説明

慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材、並びにその用途

【課題】副作用がほとんどなく安全かつ簡便に有効に慢性頭痛症状の改善及び/又は予防を図ることが可能な慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材並びに物品を提供する。
【解決手段】植物性炭素繊維を含むことを特徴とし、この炭素繊維は綿花、ウバメガシ繊維、竹繊維、麻、ビスコースレーヨン及び銅アンモニアレーヨンから選択されるセルロース系原料から製造される。寝具、被服、帽子、ストール、頭巾、アイマスク、襟巻き、シートカバー、ブランケット及び医療用クロスから選択される物品の少なくとも一部に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材、並びにその用途に関する。具体的には、植物性炭素繊維を含む慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材、並びに当該素材を構成要素として含む慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品に関し、特に、緊張性頭痛を対象とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
頭痛は、一次性頭痛および二次性頭痛などに分類できる。このうち、二次性頭痛は病因によって診断される頭痛である。二次性頭痛には、くも膜下出血や脳腫瘍などの病気が原因で生じる頭痛などがあり、生命に関わる危険が高く早急な治療を要する頭痛が含まれるものの、発生頻度はそれほど高くない。一方、一次性頭痛は、慢性頭痛ともよばれ、症状によって診断される頭痛疾患である。慢性頭痛は、発生頻度が非常に高い頭痛であり、治療対象患者数も非常に多い。このような慢性頭痛の代表例として、緊張性頭痛、偏頭痛(片頭痛)及び群発性頭痛が挙げられる。
【0003】
慢性頭痛を治療又は予防するため、従来、患者に慢性頭痛治療用及び/又は予防用医薬を投与すること(特許文献1)、および、患者の頭部に慢性頭痛の治療を目的とした医療機器を装着すること(特許文献2−5)などが行われてきた。このうち慢性頭痛の治療及び/又は予防方法として主要な方法は、患者への医薬投与による方法であり、さまざまな医薬が慢性頭痛の治療又は予防のために用いられている。例えば、緊張性頭痛について、抗不安薬、筋弛緩薬およびスマトリプタンなどが用いられている。また、偏頭痛について、トリプタン系薬剤、エルゴダミン製剤、鎮痛薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬、および制吐薬などが用いられている。さらに、群発頭痛について、トリプタン系薬剤などが用いられている。
【特許文献1】特許第3699969号公報
【特許文献2】特表2003−534874号公報
【特許文献3】実開平6−34610号公報
【特許文献4】米国特許5,569,166号公報
【特許文献5】米国特許6,554,787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の医薬を慢性頭痛の患者に投与しても、治療・予防の効果が十分に得られないことや、医薬の常用・依存、あるいは、投与した医薬による副作用の方が大きいこともある。また、前述の慢性頭痛の治療を目的とした医療機器は、大掛かりな機器であることが多い。大掛かりな機器は、利便性に欠け、購入費用や維持費用などのコスト面に問題がある。また、慢性頭痛の治療を目的とした医療機器の使用は、対処療法的使用になることが多く、そのような医療機器は一般に慢性頭痛の予防効果が低い。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、副作用がほとんどなくより安全で、かつ日常生活において容易に使用が可能な慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材を提供することにある。また、当該素材の用途として、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、炭素繊維の中でも植物性炭素繊維が慢性頭痛の症状改善に優れた効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)植物性炭素繊維を含むことを特徴とする、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材。
(2)前記植物性炭素繊維がセルロース系原料から構成されるものである、上記(1)記載の素材。
(3)前記セルロース系原料が、綿花、ウバメガシ繊維、竹繊維、麻、ビスコースレーヨン及び銅アンモニアレーヨンからなる群から選択される少なくとも1つである、上記(2)記載の素材。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の素材を少なくとも一部に含むことを特徴とする、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品。
(5)前記慢性頭痛が、緊張性頭痛、偏頭痛及び群発性頭痛からなる群から選択される少なくとも1つである、上記(4)記載の物品。
(6)前記物品が、頚部、頭部、肩部及び背部からなる群から選択される少なくとも一つの領域の全部又は一部を覆うことができる形状を有するものである、上記(4)又は(5)記載の物品。
(7)前記物品が、寝具、被服(肩当てを含む)、帽子、ストール、頭巾、アイマスク、襟巻き、シートカバー、ブランケット及び医療用クロスからなる群から選択される少なくとも1つである、上記(6)記載の物品。
(8)植物性炭素繊維を含む素材を少なくとも一部に含む物品を用いる、慢性頭痛の治療及び/又は予防方法。
(9)慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材製造のための植物性炭素繊維の使用。
(10)慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品製造のための植物性炭素繊維の使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材及び当該素材を含んで構成される物品によれば、副作用をほとんど生じずより安全に慢性頭痛の症状改善を図ることなどが可能となる。特に、本発明は、慢性頭痛のうち緊張性頭痛の症状緩和及び予防に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。
尚、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0010】
1.定義
本発明の実施形態を述べるにあたり、まず、明細書中の用語の定義について説明する。
本明細書において、「慢性頭痛」とは、国際頭痛分類第2版(Headache Classification Subcommittee of the International Headache Society. The International Classification of Headache Disorders; 2nd Edition. Cephalalgia 2004; 24(suppl 1): 1-160)の分類による一次性頭痛のことを意味する。慢性頭痛は、他の原因疾患がない頭痛であり、その症状によって診断される。他の原因疾患がない頭痛であるという点で、慢性頭痛は、くも膜下出血や脳腫瘍などの他の疾患に起因する二次性頭痛と区別できる。慢性頭痛は、国際頭痛分類第2版の分類に従って、緊張性頭痛、偏頭痛、群発性頭痛、およびその他の一次性頭痛にさらに細かく分類できる。
このうち、「緊張性頭痛」は、圧迫されるような痛みであること、軽度ないし中等度の痛みであること、頭部の両側に痛みが生じること、階段歩行などの日常動作によっては症状が増悪しないこと、悪心や嘔吐を伴わないこと、および光や音の過敏症がないこと、などの特徴がある頭痛をいう。
【0011】
「偏頭痛」は、頭痛発作が4〜72時間続くこと、片側性であること、拍動性であること、中等度以上の頭痛であること、階段方歩行などの日常動作によって症状が増悪すること、悪心や嘔吐を伴うこと、および光や音の過敏症があること、などの特徴がある頭痛をいう。
「群発性頭痛」は、ある一定の期間(多くの場合1〜2ヶ月間)、連日、しかも夜間や明け方などのほぼ一定の時間に起こる激しい頭痛で、群発性であるものをいう。群発性頭痛の群発期は、年に1〜2回のこともあり、また数年に一度のこともあるが、群発期を過ぎると頭痛は起こらないという特徴がある。
「その他の一次性頭痛」には、一次性穿刺様頭痛、一次性咳嗽性頭痛、一次性労作性頭痛、性行為に伴う一次性頭痛、睡眠時頭痛、一次性雷鳴頭痛、持続性片側頭痛および新規発症持続性連日性頭痛があり、これらは、国際頭痛分類第2版にその分類方法が記載されている。
【0012】
尚、本発明の適用対象、すなわち慢性頭痛の治療及び/又は予防の対象となる生物は、特に限定はされない。例えば、本発明は、哺乳動物に適用可能であり、その効果が奏される。特に、本発明は、哺乳動物の中でも、ヒトに適用することが有効である。
【0013】
本明細書において、「治療」、「症状改善」とは、悪い状態から良い状態にすることはもちろんのこと、そのまま放っておけば更に悪化する状態を一定レベルに保持したり、あるいは悪化の程度を最小限に止めることも含む意味である。具合的に、例えば、慢性頭痛の症状が完全に消失することはもちろん、完全には消失しないものの、以前に比べて低減、後退、進行逆転する場合や、その進行を阻止あるいは遅延させる場合も含める。一方、「予防」とは、慢性頭痛の症状発症が完全に抑えられる場合はもちろんのこと、最小限に抑える(例えば、発症頻度の低減や症状の軽減等)といった完全防止以外の場合も含める。
【0014】
2.素材
図1は、本発明に係る慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材(以下「本発明の素材」という。)の構造を示す電子顕微鏡写真である。また、図2は、図1の本発明の素材を構成する植物性炭素繊維の構造を示す電子顕微鏡写真である。
図1及び図2に示すように、本発明の素材(図1)は、植物性炭素繊維(図2)を含んで構成される。ここで、「植物性」とは、セルロース系の有機物、すなわちセルロース系原料から構成されたものであることを意図する。植物性炭素繊維、例えばセルロース系炭素繊維は、セルロース系の、綿(綿花)、ウバメガシ繊維、竹繊維、麻その他の天然植物繊維、あるいは材木、あるいはビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなどを原料とし、これらを高温で炭化させることにより得られる。このような本発明の素材は、化学繊維に炭を練り混ぜたものとは異なり、炭そのものが繊維を形成している。それゆえ、シート等への加工が容易であるとともに、炭を素材にする製品が有するデメリット、例えば、加工により生じる炭の特徴や作用の低下等を回避することが可能となる。
【0015】
植物性炭素繊維(図2)の分子構造は特に限定されず、例えば、黒鉛質系炭素、非晶質系炭素、これらの中間的結晶構造を持つ炭素等が挙げられる。また、繊維径は、所望の効果を得られる限り特には限定されないが、例えば、5〜20μm程度、好ましくは7〜15μm程度、より好ましくは7〜11μm程度である。また。トウを形成してもよく、撚糸されていてもよい。撚糸された炭素繊維束の直径は、所望の効果を得られる限り特には限定されないが、例えば、0.05〜10mm程度、好ましくは0.1〜5mm程度である。
【0016】
本発明の素材は、上記の植物性炭素繊維のみから構成されてもよく、また、当該繊維以外の材料を含んで構成されてもよい。例えば、上記植物性炭素繊維の他に、ポリアクリルニトリル系炭素繊維;フェノール樹脂系炭素繊維、フラン系炭素繊維及びポリカルボジイミド系炭素繊維等のガラス状炭素繊維;異方性ピッチ又は合成ピッチ等のピッチ系炭素繊維;ポリビニルアルコール系炭素繊維;活性炭繊維;その他のセルロース系炭素繊維などが挙げられ、これらの繊維を適宜組み合わせて構成されてもよい。このように他の材料と組み合わせる場合、その混合比率は、所望する素材の強度、手触り、製造効率、コスト等を鑑みて適宜選択される。
【0017】
本発明の素材の形態は特に限定されず、例えば、織布、不織布、フェルト等のいずれであってもよい。また、加工形状は特に限定されず、例えばシート状であってもよい。シート状に加工する場合、厚さが2〜3mm程度のシートに加工することができる。
【0018】
本発明の素材の構成成分である植物性炭素繊維について、その製造方法は、当該技術分野で知られる種々の公知技術を用いることができる。例えば、まず予備酸化処理として、セルロース系原料(具体的には、植物繊維である綿花等、あるいは植物由来の再生繊維であるビスコースレーヨン及び銅アンモニアレーヨンなど)を酸化雰囲気中(例えば、空気中)で加熱することにより不融化処理又は耐炎化処理をする。
【0019】
尚、これら各処理には、従来の処理方法を利用することができる。その後、不活性ガス雰囲気中で加熱(すなわち焼成)することにより、本発明の素材の構成成分となる植物性炭素繊維を製造することができる。また、上記焼成時の温度は、例えば、150〜1500℃、好ましくは200〜1100℃とし、不活性ガスとしては窒素ガス等を用いることができる。このような焼成の後に、賦活工程により、得られる植物性炭素繊維の一本一本にミクロ単位のポア(ミクロ細孔)を適宜形成させてもよい。
【0020】
本発明において、植物性炭素繊維は、構成する炭素原子数に対する酸素原子数の割合(O/C)が例えば0.1〜0.6であり、炭素原子数に対する水素原子数の割合(H/C)が例えば0.2〜1.2である。さらに好ましくは、本発明の植物性炭素繊維は、炭素原子数に対する酸素原子数の割合(O/C)が0.3〜0.5であり、炭素原子数に対する水素原子数の割合(H/C)が0.6〜1.0である。このような構成比とすることにより、慢性頭痛の治療や予防に有効な植物性炭素繊維の特性の向上が図られる。その結果、より有効に植物性炭素繊維の効果が奏され、優れた慢性頭痛の治療効果や慢性頭痛の予防効果が実現可能となる。尚、ここでは、各元素の原子数の割合は、元素分析によって求めた各元素の割合(重量%)及び各元素の原子量から求めた値である。
【0021】
上記の製造方法によれば、焼成中に発生する一酸化炭素等の有害物質が不純物として繊維中のポア内に残留することがない。したがって、使用時における当該不純物の放出が生じず、使用者の身体に影響を及ぼすことのない安全な素材が得られる。また、繊維一本ごとに柔軟性を付与することができるので、十分な引張強度や摩擦強度を実現することが可能であり、耐久性にも優れる。
【0022】
また、特開平11-206539号公報及び特開2000-160476号公報に開示されるように、植物性炭素繊維は、木酢液及び/又は竹酢液を含浸させ乾燥したものであることが好ましく、このような処理を施した炭素繊維は、殺菌性及び抗菌性に優れたものとなる。このような炭素繊維は、木酢液及び竹酢液の少なくともいずれか一方を主成分とする処理液中に浸漬及び加熱処理し、その後に乾燥させることにより製造することができる。上記処理液としては、木酢液及び竹酢液をそれぞれ単独で使用してもよく、あるいは、これらを所望の割合で混合して使用してもよい。木酢液及び竹酢液は、原液で用いてもよく、所望の濃度に希釈(例えば2倍希釈程度)して用いてもよい。また、上記処理液は、木酢液及び竹酢液以外の成分、例えば、ヨモギエキス等を含むものであってもよい。
【0023】
上記処理液は、炭素繊維を浸漬させる前に加熱しておくことが好ましい。処理液の加熱温度は、90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは煮沸温度(例えば、120〜150℃)とする。処理液への浸漬時間は、3〜15秒、好ましくは5〜8秒である。このような浸漬処理により、木酢液及び/又は竹酢液を含む処理液を含浸させた炭素繊維は、蒸留水で洗浄した後に乾燥させる。かかる洗浄により、木酢液や竹酢液による独特の臭いを除去することができる。
【0024】
炭素繊維を乾燥させる工程では、温風により乾燥を行ってもよく、あるいは真空中での加熱により乾燥を行ってもよい。温風で乾燥する場合の温度は100℃以上600℃以下であり、好ましくは上限値が500℃、より好ましくは400℃、さらに好ましくは300℃である。一方、真空で加熱乾燥する場合の加熱温度は、例えば100℃以上600℃以下であり、好ましい上限値は300℃以下である。また、真空度は、10-2Torr以上、好ましくは10-3Torr以上、より好ましくは10-4Torr以上である。
【0025】
本発明の素材は、人体に直接又は間接的に接触させるという簡便な方法により、副作用をほとんど生じることなくより安全かつ有効に慢性頭痛を治療および予防することが可能となる。さらに、本発明の素材について常法にしたがい皮膚での安全性及び抗菌性についての予備試験を行った結果、安全性及び抗菌性がいずれも有意に確認された。このことから、本発明の素材は安全かつ衛生的であることが示された。
【0026】
以上のように、本発明の素材は、慢性頭痛の治療や予防に有用である。本発明の素材は、好ましくは、慢性頭痛の中でも、緊張性頭痛、偏頭痛又は群発性頭痛の治療に用い、より好ましくは、緊張性頭痛の治療や予防に用いる。尚、慢性頭痛の治療や予防の効果がどのような作用機序により奏されるかその詳細は未だ明らかとなっていない。作用機序に関する検討の一観点として、図3は、本発明の素材の作用機序に関する検討本発明の素材から放出される遠赤外線について分析した結果を示す図である。この分析では、40℃の熱源を用いた場合における本発明の素材及び比較のための従来の備長炭シートについて、遠赤外線の放射率を測定した。図3に示すように、本発明の素材では、植物性炭素繊維が含まれていることにより、備長炭に比べ、優れた放射率を示す。
【0027】
尚、本発明には、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材製造のための植物性炭素繊維の使用が包含される。
【0028】
3.慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品(医療品)
本発明に係る慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品(以下「本発明の物品」という。)は、上述の本発明の素材を含んで構成されるものである。当該素材を含むものであれば、物品の形態は特に限定されない。本発明の物品の具体例としては、植物性炭素繊維から構成される本発明の素材を含んでなる繊維製品が挙げられ、例えば、寝具(マット、シーツ、枕等)、被服(肩当て、下着、上着(シャツ、寝巻き、ベスト等))、帽子、ストール、頭巾、アイマスク、襟巻き、シートカバー、ブランケット及び医療用クロスからなる群から選択される少なくとも1つの物品が挙げられる。ここで、「医療用クロス」とは、四角形(矩形、正方形)等の任意の形状を有し、患部(具体的には、凝り・はり・痛みを感じる部位)及びその周辺領域に接触させるよう構成された布である。
【0029】
このような本発明の物品は、いずれの形態においても、使用時には被検体(例えばヒトの皮膚)に直接又は間接的に接触させて使用される。以下、人体を例に、本発明の物品の適用形態を説明する。接触の態様は特に限定されないが、人体に装着(身につける)、あるいは当該物品上に仰臥又は座すことが挙げられる。例えば、本発明の物品が、襟巻きや下着等であれば、人体に直接接触させる態様となり、ベッドカバーの下に敷くシートや上着等であれば、人体に間接接触させる態様となる。また、シーツやシートカバー等であれば、人体露出部分では直接接触し、着衣部分では人体と間接接触する態様となる。ここで、間接的接触とは、例えば衣類等の上に本発明の物品を配置して布越しに皮膚と接触させる場合に該当し、一方、直接的接触とは、皮膚表面に直に接触する場合に該当する。
【0030】
人体との接触面積は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定される。被覆、帽子、ストール、襟巻き、頭巾、アイマスクのように局所的な接触であってもよく、また、シーツ、ベッドシート、マット、シートカバー、ブランケット等のように広範囲で接触してもよい。また、通常は無圧状態で接触させるが、症状や状態に応じて適度な加圧状態としてもよい。特に、本発明の物品は、少なくとも頚部、頭部、肩部及び背部のいずれかの部位(例えば、後頚部、後頭部、側頭部、眼窩部等)において、「はり」、「凝り」、あるいは「痛み」を感じる領域(以下、これらの領域を患部と称す)に対し、直接的あるいは間接的に接触させて使用することが好ましい。患部とは、筋緊張が認められる部分とも言い換えられる。本発明の物品は、これらの患部の全部又は一部を覆うような形状であるのが好ましい。患部及びその周辺領域のみでの接触であってもよく、あるいは、患部を含めその他の部位にわたり広範囲の接触であってもよい。
【0031】
また、接触時間は特には限定されないが、目的及び効果に応じて適宜設定される。特に、接触時間が長い程好ましく、例えば、1日当たり少なくとも6時間、好ましくは8時間以上、特に好ましくは12時間以上(例えば、16時間以上)である。また、日中及び夜間のいずれの使用であってもよく、例えば、就寝時であれば長時間の使用が可能となる。
さらに、治療及び予防効果の点から、特に本発明に係る物品は、間欠的に使用(例えば、痛み等を感じた日の晩のみの使用等)するよりも連続的に使用することが好ましく、例えば、2日間、好ましくはそれ以上の日数を継続して使用することがのぞまれる。
【0032】
上記のような種々形態に形成された本発明の物品の使用により、副作用をほとんど生じることなく、より安全かつより簡便に慢性頭痛の治療効果及び/又は予防効果が得られる。特に、本発明の物品は人体と接触するように配置して使用するのみでよいことから、場所や時間を選ばずに使用可能である。この場合、身体の恒常性を良好に維持しつつ頭痛を治療・予防することができるため、医薬品化合物を用いる場合に比べ、体への負担も軽くなる。
【0033】
図4は、本発明の物品の構成の一例を示す正面図である。図4に示すように、この場合の本発明の物品は、その上に仰臥するよう構成されたベッド用又は布団用のマットである。具体的に、マットは、マット本体1と、当該マット本体1を収納するカバー2とから構成される。マット本体1は、例えば、100cm×200cm×3cmの形状を有し、シート状に加工された本発明の素材である植物性炭素繊維シート(以下、単に「炭素繊維シート」という)3が面ファスナーで着脱可能に装着される。炭素繊維シート3は、綿状、編物状、織物状のいずれであってもよく、例えば、編物状又は織物状に形成される。炭素繊維シート3は、例えば、75cm×110cm×0.2cmのシート形状を有する。一方、カバー2は、綿等の天然繊維やポリエステル等の合成繊維からなり、マット本体1の全体を覆い当該マット本体1を収納可能な形状を有する。カバー2の中央部には、マット本体1の出し入れ時に開閉するジッパー4が設けられている。
【0034】
図5は、本発明の物品の他の構成例を示す図である。図5(a)は外観斜視図であり、図5(b)は垂直断面図である。図5(a)、(b)に示すように、この場合の本発明の物品は、その上に仰臥するよう構成されたベッド用又は布団用のマットである。具体的に、マット5は、マット芯材6と、その上下表面に配置されたカバー生地7とを有し、キルティング加工が施されてマット芯材6がカバー生地7間に挟持された構成を有する。マット芯材6は、例えば、100cm×100cmのシート形状を有しており、シート状に加工された本発明の素材である炭素繊維シートからなる。この場合、炭素繊維シートは、綿状の炭素繊維から構成される。また、カバー生地7は、綿等の天然繊維やポリエステル等の合成繊維から構成される。
【0035】
図5においてはキルティング加工が施される場合について説明したが、図6に示すように、炭素繊維シート3の上下表面にカバー生地7が接着(ボンディング加工)された構成であってもよい。図6は、ボンディング加工により製造される場合の一連の製造工程を示す概略図である。図6に示すように、例えば、炭素繊維シート3の上下表面に接着剤8により2枚のカバー生地7がそれぞれ接着されてシーツ10が形成される。この場合、炭素繊維シート3は、例えば編物状又は織物状の炭素繊維から構成される。
【0036】
シーツ10の製造工程について説明すると、まず、送りローラ11aにより送り出された炭素繊維シート3の上下表面に熱可塑性の接着剤8(加熱前は「○」)が塗布されるとともに、当該炭素繊維シート3の上方及び下方において、送りローラ11b及び11cにより2枚のカバー生地7がそれぞれ炭素繊維シート3と順方向に送り出される。炭素繊維シート3及び2枚のカバー生地7はローラの回転に従い同方向に進む。そして、この際、炭素繊維シート3に塗布された接着剤8に熱が加えられる。図6では、加熱後の接着剤8は「●」で示されている。さらに、加圧ローラ12により上方及び下方から加圧されてカバー生地7と炭素繊維シート3とが圧着され、熱圧着で一体化したシーツ10が形成される。このようにして製造されたシーツ10は、巻き取りローラ13に巻き取られる。接着剤8としては、従来から使用されている熱可塑性接着剤を任意に利用可能であり、例えばポリアミド樹脂系接着剤を用いることができる。接着剤8の接着温度は、特に限定はされないが、例えばポリアミド樹脂系接着剤の場合は125〜130℃であることが好ましい。また、カバー生地7の素材は特に限定されないが、例えば、ポリエステルであってもよい。
シーツ10は、長い帯状のシートを裁断することにより、例えば100cm×100cmのシート形状とすることができる。
【0037】
図7は、本発明の物品のさらなる他の構成例を示す図である。図7(a)は正面図であり、図7(b)は背面図である。図7(a)、(b)に示すように、この場合の本発明の物品は、寝巻き等の着衣の上から上半身を覆うように構成されたベストである。具体的に、ベストは、二重の生地から形成された本体21から構成される。本体21には、例えば約5cmの長さの襟23が設けられるとともに、肩から背中を覆う上部約3分の1の領域に、炭素繊維シート22が配置されてなる。尚、襟23は、首に巻き付け可能に細長く伸びた構成であってもよい。
【0038】
炭素繊維シート22はシート状に加工され、肩から背中を覆う上部約3分の1の領域において、本体21を形成する二重の生地の間に縫い付けられて生地間に狭持される。この場合、炭素繊維シート22は、綿状、編物状、織物状のいずれであってもよい。
【0039】
本発明の物品は、慢性頭痛に関する従来の他の治療方法との併用が可能である。併用する他の治療方法は、より有効な治療を実現可能とするものであれば特には限定されず、患者や症状等にあわせて適宜選択される。具体的には、本発明の物品の使用と併せ、従来の薬剤療法、医療機器を用いる方法、運動療法、食事療法、理学療法等を行ってもよい。
【0040】
また本発明においては、慢性頭痛の患者に、上述した本発明の物品を適用する、すなわち直接的又は間接的に接触させることを特徴とする、慢性頭痛の治療方法及び/又は予防方法を提供することができる。当該治療方法及び/又は予防方法によれば、慢性頭痛を安全、簡便かつ有効に治療および予防することができる。さらに本発明には、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品製造のための植物性炭素繊維の使用が包含される。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例は、試験実施施設の入院患者であって緊張性頭痛の症状が見られる者を検討対象とし、本発明の物品である植物性炭素繊維シート(ここでは寝具のベッドパッドに該当。以下、単に炭素繊維シートと称す)とプラセボシートとを用いてプラセボ対照比較試験を実施し、炭素繊維シートの効果を調べた。尚、検討対象となる患者に対しては、炭素繊維シートの効果及び安全性を説明した上で試験への参加承諾(インフォームド・コンセント)を取得し、試験実施施設の医師が試験を行った。
【0042】
〔試験方法〕
1.対象患者(以下、被験者と称す):
被験者となる緊張性頭痛患者は、試験実施計画書で規定した選択基準及び除外基準のもと、医師が問診により判定して選別した。当該問診には、緊張性頭痛の判定において用いられる頭痛の問診表(図8)を使用した。当該問診表は、i)痛みの部位の図示と、ii)頭痛症状に関する6つの質問事項とによって構成され、これらの要素を考慮し緊張性頭痛及び偏頭痛のいずれであるかが判別される。このような問診表に関しては、例えば、「頭痛の問診表と頭痛ノートの利用法」(作田学(著) ,JIM10:110-111,2000 )、あるいは「問診表による判別関数を用いた頭痛の診断、頭痛診療のコツと落とし穴」(内堀歩(著) 坂井文彦(編),P.12,中山書店,東京,2003)等に詳述されている。本実施例では、これらの書籍に記載された常法に従って判定を行った。
本実施例では、上記判定のもと、4人の緊張性頭痛患者(50代〜80代女性3名及び60代男性1名)を被験者として選別した。これら被験者の詳細については、後述の「結果」の表1にまとめる。
【0043】
2.被験物質
<炭素繊維シート>:
本実施例では、ビスコースレーヨンを原料とした植物性炭素繊維を主たる構成成分としてなる炭素繊維シートとして、セラスメディコ株式会社製の「オルガヘキサ(登録商標)02」を用いた。この植物性炭素繊維は、炭素59.4wt%、酸素30.5%、水素3.9wt%であり、酸素/炭素原子比(O/C)は0.39、水素/炭素原子比(H/C)は0.79である。この炭素繊維シートは、図5に示される構成を有するものであり、炭素繊維基材にポリエステルのカバー生地(東レ株式会社製の「テトニット(登録商標)」が熱圧着(図6)された100cm×100cmのシートである。
<プラセボシート>:
上記炭素繊維シートの比較対照物として、炭素繊維シートと外観及び触感上識別不能なプラセボシートを用いた。具体的に、ここでは、綿と絹の混合布からなる基材にポリエステルのカバー生地(東レ株式会社製の「テトニット(登録商標)」が熱圧着された100cm×100cmのシートを用いた。
【0044】
3.試験方法:
まず、炭素繊維シート及びプラセボシートのいずれか一方を被験物質として被験者に対し2日間使用した。以下、ここでは当該2日間における使用を「使用第1期」と称す。かかる使用第1期の後、使用を5日間中止し、更にその後、使用第1期とは異なる被験物質、すなわち、使用第1期に炭素繊維シートを使用した被験者にはプラセボシート、また、使用第1期にプラセボシートを使用した被験者には炭素繊維シートをさらに2日間使用した。以下、ここでは当該2日間における使用を「使用第2期」と称す。このように、本実施例においては、使用第1期及び使用第2期を通じて炭素繊維シートとプラセボシートとの両方を用いるクロスオーバー比較試験とした。
【0045】
使用第1期/第2期における炭素繊維シート及びプラセボシートの使用方法に関しては、両シートとも、以下の使用態様に従った。すなわち、これらシートをベッドシーツの下に肩峰ラインを上端として敷設し、当該ベッドシーツ上に被験者を仰臥させてシートを間接的に接触させた。このようなシートの使用は、少なくとも被験者の夜間就寝時8時間以上とし、日中の使用は被験者の随意とした。尚、被験者の就寝時間は普段の生活慣習を踏襲するものとした。また、本実施例の試験期間における併用薬及び併用療法の適用に関しては、任意適用を認めることとした。
【0046】
4.判定方法:
まず、本実施例では、段階毎に以下のようにして被験者の緊張性頭痛の徴候/症状を調べ、経時的に効果を観察した。
・使用第1期開始前;医師による問診、
・使用第1期中の2日間;被験者自身が「頭痛ノート」へ自覚症状推移を記録、
・使用第1期終了後;医師による問診、
・使用第2期中の2日間;被験者自身が「頭痛ノート」へ自覚症状推移を記録、
・使用第2期終了後;医師による問診
「頭痛ノート」とは、前述の問診表と同様、緊張性頭痛の被験者の徴候/症状を調べる際に用いられるものである。頭痛ノートは、緊張性頭痛患者が自覚症状を経時的に記録するものであり、具体的な記載項目として、問診表と同じ項目の他に、さらに、図9に示すチャートに発作の生じた時間とその強さ、併用薬、併用療法、随伴症状等について記録する。頭痛ノートは、前述の問診表のところで挙げた書籍に詳細が記載されている。
【0047】
使用第1期終了後及び使用第2期終了後の各々で行った医師による問診ならびに被験者症状の経過観察(使用前・使用中・使用終了後)に基き、各段階において緊張性頭痛の症状が改善したか否かを4つの段階、すなわち「治癒」、「軽快」、「不変」、「悪化」の各段階に分け評価した。
【0048】
そして、かかる評価に基き、使用第1期及び使用第2期で使用した炭素繊維シートとプラセボシートが緊張頭痛の症状改善に有効及び無効のいずれであるか判定した。ここでは、治癒及び軽快の評価であったものを有効判定し、一方、不変及び悪化の評価であったものを無効判定した。
[結果]
上記判定の結果を表1にまとめる。
【0049】
【表1】

【0050】
表1中、「OH」はオルガヘキサシート(登録商標)、すなわち本発明に係る物品である炭素繊維シートを示しており、「P」はプラセボシートを示している。
表1に示すように、4人の被験者に対し、炭素繊維シートでは3人の被験者において緊張性頭痛の症状改善が顕著に認められ、炭素繊維シートが緊張性頭痛に有効であることが明らかとなった。一方、比較対照のプラセボシートでは、4人全員において症状改善が認められず、このことからも、炭素繊維シートの有効性が支持された。
【0051】
以上のように、本発明に係る炭素繊維シートは、電気治療や磁気治療のような特別な機器・装置を必要とせず、簡単な日用物品の形態で利用可能であり、就寝時あるいは日中随意使用といった簡便かつ無理のない使用態様で日常生活において用いることが可能である。そして、医薬品のような副作用のおそれがほとんどなく、短時間の使用で顕著な緊張性頭痛の症状改善効果を実現可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の素材の構造を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の素材を構成する植物性炭素繊維の構造を示す図である。
【図3】本発明の素材から放出される遠赤外線の分析結果を示す図である。
【図4】本発明の物品の構成例を示す正面図である。
【図5】本発明の物品の他の構成例を示す外観斜視図及び垂直断面図である。
【図6】本発明の物品の他の構成例を示す製造工程外略図である。
【図7】本発明の物品のさらなる他の構成例を示す正面図及び背面図である。
【図8】実施例で使用した頭痛の問診票を示す図である。
【図9】実施例で使用した頭痛ノートの一部を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…マット本体
2…カバー
3…炭素繊維シート
4…ジッパー
5…マット
6…マット芯材
7…カバー生地
8…接着剤
10…シーツ
11a…送りローラ
11b…送りローラ
11c…送りローラ
12…加圧ローラ
13…巻き取りローラ
21…本体
22…炭素繊維シート
23…襟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性炭素繊維を含むことを特徴とする、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用素材。
【請求項2】
前記植物性炭素繊維がセルロース系原料から構成されるものである、請求項1記載の素材。
【請求項3】
前記セルロース系原料が、綿花、ウバメガシ繊維、竹繊維、麻、ビスコースレーヨン及び銅アンモニアレーヨンからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2記載の素材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の素材を少なくとも一部に含むことを特徴とする、慢性頭痛の治療用及び/又は予防用物品。
【請求項5】
前記慢性頭痛が、緊張性頭痛、偏頭痛及び群発性頭痛からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項4記載の物品。
【請求項6】
前記物品が、頚部、頭部、肩部及び背部からなる群から選択される少なくとも一つの領域の全部又は一部を覆うことができる形状を有するものである、請求項4又は5記載の物品。
【請求項7】
前記物品が、寝具、被服、帽子、ストール、頭巾、アイマスク、襟巻き、シートカバー、ブランケット及び医療用クロスからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項6記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−127157(P2009−127157A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305254(P2007−305254)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(506023932)セラスメディコ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】