説明

感熱型平版印刷版

【課題】本発明の目的は、十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐汚れ性)が改善された、アブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版を提供する事にある。更にはヘッドカスによる印字不良や、スティッキング現象による画像の乱れが改善された感熱型平版印刷版を提供する事を目的とする。
【解決手段】耐水性支持体上に水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版に関し、従来のアブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない、感熱型平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター及びその周辺機器の発展により各種デジタルプリンタを用いた平版印刷版の製版方法が各種提案されている。例えば、特開平6−138719号公報、特開平6−250424号公報には乾式電子写真法レーザープリンタにより製版するもの、特開平9−58144号公報には熱溶融型インクを用いたオンデマンドインクジェットプリンタにより製版するもの、更に、特開昭63−166590号公報には熱転写インクリボンを用いたサーマルプリンタにより製版するもの等が知られている。
【0003】
上記の様なプリンタを用いた製版方法は、従来の可視光レーザー等を用いた光モードタイプとは大別され、取り扱い上において安全光の制約を受けないと言う利点を持つ。また、従来の光モードタイプにおいて通常用いられる露光後の現像処理を必要としない点から、これらの製版方式で製版される印刷版はプロセスレス印刷版と総称されている。
【0004】
しかし上記プロセスレス印刷版は、いずれも保水性付与層が設けられた支持体表面に感脂性(即ち、平版印刷インク着肉性)の記録画像を転写付与する事により印刷版を形成する方式であるため、次の様な問題点があった。
【0005】
1)画像を形成する層が親水性であるためトナーやインク等の付着が十分ではなく、例えば転写トナー画像濃度が不足したり、転写画像に白抜けが発生したりする様な問題。
2)転写画像の定着が十分ではなく、耐刷性が低下し、特に小ポイント文字の一部や低網点画像に欠落が生じる様な問題。
3)非画像部に少量のトナーが不規則に転写されたり、熱転写インクリボンが擦れたりする事等によって、全体的に薄い地汚れが発生する等の問題。
【0006】
一方、支持体上に熱可塑性樹脂あるいは熱溶融性物質を含有する画像形成層を設け、サーマルヘッドや赤外線レーザー等で加熱印字する事で疎水性の画像部が得られるプロセスレス印刷版等も提案されている。
【0007】
例えば、特開昭58−199153号公報(特許文献1)、あるいは特開昭59−174395号公報(特許文献2)には、画像形成層に熱転写リボン等を介さずサーマルヘッド等で直接加熱描画する事により疎水性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。特開2000−190649号公報(特許文献3)、特開2000−301846号公報(特許文献4)には、赤外線レーザー等で加熱描画する事で疎水性の画像部が得られる感熱型平版印刷版が記載されている。通常の平版印刷では、上記のように得られた疎水性の画像部に水とインキの両方が同時に供給され、該画像部は着色性のインキを受理、他の非画像部は親水性のため水を選択的に受け入れ、該画像上に受理したインキを、例えば、紙等の被印刷体に転写させる事によって印刷がなされている。
【0008】
しかし、これらの感熱型平版印刷版は一般に、画像部と非画像部との疎水性/親水性の差が十分でなかったため、鮮明な印刷画像を得難く、耐刷性が不十分であったり、地汚れが発生し易いという問題を有していた。
【0009】
鮮明な高い画像濃度が得られる感熱型平版印刷版として、画像形成層に無機顔料、熱可塑性樹脂及び熱溶融性物質を含有する方法が特開昭63−64747号公報(特許文献5)で提案されている。また前述の特許文献3、特許文献4に記載される感熱型平版印刷版は、画像部の疎水性と非画像部の親水性のバランスを改善するため、疎水性を発現する熱溶融性物質を特定の熱伝導率を有する物質でコーティングする方法や、熱によるキレート反応を利用して親水性ポリマーの親水基を疎水化する技術も合わせて開示されている。しかしながら、いずれも反応の制御が難しく、画像部と非画像部との疎水性/親水性の差が十分でないため、やはり耐刷性が不十分であったり、地汚れが発生し易いという問題が残った。
【0010】
また、耐刷性や地汚れといった問題に対しては、特開平11−95417号公報(特許文献6)では、画像形成層にポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の親水性樹脂を架橋して用いる事で耐刷性や保水性を改善される事が記載されているが、親水性樹脂自体の相変換を利用するものであるので、画像部の疎水化のレベルが低く、疎水性/親水性の差が十分ではなかった。特開2000−75471号公報(特許文献7)では、疎水性発生物質に熱可塑性樹脂、ワックス分散物、撥水剤等を用い、親水性物質にゼラチンやポリビニルアルコール等を用いる事で、特に耐水性、印刷再現性等を向上させたとあるが、これも疎水性/親水性の差が十分ではなかった。
【0011】
一方、特開2006−272941号公報(特許文献8)では、熱により疎水性へ変換できる反応体と加熱時に発色する着色体を含有した画像形成層及び最表層に親水性層を有した平版印刷版、特開2000−238451号公報(特許文献9)では、支持体上に光熱変換物質、熱可塑性樹脂粒子及び樹脂粒子隔離物質を含有する画像形成層を有し、該光熱変換物質の含有比率が膜厚方向に勾配を有する事で耐刷性を高める技術、特開2009−255498号公報(特許文献10)では、ジフェニルアルカン等やベンジルナフタレン類、シュウ酸ジベンジル類、ジフェノキシメチルベンゼン類の特定な化合物を添加する感熱型平版印刷版がそれぞれ開示されているが、これらも疎水性/親水性の差が十分ではないため、耐刷性が不十分であったり、地汚れが発生し易いという問題が残った。また、前記特許文献1、特許文献2、特許文献8、特許文献10等に記載される直接感熱型平版印刷版はサーマルヘッド等で直接加熱描画されるため、上記課題に加えて更に、加熱描画の際に熱溶融した画像部がサーマルヘッドに粘着し画像が乱れる、いわゆるスティッキングを起こしたり、サーマルヘッドの熱及び圧力により連続製版するうちに画像形成層中の熱溶融物質がサーマルヘッドの発熱部分周辺に付着しサーマルヘッドからの伝熱阻害を生じ良好な画像形成が行えず印字不良を発生させる、いわゆるヘッドカスによる印字不良を起こし易いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭58−199153号公報
【特許文献2】特開昭59−174395号公報
【特許文献3】特開2000−190649号公報
【特許文献4】特開2000−301846号公報
【特許文献5】特開昭63−64747号公報
【特許文献6】特開平11−95417号公報
【特許文献7】特開2000−75471号公報
【特許文献8】特開2006−272941号公報
【特許文献9】特開2000−238451号公報
【特許文献10】特開2009−255498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐汚れ性)が改善された、アブレーション方式や機上現像方式等の層除去処理を必要としない、熱により相変換する画像形成層を用いた感熱型平版印刷版を提供する事にある。更にはヘッドカスによる印字不良や、スティッキング現象による画像の乱れが改善された感熱型平版印刷版を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は下記の手段によって解決された。
(a)耐水性支持体上に水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Xは−O−又は−CO−O−を示し、R〜Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示す。)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Rはアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。)
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。Xは単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。)
【0021】
【化4】

【0022】
(式中、R10、R10′、R11及びR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。)
(b)前記画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、0.5以下である前記(a)記載の感熱型平版印刷版。
(c)該画像形成層(A)と画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率の差が、1.0以上である前記(a)または(b)記載の感熱型平版印刷版。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、十分な耐刷性を保持しながら、且つ保水性(耐地汚れ性)が改善された感熱型平版印刷版を提供する事ができる。更にはヘッドカスによる印字不良や、スティッキング現象による画像の乱れが改善された感熱型平版印刷版を提供する事ができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において上記した解決手段によって、良好な耐刷性と耐地汚れ性が得られ、更にヘッドカスによる印字不良や、スティッキング現象による画像の乱れが改善された感熱型平版印刷版が得られる理由については定かではないが、以下の様に推測している。
【0025】
本発明の感熱型平版印刷版は、耐水性支持体上に熱による相変換を利用し疎水性に変換する画像形成層を有している。ここで疎水性へ変換する層とは、熱が加わるとその層の一部が溶融し疎水性へと変換するもので、熱が与えられない部分は元の層が有する親水性を保持している。より具体的には、熱が加わると画像形成層の一部が溶融し疎水性へと変換する際に、水溶性高分子化合物に埋もれている熱可塑性樹脂が層の表面に滲出する事で疎水性が発現する。一方、印字されなかった部分、即ち非画像部は、熱可塑性樹脂が水溶性高分子化合物に埋もれたままであるので疎水性を発現しない。この様にして画像部と非画像部の疎水性/親水性の差が生じる。この様な感熱型平版印刷版の耐刷性と耐地汚れ性の改善には、印刷中においてもこの差を十分に維持する事が重要である。本発明は、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率を少なくする事によって、表面の親水性を増す事ができ印刷時の保水性が改善されると同時に、これにより低下する画像部の疎水性を、画像形成層(B)よりも一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が高く、且つ耐水性支持体に近い画像形成層(A)を設ける事によって、熱印加し画像形成する際、画像形成層(A)の熱可塑性樹脂の溶融開始温度が下がり、より小さなエネルギーで溶融し、画像部表面に滲出させる事によって、高い耐刷性と耐地汚れ性を両立できるものと推測される。更に、直接加熱描画を行う製版方法に用いる感熱型平版印刷版としては、画像形成層に一般式(1)〜(4)で示される化合物を添加する事で、画像形成層の熱可塑性樹脂の溶融開始温度が下がりスティッキングが改善し、又、サーマルヘッドと直接接する耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率を少なくする事によって、ヘッドカスによる画像の乱れも改善するという極めて優れた効果が得られる。
【0026】
本発明の耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版を作製する方法に制限はないが、例えば、画像形成層(A)を塗布し、次に画像形成層(B)を順次塗布して重ねていく方法や、スライドホッパー方式で多層を同時に塗布する方法等がある。
【0027】
本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層には、一般式(1)〜(4)で示される化合物の中から選ばれた少なくとも1種を含有する。以下に一般式(1)で示される化合物について説明する。
【0028】
【化5】

【0029】
上記式中、Xは−O−又は−CO−O−を示し、R〜Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示す。なお置換基R〜R及びR〜Rは互いに結合して芳香環を形成しても良い。
【0030】
一般式(1)で示される化合物のうちでも、Xが−O−である化合物が好ましく、特にR及びRが水素原子または炭素数1〜4のアルキル基で、R〜Rが水素原子であり、nが1〜4の整数である化合物が特に好ましく用いられる。
【0031】
かかる一般式(1)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−(1−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(2)1−(2−ナフトキシ)−4−フェノキシブタン
(3)1−(2−イソプロピルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(4)1−(4−メチルフェノキシ)−3−(2−ナフトキシ)プロパン
(5)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(6)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(2−ナフトキシ)エタン
(7)1−(2−ナフトキシ)−2−フェノキシエタン
(8)1−(2−ナフトキシ)−6−フェノキシヘキサン
(9)1−フェノキシ−2−(2−フェニルフェノキシ)エタン
(10)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−フェニルフェノキシ)エタン
(11)1,4−ジフェノキシブタン
(12)1,4−ビス(4−メチルフェノキシ)ブタン
(13)1,2−ジ(3,4−ジメチルフェノキシ)エタン
(14)1−フェノキシ−3−(4−フェニルフェノキシ)プロパン
(15)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(16)1,2−ジフェノキシエタン
(17)1−(4−メチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(18)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(19)1−(3,4−ジメチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(20)1−(4−エチルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(21)1−(4−イソプロピルフェノキシ)−2−フェノキシエタン
(22)1,2−ビス(2−メチルフェノキシ)エタン
(23)1−(2−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(24)1−(4−tert−ブチルフェノキシ)−2−(2−メチルフェノキシ)エタン
(25)1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン
(26)1−(3−メチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(27)1−(4−エチルフェノキシ)−2−(3−メチルフェノキシ)エタン
(28)1,2−ビス(4−メチルフェノキシ)エタン
(29)1−(2,3−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(30)1−(2,5−ジメチルフェノキシ)−2−(4−メチルフェノキシ)エタン
(31)フェノキシ酢酸−2−ナフチル
(32)2−ナフトキシ酢酸−4−メチルフェニル
(33)2−ナフトキシ酢酸−3−メチルフェニル
【0032】
次に一般式(2)で示される化合物について説明する。
【0033】
【化6】

【0034】
上記式中、Rはアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。また、式中のナフタレン環は更に置換基を有していても良く、好ましい置換基の例としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基などが挙げられる。
【0035】
上記一般式(2)においてRで表わされる置換基のうち炭素数4〜20のアルキル基、炭素数4〜24のアリール基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数7〜20のアリールカルボニル基がより好ましい。上記一般式(2)において、ナフタレン環が更に有しても良い置換基のうちハロゲン基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基、炭素数2〜25のカルバモイル基がより好ましい。
【0036】
かかる一般式(2)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1−ベンジルオキシナフタレン
(2)2−ベンジルオキシナフタレン
(3)2−p−クロロベンジルオキシナフタレン
(4)2−p−イソプロピルベンジルオキシナフタレン
(5)2−ドデシルオキシナフタレン
(6)2−デカノイルオキシナフタレン
(7)2−ミリストイルオキシナフタレン
(8)2−p−tert−ブチルベンゾイルオキシナフタレン
(9)2−ベンゾイルオキシナフタレン
(10)2−ベンジルオキシ−3−N−(3−ドデシルオキシプロピル)カルバモイルナフタレン
(11)2−ベンジルオキシ−3−N−オクチルカルバモイルナフタレン
(12)2−ベンジルオキシ−3−ドデシルオキシカルボニルナフタレン
(13)2−ベンジルオキシ−3−p−tert−ブチルフェノキシカルボニルナフタレン
【0037】
次に一般式(3)で示される化合物について説明する。
【0038】
【化7】

【0039】
上記式中、R、Rは水素原子、ハロゲン基、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。Xは単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。
【0040】
かかる一般式(3)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)シュウ酸ジベンジル
(2)シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)
(3)シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)
(4)シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)
(5)シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)
(6)シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)
(7)シュウ酸ビス(2−フェノキシエチル)
(8)シュウ酸ビス(2−o−クロロフェノキシエチル)
(9)シュウ酸ビス(2−p−クロロフェノキシエチル)
(10)シュウ酸ビス(2−p−エチルフェノキシエチル)
(11)シュウ酸ビス(2−m−メトキシフェノキシエチル)
(12)シュウ酸ビス(2−p−メトキシフェノキシエチル)
(13)シュウ酸ビス(4−フェノキシブチル)
【0041】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、シュウ酸ジベンジル、シュウ酸ジ(p−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−クロロベンジル)、シュウ酸ジ(m−メチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−エチルベンジル)、シュウ酸ジ(p−メトキシベンジル)が挙げられる。
【0042】
以下に一般式(4)で示される化合物について説明する。
【0043】
【化8】

【0044】
上記式中、R10、R10′、R11及びR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。
【0045】
かかる一般式(4)で示される化合物としては例えば下記の化合物が例示されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)1,2−ジフェノキシメチルベンゼン
(2)1,3−ジフェノキシメチルベンゼン
(3)1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(4)1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(5)1,3−ジ(4−メチルフェノキシメチル)ベンゼン
(6)1,3−ジ(2,4−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(7)1,3−ジ(2,6−ジメチルフェノキシメチル)ベンゼン
(8)1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(9)1,2−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(10)1,3−ジ(4−クロロフェノキシメチル)ベンゼン
(11)1,2−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(12)1,3−ジ(4−オクチルフェノキシメチル)ベンゼン
(13)1,3−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
(14)1,4−ジ(4−イソプロピルフェニルフェノキシメチル)ベンゼン
【0046】
これらの例示化合物の中で好ましい具体例としては、1,2−ジフェノキシメチルベンゼン、1,4−ジ(2−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(3−メチルフェノキシメチル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロフェノキシメチル)ベンゼンが挙げられる。
【0047】
上記一般式(1)〜(4)で示される化合物は常温で固体の物質であるが、熱による反応性を高めるために、微分散処理を行って使用される事が好ましい。微分散処理の方法は、一般に塗料製造時に用いられる湿式分散法であるロールミル、コロイドミル、ボールミル、アトライター、サンドミル等のビーズミル等を使用する事ができる。ビーズミルでは、ジルコニア、チタニア、アルミナ等のセラミックビーズや、クロム、スチール等の金属ビーズ、ガラスビーズ等が使用できる。分散粒径はメジアン径で0.1〜1.2μmが望ましく、特に好ましくは0.3〜0.8μmである。なお、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとしてレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA920((株)堀場製作所製)等を用いて測定する事ができる。
【0048】
耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率(一般式(1)〜(4)で示される化合物の質量/水溶性高分子化合物の質量)には好ましい範囲があり、0〜0.5である事が好ましい。また、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率(一般式(1)〜(4)で示される化合物の質量/水溶性高分子化合物の質量)においても好ましい範囲があり、1.0以上である事が好ましい。
【0049】
本発明において耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高くなる様に構成すればどの様な比率でも良いが、画像形成層(A)と画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率の差は、1.0以上である事が好ましい。
【0050】
本発明において画像形成層を3層設ける場合、画像形成層(A)と画像形成層(B)の間に位置する画像形成層(C)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)よりも高くても低くても良いが、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の比率よりも低く、画像形成層(B)の比率よりも高い事が好ましい。
【0051】
本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層は、熱可塑性樹脂を含有する。かかる熱可塑性樹脂としては、鎖状ポリマーからなり加熱によって可塑性を示す固体状の有機高分子化合物であって、有機高分子化合物の水分散体を指す。代表例はスチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、メチルメタクリレートブタジエン共重合体、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体、スチレンメチルメタクリレートブタジエン共重合体等の、その変性物を含めた合成ゴムラテックスが好ましく用いられるが、スチレン無水マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル/アクリル酸エステル共重合体、及び低融点ポリアミド樹脂等の水分散体も使用可能である。これら熱可塑性樹脂は単独もしくは2種以上併用して用いる事ができる。印刷インクのビヒクル(バインダー成分)との親和性から、かかる熱可塑性樹脂としては合成ゴムラテックスが好ましく、特にスチレンブタジエン共重合体とその変性物が望ましい。好ましい熱可塑性樹脂の配合量としては、全ての画像形成層の固形分量に対して5〜50質量%とする事が好ましい。
【0052】
また熱による溶融、融着効果を発現し易くするためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は50〜150℃、更に好ましくは55〜120℃のものを使用するのが好ましい。ガラス転移温度が50℃未満では製造工程中に液状に相変化を起こし、非画像部にも疎水性が発現するため印刷地汚れの原因となる場合がある。また150℃を超える場合はポリマーの熱溶融が起こりにくく、比較的小出力のレーザーや小型サーマルプリンタでは強固な画像を形成するのが困難となる場合がある。
【0053】
本発明の感熱型平版印刷版の画像形成層は、水溶性高分子化合物を含有する。かかる水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、澱粉及びその誘導体、ゼラチン、カゼイン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、スチレン・マレイン酸共重合体塩、スチレン・アクリル酸共重合体塩等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独使用でも2種類以上の併用でも良く、特に皮膜形成に富むゼラチンやポリビニルアルコールとその変性物が非画像部の親水性保持に好ましく選択される。かかる水溶性高分子化合物の配合量は画像形成層の全固形分量に対して0.5〜50質量%が好ましい。
【0054】
また非画像部の耐水性及び機械的強度を向上させるため、画像形成層は前記水溶性高分子化合物の種類に応じて硬膜剤(耐水化剤)を含有する事が好ましい。硬膜剤としては、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シラン化合物、クロム明礬、ジビニルスルホン等、水溶性高分子化合物の架橋を促す事によって耐水性を付与するものを用いる事ができるが、特に好ましい硬膜剤はゼラチンの場合ジビニルスルホンが、ポリビニルアルコールの場合グリオキザールが好ましく用いられる。硬膜剤の配合量は全画像形成層が含有する水溶性高分子化合物の固形分量に対して、0.01〜30質量%とする事が好ましく、より好ましくは5〜30質量%である。
【0055】
本発明の画像形成層には、一般式(1)〜(4)で示される化合物以外に熱溶融性物質を含有する事ができる。熱溶融性物質としては、融点が50〜150℃の有機化合物が好ましく、例えばカルナバワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等のワックス類、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等の脂肪酸、及びそのエステル、アミド類等が使用できる。かかる熱溶融性物質の配合量は画像形成層の全固形分量に対して0.5〜50質量%が好ましい。
【0056】
本発明の感熱型平版印刷版では、視認性確保のため一般的な感熱記録紙、感圧記録紙に使用されるフェノール誘導体や芳香族カルボン酸誘導体等の顕色剤や発色剤(電子供与性染料前駆体)を含有させる事ができる。
【0057】
顕色剤の具体的な例としては、4−クミルフェノール、ヒドロキノンモノベンジルエーテル、4,4′−イソプロピリデンジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス(4−ヒドロキシフェニルチオエトキシ)メタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,4−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1,3−ビス[α−メチル−α−(4′−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィン、4−ヒドロキシ−4′−メチルジフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン、2,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4−ヒドロキシフェニル−4′−ベンジルオキシフェニルスルホン、4−ヒドロキシ−3′,4′−テトラメチレンビフェニルスルホン、3,4−ジヒドロキシフェニル−p−トリルスルホン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシ安息香酸ベンジル、N,N′−ジ−m−クロロフェニルチオ尿素、N−(フェノキシエチル)−4−ヒドロキシフェニルスルホンアミド等のフェノール性化合物、4−[3−(p−トリルスルホニル)プロピルオキシ]サリチル酸亜鉛、4−[2−(p−メトキシフェノキシ)エチルオキシ]サリチル酸亜鉛、5−[p−(2−p−メトキシフェノキシエトキシ)クミル]サリチル酸亜鉛、p−クロロ安息香酸亜鉛等の芳香族カルボン酸の亜鉛塩、更にはチオシアン酸亜鉛のアンチピリン錯体等の有機酸性物質等が例示される。
【0058】
また、発色剤(電子供与性染料前駆体)の具体的な例としては、(1)トリアリールメタン系化合物として3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド(クリスタル・バイオレット・ラクトン)、3,3′−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(p−ジメチルアミノフェニル)−3−(2−フェニルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(1,2−ジメチルインドール−3−イル)−6−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(9−エチルカルバゾール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3,3−ビス(2−フェニルインドール−3−イル)−5−ジメチルアミノフタリド、3−p−ジメチルアミノフェニル−3−(1−メチルピロール−2−イル)−6−ジメチル−アミノフタリド等:(2)ジフェニルメタン系化合物として、4,4′−ビス−ジメチルアミノベンズヒドリンベンジルエーテル、N−ハロフェニルロイコオーラミン、N−2,4,5−トリクロロフェニルロイコオーラミン等:(3)キサンテン系化合物として、ローダミンB−アニリノラクタム、ローダミンB−p−ニトロアニリノラクタム、ローダミンB−p−クロロアニリノラクタム、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−オクチルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−フェニルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(3,4−ジクロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(2−クロロアニリノ)フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ピペリジノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−エチル−トリルアミノ−6−メチル−7−フェニチルフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−(4−ニトロアニリノ)フルオラン等:(4)チアジン系化合物として、ベンゾイルロイコメチレンブルー、p−ニトロベンゾイルロイコメチレンブルー等:(5)スピロ系化合物として、3−メチル−スピロ−ジナフトピラン、3−エチル−スピロ−ジナフトピラン、3,3′−ジクロロ−スピロ−ジナフトピラン、3−ベンジル−スピロ−ジナフトピラン、3−メチルナフト−(3−メトキシ−ベンゾ)−スピロピラン、3−プロピル−スピロ−ジベンゾピラン等が挙げられる。また、これらは単独でも2種以上を併用して用いても良い。
【0059】
更に、本発明では画像形成層に光熱変換物質を配合する事もできる。光熱変換剤を用いる事で、サーマルヘッドだけでなく赤外線レーザー等の活性光による書き込みも可能となる。光熱変換物質の例としては、効率よく光を吸収し熱に変換する材料が好ましく、使用する光源によって異なるが、例えば近赤外光を放出する半導体レーザーを光源として使用する場合には、近赤外に吸収帯を有する近赤外光吸収剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の有機化合物や、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等の金属化合物類等が挙げられる。
【0060】
本発明の感熱型平版印刷版が有する画像形成層は、画像部の耐刷性、非画像部の耐水性及び機械的強度の観点から、乾燥固形分として0.5〜30g/mである事が好ましい。
【0061】
本発明の感熱型平版印刷版に用いる耐水性支持体としては、プラスチックフィルム、樹脂被覆紙、耐水紙等が使用できる。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムとこれらプラスチックを表面にラミネートやコーティングした樹脂被覆紙、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミド樹脂等の湿潤紙力剤によって耐水化された紙を好適に用いる事ができる。
【0062】
次に、上述した本発明の感熱型平版印刷版を用いた製版方法について説明する。本発明の感熱型平版印刷版は、感熱型の画像形成層を有するため、画像形成層中に光熱変換物質を配合する事により例えば760nmから1200nmの赤外光を含む光を照射する事で画像部を形成する事が可能であり、更に赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーにより画像部を形成する事が好ましい。特にレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。またサーマルヘッドやヒートブロック等により画像形成層を直接熱により描画し画像部を形成する事も可能であるが、サーマルヘッドによればコンピューターのデジタル情報から直接所望の画像様の記録が可能となる。
【0063】
サーマルヘッドを使用する場合は、厚膜または薄膜のラインヘッドを用いたラインプリンタや薄膜のシリアルヘッドを用いたシリアルプリンタ等が使用できる。記録エネルギー密度は10〜100mJ/mmである事が好ましく、また比較的高品質な出力画像を得るためにはヘッドの画像記録密度が300dpi以上である事が好ましい。
【0064】
本発明の感熱型平版印刷版は、従来の平版印刷版で好適に用いられてきた任意公知の表面処理剤でインキ受容性に変換ないしは受容性を改善させる事も可能である。印刷方法、あるいは使用する不感脂化液、給湿液等は普通に良く知られた方法により施す事もできる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、無論この記述により本発明が限定されるものではない。なお、以下の記述中、部は特に示さない限り、質量比を示すものである。
【0066】
(実施例1)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、下記画像形成層塗工液a処方で表1の如く1層目(画像形成層(A))、2層目(画像形成層(B))の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量1層目30g/m、2層目10g/mとなる様に同時塗布した後、乾燥し画像形成層を作製し、サンプルNo.1〜7の感熱型平版印刷版を得た。なお、一般式(1)〜(4)の化合物、顕色剤、発色剤については、事前に個々に小型ダイノミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて固形分濃度30%で微分散処理しそれぞれ分散液の状態で使用した。
<画像形成層塗工液a>
水溶性高分子化合物
ゼラチン:IK3000 固形分 X kg
(ニッピ(株)製)
熱可塑性物質
カルボキシル化SBR樹脂:ラックスター7132C 固形分 1.45 kg
(DIC(株)製)
界面活性剤
NIKKOL OTP−75 固形分 0.3 g
(日光ケミカルズ(株)製)
硬膜剤
1,3−ビニルスルホニル−2−プロパノール 固形分 0.15 kg
一般式(1)〜(4)の化合物
1,2−ビス(3−メチルフェノキシ)エタン 固形分 Y kg
顕色剤
4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン 固形分 1.00 kg
(日本曹達(株)製)
発色剤
3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン 固形分 0.30 kg
(山本化成(株)製)
熱溶融性物質
モンタン酸エステルワックス:ハイドリンJ−537 固形分 0.40 kg
(中京油脂(株)製)
水で全量を40kgに調製した。
【0067】
【表1】

【0068】
また比較として、表1の如く塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法によりサンプルNo.8及び9の感熱型平版印刷版は湿分塗布量40g/mで塗布し、サンプルNo.10の感熱型平版印刷版は湿分塗布量1層目30g/m、2層目10g/mとなる様に同時塗布した。共に塗布した後、乾燥し比較サンプルを作製した。
【0069】
この様に作製した感熱型平版印刷版に、ダイレクトサーマルプリンタ(東芝テック(株)製バーコードプリンタB−433:ライン型サーマルヘッド300dpi)のテスト印字モード(印刷速度2インチ/sec、印加エネルギー18.6mJ/mm)で画像を記録し、印刷版を作製した。
【0070】
ヘッドカスの評価として、斜線印字1ドット画像を連続50版製版し、1版目の製版物と50版目の製版物を目視にて下記評価基準で検版した結果を表2に示した。
<ヘッドカス>
○:1版目と50版目の画像品質に差が見られない。
×:1版目と50版目の画像品質に差が見られる。
<印刷>
耐刷性については、前記製版条件で印刷評価用画像を製版し、それを印刷用サンプルとして印刷試験を行った。印刷機はHAMADA DU342C(ハマダ印刷機械(株)製オフセット印刷機)を使用し、インキはニューチャンピオンFグロス墨85N(DIC(株)製)、給湿液はSLM−OD30(三菱製紙(株)製給湿液)の3%水溶液を使用し、印刷開始前にSLM−OD30(三菱製紙(株)製給湿液)の10%水溶液を使用し版面をくまなく拭き与えた後、印刷を開始した。スティッキングの評価として、印刷物の黒ベタ部に、製版印字方向とは垂直方向に発生する白筋の有無で確認し下記評価基準で評価した。又、耐刷性の評価として印刷物の画像に欠落を生じ印刷できなくなった枚数を下記評価基準で評価した。
<スティッキング>
○:白筋が見られない。
×:白筋が見られる。
<耐刷性>
◎:5,000枚以上
○:3,000〜5,000枚未満
△:1,000〜3,000枚未満
×:1,000枚未満
結果を表2に示す。
【0071】
保水性(地汚れ性)については、前記製版条件で印刷評価用画像を製版し、それを印刷用サンプルとして印刷試験を行った。印刷機はRyobi3200CD(リョービイマジクス(株)製)を使用し、インキはニューチャンピオンFグロス紫68N(DIC(株)製)、給湿液はSLM−OD(三菱製紙(株)製給湿液)2%水溶液を使用し、印刷開始前にSLM−OD30(三菱製紙(株)製給湿液)の20%水溶液を使用し版面をくまなく拭き与えた後、印刷を開始した。印刷物の非画像部に汚れ(地汚れ)が発生した枚数を下記評価基準で評価した。
<地汚れ性>
◎:2,000枚以上
○:1,500〜2,000枚未満
△:1,000〜1,500枚未満
×:1,000枚未満
結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示す結果から判る様に、本発明は比較例と比べて耐ヘッドカス性が良好で、スティッキングの発生もない製版物が得られ、且つ十分な耐刷性を保持しながら、保水性の良好な感熱型平版印刷版である事が判る。
【0074】
(実施例2)
実施例1の一般式(1)〜(4)の化合物が2−ベンジルオキシナフタレンである事以外は同様に試験した結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0075】
(実施例3)
実施例1の一般式(1)〜(4)の化合物がシュウ酸ジ(p−メチルベンジル)である事以外は同様に試験した結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0076】
(実施例4)
実施例1の一般式(1)〜(4)の化合物が1,2−ジフェノキシメチルベンゼンである事以外は同様に試験した結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0077】
(実施例5)
画像形成層塗工液については、実施例1の画像形成層塗工液に光熱変換剤としてカーボンブラック:SD9020(DIC(株)製)を固形分として0.25kg添加する事以外は同様にしてサンプル及び比較サンプルを作製し、半導体レーザー(波長830nm、出力500mw)で1200dpiの解像度で画像露光を行い実施例1と同様の印刷評価を行った結果、実施例1と同様の印刷結果が得られた。
【0078】
(実施例6)
両面にラミネート加工が施された厚さ約180μmのポリエチレン被覆紙の片面に、前記画像形成層塗工液a処方で表3の如く1層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量20g/mで塗布し乾燥後、更に画像形成層塗工液a処方で表3の如く2層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量10g/mで塗布、乾燥し、更に画像形成層塗工液a処方で表3の如く3層目の塗工液を作製し、スライドホッパーコーティング法により湿分塗布量10g/mで塗布、乾燥して画像形成層を作製し、サンプルNo.11〜14の感熱型平版印刷版を得た。なお、一般式(1)〜(4)の化合物、顕色剤、発色剤については、実施例1と同等に事前に個々に小型ダイノミル(ビーズミル)でジルコニアビーズを用いて固形分濃度30%で微分散処理しそれぞれ分散液の状態で使用した。又、比較として、前記サンプルNo.8、9の感熱型平版印刷版を使用した。この様に作製した感熱型平版印刷版を、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表4に示す結果から判る様に、本発明は比較例と比べてヘッドカスによる印字不良や、スティッキング現象による画像の乱れが改善された感熱型平版印刷版製版物が得られ、且つ十分な耐刷性を保持しながら、保水性の良好な感熱型平版印刷版である事が判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性支持体上に水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂を含有する画像形成層を少なくとも2層有し、耐水性支持体に近い画像形成層(A)の水溶性高分子化合物に対する下記一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、耐水性支持体から最も離れた画像形成層(B)の比率よりも高い事を特徴とする感熱型平版印刷版。
【化1】

(式中、Xは−O−又は−CO−O−を示し、R〜Rはそれぞれ水素原子、アルキル基、アリール基を示す。nは1から10までの整数を示す。)
【化2】

(式中、Rはアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基を示す。)
【化3】

(式中、R、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数4以下のアルキル基、アルコキシ基を示す。Xは単なる結合手または−O−を示し、nは1〜4の整数を示す。)
【化4】

(式中、R10、R10′、R11及びR11′は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシ基を示す。)
【請求項2】
前記画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率が、0.5以下である請求項1記載の感熱型平版印刷版。
【請求項3】
前記画像形成層(A)と画像形成層(B)の水溶性高分子化合物に対する一般式(1)〜(4)で示される化合物の比率の差が、1.0以上である請求項1または2記載の感熱型平版印刷版。

【公開番号】特開2011−115970(P2011−115970A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273331(P2009−273331)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】