラフト重合に用いた全モノマーに対する割合は33モル%であった。
【0151】
(第3段階)本発明のポリマーの合成
先の第2段階で得た前駆体ポリマー溶液全体についてp−クロロメチルスチレンを46部加え、重合禁止剤としてクペロン(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩)を1部添加して50℃に加熱した水浴上で5時間加熱攪拌を行った。室温まで冷却した後、全体を酢酸エチル中に移し、析出した重合体を濾過し乾燥した。生成物のGPCによる解析では重量平均分子量約7万であり、プロトンNMRによる構造解析の結果、重合性二重結合の存在とポリオルガノシロキサン構造ユニットの存在が確認され、推定構造として下記構造と矛盾しないことが分かり、目的とする本発明のポリマーが得られた。式中、数字は質量部を表す。
【0152】
【化35】

【0153】
(合成例6)ポリオルガノシロキサン骨格にグラフトしたポリマーの合成例
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン20部をエタノール350部および蒸留水50部に溶解した。これに先の合成例1で得られたM−1を80部加え、更にアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸120部とジメチルアミノエタノール80部を加え、窒素雰囲気下で全体を70℃に加熱して溶解した。この場合のメルカプト化合物の全モノマーに対するモル%は11%であった。重合開始剤としてAIBNを2部添加して重合を開始し、70℃で10時間加熱攪拌を行った。全体を50℃まで冷却し、重合禁止剤としてクペロンを1部添加し、さらにp−クロロメチルスチレンを46部添加してこの温度で5時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、析出した沈殿物をデカンテーションにより分離し、メタノールで十分に洗浄を行った後乾燥した。収率80%で白色のポリマーを得た。GPC測定からポリスチレン換算重量平均分子量15万と求められ、またプロトンNMR測定から下記の構造で示される構造と矛盾ない結果が得られた。式中、数字は質量部を表す。
【0154】
【化36】

【0155】
(合成例7)ポリオルガノシロキサン骨格にグラフトしたポリマーの合成例
(第1段階)側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンの合成
3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン5部およびジメチルジメトキシシラン25部を混合し、0.1規定硝酸を加えて室温で混合、攪拌して加水分解を行った後、メチルイソブチルケトン(MIBK)および炭酸ナトリウム水溶液を加えて室温で20時間反応させ、重縮合反応を行った。希塩酸により中和後、有機相を分液し減圧下にMIBKを溜去することで側鎖にメルカプト基を導入したポリオルガノシロキサンを得た。生成物の分子量はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒としてGPCにより分子量測定を行いポリスチレン換算で重量平均分子量約5000であった。
【0156】
(第2段階)ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーの合成
上記で合成したポリオルガノシロキサン30部をエタノール300部に溶解し、更に合成例1で得たM−1を60部、メタクリル酸40部を蒸留水30部と共に加え、ジメチルアミノエタノール62部を加えて均一に溶解した。70℃に加熱を行い、窒素雰囲気下において重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部を加えて重合を行った。70℃にて10時間加熱攪拌を行い、ポリオルガノシロキサンにグラフト重合した前駆体ポリマーを得た。この合成例において、ポリオルガノシロキサンの合成に用いたシラン化合物の合計は0.236モル%であり、グラフト重合に用いた全モノマーに対する割合は34モル%であった。
【0157】
(第3段階)本発明のポリマーの合成
先の第2段階で得た前駆体ポリマー溶液全体についてp−クロロメチルスチレン(AGCセイミケミカル(株)製CMS−14)を35部加えて、40℃で5時間加熱、攪拌を行った。氷冷しながら塩酸を徐々に加え反応系のpHを2まで低下し、析出した沈殿を濾過により分離した。蒸留水で洗浄を行い、真空乾燥器内で乾燥し、下記推定化学構造式に示される構造の本発明のポリマーを得た。式中、数字は質量部を表す。
【0158】
【化37】

【0159】
(比較合成例2)
ポリオルガノシロキサン構造ユニットを有しない比較ポリマーの合成を行った。M−1を80部加え、更にアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸120部とジメチルアミノエタノール80部を加え、窒素雰囲気下で全体を70℃に加熱して溶解した。重合開始剤としてAIBNを2部添加して重合を開始し、70℃で10時間加熱攪拌を行った。全体を50℃まで冷却し、重合禁止剤としてクペロンを1部添加し、さらにp−クロロメチルスチレンを46部添加してこの温度で5時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、析出した沈殿物をデカンテーションにより分離し、メタノールで十分に洗浄を行った後乾燥した。収率80%で白色のポリマーを得た。GPC測定からポリスチレン換算重量平均分子量15万と求められ、またプロトンNMR測定から下記の構造で示される構造と矛盾ない結果が得られた。式中、数字は質量部を表す。
【0160】
【化38】

【0161】
(比較合成例3)
ポリオルガノシロキサン構造ユニットを有しない比較ポリマーの合成を行った。エタノール150部および蒸留水30部の混合溶媒中に、M−1を60部加え、更にメタクリル酸40部とジメチルアミノエタノール62部を加え、窒素雰囲気下で全体を70℃に加熱して溶解した。重合開始剤としてAIBNを1部添加して重合を開始し、70℃で10時間加熱攪拌を行った。全体を50℃まで冷却し、重合禁止剤としてクペロンを1部添加し、さらにp−クロロメチルスチレンを46部添加してこの温度で5時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、析出した沈殿物をデカンテーションにより分離し、メタノールで十分に洗浄を行った後乾燥した。収率70%で白色のポリマーを得た。GPC測定からポリスチレン換算重量平均分子量10万と求められ、またプロトンNMR測定から下記の構造で示される構造と矛盾ない結果が得られた。式中、数字は質量部を表す。
【0162】
【化39】

【0163】
(感光性平版印刷版材料の実施例1〜4および比較例1〜4)
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板に、更に珪酸ナトリウムを使用してシリケート処理を行ったアルミニウム板を支持体として使用した。合成例2および合成例4から6で得られた本発明のポリマーを用いて下記光硬化性感光層処方の塗布液を作製し、該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥することで、光硬化性感光層を形成し、各々感光性平版印刷版材料の実施例1〜4を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。
(光硬化性感光層処方1)
ポリマー 1部
光重合開始剤(BC−6) 0.1部
光重合開始剤(T−4) 0.06部
増感色素(S−38) 0.03部
ビクトリアブルー(着色用染料) 0.02部
蒸留水 4部
ジオキサン 5部
エタノール 1部
【0164】
同様に比較合成例1および2で得られたポリマーを用いて、上記の光硬化性感光層処方を用いて感光性平版印刷版材料の比較例1および2を作製した。更に比較として、ポリジメチルシロキサンの両末端に重合性二重結合としてメタクリロイル基を結合した構造を有するポリオルガノシロキサンとして信越化学工業(株)から「X−22−164A」の商品名で市販される化合物を使用して、比較例1および2の光硬化性感光層処方に更に加えて、それぞれ該化合物を0.3部添加して作製した比較例3および4を作製した。これらの比較例3,4はポリオルガノシロキサンがブレンドした場合の効果をグラフトポリマーの場合(実施例2〜4)との比較を行うために作製したものである。
【0165】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料を以下のようにして露光試験を行った。露光は光波長が830nmのレーザーを搭載したPT−R4000(大日本スクリーン製造(株)製)を使用し、この装置を用いて露光エネルギーが100mJ/cmになるように設定し、ドラム回転数1000rpmで描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線およびベタ画像を出力し、後述する解像度の評価を行った。
【0166】
(水現像性試験)
上記で描画を行った各感光性平版印刷版を30℃に調節した水中に10秒間浸け、スポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去した。この際、現像性評価として、未露光部が完全に除去された場合を○とし、未露光部に残膜が僅かに認められた場合を△とし、現像性が悪く明らかに残膜もしくは現像不良を生じた場合を×とした。更に、解像度の評価を行い、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表1にまとめた。
【0167】
【表1】

【0168】
(印刷性試験)
上記のようにして現像した試料を用いて、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価として、耐刷性については、印刷開始から1万枚ごとに20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的に欠けている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。インキ着肉性の指標として、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性については、印刷開始から1万枚ごとに刷版上のインキをクリーナー液で拭き取った後、テスト画像中のベタ部の反射濃度を大日本スクリーン製造(株)製反射濃度計DM−620を使用して測定し、印刷中の反射濃度の低下を観察することで評価した。結果を表2にまとめた。
【0169】
【表2】

【0170】
実施例1〜4の本発明の感光性平版印刷版を使用した場合には、インキ着肉性に関しては5万枚の印刷においても良好な印刷物が得られ、刷版上の画像部の反射濃度の変化も軽微であった。また、地汚れの発生もなく良好な結果が得られた。比較例1および2では4万枚の印刷で既に顕著な刷版画像部の反射濃度の低下が発生しており、部分的にインキ乗り不良を発生した。比較例3および4では印刷物上の地汚れが顕著であり、耐刷性が弱く、更に印刷後の刷版画像部の反射濃度の低下が大きかった。
【0171】
(感光性平版印刷版材料の実施例5〜8および比較例5、6)
厚みが175μmであるポリエステルフィルムを使用して、この上に特開2008−250195号公報に記載される親水性層として、下記の親水性層塗液処方を使用して乾燥質量で1平方メートル当たり3gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料は更に40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光硬化性感光層の塗布に給した。
【0172】
(親水性層塗液処方)
ポリアクリルアミド−アクリル酸(80/20)共重合体10%水溶液 100部
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスPS−S)
(20%濃度) 100部
エポキシ架橋剤(長瀬産業(株)製デナコールEX−512)原液 2部
蒸留水 100部
【0173】
合成例2および合成例4から6で得られた本発明のポリマーを用いて下記光硬化性感光層処方2の塗布液を作製し、前記親水性層の上に、塗布、乾燥することで、光硬化性感光層を形成し、各々感光性平版印刷版材料の実施例5〜8を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.6gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。更に、この光硬化性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。
【0174】
(光硬化性感光層処方2)
ポリマー 1部
光重合開始剤(BC−6) 0.1部
光重合開始剤(T−6) 0.06部
増感色素(S−11) 0.03部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.02部
蒸留水 4部
ジオキサン 5部
エタノール 1部
【0175】
全く同様にして比較合成例1および2で得られたポリマーを用いて、上記の光硬化性感光層処方および保護層を用いて感光性平版印刷版材料の比較例5および6を作製した。
【0176】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料を以下のようにして露光試験を行った。露光は光波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが80μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線およびベタ画像を出力し、後述する解像度の評価を行った。
【0177】
(水現像性試験)
上記で描画を行った各感光性平版印刷版を30℃に調節した水中に10秒間浸け、スポンジで軽く表面を擦ることで未露光部を除去した。この際、現像性評価として、未露光部が完全に除去された場合を○とし、感光層残りが僅かに認められた場合を△とし、現像性が悪く明らかに残膜もしくは現像不良を生じた場合を×とした。更に、解像度の評価を行い、10μm細線および1%網点が明瞭に再現されている場合を○とし、これらが部分的に欠落しているが、20μm以上の細線および2%以上の網点が明瞭に再現されている場合を△、これ以下の再現性である場合を×とした。結果を表3にまとめた。
【0178】
【表3】

【0179】
(印刷性試験)
上記のようにして現像した試料を用いて、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷評価として、耐刷性については、印刷開始から1万枚ごとに20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的に欠けている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。インキ着肉性の指標として、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性については、印刷開始から1万枚ごとに刷版上のインキをクリーナー液で拭き取った後、テスト画像中のベタ部の反射濃度を大日本スクリーン製造(株)製反射濃度計DM−620を使用して測定し、印刷中の反射濃度の低下を観察することで評価した。結果を表4にまとめた。
【0180】
【表4】

【0181】
実施例5〜8の本発明の感光性平版印刷版を使用した場合には、インキ着肉性に関しては2万枚の印刷においても良好な印刷物が得られ、刷版上の画像部の反射濃度の変化も軽微であった。また、地汚れの発生もなく良好な結果が得られた。比較例5および6では1万枚の印刷で既に顕著な刷版画像部の反射濃度の低下が発生しており、部分的にインキ乗り不良を発生した。
【0182】
(実施例9〜11および比較例7)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板に、更に珪酸ナトリウムを使用してシリケート処理を行ったアルミニウム板を支持体として使用した。ポリマーとして表5中に示すポリマーを用いて下記光硬化性感光層処方3の塗布液を作製し、該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥することで、感光性平版印刷版材料の実施例9〜11を作製した。実施例9で使用したAP−2はアリルメタクリレート65部とアクリル酸35部を、トリメトキシシラン7部の存在下で公知の方法で重合することで合成したものを使用した。同時に比較例7として、比較合成例3で得られたポリマーを使用して同様に光硬化性感光層処方3の塗布液を作製し、該アルミニウム板の上に、塗布、乾燥して比較感光性平版印刷版材料比較例7を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり1.8gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。更に、これらの光硬化性感光層の上に保護層としてポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA−105)を使用して乾燥塗布質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。
【0183】
(光硬化性感光層処方3)
ポリマー(表5) 1.10部
トリメチロールプロパントリアクリレート 0.40部
有機ホウ素塩化合物(BC−6) 0.20部
トリハロアルキル置換化合物(T−6) 0.15部
増感色素(S−3) 0.04部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.05部
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.02部
ジオキサン 20部
エタノール 5部
【0184】
【表5】

【0185】
(露光試験)
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料について、以下のようにして露光試験を行った。露光は波長が405nmの半導体レーザーを搭載したCTP用イメージセッターVIPLAS(三菱製紙(株)製)を使用し、この装置を用いて版面上の露光エネルギーが120μJ/cmになるように設定し、走査露光方式により描画を行った。テスト用画像として、2400dpi、175線相当の1%から97%までの網点面積率を示す網点階調パターンと10〜100μmの細線を出力した。露光された感光性平版印刷版材料を下記の構成で作成された現像液を用いて現像を行った。現像は三菱製紙(株)製自動現像装置P−1310Tを使用して30℃15秒で処理を行った。
【0186】
(現像液処方)
ジメチルアミノエチルアルコール 30部
水酸化テトラメチルアンモニウム 15部
ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム 10部
水を加えて全量を1000部に調整し、更に85%リン酸を加えてpHを11.0に調整した。
【0187】
(印刷性評価)
上記30℃15秒の条件で現像された試料を用い、通常のオフセット印刷を行うため、印刷機はリョービ560を使用し、印刷インキはオフセット印刷用墨インキを使用し、吸湿液は東洋インキ(株)製オフセット印刷用吸湿液アクワユニティWKKの1%水溶液を使用した。印刷性評価として、耐刷性について印刷開始から5万枚まで通して20μm細線および網点面積率が2%の微小網点部分が印刷物上で再現されている場合を○とし、部分的に欠けている場合を△とし、ほぼ完全に欠落した場合を×とした。また、地汚れ性については、現像直後と以下に示す置き版後の両方の試料を用いて、印刷を通して印刷物上に明らかに地汚れが発生した場合を×とし、僅かに認められたものを△、汚れが認められなかったものを○とした。置き版として、現像後の試料を50℃に加熱した乾燥器内で48時間加熱放置した後の試料を用いて印刷性評価を行った。結果を表6にまとめた。
【0188】
【表6】

【0189】
上記の結果より、耐刷性に関しては実施例9〜11および比較例7共に差異は殆ど認められなかったが、地汚れ性および置き版後の地汚れについては実施例9〜11が明確に優れている結果を得た。
【0190】
(実施例12〜15および比較例8)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
ポリマーとして表7に示すポリマーを使用した以外は上記実施例9〜11および比較例7と同様にして感光性平版印刷版材料の実施例12〜15および比較例8を作製した。
【0191】
【表7】

【0192】
上記のようにして作製した感光性平版印刷版材料を用いて先の実施例と同様に露光を行い、現像は蒸留水を用いて、現像装置として三菱製紙(株)製自動現像装置P−1310Tを使用して30℃15秒で処理を行った。先の実施例と同様にして印刷性評価を行い、耐刷性、地汚れおよび置き版後の地汚れを評価した。結果を表8にまとめた。
【0193】
【表8】

【0194】
上記の結果より、耐刷性および現像直後の地汚れに関しては実施例12〜15および比較例8共に差異は殆ど認められなかったが、置き版後の地汚れについては実施例12〜15が明確に優れている結果を得た。
【0195】
(実施例16〜19および比較例9)感光性平版印刷版材料の実施例と比較例
厚みが175μmであるポリエステルフィルムを使用して、この上に特開2008−250195号公報に記載される親水性層として、下記の親水性層塗液処方を使用して乾燥質量で1平方メートル当たり3gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥機で20分間加熱して乾燥を行った。試料は更に40℃の乾燥機内で3日間加熱を行った後、引き続く光硬化性感光層の塗布に給した。
【0196】
(親水性層塗液処方)
ポリアクリルアミド−アクリル酸(80/20)共重合体10%水溶液 100部
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製スノーテックスPS−S)
(20%濃度) 100部
エポキシ架橋剤(長瀬産業(株)製デナコールEX−512)原液 2部
蒸留水 100部
【0197】
表9で示すポリマーを用いて下記光硬化性感光層処方4の塗布液を作製し、上記親水性層の上に、塗布、乾燥することで、感光性平版印刷版材料の実施例16〜19を作製した。比較例9ではポリマーとして比較合成例2で得られたポリマーを使用して同様に光硬化性感光層処方の塗布液を作製し、該親水性層上に、塗布、乾燥して比較感光性平版印刷版材料比較例9を作製した。光硬化性感光層の塗布量は乾燥質量で1平方メートル当たり2.0gになるようにワイヤーバーを使用して塗布を行った。乾燥は80℃の乾燥器で10分間加熱して乾燥を行った。先の実施例および比較例とは異なり、これらの光硬化性感光層の上部には保護層は設けなかった。
【0198】
(光硬化性感光層処方4)
ポリマー(表9) 1.10部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 0.50部
有機ホウ素塩化合物(BC−6) 0.20部
トリハロアルキル置換化合物(T−3) 0.15部
増感色素(S−34) 0.04部
フタロシアニンブルー(着色用顔料) 0.05部
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.02部
ジオキサン 20部
エタノール 5部
【0199】
【表9】

【0200】
(露光試験)
得られた感光性平版印刷版材料を厚さが0.24mmのアルミ板に貼り付けて、大日本スクリーン製造(株)製サーマルプレート用イメージセッターPT−R4000(830nmのレーザーを搭載した描画装置)を使用して、版面に照射される露光量を100mJ/cmに合わせて露光を行った。露光された感光性平版印刷版材料を蒸留水のみである現像液を用いて、現像装置として三菱製紙(株)製自動現像装置P−1310Tを使用して30℃15秒で処理を行った。先の実施例と同様にして印刷性評価を行い、耐刷性、地汚れおよび置き版後の地汚れを評価した。結果を表10にまとめた。
【0201】
【表10】

【0202】
上記の結果より、現像直後の地汚れに関しては実施例16〜19および比較例9共に差異は殆ど認められなかったが、耐刷性および置き版後の地汚れについては実施例16〜19が明確に優れている結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明で与えられる感光性平版印刷版材料は、近赤外領域(750〜1100nm)もしくは、400〜430nmの波長域に発光するレーザーに高感度であり、水もしくはpHが12以下のアルカリ水溶液で現像可能であるため、これを利用したCTP用印刷版のみならずプリント配線基板作製用レジストや、カラーフィルター、蛍光体パターンの形成等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体及びその上に形成された光硬化性感光層からなり、該光硬化性感光層が、少なくとも下記一般式Iで示される化合物を用いて合成され、かつ側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基およびスルホン酸塩基の少なくとも一つを有するポリマーを含有することを特徴とする感光性平版印刷版材料。
【化1】


(式中、R、RおよびRは各々独立して、炭素数1〜10のアルキル基またはアルコキシ基を表す;但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つはアルコキシ基を表す;Yは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
前記ポリマーが、主鎖末端に下記一般式IIで示される基を有し、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するポリマーである請求項1記載の感光性平版印刷版材料。
【化2】


(式中、R、RおよびRは各々独立して、水酸基、炭素数1〜10のアルキル基またはアルコキシ基を表す;但し、R、RおよびRのうち少なくとも2つは水酸基もしくはアルコキシ基を表す;Yは炭素数1〜10のアルキレン基を表す。)
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリオルガノシロキサン構造を有するユニットと、側鎖に重合性二重結合基および、カルボキシル基またはスルホン酸塩基を有するユニットとが、硫黄原子を介して結合しているポリマーである請求項1記載の感光性平版印刷版材料。
【請求項4】
前記ポリマーが側鎖に有する重合性二重結合基が、フェニル基に結合したビニル基である請求項1〜3のいずれかに記載の感光性平版印刷版材料。
【請求項5】
支持体上の光硬化性感光層が更に光重合開始剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の感光性平版印刷版材料。
【請求項6】
支持体上の光硬化性感光層が、更に400〜430nmもしくは750〜1100nmの光に対して光重合開始剤を増感する化合物を含む請求項5記載の感光性平版印刷版材料。
【請求項7】
前記ポリマーが、カルボキシル基含有モノマーまたはスルホン酸塩基含有モノマーを、全モノマー中、20質量%〜70質量%使用して共重合されるものである請求項1記載の感光性平版印刷版材料。