説明

慢性閉塞性肺疾患における肺機能低下に関連する多型、およびその利用

【課題】COPDにおける肺機能低下に関連する遺伝子、または該遺伝子の近傍DNA領域に存在する、多型を指標とした、COPDの予後(肺機能が急速に低下するか否か)を検査する方法を提供する。
【解決手段】肺胞や血管上皮細胞も含めた気道粘膜のアポトーシスに関与する、CDC6遺伝子の周辺に存在する10個の一塩基多型(SNP)、特にSNP6(NCBI SNPリファレンス:rs13706)等の変異を検出する事により、COPD患者における急速な肺機能低下を予測する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患(以下COPDと表記することもある)における肺機能低下に関連する遺伝子、および、該遺伝子または該遺伝子の近傍DNAに存在する、COPDにおける肺機能低下に関連する多型に関する。また、該多型を利用したCOPDにおいて一秒量が減少するか否か、すなわち肺機能低下に伴う予後不良の有無を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患は、世界中の疾病罹患率および死亡率のなかでも高い位置を占めている。The global burden of human illnessの最近の概説において、COPDは致死率、および生活の質を低下させる疾病として第12位にあり、2020年までには第5位に上昇すると予測されている(非特許文献1、2)。この致命的な疾患の特徴は、慢性的な気流閉塞が年余にわたって進行することであり、その大部分が非可逆的な変化であることである(非特許文献3、4)。その最大の原因は喫煙によるものと考えられている(非特許文献5)。フレッチャーらによる説によると、禁煙する事によってたとえ進行したCOPDであっても、喫煙による肺機能の低下を阻止できるとされている(非特許文献6)。しかしこれまでのところ、禁煙による肺機能低下阻止効果は比較的若年の、かつ軽症から中等症のCOPD患者のみに証明されている(非特許文献7)。実際のところ、COPD患者では、たとえ禁煙したとしても気道粘膜のアポトーシスや炎症は持続することが証明されているため(非特許文献8,9)、禁煙は軽症から中等症のCOPD患者のみに、その唯一の病態を根本から改善しうる治療方法として臨床の現場で広くとらえられている(非特許文献5,10)。一方で、より高齢で、かつ重症なCOPD患者に対する禁煙の効果はこれまで明らかにされていない。言い換えれば、喫煙者の一部に認められるような肺機能が急速に低下する一群が、禁煙はしているが重症のCOPD患者に存在するかどうかについては、これまでのところ全く知見は得られていない(非特許文献11)。
【0003】
Saccharomyces cerevisiae cell division cycle 6 homolog (以下CDC6と表記する事もある)蛋白はAAA (ATPases associated with a variety of cellular activities)ファミリー蛋白の1つであり、酵母からヒトにいたるまであらゆる種で保存されている(非特許文献12、13)。CDC6はDNAの複製開始に必要不可欠な蛋白であり、DNAの複製開始能力とその後の細胞増殖の重要なレギュレーターである(非特許文献12、13)。CDC6は、他の前複製開始複合体(以下pre-RCと表記する事もある)に必要な蛋白とともに染色体上のクロマチンにG1期において次々と結合し、S期におけるDNAの複製を可能にする(非特許文献12、13)。CDC6はDNAの複製開始能力獲得に必須の蛋白であることの他に、DNAに障害を受けた細胞が増殖分裂することを防ぎ、それらの細胞にアポトーシスを誘導する上で重要な役割を演じている(非特許文献14〜16)。CDC6がDNA障害を受けた細胞にアポトーシスを誘導する過程の早い段階で、CDC6はそれ自身がカスパーゼ3による切断を受け、アポトーシス誘導活性を発揮する。カスパーゼ3は様々なアポトーシス誘導シグナルを集約的に補足し核内に伝達する重要な細胞内シグナル蛋白であるが、酸化ストレスによるゲノム障害により惹起されたアポトーシスにおいても重要な細胞内シグナル伝達を担う(非特許文献14〜16)。これは、カスパーゼ3がアポトーシス誘導シグナルを核内に存在するCDC6に伝達し、結果的にCDC6がカスパーゼ3に切断されることにより、pre-RCが不安定化するためである(非特許文献14〜16)。また一方で、アポトーシスは組織のホメオスターシスを維持していく上で重要であり、常に細胞の分化と増殖との間でバランスをとっているが、COPDでは肺の構成細胞におけるこれらのバランスが崩れており、このことがCOPDの病態生理に重要であることが多数報告されている(非特許文献17〜19)。具体的には肺の構成細胞におけるアポトーシスが過剰になっており、この状態は禁煙後もCOPD患者の気道粘膜において続くことが報告されている(非特許文献9)。この過剰なアポトーシスの原因の1つとして着目されているのがCOPD患者の気道内における慢性的な炎症に関連した酸化ストレスの存在であり、また過剰な酸化ストレスにより惹起される肺の構成細胞のDNA(ゲノム)障害である(非特許文献20)。これらCOPDの病態生理におけるDNA障害、及びその生体側の防御機構としてのアポトーシスの誘導という観点から、発明者らはCOPDにおける病態の進行(肺機能の急速な低下)におけるCDC6の役割について着想を得るに至った。
【0004】
CDC6が、COPD患者における肺機能低下にどのような影響を与えるかについては、これまで検討されてこなかった。
【0005】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Murray CJL, et al. Science. 1996; 274:740-743.
【非特許文献2】Pauwels RA, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2001; 163: 1256-1276.
【非特許文献3】Anthonisen NR, et al. JAMA. 1994; 272: 1497-1505.
【非特許文献4】Siafakas NM, et al. Eur Respir J. 1995; 8: 1398-1420.
【非特許文献5】Pauwels RA, et al. Lancet. 2004; 364: 613-620.
【非特許文献6】Fletcher C, et al. BMJ. 1977; 1: 1645-1648.
【非特許文献7】Anthonisen NR,et al. Ann Intern Med. 2005; 142: 233-239.
【非特許文献8】Rutgers SR, et al. Thorax. 2000; 55: 12-18.
【非特許文献9】Hodge S, et al. Eur Respir J. 2005; 25: 447-454.
【非特許文献10】Ind PW. Eur Respir J. 2005; 26: 764-766.
【非特許文献11】Sandford AJ, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2001; 163: 469-473.
【非特許文献12】Kelly TJ, et al. Regulation of chromosome replication. Annu Rev Biochem. 2000; 69: 829-880.
【非特許文献13】Bell SP, et al. DNA replication in eukaryotic cells. Annu Rev Biochem. 2002; 71: 333-374.
【非特許文献14】Pelizon C, et al. EMBO Rep. 2002; 3: 780-784.
【非特許文献15】Yim H, et al. Mol Biol Cell. 2003; 14: 4250-4259.
【非特許文献16】Yim H, et al. J Cell Biol. 2006; 174: 77-88.
【非特許文献17】Imai K, et al. Eur Respir J. 2005; 25: 250-258.
【非特許文献18】Yokohori N, et al. Chest. 2004; 125: 626-632.
【非特許文献19】Kasahara Y, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2001; 163:737-744.
【非特許文献20】Ceylan E, et al. Respir Med. 2006;100:1270-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、COPDにおける肺機能低下に関連する遺伝子、および、該遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に存在するCOPDにおける肺機能低下に関連する多型を見出すことにある。
さらに、該遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に存在するCOPDにおける肺機能低下に関連する多型を指標とした、COPDにおいて肺機能が低下するか否かを検査する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、COPD患者における肺機能低下に関して、CDC6のアポトーシス誘導活性能に焦点を当てた。そして、核酸データベースを検索することにより、CDC6の遺伝子の周辺に10個の一塩基多型(SNP)を見出した。
【0008】
CDC6タンパク質は、62-kDの大きさであり560個のアミノ酸からなっている。CDC6がアポトーシス促進活性を発揮するには、カスパーゼ3によって第290番目と第442番目のアスパラギン酸(Asp)が切断される必要がある(Pelizon C, et al. EMBO Rep. 2002; 3: 780-784.: Yim H, et al. Mol Biol Cell. 2003; 14: 4250-4259.: Yim H, et al. J Cell Biol. 2006; 174: 77-88.)。
【0009】
次に、本発明者らは、82人の男性COPD患者からのゲノムDNAを使用することにより、COPD患者における肺機能の急速な低下が、これらのSNPから生じるCDC6遺伝子の変換に起因するか否かを検証した。分散分析、マンホイットニーのUテスト、クラスカルウォーリス検定の全てが、SNP5からSNP8の遺伝子型がCOPD患者における肺機能の低下と関連していたが、このなかで最も重要なのはSNP6(NCBI SNPリファレンス:rs13706、配列番号:1の14006位)であり、このSNPによる核酸変化(G→A)によって、CDC6タンパク質のアミノ酸の改変(バリン:Val→イソロイシン:Ile)(Val441Ile)が生じた。このアミノ酸部位はカスパーセ3による切断部位であるAsp442のすぐ上流に位置していたため、本SNPによる単一アミノ酸変化がCDC6タンパク質の構造的改変をもたらし、その結果、何らかの程度でこの分子の機能的特性、特にアポトーシス促進活性能に影響を与えうると考えられることからも、CDC6がCOPD患者における肺機能の急速な低下に関与する感受性遺伝子であることが示唆された。
【0010】
本発明の結果を基に、COPD患者における肺機能の急速な低下とCDC6タンパク質のアミノ酸多型(SNP6)との間の病態生理学的関連性を考察する。進行したCOPDでは、禁煙後も気道粘膜における肺胞上皮細胞や血管内皮細胞の炎症や酸化ストレス、アポトーシスが亢進した状態であり(Rutgers SR, et al. Thorax. 2000; 55: 12-18.: Hodge S, et al. Eur Respir J. 2005; 25: 447-454.)、それがCOPDの気流閉塞や肺胞の破壊を惹起し、病態を悪化させる一因と考えられてきた(Imai K, et al. Eur Respir J. 2005; 25: 250-258.: Yokohori N, et al. Chest. 2004; 125: 626-632.: Kasahara Y, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2001; 163:737-744.)。SNP6によるCDC6のアミノ酸多型(Val441Ile)が、カスパーセ3による切断部位であるAsp442のすぐ上流に位置していたため、CDC6のカスパーゼ3による被切断能に何らかの機能的差違が生じ、最終的な表現型としてのCDC6のアポトーシス促進活性能が影響を受け、気道粘膜における持続するアポトーシスが修飾を受けて病態生理学的に肺機能の低下に寄与するであろうことが推測される。さらにSNP6によるCDC6のアミノ酸多型(Val441Ile)が変異型(Ile、とくにホモタイプ)と判定されたCOPD患者に対しては、非変異型(Val)のCDC6を含んだアデノウイルスなどの発現ベクターを吸入することにより、気道上皮細胞内におけるCDC6のカスパーゼ3による被切断能を人為的に修飾し、結果として過剰なアポトーシスをコントロールして肺機能低下を抑制する治療薬開発につながる将来展望が期待される。
【0011】
即ち、本発明者らは、SNP6がCOPD患者における肺機能の急速な低下に関連している感受性SNPであり、COPD患者における肺機能の急速な低下がCDC6の遺伝子の多型に起因することを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、より具体的には以下の(1)〜(19)を提供するものである。
(1)被検者について、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
(2)肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、(1)に記載の方法。
(3)変異が、該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列に変異をもたらすものである、(1)または(2)に記載の方法。
(4)変異が一塩基多型変異である、(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5)以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
(a)被検者におけるCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定する工程。
(b)(a)で決定された多型部位の塩基種において、変異が検出された場合に、被検者は慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下すると判定する工程。
(6)肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、(5)に記載の方法。
(7)多型部位が、CDC6遺伝子領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における3419位または14006位のいずれかの多型部位である、(5)または(6)に記載の方法。
(8)多型部位が、CDC6遺伝子領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位である、(5)または(6)に記載の方法。
(9)塩基種の変異が、CDC6遺伝子領域上の部位において、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の塩基種が、GからAに変異したものである、(5)から(8)のいずれかに記載の方法。
(10)以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
(a)被検者における、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異を検出する工程。
(b)(a)の結果、タンパク質において変異が検出された場合に、被検者は慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下すると判定する工程。
(11)肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、(10)に記載の方法。
(12)タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、(10)または(11)に記載の方法。
(13)タンパク質における変異が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異したものである、(10)から(12)のいずれかに記載の方法。
(14)被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、(1)から(13)のいずれかに記載の方法。
(15)(7)に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
(16)(7)に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
(17)(7)に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
(18)以下の(a)または(b)に記載のタンパク質に結合する抗体を含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異したタンパク質。
(19)肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、(15)から(18)のいずれかに記載の薬剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、COPDにおける肺機能の急速な低下に関連する遺伝子、および、該遺伝子上または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することにより、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否か、すなわち肺機能の急速な低下に伴う予後不良を検査する方法が提供された。本発明の遺伝子上または該遺伝子の近傍DNA領域における多型を検出することで、当該COPD患者においてその後肺機能が急速に低下するか否かが予測可能となる。本発明によりCOPDにおける肺機能の急速な低下に対する予防や治療における、より効率的な戦略(いわゆるオーダーメイド医療)を立てることが可能になる。具体的にはCOPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かを検査することにより、肺機能が急速に低下すると判定、すなわち肺機能の急速な低下に伴う予後不良が予測された患者は検査の頻度を上げるといった治療方針を決める際の一助となりうるし、さらに肺機能の急速な低下を予防するような新たな治療薬の開発にもつながる可能性があり大いに期待される。
【0014】
〔発明の実施の形態〕
本発明者らによって、COPDにおける肺機能の急速な低下に関連する遺伝子および多型が同定された。肺機能の急速な低下が起こるCOPD患者においては、有意にこれら遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域において変異が見出されることから、該遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異の有無を調べることにより、被検者のCOPD患者において肺機能が急速に低下するか否かの検査を行うことが可能である。
【0015】
本発明において、「肺機能が急速に低下する」とは、%一秒量(predicted)値あるいは一秒量値の分布または変化を指標として表現することも可能である。通常は%一秒量(predicted)値が年間3%以上減少した場合に、肺機能が急速に低下したものとみなすことが出来る。また、一年当たり一秒量が50ml以上低下する場合に、肺機能が急速に低下するとみなすことが出来る。このいずれかの理由によって、結果的に肺機能が低下する場合も、本発明の「肺機能が急速に低下する」症状と同一のものであるとみなすことが出来る。
【0016】
また、本発明の「肺機能の急速な低下」は、最も直接的に予後不良につながるものである。本発明において「予後不良」とは、最終的には余命の短縮を指す。COPDのうち、肺機能低下が認められる群(%一秒量(predicted)値あるいは一秒量値が減少している群)は、そうでないCOPD患者群に比較して明らかに生命予後が悪い。すなわち、残された平均余命が短いのである。これはすでに大規模コホート研究によって証明されている(Donaldson GC, et al. Eur Respir J. 2003; 22: 931-936.: Burrows B, et al. N Engl J Med. 1987; 317: 1309-1314.: Anthonisen NR, et al. Am Rev Respir Dis. 1986; 133: 14-20.)。その原因としては主に肺炎などの下気道感染症などの易感染性、右心不全の増悪、低酸素等による致死的不整脈の合併、また呼吸不全そのものの増悪によるものなどが挙げられる。これら全ての合併症が、肺機能の低下(%一秒量(predicted)値あるいは一秒量値が減少する)に従って発症頻度が上がり、結果的に肺機能の低下が認められない群(%一秒量(predicted)値あるいは一秒量値が減少していない群)に比較して平均余命を有意、かつ明らかに短くすることが証明されている(Donaldson GC, et al. Eur Respir J. 2003; 22: 931-936.: Burrows B, et al. N Engl J Med. 1987; 317: 1309-1314.: Anthonisen NR, et al. Am Rev Respir Dis. 1986; 133: 14-20.)。すなわち、肺機能の低下という表現型が、COPDにおける予後の不良に直接的に繋がる事を示す。
【0017】
本発明者らによって、COPDにおける肺機能の急速に低下と関連することが見出された遺伝子は、CDC6遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM_001254.3)である。
本遺伝子の塩基配列、および本遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、上記のGenBankのアクセッション番号から、容易に取得することが可能である。また当業者においては、上記の遺伝子表記(遺伝子名)を基に、公共の遺伝子データベースあるいは文献データベース等から遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報を容易に入手することが可能である。
【0018】
上記の知見に基づき、本発明は、被検者について、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否か、すなわち肺機能低下に伴う予後不良を検査する方法を提供する。本発明の方法は、直接医師が判断する工程は含まれず、医師が疾患を判断する際の材料となる情報を検査する方法に関するものである。本発明によって得られる肺機能低下に伴う予後不良に関するデータは、医師による診断に役立つものであるが、本発明の方法は、医師以外の者が、医師による診断に役立つデータを収集し、提示するものであってもよい。
【0019】
本発明において「COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かを検査」とは、被検者のCOPD患者において肺機能が急速に低下する可能性が高いか低いかを判定するための検査が含まれる。本発明の方法においては、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域において変異が検出された場合に、被検者はCOPDにおいて肺機能が急速に低下する、あるいは肺機能が急速に低下する素因を有すると判定される。または、COPDにおける肺機能の急速な低下に対して抵抗性ではない、あるいは抵抗性の素因を有さないと判定される。
【0020】
一方、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域において変異が検出されない場合に、被検者はCOPDにおける肺機能の急速な低下に対して抵抗性である、あるいは抵抗性の素因を有すると判定される。または、COPDにおいて肺機能が急速に低下しない、あるいは肺機能が急速に低下する素因を有さないと判定される。
【0021】
本発明の方法により、COPDに羅患していない被検者であっても、COPDに羅患した場合にCOPDにおいて肺機能が急速に低下する可能性が高いか低いかを検査することができる。また既にCOPDに羅患している被検者の場合は、肺機能の急速な低下が進行する可能性が高いか低いかを検査することができ、抗コリン剤や長時間作用型β2刺激剤などの吸入などの治療方針の決定等に利用する事ができる。
【0022】
なお、本明細書で用いられる「治療」とは、通常、薬理学的なおよび/または生理学的な効果を得ることを意味する。効果とは、疾患や症状を完全にあるいは部分的に妨げる点で予防的であってもよく、疾患の症状を完全にあるいは部分的に治療する点で治療的であっても良い。本明細書における「治療」とは、哺乳類、特にヒトにおける疾患の治療すべてを含んでいる。そしてさらに、疾患の素因があるが未だ発病していると診断されていない被検者の発病の予防、疾患の進行を抑制すること、または疾患を軽減させることなどもこの「治療」に含まれる。
【0023】
本発明のCDC6遺伝子のDNA配列、および該遺伝子の近傍DNA配列としては、具体的には、例えば配列番号:1に記載の配列が挙げられる。配列番号:1に記載の配列は、mapping info(NCBI build36.1)の結果に基づいて作製した配列である。本発明における「遺伝子の近傍DNA領域」とは、通常、該遺伝子の近傍の染色体上の領域を指す。近傍とは、特に制限されるものではないが、通常、本発明の多型部位を含むDNA領域である。
【0024】
上記本発明の検査方法における「変異」の位置は、予め規定することは困難であるが、通常、上記遺伝子のORF中、あるいは上記遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域等)中に存在するが、これらに限定されるものではない。また、この「変異」とは、上記遺伝子の発現量を変化させる、mRNAの安定性等の性質を変化させる、あるいは上記遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を変化させるような変異であることが多いが、特に制限されない。本発明の変異としては、例えば、塩基の付加、欠失、置換、挿入変異等を挙げることができる。
【0025】
本発明者らは、被検者における本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域において、COPDにおける肺機能の急速な低下に対して有意に関連する多型変異を見出すことに成功した。従って、本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の多型部位について変異の有無を指標とする(塩基種を決定する)ことにより、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かの検査を行なうことが可能である。
【0026】
なお、上記の「遺伝子の近傍DNA領域」とは、通常該遺伝子の近傍の染色体上の領域を指す。近傍とは特に制限されるものではないが、通常、本発明の多型部位を含むDNA領域であり、好ましくは多型部位または多型部位を含むLDブロック(連鎖不平衡ブロック)の末端部位から10kb以内の領域を指す。
【0027】
前後10kbすなわち20kb以内の範囲にある多型は、Gabrielらの報告の通り、連鎖している可能性が高い(Gabriel SB, Schaffner SF, Nguyen H et al. The structure of haplotype blocks in the human genome. Science 296, 2225-9. 2002)。
【0028】
CDC6遺伝子および該遺伝子の近傍のDNA配列の一例を配列番号:1に示す。
本発明の好ましい態様においては、本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における多型変異(多型部位における塩基種)を検出することを特徴とする、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法である。
【0029】
多型とは、遺伝学的には、人口中1%以上の頻度で存在している1遺伝子におけるある塩基の変化と一般的に定義されるが、本発明における「多型」は、この定義に制限されない。本発明における多型の種類としては、例えば、一塩基多型、一から数十塩基(時には数千塩基)が欠失あるいは挿入している多型等が挙げられる。さらに、多型部位の数も、1個に限定されず、複数個の多型であってもよい。
【0030】
また本発明は、被検者について、本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法を提供する。
【0031】
本発明の方法において決定される「多型部位」は、本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域に存在する多型であれば、特に制限されない。具体的には、本発明のCOPDにおける肺機能が急速に低下するか否かの検査方法に利用可能な多型部位として、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における3419位、14006位のいずれかの多型部位を挙げることができる(なお、本明細書においては、これらの多型部位を単に『本発明の多型部位』と記載する場合がある)。
【0032】
本発明で試験されたCDC6遺伝子の周辺の10の多型を、以下の表1に示す。
【表1】

略語の定義:NCBI=National Center for Biotechnology Information;
Val=バリン;Ile=イソロイシン
【0033】
また、当業者においては掲載されたdbSNPデータベースのrs番号をもとに、当該部位についての塩基種の情報を適宜取得することができる。また、NCBI SNPリファレンス欄の記載内容は、先頭にrsが付くものはdbSNPデータベースの登録IDのうちNCBIにより一配列に一意に定まるIDを付与されたものである。また、dbSNPデータベースはNCBIウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/index.html)に公開されており、NCBI SNPリファレンス欄に記載された登録ID番号を用いてウェブサイト上で検索することにより、塩基配列におけるSNPsの詳細な情報(例えば、染色体上の位置、多型部位の塩基の種類、前後の配列等)が入手できる。これらの情報を用いた場合、当業者においては、本発明に記載する検査を容易に行うことができる。
【0034】
上記表中に示した多型部位の塩基種は配列表に示した配列に対して相補鎖側にある塩基種を示している場合があるが、本明細書において記載された前後配列、あるいは、dbSNPおよびJSNPデータベースにて公開される前後配列を用いれば異同を確認することは当業者にとって容易であり、検査を行うにあたってはプラス鎖とマイナス鎖のどちらを調べても必然的にもう一方の結果を決定することができる。なお、現在ヒトゲノム配列については、ほぼ最終版といわれているヒトゲノム国際プロジェクトbuild36.1が発表されており、本明細書に記した配列等はヒトゲノム国際プロジェクトbuild36.1の結果に基づいている。
【0035】
当業者においては、通常、本明細書において開示された多型に付与された登録ID番号、例えばdbSNPデータベースにおけるrs番号によって、本発明の多型部位の実際のゲノム上の位置および前後の配列等を容易に知ることができる。これによって、知ることができない場合であっても、当業者においては、配列番号:1で示される塩基配列および多型部位等に関する情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に記載の塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に記載の塩基配列を基にゲノム配列と相同性検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。また、ゲノム上の位置が特定できない場合でも、本明細書に記載の配列表および多型部位の情報から本発明に記載する検査を行うことは容易である。
【0036】
また、ゲノムDNAは、通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。
なお、後述する実施例においては、配列番号:1に記載の各配列に対する相補鎖を用いて試験を行なっているものもある。
【0037】
本発明のCOPDにおいて肺機能が低下するか否かの検査方法においては、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位について塩基種の決定を行なうことが好ましい。
【0038】
また本発明の好ましい態様においては、本発明のCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の塩基種がA(ホモ)である場合に、COPDにおいて肺機能が急速に低下すると判定される。COPD患者において肺機能が急速に低下するか否か、すなわち肺機能の急速な低下に伴う予後不良の検査を行うことができる。
【0039】
本発明においては、上記多型部位以外であっても、該多型部位とその周辺のDNA領域は強く連鎖しているものと考えられることから、上記多型部位の近傍の多型部位について塩基種を決定することによっても、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かの検査が可能である。即ち、多型部位の塩基種が上記の塩基種であるような、COPD患者で肺機能が急速に低下している患者を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば、上記表1に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0040】
次いで、この「近傍の多型部位」について被検者における塩基種を決定し、予め決定された前記塩基種と比較することにより、COPDにおいて肺機能が低下するか否かの検査を行うことができる。予め決定された塩基種と同一の塩基種である場合に、被検者はCOPDにおいて肺機能が低下すると判定される。本発明の検査方法により、COPD患者において肺機能が低下するか否かを検査することができ、治療方針の決定や薬剤投与量の決定等に利用することができる。
【0041】
CDC6遺伝子上の配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位の塩基種がAであるCOPDにおいて肺機能が急速に低下している人を含むヒトの小集団について、近傍の多型部位、例えば3419位の多型部位の塩基種を決定する。この部位の塩基種が上記のCOPDにおける肺機能の急速な低下を発症している人においてGの頻度が、上記COPDにおいて肺機能が急速に低下していない人に比べ高かった場合、被検者について3419位の多型部位の塩基種を調べ、この部位の塩基種が同様にGであった場合には、被検者はCOPDにおいて肺機能が急速に低下すると判定される。
【0042】
以上のように、本発明により、COPDにおける肺機能の急速な低下に関連する遺伝子上の領域が明らかになったことにより、当業者に過度の負担を強いることなく、上記COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かについて検査を行うことができる。
【0043】
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。
【0044】
本発明の検査方法に供する被検試料は、通常、予め被検者から取得された生体試料であることが好ましい。生体試料としては、例えばDNA試料を挙げることができる。本発明におけるDNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
即ち本発明は、通常、被検者由来の生体試料(予め被検者から取得された生体試料)を被検試料として検査に供する方法である。即ち、本発明は被検者から生体試料を単離または取得する工程を、検査における1つの工程として含みうる。
【0045】
当業者においては、公知の技術を用いて、適宜、生体試料の調製を行うことができる。例えば、DNA試料は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって調製することができる。
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0046】
本発明の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。本発明における「塩基種の決定」とは、必ずしもその多型部位についてA、G、T、Cのいずれかの塩基種であるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがAまたはGであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Aでない」または「Gでない」ことが判明すれば充分である。
【0047】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycloPrime法、およびMALDI-TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
【0048】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アリルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアリルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0049】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5'末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0050】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアリルのアリルAのTaqManプローブに6-carboxy-fluorescein(FAM)を、アリルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアリルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アリルAまたはアリルBのホモであることが判明する。他方、アリルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0051】
[AcycloPrime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、AcycloPrime法も実用化されている。AcycloPrime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、多型検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、SNPs検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。SNPs検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0052】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3'-OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアリルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0053】
[MALDI-TOF/MS法]
PCR産物をMALDI-TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI-TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI-TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアリルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI-TOF/MSによってその分子量を測定する。アリルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0054】
MALDI-TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
【0055】
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。
【0056】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(conhesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0057】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合わせてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0058】
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における塩基種の決定]
複数のアリルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアリルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821-824)。
【0059】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各アリルの多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アリルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合わせられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アリル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0060】
アリルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0061】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0062】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アリルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0063】
アリルプローブは、検出すべきアリルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アリルプローブの5'側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アリルプローブは多型部位の3'側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0064】
一方インベーダープローブは、多型部位の5'側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3'末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアリルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0065】
多型部位がアリルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアリルプローブの両者がアリルにハイブリダイズすると、アリルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアリルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアリルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアリルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0066】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5'末端側に自己相補配列を有し、3'末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3'末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5'末端部分にフラップの3'末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0067】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアリルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差がある。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0068】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アリルAとアリルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアリルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TaqMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0069】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アリルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0070】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0071】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5'側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0072】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5'末端と3'末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アリルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の塩基種の決定が可能である。
【0073】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アリル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで塩基種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5'末端と3'末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0074】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アリル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合わせれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0075】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI-TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0076】
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0077】
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR-SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction-single-strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single-strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313-1318.、Multiple fluorescence-based PCR-SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275-282.)。PCR-SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0078】
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0079】
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
【0080】
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97-103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0081】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non- porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
【0082】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロ(in vitro)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0083】
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPsを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
【0084】
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の血液、末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
【0085】
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
【0086】
上記方法をより具体的に示せば、被検者から調製した本発明の多型部位を含むDNA、およびヌクレオチドプローブが固定された固相、を取得した後、次いで、該DNAと該固相を接触させる。さらに、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、本発明の多型部位の塩基種を決定する。
【0087】
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
【0088】
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アリル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アリル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0089】
上記オリゴヌクレオチドのうち、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドは、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かを検査するための試薬(検査薬)として利用できる。これは遺伝子発現を指標とする検査、または遺伝子多型を指標とする検査に使用される。
【0090】
該オリゴヌクレオチドは、本発明のCDC6遺伝子の多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、該遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0091】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明のCDC6遺伝子のいずれかの多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0092】
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。
【0093】
本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0094】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0095】
一方本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0096】
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0097】
本発明のプライマーまたはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0098】
本発明はまた、本発明のCOPDにおいて肺機能が急速に低下する(感受性の素因を有する)か否かの検査方法に使用するための試薬(検査薬)を提供する。本発明の試薬は、前記本発明のプライマーおよび/またはプローブを含む。COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否かの検査においてはCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーおよび/またはプローブを用いる。
【0099】
本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合わせることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0100】
更に本発明の試薬には、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、本発明の多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
【0101】
さらに、本発明における試薬の別の態様は、本発明のCDC6遺伝子の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、COPDにおいて肺機能が低下するか否かを検査するための試薬である。
これらは本発明の多型部位を指標とする検査に使用される。これらの調製方法に関しては、上述の通りである。
【0102】
また本発明は、被検者(被検者由来の生体試料)におけるCDC6遺伝子の発現量を指標として、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否か、または肺機能が急速に低下する素因を有するか否かの検査を行うことも可能である。即ち本発明は、被検者におけるCDC6遺伝子の発現量が対照と比較して低下している場合に、被検者はCOPDにおいて肺機能が急速に低下する、または肺機能が急速に低下する素因を有するものと判定される、COPDにおいて肺機能が急速に低下するか否か、または肺機能が急速に低下する素因を有するか否かを検査する方法を提供する。
【0103】
上記方法においては、通常、被検者由来の生体試料を被検試料とする。該被検試料におけるCDC6遺伝子の発現量の測定は、当業者においては公知の技術を用いて適宜実施することが可能である。なお、上記「対照」とは、通常、健常者由来の生体試料におけるCDC6遺伝子の発現量を指す。なお、本発明におけるCDC6遺伝子の発現とは、CDC6遺伝子から転写されるmRNAの発現、またはCDC6遺伝子によってコードされるタンパク質の発現の両方を意味するものである。
【0104】
本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法に関する。
(a)被検者における、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異を検出する工程。
(b)(a)の結果、タンパク質において変異が検出された場合に、被検者は慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下すると判定する工程。
【0105】
本発明においてタンパク質の変異とは、アミノ酸の付加、欠損、修飾、または置換による変異等を挙げることができるが、好ましくはアミノ酸置換による変異を挙げることが出来る。また、本発明のタンパク質の変異として、具体的には配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のアミノ酸の変異を挙げることが出来、より好ましくは配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異することを挙げることが出来る。
アミノ酸配列の変異の検出は、質量分析法、アミノ酸のN末端分析、抗体を用いた免疫化学的方法等、業者に公知の方法により行うことができる。
【0106】
免疫化学的方法により、タンパク質のアミノ酸の変異を検出する場合は、以下の(a)または(b)に記載のタンパク質に結合する抗体を使用することが出来る。
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異したタンパク質。
本発明の抗体は上記タンパク質を認識する限り特に限定されないが、特異的に上記タンパク質を認識する抗体であることが好ましい。
【0107】
該タンパク質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。本発明の該タンパク質を認識する抗体は、既に公知の抗体を用いることが可能であり、又、該タンパク質を抗原とし、当業者に公知の方法により抗体を作製して用いることも可能である。
具体的には、例えば、以下のようにして作製することができる。
【0108】
該タンパク質、あるいはGSTとの融合タンパク質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントタンパク質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、該タンパク質またはその部分ペプチドをマウス等の小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、該タンパク質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、該タンパク質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0109】
また、ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして取得することができる。該タンパク質若しくはその断片を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングする。抗原の調製は公知の方法、例えばバキュロウイルスを用いた方法等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。その後、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、得られたcDNAの配列を公知の方法により解読すればよい。
【0110】
該タンパク質を認識する抗体は、該タンパク質と結合する限り特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。又、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体なども使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体等であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0111】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい。
【0112】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を有する適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。
【0113】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0114】
本発明において好ましい抗体として、低分子化抗体を挙げることができる。低分子化抗体とは、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含み、抗原への結合能を有していれば特に限定されない。本発明の抗体断片は、全長抗体の一部分であれば特に限定されないが、重鎖可変領域(VH)又は軽鎖可変領域(VL)を含んでいることが好ましく、特に好ましいのはVHとVLの両方を含む断片である。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(シングルチェインFv)、などを挙げることができる。このような抗体断片を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。
【0115】
本発明の抗体は、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤として使用することが可能である。上記の薬剤においては、有効成分である抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。また、本発明の抗体を基盤に貼り付けたプロテインチップ等も、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する際に使用することが出来る。
【実施例】
【0116】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0117】
<研究集団>
2003年1月〜2003年3月に山形大学附属病院(日本)の外来を受診した日本人COPD患者のうち、遺伝子型決定に関するインフォームドコンセントが書面で得られた後(100名)、最終的にゲノムDNAが入手可能であった男性患者82人に対して解析を行った。これらのCOPD患者は、米国胸部疾患学会(American Thoracic Society)により規定された基準に従い診断された(American Thoracic Society. Am J Respir Crit Care Med. 1995; 152: S77-S120.)。不可逆性の慢性気流閉塞は、スパイログラムによって確認した。患者は、少なくとも3ヶ月間臨床的に安定していた。研究プロトコールは、山形大学医学部倫理委員会の承認を受けており、インフォームドコンセントの書面を、全患者から本調査に参加する前に得た。
【0118】
<前向きのコホート研究>
登録された100名のCOPD患者は、前向きに30ヶ月間フォローされた。この間、患者は外来診療で毎月フォローアップされ、加えて禁煙しているかどうかの確認を受けた。フォロー中、17名の患者が死亡した。また1名の患者がtiotropiumの処方を受けた。したがって、最終的にはこれら計18名の患者は解析から除外され、残り82名のCOPD患者についてゲノムDNAを入手の上解析を行なった。
【0119】
<肺機能検査>
FVCおよびFEV1.0は、標準的な肺活量測定機器(CHESTAC-25パートII EX;チェスト株式会社(日本、東京))により測定した。少なくとも3回肺活量測定を行い、最高値を使用した。基準値は、日本胸部疾患学会(Japanese Society of Chest Diseases)により提唱されたものである(Japanese Society of Chest Disease. Jpn J Thorac Dis 1993;31)。動脈血ガスの分析は、座位で酸素を補給しながら、又は補給せずに呼吸している被検者に対し行った(280 Blood Gas System;Ciba Corning Diagnostics Corp.,Medfield,MA)。
【0120】
<候補SNP選択および多型遺伝子型決定>
試験に使用されたCDC6の遺伝子およびSNPsを、表1に示す。また、それらの染色体位置を、図1に図示した。CDC6のSNPsは、dbSNPウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)、JSNPウェブサイト(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp)、International HapMap Project ウェブサイト( http://www.hapmap.org/index.html ) 、およびアプライド・バイオシステムズ・ジェノタイピング・データベース(Applied Biosisytems genotyping Database)ウェブサイト(http://myscience.appliedbiosystems.com/genotype/)より抽出した。CDC6の周辺遺伝子2個を含む合計3個の遺伝子WIPF2、CDC6およびRARAから全部で10個のSNPが導出され、全てのSNPについてCOPDにおける肺機能の急速な低下の程度との関連を試験した。遺伝子型決定は、蛍光ポリメラーゼ連鎖反応により実施した。試験したSNPのアレルおよび遺伝子型頻度を決定し、統計分析を実施するため、臨床データと組み合わせた。
【0121】
<型決定法>
遺伝子多型SNP遺伝子型決定の分析は、TaqMan allelic discrimination assay(Livak KJ. Genet Anal. 1999; 14: 143-149.)により実施した。試薬は、アプライド・バイオシステムズ(Foster City,CA,USA)より購入した。PCR反応の完了時にSNPを区別するタックマン・プローブは、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosisytems)で設計、合成されたものを用いた。一方のアレル・プローブを蛍光FAM色素で標識し、他方を蛍光VIC色素で標識した。PCR反応は、濃度225nMのPCRプライマーおよび濃度50nMのタックマンMGB-プローブを用いて、UNGを含まないTaqMan Universsal Master Mix without UNG(Applied Biosisytems)中で行った。反応は、3.0ngのゲノムDNAを使用し、全反応容量3μlで、384穴フォーマットで行った。次いで、プレートをGeneAmp PCR System 9700(Applied Biosisytems)に設置し、95℃に10分間加熱した後、92℃15秒、60℃1分のサイクルを40回行い、最後に25℃に浸漬した。Prism 7900HT装置(Applied Biosisytems)により、プレートの各ウェル内の蛍光強度を読み取った。各プレートからの蛍光データ・ファイルは、SDS2.0 allele calling software(Applied Biosisytems)により分析した。
【0122】
<統計分析>
カイ二乗検定によって、各アリルがハーディ・ワインバーグ平衡(HWE)に適合するか否かの検定を行なった(p>0.05)。遺伝子型とCOPDにおける肺機能低下(COPD患者における肺機能の急速な低下)の程度およびその他の臨床的パラメータとの関連を、フィッシャーの直接法、マンホイットニーのUテスト、クラスカルウォーリス検定、および分散分析(ANOVA)により評価した。優性遺伝モデルおよび劣性遺伝モデルの両方を、これらの統計分析に適用した。三つの異なる遺伝子型群の臨床値を比較するため、一要因分散分析(ANOVA)検定を、ポストホック修正(post hoc correction ; Fisher's protected test)と共に使用した。結果は平均±SDとして表し、p<0.05が有意であるとみなした。これらの全てのデータ分析を、SPSS ver.15.0.1J(SPSS Inc.,Chicago,IL,2006)により行った。
【0123】
<連鎖不平衡・ハプロタイプを基にした相関解析>
連鎖不平衡解析にはHaploView3.32を用いて解析を行った。また、ハプロタイプを基にした臨床パラメータとの相関解析にはR(2.4.1)のパッケージのhaplo.statsを用いて解析を行った。
【0124】
〔実施例1〕ANOVAおよびSNPの遺伝子型特徴決定の結果
本発明の目的は、COPD患者における肺機能の急速な低下(予後不良を示唆する臨床上の顕著かつ最も重要な特徴)に対する個体の感受性に関連している可能性がある遺伝子多型を、発明者らが発案したCDC6のSNP内に焦点を当て同定することである。
そのため、本発明者はまず、82人のCOPD患者について[GOLD分類(COPDの重症度分類:GOLD - the Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease. Available from: URL: http://www.goldcopd.com/)で軽症7名、中等症22名、重症39名、最重症14名] (表2)、年間のFEV1.0(期待値に対する割合(%))の減少率 と FEV1.0 の年間の減少量とCDC6内のSNP6について調査を行った。分散分析は、劣性ホモアレルにおいて、CDC6内のSNP6(NCBI SNPリファレンス:rs13706)が、COPD患者における肺機能の急速な低下の程度と有意に関連していることを示した(表3:本発明で試験されたそれぞれのSNPにおける分散分析とポストホック修正を示す)。分析は、CDC6遺伝子(配列番号:1)内のSNP6の変異アレル(アデニン:A)が、非変異アレル(グアニン:G)より、COPDにおける肺機能の急速な低下を示した(p<0.05、図2)。さらに、この核酸変化(G→A)によって、CDC6タンパク質のアミノ酸の改変(バリン:Val→イソロイシン:Ile)(Val441Ile)も生じた(表1)。SNP6のハーディ・ワインバーグ平衡の検定値は0.7539であり、カイ二乗検定のp値は0.3631であった。SNP-6-Gのアリル頻度は0.6、SNP-6-Aのアリル頻度は0.4であった。CDC6上のSNPは、SNP6の近傍に位置し強い連鎖不平衡を示すSNP5も有意差を示した。
このことから、SNP6が、COPD患者における肺機能の急速な低下に関連している感受性SNPであることが示唆された。
【0125】
【表2】

【表3】

【0126】
〔実施例2〕マンホイットニーのU検定及びクラスカルウォーリス検定およびSNPの遺伝子型特徴決定の結果
次にノンパラメトリック検定を用いて、上記の実施例を解析した。CDC6内のSNP6について、クラスカルウォーリス検定では、優性ホモアレル、優性・劣性ヘテロ、劣性ホモアレルの3群間に有意差を認めた。また、マンホイットニーのU検定では、劣性ホモアレルとそれ以外の群について有意差を認めた(表4:本発明で試験されたそれぞれのSNPにおけるクラスカルウォーリス検定とマンホイットニーのU検定を示す)(図3)。総じて本分析においても、CDC6遺伝子(配列番号:1)内のSNP6の変異アレル(アデニン:A)が、非変異アレル(グアニン:G)より、COPDにおける肺機能の急速な低下を示した(p<0.05)。同様の結果はSNP6の近傍に位置し強い連鎖不平衡を示すSNP5においても認められた。
【0127】
【表4】

【0128】
〔実施例3〕ハプロタイプ解析によるSNPの遺伝子型特徴決定の結果
単点SNP解析の結果から本発明で試験されたそれぞれのSNPのジェノタイプ頻度に一定の傾向が認められたため(表3、表4)、次にハプロタイプ解析を行い、予想されるハプロタイプと肺機能の低下(年間のFEV1.0 (期待値に対する割合(%))の減少率 と FEV1.0) の年間の減少量)との関連を調べた。SNP1から10のゲノム上の領域について、2つのハプロタイプブロックが認められた(図4)。1つはSNP1から4までが強い連鎖不平衡領域に、もう一方はSNP5から8までが強い連鎖不平衡領域であった。このうち、肺機能の低下と有意に関連するのは後者(SNP5からSNP8)であった(p<0.05)。SNP5からSNP8までのハプロタイプブロックには2種類のハプロタイプのみが存在し、各SNPのメジャーアレルで構成されるハプロタイプ1(頻度0.6)とマイナーアレルで構成されるハプロタイプ2(頻度0.4)であった(表5)。ハプロタイプ1はHaplotype-Specific Scoreが有意にマイナスの値であり、このハプロタイプは肺機能の低下に抵抗性にはたらく事が判明した。一方、ハプロタイプ2はHaplotype-Specific Scoreが有意にプラスの値であり、このハプロタイプは肺機能の低下に感受性をもつ(促進的に働く)事が判明した(表5)。これらの結果は、SNP5からSNP8の単点SNP解析の結果と同じであった(表3、4)。
【0129】
【表5】

【0130】
〔実施例4〕SNP5からSNP8の各アレル別の塩基多型と肺機能の急速低下群との相対危険率の解析結果
最後に肺機能の急速低下群(%一秒量(predicted)値が年間3%以上減少した患者群)とSNP5からSNP8の各アレル別の塩基多型による相対危険率をフィッシャー検定により検討した。82名の被験者のうち、急速低下群は51人(62%)であった。各SNPのうち、それぞれマイナーアレルを持つ事により、急速低下群となる相対危険率が2.35(95%信頼区間1.19〜4.65)と有意に高い結果となった(p<0.05)(表6)。これらの結果はSNP5からSNP8のマイナーアレルが肺機能の急速低下と関連しているという、単点SNP解析やハプロタイプ解析と同様の結果となった。
【0131】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明に使用したCDC6遺伝子およびその周辺遺伝子のSNPの染色体位置を示す図である。本発明に使用された10個のSNPは、dbSNPウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)、JSNPウェブサイト(http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp)、International HapMap Project ウェブサイト( http://www.hapmap.org/index.html )、およびアプライド・バイオシステムズ・ジェノタイピング・データベース(Applied Biosisytems genotyping Database)ウェブサイト(http://myscience.appliedbiosystems.com/genotype/)より抽出した。
【図2】図2 A)は、CDC6遺伝子内のSNP6の三つの遺伝子型別の年間のFEV1.0 (期待値に対する割合(%))の減少率(%)[平均(95%CI)]を比較した図である。この図により三群間の有意差が証明された(ポストホック修正としてFisher's protected testを使用したANOVA検定;p<0.05、表3でも説明)。図2B)は、CDC6遺伝子内のSNP6の三つの遺伝子型別の年間のFEV1.0 の減少量(ml)[平均(95%CI)]を比較した図である。この図により三群間の有意差が証明された(ポストホック修正としてFisher's protected testを使用したANOVA検定;p<0.05、表3でも説明)。
【図3】図3 A)は、CDC6遺伝子内のSNP6の遺伝子型による非変異「Val」群(Val/Ile+Val/Val:n=71)および他方の変異群(Ile/Ile:n=11)の年間のFEV1.0(期待値に対する割合(%))の減少率(%)[平均(95%CI)]を比較した図である。この図により変異群の有意差が証明された(マンホイットニーのU検定;p=0.002、表4でも説明)。図3 B)は、CDC6遺伝子内のSNP6の遺伝子型による非変異「Val」群(Val/Ile+Val/Val:n=71)および他方の変異群(Ile/Ile:n=11)の年間のFEV1.0 の減少量(ml)[平均(95%CI)]を比較した図である。この図により変異群の有意差が証明された(マンホイットニーのU検定;p=0.002、表4でも説明)。
【図4】図4は、SNP1からSNP10の連鎖不平衡を示す図である。SNP1から4とSNP5から8までがそれぞれ強い連鎖不平衡状態にあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者について、CDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
【請求項2】
肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
変異が、該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列に変異をもたらすものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
変異が一塩基多型変異である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
(a)被検者におけるCDC6遺伝子または該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定する工程。
(b)(a)で決定された多型部位の塩基種において、変異が検出された場合に、被検者は慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下すると判定する工程。
【請求項6】
肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
多型部位が、CDC6遺伝子領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における3419位または14006位のいずれかの多型部位である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
多型部位が、CDC6遺伝子領域上の部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の多型部位である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
塩基種の変異が、CDC6遺伝子領域上の部位において、配列番号:1に記載の塩基配列における14006位の塩基種が、GからAに変異したものである、請求項5から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
以下の工程(a)および(b)を含む、被検者について、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査する方法。
(a)被検者における、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の変異を検出する工程。
(b)(a)の結果、タンパク質において変異が検出された場合に、被検者は慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下すると判定する工程。
【請求項11】
肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質における変異が、アミノ酸置換を伴う変異である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質における変異が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異したものである、請求項10から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
被検者由来の生体試料を被検試料として検査に供する、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項7に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
【請求項16】
請求項7に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
【請求項17】
請求項7に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
【請求項18】
以下の(a)または(b)に記載のタンパク質に結合する抗体を含む、慢性閉塞性肺疾患において肺機能が急速に低下するか否かを検査するための薬剤。
(a)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の441位のValがIleに変異したタンパク質。
【請求項19】
肺機能の急速な低下が予後不良に繋がるものである、請求項15から18のいずれかに記載の薬剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−189304(P2009−189304A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33602(P2008−33602)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【出願人】(501124337)ヒュ―ビット ジェノミクス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】