説明

感光性材料、感光性材料前駆体及び感光性材料の製造方法

【課題】予備露光などの前処理が不要で、使用時の重合に伴う収縮が小さく、酸素による重合阻害を受けることなく、良好な屈折率コントラストを得ることが可能な感光性材料を提供する。
【解決手段】ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合性化合物がラジカル重合することによって形成されたポリマーマトリックスと、光カチオン重合開始剤と、カチオン重合性化合物とを具え、前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低くなるようにして、感光性材料を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にホログラム記録媒体として好適に使用することが可能な感光性材料、及びその前駆体、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体積位相型ホログラムは、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンを記録材料中に屈折率の変調構造として記録するものであり、原理的に光の吸収を伴わないため高い回折効率が得られ、入射光エネルギーを有効に利用できるという特徴を有する。この特徴を利用し、ホログラム記録媒体や、光学フィルター、ビームスプリッター、ヘッドマウントディスプレイなどのホログラフィック光学素子(HOE)などへの応用が検討され、一部実用化されている。前記記録材料としては、光学製品を作製する際の簡便性、原料選択の多様性などを考慮すれば、フォトポリマーを用いることが有利である。
【0003】
特にホログラム記録媒体に着目した場合、ホログラム記録材料としては、これまでに様々な材料が報告されている。例えば、特許文献1〜3では、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンをラジカル重合可能なモノマー又はオリゴマー(以下、ラジカル重合性化合物ともいう)の重合により屈折率の変調構造として記録し、その後の露光又は加熱処理によって、カチオン重合可能なモノマー又はオリゴマー(以下、カチオン重合性化合物ともいう)を重合させてポリマーマトリックスを形成し、当該変調構造を固定するホログラム記録材料が開示されている。
【0004】
しかしながら、ホログラム記録を行う際に、上述のようにラジカル重合を利用すると、酸素によって前記ラジカル重合が阻害されてしまい、良好な屈折率コントラストを得ることができなくなるので、ホログラム記録材料及びその周辺環境からの酸素の排除を考慮する必要があった。
【0005】
また、ラジカル重合性化合物は一般的に重合に伴う硬化収縮が大きく、記録時あるいは固定化処理(ポストキュア、フィキシングとも言う)時に、形成された変調構造の移動や歪みによって記録時と再生時との角度がずれる(ブラッグ条件を満足する角度が変わる)という問題があった。その結果、記録した情報を正確に再生することが困難になるという問題があった。
【0006】
上述した収縮は、ある程度の且つ等方的な収縮であれば光学的に補償することもできるが、システム側に再生時の入射角調整や波長調整等の制御が必要になり、再生操作が煩雑化するという問題が生じる。一方、収縮が等方的でない場合には、上記のようなシステム制御によっても補償することは困難である。
【0007】
非特許文献1では、ホログラム記録を行う前に所定の条件で露光(以下、予備露光ともいう)を行う旨が記載されている。その理由は、一つには、予めホログラム記録材料を構成するカチオン重合性化合物を硬化(以下、前硬化ともいう)させて粘度を高めることでホログラム記録によって形成される変調構造の移動や歪みを避けるため、もう一つには、カチオン重合性化合物を重合させてオリゴマー化しておくことでホログラム記録時の硬化収縮を抑制するため、であると推察される。しかし、この予備露光の条件設定は難しく、また操作が煩雑であるという問題がある。また、上記材料では膜厚の厚いホログラム記録媒体を作製することは困難である。
【0008】
また、特許文献4では、1〜4個のオキセタン環を有するオキセタン化合物、光カチオン重合開始剤及びマトリックス形成前駆物質を含有することを特徴とする光像記録材料が開示されている。しかしながら、マトリックスとしてポリウレタンやエポキシ樹脂を用いているために、マトリックス形成の際に必須である塩基性触媒がカチオン重合を阻害してしまい前記オキセタン化合物などのカチオン重合性化合物の重合が実質的に進行しない場合が多く、それに対する具体的な改善技術は開示されていない。これは、記録材料として、オキセタン以外のカチオン重合性化合物を用いる場合も同様な問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−107999号公報
【特許文献2】特開平8−101501号公報
【特許文献3】特開平7−104644号公報
【特許文献4】特表2004−17141号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. A. Waldman, H.-Y. S. Li, and M. G. Horner, Volume Shrinkage in Slant Fringe Gratings of a Cationic Ring-Opening Holographic Recording Material, Journal of Imaging Science and Technology, vol. 41, pp. 497-514 (1997).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、予備露光などの前処理が不要で、使用時の重合に伴う収縮が小さく、酸素による重合阻害を受けることなく、良好な屈折率コントラストを得ることができる感光性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、
ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合性化合物がラジカル重合することによって形成されたポリマーマトリックスと、
光カチオン重合開始剤と、
カチオン重合性化合物とを具え、
前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことを特徴とする、感光性材料に関する。
【0013】
また、本発明は、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物と、
光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物とを具え、
前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことを特徴とする、感光性材料前駆体に関する。
【0014】
さらに、本発明は、前記感光性材料前駆体における前記ラジカル重合性化合物に対し、前記ラジカル重合開始剤の存在下、光又は熱によってラジカル重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成し、前記ポリマーマトリックス、前記光カチオン重合開始剤、及びカチオン重合性化合物を含む感光性材料を製造することを特徴とする、感光性材料の製造方法に関する。
【0015】
本発明では、上述したように、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合性化合物をラジカル重合させることによって最初にポリマーマトリックスを形成し、このポリマーマトリックス中に光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物を共存させるようにしている。そして、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンを、カチオン重合性化合物を光カチオン重合開始剤の存在下にカチオン重合し、屈折率の変調構造として記録するとともに、前記変調構造を前記ポリマーマトリックスで固定するようにしている。
【0016】
したがって、ラジカル重合を用いて記録を行う場合に比較して、記録時あるいは固定化処理時の重合に伴う収縮を十分に抑制することができるので、形成された変調構造の移動や歪みによって、記録時と再生時との角度がずれる(ブラッグ条件を満足する角度が変わる)ことが起きにくくなる。したがって、記録した情報をより正確に再生することができるようになる。
【0017】
また、記録時において、マトリックス形成に塩基性触媒を用いた場合にカチオン重合が阻害されてしまい、良好な屈折率コントラストを得ることができなくなるという問題も回避することができる。
【0018】
但し、この場合においては、前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことが要求される。この要件を満足しない場合は、たとえ上述のように、酸素によるラジカル重合の阻害や屈折率変調構造の歪みを抑制したとしても、良好な屈折率コントラストを得ることはできない。この原因として以下のような理由が考えられる。
【0019】
前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも高いと、ラジカルがレドックス反応を生ぜしめることによって、酸を発生させてしまう。前記酸が発生すると、記録に用いるべき光カチオン重合開始剤やカチオン重合性化合物が無駄に消費されてしまう。結果として、記録時におけるカチオン重合性化合物の重合が阻害されてしまい、良好な屈折率構造を得ることができないためと考えられる。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば、予備露光などの前処理が不要で、良好な屈折率コントラストを得ることが可能な感光性材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(ポリマーマトリックス、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物)
本発明の感光性材料を構成するポリマーマトリックスは、ラジカル重合性化合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合させることによって製造する。なお、上述したように、前記ポリマーマトリックスは、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンに起因した屈折率の変調構造を固定する役割を担うものである。
【0023】
前記ラジカル重合性化合物は、当業者に知られている種々のラジカル重合性モノマー又はオリゴマーを用いることができ、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールエチルヘキシルエーテルメタ(アクリレート)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。これらのラジカル重合性化合物はラジカル重合性基の他にカチオン重合性基を有していてもよい。また、これらのラジカル重合性化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記ラジカル重合開始剤としては、一般的な有機過酸化物、アゾ化合物などを用いることができる。特には、後に説明する光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物を実質的に減少させることなく、前記ポリマーマトリックス形成させるために、なるべく低温(80℃以下)で分解可能なラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。また、分解後のガス発生を抑制できる点で有機過酸化物が好ましく、例えばビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどを挙げることができ、それぞれパーロイル(登録商標)TCP、パーオクタ(登録商標)O(いずれも日油(株)製)などの商品名で市販されている。これらのラジカル重合開始剤は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
なお、前記ラジカル重合開始剤の配合量は、前記ラジカル重合性化合物の量やラジカル重合性基の数、目的とする感光性材料の用途などによって変わるため一概には決められないが、前記感光性材料又はその前駆体の全量に対して0.1〜10重量%の範囲が好ましく、0.2〜5重量%の範囲がより好ましい。
【0026】
また、前駆体は、感光性材料を構成するポリマーマトリックスが未形成であり、前記感光性材料を構成するポリマーマトリックスの代わりに、前記ラジカル重合性化合物及び前記ラジカル重合開始剤を含むことによって規定される。
【0027】
(光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物)
本発明の感光性材料を構成するカチオン重合性化合物は、上述のように、光カチオン重合開始剤の存在下に重合させて、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンに起因した屈折率の変調構造を得るためのものである。
【0028】
前記カチオン重合性化合物としては、当業者に知られている種々のカチオン重合性モノマー又はオリゴマーを用いることができ、分子中に環状エーテル又は環状チオエーテルを有する化合物を1種以上含むことが好ましく、高い屈折率コントラストを得るとの観点から、分子中に芳香環又は硫黄原子を有する高屈折率のカチオン重合性モノマー(又はオリゴマー)を1種以上含むことがより好ましい。かかる化合物としては、例えば、スチレンオキサイド、スチレンエピスルフィド、ブロモスチレンオキサイド、ブロモスチレンエピスルフィド、フェニルグリシジルエーテル、フェノキシメチルチイラン、ビスフェノールA型エポキシ及びエピスルフィド樹脂、ビスフェノールF型エポキシ及びエピスルフィド樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのエポキシ及びエピスルフィド樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンのエポキシ及びエピスルフィド樹脂、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンのエポキシ及びエピスルフィド樹脂、ビスオキシラニルベンゼン、ビスチイラニルベンゼン、ビス(オキシラニルメトキシ)ベンゼン、ビス(チイラニルメトキシ)ベンゼン、ナフチルオキシラン、ナフチルチイラン、ナフチルオキシメチルオキシラン、ナフチルオキシメチルチイラン、ビフェニリルオキシラン、ビフェニリルチイラン、ビフェニリルオキシメチルオキシラン、ビフェニリルオキシメチルチイラン、(オキシラニルフェニル)フェニルエーテル、(チイラニルフェニル)フェニルエーテル、(オキシラニルフェニル)フェニルスルフィド、(チイラニルフェニル)フェニルスルフィド、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ビフェニル、1,4−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ベンゼン、フタル酸ビス(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルエステル、テレフタル酸ビス(3−エチルオキセタン−3−イル)メチルエステルなどが挙げられる。これらのカチオン重合性モノマー(又はオリゴマー)は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、上記光カチオン重合開始剤としては、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことが要求される。これは、上述したように、ラジカルがレドックス反応を生ぜしめることによって、酸を発生させてしまい、前記酸によって記録に用いるべき光カチオン重合開始剤やカチオン重合性化合物が無駄に消費されてしまうことを防止するためである。
【0030】
この場合において、前記光カチオン重合開始剤の還元電位は、−0.8V以下であることが好ましく、さらには−1.0V以下であることが好ましい。
【0031】
このような要件を満足する光カチオン重合開始剤としては、骨格中に、トリアリールスルホニウム塩を含む、トリアリールスルホニウム塩系化合物を例示することができる。具体的には、トリフェニルヨードニウムイオンや、以下の実施例で使用しているチオビス(4,1−フェニレン)−S,S,S’,S’−テトラフェニルジスルホニウムビスヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート等を挙げることができる。
【0032】
なお、前記光カチオン重合開始剤の配合量は、前記カチオン重合性化合物の量やカチオン重合性基の数、目的とする感光性材料の用途などによって変わるため一概には決められないが、前記感光性材料又はその前駆体の全量に対して0.2〜20重量%の範囲が好ましく、0.5〜10重量%の範囲がより好ましい。
【0033】
また、前記感光性材料及びその前駆体は、上記光カチオン重合開始剤の光吸収能力を高めるべく増感剤を含むことができる。このような増感剤としては、縮合多環芳香族化合物が好ましく、アントラセン系の化合物がより好ましい。また、前記増感剤の配合量は、前記カチオン重合性化合物の量やカチオン重合性基の数、目的とする感光性材料の用途などによって変わるため一概には決められないが、前記感光性材料又はその前駆体の全量に対して0.01〜1重量%の範囲が好ましく、0.02〜0.5重量%の範囲がより好ましい。
【0034】
なお、本発明の感光性材料及びその前駆体は、可塑剤、相溶化剤、連鎖移動剤、重合促進剤、重合抑制剤、界面活性剤、消泡剤、剥離剤、安定化剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を必要に応じて更に含んでもよい。
【0035】
(感光性材料の製造)
次に、本発明の感光性材料の製造方法について説明する。最初に、ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物と、光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物とを含む液状の感光性材料前駆体を準備し、この前駆体をガラス、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート又はシクロオレフィンポリマーなどの基材に塗布又は基材間に注入する。次いで、光又は熱によって、前記ラジカル重合開始剤の存在下、前記ラジカル重合性化合物をラジカル反応によって重合して、ポリマーマトリックスを形成する。
【0036】
これによって、上記ポリマーマトリックス中に光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物を共存させてなる感光性材料を得ることができる。
【0037】
なお、上記基材と上記前駆体(感光性材料)との間には、酸素や水分を遮断する目的で保護層を設けてもよい。保護層には、例えば上記の基材と同等なもの、あるいはポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール又はポリエチレンテレフタレートなどのフィルムやガラスなどを用いることができる。
【0038】
(感光性材料の応用)
本発明の感光性材料は、コヒーレントな光の干渉によって生じる明暗の干渉パターンを記録材料中に屈折率の変調構造として記録する体積位相型ホログラム記録媒体や、直描(direct−write)フォトリソグラフィーによって周辺と屈折率の異なる構造を形成することにより作製される光導波路などの用途に好ましく用いられる。
【0039】
これらの屈折率コンストラストの少なくとも一部は、露光時に前記カチオン重合性化合物が前記干渉パターンの暗部又は非露光部から前記干渉パターンの明部又は露光部へと拡散移動することにより形成される。この屈折率コントラストが高いと、ホログラム記録媒体にあっては再生時の信号強度が高くなり、光導波路にあっては伝送損失を低く抑えることができるので、良好な屈折率コンストラストが得られるようにカチオン重合性化合物とポリマーマトリックスとの屈折率差はなるべく大きいことが望ましい。
【0040】
一方で、このカチオン重合性化合物とポリマーマトリックスとの屈折率差が大きすぎると界面付近での散乱が大きくなったり濁りが生じる恐れがあり、この点は特にホログラム記録媒体として用いる場合には留意されるべきである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
[感光性材料前駆体の調製]
ラジカル重合開始剤としてビス(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(日油(株)製、商品名:パーロイル(登録商標)TCP)1.0重量部、ラジカル重合性化合物としてポリエステルアクリレート(二官能)(東亞合成(株)製、商品名:アロニックス(登録商標)M−6200)58.6重量部及びエチルヘキシルアクリレート(東京化成工業(株)製)25.1重量部、光カチオン重合開始剤としてチオビス(4,1−フェニレン)−S,S,S’,S’−テトラフェニルジスルホニウムビスヘキサフルオロホスフェートとジフェニル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート(還元電位:−1.06V〜−1.10V)のプロピレンカーボネート溶液(ダウケミカル社製、商品名:CYRACURE(登録商標)UVI−6992)3.0重量部、カチオン重合性化合物として4,4’−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシメチル〕ビフェニル(宇部興産(株)製、商品名:ETERNACOLL(登録商標)OXBP)7.5重量部及びビスオキシラニルベンゼン(新日鐵化学(株)製)4.5重量部、増感剤として9,10−ジブトキシアントラセン(川崎化成工業(株)製、商品名:アントラキュアー(登録商標)UVS−1331)0.3重量部を配合して、感光性材料の前駆体を調製した。
【0043】
[感光性材料を含むホログラム記録媒体の作製]
次いで、上述のようにして調製した感光性材料前駆体を、シリコンフィルムスペ−サー(厚み0.5mm)を介して貼り合わせた2枚のガラス基板(50mm×50mm、厚み0.5mm)の空隙に導入し、窒素雰囲気下、60℃で6時間加熱処理して、上記ラジカル重合性化合物を重合し、感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を得た。
【0044】
[ホログラム記録媒体の評価]
次いで、上述のようにして得た透過型ホログラム記録媒体を、パルステック工業(株)製の平面波テスターSHOT−500Bを用いて評価した。ホログラムの記録・再生には連続発振全固体レーザー(波長:405nm)を用いた。また、ホログラムの回折効率は、直線偏向型He−Neレーザー(633nm)による回折光及び透過光を光パワーメーターで読み取った値を用いて、次式により算出した。
回折効率(%)=〔回折光強度/(透過光強度+回折光強度)〕×100
【0045】
透過型ホログラム記録媒体上に二光束干渉露光法を用いて干渉縞を発生させ、体積位相型ホログラムを記録した。照射光強度は7mW/cmとし、最大回折効率を示すまで照射を行った。得られたホログラムの最大回折効率は50%であった。
【0046】
(比較例1)
光カチオン重合開始剤としてp-クメニル(p-トリル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(還元電位:−0.2V)(東京化成工業(株)製)3.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を得た。上記実施例と同様にして、ホログラム記録を行い、その最大回折効率を評価しようとしたところ、回折光を得ることができなかった。
【0047】
(比較例2)
ポリマーマトリックス形成材料としてポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(平均分子量380)(アルドリッチ社製)49.2重量部、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプトプロピオネート)(東京化成工業(株)製)31.8重量部、トリス(2,4,6−ジメチルアミノメチル)フェノール(東京化成工業(株)製)3.71重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を得た。上記実施例と同様にして、ホログラム記録を行い、その最大回折効率を評価しようとしたところ、回折光を得ることができなかった。
【0048】
(比較例3)
ポリマーマトリックス形成材料としてヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業(株)製)52.4重量部、ポリエーテルトリオール((株)ADEKA製、商品名:アデカポリエーテルG−400、平均分子量409)32.3重量部、ジブチルスズラウレート(東京化成工業(株)製)0.03重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして感光性材料を含む透過型ホログラム記録媒体を得た。上記実施例と同様にして、ホログラム記録を行い、その最大回折効率を評価しようとしたところ、回折光を得ることができなかった。
【0049】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合性化合物がラジカル重合することによって形成されたポリマーマトリックスと、
光カチオン重合開始剤と、
カチオン重合性化合物とを具え、
前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことを特徴とする、感光性材料。
【請求項2】
前記光カチオン重合開始剤の還元電位は、−0.8V以下であることを特徴とする、請求項1に記載の感光性材料。
【請求項3】
前記光カチオン重合開始剤は、トリアリールスルホニウム塩系化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の感光性材料。
【請求項4】
前記カチオン重合性化合物は、分子中に環状エーテル又は環状チオエーテルを有する化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の感光性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載の感光性材料を具えることを特徴とする、ホログラム記録媒体。
【請求項6】
ラジカル重合開始剤及びラジカル重合性化合物と、
光カチオン重合開始剤及びカチオン重合性化合物とを具え、
前記光カチオン重合開始剤の還元電位が、前記ラジカル重合開始剤から生じるラジカルの酸化電位よりも低いことを特徴とする、感光性材料前駆体。
【請求項7】
前記光カチオン重合開始剤の還元電位は、−0.8V以下であることを特徴とする、請求項6に記載の感光性材料前駆体。
【請求項8】
前記光カチオン重合開始剤は、トリアリールスルホニウム塩系化合物であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の感光性材料前駆体。
【請求項9】
前記カチオン重合性化合物は、分子中に環状エーテル又は環状チオエーテルを有する化合物であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一に記載の感光性材料前駆体。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか一に記載の感光性材料前駆体における前記ラジカル重合性化合物に対し、前記ラジカル重合開始剤の存在下、光又は熱によってラジカル重合を生ぜしめてポリマーマトリックスを形成し、前記ポリマーマトリックス、前記光カチオン重合開始剤、及びカチオン重合性化合物を含む感光性材料を製造することを特徴とする、感光性材料の製造方法。

【公開番号】特開2010−210654(P2010−210654A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53315(P2009−53315)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】